JP2004269489A - 化粧料及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】チシマザサの生の葉及び茎を圧搾して得られる圧搾汁を減圧下、70℃以下の温度で分留して得られる留出液、該留出液をガードナー色数試験法の色数試験を行ったとき色数標準液1以下である留出液の製造方法、及び他の水による洗浄をすることなく得られた留出液が3.5〜4.8のpHであり、かつ、NMR(核磁気共鳴)による放射性同位元素17O を測定したとき、半値幅として60Hz以下であるチシマザサ水の製造方法、及び該留出液に留出後の残留液を混合溶解した後濾過して得られるチシマザサエキスの製造方法、及びこれら留出液またはエキスを配合することによって抗菌性及び保水性を備えた透明且つほとんど着色、臭いのしない、安全性に優れた化粧料を得る。
【選択図】なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、チシマザサの葉及び茎の圧搾汁を加熱しながら分留して得られる留出液、更に留出液が特定の色相および特定のpHと特定の半値幅を有する留出液、及び該留出液に、留出後の残留液を混合溶解した後濾過して得られる留出液エキス、並びに該チシマザサ留出液または留出液エキスを含有する、抗菌性及び保水性を備え、かつ安全性に優れた化粧料、及びチシマザサ留出液または該エキスの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、植物由来のエキス及び該エキスを用いた化粧料は、隈笹の葉から薬効成分を抽出する(例えば特許文献1参照)、オトギリソウ抽出物に他の抽出物を混合含有する養毛・育毛料(例えば特許文献2参照)、2−フェノキシエタノールと抗菌作用を有する植物抽出物を含有する抗菌性低刺激化粧料(例えば特許文献3参照)、イチョウ、クマザサ、ハトムギ等の植物より1,2−ペンタンジオールにより抽出した抗菌性植物抽出物及び該抽出物を含有する皮膚外用剤(例えば特許文献4参照)、植物類、キノコ類を加圧熱水抽出機によりエキスを抽出し、効率的にエキス製品を製造する方法及び装置(例えば特許文献5参照)などが知られている。
【0003】
【特許文献1】
特開昭64−40430号公報(第1〜2頁)
【特許文献2】
特開平8−73324号公報(第1〜2頁)
【特許文献3】
特開平9−255517号公報(第1〜3頁)
【特許文献4】
特開2000−44419号公報(第1〜3頁)
【特許文献5】
特開平11−196818号公報(第1〜2頁)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
前記の通り、従来の植物エキスを調製する方法としては、一般に乾燥した葉を長時間熱水抽出する方法、加水下に高温高圧によって溶出する方法、酸やアルカリ処理によって抽出する方法、及びアルコールなどの有機溶剤によって抽出する方法などが挙げられる。これらはいずれも植物の葉の抽出方法として採用されているが、高温・高圧或は溶剤抽出となるため抽出エキスは分解や凝集が起こり、かつエキスは着色し透明感に劣ると共に特有の臭いが発生し、人の肌に使用する化粧料に応用する場合に大きな制約を受け、満足できるものではなかった。
そして前記従来法のいずれのエキスも透明性に劣りかつ刺激的な臭気が肌に残るため、デリケートな感覚が求められる化粧料や医薬品への使用量が著しく制限されている。
本発明は上記のような欠点のない、着色の少ない,嫌味臭さのない、肌への安全性に優れ、化粧料に適した植物エキスを得ることを課題とするものである。
なお、チシマザサ留出液または留出液エキスを化粧品や医薬品に応用した報告は未だ見当たらない。
本発明は、抗菌作用、保湿作用を有する植物由来のチシマザサ留出液または留出液エキスを得、このチシマザサ留出液または留出液エキスを用いて無色で透明性があり、嫌味臭のない、安全性に優れた化粧料または医薬品、及びチシマザサ留出液またはチシマザサエキスの製造方法を提供することを課題とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記課題を解決するために各種植物の抽出方法および抽出物を鋭意検討し、抗菌性及び保湿性を有し、且つ人間の肌に安全な化粧料について処方を探り、且つ留出液の製造方法について、チシマザサの生の葉及び茎を圧搾して得られる圧搾汁を分留する際に、減圧下70℃以下で留出操作を行なうこと、更にガードナー色数試験による標準色数液1以下に制御すること及びチシマザサの生の葉および茎を他の水による洗浄をすることなくそのまま圧搾して得られる圧搾汁を、減圧下、70℃以下で加熱しながら分留して得られる留出液(チシマザサ水)が、3.5〜4.8のpHであり、かつ、核磁気共鳴(以下、NMR)による放射性同位元素17O を測定したとき、半値幅として60Hz以下のものであるものとすることにより、得られる留出液が人の肌に使用する化粧料の配合成分として適することを見出し、本発明に到達したものである。
すなわち、本発明は、(1)チシマザサの生の葉及び茎を圧搾して得られる圧搾汁を加熱しながら分留して得られる留出液;(2)チシマザサの生の葉及び茎を圧搾して得られる圧搾汁を加熱しながら分留して得られる留出液に、留出後の残留液を混合溶解した後濾過して得られる留出液エキス;(3)分留が減圧下、70℃以下の温度で行なわれるものである(1)又は(2)記載の留出液または留出液エキス;(4)留出液が、ガードナー色数試験法における色数試験を行ったとき、色数標準液1以下の色相のものである(1)、(2)又は(3)記載のチシマザサ留出液又は留出液エキス;(5)留出液が、3.5〜4.8のpHであり、かつ、核磁気共鳴による放射性同位元素17O を測定したとき、半値幅として60Hz以下のものである(1)、(2)又は(3)記載のチシマザサ留出液又は留出液エキス;(6)(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)記載のチシマザサ留出液又は留出液エキスを含有する抗菌性及び保水性を備え、かつ安全性に優れた化粧料;(7)チシマザサの生の葉および茎を圧搾して得られる圧搾汁を、加熱しながら分留することを特徴とする留出液の製造方法;(8)分留が減圧下、70℃以下の温度で行われるものである(7)記載の留出液の製造方法;(9)分留における減圧が100〜700mmHgである(8)記載の留出液の製造方法;(10)分留において、留出液の色相をガードナー色数試験法に基き色数試験を行い、色数標準液1以下となるよう減圧度と留出温度を制御する(7)、(8)又は(9)記載の留出液の製造方法;(11)圧搾をチシマザサの生の葉および茎を他の水による洗浄をすることなく行い、加熱しながら分留して得られる留出液が、3.5〜4.8のpHであり、かつ、核磁気共鳴による放射性同位元素17O を測定したとき、半値幅として60Hz以下 である(7)、(8)又は(9)記載の留出液の製造方法;及び(12)留出液がチシマザサ水である(7)、(8)、(9)、(10)又は(11)記載の留出液の製造方法、を提供することに関する。
