JP2004323443A - 抗血栓薬 - Google Patents
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Abstract
【課題】心筋梗塞、脳梗塞などの発生を予防するのに有効な血清コレステロール低下剤の提供。
【解決手段】シクロデキストリン水溶液からなる血管内細胞膜中のコレステロールの量を低下させる抗血栓薬。
【選択図】 図1
【解決手段】シクロデキストリン水溶液からなる血管内細胞膜中のコレステロールの量を低下させる抗血栓薬。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、血管内に存在する細胞成分、特に血球細胞である血小板膜中に存在するコレステロール量を低下させることにより、血小板膜表面上でGPIb,GPVIなどの膜糖蛋白がコレステロールリッチのマイクロドメイン(membrane raft)に集積して血小板を活性化させるシグナルを出すのを抑制して抗血小板効果、抗血栓効果を発揮させ、心筋梗塞、脳梗塞などの動脈血栓性疾患(atherothrombosis)の発症を予防する抗血栓薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、コレステロール低下療法は、動脈壁のコレステロールを減少させることにより動脈硬化巣の進展及び不安定化の予防に役立つと理解されて来た。実際、公知のスタチン系薬物による強力なコレステロール低下療法により心筋梗塞などの動脈硬化、動脈血栓性疾患の発症率が減少することが大規模臨床試験により確認されている。動脈血栓性疾患の発症には血液成分である血小板が重要な役割を果たすため、コレステロール低下療法の心筋梗塞発症予防効果には抗血小板効果、抗血栓効果も関与すると想定されていながら、そのメカニズムは知られていなかった。例えば血小板機能検査法として従来から広く使用されている血小板凝集検査では、血管内細胞膜中のコレステロール低下作用に基づく抗血栓効果を確認することができなかった。血清コレステロールを低下させる作用を有するスタチン系薬物により、動脈血栓症でもある心筋梗塞症の発症抑制効果があることは大規模臨床試験により明らかにされていたが、その理由は全く知られていなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、心筋梗塞、脳梗塞などの原因である血小板血栓の発生を予防するのに有効な血管内細胞膜(特に、血小板、赤血球、白血球などの血球細胞膜)中のコレステロールの量を低下させる抗血栓薬を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明に従えば、シクロデキストリン水溶液からなる血管内細胞膜中のコレステロールの量を低下させる抗血栓薬が提供される。
【0005】
【発明の実施の形態】
スタチン系薬物は心筋梗塞などの動脈血栓性疾患発症予防効果があることが知られている。これらの発症予防効果は血清中のコレステロール量の低下による動脈硬化巣の安定化に基づくと理解されて来た。動脈血栓性疾患の発症には血管側の因子である動脈硬化巣を構成する白血球、細胞外マトリックスのみならず、動脈血流条件下の血栓形成において中心的役割を演じる血小板も重要な役割を果たすが、コレステロール量の低下と血小板機能との関連に関しては理解されていなかった。本発明者は、血管内細胞膜中のコレステロールの量を低下させることにより、特に血小板膜中のコレステロールの量を低下させることによって、動脈硬化巣が破綻してコラーゲンなどの内皮下組織が血流に曝露された時に形成される血小板血栓を構成する血小板を活性化させる膜蛋白(例えばGPID,GPVI)からの情報伝達が障害されることを明らかにし、血漿中のLDLコレステロールを低下させることによる間接的抗血栓療法がコレステロール低下療法の用途の拡大に役立つことを見出した。
【0006】
本発明によれば、シクロデキストリンからなる細胞膜中のコレステロールの量を低下させる抗血栓薬を用いて血管内細胞膜中のコレステロール濃度を低下させることができるため、前記血小板血栓を構成する血小板の表面上でGPIb,GPVIなどの膜蛋白がコレステロールの豊富なマイクロドメインに集積して、血小板を活性化させるシグナルが抑制されるため、抗血栓治療法として極めて有用である。
【0007】
