JP2004277255A - タンパク質の結晶化方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】高純度のタンパク質結晶が短時間で得られるような工業生産に適したタンパク質の結晶化方法を提供するものである。
【解決手段】非晶質タンパク質を含むタンパク質2と前記タンパク質2の飽和溶解度に対応する量より少ない量の溶媒3とを混在させる溶媒混在工程と、前記タンパク質2を静置する静置工程と、前記タンパク質2に刺激を与える刺激付与工程とを含む。
【選択図】 図3
【解決手段】非晶質タンパク質を含むタンパク質2と前記タンパク質2の飽和溶解度に対応する量より少ない量の溶媒3とを混在させる溶媒混在工程と、前記タンパク質2を静置する静置工程と、前記タンパク質2に刺激を与える刺激付与工程とを含む。
【選択図】 図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、非晶質タンパク質から高純度のタンパク質結晶を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
タンパク質は、食料品や医薬品の原料などとして利用されることから、高純度のタンパク質結晶を多量に工業生産できることが望まれてきた。また、構造解析の分野などからもタンパク質の結晶化が望まれてきた。
【0003】
しかし、タンパク質は高分子であることから、結晶を得にくいという問題がある。このため、従来からタンパク質の結晶を得る方法として種々の方法が提案されてきている。そして、これらの方法の多くは、タンパク質を溶媒に溶かし、これを過飽和状態にして結晶を形成する方法であり、その代表的なものとしては、蒸気拡散法と沈殿法がある。
【0004】
蒸気拡散法は、タンパク質溶液と沈殿剤とを同一の容器に入れ、この沈殿剤に蒸気となった溶液を拡散させ、タンパク質の溶解度を減少させる。そして、この溶液の拡散とともに溶液が濃縮され、タンパク質の結晶が成長するという方法である(平沢泉、他 月刊化学工業 (2001) Vol.52,No.2 140−144参照)(非特許文献1)。
【0005】
また、沈殿法は、タンパク質溶液と沈殿剤溶液を混合した後、タンパク質と沈殿剤を攪拌などにより均一分布させ、タンパク質を過飽和状態にする。そして、そこからタンパク質の結晶を成長させるという方法である。
【0006】
そして、特開平6−256386号公報(特許文献1)には、この従来の沈殿法を改良した方法が開示されている。
【0007】
この方法を図5に基づいて説明する。まず、容器1をタンパク質2と沈殿剤4を含む水溶液3で満たす。これに脱水状態の高吸水性高分子物質5を投入して、水を高吸水性高分子物質5に吸収させ、水溶液中のタンパク質濃度を増大させて過飽和状態を作製する。次に、容器1を図示しない蓋で密閉して、所定の温度に保つことにより、タンパク質の結晶を形成させるものである。
【0008】
そして、この方法によれば、従来の沈殿法では通常結晶作製までに数日から1年を要していたものを1週間程度に短縮できるというものである。
【0009】
【特許文献1】
特開平6−256386号公報
【非特許文献1】
平沢泉、他 月刊化学工業 (2001) Vol.52,No.2 140−144
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上記蒸気拡散法は、過飽和度の生成速度をもっとも安定して低い値で制御できることから、タンパク質の結晶化方法として多く採用されていると考えられるが、この方法では、結晶化までに数週間を要し、結晶を得るには適しているものの、工業生産には向いていないという課題がある。
【0011】
また、特開平6−256386号公報に記載されている沈殿法では、高吸水性高分子物質により過飽和状態を早期に実現できるが、それでも結晶が得られるまで1週間程度かかり、工業生産を考えた場合には、まだ十分とはいえない。
【0012】
さらに、これら蒸気拡散法や沈殿法では、沈殿剤を用いているので、沈殿剤が不純物となり、これによりタンパク質結晶の純度が低下するという課題もある。
【0013】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、高純度のタンパク質結晶が短時間で得られるような工業生産に適したタンパク質の結晶化方法を提供するものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
請求項1のタンパク質の結晶化方法は、非晶質タンパク質を含むタンパク質と前記タンパク質の飽和溶解度に対応する量より少ない量の溶媒とを混在させる溶媒混在工程と、前記タンパク質を静置する静置工程と、前記タンパク質に刺激を与える刺激付与工程とを含むことを特徴とするものである。
【0015】
請求項1の発明によれば、溶媒の量はタンパク質の飽和溶解度に対応する量より少ないので、タンパク質の一部が溶媒中に残存し、静置後のタンパク質に刺激を与えることにより結晶を形成させることができる。そして、これにより沈殿剤が不要となり、高純度のタンパク質結晶が短時間で得られ、工業生産に適したものとなる。
【0016】
請求項2のタンパク質の結晶化方法は、請求項1において、前記静置工程における静置時間が、2時間以上50時間以下であることを特徴とするものである。
【0017】
請求項2の発明によれば、タンパク質を所定時間静置することで、結晶が形成されやすくなる。そして、これにより沈殿剤が不要となり、高純度のタンパク質結晶が短時間で得られ、工業生産に適したものとなる。
【0018】
請求項3のタンパク質の結晶化方法は、請求項1または2において、前記刺激付与工程おける刺激を与える時間が、1時間以上10時間以下であることを特徴とするものである。
【0019】
請求項3の発明によれば、タンパク質に所定時間刺激を与えることで、結晶が形成される。そして、これにより沈殿剤が不要となり、高純度のタンパク質結晶が短時間で得られ、工業生産に適したものとなる。
