JP2004258332A - 頭部装着型画像表示装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】軽量で小型の頭部装着型画像表示装置であって、広画角の表示が可能であり、像の歪みや画質の低下が抑制された頭部装着型画像表示装置を提供する。
【解決手段】観察者の左右眼の位置に対して非対称な位置に配置された1つの前記画像表示手段に表示された画像を、該画像表示素子からの光線に対して偏心した曲面を含む3面以上からなるプリズム状の光学素子を有する前記表示光学系を用いて前記観察者の左右眼の位置に導光することを特徴とする頭部装着型画像表示装置を提供する。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、観察者の頭部に装着して観察者に画像を提示する頭部装着型画像表示装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
画像表示素子及び光学系を観察者の頭部に装着して、観察者にその画像表示素子に表示された画像を拡大された虚像として提示する画像表示装置であるヘッドマウントディスプレイがよく知られている。
【0003】
観察者の両眼に画像を提示するヘッドマウントディスプレイにおいては、通常は画像を提示する画像表示素子が左右の眼球に対してそれぞれ設けられる。
【0004】
一方、このヘッドマウントディスプレイは、頭部に装着して使用されるため、特に装置全体の小型化、軽量化が要望されている。また、重量バランスや外観等を考慮すると、観察者の視軸方向に薄型であることが好ましい。
【0005】
このような要望を実現する手段の一つとして、一つの映像表示素子を用いて左右の眼球に画像を提示するヘッドマウントディスプレイが提案されている。例えば特開平6−315125号公報、特開平11−136705号公報においては、映像を表示する1つの映像表示素子を左右眼のほぼ中央に配置し、右眼用照明手段と、左眼用照明手段からの光束を交互に該映像表示素子に照射することにより、映像を時分割的に観察者の左右の眼球に導く光学系が提案されている。また、特開2001−177785号公報、特開2001−186442号公報、特開2001−194618号公報においては、1つの表示素子を左右眼の中心軸に対して対称に配置し、表示素子から出た光線を左右の眼に導く光学系が提案されている。特開2001−194619号公報においても、1つの画像表示素子を左右眼のほぼ中央に配置し、回転非対称な曲面形状で形成された偏心プリズムを用いて左右眼に光を導く光学系が提案されている。これらの従来例の典型的な構成を図6に示す。
【0006】
以上の公報に記載されたヘッドマウントディスプレイでは、映像表示素子1つで左右の画像を表示しているため、2つの映像表示素子を用いる場合に比べてコストが押さえられ、また軽量化が図れる。しかし映像表示素子を左右眼の中央に配置する制約があるため、光学設計の自由度が低く、光学系の光学性能を確保し難くいため、良好な画像を観察者に提供しにくいという問題がある。
【0007】
これに対し、特開平8−211326号公報に掲載されたヘッドマウントディスプレイでは、画像表示素子を左右眼に対称に配置しないことにより、表示素子の配置の自由度を高める技術が開示されている。しかしながら、画像表示素子からの光線を観察者の瞳に導く過程の光学系において、観察者に広画角な画像を提供するために十分な光学的パワーが与えられておらず、開示された光学系により十分な光学パワーを得ようとする場合には視軸方向の薄型化が困難となる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこれらに鑑みてなされたものであり、1つの画像表示素子を自由に配置可能とし、また光学系の光学性能を高めることで、小型で軽量であり、且つ画質の向上があると共に、広画角の画像を観察者に提示可能な頭部装着型画像表示装置を提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明の頭部装着型画像表示装置は、画像表示素子に表示された画像を表示光学系により観察者の左右眼にそれぞれ提示するにあたり、観察者の左右眼の位置に対して非対称な位置に配置された1つの前記画像表示手段に表示された画像を、該画像表示素子からの光線に対して偏心した曲面を含む3面以上からなるプリズム状の光学素子を有する前記表示光学系を用いて前記観察者の左右眼の位置に導光することを特徴としている。
