JP2004210652A - 糖尿病患者における脂質代謝改善剤 - Google Patents
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Abstract
【課題】糖尿病患者における脂質代謝改善剤の提供。
【解決手段】構成脂肪酸中のω3系不飽和脂肪酸含量が15重量%未満であるジグリセリドを有効成分とする糖尿病患者における脂質代謝改善剤。ジグリセリドの構成脂肪酸は、炭素数8〜24、特に16〜22であることが好ましい。また、構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸量は80〜100%、最も好ましいのは94〜98%で、不飽和脂肪酸中(シス型不飽和)/(トランス型不飽和+飽和)は6以上が好ましく、ジグリセリド中のトランス型不飽和脂肪酸は5%以下が好ましい。また、飽和脂肪酸含量は10%以下が好ましい。
【選択図】 なし
【解決手段】構成脂肪酸中のω3系不飽和脂肪酸含量が15重量%未満であるジグリセリドを有効成分とする糖尿病患者における脂質代謝改善剤。ジグリセリドの構成脂肪酸は、炭素数8〜24、特に16〜22であることが好ましい。また、構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸量は80〜100%、最も好ましいのは94〜98%で、不飽和脂肪酸中(シス型不飽和)/(トランス型不飽和+飽和)は6以上が好ましく、ジグリセリド中のトランス型不飽和脂肪酸は5%以下が好ましい。また、飽和脂肪酸含量は10%以下が好ましい。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、糖尿病患者における脂質代謝及びインスリン抵抗性を改善するための医薬又は食品に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、糖尿病、肥満、高脂血症や高血圧等のいくつかの因子が合併し、内臓脂肪症候群、シンドロームX、死の四重奏などと呼ばれるMultiple Risk Factor症候群が虚血性心疾患の原因として注目されている。糖尿病患者では心血管疾患の合併症に伴い、罹患率や死亡率が高くなることが報告されている。糖尿病患者の大血管障害(心筋梗塞など)の発症率は糖尿病でない人と比べると高率である。その原因として主要なものが脂質代謝異常である。例えば、LDLコレステロールの粒子サイズである小粒子高比重LDL(small dense LDL)が糖尿病患者に出現しやすく動脈硬化の原因となっている。
【0003】
また、糖尿病の90%以上を占める2型糖尿病は、膵β細胞からのインスリンの分泌低下とインスリン標的臓器である骨格筋、肝臓、脂肪組織でのインスリン感受性の低下(インスリン抵抗性)とが様々な程度合わさってインスリン作用の低下が起こり、高血糖をきたした状態と言える。インスリン分泌低下は、主に遺伝的に規定されている可能性が高い。一方、インスリン抵抗性には、遺伝素因と共に過食、高脂肪食、運動不足などの環境因子に起因する肥満が大きく関与すると考えられている。肥満に伴うインスリン抵抗性の存在は、その代償として高インスリン血症を招くことにある。生体は、肥満によって生じるインスリン抵抗性に対してインスリンを過剰分泌することにより対応する。このような状態(インスリン抵抗性)が持続すると膵β細胞が疲弊し、インスリン分泌能が徐々に低下し、糖尿病状態(高血糖)に進行する。高血糖状態が持続すると、ブドウ糖自身が膵β細胞のインスリン分泌、末梢でのインスリン抵抗性を増大させ、ブドウ糖毒性が発揮される。ここに悪循環が形成され、症状の程度が更に悪化する。
【0004】
糖尿病の基本的な治療方法、処置方法は、運動療法、食事療法である。それだけで血糖値をコントロールできない場合に、薬物療法に頼ることになる。また、単に血糖値のコントロールだけでなく、合併症を考慮した糖尿病の改善が重要である。従って、インスリン抵抗性を改善する薬剤は糖尿病の治療薬として極めて有用であると考えられる。
【0005】
一方、ジグリセリドには、血清トリグリセリド低下作用、体重増加抑制作用など数多くの生理活性のあることが知られている(例えば、特許文献1〜11及び非特許文献1及び2参照)が、糖尿病患者の脂質代謝に対してどのような作用があるかについては知られていない。
【0006】
【特許文献1】
特開平4−300825号公報
【特許文献2】
特開平4−300826号公報
【特許文献3】
特開2001−64171号公報
【特許文献4】
特開2001−64169号公報
【特許文献5】
特開2001−64170号公報
【特許文献6】
特開2001−302509号公報
【特許文献7】
特開2002−3376号公報
【特許文献8】
特開平10−176181号公報
【特許文献9】
国際公開第99/48378号
【特許文献10】
特開2001−247473号公報
【特許文献11】
特開2001−247457号公報
【非特許文献1】
J. Nutri., 131, p.3204(2001)
【非特許文献2】
J. Lipid Res., 42, p.372(2001)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、糖尿病患者におけるインスリン抵抗性及び脂質代謝を改善するための医薬又は食品を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者は、ジグリセリドの糖尿病患者に対する作用について種々検討したところ、ジグリセリドを摂取すると、糖尿病患者における脂質代謝異常、例えば血清トリグリセリド濃度、VLDL画分中のトリグリセリド濃度、LDL画分中のトリグリセリド濃度、small dense LDL画分中のトリグリセリド濃度等を低下させることを見出した。更に糖尿病患者におけるインスリン抵抗性の指標である、HOMA−Rも低下させることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、構成脂肪酸中のω3系不飽和脂肪酸含量が15重量%未満であるジグリセリドを有効成分とする糖尿病患者における脂質代謝改善剤及びインスリン抵抗性改善剤を提供するものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明で使用するジグリセリドの構成脂肪酸は、炭素数8〜24、特に16〜22であることが好ましい。ジグリセリドの構成脂肪酸中、ω3系不飽和脂肪酸含量は、酸化安定性、生理効果の点から15重量%(以下、単に%と記載する)未満であるのが必要で、好ましくは0〜13%、更に1〜10%、特に2〜9%であるのが望ましい。ジグリセリドの全構成脂肪酸中、不飽和脂肪酸含量は、好ましくは80〜100%、より好ましくは85〜100%、更に好ましくは90〜100%、特に好ましくは93〜100%、最も好ましくは94〜98%である。更に、脂質代謝改善効果をより高めるという点から、(シス型不飽和)/(トランス型不飽和+飽和)は6以上が好ましく、より好ましくは9〜25、更に好ましくは9〜20である。また、ジグリセリド中のトランス型不飽和脂肪酸は、5%以下が特に好ましい。飽和脂肪酸含量は、10%以下が好ましく、5%以下が特に好ましい。ジグリセリドを構成する脂肪酸のうち、オレイン酸の含有量は20〜65%、好ましくは25〜60%、特に30〜50%、殊更30〜45%であるのが外観、脂肪酸の摂取バランスの点で望ましい。ジグリセリドを構成する脂肪酸のうち、リノール酸の含有量は15〜65%、好ましくは20〜60%、特に30〜55%、殊更35〜50%であるのが、脂肪酸の摂取バランスの点で望ましい。更に、酸化安定性、生理効果の点から、リノール酸/オレイン酸の含有重量比が0.01〜2.0、好ましくは0.1〜1.8、特に0.3〜1.7であることが望ましい。ジグリセリドを構成する脂肪酸のうち、リノレン酸の含有量は15%未満、好ましくは0〜13%、更に1〜10%、特に2〜9%であるのが、脂肪酸の摂取バランス、酸化安定性の点で望ましい。リノレン酸には、異性体としてα−リノレン酸とγ−リノレン酸が知られているが、α−リノレン酸が好ましい。ジグリセリドには、1,3−ジグリセリドと1,2−ジグリセリド(2,3−ジグリセリド)が存在する。1,3−ジグリセリドと1,2−ジグリセリドの重量比率は7:3であることがより好ましい。ジグリセリド中の1,3−ジグリセリドが、全ジグリセリド中の50%以上、更に55〜100%、特に60〜90%であることが、脂質代謝改善効果を強化し、工業的生産性を改善する点から好ましい。
