JP2004337071A - 組織特異的プロモーター及びそれを用いる遺伝子発現方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】発現対象の核酸を、根、葉肉、葉脈に特異的に発現させること、根、葉肉、葉脈に特異的に発現対象の核酸の発現を誘導させること、根、葉肉、葉脈における遺伝子の機能を解析すること、根、葉肉、葉脈における遺伝子による植物体への影響を解析すること等の少なくとも1つを可能にする手段を提供すること。
【解決手段】特定の塩基配列を含有した核酸を用いて、発現対象の核酸を組織特異的に発現させる、遺伝子の発現方法;上記塩基配列を有した組織特異的プロモーターを保持する核酸;該核酸を含有した核酸導入用担体。
【選択図】 なし
【解決手段】特定の塩基配列を含有した核酸を用いて、発現対象の核酸を組織特異的に発現させる、遺伝子の発現方法;上記塩基配列を有した組織特異的プロモーターを保持する核酸;該核酸を含有した核酸導入用担体。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、組織、具体的には、植物組織に特異的なプロモーター、遺伝子の発現方法及び核酸導入用担体に関する。具体的には、発現対象の核酸を、組織、具体的には、植物組織に特異的に発現させることができる、組織特異的プロモーターを保持する核酸、遺伝子の発現方法、並び核酸導入用担体に関する。
【0002】
【従来の技術】
窒素は、植物の主要な生育制限栄養素の1つであり、ほとんどの高等植物における該窒素の供給源は、根から吸収された硝酸である。高等植物においては、根により、硝酸が取り込まれ、ついで、細胞質における硝酸還元酵素により、該硝酸が、亜硝酸に還元される。その後、亜硝酸は、プラスチドの亜硝酸還元酵素(NiR)により、アンモニウムに還元され、ついで、該アンモニウムは、炭素骨格に取り込まれ、アミノ酸等の種々の窒素代謝物を形成する。
【0003】
硝酸の還元は、根及び苗条の両方で起こりうる。例えば、オオムギにおいては、硝酸還元の速度は、苗条における硝酸還元に対する根における硝酸還元の割合は、明/暗サイクルにより調節され、これらの2つの器官のそれぞれにより、還元窒素の様々な必要性を反映する〔非特許文献1〕。硝酸還元の主要なステップに関与するこれらの酵素の日周及び/又は光依存性調節は、高等植物の苗条においてよく知られている〔非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6及び非特許文献7を参照のこと〕。
【0004】
しかしながら、根における硝酸還元の調節については、タバコ根における硝酸同化が、昼も夜も同様の割合で起こり、根における硝酸還元が、苗条とは異なって調節されるという最近の報告〔非特許文献8を参照のこと〕以外は、ほとんど知られていないのが現状である。
【0005】
硝酸の還元は、根及び苗条の両方で起こるが、NiR遺伝子の数、構造等は、植物種により異なることが知られている。例えば、アラビドプシス(Arabidopsis)、ホウレンソウ及びオオムギは、1種のNiR遺伝子、イネ、トウモロコシ及びトウガラシは、2種のNiR遺伝子、大豆は、3種のNiR遺伝子を有することが知られている〔非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11、非特許文献12、非特許文献13、非特許文献14及び非特許文献15を参照のこと〕。
【0006】
タバコは、4種のNiRを有する点で独特である〔非特許文献16を参照のこと〕。
【0007】
しかしながら、4種のNiRの遺伝子のうち1種の遺伝子が、完全にクローン化されているにすぎず、4種のNiRの構造や機能等、不明な点が多いのが現状である。
【0008】
【非特許文献1】
オオジ(Oji Y)ら、Planta、179、359−366、1989
【非特許文献2】
ラジャセクハール(Rajasekhar VK)ら、Plant Physiology、88、242−244、1988
【非特許文献3】
シュスター(Schuster C.)ら、Planta.、181、327−334、1990
【非特許文献4】
ベッカー(Becker TW.)ら、Plant Molecular Biology、19、367−379、1992
【非特許文献5】
ベッカー(Becker TW.)ら、Planta.、188、39−47、1992
【非特許文献6】
カイザル(Kaiser WM)ら、Plant Physiology、106、817−821、1994
【非特許文献7】
ラム(Lam H−M)ら、The Plant Cell、7、887−898、1995
【非特許文献8】
ストェール(Stoehr)ら、Journal of Experimental Botany、52、1283−1289、2001
【非特許文献9】
タナカ(Tanaka T.)ら、DNA Sequence 5、57−61、1994
【非特許文献10】
バック(Back E.)ら、Molecular and General Genetics、212、20−26、1988
【非特許文献11】
ダンカンソン(Duncanson E.)ら、Plant Science、87、151−160、1992
【非特許文献12】
テラダ(Terada Y.)ら、Bioscience,Biotechnology and Biochemistry、59、2183−2185、1995
【非特許文献13】
ラーナーズ(Lahners K.)ら、Plant Physiology 88、741−746、1988
【非特許文献14】
キム(Kim C−H.)ら、Molecules and Cells 9、152−157、1999
【非特許文献15】
キム(Kim C−H.)ら、Australian Journal of Plant Physiology、28、1031−1038、2001
【非特許文献16】
クローネンベルガー(Kronenberger J.)ら、Molecular and General Genetics、236、203−208、1993
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、発現対象の核酸を、組織、具体的には、植物組織、より具体的には、根、葉肉、葉脈に特異的に発現させること、組織、具体的には、植物組織、より具体的には、根、葉肉、葉脈に特異的に発現対象の核酸の発現を誘導させること、根、葉肉、葉脈における遺伝子の機能を解析すること、根、葉肉、葉脈における遺伝子による植物体への影響を解析すること等の少なくとも1つを可能にする、遺伝子の発現方法を提供することを目的とする。また、本発明は、発現対象の核酸を、組織、具体的には、植物組織、より具体的には、根、葉肉、葉脈に特異的に発現させること、発現対象の核酸を、組織、具体的には、植物組織、より具体的には、根、葉肉、葉脈に効率よく発現させること、組織、具体的には、植物組織、より具体的には、根、葉肉、葉脈に特異的に発現対象の核酸の発現を誘導すること、本発明の遺伝子の発現方法を効率よく行なうこと等の少なくとも1つを可能にする、組織特異的プロモーターを保持する核酸を提供することを目的とする。さらに、本発明は、本発明の核酸を効率よく導入すること、本発明の遺伝子の発現方法を効率よく行なうこと等を可能にする、核酸導入用担体を提供することを目的とする。なお、本発明により解決することができるその他の課題は、本明細書における記載より明らかであろう。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、
〔1〕 下記(A)若しくは(B):
(A)配列番号:17に示される塩基配列、若しくは
(B)配列番号:17とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
又は、
下記(a)若しくは(b):
(a)配列番号:18に示される塩基配列、若しくは
(b)配列番号:18とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
を含有した核酸を用いて、発現対象の核酸を組織特異的に発現させることを特徴とする、遺伝子の発現方法、
〔2〕 (I)下記(A)若しくは(B):
(A)配列番号:17に示される塩基配列、若しくは
(B)配列番号:17とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
の下流に、発現対象の遺伝子が作動可能に結合した核酸構築物を含有した核酸導入用担体を植物細胞に導入して、形質転換植物細胞を得るステップ、
(II)前記(I)で得られた形質転換植物細胞を培養して、植物体を得るステップ、
を含み、ここで、該発現対象の核酸の発現産物は、葉肉に特異的に発現する、前記〔1〕記載の遺伝子の発現方法、
〔3〕 (i)下記(a)若しくは(b):
(a)配列番号:18に示される塩基配列、若しくは
(b)配列番号:18とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
の下流に、発現対象の遺伝子が作動可能に結合した核酸構築物を含有した核酸導入用担体を植物細胞に導入して、形質転換植物細胞を得るステップ、
(ii)前記(i)で得られた形質転換植物細胞を培養して、植物体を得るステップ、
を含み、ここで、該発現対象の核酸の発現産物は、根又は葉脈に特異的に発現する、前記〔1〕記載の遺伝子の発現方法、
〔4〕 下記(A)若しくは(B):
(A)配列番号:17に示される塩基配列、若しくは
(B)配列番号:17とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
を有してなる、組織特異的プロモーターを保持する核酸、
〔5〕 下記(a)若しくは(b):
(a)配列番号:18に示される塩基配列、若しくは
(b)配列番号:18とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
を有してなる、組織特異的プロモーターを保持する核酸、並びに
〔6〕 前記〔4〕又は前記〔5〕記載の核酸を含有してなる、核酸導入用担体、
に関する。
【0011】
【発明の実施の形態】
本明細書において、nii3及びnii4は、タバコの亜硝酸還元酵素(以下、「NiR」とも表記する)の1種である。前記nii3は、いわゆる葉型亜硝酸還元酵素であり、前記nii4は、いわゆる根型亜硝酸還元酵素である。
【0012】
本発明の遺伝子の発現方法は、下記(A)若しくは(B):
(A)配列番号:17に示される塩基配列、若しくは
(B)配列番号:17とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
又は、
下記(a)若しくは(b):
(a)配列番号:18に示される塩基配列、若しくは
(b)配列番号:18とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
を含有した核酸を用いて、発現対象の核酸を組織特異的に発現させることを1つの大きな特徴とする。
【0013】
ここで、前記(A)の配列番号:17は、タバコの亜硝酸還元酵素のうちの1つをコードする遺伝子であるnii3のプロモーターの塩基配列であり、前記(a)の配列番号:18は、タバコの亜硝酸還元酵素のうちの1つをコードする遺伝子であるnii4のプロモーターの塩基配列である。
【0014】
前記nii3のプロモーターは、驚くべく、葉肉において、遺伝子を特異的に発現させ、前記nii4のプロモーターは、驚くべく、葉脈及び根において、遺伝子を特異的に発現させうるという優れた性質を有する。
【0015】
本発明の遺伝子の発現方法は、前記nii3のプロモーター又は前記nii4のプロモーターが用いられるため、前記プロモーターのいずれかの下流に、作動可能に結合した発現対象の核酸を、所定の組織に特異的に発現させることができるという優れた効果を発揮する。
【0016】
また、nii3は、硝酸塩処理により、葉において、そのmRNAレベルが著しく増加するが、根においては、実質的に増加は見られないため、前記nii3のプロモーターによれば、作動可能に結合した発現対象の核酸を、葉肉において誘導し、特異的に発現させうる。一方、nii4は、硝酸塩処理により、根において、そのmRNAレベルが著しく増加するが、葉においては、葉脈以外では実質的に増加は見られないため、前記nii4のプロモーターによれば、作動可能に結合した発現対象の核酸を、根及び葉脈において誘導し、特異的に発現させうる。
【0017】
本明細書において、「プロモーター」とは、RNAポリメラーゼが転写を開始するために認識し、特異的に結合するDNA領域をいう。
【0018】
本明細書において、「作動可能に結合した」とは、本来の機能を発揮するように配置された状態を意味し、例えば、プロモーターにより、制御できるように、発現対象の核酸が配置され、かつ該核酸によりコードされた産物が該プロモーターの制御下に発現されるように配置された状態を意味する。
【0019】
