JP2004256183A - 合成繊維用巻取紙管 - Google Patents
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Abstract
【課題】一度使用した回収紙管を再使用したとしても、巻取機に対する糸掛け成功率および/または自動切替え成功率を新品の紙管を使用した場合と実質的に同じ水準に維持でき、特に多錘型巻取機に対して好適に使用できる合成繊維巻取用紙管を提供する。
【解決手段】連続的に供給される合成繊維からなる糸条を巻き取る紙管(1)の端部円周方向に前記糸条を捕捉するための捕捉溝(2a,2a’,2a”)溝と捕捉した糸条を強い把持力で把持する把持溝(2b,2b’,2b”)溝とを有する溝(2,2’,2”)を複数本並列して設けた合成繊維巻取用紙管(1)である。
【選択図】 図1
【解決手段】連続的に供給される合成繊維からなる糸条を巻き取る紙管(1)の端部円周方向に前記糸条を捕捉するための捕捉溝(2a,2a’,2a”)溝と捕捉した糸条を強い把持力で把持する把持溝(2b,2b’,2b”)溝とを有する溝(2,2’,2”)を複数本並列して設けた合成繊維巻取用紙管(1)である。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は合成繊維糸条を巻き取るに際して糸掛けおよび/または自動切替え成功率を改善した紙管に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般にポリエステル、ポリアミドなどの合成繊維を製造する工程、例えば溶融紡糸工程などにおいて、紡出された糸条を一旦糸条パッケージとしてボビン上に巻き取るが、このような巻取に使用されるボビンとしては一般に円筒形状を有する紙管が使用されている。
【0003】
その際、特公昭57−36233号公報、特開昭58−119553号公報などに提案されているように、ポリアミド、ポリエステル繊維のような合成繊維糸条を延伸撚糸機、延伸仮撚機等で加工処理する場合、原糸ボビン間で巻始めの糸端と巻終りの糸端とを結び合せて連続処理を行なうようにするため、巻始め時にトラバース域外のボビン端部に、いわゆるトランスフアーテールを形成することが行われている。
【0004】
このような巻取を行うに当たっては、先ず、新たに糸条の巻取を開始するボビン(紙管)に設けられた糸条の捕捉手段によって、連続して走行している糸条を一旦紙管上に把持・捕捉する。そして、上流側から連続供給されてくる糸条だけを紙管上に巻き取るために、連続供給される糸条を把持・捕捉位置よりも下流側で切断して切断した下流側糸条を紙管から切り離し、連続供給される上流側糸条のみを紙管の端部に前記トランスファー・テールを形成させて、次いで巻取機のトラバース装置によって綾振りを行いながら巻き取ることが行われる。
【0005】
その際、巻始め時点で、捕捉した糸条を切断する必要が生じるが、このような糸条の切断においては、一般的には繊維の繊度が小さてその破断強力が小さい場合は、まず紙管に直接切った捕捉溝に糸条を導き、この捕捉溝に引続いて設けられた把持溝に糸条を挟み込んで把持し、把持した糸条を紙管の回転力によって引き千切って糸条を切断して紙管に巻き取る方法が使われている。
【0006】
しかしながら、糸条の繊度が大きくて破断強力が大きくなると、紙管に直接切った把持溝だけでは糸条を引き千切る際の把持力が不十分となる。そこで、キャッチリング等の呼称で呼ばれている金属性の補助具を使用して糸条を捕捉・切断して紙管に巻き取る方法が使われている。その場合、キャッチリングといった余計な補助具を使用する必要がある。しかも、キャッチリングを巻取機のボビンホルダーや紙管自体に作業員の手を介して適切に取り付ける必要がある。したがって、このような手間などを考慮すると、紙管に設けられた把持溝による把持力だけで充分に糸条を引き千切ることができる場合には、把持溝を直接切った紙管を使用する利点の方が大きい。そこで、把持溝だけでこのような機能を果たすことが可能な場合には、特別な場合を除いて、通常、糸条を捕捉するための把持溝を直接刻設した紙管が採用されている。
【0007】
以上に述べたような背景の下、近年、合成繊維の製造工程の合理化が進められ、巻取機の多錘化が進みボビンホルダーに装着するボビンの数(コップ数ともいう)も多くなっており、その上更に、一つのボビンに巻き取る糸条の量も多くなってきて、糸条パッケージ自体も大型化してきている。また、環境問題に配慮したり、あるいは生産コストを更に合理化したりするために、一度使用した紙管を廃棄してしまわずに、これを回収してそのまま再使用することも行われるようになってきた。
【0008】
一般に、紙管はその水分率によって伸縮して、その長さが容易に変化するために、紙管が受けた環境履歴によって、その長さが変化するという事態が生じる。このような問題に対して、新品の紙管の場合であれば、紙管の製作時に紙管メーカーにおいて水分の調整が可能であり、それが使用される合成繊維の巻取工程の温湿度を基準にして紙管の長さを一定の基準値内に調整することは可能である。また、2錘立て巻取機などのように錘数が少ない巻取機においては、多少、長さが基準値から外れたとしても一つのボビンホルダーに直列に並べられた紙管の数そのものが少ないため、その累積誤差も必然的に小さくなり、それ程大きな問題とはならなかった。
【0009】
ところが、紙管を再使用に供するとなると、常に新品の紙管を使用する場合と異なった新たな問題が発生する。すなわち、市場から回収された紙管を再使用するとなると事態は一変するのである。つまり、このような場合には、巻き取られた糸条パッケージが使用に供される使用先の環境がその使用先によって異なるために、その使用履歴が大きく異なっているのが普通である。このために、紙管の水分率も使用先の環境に左右されて大きく異なってしまうため、当然のことながらその長さも大きく異なってしまうこととなる。その上更に、巻取機が4コップあるいは6コップなどと多錘化されてくると、ボビンホルダーに直列に装着する紙管に長さのバラツキがあると、その長さの誤差が累積される事態も惹起する。