【0011】
本発明で使用するジグリセリドは、例えば目的の構成脂肪酸を有する油脂とグリセリンとをエステル交換反応するか、あるいは目的の構成脂肪酸又はそのエステルとグリセリンとの混合物にリパーゼを作用させてエステル化反応を行うことにより製造される。反応中の異性化を防止する上で、リパーゼを用いたエステル化反応がより好ましい。また、リパーゼを用いたエステル化反応においても、反応終了後の精製段階における異性化を防止するため、精製手段も脂肪酸の異性化が生起しないような穏和な条件で行うのが好ましい。
【0012】
このように、ジグリセリドはトリグリセリド等も含有する油脂組成物として使用するのが好ましい。当該油脂組成物としては、効果の点からジグリセリドを15〜100%含むのが好ましく、より好ましくは40〜99%、更に好ましくは60〜95%、特に好ましくは70〜95%、最も好ましくは80〜95%含有するのがよい。ジグリセリドはトリグリセリドに比べて、消化過程でリパーゼにより分解されて生じる脂肪酸が、小腸上皮中に滞留しやすいので、ジグリセリドを15%以上含む油脂組成物を使用すると、優れた脂質代謝改善効果が得られる。
【0013】
当該油脂組成物にはトリグリセリドを含んでいてもよく、油脂組成物中のトリグリセリド含量は、効果、風味、酸化安定性の点から0〜85%であり、好ましくは1〜59.9%、更に好ましくは5〜39.9%、最も好ましくは5〜19.9%である。トリグリセリドの構成脂肪酸として、効果、風味、食感の点で炭素数16〜22の不飽和脂肪酸を好ましくは80〜100%、より好ましくは85〜100%、更に90〜100%、特に93〜100%、最も好ましくは94〜98%含有するのがよい。また酸化安定性の点から、トリグリセリドの構成脂肪酸として、ω3系不飽和脂肪酸を好ましくは0〜40%、更に0〜30%、特に0〜20%、最も好ましくは0〜15%含有するのがよい。
【0014】
当該油脂組成物にはモノグリセリドを含んでいてもよく、その含量は、風味、酸化安定性の点から0〜30%であり、好ましくは0.1〜10%、更に好ましくは0.1〜5%、特に好ましくは0.1〜2%、最も好ましくは0.1〜1.5%であるのがよい。モノグリセリドの構成脂肪酸は、製造上の観点から、ジグリセリドと同じであることが好ましい。
【0015】
当該油脂組成物に含まれる遊離脂肪酸(塩)は、風味、発煙防止、工業的生産性の点から、3.5%以下に低減されるのがよく、好ましくは0〜2%、更に好ましくは0〜1%、特に好ましくは0〜0.5%、最も好ましくは0.05〜0.2%とするのがよい。
本発明に使用される油脂組成物を構成する全脂肪酸中、炭素−炭素二重結合を4つ以上有する脂肪酸の含有量は、酸化安定性の点で0〜40%、好ましくは0〜20%、更に0〜10%、特に0〜1%であるのがよく、実質的に含まないのが最も好ましい。
【0016】
当該油脂組成物には酸化安定性を向上させるために、抗酸化剤を添加するのが好ましい。抗酸化剤としては、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、リン脂質、ポリフェノール、ターシャルブチルヒドロキノン(TBHQ)等が挙げられ、2種以上を組み合わせて使用してもよい。上記の抗酸化剤は、油脂組成物中に0.005〜0.2%、特に0.04〜0.1%含有することが好ましい。
【0017】
当該油脂組成物には、更に結晶抑制剤を添加するのが好ましい。本発明で使用する結晶抑制剤としては、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等のポリオール脂肪酸エステル等が挙げられる。これらは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
結晶抑制剤は、当該油脂組成物中に、0.02〜0.5%、特に0.05〜0.2%含有するのが好ましい。
【0018】
当該油脂組成物には、植物ステロール類を0.05〜4.7%、特に0.3〜1.2%含有するのが好ましい。ここで植物ステロール類としては、例えばα−シトステロール、β−シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、α−シトスタノール、β−シトスタノール、スチグマスタノール、カンペスタノール、シクロアルテノール等のフリー体、及びこれらの脂肪酸エステル、フェルラ酸エステル、桂皮酸エステル等のエステル体が挙げられる。
【0019】
本発明においては、構成脂肪酸中のω3系不飽和脂肪酸含量が15%未満であるジグリセリドは通常大人1人当たり1日に1〜25g、特に2〜20gの範囲で、1日に1〜数回に分けて投与することが好ましい。
【0020】
本発明の医薬の投与形態としては、例えば散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤等の固形製剤、水剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等の経口投与剤が挙げられる。この経口投与剤は、それぞれ上記油脂組成物の他、経口投与剤の形態に応じて一般に用いられる、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、アルコール類、水、水溶性高分子、甘味料、矯味剤、酸味料等のうちの1種又はそれ以上を添加して製造することができる。油脂組成物を使用する場合、経口投与用医薬品中のその含有量は、医薬品の用途及び形態によっても異なるが、一般に0.1〜100%、更に1〜80%、特に2〜80%が好ましい。
【0021】
本発明において、ジグリセリドを食品形態にして摂食する場合、ジグリセリドを含有した油脂加工食品とすればよく、例えば特定の機能を発揮して健康増進を図る健康食品、機能性食品、特定保健用食品、病者用食品等とすることができる。具体的には、カプセル、錠剤、顆粒剤、パンやケーキ、クッキー、パイ、バー、ベーカリーミックス等のベーカリー食品類、フレンチドレッシング等のドレッシング類、マヨネーズ等の水中油型乳化食品、マーガリンやスプレッド等の油中水型乳化食品、クリーム類、チョコレートやポテトチップス、アイスクリーム、デザート等の菓子や、飲料、スープ、ソース、コーヒーホワイトナー、ホイップクリーム、焼き肉のタレ、ピーナツバター、フライングショートニング、ベーキングショートニング、加工肉製品、冷凍食品、粉末食品、ミールリプレイサー等の他、天ぷらやフライ、炒め物等に用いる調理油のような食品素材が挙げられる。かかる食品は、油脂組成物の他に、食品の種類に応じて一般に用いられる食品原料を添加し、製造することができる。このような食品中の油脂組成物の含有量は、食品の種類によっても異なるが、一般に0.1〜100%、更に1〜80%、特に2〜80%が好ましい。
