JP2004245655A - ガス吸着下における陽電子消滅法を用いた細孔サイズの評価方法とその評価装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】ガスを吸着させた測定試料陽電子消滅法を用いて細孔のサイズを評価する方法を提案しおり、被測定物に吸着された原子あるいは分子を蒸散させ、前記被測定物にあらかじめ決められたガス体を吸着せしめ、その被測定物に陽電子を照射し、その被測定物内に留まった陽電子の寿命を測定する。これを細孔のサイズに換算するか、より正確には、この際、ガス体の吸着量を変えて、陽電子の寿命の前記吸着量への依存性を得、この結果から被測定物内の細孔サイズを見積もる。また、このような働きをするそれぞれの手段により、測定装置を構成する。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、陽電子消滅法を用いた細孔サイズの評価方法によってナノメートル領域の微細孔のサイズを評価するものであり、測定試料の違いによっておこる評価サイズと実際のサイズとのずれを抑制することのできる、ガス吸着下における陽電子消滅法を用いた細孔サイズの評価方法とその評価装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
メソポーラスシリカやゼオライトをはじめとするナノメートルオーダーの細孔を有する多孔質材料は、センサーや吸着材、断熱材、触媒、もしくは細孔内に、触媒材料や、機能性有機分子等を担持する担体としての応用が期待されており、さらに、半導体の高集積化に必要不可欠である低誘電体膜としての応用も期待されている。
【0003】
これらの応用に向け、多孔質材料の細孔構造を、粉末状態や、錠剤状態、薄膜状態等の多様な試料形態において解析することが必要不可欠である。現在、これらの試料の細孔構造解析法として有力なものとして、窒素吸着法と陽電子消滅法を用いた細孔サイズの評価方法が挙げられる。
【0004】
窒素吸着法は、試料を液体窒素温度に保ち、窒素分圧の関数として吸着量を測定することによって吸着等温線を得、吸着モデルに基づいて、その細孔構造を解析するものである。しかし、用いられている吸着モデルは、吸着層厚と、毛細管凝縮の二つから評価され、それぞれ評価に対する困難を抱えている。吸着層厚については、材料毎に無多孔性バルク状態を標準試料とする吸着等温線から評価した、標準吸着層厚が要求される。しかし、それらを材料毎に用意するのは非常に困難であり、標準試料を有している材質でさえも、標準試料と被測定物では、吸着層厚が異なるため、正確な評価は困難である。
【0005】
また、毛細管凝縮では、凝縮過程のモデルにより凝縮時の曲率径に差が生じてしまう困難さを抱えている。これらの理由から、細孔の大きさの正確な定量は困難となっている。また、一般的には定容量法といわれる吸着前の導入圧力と、吸着後の平衡圧力との差で吸着量を評価している。そのため、吸着量を評価するためには、試料の表面積も重要となり、測定対象試料が1m2以上の表面積を有することが必要となる。このため、窒素吸着法においては、細孔の大きさの正確な定量が困難であり、さらにその表面積の制約から試料の形態に大きく左右され、特に薄膜形態においては、吸着等温線の測定自体が困難となっている。
【0006】
一方、陽電子消滅法を用いた細孔サイズの評価方法は、試料中で陽電子が消滅する寿命を測定する手法である。1nm以下の大きさの細孔については、陽電子寿命と細孔の大きさとの間には明確な相関が存在するため、この手法により、細孔の大きさが求められる。しかし、1nm程度、あるいはそれ以上の大きさの細孔については、同じ大きさの細孔の場合であっても、表面状態や化学的組成が異なる場合には、陽電子寿命がしばしば異なる。特に、金属等の表面に自由電子を持つ材質や、不対電子を表面に持つ材質の物は、陽電子がそれらの電子と対消滅してしまうため、寿命が短く評価されてしまう。また、近年開発されている多孔質材料の多くは、1nm以上の細孔径を持つものであり、陽電子消滅法を用いた細孔サイズの評価方法による正確な定量はやや困難となる。
