JP2004310823A - 強誘電体メモリ装置の加速試験方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】強誘電体メモリ装置の加速試験に必要な温度加速係数の導出を短時間に完了させると共に、加速試験全体に要する時間を大幅に短縮できるようにする。
【解決手段】強誘電体メモリ装置を構成する強誘電体容量素子を分極状態に保ちながら、強誘電体容量素子における逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性を測定する。その後、測定された温度依存性に基づいて温度加速係数を導出する。その後、導出された温度加速係数を用いて逆データの書き込み読み出し特性を評価するための温度加速試験を行なう。尚、Pwは、強誘電体メモリ装置における逆データの書き込み読み出し特性の劣化の度合いを示す。
【選択図】 図7
【解決手段】強誘電体メモリ装置を構成する強誘電体容量素子を分極状態に保ちながら、強誘電体容量素子における逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性を測定する。その後、測定された温度依存性に基づいて温度加速係数を導出する。その後、導出された温度加速係数を用いて逆データの書き込み読み出し特性を評価するための温度加速試験を行なう。尚、Pwは、強誘電体メモリ装置における逆データの書き込み読み出し特性の劣化の度合いを示す。
【選択図】 図7
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、強誘電体材料からなる容量絶縁膜を有する容量素子を備えた強誘電体メモリ装置の信頼性を評価するための加速試験方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年デジタル技術の進展に伴い、大容量の情報を高速に処理又は保存する傾向が高まる中で、電子機器に使用される半導体メモリ装置の高集積化及び高性能化が要求されている。このような状況の中で、半導体メモリ装置を構成する容量素子として、自発分極特性を有する強誘電体容量素子を用いた強誘電体メモリ装置が盛んに研究開発されている。強誘電体メモリ装置とは、強誘電体材料の分極方向が比較的小さな外部電圧の印加により容易に反転するという性質を利用することにより、ある分極方向をデータ“0”として、また、その反対の分極方向をデータ“1”として情報を記憶するメモリ装置のことである。このような強誘電体メモリ装置は、従来にない低電圧で且つ高速での書き込み読み出し動作が可能であるという特徴を有している。また、強誘電体容量素子が有する分極は、基本的に外部電圧を除去しても消失しない残留分極として残存する。このような性質を利用することにより、電源が切れた状態であっても記憶された情報を長時間保持することができる不揮発性メモリを実現することができる。
【0003】
一般に、このような強誘電体メモリ装置の信頼性試験においては、強誘電体容量素子の物理的性質を考慮した幾つかの特性試験が行なわれる。
【0004】
例えば、一つの特性試験は、記憶されたデータを連続的に反転書換えした後、正常動作が可能であるか否かを試験するエンデュランス特性試験である。強誘電体容量素子には、分極方向を連続的に反転させると残留分極量が徐々に減少していくという分極反転疲労と呼ばれる性質がある。エンデュランス特性試験はこの性質を考慮した信頼性試験である。ただし、強誘電体容量素子の分極反転疲労は強誘電体材料又は電極材料の改良によって大幅に向上してきているため、エンデュランス特性が強誘電体メモリ装置の信頼性を決定づける要因になることは少なくなってきている。
【0005】
また、別の特性試験は、データを記憶した状態が長期間継続された後に、記憶されたデータが有効に保持されているか否かを試験するデータ保持特性試験である。強誘電体容量素子には分極状態が続いた場合に保持分極量が徐々に減少する減極と呼ばれる性質がある。データ保持特性試験はこの性質を考慮した信頼性試験である。ただし、強誘電体容量素子には分極状態が続くとその分極方向が安定化して固定化されるというインプリントと呼ばれる性質がある。このため、強誘電体容量素子に保持された分極は基本的には安定化されるため、その減極量は通常極めて小さくなる。よって、データ保持特性が強誘電体メモリ装置の信頼性を決定づける要因となることは少ない。
【0006】
しかしながら、前述のインプリントと呼ばれる性質は、保持された分極方向を安定化して固定化させる性質であることからも容易に分かるように、分極方向を逆方向へ反転させる動作を阻害する。つまり、ある記憶データ(例えばデータ“0”)を長期間保持した後、その逆データ(データ“1”)を書き込んだり又は読み出したりする動作に多大な影響を及ぼすことになる。したがって、この点を考慮した第3の特性試験、すなわち、強誘電体メモリ装置がデータを保持する過程において、そのデータとは逆の分極方向を持つデータの書き込み読み出し特性を評価する試験(逆データの書き込み読み出し特性試験)が非常に重要となる。以上述べた3種類の信頼性試験の中では、逆データの書き込み読み出し特性が強誘電体メモリ装置の信頼性を決定づける要因になることが多いため、逆データの書き込み読み出し特性試験が最も重要な信頼性試験になっている。
【0007】
一方、前述のような信頼性試験を限られた時間内で実施するためには、一般に、実際の使用条件よりも過度のストレス条件のもとで行なわれるいわゆる加速試験が採用される。加速試験の一つとして、過度の温度条件のもとで行なわれる温度加速試験は極めて有効である。したがって、温度加速試験は最も頻繁に用いられる加速試験方法になっている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
温度加速試験は、ある実使用温度T1 に対して必要になる試験時間t1 を、この実使用温度T1 よりも高温の加速温度T2 で行なうことにより、試験時間t1 よりも短い試験時間t2 に短縮することを目的とするものである。このためには、実使用温度T1 での試験時間t1 に対応する加速温度T2 での試験時間t2 を決定するための温度加速係数K、すなわち試験時間t1 と試験時間t2 との関係を表す係数を予め導出しておく必要がある。温度加速係数Kが導出されれば、加速温度T2 での試験時間t2 は次式(1)で決定される。
【0009】
t2 =t1 /K ・・・(1)
このような温度加速係数Kを導出することは温度加速試験の実施において必須となる極めて重要な工程になっている。具体的に、従来の強誘電体メモリ装置の温度加速試験方法においては、強誘電体メモリ装置の寿命時間の温度依存性を測定し、その結果に基づいて温度加速係数Kを導出するという方法が用いられてきた。
【0010】
以下、従来の強誘電体メモリ装置の加速試験方法について詳しく説明する。
【0011】
まず、第1の工程として、強誘電体メモリ装置を用いて所定のメモリ特性に動作不良が起こるまでの時間、すなわち寿命時間の温度依存性を測定する。
【0012】
次に、第2の工程として、測定された寿命時間の温度依存性に基づいて温度加速係数Kを導出する。具体的には、まず温度依存性が測定された各温度での寿命時間の対数を温度の逆数に対してグラフ上にプロットする。これにより得られる関係は、次式(2)により表されるアーレニウスモデルに従うことがよく知られている。
【0013】
ln[L]=C+(Ea/k)・(1/T) ・・・(2)
ただし、Lは寿命時間を、Tは温度(絶対温度)を、Eaは活性化エネルギーを、kはボルツマン定数を、Cは定数を表す。
【0014】
このため、前記のプロットを直線回帰して得られる回帰直線の傾きから寿命時間Lの温度依存性を支配する活性化エネルギーEaを算出することができる。その後、算出された活性化エネルギーEaを用いることにより、実使用温度T1 での試験時間t1 と、加速温度T2 での試験時間t2 との関係を表す温度加速係数Kを次式(3)を用いて導出する。
【0015】
K=exp[(Ea/k)・(1/T1 −1/T2 )] ・・・(3)
最後に、第3の工程として、導出された温度加速係数Kを用いて、強誘電体メモリ装置の所定のメモリ特性を評価するための温度加速試験を行なう。具体的には、導出された温度加速係数Kの値を式(1)に代入して、実使用温度T1 での試験時間t1 に対応する加速温度T2 での試験時間t2 を算出する。その後、加速温度T2 にて温度加速試験を開始する。試験時間t2 を経過後、強誘電体メモリ装置に動作不良が発生していなければ、実使用温度T1 での試験時間t1 に相当する信頼性を保証することができる。
【0016】
【特許文献1】
特許第2880695号公報
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前述の従来の強誘電体メモリ装置の加速試験方法には以下のような問題があった。
【0018】
従来の強誘電体メモリ装置の加速試験方法では、加速試験に必要な温度加速係数Kは、実際の強誘電体メモリ装置を用いて該強誘電体メモリ装置の寿命時間Lの温度依存性を測定することにより導出されてきた。ところが、この方法では強誘電体メモリ装置が寿命に達する時点までは温度加速係数Kを導出するために必要な温度依存性に関する情報を得ることができない。このため、温度加速係数Kを導出する工程に長期の時間が必要になっていた。その結果、加速試験全体に必要な時間もまた極めて長期化するという問題があった。この問題は特に強誘電体メモリ装置が長寿命を有している場合に顕在化する。
【0019】
例えば、所定のメモリ特性に関して実使用温度70℃の条件下で50年の寿命を有する強誘電体メモリ装置の温度加速試験において、温度加速係数Kを導出するために175℃、150℃、及び125℃の3つの温度条件下における寿命時間Lの温度依存性を測定する場合を考えてみる。寿命時間Lの温度依存性を支配する活性化エネルギーEaが0.8eVであるとき、強誘電体メモリ装置の寿命時間は70℃の温度条件下では50年であるから、式(2)を用いて各温度条件下における寿命時間Lをそれぞれ概算すると、175℃では770時間(約1ヶ月)に、150℃では約2620時間(約3ヶ月半)に、125℃では約10400時間(約1年2ヶ月)になる。温度加速係数Kを導出するために必要な温度依存性に関する知見を完全に得るためには各温度条件下における寿命時間Lの測定を全て完了させる必要があるため、実際の温度加速試験が完了するまでの時間を、最も温度が低い125℃における寿命時間よりも短くすることができない。したがって、寿命時間Lの温度依存性を測定することにより温度加速係数Kを導出するという工程のみに、実に1年以上の時間が必要になってしまうことになる。
【0020】
以上の説明からも分かるように、従来の強誘電体メモリ装置の加速試験方法における問題の本質は、温度加速係数Kを導出するために必要な温度依存性を、強誘電体メモリ装置の寿命時間Lの温度依存性を測定するという方法で導き出しているところにある。言い換えると、従来の方法では動作が正常か否かという二者択一的な判断によって決まる寿命時間Lを測定していたため、寿命時間Lに到達するまでの途中状態に関する情報を得ることができなかったところにある。その結果、寿命時間Lに達しなければ、温度加速係数Kを導出するために必要な温度依存性に関する情報を何一つ得ることができなかった。よって、温度加速係数Kの導出に要する時間は、必然的に強誘電体メモリ装置の有する寿命時間Lに依存することになる。したがって、強誘電体メモリ装置が長寿命を有している場合は温度加速係数Kの導出に極めて長期の時間が必要になるため、加速試験全体に多大な時間が必要になる状況に陥ってしまう。
【0021】
前記問題を解決する一つの手段として、寿命時間Lの温度依存性を測定する際の温度を更に高温化して寿命時間Lに達する時点を早めるという方法が考えられる。ところが、実使用温度T1 からあまりに逸脱した過度の高温条件下における測定は、強誘電体メモリ装置を構成する強誘電体容量素子以外の部分に影響を及ぼす可能性がある。また、強誘電体容量素子にはキュリー温度と呼ばれる温度(通常250℃〜350℃)に達すると自発分極特性が失われる性質がある。このため、強誘電体容量素子の性質そのものを考慮しても測定温度の高温化には限界がある。したがって、高温条件下での温度加速試験は適切な方法であるとは言い難い。
【0022】
一方で、強誘電体メモリ装置を用いて温度加速係数Kに関する温度依存性を導出するために、正常動作可能な動作下限電圧の経時変化を測定することによって寿命時間Lに達する時点までの途中状態に関する情報を得るという考え方が特開2001−67896号公報に開示されている。この方法によると、寿命時間Lに達する以前に、温度加速係数Kを導出するための温度依存性に関する知見を確かに得ることが可能ではある。しかしながら、動作下限電圧の経時変化から温度依存性を支配する活性化エネルギーEaを算出して更に温度加速係数Kを導出するために必要な理論モデルの構築は、極めて複雑なため実用的ではない。また、前記の公報においても、その具体的方法は開示されてはいない。
【0023】
前記に鑑み、本発明は、強誘電体メモリ装置の加速試験に必要な温度加速係数Kの導出を短時間に完了させると共に、加速試験全体に要する時間を大幅に短縮できるようにすることを目的とする。
【0024】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本願発明者は、従来のように動作が正常か否かという二者択一的な判断によって決まる強誘電体メモリ装置の寿命時間を測定するのではなく、強誘電体メモリ装置を構成する強誘電体容量素子を用いて、寿命時間Lの経過以前における強誘電体容量素子の特定パラメータの経時変化を測定することにより温度加速係数を現実的に導出できる方法を着想した。この方法によると、強誘電体メモリ装置の有する寿命時間を一切待つことなく温度加速試験を容易に且つ確実に終了させることができる。
【0025】
本発明は、以上の発想に基づきなされたものであって、具体的に本発明の第1の強誘電体メモリ装置の加速試験方法は、強誘電体メモリ装置を構成する強誘電体容量素子を分極状態に保ちながら、強誘電体メモリ装置における所定のメモリ特性の劣化の度合いを示すパラメータの経時変化の温度依存性を測定する第1の工程と、第1の工程で測定された温度依存性に基づいて温度加速係数を導出する第2の工程と、第2の工程で導出された温度加速係数を用いて所定のメモリ特性を評価するための温度加速試験を行なう第3の工程とを備えていることを特徴とする強誘電体メモリ装置の加速試験方法である。
【0026】
第1の強誘電体メモリ装置の加速試験方法によると、強誘電体メモリ装置自体ではなく、それを構成する強誘電体容量素子を用いてメモリ特性の劣化の度合いを示すパラメータ(特定パラメータ)の経時変化の温度依存性を測定した後、測定結果に基づいて温度加速係数を導出する。すなわち、強誘電体メモリ装置の寿命時間とは無関係に温度加速係数を導出することができる。言い換えると、寿命時間を測定しなければ温度加速係数を導出することができないという従来の加速試験方法の問題点を本質的に解決することができる。したがって、温度加速係数を導出するための工程を短時間で終了させることができるので、加速試験の全工程に費やされる時間を大幅に短縮させることができる。
【0027】
第1の強誘電体メモリ装置の加速試験方法において、所定のメモリ特性は逆データの書き込み読み出し特性であり、特定パラメータは、強誘電体容量素子における逆方向保持分極の読み出し電荷量であることが好ましい。
【0028】
このようにすると、第1の工程において、強誘電体容量素子を分極状態に保ちながら、逆方向保持分極の読み出し電荷量(強誘電体容量素子に保持された分極を反転させてからの読み出し電荷量)の経時変化の温度依存性を測定できる。ここで、逆データの書き込み読み出し特性の劣化の度合いは、強誘電体容量素子におけるインプリントの進行挙動により決定づけられているため、インプリントの進行挙動を示す逆方向保持分極の読み出し電荷量の経時変化を測定することにより逆データの書き込み読み出し特性の劣化の度合いを知ることができる。したがって、強誘電体メモリ装置の信頼性試験の中で最も重要な逆データの書き込み読み出し特性を評価するための温度加速試験においても、前述の効果が確実に得られる。
【0029】
第1の強誘電体メモリ装置の加速試験方法において、第2の工程は、第1の関数P=P0 ・exp[−(R・t)n ](Pは特定パラメータを、Rは減衰速度を、tは時間を、P0 はtの値が0のときのPを、nは温度に依存しない定数を表す)を、温度依存性を測定した各温度での特定パラメータの経時変化にフィッティングさせることにより得られるRの温度依存性に基づいて、又は第2の関数P=P1 −m・ln[t](Pは特定パラメータを、P1 は単位時間経過後のPを、tは時間を、mは温度に依存しない定数を表す)を、温度依存性を測定した各温度での特定パラメータの経時変化にフィッティングさせることにより得られるP1 /mの温度依存性に基づいて、温度加速係数を導出する工程を含むことが好ましい。この場合、第2の工程は、Rの対数又はP1 /mを、各温度(絶対温度)の逆数に対してプロットすることにより得られる回帰直線の傾きから算出される活性化エネルギーを用いて温度加速係数Kを導出する工程を含むことが好ましい。
【0030】
このようにすると、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pの経時変化の温度依存性についての測定結果に基づいて、温度加速係数Kを容易に且つ高精度に算出することができる。したがって、容易で且つ高精度な加速試験を行なうことができる
また、この場合、第2の工程は、特定パラメータの経時変化が時間の対数に対して実質的に直線的な変化でない場合には、特定パラメータの経時変化に第1の関数をフィッティングさせる一方、特定パラメータの経時変化が時間の対数に対して実質的に直線的な変化である場合には、特定パラメータの経時変化に第2の関数をフィッティングさせる工程を含むことが好ましい。
【0031】
このようにすると、特定パラメータPの経時変化にフィッティングさせる関数を正確に且つ容易に選択することができる。このため、温度加速係数Kを正確に且つ容易に導出することができる。
【0032】
第1の強誘電体メモリ装置の加速試験方法において、所定のメモリ特性はエンデュランス特性であり、特定パラメータは、強誘電体容量素子に保持された残留分極量であることが好ましい。
【0033】
このようにすると、第1の工程において、強誘電体容量素子を分極状態に保ちながら、残留分極量の経時変化の温度依存性を測定できる。ここで、エンデュランス特性の劣化の度合いは、強誘電体容量素子における分極反転疲労の進行挙動により決定づけられているため、分極反転疲労の進行挙動を示す残留分極量の経時変化を測定することによりエンデュランス特性の劣化の度合いを知ることができる。したがって、エンデュランス特性を評価するための温度加速試験においても、前述の効果が確実に得られる。
【0034】
第1の強誘電体メモリ装置の加速試験方法において、所定のメモリ特性はデータ保持特性であり、特定パラメータは、強誘電体容量素子における保持分極の読み出し電荷量であることが好ましい。
【0035】
このようにすると、第1の工程において、強誘電体容量素子を分極状態に保ちながら、強誘電体容量素子における保持分極の読み出し電荷量(強誘電体容量素子に保持された分極の読み出し電荷量)の経時変化の温度依存性を測定できる。ここで、データ保持特性の劣化の度合いは、強誘電体容量素子における減極の進行挙動により決定づけられているため、減極の進行挙動を示す保持分極の読み出し電荷量の経時変化を測定することによりデータ保持特性の劣化の度合いを知ることができる。したがって、データ保持特性を評価するための温度加速試験においても、前述の効果が確実に得られる。
【0036】
本発明の第2の強誘電体メモリ装置の加速試験方法は、強誘電体メモリ装置を構成する強誘電体容量素子を分極状態に保ちながら、強誘電体メモリ装置における所定のメモリ特性の劣化の度合いを示すパラメータが所定の閾値に達するまでの時間(閾値到達時間)の温度依存性を測定する第1の工程と、第1の工程で測定された温度依存性に基づいて温度加速係数を導出する第2の工程と、第2の工程で導出された温度加速係数を用いて所定のメモリ特性を評価するための温度加速試験を行なう第3の工程とを備えていることを特徴とする強誘電体メモリ装置の加速試験方法である。
【0037】
第2の強誘電体メモリ装置の加速試験方法によると、第1の工程において強誘電体メモリ自体ではなく、それを構成する強誘電体容量素子を用いてメモリ特性の劣化の度合いを示すパラメータ(特定パラメータ)が所定の閾値に達するまでの閾値到達時間の温度依存性を測定した後、測定結果に基づいて温度加速係数を導出する。すなわち、強誘電体メモリ装置の寿命時間とは無関係に温度加速係数を導出することができる。言い換えると、寿命時間を測定しなければ温度加速係数を導出できなかった従来の加速試験方法の問題点を本質的に解決することができる。また、閾値到達時間の温度依存性を測定しているため、特定パラメータの温度依存性に対応する詳細な理論モデルが不明な場合であっても、温度加速係数を極めて容易に導出することができる。したがって、温度加速係数を極めて容易に導出することができると共に、温度加速係数を導出するための工程を短時間で終了させることができるので、加速試験の全工程に費やされる時間を大幅に短縮させることができる。
【0038】
第2の強誘電体メモリ装置の加速試験方法において、所定のメモリ特性は、逆データの書き込み読み出し特性であり、特定パラメータは、強誘電体容量素子における逆方向保持分極の読み出し電荷量であることが好ましい。
【0039】
このようにすると、第1の工程において、強誘電体容量素子を分極状態に保ちながら、逆方向保持分極の読み出し電荷量(強誘電体容量素子に保持された分極を反転させてからの読み出し電荷量)が所定の閾値に達するまでの時間の温度依存性を測定できる。ここで、逆データの書き込み読み出し特性の劣化の度合いは、強誘電体容量素子におけるインプリントの進行挙動により決定づけられているため、インプリントの進行挙動を示す逆方向保持分極の読み出し電荷量が所定の閾値に達するまでの時間を測定することにより逆データの書き込み読み出し特性の劣化の度合いを知ることができる。したがって、強誘電体メモリ装置の信頼性試験の中で最も重要な逆データの書き込み読み出し特性を評価するための温度加速試験においても、前述の効果が確実に得られる。
【0040】
第2の強誘電体メモリ装置の加速試験方法において、所定のメモリ特性はエンデュランス特性であり、特定パラメータは、強誘電体容量素子に保持された残留分極量であることが好ましい。
【0041】
このようにすると、第1の工程において、強誘電体容量素子を分極状態に保ちながら、残留分極量が所定の閾値に達するまでの時間の温度依存性を測定できる。ここで、エンデュランス特性の劣化の度合いは、強誘電体容量素子における分極反転疲労の進行挙動により決定づけられているため、分極反転疲労の進行挙動を示す残留分極量が所定の閾値に達するまでの時間を測定することによりエンデュランス特性の劣化の度合いを知ることができる。したがって、エンデュランス特性を評価するための温度加速試験においても、前述の効果が確実に得られる。
【0042】
第2の強誘電体メモリ装置の加速試験方法において、所定のメモリ特性はデータ保持特性であり、特定パラメータは、強誘電体容量素子における保持分極の読み出し電荷量であることが好ましい。
【0043】
このようにすると、第1の工程において、強誘電体容量素子を分極状態に保ちながら、保持分極の読み出し電荷量が所定の閾値に達するまでの時間の温度依存性を測定できる。ここで、データ保持特性の劣化の度合いは、強誘電体容量素子における減極の進行挙動により決定づけられているため、減極の進行挙動を示す保持分極の読み出し電荷量が所定の閾値に達するまでの時間を測定することによりデータ保持特性の劣化の度合いを知ることができる。したがって、データ保持特性を評価するための温度加速試験においても、前述の効果が確実に得られる。
【0044】
第2の強誘電体メモリ装置の加速試験方法における第1の工程において、所定の閾値は、温度依存性が測定された各温度において特定パラメータが所定の閾値に達するまでの時間を求めることができる範囲内の値に設定されることが好ましい。
【0045】
このようにすると、温度依存性を測定した全測定温度で閾値到達時間を求めることができるため、温度加速係数をより正確に導出することができる。したがって、強誘電体メモリ装置の信頼性をより正確に評価することができる。
【0046】
第2の強誘電体メモリ装置の加速試験方法における第2の工程は、特定パラメータが所定の閾値に達するまでの時間の対数を、温度依存性を測定した各温度(絶対温度)の逆数に対してプロットする工程と、前記時間の対数を各温度の逆数に対してプロットすることにより得られた回帰直線の傾きから活性化エネルギーを算出する工程と、算出された活性化エネルギーを用いて温度加速係数を導出する工程とを含むことが好ましい。
【0047】
このようにすると、時間の対数を温度(絶対温度)の逆数に対してプロットし、そのプロットを直線回帰して得られた回帰直線の傾きから、活性化エネルギーを容易に且つ高精度に算出することができる。このため、温度加速係数を容易に且つ高精度に導出することができる。
【0048】
第1及び第2の強誘電体メモリ装置の加速試験方法における第1の工程において、強誘電体容量素子と同一構造の単一の測定用容量素子又は該測定用容量素子が複数個2次元的に配列された測定用容量素子群を用いることが好ましい。
【0049】
このようにすると、第1の工程において用いる測定用容量素子として、強誘電体メモリ装置を構成する強誘電体容量素子と同一構造のものを用いている。又は、その測定用容量素子が複数個2次元的に配列した測定用容量素子群を用いている。このため、測定用容量素子として前記の強誘電体容量素子以外のものを用いた場合のように、温度依存性つまり温度加速係数が実際の強誘電体メモリ装置の値から変化してしまうことがない。このため、高精度な加速試験を実施することができる。
【0050】
この場合、測定用容量素子は強誘電体メモリ装置と同じ基板上に形成されていることが好ましい。
【0051】
このようにすると、製造ロット又はウェハ間で温度依存性つまり温度加速係数がばらつく場合であっても、加速試験の対象となる実際の強誘電体メモリ装置の温度依存性に合致する温度依存性すなわち温度加速係数を導出することができる。このため、高精度な加速試験を実施することができる。
【0052】
【発明の実施の形態】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法、特に強誘電体メモリ装置の信頼性試験の中で最も重要な逆データの書き込み読み出し特性を評価するための加速試験方法について図面を参照しながら説明する。
【0053】
図1は、第1の実施形態で加速試験の対象となる強誘電体メモリ装置を構成する2トランジスタ/2キャパシタ(2T/2C)型の強誘電体メモリセルの回路図である。
【0054】
図1に示すように、強誘電体メモリセル100は、第1の強誘電体容量素子101aと、第2の強誘電体容量素子101bと、第1の強誘電体容量素子101aにアクセスするためのトランスファーゲートになる第1のnMOSトランジスタ102aと、第2の強誘電体容量素子101bにアクセスするためのトランスファーゲートになる第2のnMOSトランジスタ102bとから構成される。第1のnMOSトランジスタ102a及び第2のnMOSトランジスタ102bは、それぞれのゲートに接続されたワード線103に印加される電圧によりON/OFF動作が制御される。
【0055】
