JP2004262879A - 渦鞭毛藻類に対し選択的な殺藻活性を有する新規化合物及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、渦鞭毛藻類に対し選択的な殺藻活性を有する新規環状ペプチド、及び微生物を用いたその製造方法に関する。また本発明は、上記新規環状ペプチドを含む殺藻剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
渦鞭毛藻類は、水界でプランクトン生活をする単細胞性の鞭毛藻であって、これが大発生することにより海水においては赤潮の原因となり、淡水では水の臭気や味を生じさせる原因となる。
【0003】
渦鞭毛藻を主とする赤潮の駆除方法としては、物理的回収や、除草剤・殺藻剤の散布などが一般的である。除草剤・殺藻剤としては、例えば3−(3’,4’−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素が用いられている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、この化合物は微細藻全般に致死作用を示すため、有害な藻類のみではなく、有益な藻類及び害のない藻類、さらには藻類以外の植物の生育も抑制されていた。
【0004】
一方、微生物成分を用いた渦鞭毛藻駆除の試みが提案されており、例えば特許文献1には、アルテロモナス属微生物を有効成分とする赤潮駆除剤が開示されている。また、微生物から渦鞭毛藻類に選択的な殺藻活性を有する物質が単離されており、その赤潮駆除における使用が記載されている(特許文献2及び3参照)。
【0005】
【特許文献1】
特開平2002−60307号公報
【特許文献2】
特開平11−335210号公報
【特許文献3】
特開2002−348264号公報
【非特許文献1】
Yamashita J.,Biochem. Biophys. Acta.(オランダ)1968年,第153(4)巻,pp.848−853
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、渦鞭毛藻類に対し選択的な殺藻活性を有する物質及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【発明を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、アクレモニウム属に属する微生物の培養物から、新規な化合物を単離して構造式を決定することに成功し、またこの化合物が渦鞭毛藻類に対し選択的な殺藻活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記式(I)で表される環状ペプチドである:
【化2】
(式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基を表す)。
【0009】
本発明の環状ペプチドは、例えばR1が水素原子又はメチル基である。また本発明の環状ペプチドは、例えばR2及びR3がそれぞれ独立して水素原子又はメチル基である。さらに本発明の環状ペプチドは、R1、R2及びR3がそれぞれ独立して水素原子又はメチル基である。特に本発明の環状ペプチドは、R1が水素原子又はメチル基であり、R2が水素原子であり、R3がメチル基であることが好ましい。
【0010】
また本発明は、アクレモニウム属に属し、かつ上記環状ペプチドを生産する能力を有する微生物を培地に培養し、培養物中に該環状ペプチドを生成蓄積させ、該培養物から該環状ペプチドを採取することを特徴とする上記環状ペプチドの製造方法である。
さらに本発明は、上記環状ペプチドを有効成分として含む殺藻剤である。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の化合物は、最初に海洋性糸状菌(アクレモニウム・スピーシーズHJK−9株)から単離・精製された環状ペプチドであり、藻類に対する生育阻害活性(本明細書中、「殺藻活性」ともいう)を有するものである。従って、本発明の化合物は殺藻剤としての用途を有する。本発明の化合物の性質及びその製造方法について以下に詳述する。
【0013】
1.本発明の化合物の性質
本発明の化合物は、下記式(I)により表される環状ペプチドである。
【0014】
【化3】
(式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基を表す。)
【0015】
上記式(I)で表される本発明の化合物は、9個のアミノ酸残基からなる環状ペプチドであり、6番目のアミノ酸残基は、R1が水素原子の場合にはバリンとなり、R1がメチル基の場合にはイソロイシンとなる。ここで「アルキル基」とは、炭素数1〜10、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜3、特に好ましくは1の直鎖状又は分枝状のアルキル基を指す。
【0016】
上記式(I)において、R1は、水素原子又はメチル基であることが好ましい。また、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基であることが好ましい。さらに上記式(I)は、R1、R2及びR3がそれぞれ独立して水素原子又はメチル基であることが好ましい。特に本発明の環状ペプチドは、R1が水素原子又はメチル基であり、R2が水素原子であり、R3がメチル基であることが好ましい。
【0017】
上記式(I)で表され、R1が水素原子であり、R2が水素原子であり、R3が全てメチル基である化合物(以下、化合物Aともいう)の構造式及び理化学的性質は以下のとおりである:
