JP2004336328A - アンテナ装置及び無線装置 - Google Patents

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Masatoshi Sawamura
政俊 澤村
Hideaki Shoji
英明 東海林
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Abstract

【課題】簡単な構造でスリットの長さに対応する共振周波数以外の周波数帯域でも共振化でき、複数の通信システムに対応し得るアンテナ装置を提供する。
【解決手段】グランド基板12の上端側縁12aから奥行き方向に切り欠いて一端13aを開放したスリット13と、このスリット13の切り欠き方向と略直交する幅方向におけるギャップ部14に高周波信号を給電する給電部15と、高周波信号を、前記スリット13の幅方向における一側縁13cから当該スリット13の付け根近傍部を介して前記一側縁13cと対向する他側縁13dに流れることによって形成される誘導性リアクタンスと、前記スリット13のギャップ部14に設けられた容量性リアクタンス素子16とを備える。スリット13に設けた容量性リアクタンス素子16と、前記誘導性リアクタンスとによって、複数共振回路が構成され、複数の通信システムで使用することが可能となる。
【選択図】 図5

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アンテナ装置及び無線装置に関し、詳細には複数の共振点が得られるアンテナ装置及び無線装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の移動体通信用携帯無線端末の動向として、端末内部にアンテナを内蔵させた、いわゆる内蔵アンテナを採用したものが数多く市場に出現している。内蔵アンテナは、それまで一般的であった携帯無線端末の外側にアンテナが取り付けられたものに対して、落下などによる破損の可能性が低く、また、デザイン面の観点からも有利であり斬新なデザインが可能である。
【0003】
従来の携帯無線端末用の内蔵アンテナには、図22に示すような板状逆Fアンテナが広く採用されている。板状逆Fアンテナは、同図に示したように、グランド201と、このグランド201に対して所定距離を置いて対向配置される放射導体202と、この放射導体202より垂直に延びて前記グランド201に接続される短絡導体部203と、高周波信号を放射導体202に給電するための給電ピン204とから構成されている。
【0004】
このように構成される板状逆Fアンテナは、放射導体202の大きさによってアンテナの共振周波数が決定される。また、この板状逆Fアンテナでは、放射導体202とグランド201間の距離はアンテナの帯域幅に影響を与え、これら放射導体202とグランド201間の占有体積が増加することにより、前記帯域幅が増加する傾向にある。したがって、アンテナの特性を確保するためには、アンテナ部の占有体積が必要となり、その分だけ携帯無線端末の厚みも増す傾向にある。
【0005】
この板状逆Fアンテナに対してノッチアンテナは、図23に示すように、いわば一端を開放したスロットアンテナで、グランド205の一部にスリット206を形成し、そのスリット206に給電部207を設けたシンプルな構造となっている。図24は、携帯無線端末内にノッチアンテナを構成した場合の一例を示している。このアンテナは、グランド205にスリット206を形成した平面的な構造であるため、従来の内蔵アンテナに対してアンテナ部の厚みが不要で、アンテナ実装面積が少ないという利点を有する。なお、図24では、図23と同じ構成部分には同じ符号を付してある。
【0006】
前記ノッチアンテナにおいては、共振周波数はスリット206の長さLsで決定され、例えばそのスリット206の長さLsは使用周波数の0.2波長程度の長さにされる。したがって、これまで携帯電話市場で主流であったPDC方式(約800MHz)やGSM方式(約800〜900MHz)での使用周波数帯域のシステムでは、スリットの長さLsが70〜80mm程度と長く、ノッチアンテナを携帯電話機内部に設置するのは困難である。しかしながら、第3世代の携帯電話機(W−CDMAで約2GHz)やGPS機能を搭載した携帯電話機(約1.575MHz)など、高い周波数帯域で使用されるシステムでは、ノッチアンテナを採用することが可能である。
