JP2004238372A - 鼻腔又は口腔用製剤 - Google Patents
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Abstract
【課題】鼻腔や口腔に投与した場合に液ダレすることがほとんど又は全くなく、違和感や刺激性がほとんどなく、分散性が良好で、投与した場合の投与量に局所的なバラツキが少なく、鼻腔や口腔での滞留性が良い、鼻腔又は口腔用製剤を提供すること。
【解決手段】多糖類と水系媒体からなる組成物を該多糖類のゲル転移温度以上に加熱溶解後、該組成物に剪断力を加えながら該多糖類のゲル転移温度以下に冷却する事によって得られる粒子状多糖類を含む、鼻腔又は口腔用製剤を提供した。
【選択図】 図3
【解決手段】多糖類と水系媒体からなる組成物を該多糖類のゲル転移温度以上に加熱溶解後、該組成物に剪断力を加えながら該多糖類のゲル転移温度以下に冷却する事によって得られる粒子状多糖類を含む、鼻腔又は口腔用製剤を提供した。
【選択図】 図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鼻腔又は口腔へ投与される製剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
これまでに種々の薬物が開発され、医療現場で広く用いられているが、これらの多くは経口剤又は注射剤として使用されているのが現状である。薬物が消化管内で不安定である、消化管膜透過性が低い、初回通過効果を受ける等の理由により経口吸収性が悪い場合、薬物が消化管組織傷害性がある場合、あるいは薬効において速効性が必要な場合等は、経口剤ではなく注射剤が使用されるが、注射剤による投与は患者に与える苦痛が大きく、また自己投与が出来ないことも患者には大きな負担であり、特に投与が長期間に及ぶ場合は問題である。
【0003】
この様な状況下、薬物を簡便に投与する非注射型の投与方法の一つとして鼻腔投与が着目されている。鼻腔投与は、自己投与が可能であること、薬物が全身循環血液中に直接入るため肝臓での代謝(初回通過効果)を受け難いこと等の利点があり、また、鼻腔投与した薬物の吸収は一般的に速いため薬効において速効性も期待できる。しかしながら、鼻腔用製剤は薬効の速効性は得られるものの、鼻腔粘膜は粘液の流れが豊富であるため鼻腔用製剤の鼻腔内での滞留性が悪く、その結果薬効の持続性が得られないため、鼻腔用製剤を多回投与する必要性があり、患者にとって負担になるといった欠点があった。
【0004】
上記欠点である鼻腔用製剤の鼻腔内での滞留性を改善する手段として、特開平2−264714号を代表とする公報には、水溶液を手動加圧により噴霧するスプレー剤において、通常一般に増粘剤として広く用いられている水溶性高分子化合物、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー等を使用して、鼻腔用製剤に粘着性を付与して鼻腔投与時の液ダレを防止し、鼻腔内での滞留性の向上を図る方法について開示されている。しかしながら、この様な通常の増粘剤を用いた場合、鼻腔内粘着性の良好な増粘剤の配合量では粘度が高すぎるために噴霧容器から内容物が噴出してこなくなったり、噴霧できたとしても鼻腔深部にまで到達できる様な霧状の分散性の良好な鼻腔用製剤とすることができないといった欠点を有しており、また、鼻腔用製剤投与時の液ダレは解消されるものの鼻腔投与後の滞留性、ひいては薬効の持続性に関しては全く持って不十分であった。
【0005】
他の粘稠性の劣る水溶液の改良方法として、特開平2−191540号公報にはゲル化多糖類を用いた液体組成物に関する記載があり、ゲル化多糖類として寒天、カッパ・カラギナン、イオタ・カラギナン、ジェランガムを用いたモイスチャーローション、デオドラント用芳香剤、スキンクーラント(肌清涼剤)等の皮膚適用組成物について開示されている。しかしながら、本公報は実質的には主にスプレッド、特に低カロリースプレッドの様な食品に関するものであり、鼻腔用製剤、特に鼻腔投与後の滞留性に関しては全く言及されていない。
【0006】
かかる背景の中、特許第3095488号公報(登録2000年)には、寒天から成る噴霧用ゲル基剤およびそれを用いた噴霧用点鼻剤に関する発明が記載されている。本公報には、寒天と水を混合し、加熱溶解した後、冷却固化して得られた寒天のゼリーをホモミキサー等で崩して得られるゲル基剤が、比較的低い粘度においても良好な展着性が得られ、噴霧状態も霧状となり、更にこのゲル基剤に活性成分を配合した点鼻剤は、鼻腔粘膜への展着性に優れ、薬物を該粘膜に安定して放出することができるとの記載がある。しかしながら、本公報における実施例には該組成物の展着性試験として、ヒト前腕部に該組成物を噴霧した際の液が流れ始めるまでの時間を測定することによる評価しか記載しておらず、また、その展着性の指標となる時間は60秒程度といった短時間であり、鼻腔内投与時の液ダレは解消できるかもしれないが、鼻腔投与後の数時間のオーダーにおよぶ鼻腔用製剤の滞留性、ひいては薬効の持続性についての検討については実質的に一切言及されていない。また、本公報における寒天ゼリーを崩して得られるゲル基剤の粒度分布は一般的に不均一であり、数百μmの大粒子も少なからず含まれる。この様な大粒子が少なからず含まれた粒度分布が不均一な鼻腔用製剤を鼻腔内投与した場合、鼻腔内での違和感や刺激性があり、噴霧状態が一定とならないため薬物投与量が一定とならず、また、鼻腔内での薬物分布が一定でないことから治療効果にバラツキがあるという欠点を有している。
【0007】
【特許文献1】特開平2−264714号公報
【特許文献2】特開平2−191540号公報
【特許文献3】特許第3095488号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
以上の様に、鼻腔用製剤において、鼻腔投与時の液ダレや鼻腔内での違和感や刺激性が無く、分散性が良好で鼻腔深部にまで到達できる様な霧状にすることができ、薬物投与量や薬物分布のバラツキが少なく、鼻腔投与後の製剤の滞留性が良く、ひいては薬効の持続性を有し、かつ、治療効果のバラツキを抑制できる局所滞留性の鼻腔用製剤については、未だかつて誰も検討したことが無いというのが現状であった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、鼻腔や口腔に投与した場合に液ダレすることがほとんど又は全くなく、違和感や刺激性がほとんどなく、分散性が良好で、投与した場合の投与量に局所的なバラツキが少なく、鼻腔や口腔での滞留性が良い、鼻腔又は口腔用製剤を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、多糖類と水系媒体からなる組成物を該多糖類のゲル転移温度以上に加熱溶解後、該組成物に剪断力を加えながら該多糖類のゲル転移温度以下に冷却する事によって粒子状多糖類が得られ、この粒子状多糖類を含む製剤は、鼻腔や口腔に投与した場合に液ダレすることがほとんど又は全くなく、違和感や刺激性がほとんどなく、分散性が良好で、投与した場合の投与量に局所的なバラツキが少なく、鼻腔や口腔での滞留性が良いことを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、多糖類と水系媒体からなる組成物を該多糖類のゲル転移温度以上に加熱溶解後、該組成物に剪断力を加えながら該多糖類のゲル転移温度以下に冷却する事によって得られる粒子状多糖類を含む、鼻腔又は口腔用製剤を提供する。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられる多糖類とは、広義には二糖、三糖、四糖等のオリゴ糖を含めて、加水分解によって二分子以上の単糖を生じる全ての炭水化物であるものを言い、天然に産生するものあるいは天然に産生する多糖類を加工したもの、人工的に合成されたもの等が挙げられる。好ましくは、植物、特に海草に由来する多糖類であり、この様な植物から得られる多糖類としては、例えば、「糖化学の基礎」(阿武喜美子、瀬野信子著;講談社、1984)に記載されている様な一般的な多糖類のいずれの形状のものでも良く、複数の多糖類が併用されても構わない。具体例としては、寒天、アガロース、アガロペクチン、デンプン、アミロース、アミロペクチン、イソリケナン、ラミナラン、リケナン、グルカン、イヌリン、レバン、フルクタン、ガラクタン、マンナン、キシラン、アラビナン、ペントザン、アルギン酸、ペクチン酸、プロツベリン酸、キチン、コロミン酸、ポルフィラン、フコイダン、アスコフィラン、カラギナン、ペクチン、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンドガム、タラガム、アラビアガム、ジェランガム等が挙げられ、なかでも海草から得られる多糖類、寒天、アガロース、アガロペクチン、ラミナラン、フルクタン、ガラクタン、ペントザン、アルギン酸、キチン、ポルフィラン、フコイダン、アスコフィラン、カラギナン等が好ましく、更に好ましくは、寒天、アガロース、アガロペクチンである。
【0013】
寒天(agar)とは、テングサやオリゴノリ等の各種の紅藻の細胞壁マトリックスに含まれる多糖であり、熱水で抽出して得られる。寒天は、既に食品等に用いられ、日本薬局方に掲載されていることからも安全性が高く、食品等に広く利用されている。また、寒天は均一な物質ではなく、硫酸基を含まないアガロース(agarose)と硫酸基等を含むアガロペクチン(agaropectin)とに大きく分けられる。アガロースの割合は紅藻の種類によって異なり、テングサ寒天ではアガロースが約70%を占める。
【0014】
アガロースとは、化学式1の様に、D−ガラクトースと3,6−アンヒドロ−L−ガラクトース残基がβ−(1→4)結合とα−(1→3)結合で交互に反復結合した直鎖構造を持つ多糖であり、アガロペクチンはアガロースの基本骨格に、硫酸基(式2)、メトキシル基(式3)、ピルビン酸残基(式4)およびグルクロン酸(式5)を、種々の割合で含む酸性多糖の混合物である。
【0015】
【化1】
【0016】
また、寒天としてはどの様な製法によるものでも良いが、安定供給という観点から工業的製法による寒天を用いることが好ましい。寒天の重量平均分子量としては5千〜120万のものが好ましく、より好ましくは3万〜80万、更に好ましくは5〜50万のものである。
【0017】
本発明において好ましく用いられる寒天を例示すると、伊那食品株式会社製UP−6、UP−16、UP−37、M−7、M−9、AX−30、AX−100、AX−200、BX−30、BX−100、BX−200、PS−5、PS−6、PS−7、PS−8等が挙げられ、かかる寒天は単独で用いても良いし、二種以上の寒天を混合して用いても良い。
【0018】
本発明の多糖類含有組成物は、粒子状多糖類と薬学的に許容される基剤からなる粉末形態、あるいは、粒子状多糖類と水等の媒体との混合物や多糖類、水等の媒体および該媒体以外の薬学的に許容される基剤との混合物等からなる液状形態を意味している。前記基剤としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機物質が挙げられ、例えば賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤、吸収促進剤等が挙げられる。
【0019】
粒子状多糖類のゲルの形状は特に限定されないが、球状、楕球状もしくは不定形の形状を挙げることができる。鼻腔用製剤としては、鼻腔投与時に違和感を与えないことから球状であることが好ましい。また、粒子径が数百μmと大きい粒子が存在した場合、鼻腔用製剤として鼻腔に投与すると鼻腔内での違和感や刺激性があり、噴霧状態が一定とならないため薬物投与量が一定とならず、また、鼻腔内での薬物分布が一定でないことから治療効果にバラツキがあり好ましくない。したがって、本発明の粒子状多糖類は、粒子径が150μmを超える粒子を実質的に含まないことが好ましく、さらには粒子径が50μm、さらには30μmを超える粒子を実質的に含まないことが好ましい。ここで、「実質的に含まない」とは、鼻腔に投与した場合の違和感や刺激性をもたらしたり、投与量の均一性に悪影響を与えたりする程度には含まないという意味であり、好ましくは全粒子状多糖類の粒子数の5%以下、さらに好ましくは2%以下、最も好ましくは0%である。この好ましい粒子径条件を満足すれば、平均粒子径は特に重要ではないが、良好な分散性及び投与量の均一性の観点から、3μmないし50μm、さらには5μmないし40μm程度が好ましい。
