JP2004330664A - 撥水膜を有する物品及びその製法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】固体表面に含フッ素樹脂を形成し、パーフルオロポリエーテル鎖又はパーフルオロアルキル鎖を有する撥水化合物を適用し結合させる。上記のようにして得た物品、燃料噴射弁なども開示する。
【選択図】図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、撥水膜、及びその形成(製造)方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
汚れ付着防止、防水等の用途で種々の撥水材料が開発されている。撥水材料としてはシリコン系、フッ素系の材料が主に検討されている。シリコン系とフッ素系の材料を比較した場合、表面を低表面エネルギー化するためにはフッ素系の材料が好適である。フッ素系の材料としては、単分子膜としてはパーフルオロアルキル鎖を有する化合物、或いはパーフルオロポリエーテル鎖を有する化合物が、高分子膜としては含フッ素樹脂が主に検討されている。用途としては、キッチンや洗面所等の水周り、車両用ウインドー、ディスプレイ表面や筒内噴射方式のエンジンの燃料噴射弁の弁座等が挙げられる。
【0003】
この内、筒内噴射方式のエンジンで燃料噴射弁はエンジン内筒に装着されているため高温度の燃焼ガスにさらされる。この状態で燃料噴射弁の先端、即ち弁座は燃焼によって発生するデポジットが堆積しやすい。弁座にデポジットが堆積することで弁座のノズルからエンジン内筒に噴射するガソリン量、及び噴射角度が変化してしまい、適正燃焼が行えなくなり、ノッキングや燃費の悪化を招くという問題がある。
【0004】
そのため、特許文献1等に弁座のノズルのある表面にフッ素系の撥水膜を形成する方法が提案されている。ところで用いられる撥水膜に接触する物質は水性以外に油性のものもあり、その中には有機樹脂成分を含んだものもある。このような油性物質は表面張力が小さいため撥水性が高い撥水膜でないと十分弾かないという問題がある。
【0005】
【特許文献1】
特開2001−90638号公報(要約)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
PTFE(デュポン社製)やサイトップ(旭硝子社製)等の含フッ素高分子樹脂は水との接触角が105〜110°程度である。この場合幾つかの油性物質に対する撥水性が不足する。これ以上の撥水性を示すものとしては、オプツールDSXのように末端にアルコキシシラン残基を有するパーフルオロポリエーテル化合物からなる膜が挙げられる。或いはパーフルオロアルキル化合物が挙げられる。これらの膜は水との接触角が120°と大きい。
【0007】
ところでパーフルオロポリエーテル化合物或いはパーフルオロアルキル化合物から形成される撥水膜は長時間油性物質が接触しているとその表面の撥水性が著しく低下する傾向がある。また硫黄の含有量の大きいガソリンでも同様の傾向がある。このことは日本に比べ硫黄分の多い米国のガソリンに対応する際の問題である。これらの原因は固体表面にパーフルオロポリエーテル鎖或いはパーフルオロアルキル鎖が生えたような状態で膜が形成されており、結果的に固体表面を完全に被覆していないため、未被覆部分に油性物質やガソリンが付着し、これが核になって弁座全体が油性物質に濡れるようになってくるためである。
【0008】
PTFEやサイトップ等の含フッ素樹脂は固体表面を覆うよう形成できるためこのような問題は生じにくい。ただガソリンの場合はPTFEやサイトップ等の含フッ素樹脂では弾き方(即ち撥油性)が十分ではない。水に対して少なくとも110°以上が必要だが、上記含フッ素樹脂では初期で110°程度しかなく、硫黄分の多いガソリンに対して100時間程度の浸漬で接触角が100°付近まで低下し、ガソリンを弾かなくなってしまう。そのため含フッ素樹脂では燃料噴射弁の弁座にとって必要な撥水性を確保することは困難である。
【0009】
また含フッ素高分子樹脂、或いはパーフルオロポリエーテル化合物或いはパーフルオロアルキル化合物から形成される撥水膜の表面を摺動すると膜の剥離等により、接触角が低下する。
【0010】
以上のように含フッ素高分子樹脂、及びパーフルオロポリエーテル化合物かパーフルオロアルキル化合物からなる膜の長所を併せ持った撥水膜が求められてきた。なお、ここではガソリン及び油性物質を例に挙げたが、水性・油性の溶媒に微粉末が分散されている液体を扱う各種機器、デバイス、部品等にとって、該液体を弾きやすい、あるいは付着力が小さい表面、即ち撥水表面を形成する必要のある面は非常に多く存在し、これら表面を多数回ワイプすることによっても撥水性が継続していることは極めて有益である。この点から耐擦性の極めて高い撥水膜が求められてきた。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、固体表面に形成された含フッ素樹脂層と、その上にパーフルオロポリエーテル鎖又はパーフルオロアルキル鎖を有する撥水化合物が結合している構造の撥水膜を有する物品が提供される。また、上記固体は金属、セラミックス、プラスチックス、ガラスのいずれか又はそれらの組み合わせである。
【0012】
前記撥水化合物は下記一般式(1)で表される化合物の1種又は2種以上の混合物である。ここにおいて、Xは式(2)のいずれか、Yは式(3)のいずれかである。
【0013】
【化10】
【0014】
【化11】
【0015】
【化12】
【0016】
本発明者は、上記した、末端にアルコキシシラン残基を有するパーフルオロポリエーテル化合物が水やガソリン、油性物質等を良く弾く膜になることを見出した。さらに、パーフルオロポリエーテル鎖或いはパーフルオロアルキル鎖を有する化合物を適用する前に含フッ素樹脂の表面に酸素プラズマなどのエネルギー線を照射することで上記化合物とフッ素樹脂との結合が強まり、耐擦性の高い撥水膜が得られる。
【0017】
【発明の実施の形態】
実施形態の具体的な内容を例示すると、以下のとおりである。
【0018】
(1)固体表面に形成される撥水膜において、該撥水膜が含フッ素高分子樹脂からなる層の上にパーフルオロポリエーテル鎖かパーフルオロアルキル鎖を有する化合物が結合した構造になっている撥水膜及びそれを有する物品。
【0019】
(2)固体表面に撥水膜を形成法であって、該方法が以下の工程を含む。
含フッ素樹脂膜の表面にエネルギー線を照射する工程及び該処理表面に末端にアルコキシシラン残基を有するパーフルオロポリエーテル化合物又は末端にアルコキシシラン残基を有するパーフルオロアルキル化合物を適用する工程。
【0020】
(3)前記撥水膜において、含フッ素高分子樹脂層の上にパーフルオロポリエーテル鎖を有する化合物は前記式(1)の1種又は2種以上の混合物であり、X、Yの代表例は式(2)、式(3)で表され、それぞれそのいずれかを選択する。
【0021】
(4)燃料噴射口を有する弁座及びその弁座と同軸上にある燃料噴射口を開閉するニードル弁を有する筒内噴射方式のエンジン用燃料噴射弁において、少なくとも該弁座に上記の撥水膜を形成した筒内噴射方式のエンジン用燃料噴射弁。
【0022】
(5)固体表面に形成される撥水膜形成方法において、該撥水膜が以下の▲1▼〜▲3▼の工程で形成されていることを特徴とする撥水膜形成方法。
▲1▼含フッ素高分子樹脂が溶解している塗料を塗布後、溶媒を揮発して含フッ素高分子樹脂層を形成する工程。
▲2▼上記▲1▼で形成した含フッ素高分子樹脂層に酸素プラズマを照射する工程。
▲3▼末端にアルコキシシラン残基を有するパーフルオロポリエーテル化合物あるいは末端にアルコキシシラン残基を有するパーフルオロアルキル化合物を溶解した液を▲2▼の処理を行った層の表面に塗布後、加熱することで該パーフルオロポリエーテル化合物あるいはパーフルオロアルキル化合物を▲2▼の処理を行った層の表面に結合させる工程。