本発明者らは前記知見に基づき、実験的にシクロデキストリンにより細胞膜中のコレステロール量を低下させることによって抗血栓効果が得られることを明らかにし、臨床応用に当たっては、シクロデキストリン及びその誘導体による血小板膜コレステロール低下療法に加えて、スタチン系薬物その他の、すでにコレステロール低下作用があることが知られている薬物を一緒に使用する療法を研究した。後の実施例に示したように、蛍光標識した血小板による血栓の定量的評価、同じく標識化した血小板表面蛋白に対する抗体を用いることによる膜蛋白の再構築評価法を用いて、シクロデキストリンの、抗血栓薬としての評価をすることができ、またフィブリン形成の指標となる蛍光物質を用いて血小板由来凝固活性化(procoagulant activity)のイメージング方法として抗血栓薬の評価をすることができる。
【0008】
次に血液中の細胞膜内のコレステロール量を低下させる方法としてシクロデキストリンを使用することについて説明する。
シクロデキストリンは、式(I):
【0009】
【化1】
【0010】
に示すような構造をした化合物(注:式(I)はβ−シクロデキストリンで、その他α−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン及びこれらの例えばメチル置換体であるメチルβ−シクロデキストリン、プロピル置換体である2−ヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリンなどの誘導体を含む総称)で、例えばBacillus属の菌が生産する環状デキストリン生成酵素とデンプンとの反応によって得られる水に易溶性のドーナツ状の分子で、シクロデキストリンの分子はその内側が疎水性で、外側が親水性である性質を利用して、本発明では血管内細胞膜中のコレステロールなどの脂質を分子の内側に取り込んで包接物を形成せしめて細胞膜中のコレステロールを吸着する。即ち、本発明によれば、血液中にこのシクロデキストリンの水溶液を導入することにより、血液中の細胞膜内、特に血小板細胞膜内のコレステロールを吸着して、抗血栓作用を呈する。シクロデキストリンを用いることにより、以下の実施例に示すように、細胞膜内のコレステロールの大半を取り除いた状態での抗血栓性効果が評価され、シクロデキストリンは容量依存的に血小板血栓の形成を抑制した(図2参照)。また市販のスタチン薬物と併用すれば、シクロデキストリンによる細胞膜内のコレステロール量の低下とスタチン薬物による血清中のコレステロールの量の低下とを組み合せたコレステロール低下療法ができ、結果として優れた抗血小板集積効果及び抗血栓効果が得られる。
【0011】
本発明に用いるシクロデキストリンは、前述の如く、α−、β−及びγ−シクロデキストリン並びにこれらの誘導体(例えばメチル−α、β又はγ−シクロデキストリン、2−ヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリンなど)を含む化合物をいい、これらは単独又は任意の混合状態で用いることができる。
【0012】
本発明に係る抗血栓薬は上記シクロデキストリン化合物を水に溶解した水溶液である。この水溶液中のシクロデキストリンの濃度には特に制限はないが、取扱その他を考慮すると1重量%以上、1〜50重量%程度であるのが好ましく、10〜50重量%であるのが更に好ましい。かかるシクロデキストリン水溶液は、例えば注射剤として血管、特に静脈中に注入することができるが、その他消化管で吸収されるカプセルなどの形態で経口的に患者に投与することもできる。
【0013】
本発明に係るシクロデキストリン水溶液は、例えば注射薬中に一般に配合される浸透圧調節物質であるブドウ糖、食塩などの汎用の添加剤を通常の一般的な量で含むことができる。本発明の抗血栓薬の投与量には特に限定はないが、成人につき1日当りシクロデキストリンとして100〜1000mM、好ましくは500〜1000mM投与するのが好ましい。
【0014】
【実施例】
本発明に従って、シクロデキストリンが血液中、特に血小板細胞膜内のコレステロールの量を低下させる実施例を以下に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