【0020】
請求項4のタンパク質の結晶化方法は、請求項1〜3のいずれか1項において、前記刺激付与工程おける刺激が、溶媒の攪拌であることを特徴するものである。
【0021】
請求項4の発明によれば、溶媒を攪拌することにより、適度な刺激をタンパク質に与えることができるので、結晶が形成されやすくなる。そして、これにより沈殿剤が不要となり、高純度のタンパク質結晶が短時間で得られ、工業生産に適したものとなる。
【0022】
請求項5のタンパク質の結晶化方法は、請求項4において、前記刺激付与工程おいて、溶媒の上部を攪拌することを特徴するものである。
【0023】
請求項5の発明によれば、溶媒の上部を攪拌することにより、よりソフトな刺激をタンパク質に与えることができ、より結晶が形成されやすくなる。そして、これにより沈殿剤が不要となり、高純度のタンパク質結晶が短時間で得られ、工業生産に適したものとなる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0025】
まず、溶媒混在工程では、非晶質タンパク質を含むタンパク質を容器に入れ、これにタンパク質を溶解することができる溶媒を加え、溶媒とタンパク質を混在させる。このとき、溶媒の量は、タンパク質の飽和溶解度に対応する量より少ない量とする。よって、このタンパク質の量は、溶媒の飽和溶解度に対応する量より多い量となる。これにより、タンパク質は徐々に溶媒に溶けはじめるが、タンパク質の量が溶媒の飽和溶解度に対応する量より多いので、タンパク質の一部は溶媒中に存在するようになる。
【0026】
この段階で溶媒は、徐々に溶液化してくるので、ここでいう溶媒とは、通常の意味の溶媒の他、タンパク質が溶媒に溶け、溶液となっている状態も含むものである。これは、静置工程および刺激付与工程の溶媒についても同様である。
【0027】
また、溶媒混在工程は、通常、容器内のタンパク質に溶媒を加えることによりおこなわれるが、溶媒にタンパク質を投入するものであってもかまわない。
【0028】
さらに、溶媒の量は、後述するように、刺激付与工程において、溶媒を攪拌することによりタンパク質に刺激を与える場合には、溶解しないで残存するタンパク質を溶媒が覆う程度の量とするのが好ましい。
【0029】
この状態を図1に示す。1は容器、2は非晶質タンパク質を含むタンパク質、3は溶媒である。
【0030】
容器1の材質は、特に限定されるものではなく、溶媒やタンパク質と反応しないものであれば良く、例えばガラス製の容器を用いることができる。
【0031】
タンパク質2は、通常、そのほぼ全部が非晶質なタンパク質を用いるが、特にこれに限定されるものではなく、結晶質のタンパク質が混在していても良い。特に、結晶質のタンパク質が混在していると、それが核となりタンパク質の結晶を得やすくなる場合がある。
【0032】
また、タンパク質の種類は、特に限定されるものではなく、例えば、リゾチーム、アルブミン、トリプシン、パパインなどを用いることができる。
【0033】
また、非晶質タンパク質が得られた製造方法は特に限定されるものではなく、例えば、造粒乾燥法などで得られたタンパク質を用いることができる。
【0034】
溶媒3は、タンパク質2を溶解することができるものであれば特に限定されるものではなく、水、エタノールなどの極性溶媒を用いることができる。
【0035】
次の静置工程では、タンパク質2に溶媒3を加えたら、この状態でタンパク質2を静置する。
【0036】
静置している段階で、タンパク質2の一部は溶媒3に溶け、残りは溶媒3中に分散されるようになる。この状態を図2に示す。図2では、塊であったタンパク質2が溶媒3中に分散されている状態を示している。
【0037】
このようにタンパク質2の一部が溶媒3中に残存するようにすることで、溶解したタンパク質が非晶質タンパク質の溶解度に近い濃度として維持され、これにより残存したタンパク質2からゆっくり結晶として配列していく環境を作り出している。
【0038】
タンパク質2を静置する時間は特に限定されないが、2時間以上静置するのが好ましい。静置する時間が2時間未満であると、結晶の形成が見られなかったり、結晶の粒径が小さいものであったりするからである。また、長時間静置することにより形成される結晶は大きくなるが、刺激や結晶同士がぶつかり結晶の破損が生じやすくなるので、50時間以下が好ましい。特に好ましいのは、3時間以上30時間以下である。
【0039】
なお、タンパク質の結晶を得るための静置時間は、後述するように刺激付与時間にも関係してくるが、静置時間が短い場合は結晶の粒径は小さく、長い場合は結晶の粒径は大きくなる。
【0040】
次の刺激付与工程では、静置後のタンパク質に刺激を与える。
【0041】
この刺激を与える方法としては、直接、間接を問わず、何らかの方法で静置後のタンパク質2に刺激を与えることができれば良く、例えば、溶媒3を攪拌することによりタンパク質2を刺激したり、溶媒3や容器1を殴打することによりタンパク質2を刺激したり、超音波や、可視光、赤外線、紫外線、エックス線、ガンマ線、中性子線などの電磁波をタンパク質2に与えることによりタンパク質2を刺激したりすることができる。
【0042】
このうち、静置後の溶媒3を攪拌することによりタンパク質2に刺激を与える方法が、刺激をコントロールしやすく、適度な刺激を与えることができることから好ましい。特に、静置後に生じる溶媒3の上部を攪拌することが、ソフトな刺激をタンパク質2に与えるので好ましい。
【0043】
この状態を図3に示す。6はプロペラ、7はプロペラシャフトである。このプロペラシャフト7は、図示しないモーターに接続されており、このモーターによりプロペラシャフト7を回転させるようになっている。そして、このプロペラ6が溶媒3中で回転することにより、溶媒3および残存するタンパク質2を攪拌し、タンパク質2に刺激を与えることになる。この場合、溶媒3の上部を攪拌することにより、タンパク質2がプロペラ6にぶつかって破損することを少なくできるので好ましい。
