JP2004250352A - リガンドとして有用なペプチド - Google Patents
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Abstract
【課題】温和な条件の下、吸脱着が可能であり、免疫グロブリンに対する結合特異性が高く、かつ、滅菌処理時または保存中における結合特性の低下が極めて少ない、安定性、安全性の高い結合物質を提供する。
【解決手段】金属イオン存在下でのみ免疫グロブリンに特異的に結合するペプチド、及びそのようなペプチドの取得手段。
【選択図】 なし
【解決手段】金属イオン存在下でのみ免疫グロブリンに特異的に結合するペプチド、及びそのようなペプチドの取得手段。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は精製用リガンドとして有用な、免疫グロブリンに対して特異的に結合性を有するペプチドおよびそのようなペプチドを提示するファージの単離方法に関する。さらに詳述すると、本発明は金属イオン存在下において免疫グロブリンの一定部分にそれ自体を非共有結合的に結合しうるペプチドに関するものであり、免疫グロブリンの精製リガンド等に利用することができる。
【0002】
【従来の技術】
抗体としても知られる免疫グロブリン(Ig)は脊椎動物の血漿、リンパ液中に存在する免疫を担う糖タンパク質である。現在まで、免疫グロブリンの五つの主要なクラスがヒトにおいて同定(IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM)されている。近年、これらの免疫グロブリンは診断及び治療分野で極めて重要な地位を占め、事実、有機低分子化合物、環境汚染物質、生体由来物質の同定、定量化試薬として広く使用され、また、治療上有用な各種生体分子に結合し、その結果生じる生理的変動から、臨床的な効果も確認されている。さらには、免疫グロブリン及び免疫グロブリン複合体が慢性間接リウマチなどの各種自己免疫疾患の原因、進行に密接に関与することが明らかになりつつある。
【0003】
免疫グロブリンは、動物の血清等からの分離あるいは適当な細胞系の培養後、夾雑物を除く大まかな前処理工程、クロマトグラフィーによる精製操作等を経てその製造が行われている。精製工程においてはその特異的吸着による利便性から、免疫グロブリン結合性タンパク質であるプロテインA、プロテインG、プロテインH、プロテインL、リウマチ因子(土屋尚之、臨床免疫、23巻、896−903(1991年))などを吸着リガンドとするアフィニティークロマトグラフィーが用いられることがある。なかでも、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のプロテインAはその吸着特性から免疫グロブリンIgGの分離・精製に広く採用され、臨床応用も可能な精製IgGを提供している。プロテインAは分子量約42KDaのタンパク質で、免疫グロブリンIgGの不変領域(定常領域とも称される)である重鎖のCH2、CH3ドメインに結合することが知られている(Forsgeren A., Sjoequist J., J. Immunol. 17:822−827(1966))。
【0004】
しかしながら、異種タンパク質である上記タンパク質等を吸着リガンドとするクロマトグラフィー工程を採る場合、それらの溶出による製造物への混入が危惧され(Bensinger WI. et al, J. Biol. Response Mod., 3:347−351(1984), Messerschmidt GL. et al, J. Biol. Response Mod., 3:325−329(1984))、溶出リガンドを除去する工程が求められる。また、溶出の際用いられる極端な低pH溶液(あるいは高pH)による目的タンパク質である免疫グロブリンの変性、タンパク質リガンドの変性などに起因する低回収性の問題点なども報告されている(Fluglstaller, P., J. Immunol. Methods, 90: 171−177 (1989), Godfrey, M. A., et al, Immunol. Methods, 160:97−105 (1993))。さらには、タンパク質リガンドの場合、医療品製造には不可欠である滅菌処理時の安定性に問題があり滅菌方法が限定されること、固定化後の保存安定性に欠ける事などが指摘されている。
【0005】
このように従来から知られているタンパク質性の免疫グロブリン吸着剤は、安全性、安定性などの観点から、診断・治療に用いる免疫グロブリンの精製リガンドとしては必ずしも適切とはいえない。
【0006】
【非特許文献1】
G. K. Ehrlich, and P. Bailon, Identification of model peptides as affinity ligands for the purification of humanized monoclonal antibodies by means of phage display., J. Biochem. Biophys. Methods., 49:443−454(2001).
【0007】
【非特許文献2】
Margareta Krook, Klaus Mosbach, and Olof Ramstron, Novel peptides binding to the Fc−portion of immunoglobulins obtained from a combinatorial phage display peptide library., J. Immunol. Methods, 221:151−157(1998).
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、温和な条件の下、吸脱着が可能であり、免疫グロブリンに対する結合特異性が高く、かつ、滅菌処理時または保存中における結合特性の低下が極めて少ない、安定性、安全性の高い結合物質を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、アミノ酸残基数10個程度のペプチドであれば天然高分子タンパク質に比べて生体に対する抗原性が極めて低いこと、及びこのような短いペプチドが熱安定性に代表される高い安定性、特に滅菌処理に対する高い安定性および保存安定性を有していることなどの利点を考慮し、各種免疫グロブリン結合性ペプチドの同定を種々検討した。
【0010】
その結果、ペプチドをファージ表面に提示させたファージディスプレイライブラリー(Smith G. P., Science, 228:1315−1317(1985))を金属イオン存在下で抗原に接触させることにより、金属イオン存在下の時のみ免疫グロブリン結合能を有するペプチド提示ファージクローンを多数単離し、そのアミノ酸配列を決定することに成功し本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、(1)任意のペプチドをその表面に提示するファージからなるファージライブラリーを作製し、(2)抗原を固相に固定し、ブロッキング剤で処理し、金属イオンを含む緩衝液下でファ−ジディスプレイライブラリーと接触させ、洗浄し、(3)ファージを固相から解離させた後、増殖させ、(4)増殖させたファージの中から抗原と特異的に結合するペプチドを提示するファージを選択する工程を含む金属イオン存在下でのみ抗原に特異的に結合するペプチドを提示するファージの単離方法である。
【0012】
また、本発明は、配列番号1乃至52記載のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン結合性ペプチド、又は前記ペプチドと実質的に同一の免疫グロブリン結合性ペプチドである。
【0013】
更に、本発明は、下記のアミノ酸配列(I)、(II)又は(III):
Ser−Pro−Arg(I)
Leu−Thr−Pro−X1−X2−Arg(II)
(配列中、X1はAsp又はGlnを表し、X2はVal又はSerを表す)
Tyr−Ile−His(III)
を含む免疫グロブリン結合性ペプチド、又は前記ペプチドと実質的に同一の免疫グロブリン結合性ペプチドである。
【0014】
更に、本発明は、上記のの免疫グロブリン結合性ペプチドを担体に固定してなる免疫グロブリン精製用担体である。
【0015】
更に、本発明は、金属イオン存在下で、上記の免疫グロブリン精製用担体と免疫グロブリンを含む試料とを接触させ前記担体と免疫グロブリンを結合させ、その後、前記担体から免疫グロブリンを解離させることを特徴とする免疫グロブリンの精製方法である。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明のファージの単離方法は、以下に詳述する(1)から(4)の工程によって、金属イオン存在下でのみ抗原に特異的に結合するペプチドを提示するファージを単離するものである。
【0018】
(1)の工程
この工程では、任意のペプチドをその表面に提示するファージからなるファージディスプレイライブラリーを作製する。提示されるアミノ酸配列数は特に限定されないが、7から15程度が好ましい。ペプチドをファージ表面に提示するには、そのペプチドがファージの表面タンパク質と融合タンパク質となるように、そのペプチドをコードするDNAを導入すればよい。ファージとしては、ファージディスプレイ法に通常使用されるものでよく、M13ファージなどを例示することができる。
【0019】
以上のような方法で、ファージディスプレイライブラリーを作製することができるが、市販のファージディスプレイライブラリーを使用してもよい。ライブラリーとしては、Phage Display Peptide Library Kit (ニューイングランドバイオラボ社製)などを例示することができる。
【0020】
(2)の工程
この工程では、抗原を固相に固定し、ブロッキング剤で処理し、ファージディスプレイライブラリーと接触させた後、洗浄する。抗原としては、免疫グロブリンを使用できるが、他のものを使ってもよい。また、抗原とする免疫グロブリンは、免疫グロブリンを直接用いてもよいが、免疫グロブリンの一部である不変領域を用いてもよい。免疫グロブリンの不変領域を固相に固定化することにより、得られるファージの結合性クローンは、免疫グロブリンの種類に依らず結合性を有するからである。免疫グロブリン不変領域は、適当な細胞系の培養生産物から精製後、プロテアゼー等で消化したものを使用することができる。さらには、適当な発現系から調製した組換え免疫グロブリン不変領域タンパク質を用いてもよい。
