JP2004195939A - 液体噴射ヘッドの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】各部材間の接合領域から接着剤が流れ出すのを確実に防止できる液体噴射ヘッドの製造方法を提供する。
【解決手段】液滴を吐出するノズル開口に連通する圧力発生室が画成される流路形成基板と、流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられて圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧電素子とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法において、流路形成基板に加熱により硬化する接着剤を介して接合部材を接合する接合工程が加熱温度条件の異なる複数の段階に分けられ、且つその接合工程は、接着剤の粘度−温度特性における粘度が最小となる温度t1より低い温度t2で加熱する予備硬化段階130を含むようにしたので、流路形成基板と接合基板との接合領域から接着剤が流れ出すのを確実に防止できる。
【選択図】 図6
【解決手段】液滴を吐出するノズル開口に連通する圧力発生室が画成される流路形成基板と、流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられて圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧電素子とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法において、流路形成基板に加熱により硬化する接着剤を介して接合部材を接合する接合工程が加熱温度条件の異なる複数の段階に分けられ、且つその接合工程は、接着剤の粘度−温度特性における粘度が最小となる温度t1より低い温度t2で加熱する予備硬化段階130を含むようにしたので、流路形成基板と接合基板との接合領域から接着剤が流れ出すのを確実に防止できる。
【選択図】 図6
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、圧力発生室に供給された液体を圧電素子によって加圧することにより、ノズル開口から液滴を噴射させる液体噴射ヘッドの製造方法に関し、特に、液体としてインクを吐出させるインクジェット式記録ヘッドの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。
【0003】
このような各圧電アクチュエータを使用したインクジェット式記録ヘッドでは、何れにしても複数の部材で構成されており、これら各部材は接着剤を介して組み立てるのが一般的である。
【0004】
例えば、たわみ振動モードのアクチュエータを使用したインクジェット式記録ヘッドでは、圧電素子とは反対側の面に接着剤を介してノズル開口が穿設されたノズルプレートを接合した構造が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、最近では、流路形成基板の圧電素子側の面上に、リザーバ形成基板を接合する構造のインクジェット式記録ヘッドが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】
特開平10−181015号公報(段落[0060]、第5図)
【特許文献2】
特開2002−225268号公報(段落[0068]、第1及び第2図)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上述したインクジェット式記録ヘッドの組み立ては、例えば、流路形成基板にノズルプレート等の各部材同士を加熱により硬化する接着剤を介して仮組み立てし、その組立体をオーブン等の加熱装置に入れて一定の温度条件下で所定時間加熱することにより、接着剤を硬化させて各部材同士を接合することにより行われる。
【0008】
しかしながら、加熱により硬化する接着剤は、一般的に、ある温度以上に加熱すると粘度が一旦急激に下がりその後粘度が上がって最終的には硬化する物性を有している。そして、このように接着剤の粘度が急激に下がると、流動性を帯びた接着剤が各部材の接合領域から外側に流れ出してそのまま硬化してしまい、各部材同士を所望の接着強度で接合することができないという問題がある。
【0009】
また、上述した圧電素子を封止する構造のインクジェット式記録ヘッドでは、流路形成基板の圧電素子側の面上に封止基板を接合する際に、圧電素子の周囲や電極上に接着剤が流れ出して硬化すると、接続不良や圧電素子等の変位特性を低下させてしまうという問題がある。さらに、各圧力発生室の内部へ接着剤が流れ出して硬化すると、インク吐出特性に悪影響を及ぼしてしまうという問題がある。
【0010】
なお、このような問題は、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッドだけでなく、勿論、インク以外の液体を噴射する他の液体噴射ヘッドにおいても、同様に存在する。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑み、各部材間の接合領域から接着剤が流れ出すのを確実に防止できる液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを課題とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、液滴を吐出するノズル開口に連通する圧力発生室が画成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられて前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧電素子とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法において、前記流路形成基板に加熱により硬化する接着剤を介して接合部材を接合する接合工程が加熱温度条件の異なる複数の段階に分けられ、且つ当該接合工程は、前記接着剤の粘度−温度特性における粘度が最小となる温度より低い温度で加熱する予備硬化段階を含むことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0013】
かかる第1の態様では、予備硬化段階で接着剤の粘度を上昇させることにより、粘度が低下しても流路形成基板と接合部材との間に介在させた接着剤が接合領域から外側に流れ出すことがない。
【0014】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記接合工程が、前記予備硬化段階後に、前記接着剤の粘度−温度特性における粘度が最小となる温度より高い温度で加熱する硬化段階を含むことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0015】
かかる第2の態様では、予備硬化段階で接着剤の粘度を上昇させた後に硬化段階を行うことにより、流路形成基板と接合部材との間の接合領域から接着剤が流れ出すのを防止できる。また、硬化段階では、接着剤を短時間で硬化させることができる。
【0016】
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様において、前記予備硬化段階の加熱温度を、前記接着剤の粘度−温度特性における粘度の低下が始まる温度より低くすることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0017】
かかる第3の態様では、流路形成基板と接合部材との間の接合領域から接着剤が流れ出すのをより効果的に防止できる。
【0018】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様において、前記接合部材の端面と前記流路形成基板の一方面とで形成される角部からはみ出した前記接着剤の表面と当該流路形成基板の一方面との成すメニスカス角が30°以上となるように前記予備硬化段階を行うことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0019】
かかる第4の態様では、予備硬化段階によって接着剤が所定の粘度以上となり、流路形成基板と接合部材との間の接合領域から接着剤が流れ出すのをより効果的に防止できる。
【0020】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様において、前記予備硬化段階後の加熱による前記接着剤の粘度が最小粘度となるときの前記接合部材の端面と前記流路形成基板の一方面とで形成される角部からはみ出した前記接着剤の表面と当該流路形成基板の一方面との成すメニスカス角が20°以上となるように前記予備硬化段階を行うことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0021】
