JP2004194619A - 競合核酸を使用した酵素反応方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】酵素反応において、非特異的反応(非特異的ハイブリッド形成、非特異的伸長反応)を減少させて、特異性を向上させる方法の提供。
【解決手段】核酸ハイブリッドを基質とする酵素反応方法であって:標的核酸を、該標的核酸の標的配列に対して相補的な配列を有するハイブリッド形成核酸と反応させて、両者の間のハイブリッドを形成する工程を具備し、前記ハイブリッドを形成する工程において、前記標的核酸および前記ハイブリッド形成核酸以外に、前記ハイブリッド形成核酸と競合する競合核酸を添加することと;前記競合核酸は、前記ハイブリッド形成核酸がミスマッチでハイブリット形成する可能性のある前記標的核酸上のミスマッチ配列に完全に相補的な配列を有することと;前記競合核酸の5'末端および/または3'末端は、前記酵素反応が生じないように化学修飾されていることと等を特徴とする酵素反応方法を提供する。
【選択図】 図9
【解決手段】核酸ハイブリッドを基質とする酵素反応方法であって:標的核酸を、該標的核酸の標的配列に対して相補的な配列を有するハイブリッド形成核酸と反応させて、両者の間のハイブリッドを形成する工程を具備し、前記ハイブリッドを形成する工程において、前記標的核酸および前記ハイブリッド形成核酸以外に、前記ハイブリッド形成核酸と競合する競合核酸を添加することと;前記競合核酸は、前記ハイブリッド形成核酸がミスマッチでハイブリット形成する可能性のある前記標的核酸上のミスマッチ配列に完全に相補的な配列を有することと;前記競合核酸の5'末端および/または3'末端は、前記酵素反応が生じないように化学修飾されていることと等を特徴とする酵素反応方法を提供する。
【選択図】 図9
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、競合核酸を使用した酵素反応方法に関する。詳細には、標的配列とハイブリッドを形成した核酸を基質とする酵素反応において非特異的反応を防止するための方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
標的配列とハイブリッドを形成した核酸を基質とする酵素反応は、種々の分子生物実験に応用されている。
【0003】
SSP−PCRでは、酵素としてポリメラーゼが使用され、またリガーゼを使用してライゲーション反応によって塩基配列を検出するLDR法(Ligase Detection Reaction)およびクリベース(正式にはフラップエンドヌクレアーゼ(flap endonuclease)という特殊な酵素)を使用したインベーダー法などの遺伝子検出法において、DNA配列特異的に形成されたハイブリッドを基質とした酵素反応が使用されている。
【0004】
核酸のハイブリッドを基質とした酵素反応は、上記のように塩基を検出する用途だけでなく、PCRのように標的配列を単に増幅するためにも使用されている。また、リガーゼ反応は、クローニングにおいてベクターとインサート(挿入配列)を連結するためにも使用されている。このように、配列特異的な核酸のハイブリッドを基質とした酵素反応は、分子生物実験において重要な技術であり、広く使用されている。
【0005】
以下、酵素反応を利用したヒトゲノム配列の一塩基多型(SNP:Sequence Specific Nucleotide Polymorphism)検出方法の具体例を示す。
【0006】
(1)SSP−PCR(Single Primer Polymerase Chain Reaction)反応(図1)
この反応は、特定のSNP塩基に相補的な末端塩基を備えたプライマーを使用して行われる。検体中にそのSNPが存在するならば、配列特異的プライマーから伸長反応が進行し、予定した長さの増幅産物が得られることになる(図1-1)。これを電気泳動などで長さを測定し、予定の長さの得られたならば試料中に標的の配列が存在したことになる。ヘテロザイゴートを同時に検出するためには、配列特異的プライマーの各末端塩基ごとに異なる蛍光色素でラベルする、またはPCR産物の長さをそれぞれ変更することによって、同時にPCR産物が得られても識別できるようになる。
【0007】
(2)ポリメラーゼ伸長検出反応の例1(図2)
この反応は、SNP部位に隣接するプライマーを使用して行われる。また、検出したいSNPに対応したダイデオキシモノマーを反応溶液に添加しておく。ダイデオキシモノマーは、その塩基ごとに異なる蛍光色素でラベルしておく。ポリメラーゼによって伸長反応を行うと、検体中にそのSNPが存在するならば、SNPの塩基に相補的なダイデオキシモノマーがプライマーの3’末端に接続され、これ以降の伸長反応が進行しなくなる(図2−2)。核酸シーケンサーのような短い核酸を分離検出できる電気泳動などの方法で伸長されたプライマーを検出することにより、その蛍光に応じてSNPがどの塩基であるのか判別することができる。
【0008】
(3)ポリメラーゼ伸長検出反応の例2(図3)
この反応は、SNP部位に隣接し、SNPを含まない配列のプライマーを使用して行われる。また、SNP塩基と相補的なダイデオキシモノマーと他の3種のデオキシモノマーを混合して反応液に添加しておく。ポリメラーゼによって伸長反応を行うと、ダイデオキシモノマーが接続された時点で伸長反応が停止する。標的のSNPを有する場合は(図3-2)のように短い反応産物が得られ、ヘテロ接合体などの異なる塩基の場合には、(図3-2)よりも長い反応産物が得られることになる。質量分析器等で反応産物の長さによる分子量の差異を測定し、標的SNP塩基が存在するか否かを判断する。
【0009】
(4)リアルタイムPCR法(TaqMan Assay)による検出例(図4)
この反応では、蛍光色素を5'端に、蛍光クエンチャーを3'端に結合した標識プローブ(プローブ)を使用する。該プローブは、その5'末端とSNP塩基が相補的になるように設計する。さらに、プローブの標的配列の上流側にハイブリダイズするプライマー(プライマー1)およびプローブの標的配列の下流側に相補的なプライマー(プライマー2)を使用してPCR反応を行う。酵素には、5'-3'エクソヌクレアーゼ活性をもつポリメラーゼを使用する。PCR反応と同様の温度サイクルを適用すると、標識プローブの5'末端に相補的なSNPが存在する場合は二重鎖を形成し、標識プローブの5'末端がエクソ活性ポリメラーゼによって消化される(図4-2)。このとき、5'末端の蛍光色素が4'末端の蛍光クエンチャーから分離され蛍光色素は、強い蛍光を発光する(図4-3)が、SNP塩基が異なる場合は二重鎖が形成されず、蛍光強度の変化はみられない(図4-4)。この蛍光を毎サイクル計測することによって標的SNPの存在を確認することができる。
【0010】
(5)インベーダー法による検出の例(図5)
この反応では、FRETTMカセットと呼ばれるヘアピン構造をとり、5'末端に蛍光色素が結合され、かつ該蛍光色素の近くに蛍光クエンチャーが結合された核酸分子、並びに該核酸分子の3'側の配列に相補的な配列を5'端に備えたシグナルプローブ、標的配列に相補的であり、その3'端が前記シグナルプローブの5'端と重複するインベーダーオリゴと呼ばれるオリゴDNAの3種の核酸を使用する(図5-1)。シグナルプローブとインベーダーオリゴがSNP位置で重複してハイブリッドが形成される(図5-2)。ここで、インベーダーオリゴが、SNP塩基にミスマッチであるかマッチであるかは酵素反応に影響を及ぼさない。シグナルプローブが完全マッチ配列を備えているときは、クリベースが、そのマッチ配列を含むシグナルプローブのフリップDNA部分を切断する(図5-2)。このフリップDNAは、溶液中のFRETカセットの3'部分と相補的な配列であり、ハイブリッドを形成する(図5-3)。ハイブリッドの形成により、上述の(図5-2)と同様の反応が生じ、FRETカセットの5'末端の蛍光色素がFRETから分離される(図5-4)。これにより、蛍光クエンチャーから蛍光色素が分離されて強い蛍光を発せられる。この蛍光を検出することによって特定塩基のSNPの存在を判断することができる。
【0011】
(6)ライゲーション反応による検出の例1(図6)
この反応は、SNP塩基の両側に隣接する配列に相補的な二種のライゲーションプローブ(プローブ1およびプローブ2)を使用して行われる(図6−1)。これらライゲーションプローブを標的配列にハイブリダイズさせ(図6-2)、次いでリガーゼを作用させてライゲーション反応を行う。このとき、ミスマッチのない場合は前記プローブがライゲーションされるが、ミスマッチの場合は連結されない(図6-3)。ライゲーション反応後のプローブの長さを測定するなどしてSNP塩基の存在を判断することができる。
【0012】
(7)ライゲーション反応による検出の例2(図7)
この反応は、上記(6)に記載の反応と同様の原理であるが、ライゲーションプローブを3つ使用した方法である(図7-1)(非特許文献4、5)。図7-2のようにライゲーションプローブを標的配列にハイブリダイズさせ、次いでリガーゼを作用させてライゲーション反応を行う。このとき、ミスマッチのない場合はプローブがライゲーションされるが、ミスマッチの場合はライゲーションされない(図7-3)。ライゲーション反応後のプローブの長さを測定することによってSNP塩基の存在を判断することができる。
【0013】
上述のような酵素反応を使用したときに、予期しない産物が得られることがある。たとえば、非特許文献1に記載されているように、リガーゼの塩基選択性は完全ではなく、完全な二重鎖を形成していない場合にも反応が進んでしまうことがある。このことはポリメラーゼにおいても言えることであり、PCR反応において予定しない部分が増幅したり、ミスマッチにも関わらず反応が進み、増幅産物が得られてしまったりする。SNPの検出においても、核酸ハイブリッドが3'末端にミスマッチを有するにも関わらず酵素反応が進行してしまい、SNP判定を正確に行うことができなくなってしまう。特に、核酸ハイブリッドの安定性は、図8に示すように中央ミスマッチよりも末端ミスマッチが安定であり、末端ミスマッチを判別する場合には、誤って酵素反応が進行してしまう可能性が高い。
【0014】
これらの問題が生じないように様々な工夫が考えられている。
【0015】
たとえば、PCR反応溶液のマグネシウムイオン濃度を変えると、ポリメラーゼの配列特異性が変化して特異的な反応をしなくなる。しかし、このようなマグネシウムイオン濃度は十分注意して選択しなければならないことは、一般に周知の事実である(非特許文献2)。このほか、プローブおよびプライマーの配列を工夫することによって、標的配列に類似する配列を避けること、反応温度を高くして特異的にハイブリッドが形成されるようにすることも考えられる(非特許文献4)。また、PCR増幅反応では、反応の初期に溶液の温度が低いと非特異的に形成されたハイブリッドから伸長反応が起こることが知られている。このような反応を防止するために、反応溶液を高温にしてから酵素を混合するホットスタート法、逆に特許文献1に記載されている「クールスタート法」がよく使用されている。しかし、これらの方法を使用しても適切に反応が進行しない場合があった。特許文献2に記載されているように、意識的にミスマッチを含むプライマーを使用したPCR法も提案されている(特許文献2)。しかし、この方法で用いるプライマーの融解温度はミスマッチがあるために容易に予測できない。最適アニーリング温度は、実験的に見つける必要がある。