【0044】
このように溶媒3または溶媒3の上部を攪拌すると、タンパク質2と溶媒3が混合され、懸濁液となり、適度な刺激をタンパク質に与えることができ、これにより結晶が形成されてくる。
【0045】
攪拌におけるプロペラ6の回転数は、特に限定されるものではないが、0.5rpm以上100rpm以下が好ましい。これは、0.5rpm未満では、回転が遅すぎて結晶が形成しにくく、100rpmを超えると回転が速すぎ結晶がプロペラ6にぶつかったり、結晶同士がぶつかったりして、結晶の破損が生じることがあるからである。特に好ましい回転数は、20rpm以上70rpm以下である。
【0046】
また、刺激を与える時間は特に限定されないが、1時間以上10時間以下が好ましい。刺激を与える時間が1時間未満であると、結晶の形成が少ないからである。また、10時間を超えると刺激や結晶同士がぶつかることにより結晶の破損が生じやすくなるからである。特に好ましいのは、2時間以上7時間以下である。
【0047】
また、この刺激を与える時間は、タンパク質2を静置する時間と関係してくる。この関係を図4に示す。図4において、横軸は結晶の粒径(l)であり、右へいくほど粒径が大きく、左へいくほど粒径は小さくなる。また、右縦軸は静置時間(θs)であり、左縦軸は刺激付与時間(θa)である。
【0048】
図4からわかるように、タンパク質の結晶を得るためには、静置時間(θs)が長くなると刺激付与時間(θa)が短くて済み、静置時間(θs)が短くなると刺激付与時間(θa)を長くする必要がある。そして、得られる結晶は、静置時間(θs)が長い方が粒径の大きいものとなる。
【0049】
これは、静置の間にタンパク質2の非晶質部分と溶媒3との界面で飽和状態が形成され、静置時間が長いほど結晶が成長するためであると考えられる。
【0050】
特に、工業生産を考えた場合は、静置時間と刺激付与時間の交点付近を選択するようにするのが良い。
【0051】
そして、タンパク質2に刺激を与えることにより、タンパク質分子同士の会合、もしくは会合体の集合を促進し、非晶質タンパク質からタンパク質の結晶が形成されてくると考えられる。
【0052】
なお、本発明では、溶媒3のpHは特に考慮する必要がなく、タンパク質2が変質しない範囲のpHであれば良い。したがって、溶媒は水などの中性でも良く、塩化ナトリウムや硫酸アンモニウムなどで塩基性や酸性にしても良い。しかし、これらを加えることは不純物を加えることにもなるので、純度の高い結晶を得るためには、これらの物質は存在しないほうが好ましい。
【0053】
また、溶媒3の温度も特に限定されず、タンパク質2が変質しない範囲であれば良い。なお、高温の方が結晶配列が良くなるので、例えば、10℃以上50℃以下が好ましい。
【0054】
そして、得られたタンパク質の結晶を、ピンセットなどにより溶媒中から取り出したり、減圧下で溶媒を蒸発させたり、遠心分離したり、ろ過したり、膜分離したりすることなどにより、乾燥したタンパク質の結晶を得ることができる。
【0055】
そして、本発明によれば、高純度のタンパク質結晶が短時間で得られ、工業生産に適したタンパク質の結晶化方法となる。
【0056】
【実施例】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
【0057】
(実施例1)
溶媒混在工程では、非晶質タンパク質として、卵由来のリゾチーム2を8.0g秤量し、これをガラス製の容器1に入れ、溶媒として水3を100ml静かに入れて、図1に示すようにリゾチーム2を水3で覆った。
【0058】
この溶媒である水3の量は、タンパク質の飽和溶解度に対応する量より少ない量であり、リゾチーム2を全部溶解することはできず、リゾチーム2の一部は溶媒中に残存する。
【0059】
そして、このリゾチーム2を静置すると、図2に示すような残存したリゾチーム2が水3に分散している状態となった。
【0060】
静置工程では、静置時間を1時間(S1)、2時間(S2)、3時間(S3)、4時間(S4)、5時間(S5)、8時間(S8)、9時間(S9)、10時間(S10)とし、8種類のサンプルとした。
【0061】
刺激付与工程では、これら8つのサンプルについて、刺激として図3に示すようなプロペラ6を用いて、溶媒である水(水にタンパク質が溶解して水溶液となっている場合を含む。以下の実施例2〜4および比較例についても同様である。)3の上部を攪拌した。攪拌はすべて回転数50rpmで3時間おこなった。このとき用いたプロペラ6は、その大きさが約1cmでプロペラの数が4枚、傾斜角度は45°であった。
【0062】
なお、溶媒である水のpHは7とし、温度はすべて15℃とした。
【0063】
そして、得られたリゾチームをピンセットで取り出し乾燥させて、光学顕微鏡により観察した。その結果、S1のサンプルでは、リゾチームの結晶はほとんど確認できなかった。また、S2のサンプルでは、小さなリゾチームの結晶がわずかに確認できた程度であった。これに対し、S3〜S10のサンプルでは、リゾチームの結晶が成形されていることが確認できた。
【0064】
また、得られたS3〜S10のサンプルの結晶の粒径分布をRosin−Rammler式を用いて解析した。
【0065】
その結果、刺激である攪拌時間を一定にした場合、得られたS3〜S10のサンプルのリゾチーム結晶の粒径分布の広がりには大きな変化は見られなかった。しかし、静置時間をS3のサンプルからS10のサンプルのように長くすると、粒径分布は大粒径側にシフトすることが確認された。
【0066】
これは、静置の間に非晶質部分と溶媒との界面部分で飽和状態が形成され、静置時間が長いほど結晶が成長するためであると考えられる。
【0067】
(実施例2)
実施例1と同様にして、溶媒混在工程をおこなった。そして、実施例1と異なり静置工程の静置時間を4時間とした。そして、刺激付与工程を実施例1と同様のプロペラ6を用いて、水3の上部を回転数25rpmで3時間攪拌することによりおこなった。