【0010】
このような事態が生じているにもかかわらず、もし、再使用に供した前述の紙管を使用して、この紙管に対して糸掛けを行ったり、自動切替機能を有する巻取機によって満巻紙管から空紙管へと糸条の巻取を自動切替えしたりすると、その糸掛け成功率あるいは糸条の切替え成功率は新品の紙管を使用する場合に比較して悪くなる。
【0011】
そこで、再使用に供された紙管に関して、このような誤差を生じさせないように、エージングを施し、紙管の含有水分率を一定にすることによって、水分率の違いによる長さの誤差を少なくし、再使用した紙管の誤差を基準値内に収めようとする試みがなされている。なお、一般に、このエージング工程は、一旦、紙管を過乾燥させた後に、それが実際に使用される巻取室の温湿度に調整されたエージング室で吸湿させる方法がとられる。
【0012】
しかしながら、この方法では、紙管に発生する誤差が基準値内に収まるまでの間、紙管の含水率を調整するために長い時間と多くの手間を必要とし、更に、このような紙管を大量に適切なエージング条件に維持した保管室内に保管しておかなければならない。このため、時間とスペースの制約を受けて非常に非効率である。しかも、水分調整後の紙管であっても、一度使用に供された紙管は新品の紙管と比較すると、含水率以外の使用条件などが重畳してどうしてもバラツキが大きく精度が悪いという問題を本質的に有している。
【0013】
【特許文献1】
特公昭57−36233号公報
【0014】
【特許文献2】
特開昭58−119553号公報
【0015】
【非特許文献1】
帝人製機(株)から1997年9月16日付け日付けにて配布された「AUTOMATIC NS winder NS−612/12」に係る「OPERATION MANUAL」に記載のPaper tube specification参照。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
以上に述べた従来の再使用可能な紙管が有する問題に鑑み、本発明の目的は、一度使用した回収紙管を再使用したとしても、巻取機に対する糸掛け成功率および/または自動切替え成功率を新品の紙管を使用した場合と実質的に同じ水準に維持でき、特に多錘型巻取機に対して好適に使用できる合成繊維巻取用紙管を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、予め紙管の伸縮を予測しそれに対応した位置に複数本の溝を円周方向に配置した紙管を使用することにより糸掛けおよび/または自動切替え成功率を良好に維持することを可能とした。
【0018】
ここに、前記目的を達成するための本発明として、請求項1に記載のような「連続的に供給される合成繊維からなる糸条を巻き取る紙管の端部円周方向に前記糸条を捕捉して把持するための溝を複数本並列して設けた合成繊維巻取用紙管」が提供される。
【0019】
その際、本発明は、請求項2に記載のように、「前記各溝が糸条を捕捉するための捕捉溝と、前記捕捉溝によって捕捉された糸条を把持する把持溝とからなる請求項1に記載の合成繊維巻取用紙管」とすることが好ましい。
【0020】
また、請求項3に記載のように、「前記複数本の溝の数が2又は3本である請求項1に記載の合成繊維巻取用紙管」とすることが好ましい。
【0021】
また、請求項4に記載のように、「前記複数本の溝が円周方向に対して互にずれた位置に配置されている請求項1〜3の何れかに記載の合成繊維巻取用紙管」とすることが好ましい。
【0022】
更に、請求項5に記載のように、「前記紙管が市場から回収された再使用紙管である請求項1〜4の何れかに記載の合成繊維巻取用紙管」とすることが好ましい。
【0023】
そして、請求項6に記載のように、「一つのボビンホルダーに複数の紙管を装着して巻取りを行う多錘型巻取機に使用する請求項1〜5の何れかに記載の合成繊維巻取用紙管」とすることが好ましい。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明でいう合成繊維とは、一般にポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン等に代表されるポリマーから製造されるものをいい、このような合成繊維の製造工程では、巻取機によって一旦糸条パッケージとして巻き取られる。その際に、合成繊維糸条の巻取りに使用する巻取機としては、サクションガンなどの糸掛具に糸条を吸引させながら作業員が手動によって糸条をボビンに糸掛けする手動式巻取機がある。また、2つのボビンホルダーを備え、一方のボビンホルダーに装着されたボビンが満巻になると、2つのボビンホルダーが互に回転して互いの位置を入れ替えながら、他方のボビンホルダーに装着された空ボビンに巻取りを自動に切替えるターレット式自動巻取機も慣用されている。なお、本発明の合成繊維巻取用紙管においては、前記の手動式巻取機、あるいは自動巻取機のどちらにも適用できることは言うまでもない。
【0025】
以上に述べた合成繊維糸条の巻取りにおいて、本発明では、合成繊維糸条を巻き取るためのボビンとして、もちろん紙製の円筒形状を有する紙管を使用することを前提とする。したがって、前記巻取機のボビンホルダーに装着されるのは紙管である。なお、巻取機のボビンホルダーに装着された紙管は、ボビンホルダーに設けられた把持手段によって強く把持されてボビンホルダーと共に回転させられ、巻取機のトラバース機構によって左右に綾振られながら連続供給されてくる糸条を紙管上に巻き取って、糸条パッケージを形成することは周知のとおりである。
