JP2004278711A - シリンダーヘッド用メタルガスケット - Google Patents
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Abstract
【解決手段】それぞれ金属板からなり、シリンダーブロックの各シリンダーボアに対応して形成されたシリンダー孔2aと、前記各シリンダー孔の周囲に形成された山形断面形状の環状ビード2bと、前記各環状ビードの外側周辺部に形成された冷却水孔2cと、前記環状ビードおよび前記冷却水孔を全体的に囲繞する位置に形成された片斜面形断面形状の外周ビード2dとを有し、互いに重ね合わされる二枚の基板2と、金属板からなり、前記二枚の基板間に介挿される副板3と、前記副板の少なくとも片面に加圧加熱接着されて、前記基板の前記各環状ビードと重なるとともにその環状ビードの頂部と対向するように前記環状ビードよりも半径方向内方の位置から半径方向外方の位置まで延在し、前記基板の前記各シリンダー孔を環状に囲むポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂層5と、を具えてなるシリンダーヘッド用メタルガスケットである。
【選択図】 図3
Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、内燃機関のシリンダーブロックとシリンダーヘッドとの間に介挿されるシリンダーヘッド用メタルガスケットに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
この種のメタルガスケットとしては、例えば、それぞれ金属板からなる二枚の基板と、それらの基板より薄い板厚の金属板からなり、それらの基板間に介挿される副板とを具え、前記各基板が、内燃機関のシリンダーブロックの各シリンダーボアに対応して形成されたシリンダー孔と、各シリンダー孔の周囲に形成された山形断面形状の環状ビードと、前記内燃機関のシリンダーブロックの冷却水ジャケットおよびシリンダーヘッドの冷却水孔に対応して前記各環状ビードの外側周辺部に形成された冷却水孔とを有し、前記副板が、基板と同様のシリンダー穴と冷却水穴とを有するメタルガスケットが知られており、かかるメタルガスケットにおいては、その副板に、基板の各シリンダー孔の周囲の環状ビードと重なるシリンダー孔周辺部をそれより外側の外方部よりも厚くする段差構造を設けて、基板の環状ビードの線圧を上昇させることで、シリンダー内の燃焼ガスに対するシール性能を向上させる場合がある。
【0003】
上記段差構造としては従来、例えば図12に示すように、それぞれ鋼板(SUS301H 0.2t 等)からなる二枚の基板2間に介挿される副板3を、基板2の各シリンダー孔2aの周囲の環状ビード2bと重なるシリンダー孔周辺部3aとそれより外側に位置する外方部3bとで互いに異なる板厚の薄鋼板(SUS 301H 0.2t, 0.3t 等)で構成して所要の段差になるようにし、それらシリンダー孔周辺部3aと外方部3bとをレーザー溶接で結合した段差構造S1が知られている(例えば、特許文献1参照)。なお、図中符号1はメタルガスケット、LWはレーザー溶接部を示す。
【0004】
また例えば図13に示すように、それぞれ鋼板からなる二枚の基板2間に介挿される単一板厚の薄鋼板(SUS 301H 0.1t 等)からなる副板3の、基板2の各シリンダー孔2aの周囲の環状ビード2bと重なるシリンダー孔周辺部3aにこれも薄鋼板(SUS 301H 0.1t 等)からなるシム板4を重ねて所要の段差になるようにし、それら副板3とシム板4とをレーザー溶接で結合した段差構造S2も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、例えば図14に示すように、それぞれ鋼板からなる二枚の基板2間に介挿される単一板厚の薄鋼板(SUS 301H 0.05t等)からなる副板3の、基板2の各シリンダー孔2aの周囲の環状ビード2bと重なるシリンダー孔周辺部3aに折り返し曲げ加工により折り重ね部3cを形成して所要の段差になるようにした段差構造S3も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
【特許文献1】
特開平7−243531号公報、第3図
【特許文献2】
特開平10−61772号公報
【特許文献3】
特開平8−121597号公報、第4図
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、最初に記した従来の段差構造S1では、所定のガスケット形状とするためのシリンダー孔周辺部3aと外方部3bとの位置合せが難しいため、ガスケット形状に求められている高い精度を満たすには専用の位置合せ治具と高精度のレーザー溶接装置が不可欠となり、ガスケットが高価なものになってしまうという問題があった。