【0018】
【化4】
【0019】
(1)物質の色:無色
(2)分子量:1009
(3)分子式:C53H87N9O10
(4)質量分析:高分解FABMS(高速中性粒子衝突イオン化質量分析)
実測値 1010.6654[M+H]+、計算値 1010.6654[M+H]+
(5)赤外線吸収スペクトル(KBr):νmax 3842, 2926, 1655, 1543, 1459, 1244, 1091 cm−1
(6)UV(ε)276(964),282(821) (メタノール)
(7)比旋光度:[α]D25 −96.9 (c 0.065、メタノール)
(8)1H−NMRと13C−NMR(重DMSO中で測定)は下記表1に示した。
(9)殺藻活性:渦鞭毛藻(プロロセントラム・ミカンス(Prorocentrum micans)NIES−12)に対して殺藻活性を示す最小濃度は30μMであった。
【0020】
【表1】
【0021】
また、上記式(I)で表され、R1がメチル基であり、R2が水素原子であり、R3が全てメチル基である化合物(以下、化合物Bともいう)の構造式及び理化学的性質は以下のとおりである:
【0022】
【化5】
【0023】
(1)物質の色:無色
(2)分子量:1023
(3)分子式:C54H89N9O10
(4)質量分析:高分解FABMS(高速中性粒子衝突イオン化質量分析)
実測値 1024.6831[M+H]+、計算値 1024.6811[M+H]+
(5)赤外線吸収スペクトル(KBr):νmax 3713, 1637, 1543, 1459, 1032 cm−1
(6)UV(ε)276(1150),282(1000) (メタノール)
(7)比旋光度:[α]D25 −86.7 (c 0.030、メタノール)
(8)1H−NMRと13C−NMR(重DMSO中で測定)は下記表2に示した。
(9)殺藻活性:渦鞭毛藻(プロロセントラム・ミカンス(Prorocentrum micans)NIES−12)に対して殺藻活性を示す最小濃度は30μMであった。
【0024】
【表2】
【0025】
2.本発明の化合物の製造
本発明の化合物は、微生物を培地に培養し、培養物中に上記式(I)で表される化合物(環状ペプチド)を生成蓄積させ、該培養物から該化合物を採取することにより製造することができる。
【0026】
(1)微生物
本発明の製造方法において用いることのできる微生物としては、アクレモニウム属(Acremonium)に属し、かつ上記式(I)で表される化合物(例えば化合物A及び/又はB)を生産することが可能な微生物であれば特に限定されない。そのような微生物としては、例えば、アクレモニウム・スピーシーズHJK−9株、及び該菌株に由来する変異株を挙げることができる。アクレモニウム・スピーシーズHJK−9株の菌学的性質については以下の通りである。
【0027】
(1−1)形態的性質
コーンミール寒天平板培地を用い、25℃で培養を行った後、光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡で形態の観察を行った。
【0028】
菌糸は隔壁を有し、平滑でよく分岐する。分生子柄は、無色、直立、単純又は分岐する。分生子柄上の1つあるいは複数のフィアライド上に分生子塊を形成する。分生子(胞子)は、単細胞、平滑、長楕円形〜偏円形等の形態を示し、長さ6〜10μm、幅2〜5μmである。
【0029】
(1−2)培養的性質
YM寒天平板培地を用いて25℃で培養したとき、集落の直径は培養10日目で約80〜90mmに達する。集落の表面は、綿毛状で、はじめは白色であり、分生子の形成とともに中心部がやや淡黄〜淡橙色を帯びる。裏面は淡黄〜淡褐色を呈する。
【0030】
バレイショ・ブドウ糖寒天平板培地を用いて25℃で培養したとき、集落の直径は培養10日目で約80〜90mmに達する。集落の表面は、綿毛状、粉状、白色を呈する。裏面菌叢中心部から放射状に褐色を呈する。
【0031】
本菌株は長期培養によってもアナモルフのみ観察され、テレオモルフは観察されない。
生育の最適pHは6.0〜7.0であり、最適温度は25℃〜30℃である。
【0032】
(1−3)化学分類学的性質
分子系統解析を行った。HJK−9株の18S rDNA部分塩基配列(サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)アクセッション番号M27607の配列における64−561の部分配列に相当)は、以下の通りである。
【0033】
相同性検索では、ビオネクトリア・アウレオフルバ(Bionectria aureofulva)又はネクトリア・アウレオフルバ(Nectria aureofulva)、及びビオネクトリア・オクロレウカ(Bionectria ochroleuca)又はネクトリア・オクロレウカ(Nectria ochroleuca)と約99%の相同性を示す。また、データーベース(DDBJ/GenBank/EMBL data banks)に登録されている近縁菌の配列を用いて系統樹を作成した(図1)。その結果、配列番号1に示される配列はビオネクトリア・オクロレウカとクラスターを形成した。なお、図1中、ビオネクトリア又はネクトリア属は共に「Nectria」と表記されている。
【0034】
上記(1−1)形態的性質及び(1−2)培養的性質に記載した菌学的性質から、本菌株を、アナモルフがアクレモニウム・スピーシーズ(Acremonium sp.)、テレオモルフは観察されなかったが、分子系統的解析からテレオモルフが(ビオ)ネクトリア・スピーシーズ(Bionectria sp.)と同定した。
