JP2004293717A - 動力伝達シャフト - Google Patents
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Abstract
【課題】FRP製の筒部材の内面と、端部部材の外周面との接合面におけるトルクの伝達が良好となり、シール材を設ける必要がない動力伝達シャフトを提供する。
【解決手段】FRP製の筒部材12の両端に端部部材13,14が結合されているプロペラシャフト11である。端部部材13,14の筒部材12との結合部分における外周面にセレーション16が形成され、筒部材12の強化繊維は複数の層を構成するように外周面において端部部材13,14に巻き付けられ、かつ最内層にヘリカル巻層が設けられている。ヘリカル巻層を構成する繊維束はセレーション16により端部部材13,14に対する周方向への相対移動が規制されるとともに全長にわたって連続している。端部部材13,14の繊維束被巻付け部13a,14aの外周面と、筒部材12の内面との間に隙間がない状態で筒部材12と端部部材13,14とが結合されている。
【選択図】 図1
【解決手段】FRP製の筒部材12の両端に端部部材13,14が結合されているプロペラシャフト11である。端部部材13,14の筒部材12との結合部分における外周面にセレーション16が形成され、筒部材12の強化繊維は複数の層を構成するように外周面において端部部材13,14に巻き付けられ、かつ最内層にヘリカル巻層が設けられている。ヘリカル巻層を構成する繊維束はセレーション16により端部部材13,14に対する周方向への相対移動が規制されるとともに全長にわたって連続している。端部部材13,14の繊維束被巻付け部13a,14aの外周面と、筒部材12の内面との間に隙間がない状態で筒部材12と端部部材13,14とが結合されている。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、繊維強化プラスチック(以下、FRPとも記載する)製の筒部材の両端に端部部材が結合された動力伝達シャフトに関する。
【0002】
【従来の技術】
車両のエンジンで発生する回転動力を車両の駆動輪に伝達するプロペラシャフトは、一般に金属製シャフト部材の両端に、駆動軸や従動軸と連結する金属製の自在継手(ユニバーサルジョイント)のヨークを溶接したもの(以下、金属製プロペラシャフトという)が使用されている。
【0003】
近年、車両の軽量化を図るために各構造部材のさらなる軽量化が要求され、プロペラシャフトにおいてもFRP製のものに切り替えることによる軽量化が検討され、一部実施されている。図8(a)に示すように、FRP製プロペラシャフト51として、FRP製パイプ52の両端(片側のみ図示)に、FRP製パイプ52を駆動軸や従動軸等(図示せず)と連結する金属製の継手(ヨーク)53を圧入接合した構造のものが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
継手53にはFRP製パイプ52との接合部となる外周面に、図8(b)に示すように、FRP製パイプ52の端部内径より大きな外径のセレーション54が形成されている。そして、FRP製パイプ52に継手53の接合部を圧入することで、継手53のセレーション54の歯によって、FRP製パイプ52の内周面に溝が刻設され、歯が溝に食い込むことで継手53とFRP製パイプ52とが一体回転するための接合強度が確保される。図8(c)に示すように、継手53はFRP製パイプ52の内面とセレーション54の溝の底部との間に隙間が存在する状態でFRP製パイプ52に結合されている。
【0005】
また、図9(a)に示すように、外側端に中心軸55を突設した端部金具56を両端にそれぞれ嵌着した薄肉円筒57を使用してフィラメントワインディング法により製造する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。この製造方法では、図9(b)に示すように、樹脂が含浸された炭素繊維58を端部金具56から薄肉円筒57にかけて連続して巻き付けて樹脂含浸炭素繊維層を形成し、そのまま硬化成形した後、必要により中心軸55を除去してプロペラシャフトを製造する。
【0006】
また、FRP製の内側軸部材の両端に、端面部の中心から軸部が突出する金属製継手部材を嵌合させ、前記内側軸部材及び前記金属製継手部材の筒状部にフィラメントワインディング法により樹脂被覆した繊維束を巻き付けて製造する方法も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
【特許文献1】
特開平5−139170号公報(明細書の段落[0014]、[0018]、[0020]、図1、図2)
【特許文献2】
特開昭55−118831号公報(2頁、図3、図4)
【特許文献3】
特開昭59−50216号公報(2,3頁、図2)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
特許文献1に開示されたFRP製プロペラシャフト51のように、FRP製パイプ52に継手53を圧入する構成では、FRP製パイプ52の内面とセレーション54の溝の底部との間に隙間が存在する。従って、隙間がない場合に比較してFRP製パイプ52とセレーション54との間の接合面積が小さくなる。また、FRP製パイプ52の内面とセレーション54の溝の底部との間に隙間が存在するため、FRP製パイプ52の端面から水分が侵入するのを防止するためシールに手間がかかっていた。
【0009】
一方、特許文献2に開示されたプロペラシャフトでは、継手53に相当する端部金具56をFRP製パイプに圧入する工程が不要なため、シール工程が不要となる。しかし、特許文献2に開示されたプロペラシャフトでは、端部金具56の外周面は平坦なため、端部金具56の外周面とFRP製のパイプとの接合面の間のトルクの伝達が不十分となる。また、端部金具56に中心軸55が必須のため、孔を有する一対の支持部を備えたヨークタイプの継手53(特許文献1に開示されたもの)を設けることができない。その結果、プロペラシャフトをドライブシャフトと連結するユニバーサルジョイントに一般的な十字軸でなく特別な構造のものが必要となるという問題がある。
【0010】
また、特許文献3に開示された製造方法においても、金属製継手部材の外周面は平坦に形成されているため、その外周面とその外側に形成されたFRPとの接合面の間のトルクの伝達が不十分となる。
【0011】
本発明の目的は、FRP製の筒部材の両端に端部部材が結合された動力伝達シャフトにおいて、FRP製の筒部材の内面と端部部材の外周面との接合面におけるトルクの伝達が良好となり、シール材を設ける必要のない動力伝達シャフトを提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、繊維強化プラスチック製の筒部材の両端に端部部材が結合された動力伝達シャフトである。前記端部部材は、前記筒部材との結合部分における外周面に係止部が形成され、前記外周面と前記筒部材の内面との間に隙間がない状態で前記筒部材と前記端部部材とが結合されている。従って、この発明では、端部部材の外周面とFRP製の筒部材の内面との間に隙間がなく、前記外周面に係止部が存在するため、FRP製の筒部材の内面と端部部材の外周面との接合面におけるトルクの伝達が良好となる。また、シール材を設ける必要がない。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記筒部材の強化繊維は繊維束で構成され、前記係止部は規則的に配列された複数の凸部で構成され、最内層は前記繊維束が前記凸部に案内された状態で配列されて構成されている。この発明では、最内層を構成する繊維束が同一層において交差する配列状態でも、互いに平行となる配列状態のいずれであっても端部部材と筒部材との結合が良好になされる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記筒部材のヘリカル巻層を構成する繊維束は、同一層内において交差するように配列されている。この発明の動力伝達シャフトは、同時に1〜3本の繊維束の巻付けを行うことができる一般のフィラメントワインディング装置を使用して形成できる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記係止部は前記端部部材の軸方向に平行に延びるセレーションで構成され、前記筒部材の強化繊維は繊維束で構成され、最内層を構成する繊維束は少なくとも一部が前記セレーションにより切断されている。この発明の動力伝達シャフトは、端部部材として従来使用されているセレーションを備えたものを使用することができる。例えば、動力伝達シャフトを製造する際、熱硬化性樹脂をセレーションに塗布した状態で圧入し、その後に硬化させることにより、セレーションの溝内に充填された樹脂は筒部材と一体化される。そして、端部部材の外周面と筒部材の内面との間に隙間がない状態で筒部材と端部部材とが結合された状態となる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記筒部材を構成する繊維束のうちヘリカル巻で配列された繊維束は同一層において互いに平行に配列されている。この発明の動力伝達シャフトは、ヘリカル巻層を形成する際、1層分の繊維束を同時に巻き付けることが可能なため、巻き付け時間の短縮が可能となる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を動力伝達シャフトとしてのプロペラシャフトに具体化した一実施の形態を図1〜図5に従って説明する。図1(a)はプロペラシャフトの一部破断模式側面図、(b)は(a)のA−A線における模式断面図である。
【0018】
図1(a)に示すように、プロペラシャフト11は、FRP製の筒部材12と、その第1端部に結合された第1の端部部材13と、第2端部に結合された第2の端部部材14と、筒部材12の内側で第1及び第2の端部部材13,14間に配置された筒状の被巻付け部材15とを備えている。被巻付け部材15には紙製の円筒が使用されている。第1の端部部材13には自在継手を構成する継手としての金属製のヨークが使用され、第2の端部部材14には金属製の滑り継手が使用されている。筒部材12は、第1及び第2の端部部材13,14との結合部分12aが肉厚に形成されている。
【0019】
第1の端部部材13及び第2の端部部材14は、筒部材12との結合部分となる円筒状の繊維束被巻付け部13a,14aを備え、その外周面には係止部としてのセレーション16が形成されている。筒部材12の強化繊維は複数の層を構成するように巻き付けられた繊維束からなり、最内層にヘリカル巻層が設けられている。筒部材12と第1及び第2の端部部材13,14とは、繊維束被巻付け部13a,14aの外周面と、筒部材12の内面との間に隙間がない状態で結合されている。
【0020】