【0068】
そして、実施例1と同様に得られたリゾチームを乾燥させて、光学顕微鏡により観察した。その結果、リゾチームの結晶はほとんど確認できなかった。
【0069】
そこで、刺激付与工程の刺激付与時間を5時間、すなわち、水3の上部を回転数25rpmで5時間攪拌した。
【0070】
そして、実施例1と同様に得られたリゾチームを乾燥させて、光学顕微鏡により観察した。その結果、10μm程度のリゾチーム結晶を確認することができた。
【0071】
この結果から、ある程度の刺激はタンパク質分子同士の会合、もしくは会合体の集合を促進する働きがあり、刺激の量が少ない場合でも、長時間刺激を与えればタンパク質の結晶が得られることがわかった。
【0072】
(実施例3)
実施例1と同様にして、溶媒混在工程および刺激付与工程をおこなった。そして、実施例1と異なり静置工程の静置時間を4時間(T4)、7時間(T7)および20時間(T20)とした。
【0073】
そして、実施例1と同様に得られたリゾチームを乾燥させて、光学顕微鏡により観察した。その結果、T4〜T20のサンプルには、リゾチームの結晶が成形されていることが確認できた。
【0074】
T7のサンプルはT4のサンプルより大きな結晶であることが確認できた。また、T20のサンプルでは小さな結晶の欠片状のものが観察された。
【0075】
このことから、結晶粒径を大きくするためには、ある程の静置時間が必要であるが、静置時間が長くなり過ぎると刺激が攪拌の場合は、攪拌のプロペラ6やタンパク質の結晶同士がぶつかることにより結晶が破損する場合がると考えられる。
【0076】
(実施例4)
実施例1と同様にして、溶媒混在工程をおこない、静置工程の静置時間を7時間とした。そして、刺激付与工程として、プロペラ6を用いて溶媒3の上部を回転数50rpmで3時間攪拌した。このとき、攪拌のプロペラ数および角度を、プロペラ2枚で傾斜20°(P20)、プロペラ4枚で傾斜45°(P45)、プロペラ4枚で傾斜70°(P70)とした。
【0077】
実施例1と同様に得られたリゾチームを乾燥させて、光学顕微鏡により観察した。その結果、P20〜P70のサンプルには、リゾチームの結晶が成形されていることが確認できた。
【0078】
P20のサンプルは、P45およびP70のサンプルに比べ粒径分布が広くなっていた。また、粒径の小さな結晶がP45およびP70のサンプルより多く存在し、結晶の数もP45およびP70のサンプルより多かった。
【0079】
P70のサンプルは結晶に欠片のようなものが観察された。これは、一度形成された結晶が攪拌により破損しているからと考えられる。
【0080】
P45のサンプルは、粒径の大きさも均一なものが多く、また比較的粒径の大きな結晶であった。
【0081】
(比較例)
静置工程の静置時間を0時間、すなわち、実施例1と同様に溶媒混在工程をおこなった後、すぐに実施例1と同様に刺激付与工程をおこなった。
【0082】
そして、実施例1と同様に得られたリゾチームを乾燥させて、光学顕微鏡により観察した。その結果、光学顕微鏡ではリゾチームの結晶を確認することはできなかった。
【0083】
以上本発明の実施の形態および実施例を説明したが、本発明は、前記実施の形態や実施例に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。
【0084】
【発明の効果】
請求項1のタンパク質の結晶化方法の発明は、非晶質タンパク質を含むタンパク質と前記タンパク質の飽和溶解度に対応する量より少ない量の溶媒とを混在させる溶媒混在工程と、前記タンパク質を静置する静置工程と、前記タンパク質に刺激を与える刺激付与工程とを含むので、タンパク質の結晶を形成させることができ、高純度のタンパク質結晶が短時間で得られ、工業生産に適したものとなる。
【0085】
請求項2のタンパク質の結晶化方法の発明は、請求項1において、前記静置工程における静置時間が、2時間以上50時間以下であるので、結晶が形成されやすくなり、高純度のタンパク質結晶が短時間で得られ、工業生産に適したものとなる。
【0086】
請求項3のタンパク質の結晶化方法の発明は、請求項1または2において、前記刺激付与工程おける刺激を与える時間が、1時間以上10時間以下であるので、これにより結晶が形成され、高純度のタンパク質結晶が短時間で得られ、工業生産に適したものとなる。
【0087】
請求項4のタンパク質の結晶化方法の発明は、請求項1〜3のいずれか1項において、前記刺激付与工程おける刺激が、溶媒の攪拌であるので、適度な刺激をタンパク質に与えることができ、結晶が形成されやすくなる。そして、高純度のタンパク質結晶が短時間で得られ、工業生産に適したものとなる。
【0088】
請求項5のタンパク質の結晶化方法の発明は、請求項4において、前記刺激付与工程おいて、溶媒の上部を攪拌するので、よりソフトな刺激をタンパク質に与えることができ、より結晶が形成されやすくなる。そして、高純度のタンパク質結晶が短時間で得られ、工業生産に適したものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態における溶媒混在工程を示す概念図である。
【図2】本発明の一実施の形態における静置工程を示す概念図である。
【図3】本発明の一実施の形態における刺激付与工程の一実施形態を示す概念図である。
【図4】本発明の一実施の形態における静置時間と刺激付与時間との関係を示すグラフである。
【図5】従来のタンパク質の結晶化方法を示す概念図である。
【符号の説明】
2 タンパク質
3 溶媒
【発明の属する技術分野】
本発明は、非晶質タンパク質から高純度のタンパク質結晶を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
タンパク質は、食料品や医薬品の原料などとして利用されることから、高純度のタンパク質結晶を多量に工業生産できることが望まれてきた。また、構造解析の分野などからもタンパク質の結晶化が望まれてきた。
