JP2004298677A - 糖質系嫌気性排水処理方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】メタン生成工程に大きく関与する酸生成工程において、効率的酸生成を行うことの可能な嫌気性排水処理方法を提供する。
【解決手段】調整槽1で調整されたビール工場排水に対し、このビール製造過程において排出される排水等といった糖質系液体に対して好適な、Klebsiella属及びStreptococcus属を主たる微生物として含む微生物群を用い、さらに、酸生成槽2内を、前記微生物群による酸生成に適したpH6〜8及び温度30〜45℃の状態に維持して、酸生成を行わせる。これによって、酸生成槽2における酸生成を効率的に行うことができ、酸生成槽2における酸の生成量に大いに左右される、メタン発酵槽3におけるメタン発酵を効率的に行うことができる。
【選択図】 図1
【解決手段】調整槽1で調整されたビール工場排水に対し、このビール製造過程において排出される排水等といった糖質系液体に対して好適な、Klebsiella属及びStreptococcus属を主たる微生物として含む微生物群を用い、さらに、酸生成槽2内を、前記微生物群による酸生成に適したpH6〜8及び温度30〜45℃の状態に維持して、酸生成を行わせる。これによって、酸生成槽2における酸生成を効率的に行うことができ、酸生成槽2における酸の生成量に大いに左右される、メタン発酵槽3におけるメタン発酵を効率的に行うことができる。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は糖質系嫌気性排水の処理方法に関し、特に二相式メタン発酵法を用いた排水処理において、効率的に酸生成を行うことの可能な糖質系嫌気性排水処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、糖類を多く含む糖質系排水、例えば、食品工場や飲料製造工場、特にビール製造工場からの排水の処理方法として、嫌気性排水処理が普及してきている。すなわち、嫌気性排水処理は、排水処理法として既に普及している好気性排水処理と比較し、▲1▼高負荷運転が可能、▲2▼発生するメタンガスはエネルギーとして回収できる、▲3▼余剰汚泥の発生が極端に少なく廃棄物処理コストがかからない、▲4▼好気的条件を維持するためのエアレーションなどの動力不要、▲5▼広大な設置スペースが不要、などの利点があるためである。
【0003】
嫌気性排水処理としては、主に、順に接続された、排水中の糖類等から有機酸生成が行われる酸生成槽と、有機酸からメタン生成が行われるメタン発酵槽と、において処理することにより、排水中の糖類等からメタンを生成する二相式メタン発酵法が用いられている。このような嫌気性排水の処理方法に関する先行技術文献には、▲1▼酸生成過程及びメタン生成過程において、担体に固定化した酸生成能を有する微生物及び担体に固定したメタン発酵能を有する微生物を用い、さらに、各過程において種汚泥の温度に応じて酸生成槽及びメタン発酵槽の温度及びpH条件を変更するようにした嫌気性排水処理方法(特許文献1参照) 、或いは、▲2▼酸生成槽のpHの低下を防止するためにメタン生成槽からの排水を酸生成槽に返送する前に、前記排水を脱炭酸処理することで、酸生成槽のpHを所定の値に維持し且つ酸生成槽のpH調整に用いられるアルカリ剤の使用料を低減するようにした嫌気性排水処理方法(特許文献2参照)等が開示されている。
【0004】
【特許文献1】
特開昭 61‐54292号公報
【特許文献2】
特開2001‐38378号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の先行技術に示されるような、酸生成槽の温度条件或いはpH条件は、上述の糖類を多く含む糖質系排水を処理する場合には、効果的な条件とはいえず、より効率的に酸生成を行い、メタン発酵の効率化及び安定化を図ることの可能な嫌気性排水処理方法が望まれていた。
そこで、本発明の目的は、メタン発酵の効率化及び安定化を図るべく、該メタン生成工程に大きく関与する酸生成工程において効率的酸生成を行う嫌気性排水処理方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1による嫌気性排水処理方法は、酸生成槽において糖質系液体から有機酸を生成する酸生成工程と、メタン生成槽において該有機酸からメタンを生成するメタン生成工程と、からなる糖質系嫌気性排水処理方法であって、
前記酸生成工程においては、前記酸生成槽内をpH6〜8及び温度30〜45℃の条件にして、前記有機酸の生成を行わせることを特徴とする。
【0007】
ここで、前記pHの範囲、pH6〜8とは、pH6程度からpH8程度という意であり、pH6を若干下回る値や、pH8を若干上回る値を含む。同様に、前記温度の範囲30〜45℃とは、30℃程度から45℃程度という意であり、30℃を若干下回る値や、45℃を若干上回る値を含む。
本発明の請求項2による嫌気性排水処理方法は、請求項1において、
前記酸生成工程においては、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)及びストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)を主たる微生物として含む微生物群を用いて、前記有機酸の生成を行わせることを特徴とする。
【0008】
ここで、主たる微生物として含むとは、上記2種の微生物が、当該酸生成可能な状態におかれた微生物群において、その少なくとも約9割を占めていることをいう。
本発明の請求項3による嫌気性排水処理方法は、請求項1又は2において、
前記酸生成槽には、pH7.5乃至8の状態に調整された前記糖質系液体を導入することを特徴とする。
【0009】
ここで、前記pHの範囲pH7.5乃至8とは、pH7.5程度乃至pH8程度という意であり、pH7.5を若干下回る値や、pH8を若干上回る値を含む。
本発明の請求項4による嫌気性排水処理方法は、請求項1〜3のいずれか1項において、