【0010】
【発明の実施の形態】
(第1実施形態)
図1は、本発明に係る画像表示装置の第1実施形態の構成を示す要部概略図である。
【0011】
図1では画像表示素子1から発した表示光の光路を示すため、画像表示素子の表示面中心を射出し射出瞳SLS、SRSの中心に至る中心画角主光線を用いている。図1以下に示す各図についても同様に作図が成されている。また、各説明において、光線及び光線の方向と記載されるものは、特に示さない場合には中心画角主光線及びその方向を示す。
【0012】
図1においては、左右眼に対して非対称な位置に配置された画像表示素子1からの表示光は光学素子2により、光分岐手段3に導光される。画像表示素子1はCRT(Cathode ray tube)、LCD(Light Crystal Display)、エレクトロルミネッセンス等によって構成される画像表示素子である。光分岐手段3は、本実施形態においてはハーフミラーにより構成され、光を透過光と反射光に分岐する。光分岐手段3により分岐された表示光はそれぞれ光学素子5、5’の作用により観察者の眼球位置EL、ERに導かれる。ここで光学素子5、5’は屈折率が1より大きい透明媒質により構成されるプリズム体で、画像表示素子からの表示光を眼球に導く光学系の一部を形成する。光分岐手段3と光学素子5、5’の間の光路には、それぞれ左右眼に提示される表示光を必要に応じて遮光する遮光手段4、4’が挿入されている。遮光手段4、4’は電気的に光を透過、反射させるような作用を持つ液晶シャッターや、もしくは電気的に光を透過、散乱させるような作用を持つPDLC(Polymer Dispersed Liquid Crystal)などで構成される。
【0013】
以下、左右眼に対して非対称な位置に配置された一つの画像表示装置1により、左右眼にそれぞれ別の画像を提示する機構について説明する。
【0014】
画像表示装置1は、右眼用画像と左眼用画像を時分割して交互に表示する。画像表示素子の表示面SLIより出た光は、光学素子2の光学面SL8、SL7を通り、光分岐手段3の光学面SL6に入射して透過光と反射光に分けられ、それぞれ遮光手段4、4’に導光される。遮光手段4、4’は画像表示装置1の表示内容に同期して表示光を透過又は遮光するように駆動される。つまり、遮光手段4、4’は画像表示装置1が左眼用画像を表示する時には遮光手段4のみが表示光を透過し、右眼用画像を表示する時には遮光手段4’のみが表示光を透過するように駆動される。
【0015】
遮光手段4又は4’を透過した光は、それぞれ光学素子5、5’に入射して射出瞳SLS又はSRSに到達する。以上の機構により、左右眼に対して非対称な位置に配置された一つの画像表示装置1により、それぞれ左右の観察眼に対応する画像のみを観察させることができる。
【0016】
また、図1の構成において、光学素子2と光学素子5、5’に所定の光学作用を与えることによって瞳SLS、SRSに置かれた観察者の左右眼に画像表示素子に表示した別々の画像を虚像として認識させることができる。更に、左右の観察眼に提供する画像を視差画像とすることにより、観察者に立体視をさせることが可能となる。
【0017】
本実施形態において、光学素子5、5’は複数の光学面からなるプリズム体であって、光路内で入射面、反射面、射出面などとして機能する光学面を有する。また、一つの面に複数の機能を兼用させることができる。この際に反射とは、内部全反射、もしくは反射膜による反射、もしくは半透過反射膜などによる反射がある。これは他の光学素子で反射が行われる場合も同様である。また、透過面と反射面を兼用する光学面は、ハーフミラーに代表される半透過反射膜で形成されているが、内部全反射を用いると光利用効率が上がり、またゴーストの発生を防止可能となる。
【0018】