【0022】
以下、本発明のジグリセリドを含有した油脂加工食品について説明する。本発明において、油脂加工食品とは、構成脂肪酸中のω3系不飽和脂肪酸含量が15%未満であるジグリセリドを15%以上含有する油脂組成物と、他の食品原料を配合し、加工した食品をいう。油脂加工食品に用いられる原料成分としては、下記のものがある。
【0023】
(1)食用油脂
本発明に使用する食用油脂は、一般的な食用油脂であれば特に限定されない。例えば、天然の動植物油脂の他、それらにエステル交換、水素添加、分別等を施した加工油脂が挙げられる。好ましくは、大豆油、菜種油、綿実油、米糠油、コーン油、ヒマワリ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油等の植物油及びそれらの加工油脂を用いるのがよい。
【0024】
(2)乳化剤
一般的に食品に用いられる乳化剤であれば特に限定されない。例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン及びその分解物、卵蛋白、大豆蛋白、乳蛋白及びこれらの蛋白質より分離もしくは加水分解により得られる各種蛋白質、ペプチド等が挙げられる。
【0025】
(3)増粘剤
一般的に食品に用いられる増粘剤であれば特に限定されない。例えば、キサンタンガム、ジェランガム、グアーガム、カラギーナン、ペクチン、トラガントガム、各種デンプン等の多糖類、ゼラチン、卵白等の蛋白質が挙げられる。
【0026】
(4)食塩、糖質、食酢、調味剤等の各種呈味料
(5)スパイス、フレーバー等の各種香味料
(6)各種着色料
(7)トコフェロール、天然抗酸化成分等の抗酸化剤
【0027】
以下、本発明の好ましい処方例を示す。しかし、本発明の用途を限定するものではない。
【0028】
a)酸性水中油型油脂加工食品
・油相/水相;20/80〜80/20(好ましくは30/70〜70/30)
・構成脂肪酸中のω3系不飽和脂肪酸含量が15%未満であるジグリセリドの量;油相中の油脂に対して15%以上(好ましくは40%以上、特に80%以上)
・植物ステロールの量;油相中の油脂に対して0.05%以上
・乳化剤量;0.05〜5%
・pH;2〜6
pHは、食酢、クエン酸等の有機酸又はその塩、レモン果汁等の酸味料で調整する。上記原料を用い、常法により、糖尿病患者のインスリン抵抗性改善効果、脂質代謝改善効果を有するドレッシング、マヨネーズ等の酸性水中油型油脂加工食品を調製することができる。
【0029】
<処方例> マヨネーズ
水相
食塩 3.0重量部
砂糖 1.0
調味料(グルタミン酸ナトリウム) 0.5
香辛料(マスタード粉末) 0.3
卵黄 14
食酢(酸度10%) 8
増粘剤 0.5
水 22.7
油相
油脂組成物A 50
【0030】
b)油中水型可塑性油脂加工食品
・水相/油相;15/85〜85/15(好ましくは20/80〜50/50)
・構成脂肪酸中のω3系不飽和脂肪酸含量が15%未満であるジグリセリドの量;油相中の油脂に対して15%以上(好ましくは40%以上、特に50%以上)
・植物ステロールの量;油相中の油脂に対して0.05%以上
・油相中の油脂の融点;20〜50℃(好ましくは20〜40℃)
上記原料を用い、常法により、糖尿病患者のインスリン抵抗性改善効果、脂質代謝改善効果を有するマーガリン、スプレッド等の油中水型可塑性油脂加工食品を調製することができる。
【0031】
<処方例> スプレッド
油相
油脂* 69.3重量部
レシチン 0.1
モノグリセリド 0.5
フレーバー 0.1
水相
水 28.4
脱脂粉乳 0.3
食塩 1.3
*油脂:油脂組成物A;70%/部分硬化パーム油(IV=40);30%、融点36℃
【0032】
c)ベーカリー食品
・油脂量;10〜40%
・構成脂肪酸中のω3系不飽和脂肪酸含量が15%未満であるジグリセリドの量;油相中の油脂に対して15%以上(好ましくは40%以上、特に50%以上)
・植物ステロールの量;油相中の油脂に対して0.05%以上
・小麦粉;20〜65%
・糖質;5〜30%
・全卵;0〜20%
・食塩;0.1〜2%
・ベーキングパウダー;0〜1%
上記原料を用い、常法により、糖尿病患者のインスリン抵抗性改善効果、脂質代謝改善効果を有するショートブレッド(バー)、ブリオッシュ等のベーカリー食品を調製することができる。
【0033】
<処方例> ショートブレッド(バー)
小麦粉 60重量部
油脂組成物A 10
砂糖 24.6
食塩 0.4
全卵 5
【0034】
糖尿病患者、特に2型糖尿病患者が、構成脂肪酸中のω3系不飽和脂肪酸含量が15%未満であるジグリセリド、又は該ジグリセリドを含む油脂組成物を摂取すれば、インスリン抵抗性の指標であるHOMA−Rが有意に低下する。また、糖尿病患者、特に2型糖尿病患者が該ジグリセリド、又は該ジグリセリドを含む油脂組成物を摂取すると、血清トリグリセリド濃度、並びにVLDL、LDL、small dense LDL等のリポ蛋白画分中のトリグリセリド濃度が低下する。またHDL中のコレステロール濃度が上昇する。
糖尿病患者における該ジグリセリドの摂取量は、大人1人当たり0.1〜25g、特に0.1〜20gの範囲で1日に1〜数回に分けるのが好ましい。また、その摂取期間は1週間以上、好ましくは2週間以上、より好ましくは3週間以上、更に1ヶ月以上、特に2ヶ月以上、最も好ましくは3ヶ月以上が望ましい。このように糖尿病患者に長期間ジグリセリドを摂取させるためには、トリグリセリドの一部又は全部に該ジグリセリドを用いた糖尿病患者用食品を調製して摂取させるのが好ましい。
【0035】
【実施例】
次の油脂組成物を下記の方法に従って調製した。
【0036】
油脂組成物A
市販ナタネ油を加水分解して得た脂肪酸をウィンタリングにより飽和脂肪酸含有量を低減させた。次いで、市販の固定化1,3位選択リパーゼ(Lipozyme 3A、商品名;ノボノルディスクインダストリーA.S.社製)を触媒とし、この脂肪酸とグリセリンとを40℃でエステル化反応を行った。リパーゼ製剤を濾別した後、反応終了品を分子蒸留にかけ、精製して油脂組成物Aを得た。
【0037】
実施例1 2型糖尿病患者における構成脂肪酸中のω3系不飽和脂肪酸含量が15%未満であるジグリセリド長期摂取の血清脂質に対する効果
A.試験方法
(1)試験油
試験油は、油脂組成物Aと、ナタネ油、大豆油及びサフラワー油の混合により油脂組成物Aと同じ脂肪酸組成とした比較油脂B(TAG)を用いた。使用した油脂組成物A及び比較油脂Bの脂肪酸組成を表1に示す。油脂組成物A中には1,3−DAGと1,2−DAG(2,3−DAG)の合計が86%を占め、その比は7:3であった。それ以外はトリグリセリドが13%、モノグリセリド(MAG)が1%存在した。なお、油脂組成物Aのボンブカロリメーターによる燃焼エネルギーはおよそ9kcal/g(日本食品分析センター分析Japan Food Research Laboratories Tokyo, Japan)である。
【0038】
【表1】
【0039】
(2)被験者及び食事
本研究はヘルシンキ宣言の精神に則り、十分な説明と同意の下に施行した。被験者は、伊丹市立伊丹病院内科において、糖尿病の外来で継続的に栄養指導(食事療法)を受けている38〜79歳までの通院患者24名であった。糖尿病患者を油脂組成物A群11名(平均年齢:61.6±1.9歳、男4名、女7名)と比較油脂B群13名(平均年齢:54.3±3.6歳、男7名、女6名)の2群に分けた。
【0040】