【0021】
一般にファージディスプレイ法の選択的濃縮の際には、ブロッキング剤として低分子タンパク質消化物などが用いられるが、本発明においては牛血清アルブミン(BSA)を用いることができる。
【0022】
固相となる不溶性担体としては、マイクロタイタープレート、イムノチューブ、ビーズ、メンブランフィルターなどを例示することができる。金属イオンを含む緩衝液下でファージディスプレイライブラリーを固相に固定された抗原と接触させることにより、金属イオン存在下でのみ抗原と特異的に結合するファージを選択的に濃縮することができる。用いられる金属イオンの種類としては、遷移金属、例えば銅、ニッケル、亜鉛、鉄の二価イオン、あるいは鉄、アルミニウムの三価イオン等が例示される。好ましくは銅、ニッケルの二価イオンである。また、接触の際、不溶性担体または抗原と非特異的に結合するファージとも結合することがある。そこで、この抗原を界面活性剤を含む緩衝液等で洗浄することにより、非特異的に結合したファージを除去する。
【0023】
(3)の工程
この工程では、ファージを固相から解離させた後、増殖させる。標的抗原からのファージの解離は、一般のファージディスプレイ法と同様に接触反応液のpHを変化させることにより行ってもよいが、金属キレート剤を含む緩衝液を用いてファージを解離させてもよい。
【0024】
(4)の工程
この工程では、増殖させたファージの中から免疫グロブリン不変領域と特異的に結合するペプチドを提示するファージを選択する。上記(1)から(3)の工程を1サイクルとして、同様のサイクルを数サイクル程度連続して行い、数サイクル後に得られたファージ溶出液から、ファージをクローニングし、その中から、免疫グロブリン不変領域に特異的に結合するファージを選択する。ファージを選択する方法は特に限定されないが、ELISA法によって選択するのが好ましい。
【0025】
以上のようにして得られた、抗原と特異的に結合しうるペプチドを提示したファージから、適当な方法でDNAを抽出・調製する。このDNAに対して、提示ペプチド部分をコードする塩基配列を解析することで、抗原に特異的に結合するペプチドのアミノ酸配列を同定することができる。
【0026】
かかる方法によって選択され、同定された金属イオン存在下でのみ免疫グロブリンに特異的に結合するペプチドの第一は、配列番号1乃至43記載のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン結合性ペプチド及び配列番号44乃至52記載のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン結合性ペプチド、又は前記ペプチドと実質的に同一の免疫グロブリン結合性ペプチドに関するものである。ここで、「配列番号1乃至43記載のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン結合性ペプチド」は、ニッケルイオン存在下でのみ免疫グロブリンに特異的に結合することが確認されているペプチドであり、「配列番号44乃至52記載のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン結合性ペプチド」は、銅イオン存在下でのみ免疫グロブリンに特異的に結合することが確認されているペプチドである。また、「前記ペプチドと実質的に同一の免疫グロブリン結合性ペプチド」とは、配列番号1乃至52記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列で表され、かつ免疫グロブリンと結合し得るペプチドをいう。アミノ酸の欠失、置換若しくは付加の程度及びそれらの位置などは、改変されたペプチド若しくはポリペプチドが、配列番号1乃至52記載のアミノ酸配列で表されるペプチドと同様に金属イオン存在下でのみ免疫グロブリンに特異的に結合するペプチドであれば特に制限されない。但し、欠失等させるアミノ酸の個数は、通常5個以内であり、好ましくは3個以内であり、最も好ましくは1個である。アミノ酸の改変は、例えば突然変異や翻訳後修飾などに生じることもあるが、人為的に改変することもできる。本発明は、このような改変、変異の原因および手段を問わず、上記特性を有するすべての改変ペプチドを包含する。
【0027】
上述したペプチドの中、好適なペプチドは、配列番号5、8、11から13、16、18から21、24、29、30、32、39から42、45、46、50記載のアミノ酸配列で表されるペプチドであり、より好適なペプチドは、配列番号11から13、29、32、41、42、46記載のアミノ酸配列で表されるペプチドである。
【0028】
本発明のペプチドの第二は、上記のアミノ酸配列(I)、(II)又は(III)を含む免疫グロブリン結合性ペプチド、又は前記ペプチドと実質的に同一の免疫グロブリン結合性ペプチドに関する。ここで、「前記ペプチドと実質的に同一の免疫グロブリン結合性ペプチド」とは、アミノ酸配列(I)、(II)又は(III)において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ免疫グロブリンと結合し得るペプチドをいう。アミノ酸の欠失、置換若しくは付加の程度及びそれらの位置などは、改変されたペプチド若しくはポリペプチドが、アミノ酸配列(I)、(II)又は(III)を含むペプチドと同様に免疫グロブリンに対して結合性を有するペプチドであれば特に制限されない。但し、欠失等させるアミノ酸の個数は、好ましくは1個である。アミノ酸の改変は、例えば突然変異や翻訳後修飾などに生じることもあるが、人為的に改変することもできる。本発明は、このような改変、変異の原因および手段を問わず、上記特性を有するすべての改変ペプチドを包含する。また、「アミノ酸配列(I)、(II)又は(III)を含むペプチド」とは、前記したアミノ酸配列だけからなるペプチドのほか、このようなペプチドのN末端又はC末端側に複数のアミノ酸が付加したものも含む。付加するアミノ酸の個数は、免疫グロブリンに対する結合性を失わせない範囲であれば特に限定されないが、通常は10個以内であり、好ましくは3個以内である。
【0029】
一般式(I)、(II)又は(III)で表されるアミノ酸配列は、配列番号1乃至52記載のアミノ酸配列で表されるペプチドを解析した結果見出されたコンセンサス配列である。コンセンサス配列とは、ある特定のペプチドにおけるアミノ酸配列間に、明らかに関連性が認められる配列部分をいう。コンセンサス配列は、同定されたアミノ酸配列においてその結合に必要不可欠な配列と推測することができる。アミノ酸配列(I)は、配列番号6、26のアミノ酸配列から見出されたコンセンサス配列であり、アミノ酸配列(II)は、配列番号20、44のアミノ酸配列から見出されたコンセンサス配列であり、アミノ酸配列(III)は、配列番号16、35のアミノ酸配列から見出されたコンセンサス配列である。
【0030】
本発明の免疫グロブリン結合性ペプチドは、そのアミノ酸配列に従って、一般的な化学合成法またはペプチドをコードするDNAを用いて遺伝子操作によって製造することができる。
【0031】
化学合成方法においては、液相及び固相法によるペプチド合成法が包含される。かかるペプチド合成法は、より詳しくは、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させペプチドを延長させるステップワイズ法、アミノ酸数個からなるフラグメントをあらかじめ合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させる方法を含む。
【0032】
遺伝子組換え法によって生産する場合には、目的とするペプチドのアミノ酸配列をもとにこれをコードするDNAを合成し、ファージあるいはプラスミドベクターに導入する。これを適当な微生物(例えば大腸菌)に組み込んで形質転換体を選抜、取得し、公知の方法によって培養する。また、適切なプラスミドベクターを選びさえすれば、酵母、放線菌、枯草菌なども宿主として容易に利用することができる。
【0033】
かくして得られる本発明の免疫グロブリンに結合するペプチドは、通常の方法に従って、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、向流分配等のペプチド科学の分野で汎用されている方法に従って、精製を行うことができる。
【0034】
本発明の方法によって、選別され同定されるペプチドは、免疫グロブリンを特異的に認識して結合するアミノ酸配列を有するものであり、適当な担体に結合することで免疫グロブリン精製用担体として用いることができる。担体としては、ガラスビーズ、シリカゲルなどの無機担体、セルロース、キトサン、セファロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリアクリレート、架橋ポリアクリルアミド、架橋ポリスチレン、架橋セルロース、架橋アガロース、架橋デキストランなどの有機担体、さらにはこれらの組み合わせによって得られる複合担体などが挙げられる。さらに担体表面には、リガンドの固定化反応に用い得る官能基が存在することが好都合である。これらの官能基の代表例としては、水酸基、アミノ基、アルデヒド基、カルボキシル基、チオール基、シラノール基、エポキシ基、アミド基、ハロゲン基、サクシニルイミド基、酸無水物基がどが挙げられる。
【0035】
上記担体へのペプチドの固定化においては、ペプチドの立体障害を小さくすることにより吸着効率を向上させ、さらに非特異的吸着を抑えるために、親水性スペーサーを介して固定化することが好ましい。親水性スペーサーとしては、例えば、両末端をカルボキシル基、アミノ基、アルデヒド基、エポキシ基などで置換した適当な有機分子であればよい。また、これらペプチドおよびスペーサーとして用いられる有機分子は比較的安定で低分子の物質であり、例えば、酵素、抗体のようなタンパク質を固定化する場合と比較して、その固定化反応条件には制約が少ない。従って、固定化方法は特に限定されるものではない。
