JP2004231575A - 薬剤を特定の標的部位まで輸送するための組成物 - Google Patents
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Abstract
【課題】特定の標的部位へ薬剤を的確に送達させ、多様な薬剤を利用することができる組成物、その使用方法および製造方法の提供。
【解決手段】特定の標的部位への集積能を有する細胞と、薬剤を封入した担体とを含有し、該薬剤を封入した担体が運搬可能に前記細胞の表面に付着していることを特徴とする組成物。
【選択図】図5
【解決手段】特定の標的部位への集積能を有する細胞と、薬剤を封入した担体とを含有し、該薬剤を封入した担体が運搬可能に前記細胞の表面に付着していることを特徴とする組成物。
【選択図】図5
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特定の標的部位への集積能を有する細胞および薬剤を封入した担体を含有し、前記薬剤を封入した担体が運搬可能に前記細胞の表面に付着していることを特徴とする組成物、そしてその使用方法および製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、薬物の研究や製剤技術の進歩に伴い、薬剤、DNA、ペプチドなどを癌(腫瘍)、血管内皮損傷部位、炎症部位などの病巣部(標的部位)に、より安全に効率良く輸送するという点が重要視され、これを達成する手段としての薬物送達システム(Drug Delivery System、DDS)の開発が課題となっている。
【0003】
薬剤を経口や静注等により個体全身に投与すると、病巣部などの標的部位以外の正常組織では、副作用が認められることがあり、治療方法の変更や中断を余儀なくされる場合も見られる。また、薬剤によっては、効果が得られる薬物濃度の維持が困難であったり、標的部位に送達される前に代謝されてしまう場合もある。
【0004】
こうした問題を解決する薬物送達システムの一つとして、リポソーム製剤、ナノスフィア製剤(特表2000−514440号公報)、エマルジョン、またはナノパーティクルなどの閉鎖小胞を薬物運搬体として利用する方法、高分子合成ポリマーミセルなどの高分子運搬体に薬物を包含させる方法が開発されている。これらの製剤においては、表面に抗体やタンパク質を結合させたり、様々なリガンド(特表2001−522871号公報)を結合させることで、標的部位への薬剤の送達効率を上げている。例えば、リポソーム表面にCD44抗体を結合することにより、特異的に腫瘍細胞へ抗腫瘍活性物質を送達することを目的としていることが記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、これらの抗体リポソームは、製剤方法が煩雑であり、また標的となる腫瘍細胞ごとに、対応した抗体を準備しなければならないため、汎用性に欠けることが多い。また、標的部位を腫瘍細胞とした場合、患者の遺伝子型や腫瘍細胞の変異によっては、腫瘍特異抗原を発現しない場合もあるので(G.M.Sprinzl et al.,Cancer Treatment Reviews27,247−255,2001)、必ずしも確実な標的部位への薬剤の送達(ターゲッティング)が行えるとは限らない。一方、ターゲッティングの方法の一つとして、リポソーム表面をカチオン化する技術が研究されている。カチオン化されたリポソームは、血管内皮の損傷部位への集積性があることから、好ましい技術の一つとして挙げられている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
一方、細胞機能の研究や細胞治療の進歩によって、近年、腫瘍に対する細胞移植療法がさかんに行われている。養子免疫療法に代表されるこれらの治療の中では、樹状細胞で刺激されたT細胞(F.O.Nestle et al.,Nature Medicine Vol4,3,328−332,1998)、インターロイキン−2などのサイトカインで刺激されたT細胞(S.A.Rosenberg et al.,J.Natl.Cancer Inst.,Vol85,8,622−632,1993) 、腫瘍浸潤リンパ球(B.Fisheret al.,J.Clin.Oncol.,7,2,250−261,1989) 、ガン細胞と共培養した細胞障害性T細胞、腫瘍特異的ペプチドや腫瘍の溶解産物(Lysate)で刺激されたT細胞などが、腫瘍細胞に集積し、腫瘍細胞を攻撃することが知られている。
【0007】
これまでに、細胞を利用した薬物の送達方法として、血小板を用いた薬物送達システムが記載されている(例えば、特許文献3参照)。このシステムは、薬物を血小板内あるいは血小板上に含有あるいは付着、または薬物を封入した担体を血小板表面に付着させる。そして、寿命が到来した血小板を、その到達部位である肝臓や脾臓に送達させて、薬物を集積させることを目的としている。しかし、肝臓や脾臓以外の部位を標的部位として、この血小板送達システムを利用することは難しい。また、寿命にならなければ,血小板は標的部位である肝臓や脾臓まで送達されないので、比較的早い薬剤の効果を期待する疾患等に使用することが困難であった。
【0008】
特許文献3の血小板を利用した薬物送達システムとして、血小板以外の血球を利用することも考えられる。しかし、好中球やマクロファージでは、貪食能により内部に取りこまれた薬物が、それらの殺菌能により分解されることがあり、またリンパ球ではエンドサイトーシス等により取りこむとエンドサイトーシス小胞の大半は二次リソソームを形成し、取りこまれたものが消化されてしまう場合もある。
【0009】
【特許文献1】
特開平9−110722号公報
【特許文献2】
特開平7−89874号公報
【特許文献3】
特開平8−109142号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、特定の標的部位へ薬剤を的確に送達させ、多様な薬剤を利用することができる組成物、その使用方法および製造方法を提供することである。具体的には、特定の標的部位への集積能を有する細胞および薬剤を封入した担体を含有し、前記薬剤を封入した担体が運搬可能に前記細胞の表面に付着している組成物の有効量を投与することからなる、薬剤の送達および/または輸送方法を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
目的は、下記(1)〜(21)の本発明により達成される。
【0012】
(1)特定の標的部位への集積能を有する細胞と、薬剤を封入した担体とを含有し、該薬剤を封入した担体が運搬可能に前記細胞の表面に付着していることを特徴とする組成物。
【0013】
(2)前記細胞が、リンパ球、単球、顆粒球および樹状細胞からなる群から選択される少なくとも1つの細胞であることを特徴とする(1)に記載の組成物。
【0014】
(3)前記細胞が、造血幹細胞およびCD34陽性細胞からなる群から選択される少なくとも1つの細胞であることを特徴とする(1)に記載の組成物。
【0015】
(4)前記細胞がリンパ球であることを特徴とする(1)または(2)に記載の組成物。
【0016】
(5)前記細胞が末梢血、骨髄または臍帯血に由来することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の組成物。
【0017】
(6)前記担体がリポソーム、ナノスフィア、エマルジョン、ナノパーティクルまたは高分子合成ポリマーミセルであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の組成物。
【0018】
(7)前記担体がリポソームであることを特徴とする(6)に記載の組成物。
【0019】
(8)前記リポソームが、さらにカチオン化剤を有し、さらに親水性高分子脂質誘導体を含むことを特徴とする(6)または(7)に記載の組成物。
【0020】
(9)前記担体が前記細胞に静電的結合により付着していることを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の組成物。
【0021】
(10)前記薬剤が、生物学的または薬理学的に活性な薬剤であることを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載の組成物。
【0022】
(11)前記薬剤が、プロスタグランジン類、ロイコトリエン類、血小板活性化因子、抗腫瘍剤、抗癌剤、抗生物質、抗ウィルス剤、抗癌効果増強剤、免疫増強剤、免疫調節剤、免疫回復剤、放射線増感剤、放射線防護剤、抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、うっ血除去薬、抗真菌剤、抗関節炎薬、抗喘息薬、血管新生阻害剤、酵素剤、抗酸化剤、ホルモン、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、平滑筋細胞の増殖および/または遊走阻害剤、血小板凝集阻害剤、ケミカルメディエーターの遊離抑制剤、血管内皮細胞の増殖促進または抑制剤、サイトカイン成長因子、エリスロポエチン(EPO)、ワクチンあるいはその成分、タンパク質、ムコタンパク質、ペプチド、多糖類、リポ多糖類、アンチセンス、リボザイム、デコイ、核酸または抗体であることを特徴とする(10)に記載の組成物。
【0023】
(12)前記薬剤が、抗癌剤、サイトカイン、抗生物質、抗ウイルス剤、抗炎症剤または核酸であることを特徴とする(10)または(11)に記載の組成物。
【0024】
(13)前記組成物が、薬剤を封入した担体を特定の標的部位へ輸送および/または集積させるために使用されることを特徴とする(1)〜(12)のいずれかに記載の組成物。
【0025】
(14)前記組成物が、疾患の予防および/または治療のために使用されることを特徴とする(1)〜(13)のいずれかに記載の組成物。
【0026】
(15)前記疾患が、腫瘍、自己免疫疾患、感染症、炎症、造血組織疾患、血管新生またはリンパ節に係わる疾患であることを特徴とする(14)に記載の組成物。
【0027】
(16)前記薬剤を封入した担体が、特定の標的部位への集積能を有する細胞の表面に運搬可能に付着していることを特徴とする(1)に記載の組成物。
【0028】
(17)特定の標的部位への集積能を有する細胞と、薬剤を封入した担体とを含有し、該薬剤を封入した担体が運搬可能に前記細胞の表面に付着していることを特徴とする医薬組成物。
【0029】
(18)担体に封入された薬剤を、特定の標的部位への集積能を有する細胞の表面に接触させるようにして、前記薬剤を封入した担体を細胞表面に運搬可能に付着させる(1)〜(17)のいずれかに記載の組成物の製造方法。
【0030】
(19)(1)の組成物を宿主に投与することからなる、担体に封入された薬剤の特定の標的部位への送達および/または輸送方法。
【0031】
(20)予防および/または治療有効量の(1)の組成物を宿主に投与することからなる、疾患の予防および/または治療方法。
【0032】
(21)前記疾患が、腫瘍、自己免疫疾患、感染症、炎症、造血組織疾患、血管新生またはリンパ節に係わる疾患である(20)に記載の疾患の予防および/または治療方法。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る、特定の標的部位への集積能を有する細胞と、薬剤を封入した担体とを含有し、該薬剤を封入した担体が運搬可能に前記細胞の表面に付着していることを特徴とする組成物、その使用方法および製造方法について、詳細に説明する。
【0034】
本発明における「特定の標的部位への集積能を有する細胞」とは、リンパ球、単球、顆粒球、樹状細胞、造血幹細胞、CD34陽性細胞、マクロファージを意味する。細胞の由来は問わないが、末梢血、骨髄または臍帯血に由来する細胞として調製することができる。細胞は、血流中を移動し、標的部位あるいは、その他の細胞から放出されるサイトカインなどの生理活性物質や標的部位に提示され細胞が認識する抗原などに誘導されて、炎症部位や血管新生部位等の特定の標的部位に到達し、滞留する能力を有する。細胞は、組成物として使用される患者または宿主に適合するよう選択することができ、好ましくは組成物の使用の対象となる患者または宿主から得られた細胞である。細胞の由来は哺乳類、好ましくはヒトである。組成物に含まれる細胞は、1種類の細胞を用いてもよいし、標的部位や疾患に応じて2種類またはそれ以上の種類の細胞を一定の割合で組み合わせて使用してもよい。
【0035】
リンパ球とは、主に、B細胞、T細胞、NK(ナチュラルキラー)細胞、NKT(ナチュラルキラーT)のことであり、本発明において、これらの4種類の細胞を、それぞれ単独で用いても2種以上の細胞を併用して(混合した状態で)使用してもよい。リンパ球には、それぞれに活性化した状態と活性化していない状態がある。腫瘍周辺部には活性化したリンパ球が多く存在することから、腫瘍をリンパ球の標的部位とすることができる。腫瘍を標的部位とした場合、活性化T細胞、活性化B細胞、NK細胞またはNKT細胞を用いることができるが、活性化したT細胞を使用することが好ましい。T細胞は、いわゆる免疫療法によって患者に移植される患者本人のT細胞であってもよい。
【0036】
具体的には、患者の腫瘍組織を摘出し、培地中でコラゲナーゼなどの酵素で溶解させて取り出した腫瘍浸潤リンパ球(TIL(Tumor Infiltrating Lymphocyte )、B.Fisher et al.,J.Clin.Oncol,Vol7,2,250−261,1989)を、インターロイキンー2(IL−2)で増殖および活性化したリンパ球、患者末梢血中のリンパ球をIL−2で増殖および活性化したリンパ球(LAK(Lymphocyte−Activated Killer )(S.A.Rosenberg et al.,J.Natl.Cancer Inst.Vol85,8,622−632,1993)、患者末梢血中のCD8陽性細胞と患者腫瘍組織を体外で培養し、抗原提示した後、IL−2で増殖および活性化させた細胞障害性Tリンパ球(CTL(Cytotoxic T Lymphocyte)、S.Shu et al.,J.Immunol.Vol2,143,740−748,1989)ならびに患者の末梢血中のリンパ球と抗原提示された樹状細胞を共培養することで得られるリンパ球などを使用することができる。
【0037】
本発明で使用されるリンパ球の採取方法に特に制限はない。具体的には、患者の末梢血のアフェレーシスや、末梢血、骨髄、臍帯血全血からフィルター、比重遠心、細胞に対するモノクローナル抗体を固定した磁気ビーズ(以下、磁気ビーズとも表記する)などで得られた単核球(単核細胞、以下同じ)のうち非付着性細胞を回収する方法や、この単核球をさらに比重遠心する方法、また、全血から磁気ビーズによって分離する方法やフローサイトメーター等の方法を挙げることができる。
【0038】