【0035】
アクレモニウム・スピーシーズHJK−9株は、本発明者が自然界から新たに単離した株であり、独立行政法人 産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、平成15年2月17日に、寄託番号FERM P−19214として寄託されている。
【0036】
(2)微生物の培養
本発明における微生物の培養は、通常の微生物の培養方法が用いられる。培地としては、資化可能な炭素源、窒素源、無機物及び必要な生育・生産促進物質を適宜含有する培地であれば、合成培地又は天然培地のいずれでも使用可能である。炭素源としては、グルコース、澱粉、デキストリン、マンノース、フラクトース、シュクロース、ラクトース、キシロース、アラビノース、マンニトール、糖蜜などを単独又は組み合わせて用いられる。さらに、必要に応じて炭化水素、アルコール類、有機酸、アミノ酸(トリプトファン等)なども用いられる。窒素源としては塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、尿素、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、乾燥酵母、コーン・スチープ・リカー、大豆粉、カザミノ酸などが単独又は組み合わせて用いられる。そのほか、必要に応じて食塩、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸第一鉄、塩化カルシウム、硫酸マンガン、硫酸亜鉛などの無機塩類を加える。さらに使用する微生物の生育や本発明の化合物の生産を促進する微量成分を適当に添加することができ、そのような成分は当業者であれば適当なものを選択することができる。
【0037】
培養法としては、液体培養法が最も適しているが、これに限定されるものではない。液体培養で通常25〜30℃にて2〜5日間培養を行うと、目的とする化合物が培養液中及び菌体中に生成蓄積される。培養物中の生成量が最大に達した時に培養を停止する。
【0038】
(3)化合物の単離・精製
培養物から本発明の化合物を単離・精製するには、微生物代謝生産物をその培養物から単離・精製するために常用される方法に従って行われる。ここで、「培養物」とは、培養上清、培養菌体、又は菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。例えば培養物を濾過や遠心分離により培養瀘液と菌体に分け、菌体を含水メタノール、含水エタノールなどで抽出する。ついで、抽出液と培養瀘液若しくは培養瀘液を酢酸エチル、クロロホルムなどで抽出した抽出液とを合わせて濃縮し、高速液体クロマトグラフィーなどによって分画し、渦鞭毛藻類に対する殺藻活性を示す画分を採取することにより、本発明の化合物を得る。得られた化合物は、NMR解析などの通常の化学的手法により、上記「1.本発明の化合物の性質」に記載した性質を示すか否かを調べることにより、本発明の化合物であることを確認することができる。
【0039】
また、得られた化合物が渦鞭毛藻類に対する殺藻活性を有することを確認するには、得られた化合物を含む溶液をそのまま使用するか又はメタノールなどの適当な溶媒で希釈して適当量の化合物を採取し、溶媒を蒸発させた後で使用してもよいし、あるいは上記(2)に記載のようにして得られる培養物をそのまま使用して、渦鞭毛藻類を含む培地と混合し、光照射下において室温で静置培養し、化合物又は培養物を添加していない対照の渦鞭毛藻類含有培地と渦鞭毛藻類の生存数を比較することにより、得られた化合物の殺藻活性の有無を判定することができる。なお化合物添加後の培養期間は1週間程度が好ましい。
【0040】
3.本発明の化合物の用途
本発明の化合物は、殺藻活性を有するため、殺藻剤として用いることができる。すなわち本発明の殺藻剤は、上記式(I)で表される化合物を有効成分として含むものである。本発明の殺藻剤は、上記式(I)で表される化合物のうちの1種のみ(例えば化合物A又は化合物B)を単独で含有してもよいし、複数種を含有してもよい(例えば化合物A及び化合物B)。また本発明の殺藻剤は、上記「2.本発明の化合物の製造」の項に記載の方法に従って調製される、上記(I)で表される化合物を含有する培養物を含むものであってもよい。さらに本発明の殺藻剤は、他の殺藻剤及び/又は添加剤などをさらに含有するものであってもよい。このような他の殺藻剤及び添加剤は、本発明の化合物の殺藻活性を低減させるものでなければ任意のものを使用することができ、例えば、高度不飽和脂肪酸、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルテロモナス属微生物乾燥菌体などが挙げられる。
【0041】
本発明の殺藻剤の形態は特に限定されず、式(I)で表される化合物をそのまま、あるいは該化合物を適当な溶媒中に溶解若しくは懸濁することにより液剤として、又は該化合物を粉剤若しくは錠剤として調製することも可能である。また上述したように、式(I)で表される化合物を生産することができる微生物を培養して得られる培養物をそのまま本発明の殺藻剤として使用することもできる。
【0042】
液剤において使用可能な溶媒もまた特に限定されないが、例えば、メタノール、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。液剤として調製する場合、化合物の濃度は、殺藻活性を発揮できる範囲であれば特に限定されない。また本発明の殺藻剤を粉剤又は錠剤として調製する場合には、本発明の化合物の他、無機塩、糖類、タルク、バーミュライトなどの当業者に公知の粉末を適宜選択して混合し、粉剤又は錠剤とすることができる。