【0020】
本発明の製剤中の粒子状多糖類の含有量は、0.1〜50重量%が好ましく、さらに好ましくは0.2〜30重量%である。該多糖類の含有量の下限は好ましくは0.2重量%であり、より好ましくは0.3重量%であり、更に好ましくは0.5重量%である。一方、該多糖類の含有量の上限は、該製剤の取扱い性に支障がない限り特に限定されないが、50重量%であることが好ましく、より好ましくは30重量%、更に好ましくは5重量%、さらに好ましくは1.5重量%である。多糖類として寒天を用い、該製剤を液状形態とする場合、使用する寒天により異なるものの、あまり濃度が高すぎるとゲル化し、B型粘度計による20℃、60rpmの条件下での粘度が700mPa・sを越える可能性があるので、好ましくは5重量%以下である。
【0021】
本発明の製剤は、前記粒子状多糖類が、水系媒体中に含まれた液状の形態であるものが、分散性及び投与量の均一性の観点から好ましい。ここで、「水系媒体」とは、水を主成分とする媒体であり、水のみから成っていてもよいし、水溶性化合物を含有するものであってもよい。かかる水溶性化合物としては、水に溶解して安定な組成物を与えるものであれば特に限定はなく、これを例示するとメタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のアルコール類、好ましくはエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコールや、各種の界面活性剤、乳化剤、分散剤、等張化剤(後述)を挙げることができる。また、上記低分子化合物以外にもポリエチレングリコールやポリビニルアルコール等の水溶性高分子化合物も用いることができる。かかる水溶性化合物は単独で用いても良いし、二種以上を用いることができる。これらの水溶性化合物のうち、アルコール、好ましくは多価アルコールを配合することにより、鼻腔等への投与時に必要な等張化剤としての効果や、薬効成分に対する溶解剤もしくは溶解補助剤としての効果が得られ、また、水溶性高分子化合物を配合することにより、該製剤のより一層の鼻腔内滞留効果が得られる。
【0022】
本発明の製剤は、液状である場合、B型粘度計(ロータNo. 2)で20℃、60rpmの条件下で測定した粘度は、700mPa・s以下、好ましくは500mPa・s以下、更に好ましくは150mPa・s以下、最も好ましくは100mPa・s以下である。粘度の下限は特に限定されないが、実用性を考慮すると1mPa・s程度である。なお、軟膏等として用いる場合は700mPa・sよりも大きくても一応使用は可能であるが、衛生性に劣るため好ましいものではない。また、製剤が液状の場合、ゲル状の粒子状多糖類の全部又は一部、好ましくは全部が媒体中に分散されていることが好ましい。
【0023】
通常の寒天等の多糖類を含有する組成物は、ゲル性状を利用するために用いられてきたことからも明らかな様に0.1重量%以上として利用され、水系媒体中で加熱後、室温まで冷却するとゲル化し、非常に高い粘度が発現する。特に、0.1重量%以上では殆どの場合ゲル化し、0.3重量%以上では完全にゲル化し、700mPa・s以下のものを得ることは不可能である。本発明の製剤を液状形態とする場合、前述の様な特異な特性を有しており、例えば後述する様な方法によって得ることができる。
【0024】
本発明の製剤が、水系媒体を含む液状の形態である場合、等張化剤を配合することができる。等張化剤とは、一般に等張溶液に含まれる溶質のことである。等張溶液とは浸透圧の異なる二種類以上の溶液がある場合、一方の溶液に対して浸透圧が同じになる様に等張化剤を加えたものである。本発明の粒子状多糖類媒体中に分散されている組成物を単独で、または複数の組成物と組み合わせて用いる場合に等張化剤を用いることができる。等張化剤の添加量は任意の浸透圧に調整するためであり特に限定されるものではなく、かかる等張化剤としては、例えばグリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、硼酸、硼砂等を挙げることができる。
【0025】
次に、本発明の粒子状多糖類の製造方法について説明する。
【0026】
まず所定量の多糖類と水系媒体及び必要により他の成分を混合し、得られた混合物を加熱して多糖類を溶解した水系媒体組成物を調製する。所定量の多糖類としては好ましくは、0.1〜30重量%であり、所定量の多糖類の下限は好ましくは0.2重量%であり、より好ましくは0.3重量%であり、更に好ましくは0.5重量%である。一方、所定量の多糖類の上限は、得られる粒子状多糖類の取り扱い性に支障がない限り特に限定されないが、30重量%であることが好ましく、より好ましくは10重量%、更に好ましくは5重量%、最も好ましくは1.5重量%である。加熱手段としては従来公知の方法(例えば、オイルバス、温水浴、オートクレーブ等)が採用でき、加熱はゲル転移温度以上、好ましくはゲル転移温度+20℃以上の温度で行う。また、混合物を沸騰させる必要がある場合もある。そして好ましくは多糖類を溶解した水系媒体組成物が透明・均一な状態とし、ついで剪断力を与えつつ冷却することにより粒子状多糖類含有水系媒体組成物が得られる。
【0027】
剪断力を加える方法としては、振動、攪拌、圧縮、粉砕等を挙げることができ、特に限定されるものではないが、液体に剪断力を加えることになるので攪拌が最も好ましい。具体的には、マグネチックスターラー、メカニカルスターラー、ミキサー、シェーカー、ローター、ホモジナイザーといった攪拌用機器を用いても、人力で攪拌しても良い。剪断力を加える条件は、目的とする粒子径や組成物の粘度、冷却速度等に応じて適宜選択できるが、撹拌の場合、通常、100rpm〜5000rpm程度、さらに好ましくは500rpm〜3000rpm程度の撹拌を5分間〜600分間、さらに好ましくは10分間〜120分間程度行うことが好ましい。
【0028】
冷却手段としては、空冷、水冷、氷冷、溶媒冷、風冷等が挙げられ、従来公知の手段が採用でき、用いる多糖類の性状に応じて、あるいは得ようとする粒子状多糖類含有水系媒体組成物の性状に応じて適宜選択されて良いが、通常は空冷、水冷、氷冷が行われる。水冷、氷冷等で急激に冷ます場合、粒子状多糖類含有水系媒体組成物のゲル化が生じない様に剪断力を大きくする必要がある。冷却温度は多糖類のゲル転移温度以下に冷却すれば原理的には充分であるが、実用的にはゲル転移温度−20℃以下、あるいは本発明の製剤はその使用温度が通常室温環境下で行われることが多いので20℃程度にまで冷却する。なお、粒子状多糖類含有水系媒体組成物の温度が目的温度に達した後も、該組成物のゲル化が生じない様に10分以上剪断力を加え続けることが好ましい。
【0029】
また、剪断力を加える方法として攪拌を用いる場合、上記多糖類を溶解した水系媒体組成物の粘度は温度の低下に伴って増加するが、この粘度に抵抗して攪拌する必要があり、攪拌手段としては強力な手段を用いることが好ましい。具体的には攪拌のレイノルズ数が室温でも100以上となる様に調節しながら攪拌することが好ましい。
【0030】
また、攪拌手段として、マグネチックスターラーやメカニカルスターラー等の比較的剪断力の小さい攪拌方法を用いた場合、剪断力(剪断速度)が大きくなる程粘度の低い組成物が得られる(Jornal of Biological Macromolecules,26 (1999),p255−261,Fig 8)が、ホモジナイザー(例えば、特殊機化製 T.K.HOMO MIXER)等の剪断力(剪断速度)の大きな応力の印加手段を用い、更に高い剪断力を加えた場合にその製造物の粘度がより高くなる剪断力の領域に属する剪断力を用いて剪断することが好ましい。かかる方法を採用することによって、ゲル粒子の数を減らし、あるいは、その粒子径を小さくすることができ、鼻腔又は口腔用製剤として用いた場合、投与時の違和感や刺激性を抑制でき、薬効成分と共に用いた場合にはその効果をより効果的に発揮せしめることができる。
【0031】
なお、上記の方法によって粒子状多糖類含有水系媒体組成物を一度製造し、該組成物に対して再び冷却しながらホモジナイザー等により剪断力を与えることにより、なお一層粒子径が小さな粒子状多糖類を得ることができる。すなわち、多糖類と水系媒体からなる組成物を該多糖類のゲル転移温度以上に加熱溶解後、該組成物に剪断力を加えながら該多糖類のゲル転移温度以下に冷却する事によって粒子状多糖類を得る第1工程と、第1工程後の組成物に、第1工程において用いられた剪断力よりも大きな剪断力を加えながら該組成物をさらに冷却する第2工程とを含む方法により、さらに粒子径が小さな粒子状多糖類を得ることができ、好ましい。
【0032】
上記の方法で粒子状多糖類含有水系媒体組成物が調製できるが、その原理は明らかにはなっていないが多糖類が寒天場合は以下の様に考えられる。寒天のゲル化は寒天分子の鎖同士が分子鎖間で水素結合を形成し、水分子を取り込みながららせん構造を取り、より高次で強力な構造を取るためと考えられる。高温加熱して均一状態になった時、ランダムコイル状の分子構造を取っていた寒天分子が、冷却するにつれてらせん構造を取ろうとするが、これに強い剪断力を加えることでらせん構造を取るのを妨げ、粒子状寒天含有水系媒体組成物を得ることができると考えられる。
【0033】
上記の方法で粒子状多糖類含有水系媒体組成物をそのまま、あるいはろ過、真空乾燥、凍結乾燥といった手段を用いることにより本発明の粒子状多糖類とすることができる。
【0034】
本発明の製剤を液状とする場合、上記のように、B型粘度計(ローターNo.2)を用い20℃、60rpmの条件下で測定した粘度が700mPa・s以下である様に調製することが好ましい。かかる粘度の調整は、用いる多糖類の種類、濃度に応じて、応力印加手段、応力印加条件等を組み合わせて行われる。一般的に、粘度を小さくしようとする場合には、多投類の濃度を0.5重量%程度として加熱溶解後、冷却時にホモジナイザーの様な大きな応力印加手段を用いて高い剪断力を加えることにより粒子径の小さな粒子状多糖類を調製し、該多糖類を製剤中に含有させる方法が好ましく用いられる。
【0035】
本発明の製剤は、鼻腔又は口腔の乾燥防止等のためにそのままでも用いることができるが、通常、薬効成分を配合して用いられる。薬効成分としては、実際に臨床使用されているもの、あるいは臨床使用が期待されているもの等幅広く利用でき、また、該製剤は、鼻腔又は口腔粘膜を介しての全身性の疾患にも有効に作用させ得るし、鼻腔又は口腔粘膜局所病変の治療にも有効に作用させることができる。
【0036】
前記薬効成分としては、例えばグルテチミド、抱水クロラール、ニトラゼパム、アモバルビタール、フェノバルビタール等の催眠鎮静剤;アスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、フルルビプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、ジクロフェナクナトリウム、塩酸テアラミド、ピロキシカム、フルフェナム酸、メフェナム酸、ペンタゾシン等の解熱鎮痛消炎剤;アミノ安息香酸メチル、リドカイン等の局所麻酔剤;硝酸ナファゾリン、硝酸テトリゾリン、塩酸オキシメタゾン、塩酸トラマゾリン等の局所血管収縮剤;マレイン酸クロルフェニラミン、クロモグリク酸ナトリウム、オキサトミド、塩酸アゼラスチン、フマル酸ケトチフェン、トラキサノクスナトリウム、アンレキサノクス等の抗アレルギー剤;塩化ベンゼトニウム等の殺菌剤;塩酸ドパミン、ニヒデカレノン等の強心剤;塩酸プロプラノール、ピンドロール、フェニトイン、ジソピラミド等の不整脈用剤;硝酸イソソルビド、ニフェジピン、塩酸ジルチアゼム、ジピリダモール等の冠血管拡張剤;トリアムシノロンアセトニド、デキナメタゾン、リン酸ベタメタゾンナトリウム、酢酸プレドニゾロン、フルオシノニド、プロピオン酸ペクロメタゾン、フルニソリド等の副腎皮質ホルモン;トラネキサム酸等の抗プラスミン剤;クロトリマゾール、硝酸ミコナゾール、ケトコナゾール等の抗真菌剤;アモキシリン、アンピシリン、セファレキシン、セファロチンナトリウム、セフチゾキシムナトリウム、ニリスロマイシン、塩酸オキシテトラサイクリン等の抗生物質;インスリン、ナケカルシトニン、ニワトリカルシトニン、ニルカトニン等のカルシトニン類、ウロキナーゼ、TPA、インターフェロン等の生理活性ペプチド;インフルエンザワクチン、豚ポルデテラ感染症予防ワクチン、B型肝炎ワクチン等のワクチン類等が挙げられる。
