JP2004202648A - 切削工具 - Google Patents

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Abstract

【課題】切削工具において、耐久性、耐振動性などを犠牲とせずに、切刃部分の耐欠損性を高めた切削工具を提供する。
【解決手段】切刃部分103およびバイト本体部分101を備え、バイト本体部分101は、切削工具100の長手方向に沿って上下に2分割される、第1バイト構成部品110と第2バイト構成部品111とを有している。第1バイト構成部品110は、切刃部分103を支持するバイト頭上面側部110aおよびバイト柄上面側部110bを含み、第2バイト構成部品111は、バイト頭下面側部111aおよびバイト柄下面側部111bを含んでいる。第1バイト構成部品110と第2バイト構成部品111との間には、バイト本体部分101よりも弾性率が低くかつ減衰率の高い材料からなる介在部材104が配設されている。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、施削加工などに用いられる切削工具に関する。
【0002】
【従来の技術】
旋削加工などに用いられる切削工具(バイト)は図9(A),(B)に示すように、実際に被削材と干渉する切刃部分903と、これを支持する切刃部支持面903aを含むバイト頭部902、およびバイト柄部901からなっている。
【0003】
旋削加工においては、切削工具は送り運動が付与され、被削材が回転することにより被削材の一部が除去されて、所望の形状に加工される。一般に切刃部分903は超硬合金等、バイト本体部分は鋼等の高剛性の材料が用いられているが、切り欠き材の旋削などのように切削状態と非切削状態が交互に現れる断続切削においては、切削工具食いつき時の衝撃力や断続切削による振動等によって切刃部分の欠けが発生するケースが多い。
【0004】
これを防ぐために、たとえば特許文献1では、バイト本体部分の一部に低弾性の金属層を設けることにより、衝撃を吸収することを試みている。また、切削主分力がかかるバイト底面側で、工作機械との固定界面全体にわたるよう、低弾性の金属層を設置することは一層効果的である。たとえば特許文献2では切削工具の敷板としてゴム板を使用している。
【0005】
【特許文献1】
特開平4−304907号公報
【0006】
【特許文献2】
特開昭49−28984号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
このような衝撃吸収効果を十分に得るにはゴムや軟質金属等の素材を用いる必要がある。しかし、これらの材料は通常の切削工具(バイト)に用いられる鋼などに仕べて耐久性が劣る。特に、切削工具は切削油剤や切りくず等と加工中に接触することが多く、過酷な環境で使用されることを考慮すると、これに対する十分な配慮が必要である。
【0008】
また、衝撃緩和効果を大きくするため低剛性の材料を用いると、工具系の変形が大きくなることから、振動に対する配慮が必要となる。一般にゴム等の素材は減衰効果が大きいが、断続切削加工ではより振動が発生しやすいことを考慮すると、単純に一部を高減衰材料に置き換えただけでは、振動抑制が不十分であるケースも存在する。さらに振動そのものも工具欠損に悪影響を与えることも考えられ、欠損抑制のためには通常よりもさらに積極的に振動を抑制する必要が生ずる。
【0009】
また低剛性材料を使用すると、バイトを工作機械に固定する際にバイトが変形し、切刃の被削材回転中心に対する位置が変化しやすい。この位置の変化は、バイト底面の固定位置から切刃までの高さ(芯高)により考える。工作機械への取り付け締結力が一定であれば、それを考慮したバイト寸法とすることにより、またはこれに合わせた敷板を使用するなどによって芯高を一定とする対応が可能である。しかし、工作機械によりこのような締結力は異なることから、各種工作機械で利用する場合は芯高が変化することとなる。このため、締結力の違いによる芯高変化を少なくするために、十分に低弾性な材料を利用できないケースもある。
【0010】
したがって、本発明の目的は上記課題を解決することにあり、切削工具において、耐久性、加工精度などを犠牲とせずに、切刃部分の耐欠損性を高めた切削工具を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の切削工具では、バイト本体部分が2つ以上のバイト構成部品を有し、一方の第1バイト構成部品は、切刃部分を支持する切刃部支持面およびバイト柄上面側部を含み、他方の第2バイト構成部品は、バイト柄底面側部を含み、第1および第2バイト構成部品の相互に対向する面の少なくとも一部分に、バイト本体部分よりも弾性率が低くかつ減衰率の高い材料からなる介在部材が配設されることを特徴とする。すなわち、低弾性率かつ高減衰率の介在部材により、断続切削における食いつき時の衝撃や断続切削に伴う振動を吸収し、切刃部分の欠損を抑制する。