【0026】
以下、このような本発明に好適に使用できる合成繊維巻取用紙管の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
ここに、図1(a)は本発明の合成繊維巻取用紙管として好適に使用できる紙管の一実施形態例、図1(b)は前掲の非特許文献1に記載されているような、従来使用されていた合成繊維巻取用紙管の一実施形態例をそれぞれ模式的に例示した説明図をそれぞれ示す。なお、図2(a)は図1(b)のX−X矢視方向の要部断面図、そして、図2(b)は図1(b)のY−Y矢視方向の要部断面図をそれぞれ示す。
【0028】
前記図1において、1は本発明の合成繊維巻取用紙管に係る実施形態例であり、10は従来の合成繊維巻取用紙管例に係る実施形態例である。ここで、図1(b)に例示した従来の紙管10では、一本の捕捉溝20aと把持溝20bとからなる溝20が紙管10の端部円周方向に設けられているのみであって、この溝20を構成する捕捉溝20aで走行糸条を捕捉した後、把持溝20bへ導いてしっかりと捕捉した糸条を把持し、紙管10が回転する力によって、捕捉された糸条はその下流側で引き千切られるように構成されている。
【0029】
その際、前記捕捉溝20aは、図2(a)に模式的に例示したように、その上方がV字の漏斗状に広がった形で開放されており、糸条を捕捉溝20aに導入して捕捉しやすい形状にされている。また、前記把持溝20bは、図2(b)に模式的に例示したように、捕捉溝20aにキャッチされた糸条をしっかりと把持できるように狭隘な楔形状断面を有しており、この狭隘な楔形状断面を有する把持溝20bに入り込んだ糸条は、左右の楔形状側壁によって挟み込まれて、把持される構造となっている。
【0030】
以上に述べたような溝20を有する紙管10に合成繊維糸条を巻き取るに当たっては、通常、手動あるいは自動の何れの巻取機にしても、糸掛け時あるいは糸切替時において、上流側から連続して供給される糸条を紙管10に設けられた溝20に案内する糸ガイドが巻取機側に設けられている。このため、この糸ガイドによって糸条を捕捉溝20aが設けられた位置に確実に導くことができるように構成されている。そして、引続いて、把持溝20bで把持し、糸条をボビンホルダーから紙管10に伝達された回転力によって、下流側で糸条を引き千切って切り離し、紙管10の端部にトランスファー・テールを形成させながら上流側から供給される糸条をトラバース域へ送って糸条パッケージとして巻き取るようになされている。
【0031】
ところが、一般に、前記糸ガイドによって、上流から連続的に供給される糸条を溝20へ導くのに際して、糸ガイドを作動させて、糸条を溝20に案内するための作動距離は機械的に制限されている。このため、既に「従来の技術」欄で詳細に述べたように、紙管10の長さLが再使用に供されるなどの要因によって伸縮すると、この伸縮に伴って紙管10に設けられた溝20の位置が、糸ガイドの作動範囲を外れてしまうという事態を惹起する。また、このような事態は、特に、多コップ型巻取機において、顕著となることも既に述べた通りである。したがって、このような事態が生じると、糸条は紙管10に設けられた溝20に案内されずに、糸掛けあるいは糸切替えを失敗するという重大な問題を引き起こす。なお、この現象は、巻取機のボビンホルダーに直列に装着された紙管10群に対して、その長さLの誤差が累積される最も前部分の紙管10でより顕著となることは言うまでもない。したがって、紙管10に設ける溝20の位置は、常に機械的に設定されている糸ガイドの作動範囲域内にあることが必要である。
【0032】
これを多コップ型巻取機に例に採って説明すると、一般に紙管10の規格としては、通常、その基準長さLに対して±(0.2〜0.3)mmの誤差であればこれを許容するように設定されており、これに対して、前記巻取機に設けられた糸ガイドの作動範囲は数mm程度(約2mm)である。したがって、例えば巻取機のボビンホルダーに8本の紙管10を直列に装着する場合、全ての紙管が+側に誤差(すなわち、紙管が伸びる方向の誤差)を持つと仮定すると、紙管1本当たり平均+0.25mmまで誤差が許容される。また、12本の紙管10を直列に装着する場合は、紙管1本当たり平均+0.16mmまでの誤差しか許容されないこととなる。なお、全ての紙管が同じ環境で使用され、これらが大量に回収されて再使用に供されるような場合には、全ての紙管が+側に誤差を持っていたり、逆に−側に誤差を持っていたりするような事態は普通に生じることである。
【0033】
以上に述べたような許容誤差を制御することに関しては、新品紙管であれば、製作時に紙管の水分率をコントロールでき、使用直前まで密封シールでこのときの状態を維持しておくことが可能であるために、長さLの管理は比較的容易にできる。しかしながら、回収紙管の場合は、回収される前に使用された使用先での環境履歴が異なるために、紙管10の長さLも大きく異なってくることは既に述べた通りである。
【0034】
例えば、21℃×51%RHでL=150.0mmの紙管10では、31℃×80%RHで+(0.4〜0.5)mm、23℃×62%RHで+(0.2〜0.3)mm、31℃×31%RHで−(0.1〜0.2)mm、36℃×25%RHで−(0.3〜0.4)mmの変化が起こる。このため、再使用する紙管に対して、前述のような+0.16mmまでの誤差をギャランティーすることは極めて難しいといわざるを得ない。したがって、再使用した紙管を使用して巻取機への糸掛け成功率を上げたり、糸切替え成功率を上げたりすることは、従来型の紙管10を使用する限りにおいては、至難の業である。
【0035】
なお、紙管の長さ変化は可逆的であるから、理論的には調湿によって所望の長さにコントロールすることが可能ではある。しかしながら、実際には回収紙管のように、含有水分率が異なることによって長さが大きく異なる紙管を所望の長さに調整するには、極めて複雑な管理をすることが要求され容易ではない。