繊維束は同一層においては互いに平行に配列されており、セレーション16はその歯が繊維束の配列方向に沿って延びるように形成されている。最内層のヘリカル巻層を構成する繊維束は、セレーション16により端部部材13,14に対する周方向への相対移動が規制されるとともに筒部材12の全長にわたって連続している。即ち、セレーション16が形成された端部部材をFRP製のパイプに後から圧入する構成と異なり、セレーション16と係合する繊維束が切断されていない。
【0021】
セレーション16の歯は、最内層のヘリカル巻層を構成する繊維束が第1及び第2の端部部材13,14の軸方向と成す角度(配列角度)に等しい角度で、第1及び第2の端部部材13,14の軸方向に対して延びるように形成されている。また、セレーション16の歯の高さ、即ち溝の深さは1層分の繊維束の厚さとほぼ同じに形成されている。
【0022】
第1の端部部材13は、繊維束被巻付け部13aの一端側に継手部13bが突設され、他端側に繊維束被巻付け部13aより小径の嵌合筒部13cが突設されている。継手部13bには、例えば十字軸式ジョイントを取り付けるための孔13dが形成されている。第2の端部部材14は、繊維束被巻付け部14aの一端側にシャフト状の継手部14bが突設され、他端側に繊維束被巻付け部14aより小径の嵌合筒部14cが突設されている。シャフト状の継手部14bには、筒部材12をフィラメントワインディング法で形成する際に使用する治具の固定に使用するねじ穴14dが先端に形成されている。第1及び第2の端部部材13,14の繊維束被巻付け部13a,14aと、継手部13b,14bとの間には、環状溝17が形成されている。環状溝17はバランスピース(図示せず)を溶接する必要がある場合に、該バランスピースが外側に突出しない幅及び深さに形成されている。なお、以後、フィラメントワインディングをFWと略す。
【0023】
被巻付け部材15はその端部が嵌合筒部13c,14cの外周に嵌合された状態で第1及び第2の端部部材13,14に連結されている。被巻付け部材15は紙製(例えば、ボール紙製)で円筒状に形成されている。被巻付け部材15は筒部材12をFW法で形成する際に、樹脂含浸繊維束が巻き付けられても所定の円筒形状を保つ強度があればよく、プロペラシャフト11が使用される際のトルク伝達に寄与する強度を有する必要はない。
【0024】
筒部材12はFW法によって形成され、強化繊維としては炭素繊維のロービングが使用される。ロービングとは細い単繊維のフィラメントを多数本束ねた実質無撚りの繊維束を意味する。マトリックス樹脂としてはエポキシ樹脂が使用されている。
【0025】
筒部材12は主にヘリカル巻層で構成されているが、結合部分12a及びその近くにはフープ巻層が形成されている。また、筒部材12の最外層には炭素繊維束ではなく、ポリエステル糸が全長にわたってフープ巻で巻き付けられている。図1(b)に示すように、第1の端部部材13と筒部材12との結合部分の構成は、繊維束被巻付け部13aと接触する最内層側から順に、ヘリカル巻層18a、フープ巻層18b、ヘリカル巻層18c、ポリエステル糸層18dが設けられた構成となる。
【0026】
次に前記のように構成されたプロペラシャフト11の製造方法を説明する。図2は第1の端部部材13、第2の端部部材14、被巻付け部材15及び治具20の関係を示す模式分解斜視図であり、図3は第1の端部部材13、第2の端部部材14、被巻付け部材15及び治具20が組み付けられた状態の一部破断模式断面図である。
【0027】
プロペラシャフト11を製造する際は、マンドレルを使用せずに、治具20を使用して第1及び第2の端部部材13,14が両端に結合された被巻付け部材15をFW装置に支持してFWが行われる。
【0028】
図2に示すように、治具20は、各端部部材13,14の樹脂含浸繊維束が密着して巻き付けられる部分を除いた部分を覆うとともに、FW時に樹脂含浸繊維束の一部が巻き付けられる筒状のカバー部21を備えている。カバー部21は一端側が小径に形成され、FW装置の回転支持部に支持可能な軸部22がカバー部21の小径側の端部に連続して一体的に形成されている。カバー部21の周面にはピン23が一定ピッチで周方向に沿って環状に設けられている。
【0029】
また、第1の端部部材13に組み付けられる治具20は、第1の端部部材13を軸部22と被巻付け部材15の回転中心とが同軸となる状態で支持可能で、軸部22と一体回転可能な支持部24を備えている。支持部24は、一端側に端部部材13に取り外し可能に固定される固定部としてのT字状部24aが設けられたシャフトで構成され、他端側に雄ねじ部24bが形成されている。そして、T字状部24aが孔13dに挿通された状態で、軸部22から突出した雄ねじ部24bに螺合されるナット26が締め付けられることにより、軸部22の端部に一体に形成された座金部27を介して軸部22に固定されるようになっている。図3に示すように、治具20はカバー部21の端部内面が、継手部13bの段部に嵌合されて、治具20の芯出しが行われるようになっている。
【0030】
第2の端部部材14の支持部に組み付けられる治具20は、第2の端部部材14を軸部22と被巻付け部材15の回転中心とが同軸となる状態で支持可能で、軸部22と一体回転可能な支持部としてのボルト25を備えている。ボルト25は先端部に雄ねじ25aが設けられ、雄ねじ25aが端部部材14に取り外し可能に固定される固定部を構成する。ボルト25は雄ねじ25aがねじ穴14dに螺合される状態で締め付けられることにより、軸部22の端部に一体に形成された座金部27を介して軸部22に固定されるようになっている。図3に示すように、治具20はカバー部21の端部内面が、継手部14bの基端の段部に嵌合されて、治具20の芯出しが行われるようになっている。
【0031】
両端に第1及び第2の端部部材13,14がそれぞれ連結された被巻付け部材15にFWを行う場合は、先ず第1及び第2の端部部材13,14にそれぞれ治具20を組み付ける。第1の端部部材13に治具20を組み付ける際は、支持部24のT字状部24aを孔13dに挿通した後、支持部24をカバー部21の大径部側から軸部22に挿通する。そして、軸部22から突出した雄ねじ部24bにナット26を螺合させて締め付けることにより、軸部22の端面とナット26との間に介装された座金部27を介して軸部22を第1の端部部材13側に押圧し、支持部24を介して治具20が第1の端部部材13に組み付けられる。
【0032】
第2の端部部材14に治具20を組み付ける際は、カバー部21を第2の端部部材14の継手部14b側を覆うように第2の端部部材14に当接させ、ボルト25を座金部27に挿通して軸部22側からカバー部21に挿通する。そして、雄ねじ25aを第2の端部部材14のねじ穴14dに螺合させて締め付けることにより、軸部22の端面とボルト25の頭部との間に介装された座金部27を介して軸部22を第2の端部部材14側に押圧し、ボルト25を介して治具20が第2の端部部材14に組み付けられる。そして、図3に示すように、被巻付け部材15、第1の端部部材13、第2の端部部材14及び治具20が組み付けられると、FW装置の一組のチャック間に支持される被繊維束巻付け部材28を構成する。
【0033】
FW装置は、本願出願人が先に出願した特開2002−283467号公報に開示された装置に開示されたものと同様な巻付けヘッド(ヘリカル巻用ヘッド及びフープ巻用ヘッド)を備えている。図4は巻き付けヘッドの要部模式図であり、ヘリカル巻用ヘッドのみが図示されている。
【0034】
巻付けヘッド30は、被繊維束巻付け部材28に貫通される孔を有する支持板31を備えている。ヘリカル巻用ヘッドの支持板31には、複数本の繊維束を同時に被繊維束巻付け部材28に対してヘリカル巻で巻付け可能とするため、図4に示すように複数のガイド32が被繊維束巻付け部材28の周方向に沿って配列された状態で設けられている。この実施の形態では28本の繊維束を案内可能にそれぞれ28個の大小2種のガイド32が2個の同心円上に配列されている。フープ巻部を備えたフープ巻用ヘッドは、繊維束Rを被繊維束巻付け部材28に対して2本同時にフープ巻で巻付け可能とするためのガイドを備えている。ヘリカル巻用ヘッドとフープ巻用ヘッドとは一体的な移動と、独立した状態での移動とが可能に構成されている。そして、数本の繊維束Rを同時に被繊維束巻付け部材28に対してヘリカル巻で巻付け可能となり、ヘリカル巻用ヘッドが被繊維束巻付け部材28に沿って一回往動又は復動することで被繊維束巻付け部材28の全周面に亘って繊維束Rがヘリカル巻で巻き付けられる。
【0035】
FW装置はマンドレルや芯材あるいはタンクを製造する場合のライナ等の被繊維束巻付け部材を回転可能に支持する一組の回転支持部材としてのチャックを備えている。巻付けヘッド30はベースプレート上に設けられたレール33上をチャックに支持された被繊維束巻付け部材28に沿って、図示しない駆動手段により移動可能となっている。チャックは可変速モータにより回転駆動され、制御装置の指令によってチャックが巻付けヘッド30の移動速度と同期した状態で回転駆動される。そして、図示しない繊維束供給部から樹脂含浸装置を経て供給される繊維束Rを、被繊維束巻付け部材28に対する巻付け角度を任意の角度に設定して被繊維束巻付け部材28に巻き付けることができるようになっている。
【0036】
FWに先立って、作業者により被繊維束巻付け部材28がFW装置のチャックに支持される。次に作業者は、繊維束供給部から繊維束Rを引き出し、開繊機構、樹脂含浸槽、張力調整部等を経て巻付けヘッド30に導き、巻付けヘッド30のガイド32に挿通した後、繊維束Rの端部をカバー部21の所定位置に固定する。繊維束Rの端部の固定作業は作業者が手作業で行い、例えば粘着テープを使用して行われる。
【0037】
また、作業者は、被繊維束巻付け部材28の回転速度、巻付けヘッド30の巻付け時の往復移動幅等の巻付け条件を制御装置に入力する。繊維束Rとして炭素繊維のロービングが使用される。ロービングとは細い単繊維のフィラメントを多数本束ねた実質無撚りの繊維束を意味する。
【0038】
次にFW装置による繊維束Rの巻付け運転が開始される。FW装置が駆動されると、被繊維束巻付け部材28が一定方向に回転され、巻付けヘッド30が被繊維束巻付け部材28の長手方向に沿って往復移動される。繊維束Rは少なくとも最内層となる一層目がヘリカル巻層を形成するように、被繊維束巻付け部材28の軸方向となす角度(巻付け角度)が所定の角度となるように巻き付けられる。巻付け角度は製品のFRPパイプに要求される、曲げ、ねじり、振動等の特性を満足する所定の値(例えば、10〜15°)に設定される。そして、この巻付け角度がセレーション16の歯の延びる方向と軸方向との成す角度と同じため、繊維束Rはセレーション16の溝内に配列されるように巻き付けられる。また、繊維束Rはカバー部21に設けられたピン23の間を通過するように巻き付けられ、ピン23によってカバー部21の周方向への移動が規制された状態で巻き付けられる。
【0039】
ヘリカル巻層が所定層(例えば4層)形成された後、第1及び第2の端部部材13,14と対応する部分及び被巻付け部材15の第1及び第2の端部部材13,14の近傍部に、繊維束Rの巻付け角度がほぼ90°に近い状態で巻き付けられる所謂フープ巻層が所定層(例えば1層)形成される。その後、再びヘリカル巻層が所定層(例えば2層)形成された段階で樹脂が含浸された繊維束Rの巻き付けが完了する。次にポリエステル糸がフープ巻で巻き付けられる。ポリエステル糸が巻き付けられる際に、内側に巻き付けられている繊維束Rに含浸されている樹脂の一部が染み出しポリエステル糸の表面が樹脂で被覆された状態となる。