【0007】
この一方、近年の携帯無線端末の小型化の動向に伴い、内蔵アンテナにも更なる小型化が要求される傾向にある。その場合、使用周波数帯全域をカバーするのが困難となる可能性があるが、アンテナの小型化に対応させるべく、アンテナの共振周波数を電気的に切り換える技術を採用することが考えられる。また、近年、携帯電話機の急速な普及に伴って、1つの無線通信システムにおける回線数だけでは当該回線数が不足する傾向にあるため、現状では、異なる周波数帯域を使用している2種類かそれ以上の無線通信システムを併用して必要な回線数を確保している。実際に、1つの携帯電話機で、2種類かそれ以上の無線通信システムを利用することが可能な、いわゆるデュアルバンド又はトリプルバンド対応の携帯無線端末が開発され、実際に発売されている。
【0008】
さらに近年は、携帯無線端末に様々な機能を持たせる傾向にあることから、位置測位システムであるGPS(Global Positioning System)や近距離無線通信方式の一つであるブルートゥース(Bluetooth)といった、携帯電話以外の無線通信システムを搭載する携帯無線端末も開発され発売されている。
【0009】
このように、1つの携帯無線端末に複数の無線通信システムを搭載した場合、端末の小型化によってそれぞれのシステムに対応した内蔵アンテナを搭載するスペースがない場合は、当然、アンテナに複共振化が要求される。
【0010】
アンテナに複共振化を持たせる一つの手法として、例えば従来から用いられている板状逆Fアンテナにおいて、図25に示すように、グランド208に短絡部209を介して対向配置した放射導体部210にクランク形状のスリット211を形成することにより、当該アンテナに低周波数帯と高周波数帯の二つの共振長(電気長)を持たせる技術がある(例えば、特許文献1参照)。放射導体部210にクランク形状のスリット211を形成すれば、給電ピン212によって給電された高周波信号は、低周波数帯のときには図26中矢印Aで示すように流れ、高周波数帯のときには図26中矢印Bで示すように流れる。
【0011】
また、他の方法としては、逆Fアンテナの短絡端子を複数用意し、その短絡端子を電気的スイッチ回路に接続することにより、共振周波数を切り換える技術がある(例えば、特許文献2参照)。この技術は、スイッチの切り換えによって周波数切り換え端子をグランド板と接続または開放することにより、共振周波数を切り換えることにより、複共振化したものである。
【0012】
【特許文献1】
特開2000−68736号公報(第3頁、第1図)
【特許文献2】
特開2000−114856号公報(第4頁及び第5頁、第1図)
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ノッチアンテナは、ノッチ(切り欠き)の長さで共振周波数が決定されてしまうので、基本的には単共振特性しか得られず、上記のような二共振化や帯域切り換えには、そのままでは対応することができない。
【0014】
また、スイッチ回路によって短絡端子を切り換えて複共振化を図ったものについては、構造が複雑になり、部品点数も増えてコストアップになる。
【0015】
そこで、本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、簡単な構造でスリットの長さに対応する共振周波数以外の周波数帯域でも共振化でき、複数の通信システムに対応し得るアンテナ装置及び無線装置を提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明のアンテナ装置は、地導体に形成したスリットと、このスリットのギャップ部に設けられた容量性リアクタンス素子と、高周波信号が、前記スリットの幅方向における一側縁から当該スリットの付け根近傍部を介して前記一側縁と対向する他側縁に流れることによって形成される誘導性リアクタンスとを備える。
【0017】
地導体、すなわちグランドは、具体的には、プリント回路基板などの任意の面に導体を形成し、その導体を接地させたものであり、回路素子などをシールドするためのシールドケースなどがそれに当たる。スリットの付け根近傍は、スリットの開放端とは反対側の他端で、そのスリット他端の近傍部を指す。
【0018】