【0003】
しかし、タンパク質は高分子であることから、結晶を得にくいという問題がある。このため、従来からタンパク質の結晶を得る方法として種々の方法が提案されてきている。そして、これらの方法の多くは、タンパク質を溶媒に溶かし、これを過飽和状態にして結晶を形成する方法であり、その代表的なものとしては、蒸気拡散法と沈殿法がある。
【0004】
蒸気拡散法は、タンパク質溶液と沈殿剤とを同一の容器に入れ、この沈殿剤に蒸気となった溶液を拡散させ、タンパク質の溶解度を減少させる。そして、この溶液の拡散とともに溶液が濃縮され、タンパク質の結晶が成長するという方法である(平沢泉、他 月刊化学工業 (2001) Vol.52,No.2 140−144参照)(非特許文献1)。
【0005】
また、沈殿法は、タンパク質溶液と沈殿剤溶液を混合した後、タンパク質と沈殿剤を攪拌などにより均一分布させ、タンパク質を過飽和状態にする。そして、そこからタンパク質の結晶を成長させるという方法である。
【0006】
そして、特開平6−256386号公報(特許文献1)には、この従来の沈殿法を改良した方法が開示されている。
【0007】
この方法を図5に基づいて説明する。まず、容器1をタンパク質2と沈殿剤4を含む水溶液3で満たす。これに脱水状態の高吸水性高分子物質5を投入して、水を高吸水性高分子物質5に吸収させ、水溶液中のタンパク質濃度を増大させて過飽和状態を作製する。次に、容器1を図示しない蓋で密閉して、所定の温度に保つことにより、タンパク質の結晶を形成させるものである。
【0008】
そして、この方法によれば、従来の沈殿法では通常結晶作製までに数日から1年を要していたものを1週間程度に短縮できるというものである。
【0009】
【特許文献1】
特開平6−256386号公報
【非特許文献1】
平沢泉、他 月刊化学工業 (2001) Vol.52,No.2 140−144
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上記蒸気拡散法は、過飽和度の生成速度をもっとも安定して低い値で制御できることから、タンパク質の結晶化方法として多く採用されていると考えられるが、この方法では、結晶化までに数週間を要し、結晶を得るには適しているものの、工業生産には向いていないという課題がある。
【0011】
また、特開平6−256386号公報に記載されている沈殿法では、高吸水性高分子物質により過飽和状態を早期に実現できるが、それでも結晶が得られるまで1週間程度かかり、工業生産を考えた場合には、まだ十分とはいえない。
【0012】
さらに、これら蒸気拡散法や沈殿法では、沈殿剤を用いているので、沈殿剤が不純物となり、これによりタンパク質結晶の純度が低下するという課題もある。
【0013】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、高純度のタンパク質結晶が短時間で得られるような工業生産に適したタンパク質の結晶化方法を提供するものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
請求項1のタンパク質の結晶化方法は、非晶質タンパク質を含むタンパク質と前記タンパク質の飽和溶解度に対応する量より少ない量の溶媒とを混在させる溶媒混在工程と、前記タンパク質を静置する静置工程と、前記タンパク質に刺激を与える刺激付与工程とを含むことを特徴とするものである。
【0015】
請求項1の発明によれば、溶媒の量はタンパク質の飽和溶解度に対応する量より少ないので、タンパク質の一部が溶媒中に残存し、静置後のタンパク質に刺激を与えることにより結晶を形成させることができる。そして、これにより沈殿剤が不要となり、高純度のタンパク質結晶が短時間で得られ、工業生産に適したものとなる。
【0016】
請求項2のタンパク質の結晶化方法は、請求項1において、前記静置工程における静置時間が、2時間以上50時間以下であることを特徴とするものである。
【0017】
請求項2の発明によれば、タンパク質を所定時間静置することで、結晶が形成されやすくなる。そして、これにより沈殿剤が不要となり、高純度のタンパク質結晶が短時間で得られ、工業生産に適したものとなる。
【0018】
請求項3のタンパク質の結晶化方法は、請求項1または2において、前記刺激付与工程おける刺激を与える時間が、1時間以上10時間以下であることを特徴とするものである。
【0019】
請求項3の発明によれば、タンパク質に所定時間刺激を与えることで、結晶が形成される。そして、これにより沈殿剤が不要となり、高純度のタンパク質結晶が短時間で得られ、工業生産に適したものとなる。
【0020】
請求項4のタンパク質の結晶化方法は、請求項1〜3のいずれか1項において、前記刺激付与工程おける刺激が、溶媒の攪拌であることを特徴するものである。
【0021】
請求項4の発明によれば、溶媒を攪拌することにより、適度な刺激をタンパク質に与えることができるので、結晶が形成されやすくなる。そして、これにより沈殿剤が不要となり、高純度のタンパク質結晶が短時間で得られ、工業生産に適したものとなる。
【0022】
請求項5のタンパク質の結晶化方法は、請求項4において、前記刺激付与工程おいて、溶媒の上部を攪拌することを特徴するものである。
【0023】
請求項5の発明によれば、溶媒の上部を攪拌することにより、よりソフトな刺激をタンパク質に与えることができ、より結晶が形成されやすくなる。そして、これにより沈殿剤が不要となり、高純度のタンパク質結晶が短時間で得られ、工業生産に適したものとなる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0025】