【0036】
以上に述べたような問題を有する従来の紙管10に対して、図1(a)に例示した本発明の紙管1では、従来の紙管10に形成された一本の溝20に代えて、複数本の溝(本例では3本の溝2、2’及び2”)を並列して設けている。しかも、本例の紙管1では複数本の溝(2、2’及び2”)のそれぞれに一対一に対応して各捕捉溝(2a、2a’及び2a”)と各把持溝(2b、2b’及び2b”)とから構成されている。したがって、複数本の溝2、2’及び2”の何れかに糸条を捕捉して、ここで把持することができる仕組みとなっている。なお、再使用に供された紙管1は、その全長Lが伸びている場合と縮んでいる場合とがある。したがって、このような伸縮の何れの場合にも対応できるように、溝2を基準とし、この基準溝2の前後に並列させて図1(a)に例示したように溝2’と溝2”とを設けることが好ましい。ただし、溝2、2’及び2”を設ける間隔は、使用する巻取機や再使用する紙管1の状況に応じて適宜選択されるべきものである。
【0037】
なお、本発明に好適に利用できる溝2、2’及び2”の断面形状としては、図2に模式的に例示した従来の溝20(捕捉溝20a及び把持溝20b)と同じ機能を有していることは言うまでもない。ただし、図2の溝形状は、一実施形態例を示したものであって、これに限定されることはなく、本発明の主旨を満足する範囲で種々の形態を採ることができることは言うまでもない。つまり、捕捉溝(2a、2a’及び2a”)として要求される機能は、前述の糸ガイドによって案内されてきた糸条を確実に捕捉することが重要であって、このような機能を有するものであれば特にその溝形状を制限する必要はない。また、把持溝(2b、2b’及び2b”)として要求される機能は、この把持溝(2b、2b’及び2b”)に入り込んだ糸条を強い把持力で把持し、紙管2の回転によって生じる回転力によって糸条を引き千切るまでしっかりとこれを把持することであって、このような機能を有するものであれば特にその溝形状を制限する必要はない。
【0038】
更に、本発明においては、前記複数本の溝2、2’及び2”を設ける際に、その相対位置が円周方向に対して互にずれた位置に配置されていることが、糸条を良好に捕捉するうえで好ましい。なお、高速で回転する紙管1の動バランスを取ったり、紙管の共どを一定に保っておくという点から言えば、複数本の溝は、互に円周方向に等角度を置いてずれた相対位置をもって設けられていることが好ましい。例えば、図1(a)のように3本の溝2、2’及び2”を設ける場合には、120°づつの等角度で互いの位置がずれて配置されていることが好ましい。
【0039】
【実施例】
以下に実施/比較例を示す。
【0040】
[実施例1/比較例1]
一つのボビンホルダーに12本の紙管を直列に装着する帝人製機(株)製自動ワインダーNS−612/12を使い、巻取速度4500m/minでナイロン66SDY(22dtex/7fil)を巻き取る際に、基準となる紙管長さLが100mmであり、その許容誤差が±0.2mmである3回使用済みの紙管を市場より回収して4回目の使用を行った。
【0041】
このとき使用した紙管は、図1(a)に示すような3本の溝2、2’及び2”が紙管の端部円周に設けられたもので、基準溝2の前後に2mmの間隔を置いて溝2’と2”とを並列に設けた。
【0042】
以上に述べた紙管を使用して巻取りテストを行った結果、糸を巻き取っている満巻紙管から新しい空紙管への糸切替え成功率は、従来の1本溝の紙管では93%であったが、3本溝を設けた本実施例1の紙管においては98.5%であった。
【0043】
[実施例2/比較例2]
8本の紙管を直列に装着した帝人製機(株)製自動ワインダーNS−612/8Aを使い、巻取速度4250m/minでナイロン6POY(40dtex/10fil)を巻き取る際に、基準となる紙管長さLが150mmであり、その許容誤差が±0.2mmである1回使用済みであり、かつ温湿度の高い7月に回収した図1(a)に例示した紙管を際使用して巻取りを行った。なお、その他の条件は、実施例1に準じた。
【0044】
その結果、満巻紙管から新しい空紙管への糸切替え成功率は、従来の1本溝の紙管では85%であったが、本実施例2の紙管においては97.5%であった。
【0045】
【発明の効果】
以上の説明の如く、環境履歴に基づく紙管の伸縮を予測し、それに対応した位置に複数本の溝を円周方向にずらして配置した紙管を使用することにより、一度使用された紙管であっても、糸掛けおよび/または自動切替え成功率を良好に維持することが容易に可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1(a)は本発明の合成繊維巻取用紙管として好適に使用できる紙管の一実施形態例、図1(b)は従来使用されていた合成繊維巻取用紙管の一実施形態例をそれぞれ模式的に例示した説明図である。
【図2】図2(a)は図1(b)のX−X矢視方向の断面図、そして、図2(b)は図1(b)のY−Y矢視方向の断面図をそれぞれ示す。
【符号の説明】
1 本発明に係る紙管
2、2’、2” 溝
2a、2a’、2a” 捕捉溝
2b、2b’、2b” 把持溝
10 従来の紙管
20 溝
20a 捕捉溝
20b 把持溝
L 紙管の基準長さ
【発明の属する技術分野】
本発明は合成繊維糸条を巻き取るに際して糸掛けおよび/または自動切替え成功率を改善した紙管に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般にポリエステル、ポリアミドなどの合成繊維を製造する工程、例えば溶融紡糸工程などにおいて、紡出された糸条を一旦糸条パッケージとしてボビン上に巻き取るが、このような巻取に使用されるボビンとしては一般に円筒形状を有する紙管が使用されている。
