JP2004269393A - 骨の欠損部又は空隙部への充填材の製造方法及び多孔質硬化体の製造方法並びに該方法により製造される多孔質硬化体 - Google Patents

骨の欠損部又は空隙部への充填材の製造方法及び多孔質硬化体の製造方法並びに該方法により製造される多孔質硬化体 Download PDF

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Abstract

【課題】種々の気孔率、気孔径が得られる。生体に対する高い親和性と優れた骨修復性を有し、生体組織が侵入し同化するのに適する。
【解決手段】骨の欠損部又は空隙部への充填材の製造方法は、平均粒径2.0μm〜8.0μmのα−TCP、平均粒径2.0μm〜8.0μmのTeCP及び平均粒径2.0μm〜8.0μmのDCPDをそれぞれ主成分として含み、TeCPが10〜25重量%、DCPDが3〜10重量%及びα−TCPを含む成分が65〜87重量%の組成比を有するセメント粉末を調製する工程と、セメント粉末と硬化用液体とをセメント粉末と硬化用液体の重量混合比(粉末/液体)が3〜7の割合で混合する工程と、混合物を遠心造粒して平均粒径1.0mm〜5.0mmの粒子状物質を成形する工程とを含む。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、医科、歯科などで骨の欠損部又は空隙部に充填して当該箇所を修復するために用いられる充填材の製造方法に関するものである。また、本発明は、口腔外科を含む医科の分野において骨補修治療に用いられ、自在な形状形成が可能な多孔質硬化体の製造方法及びこの方法により製造される多孔質硬化体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、骨補修用材料には、(1)生体に対する高い親和性と優れた骨修復性、(2)生体組織が侵入し同化するのに適した多孔質体であること、及び(3)補修すべき骨欠損の形状に適合する賦形性等が要求される。例えば、(1)及び(2)を満足するものとして、アパタイトに代表されるセラミック人工骨が頻用されてきた。また、(1)及び(3)を満足するものとして、リン酸カルシウムセメントが知られている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、アパタイト人工骨には賦形性がなく、リン酸カルシウムセメントには多孔質体を形成することができず、この両方を兼ね備えた材料が待望されていた。
このような上記問題点を解決する方策として、本出願人は、リン酸カルシウム化合物が硬化液によりペースト状に調製された生体用セメントに、サイズが50μm以上1mm以下のカルシウム化合物又はカルシウムとリンを含む化合物のいずれか一方又は双方が生体用セメント100体積%に対して5〜900体積%分散してなる骨の欠損部又は空隙部への充填材を提案した(例えば、特許文献2参照。)。また、生体内における適合性及び周囲の骨形成が良好な第1無機化合物と生体内において毒性がなくかつ高い吸収性を有する第2無機化合物とを含み、その含有割合が第2無機化合物100体積%に対して第1無機化合物1〜10000体積%であることを特徴とする骨の欠損部等への充填材を提案した(例えば、特許文献3参照。)。
【0003】
【特許文献1】
特開昭64−37445号公報
【特許文献2】
特開2001−9021号公報
【特許文献3】
特開2001−54565号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記特許文献2及び特許文献3に示された充填材では、充填する前に所望の気孔率及び気孔径となるように充填材を調製しておかなければならず、充填した後の気孔率、気孔径の制御が困難であった。
本発明の第1の目的は、種々の気孔率及び気孔径が得られる骨の欠損部又は空隙部への充填材の製造方法を提供することにある。
本発明の第2の目的は、補修すべき骨欠損の形状に適合する賦形性を有する、骨の欠損部又は空隙部への充填材の製造方法を提供することにある。