以下の例では、前述の如く、内側が疎水性、外側が親水性となるように設計された分子であるメチル−β−シクロデキストリン(MBCD)を用いた。以下の実施例の結果から明らかなように、シクロデキストリンにより、血小板膜内のコレステロールがシクロデキストリン分子内に移動するため、コラーゲン上にシクロデキストリンを含まない血液を灌流すると血小板血栓が形成されるのに対し、メチルβ−シクロデキストリン(MBCD)を含む血液では、容量依存的に血栓形成を抑制した。
【0015】
動脈血栓モデルを用いたシクロデキストリンの抗血栓作用の評価
従来血小板機能の評価法として広く使用されていた血小板の凝集による方法では動脈血栓の形成で同じ条件で抗血栓薬の薬効を評価することができない。動脈血栓症は、動脈硬化巣の破綻した部位で曝露されたコラーゲンなどのマトリックス表面上に血流条件下で形成されるものであり、本例では、同様の条件下で血小板血栓の形成過程を評価するために、コラーゲンを固相化した表面上に、血液を灌流して、コラーゲン層2上に形成される血小板血栓の生成状態を指標としてシクロデキストリンの抗血栓効果を評価した(図1参照)。
【0016】
この評価法によれば、心筋梗塞など、実際に生体内での動脈血栓症の発症にかかわる血栓形成と同じ条件下での血小板血栓形成の有無を評価することができる。
具体的には、図1に示すように、コラーゲン層2を、例えばガラス板1の表面上に固相化し、蛍光標識した血小板5を含む全血をフローチャンバー8に血流9として灌流し、そのコラーゲン層2上に形成される血小板血栓3を蛍光顕微鏡4で観察して記録することにより血小板血栓3の形成を評価することができる。血小板血栓3の定量化のためには、血小板血栓3に覆われたコラーゲン層2の面積を計測すればよい。
【0017】
血管壁近傍を流れる血小板は、血管壁が損傷し内皮下マトリックスが暴露されると、マトリックス上に血流条件下での集積血栓形成に関与する。そこで、コラーゲン表面上に蛍光標識した血小板を含む全血を灌流した時にコラーゲン上に形成される血小板血栓を動脈血栓の指標とした。蛍光標識した血小板を用いることにより、赤血球の存在下でも血栓形成の有無などを評価をすることができるとした。
【0018】
血流条件下において、図1に示すように、厚さ2mmのガラス板1上に設けた平均厚さ0.1mmのコラーゲン層2上の血小板血栓3の形成におよぼすシクロデキストリンの抗血栓効果を試験した。なお、図1において、5は血小板、6は血小板かコラーゲン上へ粘着していく状態を示し、7は光源、8はフローチャンバーを示す。
健常成人より血液を採取し、選択的抗トロンビン薬アルガトロバンにて抗凝固処理を行った。血液中の血小板をメパクリンにて蛍光標識した。蛍光標識した血小板を濃度20万/μlで含む全血にメチル−β−シクロデキストリン(MBCD)を終濃度10mMとなる量で添加して血小板細胞膜中のコレステロールを吸着させた。さまざまな濃度のMBCDを含む全血を、固相化したコラーゲン表面上に1,500 S−1,100 S−1のずり速度の条件で9分間灌流させ、コラーゲン層2上の血小板血栓3の形成状態を蛍光顕微鏡4で観察し、結果をデジタルビデオテープに記録した。血小板がコラーゲン層2を覆っている面積を計算し、血栓形成の定量的指標としたその結果100S−1及び1500S−1での9分間の灌流後、シクロデキストリンを含まない対照(Control)ではそれぞれ24±5%及び48+6%が血小板で覆われた。これに対し、10mMのメチルβ−シクロデキストリンを含む血流の灌流後には100S−1及び1500S−1のいずれの場合にも血小板血栓は殆んど形成されなかった。スタチン服用後(10mg/日)はそれぞれ18±4%及び33+6%が血小板で覆われた。
【0019】
図2は図1に示すフローチャンバーに設けたガラス板上に固相化したコラーゲン上に、シクロデキストリンを含まない対照(Control)、メチル−β−シクロデキストリン(MBCD)を5mM及び10mM含む血液を9分間ずり速度1500S−1及び100S−1で灌流させた際のコラーゲン上の血小板血栓(図の白い部分が血栓を示す)の形成状態を示す蛍光顕微鏡写真(40倍)を示す。図2の結果から明らかなようにMBCDの添加によって、特にMBCD10mMで血栓の形成状態が明らかに減少していることは明らかである。
【0020】
図3及び図4はそれぞれ対照(Control)(薬剤無添加)、スタチン(STATIN)添加(10mg/日服用)及びMBCD10mM添加の3種類の血液試料を上と同様にして図1のフローチャンバーを灌流させて(図3はずり速度100S−1、図4はずり速度1500S−1)、それぞれ1分、3分、6分及び9分後の血栓の形成状態を蛍光顕微鏡写真(40倍)に示した。図3及び図4からMBCDによる抗血栓効果が顕著であった。
