JP2004333190A - 電気泳動装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】緩衝剤としてトリス、グリシンを含み、電気伝導度が1mS/cm以下である泳動媒体、泳動バッファを使用する。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、DNAやRNAなどの遺伝子(核酸オリゴマー)の断片長を変性条件の電気泳動法により測定し、核酸の塩基配列や、VNTR多型などを解析する電気泳動装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
核酸オリゴマーの断片長を手がかりとして、変性条件の電気泳動法により解析する方法として、非特許文献1(クリストフ・ヘラー著、エレクトロフォレシス、21巻、593−602頁、2000年)に記載されているキャピラリ電気泳動を利用する方法がある。この非特許文献1では、市販のシングルキャピラリ型のキャピラリ電気泳動装置を用い、キャピラリとして内径50μm、外径375μmのものを使用し、泳動媒体として市販のポリジメチルアクリルアミドに基づく再充填可能なポリマ、バッファとして100mMのTAPSバッファ(100mM N−tris(hydroxymethyl)methyl−3−aminopropanesulfonic acid、NaOHによりpH8.0に調製、電気伝導度1250μS/cm)を使用している。泳動温度は50℃、泳動電圧は電界強度で150V/cmとしている。この非特許文献1の最適条件において、400塩基の一本鎖DNA断片について断片長が1塩基異なる断片同士を分離能0.5以上で分離するためには少なくとも10cm、600塩基の場合は少なくとも20cm、800塩基の場合は少なくとも37cmの有効長が必要であると結論している。これらの場合、400塩基を10cm、600塩基を20cm、800塩基を37cmの有効長で分離する場合についてそれぞれ約30分、67分、150分を要する(図3より)。
【0003】
しかしながら遺伝子情報の有用性に対する認識の高まりを反映して、より大量に、より迅速に核酸の塩基配列を決定するニーズが高まっている。そこで従来の分析速度をより高速化し、分析時間を短縮する試みが報告されている。例えば、電気泳動バッファの組成を変更することにより泳動速度を向上させる試みとして、非特許文献2(カレル・クレパルニクら著、エレクトロフォレシス、22巻、783−788頁、2001年)がある。非特許文献2では、バッファとして0.04M NaOH、ポリマとして4wt%LPA(直鎖状ポリアクリルアミド)を使用している。非特許文献2における電気泳動性能は、それ以前の方法(4%LPA、7M尿素、0.1M Tris−0.1M TAPS、pH8.3)と比較して約3倍高速と報告されている。しかし、下記の特別な工夫を行わない限り分離が悪く、例えば有効長19.5cmにおいて180塩基長の断片が全く分離しない(図4)。この問題は、試料注入直後にPEG−を注入することにより回避された。上記有効長の場合、163塩基長の断片を約10分で分離でき、また668塩基長の断片の(分離は悪いものの)泳動時間は約22分(図2、図1)、また有効長7cmの場合の163塩基長の断片の(分離は悪いものの)泳動時間は約3.5分である(図3)。なお、非特許文献2においてはアルカリによるポリマの加水分解を防止するため、最初はポリマを0.03MのNaClに溶解してキャピラリに充填した後、0.04MのNaOHからなる予備泳動バッファにキャピラリを浸して約5分間予備泳動することにより、泳動媒体のバッファを0.04M NaOHに交換している。
【0004】
【非特許文献1】
クリストフ・ヘラー著、エレクトロフォレシス、21巻、593−602頁、2000年
【非特許文献2】
カレル・クレパルニクら著、エレクトロフォレシス、22巻、783−788頁、2001年
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
非特許文献1の方法は、400ntの核酸オリゴマーの1塩基分離を0.5以上の分離能で行うためには約30分と長い泳動時間を要する。非特許文献2の方法は従来例より3倍高速とのことであるが、163ntの核酸オリゴマーの分離を泳動時間3.5分で行う場合は分離が悪く、またPEG−の追加注入や予備泳動など煩雑な操作が必要となる。特に、予備泳動は約5分と、本泳動よりも時間がかかる。即ち、従来の核酸電気泳動においては高分離と迅速性は背反関係にあり、十分な分離を得るためには長い時間を要する、逆に短い分析時間では十分な分離が得られない、という問題があった。
【0006】
本発明の目的は、1又は複数の流路(キャピラリや、基板上に形成された溝など)を具備する電気泳動装置を用い、変性条件下において核酸の電気泳動を行いDNAシーケンシングや核酸の断片長解析を行う際、簡単な構成で迅速かつ高い核酸分離を達成し、長い核酸でも解析可能とすることにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため、本発明による電気泳動装置は、高分子と、緩衝剤と、核酸の変性剤とを含有する泳動媒体が充填された1又は複数の流路を具備し、緩衝剤として、水溶性一級アミンと両性電解質とを含むことを特徴とする。泳動媒体は、変性剤として尿素を含み、高分子として、アクリルアミド重合体、特に好ましくは(N−アルキル)アクリルアミド重合体を含む。高分子の濃度は好ましくは2〜8重量%、特に好ましくは4〜6重量%が好適に用いられ、測定毎に高分子を詰め替えて使用する。