油脂組成物A群又は比較油脂B群には、それぞれ日常使用している油を、油脂組成物A調理油又は比較油脂B調理油に変更して用い、1日10g使用を目標に摂取させた。研究期間は両群とも調理油使用開始から3ヶ月間とし、試験はダブルブラインド法で行った。
【0041】
被験者の服薬に関して、油脂組成物A群では、インスリン剤と、HMG−CoA阻害剤の併用が1名、インスリン剤が1名、スルホニルウレア剤が4名、スルホニルウレア剤とαグルコシダーゼ阻害剤の併用が1名、ビグアニド剤が1名、ビグアニド剤とスルホニルウレア剤の併用が1名、なにも使用していない患者が2名であった。比較油脂B群では、HMG−CoA阻害剤が1名、インスリン剤が3名、スルホニルウレア剤が2名、ビグアニド剤とスルホニルウレア剤の併用が1名、EPA製剤が1名、なにも使用していない患者が5名であった。
【0042】
(3)身体測定及び血液検査
試験油の摂取開始後1ヶ月毎に、病院にて身体測定及び空腹時採血を行った。身体測定項目として、体重、BMI、ウエスト及びヒップ周囲長を測定した。血液検査項目として、トリグリセリド、総コレステロール(Chol)、遊離脂肪酸、LDL−Chol、HDL−Cho、レムナント様リポ蛋白(RLP)−Chol、リポ蛋白(a)[Lp(a)]、リポプロテインリパーゼ(LPL)蛋白定量、総ケトン体、アセト酢酸、3−ハイドロキシ酪酸、PAI−1、レプチン、インスリン、グルコース、アポ蛋白(ApoA-1, ApoB, ApoC-II, ApoC-III, ApoE)、コレステロールエステル転送蛋白(Cholesterol ester transfer protein;CETP)、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(Lecithin cholesterol acyltransferase;LCAT)を測定した。
【0043】
(4)HPLC法による血清リポ蛋白質分析
血清リポ蛋白質の分析は、ゲル濾過カラムを用いたUsuiらの方法(J. Lipid Res.(2002) 43(5), 805-814)に従って行った。この方法は、操作が簡単で溶離液の組成や温度の影響がほとんどなく、再現性が非常に高く、少量の血清より短時間で正確かつ定量的に分析可能という特長を持っている。
血清は、生理食塩水で希釈し、HPLCによるリポ蛋白質分析時まで5℃で保存した。
【0044】
(5)統計的検定方法
得られた数値は、平均値±標準誤差(S.E.)及び初期値を100%とした時の変動率を平均値±標準誤差(S.E.)として示し、群間比較を二元配置分散分析法(Two-way ANOVA)及びStudent's t-検定により有意差検定を行った。また、初期値と試験油の摂取開始後1ヶ月毎のそれぞれの測定値との比較は、Student's t-検定により有意差検定を行った。
なお、二元配置分散分析法を行うにあたり、試験期間内のデータはintent-to-treat解析を採用した。
【0045】
B.結果
(1)試験油摂取量及び身体測定
主治医の判断から、試験期間を通して、油脂組成物A摂取群及び比較油脂B摂取群とも、全ての被験者において試験油摂取による体調の悪化や副作用は認められなかった。試験期間中の服薬の変更、投与量の変更はなかった。食事日誌の内容から、1日当たりの試験油摂取量は油脂組成物A群では14.4±1.6g、比較油脂B群では、13.3±1.6gとなった。3ヶ月目の体重変動は油脂組成物A群で0.4%(0.2kg)の減少を示し、比較油脂B群では、0.4%(0.3kg)の増加を示した。3ヶ月間の体重変動については、二元配置解析で両群間に有意な差はなかった。BMI及びヒップ周囲長において、両群間に変化は認められなかった。3ヶ月目のウエスト周囲長変動は、油脂組成物A群では1.5%(1.5cm)減少し、比較油脂B群では変化がなかった。3ヶ月間のウエスト周囲長の変化については、二元配置解析で両群間に有意差(P=0.02)を認めた。初期の血清グルコース濃度が110mg/dl以上の被験者でも同様に、ウエスト周囲長において両群間に有意な差(P<0.001)が認められた。
【0046】
(2)血液検査
血清検査項目のうち、トリグリセリド及びHDL−Cholの変動が大きかった。3ヶ月間の変化において、二元配置解析から、比較油脂B群と比較して、油脂組成物A群ではトリグリセリドが低下傾向を、HDL−Choが有意(P<0.05)な増加を示した。また血清グルコース濃度が110mg/dl以上の被験者で解析すると、グルコース、トリグリセリド及び血漿PAI−1の3ヶ月間の変化において、二元配置解析から、いずれも両群間に有意な差が認められた(油脂組成物A群が低下)。血清ApoA−1及びApoBの3ヶ月間の変化については、全被験者及び血清グルコース濃度110mg/dl以上の被験者において、両群ともに変化は認められなかったが、ApoC−II、ApoC−III及びApoEについては比較油脂B群と比較して、油脂組成物A群で低下傾向を示した。血清遊離脂肪酸、総ケトン体、アセト酢酸、3−ハイドロキシ酪酸、総−Chol、LDL−Chol、RLP−Chol、LP(a)、LPL蛋白、レプチン、CETP及びLCATについては、全被験者及び血清グルコース濃度110mg/dl以上の被験者において、両群間に有意な差は認められず、副作用のないことが確認された。
【0047】
(3)HPLC法による血清リポ蛋白質分析
試験油の摂取開始後1ヶ月毎の血清リポ蛋白質画分中のTG及びChol濃度変化を表2及び3に示した。CM(カイロミクロン)画分中のTG及びChol濃度については、変化は認められなかった。3ヶ月目のVLDL画分中のTG濃度について、比較油脂B群と比較しては、油脂組成物A群で減少傾向を示し、初期の血清グルコース濃度が110mg/dl以上の被験者においても、3ヶ月間の変化では二元配置解析で両群間に有意差(P=0.02)を認めた。HDL画分中のChol濃度の3ヶ月間の変化については、全被験者及び血清グルコース濃度110mg/dl以上の被験者において、油脂組成物A群で増加傾向を示したが、比較油脂B群との間に有意な差は認められなかった。全被験者におけるLDL画分及びsmall dense LDL画分中のTG濃度の3ヶ月間の変化について、両画分ともに二元配置解析で両群間に有意差を認めた。血清グルコース濃度110mg/dl以上の被験者においても、3ヶ月目のLDL画分及びsmall dense LDL画分中のTG濃度が比較油脂B群と比較して、油脂組成物A群で有意(P<0.05)な減少が認められた。
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
(4)HOMA−Rの評価
インスリン抵抗性の指標の一つであるHOMA−Rを評価した。HOMA−R(homeostasiss model assesment insulin resistance index)は空腹時血糖(mg/dl)×空腹時インスリン(μU/ml)÷405で計算される。インスリン抵抗性の一つの指標であり正常値は2未満であり4以上は高度のインスリン抵抗性と判定される。その結果、比較油脂B群においては3ヶ月後にHOMA−Rが39%増加したのに対し、油脂組成物A群においては19%低下した。
【0051】
このように糖尿病患者に対して、構成脂肪酸中のω3系不飽和脂肪酸含量が15%未満であるジグリセリドを有効量投与することにより、インスリン抵抗性改善作用、HOMA−R低下作用、脂質代謝改善作用、血清リポ蛋白画分中のトリグリセリド濃度及び/又はコレステロール濃度改善作用が発現し、糖尿病における種々の症状が改善されることが見出された。
【0052】
【発明の効果】