自然界においては、天然の遺伝子が自然発生的に変異を起こして生じたバリアントであっても、該遺伝子によりコードされる産物が、本来の機能を発揮する場合がある。したがって、本発明において、nii3のプロモーター及びnii4のプロモーターは、それぞれと同等の機能を発揮するバリアントであってもよい。すなわち、前記nii3のプロモーターの塩基配列は、(B)配列番号:17とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列であってもよい。また、前記nii4のプロモーターの塩基配列は、(b)配列番号:18とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列であってもよい。なお、かかるバリアントは、人為的に、例えば、慣用の部位特異的変異導入方法等により作製されうる。
【0020】
前記(B)の塩基配列としては、例えば、(B1)配列番号:17において、少なくとも1塩基の変異(置換、欠失、挿入、付加等)を有する塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、(B2)配列番号:17の核酸とストリンジェント、好ましくは高ストリンジェントな条件下にハイブリダイズしうる核酸の塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、(B3)配列番号:17に対し、HigginsらによるClustalW法によるマルチプルアライメント(例えば、Gap penalty 5、Fixed Gap penalty 10、windows size 5、Floating Gap 10)により、最適な状態にアラインメントされ、算出された配列同一性が、少なくとも70%、好ましくは、80%以上、より好ましくは、90%以上である塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列等が例示される。
【0021】
前記(b)の塩基配列としては、例えば、(b1)配列番号:18において、少なくとも1塩基の変異(置換、欠失、挿入、付加等)を有する塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、(b2)配列番号:18の核酸とストリンジェント、好ましくは高ストリンジェントな条件下にハイブリダイズしうる核酸の塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、(b3)配列番号:18に対し、前記マルチプルアライメントにより、最適な状態にアラインメントされ、算出された配列同一性が、少なくとも70%、好ましくは、80%以上、より好ましくは、90%以上である塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列等が例示される。
【0022】
本明細書において、前記「ストリンジェントな条件」とは、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム、pH7.0)と0.5% SDSと5×デンハルトと100μg/ml 変性断片化サケ精子DNAと50% ホルムアミドを含む溶液中、プローブとともに42℃で一晩保温し、低イオン強度、例えば、2×SSC、よりストリンジェントには、0.1×SSC等の条件及び/又はより高温、37℃以上、ストリンジェントには、42℃以上、よりストリンジェントには、50℃以上、より一層ストリンジェントには、60℃以上等の条件下での洗浄を行なう条件により達成されうる。
【0023】
前記核酸多型は、具体的には、▲1▼ RNAポリメラーゼが転写を開始するために認識し、特異的に結合するDNA領域としての機能、▲2▼ 発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能等を発揮するための構造を維持する範囲での多型であればよい。
【0024】
前記▲1▼の機能は、例えば、植物、具体的には、タバコのRNAポリメラーゼと、試験対象の核酸(例えば、配列番号:17、18、それらのバリアント)との結合の有無を検出することにより評価されうる。結合の有無の検出は、ゲルシフトアッセイ、表面プラズモン解析、フットプリント法(例えば、DNaseIフットプリンティング)等により行われうる。なお、RNAポリメラーゼは、他の転写因子の存在下に、プロモーターを認識し、結合する場合があるため、適切な転写因子の存在下において、試験対象の核酸との結合の有無を評価してもよい。
【0025】
前記ゲルシフトアッセイにより、結合の有無を検出する場合、
− RNAポリメラーゼと、慣用の標識物質(例えば、放射性同位元素、蛍光物質等)で標識した試験対象の核酸と、任意に、他の転写因子とを混合し、
− 得られた混合物をポリアクリルアミドゲル上で電気泳動し、
該核酸に対応するバンドの移動度が、RNAポリメラーゼと任意の転写因子との非存在下の場合の核酸のバンド(対照)の移動度と比較して、遅延していた場合、試験対象の核酸が前記▲1▼の核酸の機能を有することの指標となる。
【0026】
前記表面プラズモン解析により、結合の有無を検出する場合、例えば、
− 試験対象の核酸又はRNAポリメラーゼを固定化したセンサーチップに、それに対応して、RNAポリメラーゼ又は試験対象の核酸と、任意に、他の転写因子を含有した溶液を一定の流速で送液し、
− 適切な検出手段〔例えば、光学的検出(蛍光度、蛍光偏向度等)、質量分析計との組み合わせ(マトリックス支援レーザー脱離イオン化−飛行時間型質量分析計:MALDI−TOF MS、エレクトロスプレー・イオン化質量分析計:ESI−MS等)〕により、光学的変動又は質量の変動として、試験対象の核酸とRNAポリメラーゼとの結合を検出し、
例えば、光学的センサーグラム又は質量センサーグラムが、送液により変動した場合、試験対象の核酸が前記▲1▼の核酸の機能を有することの指標となる。
【0027】
前記フットプリント法により、結合の有無を検出する場合、例えば、
− RNAポリメラーゼと、慣用の標識物質(例えば、放射性同位元素、蛍光物質等)で標識した試験対象の核酸(二本鎖DNA)と、任意に、他の転写因子とを混合し、
− 得られた混合物を、DNaseIにより部分消化するか、又はマキサム・ギルバート法により化学分解し、
− 得られた産物を、尿素含有変性ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動し、
例えば、フットプリントが検出された場合、試験対象の核酸が前記▲1▼の核酸の機能を有することの指標となる。なお、フットプリントが生じた部分は、RNAポリメラーゼの結合部位であることが推定される。
【0028】
前記▲2▼の機能は、例えば、
− 試験対象の核酸の下流にレポーター遺伝子を作動可能に連結させ、構築物を得
− 得られた構築物を、植物細胞に、慣用の遺伝子導入法により導入して、形質転換植物細胞を得、
− 得られた形質転換植物細胞を培養して、葉に再分化させ、
− 葉肉又は葉脈におけるレポーター遺伝子の発現の有無を検出する
ことにより、評価されうる。
【0029】
ここで、前記レポーター遺伝子としては、β−グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子、Green Fluorescent Protein(GFP)遺伝子、Red Fluorescent Protein(DsRed)遺伝子等に代表される慣用のレポーター遺伝子が挙げられる。
【0030】
前記植物細胞としては、リーフディスク、茎、根外植片、カルス、プロトプラスト等が挙げられる。なかでも、器官特異的発現解析の観点から、リーフディスクや根外植片が好適である。前記リーフディスクは、例えば、無菌培養したタバコの葉を、無菌的に切断することにより得られる。また、前記カルスは、例えば、タバコの芽、根の先端、節の切片、発芽種子、枝等の外植片を、切り出して植物体から単離し、次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素等で洗浄し、オーキシン、ジベレリン等を含む栄養培地上で培養することにより、未分化の細胞塊として得られる。さらに、前記プロトプラストは、前記カルス等を、セルラーゼ、ペクチナーゼ等により処理し、遠心分離することにより得られる。
【0031】
前記植物細胞の作製の際に用いる培地としては、例えば、MS培地〔ムラシゲ(Murashige,T.)ら,Physiol.Plant.,15:473,(1962)〕、LS培地〔リンスマイヤー(Linsmaier EM)ら,Physiol.Plantarum,18:100,(1965)〕、WPM(Woody plant medium)〔ルロイド(Lloyd GB.)ら、Comb.Proc.Int.Plant Propagators Soc.,30:421,(1980)〕等が挙げられる。
【0032】
前記遺伝子導入法としては、生物的導入法、直接的導入法等により行なわれうる。
【0033】
前記生物的導入法としては、例えば、アグロバクテリウムを用いる方法等が挙げられる。かかるアグロバクテリウムを用いる方法においては、pIG121等の植物への遺伝子導入に用いられる慣用のベクター中の外来遺伝子発現用プロモーターを除去し、前記構築物を連結して得られた発現ベクターが用いられる。
【0034】
前記直接的導入法としては、エレクトロポレーション法、パーティクルガンを用いたボンバードメント法等が挙げられる。
【0035】
前記形質転換植物細胞から葉への再分化は、例えば、プロトプラストの場合、該プロトプラストを固体栄養培地で培養して、細胞壁を合成させ、ついで、液体培地中で、激しく攪拌させながら、培養し、カルスを得、得られたカルスをオーキシンおよびサイトカイニンの存在下に培養することにより行なわれうる。なお、カルスから葉への再分化は、例えば、低濃度のオーキシンと高濃度のサイトカイニンとの存在下に培養することにより行われうる。リーフディスクから葉の再分化は、例えば、リーフディスクを低濃度のオーキシンと高濃度のサイトカイニンとの存在下に培養することにより行われうる。
【0036】
前記形質転換植物細胞から葉への再分化の際に用いられる培地としては、例えば、カルス誘導培地(1mg/l インドール酢酸と1mg/l ベンジルアミノプリンとを含むMS培地)、シュート誘導培地(0.1mg/l インドール酢酸と1mg/l ベンジルアミノプリンとを含むMS培地)等が挙げられる。
【0037】
葉肉又は葉脈におけるレポーター遺伝子の発現の有無は、用いたレポーター遺伝子の発現産物に応じた方法により検出されうる。
【0038】
本発明の遺伝子の発現方法としては、より具体的には、
(I)下記(A)若しくは(B):
(A)配列番号:17に示される塩基配列、若しくは
(B)配列番号:17とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
の下流に、発現対象の遺伝子が作動可能に結合した核酸構築物を含有した核酸導入用担体を植物細胞に導入して、形質転換植物細胞を得るステップ、
(II)前記(I)で得られた形質転換植物細胞を培養して、植物体を得るステップ、
を含み、ここで、該発現対象の核酸の発現産物は、葉肉に特異的に発現する、遺伝子の発現方法(態様1);
(i)下記(a)若しくは(b):
(a)配列番号:18に示される塩基配列、若しくは
(b)配列番号:18とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
の下流に、発現対象の遺伝子が作動可能に結合した核酸構築物を含有した核酸導入用担体を植物細胞に導入して、形質転換植物細胞を得るステップ、
(ii)前記(i)で得られた形質転換植物細胞を培養して、植物体を得るステップ、
を含み、ここで、該発現対象の核酸の発現産物は、根又は葉脈に特異的に発現する、遺伝子の発現方法(態様2)
等が挙げられる。
【0039】
前記ステップ(I)及び(i)において、核酸導入用担体は、前記(A)、(B)、(a)及び(b)のいずれかの塩基配列からなる核酸(プロモーター)と、発現対象の核酸と、pIG121等の植物への遺伝子導入に用いられる慣用のベクターにおいて、外来遺伝子発現のためのプロモーターを除去して得られたベクター骨格とを含有するものであり、前記プロモーターと、発現対象の核酸とは、作動可能に結合したものである。
【0040】
また、前記ステップ(I)及び(i)において、植物細胞への核酸導入用担体の導入は、前記と同様の生物的導入法、直接的導入法等により行なわれる。
【0041】
前記ステップ(II)及び(ii)において、前記形質転換植物細胞から葉への再分化の手法及び用いられる培地は、前記と同様である。
【0042】
前記態様1の方法によれば、前記(A)又は(B)のいずれかの塩基配列からなる核酸を用いられるため、発現対象の核酸を、葉肉に特異的に発現させることができ、葉肉に特異的に発現対象の核酸の発現を誘導させることができるという優れた効果を発揮する。したがって、前記態様1の方法によれば、葉肉における遺伝子の機能を解析すること、葉肉における遺伝子による植物体への影響を解析すること等が可能になる。また、前記態様2の方法によれば、前記(a)又は(b)のいずれかの塩基配列からなる核酸を用いられるため、発現対象の核酸を、根又は葉脈に特異的に発現させることができ、根又は葉脈に特異的に発現対象の核酸の発現を誘導させることができるという優れた効果を発揮する。したがって、前記態様1の方法によれば、根又は葉脈における遺伝子の機能を解析すること、根又は葉脈における遺伝子による植物体への影響を解析すること等が可能になる。