まず、溶媒混在工程では、非晶質タンパク質を含むタンパク質を容器に入れ、これにタンパク質を溶解することができる溶媒を加え、溶媒とタンパク質を混在させる。このとき、溶媒の量は、タンパク質の飽和溶解度に対応する量より少ない量とする。よって、このタンパク質の量は、溶媒の飽和溶解度に対応する量より多い量となる。これにより、タンパク質は徐々に溶媒に溶けはじめるが、タンパク質の量が溶媒の飽和溶解度に対応する量より多いので、タンパク質の一部は溶媒中に存在するようになる。
【0026】
この段階で溶媒は、徐々に溶液化してくるので、ここでいう溶媒とは、通常の意味の溶媒の他、タンパク質が溶媒に溶け、溶液となっている状態も含むものである。これは、静置工程および刺激付与工程の溶媒についても同様である。
【0027】
また、溶媒混在工程は、通常、容器内のタンパク質に溶媒を加えることによりおこなわれるが、溶媒にタンパク質を投入するものであってもかまわない。
【0028】
さらに、溶媒の量は、後述するように、刺激付与工程において、溶媒を攪拌することによりタンパク質に刺激を与える場合には、溶解しないで残存するタンパク質を溶媒が覆う程度の量とするのが好ましい。
【0029】
この状態を図1に示す。1は容器、2は非晶質タンパク質を含むタンパク質、3は溶媒である。
【0030】
容器1の材質は、特に限定されるものではなく、溶媒やタンパク質と反応しないものであれば良く、例えばガラス製の容器を用いることができる。
【0031】
タンパク質2は、通常、そのほぼ全部が非晶質なタンパク質を用いるが、特にこれに限定されるものではなく、結晶質のタンパク質が混在していても良い。特に、結晶質のタンパク質が混在していると、それが核となりタンパク質の結晶を得やすくなる場合がある。
【0032】
また、タンパク質の種類は、特に限定されるものではなく、例えば、リゾチーム、アルブミン、トリプシン、パパインなどを用いることができる。
【0033】
また、非晶質タンパク質が得られた製造方法は特に限定されるものではなく、例えば、造粒乾燥法などで得られたタンパク質を用いることができる。
【0034】
溶媒3は、タンパク質2を溶解することができるものであれば特に限定されるものではなく、水、エタノールなどの極性溶媒を用いることができる。
【0035】
次の静置工程では、タンパク質2に溶媒3を加えたら、この状態でタンパク質2を静置する。
【0036】
静置している段階で、タンパク質2の一部は溶媒3に溶け、残りは溶媒3中に分散されるようになる。この状態を図2に示す。図2では、塊であったタンパク質2が溶媒3中に分散されている状態を示している。
【0037】
このようにタンパク質2の一部が溶媒3中に残存するようにすることで、溶解したタンパク質が非晶質タンパク質の溶解度に近い濃度として維持され、これにより残存したタンパク質2からゆっくり結晶として配列していく環境を作り出している。
【0038】
タンパク質2を静置する時間は特に限定されないが、2時間以上静置するのが好ましい。静置する時間が2時間未満であると、結晶の形成が見られなかったり、結晶の粒径が小さいものであったりするからである。また、長時間静置することにより形成される結晶は大きくなるが、刺激や結晶同士がぶつかり結晶の破損が生じやすくなるので、50時間以下が好ましい。特に好ましいのは、3時間以上30時間以下である。
【0039】
なお、タンパク質の結晶を得るための静置時間は、後述するように刺激付与時間にも関係してくるが、静置時間が短い場合は結晶の粒径は小さく、長い場合は結晶の粒径は大きくなる。
【0040】
次の刺激付与工程では、静置後のタンパク質に刺激を与える。
【0041】
この刺激を与える方法としては、直接、間接を問わず、何らかの方法で静置後のタンパク質2に刺激を与えることができれば良く、例えば、溶媒3を攪拌することによりタンパク質2を刺激したり、溶媒3や容器1を殴打することによりタンパク質2を刺激したり、超音波や、可視光、赤外線、紫外線、エックス線、ガンマ線、中性子線などの電磁波をタンパク質2に与えることによりタンパク質2を刺激したりすることができる。
【0042】
このうち、静置後の溶媒3を攪拌することによりタンパク質2に刺激を与える方法が、刺激をコントロールしやすく、適度な刺激を与えることができることから好ましい。特に、静置後に生じる溶媒3の上部を攪拌することが、ソフトな刺激をタンパク質2に与えるので好ましい。
【0043】
この状態を図3に示す。6はプロペラ、7はプロペラシャフトである。このプロペラシャフト7は、図示しないモーターに接続されており、このモーターによりプロペラシャフト7を回転させるようになっている。そして、このプロペラ6が溶媒3中で回転することにより、溶媒3および残存するタンパク質2を攪拌し、タンパク質2に刺激を与えることになる。この場合、溶媒3の上部を攪拌することにより、タンパク質2がプロペラ6にぶつかって破損することを少なくできるので好ましい。
【0044】
このように溶媒3または溶媒3の上部を攪拌すると、タンパク質2と溶媒3が混合され、懸濁液となり、適度な刺激をタンパク質に与えることができ、これにより結晶が形成されてくる。
【0045】
攪拌におけるプロペラ6の回転数は、特に限定されるものではないが、0.5rpm以上100rpm以下が好ましい。これは、0.5rpm未満では、回転が遅すぎて結晶が形成しにくく、100rpmを超えると回転が速すぎ結晶がプロペラ6にぶつかったり、結晶同士がぶつかったりして、結晶の破損が生じることがあるからである。特に好ましい回転数は、20rpm以上70rpm以下である。
【0046】
また、刺激を与える時間は特に限定されないが、1時間以上10時間以下が好ましい。刺激を与える時間が1時間未満であると、結晶の形成が少ないからである。また、10時間を超えると刺激や結晶同士がぶつかることにより結晶の破損が生じやすくなるからである。特に好ましいのは、2時間以上7時間以下である。
【0047】
また、この刺激を与える時間は、タンパク質2を静置する時間と関係してくる。この関係を図4に示す。図4において、横軸は結晶の粒径(l)であり、右へいくほど粒径が大きく、左へいくほど粒径は小さくなる。また、右縦軸は静置時間(θs)であり、左縦軸は刺激付与時間(θa)である。