【0008】
また二番目に記した従来の段差構造S2では、シム板4の板厚が段差量となり、工業的に流通している薄鋼板の板厚が現状では50μm (0.05mm) 区切りであるため、10μm (0.01mm) 単位での高精度な段差量の設定ができず、また100 μm 以下の薄板ではレーザー溶接による歪みや変形や浮きの発生で段差機能の確保が困難となり、しかも最初の段差構造と同様、専用の位置合せ治具と高精度のレーザー溶接装置が不可欠となり、ガスケットが高価なものになってしまうという問題があった。
【0009】
そして三番目に記した従来の段差構造S3では、単一板厚の薄鋼板を折り返し曲げ加工することから、その薄鋼板の板厚が段差量となるため、二番目の段差構造S2と同様、10μm (0.01mm) 単位での高精度な段差量の設定ができず、しかも折り返し曲げ加工は絞り加工を用いて行うため、折り重ね部3cの形状の自由度が低く、割れの発生なしに充分広い半径方向幅の折り重ね部3cを形成するのは、特に薄鋼板では困難であるという問題があった。
【0010】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】
この発明は上記課題を有利に解決して安価で段差量の制御の自由度の高い優れたメタルガスケットを提供することを目的とするものであり、請求項1記載のこの発明のシリンダーヘッド用メタルガスケットは、それぞれ金属板からなり、内燃機関のシリンダーブロックの各シリンダーボアに対応して形成されたシリンダー孔と、前記各シリンダー孔の周囲に形成された山形断面形状の環状ビードと、前記内燃機関のシリンダーブロックの冷却水ジャケットおよびシリンダーヘッドの冷却水孔に対応して前記各環状ビードの外側周辺部に形成された冷却水孔と、前記環状ビードおよび前記冷却水孔を全体的に囲繞する位置に形成された片斜面形断面形状の外周ビードとを有し、互いに重ね合わされる二枚の基板と、金属板からなり、前記二枚の基板間に介挿される副板と、前記副板の少なくとも片面に加圧加熱接着されて、前記基板の前記各環状ビードと重なるとともにその環状ビードの頂部と対向するように前記環状ビードよりも半径方向内方の位置から半径方向外方の位置まで延在し、前記基板の前記各シリンダー孔を環状に囲むポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂層と、を具えてなるものである。
【0011】
かかるシリンダーヘッド用メタルガスケットによれば、二枚の基板間に介挿される副板の少なくとも片面に加圧加熱接着されたポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂層が、基板の各環状ビードと重なるとともにその環状ビードの頂部と対向するようにその環状ビードよりも半径方向内方の位置から半径方向外方の位置まで延在し、基板の各シリンダー孔を環状に囲んで段差構造を構成するので、二枚の基板の環状ビードの頂部に加わる線圧が高くなって、シリンダーボア内の燃焼ガス圧に対し高いシール性能を発揮することができる。しかもこのメタルガスケットによれば、樹脂層が、他の樹脂と比較して高い耐熱性を持つポリイミド樹脂フィルムからなるので、特に高熱にさらされるシリンダー孔周りの環状ビードのための段差構造として高いシール性能を維持することができ、またポリイミド樹脂フィルムは一般に高い厚さ精度を持つとともにその厚さの調節も容易であるので、環状ビードと外周ビードとの締付力のバランスを最適にする段差量を容易に得ることができる。
【0012】
なお、この発明のメタルガスケットにおいては、請求項2に記載のように、前記副板に、前記基板の前記環状ビードと重なるとともに頂部同士が対向するように山形断面形状の環状ビードが形成されていてもよく、このようにすれば、環状ビードが三段に重なるので、より高いシール性能を得ることができる。
【0013】
また、請求項3記載のこの発明のメタルガスケットは、それぞれ金属板からなり、内燃機関のシリンダーブロックの各シリンダーボアに対応して形成されたシリンダー孔と、前記各シリンダー孔の周囲に形成された山形断面形状の環状ビードと、前記内燃機関のシリンダーブロックの冷却水ジャケットおよびシリンダーヘッドの冷却水孔に対応して前記各環状ビードの外側周辺部に形成された冷却水孔と、前記環状ビードおよび前記冷却水孔を全体的に囲繞する位置に形成された片斜面形断面形状の外周ビードとを有し、互いに重ね合わされる二枚の基板と、前記二枚の基板の一方もしくは両方の、他方の基板に向く面に加圧加熱接着されて、前記基板の前記各環状ビードと重なるとともにその環状ビードの頂部と対向するように前記環状ビードよりも半径方向内方の位置から半径方向外方の位置まで延在し、前記基板の前記各シリンダー孔を環状に囲むポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂層と、を具えてなるものである。