また、リンパ球は、炎症を生じている自己免疫疾患および造血組織に係わり、これらの部位に集積することが知られている。したがって、炎症部位、自己免疫疾患を生じている部位および造血組織をリンパ球の標的部位として選択することができる。また、EVウィルスやサイトメガロウィルスなどのウイルス感染症に対して、養子免疫が行われている(C.J.M.Melief,Adv.Cancer Res.58,143−175,1992)ことから、リンパ球の標的部位として、感染部位を選択することができる。
【0039】
単球、顆粒球およびマクロファージは、炎症を生じている標的部位に遊走し、炎症部位を標的部位として攻撃する性質がある。したがって、単球、顆粒球およびマクロファージの標的部位として炎症部位を選択することができる。また、炎症部位の他、自己免疫疾患を生じている部位を、単球および顆粒球の標的部位として選択することができる。さらに、感染部位および血管新生部位を単球の標的部位として選択することができる。
【0040】
NK細胞やB細胞を調製する方法に、特に制限はない。具体的には、アフェレーシスや比重遠心、フィルター、磁気ビーズで得られた単核球からフローサイトメーターによって分離する方法や全血から直接、磁気ビーズによって分離する方法によって得ることができる。NKT細胞については、アフェレーシスや比重遠心、フィルター、磁気ビーズで得られた単核球からフローサイトメーターによって分離する方法が挙げられる。
【0041】
顆粒球とは、好中球、好酸球および好塩基球のことを指す。顆粒球である好中球、好酸球および好塩基球は、本発明において、それぞれ単独で用いても2種以上の細胞を併用して(混合した状態で)使用してもよい。顆粒球を調製する方法に特に制限はない。顆粒球を調製する方法として具体的には、アフェレーシスや比重遠心、フィルター、磁気ビーズで得られた白血球層を含む分画からフローサイトメーターによって分離する方法や、全血から直接、磁気ビーズによって分離する方法によって得ることができる。
【0042】
単球やマクロファージは同様にアフェレーシスや比重遠心、フィルター、磁気ビーズで得られた単核球から付着細胞を回収する方法や単核球をさらに比重遠心する方法、全血から直接磁気ビーズによって分離する方法、全血から直接フローサイトメーターによって選択する方法により得られる。
【0043】
樹状細胞の採取方法に特に制約はない。採取方法の一例として、樹状細胞は、患者末梢血中の単球にインターロイキン−4(IL−4 )、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)などを加えて培養する方法や、末梢血、骨髄、臍帯血からCD34陽性細胞を採取し、GM−CSF、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)などのサイトカインを加えて培養する方法、末梢血からアフェレーシスで単核球分画を採取し、比重遠心する方法によって得られる。得られた樹状細胞を患者の腫瘍組織の溶解産物(Lysate)または腫瘍特異抗原と共に培養することにより、樹状細胞は抗原を取り込みリンパ球に抗原提示できるようになる。したがって、リンパ球が由来する腫瘍やリンパ球に提示する抗原を適宜選択することにより、標的とする腫瘍を決定することができる。また、樹状細胞は、リンパ節に集積する性質があることから、リンパ節を標的部位として選択することができる。
【0044】
造血幹細胞やCD34陽性細胞(CD34+ 細胞)は、末梢血に投与されると骨髄などの造血組織に移動し、血球細胞へと分化することが知られている。これまでに造血器腫瘍や再生不良性貧血の治療に対して、骨髄移植、臍帯血移植、末梢血幹細胞移植が行われている。造血幹細胞やCD34陽性細胞は、骨髄、臍帯血、末梢血中に含まれ、アフェレーシスや血液の比重遠心、磁気ビーズによって分離することができる。したがって、造血組織を造血幹細胞やCD34陽性細胞の標的部位として選択することができる。造血幹細胞やCD34陽性細胞を利用することにより、造血器へこれら細胞を集積させることが可能である。CD34陽性細胞は、その他、腫瘍や血管新生部位に集まることが知られている。したがって、腫瘍や血管新生部位をCD34陽性細胞の標的部位として選択することも可能である(「新しい造血幹細胞移植」,原田実根 他,南江堂,1998年、「リンパ球と血管疾患」,押味和夫 他,中外医学社,1992年、「最新医学幹細胞研究の進歩と臨床応用」,須田年生 他,最新医学社,57巻1号,2002年、「免疫生物学」,笹月健彦 他,南江堂,1995年、「リンパ球機能検索法」,矢田純一 他,中外医学社,1983年、「血液化学」,黒田嘉一郎 他,朝倉書店,1963年、「一目でわかる輸血」,浅井隆善 他,メディカル・サイエンス・インターナショナル,1998年、参照)。
【0045】
本発明で対象となる疾患としては、哺乳動物、好ましくはヒトが罹患する疾患であれば特に制限はないが、具体的には、前述の標的部位と関連して、腫瘍、自己免疫疾患、感染症、炎症、リンパ節に係わる疾患、造血組織疾患、血管新生に係わる疾患が挙げられる。
【0046】
腫瘍としては、例えば、悪性黒色腫、乳癌、肺癌、肝臓癌、前立腺癌、腎癌、偏平上皮ガン、腺癌、移行上皮癌、肉腫、神経膠腫(グリオーマ)、白血病、膵臓癌などが挙げられ、これらの腫瘍については、悪性腫瘍であっても、腫瘍転移したものであっても、本発明の組成物の標的部位とすることができる。自己免疫疾患としては、例えば、慢性関節リウマチや全身性エリテマトーディスなどが挙げられる。感染症としては、例えばウイルス感染、細菌感染、真菌感染および寄生虫感染などが挙げられる。ウイルス感染の原因としては、例えば、EVウィルスやサイトメガロウィルスが挙げられる。細菌感染の原因としては、例えば、サルモネラ菌、リステリア、結核菌などが挙げられる。リンパ節に係わる疾患としては,化膿性リンパ節炎,結核性および/またはBCGリンパ節炎,亜急性壊死性リンパ節炎等が挙げられる。造血器または造血組織に係わる疾患としては、例えば、造血器腫瘍や再生不良性貧血などが挙げられる。血管新生は、腫瘍、血管損傷、虚血、狭窄などの現象を原因として生じることが考えられる。したがって、血管新生に係わる疾患として、例えば、閉塞性動脈硬化症、心筋梗塞、狭心症、再狭窄、脳血管虚血、脚の虚血、肺虚血、糖尿病性腎症、血管新生緑内障、前述の腫瘍、リウマチ性関節炎および乾癬などが挙げられる。
【0047】
本発明における「特定の標的部位」とは、前述のメカニズムにより、細胞が移動または遊走することにより到達し、疾患ごとに標的となっている細胞、組織、器官または臓器等を意味する。本発明の組成物中の細胞が、標的部位に移動または遊走し標的部位に滞留する能力を「集積能」と言う。
【0048】
標的部位に集積する細胞表面には、薬剤を封入した担体が付着しており、集積した細胞が目的とする標的部位に滞留している間、細胞表面に付着した担体は、細胞に付着した状態で標的部位の組織に取り込まれる。標的部位の組織内で、担体は細胞表面で壊され、または細胞内に取りこまれ、担体の内部に封入された薬剤が標的部位と接することにより、標的部位における疾患に対して薬剤の効果が発揮される。
【0049】
本発明における「付着」とは、担体が細胞に取り込まれることなく細胞表面に接着していることを表す。すなわち、本発明の組成物の構成成分である細胞と担体とが、共有結合、静電的結合、疎水的結合(分子間力を含む)、および本発明の組成物に必須および/または必須ではない構成成分によって、ブリッジ的に結合した様式、粘性のある流動体中に細胞と担体を混合して、実質的に両構成成分が一体化して移動できる状態にある結合様式等に例示される結合様式により、完全に離れた状態ではない状態にあることをいう。このような付着の一例としては、 担体表面にカチオン性化合物を配すること(「カチオン化」)により、担体と細胞表面の間に静電結合を生じさせ、担体を細胞に付着させる様式が挙げられる。
【0050】
本発明における「運搬可能」とは、血中などで担体の多くが細胞から脱落することなく特定の標的部位まで到達し、到達した時点で有効量の薬剤を含有した状態にあることを意味する。その結果、細胞表面に付着した薬剤を封入した担体を失うことなく、標的部位へ到達させ、集積させることができる。
【0051】
本発明における「担体」とは、内部に薬剤を含有、封入させることのできる組成物を意味し、リポソーム、エマルジョン、ナノパーティクル、高分子ポリマーミセルなどの高分子運搬体などがあげられる。担体は脂質膜から構成されているものが好ましく、さらに親水性高分子やカチオン化剤を含有することができる。
【0052】
担体の大きさは、目的の薬剤の有効量を封入できる大きさであれば特に制限はなく、好ましくは平均粒子径が50〜200nm、より好ましくは、100〜150nmである。平均粒子径とは、光散乱法により測定される全粒子径の平均値である。平均粒子径が50nmより小さいと、内部に封入する薬剤の量が有効量より少なくなる傾向にある。また、200nmより大きいと、1つの細胞あたりに付着できる担体の量が少なくなるだけでなく、標的部位において担体が表面に付着した細胞が血管外組織に浸潤しにくくなる。
【0053】
本発明で用いられる担体を調製する方法としては、広く公知の方法であれば、特に制限はなく、材料、器具、装置等についても、通常知られたものを使用することができる。
【0054】
本発明で使用される担体の一例としてリポソームが好ましく例示される。一例として、リポソームは、脂質の混合物をt−ブチルアルコールに完全に溶解させ、冷却後、凍結乾燥することにより作製することができる。また、混合脂質に、薬物を溶解させた液体を加えて膨潤させ、超音波で分散させた後、分散体にポリエチレングリコール−フォスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)を添加することによりリポソームを得ることもできる。
【0055】
リポソームは後述の親水性高分子を含有し、カチオン化剤によりカチオン化されていることが好ましい。リポソームの好ましい具体例としては、水素化大豆レシチン、コレステロール、3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩をt−ブチルアルコールに溶解させた脂質混合溶液を凍結し、凍結乾燥を行い得られるものである。
【0056】
リポソームを構成する脂質は、リポソームを形成できるものであれば特に限定されないが、生体内において安定なリポソームを提供するという点から、生体材料由来の脂質、リン脂質あるいはその誘導体、リン脂質以外の脂質あるいはその誘導体が好適に用いられる。リン脂質として具体的には、例えば、ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、カルジオリビン等の天然または合成のリン脂質、あるいはこれらを常法に従って、水素添加したものが挙げられる。
【0057】
また、エマルジョンは、以下に例示されるようにして調製される。ポリヒドロキシ酪酸をクロロホルムに溶解させ、これを予め、プルロニック(F−68)添加したポリビニールアルコール水溶液に加える。攪拌した後、油相中のポリマーを固化させ、減圧乾燥させることによって得られる(特開2002−017848参照)。
【0058】
ナノパーティクルは、マクロモノマー法を利用し、分散重合することで表面に水溶性マクロモノマーが局在し、内部が疎水性ポリマーからなるナノパーティクルを調製することができる(特開平08−268916号公報参照)。
【0059】
高分子ポリマーミセルは、水難溶性薬物と特定の共重合体を水非混和性有機溶媒で溶解し、水と混合して、O/W型エマルジョンを形成し、次いで得られたエマルジョンから有機溶媒を蒸発除去することによって得られる(特開2001−226294号公報参照)。
【0060】
担体の表面をカチオン化する方法に特に制限はないが、カチオン化剤により担体表面をカチオン化する方法が好適に例示される。カチオン化剤としては、生理的pH範囲内で陽電荷を帯びる塩基性化合物が好ましく使用される(例えば、特開2001−55343号公報参照)。「生理的pH」とは、生体内、主に、血液中でのpH範囲であり、具体的には、pH4.0〜10.0が好ましく、より好ましくは、6.0〜8.0の範囲である。
【0061】
その他、本発明で使用可能なカチオン化剤としては、例えば脂肪族第一級アミノ基、脂肪族第二級アミノ基、脂肪族第三級アミノ基、脂肪族第四級アミノ基、アミジノ基、グアニジノ基、芳香族第一級アミノ基、芳香族第二級アミノ基、芳香族第三級アミノ基、芳香族第四級アミノ基を有し、これらの基を直接あるいは適度なスペーサーを介して、長鎖脂肪族アルコール、ステロール、ポリオキシプロピレンアルキル、またはグリセリン脂肪酸エステル等の疎水性化合物と結合させた脂質誘導体が挙げられる。担体がリポソームである場合、(これらのうち、)3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩が好適に例示される。
【0062】
カチオン化剤の含有量は、担体が細胞に付着でき、または特定の標的部位に細胞が集積できる範囲であれば、特に制限はない。カチオン化剤の含有量には至適濃度があり、3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩の場合、含有量がmol比で4%未満であると、担体の細胞表面への付着量が少ない傾向があるが、15%になると細胞が壊れることが有り得る。したがって、3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩の濃度は、好ましくは4%以上15%未満、より好ましくは、6%以上12%未満、特に好ましくは、8%以上10%未満である。
【0063】
本発明で使用される担体は、表面が親水性高分子により修飾されていることが好ましい。親水性高分子の添加は、オプソニンとしての各種血漿蛋白の担体表面への付着を防ぎ、担体の血中での凝集を防止し、肝臓、脾臓等の細網内皮系組織による担体の捕捉を回避することを可能にする。同様の理由により、マクロファージなどの貪食細胞による捕捉も回避することができる。
【0064】
担体表面に親水性高分子を導入するには、様々な方式が挙げられ、特に限定されない。例えば、該親水性高分子を長鎖脂肪族アルコール、ステロール、ポリオキシプロリンアルキル、またはグリセリン脂肪酸エステル、リン脂質等の疎水性化合物と結合させて、該疎水性化合物の部分を担体膜へ挿入する方法が好ましい。
【0065】
親水性高分子の脂質誘導体は、担体の構造安定を損なうものでなければ特に限定されず、例えば、ポリエチレングリコール、デキストラン、プルラン、フィコール、ポリビニルアルコール、スチレン−無水マレイン酸交互共重合体、ジビニルエーテル−無水マレイン酸交互共重合体、合成ポリアミノ酸、アミロース、アミロペクチン、キトサン、マンナン、シクロデキストリン、ペクチン、カラギーナンまたはこれらが複合体を形成したもの等の脂質誘導体が挙げられる。これらのうち、ポリエチレングリコールおよびポリエチレングリコール脂質誘導体が好ましい。ポリエチレングリコール脂質誘導体としては、特に限定されないが、ポリエチレングリコール鎖とジアシルグリセロールを1分子内に有する化合物であるのが好ましい。担体がリポソームである場合、親水性高分子としては、例えばPEG−PEが好ましい。