【0008】
緩衝剤が含有する水溶性一級アミンとしてはメタナミン誘導体、両性電解質としてはアミノカルボン酸を用いることができ、好ましくは水溶性一級アミンとしてトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、両性電解質としてグリシンを用いる。緩衝剤は、特に好ましくは0.01〜0.05[M]のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンと、0.1〜0.4[M]のグリシンを含有する。
【0009】
泳動媒体の平均の電気伝導度は1[mS/cm]以下が好ましく、特に好ましくは0.7[mS/cm]以下である。本発明では、泳動媒体中の泳動電流が好ましくは流路1本当たり8μA以下、特に好ましくは流路1本当たり5μA以下となる条件下で電気泳動を行う。また、単位長さの流路1本当りの泳動電流による仕事率が好ましくは3[mW/cm]以下、特に好ましくは2[mW/cm]以下となる条件下で電気泳動を行う。
【0010】
流路の両端は泳動バッファを介して高圧電源に接続され、泳動バッファ中には、泳動媒体におけると同等の組成、濃度の緩衝剤を含有するのが好ましい。流路として、好ましくは内径が概ね25μmないし75μm、特に好ましくは内径が約50μmのキャピラリを使用する。
以上の構成を採用することにより、簡単な方法で迅速、高分離、かつ再現性の良い核酸の電気泳動を達成した。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
〔実施の形態1〕
本発明の第1の実施形態を以下に説明する。電気泳動装置としては非特許文献1に記載のと同様のシングルキャピラリ型のキャピラリ電気泳動装置を使用した。本装置は泳動媒体の自動充填機構を備え、またオートサンプラによる複数試料の連続測定が可能である。またレーザ励起蛍光の原理に基づく検出器を備える。具体的な実験条件は以下の通りである。
【0012】
試料溶液の調製条件は次のとおりである。
サイズスタンダード(アプライドバイオシステムズ社製GeneScan(R) 500 ROX)0.5μL、ホルムアミド12μLを混合、94℃で2分間熱変性後、氷冷した。
【0013】
電気泳動条件は次のとおりである。
キャピラリ:ポリマイクロテクノロジーズ社製の内径50μm、外径363μm、有効長30cm、全長41cmの溶融石英キャピラリ。
【0014】
泳動バッファ:非特許文献1に記載の100mMのTAPSバッファを従来の泳動バッファ(比較対象)として使用した。また本発明による泳動バッファとして、25mM Tris(hydroxymethyl)aminomethane(以下、トリスという)と、192mMグリシンを緩衝剤として含む緩衝溶液(以下、TGバッファという)を使用した。TGバッファのpHは約8.8であり、pHを調整せずそのまま使用した。
【0015】
泳動媒体:非特許文献1に記載の市販のポリマと、変性剤と、緩衝剤としてTAPSバッファとを含む泳動媒体を従来の泳動媒体(比較対象)として使用した。以降、この従来の泳動媒体をTAPS6と略記する。また本発明による泳動媒体として、上記の市販のポリマと、TGバッファと、核酸の変性剤として7Mの尿素を含む泳動媒体を調合した。以降、この泳動媒体をTG6と略記する。TG6の具体的な調合方法は、TAPS6中の低分子成分(緩衝剤など)を排除限界分子量30000の限外ろ過膜を通して除去した後、上記TGバッファ成分、尿素、純水を所定量加えて均一に混合した。非特許文献1によるとTAPS6にはポリマとしてポリジメチルアクリルアミドが含有されるため、TG6もポリマとして同濃度のポリジメチルアクリルアミドを含有する。
【0016】
泳動媒体のキャピラリへの充填時間:3.5分間。
試料の電界注入条件:印加電圧15kV、時間5秒。
泳動電圧:15kV。
【0017】
恒温槽の設定温度:特記なき場合50℃としたが、その他の温度条件も検討した。なお、試料は前述の通りホルムアミドと熱による変性を行い、泳動媒体中には変性剤である尿素を含み、泳動温度も50℃と高い条件を採用した。つまり核酸を一本鎖とした状態、即ち変性条件において泳動を行った。
【0018】
本発明の第1の実施の形態、即ち泳動媒体としてTG6、泳動バッファとしてTGバッファを用いた場合の典型的な電気泳動パターン(エレクトロフェログラム)を図1(a)に示した。また従来例、即ち泳動媒体としてTAPS6、泳動バッファとしてTAPSバッファを用いた場合の典型的な電気泳動パターンを図1(b)に示した。横軸は装置単位の時間軸であり、1カウントの幅は0.22秒に相当する。縦軸は特定の蛍光波長における蛍光信号の強度軸(任意目盛)であり、その波長で蛍光を発する色素で標識されたDNA断片の濃度に比例する。図1の縦軸は、GeneScan(R) 500 ROX試料を標識している蛍光色素(この場合はROX)の蛍光波長の信号強度を示す。以降のエレクトロフェログラムの意味も図1と同様である。