【0016】
また、特許文献3には、3'-5'エクソヌクレアーゼ活性をもつポリメラーゼを使用して核酸配列変異を判断する方法が記載されているが、標的配列とハイブリッドを形成した核酸を基質とする酵素反応全般に適用できる方法ではなかった。したがって、酵素反応の全般において非特異的反応を防止するための方法の開発が望まれていた。
【0017】
【特許文献1】
特開平5-244950号公報
【0018】
【特許文献2】
特開平11-299485号公報
【0019】
【特許文献3】
特開2002-223799号公報
【0020】
【非特許文献1】
Landegren et al.、A Ligase-Mediated Gene Detection Technique、“Science”、(米国)、1988年、241巻、p.1077-80
【0021】
【非特許文献2】
LinzU. et al.、Systematic studies on parameters influencing the performance of the polymerase chain reaction、“J Clin Chem Clin Biochem.”、(独)、1990年、28巻、p.5-13
【0022】
【非特許文献4】
Griffais R et al.、K-tuple frequency in the human genome and polymerase chain reaction.、“Nucl. Acids Res.”、(英)、1991年、19巻、p.3887-91
【0023】
【非特許文献4】
Skobeltsyna et al.、Development of a Colorimetric Test System for Detection of Point Mutations via Ligation of a Tandem of Short Oligonucleotides on Methacrylate Beads、“Molecular Biology”、(露)、2000年、34巻、p.321-327
【0024】
【非特許文献5】
Pyshnyi et al.、Detection for Single-Base Substitutions in Amplified Fragments via Ligation of a Tandem of Short Oligonucleotides in Solution and on a Solid Carrier、“Molecular Biology”、(露)、2000年、34巻、p.840-851
【0025】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、酵素反応において、非特異的反応(非特異的ハイブリッド形成、非特異的伸長反応)を減少させて、酵素反応の特異性を向上させることを目的とする。
【0026】
【課題を解決するための手段】
上記問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、酵素反応が進行しないように化学修飾された競合核酸を使用することにより、非特異的ハイブリッド形成を阻止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0027】
すなわち、本発明は、核酸ハイブリッドを基質とする酵素反応方法であって:
標的核酸を、該標的核酸の標的配列に対して相補的なハイブリッド形成核酸と反応させて、両者の間のハイブリッドを形成する工程と、
該ハイブリッドにおける前記ハイブリッド形成核酸を基質として、酵素反応を行う工程とを具備し、
前記ハイブリッドを形成する工程において、前記標的核酸および前記ハイブリッド形成核酸以外に、前記ハイブリッドの形成について前記ハイブリッド形成核酸と競合する競合核酸を添加することと;
該競合核酸は、前記標的配列との間で完全なハイブリッドを形成しないことと;
前記競合核酸は、前記ハイブリッド形成核酸がミスマッチでハイブリット形成する可能性のある前記標的核酸上のミスマッチ配列に完全に相補的な配列を有することと;
前記競合核酸の5'末端および/または3'末端は、前記酵素反応が生じないように化学修飾されていることと;
前記ハイブリッド形成核酸と前記ミスマッチ配列との間でのハイブリット形成は、前記競合核酸によって阻害されることを特徴とする酵素反応方法を提供する。
【0028】
さらに、本発明は、上記方法であって、前記酵素反応は、ポリメラーゼによる反応である方法を提供する。
【0029】
さらに、本発明は、上記方法であって、前記酵素反応はリガーゼによる反応である方法を提供する。
【0030】
さらに、本発明は、上記方法であって、前記酵素反応は5'-3'エクソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼによる反応である方法を提供する。
【0031】
さらに、本発明は、上記方法であって、前記酵素反応はフリップエンドヌクレアーゼ(クリベース)による反応である方法を提供する。
【0032】
さらに、本発明は、上記方法であって、前記酵素反応は逆転写酵素による反応である方法を提供する。
【0033】
さらに、本発明は、核酸ハイブリッドを基質とする酵素反応方法であって:
標的核酸を、該標的核酸の標的配列に対して相補的な配列とフリップ部分とを有するハイブリッド形成核酸と、該標的核酸に相補的で且つその3'末端が前記ハイブリッド形成核酸と重複するインベーダーオリゴとの2種の核酸と反応させて、核酸間でハイブリッドを形成する工程と、
該ハイブリッドにおける前記ハイブリッド形成核酸を基質として、フリップエンドヌクレアーゼ(クリベース)による酵素反応を行い、前記ハイブリッド形成核酸のフリップ部分を切断する工程と、
前記酵素反応の結果として生じたフリップ断片を、該フリップ断片に相補的な配列を有するFRETカセットと反応させて、両者の間のハイブリッドを形成する工程と、
前記FRETカセット−フリップ断片のハイブリッドを基質として、前記酵素反応を行う工程と、
を具備し、
前記標的核酸とハイブリッド形成核酸とのハイブリッドを形成する工程において、前記標的核酸および前記ハイブリッド形成核酸以外に、前記ハイブリッドの形成について前記ハイブリッド形成核酸と競合する競合核酸を添加することと;
該競合核酸は、前記標的配列との間で完全なハイブリッドを形成しないことと、
前記競合核酸は、前記ハイブリッド形成核酸がミスマッチでハイブリット形成する可能性のある前記標的核酸上のミスマッチ配列に完全に相補的な配列を有することと;
前記競合核酸は、前記FRETカセットのフリップ断片に相補的な配列との間でハイブリッドを形成する配列を有しないことと;
前記ハイブリッド形成核酸と前記ミスマッチ配列との間でのハイブリット形成は、前記競合核酸によって阻害されることを特徴とする酵素反応方法を提供する。
【0034】
また、本発明は、上記競合核酸を含むことを特徴とする、SNP検出のための試薬セット、並びに上記競合核酸、および酵素反応のためのプライマーまたはプローブを含むことを特徴とする、SNP検出のための試薬セットを提供する。
【0035】
【発明の実施の形態】
用語の説明
本明細書において使用される「核酸」の語は、DNAおよびRNA、S-オリゴ、メチルホスホネートオリゴ、PNA(即ち、ペプチド核酸)およびLNA(即ち、ロック核酸)などの核酸類似体など、一般的にその一部の構造を塩基配列によって表すことが可能な物質を総括的に示す語である。また、そのような核酸は、天然に存在するものであっても、人工的に合成されたものであって、それらの混合物であってもよい。また、これらの核酸は、一般的にそれ自身公知の方法により合成または産生されればよい。たとえば、一般的な核酸の合成に使用される核酸合成機を使用しても、一般的な大腸菌などを利用した遺伝子操作などの手段を利用してもよい。合成あるいは産生された核酸は、液体クロマトグラフィーや、マススペクトロスコピーなどで精製することが望ましい。さらに、これらの核酸は、所望に応じて、未修飾でもあっても、それ自身公知の手段によって何れかの修飾が施されていてもよい。たとえばCy5、Cy3、FITC等の蛍光色素で標識しておけば、蛍光検出器を用いた検出が可能であり、ハプテンや酵素で標識することにより、発色または発光での検出が可能である
また、ここで使用される「標的配列」の語は、核酸配列の存在およびその核酸配列の変異の存在を、検出および/または増幅したい配列を意味し、本発明の態様に従う「ハイブリッド形成核酸」が結合するための塩基配列を含む。
【0036】
ここで使用される「標的核酸」の語は、上記標的配列を含む核酸を示す。本発明の態様に従う方法で対象となる標的核酸は、特に限定されるものではなく、ゲノムDNA、ゲノムRNAおよびmRNAなどの他、人工的に製造した核酸類似物であってもよい。
【0037】
ここで使用される「相補」および「相補的」の語は、複数の配列が、互いに相補的あることを示す。また、「完全に」相補的とは、100%相補的であることをいう。
【0038】
また、ここで使用される「ハイブリッド形成核酸」の語は、標的核酸の標的配列に対して相補的な配列を有し、標的核酸とマッチしたハイブリッドを形成する核酸を意味する。加えて、たとえばインベーダー法に使用するシグナルプローブのフリップ部分のように、該核酸相補的配列に加えてさらなる非相補的配列が付加された核酸も含まれる。具体的には、上記SSC-PCR法における配列特異的プライマー、上記ポリメラーゼ伸長検出反応におけるプライマー、上記リアルタイムPCR法におけるプローブ、上記インベーダー法におけるシグナルプローブ、上記ライゲーション反応法におけるプローブなどである。
【0039】
以下、本発明の核酸ハイブリッドを基質とする酵素反応により、非特異的反応(非特異的ハイブリッド形成、非特異的伸長反応)が減少され、酵素反応の特異性が向上する原理を簡単に説明する。
【0040】
まず、標的核酸を、該標的核酸の標的配列に対して相補的なハイブリッド形成核酸と反応させて、両者の間のハイブリッドを形成させる。このとき前記標的核酸および前記ハイブリッド形成核酸以外に、競合核酸を同時に添加する。該競合核酸は、上述したとおり、前記標的配列との間で完全なハイブリッドを形成しないことと;前記ハイブリッド形成核酸がミスマッチでハイブリット形成する可能性のある前記標的核酸上のミスマッチ配列に完全に相補的な配列を有することと;前記競合核酸の5'末端および/または3'末端は、前記酵素反応が生じないように化学修飾されていることとを特徴とする競合核酸である。
【0041】
したがって、競合核酸は、ハイブリッド形成核酸がミスマッチでハイブリット形成する可能性のある標的核酸上のミスマッチ配列に完全に相補的な配列を有するため、該ミスマッチ配列とのハイブリッド形成において、ハイブリッド形成核酸よりも安定性の高いハイブリッドを形成する。すなわち、ハイブリッド形成核酸がミスマッチのハイブリッドを形成する可能性が非常に低くなることになる。
【0042】