【0037】
本発明の製剤中に含有される薬効成分の量(単回の投与量)は有効治療量であり、各々の薬物、疾患の種類や程度、患者の年齢や体重等に応じて選択することができる。なお、本発明の医薬組成物は、注射投与等の他の投与方法より効率的に薬物を脳へ送達することができるので、通常各々の薬物が注射投与に用いられている量の1/100倍量〜10倍量、より好ましくは1/10倍量〜同量である。
【0038】
上記薬効成分は、製剤中に溶解状態、懸濁状態、および/または粒子担体に担持させた状態として存在させることができる。ここでいう粒子担体としては、(1)エチルセルロース、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合物、ゼラチン、ポリアクリルアミド等の天然および合成高分子の内部に上記薬効成分を封入したマイクロカプセルやナノカプセル、(2)アルブミン、デンプン、ゼラチン、ボリ乳酸からなる小球体(ミクロスフェアやナノスフェア)、(3)エマルションやリピッドミクロスフェア、(4)脂質二分子膜からなる小胞体(リポソーム)、(5)イオン交換樹脂等のイオン交換能を有する物質、(6)コレステロール・プルランに代表されるステロール結合多糖類、(7)MPCポリマー(登録商標)やポリエチレングリコール−ポリアミノ酸ブロック共重合体、プルロニック(登録商標)等により形成される高分子ミセル、等のマイクロキャリア、ナノキャリアが挙げられ、これら粒子担体の基剤としては薬学的に許容されるものであれば特に限定はなく一般的に公知のものが利用できる。また、粒子担体の製造は通常の製剤化技術に従って調製することが可能である。上記薬効成分を粒子担体として本発明の製剤中に含有させることにより、該製剤から薬効成分のより一層の持続的な放出が達成できる。
【0039】
本発明の製剤は、薬効成分と本発明の粒子状多糖類を含有成分として、従来公知の手段に従って製剤化し、薬学的に許容される基剤を適宜、適量混合することができる。該基剤としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機物質が挙げられ、例えば賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤、吸収促進剤等が挙げられる。また、必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、吸着剤、湿潤剤等の添加剤を用いることができる。
【0040】
賦形剤としては、例えば乳糖、白糖、D−マンニトール、デンプン、コーンスターチ、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸等が挙げられる。滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカ等が挙げられる。結合剤としては、例えば結晶セルロース、白糖、D−マンニトール、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、デンプン、ショ糖、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等が挙げられる。崩壊剤としては、例えばデンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、L−ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。溶剤としては、例えば注射用水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油等が挙げられる。溶解補助剤としては、例えばポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。懸濁化剤としては、例えばステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン等の界面活性剤、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の親水性高分子等が挙げられる。等張化剤としては、例えばブドウ糖、D−ソルビトール、塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトール等が挙げられる。緩衝剤としては、例えばリン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩等の緩衝液等が挙げられる。無痛化剤としては、例えばベンジルアルコール等が挙げられる。吸収促進剤としては、例えばポリ−L−アルギニン等が挙げられる。防腐剤としては、例えばパラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸等が挙げられる。抗酸化剤としては、例えば亜硫酸塩、アスコルビン酸等が挙げられる。
【0041】
本発明の製剤を粉末として製剤化する場合には、薬効成分を予め水系媒体に配合させておくことにより薬物含有粒子状多糖類とし、これを鼻腔又は口腔用製剤とすることにより製造することができる。このように薬効成分が、前記多糖類から成る前記粒子内に含有されていると、下記実施例において具体的に記載されるように、薬効成分の滞留性が高くなるので好ましい。他の方法としては、本発明の粒子状多糖類に薬効成分を均一に分散、付着結合させることにより製造することができ、具体的には薬効成分と粒子状多糖類を混合することにより行われる。この混合は、例えば乳鉢による混合の様に、圧力や剪断力を加えながら行うこともできる。
【0042】
本発明の製剤を粉末として製剤化する場合、薬物含有粒子状多糖類、あるいは薬効成分および粒子状多糖類と共に配合できる基剤は、二価以上の多価金属化合物、具体的にはアルミニウム化合物、マグネシウム化合物、ケイ素化合物、鉄化合物、亜鉛化合物等であり、製剤学的には、薬学的に許容される基剤として使用されている粉末状の化合物である。ここで、二価以上の多価金属化合物であるカルシウム化合物としては、例えば炭酸カルシウム、アパタイト、ヒドロキシアパタイト、エデト酸カルシウム二ナトリウム、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、ステアリン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、乳酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、パルミチン酸カルシウム、D−パントテン酸カルシウム、アルギン酸カルシウム、オレイン酸カルシウム、無水リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、硫酸カルシウム、酢酸カルシウム、糖酸カルシウム、パラアミノサリチル酸カルシウム、生体内石灰化合物等が挙げられる。アルミニウム化合物としては、例えばクロルヒドロキシアルミニウム、乾燥水酸化アルミニウムゲル、軽質酸化アルミニウム、合成ケイ酸アルミニウム、コロイド性含水ケイ酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムマグネシウム、水酸化アルミニウムゲル、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、ジヒドロキシアルミニウムアセテート、ステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸アルミニウム、天然ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。マグネシウム化合物としては、例えば炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、L−アスパラギン酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、ケイ酸ナトリウム・マグネシウム、合成ケイ酸ナトリウム・マグネシウム等が挙げられる。ケイ素化合物としては、例えば含水二酸化ケイ素、二酸化ケイ素、軽質無水ケイ素、合成ヒドロタルサイト、ケイソウ土等が、鉄化合物としては、例えば硫酸鉄が、亜鉛化合物としては、例えば塩化亜鉛、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛等が挙げられる。これらの多価金属化合物は、単独で使用しても良く、また適宜複数を組み合わせても良い。以上の多価金属化合物の中でも、例えばカルシウム化合物等、特に炭酸カルシウム等が好ましく用いられる。本発明の製剤を粉末として製剤化する場合、薬物含有粒子状多糖類、あるいは薬効成分および粒子状多糖類、および共に配合できる基剤は、粒子径が150μmを超える粒子を実質的に含まないことが好ましく、さらには粒子径が50μm、さらには30μmを超える粒子を実質的に含まないことが好ましい。ここで、「実質的に含まない」とは、鼻腔に投与した場合の違和感や刺激性をもたらしたり、投与量の均一性に悪影響を与えたりする程度には含まないという意味であり、好ましくは製剤中の全粒子数の5%以下、さらに好ましくは2%以下、最も好ましくは0%である。
【0043】
また、本発明の製剤を液体として製剤化する場合には、薬効成分を予め水系媒体に配合させておくことにより薬物を含んだ粒子状多糖類含有水系媒体組成物として、あるいは薬効成分を粒子状多糖類含有水系媒体組成物に溶解、懸濁または乳化して一定量とし、または薬効成分を水、生理食塩水等に溶解、懸濁または乳化して一定量とし、これに該粒子状多糖類含有水系媒体組成物を混合することにより製造することができる。また、該製剤には必要により溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等を加えることができる。ただし、溶解後の溶液のpHが3以下となる場合、鼻腔投与時の鼻粘膜刺激性を極力抑制するために適当な緩衝剤(例えば、リン酸塩、クエン酸塩等)を添加してpH3〜pH8、より好ましくはpH4〜pH7の範囲に調整することが好ましい。場合によっては、薬効成分が一部析出して懸濁液となる場合もあるが、適当な懸濁化剤(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース等)を添加して使用することが可能である。また、これにアルギン酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース等を加えることにより粘性を持たせることもできる。なお、本発明の製剤を液体として製剤化する場合には、保存時の雑菌の繁殖を防止するため、薬学上許容される防腐剤、抗菌剤等を添加することができる。
【0044】
本発明の製剤を粉末として製剤化する場合には、上記の方法に従って得られた粉末を既存のカプセル(例えばゼラチン2号カプセル、ヒドロキシプロピルセルロース2号カプセル等)に一回投与分の所定量を充填し、既存の鼻腔内粉末噴霧器、例えばパブライザー(帝人)あるいはインサフレーター(ファイソンズ)あるいはジェットライザー(ユニシアジェックス)等を用いて、鼻腔内又は口腔内に投与することが可能である。この場合の粉末製剤のヒトへの投与量としては、1〜300mg/回、好ましくは10〜150mg/回、より好ましくは30〜100mg/回である。
【0045】
本発明の製剤を液体として製剤化する場合には、上記の方法に従って得られた液体を噴霧器、任意の注入器で投与することが可能である。この場合の液体製剤の粘度としては、37℃で1000mPa・s以下が好ましく、より好ましくは500mPa・s以下であり、更に好ましくは250Pa・s以下であり、最も好ましくは100mPa・s以下である。この場合の該製剤のヒトの鼻腔内又は口腔内への投与量としては、1〜2000μL/回、好ましくは10〜1000μL/回、より好ましくは50〜500μL/回である。
【0046】
本発明の製剤は、哺乳動物の鼻腔又は口腔の粘膜に施すことができ、また哺乳動物の副鼻腔、咽喉、食道、気管、気管支、肺、肺胞等の粘膜にも施すことができる。すなわち、該製剤は微小液滴や粉末の形態で噴霧投与され、鼻腔又は口腔を介して副鼻腔、咽喉、食道、肺、肺胞、等へも投与され得る。
【0047】
【実施例】
以下、実施例および試験例により本発明を具体的に説明する。なお、配合量の数値は、特に記載しない限りは「重量%」を意味する。また、製造および評価に使用した試薬および機器を以下に列挙する。