【0006】
本発明を以下に詳細に説明する。
本発明では特に、従来、さほど関心が寄せられていなかったチシマザサに着目し、このチシマザサの生の葉及び茎を圧搾して得られる圧搾汁を加熱しながら分留して得られる留出液や、この留出液をガードナー色数試験法における色数試験を行ったとき、色数標準液1以下の色相のものや、またpHが3.5〜4.8であって、かつ、核磁気共鳴による放射性同位元素17O を測定したとき、半値幅として60Hz以下の留出液などを利用することにより上記の問題点が解決することを見出したものである。また色数標準液1以下の色相およびpHが3.5〜4.8であって、かつ、核磁気共鳴による放射性同位元素17O を測定したとき、半値幅として60Hz以下という特性を同時に満たしているものも本発明の留出液に含まれる。そしてこの留出液に、留出後の残留液を混合溶解した後濾過して得られる透明な留出液エキスも上記留出液と同様に用いられることを見出したものである。チシマザサの生の葉及び茎を圧搾して得られる圧搾汁を加熱しながら分留するに当っては、一例としてチシマザサ圧搾汁を減圧下、70℃以下の温度で蒸発させることが挙げられる。
植物抽出エキスの製造にかかわる品質管理上の簡便な方法は、pH測定、目視による外観テスト、臭い試験などを挙げられるが五感に頼るものが多い。
液体の色相は液中に溶解した微量成分の本来の色や酸化による変色などによって変化する。また、色相に関する表現は、無色透明、淡黄色透明、赤褐色透明などと目視によって判定された表現が多い。
本発明ではチシマザサの生の葉および茎を圧搾して得られる圧搾汁を、加熱しながら分留して得られるチシマザサ水を、化粧料の配合成分として使用するために、1つは簡便かつ数値的に表現できる方法であるガードナー色数試験法に基づいた数値で、分留操作を制御するものである。
化粧料配合成分として必要な要件である臭い、色、微生物に対する抗菌性を満足させるために、液体化粧品や石油類の製造における品質管理試験で採用されているガードナー色数試験(日本工業規格 JIS K 0071−2 化学製品の色試験方法―第2部:ガードナー色数)に基づき、分留操作を制御するものである。
又別の方法として以下のことを検討した。
一般に、植物エキスを調製する方法としては、乾燥した葉を長時間熱水によって抽出する方法、加水下に高温・高圧によって抽出する方法、酸やアルカリ処理によって抽出する方法、及びアルコールなどの有機溶剤単独もしくは水混合物によって抽出する方法が挙げられる。これらはいずれも植物が本来その組織内に有している有機成分などとの結合する組織水とは異なった水、例えば熱水、酸やアルカリを希釈するための水、アルコールなどの有機溶剤を希釈するための水等が使用されている。
これらのいずれの方法においても植物がその組織中に本来有していた有機成分などとの結合する組織水以外の水が、混在または大部分を占めているのが従来の抽出エキスである。
植物の組織中からその有効成分と水をそのまま取り出せれば、植物組織水からなる抽出エキスを得ることが期待できる。 そして、水は水素原子2個と酸素原子1個からなっている物質であるが、液体の状態においては単に水分子の集りではなく、水素結合を介していくつかの集合体(クラスター)を形成しているとされる。
本発明では、チシマザサの生の葉および茎を、他の水による洗浄を行なうことなく、圧搾して得られる圧搾汁を、減圧下、70℃以下で加熱しながら分留して得られるチシマザサ水(留出液)が、3.5〜4.8のpHであり、かつ、NMRによる放射性同位元素17O を測定したとき、半値幅として60Hz以下 であるチシマザサ水を製造したものである。NMRによる放射性同位元素17O の測定は通常の核磁気共鳴装置、例えばJNM−GSX400FT−NMRなどで行うことができ、通常、室温程度で行うものであり、半値幅はこのNMRによる測定のピークの高さの1/2の部分の幅(太さ)を指す。
また、このチシマザサ水が化粧料の配合成分として使用するとき、色相及び臭いの点でも問題なく、かつ抗菌性を備えた化粧料とすることができるものである。
チシマザサ(Sasa kurilensis nom. nov.)はイネ科のササ属、チシマザサ節に分類されるものである。一方、よく混同されがちなクマザサ(Sasa albo− maginata nom.nov.) はイネ科、ササ属、チマキザサ節に分類されるものであり、他にチマキザサ節に分類されるものとしては、チマキザサ、クマザサなどが挙げられる。したがってチシマザサとクマザサとは全く別個のものである。そしてチシマザサは別名ネマガリタケともいわれ、1.5m乃至3mの背丈に成長し大人の指ほどの太さのタケノコが生えることでも、丈が1m程度のクマザサとは分類上明らかに異なる種のものである。
【0007】
【発明の実施の態様】
本発明のチシマザサ留出液またはチシマザサエキスの製法としては、上記の従来のクマザサエキスなどの一般的な製法と異なり、有効成分を可能な限り安定的に取り出す方法として、チシマザサを低温下において高圧圧搾する方法を採用する。つまり、細断したチシマザサの生の葉や茎を高圧下で圧搾し、必要に応じてロ別して得られた圧搾汁を100〜700mmHgの減圧下、比較的低温、例えば70℃以下で蒸発濃縮する過程で発生する留出液を必要であれば濾過してチシマザサ留出液を得る。または100〜700mmHgの減圧下、例えば70℃以下で蒸発濃縮する過程で発生する留出液に、濃縮して得られる残留液を混合溶解した後濾過してチシマザサエキスを得る。前記圧搾汁をこの製造工程で充分保存安定性に優れたチシマザサ留出液またはチシマザサエキスが得られる。又、本発明の製造方法においては留出液の色相をガードナー色数試験法に基づき適時試験を行い、標準色数液1以下となるよう減圧度と留出液温を制御するものである。
圧搾汁を蒸発濃縮する工程において、常圧または760mmHgに近い減圧下で、70℃を超える温度で蒸発濃縮を行うと、留出液の色相は過熱により留出液中の糖質等が変質するために、色相はガードナー標準色数1より暗くなり、さらに常圧でこの操作を行うと、留出液温は100℃付近となることから色相、臭い共に悪化し、得られたチシマザサ水は化粧料として使用するには適さないものとなるからである。
このように色相を制御することで充分安定性に優れたチシマザサ水が得られるが、更なる品質向上のため工程の最終段階において雑菌の混入を避けるため精密ろ過を行うことも有効である。前記本発明の製造方法によるチシマザサ水は透明性が高く、殆ど異臭のない優れた植物留出液が得られ、人の肌に使用する化粧料配合成分に適した品質を有する。
