JP2004182911A - 摩擦材 - Google Patents
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Abstract
【課題】層間剥離を確実に防止することができ、しかも摩擦材として使用した際の弾力性の低下を抑制することができる摩擦材を提供する。
【解決手段】摩擦材17を構成する三次元織物11は、3層の織り組織12a〜12cが結合糸13で結合され、各織り組織12a〜12cはそれぞれ経糸14a〜14c及び緯糸15a〜15cで織成されている。結合糸13は、各織り組織12a〜12cを上側から貫くとともに三次元織物11の下側で折り返して、各織り組織12a〜12cを下側から貫くように配列されるものと、その逆に配列されるものとが交互に配列されている。各織り組織12a〜12cは、50デニール以下のマルチフィラメント繊維束で形成され、緯糸15a〜15c及び経糸14a〜14cの織り密度が3本/mm以上に織成されている。摩擦材17は、三次元織物11にフェノール樹脂を含浸・硬化させて形成したシート16から、プレスにより円環状に打ち抜き形成される。
【選択図】 図1
【解決手段】摩擦材17を構成する三次元織物11は、3層の織り組織12a〜12cが結合糸13で結合され、各織り組織12a〜12cはそれぞれ経糸14a〜14c及び緯糸15a〜15cで織成されている。結合糸13は、各織り組織12a〜12cを上側から貫くとともに三次元織物11の下側で折り返して、各織り組織12a〜12cを下側から貫くように配列されるものと、その逆に配列されるものとが交互に配列されている。各織り組織12a〜12cは、50デニール以下のマルチフィラメント繊維束で形成され、緯糸15a〜15c及び経糸14a〜14cの織り密度が3本/mm以上に織成されている。摩擦材17は、三次元織物11にフェノール樹脂を含浸・硬化させて形成したシート16から、プレスにより円環状に打ち抜き形成される。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、摩擦材に係り、詳しくは車両用のクラッチやブレーキに使用される摩擦材に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、湿式クラッチ又は湿式ブレーキなどに使用される湿式摩擦材としては、紙漉のようにして繊維を漉いてシートを形成し、それにフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸・硬化させた後、所定の形状に打ち抜き加工して製造している。しかし、このように繊維を漉いて形成したシートを素材に使用した摩擦材では、車両のエンジンの出力アップ等による湿式摩擦材への負荷の増大により、層間剥離を生じ易く、負荷の増大に対応するのが難しくなっている。
【0003】
この問題を解消するため、不織布と織布とを組み合わせることにより、負荷の増大に対応できるようにした湿式摩擦材が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の湿式摩擦材は、乾式不織布間に織布を介在させた三層構造で、表面に摩擦調整剤が充填され、かつ、三層全体に熱硬化性樹脂が含浸された摩擦材基材を圧縮成形して形成されている。乾式不織布と織布とはニードルパンチングマシンを用いて三次元絡合されている。また、織布を複数枚積層した摩擦材も提案されている(例えば特許文献2)。
【0004】
また、特許文献1及び特許文献2に記載の摩擦材はともに、繊維の間にけいそう土、カーボン、シリカ粉末などの無機質粉末状物質あるいはカシューダスト等の有機質粉末状物質が充填されている。
【0005】
また、平板状三次元織物フィルタが特許文献3に開示されている。
【0006】
【特許文献1】
特開平7−280008号公報(明細書の段落[0006]〜[0008]、図1)
【特許文献2】
特開平5−138790号公報(明細書の段落[0007]〜[0016])
【特許文献3】
特開平4−341313号公報(明細書の段落[0008]、図1)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
特許文献1及び特許文献2に記載の摩擦材は、繊維を漉いて形成したシートを素材とした摩擦材に比較して層間剥離が起こり難いが、不十分である。特に、特許文献2に記載の摩擦材は、織布間を結合する繊維がないため、大きな圧縮剪断力が加わると層間剥離が生じ易い。また、特許文献2に記載の摩擦材は摩擦材の厚さ方向に配列される繊維がなく、特許文献1に記載の摩擦材は摩擦材の厚さ方向に配列された繊維が多少あるが、ニードルパンチによる絡合によるものであるため、その配向性が低い。そのため、摩擦材として使用した際、摩擦材が相手部材を押圧する弾力性の低下が起こり易い。
【0008】