【0048】
試薬
FITC−デキストラン
[フルオレッセインイソチアシアネート−デキストラン:分子量≒70000]
(FD−70;SIGMA製)
HPC
[ヒドロキシプロピルセルロース] (HPC−H;日本曹達製)
機器
オイルバス (OB−200A;AS ONE製)
マグネチックスターラー (IS・3G;池田理化製)
ホモジナイザー (ポリトロン;KINEMATICA製)
粒度分布計 (マイクロトラックFRA;日機装製)
粘度計 (RE−80L;東機産業製)
大型遠心器 (05PR−22;日立製)
小型遠心器 (Centrifuge 5417R;eppendorf製)
ウォーターバススターラー (EBS−80;井内盛栄堂製)
タッチミキサー (MT−31;ヤマト科学製)
万能マイクロアナライザー (Fusionα;Packard製)
【0049】
【0050】
密閉容器に寒天を秤量し、そこに蒸留水を加え、攪拌子を投入し、密閉した。この密閉容器をオイルバスに100℃で30分間浸漬することによって加熱し、寒天を溶解した。その後、オイルバスから引き上げ、マグネチックスターラーを用いて1500rpmで攪拌しながら20℃まで冷却し、上記組成の粒子状寒天水溶液を得た。
【0051】
粒度分布計にて、得られた粒子状寒天の粒度分布を評価した結果、粒子径は150μm以下であり、平均粒子径が約34μmのシャープな粒度分布であった(図1)。
【0052】
【0053】
密閉容器に寒天を秤量し、そこに蒸留水を加え、攪拌子を投入し、密閉した。この密閉容器をオイルバスに100℃で30分間浸漬することによって加熱し、寒天を溶解した。その後、オイルバスから引き上げ、マグネチックスターラーを用いて1500rpmで攪拌しながら20℃まで冷却し、粒子状寒天水溶液を得た。上記粒子状寒天水溶液を冷却しながら、ホモジナイザーを用いて20000rpmで2時間攪拌することにより、上記組成の粒子状寒天水溶液を得た。
【0054】
粒度分布計にて、得られた粒子状寒天の粒度分布を評価した結果、粒子径は30μm以下であり、平均粒子径が約8μmのシャープな粒度分布であった(図1)。
【0055】
【0056】
密閉容器に寒天を秤量し、そこに蒸留水を加え、密閉した。この密閉容器をオイルバスに100℃で30分間浸漬することによって加熱し、寒天を溶解した。その後、オイルバスから引き上げ、静置したまま20℃まで冷却し、寒天ゼリーを得た。上記寒天ゼリーを冷却しながら、ホモジナイザーを用いて20000rpmで2時間攪拌することにより崩して、特許第3095488号に記載と同等の上記組成のゲル基剤を得た。
【0057】
粘度計にて、得られたゲル基剤の粘度(20℃)を測定した結果、182mPa・sであり、特許第3095488号の特許請求の範囲請求項1に記載されている粘度範囲であることを確認した。粒度分布計にて、得られたゲル基剤の粒度分布を評価した結果、粒子径150μm以上の粒子が多数存在し、双山のブロードな粒度分布であった(図1)。
【0058】
【0059】
密閉容器にFITC−デキストランを秤量し、そこに蒸留水を加え、FITC−デキストランを溶解した。ついで寒天を加え、攪拌子を投入し密閉した。この密閉容器をオイルバスに100℃で30分間浸漬することによって加熱し、寒天を溶解した。その後、オイルバスから引き上げ、マグネチックスターラーを用いて1500rpmで攪拌しながら20℃まで冷却し、上記組成のFITC−デキストラン含有粒子状寒天水溶液を得た。
【0060】
粘度計にて、得られたFITC−デキストラン含有粒子状寒天水溶液の粘度(37℃)を測定した結果、44mPa・sであった。粒度分布計にて、得られたFITC−デキストラン含有粒子状寒天の粒度分布を評価した結果、粒子径は150μm以下であり、平均粒子径が約33μmのシャープな粒度分布であった(図2)。
【0061】
【0062】
密閉容器にFITC−デキストランを秤量し、そこに蒸留水を加え、FITC−デキストランを溶解した。ついで寒天を加え、攪拌子を投入し密閉した。この密閉容器をオイルバスに100℃で30分間浸漬することによって加熱し、寒天を溶解した。その後、オイルバスから引き上げ、マグネチックスターラーを用いて1500rpmで攪拌しながら20℃まで冷却し、FITC−デキストラン含有粒子状寒天水溶液を得た。上記FITC−デキストラン含有粒子状寒天水溶液を冷却しながら、ホモジナイザーを用いて20000rpmで2時間攪拌することにより、上記組成のFITC−デキストラン含有粒子状寒天水溶液を得た。
【0063】
粘度計にて、得られたFITC−デキストラン含有粒子状寒天水溶液の粘度(37℃)を測定した結果、30mPa・sであった。粒度分布計にて、得られたFITC−デキストラン含有粒子状寒天の粒度分布を評価した結果、粒子径は20μm以下であり、平均粒子径が約6μmのシャープな粒度分布であった(図2)。
【0064】
【0065】
密閉容器にFITC−デキストランを秤量し、そこに蒸留水を加え、FITC−デキストランを溶解した。ついで寒天を加え、攪拌子を投入し密閉した。この密閉容器をオイルバスに100℃で30分間浸漬することによって加熱し、寒天を溶解した。その後、オイルバスから引き上げ、マグネチックスターラーを用いて1500rpmで攪拌しながら20℃まで冷却し、FITC−デキストラン含有粒子状寒天水溶液を得た。上記FITC−デキストラン含有粒子状寒天水溶液を遠心管に移し、大型遠心器を用いて3000rpmで15分間遠心することにより、FITC−デキストラン含有粒子状寒天を沈降(FITC−デキストランは沈降しない)させ、上清のFITC−デキストラン水溶液を除去し、再びマグネチックスターラーを用いて1500rpmで攪拌することにより、上記組成のFITC−デキストラン含有粒子状寒天水溶液を得た。
【0066】
粘度計にて、得られたFITC−デキストラン含有粒子状寒天水溶液の粘度(37℃)を測定した結果、720mPa・sであった。粒度分布計にて、得られたFITC−デキストラン含有粒子状寒天の粒度分布を評価した結果、粒子径は150μm以下であり、平均粒子径が約31μmのシャープな粒度分布であった(図2)。
【0067】
【0068】
密閉容器にFITC−デキストランを秤量し、そこに蒸留水を加え、FITC−デキストランを溶解し、上記組成のFITC−デキストラン水溶液を得た。
【0069】
粘度計にて、得られたFITC−デキストラン水溶液の粘度(37℃)を測定した結果、0.8mPa・sであった。
【0070】
【0071】
密閉容器にFITC−デキストランを秤量し、そこに蒸留水を加え、FITC−デキストランを溶解した。ついでHPCを加え、攪拌子を投入し密閉した。この密閉容器をウォーターバススターラーに浸漬し、40℃で1時間攪拌することによってHPCを溶解した。その後、20℃まで冷却し、上記組成のFITC−デキストラン含有HPC水溶液を得た。
【0072】
粘度計にて、得られたFITC−デキストラン含有HPC水溶液の粘度(37℃)を測定した結果、47mPa・sであり、実施例3とほぼ同等の粘度であることを確認した。
【0073】
【0074】
密閉容器にFITC−デキストランを秤量し、そこに蒸留水を加え、FITC−デキストランを溶解した。ついでHPCを加え、攪拌子を投入し密閉した。この密閉容器をウォーターバススターラーに浸漬し、40℃で1時間攪拌することによってHPCを溶解した。その後、20℃まで冷却し、上記組成のFITC−デキストラン含有HPC水溶液を得た。
【0075】
粘度計にて、得られたFITC−デキストラン含有HPC水溶液の粘度(37℃)を測定した結果、752mPa・sであり、実施例5とほぼ同等の粘度であることを確認した。
【0076】
試験例
(原理)
FITC−デキストラン含有粒子状寒天水溶液を鼻腔内に投与した場合、粒子状寒天の外部のFITC−デキストランは、鼻腔内の粘液の流れと共に鼻腔組織から流失する。しかしながら、粒子状寒天は鼻腔粘膜滞留性があるので、粒子状寒天の内部のFITC−デキストランは粒子状寒天と共に鼻腔内に滞留する。また、FITC−デキストラン(FD−70)は分子量が70000と大きいため、鼻腔粘膜細胞に吸収されないので、鼻腔内に滞留しているFITC−デキストランは粒子状寒天の内部のFITC−デキストランとなる。従って、FITC−デキストラン含有粒子状寒天水溶液を鼻腔に投与し、一定時間経過後に鼻腔組織からFITC−デキストランを抽出し、その抽出液から蛍光強度の残存を確認できれば粒子状寒天の残存が確認される。
【0077】
(方法)
Wistarラット(雄、7週齢)にイソフルランによって吸入麻酔を施し、ピペット(マイクロマンM25、GILSON製)を使って、上記ラットの一方の鼻腔に各々の試料(実施例3、4、5、比較例2、3、4)20μLづつ(計40μL/ラット)を投与し、投与1時間後のラットを安楽死させ、直ちに鼻腔組織を摘出した。投与2時間後のラットについても同様の処置を行った。摘出した鼻腔組織を鼻中隔で二つに分割し、密閉容器に入れ、そこに蒸留水10mLを添加した。この密閉容器を100℃のオイルバスに30分間浸漬することによりFITC−デキストランを抽出し、その後抽出液をタッチミキサーで攪拌し、冷暗所で12時間放置した。12時間放置後、抽出液の一部を採取し、小型遠心器を用いて15000rpmで15分間遠心し、上清を孔径0.45μmのフィルター(エキクロディスク タイプ3、日本ポール製)でろ過し、ろ過した溶液を96穴マイクロプレートに移し、万能マイクロアナライザーで蛍光強度を測定した。
【0078】
(結果)
結果を図3に示した。比較例2、3、4では、鼻腔投与後1時間のFITC−デキストラン残存率は3%以下であり、鼻腔投与後2時間のFITC−デキストラン残存率は1%以下であり、水溶液(比較例2)では鼻腔内滞留性は確認できず、また、増粘剤添加水溶液(比較例3、4)においても鼻腔内滞留性は確認できなかった。一方、粒子状寒天水溶液(実施例3、4、5)では、鼻腔投与後1時間のFITC−デキストラン残存率は7%以上であり、鼻腔投与後2時間のFITC−デキストラン残存率は4%以上であり、実施例3、4、5では優れた鼻腔内滞留性を有していることが理解される。
【0079】
【発明の効果】
本発明の製剤は、鼻腔や口腔等の粘膜上で優れた滞留性を有し、投与時の液ダレや粘膜上での違和感や刺激性が無く、分散性が良好で、鼻腔に投与した場合には鼻腔深部にまで到達できる様な霧状にすることができ、投与量に局所的なバラツキが少ない。また、鼻腔や口腔等の粘膜上での滞留性が良いので、製剤に薬効成分を配合した場合には、薬効の持続性を有し、かつ、治療効果のバラツキを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1、2および比較例1の粒度分布を示す図である。横軸は粒径(μm)、縦軸(左側)は各粒径における頻度(%)、横軸(右側)は頻度の累積(%)。
【図2】実施例3、4及び5の粒度分布を示す図である。横軸は粒径(μm)、縦軸(左側)は各粒径における頻度(%)、横軸(右側)は頻度の累積(%)。
【図3】実施例3、4及び5並びに比較例2、3及び4のラット鼻腔粘膜滞留性試験結果を示す図である。横軸は投与後の経過時間。縦軸はラット鼻腔組織抽出液中のFITC−デキストランの蛍光強度を、各試料の投与時のFITC−デキストランの蛍光強度を100とし、FITC−デキストラン残存率(%)として表示。
【発明の属する技術分野】
本発明は、鼻腔又は口腔へ投与される製剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
これまでに種々の薬物が開発され、医療現場で広く用いられているが、これらの多くは経口剤又は注射剤として使用されているのが現状である。薬物が消化管内で不安定である、消化管膜透過性が低い、初回通過効果を受ける等の理由により経口吸収性が悪い場合、薬物が消化管組織傷害性がある場合、あるいは薬効において速効性が必要な場合等は、経口剤ではなく注射剤が使用されるが、注射剤による投与は患者に与える苦痛が大きく、また自己投与が出来ないことも患者には大きな負担であり、特に投与が長期間に及ぶ場合は問題である。
【0003】
この様な状況下、薬物を簡便に投与する非注射型の投与方法の一つとして鼻腔投与が着目されている。鼻腔投与は、自己投与が可能であること、薬物が全身循環血液中に直接入るため肝臓での代謝(初回通過効果)を受け難いこと等の利点があり、また、鼻腔投与した薬物の吸収は一般的に速いため薬効において速効性も期待できる。しかしながら、鼻腔用製剤は薬効の速効性は得られるものの、鼻腔粘膜は粘液の流れが豊富であるため鼻腔用製剤の鼻腔内での滞留性が悪く、その結果薬効の持続性が得られないため、鼻腔用製剤を多回投与する必要性があり、患者にとって負担になるといった欠点があった。