【0003】
その際、特公昭57−36233号公報、特開昭58−119553号公報などに提案されているように、ポリアミド、ポリエステル繊維のような合成繊維糸条を延伸撚糸機、延伸仮撚機等で加工処理する場合、原糸ボビン間で巻始めの糸端と巻終りの糸端とを結び合せて連続処理を行なうようにするため、巻始め時にトラバース域外のボビン端部に、いわゆるトランスフアーテールを形成することが行われている。
【0004】
このような巻取を行うに当たっては、先ず、新たに糸条の巻取を開始するボビン(紙管)に設けられた糸条の捕捉手段によって、連続して走行している糸条を一旦紙管上に把持・捕捉する。そして、上流側から連続供給されてくる糸条だけを紙管上に巻き取るために、連続供給される糸条を把持・捕捉位置よりも下流側で切断して切断した下流側糸条を紙管から切り離し、連続供給される上流側糸条のみを紙管の端部に前記トランスファー・テールを形成させて、次いで巻取機のトラバース装置によって綾振りを行いながら巻き取ることが行われる。
【0005】
その際、巻始め時点で、捕捉した糸条を切断する必要が生じるが、このような糸条の切断においては、一般的には繊維の繊度が小さてその破断強力が小さい場合は、まず紙管に直接切った捕捉溝に糸条を導き、この捕捉溝に引続いて設けられた把持溝に糸条を挟み込んで把持し、把持した糸条を紙管の回転力によって引き千切って糸条を切断して紙管に巻き取る方法が使われている。
【0006】
しかしながら、糸条の繊度が大きくて破断強力が大きくなると、紙管に直接切った把持溝だけでは糸条を引き千切る際の把持力が不十分となる。そこで、キャッチリング等の呼称で呼ばれている金属性の補助具を使用して糸条を捕捉・切断して紙管に巻き取る方法が使われている。その場合、キャッチリングといった余計な補助具を使用する必要がある。しかも、キャッチリングを巻取機のボビンホルダーや紙管自体に作業員の手を介して適切に取り付ける必要がある。したがって、このような手間などを考慮すると、紙管に設けられた把持溝による把持力だけで充分に糸条を引き千切ることができる場合には、把持溝を直接切った紙管を使用する利点の方が大きい。そこで、把持溝だけでこのような機能を果たすことが可能な場合には、特別な場合を除いて、通常、糸条を捕捉するための把持溝を直接刻設した紙管が採用されている。
【0007】
以上に述べたような背景の下、近年、合成繊維の製造工程の合理化が進められ、巻取機の多錘化が進みボビンホルダーに装着するボビンの数(コップ数ともいう)も多くなっており、その上更に、一つのボビンに巻き取る糸条の量も多くなってきて、糸条パッケージ自体も大型化してきている。また、環境問題に配慮したり、あるいは生産コストを更に合理化したりするために、一度使用した紙管を廃棄してしまわずに、これを回収してそのまま再使用することも行われるようになってきた。
【0008】
一般に、紙管はその水分率によって伸縮して、その長さが容易に変化するために、紙管が受けた環境履歴によって、その長さが変化するという事態が生じる。このような問題に対して、新品の紙管の場合であれば、紙管の製作時に紙管メーカーにおいて水分の調整が可能であり、それが使用される合成繊維の巻取工程の温湿度を基準にして紙管の長さを一定の基準値内に調整することは可能である。また、2錘立て巻取機などのように錘数が少ない巻取機においては、多少、長さが基準値から外れたとしても一つのボビンホルダーに直列に並べられた紙管の数そのものが少ないため、その累積誤差も必然的に小さくなり、それ程大きな問題とはならなかった。
【0009】
ところが、紙管を再使用に供するとなると、常に新品の紙管を使用する場合と異なった新たな問題が発生する。すなわち、市場から回収された紙管を再使用するとなると事態は一変するのである。つまり、このような場合には、巻き取られた糸条パッケージが使用に供される使用先の環境がその使用先によって異なるために、その使用履歴が大きく異なっているのが普通である。このために、紙管の水分率も使用先の環境に左右されて大きく異なってしまうため、当然のことながらその長さも大きく異なってしまうこととなる。その上更に、巻取機が4コップあるいは6コップなどと多錘化されてくると、ボビンホルダーに直列に装着する紙管に長さのバラツキがあると、その長さの誤差が累積される事態も惹起する。
【0010】
このような事態が生じているにもかかわらず、もし、再使用に供した前述の紙管を使用して、この紙管に対して糸掛けを行ったり、自動切替機能を有する巻取機によって満巻紙管から空紙管へと糸条の巻取を自動切替えしたりすると、その糸掛け成功率あるいは糸条の切替え成功率は新品の紙管を使用する場合に比較して悪くなる。
【0011】
そこで、再使用に供された紙管に関して、このような誤差を生じさせないように、エージングを施し、紙管の含有水分率を一定にすることによって、水分率の違いによる長さの誤差を少なくし、再使用した紙管の誤差を基準値内に収めようとする試みがなされている。なお、一般に、このエージング工程は、一旦、紙管を過乾燥させた後に、それが実際に使用される巻取室の温湿度に調整されたエージング室で吸湿させる方法がとられる。
【0012】
しかしながら、この方法では、紙管に発生する誤差が基準値内に収まるまでの間、紙管の含水率を調整するために長い時間と多くの手間を必要とし、更に、このような紙管を大量に適切なエージング条件に維持した保管室内に保管しておかなければならない。このため、時間とスペースの制約を受けて非常に非効率である。しかも、水分調整後の紙管であっても、一度使用に供された紙管は新品の紙管と比較すると、含水率以外の使用条件などが重畳してどうしてもバラツキが大きく精度が悪いという問題を本質的に有している。
【0013】
【特許文献1】
特公昭57−36233号公報
【0014】