本発明は前記の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は層間剥離を確実に防止することができ、しかも摩擦材として使用した際の弾力性の低下を抑制することができる摩擦材を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、50デニール以下のマルチフィラメント繊維束で形成するとともに、各層の緯糸及び経糸の少なくとも一方の織り密度が3本/mm以上となるように、経糸及び緯糸で織成された複数層の織り組織を結合糸で結合した三次元織物に熱硬化成樹脂が含浸硬化されている。
【0010】
この発明では、複数層の織り組織が結合糸で結合されているため、層間剥離が確実に防止されるとともに、結合糸が三次元織物を摩擦材として使用した際、摩擦材が相手部材を押圧する弾力性を高めるのに寄与するため、前記弾力性の低下を抑制することができる。また、複数層の織り組織を構成する経糸及び緯糸の繊維束が50デニール以下と細く、各層の緯糸及び経糸の少なくとも一方の織り密度が3本/mm以上と高いため、摩擦材での使用の際に、太い繊維束で織成したものに比較して接触面積が増加して摩擦係数が大きくなる。さらに、摩擦材として円環状に打ち抜いて使用された際にも、各部分の物性のばらつきが小さくなる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、マルチフィラメント繊維束で形成するとともに、各層の緯糸及び経糸の少なくとも一方の織り密度が3本/mm以上となるように、経糸及び緯糸で織成された複数層の織り組織を結合糸で結合した三次元織物に熱硬化成樹脂が含浸硬化された摩擦材である。そして、三次元織物を摩擦材としたときに接触面側となる織り組織が最も細い繊維束で織成されている。
【0012】
この発明では、結合糸は請求項1の発明と同様な作用効果を奏する。また、各層の緯糸及び経糸の少なくとも一方の織り密度が3本/mm以上と高く、三次元織物を摩擦材としたときに接触面側となる織り組織が最も細い繊維束で織成されているため、摩擦材での使用の際に、接触面積が増加して摩擦係数が大きくなる。さらに、摩擦材として円環状に打ち抜いて使用された際にも、各部分の物性がばらつき難い。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記三次元織物中の前記結合糸の割合は5〜50vol%である。この発明では、結合糸の割合(例えば体積百分率)を変更することで、三次元織物の厚さ方向の弾力性を要求に対応した値に変更することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記結合糸は経糸及び緯糸と異なる材質の繊維で形成されている。この発明では、結合糸の材質の自由度が増え厚さ方向の弾力性を要求に対応した値に変更するのが容易となる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記接触面側となる織り組織を構成する繊維に、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維及び炭素繊維の単体又は混合したものが使用されている。この発明では、摩擦材としたときの接触面となる側の、摩擦係数、耐熱性、摩耗性等の物性を要求性能に合わせて調整するのが容易になる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の発明において、前記三次元織物は2層又は3層構成であり、前記接触面側となる織り組織に隣接する織り組織を構成する繊維に、接触面側となる織り組織を構成する繊維に比較して弾力性のある繊維が使用されている。この発明では、接触面の物性を変えずに三次元織物の厚さ方向の弾力性を容易に向上させることができる。
【0017】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の発明において、前記三次元織物は2層又は3層構成であり、前記接触面側となる織り組織に隣接する織り組織を構成する繊維束に、接触面側となる織り組織を構成する繊維束に比較して太い繊維束が使用されている。この発明では、接触面の物性及び繊維の材質を変えずに三次元織物の厚さ方向の弾力性を容易に向上させることができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体化した一実施の形態を図1及び図2に従って説明する。図1(a)は三次元織物の構造を示す模式図、図1(b)はシート状中間品から摩擦材を打ち抜いた状態の模式斜視図、図2は摩擦材の繊維の配列を示す模式図である。
【0019】