本発明のアンテナ装置によれば、スリットのギャップ部に設けた容量性リアクタンス素子と、スリットの幅方向における一側縁から当該スリットの付け根近傍部を介して他側縁に流れる誘導性リアクタンスとによって、複共振化できる共振回路が構成される。
【0019】
本発明の無線装置は、地導体に形成したスリットと、このスリットのギャップ部に設けられた容量性リアクタンス素子と、高周波信号が、前記スリットの幅方向における一側縁から当該スリットの付け根近傍部を介して前記一側縁と対向する他側縁に流れることによって形成される誘導性リアクタンスと、給電部に給電する高周波信号を送信する高周波無線回路を有した無線回路部とを備える。
【0020】
本発明の無線装置によれば、無線回路部と、スリットのギャップ部に設けた容量性リアクタンス素子と、スリットの幅方向における一側縁から当該スリットの付け根近傍部を介して他側縁に流れる誘導性リアクタンスとによって、複共振化できる共振回路が構成される。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を適用したアンテナ装置及び無線装置の具体的な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。本実施の形態は、本発明に係るアンテナ装置及び無線装置を携帯電話機に適用したものである。
【0022】
「携帯電話機の概略構成」
本実施の形態の携帯電話機1は、図1に示すように、アンテナ2、高周波無線回路であるRF回路3及びベースバンド信号回路4からなる無線回路部と、CODEC(コーデック)5と、メモリ6と、表示部7と、キー入力部8と、スピーカ9と、マイクロフォン10と、これらを制御するCPU11とを備えている。
【0023】
アンテナ2は、携帯電話機1の筐体内に内蔵される内蔵アンテナであり、後述する地導体(グランド)に切り欠きを形成することによって構成されたノッチアンテナからなる。
【0024】
CODEC5は、マイクロフォン10から入力された音声信号を符号化してベースバンド信号回路4に送ると共に、ベースバンド信号回路4から受けた信号を復号化することにより得られる音声信号をスピーカ9に供給する。
【0025】
ベースバンド信号回路4は、CODEC5から受けた信号を送信用のベースバンド信号に調整してRF回路3に送ると共に、RF回路3が復調したベースバンド信号からCODEC5が処理可能な信号を取り出す。
【0026】
RF回路3は、ベースバンド信号回路4から送られたベースバンド信号に応じた変調を施したRF信号(高周波信号)をアンテナ2に供給すると共に、アンテナ2を介して受信したRF信号からベースバンド信号を復調してベースバンド信号回路4に送る。
【0027】
メモリ6は、例えばROM(Read Only Memory)などからなり、CPU11が実行するプログラムや各種設定データなどを記憶する。表示部7は、例えば液晶表示装置(LCD駆動装置)などから構成され、電話番号や送受信したメッセージデータ(例えば電子メールなど)などの内容を表示する。キー入力部8は、入力手段であるテンキーによる入力指示をCPU11に指令し、メモリ6に記憶されたプログラムを実行させる。
【0028】
スピーカ9は、CODEC5から送られた音声信号に応じた音声を出力する。一方、マイクロフォン10は、外部から音声を取り込んで、その音声を音声信号に変換してCODEC5へ転送する。
【0029】
「アンテナ装置の構成及び作用」
本実施の形態のアンテナ装置(以下、単にノッチアンテナという)を、図面及び電磁界シミュレーションによる解析結果を参照しながら詳細に説明する。なお、電磁界シミュレーションは、FDTD法(Finite Difference Time Domain Method :有限差分時間領域法)を用いた。
【0030】
図2は、一般的なノッチアンテナの一例で、シミュレーションモデルを示した斜視図であり、図3はノッチ部分(スリット部分)を拡大して示す要部拡大平面図である。長さL、幅W、厚みTのグランド基板(地導体)12の上端側縁12aから下端側縁12bに向かう奥行き方向に、長さLs、幅Wsの矩形状をなす切り欠きを形成することによって、一端13aを開放したスリット13を形成する。そして、このノッチアンテナエレメントとして動作するスリット13の他端である下端13bより前記一端13aへ向けたLpの位置に、当該スリット13の切り欠き方向と略直交する幅方向におけるギャップ部14に高周波信号を給電する給電部15を設けている。
【0031】
