JP2004339532A - 工具鋼の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】工具鋼での機械的性質に及ぼす組織の影響を明確にして、機械的性質を改善するための方法を提供する。
【解決手段】Moおよび/またはWを含有する工具鋼、または、MoおよびWの1種または2種を(Mo+0.5W)で0.1〜16.0質量%含有する工具鋼の組織の変調構造を調整することにより機械的性質を改善する工具鋼の製造方法である。本発明の工具鋼の製造方法は、例えばその工具鋼が、質量%で、Cr:0〜18.0%、Cあるいは、Cおよび/またはNを合計で0.1〜3.0%含有するものであれば、特に工具鋼としての強度と靭性のバランスを改善する手法として効果を発揮する。
【選択図】 図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、工具鋼の組織の変調構造を構成するMoやWの濃度ゆらぎを調整することで、強度や靭性といった機械的性質を改善するための工具鋼の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、高強度材料は様々な強化メカニズムを組み合わせて高強度化を達成している。特に、汎用の高強度材料の場合、機械加工が効率良く行えかつ使用時には高強度を容易に得ることが重要である。そのため、焼鈍状態では低硬度で加工し易く、その後の焼入れ、時効処理や焼戻し処理によって高強度化できる粒子分散強化が広く利用されている。その分散粒子は多種・多様で、例えば、高速度鋼では異なる種類の炭化物、析出硬化ステンレス鋼ではη−NiTiあるいはβ−NiAl等の金属間化合物、銅基合金ではγ−BeCu、アルミニウム合金ではθ−CuAl等の金属間化合物である。
【0003】
これら材料の降伏強度の増加分は、分散粒子の大きさ、体積率や整合性等を評価することによって見積ることができる(例えば、非特許文献1参照)。一方、靭性は第二相粒子(分散粒子)の体積率が極力少ない方が優れる。つまり、粒子分散強化を利用した高強度材料は、上述した要因を評価することによって、要求特性を満足するように強度と靭性をバランスさせて工業製品として提供されている。
【0004】
また、粒子分散強化と異なる高強度化機構として、スピノーダル分解によって形成した変調構造を利用した高強度材料が提案されている。例えば、研究例は少ないが、Fe−Mo2元系合金やIC素子などのリードフレーム材として考えられているCu−Ni−Sn合金等がある。鉄基材料であるFe−Mo2元系合金の場合、スピノーダル分解によって変調構造を形成してビッカース硬度1100にも達する高硬度を示すことが報告されている(例えば、非特許文献2,3参照)。
【0005】
【非特許文献1】
「金属便覧」改訂6版 日本金属学会編 丸善(株)(2000),p.318
【0006】
【非特許文献2】
「金属」vol.67 No.5(1997),p.395
【0007】
【非特許文献3】
「Proc of inter Symposium on Phase Transformations During Thermal Mechanical Processing of Steel.」 ed. By E.B.Hawbolt and S.Yue. (1995),p.473
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、これまでは、工具鋼のような粒子分散強化で高強度化した材料で上述した要因解析を行っても説明できない機械的性質の差異が発生する場合もあり、なかでもMoをある程度多く含有する材料で低靭性となる問題があった。特に、最近の市場動向が軽量化および長寿命化の傾向であるため素形材料の高強度化が要求されるようになり、上記の問題が顕著となってきた。この問題は、安定した品質を保証すべき工業製品を効率良く提供する上で大きな課題となる。また、これまでの問題解消対策は、この原因が不明であったため再度焼鈍、焼入れ・焼戻し等の熱処理を施しており、多大な工数を要していた。
【0009】