【0036】
本願発明のペプチドは金属イオン存在下でのみ免疫グロブリンに結合する。すなわち、該ペプチドを上述した適当な不溶性担体に固定化し、公知である金属キレートカラムクロマトグラフィーで行われる操作を行うことで、免疫グロブリンを含む原料から精製免疫グロブリンを調製することができる。従来公知の方法としては、免疫グロブリン含有画分を不溶性担体に固定化したペプチドリガンドに接触させることにより、該画分中の夾雑タンパク質が効率良く分離除去される。用いられる金属イオンの種類としては、遷移金属、例えば銅、ニッケル、亜鉛、鉄の二価イオン、あるいは鉄、アルミニウムの三価イオン等が例示される。好ましくは銅、ニッケルの二価イオンである。ペプチドリガンドは、金属イオン含有液、例えばCu2+塩含有液(例えばCuSO4)を該リガンドを付着したマトリックスと接触させ、該リガンドに結合させることにより調製される。
【0037】
免疫グロブリンを吸着画分に回収する場合は、先ず、塩濃度0.01 M〜1 M程度、pH5〜8程度の緩衝液、具体的には1 M以下の塩化ナトリウムを含有する10〜100 mM酢酸、リン酸又はTris塩酸緩衝液(pH5〜9)等を用いて、ペプチドリガンド平衡化、洗浄した後、平衡化したpHに調製した免疫グロブリン含有画分を該ペプチドリガンドを固定化した吸着体に接触させ、ついで吸着画分を塩濃度0.01 M〜1 M、pH3〜5程度の上記緩衝液を用いて溶出する。
【0038】
一方、免疫グロブリンを非吸着画分に回収する場合、先ず、塩濃度0.01 M〜1 M程度、pH3〜5程度の緩衝液、具体的には1 M以下の塩化ナトリウムを含有する10〜100 mM酢酸、リン酸又はTris塩酸緩衝液(pH3〜5)等を用いて、ペプチドリガンドを平衡化、洗浄した後、平衡化したpHに調製した免疫ブロブリン画分を該ペプチドリガンドに接触させ非吸着画分に回収する。
【0039】
【実施例】
以下、本発明をさらに詳細に説明するために実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
〔実施例1〕 ニッケルイオン存在下で免疫グロブリン不変領域に結合するファージの選択的濃縮
ヒト免疫グロブリン不変領域(ICNファルマシューティカル社製、カタログ番号55911)をTris−HCl緩衝液(pH7.0)(和光純薬社製)に10 μg/mlの濃度になるよう溶解させ、この溶液を市販のイムノチューブ(ヌンク社製)に2.0 ml加え、一晩放置しヒト免疫グロブリン不変領域を固定化した。翌日、チューブの溶液を除去した後、5% BSA(大日本製薬社製)を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)を3.0 ml加え、室温で2時間放置し、ブロッキングした。ブロッキング後、イムノチューブに10 mM 硫酸ニッケルNiSO4を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)を2.0 ml加え、さらに、4×1010 個相当分のファージ(ニューイングランドバイオラボ社製、Phage−Display Peptide Library kig:Ph.D−12)を添加し、室温で2時間放置した。溶液を除去後、0.1% Tween20、10 mM NiSO4 を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)で3回洗浄することにより結合し得なかったファージを除去した。次に、該チューブに3.0 mlの0.1 Mトリエチルアミンを加え、15分間、室温で放置することにより結合性ファージを固定化抗原から解離させた。このファージ溶液に2.25 mlの1.0 M Tris−HCl(pH6.8)緩衝液を添加し、ファージ溶液のpHを調製した。これを常法により大腸菌に感染させ、ファージを増殖させ、次のラウンドのスクリーニング用ファージディスプレイライブラリーとした。
【0041】
前記の操作を1ラウンドとして、4ラウンド繰り返しニッケルイオン存在下でヒト免疫グロブリン結合性ファージを選択的に濃縮した。
【0042】
〔実施例2〕 銅イオン存在下で免疫グロブリン不変領域に結合するファージの選択的濃縮
ヒト免疫グロブリン不変領域(ICNファルマシューティカル社製、カタログ番号55911)をTris−HCl緩衝液(pH7.0)(和光純薬社製)に10 μg/mlの濃度になるよう溶解させ、この溶液を市販のイムノチューブ(ヌンク社製)に2.0 ml加え、一晩放置しヒト免疫グロブリン不変領域を固定化した。翌日、チューブの溶液を除去した後、5% BSA(大日本製薬社製)を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)を3.0 ml加え、室温で2時間放置し、ブロッキングした。ブロッキング後、イムノチューブに10 mM 塩化銅CuCl2を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)を2.0 ml加え、さらに、4×1010 個相当分のファージ(ニューイングランドバイオラボ社製、Phage−Display Peptide Library kig:Ph.D−12)を添加し、室温で2時間放置した。溶液を除去後、0.1% Tween20、10 mM CuCl2を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)で3回洗浄することにより結合し得なかったファージを除去した。次に、該チューブに3.0 mlの0.1 Mトリエチルアミンを加え、15分間、室温で放置することにより結合性ファージを固定化抗原から解離させた。このファージ溶液に2.25 mlの1.0 M Tris−HCl(pH6.8)緩衝液を添加し、ファージ溶液のpHを調製した。これを常法により大腸菌に感染させ、ファージを増殖させ、次のラウンドのスクリーニング用ファージディスプレイライブラリーとした。
【0043】
前記の操作を1ラウンドとして、4ラウンド繰り返しヒト免疫グロブリン結合性ファージを選択的に濃縮した。
【0044】
〔実施例3〕 免疫グロブリン不変領域に結合するファージのスクリーニング
実施例1、又は実施例2の4ラウンド目で溶出されたファージをそれぞれシングルクローンに調製し、免疫グロブリン不変領域に対する結合性を評価した。シングルクローンの調製は、溶出されたファージを適当に希釈し、対数増殖期の大腸菌ER2738(ニューイングランドバイオラボ社製)を含む、溶解後のソフトアガー(1% トリプトン、0.5% イーストイクストラクト、0.5% NaCl、0.1% MgCl2/6H2O、0.7 %アガロース)に添加し、これをX−Gal(5−Bromo−4−chloro−3−indolyl−β−D−galactoside、和光純薬社製)、IPTG(Isopropyl−β−D−thiogalactopyranoside、和光純薬社製)を含むLB(1% トリプトン、0.5% イーストイクストラクト、0.5% NaCl)プレートにまき、37℃で一晩培養することで行った。次いで、プレート上のシングルファージクローン(合計192個)をピックアップし、対数増殖期の大腸菌ER2738を含む500μlのLB液体培地に接種し37℃で4.5時間、激しく攪拌しながら培養した。得られた培養液を遠心分離(10,000 g×20 min)し、培養上清中に含まれるファージを結合活性評価に供した。
【0045】
結合活性は、市販の96穴マイクロタイタープレートに免疫グロブリン不変領域(10μg/ml)を固定化した試験区、緩衝液のみを添加した対照区を設けて評価した。すなわち、5% BSAを含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)でブロッキング後(2.0時間、37℃)、ニッケルイオン存在下で濃縮したファージクローン(実施例1)においては、先に得られたファージ溶液50 μl及び20 mM 硫酸ニッケルNiSO4 を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)50μlを添加し反応させた(1.5時間、37℃)。なお、硫酸ニッケルの結合性への効果を評価するため、硫酸ニッケルを含まないTris−HCl緩衝液の試験区も設定した。反応後、0.1% Tween20を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)で3回洗浄し、その後、HRPで標識された抗M13抗体を加えた(アマシャムファルマシアバイオテク社製)。37℃で1.5時間反応後、0.1% Tween20を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)で3回洗浄し、2000倍希釈のHRP用の発色試薬ABTS(フナコシ社製)を加え吸光度(405 nm)を求めた。また、銅イオン存在下で濃縮したファージクローン(実施例2)においては、上述の硫酸ニッケルに代えて塩化銅CuCl2を用いた。
【0046】
それぞれのファージクローンの結合性は免疫グロブリン不変領域固定化ウェルの吸光度と対照ウェルの吸光度の差を以って評価した。ニッケルイオン存在下で選択的に濃縮されたファージクローンのスクリーニング結果の一部を図1、銅イオンのそれを図2に示した。
【0047】
〔実施例4〕 免疫グロブリン結合性ファージが提示しているペプチドのアミノ酸配列の決定
実施例3において金属イオン存在下の試験区と対照区との吸光度差が0.3以上のファージを選び、常法に従い、これらのファージからDNAを抽出した。抽出したDNAの塩基配列を決定することにより、ファージが呈示しているポリペプチドのアミノ酸配列を決定した。塩基配列は、配列表配列番号53のプライマー(5’−CCCTCATAGTTAGCGTAACG−3’)を使用し、チェーンターミネーター法に基づくBig Dye Terminator Cycle Sequencing FS Ready Reaction Kit(PE アプライドバイオシステム社製)を用いてサイクルシークエンス反応に供し、全自動DNAシークエンサーABI Prism 3700 DNA Analyzer(PE アプライドバイオシステム社製)にて解析することにより決定した。なお、ファージクローンの提示ペプチド解析の結果、同一のアミノ酸配列を示したクローンがあった。重複する配列を除いたペプチドのアミノ酸配列52種類を配列表配列番号1から52に示す。このうち、配列番号1乃至43で示されたペプチドはニッケルイオン存在下で濃縮されたファージクローンから抽出されたものであり、配列番号44乃至52で示されたペプチドは銅イオン存在下で濃縮されたファージクローンから抽出されたものである。