【0019】
図1(a)、(b)の最後のピーク(塩基長500の断片に対応、以降500ntと表記する)の泳動時間はそれぞれ7382カウントと9264カウント、即ちそれぞれ27.0分と34.0分である。従って、従来のTAPS6と比較して、本実施の形態によるTG6は、泳動時間が約2割短い、換言すると泳動速度が約25%速い。即ち、本発明の第1の実施の形態においては、従来例と比較して核酸の泳動速度が速い、という効果がある。
【0020】
ここで、本発明の主要な課題であるDNAのシーケンス解析、或いは断片長解析における解析可能な核酸断片の最大の長さに関する定量的取扱いについて詳述する。DNAのシーケンス解析法としては様々な方法が用いられるが、ここではダイターミネータ法を例にとって説明する。この方法は、解析対象のDNA断片をテンプレートとし、その配列の一部と相補的なプライマ、デオキシリボ核酸の単量体(dNTP)、4種類の塩基に対応してそれぞれ異なる蛍光色素で標識したダイデオキシリボ核酸の単量体(ddNTP)、DNAポリメラーゼ、緩衝溶液を混合する。この混合液を用いていわゆるサイクルシーケンス反応等を行うことにより、プライマに対してデオキシリボ核酸が様々な長さで(テンプレートと相補的に)付加し、末端がテンプレートと相補的な蛍光標識ddNTPである核酸断片の混合物が得られる。この断片の混合物を変性条件の電気泳動により分析し、塩基長が1異なる断片を互いに分離検出し、それぞれの断片の蛍光色を解析し、対応する塩基の配列から、テンプレートとしたDNAのシーケンスを決定する。
【0021】
電気泳動を用いてサイクルシーケンス反応産物の測定を行う際は、電気泳動結果(エレクトロフェログラム)において、長さが1塩基異なる核酸断片に対応するピーク同士を正確に分離検出できるかどうかが重要である。一般に、断片長が短い場合は断片長が互いに1塩基異なる断片同士のピークの間隔(スペーシング)は広く、分離分析は容易であるが、断片長が長くなるとスペーシングが狭くなり、分離は困難となる。目的とする断片長のピークの半値幅(半値全幅)と比較してスペーシングが小さくなりすぎると、2つの隣接するピークが互いに重なり合い、分離できなくなる。横軸に塩基数、縦軸にスペーシングとピークの半値幅をプロットし、スペーシングがピークの半値幅と同等以下となる境界条件における核酸塩基数をシーケンス可能な核酸断片の長さの目安とした。この核酸塩基数を、以下、等幅長と表記する。なお上記等幅長と同じ目的に用いられる指標として読取り長(Read Length)がある。読取り長は、例えば非特許文献1に記載の通り、2ピークの分離能Rsが0.5となる塩基数として定義される場合が多い。一方、等幅長におけるRsは定義より約0.59であるため、上記定義による等幅長は上記読取り長よりも小さな数値となる。
【0022】
図1(a)、(b)のエレクトロフェログラムについて等幅長を求める計算過程を図2の(a)、(b)にそれぞれ示した。図2の横軸は断片長、縦軸にスペーシングとピークの半値幅を示した。図中、四角形はスペーシングのプロットであり、菱形はピークの半値幅のプロットである。
【0023】
本発明に基づくTG6を用いた場合の図2(a)においては、菱形で示した半値幅は概ね0.45mm未満であり、四角形で示したスペーシングが半値幅より狭くなるのは断片長が約412ntより長い場合である。即ち、TG6における等幅長は412である。一方、従来のTAPS6の場合、図2(b)に示したとおり、半値幅はTG6より0.05〜0.1mm程度広い傾向があり、等幅長は325とTG6よりも短かった。従って、本発明は従来例と比較して、より長い核酸断片まで正確にDNAシーケンス解析が行える、という特長がある。
【0024】
次に、本発明に基づく電気泳動を行った際の泳動電流について説明する。本発明に基づくTG6を用いた場合、泳動電流Iは初期3[μA]であり、泳動を継続するに従い減少し、500ntのピークが検出された27分後の泳動電流は1[μA]であった。この泳動時間内における泳動電流の平均値は約2.3[μA]であった。電流がキャピラリ部分により規定されると仮定すると、泳動電圧Eが15[kV]であったことから、キャピラリ部分の泳動媒体の抵抗Rは平均6.5[GΩ]である。またキャピラリの全長Lは41[cm]、キャピラリの内径は50[μm]で断面積Sは0.0000196[cm2]であるため、この泳動媒体の平均の電気伝導度はL/(RS)から平均約0.32[mS/cm]と求められる。一方、従来のTAPS6の泳動電流Iは初期10[μA]、500ntのピークが検出された34分後の泳動電流は9[μA]、泳動電流の平均値は約9.5[μA]であった。従って、TAPS6の電気伝導度も同様に平均約1.33[mS/cm]と求められる。
【0025】
即ち、本実施の形態による泳動媒体TG6は従来の泳動媒体と比較して、電流と、電気伝導度が平均約4分の1と低い。電流に伴うジュール熱は、温度が一定と仮定した場合、電流による仕事率(RI2)と時間の積から求められる。上記の本実施の形態と従来例について、単位長さのキャピラリあたりの仕事率を求めると、それぞれ平均で0.84[mW/cm]と3.5[mW/cm]である。即ち、単位長さ当り、単位時間当りのジュール熱発生量は、本実施の形態の方が従来例の平均約4分の1と少ない。