【0014】
このシリンダーヘッド用メタルガスケットによれば、二枚の基板の一方もしくは両方の、他方の基板に向く面に加圧加熱接着されたポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂層が、基板の各環状ビードと重なるとともにその環状ビードの頂部と対向するようにその環状ビードよりも半径方向内方の位置から半径方向外方の位置まで延在し、基板の各シリンダー孔を環状に囲んで段差構造を構成するので、二枚構成のメタルガスケットでも、二枚の基板の環状ビードの頂部に加わる線圧が高くなって、シリンダーボア内の燃焼ガス圧に対し高いシール性能を発揮することができる。しかもこのメタルガスケットによれば、樹脂層が、他の樹脂と比較して高い耐熱性を持つポリイミド樹脂フィルムからなるので、特に高熱にさらされるシリンダー孔周りの環状ビードのための段差構造として高いシール性能を維持することができ、またポリイミド樹脂フィルムは一般に高い厚さ精度を持つとともにその厚さの調節も容易であるので、環状ビードと外周ビードとの締付力のバランスを最適にする段差量を容易に得ることができる。
【0015】
この発明におけるポリイミド樹脂フィルムとしては熱融着性ポリイミドフィルムが好適であり、この熱融着性ポリイミドフィルムは、表裏層が対称形のもの、すなわち単一層の熱融着性ポリイミドフィルムあるいは三層構造〔熱融着性ポリイミド層/高耐熱性ポリイミド層/熱融着性ポリイミド層〕の熱融着性ポリイミドフィルム、好適には三層構造の熱融着性ポリイミドフィルムである。表裏層が非対称形の熱融着性ポリイミドフィルムでは、カールするため取り扱いが困難だからである。
【0016】
単一層の熱融着性ポリイミドフィルムは、熱融着性ポリイミドを与えるポリイミド前駆体(ポリアミック酸ともいう)溶液から流延製膜法によって得ることができる。また、三層構造の熱融着性多層ポリイミドフィルムは、例えば中心層を構成する高耐熱性ポリイミドを与えるポリイミド前駆体溶液を供給するとともにその両側から熱融着性ポリイミドを与えるポリイミド前駆体溶液を供給する共押出し−流延製膜法によって得ることができる。
【0017】
前記熱融着性ポリイミドとしては、300 〜400 ℃程度の温度で熱圧着できる熱可塑性ポリイミドであれば何でも良い。好適には1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(以下、「TPER」と略記することもある)と2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、「a−BPDA」と略記することもある)とから、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)およびピロメリット酸二無水物と1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンとから、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンと3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物とから、あるいは3,3’−ジアミノベンゾフェノンおよび1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンと3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物とから製造されるポリイミドが挙げられる。
【0018】
また前記高耐熱性ポリイミドとしては、高耐熱性のポリイミドであれば何でも良い。好適には3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、「s−BPDA」と略記することもある)および/またはピロメリット酸二無水物(以下、「PMDA」と略記することもある)からなる芳香族テトラカルボン酸成分とパラフェニレンジアミン(以下単に「PPD」と略記することもある)と場合によりさらに4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(以下、「DADE」と略記することもある)からなる芳香族ジアミン成分とから製造されるポリイミドが挙げられる。
【0019】