このような競合核酸の配列は、各酵素反応の利用態様に応じて、適切に設計することができる。たとえばSNP検出において、検出したいSNP型の配列を末端に有する核酸をプローブとして使用した場合、SNP位置に他の塩基を有する核酸を競合核酸として使用すればよい。また、PCR法において非特異的配列が増幅された場合であれば、その非特異的増幅産物の配列をシーケンシングすることによって、または使用したプライマーとテンプレート間のホモロジー検索等によって、ミスマッチでハイブリット形成した配列を推定し、該ミスマッチ配列を競合核酸の配列とすればよい。その他、以下の実施形態において記載したように設計することができる。
【0043】
また、前記競合核酸は、酵素反応が生じないように化学修飾されているため、ミスマッチ配列とハイブリッドを形成したとしても酵素反応の基質となることはない。このような化学修飾は、酵素反応を阻害するような修飾であればどのような修飾でもよいが、たとえばアミノリンカー、ビオチン、ジデオキシ化、DIG、その他で修飾すればよい。その他、通常の核酸の構造には存在しない修飾がなされることにより、酵素認識を阻害するものであればよい。また、上記化学修飾は、酵素反応に応じて、5'末端および/または3'末端になされればよい。たとえば、Taqポリメラーゼによる反応の場合、プライマー分子等の3'末端から伸長反応が開始するため、この場合は3'末端に修飾をするべきである。また、TaqMan Assayにおける5'-3'エクソヌクレアーゼ活性ポリメラーゼによる反応の場合、酵素反応はプローブの5'末端で起きるため、5'末端に修飾をするべきである。
【0044】
さらに、前記競合核酸は、上述のとおり、前記標的配列との間で完全なハイブリッドを形成しない。したがって、該標的配列とのハイブリッド形成において、ハイブリッド形成核酸よりも安定性の低いハイブリッドが形成される。すなわち、前記競合核酸は、前記ハイブリッド形成核酸と競合した場合、標的配列とハイブリット形成する可能性は非常に低くなることになる。このため、競合核酸が、標的配列とハイブリッド形成核酸のハイブリッド形成を阻害することはない。
【0045】
前記競合核酸を投入する量は、次のように決定すればよい。PCR反応では、増幅対象のターゲットDNAに対して1000〜10000倍のプライマーDNAを反応溶液に最初に投入する。これはターゲットDNAの熱変性後、ターゲットDNA同士が再びハイブリダイゼーションするよりも、プライマーとターゲットDNAとのハイブリダイズ反応を生じやすくするためである。したがって、競合核酸は、標的核酸の量と同等以上の量であって、ハイブリッド形成核酸(プローブ、プライマー等)の量よりも少ない量であることが望ましい。
【0046】
また、本発明の酵素反応は、ポリメラーゼによる反応、特に5'-3'エクソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼによる反応、リガーゼよる反応、フリップエンドヌクレアーゼによる反応、逆転写酵素による反応、その他核酸ハイブリッドを基質とする酵素反応である。
【0047】
本発明の酵素反応方法では、上述の競合分子を使用して標的核酸とハイブリッド形成核酸のハイブリッドを形成させて、このハイブリッド形成核酸基質として酵素反応を行う。該酵素反応の反応条件は、使用する酵素反応(酵素)に応じて適切な条件下で行えばよい。このような酵素反応に最適な条件は、当業者であれば容易に設定することができるであろう。
【0048】
本発明の酵素反応方法では、上記のような原理により、ハイブリッド形成核酸とミスマッチ配列との間でのハイブリット形成が競合核酸によって阻害され、ハイブリッド形成核酸の非特異的ハイブリダイズが減少する。これにより、その核酸ハイブリッドを基質とする酵素反応の特異性が向上することになる。
【0049】
以下、図面を参照しながら本発明の酵素反応方法によって非特異的な反応が阻止される原理を具体的に説明する。
【0050】
本発明の競合核酸を使用することを特徴とする酵素反応方法の一実施形態として、ポリメラーゼによる反応の一つであるSSC-PCR(Sequence Specific Primer Polymerase Chain Reaction)反応に応用した例を図9に示す。
【0051】
SNPを検出する際にSSP-PCRを行う場合を考える。
【0052】
図9−1のようなターゲットにおいて点線で示す位置にハイブリダイズするプライマー1、2によってPCR増幅を行うとする。プライマー2の3’端とハイブリダイズする塩基配列は、SNPサイトであるとする(この場合はA)。したがって、プライマー2の3’端の配列は、Tとなる。図に示したAの他に、GのSNPアレルが存在するとする(これらアレルを仮にアレルA、アレルGと呼ぶ)。
【0053】
アレルAを検出するようなプライマー2を準備してPCR反応を行ったときに、ゲノム配列にアレルGしか存在しなかったにもかからわらずアレルAを含む増幅産物が得られた場合を考える(図9−2)。この場合はプライマー2の3’端がミスマッチにもかかわらずポリメラーゼが伸長反応したものと考えられる。
【0054】
ここで、本発明の競合核酸を用いた反応を考える。上記反応では、間違った伸長反応は、G−Tのミスマッチによって生じている。したがって、競合核酸には、図9−3のように3’末端配列以外がプライマー2と一致し、3’端配列はCであり、かつ化学修飾してポリメラーゼによる伸長反応が起きないようにしたDNAを使用する。
【0055】
このような競合核酸を使用してアレルGをプライマー2(アレルAを検出する)で増幅する場合を考える。PCR反応中に図9−4のような二種のハイブリッドが形成される。これらのハイブリッドの安定性は、ハイブリッド1が完全マッチであるのに対し、ハイブリッド2は3’末端がミスマッチであるため、ハイブリッド1の安定性が高くなる。よって、反応液中にはハイブリッド1がより多く存在することになる。
【0056】
このような競合核酸−ターゲットのハイブリッドは、各PCRサイクルごとに競合核酸が減るわけではないので、各PCRサイクルで形成される。PCR反応では、その反応初期に増幅されたターゲットが重要となる。この実施例のように伸長されないハイブリッド(競合核酸−ターゲットのハイブリッド)が多く形成されるとミスマッチハイブリッドの増幅が減少し、最終産物としてミスマッチ産物が生成しなくなる。
【0057】
上述のように、SSP-PCRでSNP検出を行うときに、検出したくないアレルがあるならば、そのアレルとハイブリッドをつくる競合核酸のプライマーを準備して反応すればよい。すなわち、AとGのアレルがあるときに、Aのアレルを検出するためには、末端塩基がTのプライマーを使用し、かつ末端がCの競合核酸も使用すればよい。
【0058】
一方、一般的なPCR反応に応用する場合を考える。たとえば、PCR増幅をしたときにプライマーが類似の配列にハイブリダイズし、予期しないPCR産物が得られてしまったとする。このような場合、実験条件を最適化することはもちろん、最終的には異なる場所にハイブリダイズしないようにプライマー配列を選び直すのがもっとも効果的な対処法である。ところが、実験の都合でプライマー変更ができない場合は、図9−5のようにプライマー類似配列に完全マッチな競合核酸を合成してPCR反応に用いればよい。より安定なハイブリッドを形成する競合核酸によって類似配列がブロックされるため、プライマー2はハイブリダイズすることができない。このため予期しないPCR産物はできなくなる。
【0059】
もし、競合核酸が、プライマー1の配列とプライマー2の相補配列との間にハイブリダイズしても、通常のPCR反応の伸長温度では、競合核酸が標的配列にハイブリダイズしていない可能性が高いので、ポリメラーゼの伸長反応は問題なく進むであろう。
【0060】
次に、本発明の競合核酸を使用することを特徴とする酵素反応方法の一実施形態として、ポリメラーゼによる反応の一つであるポリメラーゼ伸長によるSNP検出に応用した例を図10に示す。
【0061】
蛍光モノマーのとりこみを介してSNPを検出する場合を考える(図10)。ここで、検出用プライマーが予期しない類似配列にハイブリダイズし(図中の点線)、正確なSNP判別結果ができない場合を考える。このような場合は、類似配列に相補的な配列を有し、かつ分子安定性(例えばTm値)が検出用プライマーとほぼ同じ競合核酸を合成する。この競合核酸は、3’端を化学修飾してポリメラーゼ伸長反応が起きないようにしておく。ターゲットと同量〜検出用プライマーと同量程度の範囲の競合核酸を、反応時に投入すればよい(図10−1)。
【0062】
このような競合核酸を使えば類似配列での伸長反応は起きないので、誤った検出結果が出ることがなくなる。
【0063】
同様に、従来技術(3)に記載したダイデオキシモノマーとデオキシモノマーを使う方法において、プライマーが誤った類似配列にハイブリダイズするときに、これと同様の競合核酸を設計して、使用すればよい。
【0064】
次に、本発明の競合核酸を使用することを特徴とする酵素反応方法のもう一つの実施形態として、リアルタイムPCR法(TaqMan Assay)によるSNP検出反応に応用した例を図11に示す。
【0065】
この反応で誤った検出結果を生じる原因になるのは、プローブが誤ってハイブリダイゼーションすることである。
【0066】
この場合、競合核酸は、検出したいアレルではないアレルに相補的であり、かつハイブリッドの分子安定性(例えばTm値)が、検出用標識プローブとほぼ同じように設計すればよい。さらに5’->3’エクソ活性ポリメラーゼで分解されないように、5’端を化学修飾しておく。ターゲットと同量〜検出用プライマーと同量程度の範囲の競合核酸を、反応時に投入すればよい。
【0067】
検出対象が、検出用プローブに相補的でないアレルの場合、競合核酸が検出用プローブよりも安定なハイブリッドを形成する。そのため、検出用プローブがミスマッチハイブリッドを形成することはなく、間違った検出結果が生じなくなる。
【0068】
次に、本発明の競合核酸を使用することを特徴とする酵素反応方法のもう一つの実施形態として、インベーダー法による検出に応用した例を図12に示す。
【0069】
上記したとおり、インベーダー法では、最初のシグナルプローブへのハイブリダイゼーションの段階で、ターゲットDNA内のSNP位置において完全マッチのハイブリッドを形成しておく必要がある。このため、検出対象でないアレルが存在するときに検出に失敗することがある(図12−1)。
【0070】
このような問題を解消するために、次のような競合核酸1または競合核酸2を作製すればよい。競合核酸1は、シグナルプローブの3’端からSNP塩基までと同じ配列を有し、かつSNP位置は検出したくないアレルの塩基配列を有する競合核酸を作製する。また、競合核酸1のフリップに相当する塩基配列は、FRETカセットにハイブリダイズしない配列であるか、または十分短い配列にしておく(図12-1)。
【0071】
もう一つの競合核酸として、競合核酸2は、競合核酸1と同様に、シグナルプローブの3’端からSNP塩基までと同じ配列を有し、かつSNP位置は検出したくないアレルの塩基配列を有する競合核酸を作製する(フリップに相当する塩基配列をもたない)。また、競合核酸2の5’端の塩基を化学修飾することによって、クリベースが5’端の切断反応を生じないようにしておく。この競合核酸2は、シグナルプローブと同量程度からターゲットと同量程度の量を準備して反応するのが好ましい。
【0072】