【0043】
本発明の遺伝子の増幅方法に用いられる前記プロモーター、すなわち、下記(A)若しくは(B):
(A)配列番号:17に示される塩基配列、若しくは
(B)配列番号:17とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
を有した組織特異的プロモーターを保持する核酸(核酸1)、
下記(a)若しくは(b):
(a)配列番号:18に示される塩基配列、若しくは
(b)配列番号:18とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
を有した組織特異的プロモーターを保持する核酸(核酸2)も本発明に含まれる。
【0044】
前記核酸1は、前記(A)又は(B)の塩基配列を含有するため、該塩基配列の下流に発現対象の核酸を配置した場合、該発現対象の核酸を、葉肉に特異的、効率よく発現させることができ、葉肉に特異的に発現対象の核酸の発現を誘導させることができるという優れた効果を発揮する。また、前記核酸2は、(a)又は(b)の塩基配列を含有するため、該塩基配列の下流に発現対象の核酸を配置した場合、発現対象の核酸を、根又は葉脈に特異的、効率よく発現させることができ、根又は葉脈に特異的に発現対象の核酸の発現を誘導させることができるという優れた効果を発揮する。
【0045】
また、本発明の遺伝子の増幅方法に用いられる前記核酸導入用担体は、本発明の核酸を効率よく導入することができ、本発明の遺伝子の発現方法を効率よく行なうことができるものであり、本発明に含まれる。
【0046】
本発明の核酸導入用担体は、本発明の核酸を含有したものであり、より具体的には、前記(A)、(B)、(a)及び(b)のいずれかの塩基配列からなる核酸(プロモーター)と、発現対象の核酸と、pIG121等の植物への遺伝子導入に用いられる慣用のベクターにおいて、外来遺伝子発現のためのプロモーターを除去して得られたベクター骨格とを含有するものであり、前記プロモーターと、発現対象の核酸とは、作動可能に結合したものである
【0047】
また、本発明の核酸導入用担体は、核酸成分を、金粒子等に担持させて得られた担体、リポソーム等に包含させて得られた担体等であってもよい。
【0048】
【実施例】
以下、本発明を、実施例により詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例により限定されるものではない。なお、下記実施例において、特に明記しない限り、遺伝子操作は、用いたキットに添付の説明書、慣用のプロトコール〔例えば、前記モレキュラークローニング ア ラボラトリー マニュアル 第2版、モレキュラークローニング ア ラボラトリーマニュアル 第3版等を基に行なわれた。
【0049】
実施例1
タバコの亜硝酸還元酵素遺伝子nii3及びnii4のクローニングを試みた。
【0050】
nii3に特異的な遺伝子プローブ(nii3遺伝子プローブ)を得るため、タバコゲノムを鋳型とし、組換えTaq DNAポリメラーゼ〔タカラバイオ社製〕を用いて、ゲノム断片を増幅した。プライマー対として、5’−TTGGCAGATTCGTGGAG−3’ (配列番号:1、フォワードプライマー)と5’−CTGCTTGAACACGACCCACTG−3’ (配列番号:2、リバースプライマー)とからなるプライマー対を用いた。PCR条件は、95℃1分間と58℃1分間と72℃2分間とを1サイクルとする30サイクルである。
【0051】
得られた増幅断片を、商品名:MagExtractor(東洋紡社製)で精製し、TAクローニングにより、商品名:pGEM−T Easyベクター〔プロメガ(Promega)社製〕にクローン化した。
【0052】
その後、商品名:ABI PRISM 310 ジェネティックアナライザー〔アプライド バイオシステムズ(Applied Biosystems)社製〕を用いて、ジデオキシチェーンターミネーション法で、得られた増幅断片をシークエンスした。
【0053】
その結果、1.6kbの断片が、nii3に特異的であることが見出された。そこで、前記1.6kbの断片を、タバコゲノムライブラリー〔クローンテック(CLONTECH)社製〕をスクリーニングするためのnii3遺伝子プローブとして用いた。
【0054】
スクリーニングは、慣用のプラークハイブリダイゼーションにより行なった。その結果、前記nii3遺伝子プローブとハイブリダイズした陽性ファージクローンが得られた。
【0055】
その結果、得られた陽性ファージクローンから、商品名:QIAGEN Lambda Midiキット〔キアジェン(QIAGEN)社製〕を用いて、DNAを抽出した。
【0056】
ついで、前記DNAを種々の制限酵素で消化し、消化DNAについて、前記nii3遺伝子プローブを用いて、サザンブロット解析を行なった。ハイブリダイゼーションは、ハイブリダイゼーション緩衝液〔組成:50% ホルムアミド、5×デンハート(Denhardt)、5×SSC、0.5% SDS、0.2mg/ml sperm DNA〕中、42℃で一晩インキュベーションすることにより行ない、その後、2×SSC、室温で15分間、ついで、2×SSC,1.0% SDS、65℃で20分間、0.2×SSC、1.0% SDS、65℃で20分間の洗浄を行なった。
【0057】
その結果、制限酵素SalIで消化したDNAのレーンにおいて、約8.0kbの位置と約1.4kbの位置、制限酵素EcoRIで消化したDNAのレーンにおいて、約2.5kbの位置に、前記nii3遺伝子プローブとハイブリダイズしたことを示すシグナルが見られた。
【0058】
ついで、シグナルが見られた位置の陽性DNA断片をゲルから抽出し、該陽性DNA断片を、商品名:pBSSK−〔ストラタジーン(Stratagene)社製〕にクローン化し、前記と同様に、シークエンスした。
【0059】
一方、nii4に特異的な遺伝子プローブ(nii4遺伝子プローブ)を得るため、まず、oligo−dTプライマーと商品名:Superscript II逆転写酵素〔ギブコ−ビーアールエル(Gibco−BRL)社製〕とを用いて、タバコの根から単離された全RNAを、42℃50分間インキュベートして、一本鎖cDNAに変換した。なお、前記全RNAは、9週令のタバコ植物それぞれの葉及び根から、チョムションクジンスキー(Chomczynski)ら〔Analytical Biochemistry、162、156−159、1987〕の方法に従って抽出したものである。
【0060】
前記一本鎖cDNAを鋳型とし、下記プライマー対を用い、Pfuポリメラーゼ〔プロメガ(Promega)社製〕を用いて、PCR増幅を行なった。PCR条件は、95℃で30秒と55℃で1分と72℃で30秒とを1サイクルとする30サイクルである。
【0061】
プライマー対として、5’−GATTCTAAAGGGACTGGATG−3’ (配列番号:3、フォワードプライマー)と5’−CTTCTTGTTTCTGCGGATGC−3’ (配列番号:4、リバースプライマー)とからなるプライマー対を用いた。
【0062】
ついで、得られた増幅断片を、nii2 cDNAに認識部位を有するKpnI、StyI、及びPvuIIで消化した。その結果、StyIとPvuIIとで消化されうるが、KpnIでは消化され得ない断片を得、該断片を、TAクローニングでクローン化した。nii4に特異的なサブクローンを、タバコゲノムライブラリー〔クローンテック(CLONTECH)社製〕をスクリーニングするための遺伝子プローブ(nii4遺伝子プローブ)として用いた。
【0063】
スクリーニングは、慣用のプラークハイブリダイゼーションにより行なった。その結果、前記nii4遺伝子プローブとハイブリダイズした陽性ファージクローンが得られた。
【0064】
陽性ファージクローンから、商品名:QIAGEN Lambda Midiキット〔キアジェン(QIAGEN)社製〕を用いて、DNAを抽出した。
【0065】
ついで、前記DNAを種々の制限酵素で消化し、消化DNAについて、前記nii4遺伝子プローブを用いて、サザンブロット解析を行なった。ハイブリダイゼーションは、ハイブリダイゼーション緩衝液〔組成:50% ホルムアミド、5×デンハート(Denhardt)、5×SSC、0.5% SDS、0.2mg/ml sperm DNA〕中、42℃で一晩インキュベーションすることにより行ない、その後、2×SSC、室温で15分間、ついで、2×SSC,1.0% SDS、65℃で20分間、0.2×SSC、1.0% SDS、65℃で20分間の洗浄を行なった。
【0066】
その結果、制限酵素EcoRIで消化したDNAのレーンにおいて、約6.1kbの位置、制限酵素HindIIIで消化したDNAのレーンにおいて、約2.2kbの位置に、前記nii4遺伝子プローブとハイブリダイズしたことを示すシグナルが見られた。
【0067】
ついで、シグナルが見られた位置の陽性DNA断片をゲルから抽出し、該陽性DNA断片を、pBSSK−〔ストラタジーン(Stratagene)社製〕にクローン化し、前記のように、シークエンスした。
【0068】
図1に、クローン化したnii3及びnii4を含め、タバコ(Nicotiana tabacum cv. Xanthi XHFD8)由来の4つのNiR遺伝子:nii1(配列番号:5)、nii2(配列番号:6)、nii3(配列番号:7)及びnii4(配列番号:8)のオープンリーディングフレーム(ORF)の塩基配列を示す。
【0069】
nii3は、4つのエキソン及び3つのイントロンを有し、それは、バウチェレット(Vaucheret H.)ら〔The Plant Journal、2,559−569、1992〕により報告されたnii1のものと非常に類似することが示された。
【0070】
nii3のORF(アクセッション番号:AB093533)の長さは、図1に示されるように、nii1のものと同じであることが推定された。
【0071】
nii4は、4つのエキソンと3つのイントロンとを有し、それは、nii1〔前記バウチェレット(Vaucheret)ら、1992〕及びnii3と非常に類似することが示された。
【0072】
ゲノム配列から推定されたnii4のORF(アクセッション番号:AB093534)は、584アミノ酸をコードする1755bpであることが推定された。
【0073】
実施例2
タバコ(Nicotiana tabacum cv. Xanthi XHFD8)の種子を、2.5%(v/v) 次亜塩素酸で表面殺菌した。ついで、窒素源を含まない固体B培地〔0.3%(w/v) ジェランガム(pH5.6)含有;組成について、バウアジン(Bourgin JP)ら、Physiologia Plantarum 45、288−292 1979参照〕を含むペトリ皿に、前記種子を蒔いた。前記ペトリ皿中の種子を、23.0±0.3℃で、70±4%の相対湿度、照度30〜40μE m−2s−1、蛍光灯下16時間:8時間の明暗サイクルで維持した。
【0074】
播種から2週間後、10mM コハク酸アンモニウムと、10mM KClとを含有した含む固体B培地〔組成:0.2%(w/v) ジェランガム含有〕を含むプラスチック容器に、生育した植物を移した。さらに前記植物を、無菌状態で2週間生育させた。
【0075】
その後、植物を、土〔バーミキュライト及びパーライト〔体積(v/v)比1:1)を含むプラスチックポットに植え替え、さらに5週間22.0±0.3℃、70±4%の相対湿度で、照度70μE m−2s−1、連続光下に生育させた。なお、4日毎に、10mM コハク酸アンモニウムと10mM KClとを含むコイェック(Coiec)とレセント(Lesaint)の培地(改変培地)を、前記植物に与えた。
【0076】
タバコの亜硝酸塩処理は、以下のように行なった。コイック(Coiec)とレセント(Lesaint)の培地の改変培地による生育開始から、25日後、窒素源を含まない前記コイック(Coiec)とレセント(Lesaint)の培地を植物に与えた。その後、2〜3日毎に、窒素源を含まないコイック(Coiec)とレセント(Lesaint)の培地を植物に与え、育成を続けた。10日後、10mM KNO3を含むコイック(Coiec)とレセント(Lesaint)の培地を、植物に与えてNiR発現を誘導した。この時点を0時間として定義し、その後、mRNA発現を4時間調べた。
【0077】
硝酸塩処理をした9週令のタバコ植物及び硝酸塩非処理の9週令のタバコ植物それぞれの葉及び根から、チョムションクジンスキー(Chomczynski)ら〔Analytical Biochemistry、162、156−159、1987〕の方法に従って、全RNAを抽出した。
【0078】
下記プライマー対と、鋳型としてλDNAと、Competitive DNA Construction Kit〔タカラバイオ社製〕を用い、製造者の説明書に従い、PCRにより、葉NiR遺伝子及び根NiR遺伝子それぞれの競合的DNAを合成した。
【0079】