1.撥水材料・処理方法等
本発明で撥水膜は含フッ素樹脂とパーフルオロポリエーテル化合物或いはパーフルオロアルキル化合物からなっている。この模式図を図1に示す。基板1の上に含フッ素樹脂からなる層2が形成されており、この上に結合部位3を介してパーフルオロポリエーテル鎖あるいはパーフルオロアルキル鎖を有する部位4が形成されている。基板としては金属、セラミックス、ガラス、プラスチックスなどがあり、含フッ素樹脂自体を基板とすることもできる。これらの詳細について以下に説明する。
【0023】
(1)含フッ素樹脂
ここにあてはまる材料としてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロテトラフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニル(PVF)等の溶媒に不溶または難溶の樹脂が挙げられる。これらはネジ等の固定治具によって基板に固定する、或いは基板に加熱圧着することにより製膜する。
【0024】
溶媒に可溶な材料としてはサイトップ(旭硝子社製)、INT−304VC(INTスクリーン製)等が挙げられる。サイトップに関しては溶媒、濃度、平均分子量等によって型番が異なるので、基板・製膜条件によって最適なものを選ぶようにする。また基板への密着性を向上させるためアルコキシシラン化合物やトリクロロシラン化合物のようなシランカップリング剤、アルコキシシラン化合物のようなチタンカップリング剤をあらかじめ基板に処理する方法も好適である。なおこれらを含フッ素高分子樹脂の溶液に混ぜて使用することで密着性が向上することもある。ところで、これら材料全般に言えることであるが、薄膜にするため結晶性の樹脂よりは非晶質の樹脂の方が膜厚の均一性が保てるので好適である。
【0025】
(2)パーフルオロポリエーテル化合物
ここにあてはまる材料としては、分子内にパーフルオロポリエーテル鎖とアルコキシシラン残基を有するものが好適である。この理由は形成される撥水膜の下地の含フッ素高分子樹脂との密着性が高まるからである。また膜表面から移動することが無いので撥水領域の制御が可能となる特徴がある。一般式(1)は前記のとおりである。
【0026】
上記一般式の範疇に入る撥水処理剤(以下の化合物1〜化合物4)の合成方法を記述する。
【0027】
【化13】
【0028】
【化14】
【0029】
【化15】
【0030】
【化16】
【0031】
(化合物1(式(4))の合成)
デュポン社製クライトックス157FS−L(平均分子量2500)(25重量部)を3M社製PF−5080(100重量部)に溶解し、これに塩化チオニル(20重量部)を加え、撹拌しながら48時間還流する。塩化チオニルとPF−5080をエバポレーターで揮発させクライトックス157FS−Lの酸クロライド(25重量部)を得る。これにPF−5080(100重量部)、チッソ(株)製サイラエースS330(3重量部)、トリエチルアミン(3重量部)を加え、室温で20時間撹拌する。反応液を昭和化学工業製ラジオライト ファインフローAでろ過し、ろ液中のPF−5080をエバポレーターで揮発させ、化合物1(20重量部)を得た。
【0032】
(化合物2(式(5))の合成)
チッソ(株)製サイラエースS330(3重量部)の代わりにチッソ(株)製サイラエースS360(3重量部)を用いる以外は化合物1の合成と同様にして化合物2(20重量部)を得た。
(化合物3(式(6))の合成)
デュポン社製クライトックス157FS−L(平均分子量2500)(25重量部)の代わりにダイキン工業社製デムナムSH(平均分子量3500)(35重量部)を用いる以外は化合物1の合成と同様にして化合物3(30重量部)を得た。
【0033】
(化合物4(式(7))の合成)
チッソ(株)製サイラエースS330(3重量部)の代わりにチッソ(株)製サイラエースS360(3重量部)を用い、デュポン社製クライトックス157FS−L(平均分子量2500)(25重量部)の代わりにダイキン工業社製デムナムSH(平均分子量3500)(35重量部)を用いる以外は化合物1の合成と同様にして化合物4(30重量部)を得た。
【0034】
また分子内に複数のパーフルオロポリエーテル鎖を有するもの(式(1)の化合物のうち、Yで示されるもの)を用いると、耐擦性が更に向上することも見出した。上記一般式の範疇に入る撥水処理剤(以下の化合物5〜8)の合成方法を記述する。
【0035】
【化17】
【0036】
【化18】
【0037】
【化19】
【0038】
【化20】
【0039】
(化合物5(式(8))の合成)
デュポン社製クライトックス157FS−L(平均分子量2500)(25重量部)を3M社製PF−5080(100重量部)に溶解し、これに塩化チオニル(20重量部)を加え、撹拌しながら48時間還流する。塩化チオニルとPF−5080をエバポレーターで揮発させクライトックス157FS−Lの酸クロライド(25重量部)を得る。これにPF−5080(100重量部)、チッソ(株)製サイラエースS320(1重量部)、トリエチルアミン(3重量部)を加え、室温で20時間撹拌する。反応液を昭和化学工業製ラジオライト・ファインフローAでろ過し、ろ液中のPF−5080をエバポレーターで揮発させ、化合物5(20重量部)を得た。
【0040】
(化合物6(式(9))の合成)
チッソ(株)製サイラエースS320(1重量部)の代わりにチッソ(株)製サイラエースS310(1重量部)を用いる以外は化合物5の合成と同様にして化合物6(20重量部)を得た。
【0041】
(化合物7(式(10))の合成)
デュポン社製クライトックス157FS−L(平均分子量2500)(25重量部)の代わりにダイキン工業社製デムナムSH(平均分子量3500)(35重量部)を用いる以外は化合物5の合成と同様にして化合物7(30重量部)を得た。
【0042】
(化合物8(式(11))の合成)
チッソ(株)製サイラエースS320(12重量部)の代わりにチッソ(株)製サイラエースS310(1重量部)を用い、デュポン社製クライトックス157FS−L(平均分子量2500)(25重量部)の代わりにダイキン工業社製デムナムSH(平均分子量3500)(35重量部)を用いる以外は化合物5の合成と同様にして化合物8(30重量部)を得た。
【0043】
撥水処理剤の平均分子量はパーフルオロポリエーテル鎖の大きさ、分子内のパーフルオロポリエーテル鎖の本数によって異なるが、概ね1000前後から12000前後である。形成される撥水膜は分子レベルオーダーの層であり、数nmである。
【0044】
膜厚は非接触式の膜厚測定装置(溝尻光学株式会社製エリプソメーター)か、IRスペクトルの反射モードで1200カイザー付近のCF伸縮振動を調べることで求められる。なお我々の実験の結果、これら撥水処理剤で処理された表面は水に易溶の水性液体だけでなく、水に不溶、或いは難溶の油性液体もはじくことがわかった。
【0045】
〔撥水処理剤による撥水膜の形成方法〕
撥水処理剤を溶媒に希釈した溶液を調製する。この溶液を刷毛塗り、スプレーコート、スピンコート、ディップコート等の方法でオリフィスプレートに塗布する。次に加熱することで、撥水処理剤のアルコキシシラン残基とオリフィスプレート表面の水酸基が反応し、撥水処理剤が化学的にオリフィスプレート表面に結合する。こうして撥水膜が形成できる。
【0046】
本発明で用いる撥水処理剤は水分と接触すると加水分解する。また直径10〜50μmのノズル内に入っていく必要もある。そのため塗布溶液調製で用いる溶媒は含水率が低く、且つ表面張力の小さなフッ素系の溶媒が望ましい。具体的には3M社製のFC−72、FC−77、PF−5060、PF−5080、HFE−7100、HFE−7200、デュポン社製バートレルXF等が挙げられる。
【0047】
