JP2004228222A - レーザ装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】光学素子(過飽和吸収体23)に対する入力レーザ光の照射位置を、該入力レーザ光の照射により劣化していない部分に移動させる移動手段(コントローラ55及び可動ステージ56)を設ける。
【選択図】 図2
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、レーザ発生装置やレーザ加工装置等のレーザ装置に関し、特に、過飽和吸収体等のように、入力レーザ光により照射された部分が劣化することで少なくとも出力レーザ光の強度が低下する光学素子を備えたものの技術分野に属する。
【0002】
【従来の技術】
近年、ピコ秒やフェムト秒といった非常に短いパルス幅を持つ超短パルスレーザ光を用いて被加工物を加工するレーザ加工技術に注目が集まっている。このような超短パルスレーザ光を用いた加工は、一般に、アブレーション加工と呼ばれており、他のレーザ加工方法による熱加工とは加工メカニズムが大きく異なる。
すなわち、アブレーション加工では、繰り返し周波数を適切な値に設定することにより、被加工物に熱を与えずに物質の表層だけを切削する、所謂コールドマシーニングが可能であり、これにより、エネルギー効率が良く、加工周囲への熱影響が小さいといった効果が得られる。
【0003】
上記のような超短パルスレーザ光を発生させるために、レーザ光を発振生成するレーザ発生部に、過飽和吸収体(SESAM;SEmiconductor saturable Absorber Mirror )が用いられている(例えば、特許文献1参照)。この過飽和吸収体は、入力レーザ光の強度が所定の閾値以上であるときには、その入力レーザ光を反射又は透過させて出力レーザ光として出力する一方、上記閾値よりも小さいときには、入力レーザ光を吸収するという機能を有しており、この過飽和吸収体の機能により超短パルスレーザ光を容易に発生させることができるようになる。
【0004】
【特許文献1】
特表平11−505370号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記超短パルスレーザ光の1パルス当たりのパワーはギガワットやテラワットという極めて高いレベルに達するため、超短パルスレーザ光を長時間に亘って連続的に発生させるようにすると、上記過飽和吸収体において入力レーザ光により照射された部分がダメージを受けて徐々に劣化し、これにより、過飽和吸収体から出力される出力レーザ光の強度やレーザ品質が徐々に低下して、しまいには、レーザ加工装置として用いている場合には、加工精度がばらついたり加工不良が生じたりする。このような加工精度のばらつき等は、従来、ダストやレーザ発振部でのアライメントのずれ等といった外部要因が原因であると考えられていたため、このような過飽和吸収体の劣化に対する対策は何等とられてこなかった。
【0006】
また、上記のように入力レーザ光により照射された部分が劣化する現象は、過飽和吸収体において顕著であるが、レーザ光のパワーが更に大きくなると、波長変換素子や回折光学素子等の光学素子においても生じ、そのような光学素子から出力される出力レーザ光の強度の低下を招くという問題がある。
【0007】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、過飽和吸収体を初め、波長変換素子や回折光学素子等のように、入力レーザ光により照射された部分が劣化することで少なくとも出力レーザ光の強度が低下する光学素子を備えたレーザ装置に対して、その構成に工夫を凝らすことによって、その光学素子から出力される出力レーザ光の強度を出来る限り安定させようとすることにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明では、レーザ装置として、入力レーザ光により照射された部分が劣化することで少なくとも出力レーザ光の強度が低下する光学素子と、上記光学素子に対する入力レーザ光の照射位置を、該入力レーザ光の照射により劣化していない部分に移動させる移動手段とを備えるようにした。
【0009】