本発明の第3の目的は、種々の気孔率及び気孔径を有する多孔質硬化体を容易に得ることができる、多孔質硬化体の製造方法を提供することにある。
本発明の第4の目的は、生体に対する高い親和性と優れた骨修復性を有し、生体組織が侵入し同化するのに適した、多孔質硬化体を提供することにある。
本発明の第5の目的は、補修すべき骨欠損の形状に適合する賦形性を有する、多孔質硬化体の製造方法及び該製造方法により得られる多孔質硬化体を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る発明は、平均粒径2.0μm〜8.0μmのα型第3リン酸カルシウム(以下、α−TCPという。)、平均粒径2.0μm〜8.0μmの第4リン酸カルシウム(以下、TeCPという。)及び平均粒径2.0μm〜8.0μmの第2リン酸カルシウム(以下、DCPDという。)をそれぞれ主成分として含み、TeCPが10〜25重量%、DCPDが3〜10重量%及びα−TCPを含む成分が65〜87重量%の組成比を有するセメント粉末(以下、セメント粉末という。)を調製する工程と、セメント粉末と硬化用液体とをセメント粉末と硬化用液体の重量混合比(粉末/液体)が3〜7の割合で混合する工程と、混合物を遠心造粒して平均粒径1.0mm〜5.0mmの粒子状物質を成形する工程とを含む骨の欠損部又は空隙部への充填材の製造方法である。
請求項1に係る発明では、上記工程を経ることにより、種々の気孔率、気孔径が得られ、補修すべき骨欠損の形状に適合する賦形性を有する充填材が得られる。
【0006】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、硬化用液体が水を主成分とする液体、骨髄液及び血液からなる群より選ばれた1種又は2種以上を含む液体である製造方法である。
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明であって、遠心造粒が混合物を貯留した容器に公転回転及び自転回転の双方を同時に加えて混合物中のセメント粉末と硬化用液体を練和することにより行われ、公転回転が1000rpm〜3000rpm、自転回転が200rpm〜600rpmの条件で10秒〜60秒間行われる製造方法である。
【0007】
請求項4に係る発明は、図1に示すように、平均粒径2.0μm〜8.0μmのα−TCP、平均粒径2.0μm〜8.0μmのTeCP及び平均粒径2.0μm〜8.0μmのDCPDをそれぞれ主成分として含み、TeCPが10〜25重量%、DCPDが3〜10重量%及びα−TCPを含む成分が65〜87重量%の組成比を有するセメント粉末を調製する工程と、セメント粉末と硬化用液体とをセメント粉末と硬化用液体の重量混合比(粉末/液体)が3〜7の割合で混合する工程と、混合物を遠心造粒して平均粒径1.0mm〜5.0mmの粒子状物質を成形する工程と、粒子状物質を骨欠損部又は空隙部にプレス成形する工程と、プレス成形物を養生して硬化させ、多孔質硬化体を形成する工程とを含む多孔質硬化体の製造方法である。
請求項5に係る発明は、平均粒径2.0μm〜8.0μmのα−TCP、平均粒径2.0μm〜8.0μmのTeCP及び平均粒径2.0μm〜8.0μmのDCPDをそれぞれ主成分として含み、TeCPが10〜25重量%、DCPDが3〜10重量%及びα−TCPを含む成分が65〜87重量%の組成比を有するセメント粉末を調製する工程と、セメント粉末と硬化用液体とをセメント粉末と硬化用液体の重量混合比(粉末/液体)が3〜7の割合で混合する工程と、混合物を遠心造粒して平均粒径1.0mm〜5.0mmの粒子状物質を成形する工程と、粒子状物質をゲル状物質に混合してゲル状混合物を形成する工程と、ゲル状混合物を所定の形状にプレス成形する工程と、プレス成形物を養生して硬化させ、多孔質硬化体を形成する工程とを含む多孔質硬化体の製造方法である。