【0007】
本発明は、この陽電子消滅法を用いた細孔サイズの評価方法に関しているので、これについて、以下に説明する。
【0008】
測定試料に入射された陽電子は、測定試料を構成する物質の原子核の電場の影響を受けて反発され、電子密度が低い空孔や間隙に補足される確率が高くなる。このように補足された陽電子は、空孔や間隙の表面に存在する電子と結合してガンマ線を放出して消滅する。この際、空孔が大きいほど、電子と陽電子とが結合消滅する確率は低くなり、陽電子の寿命が長くなる。この現象を用いて、空孔のサイズを評価する方法は既によく知られている。
【0009】
また、よく用いられる陽電子線源としては、22Naを含む22Na2CO3がある。この放射線源の場合は、22Naが22Neにβ+崩壊する際に放出される陽電子を用いるものであるが、その際、ほぼ同時(0.3p秒後)に1.28MeVのγ線を放射する。また、測定試料に入射した陽電子は、試料内の電子と結合して511keVのγ線を放射する。試料内の陽電子の寿命の測定は、これらのγ線間の時間を測定するものであり、通常用いられる測定装置の1例を、図7に示す。
【0010】
また、上記のように、陽電子の補足された空孔や間隙のサイズにより、陽電子の寿命が変わることが知られており、この測定例を図8に示す。逆に、このような関係から、陽電子の寿命を測定して、空孔や間隙のサイズを見積ることは既に知られている。
【0011】
また、以下では、陽電子の寿命の前記吸着量への依存性として、BET(Brunauer−Emmett−Teller)等温吸着式を用いて導出したt−曲線、或いはFHH(Frenkel−Halsey−Hill)式に従う依存性を用いるが、これらは、非特許文献1に記載されている。
【0012】
【非特許文献1】
近藤精一、石川達雄、安部郁夫共著、化学セミナー「吸着の科学」、平成3年7月30日発行、丸善株式会社。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
現在、多孔質材料の細孔構造解析は、上記の評価方法を含む様々な手法で行われているが、評価法ごとに異なる値が得られてしまうため、一意的に細孔サイズを測定することの可能な手法が求められている。
【0014】
このようなことから、本発明は、測定試料の材質、あるいは、それに吸着されたガスの種類によらない測定値が得られるナノメートル領域の細孔サイズの評価方法とその評価装置を、提案している。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、第1の発明の要件は、以下の点にある。まず、測定試料に吸着している水や二酸化炭素、窒素、炭化水素などのガスを脱離させた後、窒素やアルゴンなどの不活性ガスもしくはトルエン、ヘプタンなどの非極性ガスを吸着させる。不活性ガスもしくは非極性ガスを吸着させた状態で、よく知られた陽電子消滅法を用いて細孔のサイズの評価を行なう。このようにガスを吸着させた測定試料の表面は、陽電子からは、下地の影響が殆ど反映されない様に見えるので、測定試料が変わっても、材料に対する陽電子寿命の依存性を殆ど考慮する必要がなくなる。従って、測定試料に依らない測定を容易に行なうことができる。
【0016】
また、第2の発明の要件は、以下の点にある。まず、測定試料に吸着している水や二酸化炭素、窒素、炭化水素などのガスを脱離させた後、窒素やアルゴンなどの不活性ガスもしくはトルエン、ヘプタンなどの非極性ガスをを吸着させる。不活性ガスもしくは非極性ガスを吸着させた状態で、よく知られた陽電子消滅法を用いて細孔のサイズの評価を行なう。この不活性ガスもしくは非極性ガスの吸着と細孔のサイズの評価を、種々のガス圧、あるいは種々のガス分圧下で行ない、ガス圧あるいはガス分圧と細孔サイズの評価値との相関から、ガス圧あるいはガス分圧が零のときの細孔サイズを求めるものである。