前記糖質系液体は、ビール製造過程において排出される排水であることを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の適用した嫌気性排水処理設備の一例を示す概略構成図である。
同図において嫌気性排水処理設備100は、順に接続されて工場排水を処理する調整槽1と、酸生成槽2と、メタン発酵槽3と、を含んで構成されている。
【0011】
前記調整槽1においては、ビール製造工場からの工場排水を嫌気性排水処理に適切な条件とするための公知の調整が行なわれる。このとき、pHについては、酸生成槽2における酸生成に適切なpH7.5〜8程度となるように調整が行われる。
また、前記前記調整槽1と酸生成槽2とを結ぶラインには、pH調節手段7が設けられている。pH調節手段7は、例えばアルカリ剤や各種の酸の添加を行うこと等によりpH調節を行う。
【0012】
前記酸生成槽2においては、微生物群により、排水中に含まれる糖類などの有機物から、酢酸、蟻酸、乳酸などの有機酸の生成が行われる。前記微生物群は、主にこの酸生成槽2において形成され、担体等に固定されることなく酸生成槽2内に導入されて一時的に滞留する排水中に増殖して有機酸生成を行い、排水の流出と共に槽外へと流出するものである。尚、前記微生物群はこのようにして酸生成槽内に形成されるものに限定されない。
【0013】
また、酸生成槽2には、一定の温度条件及びpH条件を維持するためのpH調節手段5及び温度調節手段6が設けられている。前記pH調節手段5は、必要に応じて例えばアルカリ剤の添加を行うこと等によりpH調節を行う。また、前記温度調節手段6は、例えばヒーター等で構成され必要に応じてヒーターを作動させることにより温度調節を行う。
【0014】
そして、前記pH調節手段5は、前記酸生成槽2内のpHを、pH6〜8程度に維持するよう動作し、また、前記温度調節手段6は、前記酸生成槽2内の温度を、30〜45℃程度に維持するよう動作する。
前記メタン発酵槽3においては、槽内に形成されたグラニュール汚泥中のメタン菌により、酸生成槽2において生成された有機酸から更にメタンが生成される。同図においては、メタン発酵槽3を経た排水は、その一部が同図中の矢印Y1で示される経路により、酸生成槽2へと返送されている。これにより、酸生成槽2から流出した酸生成菌の一部を返送するとともに、酸生成槽2中の排水を希釈してその有機物濃度を調整することが可能になっている。残りの排水は、矢印Y2に示されるように、更なる排水処理工程へ誘導される。
【0015】
また、酸生成槽2とメタン発酵槽3とを結ぶラインには、酸生成槽2からの排水をメタン発酵槽3におけるメタン生成に適切なpHに調節するためのpH調節手段8が設けられている。pH調節手段8は、例えばアルカリ剤の添加を行うこと等によりpH調節を行う。
前記酸生成槽2において用いる微生物群は、次のようにして形成する。ここでは、未稼働の、すなわち内部に何も導入されていない空の酸生成槽2に、前記微生物群を形成する場合について説明する。
【0016】
酸生成槽2にKlebsiella pneumoniae、及び、Streptococcus bovisを添加したビール製造工場からの排水を注入する。なお、前記pH調節手段5及び温度調節手段6では、酸生成槽2内に注入された排水がpH6〜8かつ30〜45℃に保たれるように調節を行う。
ここで、前記Klebsiella pneumoniae、及び、Streptococcus bovisの添加は、例えば、GAM培地(日水製薬(株)製)等の嫌気性菌培養用培地において純粋培養されたそれぞれの菌を、酸生成槽2に導入される排水の量、排水中の有機物の量、あるいは、酸生成槽2における滞留時間等に応じて適切な量を添加することによって行う。
【0017】
その後、上述のようにグラニュール汚泥が形成され、稼動可能な状態におかれたメタン発酵槽3に酸生成槽2内の排水を送り、更にメタン発酵槽3から再び酸生成槽2にその排水を返送する循環運転を、2〜5日間行う。
なおここで示した微生物Klebsiella pneumoniae、及び、Streptococcus bovisは特殊なものではなく、一般的な下水道あるいは排水処理場の設備中に生息している菌種であるので、これらの設備中から容易に入手が可能である。必要であれば、微生物菌株分譲機関から入手することもできる。
【0018】
これにより、酸生成槽2内の微生物群の動態が安定し、前記有機酸生成に適した微生物群が形成される。
尚、前記微生物群は、上述のように酸生成槽2とメタン発酵槽3との循環運転を行わなくても、糖質系排水の供給下、Klebsiella pneumoniae、及び、Streptococcus bovisが安定的に成育し、効率的な酸生成を行うための条件、すなわちpH6〜8、温度30〜45℃の状態を一定期間維持することにより、形成させることができる。しかし、循環運転を行うことにより、酸生成槽2及びメタン発酵槽3それぞれの槽内の微生物群を稼動に近い条件において馴養することができる。
【0019】
2〜5日間の循環運転後は、酸生成状況やメタン発酵状況を調査しながら、酸生成槽に導入する工場排水を徐々に増加させて、徐々に酸生成槽2内に滞留する排水量の増加に応じて前記微生物群の全体量も増加させ、通常運転に近づける。
尚、循環運転後の酸生成状況の調査により、酸生成が順調に行われず前記微生物群が順調に形成されていないと判断される場合には、添加する菌体の量を増やすなどして再度循環運転を行う。
【0020】
このように、新規に酸生成槽2内に前記微生物群を形成させるには、慎重な条件の調整や微生物添加量の調整を行う必要がある。このため、例えば稼動状態にある酸生成槽1の清掃や槽設備の入れ替え等を行った場合には、上述のように新たに微生物を添加することなく、稼動状態にあるメタン発酵槽3の出口排水を利用することによって、より容易に微生物群の形成が可能になる。すなわち、上述のように、酸生成槽2からメタン発酵槽3への排水の流入と共に微生物群も導入されるため、メタン発酵槽3にも微生物群が滞留する。この出口排水を、例えば、清掃等後の酸生成槽2内の排水中に10〜30%混入させて、上記循環運転を行うこととすれば、より確実に本発明にかかる微生物群の形成が可能となる。