【0043】
本発明の殺藻剤を適用する対象としては、所望ではない渦鞭毛藻類が発生する水又は領域などであれば特に限定されず、例えば、海(海水)、湖沼(淡水)、海岸域、人工池、プールなどが挙げられる。
【0044】
本発明の殺藻剤は、対象となる水に直接散布する、又は領域に直接散布する若しくは渦鞭毛藻類が付着した魚網、水中構造物を殺藻剤に浸漬するなどにより使用することができる。使用量は、対象の種類、周囲の環境などにより左右されるが、例えば水に使用する場合には、殺藻剤に含まれる化合物の量が約30μM〜100μM、好ましくは60μMとなるように本発明の殺藻剤を添加する。
【0045】
本発明の殺藻剤により殺藻される又は生育が抑制される藻類としては、渦鞭毛藻類に含まれる藻類であれば特に限定されないが、例えば、プロロケントルム属(Prorocentrum)、ヘテロカプサ属(Heterocapsa)、ギムノディニウム属(Gymnodinium)に属する渦鞭毛藻が挙げられる。
【0046】
本発明の殺藻剤は、渦鞭毛藻類に対し選択的に殺藻活性を示すため、他の環境に影響を及ぼすことなく、赤潮などに含まれる渦鞭毛藻類を殺藻することができる。
【0047】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例にその技術的範囲が限定されるものではない。
【0048】
〔実施例1〕殺藻活性を有する化合物A及びBの単離
種菌としてアクレモニウム・スピーシーズHJK−9株を用いた。この菌株をを、300mlのポテトデキストロース液体培地(DIFCO社製ポテトデキストロース粉末、濾過海水:50%)を入れた1L三角フラスコ中で、30℃にて3日間振盪(100r.p.m.)培養した。培養中、培地のpHは特に制御しなかった。
【0049】
このようにして得られた培養液8Lを遠心分離した。遠心分離によって得られた上澄液を、酢酸エチル(6L)で抽出後、40℃以下で減圧濃縮した。得られた濃縮液を固相カラム(メルク社製SepPakC18)に供し、メタノール−水系で分画した。渦鞭毛藻類に対する殺藻活性画分は、メタノール−水(8:2、v/v)を移動相とし、ODSカラム(資生堂社製Capcell Pak C18)を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で精製し、化合物A及びBをそれぞれ4.0mg及び2.5mg得た。
【0050】
ここで得た化合物AとBは、上記「1.本発明の化合物の性質」の項に記載した理化学的性質を示す環状ペプチドであった。
【0051】
〔実施例2〕殺藻活性の試験
本実施例においては、実施例1で得られた化合物A及びBの微細藻に対する活性を以下の手順で試験した。クリーンベンチ内滅菌条件下で定濃度の化合物A又はBを含むメタノール溶液をポリスチレン製マイクロプレートのウェルに10μl投入し、溶媒を風乾により蒸発させた。新鮮な培地に植栽した微細藻をそのウェルに200μl投入し、光照射下、室温で静置培養した。1週間後に化合物を添加していないネガティブコントロールと比較することにより、殺藻活性を判定した。
【0052】
用いた被検微細藻は、渦鞭毛藻(プロロセントラム・ミカンス(Prorocentrum micans)NIES−12)、藍藻(オシラトリア・アンフェビア(Oscillatoria amphibia)NIES−361)、緑藻(ブラキオモナス・サブマリナ(Brachiomonas submarina)NIES−375)、珪藻(スケルトネマ・コスタタム(Skeletonema costatum)NIES−16)とした。
【0053】
表3にまとめた結果から、化合物A及びBは渦鞭毛藻類にのみ殺藻活性を示すことがわかる。
【0054】
【表3】
【0055】
【発明の効果】
本発明により、新規な化合物及び微生物を用いた該化合物の製造方法が提供される。本発明の化合物は、渦鞭毛藻類に対し選択的な殺藻活性を有するため、渦鞭毛藻を主とする赤潮の選択的駆除に有用である。
【0056】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】アクレモニウム・スピーシーズHJK−9株の18S rDNA部分塩基配列と、データベースに登録されている近縁菌の配列を用いて作成した系統樹を示す図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、渦鞭毛藻類に対し選択的な殺藻活性を有する新規環状ペプチド、及び微生物を用いたその製造方法に関する。また本発明は、上記新規環状ペプチドを含む殺藻剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
渦鞭毛藻類は、水界でプランクトン生活をする単細胞性の鞭毛藻であって、これが大発生することにより海水においては赤潮の原因となり、淡水では水の臭気や味を生じさせる原因となる。
【0003】
渦鞭毛藻を主とする赤潮の駆除方法としては、物理的回収や、除草剤・殺藻剤の散布などが一般的である。除草剤・殺藻剤としては、例えば3−(3’,4’−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素が用いられている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、この化合物は微細藻全般に致死作用を示すため、有害な藻類のみではなく、有益な藻類及び害のない藻類、さらには藻類以外の植物の生育も抑制されていた。