上記の構成により、光学素子において入力レーザ光により照射された部分が劣化しても、移動手段により、光学素子に対する入力レーザ光の照射位置を、入力レーザ光の照射により劣化していない部分(過去に照射されたことが全くない部分や、過去に照射されたことがあっても、劣化していないと判断される部分)に移動させることができ、光学素子から出力される出力レーザ光の強度を、劣化していないときと略同じ値に復帰させることができる。よって、出力レーザ光の強度やレーザ品質を安定させることができる。
【0010】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、移動手段は、光学素子に対する入力レーザ光の照射位置の移動を、該光学素子を移動させることで行うように構成されているものとする。
【0011】
このことにより、1軸又は2軸ステージ等により光学素子を移動させることで、光学素子に対する入力レーザ光の照射位置の移動を容易に行うことができる。
【0012】
請求項3の発明では、請求項1の発明において、移動手段は、光学素子に対する入力レーザ光の照射位置の移動を、該光学素子に対する入力レーザ光の光軸を移動させることで行うように構成されているものとする。
【0013】
このことで、光学素子に対する入力レーザ光の光軸を、レンズや反射鏡の駆動等によって移動させることで、光学素子に対する入力レーザ光の照射位置の移動を容易に行うことができる。
【0014】
請求項4の発明では、請求項1〜3のいずれか1つの発明において、移動手段は、光学素子に対する入力レーザ光の照射位置の移動を、連続的又は周期的に行うように構成されているものとする。
【0015】
こうすることで、照射位置の移動を連続的に行えば、出力レーザ光の強度を高レベルに安定させることができるとともに、周期的に行っても、その周期を適切な値に設定することで、出力レーザ光の強度が加工精度等に問題が生じるところまで低下するのを防止することができる。
【0016】
請求項5の発明では、請求項1〜3のいずれか1つの発明において、移動手段は、光学素子に対する入力レーザ光の照射位置の移動を、レーザ発振開始時から所定時間経過後に行うように構成されているものとする。
【0017】
すなわち、レーザ発振開始直後はQスイッチ発振(緩和発振)により、その後の安定発振時よりも数倍大きなパワーを有するレーザ光が光学素子に入力されるので、レーザ発振開始直後に光学素子がダメージを受け易く、このため、安定発振時には、既に照射部分が劣化していて出力レーザ光の強度が低下している可能性がある。したがって、レーザ発振開始から所定時間(数ms程度)経過後に照射位置の移動を行えば、出力レーザ光の強度を安定させることができる。
【0018】
請求項6の発明では、請求項1〜3のいずれか1つの発明において、光学素子から出力される出力レーザ光の強度を検出する強度検出手段を備え、移動手段は、上記強度検出手段により検出された出力レーザ光の強度が所定強度よりも小さくなったときに、光学素子に対する入力レーザ光の照射位置の移動を行うように構成されているものとする。
【0019】
このことで、出力レーザ光の強度のフィードバック制御により、該強度を所定強度以上に安定維持させることができる。
【0020】
請求項7の発明では、請求項6の発明において、出力レーザ光の強度の初期値の90%であるものとする。
【0021】
このことにより、出力レーザ光の強度を初期値(劣化していないときの値)の90%以上とすることで、特に加工精度を安定させることができ、レーザ加工装置として用いる場合に有効となる。
【0022】
請求項8の発明では、請求項1〜3のいずれか1つの発明において、パルスレーザ光を生成して出力するレーザ発生部を備え、光学素子は、上記レーザ発生部に配設されており、上記パルスレーザ光においてノイズパルスの主パルスに対す強度比を検出する強度比検出手段を備え、移動手段は、上記強度比検出手段により検出された強度比が所定値よりも大きくなったときに、光学素子に対する入力レーザ光の照射位置の移動を行うように構成されているものとする。
【0023】
すなわち、レーザ発生部に配設された光学素子において入力レーザ光により照射された部分が劣化すると、レーザ発生部から出力されるパルスレーザ光は、主パルスの他にノイズパルスを含むようになる。特に光学素子が過飽和吸収体である場合には、主パルスの直前にプリパルスというノイズパルスが発生する。このようなノイズパルスは、加工部分の表面に多数の微少穴(凹部)を発生させる要因となる。しかし、この発明では、ノイズパルスの強度を、微少穴を発生させない程度に小さく抑えることができ、加工品質を良好に維持することができる。