葉NiR遺伝子のCompetitor DNAを増幅するためのプライマー対として、5’−ATTTAGGTGACACTATAGAATACTTGGCAGATTCGTGGAGGTACGGTCATCATCTGACAC−3’ (配列番号:9、フォワードプライマー)と5’−CTGCTTGAACACGACCCACTGATGAATTGGTAACACCATCG−3’ (配列番号:10、リバースプライマー)とからなるプライマー対、根NiR遺伝子のCompetitor DNAを増幅するためのプライマー対として、5’−ATTTAGGTGACACTATAGAATACGGTGGGAAATCCTCTGGTACGGTCATCATCTGACAC−3’ (配列番号:11、フォワードプライマー)と5’−ACCTCTGCCCTGAATCCGCCATAATGGGAAGACTCC−3’ (配列番号:12、リバースプライマー)とからなるプライマー対を用いた。これらの4つのプライマーにおいて、タバコNiR cDNAの配列を下線で示す。
【0080】
商品名:Competitive RNA Transcription Kit〔タカラバイオ社製〕を用いて、SP6プロモーターから、Competitor DNAをRNAに転写させた。260nmでの吸収により、Competitor RNAを定量した。Competitor RNAの連続希釈物を、タバコの葉又は根から単離した全RNAと混合し、商品名:Superscript II逆転写酵素〔ギブコ−ビーアールエル(Gibco−BRL)社製〕を用いて、50℃で50分間、共増幅させた。
【0081】
葉NiR及びcompetitorのPCR条件は、95℃1分間と、60℃2分間と72℃1分間とを1サイクルとする30サイクルである。また、根NiR及びCompetitorのPCR条件は、95℃1分間と、56℃2分間と72℃1分間とを1サイクルとする30サイクルである。
【0082】
葉NiR cDNA及びそのCompetitor DNAを増幅するためのプライマー対として、5’−TTGGCAGATTCGTGGAG−3’ (前記配列番号:1、フォワードプライマー)と5’−CTGCTTGAACACGACCCACTG−3’ (前記配列番号:2、リバースプライマー)とからなるプライマー対を用い、根NiR cDNA及びそのCompetitor DNAを増幅するためのプライマー対として、5’−GGTGGGAAATCCTCTG−3’ (配列番号:13、フォワードプライマー)と5’−ACCTCTGCCCTGAATC−3’ (配列番号:14、リバースプライマー)とからなるプライマー対を用いた。
【0083】
得られたPCR産物を、1.8%(w/v) アガロースゲルで電気泳動し、臭化エチジウムで染色した。ついで、NiR cDNA由来の得られたバンド及びCompetitor由来の得られたバンドの強度を定量し、NiR mRNAの濃度を、高橋(Takahashi M.)ら〔Plant Physiology、126、731−741、2001〕に記載のように測定した。
【0084】
なお、タバコβ−チューブリン遺伝子(アクセッション番号:U91563)を、RT−PCRの内部対照として用いた。タバコβ−チューブリン遺伝子の増幅のためのプライマー対として、5’−TACACAGGGGAAGGAATGG−3’ (配列番号:15、フォワードプライマー)及び5’−CTCGAAACCAACGCTTATC−3’ (配列番号:16、リバースプライマー)を用いた。また、用いたプライマーの特異性は、nii1及びnii3に特異的な制限酵素により、増幅された葉NiRバンドを消化することにより、臭化エチジウム染色後に、バンドの完全な消失をもたらすことにより検証された。これにより、根NiRアンプリコンの混入の可能性を無視できることが示された。同じことが、nii2及びnii4に特異的なプライマー対により増幅された根NiRバンドにもあてはまった。
【0085】
図2及び図3に、硝酸塩処理によるNiR遺伝子の発現の誘導の前後のタバコの葉における葉NiR遺伝子と、硝酸塩処理によるNiR遺伝子の発現の誘導の前後のタバコの根NiR遺伝子とのそれぞれについて、定量競合RT−PCR解析により決定されたmRNAレベルを示す。
【0086】
葉NiR遺伝子は、硝酸塩による誘導無しに、葉で明確に発現し、これらの遺伝子のmRNAレベルは、1μg 全RNAあたり、6.7×105コピーであった。硝酸塩誘導後、これらの遺伝子のmRNAレベルは、著しく増加し、誘導後4時間で6倍に増加した(1μg 全RNAあたり4.2×106コピーまで)。
【0087】
しかしながら、図3に示されるように、根において、葉NiR遺伝子のmRNAレベルは、硝酸塩誘導の前(1μg 全RNAあたり3.0×104コピー)及び後(1μg 全RNAあたり5.0×105コピー)の両方で低かった。このことより、硝酸塩処理が、葉における葉NiR遺伝子の発現レベルを著しく増加させるが、根においては増加させないことが定量的に立証される。
【0088】
硝酸塩処理前の根における根NiR遺伝子のmRNAレベルは、1μg 全RNAあたり1.0×106コピーであった。硝酸塩処理後、根遺伝子のmRNAレベルは、根で15倍を超えて増加した(1μg 全RNAあたり1.8×107コピー)。この結果により、硝酸塩処理により、根における根NiR遺伝子が非常に誘導されることを定量的に立証される。
【0089】
図3に示されるように、葉における根遺伝子のmRNAは、根における根遺伝子のmRNAと比較し、硝酸塩処理の前(1μg 全RNAあたり2.3×105コピー)及び後(1μg 全RNAあたり1.8×106コピー)の両方で低いレベルのままであった。硝酸塩処理後の葉における根NiR遺伝子のmRNAレベルが、これらの器官における葉NiRのmRNAレベルの約1/3未満であるが、硝酸塩処理後の根における葉遺伝子のmRNAレベルは、これらの器官における根遺伝子のmRNAレベルの1/30未満であったことに注目すべきであろう。これにより、根NiRが、葉において役割を果たすことが示唆される。また、これが、硝酸塩による誘導の前及び後の両方の葉で葉遺伝子:根遺伝子 mRNA割合が3:1であり、根における割合が3:100であることに一致しており、根におけるNiRが、もっぱら根遺伝子から得られることを示唆する(図3)。
【0090】
硝酸塩処理に応答した根NiRのmRNAレベルの増加は、根(15倍を超える)において、葉(7倍を超える)よりも、より大きかった。非常に類似した結果が、葉NiRで得られ、硝酸塩処理に応答したそのmRNAレベルの増加は、根では、15倍を超えたが、葉では、6倍未満であった(図3参照)。
【0091】
実施例3
ベクターpIG121−Hm(名古屋大学 中村研三先生より提供)のGUS遺伝子の上流にnii3プロモーター(図4、配列番号:17)又はnii4プロモーター(図5、配列番号:18)を連結し、得られたベクター(カナマイシン耐性及びハイグロマイシン耐性)を、アグロバクテリウムの感染を介して、タバコのリーフディスクに導入した。ベクターが導入されたものの選択マーカーとして、ハイグロマイシンを使用した
【0092】
感染させたリーフディスクを、カルス誘導培地(CIM)、シュート誘導培地(SIM)、シュート伸長培地(SEM)で、再分化させ、再分化してきた個体を得た。ついで、再分化した植物の葉を切り取り、X−Gluc〔5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニド溶液に浸漬させ、GUS染色を行なった。
【0093】
その結果、nii3プロモーター−GUSを導入したタバコの葉は、図6のパネルAに示されるように、葉肉細胞でGUS遺伝子の発現が見られた。一方、nii4プロモーター−GUSを導入したタバコの葉は、図6のパネルBのに示されるように、葉脈だけが青く染まった。
【0094】
これらの結果より、nii3プロモーターとnii4プロモーターとは、葉における組織特異性が異なると考えられる。
【0095】
また、nii4プロモーター−GUSの葉は、切口がよく染色されたため、傷害に誘導されているよう可能性があることが推定された。
【0096】
配列表フリーテキスト
配列番号:1は、nii3遺伝子プローブ作製用フォワードプライマーの配列を示す。
【0097】
配列番号:2は、nii3遺伝子プローブ作製用リバースプライマーの配列を示す。
【0098】
配列番号:3は、nii4遺伝子プローブ作製用フォワードプライマーの配列を示す。
【0099】
配列番号:4は、nii4遺伝子プローブ作製用リバースプライマーの配列を示す。
【0100】
配列番号:9は、葉NiR遺伝子のcompetitor DNA作製用フォワードプライマーの配列を示す。
【0101】
配列番号:10は、葉NiR遺伝子のcompetitor DNAの作製用リバースプライマーの配列を示す。
【0102】
配列番号:11は、根NiR遺伝子のcompetitor DNAの調製用フォワードプライマーの配列を示す。
【0103】
配列番号:12は、根NiR遺伝子のcompetitor DNAの作製用リバースプライマーの配列を示す。
【0104】
配列番号:13は、根NiR遺伝子又はそのcompetitor DNAの増幅用フォワードプライマーの配列を示す。
【0105】
配列番号:14は、根NiR遺伝子又はそのcompetitor DNAの増幅用リバースプライマーの配列を示す。
【0106】
配列番号:15は、タバコβチューブリン遺伝子の増幅用フォワードプライマーの配列を示す。
【0107】
配列番号:16は、タバコβチューブリン遺伝子の増幅用リバースプライマーの配列を示す。
【0108】
【発明の効果】
本発明の遺伝子の発現方法によれば、発現対象の核酸を、組織、具体的には、植物組織、より具体的には、根、葉肉、葉脈に特異的に発現させることができ、根、葉肉、葉脈に特異的に発現対象の核酸の発現を誘導させることができるという優れた効果を奏する。したがって、本発明の遺伝子の発現方法によれば、根、葉肉、葉脈における遺伝子の機能の解析、根、葉肉、葉脈における遺伝子による植物体への影響の解析等が可能になる。また、本発明の組織特異的プロモーターを保持する核酸によれば、発現対象の核酸を、組織、具体的には、植物組織、より具体的には、根、葉肉、葉脈に特異的に、効率よく発現させ、組織、具体的には、植物組織、より具体的には、根、葉肉、葉脈に特異的に発現対象の核酸の発現を誘導することができるという優れた効果を奏する。したがって、本発明の核酸によれば、本発明の遺伝子の発現方法を効率よく行なうことができる。さらに、本発明の核酸導入用担体によれば、本発明の核酸を効率よく導入することができ、本発明の遺伝子の発現方法をより効率よく行なうことができるという優れた効果を奏する。
【0109】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、タバコ(Nicotiana tabacum cv. Xanthi XHFD8)由来の4つのNiR遺伝子:nii1、nii2、nii3及びnii4のオープンリーディングフレームの塩基配列(それぞれ、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7及び配列番号:8)を示す。4つの塩基配列について、DNASISプログラム(日立ソフトウェアエンジニアリング社製)を用いたbest−fitting法により、アラインメントした。ドットは、第1配列と同一の残基を示し、ダッシュは、アラインメントを最大にするギャップを示す。nii2/nii4 cDNAの増幅に用いられたプライマーを、グレーの四角により示す。定量RT−PCRに用いた葉NiR及び根NiRを増幅するプライマーを、白及び濃い灰色の四角でそれぞれ示す。
【図2】図2は、硝酸塩処理の前後のタバコの葉及び根における葉及び根NiR遺伝子のmRNAレベルの定量競合RT−PCR解析の結果の電気泳動図を示す。葉NiR cDNA及びそのcompetitorの産物のサイズは、それぞれ、701bp及び598bpであり、根NiR cDNA及びそのcompetitorの産物のサイズは、それぞれ、435bp及び332bpである。
【図3】図3は、硝酸塩処理の前後のタバコの葉及び根における葉及び根NiR遺伝子のmRNAレベル(1μg 全RNAあたりのコピー数)を示す。
【図4】図4は、nii3プロモーターの配列(配列番号:17)を示す。
【図5】図5は、nii4プロモーターの配列(配列番号:18)を示す。
【図6】図6は、nii3プロモーター及びnii4プロモーターによる遺伝子発現の局在性を調べた結果を示す。パネルAは、nii3プロモーター−GUSを導入したタバコの葉を示す。パネルA中、バーは、25mmである。パネルBは、nii4プロモーター−GUSを導入したタバコの葉を示す。パネルB中、バーは、10mmである。
【発明の属する技術分野】
本発明は、組織、具体的には、植物組織に特異的なプロモーター、遺伝子の発現方法及び核酸導入用担体に関する。具体的には、発現対象の核酸を、組織、具体的には、植物組織に特異的に発現させることができる、組織特異的プロモーターを保持する核酸、遺伝子の発現方法、並び核酸導入用担体に関する。
【0002】
【従来の技術】
窒素は、植物の主要な生育制限栄養素の1つであり、ほとんどの高等植物における該窒素の供給源は、根から吸収された硝酸である。高等植物においては、根により、硝酸が取り込まれ、ついで、細胞質における硝酸還元酵素により、該硝酸が、亜硝酸に還元される。その後、亜硝酸は、プラスチドの亜硝酸還元酵素(NiR)により、アンモニウムに還元され、ついで、該アンモニウムは、炭素骨格に取り込まれ、アミノ酸等の種々の窒素代謝物を形成する。
【0003】