又、現在の都市部の水道水は、河川、ダム、湖水など地表水が利用され、質の良い湧き水や地下水が豊富な地方ではそのまま水道水として使用することが出来る。しかし、いずれの場合も浄水処理をしなければならない。現在用いられている浄化処理としては、1)急速ろ過法、2)急速ろ過法の欠点を補う高度浄水処理法などの方法がとられている。我国の水道水水質基準は健康に関する項目、水道水の性状に関する項目、快適水質項目、監視項目の計85項目が定められていたが、1998年11月に監視項目が6項目追加され、さらに1999年12月に1項目、2000年9月に2項目を加え、現在は94項目となっている。
浄化処理の中で重要な処理として、細菌汚染を防ぐ目的から塩素処理が行なわれる。塩素は一般家庭の蛇口の段階で、遊離残存塩素として0.1mg/l以上(結合残留塩素の場合には0.4mg/l以上)を保持するように塩素消毒が行なうよう定められている。このように水道水として利用するために殺菌処理は必須条件である。
自然の大地に生育したチシマザサの葉および茎に存在する水は、生育している土壌のミネラル類や生長するための養分を溶解して組織全体に搬送する役目を果たしている。したがって、圧搾前に他の水による洗浄を行なうとチシマザサ水製造の工程で、洗浄水が含む微量のミネラル類および水道水の場合には塩素が混入・残存することが懸念される。特に水道水を洗浄水として使用する場合にはチシマザサ水がチシマザサ生体内に含有する抗菌性物質の活性を低減若しくは失活させる恐れがある。
また、地下水をそのまま洗浄水として使用する場合には、地下水が含有するミネラル類がチシマザサ水に混入してくることが考えられる。
さらに、水道水および地下水をイオン交換・蒸留した精製水を洗浄水として用いることは、それらの製造にかかわる経費のため経済的に不利であるとともに、本来チシマザサが含有する水に加算されてチシマザサ水に含有されることとなり、チシマザサが本来含有するミネラルおよび有効成分の濃度を低減してしまう。
本発明ではチシマザサの生の葉及び茎を自然のまま他の水による洗浄をせず圧搾して得られる圧搾汁を減圧下、70℃以下で加熱しながら分留して得られるチシマザサ水が、3.5〜4.8のpHであり、かつ、NMRによる放射性同位元素17O を測定したとき、半値幅として60Hz以下 であることを見出し、さらにこのチシマザサ水が化粧料の配合成分として使用するとき、色相及び臭いの点でも問題なく、かつ抗菌性を備えたものが得られるものである。
なお、水のNMRによる放射性同位元素17O を測定したときの半値幅が小さい水は、クラスターが小さく味が良く細胞への吸収が良く健康に良いことが提言されている(食品と開発、Vol.24,No.7,p.82−85(1985) )が、NMRによる放射性同位元素17Oスペクトルの線幅(半値幅)が水分子集団のサイズを反映すると云うことは未確認であり、17Oスペクトルの半値幅はpHと関係することが発表され(水環境学会誌、Vol.16, No.6, p.409−415 (1993))、半値幅が水分子集団のサイズを反映するものではないと前記の提言を否定した主張が現在では認められている。
【0008】
本発明では、これらの研究事実を勘案し、NMRによる放射性同位元素17Oスペクトルの線幅(半値幅)の測定結果を元に、チシマザサが組織中に含有している水分子は、一般の地下水や水道水の水分子と比べて水分子集団が小さいということを断言するものではないが、チシマザサの生の葉及び茎を自然のまま他の水による洗浄や加水をすることなく圧搾して得られる圧搾汁を減圧下で分留することで、その分留液即ちチシマザサ水が、3.5〜4.8のpHであり、かつNMRによる放射性同位元素17Oスペクトルの線幅(半値幅)を測定した時、他の水による洗浄を行なった場合および精製水と異なった性質の水であろうことを推察したものである。そして、得られるチシマザサ水のpHは3.5〜4.8が好ましい。3.5以下では酸性度が高く肌に塗布する化粧品に適当でないばかりか、特にアトピー性の肌には好ましくない。また、pHが4.8を超すと抗菌性及び保湿性に劣り化粧用に適さないことを見出したものである。
チシマザサの生の葉及び茎を自然のまま他の水による洗浄をせず圧搾して得られる圧搾汁を減圧下、70℃以下で加熱しながら分留することで、充分安定性に優れたチシマザサ水が得られるが、更なる品質向上のため工程の最終段階において雑菌の混入を避けるため精密ろ過を行うことも有効である。前記本発明の製造方法によるチシマザサ水は透明性が高く、殆んど異臭のない優れた植物留出液が得られ、人の肌に使用する化粧料配合成分に適した品質を有する。
本発明のチシマザサ水を配合して化粧料を製造する際には、化粧水等の美容液に通常用いられるものが挙げられ、たとえば保湿剤、pH調節剤、抗菌剤、収斂剤、酸化防止剤、粘度調節剤、色素、香料及び/または安定剤が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0009】
【実施例】
1.チシマザサ留出液の製造
【実施例1】
細断したチシマザサの生の葉や茎を50kg、約300〜350kg/cm2の加圧下で圧搾して異物を除去し、連続式減圧分留装置を用いて得られた圧搾汁4kgを450mmHgの減圧下、65℃で蒸発分留する過程で発生する3.1kgの留出液をチシマザサ留出液として得た。この製造工程で充分保存安定性に優れたチシマザサ留出液が得られるが、更なる品質向上のため工程の最終段階において雑菌の混在を避けるため0.45μmのフィルターを用いて精密濾過を行なった。このようにして得られるチシマザサ留出液は透明性が高く、殆んど異臭のないものが得られた。
上記の方法によって調製されたチシマザサ留出液の物性は以下の通りである。実施例で用いられている「%」は「重量%」である。
分析値:
糖質 0.5%以下
蛋白質 0.06%以下
脂質 0.01%以下
灰分 0.06%以下
水分 99.4%以上
該チシマザサ留出液は透明であり、特異臭はほとんど感じられず化粧料などの塗布剤には最適のものであった。
【0010】
【実施例2】
細断したチシマザサの生の葉や茎を50kg、約320kg/cm2の加圧下で圧搾して異物を除去し、得られた圧搾汁3.8kgを450mmHgの減圧下、65℃で蒸発分留する過程で発生する留出液3.0kgを得た。この液を試験管に採取し、ガードナー色数試験(日本工業規格 JIS K 0071−2 化学製品の色試験方法―第2部:ガードナー色数)に基づいて、色数標準液1と色数標準液0(精製水)を採取した試験管の間に置き、色数の試験を行ったところ、国際規格(ISO)の表示に従った結果は、“0より暗かった”であった。また透明性は高く、異臭もなかった。