【0024】
請求項9の発明では、請求項8の発明において、所定値は、2%であるものとする。こうすることで、加工部分の表面に微少穴を発生させないで、良好な加工品質が確実に得られる。
【0025】
請求項10の発明では、請求項1〜9のいずれか1つの発明において、ピコ秒パルスレーザ光を生成して出力するレーザ発生部を備えているものとする。
【0026】
このことで、アブレーション加工により効率良く加工を行うことができる一方、このような超短パルスレーザ光のパワーは極めて高いので、そのパルスレーザ光が入力された光学素子は、照射された部分が劣化し易く、劣化すると加工精度がばらついたり加工不良が生じたりする。しかし、この発明では、照射された部分が劣化しても、移動手段により、劣化していない部分に移動させることができるので、加工精度のばらつきや加工不良の発生を抑制することができる。よって、請求項1の発明の作用効果を有効に発揮させることができる。
【0027】
請求項11の発明では、請求項1〜10のいずれか1つの発明において、光学素子は、過飽和吸収体であるものとする。
【0028】
すなわち、過飽和吸収体は、入力レーザ光により照射された部分が非常に劣化し易く、劣化すると出力レーザ光の強度がかなり低下して加工精度のばらつき等が生じ易くなる。しかし、この発明では、照射された部分が劣化しても、移動手段により、劣化していない部分に移動させることができるので、加工精度のばらつき等を確実に抑制することができる。よって、請求項1の発明の作用効果を有効に発揮させることができる。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の実施形態に係るレーザ装置としてのレーザ加工装置Aを示し、このレーザ加工装置Aは、超短パルス幅のレーザ光(ピコ秒パルスレーザ光)を出力するレーザ発生部1を備えている。このレーザ光のパルス幅は、加工精度等の観点から、1ps以上100ps以下であることが好ましい。
【0030】
上記レーザ加工装置Aは、レーザ発生部1以外に、レーザ光の向きを変える2つの反射鏡2,3と、レーザ光の透過及び遮断を制御するシャッター4と、ビームスプリッタ5a及び波長板5bからなり、レーザ光の強度を調整するアテネータ5と、複数のレンズからなりレーザ光のビーム径を拡大するビームエキスパンダ6と、偏向方向を調整する波長板7と、PZTを駆動源としてミラーの角度を変化させてレーザ光の反射方向を制御するスキャンミラー8と、入力レーザ光を複数(例えば400)のレーザビームに分散して出力する回折光学素子9(回折格子)と、この回折光学素子9によって分散された各レーザビームが被加工物11上で焦点を結ぶように集光するテレセントリックレンズ10とを備えている。
【0031】
上記レーザ加工装置Aにおいて、レーザ発生部1から出力されたレーザ光(ピコ秒パルスレーザ光)は、反射鏡2によって反射されて向きを変えた後、シャッター4を通過して、アテネータ5により強度が調整され、続いて、別の反射鏡3によって反射されて向きを変えた後、ビームエキスパンダ6によりビーム径が拡大され、次いで、波長板7により偏向方向が調整された後、スキャンミラー8によって反射されて向きを変え、その後、回折光学素子9によって分散されて複数のレーザビームとなり、この各レーザビームがテレセントリックレンズ10によって被加工物11上に焦点を結ぶ。そして、上記スキャンミラー8を駆動することで、各レーザビームの被加工物に対する当接位置を変えて所望のパターンで加工を行う。
【0032】
上記レーザ発生部1は、レーザ光を発振生成する発振部20と、この発振部20で生成されたレーザ光を増幅する増幅部35と、上記発振部20で生成されたレーザ光の強度を検出する強度検出部50とからなっている。
【0033】