【0012】
また本発明の切削工具では、当該切削工具の長手方向に垂直な断面形状に関し、第1および第2バイト構成部品間の対向する面は、当該切削工具の底面に対して交差する方向に延びる傾斜面を含み、傾斜面の領域にも前記介在部材が配設されることを特徴とする。すなわち、バイト本体部分を構成する部品間が断続切削に伴う繰り返し荷重によって相対運動する際に、低弾性率の介在部材を垂直変形だけでなくせん断変形させることにより、振動減衰効果をより大きく引き出す。特に当該切削工具の底面に対して交差する方向に延びる傾斜面の傾斜を45度以下の部分と、45度以上の部分を設けることにより、45度以下の部分で主に垂直変形による緩衝効果が得られ、45度以上の部分で主にせん断変形による減衰効果が得られることにより、役割を分担することも可能である。
【0013】
また本発明の切削工具では、当該切削工具の長手方向に垂直な断面形状に関し、第1および第2バイト構成部品間の対向する面のいずれか一方の面には、いずれか他方の面に向かう凸面形状が設けられ、いずれか他方の面には、前記凸面形状を受け入れる凹面形状が設けられる、第1および第2バイト構成部品間の対向する面の内部領域に介在部材が配設され、外部領域を空隙とすることを特徴とする。これにより介在部材が外部に直接露出せず、介在部材が切りくず等により劣化、損傷することを避けることができる。
【0014】
さらに、介在部材は、第1および第2バイト構成部品間の対向する面の外側領域に配置される第1介在部材と、内側領域に配置される第2介在部材とを含み、記第1介在部材は、第2介在部材よりも、耐熱性および耐水性の高い部材が用いられることを特徴とする。これにより、第1介在部材側に切削油等が侵入することを防ぎ、同部の劣化、損傷を避けることが可能になる。
【0015】
また本発明の切削工具では、第2バイト構成部品は、バイト頭部の底面側に、当該切削工具が固定される工作機械台座部によって支持される突起領域を含むことを特徴とする。これにより、バイト頭部を支持することで極端にたわみが大きくなって振動が発生することを防ぎ、介在部材の衝撃、振動抑制機能をより引き出しやすくすることが可能である。
【0016】
また本発明の切削工具では、切刃部分およびバイト本体部分を備える、切削工具であって、バイト本体は、2つ以上のバイト構成部品を有し、一方の第1バイト構成部品は、切刃部分を支持する切刃部支持面およびバイト柄部を含み、他方の第2バイト構成部品は、バイト柄部の少なくとも底面側および上面側に配置される囲い壁を含み、第1および第2バイト構成部品の相互に対向する面の少なくとも一部分に、バイト本体部分よりも弾性率が低くかつ減衰率の高い材料からなる介在部材が配設され、上面側に配置される囲い壁側から、第2バイト構成部品を前記第1バイト構成部品に押圧させることを特徴とする。これにより、工作機械に固定する際の工作機械からの締結カは、第2バイト構成部品のみにかかり、介在部材にかかる力は一定であるため、使用する工作機械により芯高に変化が生じない。またこの場合も、切削工具の底面に対して45度以上傾斜している部分の少なくとも一部に介在部材を配設させることにより、振動減衰効果をより大きく引き出すことも可能である。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、図を参照して、本発明に基づいた各実施の形態について説明する。
【0018】
(実施の形態1)
図1(A),(B)を参照して本実施の形態における切削工具の構造について説明する。なお、(A)は、本実施の形態における切削工具100の側面図であり、(B)は(A)中B−B線矢視断面図である。
【0019】
この切削工具100は、切刃部分103およびバイト本体部分101を備える。バイト本体部分101は、切削工具100の長手方向に沿って上下に2分割される、第1バイト構成部品110と第2バイト構成部品111とを有している。
【0020】
第1バイト構成部品110は、切刃部分103を支持する切刃部支持面103a、バイト頭上面側部110aおよびバイト柄上面側部110bを含み、第2バイト構成部品111は、バイト頭下面側部111aおよびバイト柄下面側部111bを含んでいる。第1バイト構成部品110と第2バイト構成部品111との間には、バイト本体部分101よりも弾性率が低くかつ減衰率の高い材料からなる介在部材104が配設されている。