この製造工程で充分保存安定性に優れたチシマザサ水が得られるが、更なる品質の向上のため工程の最終段階において、雑菌の混在を避けるため0.45μmのフィルターを用いて精密ろ過を行った。
上記の方法によって調製されたチシマザサ水の物性は以下のとおりである。
分析値:
糖質 0.75%
蛋白質 0.08%
脂質 0.02%
灰分 0.09%
水分 98.06%
該チシマザサ水は透明であり、ガードナー色数試験結果は、“0より暗かった”であり、これは精密ろ過前の結果と同じであった。また透明性は高く、特異臭はほとんど感じられず、化粧料など塗布剤には最適のものであった。
【0011】
【実施例3】
実施例2と同様の操作で得た圧搾汁3.8kgを、300mmHgの減圧下、55℃で蒸発分留する過程で発生する留出液3.1kgをチシマザサ水として得た。この留出液を試験管に採取し、ガードナー色数試験(日本工業規格 JIS K 0071−2 化学製品の色試験方法―第2部:ガードナー色数)に基づいて、色数標準液1と色数標準液0(精製水)を採取した試験管の間に置き、色数の試験を行ったところ、結果は “0”であった。また透明性は高く、異臭もなかった。
【0012】
【実施例4】
実施例2と同様の操作で得た圧搾汁3.8kgを、600mmHgの減圧下、70℃で蒸発分留する過程で発生する留出液3.0kgをチシマザサ水として得た。この液を試験管に採取し、ガードナー色数試験(日本工業規格 JIS K 0071−2 化学製品の色試験方法―第2部:ガードナー色数)に基づいて、色数標準液1と色数標準液0(精製水)を採取した試験管の間に置き、色数の試験を行ったところ、結果は “1より明るい”であった。また透明性は高く、異臭もなかった。
【0013】
【比較例1】
実施例2と同様の操作で得た圧搾汁3.8kgを、700mmHgの減圧下、90℃で蒸発分留する過程で発生する留出液2.8kgをチシマザサ水として得た。この液を試験管に採取し、ガードナー色数試験(日本工業規格 JIS K 0071−2化学製品の色試験方法―第2部:ガードナー色数)に基づいて、色数標準液2と色数標準液1を採取した試験管の間に置き、色数の試験を行ったところ、結果は “1より暗い”であった。また透明性は高いが、やや特異臭が感じられた。減圧度を低くしたため、留出温度が高くなったことで、チシマザサ水中に含まれる糖質が加熱により変質し、色の悪化、臭いの悪化を招いたものと思われる。
上記の方法で調製されたチシマザサ水の物性は以下の通りである。
分析値:
糖質 0.55%
蛋白質 0.08%
脂質 0.01%
灰分 0.09%
水分 99.27%
【0014】
【比較例2】
実施例2と同様の操作で得た圧搾汁3.8kgを、常圧760mmHg、101℃でする過程で発生する留出液2.8kgをチシマザサ水として得た。この液を試験管に採取し、ガードナー色数試験(日本工業規格 JIS K 0071−2 化学製品の色試験方法―第2部:ガードナー色数)に基づいて、色数標準液3と色数標準液2を採取した試験管の間に置き、色数の試験を行ったところ、結果は “3より明るい”であった。また透明性は高いが、焦げ付き臭を伴った特異臭が感じられた。蒸発分留操作が減圧下ではなく常圧下、留出温度100℃付近となったことで、チシマザサ水中に含まれる糖質等が加熱により変質・重質化し、色の悪化、臭いの悪化を招いたものと思われる。
上記の方法で調製されたチシマザサ水の物性は以下の通りであり、実施例2に比べ糖質分が減少し、灰分が増加していることが判った。
分析値:
糖質 0.52%
蛋白質 0.08%
脂質 0.01%
灰分 0.10%
水分 99.29%
【0015】
【実施例5】
細断したチシマザサの生の葉や茎50kgを、伐採後水洗することなくそのまま、約350kg/cm2の加圧下で圧搾して異物を除去し、得られた圧搾汁4kgを450mmHgの減圧下、65℃で蒸発分留する過程で発生する留出液3.1kgをチシマザサ水として得た。この液のpHを測定した時4.02であり、かつ、NMRによる放射性同位元素17O を測定したとき、半値幅として52Hz(ウォーターサイエンス協会測定) であった。しかも透明性は高く、異臭もなかった。このNMRによる測定は(1)測定核種:17O;(2)使用装置:JNM−GSX400 FT−NMR;(3)測定温度:25℃;(4)測定試料は精製水およびチシマザサ水であった。結果は精製水については半値幅71Hz、チシマザサ水については半値幅52Hzであった。なお半値幅はピークの高さの1/2の部分の幅(太さ)である。因みに水道水の半値幅は150〜155Hzである。
この製造工程で充分保存安定性に優れたチシマザサ水が得られるが、更なる品質の向上のため工程の最終段階において、雑菌の混在を避けるため0.45μmのフィルターを用いて精密ろ過を行った。
上記の方法によって調製されたチシマザサ水の物性は以下のとおりである。
分析値:
糖質 0.75%
蛋白質 0.08%
脂質 0.02%
灰分 0.09%
水分 98.06%
ガードナー色数(JIS K0071−2):「0より暗い」
該チシマザサ水は透明であり、特異臭はほとんど感じられず、化粧料など塗布剤には最適のものであった。
【0016】
【実施例6】
実施例5と同様の操作で得た圧搾汁4kgを、300mmHgの減圧下、55℃で蒸発分留する過程で発生する留出液3.2kgをチシマザサ水として得た。この液のpHは4.01であり、かつNMR(核磁気共鳴)による放射性同位元素17O を測定したとき、半値幅として50Hzを示し、ガードナー色数は「0」であった。しかも透明性は高く、異臭もなく、化粧料など塗布剤には最適のものであった。
【0017】
【比較例3】
伐採後水道水で充分洗浄したのち、細断したチシマザサの生の葉や茎50kgを、約350kg/cm2の加圧下で圧搾して異物を除去し、得られた圧搾汁4.5kgを450mmHgの減圧下、65℃で蒸発分留する過程で発生する留出液3.3kgをチシマザサ水として得た。この液のpHは5.30であり、かつNMRによる放射性同位元素17O を測定したとき、半値幅として70Hzであった。
上記の方法によって調製されたチシマザサ水の物性は以下のとおりである。
分析値:
糖質 0.65%
蛋白質 0.07%
脂質 0.01%
灰分 0.10%
水分 99.17%
ガードナー色数(JIS K0071−2):「0より暗い」
該チシマザサ水は透明であり、特異臭はほとんど感じられなかった。
なお、水道水は塩素によって殺菌処理されているので、含有する塩素の影響で、pHが中性に近くなり、同時にNMRによる放射性同位元素17O を測定したときの半値幅も大きくなったと考えられる。
【0018】
2.チシマザサ留出液の防腐性
<防腐力試験>