請求項4又は5に係る発明では、上記工程を経ることにより、種々の気孔率、気孔径を有し、補修すべき骨欠損の形状に適合する賦形性を有する、多孔質硬化体を容易に得ることができる。
【0008】
請求項6に係る発明は、請求項4又は5に係る発明であって、硬化用液体が水を主成分とする液体、骨髄液及び血液からなる群より選ばれた1種又は2種以上を含む液体である製造方法である。
請求項7に係る発明は、請求項4ないし6いずれか1項に係る発明であって、遠心造粒が混合物を貯留した容器に公転回転及び自転回転の双方を同時に加えて混合物中のセメント粉末と硬化用液体を練和することにより行われ、公転回転が1000rpm〜3000rpm、自転回転が200rpm〜600rpmの条件で10秒〜60秒間行われる製造方法である。
請求項8に係る発明は、請求項4又は5に係る発明であって、プレス成形が300g/cm〜2kg/cmの範囲内で行われる製造方法である。
【0009】
請求項9に係る発明は、請求項4又は5に係る発明であって、プレス成形物の養生が10℃〜40℃で、15分以上の条件で行われる製造方法である。
請求項10に係る発明は、請求項4又は5に係る発明であって、プレス成形物の表面をゲル状物質により被覆する工程を更に含む製造方法である。
請求項11に係る発明は、請求項5又は10に係る発明であって、粒子状物質とゲル状物質との混合割合が重量比(粒子状物質/ゲル状物質)で0.5〜5.0である製造方法である。
請求項12に係る発明は、請求項5,10又は11に係る発明であって、ゲル状物質がコラーゲン水溶液、フィブリン、カルボキシルメチルキチン(以下、CMキチンという。)、フィブロネクチン、アルギン酸及びヒアルロン酸からなる群より選ばれた1種又は2種以上の物質である製造方法である。
【0010】
請求項13に係る発明は、請求項1ないし3いずれか1項に記載の方法により製造される充填材を所定の形状にプレス成形し、得られたプレス成形物を養生して硬化させた硬化体が、気孔率が50%〜70%、気孔径が0.5mm〜2.0mm及びその圧縮強度が1MPa〜10MPaであることを特徴とする多孔質硬化体である。
請求項13に係る発明では、上記物性を有する多孔質硬化体は、骨欠損部又は空隙部に充填した際に、生体に対する高い親和性と優れた骨修復性を有し、生体組織が侵入し同化するのに適した気孔を有し、かつ、補修すべき骨欠損の形状に適合する賦形性を有することができる。
【0011】
請求項14に係る発明は、請求項4ないし12いずれか1項に記載の方法により製造される硬化体であって、気孔率が50%〜70%、気孔径が0.5mm〜2.0mm及びその圧縮強度が1MPa〜10MPaであることを特徴とする多孔質硬化体である。
請求項14に係る発明では、上記物性を有する多孔質硬化体は、骨欠損部又は空隙部に充填した際に、生体に対する高い親和性と優れた骨修復性を有し、生体組織が侵入し同化するのに適した気孔を有し、かつ、補修すべき骨欠損の形状に適合する賦形性を有することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明者らは上述の観点から鋭意研究を進めた結果、骨欠損部又は空隙部に充填する充填材の形状を所定の平均粒径を有する粒子状物質とすることで、骨補修用材料に要求される前述の(1)〜(3)の全ての要件を満足することができるという研究結果を得た。
本発明の骨欠損部又は空隙部への充填材の製造方法は、平均粒径2.0μm〜8.0μmのα−TCP、平均粒径2.0μm〜8.0μmのTeCP及び平均粒径2.0μm〜8.0μmのDCPDをそれぞれ主成分として含み、TeCPが10〜25重量%、DCPDが3〜10重量%及びα−TCPを含む成分が65〜87重量%の組成比を有するセメント粉末を調製する工程と、セメント粉末と硬化用液体とをセメント粉末と硬化用液体の重量混合比(粉末/液体)が3〜7の割合で混合する工程と、混合物を遠心造粒して平均粒径1.0mm〜5.0mmの粒子状物質を成形する工程とを含む。