本シミュレーションでは、グランド基板12をガラスエポキシ樹脂からなる基板(比誘電率4.4、tanδ=0.04)とし、サイズはL=80mm、W=60mm、Ws=1mm、T=1mmとした。また、スリット13の長さ(ノッチアンテナエレメントの長さ)Lsは40mmとし、給電位置Lpは4mmとした。図4は、本シミュレーションモデルのノッチアンテナのインピーダンス特性を示すスミスチャートである。このスミスチャートから判るように、本シミュレーションモデルのノッチアンテナは、約1.3GHz近傍にて共振していることが判る。
【0032】
次に、本発明を適用したノッチアンテナについて説明する。図5は、本発明のノッチアンテナであり、ノッチ部分のみを拡大して示す要部拡大平面図である。本発明のノッチアンテナは、前記スリット13のギャップ部14に、例えばキャパシタなどからなる容量性リアクタンス素子16を設けた構成としている。
【0033】
容量性リアクタンス素子16は、一方の接続端16aをスリット13の幅方向における一側縁13cに接続すると共に、他方の接続端16bを前記一側縁13cと対向する他側縁13dに接続している。そして、この容量性リアクタンス素子16は、給電部15とスリット13の付け根部分である下端13bと間のギャップ部14に配置されている。例えば、この容量性リアクタンス素子16は、給電部15からスリット13の下端13b側へ距離Lc−とした位置に設けられている。
【0034】
なお、本発明のノッチアンテナは、容量性リアクタンス素子16をギャップ部14に設けた他は、図2及び図3に示したノッチアンテナと同材料、同外形サイズ、同スリットサイズである。
【0035】
図6は、容量性リアクタンス素子16の配置位置Lc−を1mmまたは2mm、容量性リアクタンスの値を8pFまたは11pFとしてシミュレーションしたきのスミスチャートである。このスミスチャートから判るように、50Ωの周りを大きく巻くようなインピーダンス軌跡が得られていることが判る。
【0036】
スリット13のギャップ部14に容量性リアクタンス素子16を設けたことによって、図6に示すようなインピーダンス軌跡が生じる原理を、図7から図10を参照して説明する。先ず、ノッチアンテナは、図7に示すように、図22の板状逆Fアンテナ(図7の左上の図は、図22の板状逆Fアンテナを横から見た場合の図である)のグランド201、短絡導体部203の幅、グランド201と放射導体202間のギャップ部を大きく変形した、いわば変形逆Fアンテナとも解釈できる。
【0037】
そうすると、図7の左下の矢印Cは、短絡導体部203の変形と考えられるため、図8の等価回路で示すように、コイル17を備えた誘導性リアクタンス分Cと見なせる。また、このノッチアンテナは、図9左上に示したようなインピーダンス特性を持つλ/4系のアンテナ(直列共振型アンテナ)に対し、並列に誘導性リアクタンス素子(コイル17)が装荷されているアンテナと解釈することができる。
【0038】
一方、容量性リアクタンス素子16を給電部15とスリット13の開放端である一端13aとの間に設けた図10(a)のノッチアンテナと、容量性リアクタンス素子16を給電部15とスリット13の付け根部分との間に設けた図10(b)のノッチアンテナは、何れも容量性リアクタンス素子16と誘導性リアクタンス分とで共振回路を構成することになる。
【0039】
誘導性リアクタンスは、図10(a),(b)の矢印Dで示すように、スリット13の一側縁13cから当該スリット13の付け根近傍部(スリット13の下端13b近傍部)を介して前記一側縁13cと対向する他側縁13dへと高周波信号が流れることにより形成される。そして、アンテナとしては、図10(c)の等価回路のような構成、すなわち容量性リアクタンス素子16と誘導性リアクタンスであるコイル17とが並列配置されたLC回路構成となり、図6に示したようなインピーダンス特性を持つ。
【0040】
続いて、容量性リアクタンス素子16の位置と値と共振周波数について、図5でLc−を1mmとした場合と、Lc−を2mmとした場合、そして図11の容量性リアクタンス素子16を給電部15からスリット開放端である一端13a側へ向かって距離Lc+の位置に配置(装荷)した場合で、Lc+を1mmと2mmとした場合のシミュレーション結果を用いて説明する。
【0041】