【0017】
また、本発明の評価方法の対象には、粉末、錠剤、あるいは膜状の試料が含まれる。これらの試料は、予め用意された容器にいれて測定されるが、ここで容器の材料として望ましいのは、陽電子寿命が既知の材料で作られた容器であり、これは、測定データから容易に容器に関するデータを除外できる様にするためである。
【0018】
また、本発明の評価方法では、陽電子寿命の測定を行なうが、測定中は、測定試料に吸着したガス体の状態が変化しないようにするために、測定試料を恒温にする必要がある。
【0019】
また、測定試料に吸着したガス体を異なる状態にするためには、吸着ガスの分圧を変化させる以外に、測定試料の温度を変えることによっても実現することができる。
【0020】
また、吸着ガスとして、容易に用いることができるのは、窒素、アルゴン、ヘリウム、クリプトン、ネオン、また、トルエン、ヘプタン、有機化合物とその蒸気ガスの単体あるいはその混合ガスである。
【0021】
また、陽電子線源から放出される陽電子の全部が試料あるいは容器に注入されるように、陽電子線源を挟み、被測定物を配置するのが望ましい。
【0022】
また、陽電子源として22Nなどのβ崩壊する放射性同位元素を用いることによって、小型の測定装置を実現することができる。
【0023】
また、陽電子源もγ線検出器の近くに置かれることから、陽電子源として用いる放射性同位元素材の容器としては、陽電子寿命が既知の材料で作られた容器が望ましい。
【0024】
また、上記の容器用の材料としては、カプトン(R)膜などの高分子膜やチタン箔、あるいはニッケル箔等がある。
【0025】
また、薄膜に高速の陽電子を照射するとつきぬけてしまう場合があるため、薄膜の評価には、低速の陽電子を照射することが望ましい。
【0026】
また、ガスの分圧と吸着量との関係は、僅かに線形の関係からずれるために、より正確な評価を行なう場合は、細孔形状を仮定し、BET(Brunauer−Emmett−Teller)等温吸着式を用いて導出したt−曲線、或いはFHH(Frenkel−Halsey−Hill)式に従った曲線を、測定データに摘要することが望ましい。
【0027】
また、本発明の評価法を用いて、細孔サイズをもとめる際に、吸着されたガス層の厚さとガス体の圧力あるいはその相対圧力との関係を求めることができる。
【0028】
また、本発明の評価装置は、被測定物に吸着された原子あるいは分子を蒸散させる蒸散手段と、前記被測定物にあらかじめ決められたガス体を吸着せしめる吸着手段と、その被測定物に陽電子を照射する照射手段と、その被測定物内に留まった陽電子の寿命を測定する測定手段と、陽電子の寿命からその測定物内の細孔サイズを見積もる換算手段とを備えた装置であり、この装置で陽電子消滅法を用いて、細孔サイズの評価を行なうことができる。さらに必要に応じて、恒温装置や、低速の陽電子を供給する線源などを用いる。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下にこの発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。先ず本発明の望ましい第1の実施形態を図1〜図6を用いて説明する。
【0030】
図1に測定装置の模式図を示す。この測定装置を用いて、メソポーラスシリカMCM−41(Mobile’s Composition of Matter−41)の測定を行った。
【0031】