【0026】
ジュール熱は電気泳動における代表的な不安定要因であり、分離性能に悪影響を及ぼすと考えられている。上記の通り、本実施の形態において従来例と比較して分離性能が高かったのは、ジュール熱発生が少ないためと考えられる。また、ジュール熱が多い場合は熱暴走により泳動結果が全く得られない場合があり、熱暴走はキャピラリの損傷の原因となる場合がある。本発明はジュール熱が従来の約4分の1と少ないため、高分離な核酸電気泳動結果が安定に得られ、熱暴走が起きず、キャピラリが損傷しない、という効果がある。本実施の形態による泳動媒体、泳動バッファを用いると、前述の通り核酸の泳動速度が本来約25%速いことに加え、電流や発熱が少ないため、本実施の形態の様に366[V/cm]とやや高い電界強度を採用しても良好な核酸分離が再現性良く得られる。従って、両要因の相乗効果により、核酸の測定が迅速に行えるという効果もある。
【0027】
泳動時間と泳動電流の検討結果をバッファ組成の観点から整理すると、本発明で採用したTGバッファは、従来のバッファよりも泳動時間が短く、泳動電流が低く、また分離が高い。泳動電圧や泳動路長などの物理的条件を変更する場合は、泳動時間の短縮のためには泳動電流が増加し分離が低下する、泳動電流低減や高分離化のためには泳動時間が増加するなど、時間、電流、分離の3特性は一般に背反関係にある。従って3特性を同時に改善できるTGバッファは、従来のバッファと比較して予想外に好適な特徴を有することが理解される。以上の検討結果に基づき、本実施の形態ではTGバッファを採用した。
【0028】
なお、本実施の形態では泳動バッファならびに泳動媒体中の緩衝剤としてトリスとグリシンとの組み合わせを使用したが、他の緩衝剤も同様に使用することができる。トリスと同様の性能を発揮する他の緩衝剤の例としては、各種のメタナミン誘導体などの水溶性一級アミンや、Good’s Bufferと総称される一群の化合物がある。Good’s Bufferの例としては、MES, Bis−Tris, ADA, PIPES, ACES, MOPSO, BES, MOPS, TES, HEPES, DIPSO, TAPSO, POPSO, HEPPSO, EPPS, Tricine, Bicine, TAPS, CHES, CAPSO, CAPSなどがあり、これらは本発明において緩衝剤として好適に使用できる。グリシンについても、正負両荷電を分子内に有するいわゆる両性電解質を同様に使用することができる。例えば、アラニン、バリンなどの各種アミノカルボン酸、イミノカルボン酸、アミノスルホン酸類などである。また、上記のGood’s Bufferのうち両性電解質であるものも、両荷電サイトに対応するそれぞれのpKaを上限、下限とするpH範囲において、グリシン同様に使用することができる。
【0029】
なお、本実施の形態では泳動バッファならびに泳動媒体中の緩衝剤としてトリスとグリシンをそれぞれ25mM、192mM含有する系について検討したが、両者の濃度はこれに限定されない。低い方向での濃度の限界としては、それぞれ約10mM、100mMにおいても良好な電気泳動結果が得られたが、さらに半減すると良好な泳動パターンが得られなかった。濃度が高い方向では2倍以上の濃度でも泳動パターンが得られるが、それ以上とすると本発明の低電流の特長が発揮されにくくなるため、それぞれ約50mM、400mMが本発明の特長を良好に発揮出来る実質的な上限と考えられる。
【0030】
〔実施の形態2〕
本発明の第2の実施の形態を以下に説明する。第2の実施の形態は基本的に上記第1の実施の形態と同じ実験条件を採用したが、核酸の泳動媒体としてTG6ではなく、平均分子量(MW)約100万のポリジメチルアクリルアミドに基づくものを使用した点が異なる。
【0031】
本実施の形態の比較対象(従来例)として、文献(クリストフ・ヘラー著、エレクトロフォレシス、20巻、1962−1977頁、1999年)に記載されている方法で合成した平均分子量(MW)約100万のポリジメチルアクリルアミドを、重量濃度5%となるように、7M尿素を含むTAPSバッファに溶解したものを泳動媒体として用いた。以降、この従来の泳動媒体をTAPS7と略記する。また、比較例の泳動バッファとして、実施の形態1における従来例と同じTAPSバッファを使用した。
【0032】
一方、本実施の形態による泳動媒体として、上記ポリジメチルアクリルアミドを、重量濃度5%で含有し、第1の実施の形態と同じTGバッファを含み、さらに核酸の変性剤として7Mの尿素を含む泳動媒体を調合した。以降、この泳動媒体をTG7と略記する。また、本実施の形態においては泳動バッファとして、第1の実施の形態と同じくTGバッファを使用した。
【0033】
本発明によるTG7、並びに従来のTAPS7を用いた場合の、典型的な電気泳動パターン(エレクトロフェログラム)の一例をそれぞれ図3(a)、(b)に示した。図3(a)、(b)の最後(塩基長500nt)のピークの泳動時間はそれぞれ2625カウントと3977カウント、即ちそれぞれ9.6分と14.6分である。従って、従来のTAPS7と比較して、本実施の形態のTG7は、泳動時間が約3.5割短い、換言すると泳動速度が約52%速い。即ち、本発明の第2の実施の形態においても、従来例と比較して核酸の泳動速度が速い、という効果がある。