【0021】
図2〜4に示すように、MBCDは、薬剤無添加の対照試料及び従来の市販抗血栓薬であるスタチン系薬物(ファイザー薬品製アトルバスタチン)を含む試料に比較して、容量依存的にコラーゲン上の血小板血栓の形成を抑制した。
【0022】
血小板膜表面上にはコレステロールとスフィンゴ脂質に富む(コレステロールリッチマイクロドメイン)(membrane raft)が存在し、刺激を受けるとGP Ib/IX複合体、GP VI/FcRgamma複合体がコレステロールリッチマイクロドメイン上集積して活性化シグナルを惹起する。血清コレステロールが低下し、血小板膜内のコレステロールが減少するとraftが減少する結果、コラーゲン、ヴォンビルブランド因子(von Willebrand)上の血小板血栓の形成が抑制されると考えられる。
【0023】
【発明の効果】
従来、広く使用されていた血小板機能評価法である血小板凝集は、ADP(アデノシン2リン酸),トロンビン(thrombin)などの活性化物質を添加することにより惹起される。この方法は血小板無力症などの出血性疾患の評価には有効であったが、血栓性疾患の評価、抗血小板薬の評価には適さなかった。本発明で評価された血流条件下の血小板集積抑制機能は、動脈硬化巣の破綻部位での動脈血栓の形成の評価、抗血栓薬の評価に適する。本発明で用いた評価法は、実際の動脈血栓の形成される条件と近い条件における血小板形成を評価しており、単純な糖質であるシクロデキストリンは脂質を取り囲む以外の作用は乏しく、コレステロール低下作用以外の作用を考える必要性が少ない。
【図面の簡単な説明】
【図1】血流条件下にコラーゲン表面上の血小板血栓の生成を評価する方法を示す図面である。
【図2】シクロデキストリンによる、血流条件下コラーゲン上での血栓形成の抑制状態を示す図面に代る写真である。
【図3】シクロデキストリンによる、血流条件下コラーゲン上での血栓形成の抑制状態を示す図面に代る写真である。
【図4】シクロデキストリンによる、血流条件下コラーゲン上での血栓形成の抑制状態を示す図面に代る写真である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、血管内に存在する細胞成分、特に血球細胞である血小板膜中に存在するコレステロール量を低下させることにより、血小板膜表面上でGPIb,GPVIなどの膜糖蛋白がコレステロールリッチのマイクロドメイン(membrane raft)に集積して血小板を活性化させるシグナルを出すのを抑制して抗血小板効果、抗血栓効果を発揮させ、心筋梗塞、脳梗塞などの動脈血栓性疾患(atherothrombosis)の発症を予防する抗血栓薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、コレステロール低下療法は、動脈壁のコレステロールを減少させることにより動脈硬化巣の進展及び不安定化の予防に役立つと理解されて来た。実際、公知のスタチン系薬物による強力なコレステロール低下療法により心筋梗塞などの動脈硬化、動脈血栓性疾患の発症率が減少することが大規模臨床試験により確認されている。動脈血栓性疾患の発症には血液成分である血小板が重要な役割を果たすため、コレステロール低下療法の心筋梗塞発症予防効果には抗血小板効果、抗血栓効果も関与すると想定されていながら、そのメカニズムは知られていなかった。例えば血小板機能検査法として従来から広く使用されている血小板凝集検査では、血管内細胞膜中のコレステロール低下作用に基づく抗血栓効果を確認することができなかった。血清コレステロールを低下させる作用を有するスタチン系薬物により、動脈血栓症でもある心筋梗塞症の発症抑制効果があることは大規模臨床試験により明らかにされていたが、その理由は全く知られていなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、心筋梗塞、脳梗塞などの原因である血小板血栓の発生を予防するのに有効な血管内細胞膜(特に、血小板、赤血球、白血球などの血球細胞膜)中のコレステロールの量を低下させる抗血栓薬を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明に従えば、シクロデキストリン水溶液からなる血管内細胞膜中のコレステロールの量を低下させる抗血栓薬が提供される。