また、第1のnMOSトランジスタ102aにはビット線104aが接続され、一方、第2のnMOSトランジスタ102bには反ビット線104bが接続されている。第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bにはプレート線105が接続されている。ビット線104a、反ビット線104b、及びプレート線105には、ワード線103に印加される電圧に連動して、それぞれに所定の電圧が印加される。これにより、第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bにそれぞれ特定の方向を持つ分極が保持されて、強誘電体メモリセル100にデータが保存される。第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bにデータの書き込み読み出し動作があると、ビット線104a及び反ビット線104bに取り出された電荷が、ビット線104a及び反ビット線104bに接続されたセンスアンプ106により電位差として検出される。このような動作によりデータが書き込まれ又は読み出される強誘電体メモリセル100から強誘電体メモリ装置は構成されている。
【0056】
図2は、図1に示す強誘電体メモリセル100からなる強誘電体メモリ装置の逆データの書き込み読み出し特性を評価するための3つの工程からなる加速試験方法のフローチャートを示す図である。以下、図2に示すフローチャートに従い各工程の概略を初めに説明してから、詳しい説明に入る。
【0057】
図2に示す1番目の温度依存性測定工程S10では、強誘電体メモリ装置自体ではなく、それを構成する強誘電体メモリセル100(以下、測定用メモリセルと称する)を用いる。そして、このような測定用メモリセルを用いて、まず、第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bにそれぞれ特定の分極方向を持つ分極を保持させると共に、その分極状態を保ちながら逆方向保持分極の読み出し電荷量の経時変化の温度依存性を測定する。具体的には、強誘電体メモリセル100を構成する第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bに保持させた分極を反転させた後におけるそれぞれの分極状態を読み出したときに検出される電荷量の差分(つまり逆方向保持分極の読み出し電荷量)の経時変化の温度依存性を測定する。
【0058】
次に、2番目の温度加速係数導出工程S20では、温度依存性測定工程S10において測定された逆方向保持分極の読み出し電荷量の経時変化の温度依存性に基づいて、温度加速係数Kを導出する。
【0059】
最後に、3番目のメモリ特性評価工程S30では、温度加速係数導出工程S20において導出された温度加速係数Kを用いて加速温度T2 での試験時間t2 を算出し、図1に示す強誘電体メモリセル100から構成される強誘電体メモリ装置における逆データの書き込み読み出し特性を評価するための温度加速試験を、算出された試験時間t2 に基づいて行なう。
【0060】
以下、1番目の温度依存性測定工程S10について詳しく説明する。
【0061】
前述の通り、温度依存性測定工程S10では、図1に示す第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bにそれぞれ互いに異なる方向を持つ分極を保持させると共に、その分極状態を保ちながら逆方向保持分極の読み出し電荷量の経時変化の温度依存性を測定する。
【0062】
図3は、温度依存性測定工程S10において行なわれる7つのステップのフローチャートを示す図である。具体的に温度依存性測定工程S10は、逆方向保持分極の読み出し電荷量の経時変化の初期値を測定する第1〜第3のステップ(S11〜S13)と、逆方向保持分極の読み出し電荷量の経時変化を測定するために繰り返して行なわれる第4〜第7のステップ(S14〜S17)とから構成される。
【0063】
図3に示すように、第1〜第3のステップ(S11〜S13)では、まず、第1のステップS11として、第1の強誘電体容量素子101aに正極性の単発パルス電圧を印加すると同時に、第2の強誘電体容量素子101bに負極性の単発パルス電圧を印加する。このとき、それぞれの強誘電体容量素子に保持される分極方向を初期方向とする。
【0064】
その直後、第2のステップS12として、第1の強誘電体容量素子101aに負極性の単発パルス電圧を印加すると同時に、第2の強誘電体容量素子101bに正極性の単発パルス電圧を印加する。
【0065】
その直後、第3のステップS13として、第1の強誘電体容量素子101aに再度正極性の単発パルス電圧を印加すると同時に、第2の強誘電体容量素子101bにも再度正極性の単発パルス電圧を印加する。このとき、第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bからそれぞれの分極状態が読み出される。すなわち、負方向の分極状態の第1の強誘電体容量素子101aから検出される電荷量と、正方向の分極状態の第2の強誘電体容量素子101bから検出される電荷量との差分(逆方向保持分極の読み出し電荷量)を測定する。
【0066】
図4は、第1〜第3のステップ(S11〜S13)における第1の強誘電体容量素子101aの分極ヒステリシス曲線(実線)と、第1の強誘電体容量素子101aに正方向の分極を保持させたためにインプリントの影響を受けて電圧軸の負方向にシフトしたヒステリシス曲線(破線)とを示す図である。
【0067】
図5は、第1〜第3のステップ(S11〜S13)における第2の強誘電体容量素子101bの分極ヒステリシス曲線(実線)と、第2の強誘電体容量素子101bに負方向の分極を保持させたためにインプリントの影響を受けて電圧軸の正方向にシフトしたヒステリシス曲線(破線)とを示す図である。
【0068】
図6は、第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bに保持されたそれぞれの分極を反転させた後、その反転した分極状態を読み出したときに検出された電荷量(逆方向保持分極の読み出し電荷量)を示すグラフである。
【0069】
図4に示すように、正極性の単発パルス電圧を印加する第1のステップS11により、実線で示す分極−電圧曲線(ヒステリシス曲線)におけるA点に相当する正方向の分極が第1の強誘電体容量素子101aに保持される。その後、負極性の単発パルス電圧を印加する第2のステップS12により、実線で示すヒステリシス曲線におけるB点に相当する反転した負方向の分極が保持される。その後、正極性の単発パルス電圧を印加する第3のステップS13により、第1の強誘電体容量素子101aに保持された分極量が、実線で示すヒステリシス曲線上を高電圧側に進む。この軌跡を、図6の曲線G(ヒステリシス曲線の一部)に示す。尚、図6に示す曲線Gの始点(左端の点)は、図4に示すB点である。ここで、正極性の単発パルス電圧の印加により、B点に相当する分極状態の第1の強誘電体容量素子101aから検出された電荷量は、図6に示すPsの大きさで定義される。
【0070】
一方、図5に示すように、負極性の単発パルス電圧を印加する第1のステップS11により、実線で示すヒステリシス曲線におけるD点に相当する負方向の分極が第2の強誘電体容量素子101bに保持される。その後、正極性の単発パルス電圧を印加する第2のステップS12により、実線で示すヒステリシス曲線におけるE点に相当する反転した正方向の分極が保持される。その後、正極性の単発パルス電圧を印加する第3のステップS13により、第2の強誘電体容量素子101bに保持された分極量が、実線で示すヒステリシス曲線上を高電圧側に進む。この軌跡を、図6の曲線H(ヒステリシス曲線の一部)に示す。尚、図6に示す曲線Hの始点(左端の点)は、図5に示すE点である。ここで、正極性の単発パルス電圧の印加により、E点に相当する分極状態の第2の強誘電体容量素子101bから検出された電荷量は、図6に示すPnの大きさで定義される。
【0071】
このように、第1のステップS11から第3のステップS13までの一連の手順により、負方向の分極状態の第1の強誘電体容量素子101aから検出された電荷量はPsになり、一方、正方向の分極状態の第2の強誘電体容量素子101bから検出された電荷量はPnになる。このため、2T/2C型の強誘電体メモリセル100(測定用メモリセル)における逆方向保持分極の読み出し電荷量は、負方向の分極状態の第1の強誘電体容量素子101aから検出された電荷量Psと正方向の分極状態の第2の強誘電体容量素子101bから検出された電荷量Pnとの差分Pwで定義される。また、最初に測定した逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを初期値P0 (つまりインプリントが進行する以前におけるPwの値)とする。また、第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bのそれぞれが初期方向と同じ分極方向を保持した累積時間を累積保持時間tとする。尚、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの初期値P0 を測定したときの累積保持時間tを初期値t0 (=0)する。
【0072】
以上のように、第1のステップS11から第3のステップS13までの一連の手順を踏むことにより逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの初期値P0 を測定し、その後、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化を測定するために第4〜第7のステップ(S14〜S17)を繰り返して行なう。
【0073】
以下、第4〜第7のステップ(S14〜S17)について説明する。
【0074】
まず、第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bのそれぞれの分極方向を初期方向に戻すために、第4のステップS14として、第1のステップS11と同じように、第1の強誘電体容量素子101aに正極性の単発パルス電圧を印加すると同時に、第2の強誘電体容量素子101bに負極性の単発パルス電圧を印加する。
【0075】
その後、第5のステップS15として、第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bの分極方向(つまり初期方向)を所定の時間そのまま維持する。
【0076】
その後、第6のステップS16として、第2のステップS12と同じように、第1の強誘電体容量素子101aに負極性の単発パルス電圧を印加すると同時に、第2の強誘電体容量素子101bに正極性の単発パルス電圧を印加する。
【0077】
その直後、第7のステップS17として、第3のステップS13と同じように、第1の強誘電体容量素子101aに再度正極性の単発パルス電圧を印加すると同時に、第2の強誘電体容量素子101bにも再度正極性の単発パルス電圧を印加する。このとき、負方向の分極状態の第1の強誘電体容量素子101aから検出される電荷量と、正方向の分極状態の第2の強誘電体容量素子101bから検出される電荷量との差分(逆方向保持分極の読み出し電荷量)を測定する。
【0078】
第1の強誘電体容量素子101aには、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの初期値P0 を測定する第3のステップS13の直後、第4のステップS14として正極性の単発パルス電圧が印加されるため、図4のA点に相当する正方向の分極が第1の強誘電体容量素子101aに再度保持される。これにより、第1の強誘電体容量素子101aに保持された分極が初期方向に戻る。その後、第5のステップS15として、所定の時間、例えば累積保持時間tがt0 からt’になるまで第1の強誘電体容量素子101aの分極方向をそのまま維持する。その結果、図4の破線で示すように、ヒステリシス曲線が電圧軸の負方向にシフトする。ヒステリシス曲線がシフトするのは、累積保持時間tがt0 からt’になるまでの間、第1の強誘電体容量素子101aに一定方向の分極が保持された結果である。すなわち、一定時間一定方向の分極が保持されることにより、その分極がインプリントの影響を受けるためである。また、ヒステリシス曲線が電圧軸の負方向にシフトするのは、一定時間正方向の分極が保持されるからである。このため、第6のステップS16として負極性の単発パルス電圧が印加されると、第1の強誘電体容量素子101aに保持された分極量が破線で示すヒステリシス曲線上をたどるため、第1の強誘電体容量素子101aには分極反転したC点に相当する分極が保持される。図4に示す実線のヒステリシス曲線と破線のヒステリシス曲線とを比較すると明らかなように、インプリントが進行した後は、負方向のC点に相当する分極量の絶対値がB点に相当する分極量の絶対値よりも小さくなる。これは、A点に相当する正方向の分極を保持する第1の強誘電体容量素子101aが一定時間インプリントの影響を受けることで、正方向の分極が安定化されるため、正方向の分極が逆方向へ反転しにくくなるからである。その結果、第7のステップS17として正極性の単発パルス電圧が印加されると、第1の強誘電体容量素子101aに保持された分極量の軌跡は、図6に示す曲線I(始点は図4のC点)になる。ここで、正極性の単発パルス電圧の印加により、C点に相当する分極状態を読み出して検出された電荷量は、図6に示すPs’の大きさで定義される。初期値P0 を測定したとき検出された電荷量PsよりもPs’が小さくなっているのは、第5のステップS15で正方向の分極を保持している間に第1の強誘電体容量素子101aがインプリントの影響を受けて、負方向の残留分極として保持できる分極量が少なくなったからである。
【0079】
一方、第2の強誘電体容量素子101bには、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの初期値P0 を測定する第3のステップS13の直後、第4のステップS14として負極性の単発パルス電圧が印加されるため、図5のD点に相当する負方向の分極が第2の強誘電体容量素子101bに再度保持される。これにより、第2の強誘電体容量素子101bに保持された分極が初期方向に戻る。その後、第5のステップS15として、累積保持時間tがt0 からt’になるまで第2の強誘電体容量素子101bの分極方向をそのまま維持する。その結果、図5の破線で示すように、ヒステリシス曲線が電圧軸の正方向にシフトする。ヒステリシス曲線がシフトするのは、前述のように、累積保持時間tがt0 からt’になるまでの間、第2の強誘電体容量素子101bに一定方向の分極が保持されることにより、D点に相当する分極を保持する第2の強誘電体容量素子101bがインプリントの影響を受けるためである。また、ヒステリシス曲線が電圧軸の正方向にシフトするのは、一定時間負方向の分極が保持されるからである。このため、第6のステップS16として正極性の単発パルス電圧が印加されると、第2の強誘電体容量素子101bに保持された分極量が破線で示すヒステリシス曲線上をたどるので、第2の強誘電体容量素子101bには分極反転したF点に相当する分極が保持される。図5に示す実線のヒステリシス曲線と破線のヒステリシス曲線とを比較すると明らかなように、インプリントが進行した後は、正方向のF点に相当する分極量の絶対値がE点に相当する分極量の絶対値よりも小さくなる。これは、D点に相当する負方向の分極を保持する第2の強誘電体容量素子101bが一定時間インプリントの影響を受けることで、負方向の分極が安定化されるため、負方向の分極が逆方向へ反転しにくくなるからである。その結果、第7のステップS17として正極性の単発パルス電圧が印加されることにより第2の強誘電体容量素子101bに保持された分極量の軌跡が、図6に示す曲線J(始点は図5のF点)になる。ここで、正極性の単発パルス電圧の印加により、F点に相当する分極状態を読み出して検出された電荷量は、図6に示すPn’の大きさで定義される。初期値P0 を測定したときに検出された電荷量PnよりもPn’が大きくなっているのは、第5のステップS15で負方向の分極を保持している間に第2の強誘電体容量素子101bがインプリントの影響を受けて、正方向の残留分極として保持できる分極量が少なくなったからである。
【0080】
したがって、前述のように、累積保持時間tがt’の場合における逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwは、Ps’とPn’との差分で表されるので、図6に示すPw’の大きさになる。このときのPw’は、Ps’がPsよりも小さく且つPn’がPnよりも大きいために、Pwの初期値P0 よりも小さくなる。言い換えると、インプリントが進行するに従い、測定される逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwが減少する。すなわち、累積保持時間tと共に減少する逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化を測定することにより、インプリントの進行挙動を容易に測定することができる。また、第7のステップS17の後、第4のステップS14から第7のステップS17までの手順を、目的の測定時間まで目的の測定回数だけ同様に繰り返して逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを測定すれば(S18)、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化を測定することができる。
【0081】
また、以上説明した各ステップは、一定の温度条件下で行なわれるため、別途準備した同じ測定用メモリセルを用いて複数の温度条件下で同様に測定することにより、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性を測定することができる。
【0082】
尚、温度依存性測定工程S10において、繰り返して行なわれる第6〜第7のステップ(S16〜S17)によりPwの測定が行なわれる累積保持時間tの値は、後述する温度加速係数導出工程S20において適切なフィッティングを行なえる範囲内において任意に設定できる。また、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性を測定するための各測定温度も、温度加速係数導出工程S20において適切なフィッティングを行なえる範囲内において任意に設定できる。
【0083】
以下、温度加速係数導出工程S20について詳しく説明する。
【0084】
温度加速係数導出工程S20は、温度依存性測定工程S10において測定された逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性に基づいて、本願発明者により見出された理論モデルを用いて温度加速係数Kを導出する工程である。
【0085】
すなわち、温度依存性測定工程S10の測定結果に基づいて温度加速係数Kを導出するためには、Pwの経時変化の温度依存性に基づいて活性化エネルギーEaを導出するための理論モデルが必要である。このため、本願発明者は、かかる理論モデルについての詳細な解析結果から、Pwの経時変化に関して次式(4)及び(6)で表される関数が成立すると共に、Pwの温度依存性に関しては次式(5)及び(7)で表される関数が成立することを見出した。
(I) Pw≧Pxのとき
Pwの経時変化 Pw=P0 ・exp[−(R・t)n ] ・・・(4)
Pwの温度依存性 R=R0 ・exp[−Ea/(k・T)] ・・・(5)
(II)Pw<Pxのとき
Pwの経時変化 Pw=P1 −m・ln[t] ・・・(6)
Pwの温度依存性 m=(一定) ・・・(7)
ただし、式(4)において、Rは減衰速度を、tは累積保持時間を、nは温度によって変化しない定数を表す。尚、式(4)は通常の指数関数減衰式の一種の変形式であって、stretched exponential関数と呼ばれていると共に、式(4)に含まれるnはstretching factorと呼ばれている。また、式(5)において、R0 は定数を、Eaは活性化エネルギーを、kはボルツマン定数を、Tは温度(絶対温度)を表す。また、式(6)において、P1 は単位時間経過後のPwを、mは減衰速度を表す。尚、減衰速度mは式(7)に示すように、温度によって変化しない定数である。
【0086】
図7は、温度依存性測定工程S10において測定された逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化及びその温度依存性の理論モデルの概略を示す図である。
【0087】
図7に示すように、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化に関しては、Pwが境界値Pxに減衰するまでは式(4)で表されるstretchedexponential関数に従うと共に、それ以降は式(6)で表されるような累積保持時間tの対数に対して直線的に変化する関数(以下、logarithmic関数と称する)に従う。すなわち、インプリントの進行挙動を示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化には、境界値Pxを境に互いに異なる変化(挙動)を示す2つの領域、具体的にはstretched exponential領域とlogarithmic領域とがある。尚、境界値Pxはstretched exponential領域に含まれていてもよいし、又はlogarithmic領域に含まれていてもよい。
【0088】
また、図7に示すように、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの温度依存性に関しては、stretched exponential領域では、式(5)に示すように、減衰速度Rがアーレニウス因子(exp[−Ea/(k・T)])に比例する関数で表されることが見出された。一方、logarithmic領域では、式(7)に示すように、減衰速度m(すなわち図7に示すグラフでは累積保持時間tの対数に対する勾配)が温度に対して一定であること、言い換えると減衰速度mが温度依存性を持たないことが見出された。また、測定した温度が低いほどstretched exponential領域からlogarithmic領域へ移行するまでの累積保持時間tが短くなるにもかかわらず、stretched exponential領域からlogarithmic領域へ移行する境になる境界値Pxの値は温度により変化しない。
【0089】
このように、本願発明者により、インプリントの進行挙動を示すPwの経時変化の温度依存性に基づいて、Pwの温度依存性を支配する活性化エネルギーEaを容易に算出することができる理論モデルが見出された。
【0090】
かかる理論モデルに基づき活性化エネルギーEaを算出する具体的な方法について、以下説明する。
【0091】
stretched exponential領域のPwの経時変化から活性化エネルギーEaを算出する場合、まずPwを測定した各温度条件下でのPwの経時変化に式(4)に示す関数をフィッティングさせることにより、各温度条件下での減衰速度Rを求める。具体的には式(4)を変形した次式(8)に従って、累積保持時間tの対数に対してln[−ln(Pw/P0 )]をグラフ上にプロットする。
【0092】
ln[−ln(Pw/P0 )]=n・ln[t]+n・ln[R]・・・(8)
これにより直線回帰して得られる回帰直線の傾きから、定数nを求めることができる。このため、定数nと切片の値から更に減衰速度Rを求めることができる。
【0093】
次に、求められた各温度条件下における減衰速度Rを、式(5)を変形した次式(9)に従って、温度Tの逆数に対してln[R]をグラフ上にプロットする(いわゆるアーレニウスプロットをする)。
【0094】
ln[R]=ln[R0 ]−Ea/(k・T) ・・・(9)
これにより直線回帰して得られる回帰直線の傾きから活性化エネルギーEaを算出することができる。
【0095】
一方、logarithmic領域のPwの経時変化から活性化エネルギーEaを算出する場合には、まずPwを測定した各温度条件下でのPwの経時変化を式(6)に従って、累積保持時間tの対数に対してPwをグラフ上にプロットする。これにより直線回帰して得られる回帰直線の傾きと切片とから、各温度条件下での減衰速度mとP1 を求めることができる。これにより求められた減衰速度mには温度依存性がないのに対して、P1 には温度依存性があるため、P1 の温度依存性に基づいて活性化エネルギーEaを以下のようにして算出することができる。
【0096】
逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化がstretched exponential領域からlogarithmic領域へ移行するときの累積保持時間tをtx とした場合、累積保持時間t=tx を式(8)に代入した式は次式(10)になる。また、累積保持時間t=tx を式(6)に代入した式は式(11)になる。
【0097】
式(10)及び式(11)からtx を消去した後、更に式(9)のRを代入して変形すると、P1 の温度依存性を表す次式(12)が得られる。
【0098】
式(12)の右辺の初めの3項は全て温度によって変化しない定数であるので、式(12)におけるP1 /mと温度Tの逆数とが直線関係になる。すなわち、その傾きが活性化エネルギーEa(正確にはEa/k)になることを示している。したがって、各温度条件下において求められたP1 及びmの値から計算されたP1 /mを用いて活性化エネルギーEaを算出することができる。
【0099】
次に、算出された活性化エネルギーEaを例えば公知の式(3)(「従来の技術」参照)に代入することによって、保証すべき実使用温度T1 での試験時間t1 と、加速温度T2 での試験時間t2 との関係を表す温度加速係数Kを導出する。
【0100】
以下、3番目のメモリ特性評価工程S30について詳しく説明する。
【0101】
尚、メモリ特性評価工程S30における強誘電体メモリ装置は、強誘電体メモリセル100から構成される強誘電体メモリ装置に対して行なわれる。
【0102】
メモリ特性評価工程S30については、前述の通り、温度加速係数導出工程S20で導出された温度加速係数Kを用いて加速温度T2 での試験時間t2 を算出し、強誘電体メモリ装置における逆データの書き込み読み出し特性を評価するための温度加速試験を、算出された試験時間t2 に基づいて行なう。
【0103】
具体的に、保証すべき実使用温度T1 での試験時間t1 に相当する加速温度T2 での試験時間t2 は、温度加速係数導出工程S20で導出した温度加速係数Kを用いて例えば公知の式(1)(「従来の技術」参照)から算出することができる。その後、算出されたt2 に基づいて、特定方向の分極に相当するデータを強誘電体メモリ装置に書き込んだ状態で加速温度T2 での温度加速試験を開始する。その後、試験時間t2 が経過した時点で温度加速試験を終了して、書き込んだデータとは逆の分極方向を持つデータの書き込み読み出し動作(逆データの書き込み読み出し動作)が正常に行なえるかどうかを評価する。このとき、逆データの書き込み読み出し動作に異常がなければ、実使用温度T1 での試験時間t1 に相当する信頼性が保証される。
【0104】
以上説明したように、第1の実施形態によると、温度依存性測定工程S10において、強誘電体メモリ装置自体ではなく、それを構成する強誘電体メモリセル100(測定用メモリセル)を用いて逆データの書き込み読み出し特性の劣化の度合いを示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性を測定し、その後、測定結果に基づいて温度加速係数Kを導出する。すなわち、強誘電体メモリ装置の寿命時間とは無関係に温度加速係数Kを導出することができる。言い換えると、寿命時間を測定しなければ温度加速係数Kを導出することができないという従来の加速試験方法の問題点を本質的に解決することができる。したがって、温度加速係数Kを導出するための工程を短時間で終了させることができるので、加速試験の全工程に費やされる時間を大幅に短縮させることができる。