【0004】
一方、微生物成分を用いた渦鞭毛藻駆除の試みが提案されており、例えば特許文献1には、アルテロモナス属微生物を有効成分とする赤潮駆除剤が開示されている。また、微生物から渦鞭毛藻類に選択的な殺藻活性を有する物質が単離されており、その赤潮駆除における使用が記載されている(特許文献2及び3参照)。
【0005】
【特許文献1】
特開平2002−60307号公報
【特許文献2】
特開平11−335210号公報
【特許文献3】
特開2002−348264号公報
【非特許文献1】
Yamashita J.,Biochem. Biophys. Acta.(オランダ)1968年,第153(4)巻,pp.848−853
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、渦鞭毛藻類に対し選択的な殺藻活性を有する物質及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【発明を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、アクレモニウム属に属する微生物の培養物から、新規な化合物を単離して構造式を決定することに成功し、またこの化合物が渦鞭毛藻類に対し選択的な殺藻活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記式(I)で表される環状ペプチドである:
【化2】
(式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基を表す)。
【0009】
本発明の環状ペプチドは、例えばR1が水素原子又はメチル基である。また本発明の環状ペプチドは、例えばR2及びR3がそれぞれ独立して水素原子又はメチル基である。さらに本発明の環状ペプチドは、R1、R2及びR3がそれぞれ独立して水素原子又はメチル基である。特に本発明の環状ペプチドは、R1が水素原子又はメチル基であり、R2が水素原子であり、R3がメチル基であることが好ましい。
【0010】
また本発明は、アクレモニウム属に属し、かつ上記環状ペプチドを生産する能力を有する微生物を培地に培養し、培養物中に該環状ペプチドを生成蓄積させ、該培養物から該環状ペプチドを採取することを特徴とする上記環状ペプチドの製造方法である。
さらに本発明は、上記環状ペプチドを有効成分として含む殺藻剤である。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の化合物は、最初に海洋性糸状菌(アクレモニウム・スピーシーズHJK−9株)から単離・精製された環状ペプチドであり、藻類に対する生育阻害活性(本明細書中、「殺藻活性」ともいう)を有するものである。従って、本発明の化合物は殺藻剤としての用途を有する。本発明の化合物の性質及びその製造方法について以下に詳述する。
【0013】
1.本発明の化合物の性質
本発明の化合物は、下記式(I)により表される環状ペプチドである。
【0014】
【化3】
(式中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子又はアルキル基を表す。)
【0015】
上記式(I)で表される本発明の化合物は、9個のアミノ酸残基からなる環状ペプチドであり、6番目のアミノ酸残基は、R1が水素原子の場合にはバリンとなり、R1がメチル基の場合にはイソロイシンとなる。ここで「アルキル基」とは、炭素数1〜10、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜3、特に好ましくは1の直鎖状又は分枝状のアルキル基を指す。
【0016】
上記式(I)において、R1は、水素原子又はメチル基であることが好ましい。また、R2及びR3はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基であることが好ましい。さらに上記式(I)は、R1、R2及びR3がそれぞれ独立して水素原子又はメチル基であることが好ましい。特に本発明の環状ペプチドは、R1が水素原子又はメチル基であり、R2が水素原子であり、R3がメチル基であることが好ましい。
【0017】
上記式(I)で表され、R1が水素原子であり、R2が水素原子であり、R3が全てメチル基である化合物(以下、化合物Aともいう)の構造式及び理化学的性質は以下のとおりである:
【0018】
【化4】
【0019】
(1)物質の色:無色
(2)分子量:1009
(3)分子式:C53H87N9O10
(4)質量分析:高分解FABMS(高速中性粒子衝突イオン化質量分析)
実測値 1010.6654[M+H]+、計算値 1010.6654[M+H]+
(5)赤外線吸収スペクトル(KBr):νmax 3842, 2926, 1655, 1543, 1459, 1244, 1091 cm−1
(6)UV(ε)276(964),282(821) (メタノール)
(7)比旋光度:[α]D25 −96.9 (c 0.065、メタノール)
(8)1H−NMRと13C−NMR(重DMSO中で測定)は下記表1に示した。
(9)殺藻活性:渦鞭毛藻(プロロセントラム・ミカンス(Prorocentrum micans)NIES−12)に対して殺藻活性を示す最小濃度は30μMであった。
【0020】
【表1】
【0021】
また、上記式(I)で表され、R1がメチル基であり、R2が水素原子であり、R3が全てメチル基である化合物(以下、化合物Bともいう)の構造式及び理化学的性質は以下のとおりである:
【0022】
【化5】
【0023】