【0004】
上記欠点である鼻腔用製剤の鼻腔内での滞留性を改善する手段として、特開平2−264714号を代表とする公報には、水溶液を手動加圧により噴霧するスプレー剤において、通常一般に増粘剤として広く用いられている水溶性高分子化合物、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー等を使用して、鼻腔用製剤に粘着性を付与して鼻腔投与時の液ダレを防止し、鼻腔内での滞留性の向上を図る方法について開示されている。しかしながら、この様な通常の増粘剤を用いた場合、鼻腔内粘着性の良好な増粘剤の配合量では粘度が高すぎるために噴霧容器から内容物が噴出してこなくなったり、噴霧できたとしても鼻腔深部にまで到達できる様な霧状の分散性の良好な鼻腔用製剤とすることができないといった欠点を有しており、また、鼻腔用製剤投与時の液ダレは解消されるものの鼻腔投与後の滞留性、ひいては薬効の持続性に関しては全く持って不十分であった。
【0005】
他の粘稠性の劣る水溶液の改良方法として、特開平2−191540号公報にはゲル化多糖類を用いた液体組成物に関する記載があり、ゲル化多糖類として寒天、カッパ・カラギナン、イオタ・カラギナン、ジェランガムを用いたモイスチャーローション、デオドラント用芳香剤、スキンクーラント(肌清涼剤)等の皮膚適用組成物について開示されている。しかしながら、本公報は実質的には主にスプレッド、特に低カロリースプレッドの様な食品に関するものであり、鼻腔用製剤、特に鼻腔投与後の滞留性に関しては全く言及されていない。
【0006】
かかる背景の中、特許第3095488号公報(登録2000年)には、寒天から成る噴霧用ゲル基剤およびそれを用いた噴霧用点鼻剤に関する発明が記載されている。本公報には、寒天と水を混合し、加熱溶解した後、冷却固化して得られた寒天のゼリーをホモミキサー等で崩して得られるゲル基剤が、比較的低い粘度においても良好な展着性が得られ、噴霧状態も霧状となり、更にこのゲル基剤に活性成分を配合した点鼻剤は、鼻腔粘膜への展着性に優れ、薬物を該粘膜に安定して放出することができるとの記載がある。しかしながら、本公報における実施例には該組成物の展着性試験として、ヒト前腕部に該組成物を噴霧した際の液が流れ始めるまでの時間を測定することによる評価しか記載しておらず、また、その展着性の指標となる時間は60秒程度といった短時間であり、鼻腔内投与時の液ダレは解消できるかもしれないが、鼻腔投与後の数時間のオーダーにおよぶ鼻腔用製剤の滞留性、ひいては薬効の持続性についての検討については実質的に一切言及されていない。また、本公報における寒天ゼリーを崩して得られるゲル基剤の粒度分布は一般的に不均一であり、数百μmの大粒子も少なからず含まれる。この様な大粒子が少なからず含まれた粒度分布が不均一な鼻腔用製剤を鼻腔内投与した場合、鼻腔内での違和感や刺激性があり、噴霧状態が一定とならないため薬物投与量が一定とならず、また、鼻腔内での薬物分布が一定でないことから治療効果にバラツキがあるという欠点を有している。
【0007】
【特許文献1】特開平2−264714号公報
【特許文献2】特開平2−191540号公報
【特許文献3】特許第3095488号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
以上の様に、鼻腔用製剤において、鼻腔投与時の液ダレや鼻腔内での違和感や刺激性が無く、分散性が良好で鼻腔深部にまで到達できる様な霧状にすることができ、薬物投与量や薬物分布のバラツキが少なく、鼻腔投与後の製剤の滞留性が良く、ひいては薬効の持続性を有し、かつ、治療効果のバラツキを抑制できる局所滞留性の鼻腔用製剤については、未だかつて誰も検討したことが無いというのが現状であった。
【0009】
したがって、本発明の目的は、鼻腔や口腔に投与した場合に液ダレすることがほとんど又は全くなく、違和感や刺激性がほとんどなく、分散性が良好で、投与した場合の投与量に局所的なバラツキが少なく、鼻腔や口腔での滞留性が良い、鼻腔又は口腔用製剤を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、多糖類と水系媒体からなる組成物を該多糖類のゲル転移温度以上に加熱溶解後、該組成物に剪断力を加えながら該多糖類のゲル転移温度以下に冷却する事によって粒子状多糖類が得られ、この粒子状多糖類を含む製剤は、鼻腔や口腔に投与した場合に液ダレすることがほとんど又は全くなく、違和感や刺激性がほとんどなく、分散性が良好で、投与した場合の投与量に局所的なバラツキが少なく、鼻腔や口腔での滞留性が良いことを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、多糖類と水系媒体からなる組成物を該多糖類のゲル転移温度以上に加熱溶解後、該組成物に剪断力を加えながら該多糖類のゲル転移温度以下に冷却する事によって得られる粒子状多糖類を含む、鼻腔又は口腔用製剤を提供する。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられる多糖類とは、広義には二糖、三糖、四糖等のオリゴ糖を含めて、加水分解によって二分子以上の単糖を生じる全ての炭水化物であるものを言い、天然に産生するものあるいは天然に産生する多糖類を加工したもの、人工的に合成されたもの等が挙げられる。好ましくは、植物、特に海草に由来する多糖類であり、この様な植物から得られる多糖類としては、例えば、「糖化学の基礎」(阿武喜美子、瀬野信子著;講談社、1984)に記載されている様な一般的な多糖類のいずれの形状のものでも良く、複数の多糖類が併用されても構わない。具体例としては、寒天、アガロース、アガロペクチン、デンプン、アミロース、アミロペクチン、イソリケナン、ラミナラン、リケナン、グルカン、イヌリン、レバン、フルクタン、ガラクタン、マンナン、キシラン、アラビナン、ペントザン、アルギン酸、ペクチン酸、プロツベリン酸、キチン、コロミン酸、ポルフィラン、フコイダン、アスコフィラン、カラギナン、ペクチン、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンドガム、タラガム、アラビアガム、ジェランガム等が挙げられ、なかでも海草から得られる多糖類、寒天、アガロース、アガロペクチン、ラミナラン、フルクタン、ガラクタン、ペントザン、アルギン酸、キチン、ポルフィラン、フコイダン、アスコフィラン、カラギナン等が好ましく、更に好ましくは、寒天、アガロース、アガロペクチンである。
【0013】
寒天(agar)とは、テングサやオリゴノリ等の各種の紅藻の細胞壁マトリックスに含まれる多糖であり、熱水で抽出して得られる。寒天は、既に食品等に用いられ、日本薬局方に掲載されていることからも安全性が高く、食品等に広く利用されている。また、寒天は均一な物質ではなく、硫酸基を含まないアガロース(agarose)と硫酸基等を含むアガロペクチン(agaropectin)とに大きく分けられる。アガロースの割合は紅藻の種類によって異なり、テングサ寒天ではアガロースが約70%を占める。
【0014】
アガロースとは、化学式1の様に、D−ガラクトースと3,6−アンヒドロ−L−ガラクトース残基がβ−(1→4)結合とα−(1→3)結合で交互に反復結合した直鎖構造を持つ多糖であり、アガロペクチンはアガロースの基本骨格に、硫酸基(式2)、メトキシル基(式3)、ピルビン酸残基(式4)およびグルクロン酸(式5)を、種々の割合で含む酸性多糖の混合物である。
【0015】
【化1】
【0016】
また、寒天としてはどの様な製法によるものでも良いが、安定供給という観点から工業的製法による寒天を用いることが好ましい。寒天の重量平均分子量としては5千〜120万のものが好ましく、より好ましくは3万〜80万、更に好ましくは5〜50万のものである。
【0017】
本発明において好ましく用いられる寒天を例示すると、伊那食品株式会社製UP−6、UP−16、UP−37、M−7、M−9、AX−30、AX−100、AX−200、BX−30、BX−100、BX−200、PS−5、PS−6、PS−7、PS−8等が挙げられ、かかる寒天は単独で用いても良いし、二種以上の寒天を混合して用いても良い。
【0018】
本発明の多糖類含有組成物は、粒子状多糖類と薬学的に許容される基剤からなる粉末形態、あるいは、粒子状多糖類と水等の媒体との混合物や多糖類、水等の媒体および該媒体以外の薬学的に許容される基剤との混合物等からなる液状形態を意味している。前記基剤としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機物質が挙げられ、例えば賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤、吸収促進剤等が挙げられる。
【0019】
粒子状多糖類のゲルの形状は特に限定されないが、球状、楕球状もしくは不定形の形状を挙げることができる。鼻腔用製剤としては、鼻腔投与時に違和感を与えないことから球状であることが好ましい。また、粒子径が数百μmと大きい粒子が存在した場合、鼻腔用製剤として鼻腔に投与すると鼻腔内での違和感や刺激性があり、噴霧状態が一定とならないため薬物投与量が一定とならず、また、鼻腔内での薬物分布が一定でないことから治療効果にバラツキがあり好ましくない。したがって、本発明の粒子状多糖類は、粒子径が150μmを超える粒子を実質的に含まないことが好ましく、さらには粒子径が50μm、さらには30μmを超える粒子を実質的に含まないことが好ましい。ここで、「実質的に含まない」とは、鼻腔に投与した場合の違和感や刺激性をもたらしたり、投与量の均一性に悪影響を与えたりする程度には含まないという意味であり、好ましくは全粒子状多糖類の粒子数の5%以下、さらに好ましくは2%以下、最も好ましくは0%である。この好ましい粒子径条件を満足すれば、平均粒子径は特に重要ではないが、良好な分散性及び投与量の均一性の観点から、3μmないし50μm、さらには5μmないし40μm程度が好ましい。
【0020】
本発明の製剤中の粒子状多糖類の含有量は、0.1〜50重量%が好ましく、さらに好ましくは0.2〜30重量%である。該多糖類の含有量の下限は好ましくは0.2重量%であり、より好ましくは0.3重量%であり、更に好ましくは0.5重量%である。一方、該多糖類の含有量の上限は、該製剤の取扱い性に支障がない限り特に限定されないが、50重量%であることが好ましく、より好ましくは30重量%、更に好ましくは5重量%、さらに好ましくは1.5重量%である。多糖類として寒天を用い、該製剤を液状形態とする場合、使用する寒天により異なるものの、あまり濃度が高すぎるとゲル化し、B型粘度計による20℃、60rpmの条件下での粘度が700mPa・sを越える可能性があるので、好ましくは5重量%以下である。
【0021】
本発明の製剤は、前記粒子状多糖類が、水系媒体中に含まれた液状の形態であるものが、分散性及び投与量の均一性の観点から好ましい。ここで、「水系媒体」とは、水を主成分とする媒体であり、水のみから成っていてもよいし、水溶性化合物を含有するものであってもよい。かかる水溶性化合物としては、水に溶解して安定な組成物を与えるものであれば特に限定はなく、これを例示するとメタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のアルコール類、好ましくはエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコールや、各種の界面活性剤、乳化剤、分散剤、等張化剤(後述)を挙げることができる。また、上記低分子化合物以外にもポリエチレングリコールやポリビニルアルコール等の水溶性高分子化合物も用いることができる。かかる水溶性化合物は単独で用いても良いし、二種以上を用いることができる。これらの水溶性化合物のうち、アルコール、好ましくは多価アルコールを配合することにより、鼻腔等への投与時に必要な等張化剤としての効果や、薬効成分に対する溶解剤もしくは溶解補助剤としての効果が得られ、また、水溶性高分子化合物を配合することにより、該製剤のより一層の鼻腔内滞留効果が得られる。
【0022】