一方、Fe−Mo2元系合金では変調構造を形成するために高価なMoを20質量%以上も含有する必要があり、また高硬度は得られるものの非常に脆く実用に適さない。ある程度の靭性改善はCo,V元素を添加すれば可能であるが、やはり高価なCoを約40質量%も添加する必要があり、素形材である工具鋼等への適用はコストの問題があるため非常に困難である。
【0010】
本発明の目的は、工具鋼のような粒子分散強化で高強度化していると考えられていた材料で、市場ニーズに合わせて高強度化、高靭性化、さらに強度−靭性の均衡化を達成し安定した品質の工業製品を効率良く提供するため、工具鋼での機械的性質に及ぼす組織要因を明確にして機械的性質を改善するための製造方法を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、既存の材料を用いて詳細なナノ組織解析を行い機械的性質に及ぼす組織の影響について鋭意研究した。その結果、Moをあまり含有していない工具鋼でも変調構造が形成されていることを見出し、これが強度−靭性バランスに多大な影響を及ぼすことも明らかにした。また、変調構造は、微量添加元素や熱処理条件によっても種々変化し、強度−靭性バランスが顕著に変化することも明らかにした。このことより、変調構造の形成を制御することによって強度−靭性バランスを自由に調整できることを見いだし、特に各種工具に適用される工具鋼の具体的な用途の妥当性までをも提案できる工具鋼の製造方法として、本発明に到達した。
【0012】
すなわち本発明は、Moおよび/またはWを含有する工具鋼の組織の変調構造を調整することにより機械的性質を改善することを特徴とする工具鋼の製造方法である。または、工具鋼が、質量%で、MoおよびWの1種または2種を(Mo+0.5W)で0.1〜16.0%含有することを特徴とする上記の工具鋼の製造方法であって、工具鋼の組織の変調構造を調整することにより機械的性質を改善するものである。
【0013】
そして、本発明の工具鋼の製造方法は、例えばその工具鋼が、質量%で、Cr:0〜18.0%、Cあるいは、Cおよび/またはNを合計で0.1〜3.0%含有するものであれば、特に工具鋼としての強度と靭性のバランスを改善する手法として効果を発揮する。そして、上記の工具鋼で、組織の変調構造の形成を制御することによって、市場ニーズに合わせて、高強度化もしくは高靭性化、さらには強度−靭性バランスを向上できる有効な製造方法である。
【0014】
【発明の実施の形態】
上述したように、本発明の重要な特徴は、機械的性質を改善するための方法として工具鋼の組織の変調構造の形成を制御することを採用したことにある。そして、特に各種工具に適用される工具鋼を対象にして、その適用される具体的な用途の妥当性までをも提案できる製造方法として、確立したことにある。
【0015】
最初に本発明の根幹をなす工具鋼の組織の変調構造を観察する方法について説明する。工具鋼の組織は、透過型電子顕微鏡を用いて観察する。本発明での具体的な評価は、試料作製を電解研磨もしくはイオンミリングで行い、加速電圧:200kV、倍率:〜40万で、電子線回折(制限視野回折法)および明視野・暗視野像の観察で行った。
【0016】
そして、本発明の工具鋼での、その組織の変調構造の形成は、電子線入射方向を<011>bccと平行にした回折図形において、基本格子反射周りの衛星斑点(超格子反射)の有無で評価できることを明らかにした。一例として、変調構造が形成された試料での回折図形を図1に示す。これより<011>基本格子反射周りに衛星斑点(超格子反射):矢印が確認され、これは原点と<011>bccスポット間距離の非整数分割の位置に現れている。
【0017】
また、変調構造が形成された領域は、上記の入射より得られる明視野像および暗視野像より判断した。一例として、変調構造が形成された領域の多波格子像(明視野像)を図2に示す。これより<011>方向の変調コントラストが現れており、変調の波長(周期)は{011}面間隔の5〜6倍であり、局所的にゆらいでいるのがわかる。
【0018】