はじめに、図2に示すように、カプトン(R)フォイルで包んだ22Na線源1を、測定試料2であるMCM−41粉末で挟んだ配置で、それらを図1のガラス容器3中に入れた。ここで22Na線源を用いたのは、単に使いやすいからであって、充分に多数の陽電子が安定して得られるならば、他の陽電子泉源でも何ら問題が無いことは明らかである。パルス状の陽電子ビームを用いる例については後述する。また、22Na線源1を包む材料としては、陽電子ビーム強度を減衰させない膜であれば使用上問題はなく、カプトン(R)フォイルの他には、よく知られた高分子フィルムや、チタン箔、あるいはニッケル箔などの金属薄膜を用いることができる。また、22Na線源1を、測定試料2であるMCM−41粉末で挟んだ配置とするのは、陽電子線源から放出される陽電子の全部が試料あるいは容器に注入されるようにするためである。また、このような配置で測定する場合、測定試料の表面に供給するガスが充分に行き渡る様にする必要がある。
【0032】
次に、測定試料2を設置したガラス容器3内を真空ポンプ4により真空にする。これは、測定試料に吸着されたガス体を蒸散させるための処理である。必要に応じて、減圧雰囲気で加熱することも行なうことができる。その他、通常行なわれる吸着されたガス体を蒸散させるための処理をここでも行なうことができるのは明らかである。
【0033】
このガラス容器3を図1の液体窒素容器5中の液体窒素に浸してその温度を恒温に保った。これは77Kでの測定のためである。一般に、不活性ガスもしくは非極性ガスの吸着は低温でより起こり易いので低温での測定が容易である。また陽電子寿命を測定中に、測定試料へのガスの吸着が変化し無いようにするために、測定試料を恒温に保つことは重要である。また、さらに高い温度での測定には、その温度に設定できる恒温層を用いればよいことは明らかである。図1あるいは2の構成の測定では、さらに、自由に温度を設定できる恒温層を用いることによって、4〜400Kで測定することができる。
【0034】
その後、0〜測定温度における飽和蒸気圧までの間の一定圧力になるように窒素ガスを入れ、しばらく放置して吸着分子と窒素ガスとの平衡が達成された後、測定を開始した。また、この測定を、ガラス容器3内の窒素ガスの圧力を変えて繰り返した。ここで窒素ガスを用いたのは、不活性で水蒸気の少ないガスを容易に得られるためである。また、必ずしも窒素ガスである必要はなく、後述するように、種々のガスを用いることができる。
【0035】
測定系の概要を図2に示す。試料より放出されたγ線は、BaF2シンチレータ7を介して光電子増倍管(PMT)6で検出される。PMT6の出力信号は、CFDD(ConstantFraction Differential Discriminator)8で、スタートおよびストップ信号に応じた波高のみが選択され、また信号のタイミングが決定される。CFDDの出力は時間波高変換機(TAC)9に入力される。スタート信号としては、22Naのβ崩壊直後に放出される1.28MeVのγ線、ストップ信号としては511keVの消滅γ線を用いて寿命を測定した。TAC9の出力信号は、マルチチャネル分析器10とコンピュータ(PC)11で処理される。
【0036】
図3に、窒素分圧の関数として、MCM−41の細孔内で消滅している陽電子の寿命を示す。陽電子の寿命は、上記のように、細孔の大きさの増加関数である。図3では、線形近似の最小2乗法による直線Aが右下がりであることから、窒素分圧の増加に伴い、陽電子の寿命が短くなっており、細孔が小さくなっていることが示されている。これは、細孔内部に吸着する窒素の量が増加したことによる。ここで、MCM−41に線形近似を用いたのは、シリカの標準サンプルの相対圧に対する吸着層厚曲線において、相対圧が0.2〜0.4付近では、相対圧に対して、吸着層厚がほぼ線形と評価できるからである。
【0037】
ここで、直線Aの縦軸との交点Bを求めることにより、測定すべき細孔のサイズから得られる陽電子の寿命が得られる。これは、吸着されたガスの分圧が無い状態での値であるため、ガスの種類による影響のない値である。このため、用いるガスを、窒素、アルゴン、ヘリウム、クリプトン、ネオン、また、トルエン、ヘプタン、有機化合物の蒸気ガスなど、種々のガスから選択することができる。