【0105】
また、第1の実施形態によると、上記の逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの測定結果に基づいて温度加速係数Kを導出するために、本願発明者により見出された理論モデル、つまり式(4)及び(6)で表される関数を用いている。このため、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性の測定結果に基づいて、温度依存性がより具体的になったR及びP1 /mの温度依存性を算出することができる。
【0106】
また、第1の実施形態によると、上記の関係式(4)又は(6)を用いて具体的に導き出されたR又はP1 /mの温度依存性に基づいて温度加速係数Kを導出するために、本願発明者により見出された理論モデル、つまり式(5)及び(7)で表される関数を用いている。このため、式(4)又は(6)を用いて導出された温度依存性に基づいて、活性化エネルギーEaを容易に且つ高精度に算出することができる。よって、算出された活性化エネルギーEaに基づいて温度加速係数Kを容易に且つ高精度に導出することができる。よって、温度加速係数Kを導出する温度加速係数導出工程S20を短期間で終了させることができるため、加速試験全体に要する時間を大幅に短縮することができる上に、容易で高精度な加速試験を実現することができる。
【0107】
また、第1の実施形態によると、温度加速係数導出工程S20において、stretched exponential領域におけるPwの経時変化及びその温度依存性を示す式(4)及び式(5)に基づいた場合であっても、又はstretched exponential領域におけるPwの経時変化及びその温度依存性を示す式(6)及び式(7)に基づいた場合であっても、いずれの場合にも活性化エネルギーEaを算出することができる。ただしこの場合、いずれの関数を用いて活性化エネルギーEaを算出するかは、Pwを測定した測定時間の範囲内におけるPwの経時変化が累積保持時間tの対数に対して実質的に直線的な変化であるか否かによって判断することが好ましい。なぜならば、Pwの測定時間のうちの一定の時間範囲内におけるPwの経時変化が累積保持時間tの対数に対して実質的に直線的に変化するか否かは測定条件等によって変動する場合があるからである。このような場合、正確なフィッティングをするためには、いずれの関数を用いるのかを判断するための基準が必要になる。そこで、第1の関数が曲線的な変化を示すのに対して、第2の関数が直線的な変化を示すことを利用する。すなわち、Pwの経時変化が実質的に直線的な変化ではない場合には前述のstretched exponential領域のPwの経時変化から算出する方法、すなわち式(4)に示す関数をフィッティングさせる方法を選択する。一方、直線的な変化である場合には前述のlogarithmic領域のPwの経時変化から算出する方法、すなわち式(6)に示す関数をフィッティングさせる方法を選択する。これにより、いかなる場合においても高精度な活性化エネルギーEaを容易に算出することができる。
【0108】
また、第1の実施形態によると、測定用メモリセルとして、強誘電体メモリ装置を構成する強誘電体メモリセル100(101a及び101b)を用いている。このため、測定用メモリセルとして強誘電体メモリセル100以外のものを用いた場合のように、温度依存性つまり温度加速係数Kが実際の強誘電体メモリ装置の値から変化してしまうことがない。この場合、すなわち測定用メモリセルを用いる場合、測定用メモリセルを構成する測定用容量素子(第1及び第2の強誘電体容量素子101a及び101b)は、強誘電体メモリ装置と同一の基板上に形成されていることが好ましい。このようにすると、製造ロット又はウェハ間で温度依存性つまり温度加速係数Kがばらつくような場合であっても、加速試験の対象となる実際の強誘電体メモリ装置の温度依存性に合致する温度依存性すなわち温度加速係数Kを導出することができる。したがって、高精度な加速試験を実施することができる。
【0109】
尚、第1の実施形態において、温度依存性測定工程S10で逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを測定するために用いたのは2T/2C型の測定用メモリセルであったが、例えば1T/1C型の強誘電体メモリセル等の他の型を持つ測定用メモリセルであってもよい。また、測定用メモリセルではなく、それを構成する強誘電体容量素子のみから構成される測定用容量素子だけを用いて温度加速係数Kを導出してもよい。このような場合であっても、本実施形態において使用した各式を用いて温度加速係数Kを導出することができる。尚、1T/1C型の測定用メモリセルを用いる場合は、単一の強誘電体容量素子の測定結果に基づいて温度加速係数Kを導出できる。
【0110】
また、第1の実施形態における温度依存性測定工程S10において、測定用メモリセルは、単体であってもよいし、又はメモリセルアレイを構成していてもよい。
【0111】
また、第1の実施形態において、強誘電体メモリ装置の逆データの書き込み読み出し特性を評価するための温度加速試験を行なうために、インプリントの進行挙動を示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを測定した。しかし、インプリントの進行挙動を示す他の特定パラメータ、例えばインプリントの進行挙動を示すヒステリシス曲線の電圧軸方向シフト量、又は所定の電流若しくは電圧を測定した場合にも、前述の効果が確実に得られる。また、強誘電体メモリ装置の他のメモリ特性の劣化の度合いを示すパラメータの経時変化の温度依存性を測定すれば、その強誘電体メモリ装置の他のメモリ特性を評価するための温度加速試験を行なうことができる。
【0112】
例えば、強誘電体メモリ装置のエンデュランス特性を評価するための加速試験を行なう場合には、エンデュランス特性の劣化の度合いを示す例えば第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bの残留分極量の経時変化の温度依存性を測定すればよい。すなわち、エンデュランス特性の劣化の度合いが強誘電体容量素子の分極反転疲労により決定づけられているため、分極反転疲労の進行挙動を示す残留分極量の経時変化の温度依存性を測定すればよい。そして、このような残留分極量の経時変化の温度依存性を測定すると共に、これにより得られた測定結果を式(4)〜(7)に示すような関数を用いて解析すれば、温度加速係数Kを導出するために費やされる時間を大幅に短縮することができるため、第1の実施形態により得られる効果と同様の効果が得られる。
【0113】
また、例えば、強誘電体メモリ装置のデータ保持特性を評価するための温度加速試験を行なう場合には、データ保持特性の劣化の度合いを示す例えば第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bにおける保持分極の読み出し電荷量を測定すればよい。すなわち、データ保持特性の劣化の度合いが強誘電体容量素子の減極の進行挙動により決定づけられるため、減極の進行挙動を示す保持分極の読み出し電荷量の経時変化の温度依存性を測定すればよい。そして、このような保持分極の読み出し電荷量の経時変化の温度依存性を測定すると共に、これにより得られた測定結果を式(4)〜(7)に示すような関数を用いて解析すれば、温度加速係数Kを導出するために費やされる時間を大幅に短縮することができるため、第1の実施形態により得られる効果と同様の効果が得られる。
【0114】
(第1実施例)
以下、本発明の第1の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法の第1実施例について図面を参照しながら説明する。
【0115】
本実施例は、強誘電体メモリ装置を構成する2T/2C型の強誘電体メモリセル100の動作、具体的には、強誘電体メモリセル100に保持させたデータを108 回書き換えた後、且つデータを70℃の温度条件下で10年間保持させた後における動作を保証するために、データを108 回書き換えた後における逆データの書き込み読み出し特性を評価する温度加速試験を、加速温度150℃で実施したものである。
【0116】
尚、温度依存性測定工程S10において用いた測定用メモリセルを構成する測定用容量素子は、メモリ特性評価工程S30において用いる強誘電体メモリ装置と同じ基板上に形成され、強誘電体メモリ装置を構成する強誘電体容量素子と同一の構造を有し、且つ測定用メモリセルがメモリセルアレイで形成された測定用容量素子群からなる。測定用容量素子のサイズは0.7μm×1.0μmで、1アレイ当たりの測定用容量素子数は2500個である。また、測定に先立ち、測定用容量素子群には±1.8Vの両極性連続パルス電圧を印加することにより、108 回のデータ書換に相当する分極反転処理を前処理として行なっている。また、分極の保持、反転、及び読み出しに用いた正極性の単発パルス電圧は+1.8Vであり、一方、負極性の単発パルス電圧は−1.8Vである。
【0117】
図8は、第1の実施形態の第1実施例において、温度依存性測定工程S10において測定された逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを累積保持時間tに対してプロットしたグラフである。尚、図8に示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwは、第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bの単位面積(1cm2 )当たりの電荷量に換算している。
【0118】
図8に示すように、第1の実施形態の第1実施例における温度依存性測定工程S10において、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの測定を行なった累積保存時間tは、2時間、24時間、120時間、及び336時間である。また、85℃、110℃、125℃、及び150℃の温度条件下で測定を行なった。図8からも分かるように、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwは時間の経過と共に減少する。これは、測定用容量素子を用いても、逆データの書き込み読み出し特性の劣化の度合いを示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化を測定することにより、インプリントの進行挙動に関する途中経過についての情報を容易に得ることができることを意味している。
【0119】
また、図8に示すように、測定された2時間から336時間までの範囲におけるPwの経時変化が、累積保持時間tの対数に対して実質的に直線的な変化ではないことが分かる。すなわち、この測定時間の範囲内では、stretchedexponential領域のPwの経時変化が主に観測されていると判断することができる。したがって、温度加速係数導出工程S20において温度加速係数Kを導出するための活性化エネルギーEaの算出方法として、stretched exponential領域の経時変化から算出する方法、すなわち式(4)に示す関数をフィッティングさせる方法を選択した。その結果を図9に示す。
【0120】
図9は、図8に示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化に基づいてln[−ln(Pw/P0 )]を累積保持時間tに対してプロットしたグラフを示す図である。また、直線回帰することにより得られた回帰直線も併せて破線で示す。
【0121】
図9に示すように、温度加速係数導出工程S20においては、測定されたPwの経時変化の温度依存性に基づいて、ln[−ln(Pw/P0 )]を累積保持時間tの対数に対してグラフ上にプロットすると共に、そのプロットに式(8)に示す関数をフィッティングさせる。これにより得られた回帰直線の傾きから定数nを、また切片からは[n・ln(R)]を各温度条件下で算出する。
【0122】
図10は、図9の回帰直線の傾き及び切片から算出した定数n及び減衰速度Rの温度依存性を示す表である。
【0123】
図10に示すように、定数n及び[n・ln(R)]から、各温度条件下での減衰速度Rを算出することができる。
【0124】
図11は、図10に示す減衰速度Rを温度(絶対温度)の逆数(1/T)に対してプロットしたグラフと、そのプロットを直線回帰して得られた回帰直線とを示す図である。尚、横軸である温度の逆数(1/T)は103 倍にしてある。
【0125】
図11に示すように、図10に示す各温度条件下での算出結果に基づいて、温度の逆数(1/T)に対してRの対数をグラフ上にアーレニウスプロットすると共に、式(9)に示す関数をフィッティングさせる。この際、フィッティングさせることにより得られた回帰直線の傾きから、0.84eVの活性化エネルギーEaが算出された。
【0126】
次に、算出された活性化エネルギーEa=0.84eV、保証すべき実使用温度T1 =70℃、及び加速温度T2 =150℃を例えば公知の式(3)に代入する。これにより得られた次式(13)から、温度加速係数Kは215.5と算出された。
【0127】
最後に、メモリ特性評価工程S30として、算出された温度加速係数Kの値を用いて強誘電体メモリ装置のデータ保持過程での逆データの書き込み読み出し特性を評価するための温度加速試験を行なった。
【0128】
具体的には、まず、強誘電体メモリ装置に対して108 回のデータ書換処理を行なった後、特定方向の分極に相当するデータを書き込んだ状態で加速温度T2 =150℃での温度加速試験を開始した。実使用温度70℃で10年間保存することを想定した場合、温度加速試験を終了するまでの試験時間t2 は、式(1)を用いた次式(14)に従って406.5時間になるため、407時間経過した時点でデータの保存を終了した。
【0129】
t2 =87600/215.5=406.5/(時間) ・・・(14)
保存終了後、初めに書き込んだデータとは逆方向の分極方向を持つデータの書き込み読み出し動作(逆データの書き込み読み出し動作)が正常に行なえるかどうかを評価したところ、動作不良は発生していないことが確認された。したがって、データを108 回書き換えた後のデータ保持過程における逆データの書き込み読み出し特性に関して、70℃の温度条件下で10年間の信頼性が保証された。
【0130】
以上説明したように、第1実施例によると、強誘電体メモリ装置の加速試験に必要な温度加速係数Kを導出するために必要な時間は、温度依存性測定工程S10におけるPwの経時変化の温度依存性を測定するのに必要な時間、すなわちPwの経時変化の温度依存性を測定するのに必要な時間でほぼ決定される。よって、温度加速係数Kを導出するために必要な時間は、406.5時間になる。
【0131】
一方、従来の強誘電体メモリ装置の加速試験方法を用いて温度加速係数Kを導出するために必要な時間は、強誘電体メモリ装置の寿命時間の温度依存性を測定するのに必要な時間により決定される。そこで、強誘電体メモリ装置の寿命時間を測定するため、本実施例におけるメモリ特性評価工程S30において、150℃の高温条件下での保存を更に継続したところ、逆データの書き込み読み出し動作の動作不良が発生するデータ保持時間、すなわち実際の強誘電体メモリ装置の150℃での寿命時間が、約2000時間であることが確認された。つまり、強誘電体メモリ装置の寿命時間の温度依存性を測定する場合、その測定温度として150℃を含む設定にすると、測定完了までに少なくとも2000時間が必要になる。また、測定温度として150℃よりも低い温度を設定してしまうと、温度加速係数Kを導出するために更に長い時間が必要になってしまう。したがって、従来の加速試験方法では、温度加速係数Kを導出するためだけであっても極めて長期の時間が必要になってしまうことが明らかに分かる。
【0132】
これに対して、本実施例では、温度依存性測定工程S10において用いているのが測定用メモリセルを構成する測定用容量素子である。また、強誘電体メモリ装置の逆データ書き込み読み出し特性の劣化を決定づけているインプリントの進行挙動を示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを、寿命時間に達する前に温度依存性測定工程S10において測定することができる。このため、温度加速係数Kを導出するために必要な時間は、もはや強誘電体メモリ装置の寿命時間とは無関係である。すなわち、温度加速係数Kを導出するための測定を短時間で確実に完了させることができると共に、その測定結果から具体的な温度加速係数Kを容易に且つ高精度に導出することができるため、短時間で容易且つ高精度な加速試験を実施できることが分かる。
【0133】
(第2実施例)
以下、本発明の第1の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法の第2実施例について図面を参照しながら説明する。
【0134】
本実施例は、強誘電体メモリ装置を構成する2T/2C型の強誘電体メモリセル100の動作、具体的には、強誘電体メモリセル100に保持させたデータを1010回書き換えた後、且つデータを70℃の温度条件下で10年間保持させた後における動作を保証するために、データを1010回書き換えた後における逆データの書き込み読み出し特性を評価する温度加速試験を、加速温度150℃で実施したものである。
【0135】
尚、温度依存性測定工程S10において用いた測定用メモリセルを構成する測定用容量素子は、メモリ特性評価工程S30において用いる強誘電体メモリ装置と同じ基板上に形成され、強誘電体メモリ装置を構成する強誘電体容量素子と同一の構造を有し、且つ測定用メモリセルがメモリセルアレイで形成された測定用容量素子群からなる。測定用容量素子のサイズは0.7μm×1.0μmで、1アレイ当たりの測定用容量素子数は2500個である。また、測定に先立ち、測定用容量素子群には±1.8Vの両極性連続パルス電圧を印加することにより、1010回のデータ書換に相当する分極反転処理を前処理として行なっている。また、分極の保持、反転、及び読み出しに用いた正極性の単発パルス電圧は+1.8Vであり、一方、負極性の単発パルス電圧は−1.8Vである。
【0136】
図12は、第1の実施形態の第2実施例における温度依存性測定工程S10において測定された逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを、累積保持時間tに対してプロットしたグラフである。尚、図12に示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwは、第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bの単位面積(1cm2 )当たりの電荷量に換算している。
【0137】
図12に示すように、第1の実施形態の第2実施例における温度依存性測定工程S10において、Pwの測定を行なった累積保存時間tは、2時間、24時間、120時間、及び336時間である。また、85℃、110℃、125℃、及び150℃の温度条件下で測定を行なった。
【0138】
また、図12に示すように、測定された2時間から336時間までの範囲におけるPwの経時変化が、累積保持時間tの対数に対して実質的に直線的な変化であることが分かる。すなわち、この測定時間の範囲内では、logarithmic領域の経時変化が主に観測されていると判断することができる。したがって、温度加速係数導出工程S20において温度加速係数Kを導出するための活性化エネルギーEaの算出方法として、logarithmic領域のPwの経時変化から算出する方法、すなわち式(6)に示す関数をフィッティングさせる方法を選択する。その結果を図13に示す。
【0139】
図13は、図12に示すグラフと、そのグラフのプロットを直線回帰して得られた回帰直線とを示す図である。尚、回帰直線は破線で示している。
【0140】
図13に示すように、温度加速係数導出工程S20においては、各温度におけるPwの経時変化に式(6)に示す関数をフィッティングさせる。尚、図13に示すように、85℃の温度条件下では、2〜24時間において、logarithmic領域に移行する以前のstretched exponential領域のPwの経時変化が観測されている。このため、累積保持時間tが2時間のときのデータを除いてフィッティングを行なった。これにより得られた各温度条件下での回帰直線の傾きからはmが、切片からはP1 が算出される。これにより、P1 /mを算出することができる。
【0141】
図14は、図13に示す回帰直線の傾き及び切片から算出された減衰速度m及びP1 の温度依存性を示す表である。
【0142】
図15は、図14に示すP1 /mを温度(絶対温度)の逆数(1/T)に対してプロットしたグラフと、そのプロットを直線回帰して得られた回帰直線とを示す図である。尚、横軸である温度の逆数(1/T)は103 倍にしてある。
【0143】
図15に示すように、図14に示す各温度条件下での算出結果に基づいて、温度Tの逆数に対してP1 /mをグラフ上にアーレニウスプロットすると共に、式(12)に示す関数をフィッティングさせる。この際、フィッティングから得られた回帰直線の傾きから、0.87eVの活性化エネルギーEaが算出された。
【0144】
次に、メモリ特性評価工程S30において、算出された活性化エネルギーEa=0.87、保証すべき実使用温度T1 =70℃、及び加速温度T2 =150℃を例えば公知の式(3)に代入する。これにより得られた次式(15)から、温度加速係数Kは261.1と算出された。
【0145】
最後に、メモリ特性評価工程S30として、算出された温度加速係数Kの値を用いて強誘電体メモリ装置のデータ保持過程での逆データの書き込み読み出し特性を評価するための温度加速試験を行なった。
【0146】
具体的には、まず、強誘電体メモリ装置に対して1010回のデータ書換処理を行なった後、特定方向の分極に相当するデータを書き込んだ状態で加速温度T2 =150℃での保存を開始した。実使用温度70℃で10年間保存することを想定した場合、保存を終了するまでの試験時間t2 は、例えば公知の式(1)を用いた次式(16)に従って335.5時間になるため、336時間経過した時点でデータの保存を終了した。
【0147】
t2 =87600/261.1=335.5/(時間) ・・・(16)
保存終了後、逆データの書き込み読み出し動作が正常に行なえるかどうかを評価したところ、動作不良は発生していないことが確認された。したがって、データを1010回書き換えた後のデータ保持過程における逆データの書き込み読み出し特性に関して、70℃の温度条件下で10年間の信頼性が保証された。
【0148】
第2の実施例によると、分極反転動作を1010回行なった後にPwの経時変化の測定を開始したため、温度依存性測定工程S10において測定されたPwの経時変化は、累積保持時間tの対数に対して曲線的なstretched exponential領域の変化ではなく、直線的なlogarithmic領域の変化として観測された。ところが、前述の第1実施例では、分極反転動作を108 回行なった後に測定を開始したため、測定された2時間〜336時間の時間範囲におけるPwの経時変化の実質的な変化は、累積保持時間tの対数に対して直線的なlogarithmic領域の変化ではなく、曲線的なstretched exponential領域の変化として観測された。
【0149】
このように、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの一定の時間範囲における経時変化がstretched exponential領域の経時変化であるかlogarithmic領域の経時変化であるかは事前の分極反転動作などの付帯的測定条件によって変化する場合がある。しかし、前述の理論モデルに基づいて、その経時変化に対応した活性化エネルギーEaの算出方法を適切に選択することによって、いずれの経時変化であったとしても温度加速係数Kを容易に導出することができると共に、導出された温度加速係数Kを用いることにより高精度な加速試験を実施できることが分かる。
【0150】
尚、本実施例においても、温度加速係数Kの導出が短時間で完了できると共に、従来の加速試験方法と比較して加速試験全体に要する時間が大幅に短縮できていることは言うまでもない。
【0151】
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法、特に強誘電体メモリ装置の信頼性試験の中で最も重要な逆データの書き込み読み出し特性を評価するための加速試験方法について図面を参照しながら説明する。
【0152】
図2は、第2の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法を構成する3つの工程のフローチャートを示す図である(第1の実施形態とフローが同じため併用している)。以下、図2に示すフローチャートに従い各工程の概略を初めに説明してから、詳しい説明に入る。
【0153】
図2に示すように、まず、1番目の温度依存性測定工程S10では、図1に示す測定用メモリセル(強誘電体メモリセル100)を用いて、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwが所定の閾値に達するまでの時間(以下、閾値到達時間と称する)の温度依存性を測定する。
【0154】
次に、2番目の温度加速係数導出工程S20では、温度依存性測定工程S10で測定された閾値到達時間の温度依存性に基づいて温度加速係数Kを導出する。
【0155】
最後に、3番目のメモリ特性評価工程S30では、温度加速係数導出工程S20において導出された温度加速係数Kを用いて加速温度T2 での試験時間t2 を算出し、図1に示す強誘電体メモリセル100から構成される強誘電体メモリ装置が有する逆データの書き込み読み出し特性を評価するための温度加速試験を、算出された試験時間t2 に基づいて行なう。
【0156】
尚、1番目の温度依存性測定工程S10において逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを測定する詳しい説明は第1の実施形態において説明したため省略する。また、3番目のメモリ特性評価工程S30においても同様とする。
【0157】
以下、1番目の温度依存性測定工程S10について説明する。
【0158】
前述の通り、温度依存性測定工程S10では、測定用メモリセルを用いて、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwが所定の閾値Pfに達するまでの閾値到達時間(tf とする)の温度依存性を測定する。具体的には、まず、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性を測定した後、閾値到達時間tf を求めるために、測定された逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwのうちの1つの値を閾値Pfとして設定する。その後、設定された閾値Pfに基づいて、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwが測定された各温度における閾値到達時間tf を算出する。
【0159】
尚、streched exponential領域におけるPwの値を閾値Pfに設定してもよいし、又はlogarithmic領域のPwの値を閾値Pfに設定してもよい。いずれにしても、以下説明する温度加速係数導出工程S20において温度加速係数Kを正確に導出することができる。
【0160】
以下、温度加速係数導出工程S20について説明する。
【0161】