【0040】
ポリエステル糸の巻付けが完了した後、被繊維束巻付け部材28上に形成された成形体34の両端部を、ピン23の突設位置より繊維束被巻付け部13a,14a寄りの治具20の表面と対向する位置でそれぞれ切断する。第1の端部部材13側の切断位置は、例えば、図5にAで示す位置となり、第2の端部部材14側の切断位置も同様な位置になる。そして、繊維束供給部に繋がる繊維束Rから成形体34が切り離された後、被繊維束巻付け部材28がFW装置のチャックから取り外され、成形体34の未硬化の段階で、前記切断位置より軸部22側に巻き付けられた樹脂含浸繊維束が除去される。
【0041】
その後、被繊維束巻付け部材28が成形体34と共に加熱炉に入れられ、所定温度で樹脂が硬化される。硬化温度は樹脂により異なるが、例えばエポキシ樹脂の場合は180℃程度である。加熱硬化後、成形体34が繊維束被巻付け部13a,14aと、カバー部21の先端との間に対応する位置、この実施の形態では環状溝17と対応する位置で切断される。図5に示すように、切断はカッター35により行われる。次に両治具20が取り外された後、回転バランスの検査が行われる。回転バランスが悪い場合は、バランスピースを第1及び第2の端部部材13,14の少なくとも一方に溶接して、バランス調整処理がなされて、筒部材12の端部に第1及び第2の端部部材13,14が結合されたプロペラシャフト11が完成する。
【0042】
治具20を取り外す場合、第1の端部部材13側では、ナット26を緩めて支持部24から取り外し、次にカバー部21を取り外し、最後にT字状部24aを孔13dから取り外す。第2の端部部材14側では、ボルト25の雄ねじ25aと第2の端部部材14のねじ穴14dとの螺合を解除した後、カバー部21を取り外すことで治具20の除去が完了する。
【0043】
この実施の形態では以下の効果を有する。
(1) プロペラシャフト11は、FRP製の筒部材12の両端に結合された第1及び第2の端部部材13,14の筒部材12との結合部分における外周面に係止部が形成され、前記外周面と筒部材12の内面とが密着している。即ち、第1及び第2の端部部材13,14の外周面と、筒部材12の内面との間に隙間がない状態で筒部材12と第1及び第2の端部部材13,14とが結合されている。従って、第1及び第2の端部部材13,14の外周面とFRP製の筒部材12の内面との間に隙間がなく、筒部材12の端面から水分がセレーション16の部分に侵入するのが阻止され、水分の侵入を防止するためのシール材を設ける必要がない。また、第1及び第2の端部部材13,14の外周面に係止部が形成されているため、係止部が存在しない場合に比較して接合面積が大きくなり、筒部材12の内面と端部部材13,14の外周面との接合面におけるトルクの伝達が良好となる。
【0044】
(2) 複数の層を構成する繊維束Rのうちヘリカル巻で配列された繊維束Rは同一層において互いに平行に配列されている。従って、プロペラシャフト11は、ヘリカル巻層を形成する際、1層分の繊維束Rを同時に巻き付けて生産することが可能なため、巻き付け時間の短縮が可能となって生産性が向上する。
【0045】
(3) 前記係止部は最内層のヘリカル巻層を構成する繊維束Rの配列方向に沿って延びるセレーション16で構成され、最内層の繊維束Rはセレーション16により第1及び第2の端部部材13,14に対する周方向への相対移動が規制されている。従って、第1及び第2の端部部材13,14間のねじり強度が、FRP製の筒部材に端部部材のセレーションを圧入して製造されたプロペラシャフトに比較して大きくなり、トルクの伝達がより良好に行われる。また、複数の凸条をセレーション16と異なり規則性のない状態で設ける場合に比較して、前記係止部の加工が容易となる。
【0046】
(4) 筒部材12の一端にヨークタイプの継手部13bを備えているため、プロペラシャフト11をドライブシャフトと連結するユニバーサルジョイントに一般的な十字軸を使用することができる。
【0047】
(5) 第1及び第2の端部部材13,14が金属製で、継手部13b,14bが筒部材12から突出しているため、特許文献2に開示された継手の部分全体がFRPで被覆されている構成のプロペラシャフトと異なり、バランスピースを溶接で取り付けることができる。また、第1及び第2の端部部材13,14が非金属製の場合でも、FRPを構成している繊維を切断せずに、バランスピースを取り付けることができる。
【0048】
なお、実施の形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 筒部材12の最内層を構成し、互いに交差せずに配列される繊維束は、ヘリカル巻に限らず、フープ巻であってもよい。この場合、第1及び第2の端部部材13,14の繊維束被巻付け部13a,14aの外周面に形成される係止部として、ねじ状の溝が形成される。また、フープ巻の範囲はFRP製の筒部材12の全長に亘ってもよいし、繊維束被巻付け部13a,14aを覆う部分のみでもよい。
【0049】
○ 繊維束被巻付け部13a,14aの外周面に形成される係止部は、最内層に形成されるヘリカル巻層を構成する繊維束Rが該係止部により第1及び第2の端部部材13,14に対する周方向への相対移動を規制可能な形状であればよく、セレーション16に限らない。例えば、繊維束Rの配列方向に沿って延びるように形成された複数の凸条を設けてもよい。凸条は繊維束被巻付け部13a,14aの軸方向全長に連続している必要はなく、隣接する凸条間の周方向における間隔も一定でなくてもよい。また、凸状の断面形状は三角形状や台形状に限らず矩形状や正方形状、半円形状等でもよい。この場合も、同一層においては繊維束Rが互いに平行に配列される構成において、最内層のヘリカル巻層が所定の巻付け角度で巻き付けられるのに凸条が寄与する。
【0050】
〇 繊維束被巻付け部13a,14aの外周面に形成される係止部は、最内層に配列される繊維束Rの配列方向に沿って延びる凸条に限らず、軸方向に対する配列角度が互いに反対となるヘリカル巻層を構成するいずれの繊維束Rに対してもその配列を案内可能な多数の凸部を係止部として設けてもよい。例えば、図6(a)に示すように、繊維束被巻付け部13aの表面に多数のピン36を突設したり、図6(b)に示すように、溝が繊維束Rの配列角度と同じ方向に延びるローレット37を形成してもよい。繊維束被巻付け部14aについても同様なピン36やローレット37を設けてもよい。図6(a)ではピン36の長さを誇張して表しているが、ピン36は少なくともヘリカル巻層1層分の厚さに相当する長さ以上で、最外層に配列された繊維束Rの外側に突出しない長さが好ましい。ローレット37の溝の深さは、ヘリカル巻層1層分の厚さに相当する深さが加工の容易性の点から好ましい。
【0051】
これらの係止部(ピン36又はローレット37)が設けられた第1及び第2の端部部材13,14を使用した場合は、同一層において繊維束Rが互いに平行に配列される構成は必ずしも必要ではない。同時に巻き付ける繊維束の本数が1〜3本の一般的なFW装置を使用してヘリカル巻層を形成すると、ヘリカル巻層を構成する繊維束は同じ層内で互いに交差するように配列される。従って、係止部がヘリカル巻層を構成する繊維束Rの配列方向に沿って延びる凸条の場合は、繊維束Rを該凸条が存在する面内で交差するように配列することが阻止されるため一般的なFW装置を使用してヘリカル巻層を形成すると、繊維束の配列が円滑に行われない。しかし、前記構成のピン36やローレット37が設けられた場合は、同時に巻き付ける繊維束の本数が1〜3本の一般的なFW装置を使用してヘリカル巻層を形成しても、繊維束が係止部によって案内されて所定の巻付け角度で良好に配列される。
【0052】
○ 繊維束被巻付け部13a,14aの外周面に形成される係止部として、外周面をサンドブラスト等で粗面化した構成としてもよい。この場合も、最内層に形成されるヘリカル巻層を構成する繊維束の周方向への移動が規制される。また、一般的なFW装置を使用してヘリカル巻層を形成しても、繊維束Rは係止部によって第1及び第2の端部部材13,14に対する周方向への相対移動が規制される。
【0053】
○ 繊維束被巻付け部13a,14aの外周面に形成される係止部として、外周面に凹部あるいは長手方向の端部が開放されていない溝を設けてもよい。溝の延びる方向は最内層のヘリカル巻層を構成する繊維束の配列方向に沿っていなくてもよく、例えば第1及び第2の端部部材13,14の軸方向と平行に延びていてもよい。これらの構成では繊維束Rは凹部あるいは溝内に充填されないが、樹脂が凹部あるいは溝内に充填された状態で硬化されるため、係止部が存在しない場合に比較して接合面積が大きくなり、筒部材12の内面と端部部材13,14の外周面との接合面におけるトルクの伝達が良好となる。
【0054】
〇 被巻付け部材15は紙製の円筒に限らず、樹脂製や金属製としてもよい。耐熱性が不充分な熱可塑性の樹脂製とした場合は、成形体34を硬化させる際に被巻付け部材15が溶融し、筒部材12の内面に偏った状態で付着して回転バランス不良となり易い。従って、熱硬化性樹脂製もしくは耐熱性の熱可塑性樹脂とする方がよい。耐熱性の熱可塑性樹脂とする場合、FRPマトリックス樹脂の硬化温度(百数十℃)より耐熱温度が高い樹脂がより好ましいが、マトリックス樹脂の初期硬化温度(100℃程度)より耐熱温度が高ければ適用可能である。被巻付け部材15が紙製の場合は、プロペラシャフト11を使用する際、被巻付け部材15の部分は回転トルクの伝達に殆ど寄与しないが、樹脂製や金属製とすることにより回転トルクの伝達に寄与する。また、樹脂製や金属製の方が紙製より被巻付け部材15の真円精度が高く、回転バランスが良い。熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。耐熱性の熱可塑性樹脂のうち、エポキシ(マトリックス)硬化温度以上の耐熱性があるものとして、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリアミドイミド(PAI)、熱可塑性ポリイミド(PI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリサルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルイミド(PEI)等の所謂スーパーエンプラが挙げられる。また、エポキシ初期硬化温度より耐熱性がある熱可塑性樹脂としては、ポリアミド=ナイロン(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート=ポリエステル(PET)等の汎用エンプラで耐熱性が比較的高いものが挙げられる。
【0055】
〇 被巻付け部材15として熱硬化性樹脂を含浸、硬化させた紙製としてもよい。この場合も樹脂製の被巻付け部材15を使用した場合と同様な効果が得られる他に、熱硬化性樹脂だけで被巻付け部材15を製造する場合に比較して製造が簡単になる。