【0038】
また、図4に、図3の結果を長さに換算した結果を示す。ここで、線形近似の最小2乗法による直線Cは、図4のデータ点を用いて引いたものである。縦軸と直線Cとの交点Dが細孔のサイズに対応している。ここで、線形近似を用いたのは、上記、図3に線形近似を用いたのと同じ理由である。
【0039】
また、図3あるいは図4の結果より、窒素圧力が0.3相対圧力までは、バルクの多層吸着のモデルが適用可能な領域であり、0.3−0.4相対圧力で毛細管凝縮が起こり、細孔内でガスが凝縮していることが分かる。これが、本発明の摘要できる限界である。また、上記の相対圧力は、例えば、液体窒素で洗浄して乾燥する場合に必要な環境条件に対応している。ここで、有機溶剤を用いて同様の測定を行なえば、有機溶剤についての毛細管凝縮の起る相対圧力を知ることができる。
【0040】
上記の実施の形態では、放射性同位元素を用いているが、同様の測定を、パルス線源を用いて行なうことができる。パルス線源を用いる利点は、パルス線源自体にあるのではなく、放射性同位元素から放出されるような高エネルギー陽電子(最大エネルギーで540keV、平均で220keV)ではなく、低エネルギーの陽電子を用いて、薄膜などでも測定試料をつきぬけることなく測定することができる点にある。例えば、半導体集積回路で用いられるような薄膜試料のように微量な測定試料の場合でも微細孔を測定することが可能である。
【0041】
陽電子パルス線源としては、例えば、次の構成のものを用いる事ができる。
1)図5に示すように、放射性同位元素から放出される陽電子を、タングステンフォイルを用いて一旦減速し、その後加速することによって単一エネルギーのビームに整形するとともに、高周波を用いてパルス化する。
2)図6に示すように、陽電子源として、放射性同位元素ではなく、電子線ライナックなどの粒子加速器を用い、高エネルギー電子線を重原子ターゲット(鉛等)に衝突させ、減速させた際に放出される制動放射(MeVオーダーの高エネルギーX線)を得、高エネルギーの光子によって電子・陽電子対が生成されることを利用して陽電子を得る。
この場合には、電圧をかけて陽電子のみを分離し、その後、上記の手法と同じ方法で、パルス陽電子ビームを得る。陽電子の寿命を測定するためのスタート信号としては、図5の場合は高周波信号を用いるが、図6の場合は、加速された電子ビームから得られるパルス信号や、制動放射によるX線から得られるパルス信号などを必要に応じて遅延して用いることができる。
【0042】
上記の図3あるいは図4の説明においては、測定データから線形近似の最小2乗法で求めた直線と縦軸との交点を出して、細孔サイズを求めたが、より正確には、次の様にすることが望ましい。
【0043】
以下の説明においては、細孔の形状は円筒状であるとし、その表面にガス体が吸着する状況は、平面状の表面にガス体が吸着する場合と同一であるとみなしている。被測定物の表面が、このような円筒状細孔を有すると仮定し、また、被吸着ガスは、ガス分圧に比例してその表面に多層吸着すると仮定した場合の被吸着ガスの吸着体積評価式を数1示す。
【0044】
【数1】
V:ある圧力Pの時の被吸着ガスの吸着体積
R:真の細孔半径
L:シリンダー細孔の長さ
t:吸着理論に基づいた、圧力Pの時の無多孔表面への吸着厚み
P:被吸着ガスを導入した際の平衡圧力
T:測定時の平衡温度
【0045】
次に、陽電子消滅法から測定された被測定物の細孔半径をもった円筒状細孔を仮定した場合の、被吸着ガスのガス吸着体積は数2の様になる。
【0046】
【数2】
r:陽電子消滅法から評価した細孔半径
【0047】
次に、数1、数2から導出された、陽電子消滅法で測定された細孔半径と、ガスの相対圧力と、細孔の有する真の細孔半径との関係式を数3に示す。
【0048】
【数3】
【0049】
例えば、図4に示す測定データと数3の曲線との誤差が最小になる様にフィッティングすることにより、標準等温線を有することなく、細孔半径を求めることが可能である。