【0066】
親水性高分子の重量平均分子量は、1000〜7000であるのが好ましく、この範囲の重量平均分子量を持つポリエチレングリコールおよびポリエチレングリコールの脂質誘導体は、血中滞留性を向上させる効果があり、好ましい。
【0067】
親水性高分子脂質誘導体の配合量は、その分子量や添加方法にもよるが、生理的pH範囲で陽電荷を帯びる塩基性化合物および担体を構成する脂質の和に対して、0.2〜1mol%が望ましく、さらには、0.3〜0.8mol%が望ましく、さらには、0.4〜0.6mol%が望ましい。この範囲より少ないと、担体表面への蛋白吸着を防止しにくく、血中安定性が悪くなる場合がある。一方、この範囲より多いと、分子量の大きい親水性高分子脂質誘導体が担体表面を覆うことにより、担体表面に添加したカチオン化剤が作用しにくくなり、細胞表面への付着の程度が不足する傾向にある。
【0068】
担体は他の成分を含有することができる。担体の安定化剤としては、膜流動性を低下させるコレステロールなどのステロール、あるいはグリセロール、シュクロースなどの糖類が使用される。また、担体の酸化防止剤としては、トコフェロール同族体すなわちビタミンEなどが挙げられる。トコフェロールには、α,β,γ,δの4個の異性体が存在するが、本発明においてはいずれも使用できる。その他の担体の表面修飾剤としては、グルクロン酸、シアル酸、デキストランなどの水溶性多糖類の誘導体等が挙げられる。
【0069】
担体に封入される薬剤としては、薬物担体の形成を損ねないかぎり特に限定されるものでなく、生物学的または薬理学的に活性な薬剤であればいかなる薬剤でも使用できる。薬剤として具体的には、プロスタグランジン類、ロイコトリエン類、血小板活性化因子、などが挙げられる。他の具体例として、抗腫瘍剤、抗癌剤、抗生物質、抗ウィルス剤としては、シスプラチンなどのブレオマイシン類、マイトマイシンCなどのマイトマイシン類、アドリアマイシンなどのアントラサイクリン系抗腫瘍性化合物、5−フルオロウラシルなどのポドフィロトキシン誘導体、ナイトロジェンマスタード類、アルキルスルホン類、メソトレキセートなどの葉酸代謝拮抗剤等の抗腫瘍剤;ペニシリン系抗生物質、セファロスポリン系抗生物質などのβ−ラクタム系抗生物質、アミノグリコシド系抗生物質、マクロライド系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質、ペプチド系抗生物質、抗かび性抗生物質等の抗生物質;アシクロビル、 ガンシクロビル、 塩酸バラシクロビル、ビダラビン、ザルシダビン、ホスカルネット、ジドブジン、 ラミブジン、ジダノシン、アジドチミジン等の核酸合成阻害型の抗ウイルス剤、アマンタジン、ザナミビル、オセルタミビル等の細胞内侵入抑制型の抗ウイルス剤、インターフェロン、イソプリノシン等の宿主感染防御能亢進型の抗ウイルス剤;等が挙げられる。
【0070】
その他、薬剤には、抗癌効果増強剤、免疫増強剤、免疫調節剤、免疫回復剤、放射線増感剤、放射線防護剤、抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、うっ血除去薬、抗真菌剤、抗関節炎薬、抗喘息薬、血管新生阻害剤、酵素剤、抗酸化剤、ホルモン、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、平滑筋細胞の増殖および/または遊走阻害剤、血小板凝集阻害剤、ケミカルメディエーターの遊離抑制剤、血管内皮細胞の増殖促進または抑制剤も含まれる。
【0071】
さらに、インターフェロンα、β、γなどのインターフェロン(IFN) 類、インターロイキン(IL)1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23などのインターロイキン類、腫瘍壊死因子(TNF)類、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)などのコロニー刺激因子類、幹細胞因子(SCF)、β型トランスフォーミング増殖因子(TGF−β)、肝細胞増殖因子(HGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)等のサイトカイン、成長因子、エリスロポエチン(EPO)、ワクチンあるいはその成分、タンパク質、ムコタンパク質、ペプチド、多糖類、リポ多糖類、アンチセンス、リボザイム、デコイ、核酸、抗体などが挙げられる。
【0072】
これらのうち、生物学的または薬理学的に活性な薬剤として、抗癌剤(抗腫瘍剤)、サイトカインまたは抗生物質などが好ましい。これらの薬剤が担体の内部に封入される際、使用目的に応じ、1種類の薬剤のみが担体に封入されてもよいし、2種類以上の薬剤が担体に封入されてもよい。
【0073】
本発明で使用される担体の好適な具体例であるリポソームは、リンパ球などの特定の標的部位への集積能を有する細胞を懸濁した無血清培地に、リポソームを添加して37℃、5%CO2 雰囲気下で15分以上、望ましくは30分以上静置することで、リポソームと細胞表面に静電結合が形成され、リポソームが細胞表面に付着する。
【0074】
リンパ球等の細胞表面に付着するリポソームの数も重要である。細胞表面へのリポソームの付着量は、細胞の数に対するリポソームの添加量によって調節することができる。細胞表面に付着するリポソームの好ましい量は、リポソームの大きさ、細胞の種類や大きさによって異なるが、例えば細胞105 個に対して、リポソームが0.01μmolより少ないと細胞に付着する量が少なくなり、標的部位への効果的な薬物の輸送が行えないこともある。一方、細胞表面にある抗原認識部位は、約数〜数10nmであるから、直径約100nmのリポソームが多く付きすぎると、抗原認識部位を隠してしまう。したがって、細胞105 個に対して、リポソームが0.01〜0.2μmolの付着が望ましく、さらには、0.03〜0.15μmol、さらには、0.05〜0.1μmolが望ましい。
【0075】
本発明において、「組成物」とは薬剤を封入した担体と特定の標的部位への集積能を有する細胞とを含有し、該担体が細胞表面に運搬可能に付着しているものを意味する。組成物は薬剤を特定の標的部位に送達するために使用される。したがって、本発明の組成物は、担体に封入した薬物を特定の標的部位に輸送および/または集積させるため、もしくは疾患の予防および/または治療を目的として、宿主(患者)に非経口的に全身あるいは局所的に投与することができる。
【0076】
投与対象の宿主としては、哺乳動物、好ましくはヒト、サル、ネズミ、家畜等が挙げられる。非経口的投与の経路としては、例えば、点滴などの静脈内注射(静注)、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、皮内注射、腫瘍内注射を挙げることができ、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。
【0077】
本発明の組成物は、病気に既に悩まされる患者に、病気を治癒するか、あるいは少なくとも症状を緩和するために、十分な量で投与される。例えば、細胞に付着される担体に封入される薬剤の有効投与量は、一日につき体重1kgあたり0.01〜100mgの範囲で、適宜選ばれる。あるいは、患者あたり0.1〜1000mg、好ましくは0.1〜80mgの投与量を選ぶことができる。しかしながら、本発明の組成物は、これらの投与量に制限されるものではない。投与時期は、疾患が生じてから投与してもよいし、あるいは疾患の発症が予測される時に発症時の症状緩和のために予防的に投与してもよい。また、投与期間は、患者の年齢、症状等により適宜選択することができる。
【0078】
本発明の組成物は、本発明の特性を損わない範囲で、投与経路次第で医薬的に許容される添加物を共に含むものであってもよい。このような添加物の具体例として、水、生理食塩水、医薬的に許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、ジグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、PBS、生体内分解性ポリマー、無血清培地、医薬添加物として許容される界面活性剤あるいは生体内で許容し得る生理的pHの緩衝液などが挙げられる。
【0079】
使用される添加物は、剤型に応じて上記の中から適宜あるいは組合せて選択されるが、1種単独で用いても、2種以上を併用して用いることもできる。前述の添加物を含むように調製された組成物を、医薬組成物として供することができる。
【0080】
本発明の組成物は、通常の方法にしたがい保存することができる。例えば、実施例6に示す培地に懸濁させ、培養バッグに入れる保存方法では、37℃、5%CO2 雰囲気下で、3週間程度保存することができる。また、同様の方法で調製した組成物を液体窒素中で−196℃にて凍結保存することができる。すなわち、本発明の組成物を10%DMSO(ジメチルスルホキシド)と1%デキストラン40を含んだ生理食塩水に懸濁し、凍結保存バッグに入れて凍結保存することもできる。このように担体を細胞に付着させて組成物を調製し、これを一定期間の保存の後に使用することも可能であるが、担体と細胞とを別々に保存し、使用直前に担体を細胞に付着するように調製して投与することも可能である。
【0081】
本発明の組成物の具体的な投与方法としては、特に制限はないが、一例として、担体を付着させた細胞を生理食塩水、PBS、デキストラン40、および、それらにアルブミンを添加した溶液、血小板除去血漿画分(Platelet Poor Plasma)に懸濁させ、注射や点滴によって投与する方法を挙げることができる。また、生体由来物質、例えば、アルブミンや血漿を添加せずに、もしくは除去して調製した組成物(生体由来物質を含有しない組成物)を投与することも可能である。さらに、担体を付着させた細胞を生理食塩水あるいは無血清培地に懸濁し、得られた懸濁液を患者や宿主に投与することもできる。組成物を投与するために、カテーテルを患者または宿主の体内、例えば、管腔内、血管内に挿入して、その先端を標的部位付近に導き、当該カテーテルを通して、標的部位またはその近傍、あるいは標的部位への血流が期待される部位から投与することも可能である。
【0082】
実施例に示すように、本発明の組成物を腫瘍担持動物に投与すると、担体が付着した細胞は標的とする腫瘍部位への集積が認められた。本発明の組成物は、標的部位での滞留性に優れており、1回の投与後、約72時間後から標的部位に集積し始め、2〜3日後をピークに集積することが多い。その後、順次、集積した場所で担体は標的部位に移行し、細胞と薬剤の効果が発揮される。組成物の投与後、抗腫瘍活性を観察するためには、一定時間経過の後、腫瘍の外径または重量等を測定し、腫瘍組織の縮小の程度を調べることにより評価することができる。
【0083】
【実施例】
以下にリポソームを担体の具体例とした実施例を示し、本発明を更に詳細に説明するが、これら実施例に限定されるものではない。
【0084】
実施例1 ローダミン−HPTSラベルしたリポソームの調製
1)水素化大豆レシチン(Lipoid社)0.5mmol、コレステロール(Solvay社製)0.42mmol、3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩(常興薬品社製)0.08mmol、蛍光色素ローダミンDHPE(LissamineTM、rhodamine B,2−dihezadecanoyl−sn−glycero 3−phosphoethanolamine 、triethylammonium salt 、Molecular Probes社) 4μmolをt−ブチルアルコール30mlに溶解させた脂質混合溶液を氷浴で凍結し、一晩凍結乾燥を行い、リポソームの脂質膜の原料となる脂質混合物を得た。
【0085】
2)PBS10mlに蛍光色素HPTS(8−hydroxypyrene−1,3,6−trisulfonic acid, trisodium salt、Molecular Probes社) 0.2mmolを溶解させ、リポソームに封入される内水層溶液を作製した。
【0086】
1)の手法により得られた脂質混合物1.0mmolに内水層溶液10mlを加え、65℃で10分間加温し、5分間超音波処理することにより、リポソーム分散液を得た。これを孔径0.4μmのポリカーボネートフィルム(Nucleopore、Corning Coster社製)を用いて圧送し、ついで、0.2μm、0.1μmのポリカーボネートフィルムを用いて圧送することによって整粒を行った。このリポソーム分散液に、予め調製しておいたPEG−PE(PEG5000−DSPE,重量平均分子量5938、Genzyme社製)を、リポソームの脂質に対して0.5mol%になるようにPBSに溶解して等容量加えた後、60℃で30分加温した。このようにして、表面がPEG−PEで修飾され、内部に蛍光色素HPTSが封入されたリポソーム分散液を得た。平均粒子径は100nmであった。
【0087】
実施例2 PEG−PEと3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩の添加量の設定
PEG−PEの濃度を、リポソームの脂質に対して、0、0.5、1.0mol%、カチオン化剤3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩の濃度を4、8、15mol%に設定し、実施例1の方法でリポソームの脂質膜がローダミンでラベルされたリポソームを調製し、1mMになる様にPBSに懸濁した。このリポソーム懸濁液30μlと1×106 個のリンパ球とを0.3mlのPBSに懸濁した溶液に添加した。軽く混和した後、37℃5%CO2 雰囲気下で1 時間インキュベートした。なお、リンパ球は、PBSを入れたシリンジでマウス脾臓中の細胞を洗い出し、0.83%塩化アンモニウム水溶液で溶血、洗浄して得た。インキュベート後、4℃で2000rpm(400g(重力))で3分遠心分離し、沈殿物を2回洗浄した。この沈殿物にRIPA buffer(Tris(hydroxymethyl)aminomethane 50mM,NaCl 150mM,sodium deoxycholate 0.5%(W/V), NP−40(Calbiochem,Novabiochem社製)1%(W/V), SDS0.1%(W/V))0.3mlを添加し、リンパ球とリポソームとを溶解し、その200μlを蛍光測定用プレートに滴下した。マイクロプレートリーダー(Labsystems iEMS reader MF)で励起波長544nm、蛍光波長590nmを用いてローダミンの蛍光強度を測定した。結果を下記の表1に示した。