かかる第5の態様では、予備硬化段階によって接着剤が所定の粘度以上となり、流路形成基板と接合部材との間の接合領域から接着剤が流れ出すのをより効果的に防止できる。
【0022】
本発明の第6の態様は、第1〜5の何れかの態様において、前記接着剤が主剤と硬化剤とからなることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0023】
かかる第6の態様では、加熱温度条件により主剤と硬化剤との反応、すなわち、接着剤の硬化反応を制御できる。
【0024】
本発明の第7の態様は、第1〜6の何れかの態様において、前記接合工程では、前記圧電素子に対向する領域に空間を確保した状態で当該空間を密封する圧電素子保持部を有する封止基板を前記接合部材として前記流路形成基板の前記圧電素子側の面に接合することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0025】
かかる第7の態様では、接着剤が流れ出すことなく流路形成基板と封止基板とを確実に接合でき、安定した圧電素子等の変位特性を得ることができる。
【0026】
本発明の第8の態様は、第1〜7の何れかの態様において、前記接合工程では、前記ノズル開口を有するノズルプレートを前記接合部材として前記流路形成基板の前記圧電素子側とは反対側の面に接合することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0027】
かかる第8の態様では、接着剤が流れ出すことなく流路形成基板とノズルプレートとを確実に接合でき、安定したインク吐出特性を得ることができる。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの概略を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及び断面図である。図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなる。流路形成基板10としては、通常、30〜300μm程度の厚さのものが用いられ、望ましくは50〜280μm程度、より望ましくは100μm程度の厚さのものが好適である。これは、隣接する圧力発生室12間の隔壁11の剛性を保ちつつ、配列密度を高くできるからである。流路形成基板10の一方の面は開口面となり、他方の面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ1〜2μmの弾性膜50が形成されている。
【0029】
一方、流路形成基板10の開口面には、シリコン単結晶基板を異方性エッチングすることにより、複数の隔壁11により区画された圧力発生室12が幅方向に並設され、その長手方向外側には、後述する封止基板30のリザーバ部31に連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100の一部を構成する連通部13が形成され、各圧力発生室12の長手方向一端部とそれぞれインク供給路14を介して連通されている。
【0030】
ここで、異方性エッチングは、シリコン単結晶基板をKOH等のアルカリ溶液に浸漬すると、徐々に侵食されて(110)面に垂直な第1の(111)面と、この第1の(111)面と約70度の角度をなし且つ上記(110)面と約35度の角度をなす第2の(111)面とが出現し、(110)面のエッチングレートと比較して(111)面のエッチングレートが約1/180であるという性質を利用して行われるものである。かかる異方性エッチングにより、二つの第1の(111)面と斜めの二つの第2の(111)面とで形成される平行四辺形状の深さ加工を基本として精密加工を行うことができ、圧力発生室12を高密度に配列することができる。
【0031】
本実施形態では、各圧力発生室12の長辺を第1の(111)面で、短辺を第2の(111)面で形成している。この圧力発生室12は、流路形成基板10をほぼ貫通して弾性膜50に達するまでエッチングすることにより形成されている。ここで、弾性膜50は、シリコン単結晶基板をエッチングするアルカリ溶液に侵される量がきわめて小さい。また各圧力発生室12の一端に連通する各インク供給路14は、圧力発生室12より浅く形成されており、圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。すなわち、インク供給路14は、シリコン単結晶基板を厚さ方向に途中までエッチング(ハーフエッチング)することにより形成されている。なお、ハーフエッチングは、エッチング時間の調整により行われる。
【0032】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側で連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接合基板として後述する接着剤層100を介して接合されている。なお、ノズルプレート20は、厚さが例えば、0.1〜1mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5〜4.5[×10-6/℃]であるガラスセラミックス、又は不錆鋼などからなる。ノズルプレート20は、一方の面で流路形成基板10の一面を全面的に覆い、シリコン単結晶基板を衝撃や外力から保護する補強板の役目も果たす。また、ノズルプレート20は、流路形成基板10と熱膨張係数が略同一の材料で形成するようにしてもよい。この場合には、流路形成基板10とノズルプレート20との熱による変形が略同一となるため、熱硬化性の接着剤等を用いて容易に接合することができる。
【0033】
ここで、インク滴吐出圧力をインクに与える圧力発生室12の大きさと、インク滴を吐出するノズル開口21の大きさとは、吐出するインク滴の量、吐出スピード、吐出周波数に応じて最適化される。例えば、1インチ当たり360個のインク滴を記録する場合、ノズル開口21は数十μmの直径で精度よく形成する必要がある。
【0034】
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側の弾性膜50の上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.1μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70、及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせて圧電アクチュエータと称する。
【0035】
また、圧電素子300の上電極膜80の長手方向一端部近傍から流路形成基板10の端部近傍まで、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が延設されている。そして、このリード電極90の端部近傍には圧電素子300を駆動するための外部配線(図示なし)が電気的に接続される。
【0036】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、リザーバ110の少なくとも一部を構成するリザーバ部31を有する封止基板30が接合基板として接着剤層100を介して接合されている。このような接着剤層100を形成する接着剤としては、加熱により硬化する接着剤であればよく、例えば、エポキシ接着剤やシリコーン接着剤等を挙げることができ、本実施形態では、エポキシ接着剤を用いた。また、このようなエポキシ接着剤としては、主剤としてエポキシ樹脂を用い、この主剤を硬化させるための硬化剤としてポリアミンや酸無水物、あるいは多硫化ゴム及びフェノール等を用いることができる。
【0037】
また、このような接着剤層100は、詳しくは後述するが、接着剤の粘度−温度特性における粘度が最小となる温度より低い温度で加熱する予備硬化段階を行った後に、接着剤を完全に硬化させる硬化段階を行うことにより形成される。これにより、本実施形態では、流路形成基板10と封止基板30との間の接合領域から接着剤層100が流れ出して硬化するのを確実に防止できる。したがって、流路形成基板10と封止基板30とを所望の接着強度で確実に接合することができる。また、圧電素子300の周囲やリード電極90の上に接着剤層100が流れ出して形成されることがないため、接続不良や、圧電素子300の変位特性が低下する虞もない。したがって、安定したインク吐出特性を得ることができる。
【0038】
このようにして流路形成基板10上に接合された封止基板30のリザーバ部31は、本実施形態では、封止基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述したように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ110を構成している。
【0039】