硝酸の還元は、根及び苗条の両方で起こりうる。例えば、オオムギにおいては、硝酸還元の速度は、苗条における硝酸還元に対する根における硝酸還元の割合は、明/暗サイクルにより調節され、これらの2つの器官のそれぞれにより、還元窒素の様々な必要性を反映する〔非特許文献1〕。硝酸還元の主要なステップに関与するこれらの酵素の日周及び/又は光依存性調節は、高等植物の苗条においてよく知られている〔非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6及び非特許文献7を参照のこと〕。
【0004】
しかしながら、根における硝酸還元の調節については、タバコ根における硝酸同化が、昼も夜も同様の割合で起こり、根における硝酸還元が、苗条とは異なって調節されるという最近の報告〔非特許文献8を参照のこと〕以外は、ほとんど知られていないのが現状である。
【0005】
硝酸の還元は、根及び苗条の両方で起こるが、NiR遺伝子の数、構造等は、植物種により異なることが知られている。例えば、アラビドプシス(Arabidopsis)、ホウレンソウ及びオオムギは、1種のNiR遺伝子、イネ、トウモロコシ及びトウガラシは、2種のNiR遺伝子、大豆は、3種のNiR遺伝子を有することが知られている〔非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11、非特許文献12、非特許文献13、非特許文献14及び非特許文献15を参照のこと〕。
【0006】
タバコは、4種のNiRを有する点で独特である〔非特許文献16を参照のこと〕。
【0007】
しかしながら、4種のNiRの遺伝子のうち1種の遺伝子が、完全にクローン化されているにすぎず、4種のNiRの構造や機能等、不明な点が多いのが現状である。
【0008】
【非特許文献1】
オオジ(Oji Y)ら、Planta、179、359−366、1989
【非特許文献2】
ラジャセクハール(Rajasekhar VK)ら、Plant Physiology、88、242−244、1988
【非特許文献3】
シュスター(Schuster C.)ら、Planta.、181、327−334、1990
【非特許文献4】
ベッカー(Becker TW.)ら、Plant Molecular Biology、19、367−379、1992
【非特許文献5】
ベッカー(Becker TW.)ら、Planta.、188、39−47、1992
【非特許文献6】
カイザル(Kaiser WM)ら、Plant Physiology、106、817−821、1994
【非特許文献7】
ラム(Lam H−M)ら、The Plant Cell、7、887−898、1995
【非特許文献8】
ストェール(Stoehr)ら、Journal of Experimental Botany、52、1283−1289、2001
【非特許文献9】
タナカ(Tanaka T.)ら、DNA Sequence 5、57−61、1994
【非特許文献10】
バック(Back E.)ら、Molecular and General Genetics、212、20−26、1988
【非特許文献11】
ダンカンソン(Duncanson E.)ら、Plant Science、87、151−160、1992
【非特許文献12】
テラダ(Terada Y.)ら、Bioscience,Biotechnology and Biochemistry、59、2183−2185、1995
【非特許文献13】
ラーナーズ(Lahners K.)ら、Plant Physiology 88、741−746、1988
【非特許文献14】
キム(Kim C−H.)ら、Molecules and Cells 9、152−157、1999
【非特許文献15】
キム(Kim C−H.)ら、Australian Journal of Plant Physiology、28、1031−1038、2001
【非特許文献16】
クローネンベルガー(Kronenberger J.)ら、Molecular and General Genetics、236、203−208、1993
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、発現対象の核酸を、組織、具体的には、植物組織、より具体的には、根、葉肉、葉脈に特異的に発現させること、組織、具体的には、植物組織、より具体的には、根、葉肉、葉脈に特異的に発現対象の核酸の発現を誘導させること、根、葉肉、葉脈における遺伝子の機能を解析すること、根、葉肉、葉脈における遺伝子による植物体への影響を解析すること等の少なくとも1つを可能にする、遺伝子の発現方法を提供することを目的とする。また、本発明は、発現対象の核酸を、組織、具体的には、植物組織、より具体的には、根、葉肉、葉脈に特異的に発現させること、発現対象の核酸を、組織、具体的には、植物組織、より具体的には、根、葉肉、葉脈に効率よく発現させること、組織、具体的には、植物組織、より具体的には、根、葉肉、葉脈に特異的に発現対象の核酸の発現を誘導すること、本発明の遺伝子の発現方法を効率よく行なうこと等の少なくとも1つを可能にする、組織特異的プロモーターを保持する核酸を提供することを目的とする。さらに、本発明は、本発明の核酸を効率よく導入すること、本発明の遺伝子の発現方法を効率よく行なうこと等を可能にする、核酸導入用担体を提供することを目的とする。なお、本発明により解決することができるその他の課題は、本明細書における記載より明らかであろう。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、
〔1〕 下記(A)若しくは(B):
(A)配列番号:17に示される塩基配列、若しくは
(B)配列番号:17とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
又は、
下記(a)若しくは(b):
(a)配列番号:18に示される塩基配列、若しくは
(b)配列番号:18とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
を含有した核酸を用いて、発現対象の核酸を組織特異的に発現させることを特徴とする、遺伝子の発現方法、
〔2〕 (I)下記(A)若しくは(B):
(A)配列番号:17に示される塩基配列、若しくは
(B)配列番号:17とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
の下流に、発現対象の遺伝子が作動可能に結合した核酸構築物を含有した核酸導入用担体を植物細胞に導入して、形質転換植物細胞を得るステップ、
(II)前記(I)で得られた形質転換植物細胞を培養して、植物体を得るステップ、
を含み、ここで、該発現対象の核酸の発現産物は、葉肉に特異的に発現する、前記〔1〕記載の遺伝子の発現方法、
〔3〕 (i)下記(a)若しくは(b):
(a)配列番号:18に示される塩基配列、若しくは
(b)配列番号:18とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
の下流に、発現対象の遺伝子が作動可能に結合した核酸構築物を含有した核酸導入用担体を植物細胞に導入して、形質転換植物細胞を得るステップ、
(ii)前記(i)で得られた形質転換植物細胞を培養して、植物体を得るステップ、
を含み、ここで、該発現対象の核酸の発現産物は、根又は葉脈に特異的に発現する、前記〔1〕記載の遺伝子の発現方法、
〔4〕 下記(A)若しくは(B):
(A)配列番号:17に示される塩基配列、若しくは
(B)配列番号:17とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
を有してなる、組織特異的プロモーターを保持する核酸、
〔5〕 下記(a)若しくは(b):
(a)配列番号:18に示される塩基配列、若しくは
(b)配列番号:18とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
を有してなる、組織特異的プロモーターを保持する核酸、並びに
〔6〕 前記〔4〕又は前記〔5〕記載の核酸を含有してなる、核酸導入用担体、
に関する。
【0011】
【発明の実施の形態】
本明細書において、nii3及びnii4は、タバコの亜硝酸還元酵素(以下、「NiR」とも表記する)の1種である。前記nii3は、いわゆる葉型亜硝酸還元酵素であり、前記nii4は、いわゆる根型亜硝酸還元酵素である。
【0012】
本発明の遺伝子の発現方法は、下記(A)若しくは(B):
(A)配列番号:17に示される塩基配列、若しくは
(B)配列番号:17とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
又は、
下記(a)若しくは(b):
(a)配列番号:18に示される塩基配列、若しくは
(b)配列番号:18とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
を含有した核酸を用いて、発現対象の核酸を組織特異的に発現させることを1つの大きな特徴とする。
【0013】
ここで、前記(A)の配列番号:17は、タバコの亜硝酸還元酵素のうちの1つをコードする遺伝子であるnii3のプロモーターの塩基配列であり、前記(a)の配列番号:18は、タバコの亜硝酸還元酵素のうちの1つをコードする遺伝子であるnii4のプロモーターの塩基配列である。
【0014】
前記nii3のプロモーターは、驚くべく、葉肉において、遺伝子を特異的に発現させ、前記nii4のプロモーターは、驚くべく、葉脈及び根において、遺伝子を特異的に発現させうるという優れた性質を有する。
【0015】
本発明の遺伝子の発現方法は、前記nii3のプロモーター又は前記nii4のプロモーターが用いられるため、前記プロモーターのいずれかの下流に、作動可能に結合した発現対象の核酸を、所定の組織に特異的に発現させることができるという優れた効果を発揮する。
【0016】
また、nii3は、硝酸塩処理により、葉において、そのmRNAレベルが著しく増加するが、根においては、実質的に増加は見られないため、前記nii3のプロモーターによれば、作動可能に結合した発現対象の核酸を、葉肉において誘導し、特異的に発現させうる。一方、nii4は、硝酸塩処理により、根において、そのmRNAレベルが著しく増加するが、葉においては、葉脈以外では実質的に増加は見られないため、前記nii4のプロモーターによれば、作動可能に結合した発現対象の核酸を、根及び葉脈において誘導し、特異的に発現させうる。
【0017】
本明細書において、「プロモーター」とは、RNAポリメラーゼが転写を開始するために認識し、特異的に結合するDNA領域をいう。
【0018】
本明細書において、「作動可能に結合した」とは、本来の機能を発揮するように配置された状態を意味し、例えば、プロモーターにより、制御できるように、発現対象の核酸が配置され、かつ該核酸によりコードされた産物が該プロモーターの制御下に発現されるように配置された状態を意味する。
【0019】
自然界においては、天然の遺伝子が自然発生的に変異を起こして生じたバリアントであっても、該遺伝子によりコードされる産物が、本来の機能を発揮する場合がある。したがって、本発明において、nii3のプロモーター及びnii4のプロモーターは、それぞれと同等の機能を発揮するバリアントであってもよい。すなわち、前記nii3のプロモーターの塩基配列は、(B)配列番号:17とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列であってもよい。また、前記nii4のプロモーターの塩基配列は、(b)配列番号:18とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列であってもよい。なお、かかるバリアントは、人為的に、例えば、慣用の部位特異的変異導入方法等により作製されうる。
【0020】
前記(B)の塩基配列としては、例えば、(B1)配列番号:17において、少なくとも1塩基の変異(置換、欠失、挿入、付加等)を有する塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、(B2)配列番号:17の核酸とストリンジェント、好ましくは高ストリンジェントな条件下にハイブリダイズしうる核酸の塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、(B3)配列番号:17に対し、HigginsらによるClustalW法によるマルチプルアライメント(例えば、Gap penalty 5、Fixed Gap penalty 10、windows size 5、Floating Gap 10)により、最適な状態にアラインメントされ、算出された配列同一性が、少なくとも70%、好ましくは、80%以上、より好ましくは、90%以上である塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列等が例示される。
【0021】