変調構造は、300〜700℃の範囲での焼戻し処理によって形成され、マトリックス中のMoの濃度ゆらぎに起因している。また、焼戻し過程でMC、M、M23、MCなど特殊合金炭化物が析出することによって、その炭化物にMoが取られるため変調構造は消滅し始める。つまり、変調構造の形成状態は焼戻し過程での特殊合金炭化物の析出挙動に大きく左右されるので、微量添加元素や熱処理条件によっても顕著に種々変化する。なかでも、本発明の工具鋼を高強度化して使用する場合、上述の範囲内での低めの温度で焼戻しを実施するため、ナノメータサイズの特殊合金炭化物が少量析出しているだけで、変調構造がほぼ全面に形成された状態となる傾向が強くなる。
【0019】
機械的性質については、室温および高温の強度は、変調コントラストが強いほど、かつ、変調構造がより全面に形成されるほど向上する。変調コントラストはMoの濃度ゆらぎと対応しており、そのゆらぎが大きいほど変調コントラストが強い。変調コントラストは、基本格子反射の回折強度と衛星斑点(超格子反射)の回折強度の比(衛星斑点(超格子反射)の回折強度/基本格子反射の回折強度)に対応し、この比が大きいと変調コントラストが強くなる。
【0020】
一方、靭性は、変調構造が形成され始めると低下するようになり、変調コントラストが強いほど、かつ、変調構造がより全面に形成されるほど著しく低下する。Moを多く含有した工具鋼では変調コントラストが強く、かつ、変調構造がより全面に形成される傾向にあり、室温および高温の強度が向上するものの靭性が著しく低下する。
【0021】
以上、工具鋼での機械的性質に及ぼす組織要因が明らかになり、その組織の変調構造を調整することで、工具鋼のような粒子分散強化で高強度化していると考えられていた材料の高強度化、高靭性化、そして強度−靭性バランスの向上も図れる。そして、この原理を解明したことによって提案に至った本発明の製造方法を用いることで、各種用途に適した素材であるかどうかの評価、特に各種工具に適用される工具鋼を対象にして、その適用のための最適組成や熱処理条件、さらにはその用途の最適性を評価できる。
【0022】
以下に、本発明の製造方法の効果を最大限に活用するのに好ましい、その製造対象である工具鋼の成分を限定した理由について詳細に説明する。
・MoおよびWの1種または2種を(Mo+0.5W)で0.1〜16.0質量%
Moは変調構造を形成して高温強度を向上させるのに必要であり、特に、工具鋼といったCを含む鋼材料では炭化物を形成して基地の強化や耐摩耗性を向上させ、また、焼入性を向上させる効果を有する。これら各々のより顕著な効果を期待する場合は、Moを0.1質量%以上とすることが望ましい。ただし、Moの過度の添加は変調構造を発達させ、また鋼材料においては炭化物量を増加させ、靭性の低下を招くため、Moの上限を16.0質量%とする。
【0023】
本発明の変調構造については、上記ではMoを例にとって説明したが、MoとWは同等の効果を有する元素であり、Wであっても同様に変調構造を形成して高温強度を向上させる元素である。本発明の製造方法は、特に工具鋼へ適用して効果を発揮するものであるところ、MoおよびWは工具鋼の機械的性質を左右する基幹元素である。よって、本発明が改善する工具鋼はMoおよび/またはWの含有も意識したものとすることで、その効果が向上する。
【0024】
WはMoの約2倍の原子量であることからMo+0.5Wで規定する(当然、いずれか一方のみの添加としてもよいし、双方を共添加することもできる)。そして、上記した各々の作用のより顕著な効果を期待する場合は、Mo+0.5Wを0.1質量%以上とすることが望ましい。ただし、Moおよび/またはWの過度の添加は変調構造を発達させ、また炭化物量を増加させ、靭性の低下を招くため、Mo+0.5Wの上限を16.0質量%とする。
【0025】
・Cr:18.0質量%以下(0%を含む)
Crは焼入れ性を高めて、また、炭化物を形成して基地の強化や耐摩耗性を向上させる効果を有することから、用途に応じて鋼材料に含有させることができ、本発明の製造方法の効果を向上させる。ただし、より顕著な効果を期待する場合は、含有量を0.1質量%以上とすることが望ましい。過度の添加は焼入性や熱間強度の低下を招くため、上限を18.0質量%とする。
【0026】
・Cあるいは、Cおよび/またはNを合計で0.1〜3.0質量%