糖尿病患者が構成脂肪酸中のω3系不飽和脂肪酸含量が15%未満であるジグリセリドを摂取すると、インスリン抵抗性が改善されるだけでなく、血清トリグリセリド、VLDL画分中トリグリセリド、small dense LDL画分中のトリグリセリド、LDL画分中のトリグリセリド等が有意に低下し、脂質代謝が改善する。
【発明の属する技術分野】
本発明は、糖尿病患者における脂質代謝及びインスリン抵抗性を改善するための医薬又は食品に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、糖尿病、肥満、高脂血症や高血圧等のいくつかの因子が合併し、内臓脂肪症候群、シンドロームX、死の四重奏などと呼ばれるMultiple Risk Factor症候群が虚血性心疾患の原因として注目されている。糖尿病患者では心血管疾患の合併症に伴い、罹患率や死亡率が高くなることが報告されている。糖尿病患者の大血管障害(心筋梗塞など)の発症率は糖尿病でない人と比べると高率である。その原因として主要なものが脂質代謝異常である。例えば、LDLコレステロールの粒子サイズである小粒子高比重LDL(small dense LDL)が糖尿病患者に出現しやすく動脈硬化の原因となっている。
【0003】
また、糖尿病の90%以上を占める2型糖尿病は、膵β細胞からのインスリンの分泌低下とインスリン標的臓器である骨格筋、肝臓、脂肪組織でのインスリン感受性の低下(インスリン抵抗性)とが様々な程度合わさってインスリン作用の低下が起こり、高血糖をきたした状態と言える。インスリン分泌低下は、主に遺伝的に規定されている可能性が高い。一方、インスリン抵抗性には、遺伝素因と共に過食、高脂肪食、運動不足などの環境因子に起因する肥満が大きく関与すると考えられている。肥満に伴うインスリン抵抗性の存在は、その代償として高インスリン血症を招くことにある。生体は、肥満によって生じるインスリン抵抗性に対してインスリンを過剰分泌することにより対応する。このような状態(インスリン抵抗性)が持続すると膵β細胞が疲弊し、インスリン分泌能が徐々に低下し、糖尿病状態(高血糖)に進行する。高血糖状態が持続すると、ブドウ糖自身が膵β細胞のインスリン分泌、末梢でのインスリン抵抗性を増大させ、ブドウ糖毒性が発揮される。ここに悪循環が形成され、症状の程度が更に悪化する。
【0004】
糖尿病の基本的な治療方法、処置方法は、運動療法、食事療法である。それだけで血糖値をコントロールできない場合に、薬物療法に頼ることになる。また、単に血糖値のコントロールだけでなく、合併症を考慮した糖尿病の改善が重要である。従って、インスリン抵抗性を改善する薬剤は糖尿病の治療薬として極めて有用であると考えられる。
【0005】
一方、ジグリセリドには、血清トリグリセリド低下作用、体重増加抑制作用など数多くの生理活性のあることが知られている(例えば、特許文献1〜11及び非特許文献1及び2参照)が、糖尿病患者の脂質代謝に対してどのような作用があるかについては知られていない。
【0006】
【特許文献1】
特開平4−300825号公報
【特許文献2】
特開平4−300826号公報
【特許文献3】
特開2001−64171号公報
【特許文献4】
特開2001−64169号公報
【特許文献5】
特開2001−64170号公報
【特許文献6】
特開2001−302509号公報
【特許文献7】
特開2002−3376号公報
【特許文献8】
特開平10−176181号公報
【特許文献9】
国際公開第99/48378号
【特許文献10】
特開2001−247473号公報
【特許文献11】
特開2001−247457号公報
【非特許文献1】
J. Nutri., 131, p.3204(2001)
【非特許文献2】
J. Lipid Res., 42, p.372(2001)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、糖尿病患者におけるインスリン抵抗性及び脂質代謝を改善するための医薬又は食品を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者は、ジグリセリドの糖尿病患者に対する作用について種々検討したところ、ジグリセリドを摂取すると、糖尿病患者における脂質代謝異常、例えば血清トリグリセリド濃度、VLDL画分中のトリグリセリド濃度、LDL画分中のトリグリセリド濃度、small dense LDL画分中のトリグリセリド濃度等を低下させることを見出した。更に糖尿病患者におけるインスリン抵抗性の指標である、HOMA−Rも低下させることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、構成脂肪酸中のω3系不飽和脂肪酸含量が15重量%未満であるジグリセリドを有効成分とする糖尿病患者における脂質代謝改善剤及びインスリン抵抗性改善剤を提供するものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明で使用するジグリセリドの構成脂肪酸は、炭素数8〜24、特に16〜22であることが好ましい。ジグリセリドの構成脂肪酸中、ω3系不飽和脂肪酸含量は、酸化安定性、生理効果の点から15重量%(以下、単に%と記載する)未満であるのが必要で、好ましくは0〜13%、更に1〜10%、特に2〜9%であるのが望ましい。ジグリセリドの全構成脂肪酸中、不飽和脂肪酸含量は、好ましくは80〜100%、より好ましくは85〜100%、更に好ましくは90〜100%、特に好ましくは93〜100%、最も好ましくは94〜98%である。更に、脂質代謝改善効果をより高めるという点から、(シス型不飽和)/(トランス型不飽和+飽和)は6以上が好ましく、より好ましくは9〜25、更に好ましくは9〜20である。また、ジグリセリド中のトランス型不飽和脂肪酸は、5%以下が特に好ましい。飽和脂肪酸含量は、10%以下が好ましく、5%以下が特に好ましい。ジグリセリドを構成する脂肪酸のうち、オレイン酸の含有量は20〜65%、好ましくは25〜60%、特に30〜50%、殊更30〜45%であるのが外観、脂肪酸の摂取バランスの点で望ましい。ジグリセリドを構成する脂肪酸のうち、リノール酸の含有量は15〜65%、好ましくは20〜60%、特に30〜55%、殊更35〜50%であるのが、脂肪酸の摂取バランスの点で望ましい。更に、酸化安定性、生理効果の点から、リノール酸/オレイン酸の含有重量比が0.01〜2.0、好ましくは0.1〜1.8、特に0.3〜1.7であることが望ましい。ジグリセリドを構成する脂肪酸のうち、リノレン酸の含有量は15%未満、好ましくは0〜13%、更に1〜10%、特に2〜9%であるのが、脂肪酸の摂取バランス、酸化安定性の点で望ましい。リノレン酸には、異性体としてα−リノレン酸とγ−リノレン酸が知られているが、α−リノレン酸が好ましい。ジグリセリドには、1,3−ジグリセリドと1,2−ジグリセリド(2,3−ジグリセリド)が存在する。1,3−ジグリセリドと1,2−ジグリセリドの重量比率は7:3であることがより好ましい。ジグリセリド中の1,3−ジグリセリドが、全ジグリセリド中の50%以上、更に55〜100%、特に60〜90%であることが、脂質代謝改善効果を強化し、工業的生産性を改善する点から好ましい。
【0011】
本発明で使用するジグリセリドは、例えば目的の構成脂肪酸を有する油脂とグリセリンとをエステル交換反応するか、あるいは目的の構成脂肪酸又はそのエステルとグリセリンとの混合物にリパーゼを作用させてエステル化反応を行うことにより製造される。反応中の異性化を防止する上で、リパーゼを用いたエステル化反応がより好ましい。また、リパーゼを用いたエステル化反応においても、反応終了後の精製段階における異性化を防止するため、精製手段も脂肪酸の異性化が生起しないような穏和な条件で行うのが好ましい。