前記ポリイミド前駆体の製造に使用する有機媒体としては、熱融着性ポリイミドおよび高耐熱性ポリイミドの何れに対しても、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチルカプロラクタム、クレゾール類等が挙げられる。これらの有機溶媒は単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0020】
前記流延製膜法においては、例えば熱融着性ポリイミド前駆体の溶液を押出して、これをステンレス鏡面やベルト面等の支持体面上に流延塗布し、1OO 〜300℃で半硬化状態またはそれ以前の乾燥状態とすることが好ましい。この半硬化状態またはそれ以前の状態とは、加熱および/または化学イミド化によって自己支持性の状態にあることを意味する。また、前記共押出しは、共押出法によって三層の押出し成形用ダイスに各ポリイミド前駆体溶液を供給し、支持体上にキャストすることで行うことができる。
【0021】
前記押出し、乾燥によってフィルム状物を形成し、このフィルム状物を、熱融着性ポリイミドのガラス転移温度(Tg)以上で劣化が生ずる温度以下の温度、好適には300 〜400 ℃の温度(表面温度計で測定した温度)まで加熱して(好適にはこの温度で1〜60分間加熱して)乾燥およびイミド化させることで、熱融着性(多層)ポリイミドフィルムを得ることができる。
【0022】
前記熱融着性ポリイミドは、前記酸成分とジアミン成分とを使用することによって、ガラス転移温度が180 〜275 ℃、特に200 〜275 ℃であって、好適には前記条件で乾燥およびイミド化させて熱融着性(多層)ポリイミドのゲル化を実質的に起こさせないことによって得られる、ガラス転移温度以上で300 ℃以下の範囲内の温度で液状化せず、かつ未延伸の弾性率として、通常275 ℃での弾性率が室温付近の温度(50℃)での弾性率の0.0002〜0.5 倍程度である弾性率を保持しているものが好ましい。この発明における熱融着性ポリイミドフィルムは、厚さが7〜125 μm 、特に7〜50μm であることが好ましい。7μm 未満では作成したフィルムの取扱いが難しく、125 μm より厚くても特に効果はなく製造が容易でないからである。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下に、この発明の実施の形態を実施例によって、図面に基づき詳細に説明する。ここに、図1は、この発明のシリンダーヘッド用メタルガスケットの第1実施例の全体を示す平面図、図2は、図1のA−A線に沿う断面図、図3(a)〜(c)は、上記第1実施例のメタルガスケットの副板に樹脂層を設ける方法を示す説明図であり、図中先の図12〜図14に示すと同様の部分はそれと同一の符号にて示す。すなわち、符号1はメタルガスケット、2は基板、3は副板をそれぞれ示す。
【0024】
上記第1実施例のシリンダーヘッド用メタルガスケット1は、それぞれ外側面(シリンダーブロックおよびシリンダーヘッドに対向する面)のみ厚さ25μm のNBRからなるラバー層のラバーコートを施された鋼板(SUS 301H 0.2t)からなり互いに重ね合わされる二枚の基板2と、それらの基板2間に介挿されるラバーコートなしの鋼板(SUS 301H 0.2t)からなる副板3とを具えている。
【0025】
ここにおける二枚の基板2はそれぞれ、図1に示すように、内燃機関のシリンダーブロックの複数のシリンダーボアにそれぞれ対応して形成された複数のシリンダー孔2aと、各シリンダー孔2aの周囲に形成された山形断面形状(いわゆるフルビード形状)の環状ビード2bと、上記内燃機関のシリンダーブロックの冷却水ジャケットおよびシリンダーヘッドの冷却水孔に対応して各環状ビード2bの外側周辺部に形成された複数の冷却水孔2cと、複数の環状ビード2bおよびそれらの周囲に位置する複数の冷却水孔2cを全体的に囲繞する位置に形成された片斜面形断面形状(いわゆるハーフビード形状)の外周ビード2dとを有している。
【0026】
またここにおける副板3は、図3(a)に示すように、上記基板2の各シリンダー孔2aに対応するシリンダー孔3dと、上記基板2の冷却水孔2cのうちの幾つかに対応する冷却水孔3eとを有している。
【0027】
この第1実施例のシリンダーヘッド用メタルガスケット1はさらに、図2に示すように、副板3の片面(図では上側の面)上に厚さ50μm の樹脂層5を具えており、この樹脂層5は、図3(b)に示す如く副板のシリンダー孔3dの周辺部の平面形状に対応する平面形状に切り抜いた厚さ50μm のポリイミド樹脂フィルム(例えば、宇部興産社製の三層構造熱融着性ポリイミドフィルム、商品名「ユーピレックスVT」)6を副板3の片面上に加圧加熱接着することで形成されたもので、副板3とともに二枚の基板2間に介挿されると、基板2の各環状ビード2bと重なるとともに、その環状ビード2bの頂部と対向するように環状ビード2bよりも半径方向内方の位置から半径方向外方の位置まで延在し、副板3の各シリンダー孔3dひいてはそれが対応する基板2の各シリンダー孔2aを環状に囲むものである。