上に挙げた競合核酸を使用して反応を開始すると、図12-2のような反応が生じる。競合核酸として競合核酸1を使用した場合、フリップ分子に相当するDNAが生成されるが、これを検出するためのFRETカセットがないため(このフリップ分子に相当するDNAは、FRETカセットにハイブリダイズすることができない)、その後のクリベースによる切断反応が進行せず、蛍光検出されることがない。さらに、競合核酸として競合核酸2を使用した場合、クリベースは、競合核酸2を切断することができないので、その後の反応がブロックされる。
【0073】
このようなミスマッチ配列を有する競合核酸を使用することによって、完全マッチの場合にのみシグナルプローブと標的配列のハイブリッドが形成される。その結果、検出対象ではないアレルが存在しても検出結果に間違いが生じにくくなる。
【0074】
次に、本発明の競合核酸を使用することを特徴とする酵素反応方法のもう一つの実施形態として、二本のライゲーションプローブによるSNP検出に応用した例を図13-2に示す。検出したいSNP塩基が、Gである場合を考える。従来は、図13-1のような二種のプローブを使用していた。プローブ1は、SNPサイトの上流に相補的な配列をもち、かつ5’端がリン酸標識されている。プローブ2は、3’端に検出しようとするSNPに相補的な塩基を備え、かつ5’端に検出用の蛍光色素を備える。これらプローブ、リガーゼ、ターゲットを添加して反応を開始させる。プローブ2が完全マッチであれば、リガーゼによって、プローブ1と2が連結される。この連結された分子を検出することによって特定のSNPを検出する。検出には、プローブ1に相補的なプローブ配列を備えたマイクロアレイを使用すればよい。ライゲーション反応が起きていればプローブ2の蛍光色素がマイクロアレイ上で検出されるので特定のSNPの存在することがわかる。
【0075】
上述したとおり、リガーゼは、完全マッチの3’端を持っていなくてもライゲーション反応をすることがあるので、結果に間違いが生じることがある。ここで、本発明の競合核酸を使用する。たとえばSNP塩基がGであることを検出するためのプローブ2が、SNP塩基Aにハイブリダイズしてしまったために間違いが生じたときには、次の核酸を競合核酸として使用することで改善できる。この競合核酸は、プローブ2と3’末端以外が同一配列で、3’末端がTであり、かつ3’末端は、酵素反応が生じないようにを修飾された分子とする(図13-2)。これをターゲットと同量〜プローブ2と同量程度の範囲で準備して反応時に投入する。ターゲットA(図13-2)の場合、プローブ2がターゲットAにハイブリダイズして形成されるハイブリッドするよりも、競合核酸とのハイブリッドの方が安定である。したがって、プローブ2と1が共にターゲットAとハイブリッドを形成することはない(図13-3)。
【0076】
また、ライゲーションの場合、競合核酸(特に3’端)を蛍光で標識する必要はない。したがって、たとえ連結反応が生じたとしても、標識がなければ検出されることはなく、偽陽性データが出ることはない(図13-4)。
【0077】
本発明の競合核酸を使用することを特徴とする酵素反応方法のもう一つの実施形態として、三本のライゲーションプローブを使用したSNP検出に応用した例を図14に示す。
【0078】
上述の二本のライゲーションプローブを使用した場合と同様にして、SNP塩基に相補なプローブ2に競合する競合核酸を作製する(図14-2)。プローブ2に競合する競合核酸は、プローブ2の検出対象でないアレルと相補的な配列を有し、かつ5’端リン酸修飾がされていない分子である。上述の二本のライゲーションプローブを使用した場合と同様に、反応時にこの競合核酸を反応時に投入する。ターゲットが検出対象でない場合、競合核酸が優先的にハイブリダイズすることとなり、より正確に検出反応を行うことができる。
【0079】
本発明のもう一つの態様として、上述の酵素反応方法を実施するために使用する試薬セットを提供することができる。該試薬セットは、従来の核酸ハイブリッドを基質とする酵素反応を実施するためのキットまたは試薬セット、特にSNP検出のためのキットまたは試薬セットに加えて、上述の競合核酸を含むことを特徴とする。たとえば、従来の試薬セット等に含まれているプライマーもしくはプローブ、酵素、反応用バッファー、その他に加えて、本発明の競合核酸が含まれた試薬セットとすることができる。
【0080】
該試薬セットを使用することにより、従来の試薬セット等を使用して酵素反応を行った場合よりも、非特異的反応を減少することができるであろう。
【0081】
【実施例】
以下、本発明の酵素反応方法を実施例としてさらに例示するが、これらに限定されるものではない。
【0082】
実施例1
λDNAを4塩基認識酵素Hha I(認識配列はgcgc)で切断すると、215個の制限酵素断片が得られる。これらのうち特定の末端配列をもつ断片を配列特異的に増幅することを目的とする。
【0083】
1.PCRテンプレート調製
材料
λDNA(タカラバイオ)
TdT(ターミナル・デオキシヌクレオチジル・トランスフェラーゼ)(東洋紡)Hha I(東洋紡)
方法
λDNA 4μgを、制限酵素Hha I 10unitによって、37℃において2時間反応して切断し、エタノール沈殿で回収する。次いで、回収した制限酵素断片の3’末端に、10unit TdTによってdATPを任意の長さだけ付加する。37℃において2時間反応させる。酵素処理が終わったらエタノール沈殿で回収し、100μlのTEに溶いて保存する。
【0084】
2.通常の方法によるPCR
回収したテンプレートDNA溶液には、数十pmol程度のテンプレートが含まれると考えられる。したがって、原液1μlを10分の1に希釈した液1μlをテンプレートとする。
【0085】
PCR 反応液組成(反応溶液50μl中)
希釈テンプレート(1μl)
プライマー1 (配列番号1)(20pmol)
dNTP(各2.5mMの混合物)(0.2mM 最終濃度)
Takara ExTaq ポリメラーゼ(1.25U)
MgCl2(1.5mM 最終濃度)
キット添付10xバッファー(5μl)
タカラバイオのExTaqを使用。溶液の容量が足りない分は超純水で補うことによって50μlにする。容器は薄壁タイプのPCR用チューブを使用する。
【0086】
温度サイクルは、94℃において30秒の後、94℃において10秒、62℃において30秒、72℃において60秒を30サイクル行う。サーマルサイクラーは、MJリサーチ社のPTC-200を使用する。ホットスタート法で反応を開始して非特異産物が生成しにくいように反応する。
【0087】
3.競合核酸を用いたPCR増幅反応
回収したテンプレートDNA溶液には数十pmol程度のテンプレートが含まれると考えられるので、原液1μlを10分の1に希釈した液1μlをテンプレートとする。
【0088】
PCR 反応液組成(反応溶液50μl中)
希釈テンプレート (1μl)
プライマー1 (配列番号1)(20pmol)
競合核酸1(配列番号2)5’アミノリンカー修飾(1pmol)*
競合核酸2(配列番号3) 5’アミノリンカー修飾(1pmol)*
競合核酸3(配列番号4) 5’アミノリンカー修飾(1pmol)*
dNTP(各2.5mMの混合物)(0.2mM 最終濃度)
Takara ExTaq ポリメラーゼ(1.25U)
MgCl2(1.5mM 最終濃度)
キット添付10xバッファー(5μl)
タカラバイオのExTaqを使用。溶液の容量が足りない分は超純水で補い50mlにする。容器は薄壁タイプのPCR用チューブを使用する。(*実験では、0.1pmol、1pmol、10pmol、20pmolのそれぞれについて反応し比較する。)
温度サイクルは、94℃において30秒の後、94℃において10秒、62℃において30秒、72℃において60秒を30サイクル行う。サーマルサイクラーは、MJリサーチ社のPTC-200を使用する。ホットスタート法で反応を開始して非特異産物が生成しにくいように反応する。
【0089】
上記2、3によって得られたPCR断片を、Agilent社Bioanalyzerで電気泳動し、あらかじめ予定したPCR産物ができているか定量する。
【0090】
λDNAのHhaI産物の長さと、末端配列の関係は、GenBankのLAMCGの名前で登録されている48502塩基の配列に基づいて、Hha Iによる制限酵素断片を予測した。
【0091】
【発明の効果】
本発明により、ハイブリッドを形成した核酸を基質とする酵素反応における非特異的な反応を阻止することが可能となり、酵素反応の特異性を向上することができる。したがって、目的以外の酵素反応産物が生じにくくなり、非特異的反応の影響を受けにくくなる。特に、SNP判別においては、判別精度が高められることになる。
【0092】
また、本発明の酵素反応によれば、酵素反応における特異性が向上することにより、非特異的なプライマーまたはプローブ等の消費が減少し、増幅効率が向上することになるであろう。
【0093】
さらに、本発明の試薬セットを使用することにより、従来の試薬セット等を使用して酵素反応を行った場合よりも、非特異的反応を減少して酵素反応を行うことが可能となる。
【0094】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】SSP−PCR(Single Primer Polymerase Chain Reaction)反応の概略図。
【図2】ポリメラーゼ伸長検出反応の例1の概略図。
【図3】ポリメラーゼ伸長検出反応の例2の概略図。
【図4】リアルタイムPCR法(TaqMan Assay)による検出の概略図。
【図5】インベーダー法による検出の概略図。
【図6】ライゲーション反応による検出の概略図。
【図7】ライゲーション反応による検出の概略図。
【図8】核酸ハイブリッドの安定性を示す図。
【図9】本発明の方法を、SSP−PCR(Single Primer Polymerase Chain Reaction)反応に応用した例の概略図。
【図10】本発明の方法を、ポリメラーゼ伸長検出反応に応用した例の概略図。
【図11】本発明の方法を、ポリメラーゼ伸長検出反応に応用した例の概略図。
【図12】本発明の方法を、リアルタイムPCR法(TaqMan Assay)による検出に応用した例の概略図。
【図13】本発明の方法を、インベーダー法による検出に応用した例の概略図。
【図14】本発明の方法を、ライゲーション反応による検出に応用した例の概略図。
【発明の属する技術分野】
本発明は、競合核酸を使用した酵素反応方法に関する。詳細には、標的配列とハイブリッドを形成した核酸を基質とする酵素反応において非特異的反応を防止するための方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
標的配列とハイブリッドを形成した核酸を基質とする酵素反応は、種々の分子生物実験に応用されている。
【0003】
SSP−PCRでは、酵素としてポリメラーゼが使用され、またリガーゼを使用してライゲーション反応によって塩基配列を検出するLDR法(Ligase Detection Reaction)およびクリベース(正式にはフラップエンドヌクレアーゼ(flap endonuclease)という特殊な酵素)を使用したインベーダー法などの遺伝子検出法において、DNA配列特異的に形成されたハイブリッドを基質とした酵素反応が使用されている。
【0004】
核酸のハイブリッドを基質とした酵素反応は、上記のように塩基を検出する用途だけでなく、PCRのように標的配列を単に増幅するためにも使用されている。また、リガーゼ反応は、クローニングにおいてベクターとインサート(挿入配列)を連結するためにも使用されている。このように、配列特異的な核酸のハイブリッドを基質とした酵素反応は、分子生物実験において重要な技術であり、広く使用されている。