【0021】
そして、このようにして形成した微生物群を利用し、且つ酸生成槽2内のpH及び温度を、前記pH調節手段5及び温度調節手段6により、前記pH条件をpH6〜8、温度条件を30〜45℃を満足するよう調整することにより、前記排水処理を行う。
上述のように構成された嫌気性排水処理設備100について、以下のような試験を行って、酸生成におけるpH依存性及び温度依存性の確認を行った。
【0022】
(1)試験用微生物群の回収
上述のようにして形成され、稼動状態におかれた酸生成槽2から採取した溶液を10000rpm、30分にて遠心処理を行い、SS(Suspended
Solid)分および酵母等を除去した後、沈殿物の上層部を試験用微生物群として回収した。
(2)モデル排水の調整
試験には、偏性嫌気性微生物培養用の液体培地組成を基本組成としたモデル排水を用いた。ビール製造工場の排水の特性を反映するため、ビール製造工場の排水を分析した結果、炭素源はマルトースが適正と判断しモデル排水組成を決定した。モデル排水の組成表を表1に示す。なお、同表中の「*」で示すものは、熱による変質等の回避のため、オートクレープによる滅菌方法を適用せず、滅菌済みメンブランフィルターを用いてフィルター滅菌処理をした。
【0023】
【表1】
【0024】
(3)バッチ試験
100ml容メジウム瓶を用いて酸生成試験を行った。操作はすべて嫌気グローブボックス内で行い、嫌気状態を維持した。反応は12時間としサンプリングは1時間毎に行った。
図2は、温度35℃の下、pH6,7,8,9,10の各pH条件を維持した場合の試験結果である。
【0025】
同図に示されるように、pH7を対照区とし、pHと最大総有機酸濃度到達時間との関係を調査した結果、pH9以上で有機酸生成状態が極端に悪化することが確認された。pH8以下では、pH8の生成速度の立ち上がりにやや遅れがあるが、総有機酸濃度が最大となる最大総有機酸濃度に到達するまでの反応時間は8時間であって、これは対照区と同等であった。この立ち上がりの遅れの原因は、試験用微生物群を回収した酸生成槽2がpH7で運転されていたため、菌のpHショックが現れたと考えられ、馴養された場合には問題ないと思われる。したがって、本発明の微生物群が適切に酸生成を行うためのpH条件の上限はpH8であると考えられる。つまり、pH条件としては、pH6〜8程度であれば、十分に酸生成を行わせるできることが確認できた。
【0026】
一方、図3は、pH7の下、温度25℃、30℃、35℃、40℃、45℃の各温度条件を維持した場合の試験結果である。
同図に示されるように、35℃を対照区とし、温度と最大総有機酸濃度到達時間との関係を調査した結果、温度が40℃及び45℃の場合には、最大総有機酸濃度に達する反応時間が9時間程度と最短であるが、温度が25℃の場合には、有機酸生成状態が極端に悪化することが確認された。
【0027】
温度が40℃及び45℃の場合には、反応時間は最短ではあるが、40〜45℃への加温は、エネルギーコスト的、設備的に好ましくない。ここで、温度30℃の条件下における、総有機酸濃度の変化状況に着目すると、約16時間まで酸生成時間を延長すると、最大総有機酸濃度に到達すると予測される。したがって、反応時間と温度との関係を考慮すれば、酸生成の反応時間を16時間確保することで、排水温度が30℃であっても、酸生成は可能であると考えられる。つまり、温度条件として、30〜45℃程度であれば、十分に酸生成を行わせることができた。さらに、このとき、温度条件を40〜45℃とした場合、最大総有機酸濃度への到達時間を最短とすることが可能であるが、エネルギーコストの点或いは設備の点等から不利となり、逆に温度条件を30℃とした場合には、最大総有機酸濃度への到達時間をある程度確保する必要があるが、エネルギの点或いは設備の点等からは有効であることが確認できた。
【0028】
(4)連続試験
1L容三角フラスコを用いてモデル排水を1ml/minで連続送液し、酸生成させ、酢酸生成量と総有機酸生成量を比較検討した。この連続試験は菌増殖速度による有機酸生成速度への影響を排除することを目的とした。試験条件はバッチ試験の結果を受けて決定した。実験中は流入排水を4℃保存とし、容器空寸部は窒素に置換することで嫌気状態を維持した。試験条件は、温度条件を35℃とし、pH条件をpH6及び8とした。
【0029】
図4は、pH6の条件、図5は、pH8の条件下での、各反応時間における各種有機酸生成濃度の測定結果である。図5に示すようにpH8の条件では、図4のpH6の条件の場合に比較して、総有機酸濃度が高く、さらに、有機酸濃度のうち、酢酸濃度の占める割合が最も高く、後段のメタン生成に優位な酸生成が行われていることが確認された。
次に、pH条件による、生成有機酸の種類及び総有機酸生成量の変化を測定した。
【0030】
上記酸生成におけるpH依存性及び温度依存性の確認のための酸生成試験の結果を受けて設定した酸生成条件で、前記モデル排水について酸生成させ、この酸生成させたモデル排水を10000rpm、30分で遠心処理して集菌した。集菌した微生物群から、DNA(deoxyribonucleic acid)抽出し、抽出後のDNAをPCR(polymerase chain reaction)法にて増幅した。当該PCR産物を大腸菌にサブクローニングし、プレートに培養した。プレートに生育した菌株を無作為にピックアップし、DNA解析を行い、その解析の結果得られたシークエンスをホモロジー検索し、菌種の同定を行うという方法で微生物群を調査した。PCR法でクローニングする際のDNAとしては、16s−rDNAを対象とした。すなわち、16s−rDNAに共通な配列の一部をユニバーサル・プライマーとしてPCR法によりクローニングを行い、微生物分類に用いられている16s−rDNAをホモロジー検索して菌種の同定を行った。なお、酸生成のpH条件は、pH6及び8、温度条件は37℃とした。
【0031】