【0056】
〇 被巻付け部材15としてFRP製の円筒を使用してもよい。強化繊維としては炭素繊維が好ましい。また、本硬化したFRP製の円筒に限らず、プレキュアされた状態のFRP製の円筒を使用してもよい。プレキュアされた状態のFRP製の円筒は成形体34の硬化時に本硬化されるため、製品であるプロペラシャフト11として完成した段階では、トルクの伝達に寄与する。そして、炭素繊維強化のFRP製の円筒を使用した場合は、被巻付け部材15に巻き付けられた繊維束Rによって形成されるヘリカル巻層の層数を減らすことも可能になり、小径化、軽量化に寄与する。また、プレキュアされた状態のFRP製の円筒の場合、その上に巻き付けられる樹脂含浸繊維束との接着強度が、本硬化されたFRP製の円筒に巻き付ける場合に比較して高くなる。
【0057】
○ プロペラシャフト11として、図7(a)に示すように、係止部が第1及び第2の端部部材13,14の軸方向に平行に延びるセレーション16で構成され、最内層のヘリカル巻層を構成する繊維束Rは少なくとも一部がセレーション16により切断されている構成としてもよい。図7(a)では第1の端部部材13側のみ図示している。このプロペラシャフト11を製造する際は、セレーション16がFRP製の筒部材12に圧入されるが、熱硬化性樹脂をセレーションに塗布した状態で圧入し、その後に硬化させることにより、セレーション16の溝内に充填された樹脂は筒部材12と一体化される。従って、図7(b)に示すように、第1の端部部材13の外周面と筒部材12の内面との間に隙間がない状態で筒部材12と第1及び第2の端部部材13,14とが結合された状態となる。なお、図においてはヘリカル巻層及びフープ巻層の区別をせずに筒部材12を表している。
【0058】
この場合も、筒部材12の端面から水分がセレーション16の部分に侵入するのが阻止され、水分の侵入を防止するためのシール材を設ける必要がない。また、単にセレーション16を圧入した場合に比較して、第1及び第2の端部部材13,14の外周面と筒部材12の内面との接合面積が大きくなり、筒部材12の内面と端部部材の外周面との接合面におけるトルクの伝達が良好となる。また、端部部材13,14として従来使用されているセレーションを備えたものを使用することができる。
【0059】
○ 第1及び第2の端部部材13,14のセレーション16をFRP製の筒部材12に圧入してプロペラシャフト11を製造する際、半硬化状態の筒部材12を形成し、その状態で前記と同様に熱硬化性樹脂をセレーション16に塗布した状態で圧入する。そして、その後に加熱して筒部材12及び塗布した熱硬化性樹脂を完全硬化させるようにしてもよい。この場合、セレーション16の圧入時にクラックが発生する虞がない。また、塗布後に硬化される樹脂と筒部材12の樹脂との接着強度が完全硬化後のFRP製の筒部材12にセレーション16を圧入する構成に比較して大きくなる。
【0060】
○ 筒部材12はFWでなくシートワインディンクで形成されたものでもよい。例えば、炭素繊維のバイアス織りのシートに樹脂を含浸させて、所定層巻き付けた後、硬化させて製造する。係止部としては繊維束被巻付け部13a,14aの外周面を荒らしたものや、図6(a),(b)に示したような、繊維束が同一層内で交差していても支障ないものにする。この場合、FWで製造する場合に比較して生産性が向上する。
【0061】
○ 一方の端部部材のみが被巻付け部材15に結合された状態でFWを行い、他方の端部部材はFRP製の筒部材12が形成された後に圧入して形成されたプロペラシャフト11としてもよい。
【0062】
○ 被巻付け部材15に制振作用を持たせてもよい。プロペラシャフト11が自動車に組み付けられた場合、露出状態で使用されるため、走行中にタイヤが跳ねた小石等の異物が当たることがあり、その際、大きな音が発生する。被巻付け部材15に制振作用を持たせることにより、前記異物が当たった際の振動を吸収して大きな音の発生を抑制することができる。例えば、ボール紙製や段ボール製の筒の表面に樹脂の含浸を阻止する処理を施したり、被巻付け部材15の材質を独立気泡の発泡体で形成する。独立気泡の発泡体としては、例えばポリイミド系の発泡プラスチックなどが適用可能である。
【0063】
〇 端部部材の組み合わせは、ヨークタイプの第1の端部部材13と、シャフトを有するタイプの第2の端部部材14との組み合わせに限られない。例えば、プロペラシャフト11の使用態様に応じて、ヨークタイプの第1の端部部材13が筒部材12の両端に結合された構成や、シャフトを有するタイプの第2の端部部材14が筒部材12の両端に結合された構成としてもよい。これらのプロペラシャフト11も前記各実施の形態と同様にして製造することができる。また、シャフトを有するタイプの端部部材が両端に結合された被巻付け部材15に繊維束Rを巻き付ける場合は、治具20を用いずに、特許文献2に開示された方法のようにシャフトをFW装置の回転支持部材に支持させてFWを行ってもよい。この場合は、繊維束は端部部材の端で折り返された状態で巻き付けられる。
【0064】
○ 筒部材12は必ずしも結合部分12aの肉厚が厚く形成されるものに限らず、全長にわたって一定の厚さであってもよい。フープ巻層18bの役割の一つにセレーション16を圧入する際にFRP製の筒部材12に掛かる応力に対抗する機能がある。従って、両端に第1及び第2の端部部材13,14が結合された状態でFWを行う場合は、セレーション16を圧入しないため、フープ巻層18bの層数を少なくしたり省略してもよい。省略した場合は、筒部材12は全長にわたって一定の厚さとなり、軽量化にも寄与する。
【0065】
○ 筒部材12を構成する繊維束Rのうち、少なくとも最内層に配列されるヘリカル巻層を構成する繊維束Rが同一層内において互いに平行に配列され、他の層は互いに平行に配列されていなくてもよい。例えば、最内層のヘリカル巻層のみ全周一斉に繊維束Rを配列し、他の層は1〜3本の繊維束の巻付けにより構成してもよい。
【0066】
○ 筒部材12を構成する繊維束Rのうち、少なくとも最内層に配列されるヘリカル巻層を構成する繊維束Rが同一層内において互いに平行に配列されず、他の層は互いに平行に配列されていてもよい。例えば、最内層のヘリカル巻層のみ1〜3本の繊維束の巻付けにより構成し、他の層は全周一斉に繊維束Rを配列してもよい。
【0067】
○ 第2の端部部材14に取り付ける治具20の芯出しは、カバー部21の端部内面を、継手部14bの基端の段部に嵌合することにより行う構成に代えて、継手部14bの軸部が治具20の軸部22の内面と嵌合することで芯出しが行われる構成としてもよい。
【0068】
○ 治具20と端部部材13,14とを固定する方法は、上記実施の形態に限らない。例えば、第1の端部部材13を固定する方法として、カバー部21にヨークタイプの継手部13bに形成されている孔13dと対応する孔を形成する。そして、カバー部21が継手部13bの段部と嵌合した状態で、その孔及び孔13dが対応し、その状態で孔及び孔13dを貫通するようにピンを挿入して、治具20と第1の端部部材13とを固定してもよい。
【0069】
また、第2の端部部材14と治具20とを固定する場合、継手部14bのシャフト部にねじ穴14dを設けずに、第2の端部部材14と治具20とを固定する補助部材を使用する。補助部材は板材の両端が直角に折り曲げられて形成され、継手部14bのシャフト部の中間位置に形成された溝部に係止される係止部が一端に形成され、ボルト25の雄ねじ25aが螺合されるねじ孔が他端に形成されている。そして、係止部が前記溝部に係止されて第2の端部部材14に固定された状態で、ボルト25の雄ねじ25aがねじ孔に螺合されることにより第2の端部部材14と治具20とが固定される。
【0070】
○ セレーション16の歯の高さ、即ち溝の深さは1層分の繊維束の厚さとほぼ同じに限らず、最内層の繊維束の厚さの1/4層程度〜1層分あれば充分である。
【0071】
〇 第1及び第2の端部部材13,14の材質は金属に限らず、セラミックスでもよい。
○ 動力伝達用シャフトは、プロペラシャフト11用に限定されず、その他の動力伝達用シャフトに適用してもよい。
【0072】
○ 筒部材12の形状は全体を円筒状とするものに限定されず、両端部を円筒状とし、中間部を多角形筒状としてもよい。その場合、被巻付け部材15も対応する多角形筒状に形成される。
【0073】
○ 筒部材12の材料であるFRPは、強化繊維として炭素繊維を、マトリックス樹脂としてエポキシ樹脂を使用したものに限らない。例えば、強化繊維として、アラミド繊維、ガラス繊維等の一般に高弾性・高強度といわれるその他の繊維を採用したり、マトリックス樹脂として、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂等のその他の熱硬化性樹脂を採用してもよい。しかし、プロペラシャフト11の場合は、炭素繊維とエポキシ樹脂の組み合わせが強度やコストの点で好ましい。
【0074】
○ FRPのマトリックス樹脂が熱硬化性樹脂であることに限定されない。例えば紫外線硬化樹脂をマトリックス樹脂として使用してもよい。
以下の技術的思想(発明)は前記実施の形態から把握できる。
【0075】
(1) 請求項2に記載の発明において、前記繊維束のうちヘリカル巻で配列された繊維束は少なくとも一方の端部部材側の端部で折り返されるように配列されている。
【0076】
(2) 請求項1に記載の発明において、前記筒部材の強化繊維は炭素繊維のバイアス織りシートで構成されている。
(3) 請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の発明において、前記端部部材は金属製の継手である。
【0077】
【発明の効果】
以上、詳述したように、請求項1〜請求項5に記載の発明の動力伝達シャフトによれば、FRP製の筒部材の内面と端部部材の外周面との接合面におけるトルクの伝達が良好となり、シール材を設ける必要がない。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は第1の実施の形態のプロペラシャフトの一部破断側面図、(b)は(a)のA−A線における模式断面図。
【図2】模式分解斜視図。
【図3】治具が組み付けられた状態の一部破断模式断面図。
【図4】FW装置の巻付けヘッドの模式図。
【図5】樹脂含浸繊維の切断位置を示す模式断面図。
【図6】(a)は別の実施の形態の端部部材の斜視図、(b)は別の端部部材の側面図。
【図7】(a)別の実施の形態のプロペラシャフトの模式部分断面図、(b)は端部部材と筒部材との結合部分の模式部分断面図。
【図8】(a)は従来技術のプロペラシャフトの部分分解断面図、(b)はプロペラシャフトの断面図、(c)は(b)の部分拡大図。
【図9】(a),(b)は別の従来技術のプロペラシャフトの製法を示す模式斜視図。
【符号の説明】
R…繊維束、11…動力伝達シャフトとしてのプロペラシャフト、12…筒部材、12a…結合部分、13,14…端部部材、16…係止部としてのセレーション、18a,18c…ヘリカル巻層、36…係止部としてのピン、37…係止部としてのローレット。