Cは、一部が基地中に固溶して強度を付与し、一部は炭化物を形成することで耐摩耗性や耐焼付き性を高める重要な元素であることから、本発明の製造方法の効果を向上させる。また、固溶したCは、CrやMoなどのCやNとの親和力の大きい置換型原子と共添加した場合、I(侵入型原子)−S(置換型原子)効果;溶質原子のひきずり抵抗として作用し高強度化する場合もある。ただし、含有量が0.1質量%未満では工具鋼として十分な硬さ、耐摩耗性を確保できなくなる。他方、過度の添加は靭性や熱間強度の低下を招くため上限を3.0質量%とする。
【0027】
Nは、鋼などの鉄基材料の製造上、不可避的に混入する元素である。他方、Ti、Al、Vなどと窒化物を形成し、結晶粒の微細化に有効であるため工具鋼の分野等においては積極的に添加する場合もある。また、固溶したNは、固溶したCと同様で、I(侵入型原子)−S(置換型原子)効果として作用し高強度化する場合もある。ただし、NとCは同等の効果を有する侵入型元素であり、工具鋼のようなCの調整が重要な鉄基材料を評価する時には、そのC量との相互管理をしておくことが評価結果の信頼性を向上させる。
【0028】
NとCはほぼ同等の原子量であることからCおよび/またはNを合計で規定する(当然、いずれか一方のみの添加としてもよいし、双方を共添加することもできる)。より顕著な効果を期待する場合は、Cおよび/またはNを合計で0.1質量%以上とすることが望ましい。ただし、Cおよび/またはNの過度の添加は炭化物/窒化物量を増加させ、靭性の低下を招くため、Cおよび/またはNの合計の上限を3.0質量%とする。なお、Nを単独で管理する場合、0.01%以上の含有で十分な効果を発揮できるが、1.2%以下の範囲で管理することが好ましい。
【0029】
なお、本発明の製造する工具鋼は、上記の各成分に加えて、その特に工具鋼材料としての成立に管理の欠かせない元素種として、
・Si:3.0質量%以下(好ましくは0.1〜3.0%)
・Mn:2.0質量%以下(好ましくは0.1〜2.0%)
・Ni:3.0質量%以下(好ましくは0.1〜3.0%)
・V:6.0質量%以下(好ましくは0.1〜6.0%)
・Co:15.0質量%以下(好ましくは0.3〜15.0%)
・Al:0.1質量%以下
の群から選ばれた1種または2種以上を含有させることができる。
【0030】
また、本発明の製造する工具鋼には、必要に応じて
・S:0.20質量%以下
・Ca:0.050質量%以下
・Pb,Bi:各々0.2質量%以下(好ましくは0.02〜0.2質量%)
・B:0.010質量%以下(好ましくは0.001〜0.010質量%)
・Nb,Ti,Ta,Zr:
各々0.05質量%以下(好ましくは0.005〜0.05質量%)
・希土類金属元素(REM):各々0.50質量%以下
の1種または2種以上の元素を含有させることができる。
【0031】
【実施例】
つぎに実施例により、本発明の効果を説明する。
(実施例1)
供試材は、高周波誘導溶解により表1に示す組成に調整し作製した。供試材Aは熱間工具鋼JIS SKD61に相当する材料である。試料は、焼鈍を行ったのち、種々の熱処理を施し各種実験に供した。熱処理は所定の硬さを得るように、焼入れは1020℃で1時間加熱してから油冷し、その後焼戻しとして500℃から700℃の20℃刻みの適正温度で2時間加熱後空冷するものである。
【0032】
【表1】
Figure 2004339532
【0033】
組織観察については、α’マルテンサイト内部組織や炭化物の形態および凝集挙動、実用焼戻し温度域で析出したナノメータサイズ特殊炭化物および変調構造の直接観察には、200kV透過型電子顕微鏡(TEM)および200kV電界放射型透過型電子顕微鏡(FE−TEM)を用いて行った。変調構造の構造解析は電子線回折法を用いて実施した。電顕観察用試料は、超音波加工したのち、研磨、ディンプリングして、最後に電解研磨およびArイオンミリングを行い作製した。
【0034】
引張試験は、インストロン型試験機を使用し、室温(24±2℃)および高温ともで平行部径6.35mm、平行部長さ25.4mmの丸棒試験片(ASTM)を用いて歪み速度0.2s−1で行った。高温引張では、大気雰囲気で昇温速度25℃・s−1で600℃の試験温度まで加熱して0.6ks保持後、試験を実施した。機械的性質については、室温の場合は硬さ、伸び、絞りで、高温の場合は引張強さで評価した。なお、伸びは破断後の試料でのつき合わせ法で測定した。