本実施形態において、光学素子5、5’として3面の光学面をプリズム体の例を示した。しかし、その構成はこれに限るものではなく、最適な位置に画像表示素子を配置、好適な画像を観察者に提供するために、4面以上の光学面で構成されていても良く、プリズム内で何回反射を行っても構わない。
【0019】
さらに、光学素子5、5’を構成する面のうち、少なくても一つの光学面を光線に対して偏心した曲面とすることで光学的性能を高めることができる。
【0020】
また、光学素子5、5’に偏心した光学面を使用した場合、諸収差の補正を良好に行うために、光学素子2、光学素子5、5’、又は光分岐手段3などに非回転対称面を用いても良い。更には画像表示素子から左右の射出瞳までの光路中に回転対称面もしくは非回転対称面に回折光学作用を付加しても構わない。非回転対称面を用いることで、偏心収差を良好に無理なく補正することができ、また装置全体を小型にすることができる。また回折光学作用面を用いることで、諸収差補正を良好に行えるため、装置全体を小型にしたまま光学性能が非常に良い画像表示装置を観察者に提供することができる。
【0021】
光学素子2として典型的には凸レンズが用いられるが、これに限定されるものではなく、光路設計により任意の光学素子を用いることが可能である。また図中、画像表示素子1から光分岐手段3の間に光学素子2が置かれているが、設置場所はこれに限定されるものではなく、画像表示素子1から射出瞳までの間のどこに配置されていても良く、また複数の光学素子を使用しても良い。
【0022】
遮光手段4、4’も光分岐手段3から射出瞳までの間ならどこに配置されていても良い。
【0023】
更に、画像表示手段から発せられた光線が射出瞳に到達する間に、中間像を形成することで、光学系の倍率を高め、光学系を小型にしたまま広画角にすることができる。
【0024】
光分岐手段3は本実施例では、射出瞳SLSの中心Pと射出瞳SRSの中心Qを通る直線に垂直で、且つPとQの中心を含む平面(以下、Y面と定義する)内に設置してあるが、光分岐手段3の設置位置はこれに限定されることはなく、光路設計により任意の位置に設置することが可能である。Y面内以外の場所に光分岐手段3を設置する場合には、光分岐手段3以降の光学素子5、5’を含む光学系は左右非対称とすることが望ましい。更に光分岐手段3に正又は負の光学パワーを付与することも光学的性能の向上や、装置のコンパクト化に有効である。
【0025】
本実施形態では、左眼用画像と右眼用画像は画像表示素子1に表示する際に、それぞれ反転画像として表示させることにより、観察者に好適な画像表示を提供することが出来る。反転画像とは左眼用と右眼用は同一画像で反転されていても構わないし、連続した動画などの場合は、画像が反転されていれば同一画像でなくても構わない。また視差を持った左眼用画像と右眼用画像を画像表示素子に交互に表示することで、好適な立体画像表示を観察者に提供することができる。
【0026】
また、画像表示手段から透過反射面までの構成を、Y面を鏡面として反転させた構成にしても良い。その場合、画像表示装置を発した左右眼用画像の光が遮光手段4、4’で受ける作用である透過作用又は遮光作用が左右眼用で逆になる。
【0027】
以上説明した構成にすることにより、一つの画像表示素子を用いて左右両眼に画像を提示する場合において、偏心光学系による諸収差を良好に補正できる位置に画像表示素子を自由に配置できる。これは、左右眼の中心に画像表示素子が位置している図6の従来の光学系に比べて、光学性能の良好な画像表示装置を観察者に提供できる。また偏心プリズム内で光路を折り畳むことで、プリズムを薄型にすることができるため画像装置全体の小型化が図ることができる。また、プリズムを用いることで視軸方向の薄型化をはかりつつも画像表示素子から発せられた光線に適切なパワーを与え、広画角な画像を観察者に提供することができる。またプリズムに曲面を用いることで、結像作用のない光学面が少なくなり、低コストである。
【0028】
(第二実施形態)