【特許文献2】
特開昭58−119553号公報
【0015】
【非特許文献1】
帝人製機(株)から1997年9月16日付け日付けにて配布された「AUTOMATIC NS winder NS−612/12」に係る「OPERATION MANUAL」に記載のPaper tube specification参照。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
以上に述べた従来の再使用可能な紙管が有する問題に鑑み、本発明の目的は、一度使用した回収紙管を再使用したとしても、巻取機に対する糸掛け成功率および/または自動切替え成功率を新品の紙管を使用した場合と実質的に同じ水準に維持でき、特に多錘型巻取機に対して好適に使用できる合成繊維巻取用紙管を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、予め紙管の伸縮を予測しそれに対応した位置に複数本の溝を円周方向に配置した紙管を使用することにより糸掛けおよび/または自動切替え成功率を良好に維持することを可能とした。
【0018】
ここに、前記目的を達成するための本発明として、請求項1に記載のような「連続的に供給される合成繊維からなる糸条を巻き取る紙管の端部円周方向に前記糸条を捕捉して把持するための溝を複数本並列して設けた合成繊維巻取用紙管」が提供される。
【0019】
その際、本発明は、請求項2に記載のように、「前記各溝が糸条を捕捉するための捕捉溝と、前記捕捉溝によって捕捉された糸条を把持する把持溝とからなる請求項1に記載の合成繊維巻取用紙管」とすることが好ましい。
【0020】
また、請求項3に記載のように、「前記複数本の溝の数が2又は3本である請求項1に記載の合成繊維巻取用紙管」とすることが好ましい。
【0021】
また、請求項4に記載のように、「前記複数本の溝が円周方向に対して互にずれた位置に配置されている請求項1〜3の何れかに記載の合成繊維巻取用紙管」とすることが好ましい。
【0022】
更に、請求項5に記載のように、「前記紙管が市場から回収された再使用紙管である請求項1〜4の何れかに記載の合成繊維巻取用紙管」とすることが好ましい。
【0023】
そして、請求項6に記載のように、「一つのボビンホルダーに複数の紙管を装着して巻取りを行う多錘型巻取機に使用する請求項1〜5の何れかに記載の合成繊維巻取用紙管」とすることが好ましい。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明でいう合成繊維とは、一般にポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン等に代表されるポリマーから製造されるものをいい、このような合成繊維の製造工程では、巻取機によって一旦糸条パッケージとして巻き取られる。その際に、合成繊維糸条の巻取りに使用する巻取機としては、サクションガンなどの糸掛具に糸条を吸引させながら作業員が手動によって糸条をボビンに糸掛けする手動式巻取機がある。また、2つのボビンホルダーを備え、一方のボビンホルダーに装着されたボビンが満巻になると、2つのボビンホルダーが互に回転して互いの位置を入れ替えながら、他方のボビンホルダーに装着された空ボビンに巻取りを自動に切替えるターレット式自動巻取機も慣用されている。なお、本発明の合成繊維巻取用紙管においては、前記の手動式巻取機、あるいは自動巻取機のどちらにも適用できることは言うまでもない。
【0025】
以上に述べた合成繊維糸条の巻取りにおいて、本発明では、合成繊維糸条を巻き取るためのボビンとして、もちろん紙製の円筒形状を有する紙管を使用することを前提とする。したがって、前記巻取機のボビンホルダーに装着されるのは紙管である。なお、巻取機のボビンホルダーに装着された紙管は、ボビンホルダーに設けられた把持手段によって強く把持されてボビンホルダーと共に回転させられ、巻取機のトラバース機構によって左右に綾振られながら連続供給されてくる糸条を紙管上に巻き取って、糸条パッケージを形成することは周知のとおりである。
【0026】
以下、このような本発明に好適に使用できる合成繊維巻取用紙管の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
ここに、図1(a)は本発明の合成繊維巻取用紙管として好適に使用できる紙管の一実施形態例、図1(b)は前掲の非特許文献1に記載されているような、従来使用されていた合成繊維巻取用紙管の一実施形態例をそれぞれ模式的に例示した説明図をそれぞれ示す。なお、図2(a)は図1(b)のX−X矢視方向の要部断面図、そして、図2(b)は図1(b)のY−Y矢視方向の要部断面図をそれぞれ示す。
【0028】
前記図1において、1は本発明の合成繊維巻取用紙管に係る実施形態例であり、10は従来の合成繊維巻取用紙管例に係る実施形態例である。ここで、図1(b)に例示した従来の紙管10では、一本の捕捉溝20aと把持溝20bとからなる溝20が紙管10の端部円周方向に設けられているのみであって、この溝20を構成する捕捉溝20aで走行糸条を捕捉した後、把持溝20bへ導いてしっかりと捕捉した糸条を把持し、紙管10が回転する力によって、捕捉された糸条はその下流側で引き千切られるように構成されている。
【0029】
その際、前記捕捉溝20aは、図2(a)に模式的に例示したように、その上方がV字の漏斗状に広がった形で開放されており、糸条を捕捉溝20aに導入して捕捉しやすい形状にされている。また、前記把持溝20bは、図2(b)に模式的に例示したように、捕捉溝20aにキャッチされた糸条をしっかりと把持できるように狭隘な楔形状断面を有しており、この狭隘な楔形状断面を有する把持溝20bに入り込んだ糸条は、左右の楔形状側壁によって挟み込まれて、把持される構造となっている。
【0030】