【0012】
このように、ジグリセリドはトリグリセリド等も含有する油脂組成物として使用するのが好ましい。当該油脂組成物としては、効果の点からジグリセリドを15〜100%含むのが好ましく、より好ましくは40〜99%、更に好ましくは60〜95%、特に好ましくは70〜95%、最も好ましくは80〜95%含有するのがよい。ジグリセリドはトリグリセリドに比べて、消化過程でリパーゼにより分解されて生じる脂肪酸が、小腸上皮中に滞留しやすいので、ジグリセリドを15%以上含む油脂組成物を使用すると、優れた脂質代謝改善効果が得られる。
【0013】
当該油脂組成物にはトリグリセリドを含んでいてもよく、油脂組成物中のトリグリセリド含量は、効果、風味、酸化安定性の点から0〜85%であり、好ましくは1〜59.9%、更に好ましくは5〜39.9%、最も好ましくは5〜19.9%である。トリグリセリドの構成脂肪酸として、効果、風味、食感の点で炭素数16〜22の不飽和脂肪酸を好ましくは80〜100%、より好ましくは85〜100%、更に90〜100%、特に93〜100%、最も好ましくは94〜98%含有するのがよい。また酸化安定性の点から、トリグリセリドの構成脂肪酸として、ω3系不飽和脂肪酸を好ましくは0〜40%、更に0〜30%、特に0〜20%、最も好ましくは0〜15%含有するのがよい。
【0014】
当該油脂組成物にはモノグリセリドを含んでいてもよく、その含量は、風味、酸化安定性の点から0〜30%であり、好ましくは0.1〜10%、更に好ましくは0.1〜5%、特に好ましくは0.1〜2%、最も好ましくは0.1〜1.5%であるのがよい。モノグリセリドの構成脂肪酸は、製造上の観点から、ジグリセリドと同じであることが好ましい。
【0015】
当該油脂組成物に含まれる遊離脂肪酸(塩)は、風味、発煙防止、工業的生産性の点から、3.5%以下に低減されるのがよく、好ましくは0〜2%、更に好ましくは0〜1%、特に好ましくは0〜0.5%、最も好ましくは0.05〜0.2%とするのがよい。
本発明に使用される油脂組成物を構成する全脂肪酸中、炭素−炭素二重結合を4つ以上有する脂肪酸の含有量は、酸化安定性の点で0〜40%、好ましくは0〜20%、更に0〜10%、特に0〜1%であるのがよく、実質的に含まないのが最も好ましい。
【0016】
当該油脂組成物には酸化安定性を向上させるために、抗酸化剤を添加するのが好ましい。抗酸化剤としては、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、リン脂質、ポリフェノール、ターシャルブチルヒドロキノン(TBHQ)等が挙げられ、2種以上を組み合わせて使用してもよい。上記の抗酸化剤は、油脂組成物中に0.005〜0.2%、特に0.04〜0.1%含有することが好ましい。
【0017】
当該油脂組成物には、更に結晶抑制剤を添加するのが好ましい。本発明で使用する結晶抑制剤としては、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等のポリオール脂肪酸エステル等が挙げられる。これらは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
結晶抑制剤は、当該油脂組成物中に、0.02〜0.5%、特に0.05〜0.2%含有するのが好ましい。
【0018】
当該油脂組成物には、植物ステロール類を0.05〜4.7%、特に0.3〜1.2%含有するのが好ましい。ここで植物ステロール類としては、例えばα−シトステロール、β−シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、α−シトスタノール、β−シトスタノール、スチグマスタノール、カンペスタノール、シクロアルテノール等のフリー体、及びこれらの脂肪酸エステル、フェルラ酸エステル、桂皮酸エステル等のエステル体が挙げられる。
【0019】
本発明においては、構成脂肪酸中のω3系不飽和脂肪酸含量が15%未満であるジグリセリドは通常大人1人当たり1日に1〜25g、特に2〜20gの範囲で、1日に1〜数回に分けて投与することが好ましい。
【0020】
本発明の医薬の投与形態としては、例えば散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤等の固形製剤、水剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等の経口投与剤が挙げられる。この経口投与剤は、それぞれ上記油脂組成物の他、経口投与剤の形態に応じて一般に用いられる、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、アルコール類、水、水溶性高分子、甘味料、矯味剤、酸味料等のうちの1種又はそれ以上を添加して製造することができる。油脂組成物を使用する場合、経口投与用医薬品中のその含有量は、医薬品の用途及び形態によっても異なるが、一般に0.1〜100%、更に1〜80%、特に2〜80%が好ましい。
【0021】
本発明において、ジグリセリドを食品形態にして摂食する場合、ジグリセリドを含有した油脂加工食品とすればよく、例えば特定の機能を発揮して健康増進を図る健康食品、機能性食品、特定保健用食品、病者用食品等とすることができる。具体的には、カプセル、錠剤、顆粒剤、パンやケーキ、クッキー、パイ、バー、ベーカリーミックス等のベーカリー食品類、フレンチドレッシング等のドレッシング類、マヨネーズ等の水中油型乳化食品、マーガリンやスプレッド等の油中水型乳化食品、クリーム類、チョコレートやポテトチップス、アイスクリーム、デザート等の菓子や、飲料、スープ、ソース、コーヒーホワイトナー、ホイップクリーム、焼き肉のタレ、ピーナツバター、フライングショートニング、ベーキングショートニング、加工肉製品、冷凍食品、粉末食品、ミールリプレイサー等の他、天ぷらやフライ、炒め物等に用いる調理油のような食品素材が挙げられる。かかる食品は、油脂組成物の他に、食品の種類に応じて一般に用いられる食品原料を添加し、製造することができる。このような食品中の油脂組成物の含有量は、食品の種類によっても異なるが、一般に0.1〜100%、更に1〜80%、特に2〜80%が好ましい。
【0022】
以下、本発明のジグリセリドを含有した油脂加工食品について説明する。本発明において、油脂加工食品とは、構成脂肪酸中のω3系不飽和脂肪酸含量が15%未満であるジグリセリドを15%以上含有する油脂組成物と、他の食品原料を配合し、加工した食品をいう。油脂加工食品に用いられる原料成分としては、下記のものがある。
【0023】
(1)食用油脂
本発明に使用する食用油脂は、一般的な食用油脂であれば特に限定されない。例えば、天然の動植物油脂の他、それらにエステル交換、水素添加、分別等を施した加工油脂が挙げられる。好ましくは、大豆油、菜種油、綿実油、米糠油、コーン油、ヒマワリ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油等の植物油及びそれらの加工油脂を用いるのがよい。
【0024】
(2)乳化剤
一般的に食品に用いられる乳化剤であれば特に限定されない。例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン及びその分解物、卵蛋白、大豆蛋白、乳蛋白及びこれらの蛋白質より分離もしくは加水分解により得られる各種蛋白質、ペプチド等が挙げられる。
【0025】
(3)増粘剤