本発明の製剤は、液状である場合、B型粘度計(ロータNo. 2)で20℃、60rpmの条件下で測定した粘度は、700mPa・s以下、好ましくは500mPa・s以下、更に好ましくは150mPa・s以下、最も好ましくは100mPa・s以下である。粘度の下限は特に限定されないが、実用性を考慮すると1mPa・s程度である。なお、軟膏等として用いる場合は700mPa・sよりも大きくても一応使用は可能であるが、衛生性に劣るため好ましいものではない。また、製剤が液状の場合、ゲル状の粒子状多糖類の全部又は一部、好ましくは全部が媒体中に分散されていることが好ましい。
【0023】
通常の寒天等の多糖類を含有する組成物は、ゲル性状を利用するために用いられてきたことからも明らかな様に0.1重量%以上として利用され、水系媒体中で加熱後、室温まで冷却するとゲル化し、非常に高い粘度が発現する。特に、0.1重量%以上では殆どの場合ゲル化し、0.3重量%以上では完全にゲル化し、700mPa・s以下のものを得ることは不可能である。本発明の製剤を液状形態とする場合、前述の様な特異な特性を有しており、例えば後述する様な方法によって得ることができる。
【0024】
本発明の製剤が、水系媒体を含む液状の形態である場合、等張化剤を配合することができる。等張化剤とは、一般に等張溶液に含まれる溶質のことである。等張溶液とは浸透圧の異なる二種類以上の溶液がある場合、一方の溶液に対して浸透圧が同じになる様に等張化剤を加えたものである。本発明の粒子状多糖類媒体中に分散されている組成物を単独で、または複数の組成物と組み合わせて用いる場合に等張化剤を用いることができる。等張化剤の添加量は任意の浸透圧に調整するためであり特に限定されるものではなく、かかる等張化剤としては、例えばグリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、硼酸、硼砂等を挙げることができる。
【0025】
次に、本発明の粒子状多糖類の製造方法について説明する。
【0026】
まず所定量の多糖類と水系媒体及び必要により他の成分を混合し、得られた混合物を加熱して多糖類を溶解した水系媒体組成物を調製する。所定量の多糖類としては好ましくは、0.1〜30重量%であり、所定量の多糖類の下限は好ましくは0.2重量%であり、より好ましくは0.3重量%であり、更に好ましくは0.5重量%である。一方、所定量の多糖類の上限は、得られる粒子状多糖類の取り扱い性に支障がない限り特に限定されないが、30重量%であることが好ましく、より好ましくは10重量%、更に好ましくは5重量%、最も好ましくは1.5重量%である。加熱手段としては従来公知の方法(例えば、オイルバス、温水浴、オートクレーブ等)が採用でき、加熱はゲル転移温度以上、好ましくはゲル転移温度+20℃以上の温度で行う。また、混合物を沸騰させる必要がある場合もある。そして好ましくは多糖類を溶解した水系媒体組成物が透明・均一な状態とし、ついで剪断力を与えつつ冷却することにより粒子状多糖類含有水系媒体組成物が得られる。
【0027】
剪断力を加える方法としては、振動、攪拌、圧縮、粉砕等を挙げることができ、特に限定されるものではないが、液体に剪断力を加えることになるので攪拌が最も好ましい。具体的には、マグネチックスターラー、メカニカルスターラー、ミキサー、シェーカー、ローター、ホモジナイザーといった攪拌用機器を用いても、人力で攪拌しても良い。剪断力を加える条件は、目的とする粒子径や組成物の粘度、冷却速度等に応じて適宜選択できるが、撹拌の場合、通常、100rpm〜5000rpm程度、さらに好ましくは500rpm〜3000rpm程度の撹拌を5分間〜600分間、さらに好ましくは10分間〜120分間程度行うことが好ましい。
【0028】
冷却手段としては、空冷、水冷、氷冷、溶媒冷、風冷等が挙げられ、従来公知の手段が採用でき、用いる多糖類の性状に応じて、あるいは得ようとする粒子状多糖類含有水系媒体組成物の性状に応じて適宜選択されて良いが、通常は空冷、水冷、氷冷が行われる。水冷、氷冷等で急激に冷ます場合、粒子状多糖類含有水系媒体組成物のゲル化が生じない様に剪断力を大きくする必要がある。冷却温度は多糖類のゲル転移温度以下に冷却すれば原理的には充分であるが、実用的にはゲル転移温度−20℃以下、あるいは本発明の製剤はその使用温度が通常室温環境下で行われることが多いので20℃程度にまで冷却する。なお、粒子状多糖類含有水系媒体組成物の温度が目的温度に達した後も、該組成物のゲル化が生じない様に10分以上剪断力を加え続けることが好ましい。
【0029】
また、剪断力を加える方法として攪拌を用いる場合、上記多糖類を溶解した水系媒体組成物の粘度は温度の低下に伴って増加するが、この粘度に抵抗して攪拌する必要があり、攪拌手段としては強力な手段を用いることが好ましい。具体的には攪拌のレイノルズ数が室温でも100以上となる様に調節しながら攪拌することが好ましい。
【0030】
また、攪拌手段として、マグネチックスターラーやメカニカルスターラー等の比較的剪断力の小さい攪拌方法を用いた場合、剪断力(剪断速度)が大きくなる程粘度の低い組成物が得られる(Jornal of Biological Macromolecules,26 (1999),p255−261,Fig 8)が、ホモジナイザー(例えば、特殊機化製 T.K.HOMO MIXER)等の剪断力(剪断速度)の大きな応力の印加手段を用い、更に高い剪断力を加えた場合にその製造物の粘度がより高くなる剪断力の領域に属する剪断力を用いて剪断することが好ましい。かかる方法を採用することによって、ゲル粒子の数を減らし、あるいは、その粒子径を小さくすることができ、鼻腔又は口腔用製剤として用いた場合、投与時の違和感や刺激性を抑制でき、薬効成分と共に用いた場合にはその効果をより効果的に発揮せしめることができる。
【0031】
なお、上記の方法によって粒子状多糖類含有水系媒体組成物を一度製造し、該組成物に対して再び冷却しながらホモジナイザー等により剪断力を与えることにより、なお一層粒子径が小さな粒子状多糖類を得ることができる。すなわち、多糖類と水系媒体からなる組成物を該多糖類のゲル転移温度以上に加熱溶解後、該組成物に剪断力を加えながら該多糖類のゲル転移温度以下に冷却する事によって粒子状多糖類を得る第1工程と、第1工程後の組成物に、第1工程において用いられた剪断力よりも大きな剪断力を加えながら該組成物をさらに冷却する第2工程とを含む方法により、さらに粒子径が小さな粒子状多糖類を得ることができ、好ましい。
【0032】
上記の方法で粒子状多糖類含有水系媒体組成物が調製できるが、その原理は明らかにはなっていないが多糖類が寒天場合は以下の様に考えられる。寒天のゲル化は寒天分子の鎖同士が分子鎖間で水素結合を形成し、水分子を取り込みながららせん構造を取り、より高次で強力な構造を取るためと考えられる。高温加熱して均一状態になった時、ランダムコイル状の分子構造を取っていた寒天分子が、冷却するにつれてらせん構造を取ろうとするが、これに強い剪断力を加えることでらせん構造を取るのを妨げ、粒子状寒天含有水系媒体組成物を得ることができると考えられる。
【0033】
上記の方法で粒子状多糖類含有水系媒体組成物をそのまま、あるいはろ過、真空乾燥、凍結乾燥といった手段を用いることにより本発明の粒子状多糖類とすることができる。
【0034】
本発明の製剤を液状とする場合、上記のように、B型粘度計(ローターNo.2)を用い20℃、60rpmの条件下で測定した粘度が700mPa・s以下である様に調製することが好ましい。かかる粘度の調整は、用いる多糖類の種類、濃度に応じて、応力印加手段、応力印加条件等を組み合わせて行われる。一般的に、粘度を小さくしようとする場合には、多投類の濃度を0.5重量%程度として加熱溶解後、冷却時にホモジナイザーの様な大きな応力印加手段を用いて高い剪断力を加えることにより粒子径の小さな粒子状多糖類を調製し、該多糖類を製剤中に含有させる方法が好ましく用いられる。
【0035】
本発明の製剤は、鼻腔又は口腔の乾燥防止等のためにそのままでも用いることができるが、通常、薬効成分を配合して用いられる。薬効成分としては、実際に臨床使用されているもの、あるいは臨床使用が期待されているもの等幅広く利用でき、また、該製剤は、鼻腔又は口腔粘膜を介しての全身性の疾患にも有効に作用させ得るし、鼻腔又は口腔粘膜局所病変の治療にも有効に作用させることができる。
【0036】
前記薬効成分としては、例えばグルテチミド、抱水クロラール、ニトラゼパム、アモバルビタール、フェノバルビタール等の催眠鎮静剤;アスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、フルルビプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、ジクロフェナクナトリウム、塩酸テアラミド、ピロキシカム、フルフェナム酸、メフェナム酸、ペンタゾシン等の解熱鎮痛消炎剤;アミノ安息香酸メチル、リドカイン等の局所麻酔剤;硝酸ナファゾリン、硝酸テトリゾリン、塩酸オキシメタゾン、塩酸トラマゾリン等の局所血管収縮剤;マレイン酸クロルフェニラミン、クロモグリク酸ナトリウム、オキサトミド、塩酸アゼラスチン、フマル酸ケトチフェン、トラキサノクスナトリウム、アンレキサノクス等の抗アレルギー剤;塩化ベンゼトニウム等の殺菌剤;塩酸ドパミン、ニヒデカレノン等の強心剤;塩酸プロプラノール、ピンドロール、フェニトイン、ジソピラミド等の不整脈用剤;硝酸イソソルビド、ニフェジピン、塩酸ジルチアゼム、ジピリダモール等の冠血管拡張剤;トリアムシノロンアセトニド、デキナメタゾン、リン酸ベタメタゾンナトリウム、酢酸プレドニゾロン、フルオシノニド、プロピオン酸ペクロメタゾン、フルニソリド等の副腎皮質ホルモン;トラネキサム酸等の抗プラスミン剤;クロトリマゾール、硝酸ミコナゾール、ケトコナゾール等の抗真菌剤;アモキシリン、アンピシリン、セファレキシン、セファロチンナトリウム、セフチゾキシムナトリウム、ニリスロマイシン、塩酸オキシテトラサイクリン等の抗生物質;インスリン、ナケカルシトニン、ニワトリカルシトニン、ニルカトニン等のカルシトニン類、ウロキナーゼ、TPA、インターフェロン等の生理活性ペプチド;インフルエンザワクチン、豚ポルデテラ感染症予防ワクチン、B型肝炎ワクチン等のワクチン類等が挙げられる。
【0037】
本発明の製剤中に含有される薬効成分の量(単回の投与量)は有効治療量であり、各々の薬物、疾患の種類や程度、患者の年齢や体重等に応じて選択することができる。なお、本発明の医薬組成物は、注射投与等の他の投与方法より効率的に薬物を脳へ送達することができるので、通常各々の薬物が注射投与に用いられている量の1/100倍量〜10倍量、より好ましくは1/10倍量〜同量である。
【0038】
上記薬効成分は、製剤中に溶解状態、懸濁状態、および/または粒子担体に担持させた状態として存在させることができる。ここでいう粒子担体としては、(1)エチルセルロース、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸−ポリグリコール酸共重合物、ゼラチン、ポリアクリルアミド等の天然および合成高分子の内部に上記薬効成分を封入したマイクロカプセルやナノカプセル、(2)アルブミン、デンプン、ゼラチン、ボリ乳酸からなる小球体(ミクロスフェアやナノスフェア)、(3)エマルションやリピッドミクロスフェア、(4)脂質二分子膜からなる小胞体(リポソーム)、(5)イオン交換樹脂等のイオン交換能を有する物質、(6)コレステロール・プルランに代表されるステロール結合多糖類、(7)MPCポリマー(登録商標)やポリエチレングリコール−ポリアミノ酸ブロック共重合体、プルロニック(登録商標)等により形成される高分子ミセル、等のマイクロキャリア、ナノキャリアが挙げられ、これら粒子担体の基剤としては薬学的に許容されるものであれば特に限定はなく一般的に公知のものが利用できる。また、粒子担体の製造は通常の製剤化技術に従って調製することが可能である。上記薬効成分を粒子担体として本発明の製剤中に含有させることにより、該製剤から薬効成分のより一層の持続的な放出が達成できる。
【0039】
本発明の製剤は、薬効成分と本発明の粒子状多糖類を含有成分として、従来公知の手段に従って製剤化し、薬学的に許容される基剤を適宜、適量混合することができる。該基剤としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機物質が挙げられ、例えば賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤、吸収促進剤等が挙げられる。また、必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、吸着剤、湿潤剤等の添加剤を用いることができる。