【0021】
第1バイト構成部品110および第2バイト構成部品111はCr−Mo鋼等を素材とし、超硬合金等で構成された切刃部分103は交換可能なものをクランプ機構により、あるいはろう付けなどの方法で、切刃部支持面103aに固定される。なお、切刃部分103と切刃部支持面103aとの間には、超硬合金等で構成されるシート部材が介在しても良い。
【0022】
介在部材104は、バイト本体部分101よりも低弾性かつ高減衰の材料で構成される。このような材料としては、ゴムなどの軟質材料や、制振合金のような比較的低弾性でかつ高減衰の金属などが挙げられる。これらの材料はボルト止めやろう付け、接着などにより、バイト本体部分101と固着するほか、切削工具100を工作機械に固定する際の締結力のみで固定してもよい。
【0023】
バイト本体部分101に用いる鋼材は弾性率が200GPa以上、減衰性能は対数減衰率にして0.05以下であるが、低弾性率材料であるゴム材料は弾性率が0.01GPa程度で、対数減衰率は0.4前後の高減衰のものがある。またMn基の制振合金にも種々のものがあるが、たとえば弾性率80GPa程度、対数減衰率は0.15程度のものがあり、介在部材104の弾性率はバイト本体部分101よりも低く、かつ減衰率は高くなっている。
【0024】
ただし対数減衰率とは、振動系の減衰の強さを表すもので、自由振動において、i番目の極大値における振幅をX(ti)、i+1番目の極大値における振幅をx(ti+1)とすると、対数減衰率σは下記式1のようにこれらの振幅比の自然対数で表される。
【0025】
σ=ln x(ti)/x(ti+l)・・・(式1)
このように介在部材104を設けることで、断続切削時に切刃部分103に加わる衝撃力を緩和することができる。また高減衰の材料を用いることで振動を抑制し、これらの作用により切刃部分103の欠損を抑制することができる。
【0026】
なお、介在部材104は、図1(A)に示すように、切削工具100の長手方向全体にわたって配設しても良いし、図2に示す切削工具100Aのように、バイト柄上面側部110bの下面側のみに配設しても良い。
【0027】
(実施の形態2)
次に、図3(A),(B),(C),(D)を参照して本実施の形態における切削工具200の構造について説明する。なお、(A)は、本実施の形態における切削工具200の側面図であり、(B)は(A)中B−B線矢視断面図である。また、(C),(D)は、変形例における(A)中B−B線矢視に対応する断面図である。なお、上記実施の形態1と同一または相当部分については、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰返さず、本実施の形態の特徴部分についてのみ詳細に説明する。
【0028】
本実施の形態における切削工具200は、図3(B),(C)の断面図に示すように、切削工具200の長手方向に垂直な断面形状に関し、バイト柄上面側部110bとバイト柄下面側部111bとの対向する面において、切削工具200の底面200Tに対して平行な面だけでなく、その一部に、切削工具200の底面200Tに対して平行ではなく、45度以上傾斜して底面200Tに交差する方向に延びる傾斜面を有していることを特徴としている。
【0029】
具体的には、図3(B)に示す断面構造の場合、底面200Tに平行な領域211,212と、底面200Tに対して垂直に延びる領域213とを備えている。また、図3(C)に示す断面構造の場合、底面200Tに平行に延びる領域からなる領域221と、底面200Tに対して60度の傾斜角をなす方向に延びる領域222と、底面200Tに対して120度の傾斜角をなす方向に延びる領域223とを備えている。また、図3(C)においては、バイト柄上面側部110bとバイト柄下面側部111bとの対向する面の全ての領域に低弾性材としての介在部材104が配設されてるが、図3(D)に示すように、空間が存在するように部分的に介在部材104を配設しても良い。
【0030】
また、上記実施の形態1の場合と同様に、バイト柄上面側部110bとバイト柄下面側部111bとの対向する面のすべての領域に、低弾性材料等からなる介在部材104が配設されている。なお、この介在部材104は底面200Tに平行な領域と、傾斜する領域とにおいて、具体的な材質を異ならせることも可能である。
【0031】