図6(a)はLc−を1mm、Lpを4mm、容量Cを8pF、図(b)はLc−を2mm、Lpを4mm、容量Cを11pF、図12(a)はLc+を1mm、Lpを4mm、容量Cを5pF、図12(b)はLc+を2mm、Lpを2mm、容量Cを3.9pFとしたときのスミスチャートである。
【0042】
これら図6(a),(b)及び図12(a),(b)のスミスチャートから判るように、何れの場合もスミスチャート上50Ωの周りを大きく巻くような軌跡となるインピーダンス特性が得られていることが判る。また、容量性リアクタンス素子16を装荷していない図3のノッチアンテナを含めたVSWR特性の比較を、図13に示した。図14は、容量性リアクタンス素子16の位置と値を簡略化して示す図である。なお、VSWR特性とは、電圧定在波比(Voltage Standing Wave Ratio)のことで、アンテナの入力に対する反射の度合いを示したものである。
【0043】
図14(a)は、容量性リアクタンス素子16を装荷せずにスリット13の下端13bからスリット開放端である一端13aへ向かって4mmの位置に給電部15を設けたノッチアンテナである。図14(b)は、給電部15からスリット13の下端13bへ向かって2mmの位置に11pFの容量性リアクタンス素子16を設けたノッチアンテナ(図6(b)に対応)である。図14(c)は、給電部15からスリット13の下端13bへ向かって1mmの位置に8pFの容量性リアクタンス素子16を設けたノッチアンテナ(図6(a)に対応)である。図14(d)は、給電部15からスリット13の開放端である一端13aへ向かって1mmの位置に5pFの容量性リアクタンス素子16を設けたノッチアンテナ(図12(a)に対応)である。図14(e)は、給電部15からスリット13の開放端である一端13aへ向かって2mmの位置に3.9pFの容量性リアクタンス素子16を設けたノッチアンテナ(図12(b)に対応)である。
【0044】
なお、図14のノッチアンテナは、何れもスリット13の長さを40mm、給電部15の装荷位置を同一とし、また、給電部15と容量性リアクタンス素子16との位置関係を明瞭なものとするため、図面には符号は省略してある。さらに、図14の各ノッチアンテナと図13のVSWR特性との対応関係を明確なものとするために、図14(a)を容量なし、同図(b)を容量あり1、同図(c)を容量あり2、同図(d)を容量あり3、同図(e)を容量あり4と表記して、図13の各VSWR特性を示す線図の欄外にそれぞれの特性線図との対応関係を示してある。
【0045】
先ず、容量性リアクタンス素子16の値は、図13に示すように、その配置される位置が、スリット13の下端13bから開放端である一端13aへ移るに連れて容量性リアクタンス素子16の値が小さくなっていることが判る。これは、図10で示した誘導性リアクタンス分Dは、容量性リアクタンス素子16がスリット13の下端13bにより近い場合は小さく見え、そのため、共振回路を形成させるために必要な容量値Cが大きくなるからである。当然、逆に容量性リアクタンス素子16がより開放端である一端13aに近い場合は、誘導性リアクタンス分Dは大きく見え、共振回路を形成させるために必要な容量値Cが小さくなるからである。
【0046】
次に、図13から判るように、スリット13に容量性リアクタンス素子16を装荷(設けた)していないノッチアンテナでは、共振点が一つしか得られていないが、スリット13に容量性リアクタンス素子16を装荷したノッチアンテナでは、何れも二つの共振点が得られていることが判る。そして、その得られた二つの共振点のうち低い方の共振周波数は、何れも元の容量なしの共振周波数に比べて低くなっていることが判る。これは、スリット13中に容量性リアクタンス素子16を装荷したことにより、ノッチアンテナの長さが実際のスリット13の長さLsよりも電気的に短くなったためである。特に、容量性リアクタンス素子16がスリット13の一端13a側にある場合の方が、ノッチアンテナ自体の電気長の短縮効果が大きいため、より共振周波数は下がる傾向にある。
【0047】
続いて、得られた二つの共振点のうち高い方の共振周波数は、逆に容量性リアクタンス素子16がスリット13の一端13a(開放端)側にある場合の方が高くなっている。これは、装荷した容量性リアクタンス素子16の値に起因している。アンテナに容量性リアクタンス素子16を並列に挿入した場合のインピーダンス変動は、周波数をfとすると、2πfCで動くアドミタンス量が決定される。
【0048】