【発明の属する技術分野】
本発明は、繊維強化プラスチック(以下、FRPとも記載する)製の筒部材の両端に端部部材が結合された動力伝達シャフトに関する。
【0002】
【従来の技術】
車両のエンジンで発生する回転動力を車両の駆動輪に伝達するプロペラシャフトは、一般に金属製シャフト部材の両端に、駆動軸や従動軸と連結する金属製の自在継手(ユニバーサルジョイント)のヨークを溶接したもの(以下、金属製プロペラシャフトという)が使用されている。
【0003】
近年、車両の軽量化を図るために各構造部材のさらなる軽量化が要求され、プロペラシャフトにおいてもFRP製のものに切り替えることによる軽量化が検討され、一部実施されている。図8(a)に示すように、FRP製プロペラシャフト51として、FRP製パイプ52の両端(片側のみ図示)に、FRP製パイプ52を駆動軸や従動軸等(図示せず)と連結する金属製の継手(ヨーク)53を圧入接合した構造のものが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
継手53にはFRP製パイプ52との接合部となる外周面に、図8(b)に示すように、FRP製パイプ52の端部内径より大きな外径のセレーション54が形成されている。そして、FRP製パイプ52に継手53の接合部を圧入することで、継手53のセレーション54の歯によって、FRP製パイプ52の内周面に溝が刻設され、歯が溝に食い込むことで継手53とFRP製パイプ52とが一体回転するための接合強度が確保される。図8(c)に示すように、継手53はFRP製パイプ52の内面とセレーション54の溝の底部との間に隙間が存在する状態でFRP製パイプ52に結合されている。
【0005】
また、図9(a)に示すように、外側端に中心軸55を突設した端部金具56を両端にそれぞれ嵌着した薄肉円筒57を使用してフィラメントワインディング法により製造する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。この製造方法では、図9(b)に示すように、樹脂が含浸された炭素繊維58を端部金具56から薄肉円筒57にかけて連続して巻き付けて樹脂含浸炭素繊維層を形成し、そのまま硬化成形した後、必要により中心軸55を除去してプロペラシャフトを製造する。
【0006】
また、FRP製の内側軸部材の両端に、端面部の中心から軸部が突出する金属製継手部材を嵌合させ、前記内側軸部材及び前記金属製継手部材の筒状部にフィラメントワインディング法により樹脂被覆した繊維束を巻き付けて製造する方法も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
【特許文献1】
特開平5−139170号公報(明細書の段落[0014]、[0018]、[0020]、図1、図2)
【特許文献2】
特開昭55−118831号公報(2頁、図3、図4)
【特許文献3】
特開昭59−50216号公報(2,3頁、図2)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
特許文献1に開示されたFRP製プロペラシャフト51のように、FRP製パイプ52に継手53を圧入する構成では、FRP製パイプ52の内面とセレーション54の溝の底部との間に隙間が存在する。従って、隙間がない場合に比較してFRP製パイプ52とセレーション54との間の接合面積が小さくなる。また、FRP製パイプ52の内面とセレーション54の溝の底部との間に隙間が存在するため、FRP製パイプ52の端面から水分が侵入するのを防止するためシールに手間がかかっていた。
【0009】
一方、特許文献2に開示されたプロペラシャフトでは、継手53に相当する端部金具56をFRP製パイプに圧入する工程が不要なため、シール工程が不要となる。しかし、特許文献2に開示されたプロペラシャフトでは、端部金具56の外周面は平坦なため、端部金具56の外周面とFRP製のパイプとの接合面の間のトルクの伝達が不十分となる。また、端部金具56に中心軸55が必須のため、孔を有する一対の支持部を備えたヨークタイプの継手53(特許文献1に開示されたもの)を設けることができない。その結果、プロペラシャフトをドライブシャフトと連結するユニバーサルジョイントに一般的な十字軸でなく特別な構造のものが必要となるという問題がある。
【0010】
また、特許文献3に開示された製造方法においても、金属製継手部材の外周面は平坦に形成されているため、その外周面とその外側に形成されたFRPとの接合面の間のトルクの伝達が不十分となる。
【0011】
本発明の目的は、FRP製の筒部材の両端に端部部材が結合された動力伝達シャフトにおいて、FRP製の筒部材の内面と端部部材の外周面との接合面におけるトルクの伝達が良好となり、シール材を設ける必要のない動力伝達シャフトを提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、繊維強化プラスチック製の筒部材の両端に端部部材が結合された動力伝達シャフトである。前記端部部材は、前記筒部材との結合部分における外周面に係止部が形成され、前記外周面と前記筒部材の内面との間に隙間がない状態で前記筒部材と前記端部部材とが結合されている。従って、この発明では、端部部材の外周面とFRP製の筒部材の内面との間に隙間がなく、前記外周面に係止部が存在するため、FRP製の筒部材の内面と端部部材の外周面との接合面におけるトルクの伝達が良好となる。また、シール材を設ける必要がない。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記筒部材の強化繊維は繊維束で構成され、前記係止部は規則的に配列された複数の凸部で構成され、最内層は前記繊維束が前記凸部に案内された状態で配列されて構成されている。この発明では、最内層を構成する繊維束が同一層において交差する配列状態でも、互いに平行となる配列状態のいずれであっても端部部材と筒部材との結合が良好になされる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記筒部材のヘリカル巻層を構成する繊維束は、同一層内において交差するように配列されている。この発明の動力伝達シャフトは、同時に1〜3本の繊維束の巻付けを行うことができる一般のフィラメントワインディング装置を使用して形成できる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記係止部は前記端部部材の軸方向に平行に延びるセレーションで構成され、前記筒部材の強化繊維は繊維束で構成され、最内層を構成する繊維束は少なくとも一部が前記セレーションにより切断されている。この発明の動力伝達シャフトは、端部部材として従来使用されているセレーションを備えたものを使用することができる。例えば、動力伝達シャフトを製造する際、熱硬化性樹脂をセレーションに塗布した状態で圧入し、その後に硬化させることにより、セレーションの溝内に充填された樹脂は筒部材と一体化される。そして、端部部材の外周面と筒部材の内面との間に隙間がない状態で筒部材と端部部材とが結合された状態となる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記筒部材を構成する繊維束のうちヘリカル巻で配列された繊維束は同一層において互いに平行に配列されている。この発明の動力伝達シャフトは、ヘリカル巻層を形成する際、1層分の繊維束を同時に巻き付けることが可能なため、巻き付け時間の短縮が可能となる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を動力伝達シャフトとしてのプロペラシャフトに具体化した一実施の形態を図1〜図5に従って説明する。図1(a)はプロペラシャフトの一部破断模式側面図、(b)は(a)のA−A線における模式断面図である。
【0018】
図1(a)に示すように、プロペラシャフト11は、FRP製の筒部材12と、その第1端部に結合された第1の端部部材13と、第2端部に結合された第2の端部部材14と、筒部材12の内側で第1及び第2の端部部材13,14間に配置された筒状の被巻付け部材15とを備えている。被巻付け部材15には紙製の円筒が使用されている。第1の端部部材13には自在継手を構成する継手としての金属製のヨークが使用され、第2の端部部材14には金属製の滑り継手が使用されている。筒部材12は、第1及び第2の端部部材13,14との結合部分12aが肉厚に形成されている。
【0019】
第1の端部部材13及び第2の端部部材14は、筒部材12との結合部分となる円筒状の繊維束被巻付け部13a,14aを備え、その外周面には係止部としてのセレーション16が形成されている。筒部材12の強化繊維は複数の層を構成するように巻き付けられた繊維束からなり、最内層にヘリカル巻層が設けられている。筒部材12と第1及び第2の端部部材13,14とは、繊維束被巻付け部13a,14aの外周面と、筒部材12の内面との間に隙間がない状態で結合されている。
【0020】
繊維束は同一層においては互いに平行に配列されており、セレーション16はその歯が繊維束の配列方向に沿って延びるように形成されている。最内層のヘリカル巻層を構成する繊維束は、セレーション16により端部部材13,14に対する周方向への相対移動が規制されるとともに筒部材12の全長にわたって連続している。即ち、セレーション16が形成された端部部材をFRP製のパイプに後から圧入する構成と異なり、セレーション16と係合する繊維束が切断されていない。
【0021】
セレーション16の歯は、最内層のヘリカル巻層を構成する繊維束が第1及び第2の端部部材13,14の軸方向と成す角度(配列角度)に等しい角度で、第1及び第2の端部部材13,14の軸方向に対して延びるように形成されている。また、セレーション16の歯の高さ、即ち溝の深さは1層分の繊維束の厚さとほぼ同じに形成されている。
【0022】
第1の端部部材13は、繊維束被巻付け部13aの一端側に継手部13bが突設され、他端側に繊維束被巻付け部13aより小径の嵌合筒部13cが突設されている。継手部13bには、例えば十字軸式ジョイントを取り付けるための孔13dが形成されている。第2の端部部材14は、繊維束被巻付け部14aの一端側にシャフト状の継手部14bが突設され、他端側に繊維束被巻付け部14aより小径の嵌合筒部14cが突設されている。シャフト状の継手部14bには、筒部材12をフィラメントワインディング法で形成する際に使用する治具の固定に使用するねじ穴14dが先端に形成されている。第1及び第2の端部部材13,14の繊維束被巻付け部13a,14aと、継手部13b,14bとの間には、環状溝17が形成されている。環状溝17はバランスピース(図示せず)を溶接する必要がある場合に、該バランスピースが外側に突出しない幅及び深さに形成されている。なお、以後、フィラメントワインディングをFWと略す。
【0023】
被巻付け部材15はその端部が嵌合筒部13c,14cの外周に嵌合された状態で第1及び第2の端部部材13,14に連結されている。被巻付け部材15は紙製(例えば、ボール紙製)で円筒状に形成されている。被巻付け部材15は筒部材12をFW法で形成する際に、樹脂含浸繊維束が巻き付けられても所定の円筒形状を保つ強度があればよく、プロペラシャフト11が使用される際のトルク伝達に寄与する強度を有する必要はない。