【0005】
【発明の実施の形態】
スタチン系薬物は心筋梗塞などの動脈血栓性疾患発症予防効果があることが知られている。これらの発症予防効果は血清中のコレステロール量の低下による動脈硬化巣の安定化に基づくと理解されて来た。動脈血栓性疾患の発症には血管側の因子である動脈硬化巣を構成する白血球、細胞外マトリックスのみならず、動脈血流条件下の血栓形成において中心的役割を演じる血小板も重要な役割を果たすが、コレステロール量の低下と血小板機能との関連に関しては理解されていなかった。本発明者は、血管内細胞膜中のコレステロールの量を低下させることにより、特に血小板膜中のコレステロールの量を低下させることによって、動脈硬化巣が破綻してコラーゲンなどの内皮下組織が血流に曝露された時に形成される血小板血栓を構成する血小板を活性化させる膜蛋白(例えばGPID,GPVI)からの情報伝達が障害されることを明らかにし、血漿中のLDLコレステロールを低下させることによる間接的抗血栓療法がコレステロール低下療法の用途の拡大に役立つことを見出した。
【0006】
本発明によれば、シクロデキストリンからなる細胞膜中のコレステロールの量を低下させる抗血栓薬を用いて血管内細胞膜中のコレステロール濃度を低下させることができるため、前記血小板血栓を構成する血小板の表面上でGPIb,GPVIなどの膜蛋白がコレステロールの豊富なマイクロドメインに集積して、血小板を活性化させるシグナルが抑制されるため、抗血栓治療法として極めて有用である。
【0007】
本発明者らは前記知見に基づき、実験的にシクロデキストリンにより細胞膜中のコレステロール量を低下させることによって抗血栓効果が得られることを明らかにし、臨床応用に当たっては、シクロデキストリン及びその誘導体による血小板膜コレステロール低下療法に加えて、スタチン系薬物その他の、すでにコレステロール低下作用があることが知られている薬物を一緒に使用する療法を研究した。後の実施例に示したように、蛍光標識した血小板による血栓の定量的評価、同じく標識化した血小板表面蛋白に対する抗体を用いることによる膜蛋白の再構築評価法を用いて、シクロデキストリンの、抗血栓薬としての評価をすることができ、またフィブリン形成の指標となる蛍光物質を用いて血小板由来凝固活性化(procoagulant activity)のイメージング方法として抗血栓薬の評価をすることができる。
【0008】
次に血液中の細胞膜内のコレステロール量を低下させる方法としてシクロデキストリンを使用することについて説明する。
シクロデキストリンは、式(I):
【0009】
【化1】
【0010】
に示すような構造をした化合物(注:式(I)はβ−シクロデキストリンで、その他α−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン及びこれらの例えばメチル置換体であるメチルβ−シクロデキストリン、プロピル置換体である2−ヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリンなどの誘導体を含む総称)で、例えばBacillus属の菌が生産する環状デキストリン生成酵素とデンプンとの反応によって得られる水に易溶性のドーナツ状の分子で、シクロデキストリンの分子はその内側が疎水性で、外側が親水性である性質を利用して、本発明では血管内細胞膜中のコレステロールなどの脂質を分子の内側に取り込んで包接物を形成せしめて細胞膜中のコレステロールを吸着する。即ち、本発明によれば、血液中にこのシクロデキストリンの水溶液を導入することにより、血液中の細胞膜内、特に血小板細胞膜内のコレステロールを吸着して、抗血栓作用を呈する。シクロデキストリンを用いることにより、以下の実施例に示すように、細胞膜内のコレステロールの大半を取り除いた状態での抗血栓性効果が評価され、シクロデキストリンは容量依存的に血小板血栓の形成を抑制した(図2参照)。また市販のスタチン薬物と併用すれば、シクロデキストリンによる細胞膜内のコレステロール量の低下とスタチン薬物による血清中のコレステロールの量の低下とを組み合せたコレステロール低下療法ができ、結果として優れた抗血小板集積効果及び抗血栓効果が得られる。
【0011】