【0040】
賦形剤としては、例えば乳糖、白糖、D−マンニトール、デンプン、コーンスターチ、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸等が挙げられる。滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカ等が挙げられる。結合剤としては、例えば結晶セルロース、白糖、D−マンニトール、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、デンプン、ショ糖、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等が挙げられる。崩壊剤としては、例えばデンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、L−ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。溶剤としては、例えば注射用水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油等が挙げられる。溶解補助剤としては、例えばポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。懸濁化剤としては、例えばステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン等の界面活性剤、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の親水性高分子等が挙げられる。等張化剤としては、例えばブドウ糖、D−ソルビトール、塩化ナトリウム、グリセリン、D−マンニトール等が挙げられる。緩衝剤としては、例えばリン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩等の緩衝液等が挙げられる。無痛化剤としては、例えばベンジルアルコール等が挙げられる。吸収促進剤としては、例えばポリ−L−アルギニン等が挙げられる。防腐剤としては、例えばパラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸等が挙げられる。抗酸化剤としては、例えば亜硫酸塩、アスコルビン酸等が挙げられる。
【0041】
本発明の製剤を粉末として製剤化する場合には、薬効成分を予め水系媒体に配合させておくことにより薬物含有粒子状多糖類とし、これを鼻腔又は口腔用製剤とすることにより製造することができる。このように薬効成分が、前記多糖類から成る前記粒子内に含有されていると、下記実施例において具体的に記載されるように、薬効成分の滞留性が高くなるので好ましい。他の方法としては、本発明の粒子状多糖類に薬効成分を均一に分散、付着結合させることにより製造することができ、具体的には薬効成分と粒子状多糖類を混合することにより行われる。この混合は、例えば乳鉢による混合の様に、圧力や剪断力を加えながら行うこともできる。
【0042】
本発明の製剤を粉末として製剤化する場合、薬物含有粒子状多糖類、あるいは薬効成分および粒子状多糖類と共に配合できる基剤は、二価以上の多価金属化合物、具体的にはアルミニウム化合物、マグネシウム化合物、ケイ素化合物、鉄化合物、亜鉛化合物等であり、製剤学的には、薬学的に許容される基剤として使用されている粉末状の化合物である。ここで、二価以上の多価金属化合物であるカルシウム化合物としては、例えば炭酸カルシウム、アパタイト、ヒドロキシアパタイト、エデト酸カルシウム二ナトリウム、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、ステアリン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、乳酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、パルミチン酸カルシウム、D−パントテン酸カルシウム、アルギン酸カルシウム、オレイン酸カルシウム、無水リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、硫酸カルシウム、酢酸カルシウム、糖酸カルシウム、パラアミノサリチル酸カルシウム、生体内石灰化合物等が挙げられる。アルミニウム化合物としては、例えばクロルヒドロキシアルミニウム、乾燥水酸化アルミニウムゲル、軽質酸化アルミニウム、合成ケイ酸アルミニウム、コロイド性含水ケイ酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムマグネシウム、水酸化アルミニウムゲル、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、ジヒドロキシアルミニウムアセテート、ステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸アルミニウム、天然ケイ酸アルミニウム等が挙げられる。マグネシウム化合物としては、例えば炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、L−アスパラギン酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、ケイ酸ナトリウム・マグネシウム、合成ケイ酸ナトリウム・マグネシウム等が挙げられる。ケイ素化合物としては、例えば含水二酸化ケイ素、二酸化ケイ素、軽質無水ケイ素、合成ヒドロタルサイト、ケイソウ土等が、鉄化合物としては、例えば硫酸鉄が、亜鉛化合物としては、例えば塩化亜鉛、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛等が挙げられる。これらの多価金属化合物は、単独で使用しても良く、また適宜複数を組み合わせても良い。以上の多価金属化合物の中でも、例えばカルシウム化合物等、特に炭酸カルシウム等が好ましく用いられる。本発明の製剤を粉末として製剤化する場合、薬物含有粒子状多糖類、あるいは薬効成分および粒子状多糖類、および共に配合できる基剤は、粒子径が150μmを超える粒子を実質的に含まないことが好ましく、さらには粒子径が50μm、さらには30μmを超える粒子を実質的に含まないことが好ましい。ここで、「実質的に含まない」とは、鼻腔に投与した場合の違和感や刺激性をもたらしたり、投与量の均一性に悪影響を与えたりする程度には含まないという意味であり、好ましくは製剤中の全粒子数の5%以下、さらに好ましくは2%以下、最も好ましくは0%である。
【0043】
また、本発明の製剤を液体として製剤化する場合には、薬効成分を予め水系媒体に配合させておくことにより薬物を含んだ粒子状多糖類含有水系媒体組成物として、あるいは薬効成分を粒子状多糖類含有水系媒体組成物に溶解、懸濁または乳化して一定量とし、または薬効成分を水、生理食塩水等に溶解、懸濁または乳化して一定量とし、これに該粒子状多糖類含有水系媒体組成物を混合することにより製造することができる。また、該製剤には必要により溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等を加えることができる。ただし、溶解後の溶液のpHが3以下となる場合、鼻腔投与時の鼻粘膜刺激性を極力抑制するために適当な緩衝剤(例えば、リン酸塩、クエン酸塩等)を添加してpH3〜pH8、より好ましくはpH4〜pH7の範囲に調整することが好ましい。場合によっては、薬効成分が一部析出して懸濁液となる場合もあるが、適当な懸濁化剤(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース等)を添加して使用することが可能である。また、これにアルギン酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース等を加えることにより粘性を持たせることもできる。なお、本発明の製剤を液体として製剤化する場合には、保存時の雑菌の繁殖を防止するため、薬学上許容される防腐剤、抗菌剤等を添加することができる。
【0044】
本発明の製剤を粉末として製剤化する場合には、上記の方法に従って得られた粉末を既存のカプセル(例えばゼラチン2号カプセル、ヒドロキシプロピルセルロース2号カプセル等)に一回投与分の所定量を充填し、既存の鼻腔内粉末噴霧器、例えばパブライザー(帝人)あるいはインサフレーター(ファイソンズ)あるいはジェットライザー(ユニシアジェックス)等を用いて、鼻腔内又は口腔内に投与することが可能である。この場合の粉末製剤のヒトへの投与量としては、1〜300mg/回、好ましくは10〜150mg/回、より好ましくは30〜100mg/回である。
【0045】
本発明の製剤を液体として製剤化する場合には、上記の方法に従って得られた液体を噴霧器、任意の注入器で投与することが可能である。この場合の液体製剤の粘度としては、37℃で1000mPa・s以下が好ましく、より好ましくは500mPa・s以下であり、更に好ましくは250Pa・s以下であり、最も好ましくは100mPa・s以下である。この場合の該製剤のヒトの鼻腔内又は口腔内への投与量としては、1〜2000μL/回、好ましくは10〜1000μL/回、より好ましくは50〜500μL/回である。
【0046】
本発明の製剤は、哺乳動物の鼻腔又は口腔の粘膜に施すことができ、また哺乳動物の副鼻腔、咽喉、食道、気管、気管支、肺、肺胞等の粘膜にも施すことができる。すなわち、該製剤は微小液滴や粉末の形態で噴霧投与され、鼻腔又は口腔を介して副鼻腔、咽喉、食道、肺、肺胞、等へも投与され得る。
【0047】
【実施例】
以下、実施例および試験例により本発明を具体的に説明する。なお、配合量の数値は、特に記載しない限りは「重量%」を意味する。また、製造および評価に使用した試薬および機器を以下に列挙する。
【0048】
試薬
FITC−デキストラン
[フルオレッセインイソチアシアネート−デキストラン:分子量≒70000]
(FD−70;SIGMA製)
HPC
[ヒドロキシプロピルセルロース] (HPC−H;日本曹達製)
機器
オイルバス (OB−200A;AS ONE製)
マグネチックスターラー (IS・3G;池田理化製)
ホモジナイザー (ポリトロン;KINEMATICA製)
粒度分布計 (マイクロトラックFRA;日機装製)
粘度計 (RE−80L;東機産業製)
大型遠心器 (05PR−22;日立製)
小型遠心器 (Centrifuge 5417R;eppendorf製)
ウォーターバススターラー (EBS−80;井内盛栄堂製)
タッチミキサー (MT−31;ヤマト科学製)
万能マイクロアナライザー (Fusionα;Packard製)
【0049】
【0050】
密閉容器に寒天を秤量し、そこに蒸留水を加え、攪拌子を投入し、密閉した。この密閉容器をオイルバスに100℃で30分間浸漬することによって加熱し、寒天を溶解した。その後、オイルバスから引き上げ、マグネチックスターラーを用いて1500rpmで攪拌しながら20℃まで冷却し、上記組成の粒子状寒天水溶液を得た。
【0051】
粒度分布計にて、得られた粒子状寒天の粒度分布を評価した結果、粒子径は150μm以下であり、平均粒子径が約34μmのシャープな粒度分布であった(図1)。
【0052】
【0053】
密閉容器に寒天を秤量し、そこに蒸留水を加え、攪拌子を投入し、密閉した。この密閉容器をオイルバスに100℃で30分間浸漬することによって加熱し、寒天を溶解した。その後、オイルバスから引き上げ、マグネチックスターラーを用いて1500rpmで攪拌しながら20℃まで冷却し、粒子状寒天水溶液を得た。上記粒子状寒天水溶液を冷却しながら、ホモジナイザーを用いて20000rpmで2時間攪拌することにより、上記組成の粒子状寒天水溶液を得た。
【0054】
粒度分布計にて、得られた粒子状寒天の粒度分布を評価した結果、粒子径は30μm以下であり、平均粒子径が約8μmのシャープな粒度分布であった(図1)。
【0055】
【0056】