図2は、本発明に係る画像表示装置の第二実施形態の構成を示す要部概略図である。本実施形態と第一の実施形態との差異は左右眼用にそれぞれ設けられた光学素子5、5’を用いる代わりに、3つ以上の光学面を有する一体の光学素子5を左右眼で兼用することにある。このような一体化された大型の光学素子5を用いることにより、ヘッドマウントディスプレイを組み立てる際に、左右眼に対する光路の組立誤差の発生を容易に防止できることが可能になる。また、光学素子5内での表示光の光路を長くとることができ、光路設計が容易となる。
【0029】
図2において、左右眼に対して非対称な位置に配置された画像表示素子1からの表示光は光学素子2により、光分岐手段3に導光される。光分岐手段3は、本実施形態においてはハーフミラーにより構成され、光を透過光と反射光に分岐する。光分岐手段3により分岐された表示光はそれぞれ光学素子5の作用により観察者の眼球位置EL、ERに導かれる。光分岐手段3と光学素子5の間の光路には、それぞれ左右眼に提示される表示光を必要に応じて遮光する遮光手段4、4’が挿入されている。光学素子5の構成が異なる以外、光路の構成は第一の実施形態と同様である。
【0030】
以上の構成により、左右眼に対して非対称な位置に配置された一つの画像表示装置1により、左右眼にそれぞれ別の画像を提示する機構について説明する。
【0031】
画像表示装置1は、右眼用画像と左眼用画像を時分割して交互に表示する。画像表示素子より出た光は、光学素子2を通り、光分岐手段3に入射して透過光と反射光に分けられ、それぞれ遮光手段4、4’に導光される。遮光手段4、4’は画像表示装置1の表示内容に同期して表示光を透過又は遮光するように駆動される。つまり、遮光手段4、4’は画像表示装置1が左眼用画像を表示する時には遮光手段4のみが表示光を透過し、右眼用画像を表示する時には遮光手段4’のみが表示光を透過するように駆動される。
【0032】
遮光手段4又は4’を透過した光は、それぞれの光路で光学素子5に入射して射出瞳SLS又はSRSに到達する。以上の機構により、左右眼に対して非対称な位置に配置された一つの画像表示装置1により、それぞれ左右の観察眼に対応する画像のみを観察させることができる。
【0033】
図2に示した光路の構成では左右の眼球に提示される光は、光学素子5内でそれぞれ6回反射された後に射出面より射出瞳SLS、SRSに到達する。反射の回数は図2に示した回数に限定されることはなく、要求される光学的性能を勘案して適宜決定することができる。
【0034】
図2に示した構成により、左右眼の中心に画像表示素子が位置している図6の光学系に比べて、偏心光学系による諸収差を良好に補正できる位置に画像表示素子を自由に配置できるため、無駄な収差発生を押さえ、光学系全体を小型にできる。また、左右眼に導く光学系に用いられるプリズム体を左右眼共通とすることで、部材の配置誤差を少なくすることができるため、画質の性能(コントラスト、解像度など)の低下を防ぎ、良好な画像を得ることができる。
【0035】
(第三実施形態)
図3は、本発明に係る画像表示装置の第三実施形態の構成を示す要部概略図である。
【0036】
図3においては、左右眼に対して非対称な位置に配置された画像表示素子1からの表示光は変調器4−1を経て光学素子2により、偏光ビームスプリッター4−2(以下、PBSと略する)に導光される。画像表示素子1はCRT、LCD、エレクトロルミネッセンス等によって構成される画像表示素子である。PBS4−2は、入射光の偏光状態によって、入射光を透過光と反射光に分岐する。PBS4−2により分岐された表示光はそれぞれ光学素子5、5’の作用により観察者の眼球位置EL、ERに導かれる。
【0037】
ここで光学素子5、5’は屈折率が1より大きい透明媒質により構成される3つ以上の光学面を有するプリズム体で、画像表示素子からの表示光を眼球に導く光学系の一部を形成する。
【0038】
本実施形態と第一の実施形態との差異は、画像表示素子1からの表示光を左右眼に切り替えて提示するための切り替え手段が変調器4−1とPBS4−2で構成されていることである。変調器4−1は所定の偏光軸を持つ光のみを選択的に透過する機能を有し、外部からの信号により、透過する光の偏光軸を変更・選択することが可能な素子である。また、PBS4−2は入射光のうちで所定の偏光軸を持つ光のみを透過し、残りの光を反射することで入射光を分岐する機能を有する。