本発明に用いるシクロデキストリンは、前述の如く、α−、β−及びγ−シクロデキストリン並びにこれらの誘導体(例えばメチル−α、β又はγ−シクロデキストリン、2−ヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリンなど)を含む化合物をいい、これらは単独又は任意の混合状態で用いることができる。
【0012】
本発明に係る抗血栓薬は上記シクロデキストリン化合物を水に溶解した水溶液である。この水溶液中のシクロデキストリンの濃度には特に制限はないが、取扱その他を考慮すると1重量%以上、1〜50重量%程度であるのが好ましく、10〜50重量%であるのが更に好ましい。かかるシクロデキストリン水溶液は、例えば注射剤として血管、特に静脈中に注入することができるが、その他消化管で吸収されるカプセルなどの形態で経口的に患者に投与することもできる。
【0013】
本発明に係るシクロデキストリン水溶液は、例えば注射薬中に一般に配合される浸透圧調節物質であるブドウ糖、食塩などの汎用の添加剤を通常の一般的な量で含むことができる。本発明の抗血栓薬の投与量には特に限定はないが、成人につき1日当りシクロデキストリンとして100〜1000mM、好ましくは500〜1000mM投与するのが好ましい。
【0014】
【実施例】
本発明に従って、シクロデキストリンが血液中、特に血小板細胞膜内のコレステロールの量を低下させる実施例を以下に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
以下の例では、前述の如く、内側が疎水性、外側が親水性となるように設計された分子であるメチル−β−シクロデキストリン(MBCD)を用いた。以下の実施例の結果から明らかなように、シクロデキストリンにより、血小板膜内のコレステロールがシクロデキストリン分子内に移動するため、コラーゲン上にシクロデキストリンを含まない血液を灌流すると血小板血栓が形成されるのに対し、メチルβ−シクロデキストリン(MBCD)を含む血液では、容量依存的に血栓形成を抑制した。
【0015】
動脈血栓モデルを用いたシクロデキストリンの抗血栓作用の評価
従来血小板機能の評価法として広く使用されていた血小板の凝集による方法では動脈血栓の形成で同じ条件で抗血栓薬の薬効を評価することができない。動脈血栓症は、動脈硬化巣の破綻した部位で曝露されたコラーゲンなどのマトリックス表面上に血流条件下で形成されるものであり、本例では、同様の条件下で血小板血栓の形成過程を評価するために、コラーゲンを固相化した表面上に、血液を灌流して、コラーゲン層2上に形成される血小板血栓の生成状態を指標としてシクロデキストリンの抗血栓効果を評価した(図1参照)。
【0016】
この評価法によれば、心筋梗塞など、実際に生体内での動脈血栓症の発症にかかわる血栓形成と同じ条件下での血小板血栓形成の有無を評価することができる。
具体的には、図1に示すように、コラーゲン層2を、例えばガラス板1の表面上に固相化し、蛍光標識した血小板5を含む全血をフローチャンバー8に血流9として灌流し、そのコラーゲン層2上に形成される血小板血栓3を蛍光顕微鏡4で観察して記録することにより血小板血栓3の形成を評価することができる。血小板血栓3の定量化のためには、血小板血栓3に覆われたコラーゲン層2の面積を計測すればよい。
【0017】
血管壁近傍を流れる血小板は、血管壁が損傷し内皮下マトリックスが暴露されると、マトリックス上に血流条件下での集積血栓形成に関与する。そこで、コラーゲン表面上に蛍光標識した血小板を含む全血を灌流した時にコラーゲン上に形成される血小板血栓を動脈血栓の指標とした。蛍光標識した血小板を用いることにより、赤血球の存在下でも血栓形成の有無などを評価をすることができるとした。
【0018】
血流条件下において、図1に示すように、厚さ2mmのガラス板1上に設けた平均厚さ0.1mmのコラーゲン層2上の血小板血栓3の形成におよぼすシクロデキストリンの抗血栓効果を試験した。なお、図1において、5は血小板、6は血小板かコラーゲン上へ粘着していく状態を示し、7は光源、8はフローチャンバーを示す。