(1)物質の色:無色
(2)分子量:1023
(3)分子式:C54H89N9O10
(4)質量分析:高分解FABMS(高速中性粒子衝突イオン化質量分析)
実測値 1024.6831[M+H]+、計算値 1024.6811[M+H]+
(5)赤外線吸収スペクトル(KBr):νmax 3713, 1637, 1543, 1459, 1032 cm−1
(6)UV(ε)276(1150),282(1000) (メタノール)
(7)比旋光度:[α]D25 −86.7 (c 0.030、メタノール)
(8)1H−NMRと13C−NMR(重DMSO中で測定)は下記表2に示した。
(9)殺藻活性:渦鞭毛藻(プロロセントラム・ミカンス(Prorocentrum micans)NIES−12)に対して殺藻活性を示す最小濃度は30μMであった。
【0024】
【表2】
【0025】
2.本発明の化合物の製造
本発明の化合物は、微生物を培地に培養し、培養物中に上記式(I)で表される化合物(環状ペプチド)を生成蓄積させ、該培養物から該化合物を採取することにより製造することができる。
【0026】
(1)微生物
本発明の製造方法において用いることのできる微生物としては、アクレモニウム属(Acremonium)に属し、かつ上記式(I)で表される化合物(例えば化合物A及び/又はB)を生産することが可能な微生物であれば特に限定されない。そのような微生物としては、例えば、アクレモニウム・スピーシーズHJK−9株、及び該菌株に由来する変異株を挙げることができる。アクレモニウム・スピーシーズHJK−9株の菌学的性質については以下の通りである。
【0027】
(1−1)形態的性質
コーンミール寒天平板培地を用い、25℃で培養を行った後、光学顕微鏡及び走査型電子顕微鏡で形態の観察を行った。
【0028】
菌糸は隔壁を有し、平滑でよく分岐する。分生子柄は、無色、直立、単純又は分岐する。分生子柄上の1つあるいは複数のフィアライド上に分生子塊を形成する。分生子(胞子)は、単細胞、平滑、長楕円形〜偏円形等の形態を示し、長さ6〜10μm、幅2〜5μmである。
【0029】
(1−2)培養的性質
YM寒天平板培地を用いて25℃で培養したとき、集落の直径は培養10日目で約80〜90mmに達する。集落の表面は、綿毛状で、はじめは白色であり、分生子の形成とともに中心部がやや淡黄〜淡橙色を帯びる。裏面は淡黄〜淡褐色を呈する。
【0030】
バレイショ・ブドウ糖寒天平板培地を用いて25℃で培養したとき、集落の直径は培養10日目で約80〜90mmに達する。集落の表面は、綿毛状、粉状、白色を呈する。裏面菌叢中心部から放射状に褐色を呈する。
【0031】
本菌株は長期培養によってもアナモルフのみ観察され、テレオモルフは観察されない。
生育の最適pHは6.0〜7.0であり、最適温度は25℃〜30℃である。
【0032】
(1−3)化学分類学的性質
分子系統解析を行った。HJK−9株の18S rDNA部分塩基配列(サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)アクセッション番号M27607の配列における64−561の部分配列に相当)は、以下の通りである。
【0033】
相同性検索では、ビオネクトリア・アウレオフルバ(Bionectria aureofulva)又はネクトリア・アウレオフルバ(Nectria aureofulva)、及びビオネクトリア・オクロレウカ(Bionectria ochroleuca)又はネクトリア・オクロレウカ(Nectria ochroleuca)と約99%の相同性を示す。また、データーベース(DDBJ/GenBank/EMBL data banks)に登録されている近縁菌の配列を用いて系統樹を作成した(図1)。その結果、配列番号1に示される配列はビオネクトリア・オクロレウカとクラスターを形成した。なお、図1中、ビオネクトリア又はネクトリア属は共に「Nectria」と表記されている。
【0034】
上記(1−1)形態的性質及び(1−2)培養的性質に記載した菌学的性質から、本菌株を、アナモルフがアクレモニウム・スピーシーズ(Acremonium sp.)、テレオモルフは観察されなかったが、分子系統的解析からテレオモルフが(ビオ)ネクトリア・スピーシーズ(Bionectria sp.)と同定した。
【0035】
アクレモニウム・スピーシーズHJK−9株は、本発明者が自然界から新たに単離した株であり、独立行政法人 産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に、平成15年2月17日に、寄託番号FERM P−19214として寄託されている。
【0036】
(2)微生物の培養
本発明における微生物の培養は、通常の微生物の培養方法が用いられる。培地としては、資化可能な炭素源、窒素源、無機物及び必要な生育・生産促進物質を適宜含有する培地であれば、合成培地又は天然培地のいずれでも使用可能である。炭素源としては、グルコース、澱粉、デキストリン、マンノース、フラクトース、シュクロース、ラクトース、キシロース、アラビノース、マンニトール、糖蜜などを単独又は組み合わせて用いられる。さらに、必要に応じて炭化水素、アルコール類、有機酸、アミノ酸(トリプトファン等)なども用いられる。窒素源としては塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、尿素、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、乾燥酵母、コーン・スチープ・リカー、大豆粉、カザミノ酸などが単独又は組み合わせて用いられる。そのほか、必要に応じて食塩、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸第一鉄、塩化カルシウム、硫酸マンガン、硫酸亜鉛などの無機塩類を加える。さらに使用する微生物の生育や本発明の化合物の生産を促進する微量成分を適当に添加することができ、そのような成分は当業者であれば適当なものを選択することができる。