X或いはYはパーフルオロポリエーテル鎖とアルコキシシラン残基との結合部位を表している。ここの部分に特に限定は無いが、液性が若干塩基性に片寄っている液体を用いた場合でも加水分解を受けないような構造のものが好ましい。具体的にはアミド結合、エーテル結合等のある構造が望ましい。またエステル結合や、イオン結合の無い構造が望ましい。
【0048】
(4)製膜方法
本発明の撥水膜の形成方法は以下の通りである。なお図2にその概略を示す。含フッ素高分子樹脂のうちサイトップのようにフッ素系溶媒に溶解する材料の場合、まず撥水膜を形成する基板5に含フッ素高分子樹脂の溶液を塗布後、溶媒を揮発させる、或いは熱硬化する。こうして基板表面には含フッ素高分子樹脂の層6が形成する。なお図2では含フッ素高分子樹脂はフッ素系溶媒に溶解する材料を用いた系で示している。
【0049】
フッ素系溶媒に溶解しない含フッ素高分子樹脂のうちポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロテトラフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリフッ化ビニル(PVF)等はこれらの薄膜を基板の表面にネジ等の固定部材で固定することにより製膜する。また表面に凹凸がある場合で且つ用いる含フッ素高分子樹脂が熱可塑性であれば加熱圧着によって製膜することもできる。
【0050】
次に酸素プラズマ、オゾン暴露、UV照射などのエネルギー線により処理を行った後、パーフルオロアルキル化合物、或いはパーフルオロポリエーテル化合物の溶液を含フッ素樹脂表面に適用する。適用法は塗布、浸漬、スプレー法などがある。
【0051】
適用後、溶媒を揮発させる、或いは熱硬化する。こうして含フッ素高分子樹脂の層の上にパーフルオロポリエーテル鎖、或いはパーフルオロアルキル鎖を有する部位からなる層7が形成される。これが基本的な製膜方法である。
【0052】
パーフルオロアルキル化合物やパーフルオロポリエーテル化合物の溶液を塗布する前に含フッ素高分子樹脂の層に対してプラズマアッシャーで酸素プラズマを照射すると、フッ素樹脂表面が改質されて水酸基等の置換基が生成する。図2では含フッ素高分子樹脂の層の表面改質部分8がそれに該当する。
【0053】
末端にクロルシラン残基やアルコキシシラン残基を有するパーフルオロアルキル化合物、或いはパーフルオロポリエーテル化合物は、クロルシラン残基やアルコキシシラン残基がプラズマ照射を受けて生成した水酸基等の酸化に伴い生成する残基と結合することで含フッ素高分子樹脂の層に強固に結合するので、耐擦性を要求する場合に好適である。なお酸素プラズマの代わりにUV照射し、又はオゾンに曝すことも酸素プラズマ照射と同様の効果が期待できるので好適である。ただ酸素プラズマと異なり、照射時間、暴露時間を延ばしても酸素プラズマに比べて耐擦性はあまり向上しない傾向がある。
【0054】
発明者が実験したところ、含フッ素高分子樹脂の層に対するプラズマアッシャーによる酸素プラズマの照射量によってパーフルオロアルキル化合物、或いはパーフルオロポリエーテル化合物からなる層の撥水性や耐擦性が変わってくることがわかった。照射時間、或いはプラズマアッシャーの高周波電源の出力(いわゆる単位時間に発生するプラズマの量にほぼ比例)を大きくしていくとある程度までは撥水性と耐擦性が向上する傾向がある。
【0055】
しかしある程度以上では逆に撥水性と耐擦性が低下する傾向になる。これは酸素プラズマによって含フッ素高分子樹脂の層表面が酸化すると同時に、層自身が削られるため酸素プラズマを照射しすぎると最終的に含フッ素高分子樹脂の層がほとんどなくなってしまい、擬似的1層構造の撥水膜に変わってしまうためである。そのため酸素プラズマ照射条件も加減する必要がある。
【0056】
但し最適照射条件は含フッ素高分子樹脂の化学構造、層の厚さにより異なるため一義的には決められない。膜厚が大きいほど、また含フッ素高分子樹脂の化学構造が酸素プラズマによる変性を受けにくい化学構造であるほど、酸素プラズマ照射量を大きくすることが可能になる。
【0057】
2.本発明の筒内噴射型エンジンの燃料噴射弁
本発明の燃料噴射弁を説明するため、筒内噴射型エンジンの模式図を図3に示す。燃料タンク9から燃料ポンプ10により高圧で送られる燃料は、燃料噴射弁11に入る。燃料噴射弁の駆動を制御するのは電子制御ユニット12である。電子制御ユニットはエンジンの運転状態に応じて燃料噴射弁の駆動を制御する信号を発する。燃料噴射弁から吐出された燃料13はシリンダ14の内部にあるピストン15の表面のくぼみ16に向かって吐出される。燃料は、くぼみにぶつかった後、方向を変え、点火プラグ17に向かう。ここで点火プラグがスパークすることにより燃料は着火し、ピストンを下に押し下げることによりエンジンが回転する。
【0058】
なお燃焼前には吸気弁18よりあらかじめ空気が送り込まれている。また燃焼後の排気は排気弁19から排出される。燃焼温度が高い場合は、排気ガスの一部は吸気側の空気に混合する場合もある。
【0059】
このエンジンにおいて、燃料噴射弁から吐出される燃料の方向、及び吐出量の制御は重要である。ピストンのくぼみに正確に燃料が吐出されないと、その後点火プラグに燃料が向かわなくなる。すると点火時にプラグ近傍の燃料濃度が低くなるため、スパークしても着火せず、ノッキングを起こすことがある。また吐出方向が正確でも吐出量が少ないと、プラグ近傍の燃料濃度が低くなるため、着火不良によるノッキングを起こすことがある。
【0060】
燃料噴射弁から吐出される燃料の方向性、吐出量を変化させてしまう原因は、燃焼により発生するデポジットが燃料噴射弁に堆積することが主要因であると報告されている「自動車技術界:学会講演前刷り集976ページ(1997年10月)」。また、発明者の検討によれば、特に硫黄分濃度の高い米国ガソリンではこの現象が著しく現れた。
【0061】
そこで、この課題を解決する本発明の燃料噴射弁に関して説明する。図4に本発明の燃料噴射弁の模式図を示す。燃料ポンプにより高圧で送られる燃料は、燃料噴射弁の燃料投入口20に入る。その後燃料は流路21を通り、バルブ22近傍に達する。バルブは電磁式のバルブ駆動ユニット23により上下に動かすことができる。バルブ駆動ユニットはコネクタ24を介して電子制御ユニットとつながっている。バルブ駆動ユニットは電子制御ユニットにより動きが制御されている。
【0062】
図4では通常はバルブが下部にあり、ノズル25から燃料が吐出されるときは、バルブが上部に移動する。ノズルへのデポジットが付着しないよう、弁座26のノズル側表面には本発明の撥水膜が形成されている。これにより、長期にわたってノズルからの燃料の適正吐出を行うことが可能になり、結果として本発明の燃料噴射弁を用いたエンジンは長期にわたって適正燃焼を行うことが可能になる。
【0063】
〔本発明の撥水膜の用途〕
本発明の撥水膜はガラス、シリコン、金属、プラスチックス等はもちろん、耐熱性が100℃程度ある樹脂、即ち製膜に必要な温度に耐えられる樹脂表面へも適用可能である。
【0064】
ガラスの場合、ワイパーによる摺動があるため耐擦性が要求される自動車等のフロントウインドー、或いはリアウインドーに最適である。またウインドーの上下動を行うサイドウインドーもある程度耐擦性は必要であり、本発明の撥水膜を適用する部位として好適である。本発明の撥水膜は透明性も高いので、眼鏡、ゴーグル、光学レンズ等への適用もあげられる。
【0065】
その他、ビルや家屋等の建造物の窓、太陽光発電パネルの受光部カバー、素手や衣服、素肌で摺動を受ける可能性があるキッチン、風呂場等の水周り関係製品への適用も挙げられる。
【0066】
金属の場合は筆記用具の部材、腕時計のハウジングやベルト、カバン」類の金具部分等、或いは上述の筒内噴射型エンジンの燃料噴射弁が挙げられる。本発明の撥水膜は撥油性も高いので、車のエンジンの比較的低温部分(撥水膜が分解しにくい、平均300℃以下の部分)への適用も挙げられる。その他、アクリル、ポリカーボネート等の透明性の樹脂への適用も可能である。樹脂の場合は、高温で膜形成処理すると、樹脂が変形する場合がある。その場合は樹脂の変形しない温度で処理する。