その結果、図6に示されているように、微生物群は、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)と、乳酸菌のストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)と、を主たる微生物として含んでいた。すなわち、菌種は少なく、ほとんどがKlebsiella pneumoniaeと、Streptococcus bovisの2種であり、全体の約9割を占めていた。酢酸を多く生成させる条件であるpH8においては、Klebsiella pneumoniaeがStreptococcus bovisよりも優先的に増殖し、優勢であることが確認された。同菌は生育pHの幅が広く、代謝機構もpH条件により大きく変化し、pHが中性〜弱酸性側においては、ブタンジオール発酵を行うことが確認されている。本試験においては生育条件がpH8であったため、他の菌の増殖が阻害され、Klebsiella pneumoniaeの増殖が優勢となり、酢酸濃度が高くなることを確認した。以上の知見から酢酸生成を行うには、pHを弱アルカリ側に操作し、Klebsiella pneumoniaeの増殖を優勢に保つことが好ましいことが確認できた。
【0032】
次に、上述のようにして生成した微生物群を用い、pH条件を初発pH8とし、以後、pH制御を行わず、温度条件を30℃、反応時間を16時間として、前記モデル排水を用いて酸生成を行い、総有機酸濃度を測定した。
その結果、図7に示すように、pH制御を行わなくとも、有機酸生成が行われることを確認した。また、前記図5に示す発酵中のpH制御を行った場合に比較して酢酸濃度は減少するものの、炭素源であるマルトースの残存は認められず、酸生成が十分行われていることを確認した。
【0033】
次に、このようにして酸生成したモデル排水を用いて、メタン生成工程におけるpH影響調査及び温度影響調査を行った。
まず、pH条件を、pH7を対照区とし、pH5,6,7とし、また、温度条件を35℃として酸生成したモデル排水について、メタン生成を行わせて発生したメタンガス圧力が安定するまでの到達時間を比較した。その結果、図8に示すように、pH条件がpH6の場合は対照区pH7と同等に変化し同等の到達時間となったが、pH5の場合には、対照区に比較して、安定するまでの到達時間が約4時間遅延することが確認された。この結果、メタン生成工程においては、酸生成したモデル排水のpHはpH6又は7であることが好ましいことが確認できた。
【0034】
次に、pH条件を、pH7、温度条件を25,30,35,40,45℃として酸生成したモデル排水について、メタン生成を行わせて発生したメタンガス圧力が安定するまでの到達時間を比較した。その結果、図9に示すように、温度が25〜35℃の場合には、反応時間が7時間程度の時点で、メタンガス圧力が安定しているが、温度が35℃を下回ると急速にメタンガス圧力が安定するまでの到達時間が遅延し、つまり、メタン活性が低下している。しかしながら、酸生成工程における温度条件を30℃とした場合には、メタン生成工程における反応時間を考慮することで、十分、適用できることが確認できた。
【0035】
上述のように、メタン発酵を効率的に行わせるためには、酸生成槽2における有機酸生成が重要であることに着目し、酸生成槽2のpH条件及び温度条件を、酸生成に最適なpH条件及び温度条件となるように調整するようにしたから、有機酸生成を十分に行わせることができ、メタン発酵槽3における、メタン発酵を十分に行わせることができる。
【0036】
また、酸生成槽内を上記条件とすることにより、前記酸生成槽2においてKlebsiella属及びStreptococcus属に属する微生物を多く含む微生物相を形成させることができ、これにより、有機酸生成を十分に行わせることができると共に、pH8においてはlebsiella属が優先的に増殖する微生物相が形成されることによりメタン発酵において利用率の高い酢酸の生成量が高まり、効率的なメタン発酵を誘導することができる。
なお、上記実施の形態においては、ビール製造工場排水を処理する場合について説明したが、これに限るものではなく、例えば排水中の処理の対象となる物質が糖類を主なものとする食品工場であっても適用することができる。
【0037】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明の請求項1乃至請求項4にかかる糖質系嫌気性排水処理方法によれば、酸生成槽内を、酸生成に適したpH6〜8及び温度30〜45℃の条件にして、前記有機酸を生成させるようにしたから、酸生成を十分に行うことができ、メタン発酵を効率的に行うことができる。
特に、ビール製造過程において排出される排水等といった糖質系液体に対して好適な、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)及びストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)を主たる微生物として含む微生物群を用いて、前記有機酸の生成を行わせることにより、より効率的に酸生成を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を適用した嫌気性排水処理設備の一例を示す概略構成図である。
【図2】pH条件と、総有機酸濃度の変化状況との対応を表すグラフである。
【図3】温度条件と、総有機酸濃度の変化状況との対応を表すグラフである。
【図4】pH6の条件下での、反応時間と各種有機酸生成濃度との対応を表すグラフである。
【図5】pH8の条件下での、反応時間と各種有機酸生成濃度との対応を表すグラフである。
【図6】pH条件を変化させたときの、生成される微生物種及びその占める割合を示したグラフである。
【図7】pH条件を初発pH8とし、以後、pH制御を行わない場合の、総有機酸濃度の測定結果である。
【図8】pH条件とメタン生成活性との対応を表すグラフである。
【図9】温度条件とメタン生成活性との対応を表すグラフである。
【符号の説明】
1 調整槽