一般的に食品に用いられる増粘剤であれば特に限定されない。例えば、キサンタンガム、ジェランガム、グアーガム、カラギーナン、ペクチン、トラガントガム、各種デンプン等の多糖類、ゼラチン、卵白等の蛋白質が挙げられる。
【0026】
(4)食塩、糖質、食酢、調味剤等の各種呈味料
(5)スパイス、フレーバー等の各種香味料
(6)各種着色料
(7)トコフェロール、天然抗酸化成分等の抗酸化剤
【0027】
以下、本発明の好ましい処方例を示す。しかし、本発明の用途を限定するものではない。
【0028】
a)酸性水中油型油脂加工食品
・油相/水相;20/80〜80/20(好ましくは30/70〜70/30)
・構成脂肪酸中のω3系不飽和脂肪酸含量が15%未満であるジグリセリドの量;油相中の油脂に対して15%以上(好ましくは40%以上、特に80%以上)
・植物ステロールの量;油相中の油脂に対して0.05%以上
・乳化剤量;0.05〜5%
・pH;2〜6
pHは、食酢、クエン酸等の有機酸又はその塩、レモン果汁等の酸味料で調整する。上記原料を用い、常法により、糖尿病患者のインスリン抵抗性改善効果、脂質代謝改善効果を有するドレッシング、マヨネーズ等の酸性水中油型油脂加工食品を調製することができる。
【0029】
<処方例> マヨネーズ
水相
食塩 3.0重量部
砂糖 1.0
調味料(グルタミン酸ナトリウム) 0.5
香辛料(マスタード粉末) 0.3
卵黄 14
食酢(酸度10%) 8
増粘剤 0.5
水 22.7
油相
油脂組成物A 50
【0030】
b)油中水型可塑性油脂加工食品
・水相/油相;15/85〜85/15(好ましくは20/80〜50/50)
・構成脂肪酸中のω3系不飽和脂肪酸含量が15%未満であるジグリセリドの量;油相中の油脂に対して15%以上(好ましくは40%以上、特に50%以上)
・植物ステロールの量;油相中の油脂に対して0.05%以上
・油相中の油脂の融点;20〜50℃(好ましくは20〜40℃)
上記原料を用い、常法により、糖尿病患者のインスリン抵抗性改善効果、脂質代謝改善効果を有するマーガリン、スプレッド等の油中水型可塑性油脂加工食品を調製することができる。
【0031】
<処方例> スプレッド
油相
油脂* 69.3重量部
レシチン 0.1
モノグリセリド 0.5
フレーバー 0.1
水相
水 28.4
脱脂粉乳 0.3
食塩 1.3
*油脂:油脂組成物A;70%/部分硬化パーム油(IV=40);30%、融点36℃
【0032】
c)ベーカリー食品
・油脂量;10〜40%
・構成脂肪酸中のω3系不飽和脂肪酸含量が15%未満であるジグリセリドの量;油相中の油脂に対して15%以上(好ましくは40%以上、特に50%以上)
・植物ステロールの量;油相中の油脂に対して0.05%以上
・小麦粉;20〜65%
・糖質;5〜30%
・全卵;0〜20%
・食塩;0.1〜2%
・ベーキングパウダー;0〜1%
上記原料を用い、常法により、糖尿病患者のインスリン抵抗性改善効果、脂質代謝改善効果を有するショートブレッド(バー)、ブリオッシュ等のベーカリー食品を調製することができる。
【0033】
<処方例> ショートブレッド(バー)
小麦粉 60重量部
油脂組成物A 10
砂糖 24.6
食塩 0.4
全卵 5
【0034】
糖尿病患者、特に2型糖尿病患者が、構成脂肪酸中のω3系不飽和脂肪酸含量が15%未満であるジグリセリド、又は該ジグリセリドを含む油脂組成物を摂取すれば、インスリン抵抗性の指標であるHOMA−Rが有意に低下する。また、糖尿病患者、特に2型糖尿病患者が該ジグリセリド、又は該ジグリセリドを含む油脂組成物を摂取すると、血清トリグリセリド濃度、並びにVLDL、LDL、small dense LDL等のリポ蛋白画分中のトリグリセリド濃度が低下する。またHDL中のコレステロール濃度が上昇する。
糖尿病患者における該ジグリセリドの摂取量は、大人1人当たり0.1〜25g、特に0.1〜20gの範囲で1日に1〜数回に分けるのが好ましい。また、その摂取期間は1週間以上、好ましくは2週間以上、より好ましくは3週間以上、更に1ヶ月以上、特に2ヶ月以上、最も好ましくは3ヶ月以上が望ましい。このように糖尿病患者に長期間ジグリセリドを摂取させるためには、トリグリセリドの一部又は全部に該ジグリセリドを用いた糖尿病患者用食品を調製して摂取させるのが好ましい。
【0035】
【実施例】
次の油脂組成物を下記の方法に従って調製した。
【0036】
油脂組成物A
市販ナタネ油を加水分解して得た脂肪酸をウィンタリングにより飽和脂肪酸含有量を低減させた。次いで、市販の固定化1,3位選択リパーゼ(Lipozyme 3A、商品名;ノボノルディスクインダストリーA.S.社製)を触媒とし、この脂肪酸とグリセリンとを40℃でエステル化反応を行った。リパーゼ製剤を濾別した後、反応終了品を分子蒸留にかけ、精製して油脂組成物Aを得た。
【0037】
実施例1 2型糖尿病患者における構成脂肪酸中のω3系不飽和脂肪酸含量が15%未満であるジグリセリド長期摂取の血清脂質に対する効果
A.試験方法
(1)試験油
試験油は、油脂組成物Aと、ナタネ油、大豆油及びサフラワー油の混合により油脂組成物Aと同じ脂肪酸組成とした比較油脂B(TAG)を用いた。使用した油脂組成物A及び比較油脂Bの脂肪酸組成を表1に示す。油脂組成物A中には1,3−DAGと1,2−DAG(2,3−DAG)の合計が86%を占め、その比は7:3であった。それ以外はトリグリセリドが13%、モノグリセリド(MAG)が1%存在した。なお、油脂組成物Aのボンブカロリメーターによる燃焼エネルギーはおよそ9kcal/g(日本食品分析センター分析Japan Food Research Laboratories Tokyo, Japan)である。
【0038】
【表1】
【0039】
(2)被験者及び食事
本研究はヘルシンキ宣言の精神に則り、十分な説明と同意の下に施行した。被験者は、伊丹市立伊丹病院内科において、糖尿病の外来で継続的に栄養指導(食事療法)を受けている38〜79歳までの通院患者24名であった。糖尿病患者を油脂組成物A群11名(平均年齢:61.6±1.9歳、男4名、女7名)と比較油脂B群13名(平均年齢:54.3±3.6歳、男7名、女6名)の2群に分けた。
【0040】
油脂組成物A群又は比較油脂B群には、それぞれ日常使用している油を、油脂組成物A調理油又は比較油脂B調理油に変更して用い、1日10g使用を目標に摂取させた。研究期間は両群とも調理油使用開始から3ヶ月間とし、試験はダブルブラインド法で行った。
【0041】
被験者の服薬に関して、油脂組成物A群では、インスリン剤と、HMG−CoA阻害剤の併用が1名、インスリン剤が1名、スルホニルウレア剤が4名、スルホニルウレア剤とαグルコシダーゼ阻害剤の併用が1名、ビグアニド剤が1名、ビグアニド剤とスルホニルウレア剤の併用が1名、なにも使用していない患者が2名であった。比較油脂B群では、HMG−CoA阻害剤が1名、インスリン剤が3名、スルホニルウレア剤が2名、ビグアニド剤とスルホニルウレア剤の併用が1名、EPA製剤が1名、なにも使用していない患者が5名であった。
【0042】
(3)身体測定及び血液検査
試験油の摂取開始後1ヶ月毎に、病院にて身体測定及び空腹時採血を行った。身体測定項目として、体重、BMI、ウエスト及びヒップ周囲長を測定した。血液検査項目として、トリグリセリド、総コレステロール(Chol)、遊離脂肪酸、LDL−Chol、HDL−Cho、レムナント様リポ蛋白(RLP)−Chol、リポ蛋白(a)[Lp(a)]、リポプロテインリパーゼ(LPL)蛋白定量、総ケトン体、アセト酢酸、3−ハイドロキシ酪酸、PAI−1、レプチン、インスリン、グルコース、アポ蛋白(ApoA-1, ApoB, ApoC-II, ApoC-III, ApoE)、コレステロールエステル転送蛋白(Cholesterol ester transfer protein;CETP)、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(Lecithin cholesterol acyltransferase;LCAT)を測定した。