【0034】
図3(a)、(b)のエレクトロフェログラムについて等幅長を求める計算過程を図4の(a)、(b)にそれぞれ示した。図4(a)、(b)の横軸は断片長、縦軸はスペーシング及びピークの半値幅である。図中、四角形はスペーシングのプロットであり、菱形はピークの半値幅のプロットである。
【0035】
本発明に基づくTG7を用いた図4(a)の場合、ピークの半値幅は概ね0.3〜0.4mmであり、等幅長は約439ntである。一方、従来のTAPS7の場合、図4(b)に示したとおり、ピークの半値幅は300nt以上で0.5〜0.6mmとTG7より約0.1〜0.2mm広い傾向があり、等幅長は326ntとTG7よりも100塩基以上短かった。従って、本発明の第2の実施の形態においても、従来例と比較してより長い断片長まで正確にDNAシーケンス解析が行える、という特長がある。
【0036】
次に、泳動電流について説明する。本発明に基づくTG7を用いた場合、泳動電流Iは初期5[μA]であり、最終時点の泳動電流は4[μA]、泳動電流の平均値は約4.4[μA]であった。第1の実施の形態と同様の計算により、泳動媒体の抵抗Rは平均3.4[GΩ]、電気伝導度は約0.61[mS/cm]である。一方、従来のTAPS7の泳動電流は初期11[μA]、最終時点の泳動電流は10[μA]、泳動電流の平均値は約10.0[μA]であった。従って、TAPS7の電気伝導度は約1.4[mS/cm]と求められる。即ち、本実施の形態による泳動媒体TG7は対応する従来の泳動媒体と比較して、電流と電気伝導度が約2.2分の1と低い。
【0037】
本実施の形態と従来例について、単位長さのキャピラリあたりの仕事率を求めると、それぞれ平均で1.6[mW/cm]、3.7[mW/cm]である。つまり、単位長さ当り、単位時間当りのジュール熱発生量は、本実施の形態の方が従来例の平均約2.2分の1と少ない。従って、本実施の形態においても、核酸の電気泳動結果が高分離かつ安定に得られる、という効果がある。
【0038】
本実施の形態による泳動媒体、泳動バッファを用いると、前述の通り泳動速度が本来約52%速いことに加え、電流や発熱が少ないため、本実施の形態の様に366[V/cm]とやや高い電界強度を採用しても良好な核酸分離が再現性良く得られる。従って、両者の相乗効果により、迅速な核酸測定が可能であるという効果がある。
【0039】
〔実施の形態3〕
本発明の第3の実施の形態を以下に説明する。第3の実施の形態は、電気泳動装置として、穴沢ら著、アナリティカルケミストリ、68巻、2699頁、1996年に記載された装置と同じ原理に基づく、複数本のキャピラリを用いるキャピラリアレイ型装置を使用した点が異なるが、他の点は上記第1、第2の実施の形態と同様である。
【0040】
図5は、本実施の形態で使用したキャピラリアレイ電気泳動装置の概略構成図である。この装置の特徴は、電気泳動用のキャピラリを複数本備えたキャピラリアレイを採用し、検出法として横入射オンカラム検出法(マルチフォーカス法)を用いたことである。
【0041】
以下、本装置の構成を説明する。泳動バッファ3内にキャピラリアレイ4の一端と白金製の陰極5がセットされ、またキャピラリアレイ4の他端は束ねられた後、ポンプブロック6の流路7に接続されている。ポンプブロック6にはシリンジ8,8’、電磁弁9、逆止弁10、流路11が接続又は内蔵され、泳動バッファ3’内には白金製の陽極5’が設置されている。即ち陰極5と陽極5’の間には泳動バッファ3、キャピラリアレイ4、ポンプブロック6の流路7、電磁弁9、流路11、泳動バッファ3’が設けられ、これらが電気泳動路を形成する。陰極5と陽極5’は高圧電源12に接続されている。シリンジ8,8’はそれぞれシリンジ駆動機構(図示省略)に接続されており、シリンジ8,8’には泳動媒体13,13’が充填される。キャピラリアレイ4の両端を除くほとんどの部分は温度調節器14に内包されており、特にそのポリマブロックに近い一部は検出器15に接している。検出器15には光源16,16’(レーザ)と受光器(分光器とCCDカメラなどを含む、図示省略)が含まれる。泳動バッファ3はオートサンプラ17に保持され、オートサンプラ17の上には泳動バッファ3の他、洗浄液18、試料溶液19などが保持される。試料溶液19中にはDNA断片などの陰イオン性の測定対象物質が含まれ、これらは蛍光色素で標識されている。装置全体は計測制御装置(図示省略)と接続されている。
【0042】
次に、本装置の動作の概略を図5を用いて説明する。シリンジ8内の補充用泳動媒体13の一部を、ポンプブロック6の流路7、流路11に充填しておく。恒温槽14によりキャピラリアレイ4の温度を一定に保持する。電磁弁9を閉じた後、シリンジ8と8’の操作により、シリンジ8内の泳動媒体13の一部を流路7、逆止弁10を経由してシリンジ8’内部の注入用泳動媒体13’へ移し替える。オートサンプラ17を動作させ、キャピラリアレイの先端を洗浄液18に浸す。シリンジ8’を一定圧力で一定容量駆動することにより、ポンプブロック6内部の流路7を経由して、キャピラリアレイ4に泳動媒体13’を注入する。電磁弁9を開ける。オートサンプラ17を動作させ、キャピラリアレイの先端を試料溶液19に浸す。高電圧電源12を動作させ、試料中の荷電成分をキャピラリアレイに電界注入する。オートサンプラ17を動作させ、キャピラリアレイの先端を泳動バッファ3に浸す。高電圧電源を動作させ、キャピラリアレイ4の中の試料中成分を、検出器15の方向に電気泳動を行う。