前記(b)の塩基配列としては、例えば、(b1)配列番号:18において、少なくとも1塩基の変異(置換、欠失、挿入、付加等)を有する塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、(b2)配列番号:18の核酸とストリンジェント、好ましくは高ストリンジェントな条件下にハイブリダイズしうる核酸の塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、(b3)配列番号:18に対し、前記マルチプルアライメントにより、最適な状態にアラインメントされ、算出された配列同一性が、少なくとも70%、好ましくは、80%以上、より好ましくは、90%以上である塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列等が例示される。
【0022】
本明細書において、前記「ストリンジェントな条件」とは、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウム、pH7.0)と0.5% SDSと5×デンハルトと100μg/ml 変性断片化サケ精子DNAと50% ホルムアミドを含む溶液中、プローブとともに42℃で一晩保温し、低イオン強度、例えば、2×SSC、よりストリンジェントには、0.1×SSC等の条件及び/又はより高温、37℃以上、ストリンジェントには、42℃以上、よりストリンジェントには、50℃以上、より一層ストリンジェントには、60℃以上等の条件下での洗浄を行なう条件により達成されうる。
【0023】
前記核酸多型は、具体的には、▲1▼ RNAポリメラーゼが転写を開始するために認識し、特異的に結合するDNA領域としての機能、▲2▼ 発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能等を発揮するための構造を維持する範囲での多型であればよい。
【0024】
前記▲1▼の機能は、例えば、植物、具体的には、タバコのRNAポリメラーゼと、試験対象の核酸(例えば、配列番号:17、18、それらのバリアント)との結合の有無を検出することにより評価されうる。結合の有無の検出は、ゲルシフトアッセイ、表面プラズモン解析、フットプリント法(例えば、DNaseIフットプリンティング)等により行われうる。なお、RNAポリメラーゼは、他の転写因子の存在下に、プロモーターを認識し、結合する場合があるため、適切な転写因子の存在下において、試験対象の核酸との結合の有無を評価してもよい。
【0025】
前記ゲルシフトアッセイにより、結合の有無を検出する場合、
− RNAポリメラーゼと、慣用の標識物質(例えば、放射性同位元素、蛍光物質等)で標識した試験対象の核酸と、任意に、他の転写因子とを混合し、
− 得られた混合物をポリアクリルアミドゲル上で電気泳動し、
該核酸に対応するバンドの移動度が、RNAポリメラーゼと任意の転写因子との非存在下の場合の核酸のバンド(対照)の移動度と比較して、遅延していた場合、試験対象の核酸が前記▲1▼の核酸の機能を有することの指標となる。
【0026】
前記表面プラズモン解析により、結合の有無を検出する場合、例えば、
− 試験対象の核酸又はRNAポリメラーゼを固定化したセンサーチップに、それに対応して、RNAポリメラーゼ又は試験対象の核酸と、任意に、他の転写因子を含有した溶液を一定の流速で送液し、
− 適切な検出手段〔例えば、光学的検出(蛍光度、蛍光偏向度等)、質量分析計との組み合わせ(マトリックス支援レーザー脱離イオン化−飛行時間型質量分析計:MALDI−TOF MS、エレクトロスプレー・イオン化質量分析計:ESI−MS等)〕により、光学的変動又は質量の変動として、試験対象の核酸とRNAポリメラーゼとの結合を検出し、
例えば、光学的センサーグラム又は質量センサーグラムが、送液により変動した場合、試験対象の核酸が前記▲1▼の核酸の機能を有することの指標となる。
【0027】
前記フットプリント法により、結合の有無を検出する場合、例えば、
− RNAポリメラーゼと、慣用の標識物質(例えば、放射性同位元素、蛍光物質等)で標識した試験対象の核酸(二本鎖DNA)と、任意に、他の転写因子とを混合し、
− 得られた混合物を、DNaseIにより部分消化するか、又はマキサム・ギルバート法により化学分解し、
− 得られた産物を、尿素含有変性ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動し、
例えば、フットプリントが検出された場合、試験対象の核酸が前記▲1▼の核酸の機能を有することの指標となる。なお、フットプリントが生じた部分は、RNAポリメラーゼの結合部位であることが推定される。
【0028】
前記▲2▼の機能は、例えば、
− 試験対象の核酸の下流にレポーター遺伝子を作動可能に連結させ、構築物を得
− 得られた構築物を、植物細胞に、慣用の遺伝子導入法により導入して、形質転換植物細胞を得、
− 得られた形質転換植物細胞を培養して、葉に再分化させ、
− 葉肉又は葉脈におけるレポーター遺伝子の発現の有無を検出する
ことにより、評価されうる。
【0029】
ここで、前記レポーター遺伝子としては、β−グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子、Green Fluorescent Protein(GFP)遺伝子、Red Fluorescent Protein(DsRed)遺伝子等に代表される慣用のレポーター遺伝子が挙げられる。
【0030】
前記植物細胞としては、リーフディスク、茎、根外植片、カルス、プロトプラスト等が挙げられる。なかでも、器官特異的発現解析の観点から、リーフディスクや根外植片が好適である。前記リーフディスクは、例えば、無菌培養したタバコの葉を、無菌的に切断することにより得られる。また、前記カルスは、例えば、タバコの芽、根の先端、節の切片、発芽種子、枝等の外植片を、切り出して植物体から単離し、次亜塩素酸ナトリウム、過酸化水素等で洗浄し、オーキシン、ジベレリン等を含む栄養培地上で培養することにより、未分化の細胞塊として得られる。さらに、前記プロトプラストは、前記カルス等を、セルラーゼ、ペクチナーゼ等により処理し、遠心分離することにより得られる。
【0031】
前記植物細胞の作製の際に用いる培地としては、例えば、MS培地〔ムラシゲ(Murashige,T.)ら,Physiol.Plant.,15:473,(1962)〕、LS培地〔リンスマイヤー(Linsmaier EM)ら,Physiol.Plantarum,18:100,(1965)〕、WPM(Woody plant medium)〔ルロイド(Lloyd GB.)ら、Comb.Proc.Int.Plant Propagators Soc.,30:421,(1980)〕等が挙げられる。
【0032】
前記遺伝子導入法としては、生物的導入法、直接的導入法等により行なわれうる。
【0033】
前記生物的導入法としては、例えば、アグロバクテリウムを用いる方法等が挙げられる。かかるアグロバクテリウムを用いる方法においては、pIG121等の植物への遺伝子導入に用いられる慣用のベクター中の外来遺伝子発現用プロモーターを除去し、前記構築物を連結して得られた発現ベクターが用いられる。
【0034】
前記直接的導入法としては、エレクトロポレーション法、パーティクルガンを用いたボンバードメント法等が挙げられる。
【0035】
前記形質転換植物細胞から葉への再分化は、例えば、プロトプラストの場合、該プロトプラストを固体栄養培地で培養して、細胞壁を合成させ、ついで、液体培地中で、激しく攪拌させながら、培養し、カルスを得、得られたカルスをオーキシンおよびサイトカイニンの存在下に培養することにより行なわれうる。なお、カルスから葉への再分化は、例えば、低濃度のオーキシンと高濃度のサイトカイニンとの存在下に培養することにより行われうる。リーフディスクから葉の再分化は、例えば、リーフディスクを低濃度のオーキシンと高濃度のサイトカイニンとの存在下に培養することにより行われうる。
【0036】
前記形質転換植物細胞から葉への再分化の際に用いられる培地としては、例えば、カルス誘導培地(1mg/l インドール酢酸と1mg/l ベンジルアミノプリンとを含むMS培地)、シュート誘導培地(0.1mg/l インドール酢酸と1mg/l ベンジルアミノプリンとを含むMS培地)等が挙げられる。
【0037】
葉肉又は葉脈におけるレポーター遺伝子の発現の有無は、用いたレポーター遺伝子の発現産物に応じた方法により検出されうる。
【0038】
本発明の遺伝子の発現方法としては、より具体的には、
(I)下記(A)若しくは(B):
(A)配列番号:17に示される塩基配列、若しくは
(B)配列番号:17とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
の下流に、発現対象の遺伝子が作動可能に結合した核酸構築物を含有した核酸導入用担体を植物細胞に導入して、形質転換植物細胞を得るステップ、
(II)前記(I)で得られた形質転換植物細胞を培養して、植物体を得るステップ、
を含み、ここで、該発現対象の核酸の発現産物は、葉肉に特異的に発現する、遺伝子の発現方法(態様1);
(i)下記(a)若しくは(b):
(a)配列番号:18に示される塩基配列、若しくは
(b)配列番号:18とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
の下流に、発現対象の遺伝子が作動可能に結合した核酸構築物を含有した核酸導入用担体を植物細胞に導入して、形質転換植物細胞を得るステップ、
(ii)前記(i)で得られた形質転換植物細胞を培養して、植物体を得るステップ、
を含み、ここで、該発現対象の核酸の発現産物は、根又は葉脈に特異的に発現する、遺伝子の発現方法(態様2)
等が挙げられる。
【0039】
前記ステップ(I)及び(i)において、核酸導入用担体は、前記(A)、(B)、(a)及び(b)のいずれかの塩基配列からなる核酸(プロモーター)と、発現対象の核酸と、pIG121等の植物への遺伝子導入に用いられる慣用のベクターにおいて、外来遺伝子発現のためのプロモーターを除去して得られたベクター骨格とを含有するものであり、前記プロモーターと、発現対象の核酸とは、作動可能に結合したものである。
【0040】
また、前記ステップ(I)及び(i)において、植物細胞への核酸導入用担体の導入は、前記と同様の生物的導入法、直接的導入法等により行なわれる。
【0041】
前記ステップ(II)及び(ii)において、前記形質転換植物細胞から葉への再分化の手法及び用いられる培地は、前記と同様である。
【0042】
前記態様1の方法によれば、前記(A)又は(B)のいずれかの塩基配列からなる核酸を用いられるため、発現対象の核酸を、葉肉に特異的に発現させることができ、葉肉に特異的に発現対象の核酸の発現を誘導させることができるという優れた効果を発揮する。したがって、前記態様1の方法によれば、葉肉における遺伝子の機能を解析すること、葉肉における遺伝子による植物体への影響を解析すること等が可能になる。また、前記態様2の方法によれば、前記(a)又は(b)のいずれかの塩基配列からなる核酸を用いられるため、発現対象の核酸を、根又は葉脈に特異的に発現させることができ、根又は葉脈に特異的に発現対象の核酸の発現を誘導させることができるという優れた効果を発揮する。したがって、前記態様1の方法によれば、根又は葉脈における遺伝子の機能を解析すること、根又は葉脈における遺伝子による植物体への影響を解析すること等が可能になる。
【0043】
本発明の遺伝子の増幅方法に用いられる前記プロモーター、すなわち、下記(A)若しくは(B):
(A)配列番号:17に示される塩基配列、若しくは
(B)配列番号:17とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
を有した組織特異的プロモーターを保持する核酸(核酸1)、
下記(a)若しくは(b):
(a)配列番号:18に示される塩基配列、若しくは
(b)配列番号:18とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
を有した組織特異的プロモーターを保持する核酸(核酸2)も本発明に含まれる。
【0044】
前記核酸1は、前記(A)又は(B)の塩基配列を含有するため、該塩基配列の下流に発現対象の核酸を配置した場合、該発現対象の核酸を、葉肉に特異的、効率よく発現させることができ、葉肉に特異的に発現対象の核酸の発現を誘導させることができるという優れた効果を発揮する。また、前記核酸2は、(a)又は(b)の塩基配列を含有するため、該塩基配列の下流に発現対象の核酸を配置した場合、発現対象の核酸を、根又は葉脈に特異的、効率よく発現させることができ、根又は葉脈に特異的に発現対象の核酸の発現を誘導させることができるという優れた効果を発揮する。
【0045】
また、本発明の遺伝子の増幅方法に用いられる前記核酸導入用担体は、本発明の核酸を効率よく導入することができ、本発明の遺伝子の発現方法を効率よく行なうことができるものであり、本発明に含まれる。
【0046】
本発明の核酸導入用担体は、本発明の核酸を含有したものであり、より具体的には、前記(A)、(B)、(a)及び(b)のいずれかの塩基配列からなる核酸(プロモーター)と、発現対象の核酸と、pIG121等の植物への遺伝子導入に用いられる慣用のベクターにおいて、外来遺伝子発現のためのプロモーターを除去して得られたベクター骨格とを含有するものであり、前記プロモーターと、発現対象の核酸とは、作動可能に結合したものである
【0047】