【0048】
〔実施例5〕 ニッケルイオン存在下で免疫グロブリン不変領域に結合するファージの反応性
免疫グロブリン不変領域タンパク質を濃度50μg/mlから連続的に希釈し、それぞれの濃度の免疫グロブリン不変領域溶液100μlを96穴マイクロタイタープレートのウェルに添加し、免疫グロブリン不変領域タンパク質をプレートに固定した(4℃、16時間)。次に、5% BSA含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)でブロッキング後(37℃、2時間)、各ウェルを0.1% Tween20を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)で3回洗浄した。洗浄後のプレートに、硫酸ニッケルNiSO4を10 mM、5 mMの濃度で含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)区を作製し、ファージ粒子濃度を1.0×1012個/ml(ファージタイターの算出は製造者マニュアルに従って行った)に調製したファージ溶液100μlを添加、反応させた(37℃、1.5時間)。評価対象のファージは、実施例3の結果から、高結合性の7個のファージを選別した(配列番号11から13、29,32,41,42のペプチドを提示するファージ)。反応終了後、0.1% Tween20を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)で3回洗浄し、2000倍希釈のHRP標識抗M13抗体を100μl添加し反応させた(37℃、1.5時間)。次いで、0.1% Tween20を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)で3回洗浄し、HRP用の発色試薬 ABTSで発色させ吸光度を測定した。結果を図3〜図9に示す。
【0049】
〔実施例6〕 銅イオン存在下で免疫グロブリン不変領域に結合するファージの反応性
免疫グロブリン不変領域タンパク質を濃度50μg/mlから連続的に希釈し、それぞれの濃度の免疫グロブリン不変領域溶液を100μlを96穴マイクロタイタープレートのウェルに添加し、免疫グロブリン不変領域タンパク質をプレートに固定した(4℃、16時間)。次に、5% BSA含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)でブロッキング後(37℃、2時間)、各ウェルを0.1% Tween20を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)で3回洗浄した。洗浄後のプレートに、塩化銅CuCl2を10 mM、5 mMの濃度で含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)区を作製し、ファージ粒子濃度を1.0×1012個/ml(ファージタイターの算出は製造者マニュアルに従って行った)に調製したファージ溶液100μlを添加、反応させた(37℃、1.5時間)。評価対象のファージは、実施例3の結果から、高結合性のファージを選別した(配列番号46のペプチドを提示するファージ)。反応終了後、0.1% Tween20を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)で3回洗浄し、2000倍希釈のHRP標識抗M13抗体を100μl添加し反応させた(37℃、1.5時間)。次いで、0.1% Tween20を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)で3回洗浄し、HRP用の発色試薬ABTSで発色させ吸光度を測定した。結果を図10に示す。
【0050】
【発明の効果】
本発明のペプチドは、金属イオン存在下で免疫グロブリンに対する結合特異性が高く、かつ、滅菌処理時または保存中における結合特性の極めて少ないため、免疫グロブリン用の精製リガンド等として有用である。
【0051】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】ニッケルイオン存在下で免疫グロブリン不変領域に結合するファージのスクリーニング結果を示す図である。
【図2】銅イオン存在下で免疫グロブリン不変領域に結合するファージのスクリーニング結果を示す図である。
【図3】配列番号11で表されるペプチドを提示するファージの免疫グロブリン不変領域に対する結合性を示す図である。
【図4】配列番号12で表されるペプチドを提示するファージの免疫グロブリン不変領域に対する結合性を示す図である。
【図5】配列番号13で表されるペプチドを提示するファージの免疫グロブリン不変領域に対する結合性を示す図である。
【図6】配列番号29で表されるペプチドを提示するファージの免疫グロブリン不変領域に対する結合性を示す図である。
【図7】配列番号32で表されるペプチドを提示するファージの免疫グロブリン不変領域に対する結合性を示す図である。
【図8】配列番号41で表されるペプチドを提示するファージの免疫グロブリン不変領域に対する結合性を示す図である。
【図9】配列番号42で表されるペプチドを提示するファージの免疫グロブリン不変領域に対する結合性を示す図である。
【図10】配列番号46で表されるペプチドを提示するファージの免疫グロブリン不変領域に対する結合性を示す図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は精製用リガンドとして有用な、免疫グロブリンに対して特異的に結合性を有するペプチドおよびそのようなペプチドを提示するファージの単離方法に関する。さらに詳述すると、本発明は金属イオン存在下において免疫グロブリンの一定部分にそれ自体を非共有結合的に結合しうるペプチドに関するものであり、免疫グロブリンの精製リガンド等に利用することができる。
【0002】
【従来の技術】
抗体としても知られる免疫グロブリン(Ig)は脊椎動物の血漿、リンパ液中に存在する免疫を担う糖タンパク質である。現在まで、免疫グロブリンの五つの主要なクラスがヒトにおいて同定(IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM)されている。近年、これらの免疫グロブリンは診断及び治療分野で極めて重要な地位を占め、事実、有機低分子化合物、環境汚染物質、生体由来物質の同定、定量化試薬として広く使用され、また、治療上有用な各種生体分子に結合し、その結果生じる生理的変動から、臨床的な効果も確認されている。さらには、免疫グロブリン及び免疫グロブリン複合体が慢性間接リウマチなどの各種自己免疫疾患の原因、進行に密接に関与することが明らかになりつつある。
【0003】
免疫グロブリンは、動物の血清等からの分離あるいは適当な細胞系の培養後、夾雑物を除く大まかな前処理工程、クロマトグラフィーによる精製操作等を経てその製造が行われている。精製工程においてはその特異的吸着による利便性から、免疫グロブリン結合性タンパク質であるプロテインA、プロテインG、プロテインH、プロテインL、リウマチ因子(土屋尚之、臨床免疫、23巻、896−903(1991年))などを吸着リガンドとするアフィニティークロマトグラフィーが用いられることがある。なかでも、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のプロテインAはその吸着特性から免疫グロブリンIgGの分離・精製に広く採用され、臨床応用も可能な精製IgGを提供している。プロテインAは分子量約42KDaのタンパク質で、免疫グロブリンIgGの不変領域(定常領域とも称される)である重鎖のCH2、CH3ドメインに結合することが知られている(Forsgeren A., Sjoequist J., J. Immunol. 17:822−827(1966))。
【0004】
しかしながら、異種タンパク質である上記タンパク質等を吸着リガンドとするクロマトグラフィー工程を採る場合、それらの溶出による製造物への混入が危惧され(Bensinger WI. et al, J. Biol. Response Mod., 3:347−351(1984), Messerschmidt GL. et al, J. Biol. Response Mod., 3:325−329(1984))、溶出リガンドを除去する工程が求められる。また、溶出の際用いられる極端な低pH溶液(あるいは高pH)による目的タンパク質である免疫グロブリンの変性、タンパク質リガンドの変性などに起因する低回収性の問題点なども報告されている(Fluglstaller, P., J. Immunol. Methods, 90: 171−177 (1989), Godfrey, M. A., et al, Immunol. Methods, 160:97−105 (1993))。さらには、タンパク質リガンドの場合、医療品製造には不可欠である滅菌処理時の安定性に問題があり滅菌方法が限定されること、固定化後の保存安定性に欠ける事などが指摘されている。
【0005】
このように従来から知られているタンパク質性の免疫グロブリン吸着剤は、安全性、安定性などの観点から、診断・治療に用いる免疫グロブリンの精製リガンドとしては必ずしも適切とはいえない。
【0006】
【非特許文献1】
G. K. Ehrlich, and P. Bailon, Identification of model peptides as affinity ligands for the purification of humanized monoclonal antibodies by means of phage display., J. Biochem. Biophys. Methods., 49:443−454(2001).