上記発振部20は、図2に示すように、ポンプレーザ21、レーザ媒質22、過飽和吸収体23、パルスストレッチャー24、3つの反射鏡25,26,27、レンズ群28、出力カプラー29及び反射ミラー30で構成されている。上記過飽和吸収体23は、入力レーザ光の強度が所定の閾値以上であるときには、その入力レーザ光を反射又は透過させて出力レーザ光として出力する一方、上記閾値よりも小さいときには、入力レーザ光を吸収するという機能を有している。また、例えば、上記ポンプレーザ21としては1W半導体レーザダイオードが、レーザ媒質22としてはNd:YLFロッドが、パルスストレッチャー24としては溶融シリカエタロンがそれぞれ用いられる。この構成により、波長1053nm、周期80MHz。パルス幅15ps、出力35mWのレーザ発振が得られ、このレーザ光が反射ミラー30により反射されて増幅部35へ向かうようになっている。
【0034】
一方、上記増幅部35は、図3に示すように、ポンプレーザ36、レーザ媒質37、ポッケルスセル38、偏向板39、2つの反射鏡40,41、2つのレンズ42,43及び出力カプラー44で構成された再帰型のものである。そして、上記発振部20で生成されたパルスレーザ光から、増幅部35において、或る周波数でパルスを切り出して増幅し、これをレーザ発生部1から出力する。例えば、上記ポンプレーザ36としては16W半導体レーザダイオードが、レーザ媒質37としてはNd:YLFロッドが、偏向板39としてはTFP(Thin Film Polarizer )がそれぞれ用いられる。上記ポッケルスセル38と偏向板39との組み合わせによって、上記発振部20から入力されたレーザ光のうちの特定のパルスだけを増幅するようになっており、これにより、出力カプラー44として99%反射ミラーを通して増幅部35(つまりレーザ発生部1)から例えば1Wのピコ秒パルスレーザ光が出力されることになる。尚、上記ポッケルスセル38の動作周波数を例えば1kHzに設定すると、最終出力の繰り返し周波数が1kHzとなる。
【0035】
また、上記強度検出部50は、図2に示すように、フォトディテクター51及びオシロスコープ52で構成されている。このフォトディテクター51は、上記発振部20で生成されたレーザ光のうち上記反射ミラー30を透過した一部を入力して、そのフォトンの数を計測して電気信号(電圧値)に変換するようになっている。また、上記オシロスコープ52は、フォトディテクター51から出力された電気信号を入力して波形として出力するようになっている。
【0036】
上記オシロスコープ52の出力は、該オシロスコープ52と接続されたコントローラ55に入力されるようなっている。このコントローラ55は、上記レーザ発生部1における発振部20に配設された過飽和吸収体23を移動させるための可動ステージ56を制御するものである。すなわち、過飽和吸収体23は、該過飽和吸収体23に入力される入力レーザ光により照射された部分が劣化することで少なくとも出力レーザ光の強度が低下するものであるが、この強度が上記フォトディテクター51及びオシロスコープ52により検出されて、コントローラ55が、上記強度が所定強度よりも小さくなったと判断したときに、過飽和吸収体23に対する入力レーザ光の照射位置の移動を行うために可動ステージ56を移動させる。上記所定強度は、出力レーザ光の強度の初期値(劣化していないときの値)の90%であることが好ましい。
【0037】
上記可動ステージ56は、1軸のものであって、図4に示すように、過飽和吸収体23の表面に沿った方向に移動することで、過飽和吸収体23において入力レーザ光により照射された部分を、二点鎖線で示すように、入力レーザ光の照射により劣化していない部分(過去に照射されたことが全くない部分や、過去に照射されたことがあっても、劣化していないと判断される部分)に移動させるようになっている。尚、上記可動ステージ56は、2軸のもの(XYステージ)であってもよく、回転ステージであってもよい。
【0038】
図5は、上記レーザ発生部1でレーザ光を発生させたときに、過飽和吸収体23において入力レーザ光により照射された部分が劣化する前と劣化した後のオシロスコープ52の出力波形を示す。このように入力レーザ光により照射された部分が劣化すると、主パルスの最大電圧が低下し、最終的にはQスイッチモードロックとなる。
【0039】