【0035】
靭性の評価は、まず、Uノッチ試験片(JIS3号)を用いてシャルピー衝撃試験を実施し、室温(24±2℃)でのシャルピー衝撃値を測定した。つぎに、破壊靭性試験は、ASTM E399 コンパクトテンション試験片(W=30.0mm)を用いて、平面歪み破壊靭性値KICを測定した。表2に供試材Aの機械的性質と変調構造の形成状態の関係を、図3に表2で変調構造が形成されている代表的な試料の回折図形と多波格子像(明視野像)を示す。A3には特殊合金炭化物が確認される。
【0036】
【表2】
Figure 2004339532
【0037】
これより、A1とA2の硬さ40HRCの場合は変調構造が観察されず機械的性質に差がほとんどないことがわかる。つぎに、A3とA4の硬さ44HRCの場合は変調構造が形成され機械的性質にやや差を生じており、変調構造が多く形成されているA4で高温強度がやや高い値であるが靭性がやや低下しているのがわかる。また、A5とA6の硬さ50HRCの場合は変調構造がほぼ全面に形成されているためどちらの試料も靭性が非常に低い値であるが、特に変調コントラストが強く、かつ、変調構造がより全面に形成されているA6でそれが顕著であることがわかる。
【0038】
(実施例2)
供試材は、高周波誘導溶解により表3に示す組成に調整し作製した。供試材Cは熱間工具鋼JIS SKD7に相当する材料である。試料は、焼鈍を行ったのち、種々の熱処理を施し各種実験に供した。
【0039】
【表3】
Figure 2004339532
【0040】
熱処理は硬さ44HRCを得るように、焼入れは1020℃で1時間加熱してから油冷し、その後焼戻しとして600℃から700℃の適正温度で2時間加熱後空冷するものである。表4に供試材BとCの機械的性質と変調構造の形成状態の関係を、図4に変調構造が形成されている供試材BとCの回折図形と多波格子像(明視野像)を示す。
【0041】
【表4】
Figure 2004339532
【0042】
これより、Moを多く含有する供試材Cが供試材Bより変調コントラストが強く、かつ、変調構造がより全面に形成される傾向にあり、高温強度が高い値であるものの靭性が著しく低下しているのがわかる。
【0043】
(実施例3)
供試材は、高周波誘導溶解により表5に示す組成に調整し作製した。供試材Dは熱間工具鋼JIS SKD8に相当する材料である。試料は、焼鈍を行ったのち、種々の熱処理を施し各種実験に供した。
【0044】
【表5】
Figure 2004339532
【0045】
熱処理は硬さ44HRCを得るように、焼入れは1140℃で1時間加熱してから油冷し、その後焼戻しとして600℃から700℃の適正温度で2時間加熱後空冷するものである。表6に供試材DとEの機械的性質と変調構造の形成状態の関係を、図5に変調構造が形成されている供試材DとEの回折図形と多波格子像(明視野像)を示す。
【0046】
【表6】
Figure 2004339532
【0047】
これより、両者とも(Mo+0.5W)が約2.6質量%であるが、Wを多く含有する供試材Dが供試材Eより変調コントラストが強く、かつ、変調構造がより全面に形成される傾向にあり、高温強度が高い値であるものの靭性が低下しているのがわかる。
【0048】
(実施例4)
供試材は、高周波誘導溶解により表7に示す組成に調整し作製した。供試材Fは高速度工具鋼JIS SKH51、供試材Gはマトリックスハイスに相当する材料である。試料は、焼鈍を行ったのち、種々の熱処理を施し各種実験に供した。
【0049】
【表7】
Figure 2004339532
【0050】
供試材Fの場合、熱処理は硬さ64HRCを得るように、焼入れは1220℃で0.5時間加熱してから油冷し、また供試材Gの場合、焼入れは1140℃で0.5時間加熱してから油冷した。その後、どの供試材も焼戻しとして600℃から700℃の適正温度で2時間加熱後空冷するものである。表8に供試材FとGの機械的性質と変調構造の形成状態の関係を、図6、図7に変調構造が形成されている供試材FとGの回折図形と多波格子像(明視野像)を示す。