【0088】
【表1】
【0089】
PEG−PEが0%の時、リポソームは著しくリンパ球に付着したが、1.0%の時は、リポソームの付着を阻害した。一方、3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩は、濃度が高い程、リンパ球に付着したが、15%の時には、細胞が回収できず、処理中に細胞が壊れたと推測した。
【0090】
実施例3 リポソーム添加量およびインキュベート時間の検討
実施例1の方法で、水素化大豆レシチン:コレステロール:3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩のmol比が、50:42:8で、PEG−PE0.5mol%を脂質膜に含み、蛍光色素ローダミンでラベルしたリポソームを調製した。このリポソームを1mMになる様にPBSに懸濁させ、リンパ球1×106 個を、PBS0.3mlに懸濁させた液に15、30、60μl添加した。これを、37℃、5%CO2 雰囲気下で30、60、120分インキュベートした後、2000rpm×5分で遠心して、上清を除去し、PBSで2回洗浄した。RIPA buffer0.4ml中で溶解させた後、マイクロプレートリーダーで励起波長544nm、蛍光波長590nmを用いてローダミンの蛍光強度を測定した。結果を下記の表2、図1に示した。この結果より、インキュベート時間は、リポソームとリンパ球の付着に影響を与えず、リポソームの添加量がリンパ球への付着量を決定していると考えた。
【0091】
【表2】
【0092】
実施例4 腫瘍浸潤リンパ球の作製
近交系マウスC57BL6N(日本チャールス・リバー社製)の背部に、マウスB16メラノーマ(ATCC No.CRL−6322、東北大学加齢医学研究所付属医用細胞資源センターより譲渡された)1×106 個を皮下注射した。14日後に脾臓および腫瘍組織を取り出し、DNase(Sigma社製)、Collagenase(和光純薬社製)、Hyaluronidase(Sigma社製)で腫瘍組織を溶かした後、100μmのメッシュでろ過し、PBSで2回洗浄した。リンパ球は、PBSを入れたシリンジで脾臓中の細胞を洗い出し、0.83%塩化アンモニウム水溶液で溶血、洗浄して得た。腫瘍組織から得られた細胞とリンパ球を合わせ、インターロイキン−2(ヒトIL−2、Sigma社製)を10U/ml加えた10%FBSを含むRPMI1640(FBS,BIOSOURCE社製、RPMI1640,Sigma社製)中に2×105 /mlになるように懸濁させ、37℃5%CO2 雰囲気下で1時間、培養した。浮遊細胞を回収し、腫瘍浸潤リンパ球とした。インターロイキン−2を10U/ml加えた10%FBSを含むRPMI中で、腫瘍浸潤リンパ球を7日間37℃5%CO2 雰囲気下で培養した。
【0093】
実施例5 腫瘍浸潤リンパ球とリポソームの付着
リンパ球2×105 個に対し、実施例1の方法で1mMに調製した蛍光色素ローダミンDHPEおよび蛍光色素HPTSでラベルした実施例3のリポソームを100μl添加し、無血清培地RPMI1640の0.3ml中で37℃で1時間インキュベートした。2000rpm×5分で遠心後、上清を除去し、PBSで2回洗浄した。RIPA buffer0.4ml中で溶解させた後、マイクロプレートリーダーで、励起波長544、蛍光波長590nmでローダミンの蛍光強度を測定した。リポソームを付着させたリンパ球群では蛍光強度が138であり、リンパ球へのリポソームの付着量は0.05μmol/105 cellsであった。結果を下記の図2、表3に示した。
【0094】
【表3】
【0095】
実施例6 リポソームを付着させたリンパ球の観察
実施例5でリポソームを細胞表面に付着させたリンパ球を調製培地中で72時間培養後、トリパンブルー染色し、顕微鏡観察によってリンパ球の生存を確認した。さらに蛍光顕微鏡により観察したところ、リンパ球は細胞表面にリポソームを付着させたまま生存していることを確認した(図3a:光学顕微鏡による観察像,b:ローダミンの励起波長544nmの光を照射して、ローダミンの蛍光波長590nmを観察した蛍光顕微鏡像、c:HPTSの励起波長450nmの光を照射して、HPTSの蛍光波長510nmを観察した蛍光顕微鏡像)。調製培地の組成は以下の通り。RPMI1640、FBS10%、インターロイキン−2(IL−2)10U/ml、sodium pyruvate1mM、nonessentialaminoacids0.1mM、Penicillin100U/mlおよびStreptomycin100μg/ml(Penicillin−streptomycin、 GIBCO社製)、2−mercaptoethanol5×10−5M(Aldrich社製)。
【0096】
実施例7 腫瘍浸潤リンパ球によるリポソームの輸送
背部にB16メラノーマを1×106 個皮下注射してから14日後のC57BL6Nマウスに、実施例5で調製したリポソーム0.05μmolを細胞表面に付着させた腫瘍浸潤リンパ球1×105 個を尾静脈注射した。72時間後、腫瘍組織を回収し、蛍光顕微鏡にて病理切片を観察した(結果を図5、6に示す。図5a:光学顕微鏡像、b:ローダミンの励起波長544nmの光を照射して、ローダミンの蛍光波長590nmを観察した蛍光顕微鏡像、c:HPTSの励起波長450nmの光を照射して、HPTSの蛍光波長510nmを観察した蛍光顕微鏡像である。図6a:,b:,c:は,それぞれ図5a:,b:,c:の一部を拡大した図である)。
【0097】
コントロール群として、背部にB16メラノーマを1×106 個皮下注射してから14日後のC57BL6Nマウスに、実施例5で調製したリポソーム0.05μmolのみ(リンパ球なし)を尾静脈注射し、72時間後、腫瘍組織の病理切片を観察した(結果を図4に示す。図4a:光学顕微鏡像、b:ローダミンの励起波長544nmの光を照射して、ローダミンの蛍光波長590nmを観察した蛍光顕微鏡像、c:HPTSの励起波長450nmの光を照射して、HPTSの蛍光波長510nmを観察した蛍光顕微鏡像)。
【0098】
リポソームのみを投与した群では、腫瘍組織中にリポソームの脂質膜内に存在する蛍光色素ローダミンDHPEと、リポソームの内部に封入された蛍光色素HPTSのいずれも観察されなかったが、一方、細胞表面にリポソームを付着させた腫瘍浸潤リンパ球を投与した群では、腫瘍組織中にリポソームの脂質膜内に存在するローダミンDHPEとリポソームの内部に封入されたHPTSが共に観察され、リポソームが腫瘍組織に輸送および集積されたことが示された。
【0099】
実施例8 抗癌剤を封入したリポソームの調製
ジパルミトイルホスファチジルコリン:コレステロール:3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩(カチオン化剤)のmol比が、18:10:2.5になるように調製した脂質混合物100mgに対して、1mlの0.3Mクエン酸緩衝液(pH4.0)を加え攪拌した(ジパルミトイルホスファチジルコリン、日本油脂社製)。さらに、5回の凍結融解を繰り返し、リポソーム分散液を得た。これを孔径0.2μmのポリカーボネートフィルムを用いて圧送し、ついで、0.1μmのポリカーボネートフィルムを用いて圧送することによって整粒を行った。このリポソーム分散液を1M NaOH溶液で中和した後、脂質重量に対して1/10重量の抗癌剤塩酸ドキソルビシン(アドリアマイシン、協和発酵工業株式会社製)を添加し、塩酸ドキソルビシンを内部に封入したリポソームを得た。予め調製しておいたこのリポソーム分散液に、PEG−PEをリポソームの脂質に対して0.5mol%になるように添加し、60℃30分加温した。この様にして、表面がPEG−PEで修飾されているアドリアマイシン封入リポソーム分散液を得た。
【0100】
実施例9 リポソームを付着した腫瘍浸潤リンパ球によるB16メラノーマの抗腫瘍効果
1)アドリアマイシンを封入したリポソームと腫瘍浸潤リンパ球の付着
実施例8の方法で内部にアドリアマイシンを封入したリポソームを調製する。同様に実施例4の方法でC57BL6Nマウスの腫瘍浸潤リンパ球を採取する。1mMに調製したリポソーム100μlを腫瘍浸潤リンパ球2×105 個に添加し、無血清培地RPMI1640 0.3ml中で37℃で1時間インキュベートする。2000rpm×5分で遠心後、上清を除去し、PBSで2回洗浄する。
【0101】
2)リポソームを付着した腫瘍浸潤リンパ球の投与
C57BL6Nマウスの背部にB16メラノーマを1×105 個皮下注射する。1)で調製した細胞表面に、アドリアマイシンを封入したリポソームが付着した腫瘍浸潤リンパ球1×107 個をPBSに懸濁し、メラノーマの投与直後に尾静脈注射する。
【0102】
コントロール1として、C57BL6Nマウスの背部にB16メラノーマを1×105 個皮下注射し、リポソームを付着していない腫瘍浸潤リンパ球1×107 個をメラノーマの投与直後に尾静脈注射する。
【0103】
コントロール2として、C57BL6Nマウスの背部にB16メラノーマを1×105 個皮下注射する。
【0104】
コントロール3として、C57BL6Nマウスの背部にB16メラノーマを1×105 個皮下注射し、5μmolのリポソーム(リンパ球なし)をメラノーマの投与直後に尾静脈注射する。
【0105】
14日後、コントロール2のマウスでは、直径約2.5〜3.0cmの腫瘍組織が確認できる。一方、コントロール1では、腫瘍組織は直径約1.5〜2.0cmに縮小する。コントロール3では、腫瘍組織は直径約2.5〜3.0cmである。
【0106】
一方、アドリアマイシンを封入したリポソームを細胞表面に付着したリンパ球を投与したマウスでは、腫瘍組織の大きさは、コントロール1〜3のマウスよりも小さく、その縮小の程度は、リポソームまたはリンパ球を単独で投与した場合の各々の縮小の程度を足した値より大きいことが観察できる。この結果より、腫瘍浸潤リンパ球が、アドリアマイシンを封入したリポソームを腫瘍組織まで送達し、腫瘍浸潤リンパ球と抗癌剤両方による相乗的な抗腫瘍効果が示される。
【0107】
【発明の効果】
本発明では、薬剤を封入した担体が、特定の標的部位への集積能を有する細胞に付着している。したがって、特定の標的部位への集積能を有する細胞により、担体に封入した薬剤を効果的に特定の標的部位まで送達することができる。本発明では、患者本人の細胞を使用することも可能なので、より安全かつ特異的に、細胞を特定の標的部位まで包括的に輸送することができる。また、担体に薬剤を封入していることから、担体に封入する薬剤としては多様なものを使用でき、汎用性を持たせることが可能である。さらに、リンパ球、単球、顆粒球、樹状細胞、造血幹細胞、CD34陽性細胞、マクロファージ等を使用することにより、これらの細胞が本来持っている抗腫瘍活性等による標的部位の攻撃と、担体に封入された薬剤による治療を同時に行うことが可能である。
【0108】
また、本発明では担体表面をカチオン化し、親水性高分子で覆っていることから、本発明で用いられる細胞が、薬剤を封入した担体を貪食またはエンドサイトーシス等により、細胞内に取り込み、薬剤が分解または失活してしまうことがないように工夫することもできる。ゆえに、本発明によれば、集積能を有する細胞を用いて薬剤を目的組織に輸送することができることから、送達する薬剤の量を低減することができ、その結果、副作用を抑制することができると共に、薬剤と細胞とによる相乗的な予防および/または治療効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、リンパ球表面に付着するリポソームの量に対するリポソーム添加量とインキュベート時間との相関を示す図である。
【図2】図2は、リポソーム添加量とリンパ球表面に付着した担体の蛍光強度の相関を示す図である。
【図3】図3は、リンパ球の表面に付着したリポソームの写真である。(a )は光学顕微鏡により200倍の倍率で観察したリンパ球の表面に付着したリポソーム、(b)は蛍光顕微鏡により200倍の倍率で観察したリンパ球の表面に付着したリポソームのローダミンの蛍光、(c)は蛍光顕微鏡により200倍の倍率で観察したリンパ球の表面に付着したリポソームのHPTSの蛍光である。
【図4】図4は、リポソームのみを投与したマウスの腫瘍組織切片の写真である。(a)は光学顕微鏡により100倍の倍率で観察したマウスの腫瘍組織切片、(b)は蛍光顕微鏡により100倍の倍率で観察したマウスの腫瘍組織切片のローダミンの蛍光、(c)は蛍光顕微鏡により100倍の倍率で観察したマウスの腫瘍組織切片のHPTSの蛍光である。
【図5】図5は、細胞表面にリポソームを付着させた腫瘍浸潤リンパ球を投与したマウスの腫瘍組織切片の写真である。(a)は光学顕微鏡により100倍の倍率で観察したマウスの腫瘍組織切片、(b)は蛍光顕微鏡により100倍の倍率で観察したマウスの腫瘍組織切片のローダミンの蛍光、(c)は蛍光顕微鏡により100倍の倍率で観察したマウスの腫瘍組織切片のHPTSの蛍光である。
【図6】図6は、細胞表面にリポソームを付着させた腫瘍浸潤リンパ球を投与したマウスの腫瘍組織切片の写真である。(a)は光学顕微鏡により200倍の倍率で観察したマウスの腫瘍組織切片、(b)は蛍光顕微鏡により200倍の倍率で観察したマウスの腫瘍組織切片のローダミンの蛍光、(c)は蛍光顕微鏡により200倍の倍率で観察したマウスの腫瘍組織切片のHPTSの蛍光である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、特定の標的部位への集積能を有する細胞および薬剤を封入した担体を含有し、前記薬剤を封入した担体が運搬可能に前記細胞の表面に付着していることを特徴とする組成物、そしてその使用方法および製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、薬物の研究や製剤技術の進歩に伴い、薬剤、DNA、ペプチドなどを癌(腫瘍)、血管内皮損傷部位、炎症部位などの病巣部(標的部位)に、より安全に効率良く輸送するという点が重要視され、これを達成する手段としての薬物送達システム(Drug Delivery System、DDS)の開発が課題となっている。
【0003】
薬剤を経口や静注等により個体全身に投与すると、病巣部などの標的部位以外の正常組織では、副作用が認められることがあり、治療方法の変更や中断を余儀なくされる場合も見られる。また、薬剤によっては、効果が得られる薬物濃度の維持が困難であったり、標的部位に送達される前に代謝されてしまう場合もある。
【0004】