本発明のセメント粉末は、平均粒径2.0μm〜8.0μmのα−TCP、平均粒径2.0μm〜8.0μmのTeCP及び平均粒径2.0μm〜8.0μmのDCPDをそれぞれ主成分として含む。各成分の平均粒径が下限値未満であると作業性が低下し、強度が低下するため好ましくない。α−TCPの好ましい平均粒径は2.0μm〜5.0μmであり、TeCPの好ましい平均粒径は2.0μm〜5.0μmであり、DCPDの好ましい平均粒径は2.0μm〜5.0μmである。
【0013】
TeCPには、硬化体が生体骨へ再生する吸収置換性を促進する作用がある。このTeCPのセメント粉末への組成比割合は10重量%〜25重量%である。組成比割合が10重量%未満であると充分な促進作用が得られず、25重量%を越えると硬化体の強度が低下する。TeCPの製造方法は、次の通りである。先ず、水酸化カルシウム4モルを10リットルの水に懸濁させて懸濁液を調製する。この懸濁液にリン酸2モルを水で希釈してなる40重量%リン酸水溶液を攪拌しながらゆっくり滴下し、滴下終了後、室温下で1日間放置する。次いで、乾燥器で110℃に加熱してこの温度で24時間保持することにより乾燥させて凝集体を形成する。次に、得られた凝集体を900℃に3時間保持して仮焼結し、引き続いて仮焼結したものを均一に粉砕し、粉砕物を1400℃で3時間保持して焼結する。次に、焼成生成物を粉砕し、篩い分けにて篩目が100μm以下(平均粒径8.0μm)とする。上記工程を経ることにより、TeCPの含有割合が90.5%で残りが実質的に不可避な不純物としての水酸アパタイトからなる混合生成物が得られる。
【0014】
DCPDには、スラリーの硬化体への凝結を促進する作用がある。このDCPDのセメント粉末への組成比割合は3重量%〜10重量%である。組成比割合が3重量%未満では、十分な凝結促進作用を確保することができず、10重量%を越えると、硬化時間が短くなりすぎてしまい、作業性が低下する。α−TCPは、良好な水和活性を有し、硬化する。このα−TCPを含む成分のセメント粉末への組成比割合は65重量%〜87重量%である。65重量%未満であると、操作性が低下し、87重量%を越えると強度低下するため好ましくない。α−TCPの製造方法は、次の通りである。先ず、水酸化カルシウム3モルを10リットルの水に懸濁させて懸濁液を調製する。この懸濁液にリン酸2モルを水で希釈してなる40重量%リン酸水溶液を攪拌しながらゆっくり滴下し、滴下終了後、室温下で1日間放置する。次いで、乾燥器で110℃に加熱してこの温度で24時間保持することにより乾燥させて凝集体を形成する。次に、得られた凝集体を1400℃で3時間保持して焼成する。次に、焼成生成物を粉砕し、篩い分けにて篩目が100μm以下(平均粒径8.0μm)とする。上記工程を経ることにより、純度99.9%のα−TCPが得られる。
TeCP、DCPD及びα−TCPを含む成分をそれぞれ上記割合、即ちTeCPが10〜25重量%、DCPDが3〜10重量%及びα−TCPを含む成分が65〜87重量%となるように混合してセメント粉末を調製する。
【0015】
次いで、セメント粉末と硬化用液体とをセメント粉末と硬化用液体の重量混合比(粉末/液体)が3〜7の割合で混合する。硬化用液体としては、硬化用液体が水を主成分とする液体、骨髄液及び血液からなる群より選ばれた1種又は2種以上を含む液体が挙げられる。セメント粉末と硬化用液体の重量混合比(粉末/液体)が3未満、即ち硬化用液体の割合が高くなると、後に続く工程において形成される粒子状物質はゆるい粒子となってしまい、このゆるい粒子を充填材として骨の欠損部又は空隙部へ充填した場合、体液との接触によって崩壊しやすくなるため好ましくない。また重量混合比(粉末/液体)が7を越える、即ち硬化用液体の割合が低くなると、後に続く工程において形成される粒子状物質が短い時間で完全に硬化してしまうため、所定の形態を付与することが困難となる。好ましい重量混合比(粉末/液体)は4.5〜6.5である。
【0016】