【0028】
かかる第1実施例のメタルガスケット1によれば、二枚の基板2間に介挿される副板3の片面に加圧加熱接着されたポリイミド樹脂フィルム6からなる樹脂層5が、基板2の各環状ビード2bと重なるとともにその環状ビード2bの頂部と対向するようにその環状ビード2bよりも半径方向内方の位置から半径方向外方の位置まで延在し、基板2の各シリンダー孔2aを環状に囲んで段差量50μm の段差構造S4を構成するので、二枚の基板2の環状ビード2bの頂部に加わる線圧が高くなって、後述の如く、シリンダーボア内のガス圧に対し高いシール性能を発揮することができる。
【0029】
しかもこの第1実施例のメタルガスケット1によれば、樹脂層5が、他の樹脂と比較して高い耐熱性(高温下での強度)を持つポリイミド樹脂フィルム6からなるので、後述の如く、特に高熱にさらされるシリンダー孔2a周りの環状ビード2bのための段差構造として高いシール性能を維持することができ、またポリイミド樹脂フィルム6は一般に高い厚さ精度を持つとともにその厚さの調節も容易であるので、環状ビード2bと外周ビード2dとの締付力のバランスを最適にする段差量を容易に得ることができる。
【0030】
さらにこの第1実施例のメタルガスケット1によれば、二枚の基板2がそれぞれ鋼板の外側面をラバー層で被覆するラバーコートを施されているので、それらのラバー層がシリンダーブロックおよびシリンダーヘッドのデッキ面の微細な傷や加工痕を埋めてミクロシールの機能を果たすことで、シール性能を高めることができる。
【0031】
図4は、この発明のシリンダーヘッド用メタルガスケットの第2実施例の、図1と同様の位置での断面図であり、この第2実施例のメタルガスケット1は、副板3の両面上に厚さ25μm のポリイミド樹脂フィルム6を加圧加熱接着することで副板3の両面上にそれぞれ厚さ25μm の樹脂層5を具えて段差量50μm の段差構造S5を構成している点のみが先の第1実施例と異なっており、それ以外は第1実施例と同一の構成とされている。この第2実施例によっても、先の第1実施例と同様の作用効果を得ることができる。
【0032】
なお、平坦な副板3の片面上に樹脂層5を具える第1実施例と同様の構成で、樹脂層5の厚さをそれぞれ75μm および100 μm としたものをこの発明のシリンダーヘッド用メタルガスケットの第3実施例および第4実施例とする。これら第3および第4実施例によれば段差量が75μm および100 μm と大きくなるので、後述の如く、先の実施例よりも高いシール性能を発揮することができる。
【0033】
図5は、この発明のシリンダーヘッド用メタルガスケットの第5実施例の、図1と同様の位置での断面図であり、この第5実施例のメタルガスケット1は、副板3に、基板2の環状ビード2bと重なるとともに下側の基板2の環状ビード2bと頂部同士が対向するように山形断面形状の環状ビード3fが形成されていて、その副板3の片面(環状ビード3fの突出側の面)上に厚さ50μm のポリイミド樹脂フィルム6を加圧加熱接着することで副板3の片面上に厚さ50μm の樹脂層5を具えて、段差量50μm の段差構造S6を構成する点のみが先の第1実施例と異なっており、それ以外は第1実施例と同一の構成とされている。この第5実施例によれば環状ビード2b,3fが三段に重なるので、後述の如く、先の第1実施例よりも高いシール性能を得ることができる。
【0034】
図6は、この発明のシリンダーヘッド用メタルガスケットの第6実施例の、図1と同様の位置での断面図であり、この第6実施例のメタルガスケット1は、副板3に、基板2の環状ビード2bと重なるとともに下側の基板2の環状ビード2bと頂部同士が対向するように山形断面形状の環状ビード3fが形成されていて、その副板3の両面上にそれぞれ厚さ25μm のポリイミド樹脂フィルム6を加圧加熱接着することで副板3の両面上にそれぞれ厚さ25μm の樹脂層5を具えて、段差量50μm の段差構造S7を構成する点のみが先の第2実施例と異なっており、それ以外は第2実施例と同一の構成とされている。この第6実施例によれば、環状ビード2b,3fが三段に重なるので、後述の如く、先の第2実施例よりも高いシール性能を得ることができる。
【0035】