旋削加工において最大の力が加わるのは通常主分力方向であり、同図の上下方向に対応する。このため底面200Tに対して45度以上傾斜した領域に新たに設けた介在部材104は、この主分力によっては主としてせん断変形を生じることとなる。特にゴム材料等ではせん断方向の振動減衰能がすぐれているものが多く、同部に低弾性材料等からなる介在部材104を配することで、振動の発生をより抑制することが可能となる。
【0032】
また同部の垂直変形方向は旋削における送り分カに対応している。このため、上記実施の形態1では得られにくい送り分力に対する衝撃吸収能も、本実施の形態では得ることが可能である。
【0033】
また、45度以上傾斜した領域を、図3(B)のように底面200Tに対して垂直としてもよいが、図3(C)のように底面に対して好ましい例として60度および120度、少なくとも45度〜135度の傾斜角度とすることで、切削工具(バイト)固定の際の締付力を利用した固定も可能である。この場合、切削による衝撃、振動により若干介在部材104と、バイト柄上面側部110bおよびバイト柄下面側部111bとの問に相対運動が生じる可能性があるが、その際の摩擦力でかえって振動減衰に寄与することができる。
【0034】
(実施の形態3)
次に、図4(A),(B),(C)を参照して本実施の形態における切削工具300Aの構造について説明する。なお、(A)は、本実施の形態における切削工具300Aの側面図であり、(B)は(A)中B−B線矢視断面図である。また、(C)は、変形例における(A)中B−B線矢視に対応する断面図である。なお、上記実施の形態1と同一または相当部分については、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰返さず、本実施の形態の特徴部分についてのみ詳細に説明する。
【0035】
本実施の形態における切削工具300Aは、図4(B)の断面図に示すように、切削工具300Aの長手方向に垂直な断面形状に関し、バイト柄上面側部110bとバイト柄下面側部111bとの対向する面において、バイト柄上面側部110bに、介在部材104を受け入れる凹部310が設けられている。なお、バイト柄下面側部111b側に凹部を設けることも可能である。
【0036】
また、図4(C)の断面図に示すように、切削工具300Aの長手方向に垂直な断面形状に関し、バイト柄上面側部110bとバイト柄下面側部111bとの対向する面において、バイト柄上面側部110bに、バイト柄下面側部111b側に向かう凸部330が設けられ、バイト柄下面側部111bに、凸部330を受け入れる凹部320が設けられており、この凹部320と凸部330との間に、介在部材104が配設されている。なお、凹部をバイト柄上面側部110bに設け、凸部をバイト柄下面側部111bに設けることも可能である。
【0037】
なお、介在部材104は、切削工具300Aの長手方向に垂直な断面形状に関し、バイト柄上面側部110bとバイト柄下面側部111bとの対向する面において、全体に存在しても良いが、本実施の形態のように内部に位置する凹部の平坦部分にのみ配設し、外部領域には介在部材104を配設しない構造の採用も可能である。これにより、切削の際に飛散する切りくず等に介在部材104がさらされることがなく、介在部材104の劣化を抑制することができる。
【0038】
また、変形例として、図5(A),(B)に示す構造の採用も可能である。なお、(A)は、本実施の形態の変形例における切削工具300Bの側面図であり、(B)は(A)中B−B線矢視断面図である。
【0039】
この変形例における切削工具300Bにおいては、バイト柄上面側部110bとバイト柄下面側部111bとの対向する面において、その外部領域に第1介在部材304を配置し、内部領域に第2介在部材104を配置するようにしたものである。
【0040】
たとえば、内部領域に配置する第2介在部材104には、比較的強度がある硬質ゴムなどを用い、外部領域に配置する第1介在部材304には、シリコン材料のように第2介在部材104よりも耐熱性および耐水性の高い部材である材料を用いれば、内部で実際に衝撃緩和に寄与する介在部材104に切削油剤等が侵入して、介在部材104が劣化することを防止することが可能である。
【0041】
(実施の形態4)
次に、図6を参照して、本実施の形態における切削工具について説明する。本実施の形態における切削工具の本体の一例としては、上記実施の形態1と同じ切削工具100を用いるものとする。
【0042】
本実施の形態における切削工具400Aは、図6に示すように、バイト頭下面側部111aに突起領域としての補強部品401がボルト402により固定されている。