また、本発明の核酸導入用担体は、核酸成分を、金粒子等に担持させて得られた担体、リポソーム等に包含させて得られた担体等であってもよい。
【0048】
【実施例】
以下、本発明を、実施例により詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例により限定されるものではない。なお、下記実施例において、特に明記しない限り、遺伝子操作は、用いたキットに添付の説明書、慣用のプロトコール〔例えば、前記モレキュラークローニング ア ラボラトリー マニュアル 第2版、モレキュラークローニング ア ラボラトリーマニュアル 第3版等を基に行なわれた。
【0049】
実施例1
タバコの亜硝酸還元酵素遺伝子nii3及びnii4のクローニングを試みた。
【0050】
nii3に特異的な遺伝子プローブ(nii3遺伝子プローブ)を得るため、タバコゲノムを鋳型とし、組換えTaq DNAポリメラーゼ〔タカラバイオ社製〕を用いて、ゲノム断片を増幅した。プライマー対として、5’−TTGGCAGATTCGTGGAG−3’ (配列番号:1、フォワードプライマー)と5’−CTGCTTGAACACGACCCACTG−3’ (配列番号:2、リバースプライマー)とからなるプライマー対を用いた。PCR条件は、95℃1分間と58℃1分間と72℃2分間とを1サイクルとする30サイクルである。
【0051】
得られた増幅断片を、商品名:MagExtractor(東洋紡社製)で精製し、TAクローニングにより、商品名:pGEM−T Easyベクター〔プロメガ(Promega)社製〕にクローン化した。
【0052】
その後、商品名:ABI PRISM 310 ジェネティックアナライザー〔アプライド バイオシステムズ(Applied Biosystems)社製〕を用いて、ジデオキシチェーンターミネーション法で、得られた増幅断片をシークエンスした。
【0053】
その結果、1.6kbの断片が、nii3に特異的であることが見出された。そこで、前記1.6kbの断片を、タバコゲノムライブラリー〔クローンテック(CLONTECH)社製〕をスクリーニングするためのnii3遺伝子プローブとして用いた。
【0054】
スクリーニングは、慣用のプラークハイブリダイゼーションにより行なった。その結果、前記nii3遺伝子プローブとハイブリダイズした陽性ファージクローンが得られた。
【0055】
その結果、得られた陽性ファージクローンから、商品名:QIAGEN Lambda Midiキット〔キアジェン(QIAGEN)社製〕を用いて、DNAを抽出した。
【0056】
ついで、前記DNAを種々の制限酵素で消化し、消化DNAについて、前記nii3遺伝子プローブを用いて、サザンブロット解析を行なった。ハイブリダイゼーションは、ハイブリダイゼーション緩衝液〔組成:50% ホルムアミド、5×デンハート(Denhardt)、5×SSC、0.5% SDS、0.2mg/ml sperm DNA〕中、42℃で一晩インキュベーションすることにより行ない、その後、2×SSC、室温で15分間、ついで、2×SSC,1.0% SDS、65℃で20分間、0.2×SSC、1.0% SDS、65℃で20分間の洗浄を行なった。
【0057】
その結果、制限酵素SalIで消化したDNAのレーンにおいて、約8.0kbの位置と約1.4kbの位置、制限酵素EcoRIで消化したDNAのレーンにおいて、約2.5kbの位置に、前記nii3遺伝子プローブとハイブリダイズしたことを示すシグナルが見られた。
【0058】
ついで、シグナルが見られた位置の陽性DNA断片をゲルから抽出し、該陽性DNA断片を、商品名:pBSSK−〔ストラタジーン(Stratagene)社製〕にクローン化し、前記と同様に、シークエンスした。
【0059】
一方、nii4に特異的な遺伝子プローブ(nii4遺伝子プローブ)を得るため、まず、oligo−dTプライマーと商品名:Superscript II逆転写酵素〔ギブコ−ビーアールエル(Gibco−BRL)社製〕とを用いて、タバコの根から単離された全RNAを、42℃50分間インキュベートして、一本鎖cDNAに変換した。なお、前記全RNAは、9週令のタバコ植物それぞれの葉及び根から、チョムションクジンスキー(Chomczynski)ら〔Analytical Biochemistry、162、156−159、1987〕の方法に従って抽出したものである。
【0060】
前記一本鎖cDNAを鋳型とし、下記プライマー対を用い、Pfuポリメラーゼ〔プロメガ(Promega)社製〕を用いて、PCR増幅を行なった。PCR条件は、95℃で30秒と55℃で1分と72℃で30秒とを1サイクルとする30サイクルである。
【0061】
プライマー対として、5’−GATTCTAAAGGGACTGGATG−3’ (配列番号:3、フォワードプライマー)と5’−CTTCTTGTTTCTGCGGATGC−3’ (配列番号:4、リバースプライマー)とからなるプライマー対を用いた。
【0062】
ついで、得られた増幅断片を、nii2 cDNAに認識部位を有するKpnI、StyI、及びPvuIIで消化した。その結果、StyIとPvuIIとで消化されうるが、KpnIでは消化され得ない断片を得、該断片を、TAクローニングでクローン化した。nii4に特異的なサブクローンを、タバコゲノムライブラリー〔クローンテック(CLONTECH)社製〕をスクリーニングするための遺伝子プローブ(nii4遺伝子プローブ)として用いた。
【0063】
スクリーニングは、慣用のプラークハイブリダイゼーションにより行なった。その結果、前記nii4遺伝子プローブとハイブリダイズした陽性ファージクローンが得られた。
【0064】
陽性ファージクローンから、商品名:QIAGEN Lambda Midiキット〔キアジェン(QIAGEN)社製〕を用いて、DNAを抽出した。
【0065】
ついで、前記DNAを種々の制限酵素で消化し、消化DNAについて、前記nii4遺伝子プローブを用いて、サザンブロット解析を行なった。ハイブリダイゼーションは、ハイブリダイゼーション緩衝液〔組成:50% ホルムアミド、5×デンハート(Denhardt)、5×SSC、0.5% SDS、0.2mg/ml sperm DNA〕中、42℃で一晩インキュベーションすることにより行ない、その後、2×SSC、室温で15分間、ついで、2×SSC,1.0% SDS、65℃で20分間、0.2×SSC、1.0% SDS、65℃で20分間の洗浄を行なった。
【0066】
その結果、制限酵素EcoRIで消化したDNAのレーンにおいて、約6.1kbの位置、制限酵素HindIIIで消化したDNAのレーンにおいて、約2.2kbの位置に、前記nii4遺伝子プローブとハイブリダイズしたことを示すシグナルが見られた。
【0067】
ついで、シグナルが見られた位置の陽性DNA断片をゲルから抽出し、該陽性DNA断片を、pBSSK−〔ストラタジーン(Stratagene)社製〕にクローン化し、前記のように、シークエンスした。
【0068】
図1に、クローン化したnii3及びnii4を含め、タバコ(Nicotiana tabacum cv. Xanthi XHFD8)由来の4つのNiR遺伝子:nii1(配列番号:5)、nii2(配列番号:6)、nii3(配列番号:7)及びnii4(配列番号:8)のオープンリーディングフレーム(ORF)の塩基配列を示す。
【0069】
nii3は、4つのエキソン及び3つのイントロンを有し、それは、バウチェレット(Vaucheret H.)ら〔The Plant Journal、2,559−569、1992〕により報告されたnii1のものと非常に類似することが示された。
【0070】
nii3のORF(アクセッション番号:AB093533)の長さは、図1に示されるように、nii1のものと同じであることが推定された。
【0071】
nii4は、4つのエキソンと3つのイントロンとを有し、それは、nii1〔前記バウチェレット(Vaucheret)ら、1992〕及びnii3と非常に類似することが示された。
【0072】
ゲノム配列から推定されたnii4のORF(アクセッション番号:AB093534)は、584アミノ酸をコードする1755bpであることが推定された。
【0073】
実施例2
タバコ(Nicotiana tabacum cv. Xanthi XHFD8)の種子を、2.5%(v/v) 次亜塩素酸で表面殺菌した。ついで、窒素源を含まない固体B培地〔0.3%(w/v) ジェランガム(pH5.6)含有;組成について、バウアジン(Bourgin JP)ら、Physiologia Plantarum 45、288−292 1979参照〕を含むペトリ皿に、前記種子を蒔いた。前記ペトリ皿中の種子を、23.0±0.3℃で、70±4%の相対湿度、照度30〜40μE m−2s−1、蛍光灯下16時間:8時間の明暗サイクルで維持した。
【0074】
播種から2週間後、10mM コハク酸アンモニウムと、10mM KClとを含有した含む固体B培地〔組成:0.2%(w/v) ジェランガム含有〕を含むプラスチック容器に、生育した植物を移した。さらに前記植物を、無菌状態で2週間生育させた。
【0075】
その後、植物を、土〔バーミキュライト及びパーライト〔体積(v/v)比1:1)を含むプラスチックポットに植え替え、さらに5週間22.0±0.3℃、70±4%の相対湿度で、照度70μE m−2s−1、連続光下に生育させた。なお、4日毎に、10mM コハク酸アンモニウムと10mM KClとを含むコイェック(Coiec)とレセント(Lesaint)の培地(改変培地)を、前記植物に与えた。
【0076】
タバコの亜硝酸塩処理は、以下のように行なった。コイック(Coiec)とレセント(Lesaint)の培地の改変培地による生育開始から、25日後、窒素源を含まない前記コイック(Coiec)とレセント(Lesaint)の培地を植物に与えた。その後、2〜3日毎に、窒素源を含まないコイック(Coiec)とレセント(Lesaint)の培地を植物に与え、育成を続けた。10日後、10mM KNO3を含むコイック(Coiec)とレセント(Lesaint)の培地を、植物に与えてNiR発現を誘導した。この時点を0時間として定義し、その後、mRNA発現を4時間調べた。
【0077】
硝酸塩処理をした9週令のタバコ植物及び硝酸塩非処理の9週令のタバコ植物それぞれの葉及び根から、チョムションクジンスキー(Chomczynski)ら〔Analytical Biochemistry、162、156−159、1987〕の方法に従って、全RNAを抽出した。
【0078】
下記プライマー対と、鋳型としてλDNAと、Competitive DNA Construction Kit〔タカラバイオ社製〕を用い、製造者の説明書に従い、PCRにより、葉NiR遺伝子及び根NiR遺伝子それぞれの競合的DNAを合成した。
【0079】
葉NiR遺伝子のCompetitor DNAを増幅するためのプライマー対として、5’−ATTTAGGTGACACTATAGAATACTTGGCAGATTCGTGGAGGTACGGTCATCATCTGACAC−3’ (配列番号:9、フォワードプライマー)と5’−CTGCTTGAACACGACCCACTGATGAATTGGTAACACCATCG−3’ (配列番号:10、リバースプライマー)とからなるプライマー対、根NiR遺伝子のCompetitor DNAを増幅するためのプライマー対として、5’−ATTTAGGTGACACTATAGAATACGGTGGGAAATCCTCTGGTACGGTCATCATCTGACAC−3’ (配列番号:11、フォワードプライマー)と5’−ACCTCTGCCCTGAATCCGCCATAATGGGAAGACTCC−3’ (配列番号:12、リバースプライマー)とからなるプライマー対を用いた。これらの4つのプライマーにおいて、タバコNiR cDNAの配列を下線で示す。
【0080】
商品名:Competitive RNA Transcription Kit〔タカラバイオ社製〕を用いて、SP6プロモーターから、Competitor DNAをRNAに転写させた。260nmでの吸収により、Competitor RNAを定量した。Competitor RNAの連続希釈物を、タバコの葉又は根から単離した全RNAと混合し、商品名:Superscript II逆転写酵素〔ギブコ−ビーアールエル(Gibco−BRL)社製〕を用いて、50℃で50分間、共増幅させた。
【0081】
葉NiR及びcompetitorのPCR条件は、95℃1分間と、60℃2分間と72℃1分間とを1サイクルとする30サイクルである。また、根NiR及びCompetitorのPCR条件は、95℃1分間と、56℃2分間と72℃1分間とを1サイクルとする30サイクルである。
【0082】
葉NiR cDNA及びそのCompetitor DNAを増幅するためのプライマー対として、5’−TTGGCAGATTCGTGGAG−3’ (前記配列番号:1、フォワードプライマー)と5’−CTGCTTGAACACGACCCACTG−3’ (前記配列番号:2、リバースプライマー)とからなるプライマー対を用い、根NiR cDNA及びそのCompetitor DNAを増幅するためのプライマー対として、5’−GGTGGGAAATCCTCTG−3’ (配列番号:13、フォワードプライマー)と5’−ACCTCTGCCCTGAATC−3’ (配列番号:14、リバースプライマー)とからなるプライマー対を用いた。