図1(a)に示すように、三次元織物11は、複数層の織り組織12a,12b,12cを結合糸13で結合して構成されている。この実施の形態では3層の織り組織12a〜12cが設けられている。各織り組織12a〜12cはそれぞれ経糸14a,14b,14c及び緯糸15a,15b,15cで織成されている。この実施の形態では各織り組織12a〜12cはそれぞれ平織りで構成されている。図1(a)において上側を三次元織物11の上側とすると、結合糸13は、各織り組織12a〜12cを上側から貫くとともに三次元織物11の下側で折り返して、各織り組織12a〜12cを下側から貫くように配列されるものと、その逆に配列されるものとが交互に配列されている。三次元織物11は、例えば、2層織りのリボン織機を3層織りに改造するとともに、織り幅を拡げた織機で織成できる。
【0020】
各織り組織12a〜12cは、50デニール以下のマルチフィラメント繊維束で形成され、緯糸15a〜15c及び経糸14a〜14cの織り密度(打ち込み本数)が3本/mm以上に織成されている。繊維束の太さは細い方が好ましく、30デニール以下が好ましいが、あまり細いと細くするのに手間(コスト)が掛かるのと、織機で織るのが難しくなるため15デニール程度までの太さが実用的である。繊維束を構成する繊維(フィラメント)の本数は繊維の材質などによっても異なるが、例えば50デニールで30〜35本程度である。
【0021】
この実施の形態では経糸14a〜14c、緯糸15a〜15c及び結合糸13を構成する繊維として炭素繊維が使用されている。各織り組織12a〜12cは繊維束の太さや織り密度が同じに形成されている。また、三次元織物11中の結合糸13の割合(体積百分率)が例えば20vol%となるように形成されている。
【0022】
前記のように構成された三次元織物11は、熱硬化成樹脂であるフェノール樹脂を含浸させるとともに樹脂を硬化させた状態で、例えば、車両用オートマチックトランスミッションにおけるクラッチの摩擦材として使用される。
【0023】
図1(b)に示すように、摩擦材を形成する際は、三次元織物11にフェノール樹脂を含浸・硬化させて形成した中間製品であるシート16から、プレスにより円環状の摩擦材17が打ち抜き形成される。
【0024】
前記のように構成された摩擦材17は、一方の面(例えば、織り組織12aの面)が相手部材を押圧する状態に保持されて、その面と相手部材との摩擦により相手部材との相対移動を抑制するように作用する。織り組織12aが細い繊維束でしかも織り密度が高く形成されているため、太い繊維束を使用した場合に比較して接触面積が増えて摩擦係数が大きくなり前記抑制機能が高くなる。
【0025】
摩擦材17は円環状に形成されるため、図2に示すように、三次元織物11を構成する繊維の配列状態は、摩擦材17の部分によって異なる状態となる。例えば、図2において、摩擦材17の中心を通り上下方向に延びる中心線と対応する部分及び摩擦材17の中心を通り左右方向に延びる中心線と対応する部分のほぼ正方形状の領域Aでは、経糸14a及び緯糸15aがそれぞれ正方形の各辺と平行に延びる。しかし、中心を通り前記中心線に対して45度の角度で延びる線と対応する部分のほぼ正方形状の領域Bでは、経糸14a及び緯糸15aがそれぞれ正方形の各辺に対して45度の角度を成すように延びる。そのため、織り密度が粗い場合は、各部分の物性のバラツキが大きくなるが、緯糸及び経糸の織り密度が3本/mm以上の場合は各部分の物性のバラツキが小さくなり、支障がなくなる。
【0026】
結合糸13は各織り組織12a〜12cを結合して層間剥離を防止する機能だけでなく、摩擦材17が相手部材を押圧する弾力性を高めるのに寄与する。なぜならば、結合糸13は折り返し部分を除いて摩擦材17に作用する押圧力の方向とほぼ平行に延びるため、結合糸13に対して軸方向に加えられた力により撓みが生じ、その撓みを回復させる方向への力が発生する。その結果、摩擦材17が相手部材を押圧する弾力性を高めるのに寄与する。経糸14a〜14c及び緯糸15a〜15cは摩擦材17に作用する押圧力の方向とほぼ平行に延びるとともに、全体にほぼ均等に力が作用するため、その撓みが少ない。
【0027】
この実施の形態では以下の効果を有する。
(1) 経糸14a〜14c及び緯糸15a〜15cで織成された複数層の織り組織12a〜12cが50デニール以下のマルチフィラメント繊維束で、各層の緯糸15a〜15c及び経糸14a〜14cの織り密度が3本/mm以上となるように形成されている。従って、摩擦材での使用の際に、太い繊維束で織成したものに比較して接触面積が増加して摩擦係数が大きくなる。さらに、摩擦材17として円環状に打ち抜いて使用された際にも、各部分の物性のばらつきが小さくなる。
【0028】
(2) 複数層の織り組織12a〜12cが結合糸13で結合されているため、層間剥離が確実に防止される。また、三次元織物11を摩擦材17として使用した際、摩擦材17が相手部材を押圧する弾力性を高めるのに結合糸13が寄与するため、前記弾力性の低下を抑制できる。
【0029】
(3) 三次元織物11を構成する繊維が炭素繊維であるため、摩擦材17としたときの、耐熱性、耐摩耗性、耐薬品性が向上する。