次に、混合物を遠心造粒して平均粒径1.0mm〜5.0mmの粒子状物質を成形する。本発明に使用する遠心造粒装置は、例えば「スピンクル」(商品名:モリタ東京製作所製)や「あわとり練太郎」(商品名:シンキー社製)や「ハイブリッドミキサー」(商品名:株式会社キーエンス)を挙げることができる。これらの遠心造粒装置を使用して混合物を遠心造粒して平均粒径1.0mm〜5.0mmの粒子状物質を成形する。遠心造粒は混合物を貯留した容器に公転回転及び自転回転の双方を同時に加えて混合物中のセメント粉末と硬化用液体を練和することにより行われる。公転回転は1000rpm〜3000rpm、自転回転は200rpm〜600rpm、上記公転回転及び自転回転を10秒〜60秒間行う。公転回転が1500rpm〜2500rpm、自転回転が300rpm〜500rpm、上記公転回転及び自転回転を20秒〜40秒間行うことが好ましい。この遠心造粒作用によってセメント粉末と硬化用液体がほぼ球状に造粒される。得られる粒子状物質の粒子径は、粉体と液体の混合割合により、自在に制御することが可能である。
【0017】
図1に遠心造粒装置に装着する二重容器の断面図を示す。
遠心造粒装置に装着する二重容器11は、外容器本体12aとその上部開口を脱着可能に覆う外蓋12bとからなる外容器12と、該外容器12内に収容可能な内容器本体13とその上部開口を脱着可能に覆うツマミ14付きの内蓋13bとからなる内容器13から構成されている。内容器13は、内蓋13bを取り付けた状態で外容器本体12a内に収容され、外蓋12bを取り付けた状態で、内容器13のツマミ14の上端が外蓋12b内面に近接するか又は接触するようになっている。外容器本体12aの内方側底面には、十文字の凹部が設けられ、一方、内容器本体13aの外方側底面には、その十文字の凹部に嵌入される十文字の突起(ロック機構)が設けられ、外容器12内に内容器13を収容し、突起16を凹部に嵌入することによって、外容器12内で内容器13が回転することなく保持できるようになっている。
このような構成を有する二重容器11では、先ず、滅菌処理した内容器本体13aに、滅菌済みのセメント粉末と硬化用液体とを所定の割合で混合した混合物を入れ、内蓋13bを閉じる。次いで内容器13を滅菌処理した外容器12内に収容し、突起16を凹部に嵌入した後、外蓋12bを閉める。次に、混合物を入れた二重容器11を前述した遠心造粒装置(図示せず)に装着する。二重容器を装着した遠心造粒装置に、公転回転と自転回転とを同時に加えて遠心造粒する。遠心造粒終了後は、二重容器11の外蓋12bを開けて外容器12内部から内容器13を取出し、内蓋13bを開けて形成した平均粒径1.0mm〜5.0mmの粒子状物質を取出す。この得られた粒子状物質を骨の欠損部又は空隙部への充填材とする。
【0018】
上記本発明の方法により製造される充填材を所定の形状にプレス成形し、得られたプレス成形物を養生して硬化させた本発明の多孔質硬化体は、気孔率が50%〜70%、気孔径が0.5mm〜2.0mm及びその圧縮強度が1MPa〜10MPaであることを特徴とする。上記物性を有することで、骨欠損部又は空隙部に充填した際に、生体に対する高い親和性と優れた骨修復性を有し、生体組織が侵入し同化するのに適した気孔を有し、かつ、補修すべき骨欠損の形状に適合する賦形性を有することができる。
【0019】
続いて、本発明の多孔質硬化体の製造方法を説明する。
先ず、本発明の骨欠損部又は空隙部への充填材の製造方法において得られた粒子状物質を用い、図2に示すように、骨21の欠損部22又は空隙部に粒子状物質23を所定量充填する(図2(a)及び図2(b))。次いで、骨欠損部又は空隙部に充填した充填物23をプレス成形する(図2(c))。このプレス成形により骨21の欠損部22又は空隙部へ充填した充填物23の気孔率及び気孔径を容易に制御することができる。プレス成形は300g/cm〜2kg/cmの範囲内で行われる。300g/cm未満であると骨欠損部又は空隙部表面と充填物との界面結合が弱くなり、2kg/cmを越えると粒子状物質自体がプレス成形により潰れてしまい、気孔の形成、気孔率、気孔径の制御がそれぞれ困難になる。プレス成形は500g/cm〜1.5kg/cmの範囲内が好ましい。