【0039】
図3に示した構成において、左右眼に対して非対称な位置に配置された一つの画像表示装置1により、左右眼にそれぞれ別の画像を提示する機構について説明する。
【0040】
図7は、本実施形態で変調器4−1とPBS4−2により、左右眼に提示する画像を切り替える手段を構成した際の機構を説明するための概念図である。図7において、画像表示素子1は左右眼用の画像を時分割で交互に表示し、変調器4−1は左右眼用の画像の表示と同期させて駆動され、所定の偏光軸を持つ表示光のみを透過してPBS4−2に導光する。
【0041】
この際に左右眼用の表示光に対して変調器4−1によりそれぞれ異なる偏光軸を付与するように駆動され、例えば右眼用画像の表示光はP偏光、左眼用画像の表示光はS偏光に変調される。更に、前記の異なる偏光軸を付与された表示光を反射と透過により分離するようにPBS4−2を設置することにより、画像表示素子1から出た左右眼用の表示光は、それぞれ左右眼用の光路に分岐されて導光される。このようにして、1つの画像表示素子から出た左眼用画像と左眼用画像の光の偏光状態を変え、左右眼用画像を2つに分岐可能な切り替え手段を構成できる。
【0042】
変調器4−1は、画像表示素子1とPBS4−2の任意の位置に設置することができる。また上記では右眼用画像をP偏光、左眼用画像をS偏光としたが、右眼用画像がS偏光、左眼用画像がP偏光でも構わない。この場合、本実施例においては変調器と切り替え素子の間にλ/2板を配置することによって、左右眼用画像の光はそれぞれ左右眼の射出瞳に導くことができる。
【0043】
本実施形態では、PBS4−2の反射と透過を行う面は平面で形成されており、上記で定義したY面上に設置されている。この透過/反射平面は屈折率が1より大きい透明媒質の同一部材による同一の形状をした平板で挟まれていることが望ましい。これにより、左右眼に提示される表示光が略同一の部材を通過し、画像表示装置から射出瞳までの光路長を等しくすること出来るため、観察者の左右眼には同等の画質、解像力、光学性能を持った画像を導くことが出来る。
【0044】
一方、観察者に不快感を与えるような画質の差が生じない範囲で有れば、この透過/反射平面に付随する部材は同一部材や同一の形状でなくてもよい。また平面の片側だけに素子があっても構わない。更に、この透過/反射平面に付随する部材にパワーを持たせても良く、また平板の代わりにプリズム体を用いても構わない。
【0045】
更に透過光と反射光として左右眼用の画像を分けることができれば、切り替え手段はこれに限るものではない。
【0046】
また、左右眼への光路を対称にするためには、光学素子5、5’として対称な光学素子を用いて、且つY面に対して鏡面対称となるように配置することが望ましい。本実施形態では、光学素子5、5’内において光路を折り返し、往路と復路をほぼ重複させて略同一の経路を反対方向に辿る光路を形成することにより、小型の光学素子に長い光路長を収めている。つまり、光学素子5に入射した光は面B→面A→面C→面A→面B(→面A)の順に各面を通過し、面Cの反射を境に、最終反射面Bに至るまで、それまでの光路を逆にたどり、面B→面A→面C(往路)と面C→面A→面B(復路)を形成している。面Cのように往路を復路に変える折り返し反射作用を持つ面を折返し面と呼ぶ。
【0047】
当該折返し面での反射の前後の反射面、例えば面Aでの反射に着目した場合、面Aへの入射方向を示すベクトルと反射方向を示すベクトルの成す外積の方向が往路と復路でそれぞれ略正反対方向となる。図3においては面Aのみが往路と復路で反射面として機能しているが、同様な面を複数設けて光路を形成することも可能である。このように特徴付けられる折返し面での反射を利用することにより、通常の略対向した二面間でのジグザグ反射に比べて、歪みの発生を抑制しつつ狭い空間に長い光路を納めることが可能となる。また、図3では、例えば面Aでの反射が二回行われる様子を示しているが、実施形態はこれに限定されることはなく、複数回の折返しにより所定の反射面を3回以上反射させてその光学パワーを利用してもよい。