また、封止基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を確保した状態で、その空間を密封可能な圧電素子保持部32が設けられ、圧電素子300はこの圧電素子保持部32内に密封されている。なお、この封止基板30は、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0040】
さらに、このような封止基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合基板として上述した接着剤層100を介して接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ110に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ110の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止され、内部圧力の変化によって変形可能な可撓部34となっている。
【0041】
また、このリザーバ110の長手方向略中央部外側のコンプライアンス基板40上には、リザーバ110にインクを供給するためのインク導入口35が形成されている。さらに、封止基板30には、インク導入口35とリザーバ110の側壁とを連通するインク導入路36が設けられている。
【0042】
なお、封止基板30の圧電素子300に対応する領域上には、各圧電素子300を駆動するための、例えば、回路基板あるいは駆動回路を含む半導体集積回路(IC)等の駆動回路120が搭載されている。そして、この駆動回路120は、封止基板30の圧電素子保持部32とリザーバ部31との間の領域に設けられた貫通孔37を介して延設されたボンディングワイヤ等からなる駆動配線130によって、各リード電極90とそれぞれ電気的に接続されている(図2(b)参照)。
【0043】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口35からインクを取り込み、リザーバ110からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0044】
以上説明した本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、特に限定されないが、その一例を図3〜図8を参照して説明する。図3及び図4、図8は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。また、図5及び図6は、接着剤の粘度と加熱温度と加熱時間との関係を示す図であり、図7は、接着剤のメニスカス角θを説明する図である。
【0045】
まず、図3(a)に示すように、流路形成基板10となるシリコン単結晶基板のウェハを約1100℃の拡散炉で熱酸化して二酸化シリコンからなる弾性膜50を形成する。
【0046】
次に、図3(b)に示すように、スパッタリングで下電極膜60を弾性膜50の全面に形成後、下電極膜60をパターニングして全体パターンを形成する。この下電極膜60の材料としては、白金(Pt)等が好適である。これは、スパッタリング法やゾル−ゲル法で成膜する後述の圧電体層70は、成膜後に大気雰囲気下又は酸素雰囲気下で600〜1000℃程度の温度で焼成して結晶化させる必要があるからである。すなわち、下電極膜60の材料は、このような高温、酸化雰囲気下で導電性を保持できなければならず、殊に、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いた場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ないことが望ましく、これらの理由から白金が好適である。
【0047】
次に、図3(c)に示すように、圧電体層70を成膜する。この圧電体層70は、結晶が配向していることが好ましい。例えば、本実施形態では、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて形成することにより、結晶が配向している圧電体層70とした。圧電体層70の材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛系の材料がインクジェット式記録ヘッドに使用する場合には好適である。なお、この圧電体層70の成膜方法は、特に限定されず、例えば、スパッタリング法で形成してもよい。さらに、ゾル−ゲル法又はスパッタリング法等によりチタン酸ジルコン酸鉛の前駆体膜を形成後、アルカリ水溶液中での高圧処理法にて低温で結晶成長させる方法を用いてもよい。
【0048】
何れにしても、このように成膜された圧電体層70は、バルクの圧電体とは異なり結晶が特定の方位に優先配向しており、且つ本実施形態では、圧電体層70は、結晶が柱状に形成されている。なお、優先配向とは、結晶の配向方向が無秩序ではなく、特定の結晶面がほぼ一定の方向に向いている状態をいう。また、結晶が柱状の薄膜とは、略円柱体の結晶が中心軸を厚さ方向に略一致させた状態で面方向に亘って集合して薄膜を形成している状態をいう。勿論、優先配向した粒状の結晶で形成された薄膜であってもよい。なお、このように薄膜工程で製造された圧電体層の厚さは、一般的に0.2〜5μmである。
【0049】
次に、図3(d)に示すように、上電極膜80を成膜する。上電極膜80は、導電性の高い材料であればよく、アルミニウム、金、ニッケル、白金等の多くの金属や、導電性酸化物等を使用できる。本実施形態では、白金をスパッタリングにより成膜している。
【0050】
次に、図4(a)に示すように、圧電体層70及び上電極膜80のみをエッチングして圧電素子300のパターニングを行う。次いで、図4(b)に示すように、リード電極90を形成する。具体的には、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を流路形成基板10の全面に亘って形成すると共に、各圧電素子300毎にパターニングする。
【0051】
以上が膜形成プロセスである。このようにして膜形成を行った後、前述したアルカリ溶液によるシリコン単結晶基板の異方性エッチングを行い、圧力発生室12、連通部13及びインク供給路14等を形成する。
【0052】
まず、図4(c)に示すように、エポキシ接着剤からなる接着剤層100を介して流路形成基板10と封止基板30とを接合する。具体的には、本実施形態では、流路形成基板10と封止基板30とを接合する接合工程を加熱温度条件が異なる複数の段階に分けて行うようにした。例えば、本実施形態では、接着剤の粘度−温度特性における粘度が下がり始める温度より低い温度で加熱する予備硬化段階と、接着剤の粘度が最小となる温度より高い温度で加熱する最終硬化段階とに分けて行うようにした。
【0053】
ここで、接着剤を試験的に加熱していくと、図5に示すように、接着剤の粘度が急激に下がる温度範囲Aが存在する。例えば、エポキシ接着剤では、約30〜40℃付近に粘度が急激に下がる温度範囲Aが存在する。そして、接着剤は、このような温度範囲Aにおいて粘度が一旦急激に下がり、その後、主剤と硬化剤との反応により粘度が実質的に高まり、結果的に硬化する。なお、温度範囲Aでは、主剤と硬化剤とは僅かに反応しているが樹脂材料の粘度低下により全体の粘度は下がる。
【0054】
そこで、本発明では、図5及び図6に示すように、接合工程の最初の加熱段階、すなわち、予備硬化段階130を設け、この予備硬化段階130を接着剤の粘度−温度特性における最小粘度V1となる温度t1より低い温度t2で加熱するようにした。具体的には、流路形成基板10と封止基板30とを接着剤を介して仮組み立てした後、その組立体をオーブン等の加熱装置(図示なし)で加熱し、加熱温度を上述した粘度が急激に下がる温度範囲Aより低い温度t2、本実施形態では約30℃で所定時間保持することで、予備硬化段階130を実行するようにした。
【0055】
これにより、その後の工程で接着剤を温度範囲A以上の温度で加熱しても、流路形成基板10と封止基板30との間の接合領域から接着剤が流れ出ない程度の粘度に接着剤の硬化反応が進行する。すなわち、後述する硬化段階で加熱して接着剤を完全に硬化させる際に接着剤の粘度低下が生じても、流路形成基板10と封止基板30との間の接合領域から接着剤が外側に流れ出すのを防止することができる。なお、接着剤の粘度が下がる温度範囲Aより低い温度で加熱し続ければ、接着剤の粘度は下がらずにそのまま硬化するが、これでは接合工程の時間がかかり好ましくない。
【0056】
ここで、予備硬化段階130での加熱温度t2は、接着剤の種類等を考慮して、その後の硬化段階での接着剤の最小粘度が接合領域から流れ出さない程度の粘度となるように適宜決定すればよいが、予備硬化段階130において接着剤が所定の粘度以上となるような加熱温度であることが好ましい。例えば、本実施形態では、予備硬化段階130の際に、粘度V3(図6参照)を示すときの接着剤のメニスカス角θが30°以上となっていることが好ましい。これにより、予備硬化段階130後の加熱段階において、流路形成基板10と封止基板30との間の接合領域から接着剤が流れ出ない程度の粘度とすることができる。すなわち、このような予備硬化段階130を設けることで、例えば、本実施形態では、予備硬化段階130後の加熱段階において、加熱温度t1より高い加熱温度t3に上げたとしても予備硬化段階130を行わなかった場合の接着剤の最小粘度V1より高い粘度V2にすることができ、予備硬化段階130後の加熱において、接着剤が接合領域から流れ出すのを防止できる。