次に、プレス成形物を養生して硬化させ、多孔質硬化体を形成する。プレス成形物の養生は10℃〜40℃で、15分以上の条件で行われる。好ましくは20℃〜30℃で、30分〜60分である。このようにして得られた多孔質硬化体は、種々の気孔率及び気孔径を容易に形成することができ、補修すべき骨欠損の形状に適合する賦形性を有することができる。
【0020】
また、プレス成形物の表面をゲル状物質により被覆することで多孔質硬化体の形状制御が容易になる、操作性が向上するなどの効果が期待できる。ゲル状物質としては、コラーゲン水溶液(高研社製など)、フィブリン(三菱ウェルファーマ社製など)、CMキチン(片倉チッカリン社製など)、フィブロネクチン(タカラバイオ社製など)、アルギン酸及びヒアルロン酸(和光純薬工業社製など)からなる群より選ばれた1種又は2種以上の物質を使用できるが、上記記載した物質に限らず、医療分野で広く使用されているゲル状の物質を使用することができる。粒子状物質とゲル状物質との混合割合は重量比(粒子状物質/ゲル状物質)で0.5〜5.0である。好ましい重量比(粒子状物質/ゲル状物質)は1.0〜4.0である。これらのゲル状物質は硬化反応過程における炎症反応等、生体への悪影響もない。
【0021】
また、別の実施の形態として、遠心造粒により粒子状物質を成形した後、粒子状物質をゲル状物質に混合してゲル状混合物を形成し、このゲル状混合物を所定の形状に充填してプレス成形しても良い。ゲル状混合物を用い、更にゲル状物質の割合を高くしたり、ゲルの粘度調整を行うと、骨欠損部への注入器での補填も可能となり、患者への負担を軽減できる。
【0022】
上記本発明の方法により製造される本発明の多孔質硬化体は、気孔率が50%〜70%、気孔径が0.5mm〜2.0mm及びその圧縮強度が1MPa〜10MPaであることを特徴とする。上記物性を有することで、骨欠損部又は空隙部に充填した際に、生体に対する高い親和性と優れた骨修復性を有し、生体組織が侵入し同化するのに適した気孔を有し、かつ、補修すべき骨欠損の形状に適合する賦形性を有することができる。
本発明の多孔質硬化体は、マイクロサージャリー技術による血管柄(束)付き移植を可能とするものであり、腫瘍切除後等の比較的大きな欠損に対する新たな再建法として期待できる。このように本発明の製造方法で得られる多孔質硬化体は組織工学、再生医療分野での応用も可能とするものである。
【0023】
【実施例】
次に本発明の実施例を説明する。
<実施例1>
先ず、平均粒径2.0μm〜8.0μmのα−TCP、平均粒径2.0μm〜8.0μmのTeCP及び平均粒径2.0μm〜8.0μmのDCPDをそれぞれ用意した。次にα−TCP、TeCP及びDCPDを次の表1に示される配合割合にそれぞれ混合し、セメント粉末a〜粉末dをそれぞれ調製した。
【0024】
【表1】
Figure 2004269393
【0025】
次いで、硬化用液体として水、採血したばかりの新鮮な血液、及び水と血液の混合液をそれぞれ用意した。この硬化用液体と粉体a〜粉末dとを次の表2に示す割合でそれぞれ混合して混合物を調製した。次に、遠心造粒装置「スピンクル」(東京モリタ製作所製)を用意し、この混合物を遠心造粒した。遠心造粒の条件は、公転回転2000rpm、自転回転500rpmを20秒間である。得られた造粒物は、ほぼ均一な粒径を有し、平均粒径が1.0mm〜5.0mmの粒子状物質であった。次に、粒子状物質を内径φ20mm、高さ30mmの型枠に充填し、充填物の上から外径φ20mmの円柱で押しつける方法でプレス成形した。プレス成形条件は500g/cmであった。このプレス成形物を37℃、40分の条件で養生し、多孔質硬化体を得た。それぞれ得られた多孔質硬化体の気孔率及び気孔径を全気孔率測定法及びマイクロメーター、光学顕微鏡観察により測定した。次の表2にその結果を示す。
【0026】
【表2】
Figure 2004269393