【0048】
図3においては、折返し面への入射光と反射光が同一面内(紙面内)にある場合を示しているが、必ずしも同一面内に設定される必要はない。つまり、折返し面で反射される光に紙面に垂直な方向の成分を折返し面により与えられてもよい。この場合には、例えば面Aでの反射に着目した場合、面Aへの入射方向を示すベクトルと反射方向を示すベクトルの成す外積の方向が往路と復路でそれぞれ鈍角である角度を成すこととなる。また、当該外積同士の成す内積が負になることによっても光路の構成が特徴づけられる。さらに、折返し面だけでなく、他の反射面においても紙面に垂直な方向の成分を反射される光に与えてもよい。このようにすることで、各反射面は光線に対して紙面と垂直方向の偏心も有することとなり、光学設計の自由度を向上することができる。
【0049】
このように、光路を折り返して往路と復路をほぼ重複させることにより、実質的に同一の光学面を複数回使用し、光学性能を犠牲にすることなく光学素子5を小型にすることができ、画像表示装置全体を小型化可能である。
【0050】
また光学素子5の折り返し面(面C)に光線が反射される時、入射光と反射光が成す角度θは以下の条件式(1)の関係を満たすことが望ましい。
|θ|<60°・・・・・・(1)
この条件を外れると、折り返し反射後の光路(復路)が往路を逆戻りせず、小型なプリズム体を用いて光線を瞳に最適に導くことが難しくなる。
|θ|<30°・・・・・・(2)
更に、条件式(2)の条件を外れると、逆戻りは出来るが、往路と復路が重ならず光線を瞳に最適に導くために光学素子が大型化し、表示装置全体を小型化にすることが難しくなるため好ましくない。
|θ|<20°・・・・・・(3)
また条件式(3)を満たすと小型化が可能になる。
【0051】
尚、本実施形態では光学素子5,5内に往復光路を形成し、折り返し面をプリズム体内に設けているが、好適な画像を観察者に提供するために、空間内で各種透過面、反射面などを有する光学素子を組み合わせた任意の光学系中に往復光路を形成していても構わない。またその場合、往復光路は複数のミラー反射部材で構成されていてもよい。折り返し面で光線が入射して射出する角度における上記の関係は、任意の光学系に折り返し面があった場合も同様である。
【0052】
このような構成にすることにより、左右眼の中心に画像表示素子が位置している図6の光学系に比べて、偏心光学系による諸収差を良好に補正できる位置に画像表示素子を自由に配置できるため、無駄な収差発生を押さえ、光学系全体を小型にできる。また、左右眼に導く光学系に用いられるプリズム体を同一の光学素子とすることで、製造型製作のコスト削減効果がある。
【0053】
(第四実施形態)
図4は、本発明に係る画像表示装置の第四実施形態の構成を示す要部概略図である。
【0054】
図4においては、実施形態3と同様に、左右眼に対して非対称な位置に配置された画像表示素子1からの表示光は変調器4−1で変調を受けて、PBS4−2に導光される。更に、PBS4−2により入射光の偏光状態によって透過光と反射光に分岐され、それぞれ光学素子5、5’等の作用を受けて射出瞳SLS,SRSに導かれる。
【0055】
ここで光学素子5、5’は屈折率が1より大きい透明媒質により構成される3つ以上の光学面を有するプリズム体で、画像表示素子からの表示光を眼球に導く光学系の一部を形成する。
【0056】
本実施形態と第三の実施形態との差異は、PBS4−2に表示光の分岐機能の他に、所定の光学パワーを付与した点と、光学素子2の機能を複数の光学素子に分割した点にある。
【0057】
本実施形態ではPBS4−2の光の分岐機能を有する面は平面で形成されており、上記のY面上に配置されている。また、その平面の両面は屈折率が1より大きい透明媒質の平凸レンズで挟まれている。このような構成にすることで、PBS4−2に所定の光学作用を分担できるため、他の部分の光路設計が容易となり、結果的に光学特性の向上と装置の小型化が可能となる。
【0058】