【0048】
図4からわかるように、タンパク質の結晶を得るためには、静置時間(θs)が長くなると刺激付与時間(θa)が短くて済み、静置時間(θs)が短くなると刺激付与時間(θa)を長くする必要がある。そして、得られる結晶は、静置時間(θs)が長い方が粒径の大きいものとなる。
【0049】
これは、静置の間にタンパク質2の非晶質部分と溶媒3との界面で飽和状態が形成され、静置時間が長いほど結晶が成長するためであると考えられる。
【0050】
特に、工業生産を考えた場合は、静置時間と刺激付与時間の交点付近を選択するようにするのが良い。
【0051】
そして、タンパク質2に刺激を与えることにより、タンパク質分子同士の会合、もしくは会合体の集合を促進し、非晶質タンパク質からタンパク質の結晶が形成されてくると考えられる。
【0052】
なお、本発明では、溶媒3のpHは特に考慮する必要がなく、タンパク質2が変質しない範囲のpHであれば良い。したがって、溶媒は水などの中性でも良く、塩化ナトリウムや硫酸アンモニウムなどで塩基性や酸性にしても良い。しかし、これらを加えることは不純物を加えることにもなるので、純度の高い結晶を得るためには、これらの物質は存在しないほうが好ましい。
【0053】
また、溶媒3の温度も特に限定されず、タンパク質2が変質しない範囲であれば良い。なお、高温の方が結晶配列が良くなるので、例えば、10℃以上50℃以下が好ましい。
【0054】
そして、得られたタンパク質の結晶を、ピンセットなどにより溶媒中から取り出したり、減圧下で溶媒を蒸発させたり、遠心分離したり、ろ過したり、膜分離したりすることなどにより、乾燥したタンパク質の結晶を得ることができる。
【0055】
そして、本発明によれば、高純度のタンパク質結晶が短時間で得られ、工業生産に適したタンパク質の結晶化方法となる。
【0056】
【実施例】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
【0057】
(実施例1)
溶媒混在工程では、非晶質タンパク質として、卵由来のリゾチーム2を8.0g秤量し、これをガラス製の容器1に入れ、溶媒として水3を100ml静かに入れて、図1に示すようにリゾチーム2を水3で覆った。
【0058】
この溶媒である水3の量は、タンパク質の飽和溶解度に対応する量より少ない量であり、リゾチーム2を全部溶解することはできず、リゾチーム2の一部は溶媒中に残存する。
【0059】
そして、このリゾチーム2を静置すると、図2に示すような残存したリゾチーム2が水3に分散している状態となった。
【0060】
静置工程では、静置時間を1時間(S1)、2時間(S2)、3時間(S3)、4時間(S4)、5時間(S5)、8時間(S8)、9時間(S9)、10時間(S10)とし、8種類のサンプルとした。
【0061】
刺激付与工程では、これら8つのサンプルについて、刺激として図3に示すようなプロペラ6を用いて、溶媒である水(水にタンパク質が溶解して水溶液となっている場合を含む。以下の実施例2〜4および比較例についても同様である。)3の上部を攪拌した。攪拌はすべて回転数50rpmで3時間おこなった。このとき用いたプロペラ6は、その大きさが約1cmでプロペラの数が4枚、傾斜角度は45°であった。
【0062】
なお、溶媒である水のpHは7とし、温度はすべて15℃とした。
【0063】
そして、得られたリゾチームをピンセットで取り出し乾燥させて、光学顕微鏡により観察した。その結果、S1のサンプルでは、リゾチームの結晶はほとんど確認できなかった。また、S2のサンプルでは、小さなリゾチームの結晶がわずかに確認できた程度であった。これに対し、S3〜S10のサンプルでは、リゾチームの結晶が成形されていることが確認できた。
【0064】
また、得られたS3〜S10のサンプルの結晶の粒径分布をRosin−Rammler式を用いて解析した。
【0065】
その結果、刺激である攪拌時間を一定にした場合、得られたS3〜S10のサンプルのリゾチーム結晶の粒径分布の広がりには大きな変化は見られなかった。しかし、静置時間をS3のサンプルからS10のサンプルのように長くすると、粒径分布は大粒径側にシフトすることが確認された。
【0066】
これは、静置の間に非晶質部分と溶媒との界面部分で飽和状態が形成され、静置時間が長いほど結晶が成長するためであると考えられる。
【0067】
(実施例2)
実施例1と同様にして、溶媒混在工程をおこなった。そして、実施例1と異なり静置工程の静置時間を4時間とした。そして、刺激付与工程を実施例1と同様のプロペラ6を用いて、水3の上部を回転数25rpmで3時間攪拌することによりおこなった。
【0068】
そして、実施例1と同様に得られたリゾチームを乾燥させて、光学顕微鏡により観察した。その結果、リゾチームの結晶はほとんど確認できなかった。
【0069】
そこで、刺激付与工程の刺激付与時間を5時間、すなわち、水3の上部を回転数25rpmで5時間攪拌した。
【0070】
そして、実施例1と同様に得られたリゾチームを乾燥させて、光学顕微鏡により観察した。その結果、10μm程度のリゾチーム結晶を確認することができた。
【0071】
この結果から、ある程度の刺激はタンパク質分子同士の会合、もしくは会合体の集合を促進する働きがあり、刺激の量が少ない場合でも、長時間刺激を与えればタンパク質の結晶が得られることがわかった。
【0072】
(実施例3)
実施例1と同様にして、溶媒混在工程および刺激付与工程をおこなった。そして、実施例1と異なり静置工程の静置時間を4時間(T4)、7時間(T7)および20時間(T20)とした。
【0073】
そして、実施例1と同様に得られたリゾチームを乾燥させて、光学顕微鏡により観察した。その結果、T4〜T20のサンプルには、リゾチームの結晶が成形されていることが確認できた。
【0074】
T7のサンプルはT4のサンプルより大きな結晶であることが確認できた。また、T20のサンプルでは小さな結晶の欠片状のものが観察された。