チシマザサ留出液の防腐力を観察するため、及びチシマザサの生産年によるチシマザサ留出液の防腐力の影響を見るため以下のような試験を行なった。
なお、以下の試験に供したチシマザサ留出液は上記1の製造方法〈実施例1〉で得た2002年生産チシマザサ留出液、及び同様にして得た2001年生産チシマザサ留出液で、以下の分析値を有する透明でかつ殆んど異臭のないものであった。
ア.試験サンプル
・2002年に生産されたチシマザサ留出液。
チシマザサ留出液(実施例1−1で得られたもの)
分析値:
糖質 0.43%
蛋白質 0.05%
脂質 0.01%
灰分 0.04%
水分 99.47%
・2001年に生産されたチシマザサ留出液。
チシマザサ留出液(実施例1−1と同様にして得られたもの)
分析値:
糖質 0.40%
蛋白質 0.03%
脂質 0.007%
灰分 0.04%
水分 99.5 %
・フェノキシエタノール0.5%水溶液(防腐剤としての対照として)
イ.供試菌
e.大腸菌(Escherichia coli ATCC8739)
f.黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aures ATCC6538)
g.緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa ATCC9027)
ウ.菌液の調製
細菌はSCDLPカンテン培地を用い、通常の方法に従い細菌は24時間培養後、単離したコロニーから生菌数5×106/mlの菌液とした。
エ.培養液の調製
チシマザサ留出液はそのまま5mlを培養液とした。フェノキシエタノールはリン酸緩衝液(pH7.2)に0.5%量を加えてよく混合し、その液5mlを用いた。
オ.培養
上記エ.の各培養液5mlに、ウ.で調製した各菌液を100μlずつ加えてよく混合する。植菌直後、1日後〜14日後にそれぞれの培養液を、細菌はSCDLPカンテン培地に塗沫して37℃24時間倒置培養して生菌数を測定した。
【0019】
カ.防腐効力
大腸菌については試験サンプルに調製した胞子溶液を3.2×105/ml摂種し、生菌数の経日消長を測定し、結果を表1及び図1に示した。
【表1】
この結果から、2002年に生産されたチシマザサ留出液は大腸菌に対して、2001年に生産されたチシマザサ留出液と同等の防腐力を示し、いずれも高い抗菌力が明らかとなった。
【0020】
黄色ブドウ球菌については試験サンプルに調製した胞子溶液を2.1×106/ml摂種し、生菌数の経日消長を測定し、結果を表2及び図2に示した。
【表2】
この結果から、2002年に生産されたチシマザサ留出液は黄色ブドウ球菌に対して、2001年に生産されたチシマザサ留出液と同等の防腐力を示し、いずれも高い抗菌力が明らかとなった。
【0021】
緑膿菌については試験サンプルに調製した胞子溶液を3.1×105/ml摂種し、生菌数の経日消長を測定し、結果を表3及び図3に示した。
【表3】
この結果から、2002年に生産されたチシマザサ留出液は緑膿菌に対して、2001年に生産されたチシマザサ留出液と同等の防腐効力を示し、大腸菌及び黄色ブドウ球菌ほどの即効性はないもののいずれも強い抗菌力を示した。
【0022】
表1〜3及び図1〜3に示したように、チシマザサ留出液は天然産物で抗菌性の変動が想定されたが、2ケ年に亘り安定した防腐性を示した。特に緑膿菌に対しては増殖を抑制し、大腸菌及び黄色ブドウ球菌に対しては、抗菌剤であるフェノキシエタノールに匹敵する防腐性、抗菌性が認められた。
【0023】
3.チシマザサ留出液の抗菌性及び保湿性
本発明の方法によって得られたチシマザサ留出液は、上記特性のみならず抗菌性及び保湿性を有する。これを以下に詳述する。
<抗菌力試験>
チシマザサ留出液の抗菌力を観察するために以下のような試験を行なった。
なお、以下の試験に供したチシマザサ留出液は上記2と同様のもので、透明でかつ殆んど異臭のないものであった。
ア.供試品
チシマザサ留出液(実施例1の1で得られたもの)
分析値:
糖質 0.43%
蛋白質 0.05%
脂質 0.01%
灰分 0.04%
水分 99.47%
フェノキシエタノール(防腐剤としての対照として)
パラオキシ安息香酸メチル(防腐剤としての対照として)
イ.供試菌
a.黒コウジカビ(Aspergillus niger ATCC16404)
b.カンジダ(Candida albicans ATCC10231)
c.黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aures ATCC6538)
d.大腸菌(Escherichia coli ATCC8739)
ウ.菌液の調製
真菌はサブロウカンテン培地に、細菌はSCDLPカンテン培地を用い、通常の方法に従い細菌は24時間後、カンジダは約48時間培養後、単離したコロニーから生理食塩水1mlに懸濁し、生菌数5×106/mlの菌液とした。黒コウジカビは約7日間培養して胞子を充分形成させたのち通常の方法に従って5×105/mlの菌液を調製した。
エ.培養液の調製
リン酸緩衝液(pH7.2)にチシマザサ留出液を2%、5%、10%、フェノキシエタノール0.5%量、パラオキシ安息香酸メチル0.1%量をそれぞれ加え、よく混合したものを各5mlずつを培養液とした。
オ.培養
上記エ.の防腐剤及び試料等を混合した培養液各5mlに、調製した各菌液を100μlずつ加えてよく混合する。植菌直後、1日後、5日後、7日後、14日後にそれぞれの培養液を、細菌はSCDLPカンテン培地に塗沫して37℃24時間倒置培養し、真菌はサブロウカンテン培地に塗沫し、カンジダは25℃48時間、黒コウジカビは25℃5日間倒置培養して生菌数を測定した。
【0024】
カンジダについては表4及び図4に、黒コウジカビについては表5及び図5に、黄色ブドウ球菌については表6及び図6に、及び大腸菌については表7及び図7に結果を示した。
【表4】
【0025】
【表5】
【0026】
【表6】
【0027】
【表7】
【0028】
上掲した表4及び図4より明らかなように、カンジダについてはチシマザサ留出液2%、5%および10%添加においてわずかに増加傾向が観察されたもののそれ以上には増殖せず抑制が認められる。また、表5及び図5より明らかなように、黒コウジカビについてもチシマザサ留出液2%、5%、10%添加のいずれにおいても培養液にかなりの増殖抑制効果が認められた。従って、チシマザサ留出液はカンジダ及び黒コウジカビ、即ち、真菌に対しては、その増殖を抑制することが明らかである。
また、表6及び図6に示したように、黄色ブドウ球菌に対して、チシマザサ留出液2%および5%添加においては、フェノキシエタノール0.5%およびパラオキシ安息香酸メチル0.1%添加に比べ著しい菌数の減少傾向が認められ、明らかに抗菌効果を示した。