前述の通り、温度加速係数導出工程S20では、温度依存性測定工程S10で算出された閾値到達時間tf の温度依存性に基づいて温度加速係数Kを導出する。
【0162】
具体的には、閾値Pfの値が、streched exponential領域におけるPwの範囲内で設定された場合と、logarithmic領域におけるPwの範囲内で設定された場合とに分けられる。尚、streched exponential領域とstreched exponential領域との境になるPwの値を境界値Pxとする。
【0163】
まず、閾値Pfの値がstreched exponential領域におけるPwの範囲内で設定された場合、すなわちPf≧Pxの場合、Pw=f及びt=tf を式(4)に代入すると、次式(17)が成立する。
【0164】
Pf=P0 ・exp[−(R・tf )n ] ・・・(17)
更に、式(5)に示すRを式(17)に代入して整理すると、次式(18)が得られる。
【0165】
ここで、式(18)の右辺における1項及び2項は温度に関係なく一定である。このため、閾値到達時間tf の対数と温度Tの逆数とは直線関係にあることが分かる。よって、その直線の傾きが活性化エネルギーEa(正確にはEa/k)になる。したがって、閾値到達時間tf の逆数を温度Tの逆数に対してプロットすることにより、活性化エネルギーEaを算出することができる。
【0166】
他方、閾値Pfの値がlogarithmic領域におけるPwの範囲内にある場合、すなわち、Pf<Pxの場合、Pw=Pf及びt=tf を式(6)に代入すると、次式(19)が成立する。
【0167】
Pf=P1 −m・ln[tf ] ・・・(19)
更に、式(12)に示すP1 を式(19)に代入して整理すると、次式(20)が得られる。
【0168】
ここで、式(20)の右辺における1項、2項及び3項もまた温度に関係なく一定である。このため、閾値到達時間tf の対数と温度Tの逆数とは直線関係にあることが分かる。よって、その直線の傾きが活性化エネルギーEa(正確にはEa/k)になる。したがって、閾値到達時間tf の逆数を温度Tの逆数に対してプロットすることにより、活性化エネルギーEaを算出することができる。
【0169】
以上、Pf≧Pxの場合と、Pf<Pxの場合とに分けて説明したが、閾値Pfの値がいずれの領域におけるPwの値に設定されていたとしても、閾値到達時間tf と温度Tとの関係は次式(21)になることが分かる。
【0170】
ln[tf ]=C+(Ea/k)・(1/T) ・・・(21)
このため、いずれの場合であっても、閾値到達時間tf の対数を温度Tの逆数に対してプロット(アーレニウスプロット)することにより、活性化エネルギーEaを容易に算出することができる。よって、算出された活性化エネルギーEaを代入した例えば公知の式(3)(「従来の技術」参照)を用いて、温度加速係数Kを容易に導出することができる。
【0171】
以上説明したように、第2の実施形態のようにすると、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化又は温度依存性についての詳細な理論モデルが不明な場合であっても、Pwが閾値Pfに達するまでの閾値到達時間tf の温度依存性に基づいて、式(21)に示すアーレニウスモデルを用いることにより活性化エネルギーEaを算出することができる。このため、第1の実施形態のように、式(4)又は(6)に示すような関数を逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化にフィッティングさせる必要がない。また、温度加速係数Kを導出するために、R又はP1 /mの温度依存性を知る必要もない。したがって、温度加速係数Kを導出するための工程を簡略化することができると共に、短時間で且つ高精度な強誘電体メモリ装置の温度加速試験を極めて容易に且つ確実に実施することができる。
【0172】
また、第2の実施形態によると、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化が、stretched exponential領域の経時変化を示す場合であっても、logarithmic領域の経時変化を示す場合であっても、いずれも同じ式(21)に示すアーレニウスモデルに従う。このため、Pwの経時変化の実質的な変化がstretched exponential領域の経時変化に従っているのか、又はlogarithmic領域の経時変化に従っているのかを判断する必要がない。その結果、容易に温度加速係数Kを導出することができる。なぜならば、本実施形態によると、閾値到達時間tf の温度依存性に基づいて温度加速係数Kを導出するという工程には、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwが閾値Pfに達するまでの途中変化を測定する必要がない。このため、設定された閾値Pfに達するまでの閾値到達時間tf さえ求めることができれば、式(21)に示すアーレニウスモデルの関係から確実に活性化エネルギーEaを算出することができる。その結果、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化を測定した時間範囲において、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの実質的な経時変化がstretched exponential領域の経時変化に従っているのか、又はlogarithmic領域の経時変化に従っているのかを判断する必要がなくなる。したがって、いずれの領域の経時変化に従っていても、本実施形態においては逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の挙動とは無関係に、温度加速係数Kを導出することができる。
【0173】
尚、第2の実施形態における温度依存性測定工程S10において、閾値Pfは、温度依存性が測定された各温度において閾値到達時間tf を求めることができる範囲内の値に設定されることが好ましい。
【0174】
このようにすると、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性が測定された全温度において、それぞれの閾値到達時間tf を算出することができる。このため、温度加速係数Kをより正確に導出することができる。したがって、強誘電体メモリ装置の信頼性をより正確に評価することができる。
【0175】
また、第2の実施形態において、強誘電体メモリ装置の逆データの書き込み読み出し特性を評価するための温度加速試験を行なうために、インプリントの進行挙動を示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを測定した。しかし、インプリントの進行挙動を示す他の特定パラメータ、例えばインプリントの進行挙動を示すヒステリシス曲線の電圧軸方向シフト量、又は所定の電流若しくは電圧を測定した場合にも、前述の効果が確実に得られる。
【0176】
また、第2の実施形態において、強誘電体メモリ装置の逆データの書き込み読み出し特性を評価するための加速試験方法を行なったが、強誘電体メモリ装置のエンデュランス特性又はデータ保持特性を評価するための加速試験方法も、前述と同様にして実施することができる。なぜならば、閾値到達時間tf の温度依存性が必然的に式(21)に示すアーレニウスモデルに従うという事実は、逆データの書き込み読み出し特性の劣化を決定づけているインプリントの進行挙動を示す特定パラメータ、例えば逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを測定することにだけ限定されるものではないからである。よって、エンデュランス特性の劣化を決定づけている分極反転疲労の進行挙動を示す特定パラメータ、例えば残留分極量が所定の閾値に達するまでの時間の温度依存性、及びデータ保持特性の劣化を決定づけている減極の進行挙動を示す特定パラメータ、例えば保持分極の読み出し電荷量が所定の閾値に達するまでの時間の温度依存性についてもアーレニウスモデルが成立する。
【0177】
したがって、強誘電体メモリ装置のエンデュランス特性を評価するための加速試験を行なう場合には、エンデュランス特性の劣化が強誘電体容量素子の分極反転疲労により決定づけられているため、分極反転疲労の進行挙動を示す特定パラメータ、例えば分極反転疲労の進行に伴って減少する強誘電体容量素子における残留分極量が所定の閾値に達するまでの時間の温度依存性を測定すればよい。このようにすれば、測定された温度依存性に基づいて温度加速係数Kを導出することができる。このため、残留分極量の経時変化の温度依存性に関する理論モデルが不明な場合であっても、残留分極量が所定の閾値に達するまでの時間の温度依存性を測定することにより温度加速係数Kを容易に且つ確実に導出することができる。したがって、本実施形態と同様の効果が得られる。
【0178】
また、強誘電体メモリ装置のデータ保持特性を評価するための加速試験を行なう場合には、データ保持特性の劣化が強誘電体容量素子に保持された分極が示す減極により決定づけられているため、減極の進行挙動を示す特定パラメータ、例えば強誘電体容量素子における保持分極の読み出し電荷量が所定の閾値に達するまでの時間の温度依存性を測定すればよい。このようにすれば、測定された温度依存性に基づいて温度加速係数Kを導出することができる。このため、保持分極の読み出し電荷量の経時変化の温度依存性に関する理論モデルが不明な場合であっても、保持分極の読み出し電荷量が所定の閾値に達するまでの時間の温度依存性を測定することにより温度加速係数Kを容易に且つ確実に導出することができる。したがって、本実施形態と同様の効果が得られる。
【0179】
尚、第2の実施形態においては、境界値Pxをstreched exponential領域におけるPwの値に含めたが、logarithmic領域におけるPwの値に含めてもよい。
【0180】
(第1実施例)
以下、第2の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法の第1実施例について図面を参照しながら説明する。
【0181】
本実施例は、強誘電体メモリ装置を構成する2T/2C型の強誘電体メモリセル100(図1参照)の動作、具体的には、強誘電体メモリセル100に保持させたデータを108 回書き換えた後、且つデータを70℃の温度条件下で10年間保持させた後における動作を保証するために、データを108 回書き換えた後における逆データの書き込み読み出し特性を評価する温度加速試験を、加速温度150℃で実施したものである。尚、本実施例においても、第1の実施形態の第1実施例における強誘電体メモリセル100(測定用メモリセル)と同じものを用いて、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性を測定した。このため、測定された逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性は図8に示すものと同じである。
【0182】
図16は、本実施例において、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを累積保持時間tに対してプロットしたグラフを示す図(図8と同じ)である。また、全測定温度において閾値到達時間tf が求められるように設定された直線、Pw(=Pf)=14.5μC/cm2 も併せて示す。
【0183】
図16に示すように、Pw=14.5μC/cm2 で示す直線が、各測定温度における逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化を示す直線と交点を持つ。この各交点に対応した閾値到達時間tf を、図17に示す。
【0184】
図17は、図16に示す閾値到達時間tf の温度依存性を示す表である。
【0185】
また、図18は、図17に示す閾値到達時間tf の対数を温度(絶対温度)の逆数(1/T)に対してプロット(アーレニウスプロット)したグラフを示す図である。尚、横軸である温度の逆数(1/T)は103 倍にしてある。
【0186】
図18に示すように、図17に示す閾値到達時間tf の対数を各温度Tの逆数に対してプロットすると共に、そのプロットにより得られた回帰直線の傾きから式(21)を用いて活性化エネルギーEaを算出する。これにより、第1の実施形態の第1実施例と同じ0.84eVの活性化エネルギーEaが得られた。
【0187】
次に、得られた活性化エネルギーEaを代入した例えば公知の式(3)から、保証すべき実使用温度T1 (=70℃)での試験時間t1 と加速温度T2 (=150℃)での試験時間t2 との間の関係を表す温度加速係数Kを算出する。具体的には、公知の式(3)に活性化エネルギーEaを代入した次式(22)から、温度加速係数Kは215.5と算出された。
【0188】
このように、第2の実施形態の第1実施例によると、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性についての理論モデルが不明な場合であっても、設定された閾値PfにPwが達するまでの閾値到達時間tf を各温度条件下で求めることにより、式(21)に示すアーレニウスモデルに従って活性化エネルギーEaを算出することができる。このため、第1の実施形態のように、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化に式(4)に示すような関数をフィッティングさせる必要がない。また、温度加速係数Kを導出するために、Rの温度依存性を知る必要もない。したがって、温度加速係数Kを導出するための工程を簡略化することができると共に、短時間で且つ高精度な強誘電体メモリ装置の温度加速試験を更に容易に実施することができる。
【0189】
(第2実施例)
以下、第2の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法の第2実施例について図面を参照しながら説明する。
【0190】
本実施例は、強誘電体メモリ装置を構成する2T/2C型の強誘電体メモリセル100(図1参照)の動作、具体的には、強誘電体メモリセル100に保持させたデータを1010回書き換えた後、且つデータを70℃の温度条件下で10年間保持させた後における動作を保証するために、データを1010回書き換えた後における逆データの書き込み読み出し特性を評価する温度加速試験を、加速温度150℃で実施したものである。尚、本実施例においても、第1の実施形態の第1実施例における強誘電体メモリセル100(測定用メモリセル)と同じものを用いて、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性を同様に測定した。このため、測定された逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性は図12に示すものと同じである。
【0191】
図19は、本第2実施例において、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを累積保持時間tに対してプロットしたグラフを示す図(図12と同じ)である。また、全測定温度において閾値到達時間tf を求めることができるように設定された直線、Pw(=Pf)=12.5μC/cm2 も併せて示す。
【0192】
図19に示すように、Pw=12.5μC/cm2 で示す直線が、各測定温度における逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化を示す直線と交点を持つ。この交点に対応した閾値到達時間tf を、図20に示す。
【0193】
図20は、図19に示す閾値到達時間tf の温度依存性を示す表である。
【0194】
また、図21は、図20に示す閾値到達時間tf の対数を温度(絶対温度)の逆数(1/T)に対してプロット(アーレニウスプロット)したグラフを示す図である。尚、横軸である温度の逆数(1/T)は103 倍にしてある。
【0195】
図21に示すように、図20に示す閾値到達時間tf の対数を各温度Tの逆数に対してプロットすると共に、そのプロットにより得られた回帰直線の傾きから式(21)を用いて活性化エネルギーEaを算出する。これにより、第1の実施形態の第2実施例と同じ0.87eVの活性化エネルギーEaが得られた。
【0196】
次に、得られた活性化エネルギーEaを代入した例えば公知の式(3)から、保証すべき実使用温度T1 (=70℃)での試験時間t1 と、加速温度T2 (=150℃)での試験時間t2 との間の関係を表す温度加速係数Kを導出する。具体的には、公知の式(3)に活性化エネルギーEaを代入した次式(23)から温度加速係数Kは261.1と算出された。
【0197】
このように、第2の実施形態の第2実施例によると、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性についての理論モデルが不明な場合であっても、設定された閾値PfにPwが達するまでの閾値到達時間tf を各温度条件下で求めることにより、式(21)に示すアーレニウスモデルに従って活性化エネルギーEaを算出することができる。このため、第1の実施形態のように、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化に式(6)に示すような関数をフィッティングさせる必要がない。また、温度加速係数Kを導出するために、P1 /mの温度依存性を知る必要もない。したがって、温度加速係数Kを導出するための工程を簡略化することができると共に、短時間で且つ高精度な強誘電体メモリ装置の温度加速試験を更に容易に実施することができる。
【0198】
【発明の効果】
本発明の第1の強誘電体メモリ装置の加速試験方法によると、メモリ特性の劣化の度合いを示す特定パラメータの経時変化の温度依存性を測定しているため、強誘電体メモリ装置の寿命時間とは無関係に温度加速係数を導出することができる。言い換えると、寿命時間を測定しなければ温度加速係数を導出することができないという従来の加速試験方法の問題点を本質的に解決することができる。したがって、温度加速係数を導出するための工程を短時間で終了させることができるので、加速試験の全工程に費やされる時間を大幅に短縮させることができる。
【0199】
本発明の第2の強誘電体メモリ装置の加速試験方法によると、閾値到達時間の温度依存性を測定しているため、パラメータの温度依存性に対応する詳細な理論モデルが不明な場合であっても、温度加速係数を確実に導出することができる。したがって、強誘電体メモリ装置が寿命に達する前であっても、任意に設定した閾値にパラメータが達するまでの閾値到達時間さえ測定すれば温度加速係数を導出することができる。このため、寿命時間を測定しなければならなかった従来の加速試験方法の問題点を本質的に解決することができる。また、加速試験に費やされる時間を大幅に短縮することができると共に、詳細な理論モデルに関係なく温度加速係数を導出することができるので、高精度な加速試験を極めて容易に且つ確実に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法において用いる強誘電体メモリ装置を構成する例えば2トランジスタ/2キャパシタ型の強誘電体メモリセルを示す回路図である。
【図2】本発明の第1及び第2の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法における各工程のフローチャートを示す図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法における温度依存性測定工程の各ステップのフローチャートを示す図である。
【図4】本発明の第1及び第2の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法における、強誘電体容量素子の分極ヒステリシス曲線(実線)と、強誘電体容量素子に正方向の分極を保持させたためにインプリントの影響を受けて負方向の電圧軸方向にシフトしたヒステリシス曲線(破線)とを示す図である。
【図5】本発明の第1及び第2の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法において、強誘電体容量素子の分極ヒステリシス曲線(実線)と、強誘電体容量素子に負方向の分極を保持させたためにインプリントの影響を受けて正方向の電圧軸方向にシフトしたヒステリシス曲線(破線)とを示す図である。
【図6】本発明の第1及び第2の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法における、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの定義及びその経時変化を示す図である。
【図7】本発明の第1及び第2の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法において用いた、インプリントの進行挙動を示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性に基づいて温度加速係数Kを導出するための理論モデルの概略を示す図である。
【図8】本発明の第1の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法の第1実施例において、108 回の分極反転処理後の逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化を4種類の温度で測定したグラフを示す図である。
【図9】図8に示した逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化に基づいてln[−ln(Pw/P0 )]を累積保持時間tに対してプロットしたグラフと、そのプロットにより得られた回帰直線とを示す図である。
【図10】図9の回帰直線の傾き及び切片から算出した定数n及び減衰速度Rの温度依存性を示す表である。
【図11】図10に示すRを温度Tの逆数に対してプロットしたグラフと、そのプロットにより得られた回帰直線とを示す図である。
【図12】本発明の第1の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法の第2実施例において、1010回の分極反転処理後の逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化を4種類の温度で測定したグラフを示す図である。
【図13】図12に示すグラフと、そのグラフにおける逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化から得られた回帰直線とを示す図である。
【図14】図13に示す回帰直線の傾き及び切片から算出した減衰速度m及び1時間経過後の逆方向保持分極の読み出し電荷量P1 の温度依存性を示す図である。
【図15】図14に示すP1 /mを温度Tの逆数に対してプロットしたグラフと、そのプロットにより得られた回帰直線とを示す図である。
【図16】本発明の第2の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法の第1実施例において108 回の分極反転処理後の逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを累積保持時間tに対してプロットしたグラフを示す図である。
【図17】図16に示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwが所定の閾値Pfに達するまでの閾値到達時間tf の温度依存性を示す図である。
【図18】図17に示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwが所定の閾値Pfに達するまでの閾値到達時間tf の対数を温度Tの逆数に対してプロットしたグラフを示す図である。
【図19】本発明の第2の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法の第2実施例において1010回の分極反転処理後の逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを累積保持時間tに対してプロットしたグラフを示す図である。
【図20】図19に示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwが所定の閾値Pfに達するまでの閾値到達時間tf の温度依存性を示す表である。
【図21】図20に示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwが所定の閾値Pfに達するまでの閾値到達時間tf の対数を温度Tの逆数に対してプロットしたグラフを示す図である。
【符号の説明】
100 強誘電体メモリセル
101a 第1の強誘電体容量素子
101b 第2の強誘電体容量素子
102a 第1のnMOSトランジスタ
102b 第2のnMOSトランジスタ
103 ワード線
104a ビット線
104b 反ビット線
105 プレート線
106 センスアンプ
【発明の属する技術分野】
本発明は、強誘電体材料からなる容量絶縁膜を有する容量素子を備えた強誘電体メモリ装置の信頼性を評価するための加速試験方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年デジタル技術の進展に伴い、大容量の情報を高速に処理又は保存する傾向が高まる中で、電子機器に使用される半導体メモリ装置の高集積化及び高性能化が要求されている。このような状況の中で、半導体メモリ装置を構成する容量素子として、自発分極特性を有する強誘電体容量素子を用いた強誘電体メモリ装置が盛んに研究開発されている。強誘電体メモリ装置とは、強誘電体材料の分極方向が比較的小さな外部電圧の印加により容易に反転するという性質を利用することにより、ある分極方向をデータ“0”として、また、その反対の分極方向をデータ“1”として情報を記憶するメモリ装置のことである。このような強誘電体メモリ装置は、従来にない低電圧で且つ高速での書き込み読み出し動作が可能であるという特徴を有している。また、強誘電体容量素子が有する分極は、基本的に外部電圧を除去しても消失しない残留分極として残存する。このような性質を利用することにより、電源が切れた状態であっても記憶された情報を長時間保持することができる不揮発性メモリを実現することができる。
【0003】
一般に、このような強誘電体メモリ装置の信頼性試験においては、強誘電体容量素子の物理的性質を考慮した幾つかの特性試験が行なわれる。
【0004】
例えば、一つの特性試験は、記憶されたデータを連続的に反転書換えした後、正常動作が可能であるか否かを試験するエンデュランス特性試験である。強誘電体容量素子には、分極方向を連続的に反転させると残留分極量が徐々に減少していくという分極反転疲労と呼ばれる性質がある。エンデュランス特性試験はこの性質を考慮した信頼性試験である。ただし、強誘電体容量素子の分極反転疲労は強誘電体材料又は電極材料の改良によって大幅に向上してきているため、エンデュランス特性が強誘電体メモリ装置の信頼性を決定づける要因になることは少なくなってきている。
【0005】
また、別の特性試験は、データを記憶した状態が長期間継続された後に、記憶されたデータが有効に保持されているか否かを試験するデータ保持特性試験である。強誘電体容量素子には分極状態が続いた場合に保持分極量が徐々に減少する減極と呼ばれる性質がある。データ保持特性試験はこの性質を考慮した信頼性試験である。ただし、強誘電体容量素子には分極状態が続くとその分極方向が安定化して固定化されるというインプリントと呼ばれる性質がある。このため、強誘電体容量素子に保持された分極は基本的には安定化されるため、その減極量は通常極めて小さくなる。よって、データ保持特性が強誘電体メモリ装置の信頼性を決定づける要因となることは少ない。