【0043】
光源16,16’を連続駆動し、キャピラリアレイ4の両側面から照射する。各キャピラリのレンズ効果により、外側から中央のキャピラリに向かってレーザ光がキャピラリ内部を順次透過し、試料を励起する(横入射オンカラム検出法、別称マルチフォーカス法)。試料中成分の蛍光スペクトルを検出器15により分光計測することにより、蛍光標識された試料成分の電気泳動スペクトルを取得する。複数の試料を異なる蛍光色素により標識して同時に泳動する場合でも、互いの分光干渉を補正し、それぞれの試料を独立に同時に計測する。サイズスタンダードを同時に測定し、泳動時間を規格化する。1つの試料セットの測定終了後、引き続き別の試料セットを測定する場合は、泳動媒体13を13’に移し替える所から繰り返す。以上の全ての動作はオペレータの指示に基づき、計測制御装置が自動的に執り行う。
【0044】
次に、本装置の使用条件の概略を説明する。本実施の形態においては、上記装置をDNAの断片長解析のために使用した。そのための条件は、基本的に実施の形態1に記載のシングルキャピラリ装置におけるものと同じとした。主な変更点は下記の通りである。キャピラリアレイとして、内径50μm、外径365μm、有効長22cm、全長33cmのキャピラリ96本を有するキャピラリアレイ4を使用した。試料の電界注入条件は印加電圧10kV、時間8秒であり、泳動電圧は15kVである。泳動媒体、泳動バッファとして、実施の形態1と同じくTG6、TGバッファの組合せを使用した。
【0045】
本実施の形態の実験条件を検討する過程において、実施の形態1に記載の従来の泳動媒体、泳動バッファの組合せを用いると正常なエレクトロフェログラムが得られない場合があり、また一般に分離が悪い、また場合によってはポンプブロック部分が発熱により損傷するという課題があった。上記泳動条件(電界強度455V/cm)では泳動電流が約1130μA(キャピラリ1本当たり約11.8μA)と高かった。従来の泳動媒体、泳動バッファの組合せを用いて安定な泳動結果を得るためには、電界強度を約313V/cm以下とする必要があった。
【0046】
一方、本実施の形態では実施の形態1と同じくTGバッファと、それに基づく泳動媒体を採用した結果、上記従来例におけるごとき問題は発生せず、一本キャピラリの場合と同等の正常かつ高分離の核酸電気泳動パターンが全キャピラリについて得られた。本実施の形態における泳動電流は約270μA(キャピラリ1本当たり約2.8μA)と低かった。本実施の形態と従来例について、単位長さのキャピラリ1本あたりの仕事率を求めると、それぞれ平均で1.3[mW/cm]、5.4[mW/cm]である。即ち、キャピラリ1本あたり、単位長さ当り、単位時間当りのジュール熱発生量は、本実施の形態の方が従来例の平均約4分の1と少ない。
【0047】
従来例においてはジュール熱が大きく、本装置の様に特に検出器の近傍の様に多数のキャピラリが密集して配置される部分において温度上昇、分離低下、再現性低下、熱暴走、キャピラリ損傷、キャピラリ保持具の損傷などの問題が起きやすいのに対し、本実施の形態では、ジュール熱が従来例の約4分の1と低いため、これらの悪影響の発生を防止でき、良好な結果が得られたと考えられる。従って、本発明で採用したTGバッファ並びにそれに基づく泳動媒体は、本実施の形態のごとき多数のキャピラリが密集する部分を有する装置構成において、特に核酸泳動結果の再現性が高まり高信頼性が得られる効果がある。また、455[V/cm]という高い電界強度を採用できるため、核酸泳動時間が短いという効果がある。
【0048】
本実施の形態では96本のキャピラリを有するキャピラリアレイを用いたが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、96本より多い、あるいは96本より少ない複数のキャピラリを有する装置構成においても同様に適用可能である。より多くのキャピラリを用いる場合、従来法においては上記発熱による問題がより顕著になるため、本発明の効果がより顕著になる。また本実施の形態においては泳動媒体の保持にキャピラリアレイを用いる場合について説明したが、基板に設けた溝に泳動媒体を保持する、いわゆるチップ電気泳動装置を用いる場合であっても、本発明は同様に適用可能であり、特に多数の泳動路を用いて同時に核酸電気泳動を行う高スループットな用途において、本発明は極めて優れた効果を発揮する。
【0049】
本実施の形態特有の効果は、複数のキャピラリを同時に用いることにより、並列処理が可能となり、スループットが高いこと、核酸泳動速度が従来より約25%速いことに加え、電流や発熱が少ないため、マルチキャピラリ装置においても455V/cmと従来より45%高い電界強度を採用可能であること、高分離の核酸電気泳動結果が再現性良く安定に得られること、これらの相乗効果により、迅速かつ高精度な核酸測定が可能なこと、である。
【0050】