(実施例)
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
(1)撥水膜形成
▲1▼含フッ素高分子樹脂層形成
含フッ素高分子樹脂の1つであるサイトップ(型番CTL−107M:旭硝子社製7重量%溶液として市販されている)を専用溶剤で1重量%に希釈した液を調製する。これらの液を縦50mm、横15mm、厚さ80μmのSUS304板にディップ法でそれぞれ塗布後、120℃で1時間加熱してSUS304板の表面にサイトップからなる撥水層を形成する。なおディップ法で塗布する際のプレートの引き上げ速度は毎秒10mmである。
【0068】
▲2▼酸素プラズマ照射
次にこの板に対して酸素プラズマを照射する。用いた装置はヤマト硝子社製プラズマドライ洗浄機PDC−210である。照射の際、装置の高周波電源の出力電力は100Wとした。また照射時間は0(即ち酸素プラズマ未照射)、100秒間、300秒間、1000秒間の4種類行った。
【0069】
▲3▼パーフルオロポリエーテル層、或いはパーフルオロアルキル層形成
照射後速やかに化合物1の0.1重量%HFE−7200溶液(HFE−7200は3M社製のフッ素系溶媒)に1時間浸漬する。SUS板をこの溶液から引き上げた後、120℃で10分間加熱する。
【0070】
加熱後、SUS板が常温まで冷えた後、HFE−7200でリンスし、余分の化合物1を除去する。以上の工程により本発明の撥水膜が形成されたSUS304製の試験片が完成する。なお酸素プラズマを照射しない試験片は水酸基等が形成されないので含フッ素高分子樹脂層の上には単に化合物1由来のパーフルオロポリエーテル層が結合せず付着している状態である。比較のためサイトップからなる撥水層を形成しない以外の工程(酸素プラズマ照射、パーフルオロポリエーテル層形成)を行った試験片も作製した。
【0071】
(2)評価
▲1▼初期接触角測定
これら試験片上の撥水膜の撥水性を調べるため、UV硬化型液体(アクリル酸エチル84重量部、2,4,6−トリメチルベンゾイルフォスフィンオキシド5重量部、ベンゾフェノン1重量部及び平均粒径0.1μmのカーボンブラック10重量部の混合物を遊星ミルで混合して作製した)との接触角を表1に示す。
【0072】
なお、表1及び表2は本発明の複合被覆又は複合構造(含フッ素樹脂+撥水化合物)による撥水膜の評価結果を示し、表3及び表4は比較のために撥水化合物のみを用いて形成した皮膜の評価結果を示す。表1〜4において、()内の数字は、用いた撥水化合物の番号を表す。ただし、(11)と(12)は、化合物1を用いた実施例であり、酸素プラズマ処理の代わりに、オゾン雰囲気への放置あるいはUV照射を行ったものである。表1〜4には、各化合物について、プラズマ照射時間、初期接触角及び摺動試験後の接触角(2種)をセットとして示してある。参考のため水に対する初期値の接触角も併記する。
【0073】
サイトップ層を有し、且つ酸素プラズマを照射したものは水に対して118〜120°、前記UV硬化型液体に対して60〜67°の接触角を示した。酸素プラズマ照射しなかったものは水に対して110°、前記UV硬化型液体に対して54°の接触角を示した。またサイトップからなる層を形成せず化合物1由来の撥水膜を形成したものも同様の評価を行った。結果を表3に示す。
【0074】
サイトップからなる層を形成せず化合物1由来の撥水膜を形成したものは水に対して118〜120°、前記UV硬化型液体に対して58〜67°の接触角を示した。
▲2▼摺動試験
大きさが20mm×20mm、厚さ2mmのシリコンゴムシートで試験片の上の撥水膜を擦り、接触角の変化を調べた。圧力は100g/cm2であり速度は10mm/秒、摺動距離は10mmの往復摺動を5万回行い、摺動中は10回ごとにシリコンゴムシート上に前記UV硬化型液体50μlが滴下するように調整した。5万回摺動後、撥水膜の接触角の値を調べた。結果を表1、3に併記する。
【0075】
サイトップ層を有し、且つ酸素プラズマを照射したものは5万回摺動後も接触角は50°以上(55〜57°)であった。しかし酸素プラズマ照射しなかったものは接触角が30°まで低下した。このことから耐擦性を向上させるには含フッ素高分子樹脂層の上にはパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合している必要があることが示された。またサイトップからなる層を形成せず化合物1由来の撥水膜を形成したものの結果を表3に併記する。これらの撥水膜は初期においていずれも58〜67°であったが、摺動後はいずれも40°未満(20以下〜36°)まで低下した。このことから耐擦性を向上させるには撥水膜は単にパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合しているだけでは耐擦性が不十分であり含フッ素高分子樹脂層との複合層になっている必要のあることが示された。
【0076】
なお前記UV硬化型液体の代わりに水を用いて摺動試験を行ったが、5万回摺動後の接触角低下はいずれも2°以下であった。
▲3▼浸漬試験
次にそれぞれの試験片を前記UV硬化型液体の中に30日間浸漬し、浸漬後の接触角を測定した。結果を表に併記する。サイトップ層を有し、且つ酸素プラズマを照射したものは30日間浸漬後も接触角は50°以上(55〜57°)であった。しかし酸素プラズマ照射しなかったものは接触角が50°未満(46°)まで低下した。
【0077】
以上のことから、耐浸漬性を向上させるには含フッ素高分子樹脂層の上にはパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合している必要があることが示された。なお前記UV硬化型液体の代わりに水を用いて浸漬試験を行ったが、5万回摺動後の接触角低下はいずれも2°以下であった。
【0078】
またサイトップからなる層を形成せず化合物1由来の撥水膜を形成したものの結果を表3に併記する。これら撥水膜の接触角は浸漬後はいずれも40°未満(20以下〜36°)まで低下した。このことから耐浸漬性を向上させるには、撥水膜は単にパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合しているだけでは耐擦性が不十分であり、含フッ素高分子樹脂層との複合層になっている必要のあることが示された。
【0079】
(実施例2)
化合物1の代わりに化合物2を用いる以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。これらを用いて実施例1と同様の初期接触角測定及び摺動試験、浸漬試験後の試験片の接触角測定を行った。結果を表1に示す。
【0080】
サイトップ層を有し、且つ酸素プラズマを照射したものは5万回摺動後も接触角は50°以上(56〜57°)であった。しかし酸素プラズマ照射しなかったものは接触角が30°まで低下した。よって本実施例からも耐擦性を向上させるには含フッ素高分子樹脂層の上にはパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合している必要があることが示された。またサイトップからなる層を形成せず化合物2由来の撥水膜を形成したものの結果を表3に併記する。
【0081】
これらの撥水膜は初期においていずれも58〜67°であったが、摺動後はいずれも40°未満(20以下〜36°)まで低下した。本実施例からも耐擦性を向上させるには撥水膜は単にパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合しているだけでは耐擦性が不十分であり含フッ素高分子樹脂層との複合層になっている必要のあることが示された。なお前記UV硬化型液体の代わりに水を用いて摺動試験を行ったが、5万回摺動後の接触角低下はいずれも2°以下であった。
【0082】