【0006】
しかしながら、前述のインプリントと呼ばれる性質は、保持された分極方向を安定化して固定化させる性質であることからも容易に分かるように、分極方向を逆方向へ反転させる動作を阻害する。つまり、ある記憶データ(例えばデータ“0”)を長期間保持した後、その逆データ(データ“1”)を書き込んだり又は読み出したりする動作に多大な影響を及ぼすことになる。したがって、この点を考慮した第3の特性試験、すなわち、強誘電体メモリ装置がデータを保持する過程において、そのデータとは逆の分極方向を持つデータの書き込み読み出し特性を評価する試験(逆データの書き込み読み出し特性試験)が非常に重要となる。以上述べた3種類の信頼性試験の中では、逆データの書き込み読み出し特性が強誘電体メモリ装置の信頼性を決定づける要因になることが多いため、逆データの書き込み読み出し特性試験が最も重要な信頼性試験になっている。
【0007】
一方、前述のような信頼性試験を限られた時間内で実施するためには、一般に、実際の使用条件よりも過度のストレス条件のもとで行なわれるいわゆる加速試験が採用される。加速試験の一つとして、過度の温度条件のもとで行なわれる温度加速試験は極めて有効である。したがって、温度加速試験は最も頻繁に用いられる加速試験方法になっている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
温度加速試験は、ある実使用温度T1 に対して必要になる試験時間t1 を、この実使用温度T1 よりも高温の加速温度T2 で行なうことにより、試験時間t1 よりも短い試験時間t2 に短縮することを目的とするものである。このためには、実使用温度T1 での試験時間t1 に対応する加速温度T2 での試験時間t2 を決定するための温度加速係数K、すなわち試験時間t1 と試験時間t2 との関係を表す係数を予め導出しておく必要がある。温度加速係数Kが導出されれば、加速温度T2 での試験時間t2 は次式(1)で決定される。
【0009】
t2 =t1 /K ・・・(1)
このような温度加速係数Kを導出することは温度加速試験の実施において必須となる極めて重要な工程になっている。具体的に、従来の強誘電体メモリ装置の温度加速試験方法においては、強誘電体メモリ装置の寿命時間の温度依存性を測定し、その結果に基づいて温度加速係数Kを導出するという方法が用いられてきた。
【0010】
以下、従来の強誘電体メモリ装置の加速試験方法について詳しく説明する。
【0011】
まず、第1の工程として、強誘電体メモリ装置を用いて所定のメモリ特性に動作不良が起こるまでの時間、すなわち寿命時間の温度依存性を測定する。
【0012】
次に、第2の工程として、測定された寿命時間の温度依存性に基づいて温度加速係数Kを導出する。具体的には、まず温度依存性が測定された各温度での寿命時間の対数を温度の逆数に対してグラフ上にプロットする。これにより得られる関係は、次式(2)により表されるアーレニウスモデルに従うことがよく知られている。
【0013】
ln[L]=C+(Ea/k)・(1/T) ・・・(2)
ただし、Lは寿命時間を、Tは温度(絶対温度)を、Eaは活性化エネルギーを、kはボルツマン定数を、Cは定数を表す。
【0014】
このため、前記のプロットを直線回帰して得られる回帰直線の傾きから寿命時間Lの温度依存性を支配する活性化エネルギーEaを算出することができる。その後、算出された活性化エネルギーEaを用いることにより、実使用温度T1 での試験時間t1 と、加速温度T2 での試験時間t2 との関係を表す温度加速係数Kを次式(3)を用いて導出する。
【0015】
K=exp[(Ea/k)・(1/T1 −1/T2 )] ・・・(3)
最後に、第3の工程として、導出された温度加速係数Kを用いて、強誘電体メモリ装置の所定のメモリ特性を評価するための温度加速試験を行なう。具体的には、導出された温度加速係数Kの値を式(1)に代入して、実使用温度T1 での試験時間t1 に対応する加速温度T2 での試験時間t2 を算出する。その後、加速温度T2 にて温度加速試験を開始する。試験時間t2 を経過後、強誘電体メモリ装置に動作不良が発生していなければ、実使用温度T1 での試験時間t1 に相当する信頼性を保証することができる。
【0016】
【特許文献1】
特許第2880695号公報
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前述の従来の強誘電体メモリ装置の加速試験方法には以下のような問題があった。
【0018】
従来の強誘電体メモリ装置の加速試験方法では、加速試験に必要な温度加速係数Kは、実際の強誘電体メモリ装置を用いて該強誘電体メモリ装置の寿命時間Lの温度依存性を測定することにより導出されてきた。ところが、この方法では強誘電体メモリ装置が寿命に達する時点までは温度加速係数Kを導出するために必要な温度依存性に関する情報を得ることができない。このため、温度加速係数Kを導出する工程に長期の時間が必要になっていた。その結果、加速試験全体に必要な時間もまた極めて長期化するという問題があった。この問題は特に強誘電体メモリ装置が長寿命を有している場合に顕在化する。
【0019】
例えば、所定のメモリ特性に関して実使用温度70℃の条件下で50年の寿命を有する強誘電体メモリ装置の温度加速試験において、温度加速係数Kを導出するために175℃、150℃、及び125℃の3つの温度条件下における寿命時間Lの温度依存性を測定する場合を考えてみる。寿命時間Lの温度依存性を支配する活性化エネルギーEaが0.8eVであるとき、強誘電体メモリ装置の寿命時間は70℃の温度条件下では50年であるから、式(2)を用いて各温度条件下における寿命時間Lをそれぞれ概算すると、175℃では770時間(約1ヶ月)に、150℃では約2620時間(約3ヶ月半)に、125℃では約10400時間(約1年2ヶ月)になる。温度加速係数Kを導出するために必要な温度依存性に関する知見を完全に得るためには各温度条件下における寿命時間Lの測定を全て完了させる必要があるため、実際の温度加速試験が完了するまでの時間を、最も温度が低い125℃における寿命時間よりも短くすることができない。したがって、寿命時間Lの温度依存性を測定することにより温度加速係数Kを導出するという工程のみに、実に1年以上の時間が必要になってしまうことになる。
【0020】
以上の説明からも分かるように、従来の強誘電体メモリ装置の加速試験方法における問題の本質は、温度加速係数Kを導出するために必要な温度依存性を、強誘電体メモリ装置の寿命時間Lの温度依存性を測定するという方法で導き出しているところにある。言い換えると、従来の方法では動作が正常か否かという二者択一的な判断によって決まる寿命時間Lを測定していたため、寿命時間Lに到達するまでの途中状態に関する情報を得ることができなかったところにある。その結果、寿命時間Lに達しなければ、温度加速係数Kを導出するために必要な温度依存性に関する情報を何一つ得ることができなかった。よって、温度加速係数Kの導出に要する時間は、必然的に強誘電体メモリ装置の有する寿命時間Lに依存することになる。したがって、強誘電体メモリ装置が長寿命を有している場合は温度加速係数Kの導出に極めて長期の時間が必要になるため、加速試験全体に多大な時間が必要になる状況に陥ってしまう。
【0021】
前記問題を解決する一つの手段として、寿命時間Lの温度依存性を測定する際の温度を更に高温化して寿命時間Lに達する時点を早めるという方法が考えられる。ところが、実使用温度T1 からあまりに逸脱した過度の高温条件下における測定は、強誘電体メモリ装置を構成する強誘電体容量素子以外の部分に影響を及ぼす可能性がある。また、強誘電体容量素子にはキュリー温度と呼ばれる温度(通常250℃〜350℃)に達すると自発分極特性が失われる性質がある。このため、強誘電体容量素子の性質そのものを考慮しても測定温度の高温化には限界がある。したがって、高温条件下での温度加速試験は適切な方法であるとは言い難い。
【0022】
一方で、強誘電体メモリ装置を用いて温度加速係数Kに関する温度依存性を導出するために、正常動作可能な動作下限電圧の経時変化を測定することによって寿命時間Lに達する時点までの途中状態に関する情報を得るという考え方が特開2001−67896号公報に開示されている。この方法によると、寿命時間Lに達する以前に、温度加速係数Kを導出するための温度依存性に関する知見を確かに得ることが可能ではある。しかしながら、動作下限電圧の経時変化から温度依存性を支配する活性化エネルギーEaを算出して更に温度加速係数Kを導出するために必要な理論モデルの構築は、極めて複雑なため実用的ではない。また、前記の公報においても、その具体的方法は開示されてはいない。
【0023】
前記に鑑み、本発明は、強誘電体メモリ装置の加速試験に必要な温度加速係数Kの導出を短時間に完了させると共に、加速試験全体に要する時間を大幅に短縮できるようにすることを目的とする。
【0024】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本願発明者は、従来のように動作が正常か否かという二者択一的な判断によって決まる強誘電体メモリ装置の寿命時間を測定するのではなく、強誘電体メモリ装置を構成する強誘電体容量素子を用いて、寿命時間Lの経過以前における強誘電体容量素子の特定パラメータの経時変化を測定することにより温度加速係数を現実的に導出できる方法を着想した。この方法によると、強誘電体メモリ装置の有する寿命時間を一切待つことなく温度加速試験を容易に且つ確実に終了させることができる。
【0025】
本発明は、以上の発想に基づきなされたものであって、具体的に本発明の第1の強誘電体メモリ装置の加速試験方法は、強誘電体メモリ装置を構成する強誘電体容量素子を分極状態に保ちながら、強誘電体メモリ装置における所定のメモリ特性の劣化の度合いを示すパラメータの経時変化の温度依存性を測定する第1の工程と、第1の工程で測定された温度依存性に基づいて温度加速係数を導出する第2の工程と、第2の工程で導出された温度加速係数を用いて所定のメモリ特性を評価するための温度加速試験を行なう第3の工程とを備えていることを特徴とする強誘電体メモリ装置の加速試験方法である。
【0026】
第1の強誘電体メモリ装置の加速試験方法によると、強誘電体メモリ装置自体ではなく、それを構成する強誘電体容量素子を用いてメモリ特性の劣化の度合いを示すパラメータ(特定パラメータ)の経時変化の温度依存性を測定した後、測定結果に基づいて温度加速係数を導出する。すなわち、強誘電体メモリ装置の寿命時間とは無関係に温度加速係数を導出することができる。言い換えると、寿命時間を測定しなければ温度加速係数を導出することができないという従来の加速試験方法の問題点を本質的に解決することができる。したがって、温度加速係数を導出するための工程を短時間で終了させることができるので、加速試験の全工程に費やされる時間を大幅に短縮させることができる。
【0027】
第1の強誘電体メモリ装置の加速試験方法において、所定のメモリ特性は逆データの書き込み読み出し特性であり、特定パラメータは、強誘電体容量素子における逆方向保持分極の読み出し電荷量であることが好ましい。
【0028】
このようにすると、第1の工程において、強誘電体容量素子を分極状態に保ちながら、逆方向保持分極の読み出し電荷量(強誘電体容量素子に保持された分極を反転させてからの読み出し電荷量)の経時変化の温度依存性を測定できる。ここで、逆データの書き込み読み出し特性の劣化の度合いは、強誘電体容量素子におけるインプリントの進行挙動により決定づけられているため、インプリントの進行挙動を示す逆方向保持分極の読み出し電荷量の経時変化を測定することにより逆データの書き込み読み出し特性の劣化の度合いを知ることができる。したがって、強誘電体メモリ装置の信頼性試験の中で最も重要な逆データの書き込み読み出し特性を評価するための温度加速試験においても、前述の効果が確実に得られる。
【0029】
第1の強誘電体メモリ装置の加速試験方法において、第2の工程は、第1の関数P=P0 ・exp[−(R・t)n ](Pは特定パラメータを、Rは減衰速度を、tは時間を、P0 はtの値が0のときのPを、nは温度に依存しない定数を表す)を、温度依存性を測定した各温度での特定パラメータの経時変化にフィッティングさせることにより得られるRの温度依存性に基づいて、又は第2の関数P=P1 −m・ln[t](Pは特定パラメータを、P1 は単位時間経過後のPを、tは時間を、mは温度に依存しない定数を表す)を、温度依存性を測定した各温度での特定パラメータの経時変化にフィッティングさせることにより得られるP1 /mの温度依存性に基づいて、温度加速係数を導出する工程を含むことが好ましい。この場合、第2の工程は、Rの対数又はP1 /mを、各温度(絶対温度)の逆数に対してプロットすることにより得られる回帰直線の傾きから算出される活性化エネルギーを用いて温度加速係数Kを導出する工程を含むことが好ましい。
【0030】
このようにすると、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pの経時変化の温度依存性についての測定結果に基づいて、温度加速係数Kを容易に且つ高精度に算出することができる。したがって、容易で且つ高精度な加速試験を行なうことができる
また、この場合、第2の工程は、特定パラメータの経時変化が時間の対数に対して実質的に直線的な変化でない場合には、特定パラメータの経時変化に第1の関数をフィッティングさせる一方、特定パラメータの経時変化が時間の対数に対して実質的に直線的な変化である場合には、特定パラメータの経時変化に第2の関数をフィッティングさせる工程を含むことが好ましい。
【0031】
このようにすると、特定パラメータPの経時変化にフィッティングさせる関数を正確に且つ容易に選択することができる。このため、温度加速係数Kを正確に且つ容易に導出することができる。
【0032】
第1の強誘電体メモリ装置の加速試験方法において、所定のメモリ特性はエンデュランス特性であり、特定パラメータは、強誘電体容量素子に保持された残留分極量であることが好ましい。
【0033】
このようにすると、第1の工程において、強誘電体容量素子を分極状態に保ちながら、残留分極量の経時変化の温度依存性を測定できる。ここで、エンデュランス特性の劣化の度合いは、強誘電体容量素子における分極反転疲労の進行挙動により決定づけられているため、分極反転疲労の進行挙動を示す残留分極量の経時変化を測定することによりエンデュランス特性の劣化の度合いを知ることができる。したがって、エンデュランス特性を評価するための温度加速試験においても、前述の効果が確実に得られる。
【0034】
第1の強誘電体メモリ装置の加速試験方法において、所定のメモリ特性はデータ保持特性であり、特定パラメータは、強誘電体容量素子における保持分極の読み出し電荷量であることが好ましい。
【0035】
このようにすると、第1の工程において、強誘電体容量素子を分極状態に保ちながら、強誘電体容量素子における保持分極の読み出し電荷量(強誘電体容量素子に保持された分極の読み出し電荷量)の経時変化の温度依存性を測定できる。ここで、データ保持特性の劣化の度合いは、強誘電体容量素子における減極の進行挙動により決定づけられているため、減極の進行挙動を示す保持分極の読み出し電荷量の経時変化を測定することによりデータ保持特性の劣化の度合いを知ることができる。したがって、データ保持特性を評価するための温度加速試験においても、前述の効果が確実に得られる。
【0036】
本発明の第2の強誘電体メモリ装置の加速試験方法は、強誘電体メモリ装置を構成する強誘電体容量素子を分極状態に保ちながら、強誘電体メモリ装置における所定のメモリ特性の劣化の度合いを示すパラメータが所定の閾値に達するまでの時間(閾値到達時間)の温度依存性を測定する第1の工程と、第1の工程で測定された温度依存性に基づいて温度加速係数を導出する第2の工程と、第2の工程で導出された温度加速係数を用いて所定のメモリ特性を評価するための温度加速試験を行なう第3の工程とを備えていることを特徴とする強誘電体メモリ装置の加速試験方法である。
【0037】
第2の強誘電体メモリ装置の加速試験方法によると、第1の工程において強誘電体メモリ自体ではなく、それを構成する強誘電体容量素子を用いてメモリ特性の劣化の度合いを示すパラメータ(特定パラメータ)が所定の閾値に達するまでの閾値到達時間の温度依存性を測定した後、測定結果に基づいて温度加速係数を導出する。すなわち、強誘電体メモリ装置の寿命時間とは無関係に温度加速係数を導出することができる。言い換えると、寿命時間を測定しなければ温度加速係数を導出できなかった従来の加速試験方法の問題点を本質的に解決することができる。また、閾値到達時間の温度依存性を測定しているため、特定パラメータの温度依存性に対応する詳細な理論モデルが不明な場合であっても、温度加速係数を極めて容易に導出することができる。したがって、温度加速係数を極めて容易に導出することができると共に、温度加速係数を導出するための工程を短時間で終了させることができるので、加速試験の全工程に費やされる時間を大幅に短縮させることができる。
【0038】
第2の強誘電体メモリ装置の加速試験方法において、所定のメモリ特性は、逆データの書き込み読み出し特性であり、特定パラメータは、強誘電体容量素子における逆方向保持分極の読み出し電荷量であることが好ましい。
【0039】
このようにすると、第1の工程において、強誘電体容量素子を分極状態に保ちながら、逆方向保持分極の読み出し電荷量(強誘電体容量素子に保持された分極を反転させてからの読み出し電荷量)が所定の閾値に達するまでの時間の温度依存性を測定できる。ここで、逆データの書き込み読み出し特性の劣化の度合いは、強誘電体容量素子におけるインプリントの進行挙動により決定づけられているため、インプリントの進行挙動を示す逆方向保持分極の読み出し電荷量が所定の閾値に達するまでの時間を測定することにより逆データの書き込み読み出し特性の劣化の度合いを知ることができる。したがって、強誘電体メモリ装置の信頼性試験の中で最も重要な逆データの書き込み読み出し特性を評価するための温度加速試験においても、前述の効果が確実に得られる。
【0040】
第2の強誘電体メモリ装置の加速試験方法において、所定のメモリ特性はエンデュランス特性であり、特定パラメータは、強誘電体容量素子に保持された残留分極量であることが好ましい。
【0041】
このようにすると、第1の工程において、強誘電体容量素子を分極状態に保ちながら、残留分極量が所定の閾値に達するまでの時間の温度依存性を測定できる。ここで、エンデュランス特性の劣化の度合いは、強誘電体容量素子における分極反転疲労の進行挙動により決定づけられているため、分極反転疲労の進行挙動を示す残留分極量が所定の閾値に達するまでの時間を測定することによりエンデュランス特性の劣化の度合いを知ることができる。したがって、エンデュランス特性を評価するための温度加速試験においても、前述の効果が確実に得られる。
【0042】
第2の強誘電体メモリ装置の加速試験方法において、所定のメモリ特性はデータ保持特性であり、特定パラメータは、強誘電体容量素子における保持分極の読み出し電荷量であることが好ましい。
【0043】
このようにすると、第1の工程において、強誘電体容量素子を分極状態に保ちながら、保持分極の読み出し電荷量が所定の閾値に達するまでの時間の温度依存性を測定できる。ここで、データ保持特性の劣化の度合いは、強誘電体容量素子における減極の進行挙動により決定づけられているため、減極の進行挙動を示す保持分極の読み出し電荷量が所定の閾値に達するまでの時間を測定することによりデータ保持特性の劣化の度合いを知ることができる。したがって、データ保持特性を評価するための温度加速試験においても、前述の効果が確実に得られる。
【0044】
第2の強誘電体メモリ装置の加速試験方法における第1の工程において、所定の閾値は、温度依存性が測定された各温度において特定パラメータが所定の閾値に達するまでの時間を求めることができる範囲内の値に設定されることが好ましい。
【0045】
このようにすると、温度依存性を測定した全測定温度で閾値到達時間を求めることができるため、温度加速係数をより正確に導出することができる。したがって、強誘電体メモリ装置の信頼性をより正確に評価することができる。
【0046】
第2の強誘電体メモリ装置の加速試験方法における第2の工程は、特定パラメータが所定の閾値に達するまでの時間の対数を、温度依存性を測定した各温度(絶対温度)の逆数に対してプロットする工程と、前記時間の対数を各温度の逆数に対してプロットすることにより得られた回帰直線の傾きから活性化エネルギーを算出する工程と、算出された活性化エネルギーを用いて温度加速係数を導出する工程とを含むことが好ましい。
【0047】
このようにすると、時間の対数を温度(絶対温度)の逆数に対してプロットし、そのプロットを直線回帰して得られた回帰直線の傾きから、活性化エネルギーを容易に且つ高精度に算出することができる。このため、温度加速係数を容易に且つ高精度に導出することができる。
【0048】
第1及び第2の強誘電体メモリ装置の加速試験方法における第1の工程において、強誘電体容量素子と同一構造の単一の測定用容量素子又は該測定用容量素子が複数個2次元的に配列された測定用容量素子群を用いることが好ましい。
【0049】
このようにすると、第1の工程において用いる測定用容量素子として、強誘電体メモリ装置を構成する強誘電体容量素子と同一構造のものを用いている。又は、その測定用容量素子が複数個2次元的に配列した測定用容量素子群を用いている。このため、測定用容量素子として前記の強誘電体容量素子以外のものを用いた場合のように、温度依存性つまり温度加速係数が実際の強誘電体メモリ装置の値から変化してしまうことがない。このため、高精度な加速試験を実施することができる。
【0050】
この場合、測定用容量素子は強誘電体メモリ装置と同じ基板上に形成されていることが好ましい。
【0051】
このようにすると、製造ロット又はウェハ間で温度依存性つまり温度加速係数がばらつく場合であっても、加速試験の対象となる実際の強誘電体メモリ装置の温度依存性に合致する温度依存性すなわち温度加速係数を導出することができる。このため、高精度な加速試験を実施することができる。
【0052】
【発明の実施の形態】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法、特に強誘電体メモリ装置の信頼性試験の中で最も重要な逆データの書き込み読み出し特性を評価するための加速試験方法について図面を参照しながら説明する。
【0053】
図1は、第1の実施形態で加速試験の対象となる強誘電体メモリ装置を構成する2トランジスタ/2キャパシタ(2T/2C)型の強誘電体メモリセルの回路図である。
【0054】
図1に示すように、強誘電体メモリセル100は、第1の強誘電体容量素子101aと、第2の強誘電体容量素子101bと、第1の強誘電体容量素子101aにアクセスするためのトランスファーゲートになる第1のnMOSトランジスタ102aと、第2の強誘電体容量素子101bにアクセスするためのトランスファーゲートになる第2のnMOSトランジスタ102bとから構成される。第1のnMOSトランジスタ102a及び第2のnMOSトランジスタ102bは、それぞれのゲートに接続されたワード線103に印加される電圧によりON/OFF動作が制御される。
【0055】
また、第1のnMOSトランジスタ102aにはビット線104aが接続され、一方、第2のnMOSトランジスタ102bには反ビット線104bが接続されている。第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bにはプレート線105が接続されている。ビット線104a、反ビット線104b、及びプレート線105には、ワード線103に印加される電圧に連動して、それぞれに所定の電圧が印加される。これにより、第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bにそれぞれ特定の方向を持つ分極が保持されて、強誘電体メモリセル100にデータが保存される。第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bにデータの書き込み読み出し動作があると、ビット線104a及び反ビット線104bに取り出された電荷が、ビット線104a及び反ビット線104bに接続されたセンスアンプ106により電位差として検出される。このような動作によりデータが書き込まれ又は読み出される強誘電体メモリセル100から強誘電体メモリ装置は構成されている。
【0056】
図2は、図1に示す強誘電体メモリセル100からなる強誘電体メモリ装置の逆データの書き込み読み出し特性を評価するための3つの工程からなる加速試験方法のフローチャートを示す図である。以下、図2に示すフローチャートに従い各工程の概略を初めに説明してから、詳しい説明に入る。
【0057】
図2に示す1番目の温度依存性測定工程S10では、強誘電体メモリ装置自体ではなく、それを構成する強誘電体メモリセル100(以下、測定用メモリセルと称する)を用いる。そして、このような測定用メモリセルを用いて、まず、第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bにそれぞれ特定の分極方向を持つ分極を保持させると共に、その分極状態を保ちながら逆方向保持分極の読み出し電荷量の経時変化の温度依存性を測定する。具体的には、強誘電体メモリセル100を構成する第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bに保持させた分極を反転させた後におけるそれぞれの分極状態を読み出したときに検出される電荷量の差分(つまり逆方向保持分極の読み出し電荷量)の経時変化の温度依存性を測定する。
【0058】
次に、2番目の温度加速係数導出工程S20では、温度依存性測定工程S10において測定された逆方向保持分極の読み出し電荷量の経時変化の温度依存性に基づいて、温度加速係数Kを導出する。
【0059】
最後に、3番目のメモリ特性評価工程S30では、温度加速係数導出工程S20において導出された温度加速係数Kを用いて加速温度T2 での試験時間t2 を算出し、図1に示す強誘電体メモリセル100から構成される強誘電体メモリ装置における逆データの書き込み読み出し特性を評価するための温度加速試験を、算出された試験時間t2 に基づいて行なう。
【0060】
以下、1番目の温度依存性測定工程S10について詳しく説明する。
【0061】
前述の通り、温度依存性測定工程S10では、図1に示す第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bにそれぞれ互いに異なる方向を持つ分極を保持させると共に、その分極状態を保ちながら逆方向保持分極の読み出し電荷量の経時変化の温度依存性を測定する。
【0062】
図3は、温度依存性測定工程S10において行なわれる7つのステップのフローチャートを示す図である。具体的に温度依存性測定工程S10は、逆方向保持分極の読み出し電荷量の経時変化の初期値を測定する第1〜第3のステップ(S11〜S13)と、逆方向保持分極の読み出し電荷量の経時変化を測定するために繰り返して行なわれる第4〜第7のステップ(S14〜S17)とから構成される。
【0063】
図3に示すように、第1〜第3のステップ(S11〜S13)では、まず、第1のステップS11として、第1の強誘電体容量素子101aに正極性の単発パルス電圧を印加すると同時に、第2の強誘電体容量素子101bに負極性の単発パルス電圧を印加する。このとき、それぞれの強誘電体容量素子に保持される分極方向を初期方向とする。
【0064】
その直後、第2のステップS12として、第1の強誘電体容量素子101aに負極性の単発パルス電圧を印加すると同時に、第2の強誘電体容量素子101bに正極性の単発パルス電圧を印加する。