【0050】
また、上記の陽電子の寿命の前記吸着量への依存性として、非特許文献1に記載されたBET(Brunauer−Emmett−Teller)等温吸着式を用いて導出したt−曲線、或いはFHH(Frenkel−Halsey−Hill)式に従う依存性を仮定することができる。次に、これを説明する。
【0051】
数4にBET等温吸着式を示す。
【数4】
【0052】
P:被吸着ガスを導入した際の平衡圧力
P0:被吸着ガスの飽和蒸気圧
v:被吸着ガスの吸着ガス量
vm:被吸着質への被吸着ガスの単分子吸着量
C:吸着熱を反映している定数
【0053】
数5に吸着層厚を表すt曲線をの式を示す。
【数5】
【0054】
σ:被吸着ガスの単分子層の厚さ
【0055】
次に数4と数5から、導出された、多層吸着する際の吸着層厚t(P,T)の関係、数6を示す。
【数6】
T:測定時の平衡温度
【0056】
上記式中のP0は被吸着ガスの飽和蒸気圧なので、当然Tの関数である。上記数6はBET法から用いたt―曲線の式であり、数3に導入した場合、より精度の高い、真の細孔半径Rを得ることが出来る。
【0057】
次に、数7にFHH式を示す。
【数7】
R‘:気体定数
a、r:定数
【0058】
次に、数5と数7から、導出された、多層吸着する際の吸着層厚t(P,T)の関係数8を示す。
【数8】
【0059】
上記数8はFHH法から用いたt―曲線の式であり、数3に導入した場合、より精度の高い真の細孔半径Rを得ることが出来る。
【0060】
【発明の効果】
従来の細孔構造解析法である、窒素吸着による手法では、ガス吸着層厚の標準等温線による換算と、毛細管凝縮の曲率形状の評価により細孔の大きさの見積もりは、正確さを欠くものとならざるを得ない。また、吸着等温線の評価に対しても、試料形態、特に膜状形態では、その全表面積の少なさから、各相対圧での吸着量評価も正確さを欠くものとならざるを得ない。それに対し、陽電子消滅法を用いた細孔サイズの評価方法では、陽電子寿命が細孔の大きさのみでなく、細孔の内表面状態にも依存するという欠点を抱えている。
【0061】
本発明の、ガス吸着下陽電子消滅測定装置は、上記の2つの手法が相補的に用いられており、細孔の大きさについて、試料の材質に依存せず、標準試料も必要としない、非常に信頼性の高い見積もりが可能となる。さらに、半導体集積回路に用いられる低誘電率薄膜のような極微量の試料に対しても測定可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の装置の概略図である。
【図2】本発明の装置の測定部のブロック図である。
【図3】本発明による、細孔内部の陽電子寿命の測定例を示す図である。
【図4】本発明による、細孔径の測定例を示す図である。
【図5】放射性同位元素を用いた陽電子パルス線源の例を示す図である。
【図6】電子線加速器を用いた陽電子パルス線源の例を示す図である。
【図7】従来の陽電子消滅寿命測定システムを示す図である。
【図8】陽電子消滅寿命と空孔孔径との相関を示す図である。
【符号の説明】
1 22Na線源
2 測定試料
3 ガラス容器
4 真空ポンプ
5 液体窒素容器
6 光電子増倍管
7 BaF2シンチレータ
8 CFDD
9 時間波高変換機
10 マルチチャネル分析器
11 コンピュータ
Claims (14)
- 被測定物に吸着された原子あるいは分子を蒸散させるステップと、前記被測定物にあらかじめ決められたガス体を吸着せしめるステップと、その被測定物に陽電子を照射するステップと、その被測定物内に留まった陽電子の寿命を測定するステップと、陽電子の寿命からその測定物内の細孔サイズを見積もるステップとを備えることを特徴とするガス吸着下における陽電子消滅法を用いた細孔サイズの評価方法。