【0024】
筒部材12はFW法によって形成され、強化繊維としては炭素繊維のロービングが使用される。ロービングとは細い単繊維のフィラメントを多数本束ねた実質無撚りの繊維束を意味する。マトリックス樹脂としてはエポキシ樹脂が使用されている。
【0025】
筒部材12は主にヘリカル巻層で構成されているが、結合部分12a及びその近くにはフープ巻層が形成されている。また、筒部材12の最外層には炭素繊維束ではなく、ポリエステル糸が全長にわたってフープ巻で巻き付けられている。図1(b)に示すように、第1の端部部材13と筒部材12との結合部分の構成は、繊維束被巻付け部13aと接触する最内層側から順に、ヘリカル巻層18a、フープ巻層18b、ヘリカル巻層18c、ポリエステル糸層18dが設けられた構成となる。
【0026】
次に前記のように構成されたプロペラシャフト11の製造方法を説明する。図2は第1の端部部材13、第2の端部部材14、被巻付け部材15及び治具20の関係を示す模式分解斜視図であり、図3は第1の端部部材13、第2の端部部材14、被巻付け部材15及び治具20が組み付けられた状態の一部破断模式断面図である。
【0027】
プロペラシャフト11を製造する際は、マンドレルを使用せずに、治具20を使用して第1及び第2の端部部材13,14が両端に結合された被巻付け部材15をFW装置に支持してFWが行われる。
【0028】
図2に示すように、治具20は、各端部部材13,14の樹脂含浸繊維束が密着して巻き付けられる部分を除いた部分を覆うとともに、FW時に樹脂含浸繊維束の一部が巻き付けられる筒状のカバー部21を備えている。カバー部21は一端側が小径に形成され、FW装置の回転支持部に支持可能な軸部22がカバー部21の小径側の端部に連続して一体的に形成されている。カバー部21の周面にはピン23が一定ピッチで周方向に沿って環状に設けられている。
【0029】
また、第1の端部部材13に組み付けられる治具20は、第1の端部部材13を軸部22と被巻付け部材15の回転中心とが同軸となる状態で支持可能で、軸部22と一体回転可能な支持部24を備えている。支持部24は、一端側に端部部材13に取り外し可能に固定される固定部としてのT字状部24aが設けられたシャフトで構成され、他端側に雄ねじ部24bが形成されている。そして、T字状部24aが孔13dに挿通された状態で、軸部22から突出した雄ねじ部24bに螺合されるナット26が締め付けられることにより、軸部22の端部に一体に形成された座金部27を介して軸部22に固定されるようになっている。図3に示すように、治具20はカバー部21の端部内面が、継手部13bの段部に嵌合されて、治具20の芯出しが行われるようになっている。
【0030】
第2の端部部材14の支持部に組み付けられる治具20は、第2の端部部材14を軸部22と被巻付け部材15の回転中心とが同軸となる状態で支持可能で、軸部22と一体回転可能な支持部としてのボルト25を備えている。ボルト25は先端部に雄ねじ25aが設けられ、雄ねじ25aが端部部材14に取り外し可能に固定される固定部を構成する。ボルト25は雄ねじ25aがねじ穴14dに螺合される状態で締め付けられることにより、軸部22の端部に一体に形成された座金部27を介して軸部22に固定されるようになっている。図3に示すように、治具20はカバー部21の端部内面が、継手部14bの基端の段部に嵌合されて、治具20の芯出しが行われるようになっている。
【0031】
両端に第1及び第2の端部部材13,14がそれぞれ連結された被巻付け部材15にFWを行う場合は、先ず第1及び第2の端部部材13,14にそれぞれ治具20を組み付ける。第1の端部部材13に治具20を組み付ける際は、支持部24のT字状部24aを孔13dに挿通した後、支持部24をカバー部21の大径部側から軸部22に挿通する。そして、軸部22から突出した雄ねじ部24bにナット26を螺合させて締め付けることにより、軸部22の端面とナット26との間に介装された座金部27を介して軸部22を第1の端部部材13側に押圧し、支持部24を介して治具20が第1の端部部材13に組み付けられる。
【0032】
第2の端部部材14に治具20を組み付ける際は、カバー部21を第2の端部部材14の継手部14b側を覆うように第2の端部部材14に当接させ、ボルト25を座金部27に挿通して軸部22側からカバー部21に挿通する。そして、雄ねじ25aを第2の端部部材14のねじ穴14dに螺合させて締め付けることにより、軸部22の端面とボルト25の頭部との間に介装された座金部27を介して軸部22を第2の端部部材14側に押圧し、ボルト25を介して治具20が第2の端部部材14に組み付けられる。そして、図3に示すように、被巻付け部材15、第1の端部部材13、第2の端部部材14及び治具20が組み付けられると、FW装置の一組のチャック間に支持される被繊維束巻付け部材28を構成する。
【0033】
FW装置は、本願出願人が先に出願した特開2002−283467号公報に開示された装置に開示されたものと同様な巻付けヘッド(ヘリカル巻用ヘッド及びフープ巻用ヘッド)を備えている。図4は巻き付けヘッドの要部模式図であり、ヘリカル巻用ヘッドのみが図示されている。
【0034】
巻付けヘッド30は、被繊維束巻付け部材28に貫通される孔を有する支持板31を備えている。ヘリカル巻用ヘッドの支持板31には、複数本の繊維束を同時に被繊維束巻付け部材28に対してヘリカル巻で巻付け可能とするため、図4に示すように複数のガイド32が被繊維束巻付け部材28の周方向に沿って配列された状態で設けられている。この実施の形態では28本の繊維束を案内可能にそれぞれ28個の大小2種のガイド32が2個の同心円上に配列されている。フープ巻部を備えたフープ巻用ヘッドは、繊維束Rを被繊維束巻付け部材28に対して2本同時にフープ巻で巻付け可能とするためのガイドを備えている。ヘリカル巻用ヘッドとフープ巻用ヘッドとは一体的な移動と、独立した状態での移動とが可能に構成されている。そして、数本の繊維束Rを同時に被繊維束巻付け部材28に対してヘリカル巻で巻付け可能となり、ヘリカル巻用ヘッドが被繊維束巻付け部材28に沿って一回往動又は復動することで被繊維束巻付け部材28の全周面に亘って繊維束Rがヘリカル巻で巻き付けられる。
【0035】
FW装置はマンドレルや芯材あるいはタンクを製造する場合のライナ等の被繊維束巻付け部材を回転可能に支持する一組の回転支持部材としてのチャックを備えている。巻付けヘッド30はベースプレート上に設けられたレール33上をチャックに支持された被繊維束巻付け部材28に沿って、図示しない駆動手段により移動可能となっている。チャックは可変速モータにより回転駆動され、制御装置の指令によってチャックが巻付けヘッド30の移動速度と同期した状態で回転駆動される。そして、図示しない繊維束供給部から樹脂含浸装置を経て供給される繊維束Rを、被繊維束巻付け部材28に対する巻付け角度を任意の角度に設定して被繊維束巻付け部材28に巻き付けることができるようになっている。
【0036】
FWに先立って、作業者により被繊維束巻付け部材28がFW装置のチャックに支持される。次に作業者は、繊維束供給部から繊維束Rを引き出し、開繊機構、樹脂含浸槽、張力調整部等を経て巻付けヘッド30に導き、巻付けヘッド30のガイド32に挿通した後、繊維束Rの端部をカバー部21の所定位置に固定する。繊維束Rの端部の固定作業は作業者が手作業で行い、例えば粘着テープを使用して行われる。
【0037】
また、作業者は、被繊維束巻付け部材28の回転速度、巻付けヘッド30の巻付け時の往復移動幅等の巻付け条件を制御装置に入力する。繊維束Rとして炭素繊維のロービングが使用される。ロービングとは細い単繊維のフィラメントを多数本束ねた実質無撚りの繊維束を意味する。
【0038】
次にFW装置による繊維束Rの巻付け運転が開始される。FW装置が駆動されると、被繊維束巻付け部材28が一定方向に回転され、巻付けヘッド30が被繊維束巻付け部材28の長手方向に沿って往復移動される。繊維束Rは少なくとも最内層となる一層目がヘリカル巻層を形成するように、被繊維束巻付け部材28の軸方向となす角度(巻付け角度)が所定の角度となるように巻き付けられる。巻付け角度は製品のFRPパイプに要求される、曲げ、ねじり、振動等の特性を満足する所定の値(例えば、10〜15°)に設定される。そして、この巻付け角度がセレーション16の歯の延びる方向と軸方向との成す角度と同じため、繊維束Rはセレーション16の溝内に配列されるように巻き付けられる。また、繊維束Rはカバー部21に設けられたピン23の間を通過するように巻き付けられ、ピン23によってカバー部21の周方向への移動が規制された状態で巻き付けられる。
【0039】
ヘリカル巻層が所定層(例えば4層)形成された後、第1及び第2の端部部材13,14と対応する部分及び被巻付け部材15の第1及び第2の端部部材13,14の近傍部に、繊維束Rの巻付け角度がほぼ90°に近い状態で巻き付けられる所謂フープ巻層が所定層(例えば1層)形成される。その後、再びヘリカル巻層が所定層(例えば2層)形成された段階で樹脂が含浸された繊維束Rの巻き付けが完了する。次にポリエステル糸がフープ巻で巻き付けられる。ポリエステル糸が巻き付けられる際に、内側に巻き付けられている繊維束Rに含浸されている樹脂の一部が染み出しポリエステル糸の表面が樹脂で被覆された状態となる。
【0040】
ポリエステル糸の巻付けが完了した後、被繊維束巻付け部材28上に形成された成形体34の両端部を、ピン23の突設位置より繊維束被巻付け部13a,14a寄りの治具20の表面と対向する位置でそれぞれ切断する。第1の端部部材13側の切断位置は、例えば、図5にAで示す位置となり、第2の端部部材14側の切断位置も同様な位置になる。そして、繊維束供給部に繋がる繊維束Rから成形体34が切り離された後、被繊維束巻付け部材28がFW装置のチャックから取り外され、成形体34の未硬化の段階で、前記切断位置より軸部22側に巻き付けられた樹脂含浸繊維束が除去される。
【0041】
その後、被繊維束巻付け部材28が成形体34と共に加熱炉に入れられ、所定温度で樹脂が硬化される。硬化温度は樹脂により異なるが、例えばエポキシ樹脂の場合は180℃程度である。加熱硬化後、成形体34が繊維束被巻付け部13a,14aと、カバー部21の先端との間に対応する位置、この実施の形態では環状溝17と対応する位置で切断される。図5に示すように、切断はカッター35により行われる。次に両治具20が取り外された後、回転バランスの検査が行われる。回転バランスが悪い場合は、バランスピースを第1及び第2の端部部材13,14の少なくとも一方に溶接して、バランス調整処理がなされて、筒部材12の端部に第1及び第2の端部部材13,14が結合されたプロペラシャフト11が完成する。
【0042】
治具20を取り外す場合、第1の端部部材13側では、ナット26を緩めて支持部24から取り外し、次にカバー部21を取り外し、最後にT字状部24aを孔13dから取り外す。第2の端部部材14側では、ボルト25の雄ねじ25aと第2の端部部材14のねじ穴14dとの螺合を解除した後、カバー部21を取り外すことで治具20の除去が完了する。