2 酸生成槽
3 メタン発酵槽
5 pH調節手段
6 温度調節手段
7 pH調節手段
8 pH調節手段
【発明の属する技術分野】
本発明は糖質系嫌気性排水の処理方法に関し、特に二相式メタン発酵法を用いた排水処理において、効率的に酸生成を行うことの可能な糖質系嫌気性排水処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、糖類を多く含む糖質系排水、例えば、食品工場や飲料製造工場、特にビール製造工場からの排水の処理方法として、嫌気性排水処理が普及してきている。すなわち、嫌気性排水処理は、排水処理法として既に普及している好気性排水処理と比較し、▲1▼高負荷運転が可能、▲2▼発生するメタンガスはエネルギーとして回収できる、▲3▼余剰汚泥の発生が極端に少なく廃棄物処理コストがかからない、▲4▼好気的条件を維持するためのエアレーションなどの動力不要、▲5▼広大な設置スペースが不要、などの利点があるためである。
【0003】
嫌気性排水処理としては、主に、順に接続された、排水中の糖類等から有機酸生成が行われる酸生成槽と、有機酸からメタン生成が行われるメタン発酵槽と、において処理することにより、排水中の糖類等からメタンを生成する二相式メタン発酵法が用いられている。このような嫌気性排水の処理方法に関する先行技術文献には、▲1▼酸生成過程及びメタン生成過程において、担体に固定化した酸生成能を有する微生物及び担体に固定したメタン発酵能を有する微生物を用い、さらに、各過程において種汚泥の温度に応じて酸生成槽及びメタン発酵槽の温度及びpH条件を変更するようにした嫌気性排水処理方法(特許文献1参照) 、或いは、▲2▼酸生成槽のpHの低下を防止するためにメタン生成槽からの排水を酸生成槽に返送する前に、前記排水を脱炭酸処理することで、酸生成槽のpHを所定の値に維持し且つ酸生成槽のpH調整に用いられるアルカリ剤の使用料を低減するようにした嫌気性排水処理方法(特許文献2参照)等が開示されている。
【0004】
【特許文献1】
特開昭 61‐54292号公報
【特許文献2】
特開2001‐38378号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述の先行技術に示されるような、酸生成槽の温度条件或いはpH条件は、上述の糖類を多く含む糖質系排水を処理する場合には、効果的な条件とはいえず、より効率的に酸生成を行い、メタン発酵の効率化及び安定化を図ることの可能な嫌気性排水処理方法が望まれていた。
そこで、本発明の目的は、メタン発酵の効率化及び安定化を図るべく、該メタン生成工程に大きく関与する酸生成工程において効率的酸生成を行う嫌気性排水処理方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1による嫌気性排水処理方法は、酸生成槽において糖質系液体から有機酸を生成する酸生成工程と、メタン生成槽において該有機酸からメタンを生成するメタン生成工程と、からなる糖質系嫌気性排水処理方法であって、
前記酸生成工程においては、前記酸生成槽内をpH6〜8及び温度30〜45℃の条件にして、前記有機酸の生成を行わせることを特徴とする。
【0007】
ここで、前記pHの範囲、pH6〜8とは、pH6程度からpH8程度という意であり、pH6を若干下回る値や、pH8を若干上回る値を含む。同様に、前記温度の範囲30〜45℃とは、30℃程度から45℃程度という意であり、30℃を若干下回る値や、45℃を若干上回る値を含む。
本発明の請求項2による嫌気性排水処理方法は、請求項1において、
前記酸生成工程においては、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)及びストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)を主たる微生物として含む微生物群を用いて、前記有機酸の生成を行わせることを特徴とする。
【0008】
ここで、主たる微生物として含むとは、上記2種の微生物が、当該酸生成可能な状態におかれた微生物群において、その少なくとも約9割を占めていることをいう。
本発明の請求項3による嫌気性排水処理方法は、請求項1又は2において、
前記酸生成槽には、pH7.5乃至8の状態に調整された前記糖質系液体を導入することを特徴とする。
【0009】
ここで、前記pHの範囲pH7.5乃至8とは、pH7.5程度乃至pH8程度という意であり、pH7.5を若干下回る値や、pH8を若干上回る値を含む。
本発明の請求項4による嫌気性排水処理方法は、請求項1〜3のいずれか1項において、
前記糖質系液体は、ビール製造過程において排出される排水であることを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の適用した嫌気性排水処理設備の一例を示す概略構成図である。
同図において嫌気性排水処理設備100は、順に接続されて工場排水を処理する調整槽1と、酸生成槽2と、メタン発酵槽3と、を含んで構成されている。
【0011】
前記調整槽1においては、ビール製造工場からの工場排水を嫌気性排水処理に適切な条件とするための公知の調整が行なわれる。このとき、pHについては、酸生成槽2における酸生成に適切なpH7.5〜8程度となるように調整が行われる。
また、前記前記調整槽1と酸生成槽2とを結ぶラインには、pH調節手段7が設けられている。pH調節手段7は、例えばアルカリ剤や各種の酸の添加を行うこと等によりpH調節を行う。
【0012】
前記酸生成槽2においては、微生物群により、排水中に含まれる糖類などの有機物から、酢酸、蟻酸、乳酸などの有機酸の生成が行われる。前記微生物群は、主にこの酸生成槽2において形成され、担体等に固定されることなく酸生成槽2内に導入されて一時的に滞留する排水中に増殖して有機酸生成を行い、排水の流出と共に槽外へと流出するものである。尚、前記微生物群はこのようにして酸生成槽内に形成されるものに限定されない。
【0013】