【0027】
表2より明らかなように、本発明の製造方法により種々の気孔率及び気孔径を有する多孔質硬化体が容易に得られた。このことから本発明の多孔質硬化体の製造方法では、生体組織が侵入し同化するのに適した多孔質体を容易に製造することができ、得られた多孔質硬化体は、補修すべき骨欠損の形状に適合する賦形性を有することが判る。
【0028】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明の骨の欠損部又は空隙部への充填材の製造方法は、平均粒径2.0μm〜8.0μmのα−TCP、平均粒径2.0μm〜8.0μmのTeCP及び平均粒径2.0μm〜8.0μmのDCPDをそれぞれ主成分として含み、TeCPが10〜25重量%、DCPDが3〜10重量%及びα−TCPを含む成分が65〜87重量%の組成比を有するセメント粉末を調製する工程と、セメント粉末と硬化用液体とをセメント粉末と硬化用液体の重量混合比(粉末/液体)が3〜7の割合で混合する工程と、混合物を遠心造粒して平均粒径1.0mm〜5.0mmの粒子状物質を成形する工程とを含む。上記工程を経ることにより、種々の気孔率、気孔径が得られ、生体に対する高い親和性と優れた骨修復性を有し、生体組織が侵入し同化するのに適した充填材が得られる。
【0029】
また、本発明の多孔質硬化体の製造方法は、平均粒径2.0μm〜8.0μmのα−TCP、平均粒径2.0μm〜8.0μmのTeCP及び平均粒径2.0μm〜8.0μmのDCPDをそれぞれ主成分として含み、TeCPが10〜25重量%、DCPDが3〜10重量%及びα−TCPを含む成分が65〜87重量%の組成比を有するセメント粉末を調製する工程と、セメント粉末と硬化用液体とをセメント粉末と硬化用液体の重量混合比(粉末/液体)が3〜7の割合で混合する工程と、混合物を遠心造粒して平均粒径1.0mm〜5.0mmの粒子状物質を成形する工程と、粒子状物質を骨欠損部又は空隙部にプレス成形する工程と、プレス成形物を養生して硬化させ、多孔質硬化体を形成する工程とを含む。上記工程を経ることにより、種々の気孔率、気孔径を有し、補修すべき骨欠損の形状に適合する賦形性を有する、多孔質硬化体を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】遠心造粒装置に装着する二重容器の断面図。
【図2】骨欠損部に粒子状物質を充填し、プレス成形する工程を示す断面図。
【符号の説明】
11 二重容器
12 外容器
12a 外容器本体
12b 外蓋
13 内容器
13a 内容器本体
13b 内蓋
14 ツマミ
16 突起

Claims (14)

  1. 平均粒径2.0μm〜8.0μmのα型第3リン酸カルシウム、平均粒径2.0μm〜8.0μmの第4リン酸カルシウム及び平均粒径2.0μm〜8.0μmの第2リン酸カルシウムをそれぞれ主成分として含み、前記第4リン酸カルシウムが10〜25重量%、前記第2リン酸カルシウムが3〜10重量%及び前記α型第3リン酸カルシウムを含む成分が65〜87重量%の組成比を有するリン酸カルシウムセメント粉末を調製する工程と、
    前記リン酸カルシウムセメント粉末と硬化用液体とを前記リン酸カルシウムセメント粉末と前記硬化用液体の重量混合比(粉末/液体)が3〜7の割合で混合する工程と、
    前記混合物を遠心造粒して平均粒径1.0mm〜5.0mmの粒子状物質を成形する工程と
    を含む骨の欠損部又は空隙部への充填材の製造方法。
  2. 硬化用液体が水を主成分とする液体、骨髄液及び血液からなる群より選ばれた1種又は2種以上を含む液体である請求項1記載の製造方法。
  3. 遠心造粒が混合物を貯留した容器に公転回転及び自転回転の双方を同時に加えて前記混合物中のリン酸カルシウムセメント粉末と硬化用液体を練和することにより行われ、前記公転回転が1000rpm〜3000rpm、前記自転回転が200rpm〜600rpmの条件で10秒〜60秒間行われる請求項1又は2記載の製造方法。