【0043】
この実施の形態では以下の効果を有する。
(1) プロペラシャフト11は、FRP製の筒部材12の両端に結合された第1及び第2の端部部材13,14の筒部材12との結合部分における外周面に係止部が形成され、前記外周面と筒部材12の内面とが密着している。即ち、第1及び第2の端部部材13,14の外周面と、筒部材12の内面との間に隙間がない状態で筒部材12と第1及び第2の端部部材13,14とが結合されている。従って、第1及び第2の端部部材13,14の外周面とFRP製の筒部材12の内面との間に隙間がなく、筒部材12の端面から水分がセレーション16の部分に侵入するのが阻止され、水分の侵入を防止するためのシール材を設ける必要がない。また、第1及び第2の端部部材13,14の外周面に係止部が形成されているため、係止部が存在しない場合に比較して接合面積が大きくなり、筒部材12の内面と端部部材13,14の外周面との接合面におけるトルクの伝達が良好となる。
【0044】
(2) 複数の層を構成する繊維束Rのうちヘリカル巻で配列された繊維束Rは同一層において互いに平行に配列されている。従って、プロペラシャフト11は、ヘリカル巻層を形成する際、1層分の繊維束Rを同時に巻き付けて生産することが可能なため、巻き付け時間の短縮が可能となって生産性が向上する。
【0045】
(3) 前記係止部は最内層のヘリカル巻層を構成する繊維束Rの配列方向に沿って延びるセレーション16で構成され、最内層の繊維束Rはセレーション16により第1及び第2の端部部材13,14に対する周方向への相対移動が規制されている。従って、第1及び第2の端部部材13,14間のねじり強度が、FRP製の筒部材に端部部材のセレーションを圧入して製造されたプロペラシャフトに比較して大きくなり、トルクの伝達がより良好に行われる。また、複数の凸条をセレーション16と異なり規則性のない状態で設ける場合に比較して、前記係止部の加工が容易となる。
【0046】
(4) 筒部材12の一端にヨークタイプの継手部13bを備えているため、プロペラシャフト11をドライブシャフトと連結するユニバーサルジョイントに一般的な十字軸を使用することができる。
【0047】
(5) 第1及び第2の端部部材13,14が金属製で、継手部13b,14bが筒部材12から突出しているため、特許文献2に開示された継手の部分全体がFRPで被覆されている構成のプロペラシャフトと異なり、バランスピースを溶接で取り付けることができる。また、第1及び第2の端部部材13,14が非金属製の場合でも、FRPを構成している繊維を切断せずに、バランスピースを取り付けることができる。
【0048】
なお、実施の形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 筒部材12の最内層を構成し、互いに交差せずに配列される繊維束は、ヘリカル巻に限らず、フープ巻であってもよい。この場合、第1及び第2の端部部材13,14の繊維束被巻付け部13a,14aの外周面に形成される係止部として、ねじ状の溝が形成される。また、フープ巻の範囲はFRP製の筒部材12の全長に亘ってもよいし、繊維束被巻付け部13a,14aを覆う部分のみでもよい。
【0049】
○ 繊維束被巻付け部13a,14aの外周面に形成される係止部は、最内層に形成されるヘリカル巻層を構成する繊維束Rが該係止部により第1及び第2の端部部材13,14に対する周方向への相対移動を規制可能な形状であればよく、セレーション16に限らない。例えば、繊維束Rの配列方向に沿って延びるように形成された複数の凸条を設けてもよい。凸条は繊維束被巻付け部13a,14aの軸方向全長に連続している必要はなく、隣接する凸条間の周方向における間隔も一定でなくてもよい。また、凸状の断面形状は三角形状や台形状に限らず矩形状や正方形状、半円形状等でもよい。この場合も、同一層においては繊維束Rが互いに平行に配列される構成において、最内層のヘリカル巻層が所定の巻付け角度で巻き付けられるのに凸条が寄与する。
【0050】
〇 繊維束被巻付け部13a,14aの外周面に形成される係止部は、最内層に配列される繊維束Rの配列方向に沿って延びる凸条に限らず、軸方向に対する配列角度が互いに反対となるヘリカル巻層を構成するいずれの繊維束Rに対してもその配列を案内可能な多数の凸部を係止部として設けてもよい。例えば、図6(a)に示すように、繊維束被巻付け部13aの表面に多数のピン36を突設したり、図6(b)に示すように、溝が繊維束Rの配列角度と同じ方向に延びるローレット37を形成してもよい。繊維束被巻付け部14aについても同様なピン36やローレット37を設けてもよい。図6(a)ではピン36の長さを誇張して表しているが、ピン36は少なくともヘリカル巻層1層分の厚さに相当する長さ以上で、最外層に配列された繊維束Rの外側に突出しない長さが好ましい。ローレット37の溝の深さは、ヘリカル巻層1層分の厚さに相当する深さが加工の容易性の点から好ましい。
【0051】
これらの係止部(ピン36又はローレット37)が設けられた第1及び第2の端部部材13,14を使用した場合は、同一層において繊維束Rが互いに平行に配列される構成は必ずしも必要ではない。同時に巻き付ける繊維束の本数が1〜3本の一般的なFW装置を使用してヘリカル巻層を形成すると、ヘリカル巻層を構成する繊維束は同じ層内で互いに交差するように配列される。従って、係止部がヘリカル巻層を構成する繊維束Rの配列方向に沿って延びる凸条の場合は、繊維束Rを該凸条が存在する面内で交差するように配列することが阻止されるため一般的なFW装置を使用してヘリカル巻層を形成すると、繊維束の配列が円滑に行われない。しかし、前記構成のピン36やローレット37が設けられた場合は、同時に巻き付ける繊維束の本数が1〜3本の一般的なFW装置を使用してヘリカル巻層を形成しても、繊維束が係止部によって案内されて所定の巻付け角度で良好に配列される。
【0052】
○ 繊維束被巻付け部13a,14aの外周面に形成される係止部として、外周面をサンドブラスト等で粗面化した構成としてもよい。この場合も、最内層に形成されるヘリカル巻層を構成する繊維束の周方向への移動が規制される。また、一般的なFW装置を使用してヘリカル巻層を形成しても、繊維束Rは係止部によって第1及び第2の端部部材13,14に対する周方向への相対移動が規制される。
【0053】
○ 繊維束被巻付け部13a,14aの外周面に形成される係止部として、外周面に凹部あるいは長手方向の端部が開放されていない溝を設けてもよい。溝の延びる方向は最内層のヘリカル巻層を構成する繊維束の配列方向に沿っていなくてもよく、例えば第1及び第2の端部部材13,14の軸方向と平行に延びていてもよい。これらの構成では繊維束Rは凹部あるいは溝内に充填されないが、樹脂が凹部あるいは溝内に充填された状態で硬化されるため、係止部が存在しない場合に比較して接合面積が大きくなり、筒部材12の内面と端部部材13,14の外周面との接合面におけるトルクの伝達が良好となる。
【0054】
〇 被巻付け部材15は紙製の円筒に限らず、樹脂製や金属製としてもよい。耐熱性が不充分な熱可塑性の樹脂製とした場合は、成形体34を硬化させる際に被巻付け部材15が溶融し、筒部材12の内面に偏った状態で付着して回転バランス不良となり易い。従って、熱硬化性樹脂製もしくは耐熱性の熱可塑性樹脂とする方がよい。耐熱性の熱可塑性樹脂とする場合、FRPマトリックス樹脂の硬化温度(百数十℃)より耐熱温度が高い樹脂がより好ましいが、マトリックス樹脂の初期硬化温度(100℃程度)より耐熱温度が高ければ適用可能である。被巻付け部材15が紙製の場合は、プロペラシャフト11を使用する際、被巻付け部材15の部分は回転トルクの伝達に殆ど寄与しないが、樹脂製や金属製とすることにより回転トルクの伝達に寄与する。また、樹脂製や金属製の方が紙製より被巻付け部材15の真円精度が高く、回転バランスが良い。熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。耐熱性の熱可塑性樹脂のうち、エポキシ(マトリックス)硬化温度以上の耐熱性があるものとして、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリアミドイミド(PAI)、熱可塑性ポリイミド(PI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリサルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルイミド(PEI)等の所謂スーパーエンプラが挙げられる。また、エポキシ初期硬化温度より耐熱性がある熱可塑性樹脂としては、ポリアミド=ナイロン(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート=ポリエステル(PET)等の汎用エンプラで耐熱性が比較的高いものが挙げられる。
【0055】
〇 被巻付け部材15として熱硬化性樹脂を含浸、硬化させた紙製としてもよい。この場合も樹脂製の被巻付け部材15を使用した場合と同様な効果が得られる他に、熱硬化性樹脂だけで被巻付け部材15を製造する場合に比較して製造が簡単になる。
【0056】
〇 被巻付け部材15としてFRP製の円筒を使用してもよい。強化繊維としては炭素繊維が好ましい。また、本硬化したFRP製の円筒に限らず、プレキュアされた状態のFRP製の円筒を使用してもよい。プレキュアされた状態のFRP製の円筒は成形体34の硬化時に本硬化されるため、製品であるプロペラシャフト11として完成した段階では、トルクの伝達に寄与する。そして、炭素繊維強化のFRP製の円筒を使用した場合は、被巻付け部材15に巻き付けられた繊維束Rによって形成されるヘリカル巻層の層数を減らすことも可能になり、小径化、軽量化に寄与する。また、プレキュアされた状態のFRP製の円筒の場合、その上に巻き付けられる樹脂含浸繊維束との接着強度が、本硬化されたFRP製の円筒に巻き付ける場合に比較して高くなる。
【0057】
○ プロペラシャフト11として、図7(a)に示すように、係止部が第1及び第2の端部部材13,14の軸方向に平行に延びるセレーション16で構成され、最内層のヘリカル巻層を構成する繊維束Rは少なくとも一部がセレーション16により切断されている構成としてもよい。図7(a)では第1の端部部材13側のみ図示している。このプロペラシャフト11を製造する際は、セレーション16がFRP製の筒部材12に圧入されるが、熱硬化性樹脂をセレーションに塗布した状態で圧入し、その後に硬化させることにより、セレーション16の溝内に充填された樹脂は筒部材12と一体化される。従って、図7(b)に示すように、第1の端部部材13の外周面と筒部材12の内面との間に隙間がない状態で筒部材12と第1及び第2の端部部材13,14とが結合された状態となる。なお、図においてはヘリカル巻層及びフープ巻層の区別をせずに筒部材12を表している。
【0058】