次にそれぞれの試験片を前記UV硬化型液体の中に30日間浸漬し、浸漬後の接触角を測定した。結果を表に併記する。サイトップ層を有し、且つ酸素プラズマを照射したものは30日間浸漬後も接触角は50°以上(55〜57°)であった。しかし酸素プラズマ照射しなかったものは接触角が50°未満(46°)まで低下した。なお前記UV硬化型液体の代わりに水を用いて浸漬試験を行ったが、5万回摺動後の接触角低下はいずれも2°以下であった。
【0083】
本実施例からも耐浸漬性を向上させるには含フッ素高分子樹脂層の上にはパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合している必要があることが示された。またサイトップからなる層を形成せず化合物2由来の撥水膜を形成したものの結果を表3に併記する。これら撥水膜の接触角は浸漬後いずれも40°未満(20以下〜36°)まで低下した。以上より本実施例からも耐浸漬性を向上させるには、撥水膜は単にパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合しているだけでは耐擦性が不十分であり、含フッ素高分子樹脂層との複合層になっている必要のあることが示された。
【0084】
(実施例3)
化合物1の代わりに化合物3を用いる以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。これらを用いて実施例1と同様の初期接触角測定、及び摺動試験、浸漬試験後の試験片の接触角測定を行った。結果を表1に示す。
【0085】
サイトップ層を有し、且つ酸素プラズマを照射したものは5万回摺動後も接触角は50°以上(56〜58°)であった。しかし酸素プラズマ照射しなかったものは接触角が30°まで低下した。よって本実施例からも耐擦性を向上させるには含フッ素高分子樹脂層の上にはパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合している必要があることが示された。またサイトップからなる層を形成せず化合物3由来の撥水膜を形成したものの結果を表に併記する。
【0086】
これらの撥水膜は初期においていずれも60〜68°であったが、摺動後はいずれも40°未満(20以下〜38°)まで低下した。本実施例からも耐擦性を向上させるには、撥水膜は単にパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合しているだけでは耐擦性が不十分であり、含フッ素高分子樹脂層との複合層になっている必要のあることが示された。なお前記UV硬化型液体の代わりに水を用いて摺動試験を行ったが、5万回摺動後の接触角低下はいずれも2°以下であった。
【0087】
次にそれぞれの試験片を前記UV硬化型液体の中に30日間浸漬し、浸漬後の接触角を測定した。結果を表に併記する。サイトップ層を有し、且つ酸素プラズマを照射したものは30日間浸漬後も接触角は50°以上(56〜58°)であった。しかし酸素プラズマ照射しなかったものは接触角が50°未満(46°)まで低下した。なお前記UV硬化型液体の代わりに水を用いて浸漬試験を行ったが、5万回摺動後の接触角低下はいずれも2°以下であった。
【0088】
本実施例からも耐浸漬性を向上させるには含フッ素高分子樹脂層の上にはパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合している必要があることが示された。またサイトップからなる層を形成せず化合物3由来の撥水膜を形成したものの結果を表に併記する。これら撥水膜の接触角は浸漬後いずれも40°未満(20以下〜34°)まで低下した。
【0089】
以上より、本実施例からも耐浸漬性を向上させるには、撥水膜は単にパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合しているだけでは耐擦性が不十分であり、含フッ素高分子樹脂層との複合層になっている必要のあることが示された。
【0090】
(実施例4)
化合物1の代わりに化合物4を用いる以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。これらを用いて実施例1と同様の初期接触角測定、及び摺動試験、浸漬試験後の試験片の接触角測定を行った。結果を表1に示す。
【0091】
サイトップ層を有し、且つ酸素プラズマを照射したものは5万回摺動後も接触角は50°以上(56〜58°)であった。しかし酸素プラズマ照射しなかったものは接触角が30°まで低下した。よって本実施例からも耐擦性を向上させるには含フッ素高分子樹脂層の上にはパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合している必要があることが示された。またサイトップからなる層を形成せず化合物4由来の撥水膜を形成したものの結果を表3に併記する。
【0092】
これらの撥水膜は初期においていずれも58〜67°であったが、摺動後はいずれも40°未満(20以下〜38°)まで低下した。本実施例からも耐擦性を向上させるには、撥水膜は単にパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合しているだけでは耐擦性が不十分であり、含フッ素高分子樹脂層との複合層になっている必要のあることが示された。なお前記UV硬化型液体の代わりに水を用いて摺動試験を行ったが、5万回摺動後の接触角低下はいずれも2°以下であった。
【0093】
次にそれぞれの試験片を前記UV硬化型液体の中に30日間浸漬し、浸漬後の接触角を測定した。結果を表に併記する。サイトップ層を有し、且つ酸素プラズマを照射したものは30日間浸漬後も接触角は50°以上(56〜58°)であった。しかし酸素プラズマ照射しなかったものは接触角が50°未満(46°)まで低下した。なお前記UV硬化型液体の代わりに水を用いて浸漬試験を行ったが、5万回摺動後の接触角低下はいずれも2°以下であった。
【0094】
本実施例からも耐浸漬性を向上させるには含フッ素高分子樹脂層の上にはパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合している必要があることが示された。
【0095】
またサイトップからなる層を形成せず化合物4由来の撥水膜を形成したものの結果を表3に併記する。これら撥水膜の接触角は浸漬後いずれも40°未満(20以下〜34°)まで低下した。以上より本実施例からも耐浸漬性を向上させるには、撥水膜は単にパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合しているだけでは耐擦性が不十分であり、含フッ素高分子樹脂層との複合層になっている必要のあることが示された。
【0096】
(実施例5)
化合物1の代わりに化合物5を用いる以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。これらを用いて実施例1と同様の初期接触角測定、及び摺動試験、浸漬試験後の試験片の接触角測定を行った。結果を表1に示す。
【0097】
サイトップ層を有し、且つ酸素プラズマを照射したものは5万回摺動後も接触角は50°以上(56〜58°)であった。しかし酸素プラズマ照射しなかったものは接触角が30°まで低下した。よって本実施例からも耐擦性を向上させるには、含フッ素高分子樹脂層の上にはパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合している必要があることが示された。またサイトップからなる層を形成せず化合物5由来の撥水膜を形成したものの結果を表3に併記する。
【0098】
これらの撥水膜は初期においていずれも62〜68°であったが、摺動後はいずれも40°未満(20以下〜38°)まで低下した。本実施例からも耐擦性を向上させるには、撥水膜は単にパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合しているだけでは耐擦性が不十分であり、含フッ素高分子樹脂層との複合層になっている必要のあることが示された。なお前記UV硬化型液体の代わりに水を用いて摺動試験を行ったが、5万回摺動後の接触角低下はいずれも2°以下であった。