【0083】
得られたPCR産物を、1.8%(w/v) アガロースゲルで電気泳動し、臭化エチジウムで染色した。ついで、NiR cDNA由来の得られたバンド及びCompetitor由来の得られたバンドの強度を定量し、NiR mRNAの濃度を、高橋(Takahashi M.)ら〔Plant Physiology、126、731−741、2001〕に記載のように測定した。
【0084】
なお、タバコβ−チューブリン遺伝子(アクセッション番号:U91563)を、RT−PCRの内部対照として用いた。タバコβ−チューブリン遺伝子の増幅のためのプライマー対として、5’−TACACAGGGGAAGGAATGG−3’ (配列番号:15、フォワードプライマー)及び5’−CTCGAAACCAACGCTTATC−3’ (配列番号:16、リバースプライマー)を用いた。また、用いたプライマーの特異性は、nii1及びnii3に特異的な制限酵素により、増幅された葉NiRバンドを消化することにより、臭化エチジウム染色後に、バンドの完全な消失をもたらすことにより検証された。これにより、根NiRアンプリコンの混入の可能性を無視できることが示された。同じことが、nii2及びnii4に特異的なプライマー対により増幅された根NiRバンドにもあてはまった。
【0085】
図2及び図3に、硝酸塩処理によるNiR遺伝子の発現の誘導の前後のタバコの葉における葉NiR遺伝子と、硝酸塩処理によるNiR遺伝子の発現の誘導の前後のタバコの根NiR遺伝子とのそれぞれについて、定量競合RT−PCR解析により決定されたmRNAレベルを示す。
【0086】
葉NiR遺伝子は、硝酸塩による誘導無しに、葉で明確に発現し、これらの遺伝子のmRNAレベルは、1μg 全RNAあたり、6.7×105コピーであった。硝酸塩誘導後、これらの遺伝子のmRNAレベルは、著しく増加し、誘導後4時間で6倍に増加した(1μg 全RNAあたり4.2×106コピーまで)。
【0087】
しかしながら、図3に示されるように、根において、葉NiR遺伝子のmRNAレベルは、硝酸塩誘導の前(1μg 全RNAあたり3.0×104コピー)及び後(1μg 全RNAあたり5.0×105コピー)の両方で低かった。このことより、硝酸塩処理が、葉における葉NiR遺伝子の発現レベルを著しく増加させるが、根においては増加させないことが定量的に立証される。
【0088】
硝酸塩処理前の根における根NiR遺伝子のmRNAレベルは、1μg 全RNAあたり1.0×106コピーであった。硝酸塩処理後、根遺伝子のmRNAレベルは、根で15倍を超えて増加した(1μg 全RNAあたり1.8×107コピー)。この結果により、硝酸塩処理により、根における根NiR遺伝子が非常に誘導されることを定量的に立証される。
【0089】
図3に示されるように、葉における根遺伝子のmRNAは、根における根遺伝子のmRNAと比較し、硝酸塩処理の前(1μg 全RNAあたり2.3×105コピー)及び後(1μg 全RNAあたり1.8×106コピー)の両方で低いレベルのままであった。硝酸塩処理後の葉における根NiR遺伝子のmRNAレベルが、これらの器官における葉NiRのmRNAレベルの約1/3未満であるが、硝酸塩処理後の根における葉遺伝子のmRNAレベルは、これらの器官における根遺伝子のmRNAレベルの1/30未満であったことに注目すべきであろう。これにより、根NiRが、葉において役割を果たすことが示唆される。また、これが、硝酸塩による誘導の前及び後の両方の葉で葉遺伝子:根遺伝子 mRNA割合が3:1であり、根における割合が3:100であることに一致しており、根におけるNiRが、もっぱら根遺伝子から得られることを示唆する(図3)。
【0090】
硝酸塩処理に応答した根NiRのmRNAレベルの増加は、根(15倍を超える)において、葉(7倍を超える)よりも、より大きかった。非常に類似した結果が、葉NiRで得られ、硝酸塩処理に応答したそのmRNAレベルの増加は、根では、15倍を超えたが、葉では、6倍未満であった(図3参照)。
【0091】
実施例3
ベクターpIG121−Hm(名古屋大学 中村研三先生より提供)のGUS遺伝子の上流にnii3プロモーター(図4、配列番号:17)又はnii4プロモーター(図5、配列番号:18)を連結し、得られたベクター(カナマイシン耐性及びハイグロマイシン耐性)を、アグロバクテリウムの感染を介して、タバコのリーフディスクに導入した。ベクターが導入されたものの選択マーカーとして、ハイグロマイシンを使用した
【0092】
感染させたリーフディスクを、カルス誘導培地(CIM)、シュート誘導培地(SIM)、シュート伸長培地(SEM)で、再分化させ、再分化してきた個体を得た。ついで、再分化した植物の葉を切り取り、X−Gluc〔5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニド溶液に浸漬させ、GUS染色を行なった。
【0093】
その結果、nii3プロモーター−GUSを導入したタバコの葉は、図6のパネルAに示されるように、葉肉細胞でGUS遺伝子の発現が見られた。一方、nii4プロモーター−GUSを導入したタバコの葉は、図6のパネルBのに示されるように、葉脈だけが青く染まった。
【0094】
これらの結果より、nii3プロモーターとnii4プロモーターとは、葉における組織特異性が異なると考えられる。
【0095】
また、nii4プロモーター−GUSの葉は、切口がよく染色されたため、傷害に誘導されているよう可能性があることが推定された。
【0096】
配列表フリーテキスト
配列番号:1は、nii3遺伝子プローブ作製用フォワードプライマーの配列を示す。
【0097】
配列番号:2は、nii3遺伝子プローブ作製用リバースプライマーの配列を示す。
【0098】
配列番号:3は、nii4遺伝子プローブ作製用フォワードプライマーの配列を示す。
【0099】
配列番号:4は、nii4遺伝子プローブ作製用リバースプライマーの配列を示す。
【0100】
配列番号:9は、葉NiR遺伝子のcompetitor DNA作製用フォワードプライマーの配列を示す。
【0101】
配列番号:10は、葉NiR遺伝子のcompetitor DNAの作製用リバースプライマーの配列を示す。
【0102】
配列番号:11は、根NiR遺伝子のcompetitor DNAの調製用フォワードプライマーの配列を示す。
【0103】
配列番号:12は、根NiR遺伝子のcompetitor DNAの作製用リバースプライマーの配列を示す。
【0104】
配列番号:13は、根NiR遺伝子又はそのcompetitor DNAの増幅用フォワードプライマーの配列を示す。
【0105】
配列番号:14は、根NiR遺伝子又はそのcompetitor DNAの増幅用リバースプライマーの配列を示す。
【0106】
配列番号:15は、タバコβチューブリン遺伝子の増幅用フォワードプライマーの配列を示す。
【0107】
配列番号:16は、タバコβチューブリン遺伝子の増幅用リバースプライマーの配列を示す。
【0108】
【発明の効果】
本発明の遺伝子の発現方法によれば、発現対象の核酸を、組織、具体的には、植物組織、より具体的には、根、葉肉、葉脈に特異的に発現させることができ、根、葉肉、葉脈に特異的に発現対象の核酸の発現を誘導させることができるという優れた効果を奏する。したがって、本発明の遺伝子の発現方法によれば、根、葉肉、葉脈における遺伝子の機能の解析、根、葉肉、葉脈における遺伝子による植物体への影響の解析等が可能になる。また、本発明の組織特異的プロモーターを保持する核酸によれば、発現対象の核酸を、組織、具体的には、植物組織、より具体的には、根、葉肉、葉脈に特異的に、効率よく発現させ、組織、具体的には、植物組織、より具体的には、根、葉肉、葉脈に特異的に発現対象の核酸の発現を誘導することができるという優れた効果を奏する。したがって、本発明の核酸によれば、本発明の遺伝子の発現方法を効率よく行なうことができる。さらに、本発明の核酸導入用担体によれば、本発明の核酸を効率よく導入することができ、本発明の遺伝子の発現方法をより効率よく行なうことができるという優れた効果を奏する。
【0109】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、タバコ(Nicotiana tabacum cv. Xanthi XHFD8)由来の4つのNiR遺伝子:nii1、nii2、nii3及びnii4のオープンリーディングフレームの塩基配列(それぞれ、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7及び配列番号:8)を示す。4つの塩基配列について、DNASISプログラム(日立ソフトウェアエンジニアリング社製)を用いたbest−fitting法により、アラインメントした。ドットは、第1配列と同一の残基を示し、ダッシュは、アラインメントを最大にするギャップを示す。nii2/nii4 cDNAの増幅に用いられたプライマーを、グレーの四角により示す。定量RT−PCRに用いた葉NiR及び根NiRを増幅するプライマーを、白及び濃い灰色の四角でそれぞれ示す。
【図2】図2は、硝酸塩処理の前後のタバコの葉及び根における葉及び根NiR遺伝子のmRNAレベルの定量競合RT−PCR解析の結果の電気泳動図を示す。葉NiR cDNA及びそのcompetitorの産物のサイズは、それぞれ、701bp及び598bpであり、根NiR cDNA及びそのcompetitorの産物のサイズは、それぞれ、435bp及び332bpである。
【図3】図3は、硝酸塩処理の前後のタバコの葉及び根における葉及び根NiR遺伝子のmRNAレベル(1μg 全RNAあたりのコピー数)を示す。
【図4】図4は、nii3プロモーターの配列(配列番号:17)を示す。
【図5】図5は、nii4プロモーターの配列(配列番号:18)を示す。
【図6】図6は、nii3プロモーター及びnii4プロモーターによる遺伝子発現の局在性を調べた結果を示す。パネルAは、nii3プロモーター−GUSを導入したタバコの葉を示す。パネルA中、バーは、25mmである。パネルBは、nii4プロモーター−GUSを導入したタバコの葉を示す。パネルB中、バーは、10mmである。
Claims (6)
- 下記(A)若しくは(B):
(A)配列番号:17に示される塩基配列、若しくは
(B)配列番号:17とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
又は、
下記(a)若しくは(b):
(a)配列番号:18に示される塩基配列、若しくは
(b)配列番号:18とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
を含有した核酸を用いて、発現対象の核酸を組織特異的に発現させることを特徴とする、遺伝子の発現方法。 - (I)下記(A)若しくは(B):
(A)配列番号:17に示される塩基配列、若しくは
(B)配列番号:17とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
の下流に、発現対象の遺伝子が作動可能に結合した核酸構築物を含有した核酸導入用担体を植物細胞に導入して、形質転換植物細胞を得るステップ、
(II)前記(I)で得られた形質転換植物細胞を培養して、植物体を得るステップ、
を含み、ここで、該発現対象の核酸の発現産物は、葉肉に特異的に発現する、請求項1記載の遺伝子の発現方法。 - (i)下記(a)若しくは(b):
(a)配列番号:18に示される塩基配列、若しくは
(b)配列番号:18とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
の下流に、発現対象の遺伝子が作動可能に結合した核酸構築物を含有した核酸導入用担体を植物細胞に導入して、形質転換植物細胞を得るステップ、
(ii)前記(i)で得られた形質転換植物細胞を培養して、植物体を得るステップ、
を含み、ここで、該発現対象の核酸の発現産物は、根又は葉脈に特異的に発現する、請求項1記載の遺伝子の発現方法。 - 下記(A)若しくは(B):
(A)配列番号:17に示される塩基配列、若しくは
(B)配列番号:17とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
を有してなる、組織特異的プロモーターを保持する核酸。 - 下記(a)若しくは(b):
(a)配列番号:18に示される塩基配列、若しくは
(b)配列番号:18とは、少なくとも1塩基が、核酸多型により異なる塩基配列であって、かつ該塩基配列の下流に作動可能に結合した発現対象の核酸を組織特異的に発現させる機能を有するポリヌクレオチドの塩基配列、
を有してなる、組織特異的プロモーターを保持する核酸。 - 請求項4又は請求項5記載の核酸を含有してなる、核酸導入用担体。
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2003
- 2003-05-15 JP JP2003137588A patent/JP2004337071A/ja active Pending
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