以上に述べたような溝20を有する紙管10に合成繊維糸条を巻き取るに当たっては、通常、手動あるいは自動の何れの巻取機にしても、糸掛け時あるいは糸切替時において、上流側から連続して供給される糸条を紙管10に設けられた溝20に案内する糸ガイドが巻取機側に設けられている。このため、この糸ガイドによって糸条を捕捉溝20aが設けられた位置に確実に導くことができるように構成されている。そして、引続いて、把持溝20bで把持し、糸条をボビンホルダーから紙管10に伝達された回転力によって、下流側で糸条を引き千切って切り離し、紙管10の端部にトランスファー・テールを形成させながら上流側から供給される糸条をトラバース域へ送って糸条パッケージとして巻き取るようになされている。
【0031】
ところが、一般に、前記糸ガイドによって、上流から連続的に供給される糸条を溝20へ導くのに際して、糸ガイドを作動させて、糸条を溝20に案内するための作動距離は機械的に制限されている。このため、既に「従来の技術」欄で詳細に述べたように、紙管10の長さLが再使用に供されるなどの要因によって伸縮すると、この伸縮に伴って紙管10に設けられた溝20の位置が、糸ガイドの作動範囲を外れてしまうという事態を惹起する。また、このような事態は、特に、多コップ型巻取機において、顕著となることも既に述べた通りである。したがって、このような事態が生じると、糸条は紙管10に設けられた溝20に案内されずに、糸掛けあるいは糸切替えを失敗するという重大な問題を引き起こす。なお、この現象は、巻取機のボビンホルダーに直列に装着された紙管10群に対して、その長さLの誤差が累積される最も前部分の紙管10でより顕著となることは言うまでもない。したがって、紙管10に設ける溝20の位置は、常に機械的に設定されている糸ガイドの作動範囲域内にあることが必要である。
【0032】
これを多コップ型巻取機に例に採って説明すると、一般に紙管10の規格としては、通常、その基準長さLに対して±(0.2〜0.3)mmの誤差であればこれを許容するように設定されており、これに対して、前記巻取機に設けられた糸ガイドの作動範囲は数mm程度(約2mm)である。したがって、例えば巻取機のボビンホルダーに8本の紙管10を直列に装着する場合、全ての紙管が+側に誤差(すなわち、紙管が伸びる方向の誤差)を持つと仮定すると、紙管1本当たり平均+0.25mmまで誤差が許容される。また、12本の紙管10を直列に装着する場合は、紙管1本当たり平均+0.16mmまでの誤差しか許容されないこととなる。なお、全ての紙管が同じ環境で使用され、これらが大量に回収されて再使用に供されるような場合には、全ての紙管が+側に誤差を持っていたり、逆に−側に誤差を持っていたりするような事態は普通に生じることである。
【0033】
以上に述べたような許容誤差を制御することに関しては、新品紙管であれば、製作時に紙管の水分率をコントロールでき、使用直前まで密封シールでこのときの状態を維持しておくことが可能であるために、長さLの管理は比較的容易にできる。しかしながら、回収紙管の場合は、回収される前に使用された使用先での環境履歴が異なるために、紙管10の長さLも大きく異なってくることは既に述べた通りである。
【0034】
例えば、21℃×51%RHでL=150.0mmの紙管10では、31℃×80%RHで+(0.4〜0.5)mm、23℃×62%RHで+(0.2〜0.3)mm、31℃×31%RHで−(0.1〜0.2)mm、36℃×25%RHで−(0.3〜0.4)mmの変化が起こる。このため、再使用する紙管に対して、前述のような+0.16mmまでの誤差をギャランティーすることは極めて難しいといわざるを得ない。したがって、再使用した紙管を使用して巻取機への糸掛け成功率を上げたり、糸切替え成功率を上げたりすることは、従来型の紙管10を使用する限りにおいては、至難の業である。
【0035】
なお、紙管の長さ変化は可逆的であるから、理論的には調湿によって所望の長さにコントロールすることが可能ではある。しかしながら、実際には回収紙管のように、含有水分率が異なることによって長さが大きく異なる紙管を所望の長さに調整するには、極めて複雑な管理をすることが要求され容易ではない。
【0036】
以上に述べたような問題を有する従来の紙管10に対して、図1(a)に例示した本発明の紙管1では、従来の紙管10に形成された一本の溝20に代えて、複数本の溝(本例では3本の溝2、2’及び2”)を並列して設けている。しかも、本例の紙管1では複数本の溝(2、2’及び2”)のそれぞれに一対一に対応して各捕捉溝(2a、2a’及び2a”)と各把持溝(2b、2b’及び2b”)とから構成されている。したがって、複数本の溝2、2’及び2”の何れかに糸条を捕捉して、ここで把持することができる仕組みとなっている。なお、再使用に供された紙管1は、その全長Lが伸びている場合と縮んでいる場合とがある。したがって、このような伸縮の何れの場合にも対応できるように、溝2を基準とし、この基準溝2の前後に並列させて図1(a)に例示したように溝2’と溝2”とを設けることが好ましい。ただし、溝2、2’及び2”を設ける間隔は、使用する巻取機や再使用する紙管1の状況に応じて適宜選択されるべきものである。
【0037】
なお、本発明に好適に利用できる溝2、2’及び2”の断面形状としては、図2に模式的に例示した従来の溝20(捕捉溝20a及び把持溝20b)と同じ機能を有していることは言うまでもない。ただし、図2の溝形状は、一実施形態例を示したものであって、これに限定されることはなく、本発明の主旨を満足する範囲で種々の形態を採ることができることは言うまでもない。つまり、捕捉溝(2a、2a’及び2a”)として要求される機能は、前述の糸ガイドによって案内されてきた糸条を確実に捕捉することが重要であって、このような機能を有するものであれば特にその溝形状を制限する必要はない。また、把持溝(2b、2b’及び2b”)として要求される機能は、この把持溝(2b、2b’及び2b”)に入り込んだ糸条を強い把持力で把持し、紙管2の回転によって生じる回転力によって糸条を引き千切るまでしっかりとこれを把持することであって、このような機能を有するものであれば特にその溝形状を制限する必要はない。