今、元の容量装荷なしのノッチアンテナでのスミスチャート(図4)上のインピーダンスの動きを見ると、50Ω近辺までインピーダンスが動くアドミタンス分が容量あり1〜4でほぼ一定と考えると、容量Cの値が小さい程、対応する周波数が高くなり、結果として得られる共振周波数が高くなるのである。
【0049】
以上、共振周波数の設定は、容量性リアクタンス素子16の値と、装荷する位置(給電部15からの位置)Lc+またはLc−とによって適宜調整することができる。したがって、使用する周波数帯に応じて、前記容量性リアクタンス素子の値と、その装荷する位置を適宜調整すれば、複数の無線通信システム用のアンテナとして本発明のノッチアンテナを使用することができる。
【0050】
以上は、もともとのノッチアンテナが狭帯域である例を挙げたため、本発明を適用しても図6に示したように、スミスチャート上に見られるインピーダンスの巻きは比較的大きくなってしまい、共振点が2点しか現れていない。しかしながら、もともとのノッチアンテナの持つ帯域がもっと広ければ、本発明の構造によってスミスチャート上に見られるインピーダンスの巻きは、もっと50Ω周辺に集まるため、二共振ではなく広帯域な共振が得られるようになる。
【0051】
そして、もともとのノッチアンテナの帯域は、図2で示すところのW1、W2(スリット13を挟んだ両側のグランド基板12の幅)に依存し、この寸法が長いほど帯域が広くなることが知られている。したがって、同じグランド基板12の大きさであれば、より高い周波数帯では波長に対してグランドが大きく見えるため、もともとのノッチアンテナの帯域は広くなる。そして、本発明の効果によって、このノッチアンテナの帯域は、さらに広帯域化が望める。
【0052】
その一例を説明する。図15は、前記したシミュレーションと同じく、グランド基板12をガラスエポキシ樹脂からなる基板(比誘電率4.4、tanδ=0.04)とし、そのグランド基板12のサイズをL=80mm、W=60mm、Ws=1mm、T=1mmとした。ここでは、スリット13の長さLsを25mmとし、給電位置Lpを5mmとし、共振周波数を2.06GHzと高く設定したノッチアンテナのインピーダンス特性のシミュレーション結果である。これに対して、図16は、同じLs(25mm)及び同じLp(5mm)で、本発明の容量装荷を適用した場合(容量C=2pF、装荷位置Lc−=1mm)のノッチアンテナのインピーダンス特性のシミュレーション結果である。
【0053】
なお、図15(b)及び図16(b)では、給電部15及び容量性リアクタンス素子16の位置関係を明瞭なものとするために、符号を省略してある。
【0054】
これらの結果から判るように、図6及び図12の1.30GHz帯モデルのシミュレーション結果に対し、スミスチャート上に見られるインピーダンスの巻きがより50Ω周辺に集まり、広帯域な特性が得られていることが見て取れる。これは、図17に示した両者のVSWR特性の比較からもよく判る。同じグランド幅サイズ(W1、W2)であるが、共振周波数が高くなったために、もともとの容量装荷なしのノッチアンテナの帯域も、前述の理由で、図3の1.30GHz帯の単共振ノッチアンテナより広くなっている。具体的には、VSWRが3未満(VSWR<3)の比帯域で、図3のノッチアンテナでは約10%増し、図15のノッチアンテナでは20%増しとなっている。そして、本発明を適用することにより、2GHz帯の容量装荷タイプのノッチアンテナでは、1.7〜3.4GHzの間でVSWR<3(同比帯域で約65%増し)とさらに広くなっている。
【0055】
続いて、従来のノッチアンテナについて、本発明を適用したノッチアンテナの共振周波数における放射パターンについて、FDTD法によるシミュレーション結果を用いて説明する。図18には、シミュレーションに適用した座標系(同図(a))と放射パターン観測面の概略図(同図(b),(c),(d))を示した。
【0056】
図19には、図3で示した従来のノッチアンテナモデルの共振周波数1.28GHzでの放射パターンを示している。Φ=0°面では電界のEΦ成分が、Φ=90°面では電界のEθ成分が、それぞれヌル点を補填したようなパターンとなっている。これは、ノッチアンテナの放射がグランド基板12へ漏洩する高周波電流ではなく、給電点部分に集中している電流の寄与によることを示している。なお、アンテナの放射効率は、70%(−1.5dB)であった。