密閉容器に寒天を秤量し、そこに蒸留水を加え、密閉した。この密閉容器をオイルバスに100℃で30分間浸漬することによって加熱し、寒天を溶解した。その後、オイルバスから引き上げ、静置したまま20℃まで冷却し、寒天ゼリーを得た。上記寒天ゼリーを冷却しながら、ホモジナイザーを用いて20000rpmで2時間攪拌することにより崩して、特許第3095488号に記載と同等の上記組成のゲル基剤を得た。
【0057】
粘度計にて、得られたゲル基剤の粘度(20℃)を測定した結果、182mPa・sであり、特許第3095488号の特許請求の範囲請求項1に記載されている粘度範囲であることを確認した。粒度分布計にて、得られたゲル基剤の粒度分布を評価した結果、粒子径150μm以上の粒子が多数存在し、双山のブロードな粒度分布であった(図1)。
【0058】
【0059】
密閉容器にFITC−デキストランを秤量し、そこに蒸留水を加え、FITC−デキストランを溶解した。ついで寒天を加え、攪拌子を投入し密閉した。この密閉容器をオイルバスに100℃で30分間浸漬することによって加熱し、寒天を溶解した。その後、オイルバスから引き上げ、マグネチックスターラーを用いて1500rpmで攪拌しながら20℃まで冷却し、上記組成のFITC−デキストラン含有粒子状寒天水溶液を得た。
【0060】
粘度計にて、得られたFITC−デキストラン含有粒子状寒天水溶液の粘度(37℃)を測定した結果、44mPa・sであった。粒度分布計にて、得られたFITC−デキストラン含有粒子状寒天の粒度分布を評価した結果、粒子径は150μm以下であり、平均粒子径が約33μmのシャープな粒度分布であった(図2)。
【0061】
【0062】
密閉容器にFITC−デキストランを秤量し、そこに蒸留水を加え、FITC−デキストランを溶解した。ついで寒天を加え、攪拌子を投入し密閉した。この密閉容器をオイルバスに100℃で30分間浸漬することによって加熱し、寒天を溶解した。その後、オイルバスから引き上げ、マグネチックスターラーを用いて1500rpmで攪拌しながら20℃まで冷却し、FITC−デキストラン含有粒子状寒天水溶液を得た。上記FITC−デキストラン含有粒子状寒天水溶液を冷却しながら、ホモジナイザーを用いて20000rpmで2時間攪拌することにより、上記組成のFITC−デキストラン含有粒子状寒天水溶液を得た。
【0063】
粘度計にて、得られたFITC−デキストラン含有粒子状寒天水溶液の粘度(37℃)を測定した結果、30mPa・sであった。粒度分布計にて、得られたFITC−デキストラン含有粒子状寒天の粒度分布を評価した結果、粒子径は20μm以下であり、平均粒子径が約6μmのシャープな粒度分布であった(図2)。
【0064】
【0065】
密閉容器にFITC−デキストランを秤量し、そこに蒸留水を加え、FITC−デキストランを溶解した。ついで寒天を加え、攪拌子を投入し密閉した。この密閉容器をオイルバスに100℃で30分間浸漬することによって加熱し、寒天を溶解した。その後、オイルバスから引き上げ、マグネチックスターラーを用いて1500rpmで攪拌しながら20℃まで冷却し、FITC−デキストラン含有粒子状寒天水溶液を得た。上記FITC−デキストラン含有粒子状寒天水溶液を遠心管に移し、大型遠心器を用いて3000rpmで15分間遠心することにより、FITC−デキストラン含有粒子状寒天を沈降(FITC−デキストランは沈降しない)させ、上清のFITC−デキストラン水溶液を除去し、再びマグネチックスターラーを用いて1500rpmで攪拌することにより、上記組成のFITC−デキストラン含有粒子状寒天水溶液を得た。
【0066】
粘度計にて、得られたFITC−デキストラン含有粒子状寒天水溶液の粘度(37℃)を測定した結果、720mPa・sであった。粒度分布計にて、得られたFITC−デキストラン含有粒子状寒天の粒度分布を評価した結果、粒子径は150μm以下であり、平均粒子径が約31μmのシャープな粒度分布であった(図2)。
【0067】
【0068】
密閉容器にFITC−デキストランを秤量し、そこに蒸留水を加え、FITC−デキストランを溶解し、上記組成のFITC−デキストラン水溶液を得た。
【0069】
粘度計にて、得られたFITC−デキストラン水溶液の粘度(37℃)を測定した結果、0.8mPa・sであった。
【0070】
【0071】
密閉容器にFITC−デキストランを秤量し、そこに蒸留水を加え、FITC−デキストランを溶解した。ついでHPCを加え、攪拌子を投入し密閉した。この密閉容器をウォーターバススターラーに浸漬し、40℃で1時間攪拌することによってHPCを溶解した。その後、20℃まで冷却し、上記組成のFITC−デキストラン含有HPC水溶液を得た。
【0072】
粘度計にて、得られたFITC−デキストラン含有HPC水溶液の粘度(37℃)を測定した結果、47mPa・sであり、実施例3とほぼ同等の粘度であることを確認した。
【0073】
【0074】
密閉容器にFITC−デキストランを秤量し、そこに蒸留水を加え、FITC−デキストランを溶解した。ついでHPCを加え、攪拌子を投入し密閉した。この密閉容器をウォーターバススターラーに浸漬し、40℃で1時間攪拌することによってHPCを溶解した。その後、20℃まで冷却し、上記組成のFITC−デキストラン含有HPC水溶液を得た。
【0075】
粘度計にて、得られたFITC−デキストラン含有HPC水溶液の粘度(37℃)を測定した結果、752mPa・sであり、実施例5とほぼ同等の粘度であることを確認した。
【0076】
試験例
(原理)
FITC−デキストラン含有粒子状寒天水溶液を鼻腔内に投与した場合、粒子状寒天の外部のFITC−デキストランは、鼻腔内の粘液の流れと共に鼻腔組織から流失する。しかしながら、粒子状寒天は鼻腔粘膜滞留性があるので、粒子状寒天の内部のFITC−デキストランは粒子状寒天と共に鼻腔内に滞留する。また、FITC−デキストラン(FD−70)は分子量が70000と大きいため、鼻腔粘膜細胞に吸収されないので、鼻腔内に滞留しているFITC−デキストランは粒子状寒天の内部のFITC−デキストランとなる。従って、FITC−デキストラン含有粒子状寒天水溶液を鼻腔に投与し、一定時間経過後に鼻腔組織からFITC−デキストランを抽出し、その抽出液から蛍光強度の残存を確認できれば粒子状寒天の残存が確認される。
【0077】
(方法)
Wistarラット(雄、7週齢)にイソフルランによって吸入麻酔を施し、ピペット(マイクロマンM25、GILSON製)を使って、上記ラットの一方の鼻腔に各々の試料(実施例3、4、5、比較例2、3、4)20μLづつ(計40μL/ラット)を投与し、投与1時間後のラットを安楽死させ、直ちに鼻腔組織を摘出した。投与2時間後のラットについても同様の処置を行った。摘出した鼻腔組織を鼻中隔で二つに分割し、密閉容器に入れ、そこに蒸留水10mLを添加した。この密閉容器を100℃のオイルバスに30分間浸漬することによりFITC−デキストランを抽出し、その後抽出液をタッチミキサーで攪拌し、冷暗所で12時間放置した。12時間放置後、抽出液の一部を採取し、小型遠心器を用いて15000rpmで15分間遠心し、上清を孔径0.45μmのフィルター(エキクロディスク タイプ3、日本ポール製)でろ過し、ろ過した溶液を96穴マイクロプレートに移し、万能マイクロアナライザーで蛍光強度を測定した。
【0078】
(結果)
結果を図3に示した。比較例2、3、4では、鼻腔投与後1時間のFITC−デキストラン残存率は3%以下であり、鼻腔投与後2時間のFITC−デキストラン残存率は1%以下であり、水溶液(比較例2)では鼻腔内滞留性は確認できず、また、増粘剤添加水溶液(比較例3、4)においても鼻腔内滞留性は確認できなかった。一方、粒子状寒天水溶液(実施例3、4、5)では、鼻腔投与後1時間のFITC−デキストラン残存率は7%以上であり、鼻腔投与後2時間のFITC−デキストラン残存率は4%以上であり、実施例3、4、5では優れた鼻腔内滞留性を有していることが理解される。
【0079】
【発明の効果】
本発明の製剤は、鼻腔や口腔等の粘膜上で優れた滞留性を有し、投与時の液ダレや粘膜上での違和感や刺激性が無く、分散性が良好で、鼻腔に投与した場合には鼻腔深部にまで到達できる様な霧状にすることができ、投与量に局所的なバラツキが少ない。また、鼻腔や口腔等の粘膜上での滞留性が良いので、製剤に薬効成分を配合した場合には、薬効の持続性を有し、かつ、治療効果のバラツキを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1、2および比較例1の粒度分布を示す図である。横軸は粒径(μm)、縦軸(左側)は各粒径における頻度(%)、横軸(右側)は頻度の累積(%)。
【図2】実施例3、4及び5の粒度分布を示す図である。横軸は粒径(μm)、縦軸(左側)は各粒径における頻度(%)、横軸(右側)は頻度の累積(%)。
【図3】実施例3、4及び5並びに比較例2、3及び4のラット鼻腔粘膜滞留性試験結果を示す図である。横軸は投与後の経過時間。縦軸はラット鼻腔組織抽出液中のFITC−デキストランの蛍光強度を、各試料の投与時のFITC−デキストランの蛍光強度を100とし、FITC−デキストラン残存率(%)として表示。
Claims (14)
- 多糖類と水系媒体からなる組成物を該多糖類のゲル転移温度以上に加熱溶解後、該組成物に剪断力を加えながら該多糖類のゲル転移温度以下に冷却する事によって得られる粒子状多糖類を含む、鼻腔又は口腔用製剤。
- 前記粒子状多糖類は、水系媒体中に含まれ、組成物中の該多糖類の含有量が0.1〜50重量%であり、B型粘度計(ローターNo.2)で20℃、60rpmの条件下で測定した粘度が700mPa・s以下である請求項1記載の製剤。
- 前記粘度が500mPa・s以下である請求項2記載の製剤。
- 組成物中の前記多糖類の含有量が0.2〜30重量%である請求項2又は3記載の製剤。
- 前記粒子状多糖類が、前記水系媒体中に分散されている請求項2ないし4のいずれか1項に記載の製剤。
- 粒子径が150μmを超える粒子状多糖類を実質的に含まない請求項1ないし5のいずれか1項に記載の製剤。
- 粒子径が50μmを超える粒子状多糖類を実質的に含まない請求項6記載の製剤。
- 前記粒子状多糖類は、多糖類と水系媒体からなる組成物を該多糖類のゲル転移温度以上に加熱溶解後、該組成物に剪断力を加えながら該多糖類のゲル転移温度以下に冷却する事によって粒子状多糖類を得る第1工程と、第1工程後の組成物に、第1工程において用いられた剪断力よりも大きな剪断力を加えながら該組成物をさらに冷却する第2工程とを含む方法により得られるものである請求項1ないし7のいずれか1項に記載の製剤。
- 前記第2工程の剪断を、ホモジナイザーを用いて行う請求項8記載の製剤。
- 前記粒子状多糖類が、植物から得られる多糖類である請求項1ないし9のいずれか1項に記載の製剤。
- 植物から得られる多糖類が、寒天である請求項10記載の製剤。
- 寒天の重量平均分子量が5千ないし120万である請求項11記載の製剤。
- 薬効成分を含有する請求項1ないし12のいずれか1項に記載の製剤。
- 前記薬効成分が、前記多糖類から成る前記粒子内に含有されている請求項13記載の製剤。
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Cited By (2)
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JP2013064022A (ja) * | 2006-04-21 | 2013-04-11 | Toko Yakuhin Kogyo Kk | スプレー用ゲルタイプ皮膚・粘膜付着型製剤およびそれを用いた投与システム |
CN114748245A (zh) * | 2022-03-25 | 2022-07-15 | 威海世纪博康海藻有限公司 | 棉签及其应用 |
-
2003
- 2003-02-10 JP JP2003031991A patent/JP2004238372A/ja active Pending
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US8771711B2 (en) | 2006-04-21 | 2014-07-08 | Toko Yakuhin Kogyo Kabushiki Kaisha | Sprayable gel-type skin/mucosa-adhesive preparation and administration system using the preparation |
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