【0065】
その直後、第3のステップS13として、第1の強誘電体容量素子101aに再度正極性の単発パルス電圧を印加すると同時に、第2の強誘電体容量素子101bにも再度正極性の単発パルス電圧を印加する。このとき、第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bからそれぞれの分極状態が読み出される。すなわち、負方向の分極状態の第1の強誘電体容量素子101aから検出される電荷量と、正方向の分極状態の第2の強誘電体容量素子101bから検出される電荷量との差分(逆方向保持分極の読み出し電荷量)を測定する。
【0066】
図4は、第1〜第3のステップ(S11〜S13)における第1の強誘電体容量素子101aの分極ヒステリシス曲線(実線)と、第1の強誘電体容量素子101aに正方向の分極を保持させたためにインプリントの影響を受けて電圧軸の負方向にシフトしたヒステリシス曲線(破線)とを示す図である。
【0067】
図5は、第1〜第3のステップ(S11〜S13)における第2の強誘電体容量素子101bの分極ヒステリシス曲線(実線)と、第2の強誘電体容量素子101bに負方向の分極を保持させたためにインプリントの影響を受けて電圧軸の正方向にシフトしたヒステリシス曲線(破線)とを示す図である。
【0068】
図6は、第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bに保持されたそれぞれの分極を反転させた後、その反転した分極状態を読み出したときに検出された電荷量(逆方向保持分極の読み出し電荷量)を示すグラフである。
【0069】
図4に示すように、正極性の単発パルス電圧を印加する第1のステップS11により、実線で示す分極−電圧曲線(ヒステリシス曲線)におけるA点に相当する正方向の分極が第1の強誘電体容量素子101aに保持される。その後、負極性の単発パルス電圧を印加する第2のステップS12により、実線で示すヒステリシス曲線におけるB点に相当する反転した負方向の分極が保持される。その後、正極性の単発パルス電圧を印加する第3のステップS13により、第1の強誘電体容量素子101aに保持された分極量が、実線で示すヒステリシス曲線上を高電圧側に進む。この軌跡を、図6の曲線G(ヒステリシス曲線の一部)に示す。尚、図6に示す曲線Gの始点(左端の点)は、図4に示すB点である。ここで、正極性の単発パルス電圧の印加により、B点に相当する分極状態の第1の強誘電体容量素子101aから検出された電荷量は、図6に示すPsの大きさで定義される。
【0070】
一方、図5に示すように、負極性の単発パルス電圧を印加する第1のステップS11により、実線で示すヒステリシス曲線におけるD点に相当する負方向の分極が第2の強誘電体容量素子101bに保持される。その後、正極性の単発パルス電圧を印加する第2のステップS12により、実線で示すヒステリシス曲線におけるE点に相当する反転した正方向の分極が保持される。その後、正極性の単発パルス電圧を印加する第3のステップS13により、第2の強誘電体容量素子101bに保持された分極量が、実線で示すヒステリシス曲線上を高電圧側に進む。この軌跡を、図6の曲線H(ヒステリシス曲線の一部)に示す。尚、図6に示す曲線Hの始点(左端の点)は、図5に示すE点である。ここで、正極性の単発パルス電圧の印加により、E点に相当する分極状態の第2の強誘電体容量素子101bから検出された電荷量は、図6に示すPnの大きさで定義される。
【0071】
このように、第1のステップS11から第3のステップS13までの一連の手順により、負方向の分極状態の第1の強誘電体容量素子101aから検出された電荷量はPsになり、一方、正方向の分極状態の第2の強誘電体容量素子101bから検出された電荷量はPnになる。このため、2T/2C型の強誘電体メモリセル100(測定用メモリセル)における逆方向保持分極の読み出し電荷量は、負方向の分極状態の第1の強誘電体容量素子101aから検出された電荷量Psと正方向の分極状態の第2の強誘電体容量素子101bから検出された電荷量Pnとの差分Pwで定義される。また、最初に測定した逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを初期値P0 (つまりインプリントが進行する以前におけるPwの値)とする。また、第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bのそれぞれが初期方向と同じ分極方向を保持した累積時間を累積保持時間tとする。尚、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの初期値P0 を測定したときの累積保持時間tを初期値t0 (=0)する。
【0072】
以上のように、第1のステップS11から第3のステップS13までの一連の手順を踏むことにより逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの初期値P0 を測定し、その後、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化を測定するために第4〜第7のステップ(S14〜S17)を繰り返して行なう。
【0073】
以下、第4〜第7のステップ(S14〜S17)について説明する。
【0074】
まず、第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bのそれぞれの分極方向を初期方向に戻すために、第4のステップS14として、第1のステップS11と同じように、第1の強誘電体容量素子101aに正極性の単発パルス電圧を印加すると同時に、第2の強誘電体容量素子101bに負極性の単発パルス電圧を印加する。
【0075】
その後、第5のステップS15として、第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bの分極方向(つまり初期方向)を所定の時間そのまま維持する。
【0076】
その後、第6のステップS16として、第2のステップS12と同じように、第1の強誘電体容量素子101aに負極性の単発パルス電圧を印加すると同時に、第2の強誘電体容量素子101bに正極性の単発パルス電圧を印加する。
【0077】
その直後、第7のステップS17として、第3のステップS13と同じように、第1の強誘電体容量素子101aに再度正極性の単発パルス電圧を印加すると同時に、第2の強誘電体容量素子101bにも再度正極性の単発パルス電圧を印加する。このとき、負方向の分極状態の第1の強誘電体容量素子101aから検出される電荷量と、正方向の分極状態の第2の強誘電体容量素子101bから検出される電荷量との差分(逆方向保持分極の読み出し電荷量)を測定する。
【0078】
第1の強誘電体容量素子101aには、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの初期値P0 を測定する第3のステップS13の直後、第4のステップS14として正極性の単発パルス電圧が印加されるため、図4のA点に相当する正方向の分極が第1の強誘電体容量素子101aに再度保持される。これにより、第1の強誘電体容量素子101aに保持された分極が初期方向に戻る。その後、第5のステップS15として、所定の時間、例えば累積保持時間tがt0 からt’になるまで第1の強誘電体容量素子101aの分極方向をそのまま維持する。その結果、図4の破線で示すように、ヒステリシス曲線が電圧軸の負方向にシフトする。ヒステリシス曲線がシフトするのは、累積保持時間tがt0 からt’になるまでの間、第1の強誘電体容量素子101aに一定方向の分極が保持された結果である。すなわち、一定時間一定方向の分極が保持されることにより、その分極がインプリントの影響を受けるためである。また、ヒステリシス曲線が電圧軸の負方向にシフトするのは、一定時間正方向の分極が保持されるからである。このため、第6のステップS16として負極性の単発パルス電圧が印加されると、第1の強誘電体容量素子101aに保持された分極量が破線で示すヒステリシス曲線上をたどるため、第1の強誘電体容量素子101aには分極反転したC点に相当する分極が保持される。図4に示す実線のヒステリシス曲線と破線のヒステリシス曲線とを比較すると明らかなように、インプリントが進行した後は、負方向のC点に相当する分極量の絶対値がB点に相当する分極量の絶対値よりも小さくなる。これは、A点に相当する正方向の分極を保持する第1の強誘電体容量素子101aが一定時間インプリントの影響を受けることで、正方向の分極が安定化されるため、正方向の分極が逆方向へ反転しにくくなるからである。その結果、第7のステップS17として正極性の単発パルス電圧が印加されると、第1の強誘電体容量素子101aに保持された分極量の軌跡は、図6に示す曲線I(始点は図4のC点)になる。ここで、正極性の単発パルス電圧の印加により、C点に相当する分極状態を読み出して検出された電荷量は、図6に示すPs’の大きさで定義される。初期値P0 を測定したとき検出された電荷量PsよりもPs’が小さくなっているのは、第5のステップS15で正方向の分極を保持している間に第1の強誘電体容量素子101aがインプリントの影響を受けて、負方向の残留分極として保持できる分極量が少なくなったからである。
【0079】
一方、第2の強誘電体容量素子101bには、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの初期値P0 を測定する第3のステップS13の直後、第4のステップS14として負極性の単発パルス電圧が印加されるため、図5のD点に相当する負方向の分極が第2の強誘電体容量素子101bに再度保持される。これにより、第2の強誘電体容量素子101bに保持された分極が初期方向に戻る。その後、第5のステップS15として、累積保持時間tがt0 からt’になるまで第2の強誘電体容量素子101bの分極方向をそのまま維持する。その結果、図5の破線で示すように、ヒステリシス曲線が電圧軸の正方向にシフトする。ヒステリシス曲線がシフトするのは、前述のように、累積保持時間tがt0 からt’になるまでの間、第2の強誘電体容量素子101bに一定方向の分極が保持されることにより、D点に相当する分極を保持する第2の強誘電体容量素子101bがインプリントの影響を受けるためである。また、ヒステリシス曲線が電圧軸の正方向にシフトするのは、一定時間負方向の分極が保持されるからである。このため、第6のステップS16として正極性の単発パルス電圧が印加されると、第2の強誘電体容量素子101bに保持された分極量が破線で示すヒステリシス曲線上をたどるので、第2の強誘電体容量素子101bには分極反転したF点に相当する分極が保持される。図5に示す実線のヒステリシス曲線と破線のヒステリシス曲線とを比較すると明らかなように、インプリントが進行した後は、正方向のF点に相当する分極量の絶対値がE点に相当する分極量の絶対値よりも小さくなる。これは、D点に相当する負方向の分極を保持する第2の強誘電体容量素子101bが一定時間インプリントの影響を受けることで、負方向の分極が安定化されるため、負方向の分極が逆方向へ反転しにくくなるからである。その結果、第7のステップS17として正極性の単発パルス電圧が印加されることにより第2の強誘電体容量素子101bに保持された分極量の軌跡が、図6に示す曲線J(始点は図5のF点)になる。ここで、正極性の単発パルス電圧の印加により、F点に相当する分極状態を読み出して検出された電荷量は、図6に示すPn’の大きさで定義される。初期値P0 を測定したときに検出された電荷量PnよりもPn’が大きくなっているのは、第5のステップS15で負方向の分極を保持している間に第2の強誘電体容量素子101bがインプリントの影響を受けて、正方向の残留分極として保持できる分極量が少なくなったからである。
【0080】
したがって、前述のように、累積保持時間tがt’の場合における逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwは、Ps’とPn’との差分で表されるので、図6に示すPw’の大きさになる。このときのPw’は、Ps’がPsよりも小さく且つPn’がPnよりも大きいために、Pwの初期値P0 よりも小さくなる。言い換えると、インプリントが進行するに従い、測定される逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwが減少する。すなわち、累積保持時間tと共に減少する逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化を測定することにより、インプリントの進行挙動を容易に測定することができる。また、第7のステップS17の後、第4のステップS14から第7のステップS17までの手順を、目的の測定時間まで目的の測定回数だけ同様に繰り返して逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを測定すれば(S18)、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化を測定することができる。
【0081】
また、以上説明した各ステップは、一定の温度条件下で行なわれるため、別途準備した同じ測定用メモリセルを用いて複数の温度条件下で同様に測定することにより、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性を測定することができる。
【0082】
尚、温度依存性測定工程S10において、繰り返して行なわれる第6〜第7のステップ(S16〜S17)によりPwの測定が行なわれる累積保持時間tの値は、後述する温度加速係数導出工程S20において適切なフィッティングを行なえる範囲内において任意に設定できる。また、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性を測定するための各測定温度も、温度加速係数導出工程S20において適切なフィッティングを行なえる範囲内において任意に設定できる。
【0083】
以下、温度加速係数導出工程S20について詳しく説明する。
【0084】
温度加速係数導出工程S20は、温度依存性測定工程S10において測定された逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性に基づいて、本願発明者により見出された理論モデルを用いて温度加速係数Kを導出する工程である。
【0085】
すなわち、温度依存性測定工程S10の測定結果に基づいて温度加速係数Kを導出するためには、Pwの経時変化の温度依存性に基づいて活性化エネルギーEaを導出するための理論モデルが必要である。このため、本願発明者は、かかる理論モデルについての詳細な解析結果から、Pwの経時変化に関して次式(4)及び(6)で表される関数が成立すると共に、Pwの温度依存性に関しては次式(5)及び(7)で表される関数が成立することを見出した。
(I) Pw≧Pxのとき
Pwの経時変化 Pw=P0 ・exp[−(R・t)n ] ・・・(4)
Pwの温度依存性 R=R0 ・exp[−Ea/(k・T)] ・・・(5)
(II)Pw<Pxのとき
Pwの経時変化 Pw=P1 −m・ln[t] ・・・(6)
Pwの温度依存性 m=(一定) ・・・(7)
ただし、式(4)において、Rは減衰速度を、tは累積保持時間を、nは温度によって変化しない定数を表す。尚、式(4)は通常の指数関数減衰式の一種の変形式であって、stretched exponential関数と呼ばれていると共に、式(4)に含まれるnはstretching factorと呼ばれている。また、式(5)において、R0 は定数を、Eaは活性化エネルギーを、kはボルツマン定数を、Tは温度(絶対温度)を表す。また、式(6)において、P1 は単位時間経過後のPwを、mは減衰速度を表す。尚、減衰速度mは式(7)に示すように、温度によって変化しない定数である。
【0086】
図7は、温度依存性測定工程S10において測定された逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化及びその温度依存性の理論モデルの概略を示す図である。
【0087】
図7に示すように、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化に関しては、Pwが境界値Pxに減衰するまでは式(4)で表されるstretchedexponential関数に従うと共に、それ以降は式(6)で表されるような累積保持時間tの対数に対して直線的に変化する関数(以下、logarithmic関数と称する)に従う。すなわち、インプリントの進行挙動を示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化には、境界値Pxを境に互いに異なる変化(挙動)を示す2つの領域、具体的にはstretched exponential領域とlogarithmic領域とがある。尚、境界値Pxはstretched exponential領域に含まれていてもよいし、又はlogarithmic領域に含まれていてもよい。
【0088】
また、図7に示すように、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの温度依存性に関しては、stretched exponential領域では、式(5)に示すように、減衰速度Rがアーレニウス因子(exp[−Ea/(k・T)])に比例する関数で表されることが見出された。一方、logarithmic領域では、式(7)に示すように、減衰速度m(すなわち図7に示すグラフでは累積保持時間tの対数に対する勾配)が温度に対して一定であること、言い換えると減衰速度mが温度依存性を持たないことが見出された。また、測定した温度が低いほどstretched exponential領域からlogarithmic領域へ移行するまでの累積保持時間tが短くなるにもかかわらず、stretched exponential領域からlogarithmic領域へ移行する境になる境界値Pxの値は温度により変化しない。
【0089】
このように、本願発明者により、インプリントの進行挙動を示すPwの経時変化の温度依存性に基づいて、Pwの温度依存性を支配する活性化エネルギーEaを容易に算出することができる理論モデルが見出された。
【0090】
かかる理論モデルに基づき活性化エネルギーEaを算出する具体的な方法について、以下説明する。
【0091】
stretched exponential領域のPwの経時変化から活性化エネルギーEaを算出する場合、まずPwを測定した各温度条件下でのPwの経時変化に式(4)に示す関数をフィッティングさせることにより、各温度条件下での減衰速度Rを求める。具体的には式(4)を変形した次式(8)に従って、累積保持時間tの対数に対してln[−ln(Pw/P0 )]をグラフ上にプロットする。
【0092】
ln[−ln(Pw/P0 )]=n・ln[t]+n・ln[R]・・・(8)
これにより直線回帰して得られる回帰直線の傾きから、定数nを求めることができる。このため、定数nと切片の値から更に減衰速度Rを求めることができる。
【0093】
次に、求められた各温度条件下における減衰速度Rを、式(5)を変形した次式(9)に従って、温度Tの逆数に対してln[R]をグラフ上にプロットする(いわゆるアーレニウスプロットをする)。
【0094】
ln[R]=ln[R0 ]−Ea/(k・T) ・・・(9)
これにより直線回帰して得られる回帰直線の傾きから活性化エネルギーEaを算出することができる。
【0095】
一方、logarithmic領域のPwの経時変化から活性化エネルギーEaを算出する場合には、まずPwを測定した各温度条件下でのPwの経時変化を式(6)に従って、累積保持時間tの対数に対してPwをグラフ上にプロットする。これにより直線回帰して得られる回帰直線の傾きと切片とから、各温度条件下での減衰速度mとP1 を求めることができる。これにより求められた減衰速度mには温度依存性がないのに対して、P1 には温度依存性があるため、P1 の温度依存性に基づいて活性化エネルギーEaを以下のようにして算出することができる。
【0096】
逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化がstretched exponential領域からlogarithmic領域へ移行するときの累積保持時間tをtx とした場合、累積保持時間t=tx を式(8)に代入した式は次式(10)になる。また、累積保持時間t=tx を式(6)に代入した式は式(11)になる。
【0097】
式(10)及び式(11)からtx を消去した後、更に式(9)のRを代入して変形すると、P1 の温度依存性を表す次式(12)が得られる。
【0098】
式(12)の右辺の初めの3項は全て温度によって変化しない定数であるので、式(12)におけるP1 /mと温度Tの逆数とが直線関係になる。すなわち、その傾きが活性化エネルギーEa(正確にはEa/k)になることを示している。したがって、各温度条件下において求められたP1 及びmの値から計算されたP1 /mを用いて活性化エネルギーEaを算出することができる。
【0099】
次に、算出された活性化エネルギーEaを例えば公知の式(3)(「従来の技術」参照)に代入することによって、保証すべき実使用温度T1 での試験時間t1 と、加速温度T2 での試験時間t2 との関係を表す温度加速係数Kを導出する。
【0100】
以下、3番目のメモリ特性評価工程S30について詳しく説明する。
【0101】
尚、メモリ特性評価工程S30における強誘電体メモリ装置は、強誘電体メモリセル100から構成される強誘電体メモリ装置に対して行なわれる。
【0102】
メモリ特性評価工程S30については、前述の通り、温度加速係数導出工程S20で導出された温度加速係数Kを用いて加速温度T2 での試験時間t2 を算出し、強誘電体メモリ装置における逆データの書き込み読み出し特性を評価するための温度加速試験を、算出された試験時間t2 に基づいて行なう。
【0103】
具体的に、保証すべき実使用温度T1 での試験時間t1 に相当する加速温度T2 での試験時間t2 は、温度加速係数導出工程S20で導出した温度加速係数Kを用いて例えば公知の式(1)(「従来の技術」参照)から算出することができる。その後、算出されたt2 に基づいて、特定方向の分極に相当するデータを強誘電体メモリ装置に書き込んだ状態で加速温度T2 での温度加速試験を開始する。その後、試験時間t2 が経過した時点で温度加速試験を終了して、書き込んだデータとは逆の分極方向を持つデータの書き込み読み出し動作(逆データの書き込み読み出し動作)が正常に行なえるかどうかを評価する。このとき、逆データの書き込み読み出し動作に異常がなければ、実使用温度T1 での試験時間t1 に相当する信頼性が保証される。
【0104】
以上説明したように、第1の実施形態によると、温度依存性測定工程S10において、強誘電体メモリ装置自体ではなく、それを構成する強誘電体メモリセル100(測定用メモリセル)を用いて逆データの書き込み読み出し特性の劣化の度合いを示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性を測定し、その後、測定結果に基づいて温度加速係数Kを導出する。すなわち、強誘電体メモリ装置の寿命時間とは無関係に温度加速係数Kを導出することができる。言い換えると、寿命時間を測定しなければ温度加速係数Kを導出することができないという従来の加速試験方法の問題点を本質的に解決することができる。したがって、温度加速係数Kを導出するための工程を短時間で終了させることができるので、加速試験の全工程に費やされる時間を大幅に短縮させることができる。
【0105】
また、第1の実施形態によると、上記の逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの測定結果に基づいて温度加速係数Kを導出するために、本願発明者により見出された理論モデル、つまり式(4)及び(6)で表される関数を用いている。このため、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性の測定結果に基づいて、温度依存性がより具体的になったR及びP1 /mの温度依存性を算出することができる。
【0106】
また、第1の実施形態によると、上記の関係式(4)又は(6)を用いて具体的に導き出されたR又はP1 /mの温度依存性に基づいて温度加速係数Kを導出するために、本願発明者により見出された理論モデル、つまり式(5)及び(7)で表される関数を用いている。このため、式(4)又は(6)を用いて導出された温度依存性に基づいて、活性化エネルギーEaを容易に且つ高精度に算出することができる。よって、算出された活性化エネルギーEaに基づいて温度加速係数Kを容易に且つ高精度に導出することができる。よって、温度加速係数Kを導出する温度加速係数導出工程S20を短期間で終了させることができるため、加速試験全体に要する時間を大幅に短縮することができる上に、容易で高精度な加速試験を実現することができる。
【0107】
また、第1の実施形態によると、温度加速係数導出工程S20において、stretched exponential領域におけるPwの経時変化及びその温度依存性を示す式(4)及び式(5)に基づいた場合であっても、又はstretched exponential領域におけるPwの経時変化及びその温度依存性を示す式(6)及び式(7)に基づいた場合であっても、いずれの場合にも活性化エネルギーEaを算出することができる。ただしこの場合、いずれの関数を用いて活性化エネルギーEaを算出するかは、Pwを測定した測定時間の範囲内におけるPwの経時変化が累積保持時間tの対数に対して実質的に直線的な変化であるか否かによって判断することが好ましい。なぜならば、Pwの測定時間のうちの一定の時間範囲内におけるPwの経時変化が累積保持時間tの対数に対して実質的に直線的に変化するか否かは測定条件等によって変動する場合があるからである。このような場合、正確なフィッティングをするためには、いずれの関数を用いるのかを判断するための基準が必要になる。そこで、第1の関数が曲線的な変化を示すのに対して、第2の関数が直線的な変化を示すことを利用する。すなわち、Pwの経時変化が実質的に直線的な変化ではない場合には前述のstretched exponential領域のPwの経時変化から算出する方法、すなわち式(4)に示す関数をフィッティングさせる方法を選択する。一方、直線的な変化である場合には前述のlogarithmic領域のPwの経時変化から算出する方法、すなわち式(6)に示す関数をフィッティングさせる方法を選択する。これにより、いかなる場合においても高精度な活性化エネルギーEaを容易に算出することができる。
【0108】
また、第1の実施形態によると、測定用メモリセルとして、強誘電体メモリ装置を構成する強誘電体メモリセル100(101a及び101b)を用いている。このため、測定用メモリセルとして強誘電体メモリセル100以外のものを用いた場合のように、温度依存性つまり温度加速係数Kが実際の強誘電体メモリ装置の値から変化してしまうことがない。この場合、すなわち測定用メモリセルを用いる場合、測定用メモリセルを構成する測定用容量素子(第1及び第2の強誘電体容量素子101a及び101b)は、強誘電体メモリ装置と同一の基板上に形成されていることが好ましい。このようにすると、製造ロット又はウェハ間で温度依存性つまり温度加速係数Kがばらつくような場合であっても、加速試験の対象となる実際の強誘電体メモリ装置の温度依存性に合致する温度依存性すなわち温度加速係数Kを導出することができる。したがって、高精度な加速試験を実施することができる。
【0109】