【0057】
次に、本発明を適用したノッチアンテナの放射パターン例を示す。図5のシミュレーションモデルにて、Lc−を1mmとした場合の低い周波数の共振点である1.20GHzでの放射パターンを図20に、高い周波数の共振点である1.70GHzでの放射パターンを図21にそれぞれ示す。これらの結果から判るように、どちらの周波数帯も、従来のノッチアンテナとほぼ同様の放射パターン形状を示していることが判る。なお、アンテナの放射効率は、1.20GHzでは74%(−1.3dB)、1.70GHzでは82%(−0.9dB)と、共振点での放射効率はほぼ同等である。
【0058】
このように、本発明のノッチアンテナによれば、ノッチアンテナの長さに対応する共振周波数とは別の共振点を持ち、且つ、その共振点において良好な放射効率を有するノッチアンテナを実現することができ、二つの周波数帯において対応可能となることが判る。したがって、本発明のノッチアンテナによれば、デュアルバンド対応の携帯通信端末や、携帯電話機以外の無線通信システムを搭載する携帯通信端末にも本発明を適用することができる。
【0059】
以上、本発明を適用した具体的な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に制限されることなく種々の変更が可能である。
【0060】
上述の実施の形態では、アンテナ装置及び無線回路を携帯電話機に適用して本発明を説明したが、本発明は携帯電話機に限定されることはなく、例えばハンドヘルドPCや通信機能を備えたPDA(Personal Digital Assistant)などの携帯通信端末装置に本発明を適用しても同様の作用効果がある。
【0061】
【発明の効果】
本発明のアンテナ装置によれば、地導体に形成したスリットのギャップ部に設けた容量性リアクタンス素子と、高周波信号がスリットの幅方向における一側縁から当該スリットの付け根近傍部を介して他側縁に流れることによって形成される誘導性リアクタンスとによりアンテナを構成したので、スリットの長さに対応する共振周波数とは別の共振点を持ち、複数共振化が得られる。
【0062】
また、本発明の無線装置によれば、無線回路部と、地導体に形成したスリットのギャップ部に設けた容量性リアクタンス素子と、高周波信号がスリットの幅方向における一側縁から当該スリットの付け根近傍部を介して他側縁に流れることによって形成される誘導性リアクタンスとにより構成したので、ノッチアンテナの長さに対応する共振周波数とは別の共振点を持ち、複数共振化が得られる。したがって、本発明の無線装置によれば、複数の通信システムに対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本実施の形態の無線装置を示す機能ブロック図である。
【図2】図2は、一般的なノッチアンテナの一例で、シミュレーションモデルを示した斜視図である。
【図3】図3は、図2に示したノッチアンテナのノッチ部分を拡大して示す要部拡大平面図である。
【図4】図4は、本シミュレーションモデルのノッチアンテナのインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【図5】図5は、本発明のノッチアンテナであり、ノッチ部分のみを拡大して示す要部拡大平面図である。
【図6】図6は、容量性リアクタンス素子の配置位置Lc−を1mmまたは2mm、容量性リアクタンスの値を8pFまたは11pFとしてシミュレーションしたきのスミスチャートである。
【図7】図7は、ノッチアンテナを板状逆Fアンテナの変形逆Fアンテナと解釈するのに使用した説明図である。
【図8】図8は、図7のノッチアンテナの等価回路図である。
【図9】図9は、λ/4系アンテナと並列共振回路の両者を並列給電したインピーダンス特性を示すスミスチャートである。
【図10】図10(a),(b)はスリットに容量性リアクタンス素子を設けたノッチアンテナのノッチ部分を拡大して示す要部拡大平面図、同図(c)はそのノッチアンテナの等価回路である。
【図11】図11は、容量性リアクタンス素子を給電部からスリット開放端である一端側へ向かって距離Lc+の位置に配置(装荷)したノッチアンテナのノッチ部分を拡大して示す要部拡大平面図である。
【図12】図12(a)はLc+を1mm、Lpを4mm、容量Cを5pF、図12(b)はLc+を2mm、Lpを2mm、容量Cを3.9pFとしたときのスミスチャートである。