- 被測定物に吸着された原子あるいは分子を蒸散させるステップと、前記被測定物にあらかじめ決められたガス体を吸着せしめるステップと、その被測定物に陽電子を照射するステップと、その被測定物内に留まった陽電子の寿命を測定するステップと、上記のガス体の吸着量を変えるステップと、上記の陽電子の寿命の前記吸着量への依存性を用いて上記の被測定物内の細孔サイズを見積もるステップと、を、備えることを特徴とするガス吸着下における陽電子消滅法を用いた細孔サイズの評価方法。
- 陽電子寿命が既知の材料で作られた容器に入れられた被測定物について測定することを特徴とする請求項1あるいは2に記載のガス吸着下における陽電子消滅法を用いた細孔サイズの評価方法。
- 陽電子消滅法における陽電子の寿命を測定中の被測定物の温度が、4〜400K(ケルビン)の、予め決められた温度に保たれた状態でガス圧を変化させることを特徴とする請求項1あるいは2に記載のガス吸着下における陽電子消滅法を用いた細孔サイズの評価方法。
- 上記のガス体の吸着量を変えるステップは、被測定物の温度を変化させることにより行なうことを特徴とする請求項1あるいは2及び請求項2の陽電子消滅法を用いた細孔サイズの評価方法。
- 予め決められたガス体は、窒素、アルゴン、ヘリウム、クリプトン、ネオン、また、トルエン、ヘプタン、有機化合物とその蒸気ガスから選ばれた単体ガスあるいは混合ガスであることを特徴とする請求項1あるいは2に記載のガス吸着下における陽電子消滅法を用いた細孔サイズの評価方法。
- 上記の被測定物に陽電子を照射するステップは、陽電子線源を挟む被測定物について照射するステップであることを特徴とする請求項1あるいは2に記載のガス吸着下における陽電子消滅法を用いた細孔サイズの評価方法。
- 上記の被測定物に陽電子を照射するステップは、ベータ崩壊で放射される陽電子を用いて照射するステップであることを特徴とする請求項1あるいは2に記載のガス吸着下における陽電子消滅法を用いた細孔サイズの評価方法。
- 上記の被測定物に陽電子を照射するステップは、細孔サイズが陽電子寿命が既知の材料で作られた容器に入れられた陽電子線源を用いて照射するステップであることを特徴とする請求項1あるいは2に記載のガス吸着下における陽電子消滅法を用いた細孔サイズの評価方法。
- 上記の陽電子寿命が既知の材料は、高分子膜、チタン箔、あるいはニッケル箔であることを特徴とする請求項8に記載のガス吸着下における陽電子消滅法を用いた細孔サイズの評価方法。
- 上記の被測定物に陽電子を照射するステップは、低速陽電子発生源から放射される陽電子を用いて照射するステップであることを特徴とする請求項1あるいは2に記載のガス吸着下における陽電子消滅法を用いた細孔サイズの評価方法。
- 上記の陽電子の寿命の前記吸着量への依存性は、細孔形状を仮定し、BET(Brunauer−Emmett−Teller)等温吸着式を用いて導出したt−曲線、或いはFHH(Frenkel−Halsey−Hill)式に従う依存性であることを特徴とする請求項2に記載のガス吸着下における陽電子消滅法を用いた細孔サイズの評価方法。
- 上記の陽電子の寿命の前記吸着量への依存性を用いて上記の被測定物内の細孔サイズを見積もるステップは、吸着されたガス層の厚さとガス体の圧力あるいはその相対圧力との関係を求めるステップを含むことを特徴とする請求項2あるいは12に記載のガス吸着下における陽電子消滅法を用いた細孔サイズの評価方法。
- 被測定物に吸着された原子あるいは分子を蒸散させる蒸散手段と、前記被測定物にあらかじめ決められたガス体を吸着せしめる吸着手段と、その被測定物に陽電子を照射する照射手段と、その被測定物内に留まった陽電子の寿命を測定する測定手段と、陽電子の寿命からその測定物内の細孔サイズを見積もる換算手段とを備えることを特徴とするガス吸着下における陽電子消滅法を用いた細孔サイズの評価装置。
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