尚、第1の実施形態において、温度依存性測定工程S10で逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを測定するために用いたのは2T/2C型の測定用メモリセルであったが、例えば1T/1C型の強誘電体メモリセル等の他の型を持つ測定用メモリセルであってもよい。また、測定用メモリセルではなく、それを構成する強誘電体容量素子のみから構成される測定用容量素子だけを用いて温度加速係数Kを導出してもよい。このような場合であっても、本実施形態において使用した各式を用いて温度加速係数Kを導出することができる。尚、1T/1C型の測定用メモリセルを用いる場合は、単一の強誘電体容量素子の測定結果に基づいて温度加速係数Kを導出できる。
【0110】
また、第1の実施形態における温度依存性測定工程S10において、測定用メモリセルは、単体であってもよいし、又はメモリセルアレイを構成していてもよい。
【0111】
また、第1の実施形態において、強誘電体メモリ装置の逆データの書き込み読み出し特性を評価するための温度加速試験を行なうために、インプリントの進行挙動を示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを測定した。しかし、インプリントの進行挙動を示す他の特定パラメータ、例えばインプリントの進行挙動を示すヒステリシス曲線の電圧軸方向シフト量、又は所定の電流若しくは電圧を測定した場合にも、前述の効果が確実に得られる。また、強誘電体メモリ装置の他のメモリ特性の劣化の度合いを示すパラメータの経時変化の温度依存性を測定すれば、その強誘電体メモリ装置の他のメモリ特性を評価するための温度加速試験を行なうことができる。
【0112】
例えば、強誘電体メモリ装置のエンデュランス特性を評価するための加速試験を行なう場合には、エンデュランス特性の劣化の度合いを示す例えば第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bの残留分極量の経時変化の温度依存性を測定すればよい。すなわち、エンデュランス特性の劣化の度合いが強誘電体容量素子の分極反転疲労により決定づけられているため、分極反転疲労の進行挙動を示す残留分極量の経時変化の温度依存性を測定すればよい。そして、このような残留分極量の経時変化の温度依存性を測定すると共に、これにより得られた測定結果を式(4)〜(7)に示すような関数を用いて解析すれば、温度加速係数Kを導出するために費やされる時間を大幅に短縮することができるため、第1の実施形態により得られる効果と同様の効果が得られる。
【0113】
また、例えば、強誘電体メモリ装置のデータ保持特性を評価するための温度加速試験を行なう場合には、データ保持特性の劣化の度合いを示す例えば第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bにおける保持分極の読み出し電荷量を測定すればよい。すなわち、データ保持特性の劣化の度合いが強誘電体容量素子の減極の進行挙動により決定づけられるため、減極の進行挙動を示す保持分極の読み出し電荷量の経時変化の温度依存性を測定すればよい。そして、このような保持分極の読み出し電荷量の経時変化の温度依存性を測定すると共に、これにより得られた測定結果を式(4)〜(7)に示すような関数を用いて解析すれば、温度加速係数Kを導出するために費やされる時間を大幅に短縮することができるため、第1の実施形態により得られる効果と同様の効果が得られる。
【0114】
(第1実施例)
以下、本発明の第1の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法の第1実施例について図面を参照しながら説明する。
【0115】
本実施例は、強誘電体メモリ装置を構成する2T/2C型の強誘電体メモリセル100の動作、具体的には、強誘電体メモリセル100に保持させたデータを108 回書き換えた後、且つデータを70℃の温度条件下で10年間保持させた後における動作を保証するために、データを108 回書き換えた後における逆データの書き込み読み出し特性を評価する温度加速試験を、加速温度150℃で実施したものである。
【0116】
尚、温度依存性測定工程S10において用いた測定用メモリセルを構成する測定用容量素子は、メモリ特性評価工程S30において用いる強誘電体メモリ装置と同じ基板上に形成され、強誘電体メモリ装置を構成する強誘電体容量素子と同一の構造を有し、且つ測定用メモリセルがメモリセルアレイで形成された測定用容量素子群からなる。測定用容量素子のサイズは0.7μm×1.0μmで、1アレイ当たりの測定用容量素子数は2500個である。また、測定に先立ち、測定用容量素子群には±1.8Vの両極性連続パルス電圧を印加することにより、108 回のデータ書換に相当する分極反転処理を前処理として行なっている。また、分極の保持、反転、及び読み出しに用いた正極性の単発パルス電圧は+1.8Vであり、一方、負極性の単発パルス電圧は−1.8Vである。
【0117】
図8は、第1の実施形態の第1実施例において、温度依存性測定工程S10において測定された逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを累積保持時間tに対してプロットしたグラフである。尚、図8に示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwは、第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bの単位面積(1cm2 )当たりの電荷量に換算している。
【0118】
図8に示すように、第1の実施形態の第1実施例における温度依存性測定工程S10において、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの測定を行なった累積保存時間tは、2時間、24時間、120時間、及び336時間である。また、85℃、110℃、125℃、及び150℃の温度条件下で測定を行なった。図8からも分かるように、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwは時間の経過と共に減少する。これは、測定用容量素子を用いても、逆データの書き込み読み出し特性の劣化の度合いを示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化を測定することにより、インプリントの進行挙動に関する途中経過についての情報を容易に得ることができることを意味している。
【0119】
また、図8に示すように、測定された2時間から336時間までの範囲におけるPwの経時変化が、累積保持時間tの対数に対して実質的に直線的な変化ではないことが分かる。すなわち、この測定時間の範囲内では、stretchedexponential領域のPwの経時変化が主に観測されていると判断することができる。したがって、温度加速係数導出工程S20において温度加速係数Kを導出するための活性化エネルギーEaの算出方法として、stretched exponential領域の経時変化から算出する方法、すなわち式(4)に示す関数をフィッティングさせる方法を選択した。その結果を図9に示す。
【0120】
図9は、図8に示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化に基づいてln[−ln(Pw/P0 )]を累積保持時間tに対してプロットしたグラフを示す図である。また、直線回帰することにより得られた回帰直線も併せて破線で示す。
【0121】
図9に示すように、温度加速係数導出工程S20においては、測定されたPwの経時変化の温度依存性に基づいて、ln[−ln(Pw/P0 )]を累積保持時間tの対数に対してグラフ上にプロットすると共に、そのプロットに式(8)に示す関数をフィッティングさせる。これにより得られた回帰直線の傾きから定数nを、また切片からは[n・ln(R)]を各温度条件下で算出する。
【0122】
図10は、図9の回帰直線の傾き及び切片から算出した定数n及び減衰速度Rの温度依存性を示す表である。
【0123】
図10に示すように、定数n及び[n・ln(R)]から、各温度条件下での減衰速度Rを算出することができる。
【0124】
図11は、図10に示す減衰速度Rを温度(絶対温度)の逆数(1/T)に対してプロットしたグラフと、そのプロットを直線回帰して得られた回帰直線とを示す図である。尚、横軸である温度の逆数(1/T)は103 倍にしてある。
【0125】
図11に示すように、図10に示す各温度条件下での算出結果に基づいて、温度の逆数(1/T)に対してRの対数をグラフ上にアーレニウスプロットすると共に、式(9)に示す関数をフィッティングさせる。この際、フィッティングさせることにより得られた回帰直線の傾きから、0.84eVの活性化エネルギーEaが算出された。
【0126】
次に、算出された活性化エネルギーEa=0.84eV、保証すべき実使用温度T1 =70℃、及び加速温度T2 =150℃を例えば公知の式(3)に代入する。これにより得られた次式(13)から、温度加速係数Kは215.5と算出された。
【0127】
最後に、メモリ特性評価工程S30として、算出された温度加速係数Kの値を用いて強誘電体メモリ装置のデータ保持過程での逆データの書き込み読み出し特性を評価するための温度加速試験を行なった。
【0128】
具体的には、まず、強誘電体メモリ装置に対して108 回のデータ書換処理を行なった後、特定方向の分極に相当するデータを書き込んだ状態で加速温度T2 =150℃での温度加速試験を開始した。実使用温度70℃で10年間保存することを想定した場合、温度加速試験を終了するまでの試験時間t2 は、式(1)を用いた次式(14)に従って406.5時間になるため、407時間経過した時点でデータの保存を終了した。
【0129】
t2 =87600/215.5=406.5/(時間) ・・・(14)
保存終了後、初めに書き込んだデータとは逆方向の分極方向を持つデータの書き込み読み出し動作(逆データの書き込み読み出し動作)が正常に行なえるかどうかを評価したところ、動作不良は発生していないことが確認された。したがって、データを108 回書き換えた後のデータ保持過程における逆データの書き込み読み出し特性に関して、70℃の温度条件下で10年間の信頼性が保証された。
【0130】
以上説明したように、第1実施例によると、強誘電体メモリ装置の加速試験に必要な温度加速係数Kを導出するために必要な時間は、温度依存性測定工程S10におけるPwの経時変化の温度依存性を測定するのに必要な時間、すなわちPwの経時変化の温度依存性を測定するのに必要な時間でほぼ決定される。よって、温度加速係数Kを導出するために必要な時間は、406.5時間になる。
【0131】
一方、従来の強誘電体メモリ装置の加速試験方法を用いて温度加速係数Kを導出するために必要な時間は、強誘電体メモリ装置の寿命時間の温度依存性を測定するのに必要な時間により決定される。そこで、強誘電体メモリ装置の寿命時間を測定するため、本実施例におけるメモリ特性評価工程S30において、150℃の高温条件下での保存を更に継続したところ、逆データの書き込み読み出し動作の動作不良が発生するデータ保持時間、すなわち実際の強誘電体メモリ装置の150℃での寿命時間が、約2000時間であることが確認された。つまり、強誘電体メモリ装置の寿命時間の温度依存性を測定する場合、その測定温度として150℃を含む設定にすると、測定完了までに少なくとも2000時間が必要になる。また、測定温度として150℃よりも低い温度を設定してしまうと、温度加速係数Kを導出するために更に長い時間が必要になってしまう。したがって、従来の加速試験方法では、温度加速係数Kを導出するためだけであっても極めて長期の時間が必要になってしまうことが明らかに分かる。
【0132】
これに対して、本実施例では、温度依存性測定工程S10において用いているのが測定用メモリセルを構成する測定用容量素子である。また、強誘電体メモリ装置の逆データ書き込み読み出し特性の劣化を決定づけているインプリントの進行挙動を示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを、寿命時間に達する前に温度依存性測定工程S10において測定することができる。このため、温度加速係数Kを導出するために必要な時間は、もはや強誘電体メモリ装置の寿命時間とは無関係である。すなわち、温度加速係数Kを導出するための測定を短時間で確実に完了させることができると共に、その測定結果から具体的な温度加速係数Kを容易に且つ高精度に導出することができるため、短時間で容易且つ高精度な加速試験を実施できることが分かる。
【0133】
(第2実施例)
以下、本発明の第1の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法の第2実施例について図面を参照しながら説明する。
【0134】
本実施例は、強誘電体メモリ装置を構成する2T/2C型の強誘電体メモリセル100の動作、具体的には、強誘電体メモリセル100に保持させたデータを1010回書き換えた後、且つデータを70℃の温度条件下で10年間保持させた後における動作を保証するために、データを1010回書き換えた後における逆データの書き込み読み出し特性を評価する温度加速試験を、加速温度150℃で実施したものである。
【0135】
尚、温度依存性測定工程S10において用いた測定用メモリセルを構成する測定用容量素子は、メモリ特性評価工程S30において用いる強誘電体メモリ装置と同じ基板上に形成され、強誘電体メモリ装置を構成する強誘電体容量素子と同一の構造を有し、且つ測定用メモリセルがメモリセルアレイで形成された測定用容量素子群からなる。測定用容量素子のサイズは0.7μm×1.0μmで、1アレイ当たりの測定用容量素子数は2500個である。また、測定に先立ち、測定用容量素子群には±1.8Vの両極性連続パルス電圧を印加することにより、1010回のデータ書換に相当する分極反転処理を前処理として行なっている。また、分極の保持、反転、及び読み出しに用いた正極性の単発パルス電圧は+1.8Vであり、一方、負極性の単発パルス電圧は−1.8Vである。
【0136】
図12は、第1の実施形態の第2実施例における温度依存性測定工程S10において測定された逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを、累積保持時間tに対してプロットしたグラフである。尚、図12に示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwは、第1の強誘電体容量素子101a及び第2の強誘電体容量素子101bの単位面積(1cm2 )当たりの電荷量に換算している。
【0137】
図12に示すように、第1の実施形態の第2実施例における温度依存性測定工程S10において、Pwの測定を行なった累積保存時間tは、2時間、24時間、120時間、及び336時間である。また、85℃、110℃、125℃、及び150℃の温度条件下で測定を行なった。
【0138】
また、図12に示すように、測定された2時間から336時間までの範囲におけるPwの経時変化が、累積保持時間tの対数に対して実質的に直線的な変化であることが分かる。すなわち、この測定時間の範囲内では、logarithmic領域の経時変化が主に観測されていると判断することができる。したがって、温度加速係数導出工程S20において温度加速係数Kを導出するための活性化エネルギーEaの算出方法として、logarithmic領域のPwの経時変化から算出する方法、すなわち式(6)に示す関数をフィッティングさせる方法を選択する。その結果を図13に示す。
【0139】
図13は、図12に示すグラフと、そのグラフのプロットを直線回帰して得られた回帰直線とを示す図である。尚、回帰直線は破線で示している。
【0140】
図13に示すように、温度加速係数導出工程S20においては、各温度におけるPwの経時変化に式(6)に示す関数をフィッティングさせる。尚、図13に示すように、85℃の温度条件下では、2〜24時間において、logarithmic領域に移行する以前のstretched exponential領域のPwの経時変化が観測されている。このため、累積保持時間tが2時間のときのデータを除いてフィッティングを行なった。これにより得られた各温度条件下での回帰直線の傾きからはmが、切片からはP1 が算出される。これにより、P1 /mを算出することができる。
【0141】
図14は、図13に示す回帰直線の傾き及び切片から算出された減衰速度m及びP1 の温度依存性を示す表である。
【0142】
図15は、図14に示すP1 /mを温度(絶対温度)の逆数(1/T)に対してプロットしたグラフと、そのプロットを直線回帰して得られた回帰直線とを示す図である。尚、横軸である温度の逆数(1/T)は103 倍にしてある。
【0143】
図15に示すように、図14に示す各温度条件下での算出結果に基づいて、温度Tの逆数に対してP1 /mをグラフ上にアーレニウスプロットすると共に、式(12)に示す関数をフィッティングさせる。この際、フィッティングから得られた回帰直線の傾きから、0.87eVの活性化エネルギーEaが算出された。
【0144】
次に、メモリ特性評価工程S30において、算出された活性化エネルギーEa=0.87、保証すべき実使用温度T1 =70℃、及び加速温度T2 =150℃を例えば公知の式(3)に代入する。これにより得られた次式(15)から、温度加速係数Kは261.1と算出された。
【0145】
最後に、メモリ特性評価工程S30として、算出された温度加速係数Kの値を用いて強誘電体メモリ装置のデータ保持過程での逆データの書き込み読み出し特性を評価するための温度加速試験を行なった。
【0146】
具体的には、まず、強誘電体メモリ装置に対して1010回のデータ書換処理を行なった後、特定方向の分極に相当するデータを書き込んだ状態で加速温度T2 =150℃での保存を開始した。実使用温度70℃で10年間保存することを想定した場合、保存を終了するまでの試験時間t2 は、例えば公知の式(1)を用いた次式(16)に従って335.5時間になるため、336時間経過した時点でデータの保存を終了した。
【0147】
t2 =87600/261.1=335.5/(時間) ・・・(16)
保存終了後、逆データの書き込み読み出し動作が正常に行なえるかどうかを評価したところ、動作不良は発生していないことが確認された。したがって、データを1010回書き換えた後のデータ保持過程における逆データの書き込み読み出し特性に関して、70℃の温度条件下で10年間の信頼性が保証された。
【0148】
第2の実施例によると、分極反転動作を1010回行なった後にPwの経時変化の測定を開始したため、温度依存性測定工程S10において測定されたPwの経時変化は、累積保持時間tの対数に対して曲線的なstretched exponential領域の変化ではなく、直線的なlogarithmic領域の変化として観測された。ところが、前述の第1実施例では、分極反転動作を108 回行なった後に測定を開始したため、測定された2時間〜336時間の時間範囲におけるPwの経時変化の実質的な変化は、累積保持時間tの対数に対して直線的なlogarithmic領域の変化ではなく、曲線的なstretched exponential領域の変化として観測された。
【0149】
このように、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの一定の時間範囲における経時変化がstretched exponential領域の経時変化であるかlogarithmic領域の経時変化であるかは事前の分極反転動作などの付帯的測定条件によって変化する場合がある。しかし、前述の理論モデルに基づいて、その経時変化に対応した活性化エネルギーEaの算出方法を適切に選択することによって、いずれの経時変化であったとしても温度加速係数Kを容易に導出することができると共に、導出された温度加速係数Kを用いることにより高精度な加速試験を実施できることが分かる。
【0150】
尚、本実施例においても、温度加速係数Kの導出が短時間で完了できると共に、従来の加速試験方法と比較して加速試験全体に要する時間が大幅に短縮できていることは言うまでもない。
【0151】
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法、特に強誘電体メモリ装置の信頼性試験の中で最も重要な逆データの書き込み読み出し特性を評価するための加速試験方法について図面を参照しながら説明する。
【0152】
図2は、第2の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法を構成する3つの工程のフローチャートを示す図である(第1の実施形態とフローが同じため併用している)。以下、図2に示すフローチャートに従い各工程の概略を初めに説明してから、詳しい説明に入る。
【0153】
図2に示すように、まず、1番目の温度依存性測定工程S10では、図1に示す測定用メモリセル(強誘電体メモリセル100)を用いて、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwが所定の閾値に達するまでの時間(以下、閾値到達時間と称する)の温度依存性を測定する。
【0154】
次に、2番目の温度加速係数導出工程S20では、温度依存性測定工程S10で測定された閾値到達時間の温度依存性に基づいて温度加速係数Kを導出する。
【0155】
最後に、3番目のメモリ特性評価工程S30では、温度加速係数導出工程S20において導出された温度加速係数Kを用いて加速温度T2 での試験時間t2 を算出し、図1に示す強誘電体メモリセル100から構成される強誘電体メモリ装置が有する逆データの書き込み読み出し特性を評価するための温度加速試験を、算出された試験時間t2 に基づいて行なう。
【0156】
尚、1番目の温度依存性測定工程S10において逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを測定する詳しい説明は第1の実施形態において説明したため省略する。また、3番目のメモリ特性評価工程S30においても同様とする。
【0157】
以下、1番目の温度依存性測定工程S10について説明する。
【0158】
前述の通り、温度依存性測定工程S10では、測定用メモリセルを用いて、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwが所定の閾値Pfに達するまでの閾値到達時間(tf とする)の温度依存性を測定する。具体的には、まず、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性を測定した後、閾値到達時間tf を求めるために、測定された逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwのうちの1つの値を閾値Pfとして設定する。その後、設定された閾値Pfに基づいて、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwが測定された各温度における閾値到達時間tf を算出する。
【0159】
尚、streched exponential領域におけるPwの値を閾値Pfに設定してもよいし、又はlogarithmic領域のPwの値を閾値Pfに設定してもよい。いずれにしても、以下説明する温度加速係数導出工程S20において温度加速係数Kを正確に導出することができる。
【0160】
以下、温度加速係数導出工程S20について説明する。
【0161】
前述の通り、温度加速係数導出工程S20では、温度依存性測定工程S10で算出された閾値到達時間tf の温度依存性に基づいて温度加速係数Kを導出する。
【0162】
具体的には、閾値Pfの値が、streched exponential領域におけるPwの範囲内で設定された場合と、logarithmic領域におけるPwの範囲内で設定された場合とに分けられる。尚、streched exponential領域とstreched exponential領域との境になるPwの値を境界値Pxとする。
【0163】
まず、閾値Pfの値がstreched exponential領域におけるPwの範囲内で設定された場合、すなわちPf≧Pxの場合、Pw=f及びt=tf を式(4)に代入すると、次式(17)が成立する。
【0164】
Pf=P0 ・exp[−(R・tf )n ] ・・・(17)
更に、式(5)に示すRを式(17)に代入して整理すると、次式(18)が得られる。
【0165】
ここで、式(18)の右辺における1項及び2項は温度に関係なく一定である。このため、閾値到達時間tf の対数と温度Tの逆数とは直線関係にあることが分かる。よって、その直線の傾きが活性化エネルギーEa(正確にはEa/k)になる。したがって、閾値到達時間tf の逆数を温度Tの逆数に対してプロットすることにより、活性化エネルギーEaを算出することができる。
【0166】
他方、閾値Pfの値がlogarithmic領域におけるPwの範囲内にある場合、すなわち、Pf<Pxの場合、Pw=Pf及びt=tf を式(6)に代入すると、次式(19)が成立する。
【0167】
Pf=P1 −m・ln[tf ] ・・・(19)
更に、式(12)に示すP1 を式(19)に代入して整理すると、次式(20)が得られる。
【0168】
ここで、式(20)の右辺における1項、2項及び3項もまた温度に関係なく一定である。このため、閾値到達時間tf の対数と温度Tの逆数とは直線関係にあることが分かる。よって、その直線の傾きが活性化エネルギーEa(正確にはEa/k)になる。したがって、閾値到達時間tf の逆数を温度Tの逆数に対してプロットすることにより、活性化エネルギーEaを算出することができる。
【0169】
以上、Pf≧Pxの場合と、Pf<Pxの場合とに分けて説明したが、閾値Pfの値がいずれの領域におけるPwの値に設定されていたとしても、閾値到達時間tf と温度Tとの関係は次式(21)になることが分かる。
【0170】
ln[tf ]=C+(Ea/k)・(1/T) ・・・(21)
このため、いずれの場合であっても、閾値到達時間tf の対数を温度Tの逆数に対してプロット(アーレニウスプロット)することにより、活性化エネルギーEaを容易に算出することができる。よって、算出された活性化エネルギーEaを代入した例えば公知の式(3)(「従来の技術」参照)を用いて、温度加速係数Kを容易に導出することができる。
【0171】
以上説明したように、第2の実施形態のようにすると、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化又は温度依存性についての詳細な理論モデルが不明な場合であっても、Pwが閾値Pfに達するまでの閾値到達時間tf の温度依存性に基づいて、式(21)に示すアーレニウスモデルを用いることにより活性化エネルギーEaを算出することができる。このため、第1の実施形態のように、式(4)又は(6)に示すような関数を逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化にフィッティングさせる必要がない。また、温度加速係数Kを導出するために、R又はP1 /mの温度依存性を知る必要もない。したがって、温度加速係数Kを導出するための工程を簡略化することができると共に、短時間で且つ高精度な強誘電体メモリ装置の温度加速試験を極めて容易に且つ確実に実施することができる。
【0172】