【0099】
次にそれぞれの試験片を前記UV硬化型液体の中に30日間浸漬し、浸漬後の接触角を測定した。結果を表1に併記する。サイトップ層を有し、且つ酸素プラズマを照射したものは30日間浸漬後も接触角は50°以上(56〜58°)であった。しかし酸素プラズマ照射しなかったものは接触角が50°未満(46°)まで低下した。なお前記UV硬化型液体の代わりに水を用いて浸漬試験を行ったが、5万回摺動後の接触角低下はいずれも2°以下であった。
【0100】
本実施例からも耐浸漬性を向上させるには、含フッ素高分子樹脂層の上にはパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合している必要があることが示された。またサイトップからなる層を形成せず化合物5由来の撥水膜を形成したものの結果を表に併記する。これら撥水膜の接触角は浸漬後いずれも40°未満(20以下〜34°)まで低下した。以上より本実施例からも耐浸漬性を向上させるには、撥水膜は単にパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合しているだけでは耐擦性が不十分であり、含フッ素高分子樹脂層との複合層になっている必要のあることが示された。
【0101】
(実施例6)
化合物1の代わりに化合物6を用いる以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。これらを用いて実施例1と同様の初期接触角測定及び摺動試験、浸漬試験後の試験片の接触角測定を行った。結果を表1に示す。
【0102】
サイトップ層を有し、且つ酸素プラズマを照射したものは5万回摺動後も接触角は50°以上(56〜59°)であった。しかし酸素プラズマ照射しなかったものは接触角が30°まで低下した。よって本実施例からも耐擦性を向上させるには含フッ素高分子樹脂層の上にはパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合している必要があることが示された。またサイトップからなる層を形成せず化合物6由来の撥水膜を形成したものの結果を表4に併記する。
【0103】
これらの撥水膜は初期においていずれも60〜68°であったが、摺動後はいずれも40°未満(20以下〜38°)まで低下した。本実施例からも耐擦性を向上させるには、撥水膜は単にパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合しているだけでは耐擦性が不十分であり、含フッ素高分子樹脂層との複合層になっている必要のあることが示された。なお前記UV硬化型液体の代わりに水を用いて摺動試験を行ったが、5万回摺動後の接触角低下はいずれも2°以下であった。
【0104】
次にそれぞれの試験片を前記UV硬化型液体の中に30日間浸漬し、浸漬後の接触角を測定した。結果を表1に併記する。サイトップ層を有し、且つ酸素プラズマを照射したものは30日間浸漬後も接触角は50°以上(56〜58°)であった。しかし酸素プラズマ照射しなかったものは接触角が50°未満(46°)まで低下した。なお前記UV硬化型液体の代わりに水を用いて浸漬試験を行ったが、5万回摺動後の接触角低下はいずれも2°以下であった。
【0105】
本実施例からも、耐浸漬性を向上させるには、含フッ素高分子樹脂層の上にはパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合している必要があることが示された。またサイトップからなる層を形成せず化合物6由来の撥水膜を形成したものの結果を表4に併記する。これら撥水膜の接触角は浸漬後いずれも40°未満(20以下〜34°)まで低下した。以上より本実施例からも耐浸漬性を向上させるには、撥水膜は単にパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合しているだけでは耐擦性が不十分であり、含フッ素高分子樹脂層との複合層になっている必要のあることが示された。
【0106】
(実施例7)
化合物1の代わりに化合物7を用いる以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。これらを用いて実施例1と同様の初期接触角測定、及び摺動試験、浸漬試験後の試験片の接触角測定を行った。結果を表2に示す。
【0107】
サイトップ層を有し、且つ酸素プラズマを照射したものは5万回摺動後も接触角は50°以上(57〜59°)であった。しかし酸素プラズマ照射しなかったものは接触角が30°まで低下した。よって本実施例からも耐擦性を向上させるには、含フッ素高分子樹脂層の上にはパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合している必要があることが示された。またサイトップからなる層を形成せず化合物7由来の撥水膜を形成したものの結果を表4に併記する。
【0108】
これらの撥水膜は初期においていずれも60〜68°であったが、摺動後はいずれも40°未満(20以下〜38°)まで低下した。本実施例からも耐擦性を向上させるには、撥水膜は単にパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合しているだけでは耐擦性が不十分であり、含フッ素高分子樹脂層との複合層になっている必要のあることが示された。なお前記UV硬化型液体の代わりに水を用いて摺動試験を行ったが、5万回摺動後の接触角低下はいずれも2°以下であった。
【0109】
次にそれぞれの試験片を前記UV硬化型液体の中に30日間浸漬し、浸漬後の接触角を測定した。結果を表2に併記する。サイトップ層を有し、且つ酸素プラズマを照射したものは30日間浸漬後も接触角は50°以上(57〜59°)であった。しかし酸素プラズマ照射しなかったものは接触角が50°未満(46°)まで低下した。なお前記UV硬化型液体の代わりに水を用いて浸漬試験を行ったが、5万回摺動後の接触角低下はいずれも2°以下であった。
【0110】
本実施例からも耐浸漬性を向上させるには、含フッ素高分子樹脂層の上にはパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合している必要があることが示された。またサイトップからなる層を形成せず化合物7由来の撥水膜を形成したものの結果を表に併記する。これら撥水膜の接触角は浸漬後いずれも40°未満(20以下〜34°)まで低下した。以上より本実施例からも耐浸漬性を向上させるには、撥水膜は単にパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合しているだけでは耐擦性が不十分であり、含フッ素高分子樹脂層との複合層になっている必要のあることが示された。
【0111】
(実施例8)
化合物1の代わりに化合物8を用いる以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。これらを用いて実施例1と同様の初期接触角測定、及び摺動試験、浸漬試験後の試験片の接触角測定を行った。結果を表2に示す。
【0112】
サイトップ層を有し、且つ酸素プラズマを照射したものは5万回摺動後も接触角は50°以上(57〜59°)であった。しかし酸素プラズマ照射しなかったものは接触角が30°まで低下した。よって本実施例からも耐擦性を向上させるには、含フッ素高分子樹脂層の上にはパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合している必要があることが示された。またサイトップからなる層を形成せず化合物8由来の撥水膜を形成したものの結果を表4に併記する。
【0113】