また、酸生成槽2には、一定の温度条件及びpH条件を維持するためのpH調節手段5及び温度調節手段6が設けられている。前記pH調節手段5は、必要に応じて例えばアルカリ剤の添加を行うこと等によりpH調節を行う。また、前記温度調節手段6は、例えばヒーター等で構成され必要に応じてヒーターを作動させることにより温度調節を行う。
【0014】
そして、前記pH調節手段5は、前記酸生成槽2内のpHを、pH6〜8程度に維持するよう動作し、また、前記温度調節手段6は、前記酸生成槽2内の温度を、30〜45℃程度に維持するよう動作する。
前記メタン発酵槽3においては、槽内に形成されたグラニュール汚泥中のメタン菌により、酸生成槽2において生成された有機酸から更にメタンが生成される。同図においては、メタン発酵槽3を経た排水は、その一部が同図中の矢印Y1で示される経路により、酸生成槽2へと返送されている。これにより、酸生成槽2から流出した酸生成菌の一部を返送するとともに、酸生成槽2中の排水を希釈してその有機物濃度を調整することが可能になっている。残りの排水は、矢印Y2に示されるように、更なる排水処理工程へ誘導される。
【0015】
また、酸生成槽2とメタン発酵槽3とを結ぶラインには、酸生成槽2からの排水をメタン発酵槽3におけるメタン生成に適切なpHに調節するためのpH調節手段8が設けられている。pH調節手段8は、例えばアルカリ剤の添加を行うこと等によりpH調節を行う。
前記酸生成槽2において用いる微生物群は、次のようにして形成する。ここでは、未稼働の、すなわち内部に何も導入されていない空の酸生成槽2に、前記微生物群を形成する場合について説明する。
【0016】
酸生成槽2にKlebsiella pneumoniae、及び、Streptococcus bovisを添加したビール製造工場からの排水を注入する。なお、前記pH調節手段5及び温度調節手段6では、酸生成槽2内に注入された排水がpH6〜8かつ30〜45℃に保たれるように調節を行う。
ここで、前記Klebsiella pneumoniae、及び、Streptococcus bovisの添加は、例えば、GAM培地(日水製薬(株)製)等の嫌気性菌培養用培地において純粋培養されたそれぞれの菌を、酸生成槽2に導入される排水の量、排水中の有機物の量、あるいは、酸生成槽2における滞留時間等に応じて適切な量を添加することによって行う。
【0017】
その後、上述のようにグラニュール汚泥が形成され、稼動可能な状態におかれたメタン発酵槽3に酸生成槽2内の排水を送り、更にメタン発酵槽3から再び酸生成槽2にその排水を返送する循環運転を、2〜5日間行う。
なおここで示した微生物Klebsiella pneumoniae、及び、Streptococcus bovisは特殊なものではなく、一般的な下水道あるいは排水処理場の設備中に生息している菌種であるので、これらの設備中から容易に入手が可能である。必要であれば、微生物菌株分譲機関から入手することもできる。
【0018】
これにより、酸生成槽2内の微生物群の動態が安定し、前記有機酸生成に適した微生物群が形成される。
尚、前記微生物群は、上述のように酸生成槽2とメタン発酵槽3との循環運転を行わなくても、糖質系排水の供給下、Klebsiella pneumoniae、及び、Streptococcus bovisが安定的に成育し、効率的な酸生成を行うための条件、すなわちpH6〜8、温度30〜45℃の状態を一定期間維持することにより、形成させることができる。しかし、循環運転を行うことにより、酸生成槽2及びメタン発酵槽3それぞれの槽内の微生物群を稼動に近い条件において馴養することができる。
【0019】
2〜5日間の循環運転後は、酸生成状況やメタン発酵状況を調査しながら、酸生成槽に導入する工場排水を徐々に増加させて、徐々に酸生成槽2内に滞留する排水量の増加に応じて前記微生物群の全体量も増加させ、通常運転に近づける。
尚、循環運転後の酸生成状況の調査により、酸生成が順調に行われず前記微生物群が順調に形成されていないと判断される場合には、添加する菌体の量を増やすなどして再度循環運転を行う。
【0020】
このように、新規に酸生成槽2内に前記微生物群を形成させるには、慎重な条件の調整や微生物添加量の調整を行う必要がある。このため、例えば稼動状態にある酸生成槽1の清掃や槽設備の入れ替え等を行った場合には、上述のように新たに微生物を添加することなく、稼動状態にあるメタン発酵槽3の出口排水を利用することによって、より容易に微生物群の形成が可能になる。すなわち、上述のように、酸生成槽2からメタン発酵槽3への排水の流入と共に微生物群も導入されるため、メタン発酵槽3にも微生物群が滞留する。この出口排水を、例えば、清掃等後の酸生成槽2内の排水中に10〜30%混入させて、上記循環運転を行うこととすれば、より確実に本発明にかかる微生物群の形成が可能となる。
【0021】
そして、このようにして形成した微生物群を利用し、且つ酸生成槽2内のpH及び温度を、前記pH調節手段5及び温度調節手段6により、前記pH条件をpH6〜8、温度条件を30〜45℃を満足するよう調整することにより、前記排水処理を行う。
上述のように構成された嫌気性排水処理設備100について、以下のような試験を行って、酸生成におけるpH依存性及び温度依存性の確認を行った。
【0022】
(1)試験用微生物群の回収
上述のようにして形成され、稼動状態におかれた酸生成槽2から採取した溶液を10000rpm、30分にて遠心処理を行い、SS(Suspended
Solid)分および酵母等を除去した後、沈殿物の上層部を試験用微生物群として回収した。
(2)モデル排水の調整
試験には、偏性嫌気性微生物培養用の液体培地組成を基本組成としたモデル排水を用いた。ビール製造工場の排水の特性を反映するため、ビール製造工場の排水を分析した結果、炭素源はマルトースが適正と判断しモデル排水組成を決定した。モデル排水の組成表を表1に示す。なお、同表中の「*」で示すものは、熱による変質等の回避のため、オートクレープによる滅菌方法を適用せず、滅菌済みメンブランフィルターを用いてフィルター滅菌処理をした。
【0023】
【表1】
【0024】
(3)バッチ試験