また、第2の実施形態によると、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化が、stretched exponential領域の経時変化を示す場合であっても、logarithmic領域の経時変化を示す場合であっても、いずれも同じ式(21)に示すアーレニウスモデルに従う。このため、Pwの経時変化の実質的な変化がstretched exponential領域の経時変化に従っているのか、又はlogarithmic領域の経時変化に従っているのかを判断する必要がない。その結果、容易に温度加速係数Kを導出することができる。なぜならば、本実施形態によると、閾値到達時間tf の温度依存性に基づいて温度加速係数Kを導出するという工程には、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwが閾値Pfに達するまでの途中変化を測定する必要がない。このため、設定された閾値Pfに達するまでの閾値到達時間tf さえ求めることができれば、式(21)に示すアーレニウスモデルの関係から確実に活性化エネルギーEaを算出することができる。その結果、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化を測定した時間範囲において、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの実質的な経時変化がstretched exponential領域の経時変化に従っているのか、又はlogarithmic領域の経時変化に従っているのかを判断する必要がなくなる。したがって、いずれの領域の経時変化に従っていても、本実施形態においては逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の挙動とは無関係に、温度加速係数Kを導出することができる。
【0173】
尚、第2の実施形態における温度依存性測定工程S10において、閾値Pfは、温度依存性が測定された各温度において閾値到達時間tf を求めることができる範囲内の値に設定されることが好ましい。
【0174】
このようにすると、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性が測定された全温度において、それぞれの閾値到達時間tf を算出することができる。このため、温度加速係数Kをより正確に導出することができる。したがって、強誘電体メモリ装置の信頼性をより正確に評価することができる。
【0175】
また、第2の実施形態において、強誘電体メモリ装置の逆データの書き込み読み出し特性を評価するための温度加速試験を行なうために、インプリントの進行挙動を示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを測定した。しかし、インプリントの進行挙動を示す他の特定パラメータ、例えばインプリントの進行挙動を示すヒステリシス曲線の電圧軸方向シフト量、又は所定の電流若しくは電圧を測定した場合にも、前述の効果が確実に得られる。
【0176】
また、第2の実施形態において、強誘電体メモリ装置の逆データの書き込み読み出し特性を評価するための加速試験方法を行なったが、強誘電体メモリ装置のエンデュランス特性又はデータ保持特性を評価するための加速試験方法も、前述と同様にして実施することができる。なぜならば、閾値到達時間tf の温度依存性が必然的に式(21)に示すアーレニウスモデルに従うという事実は、逆データの書き込み読み出し特性の劣化を決定づけているインプリントの進行挙動を示す特定パラメータ、例えば逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを測定することにだけ限定されるものではないからである。よって、エンデュランス特性の劣化を決定づけている分極反転疲労の進行挙動を示す特定パラメータ、例えば残留分極量が所定の閾値に達するまでの時間の温度依存性、及びデータ保持特性の劣化を決定づけている減極の進行挙動を示す特定パラメータ、例えば保持分極の読み出し電荷量が所定の閾値に達するまでの時間の温度依存性についてもアーレニウスモデルが成立する。
【0177】
したがって、強誘電体メモリ装置のエンデュランス特性を評価するための加速試験を行なう場合には、エンデュランス特性の劣化が強誘電体容量素子の分極反転疲労により決定づけられているため、分極反転疲労の進行挙動を示す特定パラメータ、例えば分極反転疲労の進行に伴って減少する強誘電体容量素子における残留分極量が所定の閾値に達するまでの時間の温度依存性を測定すればよい。このようにすれば、測定された温度依存性に基づいて温度加速係数Kを導出することができる。このため、残留分極量の経時変化の温度依存性に関する理論モデルが不明な場合であっても、残留分極量が所定の閾値に達するまでの時間の温度依存性を測定することにより温度加速係数Kを容易に且つ確実に導出することができる。したがって、本実施形態と同様の効果が得られる。
【0178】
また、強誘電体メモリ装置のデータ保持特性を評価するための加速試験を行なう場合には、データ保持特性の劣化が強誘電体容量素子に保持された分極が示す減極により決定づけられているため、減極の進行挙動を示す特定パラメータ、例えば強誘電体容量素子における保持分極の読み出し電荷量が所定の閾値に達するまでの時間の温度依存性を測定すればよい。このようにすれば、測定された温度依存性に基づいて温度加速係数Kを導出することができる。このため、保持分極の読み出し電荷量の経時変化の温度依存性に関する理論モデルが不明な場合であっても、保持分極の読み出し電荷量が所定の閾値に達するまでの時間の温度依存性を測定することにより温度加速係数Kを容易に且つ確実に導出することができる。したがって、本実施形態と同様の効果が得られる。
【0179】
尚、第2の実施形態においては、境界値Pxをstreched exponential領域におけるPwの値に含めたが、logarithmic領域におけるPwの値に含めてもよい。
【0180】
(第1実施例)
以下、第2の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法の第1実施例について図面を参照しながら説明する。
【0181】
本実施例は、強誘電体メモリ装置を構成する2T/2C型の強誘電体メモリセル100(図1参照)の動作、具体的には、強誘電体メモリセル100に保持させたデータを108 回書き換えた後、且つデータを70℃の温度条件下で10年間保持させた後における動作を保証するために、データを108 回書き換えた後における逆データの書き込み読み出し特性を評価する温度加速試験を、加速温度150℃で実施したものである。尚、本実施例においても、第1の実施形態の第1実施例における強誘電体メモリセル100(測定用メモリセル)と同じものを用いて、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性を測定した。このため、測定された逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性は図8に示すものと同じである。
【0182】
図16は、本実施例において、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを累積保持時間tに対してプロットしたグラフを示す図(図8と同じ)である。また、全測定温度において閾値到達時間tf が求められるように設定された直線、Pw(=Pf)=14.5μC/cm2 も併せて示す。
【0183】
図16に示すように、Pw=14.5μC/cm2 で示す直線が、各測定温度における逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化を示す直線と交点を持つ。この各交点に対応した閾値到達時間tf を、図17に示す。
【0184】
図17は、図16に示す閾値到達時間tf の温度依存性を示す表である。
【0185】
また、図18は、図17に示す閾値到達時間tf の対数を温度(絶対温度)の逆数(1/T)に対してプロット(アーレニウスプロット)したグラフを示す図である。尚、横軸である温度の逆数(1/T)は103 倍にしてある。
【0186】
図18に示すように、図17に示す閾値到達時間tf の対数を各温度Tの逆数に対してプロットすると共に、そのプロットにより得られた回帰直線の傾きから式(21)を用いて活性化エネルギーEaを算出する。これにより、第1の実施形態の第1実施例と同じ0.84eVの活性化エネルギーEaが得られた。
【0187】
次に、得られた活性化エネルギーEaを代入した例えば公知の式(3)から、保証すべき実使用温度T1 (=70℃)での試験時間t1 と加速温度T2 (=150℃)での試験時間t2 との間の関係を表す温度加速係数Kを算出する。具体的には、公知の式(3)に活性化エネルギーEaを代入した次式(22)から、温度加速係数Kは215.5と算出された。
【0188】
このように、第2の実施形態の第1実施例によると、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性についての理論モデルが不明な場合であっても、設定された閾値PfにPwが達するまでの閾値到達時間tf を各温度条件下で求めることにより、式(21)に示すアーレニウスモデルに従って活性化エネルギーEaを算出することができる。このため、第1の実施形態のように、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化に式(4)に示すような関数をフィッティングさせる必要がない。また、温度加速係数Kを導出するために、Rの温度依存性を知る必要もない。したがって、温度加速係数Kを導出するための工程を簡略化することができると共に、短時間で且つ高精度な強誘電体メモリ装置の温度加速試験を更に容易に実施することができる。
【0189】
(第2実施例)
以下、第2の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法の第2実施例について図面を参照しながら説明する。
【0190】
本実施例は、強誘電体メモリ装置を構成する2T/2C型の強誘電体メモリセル100(図1参照)の動作、具体的には、強誘電体メモリセル100に保持させたデータを1010回書き換えた後、且つデータを70℃の温度条件下で10年間保持させた後における動作を保証するために、データを1010回書き換えた後における逆データの書き込み読み出し特性を評価する温度加速試験を、加速温度150℃で実施したものである。尚、本実施例においても、第1の実施形態の第1実施例における強誘電体メモリセル100(測定用メモリセル)と同じものを用いて、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性を同様に測定した。このため、測定された逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性は図12に示すものと同じである。
【0191】
図19は、本第2実施例において、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを累積保持時間tに対してプロットしたグラフを示す図(図12と同じ)である。また、全測定温度において閾値到達時間tf を求めることができるように設定された直線、Pw(=Pf)=12.5μC/cm2 も併せて示す。
【0192】
図19に示すように、Pw=12.5μC/cm2 で示す直線が、各測定温度における逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化を示す直線と交点を持つ。この交点に対応した閾値到達時間tf を、図20に示す。
【0193】
図20は、図19に示す閾値到達時間tf の温度依存性を示す表である。
【0194】
また、図21は、図20に示す閾値到達時間tf の対数を温度(絶対温度)の逆数(1/T)に対してプロット(アーレニウスプロット)したグラフを示す図である。尚、横軸である温度の逆数(1/T)は103 倍にしてある。
【0195】
図21に示すように、図20に示す閾値到達時間tf の対数を各温度Tの逆数に対してプロットすると共に、そのプロットにより得られた回帰直線の傾きから式(21)を用いて活性化エネルギーEaを算出する。これにより、第1の実施形態の第2実施例と同じ0.87eVの活性化エネルギーEaが得られた。
【0196】
次に、得られた活性化エネルギーEaを代入した例えば公知の式(3)から、保証すべき実使用温度T1 (=70℃)での試験時間t1 と、加速温度T2 (=150℃)での試験時間t2 との間の関係を表す温度加速係数Kを導出する。具体的には、公知の式(3)に活性化エネルギーEaを代入した次式(23)から温度加速係数Kは261.1と算出された。
【0197】
このように、第2の実施形態の第2実施例によると、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性についての理論モデルが不明な場合であっても、設定された閾値PfにPwが達するまでの閾値到達時間tf を各温度条件下で求めることにより、式(21)に示すアーレニウスモデルに従って活性化エネルギーEaを算出することができる。このため、第1の実施形態のように、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化に式(6)に示すような関数をフィッティングさせる必要がない。また、温度加速係数Kを導出するために、P1 /mの温度依存性を知る必要もない。したがって、温度加速係数Kを導出するための工程を簡略化することができると共に、短時間で且つ高精度な強誘電体メモリ装置の温度加速試験を更に容易に実施することができる。
【0198】
【発明の効果】
本発明の第1の強誘電体メモリ装置の加速試験方法によると、メモリ特性の劣化の度合いを示す特定パラメータの経時変化の温度依存性を測定しているため、強誘電体メモリ装置の寿命時間とは無関係に温度加速係数を導出することができる。言い換えると、寿命時間を測定しなければ温度加速係数を導出することができないという従来の加速試験方法の問題点を本質的に解決することができる。したがって、温度加速係数を導出するための工程を短時間で終了させることができるので、加速試験の全工程に費やされる時間を大幅に短縮させることができる。
【0199】
本発明の第2の強誘電体メモリ装置の加速試験方法によると、閾値到達時間の温度依存性を測定しているため、パラメータの温度依存性に対応する詳細な理論モデルが不明な場合であっても、温度加速係数を確実に導出することができる。したがって、強誘電体メモリ装置が寿命に達する前であっても、任意に設定した閾値にパラメータが達するまでの閾値到達時間さえ測定すれば温度加速係数を導出することができる。このため、寿命時間を測定しなければならなかった従来の加速試験方法の問題点を本質的に解決することができる。また、加速試験に費やされる時間を大幅に短縮することができると共に、詳細な理論モデルに関係なく温度加速係数を導出することができるので、高精度な加速試験を極めて容易に且つ確実に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法において用いる強誘電体メモリ装置を構成する例えば2トランジスタ/2キャパシタ型の強誘電体メモリセルを示す回路図である。
【図2】本発明の第1及び第2の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法における各工程のフローチャートを示す図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法における温度依存性測定工程の各ステップのフローチャートを示す図である。
【図4】本発明の第1及び第2の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法における、強誘電体容量素子の分極ヒステリシス曲線(実線)と、強誘電体容量素子に正方向の分極を保持させたためにインプリントの影響を受けて負方向の電圧軸方向にシフトしたヒステリシス曲線(破線)とを示す図である。
【図5】本発明の第1及び第2の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法において、強誘電体容量素子の分極ヒステリシス曲線(実線)と、強誘電体容量素子に負方向の分極を保持させたためにインプリントの影響を受けて正方向の電圧軸方向にシフトしたヒステリシス曲線(破線)とを示す図である。
【図6】本発明の第1及び第2の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法における、逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの定義及びその経時変化を示す図である。
【図7】本発明の第1及び第2の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法において用いた、インプリントの進行挙動を示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化の温度依存性に基づいて温度加速係数Kを導出するための理論モデルの概略を示す図である。
【図8】本発明の第1の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法の第1実施例において、108 回の分極反転処理後の逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化を4種類の温度で測定したグラフを示す図である。
【図9】図8に示した逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化に基づいてln[−ln(Pw/P0 )]を累積保持時間tに対してプロットしたグラフと、そのプロットにより得られた回帰直線とを示す図である。
【図10】図9の回帰直線の傾き及び切片から算出した定数n及び減衰速度Rの温度依存性を示す表である。
【図11】図10に示すRを温度Tの逆数に対してプロットしたグラフと、そのプロットにより得られた回帰直線とを示す図である。
【図12】本発明の第1の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法の第2実施例において、1010回の分極反転処理後の逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化を4種類の温度で測定したグラフを示す図である。
【図13】図12に示すグラフと、そのグラフにおける逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwの経時変化から得られた回帰直線とを示す図である。
【図14】図13に示す回帰直線の傾き及び切片から算出した減衰速度m及び1時間経過後の逆方向保持分極の読み出し電荷量P1 の温度依存性を示す図である。
【図15】図14に示すP1 /mを温度Tの逆数に対してプロットしたグラフと、そのプロットにより得られた回帰直線とを示す図である。
【図16】本発明の第2の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法の第1実施例において108 回の分極反転処理後の逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを累積保持時間tに対してプロットしたグラフを示す図である。
【図17】図16に示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwが所定の閾値Pfに達するまでの閾値到達時間tf の温度依存性を示す図である。
【図18】図17に示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwが所定の閾値Pfに達するまでの閾値到達時間tf の対数を温度Tの逆数に対してプロットしたグラフを示す図である。
【図19】本発明の第2の実施形態に係る強誘電体メモリ装置の加速試験方法の第2実施例において1010回の分極反転処理後の逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwを累積保持時間tに対してプロットしたグラフを示す図である。
【図20】図19に示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwが所定の閾値Pfに達するまでの閾値到達時間tf の温度依存性を示す表である。
【図21】図20に示す逆方向保持分極の読み出し電荷量Pwが所定の閾値Pfに達するまでの閾値到達時間tf の対数を温度Tの逆数に対してプロットしたグラフを示す図である。
【符号の説明】
100 強誘電体メモリセル
101a 第1の強誘電体容量素子
101b 第2の強誘電体容量素子
102a 第1のnMOSトランジスタ
102b 第2のnMOSトランジスタ
103 ワード線
104a ビット線
104b 反ビット線
105 プレート線
106 センスアンプ
Claims (15)
- 強誘電体メモリ装置を構成する強誘電体容量素子を分極状態に保ちながら、前記強誘電体メモリ装置における所定のメモリ特性の劣化の度合いを示すパラメータの経時変化の温度依存性を測定する第1の工程と、
前記第1の工程で測定された前記温度依存性に基づいて温度加速係数を導出する第2の工程と、
前記第2の工程で導出された前記温度加速係数を用いて前記所定のメモリ特性を評価するための温度加速試験を行なう第3の工程とを備えていることを特徴とする強誘電体メモリ装置の加速試験方法。 - 前記所定のメモリ特性は逆データの書き込み読み出し特性であり、
前記パラメータは、前記強誘電体容量素子における逆方向保持分極の読み出し電荷量であることを特徴とする請求項1に記載の強誘電体メモリ装置の加速試験方法。 - 前記第2の工程は、第1の関数P=P0 ・exp[−(R・t)n ](Pは前記パラメータを、Rは減衰速度を、tは時間を、P0 はtの値が0のときの前記Pを、nは温度に依存しない定数を表す)を、前記温度依存性を測定した各温度での前記パラメータの経時変化にフィッティングさせることにより得られる前記Rの温度依存性に基づいて、又は第2の関数P=P1 −m・ln[t](Pは前記パラメータを、P1 は単位時間経過後の前記Pを、tは時間を、mは温度に依存しない定数を表す)を、前記温度依存性を測定した各温度での前記パラメータの経時変化にフィッティングさせることにより得られるP1 /mの温度依存性に基づいて、前記温度加速係数を導出する工程を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の強誘電体メモリ装置の加速試験方法。
- 前記第2の工程は、前記Rの対数又は前記P1 /mを、前記各温度の逆数に対してプロットすることにより得られる回帰直線の傾きから算出される活性化エネルギーを用いて前記温度加速係数を導出する工程を含むことを特徴とする請求項3に記載の強誘電体メモリ装置の加速試験方法。
- 前記第2の工程は、前記パラメータの経時変化が時間の対数に対して実質的に直線的な変化でない場合には、前記パラメータの経時変化に前記第1の関数をフィッティングさせる一方、前記パラメータの経時変化が時間の対数に対して実質的に直線的な変化である場合には、前記パラメータの経時変化に前記第2の関数をフィッティングさせる工程を含むことを特徴とする請求項3又は4に記載の強誘電体メモリ装置の加速試験方法。
- 前記所定のメモリ特性はエンデュランス特性であり、
前記パラメータは、前記強誘電体容量素子に保持された残留分極量であることを特徴とする請求項1に記載の強誘電体メモリ装置の加速試験方法。 - 前記所定のメモリ特性はデータ保持特性であり、
前記パラメータは、前記強誘電体容量素子における保持分極の読み出し電荷量であることを特徴とする請求項1に記載の強誘電体メモリ装置の加速試験方法。 - 強誘電体メモリ装置を構成する強誘電体容量素子を分極状態に保ちながら、前記強誘電体メモリ装置における所定のメモリ特性の劣化の度合いを示すパラメータが所定の閾値に達するまでの時間の温度依存性を測定する第1の工程と、
前記第1の工程で測定された前記温度依存性に基づいて温度加速係数を導出する第2の工程と、
前記第2の工程で導出された前記温度加速係数を用いて前記所定のメモリ特性を評価するための温度加速試験を行なう第3の工程とを備えていることを特徴とする強誘電体メモリ装置の加速試験方法。 - 前記所定のメモリ特性は逆データの書き込み読み出し特性であり、
前記パラメータは、前記強誘電体容量素子における逆方向保持分極の読み出し電荷量であることを特徴とする請求項8に記載の強誘電体メモリ装置の加速試験方法。 - 前記所定のメモリ特性はエンデュランス特性であり、
前記パラメータは、前記強誘電体容量素子に保持された残留分極量であることを特徴とする請求項8に記載の強誘電体メモリ装置の加速試験方法。 - 前記所定のメモリ特性はデータ保持特性であり、
前記パラメータは、前記強誘電体容量素子における保持分極の読み出し電荷量であることを特徴とする請求項8に記載の強誘電体メモリ装置の加速試験方法。 - 前記第1の工程において、前記所定の閾値は、前記温度依存性が測定された各温度において前記パラメータが前記所定の閾値に達するまでの時間を求めることができる範囲内の値に設定されることを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項に記載の強誘電体メモリ装置の加速試験方法。
- 前記第2の工程は、
前記パラメータが前記所定の閾値に達するまでの時間の対数を、前記温度依存性を測定した各温度の逆数に対してプロットする工程と、
前記時間の対数を前記各温度の逆数に対してプロットすることにより得られた回帰直線の傾きから活性化エネルギーを算出する工程と、
算出された前記活性化エネルギーを用いて前記温度加速係数を導出する工程とを含むことを特徴とする請求項8〜12のいずれか1項に記載の強誘電体メモリ装置の加速試験方法。 - 前記第1の工程において、前記強誘電体容量素子と同一構造の単一の測定用容量素子又は該測定用容量素子が複数個2次元的に配列された測定用容量素子群を用いることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の強誘電体メモリ装置の加速試験方法。
- 前記測定用容量素子は前記強誘電体メモリ装置と同じ基板上に形成されていることを特徴とする請求項14に記載の強誘電体メモリ装置の加速試験方法。
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JP2005322889A (ja) * | 2004-04-05 | 2005-11-17 | Fujitsu Ltd | 強誘電体キャパシタの測定方法及び強誘電体メモリの設計方法 |
US7387391B2 (en) | 2005-05-20 | 2008-06-17 | 3M Innovative Properties Company | Apparatus and method for mounting imagers on stress-sensitive polarizing beam splitters |
JP2010147987A (ja) * | 2008-12-22 | 2010-07-01 | Rohm Co Ltd | カウンタ回路およびタイマー回路ならびにカウント方法および計時方法 |
KR102122580B1 (ko) * | 2018-12-06 | 2020-06-12 | 한국수력원자력 주식회사 | 커패시터 수명 산정 방법 및 장치 |
CN111856283A (zh) * | 2019-04-24 | 2020-10-30 | 株式会社日立制作所 | 电池评价系统、电池评价方法以及程序 |
-
2003
- 2003-04-03 JP JP2003099978A patent/JP2004310823A/ja active Pending
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