図6は、過飽和吸収体23の或る照射位置(position1,2)に対して照射開始からの経過日数とオシロスコープ52の出力波形における主パルスの最大電圧との関係を示す。これによると、過飽和吸収体23に対する入力レーザ光の照射位置が同じ位置にあると、経過日数が大きくなるに連れて最大電圧が低下していくことが判る。そして、上記照射位置をposition1からposition2へと劣化していない部分に移動させると、最大電圧が初期値に復帰することが判る。つまり、過飽和吸収体23から出力される出力レーザ光の強度が、劣化していないときと略同じ値に復帰する。
【0040】
図7は、オシロスコープ52の出力波形における主パルスの最大電圧と加工精度との関係を示す。この加工精度は、本レーザ加工装置Aにより、図8に示すように、板材71に、テーパ部72aとストレート部72b(直径20μm)とからなる貫通孔72を形成したときの該ストレート部72bの孔径のばらつき(標準偏差σ)である。このことより、主パルスの最大電圧が低下しても初期値の90%以上であれば、加工ばらつきは劣化する前と同等のレベルを維持できることが判る。尚、上記貫通孔72の加工は、ミリング加工により行う。具体的には、或る径を出発として径を減少させながら中心に向かってらせん状に描くと所定深さの層が除去され、最外径を徐々に小さくしながら一層一層加工するとテーパ形状となり、テーパ部72aが得られる。そして、最後に所望の径で円周上に加工すると、ストレート部72bが得られる。
【0041】
上記実施形態において、入力レーザ光により照射された部分が劣化することで少なくとも出力レーザ光の強度が低下する光学素子は、レーザ発生部1の発振部20に配設された過飽和吸収体23であり、コントローラ55及び可動ステージ56が、その光学素子(過飽和吸収体23)に対する入力レーザ光の照射位置を、該入力レーザ光の照射により劣化していない部分に移動させる移動手段を構成することになる。また、強度検出部50におけるフォトディテクター51及びオシロスコープ52が、上記光学素子から出力される出力レーザ光の強度を検出する強度検出手段を構成することになる。
【0042】
したがって、上記実施形態では、過飽和吸収体23から出力される出力レーザ光の強度を検出して、その強度が所定強度よりも小さくなったときに、過飽和吸収体23に対する入力レーザ光の照射位置を、入力レーザ光の照射により劣化していない部分に移動させるべく、可動ステージ56により過飽和吸収体23を移動させるようにしたので、過飽和吸収体23において入力レーザ光により照射された部分が劣化して出力レーザ光の強度が低下しても、加工精度が低下する前に、出力レーザ光の強度を劣化していないときと略同じ値に復帰させることができる。よって、過飽和吸収体23から出力される出力レーザ光、つまりレーザ発生部1から出力されるピコ秒パルスレーザ光の強度を安定させて、加工精度を高レベルに安定させることができる。
【0043】
尚、上記実施形態では、過飽和吸収体23に対する入力レーザ光の照射位置の移動を、可動ステージ56により該過飽和吸収体23を移動させることで行うようにしたが、例えば反射鏡27(過飽和吸収体23からの出力レーザ光をパルスストレッチャー24に向けて反射させるとともに、パルスストレッチャー24の側から戻ってきたレーザ光を反射させて、入力レーザ光として過飽和吸収体23に入力させる役割を有している)の角度を変更して過飽和吸収体23に対する入力レーザ光の光軸を移動させるようにしてもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、過飽和吸収体23から出力される出力レーザ光の強度を検出して、その強度が所定強度よりも小さくなったときに、過飽和吸収体23に対する入力レーザ光の照射位置の移動を行うようにしたが、上記強度の検出は行わないで、過飽和吸収体23に対する入力レーザ光の照射位置の移動を、連続的又は周期的(周期を、主パルスの最大電圧が初期値の90%に低下するまでの時間以下に設定する)に行うようにしても、上記強度を安定維持させることができる。
【0045】
さらに、過飽和吸収体23に対する入力レーザ光の照射位置の移動を、レーザ発振開始から所定時間(数ms程度)経過後に行うようにしてもよい。すなわち、図9に示すように、レーザ発振開始直後はQスイッチ発振(緩和発振)により、その後の安定発振時よりも数倍大きなパワーを有するレーザ光が過飽和吸収体に入力されるので、レーザ発振開始直後に照射部分がダメージを受け易く、このため、安定発振時には、既に照射部分が劣化していて出力レーザ光の強度が低下している可能性がある。したがって、レーザ発振開始から所定時間経過後に照射位置の移動を行えば、レーザ発生部1から出力されるレーザ光の強度を安定させることができる。