【0005】
以下、酵素反応を利用したヒトゲノム配列の一塩基多型(SNP:Sequence Specific Nucleotide Polymorphism)検出方法の具体例を示す。
【0006】
(1)SSP−PCR(Single Primer Polymerase Chain Reaction)反応(図1)
この反応は、特定のSNP塩基に相補的な末端塩基を備えたプライマーを使用して行われる。検体中にそのSNPが存在するならば、配列特異的プライマーから伸長反応が進行し、予定した長さの増幅産物が得られることになる(図1-1)。これを電気泳動などで長さを測定し、予定の長さの得られたならば試料中に標的の配列が存在したことになる。ヘテロザイゴートを同時に検出するためには、配列特異的プライマーの各末端塩基ごとに異なる蛍光色素でラベルする、またはPCR産物の長さをそれぞれ変更することによって、同時にPCR産物が得られても識別できるようになる。
【0007】
(2)ポリメラーゼ伸長検出反応の例1(図2)
この反応は、SNP部位に隣接するプライマーを使用して行われる。また、検出したいSNPに対応したダイデオキシモノマーを反応溶液に添加しておく。ダイデオキシモノマーは、その塩基ごとに異なる蛍光色素でラベルしておく。ポリメラーゼによって伸長反応を行うと、検体中にそのSNPが存在するならば、SNPの塩基に相補的なダイデオキシモノマーがプライマーの3’末端に接続され、これ以降の伸長反応が進行しなくなる(図2−2)。核酸シーケンサーのような短い核酸を分離検出できる電気泳動などの方法で伸長されたプライマーを検出することにより、その蛍光に応じてSNPがどの塩基であるのか判別することができる。
【0008】
(3)ポリメラーゼ伸長検出反応の例2(図3)
この反応は、SNP部位に隣接し、SNPを含まない配列のプライマーを使用して行われる。また、SNP塩基と相補的なダイデオキシモノマーと他の3種のデオキシモノマーを混合して反応液に添加しておく。ポリメラーゼによって伸長反応を行うと、ダイデオキシモノマーが接続された時点で伸長反応が停止する。標的のSNPを有する場合は(図3-2)のように短い反応産物が得られ、ヘテロ接合体などの異なる塩基の場合には、(図3-2)よりも長い反応産物が得られることになる。質量分析器等で反応産物の長さによる分子量の差異を測定し、標的SNP塩基が存在するか否かを判断する。
【0009】
(4)リアルタイムPCR法(TaqMan Assay)による検出例(図4)
この反応では、蛍光色素を5'端に、蛍光クエンチャーを3'端に結合した標識プローブ(プローブ)を使用する。該プローブは、その5'末端とSNP塩基が相補的になるように設計する。さらに、プローブの標的配列の上流側にハイブリダイズするプライマー(プライマー1)およびプローブの標的配列の下流側に相補的なプライマー(プライマー2)を使用してPCR反応を行う。酵素には、5'-3'エクソヌクレアーゼ活性をもつポリメラーゼを使用する。PCR反応と同様の温度サイクルを適用すると、標識プローブの5'末端に相補的なSNPが存在する場合は二重鎖を形成し、標識プローブの5'末端がエクソ活性ポリメラーゼによって消化される(図4-2)。このとき、5'末端の蛍光色素が4'末端の蛍光クエンチャーから分離され蛍光色素は、強い蛍光を発光する(図4-3)が、SNP塩基が異なる場合は二重鎖が形成されず、蛍光強度の変化はみられない(図4-4)。この蛍光を毎サイクル計測することによって標的SNPの存在を確認することができる。
【0010】
(5)インベーダー法による検出の例(図5)
この反応では、FRETTMカセットと呼ばれるヘアピン構造をとり、5'末端に蛍光色素が結合され、かつ該蛍光色素の近くに蛍光クエンチャーが結合された核酸分子、並びに該核酸分子の3'側の配列に相補的な配列を5'端に備えたシグナルプローブ、標的配列に相補的であり、その3'端が前記シグナルプローブの5'端と重複するインベーダーオリゴと呼ばれるオリゴDNAの3種の核酸を使用する(図5-1)。シグナルプローブとインベーダーオリゴがSNP位置で重複してハイブリッドが形成される(図5-2)。ここで、インベーダーオリゴが、SNP塩基にミスマッチであるかマッチであるかは酵素反応に影響を及ぼさない。シグナルプローブが完全マッチ配列を備えているときは、クリベースが、そのマッチ配列を含むシグナルプローブのフリップDNA部分を切断する(図5-2)。このフリップDNAは、溶液中のFRETカセットの3'部分と相補的な配列であり、ハイブリッドを形成する(図5-3)。ハイブリッドの形成により、上述の(図5-2)と同様の反応が生じ、FRETカセットの5'末端の蛍光色素がFRETから分離される(図5-4)。これにより、蛍光クエンチャーから蛍光色素が分離されて強い蛍光を発せられる。この蛍光を検出することによって特定塩基のSNPの存在を判断することができる。
【0011】
(6)ライゲーション反応による検出の例1(図6)
この反応は、SNP塩基の両側に隣接する配列に相補的な二種のライゲーションプローブ(プローブ1およびプローブ2)を使用して行われる(図6−1)。これらライゲーションプローブを標的配列にハイブリダイズさせ(図6-2)、次いでリガーゼを作用させてライゲーション反応を行う。このとき、ミスマッチのない場合は前記プローブがライゲーションされるが、ミスマッチの場合は連結されない(図6-3)。ライゲーション反応後のプローブの長さを測定するなどしてSNP塩基の存在を判断することができる。
【0012】
(7)ライゲーション反応による検出の例2(図7)
この反応は、上記(6)に記載の反応と同様の原理であるが、ライゲーションプローブを3つ使用した方法である(図7-1)(非特許文献4、5)。図7-2のようにライゲーションプローブを標的配列にハイブリダイズさせ、次いでリガーゼを作用させてライゲーション反応を行う。このとき、ミスマッチのない場合はプローブがライゲーションされるが、ミスマッチの場合はライゲーションされない(図7-3)。ライゲーション反応後のプローブの長さを測定することによってSNP塩基の存在を判断することができる。
【0013】
上述のような酵素反応を使用したときに、予期しない産物が得られることがある。たとえば、非特許文献1に記載されているように、リガーゼの塩基選択性は完全ではなく、完全な二重鎖を形成していない場合にも反応が進んでしまうことがある。このことはポリメラーゼにおいても言えることであり、PCR反応において予定しない部分が増幅したり、ミスマッチにも関わらず反応が進み、増幅産物が得られてしまったりする。SNPの検出においても、核酸ハイブリッドが3'末端にミスマッチを有するにも関わらず酵素反応が進行してしまい、SNP判定を正確に行うことができなくなってしまう。特に、核酸ハイブリッドの安定性は、図8に示すように中央ミスマッチよりも末端ミスマッチが安定であり、末端ミスマッチを判別する場合には、誤って酵素反応が進行してしまう可能性が高い。
【0014】
これらの問題が生じないように様々な工夫が考えられている。
【0015】
たとえば、PCR反応溶液のマグネシウムイオン濃度を変えると、ポリメラーゼの配列特異性が変化して特異的な反応をしなくなる。しかし、このようなマグネシウムイオン濃度は十分注意して選択しなければならないことは、一般に周知の事実である(非特許文献2)。このほか、プローブおよびプライマーの配列を工夫することによって、標的配列に類似する配列を避けること、反応温度を高くして特異的にハイブリッドが形成されるようにすることも考えられる(非特許文献4)。また、PCR増幅反応では、反応の初期に溶液の温度が低いと非特異的に形成されたハイブリッドから伸長反応が起こることが知られている。このような反応を防止するために、反応溶液を高温にしてから酵素を混合するホットスタート法、逆に特許文献1に記載されている「クールスタート法」がよく使用されている。しかし、これらの方法を使用しても適切に反応が進行しない場合があった。特許文献2に記載されているように、意識的にミスマッチを含むプライマーを使用したPCR法も提案されている(特許文献2)。しかし、この方法で用いるプライマーの融解温度はミスマッチがあるために容易に予測できない。最適アニーリング温度は、実験的に見つける必要がある。
【0016】
また、特許文献3には、3'-5'エクソヌクレアーゼ活性をもつポリメラーゼを使用して核酸配列変異を判断する方法が記載されているが、標的配列とハイブリッドを形成した核酸を基質とする酵素反応全般に適用できる方法ではなかった。したがって、酵素反応の全般において非特異的反応を防止するための方法の開発が望まれていた。
【0017】
【特許文献1】
特開平5-244950号公報
【0018】
【特許文献2】
特開平11-299485号公報
【0019】
【特許文献3】
特開2002-223799号公報
【0020】
【非特許文献1】
Landegren et al.、A Ligase-Mediated Gene Detection Technique、“Science”、(米国)、1988年、241巻、p.1077-80
【0021】
【非特許文献2】
LinzU. et al.、Systematic studies on parameters influencing the performance of the polymerase chain reaction、“J Clin Chem Clin Biochem.”、(独)、1990年、28巻、p.5-13
【0022】
【非特許文献4】
Griffais R et al.、K-tuple frequency in the human genome and polymerase chain reaction.、“Nucl. Acids Res.”、(英)、1991年、19巻、p.3887-91
【0023】
【非特許文献4】
Skobeltsyna et al.、Development of a Colorimetric Test System for Detection of Point Mutations via Ligation of a Tandem of Short Oligonucleotides on Methacrylate Beads、“Molecular Biology”、(露)、2000年、34巻、p.321-327
【0024】
【非特許文献5】
Pyshnyi et al.、Detection for Single-Base Substitutions in Amplified Fragments via Ligation of a Tandem of Short Oligonucleotides in Solution and on a Solid Carrier、“Molecular Biology”、(露)、2000年、34巻、p.840-851
【0025】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、酵素反応において、非特異的反応(非特異的ハイブリッド形成、非特異的伸長反応)を減少させて、酵素反応の特異性を向上させることを目的とする。
【0026】
【課題を解決するための手段】