次に、本発明の効果について説明する。
本発明と対比して比較検討した従来例は、各実施の形態中に記載したとおりである。即ち、本発明の各実施の形態における特徴事項である泳動媒体と泳動バッファを、従来技術によるそれに置き換え、その他の条件を本発明の各実施の形態に揃えたものである。具体的には、第1の従来例は、非特許文献1に記載の市販の電気泳動装置、泳動媒体、泳動バッファを用いてDNAの断片長解析を行う方法であり、具体的には電気泳動装置としてシングルキャピラリ型のキャピラリ電気泳動装置、キャピラリとして有効長30cmのキャピラリ、泳動媒体としてTAPS6、泳動バッファとして100mMのTAPSバッファを用いた。第2の従来例は、非特許文献1に記載の市販の電気泳動装置、並びに非特許文献2に記載の方法で合成したポリマに基づく泳動媒体、泳動バッファを用いて核酸の断片長解析を行う方法であり、具体的には電気泳動装置としてシングルキャピラリ型のキャピラリ電気泳動装置、キャピラリとして有効長30cmのキャピラリ、泳動媒体としてTAPS7、泳動バッファとしてTAPSバッファを用いた。第3の従来例は、マルチキャピラリ型の電気泳動装置と、非特許文献1に記載の市販の泳動媒体、泳動バッファを用いてDNAの断片長解析を行う方法であり、具体的には電気泳動装置として実施の形態3に記載のマルチキャピラリ型の電気泳動装置、キャピラリとして有効長22cmの96本のキャピラリを備えるキャピラリアレイ、泳動媒体としてTAPS6、泳動バッファとして100mMのTAPSバッファを用いた。
つまり、本発明は主に泳動媒体と泳動バッファにおける緩衝剤としてトリス−グリシンを用いる点が、TAPSを用いる従来例と異なる。
【0051】
従来例と本発明の比較結果の一例を図6に示した。図6は、本発明の各実施の形態並びに対応する各従来例について、電気泳動を行い、その結果の代表的な特性を比較した結果である。検討した特性は、分離特性(等幅長)、泳動時間、泳動電流、である。なお、第3の実施の形態に対応する従来例は第3の実施の形態と同じ条件下で比較を行うと良好な結果が得られない場合が多かった。良好な結果が得られた場合の特性値を図中に( )*の印を付けて表記したが、これはこの条件における最良の結果を表し、多くの場合、これよりも低い結果、もしくは何も結果が得られないこともあった。従って、第3の従来例の変形例として、確実に泳動結果が得られた条件、即ち泳動電圧を(標準条件として採用した15kVから)10kVに低下させた場合の結果も併記した。
【0052】
図6から明らかな通り、本発明の各実施の形態は、同じ条件の従来例と比較して、等幅長が長く、泳動電流が少なく、核酸泳動時間が短い、という特長を有する。また、第3の実施の形態に関しては、同一条件では本実施の形態の方が従来例より再現性良く核酸電気泳動が行えるという特長を有する。また、条件が異なる従来例3の変形例と比較すると泳動電流が少なく、核酸泳動時間が短い、という特長を有する。また単位時間当たりの等幅長は実施の形態3が13.7[nt/分]、従来例3の変形例が8.7[nt/分]と、単位時間当たりの解析塩基長が長い、という特長を有する。
【0053】
キャピラリ1本当たりの平均泳動電流について詳細に比較すると、前述の通り実施の形態1,2,3はそれぞれ約2.3[μA]、4.4[μA]、2.8[μA]であるのに対し、従来例1,2,3はそれぞれ約9.5[μA]、10[μA]、11.8[μA]である。即ち、本発明各実施の形態と従来例との間には明確な差異があり、本発明各実施の形態は5[μA]以下、従来例は8[μA]を越えている。発熱や分離、泳動安定性などの項目において本発明が従来例と比較して良好な特性が得られたのは、キャピラリ1本(即ち流路1本)当たりの平均泳動電流が従来例と比較して格段に低いことが大きな要因と考えられる。即ち、従来例ではキャピラリ1本当たりの平均泳動電流が8[μA]より大となる泳動条件を採用したため、高発熱、低分離、泳動の安定性低下などの課題があった。一方本発明はキャピラリ1本当たりの平均泳動電流が8[μA]以下、特に好ましくは5[μA]以下となる泳動条件を採用することにより、従来例と比較して低発熱、高分離、泳動の高安定性などの優れた効果を得た。
【0054】
同様に電気伝導度の観点で比較を行うと、前述の通り実施の形態1,3で使用したTG6は平均約0.32[mS/cm]、実施の形態2で使用したTG7は平均約0.61[mS/cm]であるのに対し、従来例1,3で使用したTAPS6は平均約1.33[mS/cm]、TAPS7は平均約1.4[mS/cm]である。即ち、本発明各実施の形態と従来例との間には明確な差異があり、本発明各実施の形態は0.7[mS/cm]以下であるのに対し、従来例は1[mS/cm]より大きい。発熱や分離、泳動安定性などの項目において本発明が従来例と比較して良好な特性が得られたのは、電気伝導度が従来例と比較して格段に低いことが大きな要因と考えられる。即ち、従来例では電気伝導度が1[mS/cm]より大となる泳動条件を採用したため、高発熱、低分離、泳動の安定性低下などの課題があった。一方、本発明は電気伝導度が1[mS/cm]以下、特に好ましくは0.7[μA]以下となる泳動条件を採用することにより、従来例と比較して低発熱、高分離、泳動の高安定性などの優れた効果を得た。