さらに、大腸菌に対しても表7及び図7に示すように、チシマザサ留出液2%量ではその増殖をある程度抑えており、5%および10%添加においてフェノキシエタノール0.5%量およびパラオキシ安息香酸メチル0.1%量とほぼ同等の抗菌効果が認められた。
つまり、チシマザサ留出液は細菌に対して有為に菌数を減少せしめ、明らかに抗菌力が認められた。
また、本試験に用いたチシマザサ留出液100mlを口径40φの広口ビンに入れ室温下に30日間保存し、安定性を観察したところ菌数が5以下と全く増加が認められなかった。
以上の結果から、チシマザサ留出液は真菌及び細菌のいずれに対しても抗菌或は制菌効果が明らかである。
【0029】
4.チシマザサ留出液の保水性
次に、チシマザサ留出液の保水性を観察するため以下のような人の皮膚に対する保水性試験を行なった。
<人皮膚保水性試験>
ア.供試品
チシマザサ留出液は上掲した抗菌力試験に供したものを用いた。
4%グリセリン水溶液(良好な保水剤としての対照として)
イ.方法
各試料液を綿に充分浸した後、被験者の前額の1cm2に3分間塗布した。これを塗布前と塗布終了後1分、2分、3分、4分経過後の被験者の水分を表皮角質水分量測定装置KOMVSM−CM825PH(COURAGE KHAZAKA ELEC. COMP.社製)を用いて測定した。
結果を表8及び図8に示した。
なお、被験者は23歳から55歳の男女20人を無差別に抽出して平均値を求め皮膚の保水性の評価を行なった。
【0030】
【表8】
【0031】
表8及び図8より、塗布前の被験者は皮膚水分が28%〜55%の範囲にあり平均水分として37.7±8.4%であったが、チシマザサ留出液塗布3分後では71.8±9.1%に上昇して塗布による上昇幅は34.1%となった。比較対照として行なった4%グリセリン水溶液では、塗布前の被験者の皮膚水分が24%〜56%の範囲にあり、平均水分として38.4±3.9%であったが、塗布3分後では86.8%±8.5%に上昇し、皮膚水分の実質上昇幅は約48.4%とチシマザサ留出液の塗布したものより少し高い水分値であった。しかし、塗布終了後3分、4分経過するとともに、チシマザサ留出液の皮膚水分量は良好な保水剤である4%グリセリン水溶液を塗布した時の皮膚水分量に漸近した(図8)。
このことは、チシマザサ留出液は皮膚に対して4%グリセリンと同等の保水性を備えることが明らかである。
次に、チシマザサ留出液の安全性を調べるために健常人の皮膚に対してパッチテストを行い、安全性を評価した。
【0032】
5.チシマザサ留出液の安全性
<安全性試験>
ア.供試品
試験に用いたチシマザサ留出液は上記した3の抗菌力試験に供したものを用いた。
イ.試験方法
被験者は22歳から59歳までの男女40名を無作為で選び被験者とした。
ウ.パッチテストの方法
試料をフィンチャンバー(EPITEST Ltd.Oy製)を用いて被験者の上腕屈側部に24時間開閉塞貼付を行い判定した。即ち、貼付後24時間経過した時点で試料を除去し、除去後30分及び24時間後に皮膚の状態を観察して判定を行なった。
エ.判定基準
判定基準は以下の基準によった。
オ.パッチテストの結果
上記無作為で選んだ被験者は男女40名(22歳から59歳まで)についてパッチテストの結果、試料除去後30分間の反応及び試料除去後24時間の反応も全て陰性であり異常は認められなかった。従って、チシマザサ留出液は人の皮膚に対して刺激性がなく安全性の高いことが明らかとなった。
上記したように、チシマザサの圧搾液を減圧濃縮したチシマザサ留出液は、抗菌力、保水性を備えるとともに人の皮膚に対しても刺激性がなく安全性に優れていることが示された。
【0033】
6.チシマザサエキスの製造
【実施例7】
細断したチシマザサの生の葉や茎を50kg、約320kg/cm2の加圧下で圧搾して異物を除去し、連続式減圧分留装置を用いて得られた圧搾汁4kgを450mmHgの減圧下、65℃で蒸発濃縮する過程で発生する留出物3.1kgの水溶部に、その時濃縮して得られた残留液0.2kgを混合溶解した後濾過してチシマザサエキスを得る。この製造工程で充分保存安定性に優れたチシマザサエキスが得られるが、更なる品質向上のため工程の最終段階において雑菌の混在を避けるため0.45μmのフィルターを用いて精密濾過を行なった。前記本発明の製法によるチシマザサエキスは透明性が高く、殆んど異臭のないものが得られた。
上記の方法によって調製されたチシマザサエキスの物性は以下の通りである。実施例で用いられている「%」は「重量%」である。
分析値:
糖質 4.0〜 8.0%
蛋白質 0.3〜1.8%
脂質 0.3%以下
灰分 0.2〜0.7%
水分 89.8%〜95.2%
該チシマザサエキスは透明であり、特異臭はほとんど感じられず化粧料などの塗布剤には最適のものであった。
【0034】
7.チシマザサエキスの抗菌性及び保湿性
本発明の方法によって得られたチシマザサエキスは、上記特性のみならず抗菌性及び保湿性を有する。これを以下に詳述する。
<抗菌力試験>
チシマザサエキスの抗菌力を観察するために以下のような試験を行なった。
なお、以下の試験に供したチシマザサエキスは透明でかつ殆んど異臭のないものであった。
ア.供試品
チシマザサエキス(実施例2−1で得られたもの)
分析値:
糖質 4.6%
蛋白質 0.6%
脂質 0.1%
灰分 0.6%
水分 94.1%
フェノキシエタノール(防腐剤としての対照として)
パラオキシ安息香酸メチル(防腐剤としての対照として)
イ.供試菌
a.黒コウジカビ(Aspergillus niger ATCC16404)
b.カンジダ(Candida albicans ATCC10231)
c.黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aures ATCC6538)
d.大腸菌(Escherichia coli ATCC8739)
ウ.菌液の調製
真菌はサブロウカンテン培地に、細菌はSCDLPカンテン培地を用い、通常の方法に従い細菌は24時間後、カンジダは約48時間培養後、単離したコロニーから生理食塩水1mlに懸濁し、生菌数5×106/mlの菌液とした。黒コウジカビは約7日間培養して胞子を充分形成させたのち通常の方法に従って5×105/mlの菌液を調製した。
エ.培養液の調製
リン酸緩衝液(pH7.2)にチシマザサエキスを2%、5%、10%、フェノキシエタノール0.5%量、パラオキシ安息香酸メチル0.1%量をそれぞれ加え、よく混合したものを各5mlずつを培養液とした。
オ.培養
上記エ.の防腐剤及び試料等を混合した培養液各5mlに、調製した各菌液を100μlずつ加えてよく混合する。植菌直後、1日後、5日後、7日後、14日後にそれぞれの培養液を、細菌はSCDLPカンテン培地に塗沫して37℃24時間倒置培養し、真菌はサブロウカンテン培地に塗沫し、カンジダは25℃48時間、黒コウジカビは25℃5日間倒置培養して生菌数を測定した。