【0057】
なお、ここで言う接着剤のメニスカス角θとは、図7に示すように、封止基板30の端面と流路形成基板10の表面(図7では弾性膜50の表面)とで形成される角部からはみ出した接着剤の表面と流路形成基板10の表面との成す角のことである。また、このメニスカス角θは、いわゆる接触角であり、実質的に接着剤の粘度によって決まるものである。
【0058】
さらに、予備硬化段階130での加熱温度t2は、その後の加熱による接着剤の最小粘度が所定粘度以上となるように加熱温度を決定することが好ましい。すなわち、予備硬化段階130後に加熱した際の最小粘度V2(図6参照)を示すときの接着剤のメニスカス角θが20°以上となるように、予備硬化段階130の加熱温度t2を決定することが好ましい。これにより、予備硬化段階130後に、加熱温度t1より高い温度t3で加熱しても、予備硬化段階130を行わなかった場合の接着剤の最小粘度V1より高い粘度V2とすることができ、予備硬化段階130後の加熱において、接着剤が接合領域から流れ出すのを効果的に防止できる。
【0059】
このように、流路形成基板10に接着剤を介して封止基板30を接合する接合工程を加熱温度条件が異なる複数の段階に分け、その接合工程の最初の段階として、接着剤の粘度−温度特性における粘度が最小となる温度より低い温度で加熱する予備硬化段階を設けることで、流路形成基板10と封止基板30との間の接合領域から接着剤が外側に流れ出ない程度に硬化させることができる。
【0060】
次に、硬化段階131の加熱温度を、接着剤の粘度−温度特性における粘度が最小となる温度より高い温度t3に設定し、その温度t3の加熱状態を所定時間保持する。このとき、予備硬化段階130で接着剤の粘度を上げているので、流路形成基板10と封止基板30との間の接合領域から接着剤が外側に流れ出ていない。すなわち、接合領域から接着剤層100が外側に流れ出した状態で形成されることはない。なお、このような硬化段階131の加熱温度は、本実施形態では、140℃以下とした。これは、圧電素子保持部32等の内部空間が破壊されるのを防止するためである。
【0061】
以上説明したように、本実施形態では、接着剤の粘度−温度特性における粘度が最小となる温度より低い温度で加熱する予備硬化段階を設けることで、流路形成基板10と封止基板30とを所望の接合強度で確実に接合することができる。また、圧電素子300や上電極80の上に接着剤層100が流れ出した状態で形成されることがないため、接続不良や、圧電素子300等の変位特性の低下を招く虞もない。したがって、安定したインク吐出特性を維持することができる。
【0062】
その後、図8(a)に示すように、前述したアルカリ溶液によるシリコン単結晶基板の異方性エッチングを行い、圧力発生室12、連通部13及びインク供給路14等を形成する。次に、図8(b)に示すように、上述した接合工程と同様の方法により、流路形成基板10の封止基板30とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接着剤層100を介して接合すると共に、封止基板30上にコンプライアンス基板40を接着剤層100を介して接合することにより、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドが形成される。
【0063】
このように、本実施形態では、上述した接合工程によりノズルプレート20を接合するようにしたので、各圧力発生室内に接着剤が流れ出して硬化するのを防止できる。これにより、安定したインク吐出特性を得ることができる。また、コンプライアンス基板40の接合部分に接着剤が流れ出して硬化するのも防止されるので、可撓部34の内部圧力の変化に応じた可撓変形が阻害される虞もない。
【0064】
なお、実際には、上述した一連の膜形成及び異方性エッチングによって一枚のウェハ上に多数のチップを同時に形成し、プロセス終了後、図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10毎に分割する。そして、分割した流路形成基板10に、封止基板30及びコンプライアンス基板40を順次接着して一体化し、インクジェット式記録ヘッドとする。
【0065】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、インクジェット式記録ヘッドの基本的構成は上述したものに限定されるものではない。
【0066】
例えば、上述の実施形態では、接合工程の予備硬化段階130の後、最終硬化段階を設けたが、これに限定されず、予備硬化段階と硬化段階との間に、予備硬化段階の温度より高く且つ接着剤の粘度が最小となる温度より低い温度で加熱処理を行う段階を設けるようにしてもよい。これにより、予備硬化段階で硬化していない未硬化の接着剤の硬化反応を促進させることができる。勿論、接着剤の粘度が最小となる温度より高く、硬化段階の加熱温度より低い温度で加熱処理を行う段階を設けるようにしてよいし、予備硬化段階の前段階として、予備硬化段階の加熱温度より低い温度で加熱する段階を設けるようにしてもよい。
【0067】
また、上述の実施形態では、接合工程の予備硬化段階130の加熱温度t1を接着剤の粘度が下がる温度範囲Aより低く設定したが、これに限定されず、予備硬化段階の加熱温度を接着剤の粘度が下がる温度範囲A内で且つ接着剤の粘度が最小となる温度よりも低く設定するようにしてもよい。
【0068】
さらに、上述の実施形態では、封止基板、流路形成基板、ノズルプレート、及びコンプライアンス基板とを接着剤層100を介して接合するようにしたが、これに限定されず、これら以外の部材を接合する際に本発明の製造方法を適用してもよい。
【0069】
なお、上述の実施形態では、成膜及びリソグラフィプロセスを応用して製造される薄膜型のインクジェット式記録ヘッドを例にしたが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型のインクジェット式記録ヘッドにも本発明を採用することができる。
【0070】
また、液体噴射ヘッドとしてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッド及びその製造方法並びにインクジェット式記録装置を一例として説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置全般を対象としたものである。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】インクジェット式記録ヘッドの斜視図。
【図2】インクジェット式記録ヘッドの平面図及び断面図。
【図3】インクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図4】インクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図5】接着剤の粘度と温度との関係を示す図。
【図6】接着剤の加熱温度と時間との関係を示す図。
【図7】接着剤のメニスカス角θを説明する図。
【図8】インクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【符号の説明】
10 流路形成基板、12 圧力発生室、20 ノズルプレート、21 ノズル開口、30 封止基板、31 リザーバ部、32 圧電素子保持部、40 コンプライアンス基板、60 下電極膜、70 圧電体層、80 上電極膜、100 接着剤層、110 リザーバ、300 圧電素子
【発明の属する技術分野】
本発明は、圧力発生室に供給された液体を圧電素子によって加圧することにより、ノズル開口から液滴を噴射させる液体噴射ヘッドの製造方法に関し、特に、液体としてインクを吐出させるインクジェット式記録ヘッドの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。
【0003】
このような各圧電アクチュエータを使用したインクジェット式記録ヘッドでは、何れにしても複数の部材で構成されており、これら各部材は接着剤を介して組み立てるのが一般的である。
【0004】
例えば、たわみ振動モードのアクチュエータを使用したインクジェット式記録ヘッドでは、圧電素子とは反対側の面に接着剤を介してノズル開口が穿設されたノズルプレートを接合した構造が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、最近では、流路形成基板の圧電素子側の面上に、リザーバ形成基板を接合する構造のインクジェット式記録ヘッドが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】