上記問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、酵素反応が進行しないように化学修飾された競合核酸を使用することにより、非特異的ハイブリッド形成を阻止できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0027】
すなわち、本発明は、核酸ハイブリッドを基質とする酵素反応方法であって:
標的核酸を、該標的核酸の標的配列に対して相補的なハイブリッド形成核酸と反応させて、両者の間のハイブリッドを形成する工程と、
該ハイブリッドにおける前記ハイブリッド形成核酸を基質として、酵素反応を行う工程とを具備し、
前記ハイブリッドを形成する工程において、前記標的核酸および前記ハイブリッド形成核酸以外に、前記ハイブリッドの形成について前記ハイブリッド形成核酸と競合する競合核酸を添加することと;
該競合核酸は、前記標的配列との間で完全なハイブリッドを形成しないことと;
前記競合核酸は、前記ハイブリッド形成核酸がミスマッチでハイブリット形成する可能性のある前記標的核酸上のミスマッチ配列に完全に相補的な配列を有することと;
前記競合核酸の5'末端および/または3'末端は、前記酵素反応が生じないように化学修飾されていることと;
前記ハイブリッド形成核酸と前記ミスマッチ配列との間でのハイブリット形成は、前記競合核酸によって阻害されることを特徴とする酵素反応方法を提供する。
【0028】
さらに、本発明は、上記方法であって、前記酵素反応は、ポリメラーゼによる反応である方法を提供する。
【0029】
さらに、本発明は、上記方法であって、前記酵素反応はリガーゼによる反応である方法を提供する。
【0030】
さらに、本発明は、上記方法であって、前記酵素反応は5'-3'エクソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼによる反応である方法を提供する。
【0031】
さらに、本発明は、上記方法であって、前記酵素反応はフリップエンドヌクレアーゼ(クリベース)による反応である方法を提供する。
【0032】
さらに、本発明は、上記方法であって、前記酵素反応は逆転写酵素による反応である方法を提供する。
【0033】
さらに、本発明は、核酸ハイブリッドを基質とする酵素反応方法であって:
標的核酸を、該標的核酸の標的配列に対して相補的な配列とフリップ部分とを有するハイブリッド形成核酸と、該標的核酸に相補的で且つその3'末端が前記ハイブリッド形成核酸と重複するインベーダーオリゴとの2種の核酸と反応させて、核酸間でハイブリッドを形成する工程と、
該ハイブリッドにおける前記ハイブリッド形成核酸を基質として、フリップエンドヌクレアーゼ(クリベース)による酵素反応を行い、前記ハイブリッド形成核酸のフリップ部分を切断する工程と、
前記酵素反応の結果として生じたフリップ断片を、該フリップ断片に相補的な配列を有するFRETカセットと反応させて、両者の間のハイブリッドを形成する工程と、
前記FRETカセット−フリップ断片のハイブリッドを基質として、前記酵素反応を行う工程と、
を具備し、
前記標的核酸とハイブリッド形成核酸とのハイブリッドを形成する工程において、前記標的核酸および前記ハイブリッド形成核酸以外に、前記ハイブリッドの形成について前記ハイブリッド形成核酸と競合する競合核酸を添加することと;
該競合核酸は、前記標的配列との間で完全なハイブリッドを形成しないことと、
前記競合核酸は、前記ハイブリッド形成核酸がミスマッチでハイブリット形成する可能性のある前記標的核酸上のミスマッチ配列に完全に相補的な配列を有することと;
前記競合核酸は、前記FRETカセットのフリップ断片に相補的な配列との間でハイブリッドを形成する配列を有しないことと;
前記ハイブリッド形成核酸と前記ミスマッチ配列との間でのハイブリット形成は、前記競合核酸によって阻害されることを特徴とする酵素反応方法を提供する。
【0034】
また、本発明は、上記競合核酸を含むことを特徴とする、SNP検出のための試薬セット、並びに上記競合核酸、および酵素反応のためのプライマーまたはプローブを含むことを特徴とする、SNP検出のための試薬セットを提供する。
【0035】
【発明の実施の形態】
用語の説明
本明細書において使用される「核酸」の語は、DNAおよびRNA、S-オリゴ、メチルホスホネートオリゴ、PNA(即ち、ペプチド核酸)およびLNA(即ち、ロック核酸)などの核酸類似体など、一般的にその一部の構造を塩基配列によって表すことが可能な物質を総括的に示す語である。また、そのような核酸は、天然に存在するものであっても、人工的に合成されたものであって、それらの混合物であってもよい。また、これらの核酸は、一般的にそれ自身公知の方法により合成または産生されればよい。たとえば、一般的な核酸の合成に使用される核酸合成機を使用しても、一般的な大腸菌などを利用した遺伝子操作などの手段を利用してもよい。合成あるいは産生された核酸は、液体クロマトグラフィーや、マススペクトロスコピーなどで精製することが望ましい。さらに、これらの核酸は、所望に応じて、未修飾でもあっても、それ自身公知の手段によって何れかの修飾が施されていてもよい。たとえばCy5、Cy3、FITC等の蛍光色素で標識しておけば、蛍光検出器を用いた検出が可能であり、ハプテンや酵素で標識することにより、発色または発光での検出が可能である
また、ここで使用される「標的配列」の語は、核酸配列の存在およびその核酸配列の変異の存在を、検出および/または増幅したい配列を意味し、本発明の態様に従う「ハイブリッド形成核酸」が結合するための塩基配列を含む。
【0036】
ここで使用される「標的核酸」の語は、上記標的配列を含む核酸を示す。本発明の態様に従う方法で対象となる標的核酸は、特に限定されるものではなく、ゲノムDNA、ゲノムRNAおよびmRNAなどの他、人工的に製造した核酸類似物であってもよい。
【0037】
ここで使用される「相補」および「相補的」の語は、複数の配列が、互いに相補的あることを示す。また、「完全に」相補的とは、100%相補的であることをいう。
【0038】
また、ここで使用される「ハイブリッド形成核酸」の語は、標的核酸の標的配列に対して相補的な配列を有し、標的核酸とマッチしたハイブリッドを形成する核酸を意味する。加えて、たとえばインベーダー法に使用するシグナルプローブのフリップ部分のように、該核酸相補的配列に加えてさらなる非相補的配列が付加された核酸も含まれる。具体的には、上記SSC-PCR法における配列特異的プライマー、上記ポリメラーゼ伸長検出反応におけるプライマー、上記リアルタイムPCR法におけるプローブ、上記インベーダー法におけるシグナルプローブ、上記ライゲーション反応法におけるプローブなどである。
【0039】
以下、本発明の核酸ハイブリッドを基質とする酵素反応により、非特異的反応(非特異的ハイブリッド形成、非特異的伸長反応)が減少され、酵素反応の特異性が向上する原理を簡単に説明する。
【0040】
まず、標的核酸を、該標的核酸の標的配列に対して相補的なハイブリッド形成核酸と反応させて、両者の間のハイブリッドを形成させる。このとき前記標的核酸および前記ハイブリッド形成核酸以外に、競合核酸を同時に添加する。該競合核酸は、上述したとおり、前記標的配列との間で完全なハイブリッドを形成しないことと;前記ハイブリッド形成核酸がミスマッチでハイブリット形成する可能性のある前記標的核酸上のミスマッチ配列に完全に相補的な配列を有することと;前記競合核酸の5'末端および/または3'末端は、前記酵素反応が生じないように化学修飾されていることとを特徴とする競合核酸である。
【0041】
したがって、競合核酸は、ハイブリッド形成核酸がミスマッチでハイブリット形成する可能性のある標的核酸上のミスマッチ配列に完全に相補的な配列を有するため、該ミスマッチ配列とのハイブリッド形成において、ハイブリッド形成核酸よりも安定性の高いハイブリッドを形成する。すなわち、ハイブリッド形成核酸がミスマッチのハイブリッドを形成する可能性が非常に低くなることになる。
【0042】
このような競合核酸の配列は、各酵素反応の利用態様に応じて、適切に設計することができる。たとえばSNP検出において、検出したいSNP型の配列を末端に有する核酸をプローブとして使用した場合、SNP位置に他の塩基を有する核酸を競合核酸として使用すればよい。また、PCR法において非特異的配列が増幅された場合であれば、その非特異的増幅産物の配列をシーケンシングすることによって、または使用したプライマーとテンプレート間のホモロジー検索等によって、ミスマッチでハイブリット形成した配列を推定し、該ミスマッチ配列を競合核酸の配列とすればよい。その他、以下の実施形態において記載したように設計することができる。
【0043】
また、前記競合核酸は、酵素反応が生じないように化学修飾されているため、ミスマッチ配列とハイブリッドを形成したとしても酵素反応の基質となることはない。このような化学修飾は、酵素反応を阻害するような修飾であればどのような修飾でもよいが、たとえばアミノリンカー、ビオチン、ジデオキシ化、DIG、その他で修飾すればよい。その他、通常の核酸の構造には存在しない修飾がなされることにより、酵素認識を阻害するものであればよい。また、上記化学修飾は、酵素反応に応じて、5'末端および/または3'末端になされればよい。たとえば、Taqポリメラーゼによる反応の場合、プライマー分子等の3'末端から伸長反応が開始するため、この場合は3'末端に修飾をするべきである。また、TaqMan Assayにおける5'-3'エクソヌクレアーゼ活性ポリメラーゼによる反応の場合、酵素反応はプローブの5'末端で起きるため、5'末端に修飾をするべきである。
【0044】
さらに、前記競合核酸は、上述のとおり、前記標的配列との間で完全なハイブリッドを形成しない。したがって、該標的配列とのハイブリッド形成において、ハイブリッド形成核酸よりも安定性の低いハイブリッドが形成される。すなわち、前記競合核酸は、前記ハイブリッド形成核酸と競合した場合、標的配列とハイブリット形成する可能性は非常に低くなることになる。このため、競合核酸が、標的配列とハイブリッド形成核酸のハイブリッド形成を阻害することはない。
【0045】
前記競合核酸を投入する量は、次のように決定すればよい。PCR反応では、増幅対象のターゲットDNAに対して1000〜10000倍のプライマーDNAを反応溶液に最初に投入する。これはターゲットDNAの熱変性後、ターゲットDNA同士が再びハイブリダイゼーションするよりも、プライマーとターゲットDNAとのハイブリダイズ反応を生じやすくするためである。したがって、競合核酸は、標的核酸の量と同等以上の量であって、ハイブリッド形成核酸(プローブ、プライマー等)の量よりも少ない量であることが望ましい。
【0046】
また、本発明の酵素反応は、ポリメラーゼによる反応、特に5'-3'エクソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼによる反応、リガーゼよる反応、フリップエンドヌクレアーゼによる反応、逆転写酵素による反応、その他核酸ハイブリッドを基質とする酵素反応である。
【0047】
本発明の酵素反応方法では、上述の競合分子を使用して標的核酸とハイブリッド形成核酸のハイブリッドを形成させて、このハイブリッド形成核酸基質として酵素反応を行う。該酵素反応の反応条件は、使用する酵素反応(酵素)に応じて適切な条件下で行えばよい。このような酵素反応に最適な条件は、当業者であれば容易に設定することができるであろう。