こうした問題を解決する薬物送達システムの一つとして、リポソーム製剤、ナノスフィア製剤(特表2000−514440号公報)、エマルジョン、またはナノパーティクルなどの閉鎖小胞を薬物運搬体として利用する方法、高分子合成ポリマーミセルなどの高分子運搬体に薬物を包含させる方法が開発されている。これらの製剤においては、表面に抗体やタンパク質を結合させたり、様々なリガンド(特表2001−522871号公報)を結合させることで、標的部位への薬剤の送達効率を上げている。例えば、リポソーム表面にCD44抗体を結合することにより、特異的に腫瘍細胞へ抗腫瘍活性物質を送達することを目的としていることが記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、これらの抗体リポソームは、製剤方法が煩雑であり、また標的となる腫瘍細胞ごとに、対応した抗体を準備しなければならないため、汎用性に欠けることが多い。また、標的部位を腫瘍細胞とした場合、患者の遺伝子型や腫瘍細胞の変異によっては、腫瘍特異抗原を発現しない場合もあるので(G.M.Sprinzl et al.,Cancer Treatment Reviews27,247−255,2001)、必ずしも確実な標的部位への薬剤の送達(ターゲッティング)が行えるとは限らない。一方、ターゲッティングの方法の一つとして、リポソーム表面をカチオン化する技術が研究されている。カチオン化されたリポソームは、血管内皮の損傷部位への集積性があることから、好ましい技術の一つとして挙げられている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
一方、細胞機能の研究や細胞治療の進歩によって、近年、腫瘍に対する細胞移植療法がさかんに行われている。養子免疫療法に代表されるこれらの治療の中では、樹状細胞で刺激されたT細胞(F.O.Nestle et al.,Nature Medicine Vol4,3,328−332,1998)、インターロイキン−2などのサイトカインで刺激されたT細胞(S.A.Rosenberg et al.,J.Natl.Cancer Inst.,Vol85,8,622−632,1993) 、腫瘍浸潤リンパ球(B.Fisheret al.,J.Clin.Oncol.,7,2,250−261,1989) 、ガン細胞と共培養した細胞障害性T細胞、腫瘍特異的ペプチドや腫瘍の溶解産物(Lysate)で刺激されたT細胞などが、腫瘍細胞に集積し、腫瘍細胞を攻撃することが知られている。
【0007】
これまでに、細胞を利用した薬物の送達方法として、血小板を用いた薬物送達システムが記載されている(例えば、特許文献3参照)。このシステムは、薬物を血小板内あるいは血小板上に含有あるいは付着、または薬物を封入した担体を血小板表面に付着させる。そして、寿命が到来した血小板を、その到達部位である肝臓や脾臓に送達させて、薬物を集積させることを目的としている。しかし、肝臓や脾臓以外の部位を標的部位として、この血小板送達システムを利用することは難しい。また、寿命にならなければ,血小板は標的部位である肝臓や脾臓まで送達されないので、比較的早い薬剤の効果を期待する疾患等に使用することが困難であった。
【0008】
特許文献3の血小板を利用した薬物送達システムとして、血小板以外の血球を利用することも考えられる。しかし、好中球やマクロファージでは、貪食能により内部に取りこまれた薬物が、それらの殺菌能により分解されることがあり、またリンパ球ではエンドサイトーシス等により取りこむとエンドサイトーシス小胞の大半は二次リソソームを形成し、取りこまれたものが消化されてしまう場合もある。
【0009】
【特許文献1】
特開平9−110722号公報
【特許文献2】
特開平7−89874号公報
【特許文献3】
特開平8−109142号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、特定の標的部位へ薬剤を的確に送達させ、多様な薬剤を利用することができる組成物、その使用方法および製造方法を提供することである。具体的には、特定の標的部位への集積能を有する細胞および薬剤を封入した担体を含有し、前記薬剤を封入した担体が運搬可能に前記細胞の表面に付着している組成物の有効量を投与することからなる、薬剤の送達および/または輸送方法を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
目的は、下記(1)〜(21)の本発明により達成される。
【0012】
(1)特定の標的部位への集積能を有する細胞と、薬剤を封入した担体とを含有し、該薬剤を封入した担体が運搬可能に前記細胞の表面に付着していることを特徴とする組成物。
【0013】
(2)前記細胞が、リンパ球、単球、顆粒球および樹状細胞からなる群から選択される少なくとも1つの細胞であることを特徴とする(1)に記載の組成物。
【0014】
(3)前記細胞が、造血幹細胞およびCD34陽性細胞からなる群から選択される少なくとも1つの細胞であることを特徴とする(1)に記載の組成物。
【0015】
(4)前記細胞がリンパ球であることを特徴とする(1)または(2)に記載の組成物。
【0016】
(5)前記細胞が末梢血、骨髄または臍帯血に由来することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の組成物。
【0017】
(6)前記担体がリポソーム、ナノスフィア、エマルジョン、ナノパーティクルまたは高分子合成ポリマーミセルであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の組成物。
【0018】
(7)前記担体がリポソームであることを特徴とする(6)に記載の組成物。
【0019】
(8)前記リポソームが、さらにカチオン化剤を有し、さらに親水性高分子脂質誘導体を含むことを特徴とする(6)または(7)に記載の組成物。
【0020】
(9)前記担体が前記細胞に静電的結合により付着していることを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の組成物。
【0021】
(10)前記薬剤が、生物学的または薬理学的に活性な薬剤であることを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載の組成物。
【0022】
(11)前記薬剤が、プロスタグランジン類、ロイコトリエン類、血小板活性化因子、抗腫瘍剤、抗癌剤、抗生物質、抗ウィルス剤、抗癌効果増強剤、免疫増強剤、免疫調節剤、免疫回復剤、放射線増感剤、放射線防護剤、抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、うっ血除去薬、抗真菌剤、抗関節炎薬、抗喘息薬、血管新生阻害剤、酵素剤、抗酸化剤、ホルモン、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、平滑筋細胞の増殖および/または遊走阻害剤、血小板凝集阻害剤、ケミカルメディエーターの遊離抑制剤、血管内皮細胞の増殖促進または抑制剤、サイトカイン成長因子、エリスロポエチン(EPO)、ワクチンあるいはその成分、タンパク質、ムコタンパク質、ペプチド、多糖類、リポ多糖類、アンチセンス、リボザイム、デコイ、核酸または抗体であることを特徴とする(10)に記載の組成物。
【0023】
(12)前記薬剤が、抗癌剤、サイトカイン、抗生物質、抗ウイルス剤、抗炎症剤または核酸であることを特徴とする(10)または(11)に記載の組成物。
【0024】
(13)前記組成物が、薬剤を封入した担体を特定の標的部位へ輸送および/または集積させるために使用されることを特徴とする(1)〜(12)のいずれかに記載の組成物。
【0025】
(14)前記組成物が、疾患の予防および/または治療のために使用されることを特徴とする(1)〜(13)のいずれかに記載の組成物。
【0026】
(15)前記疾患が、腫瘍、自己免疫疾患、感染症、炎症、造血組織疾患、血管新生またはリンパ節に係わる疾患であることを特徴とする(14)に記載の組成物。
【0027】
(16)前記薬剤を封入した担体が、特定の標的部位への集積能を有する細胞の表面に運搬可能に付着していることを特徴とする(1)に記載の組成物。
【0028】
(17)特定の標的部位への集積能を有する細胞と、薬剤を封入した担体とを含有し、該薬剤を封入した担体が運搬可能に前記細胞の表面に付着していることを特徴とする医薬組成物。
【0029】
(18)担体に封入された薬剤を、特定の標的部位への集積能を有する細胞の表面に接触させるようにして、前記薬剤を封入した担体を細胞表面に運搬可能に付着させる(1)〜(17)のいずれかに記載の組成物の製造方法。
【0030】
(19)(1)の組成物を宿主に投与することからなる、担体に封入された薬剤の特定の標的部位への送達および/または輸送方法。
【0031】
(20)予防および/または治療有効量の(1)の組成物を宿主に投与することからなる、疾患の予防および/または治療方法。
【0032】
(21)前記疾患が、腫瘍、自己免疫疾患、感染症、炎症、造血組織疾患、血管新生またはリンパ節に係わる疾患である(20)に記載の疾患の予防および/または治療方法。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る、特定の標的部位への集積能を有する細胞と、薬剤を封入した担体とを含有し、該薬剤を封入した担体が運搬可能に前記細胞の表面に付着していることを特徴とする組成物、その使用方法および製造方法について、詳細に説明する。
【0034】
本発明における「特定の標的部位への集積能を有する細胞」とは、リンパ球、単球、顆粒球、樹状細胞、造血幹細胞、CD34陽性細胞、マクロファージを意味する。細胞の由来は問わないが、末梢血、骨髄または臍帯血に由来する細胞として調製することができる。細胞は、血流中を移動し、標的部位あるいは、その他の細胞から放出されるサイトカインなどの生理活性物質や標的部位に提示され細胞が認識する抗原などに誘導されて、炎症部位や血管新生部位等の特定の標的部位に到達し、滞留する能力を有する。細胞は、組成物として使用される患者または宿主に適合するよう選択することができ、好ましくは組成物の使用の対象となる患者または宿主から得られた細胞である。細胞の由来は哺乳類、好ましくはヒトである。組成物に含まれる細胞は、1種類の細胞を用いてもよいし、標的部位や疾患に応じて2種類またはそれ以上の種類の細胞を一定の割合で組み合わせて使用してもよい。
【0035】
リンパ球とは、主に、B細胞、T細胞、NK(ナチュラルキラー)細胞、NKT(ナチュラルキラーT)のことであり、本発明において、これらの4種類の細胞を、それぞれ単独で用いても2種以上の細胞を併用して(混合した状態で)使用してもよい。リンパ球には、それぞれに活性化した状態と活性化していない状態がある。腫瘍周辺部には活性化したリンパ球が多く存在することから、腫瘍をリンパ球の標的部位とすることができる。腫瘍を標的部位とした場合、活性化T細胞、活性化B細胞、NK細胞またはNKT細胞を用いることができるが、活性化したT細胞を使用することが好ましい。T細胞は、いわゆる免疫療法によって患者に移植される患者本人のT細胞であってもよい。
【0036】
具体的には、患者の腫瘍組織を摘出し、培地中でコラゲナーゼなどの酵素で溶解させて取り出した腫瘍浸潤リンパ球(TIL(Tumor Infiltrating Lymphocyte )、B.Fisher et al.,J.Clin.Oncol,Vol7,2,250−261,1989)を、インターロイキンー2(IL−2)で増殖および活性化したリンパ球、患者末梢血中のリンパ球をIL−2で増殖および活性化したリンパ球(LAK(Lymphocyte−Activated Killer )(S.A.Rosenberg et al.,J.Natl.Cancer Inst.Vol85,8,622−632,1993)、患者末梢血中のCD8陽性細胞と患者腫瘍組織を体外で培養し、抗原提示した後、IL−2で増殖および活性化させた細胞障害性Tリンパ球(CTL(Cytotoxic T Lymphocyte)、S.Shu et al.,J.Immunol.Vol2,143,740−748,1989)ならびに患者の末梢血中のリンパ球と抗原提示された樹状細胞を共培養することで得られるリンパ球などを使用することができる。
【0037】
本発明で使用されるリンパ球の採取方法に特に制限はない。具体的には、患者の末梢血のアフェレーシスや、末梢血、骨髄、臍帯血全血からフィルター、比重遠心、細胞に対するモノクローナル抗体を固定した磁気ビーズ(以下、磁気ビーズとも表記する)などで得られた単核球(単核細胞、以下同じ)のうち非付着性細胞を回収する方法や、この単核球をさらに比重遠心する方法、また、全血から磁気ビーズによって分離する方法やフローサイトメーター等の方法を挙げることができる。
【0038】
また、リンパ球は、炎症を生じている自己免疫疾患および造血組織に係わり、これらの部位に集積することが知られている。したがって、炎症部位、自己免疫疾患を生じている部位および造血組織をリンパ球の標的部位として選択することができる。また、EVウィルスやサイトメガロウィルスなどのウイルス感染症に対して、養子免疫が行われている(C.J.M.Melief,Adv.Cancer Res.58,143−175,1992)ことから、リンパ球の標的部位として、感染部位を選択することができる。
【0039】
単球、顆粒球およびマクロファージは、炎症を生じている標的部位に遊走し、炎症部位を標的部位として攻撃する性質がある。したがって、単球、顆粒球およびマクロファージの標的部位として炎症部位を選択することができる。また、炎症部位の他、自己免疫疾患を生じている部位を、単球および顆粒球の標的部位として選択することができる。さらに、感染部位および血管新生部位を単球の標的部位として選択することができる。
【0040】
NK細胞やB細胞を調製する方法に、特に制限はない。具体的には、アフェレーシスや比重遠心、フィルター、磁気ビーズで得られた単核球からフローサイトメーターによって分離する方法や全血から直接、磁気ビーズによって分離する方法によって得ることができる。NKT細胞については、アフェレーシスや比重遠心、フィルター、磁気ビーズで得られた単核球からフローサイトメーターによって分離する方法が挙げられる。
【0041】
顆粒球とは、好中球、好酸球および好塩基球のことを指す。顆粒球である好中球、好酸球および好塩基球は、本発明において、それぞれ単独で用いても2種以上の細胞を併用して(混合した状態で)使用してもよい。顆粒球を調製する方法に特に制限はない。顆粒球を調製する方法として具体的には、アフェレーシスや比重遠心、フィルター、磁気ビーズで得られた白血球層を含む分画からフローサイトメーターによって分離する方法や、全血から直接、磁気ビーズによって分離する方法によって得ることができる。
【0042】
単球やマクロファージは同様にアフェレーシスや比重遠心、フィルター、磁気ビーズで得られた単核球から付着細胞を回収する方法や単核球をさらに比重遠心する方法、全血から直接磁気ビーズによって分離する方法、全血から直接フローサイトメーターによって選択する方法により得られる。
【0043】