100ml容メジウム瓶を用いて酸生成試験を行った。操作はすべて嫌気グローブボックス内で行い、嫌気状態を維持した。反応は12時間としサンプリングは1時間毎に行った。
図2は、温度35℃の下、pH6,7,8,9,10の各pH条件を維持した場合の試験結果である。
【0025】
同図に示されるように、pH7を対照区とし、pHと最大総有機酸濃度到達時間との関係を調査した結果、pH9以上で有機酸生成状態が極端に悪化することが確認された。pH8以下では、pH8の生成速度の立ち上がりにやや遅れがあるが、総有機酸濃度が最大となる最大総有機酸濃度に到達するまでの反応時間は8時間であって、これは対照区と同等であった。この立ち上がりの遅れの原因は、試験用微生物群を回収した酸生成槽2がpH7で運転されていたため、菌のpHショックが現れたと考えられ、馴養された場合には問題ないと思われる。したがって、本発明の微生物群が適切に酸生成を行うためのpH条件の上限はpH8であると考えられる。つまり、pH条件としては、pH6〜8程度であれば、十分に酸生成を行わせるできることが確認できた。
【0026】
一方、図3は、pH7の下、温度25℃、30℃、35℃、40℃、45℃の各温度条件を維持した場合の試験結果である。
同図に示されるように、35℃を対照区とし、温度と最大総有機酸濃度到達時間との関係を調査した結果、温度が40℃及び45℃の場合には、最大総有機酸濃度に達する反応時間が9時間程度と最短であるが、温度が25℃の場合には、有機酸生成状態が極端に悪化することが確認された。
【0027】
温度が40℃及び45℃の場合には、反応時間は最短ではあるが、40〜45℃への加温は、エネルギーコスト的、設備的に好ましくない。ここで、温度30℃の条件下における、総有機酸濃度の変化状況に着目すると、約16時間まで酸生成時間を延長すると、最大総有機酸濃度に到達すると予測される。したがって、反応時間と温度との関係を考慮すれば、酸生成の反応時間を16時間確保することで、排水温度が30℃であっても、酸生成は可能であると考えられる。つまり、温度条件として、30〜45℃程度であれば、十分に酸生成を行わせることができた。さらに、このとき、温度条件を40〜45℃とした場合、最大総有機酸濃度への到達時間を最短とすることが可能であるが、エネルギーコストの点或いは設備の点等から不利となり、逆に温度条件を30℃とした場合には、最大総有機酸濃度への到達時間をある程度確保する必要があるが、エネルギの点或いは設備の点等からは有効であることが確認できた。
【0028】
(4)連続試験
1L容三角フラスコを用いてモデル排水を1ml/minで連続送液し、酸生成させ、酢酸生成量と総有機酸生成量を比較検討した。この連続試験は菌増殖速度による有機酸生成速度への影響を排除することを目的とした。試験条件はバッチ試験の結果を受けて決定した。実験中は流入排水を4℃保存とし、容器空寸部は窒素に置換することで嫌気状態を維持した。試験条件は、温度条件を35℃とし、pH条件をpH6及び8とした。
【0029】
図4は、pH6の条件、図5は、pH8の条件下での、各反応時間における各種有機酸生成濃度の測定結果である。図5に示すようにpH8の条件では、図4のpH6の条件の場合に比較して、総有機酸濃度が高く、さらに、有機酸濃度のうち、酢酸濃度の占める割合が最も高く、後段のメタン生成に優位な酸生成が行われていることが確認された。
次に、pH条件による、生成有機酸の種類及び総有機酸生成量の変化を測定した。
【0030】
上記酸生成におけるpH依存性及び温度依存性の確認のための酸生成試験の結果を受けて設定した酸生成条件で、前記モデル排水について酸生成させ、この酸生成させたモデル排水を10000rpm、30分で遠心処理して集菌した。集菌した微生物群から、DNA(deoxyribonucleic acid)抽出し、抽出後のDNAをPCR(polymerase chain reaction)法にて増幅した。当該PCR産物を大腸菌にサブクローニングし、プレートに培養した。プレートに生育した菌株を無作為にピックアップし、DNA解析を行い、その解析の結果得られたシークエンスをホモロジー検索し、菌種の同定を行うという方法で微生物群を調査した。PCR法でクローニングする際のDNAとしては、16s−rDNAを対象とした。すなわち、16s−rDNAに共通な配列の一部をユニバーサル・プライマーとしてPCR法によりクローニングを行い、微生物分類に用いられている16s−rDNAをホモロジー検索して菌種の同定を行った。なお、酸生成のpH条件は、pH6及び8、温度条件は37℃とした。
【0031】
その結果、図6に示されているように、微生物群は、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)と、乳酸菌のストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)と、を主たる微生物として含んでいた。すなわち、菌種は少なく、ほとんどがKlebsiella pneumoniaeと、Streptococcus bovisの2種であり、全体の約9割を占めていた。酢酸を多く生成させる条件であるpH8においては、Klebsiella pneumoniaeがStreptococcus bovisよりも優先的に増殖し、優勢であることが確認された。同菌は生育pHの幅が広く、代謝機構もpH条件により大きく変化し、pHが中性〜弱酸性側においては、ブタンジオール発酵を行うことが確認されている。本試験においては生育条件がpH8であったため、他の菌の増殖が阻害され、Klebsiella pneumoniaeの増殖が優勢となり、酢酸濃度が高くなることを確認した。以上の知見から酢酸生成を行うには、pHを弱アルカリ側に操作し、Klebsiella pneumoniaeの増殖を優勢に保つことが好ましいことが確認できた。
【0032】
次に、上述のようにして生成した微生物群を用い、pH条件を初発pH8とし、以後、pH制御を行わず、温度条件を30℃、反応時間を16時間として、前記モデル排水を用いて酸生成を行い、総有機酸濃度を測定した。