図7は、この発明のシリンダーヘッド用メタルガスケットの第7実施例の、図1と同様の位置での断面図であり、この第7実施例のメタルガスケット1は、二枚の基板2の間に副板3を具えていないが、各基板2自体は先の実施例と同様のものである。そしてこの実施例では、片側(図では上側)の基板2の、他方の基板(図では下側の基板)2に向く面(内側面)上に厚さ50μm の樹脂層5を具えており、この樹脂層5は、基板2のシリンダー孔2aの周辺部の平面形状に対応する平面形状に切り抜いた厚さ50μm のポリイミド樹脂フィルム6を基板2の片面(環状ビード2bの突出側の面)上に加圧加熱接着することで形成されたもので、二枚の基板2が重ね合わされると、他方の基板2の各環状ビード2bと重なるとともにその環状ビード2bの頂部と対向するように環状ビード2bよりも半径方向内方の位置から半径方向外方の位置まで延在し、基板2の各シリンダー孔2aを環状に囲んで段差量50μm の段差構造S8を構成するものである。
【0036】
かかる第7実施例のメタルガスケット1によれば、副板3がないのでガスケットを安価に製造でき、しかも後述の如く、先の第1実施例と概ね同等のシール性能を得ることができる。
【0037】
図8は、この発明のシリンダーヘッド用メタルガスケットの第8実施例の、図1と同様の位置での断面図であり、この第8実施例のメタルガスケット1は、二枚の基板2の間に副板3を具えていないが、各基板2自体は先の実施例と同様のものである。そしてこの実施例では、両方の基板2の他方の基板2に向く面(内側面)上に厚さ25μm の樹脂層5を具えており、この樹脂層5は、基板2のシリンダー孔2aの周辺部の平面形状に対応する平面形状に切り抜いた厚さ25μm のポリイミド樹脂フィルム6を二枚の基板2のそれぞれの片面(環状ビード2bの突出側の面)上に加圧加熱接着することで形成されたもので、二枚の基板2が重ね合わされると、他方の基板2の各環状ビード2bと重なるとともにその環状ビード2bの頂部と対向するように環状ビード2bよりも半径方向内方の位置から半径方向外方の位置まで延在し、基板2の各シリンダー孔2aを環状に囲んで段差量50μm の段差構造S9を構成するものである。
【0038】
かかる第8実施例のメタルガスケット1によれば、副板3がないのでガスケットを安価に製造でき、しかも後述の如く、先の第2実施例と概ね同等のシール性能を得ることができる。
【0039】
以下の表1は、上記第1実施例〜第8実施例のメタルガスケットおよび、第1実施例から樹脂層5を除いた比較例のメタルガスケットについて、構成およびシール性能を対比して示すものであり、ここにおけるシール性能は、図9に示すように上記各メタルガスケット1を自動車用エンジンのシリンダーブロックSBとシリンダーヘッドSHとの間に装着してヘッドボルトHBを規定軸力(34.4kN/本)にて締付け、シリンダーボア内のピストンと燃焼室のバルブとを密閉処理した供試体につき、オーブン中で熱劣化温度200 ℃、劣化時間400 時間の熱劣化試験を行い、その熱劣化試験の前の初期と熱劣化後とに室温雰囲気中で点火プラグ孔からシリンダーボア内にエアーを注入してシリンダーボア内を加圧して限界シール圧力を測定した結果を示すものである。また図10は、上記第1,第2,第4実施例および上記比較例についての初期シール性能を対比して示す説明図である。
【0040】
【表1】
これら表1および図10からも、上記各実施例のメタルガスケットのシール性能および耐熱性能が比較例と比べて大幅に高いことが判る。
【0041】
図11は、上記第1実施例と、上記比較例と同一の比較例1と、上記第1実施例と同一構造で樹脂層5の材質のみ異なる比較例2〜4とについての、熱劣化温度200 ℃、劣化時間400 時間の熱劣化後のシール性能を対比して示す説明図である。この図11から、ポリイミド樹脂フィルム6を樹脂層5に用いた上記実施例のメタルガスケットは、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを樹脂層5に用いた比較例2や、ナイロンフィルムを樹脂層5に用いた比較例3や、フェノールフィルムを樹脂層5に用いた比較例4と比較して、耐熱性能が大幅に高いことが判る。
【0042】
以上、図示例に基づき説明したが、この発明は上述の例に限定されるものでなく、例えば、基板2や副板3の、樹脂層5を設けられる面は、ラバーコートを施されていても良い。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明のシリンダーヘッド用メタルガスケットの第1実施例の全体を示す平面図である。
【図2】上記第1実施例のメタルガスケットの、図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】(a)〜(c)は、上記第1実施例のメタルガスケットの副板に樹脂層を設ける方法を示す説明図である。