【0048】
本発明の酵素反応方法では、上記のような原理により、ハイブリッド形成核酸とミスマッチ配列との間でのハイブリット形成が競合核酸によって阻害され、ハイブリッド形成核酸の非特異的ハイブリダイズが減少する。これにより、その核酸ハイブリッドを基質とする酵素反応の特異性が向上することになる。
【0049】
以下、図面を参照しながら本発明の酵素反応方法によって非特異的な反応が阻止される原理を具体的に説明する。
【0050】
本発明の競合核酸を使用することを特徴とする酵素反応方法の一実施形態として、ポリメラーゼによる反応の一つであるSSC-PCR(Sequence Specific Primer Polymerase Chain Reaction)反応に応用した例を図9に示す。
【0051】
SNPを検出する際にSSP-PCRを行う場合を考える。
【0052】
図9−1のようなターゲットにおいて点線で示す位置にハイブリダイズするプライマー1、2によってPCR増幅を行うとする。プライマー2の3’端とハイブリダイズする塩基配列は、SNPサイトであるとする(この場合はA)。したがって、プライマー2の3’端の配列は、Tとなる。図に示したAの他に、GのSNPアレルが存在するとする(これらアレルを仮にアレルA、アレルGと呼ぶ)。
【0053】
アレルAを検出するようなプライマー2を準備してPCR反応を行ったときに、ゲノム配列にアレルGしか存在しなかったにもかからわらずアレルAを含む増幅産物が得られた場合を考える(図9−2)。この場合はプライマー2の3’端がミスマッチにもかかわらずポリメラーゼが伸長反応したものと考えられる。
【0054】
ここで、本発明の競合核酸を用いた反応を考える。上記反応では、間違った伸長反応は、G−Tのミスマッチによって生じている。したがって、競合核酸には、図9−3のように3’末端配列以外がプライマー2と一致し、3’端配列はCであり、かつ化学修飾してポリメラーゼによる伸長反応が起きないようにしたDNAを使用する。
【0055】
このような競合核酸を使用してアレルGをプライマー2(アレルAを検出する)で増幅する場合を考える。PCR反応中に図9−4のような二種のハイブリッドが形成される。これらのハイブリッドの安定性は、ハイブリッド1が完全マッチであるのに対し、ハイブリッド2は3’末端がミスマッチであるため、ハイブリッド1の安定性が高くなる。よって、反応液中にはハイブリッド1がより多く存在することになる。
【0056】
このような競合核酸−ターゲットのハイブリッドは、各PCRサイクルごとに競合核酸が減るわけではないので、各PCRサイクルで形成される。PCR反応では、その反応初期に増幅されたターゲットが重要となる。この実施例のように伸長されないハイブリッド(競合核酸−ターゲットのハイブリッド)が多く形成されるとミスマッチハイブリッドの増幅が減少し、最終産物としてミスマッチ産物が生成しなくなる。
【0057】
上述のように、SSP-PCRでSNP検出を行うときに、検出したくないアレルがあるならば、そのアレルとハイブリッドをつくる競合核酸のプライマーを準備して反応すればよい。すなわち、AとGのアレルがあるときに、Aのアレルを検出するためには、末端塩基がTのプライマーを使用し、かつ末端がCの競合核酸も使用すればよい。
【0058】
一方、一般的なPCR反応に応用する場合を考える。たとえば、PCR増幅をしたときにプライマーが類似の配列にハイブリダイズし、予期しないPCR産物が得られてしまったとする。このような場合、実験条件を最適化することはもちろん、最終的には異なる場所にハイブリダイズしないようにプライマー配列を選び直すのがもっとも効果的な対処法である。ところが、実験の都合でプライマー変更ができない場合は、図9−5のようにプライマー類似配列に完全マッチな競合核酸を合成してPCR反応に用いればよい。より安定なハイブリッドを形成する競合核酸によって類似配列がブロックされるため、プライマー2はハイブリダイズすることができない。このため予期しないPCR産物はできなくなる。
【0059】
もし、競合核酸が、プライマー1の配列とプライマー2の相補配列との間にハイブリダイズしても、通常のPCR反応の伸長温度では、競合核酸が標的配列にハイブリダイズしていない可能性が高いので、ポリメラーゼの伸長反応は問題なく進むであろう。
【0060】
次に、本発明の競合核酸を使用することを特徴とする酵素反応方法の一実施形態として、ポリメラーゼによる反応の一つであるポリメラーゼ伸長によるSNP検出に応用した例を図10に示す。
【0061】
蛍光モノマーのとりこみを介してSNPを検出する場合を考える(図10)。ここで、検出用プライマーが予期しない類似配列にハイブリダイズし(図中の点線)、正確なSNP判別結果ができない場合を考える。このような場合は、類似配列に相補的な配列を有し、かつ分子安定性(例えばTm値)が検出用プライマーとほぼ同じ競合核酸を合成する。この競合核酸は、3’端を化学修飾してポリメラーゼ伸長反応が起きないようにしておく。ターゲットと同量〜検出用プライマーと同量程度の範囲の競合核酸を、反応時に投入すればよい(図10−1)。
【0062】
このような競合核酸を使えば類似配列での伸長反応は起きないので、誤った検出結果が出ることがなくなる。
【0063】
同様に、従来技術(3)に記載したダイデオキシモノマーとデオキシモノマーを使う方法において、プライマーが誤った類似配列にハイブリダイズするときに、これと同様の競合核酸を設計して、使用すればよい。
【0064】
次に、本発明の競合核酸を使用することを特徴とする酵素反応方法のもう一つの実施形態として、リアルタイムPCR法(TaqMan Assay)によるSNP検出反応に応用した例を図11に示す。
【0065】
この反応で誤った検出結果を生じる原因になるのは、プローブが誤ってハイブリダイゼーションすることである。
【0066】
この場合、競合核酸は、検出したいアレルではないアレルに相補的であり、かつハイブリッドの分子安定性(例えばTm値)が、検出用標識プローブとほぼ同じように設計すればよい。さらに5’->3’エクソ活性ポリメラーゼで分解されないように、5’端を化学修飾しておく。ターゲットと同量〜検出用プライマーと同量程度の範囲の競合核酸を、反応時に投入すればよい。
【0067】
検出対象が、検出用プローブに相補的でないアレルの場合、競合核酸が検出用プローブよりも安定なハイブリッドを形成する。そのため、検出用プローブがミスマッチハイブリッドを形成することはなく、間違った検出結果が生じなくなる。
【0068】
次に、本発明の競合核酸を使用することを特徴とする酵素反応方法のもう一つの実施形態として、インベーダー法による検出に応用した例を図12に示す。
【0069】
上記したとおり、インベーダー法では、最初のシグナルプローブへのハイブリダイゼーションの段階で、ターゲットDNA内のSNP位置において完全マッチのハイブリッドを形成しておく必要がある。このため、検出対象でないアレルが存在するときに検出に失敗することがある(図12−1)。
【0070】
このような問題を解消するために、次のような競合核酸1または競合核酸2を作製すればよい。競合核酸1は、シグナルプローブの3’端からSNP塩基までと同じ配列を有し、かつSNP位置は検出したくないアレルの塩基配列を有する競合核酸を作製する。また、競合核酸1のフリップに相当する塩基配列は、FRETカセットにハイブリダイズしない配列であるか、または十分短い配列にしておく(図12-1)。
【0071】
もう一つの競合核酸として、競合核酸2は、競合核酸1と同様に、シグナルプローブの3’端からSNP塩基までと同じ配列を有し、かつSNP位置は検出したくないアレルの塩基配列を有する競合核酸を作製する(フリップに相当する塩基配列をもたない)。また、競合核酸2の5’端の塩基を化学修飾することによって、クリベースが5’端の切断反応を生じないようにしておく。この競合核酸2は、シグナルプローブと同量程度からターゲットと同量程度の量を準備して反応するのが好ましい。
【0072】
上に挙げた競合核酸を使用して反応を開始すると、図12-2のような反応が生じる。競合核酸として競合核酸1を使用した場合、フリップ分子に相当するDNAが生成されるが、これを検出するためのFRETカセットがないため(このフリップ分子に相当するDNAは、FRETカセットにハイブリダイズすることができない)、その後のクリベースによる切断反応が進行せず、蛍光検出されることがない。さらに、競合核酸として競合核酸2を使用した場合、クリベースは、競合核酸2を切断することができないので、その後の反応がブロックされる。
【0073】
このようなミスマッチ配列を有する競合核酸を使用することによって、完全マッチの場合にのみシグナルプローブと標的配列のハイブリッドが形成される。その結果、検出対象ではないアレルが存在しても検出結果に間違いが生じにくくなる。
【0074】
次に、本発明の競合核酸を使用することを特徴とする酵素反応方法のもう一つの実施形態として、二本のライゲーションプローブによるSNP検出に応用した例を図13-2に示す。検出したいSNP塩基が、Gである場合を考える。従来は、図13-1のような二種のプローブを使用していた。プローブ1は、SNPサイトの上流に相補的な配列をもち、かつ5’端がリン酸標識されている。プローブ2は、3’端に検出しようとするSNPに相補的な塩基を備え、かつ5’端に検出用の蛍光色素を備える。これらプローブ、リガーゼ、ターゲットを添加して反応を開始させる。プローブ2が完全マッチであれば、リガーゼによって、プローブ1と2が連結される。この連結された分子を検出することによって特定のSNPを検出する。検出には、プローブ1に相補的なプローブ配列を備えたマイクロアレイを使用すればよい。ライゲーション反応が起きていればプローブ2の蛍光色素がマイクロアレイ上で検出されるので特定のSNPの存在することがわかる。
【0075】
上述したとおり、リガーゼは、完全マッチの3’端を持っていなくてもライゲーション反応をすることがあるので、結果に間違いが生じることがある。ここで、本発明の競合核酸を使用する。たとえばSNP塩基がGであることを検出するためのプローブ2が、SNP塩基Aにハイブリダイズしてしまったために間違いが生じたときには、次の核酸を競合核酸として使用することで改善できる。この競合核酸は、プローブ2と3’末端以外が同一配列で、3’末端がTであり、かつ3’末端は、酵素反応が生じないようにを修飾された分子とする(図13-2)。これをターゲットと同量〜プローブ2と同量程度の範囲で準備して反応時に投入する。ターゲットA(図13-2)の場合、プローブ2がターゲットAにハイブリダイズして形成されるハイブリッドするよりも、競合核酸とのハイブリッドの方が安定である。したがって、プローブ2と1が共にターゲットAとハイブリッドを形成することはない(図13-3)。
【0076】
また、ライゲーションの場合、競合核酸(特に3’端)を蛍光で標識する必要はない。したがって、たとえ連結反応が生じたとしても、標識がなければ検出されることはなく、偽陽性データが出ることはない(図13-4)。
【0077】
本発明の競合核酸を使用することを特徴とする酵素反応方法のもう一つの実施形態として、三本のライゲーションプローブを使用したSNP検出に応用した例を図14に示す。
【0078】