その結果、図7に示すように、pH制御を行わなくとも、有機酸生成が行われることを確認した。また、前記図5に示す発酵中のpH制御を行った場合に比較して酢酸濃度は減少するものの、炭素源であるマルトースの残存は認められず、酸生成が十分行われていることを確認した。
【0033】
次に、このようにして酸生成したモデル排水を用いて、メタン生成工程におけるpH影響調査及び温度影響調査を行った。
まず、pH条件を、pH7を対照区とし、pH5,6,7とし、また、温度条件を35℃として酸生成したモデル排水について、メタン生成を行わせて発生したメタンガス圧力が安定するまでの到達時間を比較した。その結果、図8に示すように、pH条件がpH6の場合は対照区pH7と同等に変化し同等の到達時間となったが、pH5の場合には、対照区に比較して、安定するまでの到達時間が約4時間遅延することが確認された。この結果、メタン生成工程においては、酸生成したモデル排水のpHはpH6又は7であることが好ましいことが確認できた。
【0034】
次に、pH条件を、pH7、温度条件を25,30,35,40,45℃として酸生成したモデル排水について、メタン生成を行わせて発生したメタンガス圧力が安定するまでの到達時間を比較した。その結果、図9に示すように、温度が25〜35℃の場合には、反応時間が7時間程度の時点で、メタンガス圧力が安定しているが、温度が35℃を下回ると急速にメタンガス圧力が安定するまでの到達時間が遅延し、つまり、メタン活性が低下している。しかしながら、酸生成工程における温度条件を30℃とした場合には、メタン生成工程における反応時間を考慮することで、十分、適用できることが確認できた。
【0035】
上述のように、メタン発酵を効率的に行わせるためには、酸生成槽2における有機酸生成が重要であることに着目し、酸生成槽2のpH条件及び温度条件を、酸生成に最適なpH条件及び温度条件となるように調整するようにしたから、有機酸生成を十分に行わせることができ、メタン発酵槽3における、メタン発酵を十分に行わせることができる。
【0036】
また、酸生成槽内を上記条件とすることにより、前記酸生成槽2においてKlebsiella属及びStreptococcus属に属する微生物を多く含む微生物相を形成させることができ、これにより、有機酸生成を十分に行わせることができると共に、pH8においてはlebsiella属が優先的に増殖する微生物相が形成されることによりメタン発酵において利用率の高い酢酸の生成量が高まり、効率的なメタン発酵を誘導することができる。
なお、上記実施の形態においては、ビール製造工場排水を処理する場合について説明したが、これに限るものではなく、例えば排水中の処理の対象となる物質が糖類を主なものとする食品工場であっても適用することができる。
【0037】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明の請求項1乃至請求項4にかかる糖質系嫌気性排水処理方法によれば、酸生成槽内を、酸生成に適したpH6〜8及び温度30〜45℃の条件にして、前記有機酸を生成させるようにしたから、酸生成を十分に行うことができ、メタン発酵を効率的に行うことができる。
特に、ビール製造過程において排出される排水等といった糖質系液体に対して好適な、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)及びストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)を主たる微生物として含む微生物群を用いて、前記有機酸の生成を行わせることにより、より効率的に酸生成を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を適用した嫌気性排水処理設備の一例を示す概略構成図である。
【図2】pH条件と、総有機酸濃度の変化状況との対応を表すグラフである。
【図3】温度条件と、総有機酸濃度の変化状況との対応を表すグラフである。
【図4】pH6の条件下での、反応時間と各種有機酸生成濃度との対応を表すグラフである。
【図5】pH8の条件下での、反応時間と各種有機酸生成濃度との対応を表すグラフである。
【図6】pH条件を変化させたときの、生成される微生物種及びその占める割合を示したグラフである。
【図7】pH条件を初発pH8とし、以後、pH制御を行わない場合の、総有機酸濃度の測定結果である。
【図8】pH条件とメタン生成活性との対応を表すグラフである。
【図9】温度条件とメタン生成活性との対応を表すグラフである。
【符号の説明】
1 調整槽
2 酸生成槽
3 メタン発酵槽
5 pH調節手段
6 温度調節手段
7 pH調節手段
8 pH調節手段
Claims (4)
- 酸生成槽において糖質系液体から有機酸を生成する酸生成工程と、メタン生成槽において該有機酸からメタンを生成するメタン生成工程と、からなる糖質系嫌気性排水処理方法であって、
前記酸生成工程においては、前記酸生成槽内をpH6〜8及び温度30〜45℃の条件にして、前記有機酸の生成を行わせることを特徴とする糖質系嫌気性排水処理方法。 - 前記酸生成工程においては、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)及びストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis)を主たる微生物として含む微生物群を用いて、前記有機酸の生成を行わせることを特徴とする請求項1に記載の糖質系嫌気性排水処理方法。
- 前記酸生成槽には、pH7.5乃至8の状態に調整された前記糖質系液体を導入することを特徴とする請求項1又は2に記載の糖質系嫌気性排水処理方法。
- 前記糖質系液体は、ビール製造過程において排出される排水であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の糖質系嫌気性排水処理方法。
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