【0075】
このことから、結晶粒径を大きくするためには、ある程の静置時間が必要であるが、静置時間が長くなり過ぎると刺激が攪拌の場合は、攪拌のプロペラ6やタンパク質の結晶同士がぶつかることにより結晶が破損する場合がると考えられる。
【0076】
(実施例4)
実施例1と同様にして、溶媒混在工程をおこない、静置工程の静置時間を7時間とした。そして、刺激付与工程として、プロペラ6を用いて溶媒3の上部を回転数50rpmで3時間攪拌した。このとき、攪拌のプロペラ数および角度を、プロペラ2枚で傾斜20°(P20)、プロペラ4枚で傾斜45°(P45)、プロペラ4枚で傾斜70°(P70)とした。
【0077】
実施例1と同様に得られたリゾチームを乾燥させて、光学顕微鏡により観察した。その結果、P20〜P70のサンプルには、リゾチームの結晶が成形されていることが確認できた。
【0078】
P20のサンプルは、P45およびP70のサンプルに比べ粒径分布が広くなっていた。また、粒径の小さな結晶がP45およびP70のサンプルより多く存在し、結晶の数もP45およびP70のサンプルより多かった。
【0079】
P70のサンプルは結晶に欠片のようなものが観察された。これは、一度形成された結晶が攪拌により破損しているからと考えられる。
【0080】
P45のサンプルは、粒径の大きさも均一なものが多く、また比較的粒径の大きな結晶であった。
【0081】
(比較例)
静置工程の静置時間を0時間、すなわち、実施例1と同様に溶媒混在工程をおこなった後、すぐに実施例1と同様に刺激付与工程をおこなった。
【0082】
そして、実施例1と同様に得られたリゾチームを乾燥させて、光学顕微鏡により観察した。その結果、光学顕微鏡ではリゾチームの結晶を確認することはできなかった。
【0083】
以上本発明の実施の形態および実施例を説明したが、本発明は、前記実施の形態や実施例に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。
【0084】
【発明の効果】
請求項1のタンパク質の結晶化方法の発明は、非晶質タンパク質を含むタンパク質と前記タンパク質の飽和溶解度に対応する量より少ない量の溶媒とを混在させる溶媒混在工程と、前記タンパク質を静置する静置工程と、前記タンパク質に刺激を与える刺激付与工程とを含むので、タンパク質の結晶を形成させることができ、高純度のタンパク質結晶が短時間で得られ、工業生産に適したものとなる。
【0085】
請求項2のタンパク質の結晶化方法の発明は、請求項1において、前記静置工程における静置時間が、2時間以上50時間以下であるので、結晶が形成されやすくなり、高純度のタンパク質結晶が短時間で得られ、工業生産に適したものとなる。
【0086】
請求項3のタンパク質の結晶化方法の発明は、請求項1または2において、前記刺激付与工程おける刺激を与える時間が、1時間以上10時間以下であるので、これにより結晶が形成され、高純度のタンパク質結晶が短時間で得られ、工業生産に適したものとなる。
【0087】
請求項4のタンパク質の結晶化方法の発明は、請求項1〜3のいずれか1項において、前記刺激付与工程おける刺激が、溶媒の攪拌であるので、適度な刺激をタンパク質に与えることができ、結晶が形成されやすくなる。そして、高純度のタンパク質結晶が短時間で得られ、工業生産に適したものとなる。
【0088】
請求項5のタンパク質の結晶化方法の発明は、請求項4において、前記刺激付与工程おいて、溶媒の上部を攪拌するので、よりソフトな刺激をタンパク質に与えることができ、より結晶が形成されやすくなる。そして、高純度のタンパク質結晶が短時間で得られ、工業生産に適したものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態における溶媒混在工程を示す概念図である。
【図2】本発明の一実施の形態における静置工程を示す概念図である。
【図3】本発明の一実施の形態における刺激付与工程の一実施形態を示す概念図である。
【図4】本発明の一実施の形態における静置時間と刺激付与時間との関係を示すグラフである。
【図5】従来のタンパク質の結晶化方法を示す概念図である。
【符号の説明】
2 タンパク質
3 溶媒
Claims (5)
- 非晶質タンパク質を含むタンパク質と前記タンパク質の飽和溶解度に対応する量より少ない量の溶媒とを混在させる溶媒混在工程と、前記タンパク質を静置する静置工程と、前記タンパク質に刺激を与える刺激付与工程とを含むことを特徴とするタンパク質の結晶化方法。
- 前記静置工程における静置時間が、2時間以上50時間以下であることを特徴とする請求項1記載のタンパク質の結晶化方法。
- 前記刺激付与工程おける刺激を与える時間が、1時間以上10時間以下であることを特徴とする請求項1または2記載のタンパク質の結晶化方法。
- 前記刺激付与工程おける刺激が、溶媒の攪拌であることを特徴する請求項1〜3のいずれか1項記載のタンパク質の結晶化方法。
- 前記刺激付与工程おいて、溶媒の上部を攪拌することを特徴する請求項4記載のタンパク質の結晶化方法。
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Cited By (2)
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2003
- 2003-03-18 JP JP2003074030A patent/JP2004277255A/ja active Pending
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CN105126973A (zh) * | 2015-09-02 | 2015-12-09 | 多氟多化工股份有限公司 | 用于生产小颗粒偏硅酸钠晶体的破碎机 |
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