これらの撥水膜は初期においていずれも60〜68°であったが、摺動後はいずれも40°未満(20以下〜38°)まで低下した。本実施例からも耐擦性を向上させるには、撥水膜は単にパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合しているだけでは耐擦性が不十分であり、含フッ素高分子樹脂層との複合層になっている必要のあることが示された。なお前記UV硬化型液体の代わりに水を用いて摺動試験を行ったが、5万回摺動後の接触角低下はいずれも2°以下であった。
【0114】
次にそれぞれの試験片を前記UV硬化型液体の中に30日間浸漬し、浸漬後の接触角を測定した。結果を表2に併記する。サイトップ層を有し、且つ酸素プラズマを照射したものは30日間浸漬後も接触角は50°以上(57〜59°)であった。しかし酸素プラズマ照射しなかったものは接触角が50°未満(46°)まで低下した。なお前記UV硬化型液体の代わりに水を用いて浸漬試験を行ったが、5万回摺動後の接触角低下はいずれも2°以下であった。
【0115】
本実施例からも耐浸漬性を向上させるには含フッ素高分子樹脂層の上にはパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合している必要があることが示された。またサイトップからなる層を形成せず化合物8由来の撥水膜を形成したものの結果を表に併記する。これら撥水膜の接触角は浸漬後いずれも40°未満(20以下〜34°)まで低下した。以上より本実施例からも耐浸漬性を向上させるには撥水膜は単にパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合しているだけでは耐擦性が不十分であり含フッ素高分子樹脂層との複合層になっている必要のあることが示された。
【0116】
(実施例9)
化合物1の代わりに化合物9(式(12))を用いる以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。
【0117】
【化21】
【0118】
これらを用いて実施例1と同様の初期接触角測定及び摺動試験、浸漬試験後の試験片の接触角測定を行った。結果を表2に示す。
【0119】
サイトップ層を有し、且つ酸素プラズマを照射したものは5万回摺動後も接触角は50°以上(50〜52°)であった。しかし酸素プラズマ照射しなかったものは接触角が30°まで低下した。よって本実施例から耐擦性を向上させるには含フッ素高分子樹脂層の上にはパーフルオロアルキル鎖を有する部位が結合している必要があることが示された。またサイトップからなる層を形成せず化合物9由来の撥水膜を形成したものの結果を表4に併記する。
【0120】
これらの撥水膜は初期においていずれも55〜57°であったが、摺動後はいずれも20°以下まで低下した。本実施例から耐擦性を向上させるには、撥水膜は単にパーフルオロアルキル鎖を有する部位が結合しているだけでは耐擦性が不十分であり、含フッ素高分子樹脂層との複合層になっている必要のあることが示された。なお前記UV硬化型液体の代わりに水を用いて摺動試験を行ったが、5万回摺動後の接触角低下はいずれも2°以下であった。
【0121】
次にそれぞれの試験片を前記UV硬化型液体の中に30日間浸漬し、浸漬後の接触角を測定した。結果を表4に併記する。サイトップ層を有し、且つ酸素プラズマを照射したものは30日間浸漬後も接触角は50°以上(50〜51°)であった。しかし酸素プラズマ照射しなかったものは接触角が50°未満(46°)まで低下した。なお前記UV硬化型液体の代わりに水を用いて浸漬試験を行ったが、5万回摺動後の接触角低下はいずれも2°以下であった。
【0122】
本実施例から、耐浸漬性を向上させるには含フッ素高分子樹脂層の上にはパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合している必要があることが示された。またサイトップからなる層を形成せず化合物9由来の撥水膜を形成したものの結果を表2に併記する。これら撥水膜の接触角は浸漬後いずれも20°以下まで低下した。以上より本実施例から耐浸漬性を向上させるには撥水膜は単にパーフルオロアルキル鎖を有する部位が結合しているだけでは耐擦性が不十分であり含フッ素高分子樹脂層との複合層になっている必要のあることが示された。
【0123】
(実施例10)
化合物1の代わりに化合物10(式(13))を用いる以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。
【0124】
【化22】
【0125】
これらを用いて実施例1と同様の初期接触角測定、及び摺動試験、浸漬試験後の試験片の接触角測定を行った。結果を表2に示す。
【0126】
サイトップ層を有し、且つ酸素プラズマを照射したものは5万回摺動後も接触角は50°以上(51〜53°)であった。しかし酸素プラズマ照射しなかったものは接触角が30°まで低下した。よって本実施例からも耐擦性を向上させるには含フッ素高分子樹脂層の上にはパーフルオロアルキル鎖を有する部位が結合している必要があることが示された。またサイトップからなる層を形成せず化合物10由来の撥水膜を形成したものの結果を表4に併記する。
【0127】
これらの撥水膜は初期においていずれも57〜59°であったが、摺動後はいずれも20°以下まで低下した。本実施例からも耐擦性を向上させるには、撥水膜は単にパーフルオロアルキル鎖を有する部位が結合しているだけでは耐擦性が不十分であり、含フッ素高分子樹脂層との複合層になっている必要のあることが示された。なお前記UV硬化型液体の代わりに水を用いて摺動試験を行ったが、5万回摺動後の接触角低下はいずれも2°以下であった。
【0128】
次にそれぞれの試験片を前記UV硬化型液体の中に30日間浸漬し、浸漬後の接触角を測定した。結果を表2に併記する。サイトップ層を有し、且つ酸素プラズマを照射したものは30日間浸漬後も接触角は50°以上(51〜52°)であった。しかし酸素プラズマ照射しなかったものは接触角が50°未満(46°)まで低下した。なお前記UV硬化型液体の代わりに水を用いて浸漬試験を行ったが、5万回摺動後の接触角低下はいずれも2°以下であった。
【0129】
本実施例からも耐浸漬性を向上させるには、含フッ素高分子樹脂層の上にはパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合している必要があることが示された。またサイトップからなる層を形成せず化合物10由来の撥水膜を形成したものの結果を表4に併記する。これら撥水膜の接触角は浸漬後いずれも20°以下まで低下した。以上より本実施例から耐浸漬性を向上させるには撥水膜は単にパーフルオロアルキル鎖を有する部位が結合しているだけでは耐擦性が不十分であり含フッ素高分子樹脂層との複合層になっている必要のあることが示された。
【0130】
(実施例11)
酸素プラズマを照射する代わりにオゾン雰囲気に放置する以外は実施例1と同様の実験を行った。なお用いたオゾン発生装置はロキテクノ社製BA型であり、オゾンガス濃度は25g/Nm3、放置時間は10分間、30分間、100分間の3種類を試した。結果を表2に示す。
【0131】
まず摺動試験では、プラズマ照射の代わりにオゾン雰囲気に放置しても酸素プラズマを照射したときと同様5万回摺動後も接触角は50°以上(55〜56°)であった。しかしオゾン雰囲気に放置しなかったものは接触角が30°まで低下した。よって本実施例から耐擦性を向上させるにはプラズマ照射の代わりにオゾン雰囲気に放置しても効果のあることが示された。次に浸漬試験の結果を表に併記する。
【0132】
プラズマ照射の代わりにオゾン雰囲気に放置しても酸素プラズマを照射したときと同様30日間浸漬後も接触角は50°以上(55〜56°)であった。しかしオゾン雰囲気に放置しなかったものは接触角が50°未満(46°)まで低下した。よって本実施例から耐浸漬性を向上させるにはプラズマ照射の代わりにオゾン雰囲気に放置しても効果のあることが示された。