【0043】
また、図7に示すように、突起領域の変形例として、バイト頭下面側部111a自体に突起領域としての補強部品401を設け、バイト柄下面側部111b自体にも突起領域としての補強部品403を設ける構成の切削工具400Bの採用も可能である。
【0044】
実施の形態1のように、切削工具を分割することは、工具系の剛性を低下させる。このような場合、挿入する材質によってはバイト頭部のたわみが極端に大きくなる。その結果、かえって切削工具が振動しやすくなり、チップの耐欠損性が悪化したり、寸法精度の低下を招く恐れがある。そこで、バイト頭部の下面側を突起領域により支持することで、バイト頭部のたわみが極端に大きくなることを防ぎ、剛性を維持しながら介在部材104の衝撃、振動抑制機能をより引き出しやすくすることが可能になる。
【0045】
(実施の形態5)
次に、図8(A),(B),(C),(D),(E)を用いて、本実施の形態における切削工具の構造について説明する。なお、(A)は、本実施の形態における切削工具500の側面図であり、(B)は、(A)中B−B線矢視断面図であり、(C)〜(E)は、変形例における(A)中B−B線矢視に対応する断面図である。なお、上記実施の形態1と同一または相当部分については、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰返さず、本実施の形態の特徴部分についてのみ詳細に説明する。
【0046】
この切削工具500は、切刃部分503およびバイト本体部分502を備える。バイト本体部分502は、バイト柄部502aおよび切刃部分503を支持する切刃部支持面503bを含むバイト頭部502bを有している。さらに、バイト柄部502aを内部に収容し、実質的には、バイト柄部の上面および底面を形成する囲い壁からなる、筒状の外側柄部501を備えている。また、図8(A)に示す構造においては、外側柄部501の底面501Tと、バイト柄部502aとの間に、介在部材104が配設されている。
【0047】
変形例として、図8(C)に示すように、外側柄部501の上面501Uとバイト柄部502aとの間に、ボルトなどの固定手段505が設けられ、外側柄部501からバイト柄部502aを押圧させる。
【0048】
低弾性材料などからなる介在部材104は、切削工具500を工作機械に取りつける際の締付力により圧縮され、その変形量は切削工具500の本体に比べて大きくなる。この締付力が一定であれば、切削工具500の底面から切刃部分503までの高さ(芯高)は一定であるが、締付力が大きく変化すると芯高も変化する。
【0049】
芯高が変わると実質的な刃先諸元(すくい角など)に影響するが、これは旋削加工の場合、被削材の直径が小さいほど変化が大きくなる。このため通常レベルの加工ではほとんど問題とならないが、精密加工においては影響について考慮が必要なケースも考えられる。
【0050】
これに対し本実施の形態における切削工具500おいては、工作機械からの締付力は外側柄部501に対して加わり、切刃部分503を有するバイト本体部分502には直接加わらない。このため外側柄部501が十分な剛性を持っていれば、介在部材104の変形量は外側柄部501をバイト本体部分502に固定する際の締付カのみに依存し、工作機械の締付カが変化しても芯高は変化しない。
【0051】
また図8(D)のように、切削工具500の底面500Tに対して45度以上傾いた面(図ではバイト柄部502aの側面が該当し、底面500Tに対して90度傾いている)と、外側柄部501との間にも介在部材104を介在させることで、上記実施の形態3と同様のせん断変形による振動減衰効果を得ることができる。なお、バイト柄部502aの側面は、底面500Tに対して90度傾いている場合だけでなく、約45度〜約135度傾斜する側面(傾斜面)の採用によっても同様の作用効果が得られる。
【0052】
また、図8(B)および(C)においては、バイト柄部502aの外周全周を外側柄部501で覆う構造を採用しているが、図8(E)に示すように、バイト柄部502aの一部(一方の側面)が露出するような、外側柄部501の構造であって、バイト柄部502aの少なくとも上面および底面を覆うことができれば同様の効果を得ることができる。
【0053】
図8(B),(C),(D)に示す外側柄部501の構造においては、外側柄部501の剛性が高く、かつ切りくずや切削油の介在部材104への付着による劣化を防止するという利点がある。また、図8(E)に示す外側柄部501の構造においては、外側柄部501の形状の加工容易性という利点がある。