【0035】
カンジダについては表9及び図9に、黒コウジカビについては表10及び図10に、黄色ブドウ球菌については表11及び図11に、及び大腸菌については表12及び図12に結果を示した。
【表9】
【0036】
【表10】
【0037】
【表11】
【0038】
【表12】
【0039】
上掲した表9及び図9より明らかなように、カンジダについてはチシマザサエキス2%、5%および10%添加においてわずかに増加傾向が観察されたもののそれ以上には増殖せず抑制が認められる。また、表10及び図10より明らかなように、黒コウジカビについてもチシマザサエキス2%、5%、10%添加のいずれにおいても培養液にかなりの増殖抑制効果が認められた。従って、チシマザサエキスはカンジダ及び黒コウジカビ、即ち、真菌に対しては、チシマザサ留出液と同様に、その増殖を抑制することが明らかである。
また、表11及び図11に示したように、黄色ブドウ球菌に対して、チシマザサエキス2%および5%添加においては、フェノキシエタノール0.5%およびパラオキシ安息香酸メチル0.1%添加に比べ著しい菌数の減少傾向が認められ、明らかに抗菌効果を示した。
さらに、大腸菌に対しても表12及び図12に示すように、チシマザサエキス2%量ではその増殖をある程度抑えており、5%および10%添加においてフェノキシエタノール0.5%量およびパラオキシ安息香酸メチル0.1%量とほぼ同等の抗菌効果が認められた。
つまり、チシマザサエキスは細菌に対してチシマザサ留出液と同様に、有為に菌数を減少せしめ、明らかに抗菌力が認められた。
また、本試験に用いたチシマザサエキス100mlを口径40φの広口ビンに入れ室温下に30日間保存し、安定性を観察したところ菌数が5以下と全く増加が認められなかった。
以上の結果から、チシマザサエキスは真菌及び細菌のいずれに対してもチシマザサ留出液と同様に、抗菌或は制菌効果が明らかである。
【0040】
8.チシマザサエキスの保水性
次に、チシマザサエキスの保水性を観察するため以下のような人の皮膚に対する保水性試験を、チシマザサ留出液の場合と同様の操作で行なった。
<人皮膚保水性試験>
ア.供試品
チシマザサエキスは上掲した抗菌力試験に供したものを用いた。
4%グリセリン水溶液(良好な保水剤としての対照として)
イ.方法
各試料液を綿に充分浸した後、被験者の前額の1cm2に3分間塗布した。これを塗布前と塗布終了後1分、2分、3分、4分経過後の被験者の水分を表皮角質水分量測定装置KOMVSM−CM825PH(COURAGE KHAZAKA ELEC. COMP.社製)を用いて測定した。
結果を表13及び図13に示した。
なお、被験者は21歳から53歳の男女20人を無差別に抽出して平均値を求め皮膚の保水性の評価を行なった。
【0041】
【表13】
【0042】
表13及び図13より、塗布前の被験者は皮膚水分が27%〜52%の範囲にあり平均水分として36.9±7.9%であったが、チシマザサエキス塗布3分後では74.9±10.8%に上昇して塗布による上昇幅は38%となった。比較対照として行なった4%グリセリン水溶液では、塗布前の被験者の皮膚水分が23%〜58%の範囲にあり、平均水分として37.0±3.6%であったが、塗布3分後では84%±7.8%に上昇し、皮膚水分の実質上昇幅は約47%とチシマザサエキスの塗布したものより少し高い水分値であった。しかし、塗布終了後3分、4分経過するとともに、チシマザサエキスの皮膚水分量は良好な保水剤である4%グリセリン水溶液を塗布した時の皮膚水分量に漸近した(図13)。
このことは、チシマザサエキスはチシマザサ留出液と同様に、皮膚に対して4%グリセリンと同等の保水性を備えることが明らかである。
次に、チシマザサエキスの安全性を調べるために健常人の皮膚に対してパッチテストを行い、安全性を評価した。
【0043】
9.チシマザサエキスの安全性
<安全性試験>
ア.供試品
試験に用いたチシマザサエキスは上記した2の抗菌力試験に供したものを用いた。
イ.試験方法
被験者は20歳から54歳までの男女44名を無作為で選び被験者とした。
ウ.パッチテストの方法
試料をフィンチャンバー(EPITEST Ltd.Oy製)を用いて被験者の上腕屈側部に24時間開閉塞貼付を行い判定した。即ち、貼付後24時間経過した時点で試料を除去し、除去後30分及び24時間後に皮膚の状態を観察して判定を行なった。
エ.判定基準
判定基準は以下の基準によった。
オ.パッチテストの結果
上記無作為で選んだ被験者は男女44名(20歳から54歳まで)についてパッチテストの結果、試料除去後30分間の反応及び試料除去後24時間の反応も全て陰性であり異常は認められなかった。従って、チシマザサエキスは人の皮膚に対して刺激性がなく安全性の高いことが明らかとなった。
上記したように、チシマザサの圧搾液を減圧濃縮したチシマザサエキスは、抗菌力、保水性を備えるとともに人の皮膚に対しても刺激性がなく安全性に優れていることが示された。
【0044】
10.化粧料
【実施例8】
チシマザサ留出液配合化粧料
次に、上掲した抗菌力試験に供したチシマザサ留出液を用いて、具体的に化粧水、クリーム、及びヘアトニックに配合した化粧料への応用例を示す。
【処方例】
1)化粧水の処方例
常温下で(1)から(10)を順次混合して化粧水を得た。
得られた処方例1、2及び3の化粧水はいずれも透明で、これらを室温下に3ヶ月保存したが大腸菌の菌数増加は認められず、にごりなども発生せず安定したものであった。
塗布試験においてもいずれ嫌味のある特異臭などもなく、しっとり感を備えも良好なものであった。
【0045】
2)クリームの処方例
(1)から(12)の液を80〜85℃の温度に加熱溶解して油相液を調製し、これに予め(13)から(16)を溶解して80〜85℃の温度に加熱した水相液を混合して常法に従って乳液を作製する。冷却後(17)を混合してクリームを得る。
得られた処方例4、5及び6のクリームを、室温下に3ヶ月保存したがいずれも大腸菌の菌数増加は認められず安定したものであった。また、いずれの処方も塗布試験においても嫌味のある特異臭もなく、滑らかな延びのある、しっとり感を備えた良好なクリームであった。
【0046】
3)ヘアトニックの処方例
常温下で(1)から(11)を順次混合して常法によりヘアトニックを得た。
得られた処方例7、8及び9のヘアトニックを室温下に3ヶ月保存し大腸菌の菌数を測定したが菌数の増加は認められず安定したものであった。また、これを頭皮に塗布した結果、痒みなどの発生もなく、嫌味臭もなく、しっとり感を備えいずれも良好なヘアトニックであった。
【0047】