樹状細胞の採取方法に特に制約はない。採取方法の一例として、樹状細胞は、患者末梢血中の単球にインターロイキン−4(IL−4 )、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)などを加えて培養する方法や、末梢血、骨髄、臍帯血からCD34陽性細胞を採取し、GM−CSF、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)などのサイトカインを加えて培養する方法、末梢血からアフェレーシスで単核球分画を採取し、比重遠心する方法によって得られる。得られた樹状細胞を患者の腫瘍組織の溶解産物(Lysate)または腫瘍特異抗原と共に培養することにより、樹状細胞は抗原を取り込みリンパ球に抗原提示できるようになる。したがって、リンパ球が由来する腫瘍やリンパ球に提示する抗原を適宜選択することにより、標的とする腫瘍を決定することができる。また、樹状細胞は、リンパ節に集積する性質があることから、リンパ節を標的部位として選択することができる。
【0044】
造血幹細胞やCD34陽性細胞(CD34+ 細胞)は、末梢血に投与されると骨髄などの造血組織に移動し、血球細胞へと分化することが知られている。これまでに造血器腫瘍や再生不良性貧血の治療に対して、骨髄移植、臍帯血移植、末梢血幹細胞移植が行われている。造血幹細胞やCD34陽性細胞は、骨髄、臍帯血、末梢血中に含まれ、アフェレーシスや血液の比重遠心、磁気ビーズによって分離することができる。したがって、造血組織を造血幹細胞やCD34陽性細胞の標的部位として選択することができる。造血幹細胞やCD34陽性細胞を利用することにより、造血器へこれら細胞を集積させることが可能である。CD34陽性細胞は、その他、腫瘍や血管新生部位に集まることが知られている。したがって、腫瘍や血管新生部位をCD34陽性細胞の標的部位として選択することも可能である(「新しい造血幹細胞移植」,原田実根 他,南江堂,1998年、「リンパ球と血管疾患」,押味和夫 他,中外医学社,1992年、「最新医学幹細胞研究の進歩と臨床応用」,須田年生 他,最新医学社,57巻1号,2002年、「免疫生物学」,笹月健彦 他,南江堂,1995年、「リンパ球機能検索法」,矢田純一 他,中外医学社,1983年、「血液化学」,黒田嘉一郎 他,朝倉書店,1963年、「一目でわかる輸血」,浅井隆善 他,メディカル・サイエンス・インターナショナル,1998年、参照)。
【0045】
本発明で対象となる疾患としては、哺乳動物、好ましくはヒトが罹患する疾患であれば特に制限はないが、具体的には、前述の標的部位と関連して、腫瘍、自己免疫疾患、感染症、炎症、リンパ節に係わる疾患、造血組織疾患、血管新生に係わる疾患が挙げられる。
【0046】
腫瘍としては、例えば、悪性黒色腫、乳癌、肺癌、肝臓癌、前立腺癌、腎癌、偏平上皮ガン、腺癌、移行上皮癌、肉腫、神経膠腫(グリオーマ)、白血病、膵臓癌などが挙げられ、これらの腫瘍については、悪性腫瘍であっても、腫瘍転移したものであっても、本発明の組成物の標的部位とすることができる。自己免疫疾患としては、例えば、慢性関節リウマチや全身性エリテマトーディスなどが挙げられる。感染症としては、例えばウイルス感染、細菌感染、真菌感染および寄生虫感染などが挙げられる。ウイルス感染の原因としては、例えば、EVウィルスやサイトメガロウィルスが挙げられる。細菌感染の原因としては、例えば、サルモネラ菌、リステリア、結核菌などが挙げられる。リンパ節に係わる疾患としては,化膿性リンパ節炎,結核性および/またはBCGリンパ節炎,亜急性壊死性リンパ節炎等が挙げられる。造血器または造血組織に係わる疾患としては、例えば、造血器腫瘍や再生不良性貧血などが挙げられる。血管新生は、腫瘍、血管損傷、虚血、狭窄などの現象を原因として生じることが考えられる。したがって、血管新生に係わる疾患として、例えば、閉塞性動脈硬化症、心筋梗塞、狭心症、再狭窄、脳血管虚血、脚の虚血、肺虚血、糖尿病性腎症、血管新生緑内障、前述の腫瘍、リウマチ性関節炎および乾癬などが挙げられる。
【0047】
本発明における「特定の標的部位」とは、前述のメカニズムにより、細胞が移動または遊走することにより到達し、疾患ごとに標的となっている細胞、組織、器官または臓器等を意味する。本発明の組成物中の細胞が、標的部位に移動または遊走し標的部位に滞留する能力を「集積能」と言う。
【0048】
標的部位に集積する細胞表面には、薬剤を封入した担体が付着しており、集積した細胞が目的とする標的部位に滞留している間、細胞表面に付着した担体は、細胞に付着した状態で標的部位の組織に取り込まれる。標的部位の組織内で、担体は細胞表面で壊され、または細胞内に取りこまれ、担体の内部に封入された薬剤が標的部位と接することにより、標的部位における疾患に対して薬剤の効果が発揮される。
【0049】
本発明における「付着」とは、担体が細胞に取り込まれることなく細胞表面に接着していることを表す。すなわち、本発明の組成物の構成成分である細胞と担体とが、共有結合、静電的結合、疎水的結合(分子間力を含む)、および本発明の組成物に必須および/または必須ではない構成成分によって、ブリッジ的に結合した様式、粘性のある流動体中に細胞と担体を混合して、実質的に両構成成分が一体化して移動できる状態にある結合様式等に例示される結合様式により、完全に離れた状態ではない状態にあることをいう。このような付着の一例としては、 担体表面にカチオン性化合物を配すること(「カチオン化」)により、担体と細胞表面の間に静電結合を生じさせ、担体を細胞に付着させる様式が挙げられる。
【0050】
本発明における「運搬可能」とは、血中などで担体の多くが細胞から脱落することなく特定の標的部位まで到達し、到達した時点で有効量の薬剤を含有した状態にあることを意味する。その結果、細胞表面に付着した薬剤を封入した担体を失うことなく、標的部位へ到達させ、集積させることができる。
【0051】
本発明における「担体」とは、内部に薬剤を含有、封入させることのできる組成物を意味し、リポソーム、エマルジョン、ナノパーティクル、高分子ポリマーミセルなどの高分子運搬体などがあげられる。担体は脂質膜から構成されているものが好ましく、さらに親水性高分子やカチオン化剤を含有することができる。
【0052】
担体の大きさは、目的の薬剤の有効量を封入できる大きさであれば特に制限はなく、好ましくは平均粒子径が50〜200nm、より好ましくは、100〜150nmである。平均粒子径とは、光散乱法により測定される全粒子径の平均値である。平均粒子径が50nmより小さいと、内部に封入する薬剤の量が有効量より少なくなる傾向にある。また、200nmより大きいと、1つの細胞あたりに付着できる担体の量が少なくなるだけでなく、標的部位において担体が表面に付着した細胞が血管外組織に浸潤しにくくなる。
【0053】
本発明で用いられる担体を調製する方法としては、広く公知の方法であれば、特に制限はなく、材料、器具、装置等についても、通常知られたものを使用することができる。
【0054】
本発明で使用される担体の一例としてリポソームが好ましく例示される。一例として、リポソームは、脂質の混合物をt−ブチルアルコールに完全に溶解させ、冷却後、凍結乾燥することにより作製することができる。また、混合脂質に、薬物を溶解させた液体を加えて膨潤させ、超音波で分散させた後、分散体にポリエチレングリコール−フォスファチジルエタノールアミン(PEG−PE)を添加することによりリポソームを得ることもできる。
【0055】
リポソームは後述の親水性高分子を含有し、カチオン化剤によりカチオン化されていることが好ましい。リポソームの好ましい具体例としては、水素化大豆レシチン、コレステロール、3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩をt−ブチルアルコールに溶解させた脂質混合溶液を凍結し、凍結乾燥を行い得られるものである。
【0056】
リポソームを構成する脂質は、リポソームを形成できるものであれば特に限定されないが、生体内において安定なリポソームを提供するという点から、生体材料由来の脂質、リン脂質あるいはその誘導体、リン脂質以外の脂質あるいはその誘導体が好適に用いられる。リン脂質として具体的には、例えば、ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、カルジオリビン等の天然または合成のリン脂質、あるいはこれらを常法に従って、水素添加したものが挙げられる。
【0057】
また、エマルジョンは、以下に例示されるようにして調製される。ポリヒドロキシ酪酸をクロロホルムに溶解させ、これを予め、プルロニック(F−68)添加したポリビニールアルコール水溶液に加える。攪拌した後、油相中のポリマーを固化させ、減圧乾燥させることによって得られる(特開2002−017848参照)。
【0058】
ナノパーティクルは、マクロモノマー法を利用し、分散重合することで表面に水溶性マクロモノマーが局在し、内部が疎水性ポリマーからなるナノパーティクルを調製することができる(特開平08−268916号公報参照)。
【0059】
高分子ポリマーミセルは、水難溶性薬物と特定の共重合体を水非混和性有機溶媒で溶解し、水と混合して、O/W型エマルジョンを形成し、次いで得られたエマルジョンから有機溶媒を蒸発除去することによって得られる(特開2001−226294号公報参照)。
【0060】
担体の表面をカチオン化する方法に特に制限はないが、カチオン化剤により担体表面をカチオン化する方法が好適に例示される。カチオン化剤としては、生理的pH範囲内で陽電荷を帯びる塩基性化合物が好ましく使用される(例えば、特開2001−55343号公報参照)。「生理的pH」とは、生体内、主に、血液中でのpH範囲であり、具体的には、pH4.0〜10.0が好ましく、より好ましくは、6.0〜8.0の範囲である。
【0061】
その他、本発明で使用可能なカチオン化剤としては、例えば脂肪族第一級アミノ基、脂肪族第二級アミノ基、脂肪族第三級アミノ基、脂肪族第四級アミノ基、アミジノ基、グアニジノ基、芳香族第一級アミノ基、芳香族第二級アミノ基、芳香族第三級アミノ基、芳香族第四級アミノ基を有し、これらの基を直接あるいは適度なスペーサーを介して、長鎖脂肪族アルコール、ステロール、ポリオキシプロピレンアルキル、またはグリセリン脂肪酸エステル等の疎水性化合物と結合させた脂質誘導体が挙げられる。担体がリポソームである場合、(これらのうち、)3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩が好適に例示される。
【0062】
カチオン化剤の含有量は、担体が細胞に付着でき、または特定の標的部位に細胞が集積できる範囲であれば、特に制限はない。カチオン化剤の含有量には至適濃度があり、3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩の場合、含有量がmol比で4%未満であると、担体の細胞表面への付着量が少ない傾向があるが、15%になると細胞が壊れることが有り得る。したがって、3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩の濃度は、好ましくは4%以上15%未満、より好ましくは、6%以上12%未満、特に好ましくは、8%以上10%未満である。
【0063】
本発明で使用される担体は、表面が親水性高分子により修飾されていることが好ましい。親水性高分子の添加は、オプソニンとしての各種血漿蛋白の担体表面への付着を防ぎ、担体の血中での凝集を防止し、肝臓、脾臓等の細網内皮系組織による担体の捕捉を回避することを可能にする。同様の理由により、マクロファージなどの貪食細胞による捕捉も回避することができる。
【0064】
担体表面に親水性高分子を導入するには、様々な方式が挙げられ、特に限定されない。例えば、該親水性高分子を長鎖脂肪族アルコール、ステロール、ポリオキシプロリンアルキル、またはグリセリン脂肪酸エステル、リン脂質等の疎水性化合物と結合させて、該疎水性化合物の部分を担体膜へ挿入する方法が好ましい。
【0065】
親水性高分子の脂質誘導体は、担体の構造安定を損なうものでなければ特に限定されず、例えば、ポリエチレングリコール、デキストラン、プルラン、フィコール、ポリビニルアルコール、スチレン−無水マレイン酸交互共重合体、ジビニルエーテル−無水マレイン酸交互共重合体、合成ポリアミノ酸、アミロース、アミロペクチン、キトサン、マンナン、シクロデキストリン、ペクチン、カラギーナンまたはこれらが複合体を形成したもの等の脂質誘導体が挙げられる。これらのうち、ポリエチレングリコールおよびポリエチレングリコール脂質誘導体が好ましい。ポリエチレングリコール脂質誘導体としては、特に限定されないが、ポリエチレングリコール鎖とジアシルグリセロールを1分子内に有する化合物であるのが好ましい。担体がリポソームである場合、親水性高分子としては、例えばPEG−PEが好ましい。
【0066】
親水性高分子の重量平均分子量は、1000〜7000であるのが好ましく、この範囲の重量平均分子量を持つポリエチレングリコールおよびポリエチレングリコールの脂質誘導体は、血中滞留性を向上させる効果があり、好ましい。
【0067】
親水性高分子脂質誘導体の配合量は、その分子量や添加方法にもよるが、生理的pH範囲で陽電荷を帯びる塩基性化合物および担体を構成する脂質の和に対して、0.2〜1mol%が望ましく、さらには、0.3〜0.8mol%が望ましく、さらには、0.4〜0.6mol%が望ましい。この範囲より少ないと、担体表面への蛋白吸着を防止しにくく、血中安定性が悪くなる場合がある。一方、この範囲より多いと、分子量の大きい親水性高分子脂質誘導体が担体表面を覆うことにより、担体表面に添加したカチオン化剤が作用しにくくなり、細胞表面への付着の程度が不足する傾向にある。
【0068】
担体は他の成分を含有することができる。担体の安定化剤としては、膜流動性を低下させるコレステロールなどのステロール、あるいはグリセロール、シュクロースなどの糖類が使用される。また、担体の酸化防止剤としては、トコフェロール同族体すなわちビタミンEなどが挙げられる。トコフェロールには、α,β,γ,δの4個の異性体が存在するが、本発明においてはいずれも使用できる。その他の担体の表面修飾剤としては、グルクロン酸、シアル酸、デキストランなどの水溶性多糖類の誘導体等が挙げられる。
【0069】