また、本実施形態では凹面ミラーの光学素子2は、凸レンズの光学素子2’、2’’を有している。第三の実施形態と比較して、必要な光学作用を複数の光学素子で分担させるため、他の部分の光路設計が容易となり、結果的に光学特性の向上と装置の小型化が可能となる。また、収差の発生を小さく抑制することが可能となる。
【0059】
このような構成にすることにより、左右眼の中心に画像表示素子が位置している図6の光学系に比べて、偏心光学系による諸収差を良好に補正できる位置に画像表示素子を自由に配置できるため、無駄な収差発生を押さえ、光学系全体を小型にできる。
【0060】
(第五実施形態)
図5は、本発明に係る画像表示装置の第五実施形態の構成を示す要部概略図である。
【0061】
図5においては、左右眼に対して非対称な位置に配置された画像表示素子1からの表示光は光学素子2により、光分岐手段3に導光される。光分岐手段3は、本実施形態においてはハーフミラーにより構成され、光を透過光と反射光に分岐する。光分岐手段3により反射された表示光は、左眼用の表示光学系を構成する光学素子5へと導光され、その作用によって左眼用の射出瞳SLSへ導かれる。一方、光分岐手段3を透過した表示光は、光学素子2’、2’’を介して右眼用の表示光学系を構成する光学素子5’へと導光され、その作用によって右眼用の射出瞳SRSへ導かれる。光学素子5、5’と射出瞳SLS、SRSの間にはそれぞれ遮光手段4、4’が配置され、必要に応じて表示光を遮光する。
【0062】
画像表示装置1は、右眼用画像と左眼用画像を時分割して交互に表示する。画像表示素子を出た光は、光学素子2を通り、光分岐手段3に入射して透過光と反射光に分けられる。この後、当該反射光は光学素子5を経て、当該透過光は更に光学素子2’、2’’を介して右眼用の表示光学系を構成する光学素子5’を経て、それぞれ遮光手段4、4’に導光される。遮光手段4、4’は画像表示装置1の表示内容に同期して表示光を透過又は遮光するように駆動される。つまり、遮光手段4、4’は画像表示装置1が左眼用画像を表示する時には遮光手段4のみが表示光を透過し、右眼用画像を表示する時には遮光手段4’のみが表示光を透過するように駆動される。これにより、左眼用画像および右眼用画像はそれぞれ射出瞳SLS又はSRSにのみ到達する。
【0063】
本実施形態と第一の実施形態の差異は、画像表示装置1および光分岐手段3が共に射出瞳SLS、SRSに対して非対称な位置に配置されており、これに関係して光学素子5、5’を含む光分岐手段3以降の表示光学系が左右非対称に設定されている点である。
【0064】
このような構成にすることにより、左右眼の中心に画像表示素子が位置している図6の光学系に比べて、偏心光学系による諸収差を良好に補正できる位置に画像表示素子を自由に配置できるため、無駄な収差発生を押さえ、光学系全体を小型にできる。また、第一の実施形態と比較した場合であっても、各構成要素の配置の自由度が高まり、光学系全体を更に小型化することができる。
【0065】
また、最適な位置に画像表示素子を配置させるためや、好適な画像を観察者に提供できれば、プリズム体の構成はこれに限るものではない。
【0066】
本構成を用いて、視差画像を画像表示素子1に表示することで観察者に立体視をさせることが可能である。また、同一の画像を左右眼に提示する場合は、画像表示素子に時分割で左右眼の画像を表示しなくても良く、また切り替え素子4、4’はなくても構わない。また光学系2〜2”、切り替え手段4、プリズム体はこの構成に限るものではない。
【0067】
以上で説明した発明の実施形態から、以下のような発明を読みとることが可能である。
(発明1)画像表示素子に表示された画像を表示光学系により観察者の左右眼にそれぞれ提示する頭部装着型画像表示装置において、観察者の左右眼の位置に対して非対称な位置に配置された1つの前記画像表示手段に表示された画像を、該画像表示素子からの光線に対して偏心した曲面を含む3面以上からなるプリズム状の光学素子を有する前記表示光学系を用いて前記観察者の左右眼の位置に導光することを特徴とする頭部装着型画像表示装置に関する発明。