【0054】
(実施例)
次に、本発明に基づいた実施例について示す。被削材がCr−Mo鋼材の旋削加工において、被削材長手方向に溝を設けることで、断続切削加工を行った。切削条件は切削速度200m/min、送り0.25mm/rev、切込み2.0mmの湿式加工であり、切削工具の先端に設けられた切刃部分に破損が生じるまでの断続切削回数により評価した。
【0055】
本発明の切削工具では、図1、図3(C)、図3(E)、図4(C)、図5、図6、図8(C)について、従来品との比較を行っている。従来品を含め、バイト本体部分の材質は焼入れしたCr−Mo鋼である。
【0056】
(実施例1)
実施例1における切削工具は、図1の実施の形態1に対応するものである。バイト本体部分101における厚みで、バイト柄上面側部110bが20mm、バイト柄下面側部111bが3.5mmとし、その問に介在部材104(低弾性材料部)として硬質ゴム1.5mm厚を切削工具100の長手方向全面にわたって挟みこんでおり、切削工具100を工作機械に固定する際の締付力によりこれらは固定されている。なお、バイト柄下面側部111bおよびバイト柄上面側部110bと介在部材104はボルト止め、接着などにより互いに固着されていても良い。
【0057】
(実施例2)
実施例2における切削工具は、図3(C)の実施の形態2に対応するものである。バイト柄下面側部111bとバイト柄上面側部110bとの対向する面のうち、外側領域に、切削工具の底面に対して60度(120度)傾いた領域222,223が設けられている。さらに、対応する外側領域には、高減衰ゴムを設置している。その他の構成は図1に示す実施の形態1の切削工具100と同じである。また、実施例2−bとして、図3(E)に示すように、切削工具の底面に対して30度(150度)傾いた領域を設けた例を示している。この角度以外の構成は、実施例2と同様である。
【0058】
(実施例3)
実施例3における切削工具は、図4(C)の実施の形態3に対応するものである。バイト柄上面側部110bに、バイト柄下面側部111b側に向かう凸部330が設けられ、バイト柄下面側部111bに、凸部330を受け入れる凹部320が設けられており、この凹部320と凸部330との間に、介在部材104が配設されている。切削工具の横方向の幅(ここでは25mm)のうち、内部の20mmで介在部材104としての硬質ゴムを介してバイト柄上面側部110bとバイト柄下面側部111bとは接している。その外側では両者間には高さ1mmの空隙が設けられている。
【0059】
(実施例4)
実施例4における切削工具は、図5の実施の形態3の変形例に対応するものである。外部領域に配置する第1介在部材304としてのシリコン樹脂を埋め込んでいる。他の構成は、上記実施例3と同じ構成である。第1介在部材304としてのシリコン樹脂は内部領域に配置される第2介在部材104としての硬質ゴムに比べさらに低剛性であるが、耐熱性や耐水性にすぐれており、内部への切削液の侵入を防ぐ。
【0060】
(実施例5)
実施例5における切削工具は、図6の実施の形態4に対応するものである。切削工具100の切刃支持下面側部111aに突起領域としての補強部品401がボルト402により固定されている。この補強部品401は工作機械台座部分に接しており、バイト頭部が大きくたわむことを防ぐ。
【0061】
(実施例6)
実施例6における切削工具は、図8(C)の実施の形態5の変形例に対応するものである。バイト柄部502aの周囲を厚み3mmの外側柄部501で全周を覆っている。バイト柄部502aと外側柄部501との間には1.5mmの硬質ゴムを配している。外側柄部501の上面501Uとバイト柄部502aとの間に、ボルトなどの固定手段505が設けられ、外側柄部501からバイト柄部502aを押圧・固定している。
【0062】
切刃部分(チップ)の破損は確率的に生じるとされていることから、ここでは10回の試験での平均値により評価を行なうものとする。また各切削工具(バイト)は切刃部分(チップ)を交換可能とした切刃交換型の切削工具であり、切刃部分(チップ)にはコーティング超硬合金製工具を用いている。
【0063】
表1に従来品、および各実施例での欠損に至るまでの断続切削回数を示している(初期)。
【0064】
【表1】
Figure 2004202648
【0065】