担体に封入される薬剤としては、薬物担体の形成を損ねないかぎり特に限定されるものでなく、生物学的または薬理学的に活性な薬剤であればいかなる薬剤でも使用できる。薬剤として具体的には、プロスタグランジン類、ロイコトリエン類、血小板活性化因子、などが挙げられる。他の具体例として、抗腫瘍剤、抗癌剤、抗生物質、抗ウィルス剤としては、シスプラチンなどのブレオマイシン類、マイトマイシンCなどのマイトマイシン類、アドリアマイシンなどのアントラサイクリン系抗腫瘍性化合物、5−フルオロウラシルなどのポドフィロトキシン誘導体、ナイトロジェンマスタード類、アルキルスルホン類、メソトレキセートなどの葉酸代謝拮抗剤等の抗腫瘍剤;ペニシリン系抗生物質、セファロスポリン系抗生物質などのβ−ラクタム系抗生物質、アミノグリコシド系抗生物質、マクロライド系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質、ペプチド系抗生物質、抗かび性抗生物質等の抗生物質;アシクロビル、 ガンシクロビル、 塩酸バラシクロビル、ビダラビン、ザルシダビン、ホスカルネット、ジドブジン、 ラミブジン、ジダノシン、アジドチミジン等の核酸合成阻害型の抗ウイルス剤、アマンタジン、ザナミビル、オセルタミビル等の細胞内侵入抑制型の抗ウイルス剤、インターフェロン、イソプリノシン等の宿主感染防御能亢進型の抗ウイルス剤;等が挙げられる。
【0070】
その他、薬剤には、抗癌効果増強剤、免疫増強剤、免疫調節剤、免疫回復剤、放射線増感剤、放射線防護剤、抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、うっ血除去薬、抗真菌剤、抗関節炎薬、抗喘息薬、血管新生阻害剤、酵素剤、抗酸化剤、ホルモン、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、平滑筋細胞の増殖および/または遊走阻害剤、血小板凝集阻害剤、ケミカルメディエーターの遊離抑制剤、血管内皮細胞の増殖促進または抑制剤も含まれる。
【0071】
さらに、インターフェロンα、β、γなどのインターフェロン(IFN) 類、インターロイキン(IL)1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23などのインターロイキン類、腫瘍壊死因子(TNF)類、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)などのコロニー刺激因子類、幹細胞因子(SCF)、β型トランスフォーミング増殖因子(TGF−β)、肝細胞増殖因子(HGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)等のサイトカイン、成長因子、エリスロポエチン(EPO)、ワクチンあるいはその成分、タンパク質、ムコタンパク質、ペプチド、多糖類、リポ多糖類、アンチセンス、リボザイム、デコイ、核酸、抗体などが挙げられる。
【0072】
これらのうち、生物学的または薬理学的に活性な薬剤として、抗癌剤(抗腫瘍剤)、サイトカインまたは抗生物質などが好ましい。これらの薬剤が担体の内部に封入される際、使用目的に応じ、1種類の薬剤のみが担体に封入されてもよいし、2種類以上の薬剤が担体に封入されてもよい。
【0073】
本発明で使用される担体の好適な具体例であるリポソームは、リンパ球などの特定の標的部位への集積能を有する細胞を懸濁した無血清培地に、リポソームを添加して37℃、5%CO2 雰囲気下で15分以上、望ましくは30分以上静置することで、リポソームと細胞表面に静電結合が形成され、リポソームが細胞表面に付着する。
【0074】
リンパ球等の細胞表面に付着するリポソームの数も重要である。細胞表面へのリポソームの付着量は、細胞の数に対するリポソームの添加量によって調節することができる。細胞表面に付着するリポソームの好ましい量は、リポソームの大きさ、細胞の種類や大きさによって異なるが、例えば細胞105 個に対して、リポソームが0.01μmolより少ないと細胞に付着する量が少なくなり、標的部位への効果的な薬物の輸送が行えないこともある。一方、細胞表面にある抗原認識部位は、約数〜数10nmであるから、直径約100nmのリポソームが多く付きすぎると、抗原認識部位を隠してしまう。したがって、細胞105 個に対して、リポソームが0.01〜0.2μmolの付着が望ましく、さらには、0.03〜0.15μmol、さらには、0.05〜0.1μmolが望ましい。
【0075】
本発明において、「組成物」とは薬剤を封入した担体と特定の標的部位への集積能を有する細胞とを含有し、該担体が細胞表面に運搬可能に付着しているものを意味する。組成物は薬剤を特定の標的部位に送達するために使用される。したがって、本発明の組成物は、担体に封入した薬物を特定の標的部位に輸送および/または集積させるため、もしくは疾患の予防および/または治療を目的として、宿主(患者)に非経口的に全身あるいは局所的に投与することができる。
【0076】
投与対象の宿主としては、哺乳動物、好ましくはヒト、サル、ネズミ、家畜等が挙げられる。非経口的投与の経路としては、例えば、点滴などの静脈内注射(静注)、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、皮内注射、腫瘍内注射を挙げることができ、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。
【0077】
本発明の組成物は、病気に既に悩まされる患者に、病気を治癒するか、あるいは少なくとも症状を緩和するために、十分な量で投与される。例えば、細胞に付着される担体に封入される薬剤の有効投与量は、一日につき体重1kgあたり0.01〜100mgの範囲で、適宜選ばれる。あるいは、患者あたり0.1〜1000mg、好ましくは0.1〜80mgの投与量を選ぶことができる。しかしながら、本発明の組成物は、これらの投与量に制限されるものではない。投与時期は、疾患が生じてから投与してもよいし、あるいは疾患の発症が予測される時に発症時の症状緩和のために予防的に投与してもよい。また、投与期間は、患者の年齢、症状等により適宜選択することができる。
【0078】
本発明の組成物は、本発明の特性を損わない範囲で、投与経路次第で医薬的に許容される添加物を共に含むものであってもよい。このような添加物の具体例として、水、生理食塩水、医薬的に許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、ジグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、PBS、生体内分解性ポリマー、無血清培地、医薬添加物として許容される界面活性剤あるいは生体内で許容し得る生理的pHの緩衝液などが挙げられる。
【0079】
使用される添加物は、剤型に応じて上記の中から適宜あるいは組合せて選択されるが、1種単独で用いても、2種以上を併用して用いることもできる。前述の添加物を含むように調製された組成物を、医薬組成物として供することができる。
【0080】
本発明の組成物は、通常の方法にしたがい保存することができる。例えば、実施例6に示す培地に懸濁させ、培養バッグに入れる保存方法では、37℃、5%CO2 雰囲気下で、3週間程度保存することができる。また、同様の方法で調製した組成物を液体窒素中で−196℃にて凍結保存することができる。すなわち、本発明の組成物を10%DMSO(ジメチルスルホキシド)と1%デキストラン40を含んだ生理食塩水に懸濁し、凍結保存バッグに入れて凍結保存することもできる。このように担体を細胞に付着させて組成物を調製し、これを一定期間の保存の後に使用することも可能であるが、担体と細胞とを別々に保存し、使用直前に担体を細胞に付着するように調製して投与することも可能である。
【0081】
本発明の組成物の具体的な投与方法としては、特に制限はないが、一例として、担体を付着させた細胞を生理食塩水、PBS、デキストラン40、および、それらにアルブミンを添加した溶液、血小板除去血漿画分(Platelet Poor Plasma)に懸濁させ、注射や点滴によって投与する方法を挙げることができる。また、生体由来物質、例えば、アルブミンや血漿を添加せずに、もしくは除去して調製した組成物(生体由来物質を含有しない組成物)を投与することも可能である。さらに、担体を付着させた細胞を生理食塩水あるいは無血清培地に懸濁し、得られた懸濁液を患者や宿主に投与することもできる。組成物を投与するために、カテーテルを患者または宿主の体内、例えば、管腔内、血管内に挿入して、その先端を標的部位付近に導き、当該カテーテルを通して、標的部位またはその近傍、あるいは標的部位への血流が期待される部位から投与することも可能である。
【0082】
実施例に示すように、本発明の組成物を腫瘍担持動物に投与すると、担体が付着した細胞は標的とする腫瘍部位への集積が認められた。本発明の組成物は、標的部位での滞留性に優れており、1回の投与後、約72時間後から標的部位に集積し始め、2〜3日後をピークに集積することが多い。その後、順次、集積した場所で担体は標的部位に移行し、細胞と薬剤の効果が発揮される。組成物の投与後、抗腫瘍活性を観察するためには、一定時間経過の後、腫瘍の外径または重量等を測定し、腫瘍組織の縮小の程度を調べることにより評価することができる。
【0083】
【実施例】
以下にリポソームを担体の具体例とした実施例を示し、本発明を更に詳細に説明するが、これら実施例に限定されるものではない。
【0084】
実施例1 ローダミン−HPTSラベルしたリポソームの調製
1)水素化大豆レシチン(Lipoid社)0.5mmol、コレステロール(Solvay社製)0.42mmol、3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩(常興薬品社製)0.08mmol、蛍光色素ローダミンDHPE(LissamineTM、rhodamine B,2−dihezadecanoyl−sn−glycero 3−phosphoethanolamine 、triethylammonium salt 、Molecular Probes社) 4μmolをt−ブチルアルコール30mlに溶解させた脂質混合溶液を氷浴で凍結し、一晩凍結乾燥を行い、リポソームの脂質膜の原料となる脂質混合物を得た。
【0085】
2)PBS10mlに蛍光色素HPTS(8−hydroxypyrene−1,3,6−trisulfonic acid, trisodium salt、Molecular Probes社) 0.2mmolを溶解させ、リポソームに封入される内水層溶液を作製した。
【0086】
1)の手法により得られた脂質混合物1.0mmolに内水層溶液10mlを加え、65℃で10分間加温し、5分間超音波処理することにより、リポソーム分散液を得た。これを孔径0.4μmのポリカーボネートフィルム(Nucleopore、Corning Coster社製)を用いて圧送し、ついで、0.2μm、0.1μmのポリカーボネートフィルムを用いて圧送することによって整粒を行った。このリポソーム分散液に、予め調製しておいたPEG−PE(PEG5000−DSPE,重量平均分子量5938、Genzyme社製)を、リポソームの脂質に対して0.5mol%になるようにPBSに溶解して等容量加えた後、60℃で30分加温した。このようにして、表面がPEG−PEで修飾され、内部に蛍光色素HPTSが封入されたリポソーム分散液を得た。平均粒子径は100nmであった。
【0087】
実施例2 PEG−PEと3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩の添加量の設定
PEG−PEの濃度を、リポソームの脂質に対して、0、0.5、1.0mol%、カチオン化剤3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩の濃度を4、8、15mol%に設定し、実施例1の方法でリポソームの脂質膜がローダミンでラベルされたリポソームを調製し、1mMになる様にPBSに懸濁した。このリポソーム懸濁液30μlと1×106 個のリンパ球とを0.3mlのPBSに懸濁した溶液に添加した。軽く混和した後、37℃5%CO2 雰囲気下で1 時間インキュベートした。なお、リンパ球は、PBSを入れたシリンジでマウス脾臓中の細胞を洗い出し、0.83%塩化アンモニウム水溶液で溶血、洗浄して得た。インキュベート後、4℃で2000rpm(400g(重力))で3分遠心分離し、沈殿物を2回洗浄した。この沈殿物にRIPA buffer(Tris(hydroxymethyl)aminomethane 50mM,NaCl 150mM,sodium deoxycholate 0.5%(W/V), NP−40(Calbiochem,Novabiochem社製)1%(W/V), SDS0.1%(W/V))0.3mlを添加し、リンパ球とリポソームとを溶解し、その200μlを蛍光測定用プレートに滴下した。マイクロプレートリーダー(Labsystems iEMS reader MF)で励起波長544nm、蛍光波長590nmを用いてローダミンの蛍光強度を測定した。結果を下記の表1に示した。
【0088】
【表1】
【0089】
PEG−PEが0%の時、リポソームは著しくリンパ球に付着したが、1.0%の時は、リポソームの付着を阻害した。一方、3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩は、濃度が高い程、リンパ球に付着したが、15%の時には、細胞が回収できず、処理中に細胞が壊れたと推測した。
【0090】
実施例3 リポソーム添加量およびインキュベート時間の検討
実施例1の方法で、水素化大豆レシチン:コレステロール:3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩のmol比が、50:42:8で、PEG−PE0.5mol%を脂質膜に含み、蛍光色素ローダミンでラベルしたリポソームを調製した。このリポソームを1mMになる様にPBSに懸濁させ、リンパ球1×106 個を、PBS0.3mlに懸濁させた液に15、30、60μl添加した。これを、37℃、5%CO2 雰囲気下で30、60、120分インキュベートした後、2000rpm×5分で遠心して、上清を除去し、PBSで2回洗浄した。RIPA buffer0.4ml中で溶解させた後、マイクロプレートリーダーで励起波長544nm、蛍光波長590nmを用いてローダミンの蛍光強度を測定した。結果を下記の表2、図1に示した。この結果より、インキュベート時間は、リポソームとリンパ球の付着に影響を与えず、リポソームの添加量がリンパ球への付着量を決定していると考えた。
【0091】
【表2】
【0092】
実施例4 腫瘍浸潤リンパ球の作製
近交系マウスC57BL6N(日本チャールス・リバー社製)の背部に、マウスB16メラノーマ(ATCC No.CRL−6322、東北大学加齢医学研究所付属医用細胞資源センターより譲渡された)1×106 個を皮下注射した。14日後に脾臓および腫瘍組織を取り出し、DNase(Sigma社製)、Collagenase(和光純薬社製)、Hyaluronidase(Sigma社製)で腫瘍組織を溶かした後、100μmのメッシュでろ過し、PBSで2回洗浄した。リンパ球は、PBSを入れたシリンジで脾臓中の細胞を洗い出し、0.83%塩化アンモニウム水溶液で溶血、洗浄して得た。腫瘍組織から得られた細胞とリンパ球を合わせ、インターロイキン−2(ヒトIL−2、Sigma社製)を10U/ml加えた10%FBSを含むRPMI1640(FBS,BIOSOURCE社製、RPMI1640,Sigma社製)中に2×105 /mlになるように懸濁させ、37℃5%CO2 雰囲気下で1時間、培養した。浮遊細胞を回収し、腫瘍浸潤リンパ球とした。インターロイキン−2を10U/ml加えた10%FBSを含むRPMI中で、腫瘍浸潤リンパ球を7日間37℃5%CO2 雰囲気下で培養した。