【0051】
【表8】
Figure 2004339532
【0052】
これより、供試材Fは(Mo+0.5W)が約8.1質量%で、供試材F2が供試材F1より変調コントラストが強く、かつ、変調構造がより全面に形成される傾向にあり、高温強度が高い値であるものの靭性が低下しているのがわかる。また、供試材Gは(Mo+0.5W)が約2.8質量%で、供試材G2が供試材G1より変調コントラストが強く、かつ、変調構造がより全面に形成される傾向にあり、高温強度が高い値であるものの靭性が低下している。
【0053】
このような結果は、従来の工具鋼も含め、本発明が対象とするその他の成分組成を有する工具鋼であっても同様の挙動を示し、Wを含有する工具鋼においてはそのWの構成する濃度ゆらぎに応じても同傾向の機械的性質の変化を認めた。
【0054】
【発明の効果】
本発明によれば、工具鋼での機械的性質に及ぼす組織の影響が明確になり、かつ変調構造の形成を制御することが可能となるため強度−靭性バランスを飛躍的に改善することができ、安定した品質の素形材料の実用化にとって欠くことのできない技術となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】変調構造が形成された試料での回折図形であり、本発明の一例を説明するものである。
【図2】変調構造が形成された領域の多波格子像(明視野像)であり、本発明の一例を説明する電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明の実施例で評価した代表的な試料の回折図形と多波格子像(明視野像)であり、本発明の一例を説明する電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明の実施例で評価した供試材の回折図形と多波格子像(明視野像)であり、本発明の一例を説明する電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明の実施例で評価した供試材の回折図形と多波格子像(明視野像)であり、本発明の一例を説明する電子顕微鏡写真である。
【図6】本発明の実施例で評価した供試材の回折図形と多波格子像(明視野像)であり、本発明の一例を説明する電子顕微鏡写真である。
【図7】本発明の実施例で評価した供試材の回折図形と多波格子像(明視野像)であり、本発明の一例を説明する電子顕微鏡写真である。

Claims (7)

  1. Moおよび/またはWを含有する工具鋼の組織の変調構造を調整することにより機械的性質を改善することを特徴とする工具鋼の製造方法。
  2. 工具鋼が、質量%で、MoおよびWの1種または2種を(Mo+0.5W)で0.1〜16.0%含有することを特徴とする請求項1に記載の工具鋼の製造方法。
  3. 工具鋼が、質量%で、Cr:0〜18.0%、C:0.1〜3.0%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の工具鋼の製造方法。
  4. 工具鋼が、質量%で、Cr:0〜18.0%、Cおよび/またはNを合計で0.1〜3.0%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の工具鋼の製造方法。
  5. 前記機械的性質を改善することが高強度化であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の工具鋼の製造方法。
  6. 前記機械的性質を改善することが高靭性化であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の工具鋼の製造方法。
  7. 前記機械的性質を改善することが強度と靭性の均衡化であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の工具鋼の製造方法。
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