この場合も、筒部材12の端面から水分がセレーション16の部分に侵入するのが阻止され、水分の侵入を防止するためのシール材を設ける必要がない。また、単にセレーション16を圧入した場合に比較して、第1及び第2の端部部材13,14の外周面と筒部材12の内面との接合面積が大きくなり、筒部材12の内面と端部部材の外周面との接合面におけるトルクの伝達が良好となる。また、端部部材13,14として従来使用されているセレーションを備えたものを使用することができる。
【0059】
○ 第1及び第2の端部部材13,14のセレーション16をFRP製の筒部材12に圧入してプロペラシャフト11を製造する際、半硬化状態の筒部材12を形成し、その状態で前記と同様に熱硬化性樹脂をセレーション16に塗布した状態で圧入する。そして、その後に加熱して筒部材12及び塗布した熱硬化性樹脂を完全硬化させるようにしてもよい。この場合、セレーション16の圧入時にクラックが発生する虞がない。また、塗布後に硬化される樹脂と筒部材12の樹脂との接着強度が完全硬化後のFRP製の筒部材12にセレーション16を圧入する構成に比較して大きくなる。
【0060】
○ 筒部材12はFWでなくシートワインディンクで形成されたものでもよい。例えば、炭素繊維のバイアス織りのシートに樹脂を含浸させて、所定層巻き付けた後、硬化させて製造する。係止部としては繊維束被巻付け部13a,14aの外周面を荒らしたものや、図6(a),(b)に示したような、繊維束が同一層内で交差していても支障ないものにする。この場合、FWで製造する場合に比較して生産性が向上する。
【0061】
○ 一方の端部部材のみが被巻付け部材15に結合された状態でFWを行い、他方の端部部材はFRP製の筒部材12が形成された後に圧入して形成されたプロペラシャフト11としてもよい。
【0062】
○ 被巻付け部材15に制振作用を持たせてもよい。プロペラシャフト11が自動車に組み付けられた場合、露出状態で使用されるため、走行中にタイヤが跳ねた小石等の異物が当たることがあり、その際、大きな音が発生する。被巻付け部材15に制振作用を持たせることにより、前記異物が当たった際の振動を吸収して大きな音の発生を抑制することができる。例えば、ボール紙製や段ボール製の筒の表面に樹脂の含浸を阻止する処理を施したり、被巻付け部材15の材質を独立気泡の発泡体で形成する。独立気泡の発泡体としては、例えばポリイミド系の発泡プラスチックなどが適用可能である。
【0063】
〇 端部部材の組み合わせは、ヨークタイプの第1の端部部材13と、シャフトを有するタイプの第2の端部部材14との組み合わせに限られない。例えば、プロペラシャフト11の使用態様に応じて、ヨークタイプの第1の端部部材13が筒部材12の両端に結合された構成や、シャフトを有するタイプの第2の端部部材14が筒部材12の両端に結合された構成としてもよい。これらのプロペラシャフト11も前記各実施の形態と同様にして製造することができる。また、シャフトを有するタイプの端部部材が両端に結合された被巻付け部材15に繊維束Rを巻き付ける場合は、治具20を用いずに、特許文献2に開示された方法のようにシャフトをFW装置の回転支持部材に支持させてFWを行ってもよい。この場合は、繊維束は端部部材の端で折り返された状態で巻き付けられる。
【0064】
○ 筒部材12は必ずしも結合部分12aの肉厚が厚く形成されるものに限らず、全長にわたって一定の厚さであってもよい。フープ巻層18bの役割の一つにセレーション16を圧入する際にFRP製の筒部材12に掛かる応力に対抗する機能がある。従って、両端に第1及び第2の端部部材13,14が結合された状態でFWを行う場合は、セレーション16を圧入しないため、フープ巻層18bの層数を少なくしたり省略してもよい。省略した場合は、筒部材12は全長にわたって一定の厚さとなり、軽量化にも寄与する。
【0065】
○ 筒部材12を構成する繊維束Rのうち、少なくとも最内層に配列されるヘリカル巻層を構成する繊維束Rが同一層内において互いに平行に配列され、他の層は互いに平行に配列されていなくてもよい。例えば、最内層のヘリカル巻層のみ全周一斉に繊維束Rを配列し、他の層は1〜3本の繊維束の巻付けにより構成してもよい。
【0066】
○ 筒部材12を構成する繊維束Rのうち、少なくとも最内層に配列されるヘリカル巻層を構成する繊維束Rが同一層内において互いに平行に配列されず、他の層は互いに平行に配列されていてもよい。例えば、最内層のヘリカル巻層のみ1〜3本の繊維束の巻付けにより構成し、他の層は全周一斉に繊維束Rを配列してもよい。
【0067】
○ 第2の端部部材14に取り付ける治具20の芯出しは、カバー部21の端部内面を、継手部14bの基端の段部に嵌合することにより行う構成に代えて、継手部14bの軸部が治具20の軸部22の内面と嵌合することで芯出しが行われる構成としてもよい。
【0068】
○ 治具20と端部部材13,14とを固定する方法は、上記実施の形態に限らない。例えば、第1の端部部材13を固定する方法として、カバー部21にヨークタイプの継手部13bに形成されている孔13dと対応する孔を形成する。そして、カバー部21が継手部13bの段部と嵌合した状態で、その孔及び孔13dが対応し、その状態で孔及び孔13dを貫通するようにピンを挿入して、治具20と第1の端部部材13とを固定してもよい。
【0069】
また、第2の端部部材14と治具20とを固定する場合、継手部14bのシャフト部にねじ穴14dを設けずに、第2の端部部材14と治具20とを固定する補助部材を使用する。補助部材は板材の両端が直角に折り曲げられて形成され、継手部14bのシャフト部の中間位置に形成された溝部に係止される係止部が一端に形成され、ボルト25の雄ねじ25aが螺合されるねじ孔が他端に形成されている。そして、係止部が前記溝部に係止されて第2の端部部材14に固定された状態で、ボルト25の雄ねじ25aがねじ孔に螺合されることにより第2の端部部材14と治具20とが固定される。
【0070】
○ セレーション16の歯の高さ、即ち溝の深さは1層分の繊維束の厚さとほぼ同じに限らず、最内層の繊維束の厚さの1/4層程度〜1層分あれば充分である。
【0071】
〇 第1及び第2の端部部材13,14の材質は金属に限らず、セラミックスでもよい。
○ 動力伝達用シャフトは、プロペラシャフト11用に限定されず、その他の動力伝達用シャフトに適用してもよい。
【0072】
○ 筒部材12の形状は全体を円筒状とするものに限定されず、両端部を円筒状とし、中間部を多角形筒状としてもよい。その場合、被巻付け部材15も対応する多角形筒状に形成される。
【0073】
○ 筒部材12の材料であるFRPは、強化繊維として炭素繊維を、マトリックス樹脂としてエポキシ樹脂を使用したものに限らない。例えば、強化繊維として、アラミド繊維、ガラス繊維等の一般に高弾性・高強度といわれるその他の繊維を採用したり、マトリックス樹脂として、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂等のその他の熱硬化性樹脂を採用してもよい。しかし、プロペラシャフト11の場合は、炭素繊維とエポキシ樹脂の組み合わせが強度やコストの点で好ましい。
【0074】
○ FRPのマトリックス樹脂が熱硬化性樹脂であることに限定されない。例えば紫外線硬化樹脂をマトリックス樹脂として使用してもよい。
以下の技術的思想(発明)は前記実施の形態から把握できる。
【0075】
(1) 請求項2に記載の発明において、前記繊維束のうちヘリカル巻で配列された繊維束は少なくとも一方の端部部材側の端部で折り返されるように配列されている。
【0076】
(2) 請求項1に記載の発明において、前記筒部材の強化繊維は炭素繊維のバイアス織りシートで構成されている。
(3) 請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の発明において、前記端部部材は金属製の継手である。
【0077】
【発明の効果】
以上、詳述したように、請求項1〜請求項5に記載の発明の動力伝達シャフトによれば、FRP製の筒部材の内面と端部部材の外周面との接合面におけるトルクの伝達が良好となり、シール材を設ける必要がない。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は第1の実施の形態のプロペラシャフトの一部破断側面図、(b)は(a)のA−A線における模式断面図。
【図2】模式分解斜視図。
【図3】治具が組み付けられた状態の一部破断模式断面図。
【図4】FW装置の巻付けヘッドの模式図。
【図5】樹脂含浸繊維の切断位置を示す模式断面図。
【図6】(a)は別の実施の形態の端部部材の斜視図、(b)は別の端部部材の側面図。
【図7】(a)別の実施の形態のプロペラシャフトの模式部分断面図、(b)は端部部材と筒部材との結合部分の模式部分断面図。
【図8】(a)は従来技術のプロペラシャフトの部分分解断面図、(b)はプロペラシャフトの断面図、(c)は(b)の部分拡大図。
【図9】(a),(b)は別の従来技術のプロペラシャフトの製法を示す模式斜視図。
【符号の説明】
R…繊維束、11…動力伝達シャフトとしてのプロペラシャフト、12…筒部材、12a…結合部分、13,14…端部部材、16…係止部としてのセレーション、18a,18c…ヘリカル巻層、36…係止部としてのピン、37…係止部としてのローレット。
Claims (5)
- 繊維強化プラスチック製の筒部材の両端に端部部材が結合された動力伝達シャフトであって、
前記端部部材は、前記筒部材との結合部分における外周面に係止部が形成され、前記外周面と前記筒部材の内面との間に隙間がない状態で前記筒部材と前記端部部材とが結合されている動力伝達シャフト。 - 前記筒部材の強化繊維は繊維束で構成され、前記係止部は規則的に配列された複数の凸部で構成され、最内層は前記繊維束が前記凸部に案内された状態で配列されて構成されている請求項1に記載の動力伝達シャフト。
- 前記筒部材のヘリカル巻層を構成する繊維束は、同一層内において交差するように配列されている請求項1又は請求項2に記載の動力伝達シャフト。
- 前記係止部は前記端部部材の軸方向に平行に延びるセレーションで構成され、前記筒部材の強化繊維は繊維束で構成され、最内層を構成する繊維束は少なくとも一部が前記セレーションにより切断されている請求項1に記載の動力伝達シャフト。
- 前記筒部材を構成する繊維束のうちヘリカル巻で配列された繊維束は同一層において互いに平行に配列されている請求項4に記載の動力伝達シャフト。
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JP2008195000A (ja) * | 2007-02-15 | 2008-08-28 | Murata Mach Ltd | フィラメントワインディング装置 |
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- 2003-03-27 JP JP2003089244A patent/JP2004293717A/ja active Pending
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