これより本発明に基づく切削工具を用いることで、切刃部分の欠損が抑制されたことがわかる。特に実施例2および実施例5の切削工具は寿命が長い。実施例2の切削工具においては、切削工具の底面に対して60度(120度)傾いた領域222,223が設けられ、この領域に設置した介在部材104の緩衝、および振動減衰効果によって、たとえば、実施例2−bのように底面に対する傾斜角度30度(150度)のものと比較して、より工具欠損を抑制できることが分かる。
【0066】
実施例5の切削工具においては、補強部品401により剛性を維持することで、介在部材104の振動・衝撃吸収能力を十分に発揮させていることが分かる。
【0067】
この断続切削試験の後に、同様の被削材材質、切削条件で通常の丸棒の旋削加工を切削油を高圧給油する条件で10時間行ない、再度断続切削試験を10回行った。それらの平均値についても表1(10hr切削後)に示している。
【0068】
これから分かるように、介在部材104が外に露出している実施例1および実施例5の切削工具は初期に比べ性能が低下しているが、他の実施例における切削工具は低下の程度は比較的少ない。特に、実施例4のように、外部領域に第1介在部材304としてのシリコン樹脂を埋め込んだ構成を採用した切削工具や、実施例6のようにバイト柄部502aの周囲を外側柄部501で全周を覆っている構成を採用した切削工具では、初期と大差のない結果となっている。
【0069】
次に、各発明品を2種類の旗盤(旋盤1、旋盤2)に3度ずつ取り付け、それぞれのケースで切削工具底面から切刃部分までの高さ(芯高)を測定した結果を表2に示す。ただし、値は基準値(25mm)からの差異で表している。
【0070】
【表2】
Figure 2004202648
【0071】
これから分かるように、多くの実施例における切削工具において、0.07mm〜0.09mmのばらつきが見られる、旋盤ではなく、ボルトなどの固定手段505により、外側柄部501からバイト柄部502aを押圧・固定している実施例6に示す切削工具においては、従来品と同等の値を得ることを可能としている。
【0072】
たとえば被削材直径が100mm、切込みが1mmの場合で、仮に芯高が0.1mmずれても、実質的なすくい角の変化は約0.1度で問題にはならないが、特に厳格な管理が求められる場合は、実施例6の切削工具の構造が効果的であると考えられる。
【0073】
なお、上記実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0074】
【発明の効果】
以上、本発明に基づいた切削工具によれば、低弾性部材としての介在部材がせん断変形することにより、より一層その減衰効果を高めること可能であり、切刃部分の欠損抑制、さらには工具系の振動のさらなる抑制が可能である。
【0075】
また、本発明に基づいた切削工具によれば、低弾性部材としての介在部材の緩衝・減衰効果を維持したまま、その耐久性を高めることが可能であり、同一の切削工具により長期間切刃部分の欠損抑制を図ることが可能である。
【0076】
また、本発明に基づいた切削工具によれば、工作機械台座を利用してバイト頭部を補強することにより、低弾性部材としての介在部材を設けても、バイト頭部の剛性を維持することができ、介在部材の緩衝・減衰効果を十分に引き出すことが可能である。
【0077】
また、本発明に基づいた切削工具によれば、切削工具を2重構造とすることで、切刃部分の芯高を変化させずに各種の工作機械で利用することが可能であり、低弾性部材としての介在部材を採用した切削工具の利用性を高めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)は、この発明に基づいた実施の形態1における切削工具の側面図であり、(B)は(A)中B−B線矢視断面図である。
【図2】この発明に基づいた実施の形態1の変形例における切削工具の側面図である。
【図3】(A)は、この発明に基づいた実施の形態2における切削工具の側面図であり、(B)は(A)中B−B線矢視断面図である。また、(C),(D),(E)は、変形例における(A)中B−B線矢視に対応する断面図である。
【図4】(A)は、この発明に基づいた実施の形態3における切削工具の側面図であり、(B)は(A)中B−B線矢視断面図である。また、(C)は、変形例における(A)中B−B線矢視に対応する断面図である。
【図5】(A)は、この発明に基づいた実施の形態3の変形例における切削工具の側面図であり、(B)は(A)中B−B線矢視断面図である。
【図6】この発明に基づいた実施の形態4における切削工具の側面図である。
【図7】この発明に基づいた実施の形態4の変形例における切削工具の側面図である。