(発明2)前記画像表示素子は左右眼用の画像を時分割で表示すると共に、前記表示光学系に設けた切り替え手段により対応する画像を前記観察者の左右眼の位置に導光することを特徴とする発明1に記載の頭部装着型画像表示装置に関する発明。
(発明3)前記表示光学系は、少なくとも1つの非回転対称な光学面を有することを特徴とする発明1乃至2に記載の頭部装着型画像表示装置に関する発明。
(発明4)前記表示光学系は、少なくても反射作用を有する第一の面と、該第一の面で反射した光線を再度該第一の面に向けて反射する第二の面とを有し、前記第一の面に再度入射した光線の中心画角主光線はそのヒットポイント上での面の法線に関して、前回とは略反対側に反射して進む折り返し光路を含むことを特徴とする発明1乃至3に記載の画像表示装置に関する発明。
(発明5)前記折返し光路が前記プリズム状の光学素子内に形成されることを特徴とする発明4に記載の頭部装着型画像表示装置に関する発明に関する発明。
(発明6)前記プリズム体は、右眼に光線を導くプリズム体と左眼に光線を導くプリズムタイの2つを有し、該2つのプリズムは同一の光学素子とすることを特徴とする発明1乃至5に記載の頭部装着型画像表示装置に関する発明。
(発明7)左右眼用の表示光学系が一つの前記プリズム状の光学素子を共有して形成されることを特徴とする発明1乃至5に記載の頭部装着型画像表示装置に関する発明。
(発明8)前記表示光学系内には中間像が形成されることを特徴とする発明1乃至7に記載の頭部装着型画像表示装置に関する発明。
(発明9)前記切り替え手段は、前記表示光を左右眼用の各表示光学系に対して分岐する分岐手段を有し、前記分岐手段は左右眼用の各表示光学系の各射出瞳中心を通る直線に垂直で、且つ当該左右眼用の瞳中心の中間点を通る平面上に配置されることを特徴とする発明2乃至8に記載の画像表示装置に関する発明。
(発明10)前記切り替え手段は、前記表示光を左右眼用の各表示光学系に対して分岐する分岐手段を有し、前記分岐手段は観察者の左右眼の位置に対して非対称な位置に配置されることを特徴とする発明2乃至8に記載の画像表示装置に関する発明。
(発明11)画像表示手段からの光を観察者の眼又は被投影面に導く表示光学系であって、前記表示光学系は光路に対して偏心した所定の反射面での複数回の反射を含み、且つ当該複数回の反射におけるそれぞれの入射光と反射光のベクトルの外積間の内積が負になる場合を含むことを特徴とする表示光学系に関する発明。
【0068】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の構成によれば、1つの画像表示素子を自由に配置可能とし、また光学系の光学性能を高めることで、小型で軽量であり、且つ画質の向上があると共に、広画角の画像を観察者に提示可能な頭部装着型画像表示装置を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る画像表示装置の第1実施形態の構成を示す要部概略図
【図2】本発明に係る画像表示装置の第2実施形態の構成を示す要部概略図
【図3】本発明に係る画像表示装置の第3実施形態の構成を示す要部概略図
【図4】本発明に係る画像表示装置の第4実施形態の構成を示す要部概略図
【図5】本発明に係る画像表示装置の第5実施形態の構成を示す要部概略図
【図6】画像表示装置の従来例
【図7】変調器と偏光ビームスプリッターの組合せによる、画像切替え手段の概念図
【符号の説明】
1 画像表示素子
2、2’、2’’ 光学素子
3 透過反射素子、透過反射面
4、4’ 遮光手段
4−1 変調器
4−2 偏光ビームスプリッター
5、5’ 光学素子

Claims (1)

  1. 画像表示素子に表示された画像を表示光学系により観察者の左右眼にそれぞれ提示する頭部装着型画像表示装置において、
    観察者の左右眼の位置に対して非対称な位置に配置された1つの前記画像表示手段に表示された画像を、該画像表示素子からの光線に対して偏心した曲面を含む3面以上からなるプリズム状の光学素子を有する前記表示光学系を用いて前記観察者の左右眼の位置に導光することを特徴とする頭部装着型画像表示装置。
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