【0055】
同様に、キャピラリ1本当たりの単位長さ当たりの仕事率の観点で比較を行うと、前述の通り実施の形態1,2,3はそれぞれ約0.32[mW/cm]、0.61[mW/cm]、1.3[mW/cm]であるのに対し、従来例1,2,3はそれぞれ約3.5[mW/cm]、3.7[mW/cm]、5.4[mW/cm]である。即ち、本発明各実施の形態と従来例との間には明確な差異があり、本発明各実施の形態は2[mW/cm]以下、従来例は3[mW/cm]より大である。発熱や分離、泳動安定性などの項目において本発明が従来例と比較して良好な特性が得られたのは、キャピラリ1本当たりの単位長さ当たりの仕事率が従来例と比較して低いことが大きな要因と考えられる。即ち、従来例ではキャピラリ1本当たりの単位長さ当たりの仕事率が3[mW/cm]より大となる泳動条件を採用したため、高発熱、低分離、泳動の安定性低下などの課題があった。一方、本発明はキャピラリ1本当たりの単位長さ当たりの仕事率が3[mW/cm]以下、特に好ましくは2[mW/cm]以下となる泳動条件を採用することにより、従来例と比較して低発熱、高分離、泳動の高安定性などの優れた効果を得た。
【0056】
非特許文献2に記載の方法と本発明の各実施の形態との直接の比較実験は行わなかったが、非特許文献2の記載によると、十分な分離が得られる有効長19.5cmにおいて163塩基長の断片の泳動時間は約10分である。一方、本発明の第2の実施の形態では有効長30cmにおいて500塩基長の核酸断片の泳動時間は9.5分で分離できることから、非特許文献2よりも泳動が高速である。また、非特許文献2においてはアルカリによるポリマの加水分解を防止するため、最初はポリマを0.03MのNaClに溶解してキャピラリに充填した後、0.04MのNaOHからなる予備泳動バッファにキャピラリを浸して約5分間予備泳動することにより、ポリマのバッファを0.04M NaOHに交換した。即ち、この予備泳動の時間が試料の電気泳動時間に加えて必要となることから、泳動時間の合計は本発明の方が短いことは明らかである。従って、本発明は非特許文献2の方法と比較して、簡便かつ迅速な方法であるという特長を有する。
【0057】
以上説明したように、本発明は従来の技術と比較して高速、高精度、かつ高分離な核酸の電気泳動装置を提供可能で、解析できる核酸塩基数が長いという特長がある。
【0058】
【発明の効果】
本発明によれば、キャピラリ電気泳動装置において、簡単な構成で迅速かつ高い核酸分離を達成し、長い核酸でも解析できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】キャピラリ電気泳動装置を用いてサイズスタンダードを測定した結果(エレクトロフェログラム)の一例を示す図であり、(a)はTG6に基づく本発明の第1の実施の形態のエレクトロフェログラム、(b)はTAPS6に基づく従来例のエレクトロフェログラムである。
【図2】図1のエレクトロフェログラムについて、等幅長を求める計算過程を示す図であり、(a)は本発明の第1の実施の形態に対応し、(b)は従来例に対応する。
【図3】キャピラリ電気泳動装置を用いてサイズスタンダードを測定した結果(エレクトロフェログラム)の一例を示す図であり、(a)はTG7に基づく本発明の第2の実施の形態のエレクトロフェログラム、(b)はTAPS7に基づく従来例のエレクトロフェログラムである。
【図4】図3のエレクトロフェログラムについて、等幅長を求める計算過程を示す図であり、(a)は本発明の第2の実施の形態に対応し、(b)は従来例に対応する。
【図5】本発明によるキャピラリアレイ電気泳動装置の概略構成図である。
【図6】本発明と従来例による電気泳動特性の比較を示す図である。
【符号の説明】
3,3’…泳動バッファ、4…キャピラリアレイ、5…陰極、5’…陽極、6…ポンプブロック、7…流路、8,8’…シリンジ、9…電磁弁、10…逆止弁、11…流路、12…高圧電源、13,13’…泳動ポリマ、14…温度調節器、15…検出器、16,16’…光源、17…オートサンプラ、18…洗浄液、19…試料溶液。
Claims (5)
- 高分子と、緩衝剤と、核酸の変性剤とを含有する泳動媒体が充填された1又は複数の流路を具備する電気泳動装置において、
前記緩衝剤としてメタナミン誘導体とアミノカルボン酸とを含むことを特徴とする電気泳動装置。 - 請求項1記載の電気泳動装置において、前記緩衝剤として0.01〜0.05[M]のトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン及び0.1〜0.4[M]のグリシンを含有することを特徴とする電気泳動装置。
- 請求項1記載の電気泳動装置において、前記泳動媒体の平均の電気伝導度が1[mS/cm]以下であることを特徴とする電気泳動装置。
- 請求項1記載の電気泳動装置において、泳動電流が前記流路1本当たり8[μA]以下であることを特徴とする電気泳動装置。
- 請求項1記載の電気泳動装置において、単位長さの前記流路1本当りの泳動電流による仕事率が3[mW/cm]以下であることを特徴とする電気泳動装置。
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