上述の二本のライゲーションプローブを使用した場合と同様にして、SNP塩基に相補なプローブ2に競合する競合核酸を作製する(図14-2)。プローブ2に競合する競合核酸は、プローブ2の検出対象でないアレルと相補的な配列を有し、かつ5’端リン酸修飾がされていない分子である。上述の二本のライゲーションプローブを使用した場合と同様に、反応時にこの競合核酸を反応時に投入する。ターゲットが検出対象でない場合、競合核酸が優先的にハイブリダイズすることとなり、より正確に検出反応を行うことができる。
【0079】
本発明のもう一つの態様として、上述の酵素反応方法を実施するために使用する試薬セットを提供することができる。該試薬セットは、従来の核酸ハイブリッドを基質とする酵素反応を実施するためのキットまたは試薬セット、特にSNP検出のためのキットまたは試薬セットに加えて、上述の競合核酸を含むことを特徴とする。たとえば、従来の試薬セット等に含まれているプライマーもしくはプローブ、酵素、反応用バッファー、その他に加えて、本発明の競合核酸が含まれた試薬セットとすることができる。
【0080】
該試薬セットを使用することにより、従来の試薬セット等を使用して酵素反応を行った場合よりも、非特異的反応を減少することができるであろう。
【0081】
【実施例】
以下、本発明の酵素反応方法を実施例としてさらに例示するが、これらに限定されるものではない。
【0082】
実施例1
λDNAを4塩基認識酵素Hha I(認識配列はgcgc)で切断すると、215個の制限酵素断片が得られる。これらのうち特定の末端配列をもつ断片を配列特異的に増幅することを目的とする。
【0083】
1.PCRテンプレート調製
材料
λDNA(タカラバイオ)
TdT(ターミナル・デオキシヌクレオチジル・トランスフェラーゼ)(東洋紡)Hha I(東洋紡)
方法
λDNA 4μgを、制限酵素Hha I 10unitによって、37℃において2時間反応して切断し、エタノール沈殿で回収する。次いで、回収した制限酵素断片の3’末端に、10unit TdTによってdATPを任意の長さだけ付加する。37℃において2時間反応させる。酵素処理が終わったらエタノール沈殿で回収し、100μlのTEに溶いて保存する。
【0084】
2.通常の方法によるPCR
回収したテンプレートDNA溶液には、数十pmol程度のテンプレートが含まれると考えられる。したがって、原液1μlを10分の1に希釈した液1μlをテンプレートとする。
【0085】
PCR 反応液組成(反応溶液50μl中)
希釈テンプレート(1μl)
プライマー1 (配列番号1)(20pmol)
dNTP(各2.5mMの混合物)(0.2mM 最終濃度)
Takara ExTaq ポリメラーゼ(1.25U)
MgCl2(1.5mM 最終濃度)
キット添付10xバッファー(5μl)
タカラバイオのExTaqを使用。溶液の容量が足りない分は超純水で補うことによって50μlにする。容器は薄壁タイプのPCR用チューブを使用する。
【0086】
温度サイクルは、94℃において30秒の後、94℃において10秒、62℃において30秒、72℃において60秒を30サイクル行う。サーマルサイクラーは、MJリサーチ社のPTC-200を使用する。ホットスタート法で反応を開始して非特異産物が生成しにくいように反応する。
【0087】
3.競合核酸を用いたPCR増幅反応
回収したテンプレートDNA溶液には数十pmol程度のテンプレートが含まれると考えられるので、原液1μlを10分の1に希釈した液1μlをテンプレートとする。
【0088】
PCR 反応液組成(反応溶液50μl中)
希釈テンプレート (1μl)
プライマー1 (配列番号1)(20pmol)
競合核酸1(配列番号2)5’アミノリンカー修飾(1pmol)*
競合核酸2(配列番号3) 5’アミノリンカー修飾(1pmol)*
競合核酸3(配列番号4) 5’アミノリンカー修飾(1pmol)*
dNTP(各2.5mMの混合物)(0.2mM 最終濃度)
Takara ExTaq ポリメラーゼ(1.25U)
MgCl2(1.5mM 最終濃度)
キット添付10xバッファー(5μl)
タカラバイオのExTaqを使用。溶液の容量が足りない分は超純水で補い50mlにする。容器は薄壁タイプのPCR用チューブを使用する。(*実験では、0.1pmol、1pmol、10pmol、20pmolのそれぞれについて反応し比較する。)
温度サイクルは、94℃において30秒の後、94℃において10秒、62℃において30秒、72℃において60秒を30サイクル行う。サーマルサイクラーは、MJリサーチ社のPTC-200を使用する。ホットスタート法で反応を開始して非特異産物が生成しにくいように反応する。
【0089】
上記2、3によって得られたPCR断片を、Agilent社Bioanalyzerで電気泳動し、あらかじめ予定したPCR産物ができているか定量する。
【0090】
λDNAのHhaI産物の長さと、末端配列の関係は、GenBankのLAMCGの名前で登録されている48502塩基の配列に基づいて、Hha Iによる制限酵素断片を予測した。
【0091】
【発明の効果】
本発明により、ハイブリッドを形成した核酸を基質とする酵素反応における非特異的な反応を阻止することが可能となり、酵素反応の特異性を向上することができる。したがって、目的以外の酵素反応産物が生じにくくなり、非特異的反応の影響を受けにくくなる。特に、SNP判別においては、判別精度が高められることになる。
【0092】
また、本発明の酵素反応によれば、酵素反応における特異性が向上することにより、非特異的なプライマーまたはプローブ等の消費が減少し、増幅効率が向上することになるであろう。
【0093】
さらに、本発明の試薬セットを使用することにより、従来の試薬セット等を使用して酵素反応を行った場合よりも、非特異的反応を減少して酵素反応を行うことが可能となる。
【0094】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】SSP−PCR(Single Primer Polymerase Chain Reaction)反応の概略図。
【図2】ポリメラーゼ伸長検出反応の例1の概略図。
【図3】ポリメラーゼ伸長検出反応の例2の概略図。
【図4】リアルタイムPCR法(TaqMan Assay)による検出の概略図。
【図5】インベーダー法による検出の概略図。
【図6】ライゲーション反応による検出の概略図。
【図7】ライゲーション反応による検出の概略図。
【図8】核酸ハイブリッドの安定性を示す図。
【図9】本発明の方法を、SSP−PCR(Single Primer Polymerase Chain Reaction)反応に応用した例の概略図。
【図10】本発明の方法を、ポリメラーゼ伸長検出反応に応用した例の概略図。
【図11】本発明の方法を、ポリメラーゼ伸長検出反応に応用した例の概略図。
【図12】本発明の方法を、リアルタイムPCR法(TaqMan Assay)による検出に応用した例の概略図。
【図13】本発明の方法を、インベーダー法による検出に応用した例の概略図。
【図14】本発明の方法を、ライゲーション反応による検出に応用した例の概略図。
Claims (9)
- 核酸ハイブリッドを基質とする酵素反応方法であって:
標的核酸を、該標的核酸の標的配列に対して相補的な配列を有するハイブリッド形成核酸と反応させて、両者の間のハイブリッドを形成する工程と、
該ハイブリッドにおける前記ハイブリッド形成核酸を基質として、酵素反応を行う工程とを具備し、
前記ハイブリッドを形成する工程において、前記標的核酸および前記ハイブリッド形成核酸以外に、前記ハイブリッドの形成について前記ハイブリッド形成核酸と競合する競合核酸を添加することと;
該競合核酸は、前記標的配列との間で完全なハイブリッドを形成しないことと;
前記競合核酸は、前記ハイブリッド形成核酸がミスマッチでハイブリット形成する可能性のある前記標的核酸上のミスマッチ配列に完全に相補的な配列を有することと;
前記競合核酸の5'末端および/または3'末端は、前記酵素反応が生じないように化学修飾されていることと;
前記ハイブリッド形成核酸と前記ミスマッチ配列との間でのハイブリット形成は、前記競合核酸によって阻害されることを特徴とする酵素反応方法。 - 請求項1に記載の方法であって、前記酵素反応は、ポリメラーゼによる反応である方法。
- 請求項1に記載の方法であって、前記酵素反応は、リガーゼによる反応である方法。
- 請求項1に記載の方法であって、前記酵素反応は、5'-3'エクソヌクレアーゼ活性を有するポリメラーゼによる反応である方法。
- 請求項1に記載の方法であって、前記酵素反応は、フリップエンドヌクレアーゼ(クリベース)による反応である方法。
- 請求項1に記載の方法であって、前記酵素反応は、逆転写酵素による反応である方法。
- 核酸ハイブリッドを基質とする酵素反応方法であって:
標的核酸を、該標的核酸の標的配列に対して相補的な配列とフリップ部分とを有するハイブリッド形成核酸と、該標的核酸に相補的で且つその3'末端が前記ハイブリッド形成核酸と重複するインベーダーオリゴとの2種の核酸と反応させて、核酸間でハイブリッドを形成する工程と、
該ハイブリッドにおける前記ハイブリッド形成核酸を基質として、フリップエンドヌクレアーゼ(クリベース)による酵素反応を行い、前記ハイブリッド形成核酸のフリップ部分を切断する工程と、
前記酵素反応の結果として生じたフリップ断片を、該フリップ断片に相補的な配列を有するFRETカセットと反応させて、両者の間のハイブリッドを形成する工程と、
前記FRETカセット−フリップ断片のハイブリッドを基質として、前記酵素反応を行う工程と、
を具備し、
前記標的核酸とハイブリッド形成核酸とのハイブリッドを形成する工程において、前記標的核酸および前記ハイブリッド形成核酸以外に、前記ハイブリッドの形成について前記ハイブリッド形成核酸と競合する競合核酸を添加することと;
該競合核酸は、前記標的配列との間で完全なハイブリッドを形成しないことと、
前記競合核酸は、前記ハイブリッド形成核酸がミスマッチでハイブリット形成する可能性のある前記標的核酸上のミスマッチ配列に完全に相補的な配列を有することと;
前記競合核酸は、前記FRETカセットのフリップ断片に相補的な配列との間でハイブリッドを形成する配列を有しないことと;
前記ハイブリッド形成核酸と前記ミスマッチ配列との間でのハイブリット形成は、前記競合核酸によって阻害されることを特徴とする酵素反応方法。 - 請求項1または7に記載の競合核酸を含む、SNP検出のための試薬セット。
- 請求項1または7に記載の競合核酸、および酵素反応のためのプライマーまたはプローブを含む、SNP検出のための試薬セット。
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WO2005085475A1 (en) * | 2004-03-01 | 2005-09-15 | Applera Corporation | Methods, compositions and kits for use in polynucleotide amplification |
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JP2009284774A (ja) * | 2008-05-27 | 2009-12-10 | Fujifilm Corp | 核酸の塩基配列の識別方法 |
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