特開平10−181015号公報(段落[0060]、第5図)
【特許文献2】
特開2002−225268号公報(段落[0068]、第1及び第2図)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上述したインクジェット式記録ヘッドの組み立ては、例えば、流路形成基板にノズルプレート等の各部材同士を加熱により硬化する接着剤を介して仮組み立てし、その組立体をオーブン等の加熱装置に入れて一定の温度条件下で所定時間加熱することにより、接着剤を硬化させて各部材同士を接合することにより行われる。
【0008】
しかしながら、加熱により硬化する接着剤は、一般的に、ある温度以上に加熱すると粘度が一旦急激に下がりその後粘度が上がって最終的には硬化する物性を有している。そして、このように接着剤の粘度が急激に下がると、流動性を帯びた接着剤が各部材の接合領域から外側に流れ出してそのまま硬化してしまい、各部材同士を所望の接着強度で接合することができないという問題がある。
【0009】
また、上述した圧電素子を封止する構造のインクジェット式記録ヘッドでは、流路形成基板の圧電素子側の面上に封止基板を接合する際に、圧電素子の周囲や電極上に接着剤が流れ出して硬化すると、接続不良や圧電素子等の変位特性を低下させてしまうという問題がある。さらに、各圧力発生室の内部へ接着剤が流れ出して硬化すると、インク吐出特性に悪影響を及ぼしてしまうという問題がある。
【0010】
なお、このような問題は、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッドだけでなく、勿論、インク以外の液体を噴射する他の液体噴射ヘッドにおいても、同様に存在する。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑み、各部材間の接合領域から接着剤が流れ出すのを確実に防止できる液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを課題とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、液滴を吐出するノズル開口に連通する圧力発生室が画成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられて前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧電素子とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法において、前記流路形成基板に加熱により硬化する接着剤を介して接合部材を接合する接合工程が加熱温度条件の異なる複数の段階に分けられ、且つ当該接合工程は、前記接着剤の粘度−温度特性における粘度が最小となる温度より低い温度で加熱する予備硬化段階を含むことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0013】
かかる第1の態様では、予備硬化段階で接着剤の粘度を上昇させることにより、粘度が低下しても流路形成基板と接合部材との間に介在させた接着剤が接合領域から外側に流れ出すことがない。
【0014】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記接合工程が、前記予備硬化段階後に、前記接着剤の粘度−温度特性における粘度が最小となる温度より高い温度で加熱する硬化段階を含むことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0015】
かかる第2の態様では、予備硬化段階で接着剤の粘度を上昇させた後に硬化段階を行うことにより、流路形成基板と接合部材との間の接合領域から接着剤が流れ出すのを防止できる。また、硬化段階では、接着剤を短時間で硬化させることができる。
【0016】
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様において、前記予備硬化段階の加熱温度を、前記接着剤の粘度−温度特性における粘度の低下が始まる温度より低くすることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0017】
かかる第3の態様では、流路形成基板と接合部材との間の接合領域から接着剤が流れ出すのをより効果的に防止できる。
【0018】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様において、前記接合部材の端面と前記流路形成基板の一方面とで形成される角部からはみ出した前記接着剤の表面と当該流路形成基板の一方面との成すメニスカス角が30°以上となるように前記予備硬化段階を行うことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0019】
かかる第4の態様では、予備硬化段階によって接着剤が所定の粘度以上となり、流路形成基板と接合部材との間の接合領域から接着剤が流れ出すのをより効果的に防止できる。
【0020】
本発明の第5の態様は、第1〜4の何れかの態様において、前記予備硬化段階後の加熱による前記接着剤の粘度が最小粘度となるときの前記接合部材の端面と前記流路形成基板の一方面とで形成される角部からはみ出した前記接着剤の表面と当該流路形成基板の一方面との成すメニスカス角が20°以上となるように前記予備硬化段階を行うことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0021】
かかる第5の態様では、予備硬化段階によって接着剤が所定の粘度以上となり、流路形成基板と接合部材との間の接合領域から接着剤が流れ出すのをより効果的に防止できる。
【0022】
本発明の第6の態様は、第1〜5の何れかの態様において、前記接着剤が主剤と硬化剤とからなることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0023】
かかる第6の態様では、加熱温度条件により主剤と硬化剤との反応、すなわち、接着剤の硬化反応を制御できる。
【0024】
本発明の第7の態様は、第1〜6の何れかの態様において、前記接合工程では、前記圧電素子に対向する領域に空間を確保した状態で当該空間を密封する圧電素子保持部を有する封止基板を前記接合部材として前記流路形成基板の前記圧電素子側の面に接合することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0025】
かかる第7の態様では、接着剤が流れ出すことなく流路形成基板と封止基板とを確実に接合でき、安定した圧電素子等の変位特性を得ることができる。
【0026】
本発明の第8の態様は、第1〜7の何れかの態様において、前記接合工程では、前記ノズル開口を有するノズルプレートを前記接合部材として前記流路形成基板の前記圧電素子側とは反対側の面に接合することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0027】
かかる第8の態様では、接着剤が流れ出すことなく流路形成基板とノズルプレートとを確実に接合でき、安定したインク吐出特性を得ることができる。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの概略を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及び断面図である。図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなる。流路形成基板10としては、通常、30〜300μm程度の厚さのものが用いられ、望ましくは50〜280μm程度、より望ましくは100μm程度の厚さのものが好適である。これは、隣接する圧力発生室12間の隔壁11の剛性を保ちつつ、配列密度を高くできるからである。流路形成基板10の一方の面は開口面となり、他方の面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ1〜2μmの弾性膜50が形成されている。
【0029】
一方、流路形成基板10の開口面には、シリコン単結晶基板を異方性エッチングすることにより、複数の隔壁11により区画された圧力発生室12が幅方向に並設され、その長手方向外側には、後述する封止基板30のリザーバ部31に連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100の一部を構成する連通部13が形成され、各圧力発生室12の長手方向一端部とそれぞれインク供給路14を介して連通されている。
【0030】