【0046】
また、過飽和吸収体23から出力される出力レーザ光の強度を検出する代わりに、レーザ発生部1から出力されるレーザ光(ピコ秒パルスレーザ光)においてノイズパルスの主パルスに対する強度比を検出するようにしてもよい。具体的には、反射鏡2に入力されたレーザ光のうちの一部を透過させて、その透過光が、上記実施形態と同様のフォトディテクターに入力するように構成しておき、そのフォトディテクターの出力を上記実施形態と同様のオシロスコープに入力させ、そのオシロスコープの出力をコントローラ55に入力させるようにする。そして、上記フォトディテクター及びオシロスコープによって、上記ノイズパルスの主パルスに対する強度比を検出するようにし、コントローラ55が、その検出された強度比が所定値(2%であることが好ましい)よりも大きいと判断したときに、可動ステージ56により過飽和吸収体23の移動を行うようにする。すなわち、過飽和吸収体23において入力レーザ光により照射された部分が劣化すると、図10に示すように、レーザ発生部1から出力されるパルスレーザ光は、主パルスの他にノイズパルスを含むようになる。このノイズパルスは主パルスの直前に現れるため、プリパルスと呼ばれており、このノイズパルスの主パルスに対する強度比(つまりノイズパルスの最大電圧Vf/主パルスの最大電圧Vs)が2%よりも大きくなると、加工部分の表面(例えば図8に示す貫通孔72の場合にはそのテーパ部72aの表面)に多数の微少穴(凹部)を生じさせる。しかし、上記のように強度比が所定値よりも大きいときに、可動ステージ56により過飽和吸収体23に対する入力レーザ光の照射位置の移動を行うようにすることで、ノイズパルスの強度を、微少穴を発生させない程度に小さく抑えることができ、加工品質を良好に維持することができる。この場合、上記フォトディテクター及びオシロスコープが、ノイズパルスの主パルスに対す強度比を検出する強度比検出手段を構成することになる。
【0047】
図11は、上記ノイズパルスの主パルスに対する強度比(Vf/Vs)と不正孔の発生率との関係を示す。この不正孔とは、図8に示す貫通孔72を152個形成した場合においてテーパ部72aの表面に1つでも微少穴が生じた貫通孔72のことであり、その不正穴の数の全体(152個)に対する割合を不正孔の発生率という。この結果、ノイズパルスの主パルスに対する強度比(Vf/Vs)が2%よりも大きくなると、全ての貫通孔72のテーパ部72aの表面に微少穴が生じ、2%以下では微少穴が殆ど生じないことが判る。
【0048】
加えて、上記実施形態では、レーザ発生部1の発振部20に配設された過飽和吸収体23が、入力レーザ光により照射された部分が劣化することで少なくとも出力レーザ光の強度が低下する光学素子であるとして、その過飽和吸収体23に対する入力レーザ光の照射位置を移動させるようにしたが、このような光学素子は、過飽和吸収体23に限定されるものではなく、上記レーザ加工装置Aにおいては回折光学素子9であってもよく、波長変換素子やフィルター等を用いるレーザ装置においては、該波長変換素子やフィルター等であってもよい。この場合、これら光学素子を、上記実施形態と同様に、可動ステージ56により移動させたり、光学素子に対する入力レーザ光の光軸を移動させたりするようにすればよい。
【0049】
また、本発明は、レーザ加工装置に限らず、どのようなレーザ装置にも適用することができるとともに、レーザ発生部1は、ピコ秒パルスレーザ光を出力するものに限らず、どのようなレーザ光を出力するものであってもよい。
【0050】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のレーザ装置によると、入力レーザ光により照射された部分が劣化することで少なくとも出力レーザ光の強度が低下する光学素子と、上記光学素子に対する入力レーザ光の照射位置を、該入力レーザ光の照射により劣化していない部分に移動させる移動手段とを備えるようにしたことにより、出力レーザ光の強度やレーザ品質の安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係るレーザ装置としてのレーザ加工装置を示す概略構成図である。