健常成人より血液を採取し、選択的抗トロンビン薬アルガトロバンにて抗凝固処理を行った。血液中の血小板をメパクリンにて蛍光標識した。蛍光標識した血小板を濃度20万/μlで含む全血にメチル−β−シクロデキストリン(MBCD)を終濃度10mMとなる量で添加して血小板細胞膜中のコレステロールを吸着させた。さまざまな濃度のMBCDを含む全血を、固相化したコラーゲン表面上に1,500 S−1,100 S−1のずり速度の条件で9分間灌流させ、コラーゲン層2上の血小板血栓3の形成状態を蛍光顕微鏡4で観察し、結果をデジタルビデオテープに記録した。血小板がコラーゲン層2を覆っている面積を計算し、血栓形成の定量的指標としたその結果100S−1及び1500S−1での9分間の灌流後、シクロデキストリンを含まない対照(Control)ではそれぞれ24±5%及び48+6%が血小板で覆われた。これに対し、10mMのメチルβ−シクロデキストリンを含む血流の灌流後には100S−1及び1500S−1のいずれの場合にも血小板血栓は殆んど形成されなかった。スタチン服用後(10mg/日)はそれぞれ18±4%及び33+6%が血小板で覆われた。
【0019】
図2は図1に示すフローチャンバーに設けたガラス板上に固相化したコラーゲン上に、シクロデキストリンを含まない対照(Control)、メチル−β−シクロデキストリン(MBCD)を5mM及び10mM含む血液を9分間ずり速度1500S−1及び100S−1で灌流させた際のコラーゲン上の血小板血栓(図の白い部分が血栓を示す)の形成状態を示す蛍光顕微鏡写真(40倍)を示す。図2の結果から明らかなようにMBCDの添加によって、特にMBCD10mMで血栓の形成状態が明らかに減少していることは明らかである。
【0020】
図3及び図4はそれぞれ対照(Control)(薬剤無添加)、スタチン(STATIN)添加(10mg/日服用)及びMBCD10mM添加の3種類の血液試料を上と同様にして図1のフローチャンバーを灌流させて(図3はずり速度100S−1、図4はずり速度1500S−1)、それぞれ1分、3分、6分及び9分後の血栓の形成状態を蛍光顕微鏡写真(40倍)に示した。図3及び図4からMBCDによる抗血栓効果が顕著であった。
【0021】
図2〜4に示すように、MBCDは、薬剤無添加の対照試料及び従来の市販抗血栓薬であるスタチン系薬物(ファイザー薬品製アトルバスタチン)を含む試料に比較して、容量依存的にコラーゲン上の血小板血栓の形成を抑制した。
【0022】
血小板膜表面上にはコレステロールとスフィンゴ脂質に富む(コレステロールリッチマイクロドメイン)(membrane raft)が存在し、刺激を受けるとGP Ib/IX複合体、GP VI/FcRgamma複合体がコレステロールリッチマイクロドメイン上集積して活性化シグナルを惹起する。血清コレステロールが低下し、血小板膜内のコレステロールが減少するとraftが減少する結果、コラーゲン、ヴォンビルブランド因子(von Willebrand)上の血小板血栓の形成が抑制されると考えられる。
【0023】
【発明の効果】
従来、広く使用されていた血小板機能評価法である血小板凝集は、ADP(アデノシン2リン酸),トロンビン(thrombin)などの活性化物質を添加することにより惹起される。この方法は血小板無力症などの出血性疾患の評価には有効であったが、血栓性疾患の評価、抗血小板薬の評価には適さなかった。本発明で評価された血流条件下の血小板集積抑制機能は、動脈硬化巣の破綻部位での動脈血栓の形成の評価、抗血栓薬の評価に適する。本発明で用いた評価法は、実際の動脈血栓の形成される条件と近い条件における血小板形成を評価しており、単純な糖質であるシクロデキストリンは脂質を取り囲む以外の作用は乏しく、コレステロール低下作用以外の作用を考える必要性が少ない。
【図面の簡単な説明】
【図1】血流条件下にコラーゲン表面上の血小板血栓の生成を評価する方法を示す図面である。
【図2】シクロデキストリンによる、血流条件下コラーゲン上での血栓形成の抑制状態を示す図面に代る写真である。
【図3】シクロデキストリンによる、血流条件下コラーゲン上での血栓形成の抑制状態を示す図面に代る写真である。
【図4】シクロデキストリンによる、血流条件下コラーゲン上での血栓形成の抑制状態を示す図面に代る写真である。
Claims (4)
- シクロデキストリン水溶液からなる血管内細胞膜中のコレステロールの量を低下させる抗血栓薬。
- 水溶液中のシクロデキストリン濃度が1〜50重量%である請求項1に記載の抗血栓薬。
- 血管内細胞膜中のコレステロールの量を低下させるためのシクロデキストリン水溶液の注射薬としての使用。
- 水溶液中のシクロデキストリン濃度が1〜50重量%である請求項3に記載の使用。
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