ここで、異方性エッチングは、シリコン単結晶基板をKOH等のアルカリ溶液に浸漬すると、徐々に侵食されて(110)面に垂直な第1の(111)面と、この第1の(111)面と約70度の角度をなし且つ上記(110)面と約35度の角度をなす第2の(111)面とが出現し、(110)面のエッチングレートと比較して(111)面のエッチングレートが約1/180であるという性質を利用して行われるものである。かかる異方性エッチングにより、二つの第1の(111)面と斜めの二つの第2の(111)面とで形成される平行四辺形状の深さ加工を基本として精密加工を行うことができ、圧力発生室12を高密度に配列することができる。
【0031】
本実施形態では、各圧力発生室12の長辺を第1の(111)面で、短辺を第2の(111)面で形成している。この圧力発生室12は、流路形成基板10をほぼ貫通して弾性膜50に達するまでエッチングすることにより形成されている。ここで、弾性膜50は、シリコン単結晶基板をエッチングするアルカリ溶液に侵される量がきわめて小さい。また各圧力発生室12の一端に連通する各インク供給路14は、圧力発生室12より浅く形成されており、圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。すなわち、インク供給路14は、シリコン単結晶基板を厚さ方向に途中までエッチング(ハーフエッチング)することにより形成されている。なお、ハーフエッチングは、エッチング時間の調整により行われる。
【0032】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側で連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接合基板として後述する接着剤層100を介して接合されている。なお、ノズルプレート20は、厚さが例えば、0.1〜1mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5〜4.5[×10-6/℃]であるガラスセラミックス、又は不錆鋼などからなる。ノズルプレート20は、一方の面で流路形成基板10の一面を全面的に覆い、シリコン単結晶基板を衝撃や外力から保護する補強板の役目も果たす。また、ノズルプレート20は、流路形成基板10と熱膨張係数が略同一の材料で形成するようにしてもよい。この場合には、流路形成基板10とノズルプレート20との熱による変形が略同一となるため、熱硬化性の接着剤等を用いて容易に接合することができる。
【0033】
ここで、インク滴吐出圧力をインクに与える圧力発生室12の大きさと、インク滴を吐出するノズル開口21の大きさとは、吐出するインク滴の量、吐出スピード、吐出周波数に応じて最適化される。例えば、1インチ当たり360個のインク滴を記録する場合、ノズル開口21は数十μmの直径で精度よく形成する必要がある。
【0034】
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側の弾性膜50の上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.1μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70、及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせて圧電アクチュエータと称する。
【0035】
また、圧電素子300の上電極膜80の長手方向一端部近傍から流路形成基板10の端部近傍まで、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が延設されている。そして、このリード電極90の端部近傍には圧電素子300を駆動するための外部配線(図示なし)が電気的に接続される。
【0036】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、リザーバ110の少なくとも一部を構成するリザーバ部31を有する封止基板30が接合基板として接着剤層100を介して接合されている。このような接着剤層100を形成する接着剤としては、加熱により硬化する接着剤であればよく、例えば、エポキシ接着剤やシリコーン接着剤等を挙げることができ、本実施形態では、エポキシ接着剤を用いた。また、このようなエポキシ接着剤としては、主剤としてエポキシ樹脂を用い、この主剤を硬化させるための硬化剤としてポリアミンや酸無水物、あるいは多硫化ゴム及びフェノール等を用いることができる。
【0037】
また、このような接着剤層100は、詳しくは後述するが、接着剤の粘度−温度特性における粘度が最小となる温度より低い温度で加熱する予備硬化段階を行った後に、接着剤を完全に硬化させる硬化段階を行うことにより形成される。これにより、本実施形態では、流路形成基板10と封止基板30との間の接合領域から接着剤層100が流れ出して硬化するのを確実に防止できる。したがって、流路形成基板10と封止基板30とを所望の接着強度で確実に接合することができる。また、圧電素子300の周囲やリード電極90の上に接着剤層100が流れ出して形成されることがないため、接続不良や、圧電素子300の変位特性が低下する虞もない。したがって、安定したインク吐出特性を得ることができる。
【0038】
このようにして流路形成基板10上に接合された封止基板30のリザーバ部31は、本実施形態では、封止基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述したように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ110を構成している。
【0039】
また、封止基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を確保した状態で、その空間を密封可能な圧電素子保持部32が設けられ、圧電素子300はこの圧電素子保持部32内に密封されている。なお、この封止基板30は、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0040】
さらに、このような封止基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合基板として上述した接着剤層100を介して接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ110に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ110の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止され、内部圧力の変化によって変形可能な可撓部34となっている。
【0041】
また、このリザーバ110の長手方向略中央部外側のコンプライアンス基板40上には、リザーバ110にインクを供給するためのインク導入口35が形成されている。さらに、封止基板30には、インク導入口35とリザーバ110の側壁とを連通するインク導入路36が設けられている。
【0042】
なお、封止基板30の圧電素子300に対応する領域上には、各圧電素子300を駆動するための、例えば、回路基板あるいは駆動回路を含む半導体集積回路(IC)等の駆動回路120が搭載されている。そして、この駆動回路120は、封止基板30の圧電素子保持部32とリザーバ部31との間の領域に設けられた貫通孔37を介して延設されたボンディングワイヤ等からなる駆動配線130によって、各リード電極90とそれぞれ電気的に接続されている(図2(b)参照)。
【0043】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口35からインクを取り込み、リザーバ110からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0044】
以上説明した本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、特に限定されないが、その一例を図3〜図8を参照して説明する。図3及び図4、図8は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。また、図5及び図6は、接着剤の粘度と加熱温度と加熱時間との関係を示す図であり、図7は、接着剤のメニスカス角θを説明する図である。
【0045】
まず、図3(a)に示すように、流路形成基板10となるシリコン単結晶基板のウェハを約1100℃の拡散炉で熱酸化して二酸化シリコンからなる弾性膜50を形成する。
【0046】