【0037】
培養法としては、液体培養法が最も適しているが、これに限定されるものではない。液体培養で通常25〜30℃にて2〜5日間培養を行うと、目的とする化合物が培養液中及び菌体中に生成蓄積される。培養物中の生成量が最大に達した時に培養を停止する。
【0038】
(3)化合物の単離・精製
培養物から本発明の化合物を単離・精製するには、微生物代謝生産物をその培養物から単離・精製するために常用される方法に従って行われる。ここで、「培養物」とは、培養上清、培養菌体、又は菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。例えば培養物を濾過や遠心分離により培養瀘液と菌体に分け、菌体を含水メタノール、含水エタノールなどで抽出する。ついで、抽出液と培養瀘液若しくは培養瀘液を酢酸エチル、クロロホルムなどで抽出した抽出液とを合わせて濃縮し、高速液体クロマトグラフィーなどによって分画し、渦鞭毛藻類に対する殺藻活性を示す画分を採取することにより、本発明の化合物を得る。得られた化合物は、NMR解析などの通常の化学的手法により、上記「1.本発明の化合物の性質」に記載した性質を示すか否かを調べることにより、本発明の化合物であることを確認することができる。
【0039】
また、得られた化合物が渦鞭毛藻類に対する殺藻活性を有することを確認するには、得られた化合物を含む溶液をそのまま使用するか又はメタノールなどの適当な溶媒で希釈して適当量の化合物を採取し、溶媒を蒸発させた後で使用してもよいし、あるいは上記(2)に記載のようにして得られる培養物をそのまま使用して、渦鞭毛藻類を含む培地と混合し、光照射下において室温で静置培養し、化合物又は培養物を添加していない対照の渦鞭毛藻類含有培地と渦鞭毛藻類の生存数を比較することにより、得られた化合物の殺藻活性の有無を判定することができる。なお化合物添加後の培養期間は1週間程度が好ましい。
【0040】
3.本発明の化合物の用途
本発明の化合物は、殺藻活性を有するため、殺藻剤として用いることができる。すなわち本発明の殺藻剤は、上記式(I)で表される化合物を有効成分として含むものである。本発明の殺藻剤は、上記式(I)で表される化合物のうちの1種のみ(例えば化合物A又は化合物B)を単独で含有してもよいし、複数種を含有してもよい(例えば化合物A及び化合物B)。また本発明の殺藻剤は、上記「2.本発明の化合物の製造」の項に記載の方法に従って調製される、上記(I)で表される化合物を含有する培養物を含むものであってもよい。さらに本発明の殺藻剤は、他の殺藻剤及び/又は添加剤などをさらに含有するものであってもよい。このような他の殺藻剤及び添加剤は、本発明の化合物の殺藻活性を低減させるものでなければ任意のものを使用することができ、例えば、高度不飽和脂肪酸、アルカリ土類金属の炭酸塩、アルテロモナス属微生物乾燥菌体などが挙げられる。
【0041】
本発明の殺藻剤の形態は特に限定されず、式(I)で表される化合物をそのまま、あるいは該化合物を適当な溶媒中に溶解若しくは懸濁することにより液剤として、又は該化合物を粉剤若しくは錠剤として調製することも可能である。また上述したように、式(I)で表される化合物を生産することができる微生物を培養して得られる培養物をそのまま本発明の殺藻剤として使用することもできる。
【0042】
液剤において使用可能な溶媒もまた特に限定されないが、例えば、メタノール、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。液剤として調製する場合、化合物の濃度は、殺藻活性を発揮できる範囲であれば特に限定されない。また本発明の殺藻剤を粉剤又は錠剤として調製する場合には、本発明の化合物の他、無機塩、糖類、タルク、バーミュライトなどの当業者に公知の粉末を適宜選択して混合し、粉剤又は錠剤とすることができる。
【0043】
本発明の殺藻剤を適用する対象としては、所望ではない渦鞭毛藻類が発生する水又は領域などであれば特に限定されず、例えば、海(海水)、湖沼(淡水)、海岸域、人工池、プールなどが挙げられる。
【0044】
本発明の殺藻剤は、対象となる水に直接散布する、又は領域に直接散布する若しくは渦鞭毛藻類が付着した魚網、水中構造物を殺藻剤に浸漬するなどにより使用することができる。使用量は、対象の種類、周囲の環境などにより左右されるが、例えば水に使用する場合には、殺藻剤に含まれる化合物の量が約30μM〜100μM、好ましくは60μMとなるように本発明の殺藻剤を添加する。
【0045】
本発明の殺藻剤により殺藻される又は生育が抑制される藻類としては、渦鞭毛藻類に含まれる藻類であれば特に限定されないが、例えば、プロロケントルム属(Prorocentrum)、ヘテロカプサ属(Heterocapsa)、ギムノディニウム属(Gymnodinium)に属する渦鞭毛藻が挙げられる。
【0046】
本発明の殺藻剤は、渦鞭毛藻類に対し選択的に殺藻活性を示すため、他の環境に影響を及ぼすことなく、赤潮などに含まれる渦鞭毛藻類を殺藻することができる。
【0047】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例にその技術的範囲が限定されるものではない。