【0007】
【非特許文献2】
Margareta Krook, Klaus Mosbach, and Olof Ramstron, Novel peptides binding to the Fc−portion of immunoglobulins obtained from a combinatorial phage display peptide library., J. Immunol. Methods, 221:151−157(1998).
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、温和な条件の下、吸脱着が可能であり、免疫グロブリンに対する結合特異性が高く、かつ、滅菌処理時または保存中における結合特性の低下が極めて少ない、安定性、安全性の高い結合物質を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、アミノ酸残基数10個程度のペプチドであれば天然高分子タンパク質に比べて生体に対する抗原性が極めて低いこと、及びこのような短いペプチドが熱安定性に代表される高い安定性、特に滅菌処理に対する高い安定性および保存安定性を有していることなどの利点を考慮し、各種免疫グロブリン結合性ペプチドの同定を種々検討した。
【0010】
その結果、ペプチドをファージ表面に提示させたファージディスプレイライブラリー(Smith G. P., Science, 228:1315−1317(1985))を金属イオン存在下で抗原に接触させることにより、金属イオン存在下の時のみ免疫グロブリン結合能を有するペプチド提示ファージクローンを多数単離し、そのアミノ酸配列を決定することに成功し本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、(1)任意のペプチドをその表面に提示するファージからなるファージライブラリーを作製し、(2)抗原を固相に固定し、ブロッキング剤で処理し、金属イオンを含む緩衝液下でファ−ジディスプレイライブラリーと接触させ、洗浄し、(3)ファージを固相から解離させた後、増殖させ、(4)増殖させたファージの中から抗原と特異的に結合するペプチドを提示するファージを選択する工程を含む金属イオン存在下でのみ抗原に特異的に結合するペプチドを提示するファージの単離方法である。
【0012】
また、本発明は、配列番号1乃至52記載のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン結合性ペプチド、又は前記ペプチドと実質的に同一の免疫グロブリン結合性ペプチドである。
【0013】
更に、本発明は、下記のアミノ酸配列(I)、(II)又は(III):
Ser−Pro−Arg(I)
Leu−Thr−Pro−X1−X2−Arg(II)
(配列中、X1はAsp又はGlnを表し、X2はVal又はSerを表す)
Tyr−Ile−His(III)
を含む免疫グロブリン結合性ペプチド、又は前記ペプチドと実質的に同一の免疫グロブリン結合性ペプチドである。
【0014】
更に、本発明は、上記のの免疫グロブリン結合性ペプチドを担体に固定してなる免疫グロブリン精製用担体である。
【0015】
更に、本発明は、金属イオン存在下で、上記の免疫グロブリン精製用担体と免疫グロブリンを含む試料とを接触させ前記担体と免疫グロブリンを結合させ、その後、前記担体から免疫グロブリンを解離させることを特徴とする免疫グロブリンの精製方法である。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明のファージの単離方法は、以下に詳述する(1)から(4)の工程によって、金属イオン存在下でのみ抗原に特異的に結合するペプチドを提示するファージを単離するものである。
【0018】
(1)の工程
この工程では、任意のペプチドをその表面に提示するファージからなるファージディスプレイライブラリーを作製する。提示されるアミノ酸配列数は特に限定されないが、7から15程度が好ましい。ペプチドをファージ表面に提示するには、そのペプチドがファージの表面タンパク質と融合タンパク質となるように、そのペプチドをコードするDNAを導入すればよい。ファージとしては、ファージディスプレイ法に通常使用されるものでよく、M13ファージなどを例示することができる。
【0019】
以上のような方法で、ファージディスプレイライブラリーを作製することができるが、市販のファージディスプレイライブラリーを使用してもよい。ライブラリーとしては、Phage Display Peptide Library Kit (ニューイングランドバイオラボ社製)などを例示することができる。
【0020】
(2)の工程
この工程では、抗原を固相に固定し、ブロッキング剤で処理し、ファージディスプレイライブラリーと接触させた後、洗浄する。抗原としては、免疫グロブリンを使用できるが、他のものを使ってもよい。また、抗原とする免疫グロブリンは、免疫グロブリンを直接用いてもよいが、免疫グロブリンの一部である不変領域を用いてもよい。免疫グロブリンの不変領域を固相に固定化することにより、得られるファージの結合性クローンは、免疫グロブリンの種類に依らず結合性を有するからである。免疫グロブリン不変領域は、適当な細胞系の培養生産物から精製後、プロテアゼー等で消化したものを使用することができる。さらには、適当な発現系から調製した組換え免疫グロブリン不変領域タンパク質を用いてもよい。
【0021】
一般にファージディスプレイ法の選択的濃縮の際には、ブロッキング剤として低分子タンパク質消化物などが用いられるが、本発明においては牛血清アルブミン(BSA)を用いることができる。
【0022】
固相となる不溶性担体としては、マイクロタイタープレート、イムノチューブ、ビーズ、メンブランフィルターなどを例示することができる。金属イオンを含む緩衝液下でファージディスプレイライブラリーを固相に固定された抗原と接触させることにより、金属イオン存在下でのみ抗原と特異的に結合するファージを選択的に濃縮することができる。用いられる金属イオンの種類としては、遷移金属、例えば銅、ニッケル、亜鉛、鉄の二価イオン、あるいは鉄、アルミニウムの三価イオン等が例示される。好ましくは銅、ニッケルの二価イオンである。また、接触の際、不溶性担体または抗原と非特異的に結合するファージとも結合することがある。そこで、この抗原を界面活性剤を含む緩衝液等で洗浄することにより、非特異的に結合したファージを除去する。
【0023】
(3)の工程
この工程では、ファージを固相から解離させた後、増殖させる。標的抗原からのファージの解離は、一般のファージディスプレイ法と同様に接触反応液のpHを変化させることにより行ってもよいが、金属キレート剤を含む緩衝液を用いてファージを解離させてもよい。
【0024】
(4)の工程
この工程では、増殖させたファージの中から免疫グロブリン不変領域と特異的に結合するペプチドを提示するファージを選択する。上記(1)から(3)の工程を1サイクルとして、同様のサイクルを数サイクル程度連続して行い、数サイクル後に得られたファージ溶出液から、ファージをクローニングし、その中から、免疫グロブリン不変領域に特異的に結合するファージを選択する。ファージを選択する方法は特に限定されないが、ELISA法によって選択するのが好ましい。
【0025】
以上のようにして得られた、抗原と特異的に結合しうるペプチドを提示したファージから、適当な方法でDNAを抽出・調製する。このDNAに対して、提示ペプチド部分をコードする塩基配列を解析することで、抗原に特異的に結合するペプチドのアミノ酸配列を同定することができる。
【0026】
かかる方法によって選択され、同定された金属イオン存在下でのみ免疫グロブリンに特異的に結合するペプチドの第一は、配列番号1乃至43記載のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン結合性ペプチド及び配列番号44乃至52記載のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン結合性ペプチド、又は前記ペプチドと実質的に同一の免疫グロブリン結合性ペプチドに関するものである。ここで、「配列番号1乃至43記載のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン結合性ペプチド」は、ニッケルイオン存在下でのみ免疫グロブリンに特異的に結合することが確認されているペプチドであり、「配列番号44乃至52記載のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン結合性ペプチド」は、銅イオン存在下でのみ免疫グロブリンに特異的に結合することが確認されているペプチドである。また、「前記ペプチドと実質的に同一の免疫グロブリン結合性ペプチド」とは、配列番号1乃至52記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列で表され、かつ免疫グロブリンと結合し得るペプチドをいう。アミノ酸の欠失、置換若しくは付加の程度及びそれらの位置などは、改変されたペプチド若しくはポリペプチドが、配列番号1乃至52記載のアミノ酸配列で表されるペプチドと同様に金属イオン存在下でのみ免疫グロブリンに特異的に結合するペプチドであれば特に制限されない。但し、欠失等させるアミノ酸の個数は、通常5個以内であり、好ましくは3個以内であり、最も好ましくは1個である。アミノ酸の改変は、例えば突然変異や翻訳後修飾などに生じることもあるが、人為的に改変することもできる。本発明は、このような改変、変異の原因および手段を問わず、上記特性を有するすべての改変ペプチドを包含する。