【図13】図13は、容量性リアクタンス素子を装荷していないノッチアンテナを含めたVSWR特性の比較を示す特性図である。
【図14】図14は、容量性リアクタンス素子の配置位置と値を簡略化して示す図である。
【図15】図15は、スリットの長さLsを25mm、給電位置Lpを5mm、共振周波数を2.06GHzと高く設定したノッチアンテナのインピーダンス特性のシミュレーション結果であり、同図(a)はスミスチャート、同図(b)は給電部の配置位置を示す概略図である。
【図16】図16は、スリットの長さLsを25mm、Lpを5mm、容量Cを2pF、装荷位置Lc−を1mm、共振周波数を2.60GHzと高く設定したノッチアンテナのインピーダンス特性のシミュレーション結果であり、同図(a)はスミスチャート、同図(b)は給電部の配置位置を示す概略図である。
【図17】図17は、スリットに容量性リアクタンス素子を設けなかったノッチアンテナと設けたノッチアンテナのVSWR特性を示す特性図である。
【図18】図18は、シミュレーションに適用した座標系と放射パターン観測面を示す概略図である。
【図19】図19は、図3で示した従来のノッチアンテナモデルの共振周波数1.28GHzでの放射パターンを示す図である。
【図20】図20は、図5のシミュレーションモデルにてLc−を1mmとした場合の低い周波数の共振点である1.20GHzでの放射パターンを示す図である。
【図21】図21は、図5のシミュレーションモデルにてLc−を1mmとした場合の高い周波数の共振点である1.70GHzでの放射パターンを示す図である。
【図22】図22は、板状逆Fアンテナの一例を示す斜視図である。
【図23】図23は、グランドの一部にスリットを形成したノッチアンテナのノッチ部分を拡大して示す要部拡大平面図である。
【図24】図24は、携帯無線端末内にノッチアンテナを構成した場合の一例を示す平面図である。
【図25】図25は、グランドに短絡部を介して対向配置した放射導体部にクランク形状のスリットを形成することにより、当該アンテナに低周波数帯と高周波数帯の二つの共振長を持たせた従来技術を示した斜視図である。
【図26】図26は、図25のノッチアンテナにおいて、低周波数帯のときと高周波数帯のときの放射導体に流れる電流の流れを示す図である。
【符号の説明】
1…携帯電話機
2…アンテナ
3…RF回路
12…グランド基板
13…スリット
13a…スリットの一端(開放端)
13b…スリットの下端
13c…スリットの一側縁
13d…スリットの他側縁
14…ギャップ部
15…給電部
16…容量性リアクタンス素子
17…コイル

Claims (4)

  1. 地導体の側縁から奥行き方向に切り欠いて一端を開放したスリットと、
    前記スリットの切り欠き方向と略直交する幅方向における該スリットのギャップ部に高周波信号を給電する給電部と、
    前記高周波信号が、前記スリットの幅方向における一側縁から当該スリットの付け根近傍部を介して前記一側縁と対向する他側縁に流れることによって形成される誘導性リアクタンスと、
    前記スリットのギャップ部に設けられた容量性リアクタンス素子とを備えた
    ことを特徴とするアンテナ装置。
  2. 請求項1記載のアンテナ装置であって、
    前記容量性リアクタンス素子を、前記給電部と前記スリットの付け根部分との間に設けた
    ことを特徴とするアンテナ装置。
  3. 請求項1記載のアンテナ装置であって、
    前記容量性リアクタンス素子を、前記給電部と前記スリットの開放端との間に設けた
    ことを特徴とするアンテナ装置。
  4. 地導体の側縁から奥行き方向に切り欠いて一端を開放したスリットと、
    前記スリットの切り欠き方向と略直交する幅方向における該スリットのギャップ部に高周波信号を給電する給電部と、
    前記高周波信号が、前記スリットの幅方向における一側縁から当該スリットの付け根近傍部を介して前記一側縁と対向する他側縁に流れることによって形成される誘導性リアクタンスと、
    前記スリットのギャップ部に設けられた容量性リアクタンス素子と、
    前記給電部に給電する高周波信号を送信する高周波無線回路を有した無線回路部とを備えた
    ことを特徴とする無線装置。
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