【0048】
〔実施例1〕殺藻活性を有する化合物A及びBの単離
種菌としてアクレモニウム・スピーシーズHJK−9株を用いた。この菌株をを、300mlのポテトデキストロース液体培地(DIFCO社製ポテトデキストロース粉末、濾過海水:50%)を入れた1L三角フラスコ中で、30℃にて3日間振盪(100r.p.m.)培養した。培養中、培地のpHは特に制御しなかった。
【0049】
このようにして得られた培養液8Lを遠心分離した。遠心分離によって得られた上澄液を、酢酸エチル(6L)で抽出後、40℃以下で減圧濃縮した。得られた濃縮液を固相カラム(メルク社製SepPakC18)に供し、メタノール−水系で分画した。渦鞭毛藻類に対する殺藻活性画分は、メタノール−水(8:2、v/v)を移動相とし、ODSカラム(資生堂社製Capcell Pak C18)を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で精製し、化合物A及びBをそれぞれ4.0mg及び2.5mg得た。
【0050】
ここで得た化合物AとBは、上記「1.本発明の化合物の性質」の項に記載した理化学的性質を示す環状ペプチドであった。
【0051】
〔実施例2〕殺藻活性の試験
本実施例においては、実施例1で得られた化合物A及びBの微細藻に対する活性を以下の手順で試験した。クリーンベンチ内滅菌条件下で定濃度の化合物A又はBを含むメタノール溶液をポリスチレン製マイクロプレートのウェルに10μl投入し、溶媒を風乾により蒸発させた。新鮮な培地に植栽した微細藻をそのウェルに200μl投入し、光照射下、室温で静置培養した。1週間後に化合物を添加していないネガティブコントロールと比較することにより、殺藻活性を判定した。
【0052】
用いた被検微細藻は、渦鞭毛藻(プロロセントラム・ミカンス(Prorocentrum micans)NIES−12)、藍藻(オシラトリア・アンフェビア(Oscillatoria amphibia)NIES−361)、緑藻(ブラキオモナス・サブマリナ(Brachiomonas submarina)NIES−375)、珪藻(スケルトネマ・コスタタム(Skeletonema costatum)NIES−16)とした。
【0053】
表3にまとめた結果から、化合物A及びBは渦鞭毛藻類にのみ殺藻活性を示すことがわかる。
【0054】
【表3】
【0055】
【発明の効果】
本発明により、新規な化合物及び微生物を用いた該化合物の製造方法が提供される。本発明の化合物は、渦鞭毛藻類に対し選択的な殺藻活性を有するため、渦鞭毛藻を主とする赤潮の選択的駆除に有用である。
【0056】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】アクレモニウム・スピーシーズHJK−9株の18S rDNA部分塩基配列と、データベースに登録されている近縁菌の配列を用いて作成した系統樹を示す図である。
Claims (7)
- R1が水素原子又はメチル基である、請求項1記載の環状ペプチド。
- R2及びR3がそれぞれ独立して水素原子又はメチル基である、請求項1記載の環状ペプチド。
- R1、R2及びR3がそれぞれ独立して水素原子又はメチル基である、請求項1記載の環状ペプチド。
- R1が水素原子又はメチル基であり、R2が水素原子であり、R3がメチル基である、請求項4記載の環状ペプチド。
- アクレモニウム属に属し、かつ請求項1〜5のいずれか1項に記載の環状ペプチドを生産する能力を有する微生物を培地に培養し、培養物中に該環状ペプチドを生成蓄積させ、該培養物から該環状ペプチドを採取することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の環状ペプチドの製造方法。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の環状ペプチドを有効成分として含む殺藻剤。
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---|---|---|---|
JP2003056623A JP2004262879A (ja) | 2003-03-04 | 2003-03-04 | 渦鞭毛藻類に対し選択的な殺藻活性を有する新規化合物及びその製造方法 |
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Cited By (1)
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---|---|---|---|---|
KR101062793B1 (ko) | 2009-02-18 | 2011-09-07 | 조선대학교산학협력단 | 적조유발 생물에 항조류 활성을 가지는 적조 방제용 펩타이드, 그의 용도 및 이의 제조 방법 |
-
2003
- 2003-03-04 JP JP2003056623A patent/JP2004262879A/ja active Pending
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KR101062793B1 (ko) | 2009-02-18 | 2011-09-07 | 조선대학교산학협력단 | 적조유발 생물에 항조류 활성을 가지는 적조 방제용 펩타이드, 그의 용도 및 이의 제조 방법 |
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