【0093】
実施例5 腫瘍浸潤リンパ球とリポソームの付着
リンパ球2×105 個に対し、実施例1の方法で1mMに調製した蛍光色素ローダミンDHPEおよび蛍光色素HPTSでラベルした実施例3のリポソームを100μl添加し、無血清培地RPMI1640の0.3ml中で37℃で1時間インキュベートした。2000rpm×5分で遠心後、上清を除去し、PBSで2回洗浄した。RIPA buffer0.4ml中で溶解させた後、マイクロプレートリーダーで、励起波長544、蛍光波長590nmでローダミンの蛍光強度を測定した。リポソームを付着させたリンパ球群では蛍光強度が138であり、リンパ球へのリポソームの付着量は0.05μmol/105 cellsであった。結果を下記の図2、表3に示した。
【0094】
【表3】
【0095】
実施例6 リポソームを付着させたリンパ球の観察
実施例5でリポソームを細胞表面に付着させたリンパ球を調製培地中で72時間培養後、トリパンブルー染色し、顕微鏡観察によってリンパ球の生存を確認した。さらに蛍光顕微鏡により観察したところ、リンパ球は細胞表面にリポソームを付着させたまま生存していることを確認した(図3a:光学顕微鏡による観察像,b:ローダミンの励起波長544nmの光を照射して、ローダミンの蛍光波長590nmを観察した蛍光顕微鏡像、c:HPTSの励起波長450nmの光を照射して、HPTSの蛍光波長510nmを観察した蛍光顕微鏡像)。調製培地の組成は以下の通り。RPMI1640、FBS10%、インターロイキン−2(IL−2)10U/ml、sodium pyruvate1mM、nonessentialaminoacids0.1mM、Penicillin100U/mlおよびStreptomycin100μg/ml(Penicillin−streptomycin、 GIBCO社製)、2−mercaptoethanol5×10−5M(Aldrich社製)。
【0096】
実施例7 腫瘍浸潤リンパ球によるリポソームの輸送
背部にB16メラノーマを1×106 個皮下注射してから14日後のC57BL6Nマウスに、実施例5で調製したリポソーム0.05μmolを細胞表面に付着させた腫瘍浸潤リンパ球1×105 個を尾静脈注射した。72時間後、腫瘍組織を回収し、蛍光顕微鏡にて病理切片を観察した(結果を図5、6に示す。図5a:光学顕微鏡像、b:ローダミンの励起波長544nmの光を照射して、ローダミンの蛍光波長590nmを観察した蛍光顕微鏡像、c:HPTSの励起波長450nmの光を照射して、HPTSの蛍光波長510nmを観察した蛍光顕微鏡像である。図6a:,b:,c:は,それぞれ図5a:,b:,c:の一部を拡大した図である)。
【0097】
コントロール群として、背部にB16メラノーマを1×106 個皮下注射してから14日後のC57BL6Nマウスに、実施例5で調製したリポソーム0.05μmolのみ(リンパ球なし)を尾静脈注射し、72時間後、腫瘍組織の病理切片を観察した(結果を図4に示す。図4a:光学顕微鏡像、b:ローダミンの励起波長544nmの光を照射して、ローダミンの蛍光波長590nmを観察した蛍光顕微鏡像、c:HPTSの励起波長450nmの光を照射して、HPTSの蛍光波長510nmを観察した蛍光顕微鏡像)。
【0098】
リポソームのみを投与した群では、腫瘍組織中にリポソームの脂質膜内に存在する蛍光色素ローダミンDHPEと、リポソームの内部に封入された蛍光色素HPTSのいずれも観察されなかったが、一方、細胞表面にリポソームを付着させた腫瘍浸潤リンパ球を投与した群では、腫瘍組織中にリポソームの脂質膜内に存在するローダミンDHPEとリポソームの内部に封入されたHPTSが共に観察され、リポソームが腫瘍組織に輸送および集積されたことが示された。
【0099】
実施例8 抗癌剤を封入したリポソームの調製
ジパルミトイルホスファチジルコリン:コレステロール:3,5−ジペンタデシロキシベンズアミジン塩酸塩(カチオン化剤)のmol比が、18:10:2.5になるように調製した脂質混合物100mgに対して、1mlの0.3Mクエン酸緩衝液(pH4.0)を加え攪拌した(ジパルミトイルホスファチジルコリン、日本油脂社製)。さらに、5回の凍結融解を繰り返し、リポソーム分散液を得た。これを孔径0.2μmのポリカーボネートフィルムを用いて圧送し、ついで、0.1μmのポリカーボネートフィルムを用いて圧送することによって整粒を行った。このリポソーム分散液を1M NaOH溶液で中和した後、脂質重量に対して1/10重量の抗癌剤塩酸ドキソルビシン(アドリアマイシン、協和発酵工業株式会社製)を添加し、塩酸ドキソルビシンを内部に封入したリポソームを得た。予め調製しておいたこのリポソーム分散液に、PEG−PEをリポソームの脂質に対して0.5mol%になるように添加し、60℃30分加温した。この様にして、表面がPEG−PEで修飾されているアドリアマイシン封入リポソーム分散液を得た。
【0100】
実施例9 リポソームを付着した腫瘍浸潤リンパ球によるB16メラノーマの抗腫瘍効果
1)アドリアマイシンを封入したリポソームと腫瘍浸潤リンパ球の付着
実施例8の方法で内部にアドリアマイシンを封入したリポソームを調製する。同様に実施例4の方法でC57BL6Nマウスの腫瘍浸潤リンパ球を採取する。1mMに調製したリポソーム100μlを腫瘍浸潤リンパ球2×105 個に添加し、無血清培地RPMI1640 0.3ml中で37℃で1時間インキュベートする。2000rpm×5分で遠心後、上清を除去し、PBSで2回洗浄する。
【0101】
2)リポソームを付着した腫瘍浸潤リンパ球の投与
C57BL6Nマウスの背部にB16メラノーマを1×105 個皮下注射する。1)で調製した細胞表面に、アドリアマイシンを封入したリポソームが付着した腫瘍浸潤リンパ球1×107 個をPBSに懸濁し、メラノーマの投与直後に尾静脈注射する。
【0102】
コントロール1として、C57BL6Nマウスの背部にB16メラノーマを1×105 個皮下注射し、リポソームを付着していない腫瘍浸潤リンパ球1×107 個をメラノーマの投与直後に尾静脈注射する。
【0103】
コントロール2として、C57BL6Nマウスの背部にB16メラノーマを1×105 個皮下注射する。
【0104】
コントロール3として、C57BL6Nマウスの背部にB16メラノーマを1×105 個皮下注射し、5μmolのリポソーム(リンパ球なし)をメラノーマの投与直後に尾静脈注射する。
【0105】
14日後、コントロール2のマウスでは、直径約2.5〜3.0cmの腫瘍組織が確認できる。一方、コントロール1では、腫瘍組織は直径約1.5〜2.0cmに縮小する。コントロール3では、腫瘍組織は直径約2.5〜3.0cmである。
【0106】
一方、アドリアマイシンを封入したリポソームを細胞表面に付着したリンパ球を投与したマウスでは、腫瘍組織の大きさは、コントロール1〜3のマウスよりも小さく、その縮小の程度は、リポソームまたはリンパ球を単独で投与した場合の各々の縮小の程度を足した値より大きいことが観察できる。この結果より、腫瘍浸潤リンパ球が、アドリアマイシンを封入したリポソームを腫瘍組織まで送達し、腫瘍浸潤リンパ球と抗癌剤両方による相乗的な抗腫瘍効果が示される。
【0107】
【発明の効果】
本発明では、薬剤を封入した担体が、特定の標的部位への集積能を有する細胞に付着している。したがって、特定の標的部位への集積能を有する細胞により、担体に封入した薬剤を効果的に特定の標的部位まで送達することができる。本発明では、患者本人の細胞を使用することも可能なので、より安全かつ特異的に、細胞を特定の標的部位まで包括的に輸送することができる。また、担体に薬剤を封入していることから、担体に封入する薬剤としては多様なものを使用でき、汎用性を持たせることが可能である。さらに、リンパ球、単球、顆粒球、樹状細胞、造血幹細胞、CD34陽性細胞、マクロファージ等を使用することにより、これらの細胞が本来持っている抗腫瘍活性等による標的部位の攻撃と、担体に封入された薬剤による治療を同時に行うことが可能である。
【0108】
また、本発明では担体表面をカチオン化し、親水性高分子で覆っていることから、本発明で用いられる細胞が、薬剤を封入した担体を貪食またはエンドサイトーシス等により、細胞内に取り込み、薬剤が分解または失活してしまうことがないように工夫することもできる。ゆえに、本発明によれば、集積能を有する細胞を用いて薬剤を目的組織に輸送することができることから、送達する薬剤の量を低減することができ、その結果、副作用を抑制することができると共に、薬剤と細胞とによる相乗的な予防および/または治療効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、リンパ球表面に付着するリポソームの量に対するリポソーム添加量とインキュベート時間との相関を示す図である。
【図2】図2は、リポソーム添加量とリンパ球表面に付着した担体の蛍光強度の相関を示す図である。
【図3】図3は、リンパ球の表面に付着したリポソームの写真である。(a )は光学顕微鏡により200倍の倍率で観察したリンパ球の表面に付着したリポソーム、(b)は蛍光顕微鏡により200倍の倍率で観察したリンパ球の表面に付着したリポソームのローダミンの蛍光、(c)は蛍光顕微鏡により200倍の倍率で観察したリンパ球の表面に付着したリポソームのHPTSの蛍光である。
【図4】図4は、リポソームのみを投与したマウスの腫瘍組織切片の写真である。(a)は光学顕微鏡により100倍の倍率で観察したマウスの腫瘍組織切片、(b)は蛍光顕微鏡により100倍の倍率で観察したマウスの腫瘍組織切片のローダミンの蛍光、(c)は蛍光顕微鏡により100倍の倍率で観察したマウスの腫瘍組織切片のHPTSの蛍光である。
【図5】図5は、細胞表面にリポソームを付着させた腫瘍浸潤リンパ球を投与したマウスの腫瘍組織切片の写真である。(a)は光学顕微鏡により100倍の倍率で観察したマウスの腫瘍組織切片、(b)は蛍光顕微鏡により100倍の倍率で観察したマウスの腫瘍組織切片のローダミンの蛍光、(c)は蛍光顕微鏡により100倍の倍率で観察したマウスの腫瘍組織切片のHPTSの蛍光である。
【図6】図6は、細胞表面にリポソームを付着させた腫瘍浸潤リンパ球を投与したマウスの腫瘍組織切片の写真である。(a)は光学顕微鏡により200倍の倍率で観察したマウスの腫瘍組織切片、(b)は蛍光顕微鏡により200倍の倍率で観察したマウスの腫瘍組織切片のローダミンの蛍光、(c)は蛍光顕微鏡により200倍の倍率で観察したマウスの腫瘍組織切片のHPTSの蛍光である。
Claims (17)
- 特定の標的部位への集積能を有する細胞と、薬剤を封入した担体とを含有し、該薬剤を封入した担体が運搬可能に前記細胞の表面に付着していることを特徴とする組成物。
- 前記細胞が、リンパ球、単球、顆粒球および樹状細胞からなる群から選択される少なくとも1つの細胞であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
- 前記細胞が、造血幹細胞およびCD34陽性細胞からなる群から選択される少なくとも1つの細胞であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
- 前記細胞がリンパ球であることを特徴とする請求項1または2に記載の組成物。
- 前記細胞が末梢血、骨髄または臍帯血に由来することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
- 前記担体がリポソーム、ナノスフィア、エマルジョン、ナノパーティクルまたは高分子合成ポリマーミセルであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
- 前記担体がリポソームであることを特徴とする請求項6に記載の組成物。
- 前記担体が前記細胞に静電的結合により付着していることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
- 前記薬剤が、生物学的または薬理学的に活性な薬剤であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の組成物。
- 前記薬剤が、プロスタグランジン類、ロイコトリエン類、血小板活性化因子、抗腫瘍剤、抗癌剤、抗生物質、抗ウィルス剤、抗癌効果増強剤、免疫増強剤、免疫調節剤、免疫回復剤、放射線増感剤、放射線防護剤、抗ヒスタミン剤、抗炎症剤、うっ血除去薬、抗真菌剤、抗関節炎薬、抗喘息薬、血管新生阻害剤、酵素剤、抗酸化剤、ホルモン、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、平滑筋細胞の増殖および/または遊走阻害剤、血小板凝集阻害剤、ケミカルメディエーターの遊離抑制剤、血管内皮細胞の増殖促進または抑制剤、サイトカイン成長因子、エリスロポエチン(EPO)、ワクチンあるいはその成分、タンパク質、ムコタンパク質、ペプチド、多糖類、リポ多糖類、アンチセンス、リボザイム、デコイ、核酸または抗体であることを特徴とする請求項9に記載の組成物。
- 前記薬剤が、抗癌剤、サイトカイン、抗生物質、抗ウイルス剤、抗炎症剤または核酸であることを特徴とする請求項9または10に記載の組成物。
- 前記組成物が、薬剤を封入した担体を特定の標的部位へ輸送および/または集積させるために使用されることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の組成物。
- 前記組成物が、疾患の予防および/または治療のために使用されることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の組成物。
- 前記疾患が、腫瘍、自己免疫疾患、感染症、炎症、造血組織疾患、血管新生またはリンパ節に係わる疾患であることを特徴とする請求項13に記載の組成物。
- 前記薬剤を封入した担体が、特定の標的部位への集積能を有する細胞の表面に運搬可能に付着していることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
- 特定の標的部位への集積能を有する細胞と、薬剤を封入した担体とを含有し、該薬剤を封入した担体が運搬可能に前記細胞の表面に付着していることを特徴とする医薬組成物。
- 担体に封入された薬剤を、特定の標的部位への集積能を有する細胞の表面に接触させるようにして、前記薬剤を封入した担体を細胞表面に運搬可能に付着させる請求項1〜16のいずれかに記載の組成物の製造方法。
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