【図8】(A)は、この発明に基づいた実施の形態5における切削工具の側面図であり、(B)は、(A)中B−B線矢視断面図であり、(C)〜(E)は、変形例における(A)中B−B線矢視に対応する断面図である。
【図9】(A)は、従来の技術における切削工具の側面図であり、(B)は(A)中B−B線矢視断面図である。
【符号の説明】
100,200,300A,300B,400A,400B,500 切削工具、103,503 切刃部分、103a,503a 切刃部支持面、101,502 バイト本体部分、110 第1バイト構成部品、111 第2バイト構成部品、110a バイト頭上面側部、110b バイト柄上面側部、111aバイト頭下面側部、111b バイト柄下面側部、104 介在部材,第2介在部材、200T,501T 底面、211,212,213,221,222,223 領域、310,330,320 凹部、304 第1介在部材、401,403 補強部品、402 ボルト、502a バイト柄部、502b バイト頭部、501 外側柄部、501U 上面、505 固定手段。

Claims (8)

  1. 切刃部分およびバイト本体部分を備える切削工具であって、
    前記バイト本体部分は、2つ以上のバイト構成部品を有し、
    一方の第1バイト構成部品は、前記切刃部分を支持する切刃部支持面およびバイト柄上面側部を含み、
    他方の第2バイト構成部品は、バイト柄底面側部を含み、
    前記第1および第2バイト構成部品の相互に対向する面の少なくとも一部分に、前記バイト本体部分よりも弾性率が低くかつ減衰率の高い材料からなる介在部材が配設されることを特徴とする切削工具。
  2. 当該切削工具の長手方向に垂直な断面形状に関し、前記第1および第2バイト構成部品間の対向する面は、当該切削工具の底面に対して交差する方向に延びる傾斜面を含み、前記傾斜面の領域にも前記介在部材が配設されることを特徴とする、請求項1に記載の切削工具。
  3. 当該切削工具の長手方向に垂直な断面形状に関し、前記第1および第2バイト構成部品間の対向する面は、当該切削工具の底面に対して約45度〜約135度傾斜する領域と、当該切削工具の底面に対して平行な領域とを含む、請求項2に記載の切削工具。
  4. 当該切削工具の長手方向に垂直な断面形状に関し、前記第1および第2バイト構成部品間の対向する面のいずれか一方の面には、いずれか他方の面に向かう凸面形状が設けられ、いずれか他方の面には、前記凸面形状を受け入れる凹面形状が設けられ、
    前記第1および第2バイト構成部品間の対向する面の内部領域に前記介在部材が配設され、外部領域を空隙とすることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の切削工具。
  5. 前記介在部材は、前記第1および第2バイト構成部品間の対向する面の外側領域に配置される第1介在部材と、内側領域に配置される第2介在部材とを含み、
    前記第1介在部材は、前記第2介在部材よりも、耐熱性および耐水性の高い部材が用いられることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の切削工具。
  6. 前記第2バイト構成部品は、バイト頭部の底面側に、当該切削工具が固定される工作機械台座部によって支持される突起領域を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の切削工具。
  7. 切刃部分およびバイト本体部分を備える切削工具であって、
    前記バイト本体は、2つ以上のバイト構成部品を有し、
    一方の第1バイト構成部品は、前記切刃部分を支持する切刃部支持面およびバイト柄部を含み、
    他方の第2バイト構成部品は、前記バイト柄部の少なくとも底面側および上面側に配置される囲い壁を含み、
    前記第1および第2バイト構成部品の相互に対向する面の少なくとも一部分に、前記バイト本体部分よりも弾性率が低くかつ減衰率の高い材料からなる介在部材が配設され、
    前記上面側に配置される前記囲い壁側から、前記第2バイト構成部品を前記第1バイト構成部品に押圧させることを特徴とする切削工具。
  8. 当該切削工具の長手方向に垂直な断面形状に関し、前記第1および第2バイト構成部品間の対向する面は、当該切削工具の底面に対して45約45度〜約135度傾斜する方向に延びる傾斜面を含み、前記傾斜面の領域にも前記介在部材が配設されることを特徴とする、請求項7に記載の切削工具。
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