【図2】レーザ発生部の発振部の詳細を示す構成図である。
【図3】レーザ発生部の増幅部の詳細を示す構成図である。
【図4】可動ステージによる過飽和吸収体の移動により入力レーザ光の照射位置が移動する様子を説明するための斜視図である。
【図5】過飽和吸収体において入力レーザ光により照射された部分が劣化する前と劣化した後のオシロスコープの出力波形を示す図である。
【図6】過飽和吸収体の或る照射位置(position1,2)に対して照射開始からの経過日数とオシロスコープの出力波形における主パルスの最大電圧との関係を示すグラフである。
【図7】オシロスコープの出力波形における主パルスの最大電圧と加工精度との関係を示すグラフである。
【図8】レーザ加工装置により実際に加工した貫通孔の形状を示す板材の断面図である。
【図9】レーザ発振開始からのレーザパワーの変化を示す図である。
【図10】オシロスコープの出力波形においてノイズパルスと主パルスとの関係を示す図である。
【図11】ノイズパルスの主パルスに対する強度比(Vf/Vs)と不正孔の発生率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
A レーザ加工装置
1 レーザ発生部
23 過飽和吸収体(光学素子)
51 フォトディテクター(強度検出手段)
52 オシロスコープ(強度検出手段)
55 コントローラ(移動手段)
56 可動ステージ(移動手段)
Claims (11)
- 入力レーザ光により照射された部分が劣化することで少なくとも出力レーザ光の強度が低下する光学素子と、
上記光学素子に対する入力レーザ光の照射位置を、該入力レーザ光の照射により劣化していない部分に移動させる移動手段とを備えていることを特徴とするレーザ装置。 - 請求項1記載のレーザ装置において、
移動手段は、光学素子に対する入力レーザ光の照射位置の移動を、該光学素子を移動させることで行うように構成されていることを特徴とするレーザ装置。 - 請求項1記載のレーザ装置において、
移動手段は、光学素子に対する入力レーザ光の照射位置の移動を、該光学素子に対する入力レーザ光の光軸を移動させることで行うように構成されていることを特徴とするレーザ装置。 - 請求項1〜3のいずれか1つに記載のレーザ装置において、
移動手段は、光学素子に対する入力レーザ光の照射位置の移動を、連続的又は周期的に行うように構成されていることを特徴とするレーザ装置。 - 請求項1〜3のいずれか1つに記載のレーザ装置において、
移動手段は、光学素子に対する入力レーザ光の照射位置の移動を、レーザ発振開始から所定時間経過後に行うように構成されていることを特徴とするレーザ装置。 - 請求項1〜3のいずれか1つに記載のレーザ装置において、
光学素子から出力される出力レーザ光の強度を検出する強度検出手段を備え、移動手段は、上記強度検出手段により検出された出力レーザ光の強度が所定強度よりも小さくなったときに、光学素子に対する入力レーザ光の照射位置の移動を行うように構成されていることを特徴とするレーザ装置。 - 請求項6記載のレーザ装置において、
所定強度は、出力レーザ光の強度の初期値の90%であることを特徴とするレーザ装置。 - 請求項1〜3のいずれか1つに記載のレーザ装置において、
パルスレーザ光を生成して出力するレーザ発生部を備え、
光学素子は、上記レーザ発生部に配設されており、
上記パルスレーザ光においてノイズパルスの主パルスに対する強度比を検出する強度比検出手段を備え、
移動手段は、上記強度比検出手段により検出された強度比が所定値よりも大きくなったときに、光学素子に対する入力レーザ光の照射位置の移動を行うように構成されていることを特徴とするレーザ装置。 - 請求項8記載のレーザ装置において、
所定値は、2%であることを特徴とするレーザ装置。 - 請求項1〜9のいずれか1つに記載のレーザ装置において、ピコ秒パルスレーザ光を生成して出力するレーザ発生部を備えていることを特徴とするレーザ装置。
- 請求項1〜10のいずれか1つに記載のレーザ装置において、
光学素子は、過飽和吸収体であることを特徴とするレーザ装置。
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