【0043】
(4)HPLC法による血清リポ蛋白質分析
血清リポ蛋白質の分析は、ゲル濾過カラムを用いたUsuiらの方法(J. Lipid Res.(2002) 43(5), 805-814)に従って行った。この方法は、操作が簡単で溶離液の組成や温度の影響がほとんどなく、再現性が非常に高く、少量の血清より短時間で正確かつ定量的に分析可能という特長を持っている。
血清は、生理食塩水で希釈し、HPLCによるリポ蛋白質分析時まで5℃で保存した。
【0044】
(5)統計的検定方法
得られた数値は、平均値±標準誤差(S.E.)及び初期値を100%とした時の変動率を平均値±標準誤差(S.E.)として示し、群間比較を二元配置分散分析法(Two-way ANOVA)及びStudent's t-検定により有意差検定を行った。また、初期値と試験油の摂取開始後1ヶ月毎のそれぞれの測定値との比較は、Student's t-検定により有意差検定を行った。
なお、二元配置分散分析法を行うにあたり、試験期間内のデータはintent-to-treat解析を採用した。
【0045】
B.結果
(1)試験油摂取量及び身体測定
主治医の判断から、試験期間を通して、油脂組成物A摂取群及び比較油脂B摂取群とも、全ての被験者において試験油摂取による体調の悪化や副作用は認められなかった。試験期間中の服薬の変更、投与量の変更はなかった。食事日誌の内容から、1日当たりの試験油摂取量は油脂組成物A群では14.4±1.6g、比較油脂B群では、13.3±1.6gとなった。3ヶ月目の体重変動は油脂組成物A群で0.4%(0.2kg)の減少を示し、比較油脂B群では、0.4%(0.3kg)の増加を示した。3ヶ月間の体重変動については、二元配置解析で両群間に有意な差はなかった。BMI及びヒップ周囲長において、両群間に変化は認められなかった。3ヶ月目のウエスト周囲長変動は、油脂組成物A群では1.5%(1.5cm)減少し、比較油脂B群では変化がなかった。3ヶ月間のウエスト周囲長の変化については、二元配置解析で両群間に有意差(P=0.02)を認めた。初期の血清グルコース濃度が110mg/dl以上の被験者でも同様に、ウエスト周囲長において両群間に有意な差(P<0.001)が認められた。
【0046】
(2)血液検査
血清検査項目のうち、トリグリセリド及びHDL−Cholの変動が大きかった。3ヶ月間の変化において、二元配置解析から、比較油脂B群と比較して、油脂組成物A群ではトリグリセリドが低下傾向を、HDL−Choが有意(P<0.05)な増加を示した。また血清グルコース濃度が110mg/dl以上の被験者で解析すると、グルコース、トリグリセリド及び血漿PAI−1の3ヶ月間の変化において、二元配置解析から、いずれも両群間に有意な差が認められた(油脂組成物A群が低下)。血清ApoA−1及びApoBの3ヶ月間の変化については、全被験者及び血清グルコース濃度110mg/dl以上の被験者において、両群ともに変化は認められなかったが、ApoC−II、ApoC−III及びApoEについては比較油脂B群と比較して、油脂組成物A群で低下傾向を示した。血清遊離脂肪酸、総ケトン体、アセト酢酸、3−ハイドロキシ酪酸、総−Chol、LDL−Chol、RLP−Chol、LP(a)、LPL蛋白、レプチン、CETP及びLCATについては、全被験者及び血清グルコース濃度110mg/dl以上の被験者において、両群間に有意な差は認められず、副作用のないことが確認された。
【0047】
(3)HPLC法による血清リポ蛋白質分析
試験油の摂取開始後1ヶ月毎の血清リポ蛋白質画分中のTG及びChol濃度変化を表2及び3に示した。CM(カイロミクロン)画分中のTG及びChol濃度については、変化は認められなかった。3ヶ月目のVLDL画分中のTG濃度について、比較油脂B群と比較しては、油脂組成物A群で減少傾向を示し、初期の血清グルコース濃度が110mg/dl以上の被験者においても、3ヶ月間の変化では二元配置解析で両群間に有意差(P=0.02)を認めた。HDL画分中のChol濃度の3ヶ月間の変化については、全被験者及び血清グルコース濃度110mg/dl以上の被験者において、油脂組成物A群で増加傾向を示したが、比較油脂B群との間に有意な差は認められなかった。全被験者におけるLDL画分及びsmall dense LDL画分中のTG濃度の3ヶ月間の変化について、両画分ともに二元配置解析で両群間に有意差を認めた。血清グルコース濃度110mg/dl以上の被験者においても、3ヶ月目のLDL画分及びsmall dense LDL画分中のTG濃度が比較油脂B群と比較して、油脂組成物A群で有意(P<0.05)な減少が認められた。
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
(4)HOMA−Rの評価
インスリン抵抗性の指標の一つであるHOMA−Rを評価した。HOMA−R(homeostasiss model assesment insulin resistance index)は空腹時血糖(mg/dl)×空腹時インスリン(μU/ml)÷405で計算される。インスリン抵抗性の一つの指標であり正常値は2未満であり4以上は高度のインスリン抵抗性と判定される。その結果、比較油脂B群においては3ヶ月後にHOMA−Rが39%増加したのに対し、油脂組成物A群においては19%低下した。
【0051】
このように糖尿病患者に対して、構成脂肪酸中のω3系不飽和脂肪酸含量が15%未満であるジグリセリドを有効量投与することにより、インスリン抵抗性改善作用、HOMA−R低下作用、脂質代謝改善作用、血清リポ蛋白画分中のトリグリセリド濃度及び/又はコレステロール濃度改善作用が発現し、糖尿病における種々の症状が改善されることが見出された。
【0052】
【発明の効果】
糖尿病患者が構成脂肪酸中のω3系不飽和脂肪酸含量が15%未満であるジグリセリドを摂取すると、インスリン抵抗性が改善されるだけでなく、血清トリグリセリド、VLDL画分中トリグリセリド、small dense LDL画分中のトリグリセリド、LDL画分中のトリグリセリド等が有意に低下し、脂質代謝が改善する。
Claims (7)
- 構成脂肪酸中のω3系不飽和脂肪酸含量が15重量%未満であるジグリセリドを有効成分とする糖尿病患者における脂質代謝改善剤。
- 糖尿病患者の血中リポ蛋白質中のトリグリセリド低下薬である請求項1記載の脂質代謝改善剤。
- 糖尿病患者の血中LDL中のトリグリセリド低下薬である請求項1又は2記載の脂質代謝改善剤。
- 糖尿病患者の血中HDL中のコレステロール上昇剤である請求項1記載の脂質代謝改善剤。
- 構成脂肪酸中のω3系不飽和脂肪酸含量が15重量%未満であるジグリセリドを有効成分とする糖尿病患者におけるインスリン抵抗性改善剤。
- 構成脂肪酸中のω3系不飽和脂肪酸含量が15重量%未満であるジグリセリドを含有することを特徴とする、糖尿病患者向けの病者用食品。
- 構成脂肪酸中のω3系不飽和脂肪酸含量が15重量%未満であるジグリセリドを含有することを特徴とする、インスリン抵抗性改善作用を有する油脂加工食品。
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