【0027】
上述したペプチドの中、好適なペプチドは、配列番号5、8、11から13、16、18から21、24、29、30、32、39から42、45、46、50記載のアミノ酸配列で表されるペプチドであり、より好適なペプチドは、配列番号11から13、29、32、41、42、46記載のアミノ酸配列で表されるペプチドである。
【0028】
本発明のペプチドの第二は、上記のアミノ酸配列(I)、(II)又は(III)を含む免疫グロブリン結合性ペプチド、又は前記ペプチドと実質的に同一の免疫グロブリン結合性ペプチドに関する。ここで、「前記ペプチドと実質的に同一の免疫グロブリン結合性ペプチド」とは、アミノ酸配列(I)、(II)又は(III)において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ免疫グロブリンと結合し得るペプチドをいう。アミノ酸の欠失、置換若しくは付加の程度及びそれらの位置などは、改変されたペプチド若しくはポリペプチドが、アミノ酸配列(I)、(II)又は(III)を含むペプチドと同様に免疫グロブリンに対して結合性を有するペプチドであれば特に制限されない。但し、欠失等させるアミノ酸の個数は、好ましくは1個である。アミノ酸の改変は、例えば突然変異や翻訳後修飾などに生じることもあるが、人為的に改変することもできる。本発明は、このような改変、変異の原因および手段を問わず、上記特性を有するすべての改変ペプチドを包含する。また、「アミノ酸配列(I)、(II)又は(III)を含むペプチド」とは、前記したアミノ酸配列だけからなるペプチドのほか、このようなペプチドのN末端又はC末端側に複数のアミノ酸が付加したものも含む。付加するアミノ酸の個数は、免疫グロブリンに対する結合性を失わせない範囲であれば特に限定されないが、通常は10個以内であり、好ましくは3個以内である。
【0029】
一般式(I)、(II)又は(III)で表されるアミノ酸配列は、配列番号1乃至52記載のアミノ酸配列で表されるペプチドを解析した結果見出されたコンセンサス配列である。コンセンサス配列とは、ある特定のペプチドにおけるアミノ酸配列間に、明らかに関連性が認められる配列部分をいう。コンセンサス配列は、同定されたアミノ酸配列においてその結合に必要不可欠な配列と推測することができる。アミノ酸配列(I)は、配列番号6、26のアミノ酸配列から見出されたコンセンサス配列であり、アミノ酸配列(II)は、配列番号20、44のアミノ酸配列から見出されたコンセンサス配列であり、アミノ酸配列(III)は、配列番号16、35のアミノ酸配列から見出されたコンセンサス配列である。
【0030】
本発明の免疫グロブリン結合性ペプチドは、そのアミノ酸配列に従って、一般的な化学合成法またはペプチドをコードするDNAを用いて遺伝子操作によって製造することができる。
【0031】
化学合成方法においては、液相及び固相法によるペプチド合成法が包含される。かかるペプチド合成法は、より詳しくは、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させペプチドを延長させるステップワイズ法、アミノ酸数個からなるフラグメントをあらかじめ合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させる方法を含む。
【0032】
遺伝子組換え法によって生産する場合には、目的とするペプチドのアミノ酸配列をもとにこれをコードするDNAを合成し、ファージあるいはプラスミドベクターに導入する。これを適当な微生物(例えば大腸菌)に組み込んで形質転換体を選抜、取得し、公知の方法によって培養する。また、適切なプラスミドベクターを選びさえすれば、酵母、放線菌、枯草菌なども宿主として容易に利用することができる。
【0033】
かくして得られる本発明の免疫グロブリンに結合するペプチドは、通常の方法に従って、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、向流分配等のペプチド科学の分野で汎用されている方法に従って、精製を行うことができる。
【0034】
本発明の方法によって、選別され同定されるペプチドは、免疫グロブリンを特異的に認識して結合するアミノ酸配列を有するものであり、適当な担体に結合することで免疫グロブリン精製用担体として用いることができる。担体としては、ガラスビーズ、シリカゲルなどの無機担体、セルロース、キトサン、セファロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリアクリレート、架橋ポリアクリルアミド、架橋ポリスチレン、架橋セルロース、架橋アガロース、架橋デキストランなどの有機担体、さらにはこれらの組み合わせによって得られる複合担体などが挙げられる。さらに担体表面には、リガンドの固定化反応に用い得る官能基が存在することが好都合である。これらの官能基の代表例としては、水酸基、アミノ基、アルデヒド基、カルボキシル基、チオール基、シラノール基、エポキシ基、アミド基、ハロゲン基、サクシニルイミド基、酸無水物基がどが挙げられる。
【0035】
上記担体へのペプチドの固定化においては、ペプチドの立体障害を小さくすることにより吸着効率を向上させ、さらに非特異的吸着を抑えるために、親水性スペーサーを介して固定化することが好ましい。親水性スペーサーとしては、例えば、両末端をカルボキシル基、アミノ基、アルデヒド基、エポキシ基などで置換した適当な有機分子であればよい。また、これらペプチドおよびスペーサーとして用いられる有機分子は比較的安定で低分子の物質であり、例えば、酵素、抗体のようなタンパク質を固定化する場合と比較して、その固定化反応条件には制約が少ない。従って、固定化方法は特に限定されるものではない。
【0036】
本願発明のペプチドは金属イオン存在下でのみ免疫グロブリンに結合する。すなわち、該ペプチドを上述した適当な不溶性担体に固定化し、公知である金属キレートカラムクロマトグラフィーで行われる操作を行うことで、免疫グロブリンを含む原料から精製免疫グロブリンを調製することができる。従来公知の方法としては、免疫グロブリン含有画分を不溶性担体に固定化したペプチドリガンドに接触させることにより、該画分中の夾雑タンパク質が効率良く分離除去される。用いられる金属イオンの種類としては、遷移金属、例えば銅、ニッケル、亜鉛、鉄の二価イオン、あるいは鉄、アルミニウムの三価イオン等が例示される。好ましくは銅、ニッケルの二価イオンである。ペプチドリガンドは、金属イオン含有液、例えばCu2+塩含有液(例えばCuSO4)を該リガンドを付着したマトリックスと接触させ、該リガンドに結合させることにより調製される。
【0037】
免疫グロブリンを吸着画分に回収する場合は、先ず、塩濃度0.01 M〜1 M程度、pH5〜8程度の緩衝液、具体的には1 M以下の塩化ナトリウムを含有する10〜100 mM酢酸、リン酸又はTris塩酸緩衝液(pH5〜9)等を用いて、ペプチドリガンド平衡化、洗浄した後、平衡化したpHに調製した免疫グロブリン含有画分を該ペプチドリガンドを固定化した吸着体に接触させ、ついで吸着画分を塩濃度0.01 M〜1 M、pH3〜5程度の上記緩衝液を用いて溶出する。
【0038】
一方、免疫グロブリンを非吸着画分に回収する場合、先ず、塩濃度0.01 M〜1 M程度、pH3〜5程度の緩衝液、具体的には1 M以下の塩化ナトリウムを含有する10〜100 mM酢酸、リン酸又はTris塩酸緩衝液(pH3〜5)等を用いて、ペプチドリガンドを平衡化、洗浄した後、平衡化したpHに調製した免疫ブロブリン画分を該ペプチドリガンドに接触させ非吸着画分に回収する。
【0039】
【実施例】
以下、本発明をさらに詳細に説明するために実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