【0133】
なおオゾン雰囲気に放置する時間を長くしても摺動、浸漬両試験における効果の向上はプラズマ照射の時間依存性に比べて小さい傾向があった。また実施例1との比較より、パーフルオロポリエーテル鎖、或いはパーフルオロアルキル鎖を有する部位を結合させる際の長時間の前処理(プラズマ照射、オゾン雰囲気に放置)が可能な場合、プラズマの方が耐擦性、耐浸漬性に優れた撥水膜を得られることも示された。
【0134】
(実施例12)
酸素プラズマを照射する代わりに紫外線を照射する以外は実施例1と同様の実験を行った。なお用いた紫外線照射装置はウシオ電機社製500W deep−UVランプであり、照射時間は10分間、30分間、100分間の3種類を試した。結果を表2
に示す。
【0135】
まず摺動試験では、プラズマ照射の代わりに紫外線を照射しても酸素プラズマを照射したときと同様5万回摺動後も接触角は50°以上(55°)であった。しかし紫外線を照射しなかったものは接触角が30°まで低下した。よって本実施例から、耐擦性を向上させるにはプラズマ照射の代わりに紫外線を照射しても効果のあることが示された。
【0136】
次に浸漬試験の結果を表に併記する。プラズマ照射の代わりに紫外線を照射しても酸素プラズマを照射したときと同様30日間浸漬後も接触角は50°以上(55〜56°)であった。しかし紫外線を照射しなかったものは接触角が50°未満(46°)まで低下した。よって本実施例から耐浸漬性を向上させるにはプラズマ照射の代わりに紫外線を照射しても効果のあることが示された。
【0137】
なお紫外線を照射する時間を長くしても摺動、浸漬両試験における効果の向上はプラズマ照射の時間依存性に比べて小さい傾向があった。また実施例1との比較より、長時間照射が可能な場合、プラズマ照射の方が耐擦性、耐浸漬性に優れた撥水膜を得られることも示された。
【0138】
【表1】
【0139】
【表2】
【0140】
【表3】
【0141】
【表4】
【0142】
(実施例13)
実施例1〜10で作製した本発明の撥水膜と同じ物を実施例1と同様SUS304試験片に形成する。これらを用いて摺動回数を3倍(150000回)にする以外は実施例1と同様の条件で摺動試験を行った。結果を表5に示す。
【0143】
【表5】
【0144】
化合物1〜8を用いた試験片は150000万回摺動後も50°以上(52〜55°)の接触角を維持した。しかし化合物9、10を用いた試験片は接触角50°未満(44〜46°)まで低下した。化合物1〜8を用いた試験片はパーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が結合している。化合物9、10を用いた試験片はパーフルオロアルキル鎖を有する部位が結合している。よって耐擦性が高いという点で、含フッ素高分子樹脂層の上に結合させる部位は、パーフルオロポリエーテル鎖を有する部位が好適であることが示された。
【0145】
(実施例14)
SUS304試験片の代わりに図4の燃料噴射弁の弁座を用いる以外は実施例1〜10と同様にして弁座のノズル側表面に撥水膜を形成する。なお製膜時のプラズマ照射時間は300秒間とした。これらの弁座を取り付けた燃料噴射弁を筒内噴射型エンジンに取り付け、8時間運転を行った。エンジンは水冷式4サイクル方式の直列4気筒であり、総排気量は1769cm3、エンジンの回転数は1200rpm、燃料噴射弁先端部の平均温度は150℃、使用したガソリンは硫黄含有量が7ppmと300ppmの2種類である。運転終了後、燃料噴射弁をはずし、燃料吐出角度の変化、及び燃料吐出量の変化(減少割合)を調べた。結果を表6に示す。
【0146】
【表6】
【0147】
比較のためサイトップのみ、或いは化合物1〜10のみで形成した撥水膜を用いた結果を表7に示す。
【0148】
【表7】
【0149】
用いた燃料の硫黄含有量が7ppmの場合は、いずれの撥水膜を形成しても燃料吐出角度の変化は2°以内であり、かつ燃料吐出量の減少割合も2%以内であった。再び燃料噴射弁を取り付け、エンジンを更に8時間運転したがノッキングの発生は見られなかった。またこれら燃料噴射弁のノズル口、及びその近傍には極微量のデポジットが堆積していた。
【0150】
用いた燃料の硫黄含有量が300ppmの場合、本発明の撥水膜を形成した燃料噴射弁は燃料吐出角度の変化が2°以内であり、かつ燃料吐出量の減少割合が2%以内であった。またこれら燃料噴射弁のノズル口、及びその近傍には極微量のデポジットが堆積していた。
【0151】
しかしサイトップのみ、或いは化合物1〜10のみで形成した撥水膜を有する燃料噴射弁では燃料吐出角度の変化は5〜8°まで変化し、かつ燃料吐出量も5〜11%減少した。これら燃料噴射弁のノズル口、及びその近傍には硫黄含有量が7ppmの燃料を用いた際に比べてかなり大量のデポジットが堆積していた。再び燃料噴射弁を取り付け、エンジンを更に8時間運転しようとしたが、いずれのエンジンも2〜5時間でノッキングが発生したので運転を中止した。なお撥水膜を形成しない燃料噴射弁を用いてエンジンの運転試験を行ったところ、約2時間後にノッキングが発生したので、運転を中止した。
【0152】
よって本実施例より、本発明の撥水膜を有する燃料噴射弁は硫黄含有割合の大きな燃料を用いた場合でも、長期にわたって適正燃焼を行えることが示された。
【0153】
【発明の効果】
以上より耐擦性の高い撥水膜、及びそれを用いた燃料噴射弁を提供することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の撥水膜断面の模式図。
【図2】本発明の撥水膜形成方法の概略。
【図3】筒内噴射型エンジンの模式図。
【図4】本発明の燃料噴射弁の模式図。
【符号の説明】
1…基板、2…含フッ素高分子樹脂からなる層、3…結合部位、4…パーフルオロポリエーテル鎖あるいはパーフルオロアルキル鎖を有する部位、5…基板、6…含フッ素高分子樹脂からなる層、7…パーフルオロポリエーテル鎖あるいはパーフルオロアルキル鎖を有する部位、8…含フッ素高分子樹脂からなる層の表面改質部分、9…燃料タンク、10…燃料ポンプ、11…燃料噴射弁、12…電子制御ユニット、13…燃料噴射弁から吐出された燃料、14…シリンダ、15…ピストン、16…ピストン表面のくぼみ、17…点火プラグ、18…吸気弁、19…排気弁、20…燃料噴射弁の燃料投入口、21…流路、22…バルブ、23…電磁式のバルブ駆動ユニット、24…コネクタ、25…ノズル、26…弁座。
Claims (9)
- 固体表面に形成された含フッ素樹脂層と、その上にパーフルオロポリエーテル鎖又はパーフルオロアルキル鎖を有する撥水化合物が結合している構造の撥水膜を有することを特徴とする物品。
- 上記固体が金属、セラミックス、プラスチックス、ガラスのいずれか又はそれらの組み合わせであることを特徴とする請求項1又は2記載の物品。
- 前記撥水化合物は分子内にパーフルオロポリエーテル鎖と末端基にアルコキシシラン残基を有するものである請求項1ないし4のいずれかに記載の物品。
- 前記撥水化合物は分子内にパーフルオロポリエーテル鎖を2個有する物である請求項1ないし5のいずれかに記載の物品。
- 燃料噴射口を有する弁及び燃料噴射口を開閉するニードル弁を有する筒内噴射方式のエンジン用燃料噴射弁の少なくとも該弁の弁座に請求項1ないし3及び請求項5ないし6のいずれかに記載の撥水膜が形成されていることを特徴とする筒内噴射方式のエンジン用燃料噴射弁。
- 以下の工程を含む、固体表面に撥水膜を形成する方法。
含フッ素樹脂膜の表面にエネルギー線を照射する工程及び該固体表面に末端にアルコキシシラン残基を有するパーフルオロポリエーテル化合物又は末端にアルコキシシラン残基を有するパーフルオロアルキル化合物を適用する工程。
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