  4. 平均粒径2.0μm〜8.0μmのα型第3リン酸カルシウム、平均粒径2.0μm〜8.0μmの第4リン酸カルシウム及び平均粒径2.0μm〜8.0μmの第2リン酸カルシウムをそれぞれ主成分として含み、前記第4リン酸カルシウムが10〜25重量%、前記第2リン酸カルシウムが3〜10重量%及び前記α型第3リン酸カルシウムを含む成分が65〜87重量%の組成比を有するリン酸カルシウムセメント粉末を調製する工程と、
    前記リン酸カルシウムセメント粉末と硬化用液体とを前記リン酸カルシウムセメント粉末と前記硬化用液体の重量混合比(粉末/液体)が3〜7の割合で混合する工程と、
    前記混合物を遠心造粒して平均粒径1.0mm〜5.0mmの粒子状物質を成形する工程と、
    前記粒子状物質を骨欠損部又は空隙部にプレス成形する工程と、
    前記プレス成形物を養生して硬化させ、多孔質硬化体を形成する工程と
    を含む多孔質硬化体の製造方法。
  5. 平均粒径2.0μm〜8.0μmのα型第3リン酸カルシウム、平均粒径2.0μm〜8.0μmの第4リン酸カルシウム及び平均粒径2.0μm〜8.0μmの第2リン酸カルシウムをそれぞれ主成分として含み、前記第4リン酸カルシウムが10〜25重量%、前記第2リン酸カルシウムが3〜10重量%及び前記α型第3リン酸カルシウムを含む成分が65〜87重量%の組成比を有するリン酸カルシウムセメント粉末を調製する工程と、
    前記リン酸カルシウムセメント粉末と硬化用液体とを前記リン酸カルシウムセメント粉末と前記硬化用液体の重量混合比(粉末/液体)が3〜7の割合で混合する工程と、
    前記混合物を遠心造粒して平均粒径1.0mm〜5.0mmの粒子状物質を成形する工程と、
    前記粒子状物質をゲル状物質に混合してゲル状混合物を形成する工程と、
    前記ゲル状混合物を所定の形状にプレス成形する工程と、
    前記プレス成形物を養生して硬化させ、多孔質硬化体を形成する工程と
    を含む多孔質硬化体の製造方法。
  6. 硬化用液体が水を主成分とする液体、骨髄液及び血液からなる群より選ばれた1種又は2種以上を含む液体である請求項4又は5記載の製造方法。
  7. 遠心造粒が混合物を貯留した容器に公転回転及び自転回転の双方を同時に加えて前記混合物中のリン酸カルシウムセメント粉末と硬化用液体を練和することにより行われ、前記公転回転が1000rpm〜3000rpm、前記自転回転が200rpm〜600rpmの条件で10秒〜60秒間行われる請求項4ないし6いずれか1項に記載の製造方法。
  8. プレス成形が300g/cm〜2kg/cmの範囲内で行われる請求項4又は5記載の製造方法。
  9. プレス成形物の養生が10℃〜40℃で、15分以上の条件で行われる請求項4又は5記載の製造方法。
  10. プレス成形物の表面をゲル状物質により被覆する工程を更に含む請求項4又は5記載の製造方法。
  11. 粒子状物質とゲル状物質との混合割合が重量比(粒子状物質/ゲル状物質)で0.5〜5.0である請求項5又は10記載の製造方法。
  12. ゲル状物質がコラーゲン水溶液、フィブリン、カルボキシルメチルキチン、フィブロネクチン、アルギン酸及びヒアルロン酸からなる群より選ばれた1種又は2種以上の物質である請求項5,10又は11記載の製造方法。
  13. 請求項1ないし3いずれか1項に記載の方法により製造される充填材を所定の形状にプレス成形し、前記得られたプレス成形物を養生して硬化させた硬化体が、気孔率が50%〜70%、気孔径が0.5mm〜2.0mm及びその圧縮強度が1MPa〜10MPaであることを特徴とする多孔質硬化体。
  14. 請求項4ないし12いずれか1項に記載の方法により製造される硬化体であって、気孔率が50%〜70%、気孔径が0.5mm〜2.0mm及びその圧縮強度が1MPa〜10MPaであることを特徴とする多孔質硬化体。
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