〔実施例1〕 ニッケルイオン存在下で免疫グロブリン不変領域に結合するファージの選択的濃縮
ヒト免疫グロブリン不変領域(ICNファルマシューティカル社製、カタログ番号55911)をTris−HCl緩衝液(pH7.0)(和光純薬社製)に10 μg/mlの濃度になるよう溶解させ、この溶液を市販のイムノチューブ(ヌンク社製)に2.0 ml加え、一晩放置しヒト免疫グロブリン不変領域を固定化した。翌日、チューブの溶液を除去した後、5% BSA(大日本製薬社製)を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)を3.0 ml加え、室温で2時間放置し、ブロッキングした。ブロッキング後、イムノチューブに10 mM 硫酸ニッケルNiSO4を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)を2.0 ml加え、さらに、4×1010 個相当分のファージ(ニューイングランドバイオラボ社製、Phage−Display Peptide Library kig:Ph.D−12)を添加し、室温で2時間放置した。溶液を除去後、0.1% Tween20、10 mM NiSO4 を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)で3回洗浄することにより結合し得なかったファージを除去した。次に、該チューブに3.0 mlの0.1 Mトリエチルアミンを加え、15分間、室温で放置することにより結合性ファージを固定化抗原から解離させた。このファージ溶液に2.25 mlの1.0 M Tris−HCl(pH6.8)緩衝液を添加し、ファージ溶液のpHを調製した。これを常法により大腸菌に感染させ、ファージを増殖させ、次のラウンドのスクリーニング用ファージディスプレイライブラリーとした。
【0041】
前記の操作を1ラウンドとして、4ラウンド繰り返しニッケルイオン存在下でヒト免疫グロブリン結合性ファージを選択的に濃縮した。
【0042】
〔実施例2〕 銅イオン存在下で免疫グロブリン不変領域に結合するファージの選択的濃縮
ヒト免疫グロブリン不変領域(ICNファルマシューティカル社製、カタログ番号55911)をTris−HCl緩衝液(pH7.0)(和光純薬社製)に10 μg/mlの濃度になるよう溶解させ、この溶液を市販のイムノチューブ(ヌンク社製)に2.0 ml加え、一晩放置しヒト免疫グロブリン不変領域を固定化した。翌日、チューブの溶液を除去した後、5% BSA(大日本製薬社製)を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)を3.0 ml加え、室温で2時間放置し、ブロッキングした。ブロッキング後、イムノチューブに10 mM 塩化銅CuCl2を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)を2.0 ml加え、さらに、4×1010 個相当分のファージ(ニューイングランドバイオラボ社製、Phage−Display Peptide Library kig:Ph.D−12)を添加し、室温で2時間放置した。溶液を除去後、0.1% Tween20、10 mM CuCl2を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)で3回洗浄することにより結合し得なかったファージを除去した。次に、該チューブに3.0 mlの0.1 Mトリエチルアミンを加え、15分間、室温で放置することにより結合性ファージを固定化抗原から解離させた。このファージ溶液に2.25 mlの1.0 M Tris−HCl(pH6.8)緩衝液を添加し、ファージ溶液のpHを調製した。これを常法により大腸菌に感染させ、ファージを増殖させ、次のラウンドのスクリーニング用ファージディスプレイライブラリーとした。
【0043】
前記の操作を1ラウンドとして、4ラウンド繰り返しヒト免疫グロブリン結合性ファージを選択的に濃縮した。
【0044】
〔実施例3〕 免疫グロブリン不変領域に結合するファージのスクリーニング
実施例1、又は実施例2の4ラウンド目で溶出されたファージをそれぞれシングルクローンに調製し、免疫グロブリン不変領域に対する結合性を評価した。シングルクローンの調製は、溶出されたファージを適当に希釈し、対数増殖期の大腸菌ER2738(ニューイングランドバイオラボ社製)を含む、溶解後のソフトアガー(1% トリプトン、0.5% イーストイクストラクト、0.5% NaCl、0.1% MgCl2/6H2O、0.7 %アガロース)に添加し、これをX−Gal(5−Bromo−4−chloro−3−indolyl−β−D−galactoside、和光純薬社製)、IPTG(Isopropyl−β−D−thiogalactopyranoside、和光純薬社製)を含むLB(1% トリプトン、0.5% イーストイクストラクト、0.5% NaCl)プレートにまき、37℃で一晩培養することで行った。次いで、プレート上のシングルファージクローン(合計192個)をピックアップし、対数増殖期の大腸菌ER2738を含む500μlのLB液体培地に接種し37℃で4.5時間、激しく攪拌しながら培養した。得られた培養液を遠心分離(10,000 g×20 min)し、培養上清中に含まれるファージを結合活性評価に供した。
【0045】
結合活性は、市販の96穴マイクロタイタープレートに免疫グロブリン不変領域(10μg/ml)を固定化した試験区、緩衝液のみを添加した対照区を設けて評価した。すなわち、5% BSAを含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)でブロッキング後(2.0時間、37℃)、ニッケルイオン存在下で濃縮したファージクローン(実施例1)においては、先に得られたファージ溶液50 μl及び20 mM 硫酸ニッケルNiSO4 を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)50μlを添加し反応させた(1.5時間、37℃)。なお、硫酸ニッケルの結合性への効果を評価するため、硫酸ニッケルを含まないTris−HCl緩衝液の試験区も設定した。反応後、0.1% Tween20を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)で3回洗浄し、その後、HRPで標識された抗M13抗体を加えた(アマシャムファルマシアバイオテク社製)。37℃で1.5時間反応後、0.1% Tween20を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)で3回洗浄し、2000倍希釈のHRP用の発色試薬ABTS(フナコシ社製)を加え吸光度(405 nm)を求めた。また、銅イオン存在下で濃縮したファージクローン(実施例2)においては、上述の硫酸ニッケルに代えて塩化銅CuCl2を用いた。
【0046】
それぞれのファージクローンの結合性は免疫グロブリン不変領域固定化ウェルの吸光度と対照ウェルの吸光度の差を以って評価した。ニッケルイオン存在下で選択的に濃縮されたファージクローンのスクリーニング結果の一部を図1、銅イオンのそれを図2に示した。
【0047】
〔実施例4〕 免疫グロブリン結合性ファージが提示しているペプチドのアミノ酸配列の決定
実施例3において金属イオン存在下の試験区と対照区との吸光度差が0.3以上のファージを選び、常法に従い、これらのファージからDNAを抽出した。抽出したDNAの塩基配列を決定することにより、ファージが呈示しているポリペプチドのアミノ酸配列を決定した。塩基配列は、配列表配列番号53のプライマー(5’−CCCTCATAGTTAGCGTAACG−3’)を使用し、チェーンターミネーター法に基づくBig Dye Terminator Cycle Sequencing FS Ready Reaction Kit(PE アプライドバイオシステム社製)を用いてサイクルシークエンス反応に供し、全自動DNAシークエンサーABI Prism 3700 DNA Analyzer(PE アプライドバイオシステム社製)にて解析することにより決定した。なお、ファージクローンの提示ペプチド解析の結果、同一のアミノ酸配列を示したクローンがあった。重複する配列を除いたペプチドのアミノ酸配列52種類を配列表配列番号1から52に示す。このうち、配列番号1乃至43で示されたペプチドはニッケルイオン存在下で濃縮されたファージクローンから抽出されたものであり、配列番号44乃至52で示されたペプチドは銅イオン存在下で濃縮されたファージクローンから抽出されたものである。
【0048】
〔実施例5〕 ニッケルイオン存在下で免疫グロブリン不変領域に結合するファージの反応性