【図4】この発明のシリンダーヘッド用メタルガスケットの第2実施例の、図1と同様の位置での断面図である。
【図5】この発明のシリンダーヘッド用メタルガスケットの第5実施例の、図1と同様の位置での断面図である。
【図6】この発明のシリンダーヘッド用メタルガスケットの第6実施例の、図1と同様の位置での断面図である。
【図7】この発明のシリンダーヘッド用メタルガスケットの第7実施例の、図1と同様の位置での断面図である。
【図8】この発明のシリンダーヘッド用メタルガスケットの第8実施例の、図1と同様の位置での断面図である。
【図9】上記実施例および比較例のメタルガスケット1の限界シール圧力の測定方法を示す説明図である。
【図10】この発明の実施例および比較例についての初期シール性能を対比して示す説明図である。
【図11】この発明の実施例および樹脂層の材質が異なる比較例についての熱劣化後シール性能を対比して示す説明図である。
【図12】従来のシリンダーヘッド用メタルガスケットの段差構造の一例を示す、図1と同様の位置での断面図である。
【図13】従来のシリンダーヘッド用メタルガスケットの段差構造の他の一例を示す、図1と同様の位置での断面図である。
【図14】従来のシリンダーヘッド用メタルガスケットの段差構造のさらに他の一例を示す、図1と同様の位置での断面図である。
【符号の説明】
1 メタルガスケット
2 基板
2a, 3d シリンダー孔
2b, 3f 環状ビード
2c, 3e 冷却水孔
2d 外周ビード
3 副板
3a シリンダー孔周辺部
3b 外方部
3c 折り重ね部
4 シム板
5 樹脂層
HB ヘッドボルト
LW レーザー溶接部
S1〜S9 段差構造
SB シリンダーブロック
SH シリンダーヘッド
Claims (3)
- それぞれ金属板からなり、内燃機関のシリンダーブロックの各シリンダーボアに対応して形成されたシリンダー孔(2a)と、前記各シリンダー孔の周囲に形成された山形断面形状の環状ビード(2b)と、前記内燃機関のシリンダーブロックの冷却水ジャケットおよびシリンダーヘッドの冷却水孔に対応して前記各環状ビードの外側周辺部に形成された冷却水孔(2c)と、前記環状ビードおよび前記冷却水孔を全体的に囲繞する位置に形成された片斜面形断面形状の外周ビード(2d)とを有し、互いに重ね合わされる二枚の基板(2)と、
金属板からなり、前記二枚の基板間に介挿される副板(3)と、
前記副板の少なくとも片面に加圧加熱接着されて、前記基板の前記各環状ビードと重なるとともにその環状ビードの頂部と対向するように前記環状ビードよりも半径方向内方の位置から半径方向外方の位置まで延在し、前記基板の前記各シリンダー孔を環状に囲むポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂層(5)と、
を具えてなる、シリンダーヘッド用メタルガスケット。 - 前記副板には、前記基板の前記環状ビードと重なるとともに頂部同士が対向するように山形断面形状の環状ビードが形成されていることを特徴とする、請求項1記載のシリンダーヘッド用メタルガスケット。
- それぞれ金属板からなり、内燃機関のシリンダーブロックの各シリンダーボアに対応して形成されたシリンダー孔(2a)と、前記各シリンダー孔の周囲に形成された山形断面形状の環状ビード(2b)と、前記内燃機関のシリンダーブロックの冷却水ジャケットおよびシリンダーヘッドの冷却水孔に対応して前記各環状ビードの外側周辺部に形成された冷却水孔(2c)と、前記環状ビードおよび前記冷却水孔を全体的に囲繞する位置に形成された片斜面形断面形状の外周ビード(2d)とを有し、互いに重ね合わされる二枚の基板(2)と、
前記二枚の基板の一方もしくは両方の、他方の基板に向く面に加圧加熱接着されて、前記基板の前記各環状ビードと重なるとともにその環状ビードの頂部と対向するように前記環状ビードよりも半径方向内方の位置から半径方向外方の位置まで延在し、前記基板の前記各シリンダー孔を環状に囲むポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂層(5)と、
を具えてなる、シリンダーヘッド用メタルガスケット。
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-
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- 2003-03-17 JP JP2003072553A patent/JP2004278711A/ja active Pending
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