【実施例9】
チシマザサエキス配合化粧料
次に、上掲した抗菌力試験に供したチシマザサエキスを用いて、具体的に化粧水、クリーム、及びヘアトニックに配合した化粧料への応用例を示す。
なお、本発明は、以下の処方例に限定されるものではない。
【処方例】
1)化粧水の処方例
常温下で(1)から(10)を順次混合して化粧水を得た。
得られた処方例10、11、及び12の化粧水はいずれも透明で、これらを室温下に3ヶ月保存したが大腸菌の菌数増加は認められず、にごりなども発生せず安定したものであった。
塗布試験においてもいずれ嫌味のある特異臭などもなく、しっとり感を備えも良好なものであった。
【0048】
2)クリームの処方例
(1)から(12)の液を80〜85℃の温度に加熱溶解して油相液を調製し、これに予め(13)から(16)を溶解して80〜85℃の温度に加熱した水相液を混合して常法に従って乳液を作製する。冷却後(17)を混合してクリームを得る。
得られた処方例13、14及び15のクリームを、室温下に3ヶ月保存したがいずれも大腸菌の菌数増加は認められず安定したものであった。また、いずれの処方も塗布試験においても嫌味のある特異臭もなく、滑らかな延びのある、しっとり感を備えた良好なクリームであった。
【0049】
3)ヘアトニックの処方例
常温下で(1)から(11)を順次混合して常法によりヘアトニックを得た。
得られた処方例16、17及び18のヘアトニックを室温下に3ヶ月保存し大腸菌の菌数を測定したが菌数の増加は認められず安定したものであった。また、これを頭皮に塗布した結果、痒みなどの発生もなく、嫌味臭もなく、しっとり感を備えいずれも良好なヘアトニックであった。
【0050】
【発明の効果】
チシマザサの生の葉及び茎を圧搾して得られる圧搾汁を減圧下、例えば100〜700mmHgの減圧下、比較的低温、例えば70℃以下で蒸発濃縮する過程で発生する留出液を必要であれば濾過して得られるチシマザサ留出液、またはチシマザサの生の葉及び茎を圧搾して得られる圧搾汁を減圧下、比較的低温、例えば70℃以下の温度で蒸発濃縮する過程で発生する留出物の水溶部に、濃縮して得られる残留液を混合溶解した後濾過して得られる透明な留出液エキスであるチシマザサエキスは植物由来であるため、合成化学薬品と異なり肌にもやさしく生分解性にも優れているので環境にもやさしく、かつ透明性を保持し、留出液やエキス本来の異臭も少ないため、従来にない化粧料、医薬品を得ることができる。また、細菌や真菌に対して増殖抑制効果及び抗菌力及び保水性を示し、これを配合した化粧料においても菌数の増加がなくしっとり感を備え、かつ皮膚刺激性のない安全性に優れた化粧料を提供できる。
チシマザサ留出液またはエキスは化粧料に留まらず医薬品や食品にも応用できる優れたものである。
チシマザサの生の葉および茎を圧搾して得られる圧搾汁を、減圧下、加熱しながら分留して得られるチシマザサ水を、簡便かつ数値的に表現できる方法であるJIS K−0071−2 ガードナー色数試験法に基づいて試験し、標準色数1以下に制御しながら分留操作を行うことで、色、臭いが化粧料の原料として使用に適したチシマザサ留出液が得られ、又、他の水による洗浄を行なわない留出液が、3.5〜4.8のpHであり、かつ、核磁気共鳴による放射性同位元素17O を測定したとき、半値幅が60Hz以下のものが透明性が高く、異臭のないものである。これらは本来チシマザサ水の有する抗菌性を損なうことなく、安定的な品質を有した化粧品原料として使用ができ、クリーム、乳液、モイスチャライジング、ローションなど幅広く基礎化粧品等に使用できる。
【0051】
【図面の簡単な説明】
【図1】大腸菌に対する生産年の違うチシマザサ留出液の抗菌力を比較して示したグラフである。
【図2】黄色ブドウ球菌に対する生産年の違うチシマザサ留出液の抗菌力を比較して示したグラフである。
【図3】緑膿菌に対する生産年の違うチシマザサ留出液の抗菌力を比較して示したグラフである。
【図4】カンジダに対するチシマザサ留出液の抗菌力を示すグラフである。
【図5】黒コウジカビに対するチシマザサ留出液の抗菌力を示すグラフである。
【図6】黄色ブドウ球菌に対するチシマザサ留出液の抗菌力を示すグラフである。
【図7】大腸菌に対するチシマザサ留出液の抗菌力を示すグラフである。
【図8】チシマザサ留出液の保水性を示すグラフである。
【図9】カンジダに対するチシマザサエキスの抗菌力を示すグラフである。
【図10】黒コウジカビに対するチシマザサエキスの抗菌力を示すグラフである。
【図11】黄色ブドウ球菌に対するチシマザサエキスの抗菌力を示すグラフである。
【図12】大腸菌に対するチシマザサエキスの抗菌力を示すグラフである。
【図13】チシマザサエキスの保水性を示すグラフである。
Claims (12)
- チシマザサの生の葉及び茎を圧搾して得られる圧搾汁を加熱しながら分留して得られる留出液。
- チシマザサの生の葉及び茎を圧搾して得られる圧搾汁を加熱しながら分留して得られる留出液に、留出後の残留液を混合溶解した後濾過して得られる留出液エキス。
- 分留が減圧下、70℃以下の温度で行なわれるものである請求項1又は2記載の留出液または留出液エキス。
- 留出液が、ガードナー色数試験法における色数試験を行ったとき、色数標準液1以下の色相のものである請求項1、2又は3記載のチシマザサ留出液又は留出液エキス。
- 留出液が、3.5〜4.8のpHであり、かつ、核磁気共鳴による放射性同位元素17O を測定したとき、半値幅として60Hz以下のものである請求項1、2又は3記載のチシマザサ留出液又は留出液エキス。
- 請求項1、2、3、4又は5記載のチシマザサ留出液又は留出液エキスを含有する抗菌性及び保水性を備え、かつ安全性に優れた化粧料。
- チシマザサの生の葉および茎を圧搾して得られる圧搾汁を、加熱しながら分留することを特徴とする留出液の製造方法。
- 分留が減圧下、70℃以下の温度で行われるものである請求項7記載の留出液の製造方法。
- 分留における減圧が100〜700mmHgである請求項8記載の留出液の製造方法。
- 分留において、留出液の色相をガードナー色数試験法に基き色数試験を行い、色数標準液1以下となるよう減圧度と留出温度を制御する請求項7、8又は9記載の留出液の製造方法。
- 圧搾をチシマザサの生の葉および茎を他の水による洗浄をすることなく行い、加熱しながら分留して得られる留出液が、3.5〜4.8のpHであり、かつ、核磁気共鳴による放射性同位元素17O を測定したとき、半値幅として60Hz以下 である請求項7、8又は9記載の留出液の製造方法。
- 留出液がチシマザサ水である請求項7、8、9、10又は11記載の留出液の製造方法。
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