免疫グロブリン不変領域タンパク質を濃度50μg/mlから連続的に希釈し、それぞれの濃度の免疫グロブリン不変領域溶液100μlを96穴マイクロタイタープレートのウェルに添加し、免疫グロブリン不変領域タンパク質をプレートに固定した(4℃、16時間)。次に、5% BSA含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)でブロッキング後(37℃、2時間)、各ウェルを0.1% Tween20を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)で3回洗浄した。洗浄後のプレートに、硫酸ニッケルNiSO4を10 mM、5 mMの濃度で含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)区を作製し、ファージ粒子濃度を1.0×1012個/ml(ファージタイターの算出は製造者マニュアルに従って行った)に調製したファージ溶液100μlを添加、反応させた(37℃、1.5時間)。評価対象のファージは、実施例3の結果から、高結合性の7個のファージを選別した(配列番号11から13、29,32,41,42のペプチドを提示するファージ)。反応終了後、0.1% Tween20を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)で3回洗浄し、2000倍希釈のHRP標識抗M13抗体を100μl添加し反応させた(37℃、1.5時間)。次いで、0.1% Tween20を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)で3回洗浄し、HRP用の発色試薬 ABTSで発色させ吸光度を測定した。結果を図3〜図9に示す。
【0049】
〔実施例6〕 銅イオン存在下で免疫グロブリン不変領域に結合するファージの反応性
免疫グロブリン不変領域タンパク質を濃度50μg/mlから連続的に希釈し、それぞれの濃度の免疫グロブリン不変領域溶液を100μlを96穴マイクロタイタープレートのウェルに添加し、免疫グロブリン不変領域タンパク質をプレートに固定した(4℃、16時間)。次に、5% BSA含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)でブロッキング後(37℃、2時間)、各ウェルを0.1% Tween20を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)で3回洗浄した。洗浄後のプレートに、塩化銅CuCl2を10 mM、5 mMの濃度で含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)区を作製し、ファージ粒子濃度を1.0×1012個/ml(ファージタイターの算出は製造者マニュアルに従って行った)に調製したファージ溶液100μlを添加、反応させた(37℃、1.5時間)。評価対象のファージは、実施例3の結果から、高結合性のファージを選別した(配列番号46のペプチドを提示するファージ)。反応終了後、0.1% Tween20を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)で3回洗浄し、2000倍希釈のHRP標識抗M13抗体を100μl添加し反応させた(37℃、1.5時間)。次いで、0.1% Tween20を含むTris−HCl緩衝液(pH7.0)で3回洗浄し、HRP用の発色試薬ABTSで発色させ吸光度を測定した。結果を図10に示す。
【0050】
【発明の効果】
本発明のペプチドは、金属イオン存在下で免疫グロブリンに対する結合特異性が高く、かつ、滅菌処理時または保存中における結合特性の極めて少ないため、免疫グロブリン用の精製リガンド等として有用である。
【0051】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】ニッケルイオン存在下で免疫グロブリン不変領域に結合するファージのスクリーニング結果を示す図である。
【図2】銅イオン存在下で免疫グロブリン不変領域に結合するファージのスクリーニング結果を示す図である。
【図3】配列番号11で表されるペプチドを提示するファージの免疫グロブリン不変領域に対する結合性を示す図である。
【図4】配列番号12で表されるペプチドを提示するファージの免疫グロブリン不変領域に対する結合性を示す図である。
【図5】配列番号13で表されるペプチドを提示するファージの免疫グロブリン不変領域に対する結合性を示す図である。
【図6】配列番号29で表されるペプチドを提示するファージの免疫グロブリン不変領域に対する結合性を示す図である。
【図7】配列番号32で表されるペプチドを提示するファージの免疫グロブリン不変領域に対する結合性を示す図である。
【図8】配列番号41で表されるペプチドを提示するファージの免疫グロブリン不変領域に対する結合性を示す図である。
【図9】配列番号42で表されるペプチドを提示するファージの免疫グロブリン不変領域に対する結合性を示す図である。
【図10】配列番号46で表されるペプチドを提示するファージの免疫グロブリン不変領域に対する結合性を示す図である。
Claims (8)
- (1)任意のペプチドをその表面に提示するファージからなるファージライブラリーを作製し、(2)抗原を固相に固定し、ブロッキング剤で処理し、金属イオンを含む緩衝液下でファ−ジディスプレイライブラリーと接触させ、洗浄し、(3)ファージを固相から解離させた後、増殖させ、(4)増殖させたファージの中から抗原と特異的に結合するペプチドを提示するファージを選択する工程を含む金属イオン存在下でのみ抗原に特異的に結合するペプチドを提示するファージの単離方法。
- 金属イオンがニッケル又は銅であることを特徴とする請求項1記載のファージの単離方法。
- 配列番号1乃至52記載のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン結合性ペプチド、又は前記ペプチドと実質的に同一の免疫グロブリン結合性ペプチド。
- 下記のアミノ酸配列(I)、(II)又は(III):
Ser−Pro−Arg(I)
Leu−Thr−Pro−X1−X2−Arg(II)
(配列中、X1はAsp又はGlnを表し、X2はVal又はSerを表す)
Tyr−Ile−His(III)
を含む免疫グロブリン結合性ペプチド、又は前記ペプチドと実質的に同一の免疫グロブリン結合性ペプチド。 - 請求項3又は4記載の免疫グロブリン結合性ペプチドを担体に固定してなる免疫グロブリン精製用担体。
- 金属イオン存在下で、請求項5記載の免疫グロブリン精製用担体と免疫グロブリンを含む試料とを接触させ前記担体と免疫グロブリンを結合させ、その後、前記担体から免疫グロブリンを解離させることを特徴とする免疫グロブリンの精製方法。
- 金属イオンがニッケルイオンであり、免疫グロブリン精製用担体が配列番号1乃至43記載のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン結合性ペプチド、又は前記ペプチドと実質的に同一の免疫グロブリン結合性ペプチドを担体に固定してなる免疫グロブリン精製用担体であることを特徴とする請求項6記載の免疫グロブリンの精製方法。
- 金属イオンが銅イオンであり、免疫グロブリン精製用担体が配列番号44乃至52記載のアミノ酸配列で表される免疫グロブリン結合性ペプチド、又は前記ペプチドと実質的に同一の免疫グロブリン結合性ペプチドを担体に固定してなる免疫グロブリン精製用担体であることを特徴とする請求項6記載の免疫グロブリンの精製方法。
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JP2003040514A JP2004250352A (ja) | 2003-02-19 | 2003-02-19 | リガンドとして有用なペプチド |
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JP2009512684A (ja) * | 2005-10-24 | 2009-03-26 | ケアジェン シーオー エルティーディー | 皮膚状態改善または歯周疾患の治療効能を有するペプチド |
CN111825754A (zh) * | 2020-07-16 | 2020-10-27 | 河南省农业科学院 | 一种从芝麻蛋白中获得的具有降血压与降血糖活性的多肽 |
-
2003
- 2003-02-19 JP JP2003040514A patent/JP2004250352A/ja active Pending
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