【0038】
更に、本発明においては、前記複数本の溝2、2’及び2”を設ける際に、その相対位置が円周方向に対して互にずれた位置に配置されていることが、糸条を良好に捕捉するうえで好ましい。なお、高速で回転する紙管1の動バランスを取ったり、紙管の共どを一定に保っておくという点から言えば、複数本の溝は、互に円周方向に等角度を置いてずれた相対位置をもって設けられていることが好ましい。例えば、図1(a)のように3本の溝2、2’及び2”を設ける場合には、120°づつの等角度で互いの位置がずれて配置されていることが好ましい。
【0039】
【実施例】
以下に実施/比較例を示す。
【0040】
[実施例1/比較例1]
一つのボビンホルダーに12本の紙管を直列に装着する帝人製機(株)製自動ワインダーNS−612/12を使い、巻取速度4500m/minでナイロン66SDY(22dtex/7fil)を巻き取る際に、基準となる紙管長さLが100mmであり、その許容誤差が±0.2mmである3回使用済みの紙管を市場より回収して4回目の使用を行った。
【0041】
このとき使用した紙管は、図1(a)に示すような3本の溝2、2’及び2”が紙管の端部円周に設けられたもので、基準溝2の前後に2mmの間隔を置いて溝2’と2”とを並列に設けた。
【0042】
以上に述べた紙管を使用して巻取りテストを行った結果、糸を巻き取っている満巻紙管から新しい空紙管への糸切替え成功率は、従来の1本溝の紙管では93%であったが、3本溝を設けた本実施例1の紙管においては98.5%であった。
【0043】
[実施例2/比較例2]
8本の紙管を直列に装着した帝人製機(株)製自動ワインダーNS−612/8Aを使い、巻取速度4250m/minでナイロン6POY(40dtex/10fil)を巻き取る際に、基準となる紙管長さLが150mmであり、その許容誤差が±0.2mmである1回使用済みであり、かつ温湿度の高い7月に回収した図1(a)に例示した紙管を際使用して巻取りを行った。なお、その他の条件は、実施例1に準じた。
【0044】
その結果、満巻紙管から新しい空紙管への糸切替え成功率は、従来の1本溝の紙管では85%であったが、本実施例2の紙管においては97.5%であった。
【0045】
【発明の効果】
以上の説明の如く、環境履歴に基づく紙管の伸縮を予測し、それに対応した位置に複数本の溝を円周方向にずらして配置した紙管を使用することにより、一度使用された紙管であっても、糸掛けおよび/または自動切替え成功率を良好に維持することが容易に可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1(a)は本発明の合成繊維巻取用紙管として好適に使用できる紙管の一実施形態例、図1(b)は従来使用されていた合成繊維巻取用紙管の一実施形態例をそれぞれ模式的に例示した説明図である。
【図2】図2(a)は図1(b)のX−X矢視方向の断面図、そして、図2(b)は図1(b)のY−Y矢視方向の断面図をそれぞれ示す。
【符号の説明】
1 本発明に係る紙管
2、2’、2” 溝
2a、2a’、2a” 捕捉溝
2b、2b’、2b” 把持溝
10 従来の紙管
20 溝
20a 捕捉溝
20b 把持溝
L 紙管の基準長さ
Claims (6)
- 連続的に供給される合成繊維からなる糸条を巻き取る紙管の端部円周方向に前記糸条を捕捉して把持するための溝を複数本並列して設けた合成繊維巻取用紙管。
- 前記各溝が糸条を捕捉するための捕捉溝と、前記捕捉溝によって捕捉された糸条を把持する把持溝とからなる請求項1に記載の合成繊維巻取用紙管。
- 前記複数本の溝の数が2又は3本である請求項1又は2に記載の合成繊維巻取用紙管。
- 前記複数本の溝が円周方向に対して互にずれた位置に配置されている請求項1〜3の何れかに記載の合成繊維巻取用紙管。
- 前記紙管が市場から回収された再使用紙管である請求項1〜4の何れかに記載の合成繊維巻取用紙管。
- 一つのボビンホルダーに複数の紙管を装着して巻取りを行う多錘型巻取機に使用する請求項1〜5の何れかに記載の合成繊維巻取用紙管。
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN101497412A (zh) * | 2009-02-20 | 2009-08-05 | 桐昆集团股份有限公司 | 一种特殊尾丝槽的全自动长丝纸管 |
CN110171749A (zh) * | 2019-06-04 | 2019-08-27 | 桐乡市凤鸣恒益塑胶制品厂 | 一种用于高速卷绕头的一次成型复合管 |
-
2003
- 2003-02-24 JP JP2003045592A patent/JP2004256183A/ja active Pending
Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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CN101497412A (zh) * | 2009-02-20 | 2009-08-05 | 桐昆集团股份有限公司 | 一种特殊尾丝槽的全自动长丝纸管 |
CN110171749A (zh) * | 2019-06-04 | 2019-08-27 | 桐乡市凤鸣恒益塑胶制品厂 | 一种用于高速卷绕头的一次成型复合管 |
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