次に、図3(b)に示すように、スパッタリングで下電極膜60を弾性膜50の全面に形成後、下電極膜60をパターニングして全体パターンを形成する。この下電極膜60の材料としては、白金(Pt)等が好適である。これは、スパッタリング法やゾル−ゲル法で成膜する後述の圧電体層70は、成膜後に大気雰囲気下又は酸素雰囲気下で600〜1000℃程度の温度で焼成して結晶化させる必要があるからである。すなわち、下電極膜60の材料は、このような高温、酸化雰囲気下で導電性を保持できなければならず、殊に、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いた場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ないことが望ましく、これらの理由から白金が好適である。
【0047】
次に、図3(c)に示すように、圧電体層70を成膜する。この圧電体層70は、結晶が配向していることが好ましい。例えば、本実施形態では、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて形成することにより、結晶が配向している圧電体層70とした。圧電体層70の材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛系の材料がインクジェット式記録ヘッドに使用する場合には好適である。なお、この圧電体層70の成膜方法は、特に限定されず、例えば、スパッタリング法で形成してもよい。さらに、ゾル−ゲル法又はスパッタリング法等によりチタン酸ジルコン酸鉛の前駆体膜を形成後、アルカリ水溶液中での高圧処理法にて低温で結晶成長させる方法を用いてもよい。
【0048】
何れにしても、このように成膜された圧電体層70は、バルクの圧電体とは異なり結晶が特定の方位に優先配向しており、且つ本実施形態では、圧電体層70は、結晶が柱状に形成されている。なお、優先配向とは、結晶の配向方向が無秩序ではなく、特定の結晶面がほぼ一定の方向に向いている状態をいう。また、結晶が柱状の薄膜とは、略円柱体の結晶が中心軸を厚さ方向に略一致させた状態で面方向に亘って集合して薄膜を形成している状態をいう。勿論、優先配向した粒状の結晶で形成された薄膜であってもよい。なお、このように薄膜工程で製造された圧電体層の厚さは、一般的に0.2〜5μmである。
【0049】
次に、図3(d)に示すように、上電極膜80を成膜する。上電極膜80は、導電性の高い材料であればよく、アルミニウム、金、ニッケル、白金等の多くの金属や、導電性酸化物等を使用できる。本実施形態では、白金をスパッタリングにより成膜している。
【0050】
次に、図4(a)に示すように、圧電体層70及び上電極膜80のみをエッチングして圧電素子300のパターニングを行う。次いで、図4(b)に示すように、リード電極90を形成する。具体的には、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を流路形成基板10の全面に亘って形成すると共に、各圧電素子300毎にパターニングする。
【0051】
以上が膜形成プロセスである。このようにして膜形成を行った後、前述したアルカリ溶液によるシリコン単結晶基板の異方性エッチングを行い、圧力発生室12、連通部13及びインク供給路14等を形成する。
【0052】
まず、図4(c)に示すように、エポキシ接着剤からなる接着剤層100を介して流路形成基板10と封止基板30とを接合する。具体的には、本実施形態では、流路形成基板10と封止基板30とを接合する接合工程を加熱温度条件が異なる複数の段階に分けて行うようにした。例えば、本実施形態では、接着剤の粘度−温度特性における粘度が下がり始める温度より低い温度で加熱する予備硬化段階と、接着剤の粘度が最小となる温度より高い温度で加熱する最終硬化段階とに分けて行うようにした。
【0053】
ここで、接着剤を試験的に加熱していくと、図5に示すように、接着剤の粘度が急激に下がる温度範囲Aが存在する。例えば、エポキシ接着剤では、約30〜40℃付近に粘度が急激に下がる温度範囲Aが存在する。そして、接着剤は、このような温度範囲Aにおいて粘度が一旦急激に下がり、その後、主剤と硬化剤との反応により粘度が実質的に高まり、結果的に硬化する。なお、温度範囲Aでは、主剤と硬化剤とは僅かに反応しているが樹脂材料の粘度低下により全体の粘度は下がる。
【0054】
そこで、本発明では、図5及び図6に示すように、接合工程の最初の加熱段階、すなわち、予備硬化段階130を設け、この予備硬化段階130を接着剤の粘度−温度特性における最小粘度V1となる温度t1より低い温度t2で加熱するようにした。具体的には、流路形成基板10と封止基板30とを接着剤を介して仮組み立てした後、その組立体をオーブン等の加熱装置(図示なし)で加熱し、加熱温度を上述した粘度が急激に下がる温度範囲Aより低い温度t2、本実施形態では約30℃で所定時間保持することで、予備硬化段階130を実行するようにした。
【0055】
これにより、その後の工程で接着剤を温度範囲A以上の温度で加熱しても、流路形成基板10と封止基板30との間の接合領域から接着剤が流れ出ない程度の粘度に接着剤の硬化反応が進行する。すなわち、後述する硬化段階で加熱して接着剤を完全に硬化させる際に接着剤の粘度低下が生じても、流路形成基板10と封止基板30との間の接合領域から接着剤が外側に流れ出すのを防止することができる。なお、接着剤の粘度が下がる温度範囲Aより低い温度で加熱し続ければ、接着剤の粘度は下がらずにそのまま硬化するが、これでは接合工程の時間がかかり好ましくない。
【0056】
ここで、予備硬化段階130での加熱温度t2は、接着剤の種類等を考慮して、その後の硬化段階での接着剤の最小粘度が接合領域から流れ出さない程度の粘度となるように適宜決定すればよいが、予備硬化段階130において接着剤が所定の粘度以上となるような加熱温度であることが好ましい。例えば、本実施形態では、予備硬化段階130の際に、粘度V3(図6参照)を示すときの接着剤のメニスカス角θが30°以上となっていることが好ましい。これにより、予備硬化段階130後の加熱段階において、流路形成基板10と封止基板30との間の接合領域から接着剤が流れ出ない程度の粘度とすることができる。すなわち、このような予備硬化段階130を設けることで、例えば、本実施形態では、予備硬化段階130後の加熱段階において、加熱温度t1より高い加熱温度t3に上げたとしても予備硬化段階130を行わなかった場合の接着剤の最小粘度V1より高い粘度V2にすることができ、予備硬化段階130後の加熱において、接着剤が接合領域から流れ出すのを防止できる。
【0057】
なお、ここで言う接着剤のメニスカス角θとは、図7に示すように、封止基板30の端面と流路形成基板10の表面(図7では弾性膜50の表面)とで形成される角部からはみ出した接着剤の表面と流路形成基板10の表面との成す角のことである。また、このメニスカス角θは、いわゆる接触角であり、実質的に接着剤の粘度によって決まるものである。
【0058】
さらに、予備硬化段階130での加熱温度t2は、その後の加熱による接着剤の最小粘度が所定粘度以上となるように加熱温度を決定することが好ましい。すなわち、予備硬化段階130後に加熱した際の最小粘度V2(図6参照)を示すときの接着剤のメニスカス角θが20°以上となるように、予備硬化段階130の加熱温度t2を決定することが好ましい。これにより、予備硬化段階130後に、加熱温度t1より高い温度t3で加熱しても、予備硬化段階130を行わなかった場合の接着剤の最小粘度V1より高い粘度V2とすることができ、予備硬化段階130後の加熱において、接着剤が接合領域から流れ出すのを効果的に防止できる。
【0059】
このように、流路形成基板10に接着剤を介して封止基板30を接合する接合工程を加熱温度条件が異なる複数の段階に分け、その接合工程の最初の段階として、接着剤の粘度−温度特性における粘度が最小となる温度より低い温度で加熱する予備硬化段階を設けることで、流路形成基板10と封止基板30との間の接合領域から接着剤が外側に流れ出ない程度に硬化させることができる。
【0060】
次に、硬化段階131の加熱温度を、接着剤の粘度−温度特性における粘度が最小となる温度より高い温度t3に設定し、その温度t3の加熱状態を所定時間保持する。このとき、予備硬化段階130で接着剤の粘度を上げているので、流路形成基板10と封止基板30との間の接合領域から接着剤が外側に流れ出ていない。すなわち、接合領域から接着剤層100が外側に流れ出した状態で形成されることはない。なお、このような硬化段階131の加熱温度は、本実施形態では、140℃以下とした。これは、圧電素子保持部32等の内部空間が破壊されるのを防止するためである。
【0061】
以上説明したように、本実施形態では、接着剤の粘度−温度特性における粘度が最小となる温度より低い温度で加熱する予備硬化段階を設けることで、流路形成基板10と封止基板30とを所望の接合強度で確実に接合することができる。また、圧電素子300や上電極80の上に接着剤層100が流れ出した状態で形成されることがないため、接続不良や、圧電素子300等の変位特性の低下を招く虞もない。したがって、安定したインク吐出特性を維持することができる。
【0062】
その後、図8(a)に示すように、前述したアルカリ溶液によるシリコン単結晶基板の異方性エッチングを行い、圧力発生室12、連通部13及びインク供給路14等を形成する。次に、図8(b)に示すように、上述した接合工程と同様の方法により、流路形成基板10の封止基板30とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接着剤層100を介して接合すると共に、封止基板30上にコンプライアンス基板40を接着剤層100を介して接合することにより、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドが形成される。
【0063】
このように、本実施形態では、上述した接合工程によりノズルプレート20を接合するようにしたので、各圧力発生室内に接着剤が流れ出して硬化するのを防止できる。これにより、安定したインク吐出特性を得ることができる。また、コンプライアンス基板40の接合部分に接着剤が流れ出して硬化するのも防止されるので、可撓部34の内部圧力の変化に応じた可撓変形が阻害される虞もない。
【0064】
なお、実際には、上述した一連の膜形成及び異方性エッチングによって一枚のウェハ上に多数のチップを同時に形成し、プロセス終了後、図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10毎に分割する。そして、分割した流路形成基板10に、封止基板30及びコンプライアンス基板40を順次接着して一体化し、インクジェット式記録ヘッドとする。
【0065】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、インクジェット式記録ヘッドの基本的構成は上述したものに限定されるものではない。
【0066】
例えば、上述の実施形態では、接合工程の予備硬化段階130の後、最終硬化段階を設けたが、これに限定されず、予備硬化段階と硬化段階との間に、予備硬化段階の温度より高く且つ接着剤の粘度が最小となる温度より低い温度で加熱処理を行う段階を設けるようにしてもよい。これにより、予備硬化段階で硬化していない未硬化の接着剤の硬化反応を促進させることができる。勿論、接着剤の粘度が最小となる温度より高く、硬化段階の加熱温度より低い温度で加熱処理を行う段階を設けるようにしてよいし、予備硬化段階の前段階として、予備硬化段階の加熱温度より低い温度で加熱する段階を設けるようにしてもよい。
【0067】
また、上述の実施形態では、接合工程の予備硬化段階130の加熱温度t1を接着剤の粘度が下がる温度範囲Aより低く設定したが、これに限定されず、予備硬化段階の加熱温度を接着剤の粘度が下がる温度範囲A内で且つ接着剤の粘度が最小となる温度よりも低く設定するようにしてもよい。
【0068】
さらに、上述の実施形態では、封止基板、流路形成基板、ノズルプレート、及びコンプライアンス基板とを接着剤層100を介して接合するようにしたが、これに限定されず、これら以外の部材を接合する際に本発明の製造方法を適用してもよい。
【0069】
なお、上述の実施形態では、成膜及びリソグラフィプロセスを応用して製造される薄膜型のインクジェット式記録ヘッドを例にしたが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型のインクジェット式記録ヘッドにも本発明を採用することができる。
【0070】
また、液体噴射ヘッドとしてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッド及びその製造方法並びにインクジェット式記録装置を一例として説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置全般を対象としたものである。液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等を挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】インクジェット式記録ヘッドの斜視図。
【図2】インクジェット式記録ヘッドの平面図及び断面図。
【図3】インクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図4】インクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【図5】接着剤の粘度と温度との関係を示す図。
【図6】接着剤の加熱温度と時間との関係を示す図。
【図7】接着剤のメニスカス角θを説明する図。
【図8】インクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す断面図。
【符号の説明】
10 流路形成基板、12 圧力発生室、20 ノズルプレート、21 ノズル開口、30 封止基板、31 リザーバ部、32 圧電素子保持部、40 コンプライアンス基板、60 下電極膜、70 圧電体層、80 上電極膜、100 接着剤層、110 リザーバ、300 圧電素子
Claims (8)
- 液滴を吐出するノズル開口に連通する圧力発生室が画成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられて前記圧力発生室内に圧力変化を生じさせる圧電素子とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記流路形成基板に加熱により硬化する接着剤を介して接合部材を接合する接合工程が加熱温度条件の異なる複数の段階に分けられ、且つ当該接合工程は、前記接着剤の粘度−温度特性における粘度が最小となる温度より低い温度で加熱する予備硬化段階を含むことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。 - 請求項1において、前記接合工程が、前記予備硬化段階後に、前記接着剤の粘度−温度特性における粘度が最小となる温度より高い温度で加熱する硬化段階を含むことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
- 請求項1又は2において、前記予備硬化段階の加熱温度を、前記接着剤の粘度−温度特性における粘度の低下が始まる温度より低くすることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
- 請求項1〜3の何れかにおいて、前記接合部材の端面と前記流路形成基板の一方面とで形成される角部からはみ出した前記接着剤の表面と当該流路形成基板の一方面との成すメニスカス角が30°以上となるように前記予備硬化段階を行うことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
- 請求項1〜4の何れかにおいて、前記予備硬化段階後の加熱による前記接着剤の粘度が最小粘度となるときの前記接合部材の端面と前記流路形成基板の一方面とで形成される角部からはみ出した前記接着剤の表面と当該流路形成基板の一方面との成すメニスカス角が20°以上となるように前記予備硬化段階を行うことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
- 請求項1〜5の何れかにおいて、前記接着剤が主剤と硬化剤とからなることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
- 請求項1〜6の何れかにおいて、前記接合工程では、前記圧電素子に対向する領域に空間を確保した状態で当該空間を密封する圧電素子保持部を有する封止基板を前記接合部材として前記流路形成基板の前記圧電素子側の面に接合することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
- 請求項1〜7の何れかにおいて、前記接合工程では、前記ノズル開口を有するノズルプレートを前記接合部材として前記流路形成基板の前記圧電素子側とは反対側の面に接合することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
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JP2013006297A (ja) * | 2011-06-22 | 2013-01-10 | Konica Minolta Ij Technologies Inc | インクジェットヘッドの製造方法 |
WO2014029115A1 (zh) * | 2012-08-20 | 2014-02-27 | 深圳市华星光电技术有限公司 | 液晶滴下装置 |
CN108621559A (zh) * | 2017-03-24 | 2018-10-09 | 东芝泰格有限公司 | 喷墨头、喷墨记录装置以及喷出方法 |
-
2002
- 2002-12-20 JP JP2002370784A patent/JP2004195939A/ja active Pending
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