(4) 各織り組織12a〜12cが同じに形成されているため、摩擦材17として使用する際、表裏を確認せずに摩擦材17を所定の部品に組み込んで使用しても、所望の性能が得られる。
【0030】
(5) 三次元織物11に樹脂を含浸硬化させたシート16を加工して摩擦材17を形成するため、三次元織物11から摩擦材17の形状に対応したものを切り取って樹脂を含浸硬化させる方法に比較して、摩擦材17を構成する繊維の配列の乱れが少なくなり、摩擦材17の物性が向上する。
【0031】
(6) 従来の摩擦材と異なり、無機質微粉末あるいは有機質微粉末を充填することが必須ではないため、その分、製造が容易になるとともに弾力性を高くするのが容易になる。
【0032】
なお、実施の形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 3層の三次元織物11を構成する各織り組織12a〜12cの経糸14a〜14c及び緯糸15a〜15cに同じ太さの繊維束を使用する代わりに、図3(a)に示すように、中層の緯糸15bの径を太くしてもよい。即ち、摩擦材17として使用される際に接触面側となる織り組織12a(12c)に隣接する織り組織12bを構成する繊維束に、接触面側となる織り組織12a(12c)を構成する繊維束に比較して太い繊維束が使用されている。中層の緯糸15bの径を他の緯糸15a,15cの径より太くしただけで、結合糸13の配列状態が同じままだと緯糸15bの配列に無理が生じる場合がある。従って、緯糸15bの太さに対応して結合糸13の配列状態を変更する。例えば、緯糸15bが他の緯糸15a,15cの2倍の太さの場合、図3(a)に示すように、結合糸13は折り返し位置のピッチが2倍となるように配列する。この場合、三次元織物11を摩擦材17として使用した際、摩擦材17が相手部材を押圧する弾力性を高めるのに寄与し、前記弾力性の低下を抑制できる。また、中層の密度が低くなり、摩擦材17を湿式クラッチに使用した際、冷却用オイルが流れ易くなって、放熱効果が向上する。
【0033】
○ 3層の三次元織物11を構成する各織り組織12a〜12cを全て平織りとする代わりに、中層の織り組織12bを綾織りや朱子織り等の他の織り組織に変更する。例えば、図3(b)に示すように、中層の織り組織12bを綾織りとする。この場合、中層の密度が低くなり、摩擦材17を湿式クラッチに使用した際、冷却用オイルが流れ易くなって、放熱効果が向上する。
【0034】
○ 三次元織物11を構成する織り組織の層数は3層に限らず、2層あるいは4層以上であってもよい。しかし、層数が増えると三次元織物11を織成する織機の構造が複雑になる一方、三次元織物11を摩擦材17に使用した際の物性は3層の場合とあまり変わらないので、3層以下で十分である。
【0035】
○ 図4(a)に示すように、三次元織物11を、上層と下層の2層の織り組織12a,12cを同じ太さの経糸14a,14c及び緯糸15a,15cで平織りとし、結合糸13で結合した構成とする。この場合、その三次元織物11を使用して形成される摩擦材17は、3層構成の三次元織物11を使用して形成される摩擦材17とほぼ同様な効果が得られる。また、2層構成の三次元織物11は、3層構成の三次元織物11より製造が簡単で、製造コストを低減できる。
【0036】
○ 図4(b)に示すように、三次元織物11を、上層と下層の2層にするとともに、その織り組織12a,12cを平織りとし、下層の織り組織12cの緯糸15cの太さを経糸14a,14c及び他の緯糸15aより太く(例えば、2倍)する。この三次元織物11で摩擦材17を形成した場合、細い緯糸15aが使用された織り組織12a側が接触面側となる状態で使用される。下層の織り組織12cの密度が低いため、摩擦材17を湿式クラッチに使用した際、冷却用オイルが流れ易くなって、放熱効果が向上する。また、三次元織物11を摩擦材17として使用した際、摩擦材17が相手部材を押圧する弾力性を高めるのに下層の織り組織12cの太い緯糸15cが寄与し、前記弾力性の低下を抑制できる。
【0037】
○ 2層の三次元織物11を構成する各織り組織12a,12cを平織りとする代わりに、下層の織り組織12cを綾織りや朱子織り等の他の織り組織に変更する。例えば、図4(c)に示すように、下層の織り組織12cを綾織りとする。この場合、下層の密度が低くなり、摩擦材17を湿式クラッチに使用した際、冷却用オイルが流れ易くなって、放熱効果が向上する。
【0038】
○ 3層構成の三次元織物11において、各織り組織12a〜12cを構成する緯糸15a〜15cとして下層側ほど太い繊維束を使用したり、中層と下層の緯糸15b,15cを太くしてもよい。この場合、摩擦材17としたときに接触面側を間違えないように組み付ける必要があるが、下層の密度も低くなり、摩擦材17を湿式クラッチに使用した際、中層の緯糸15bのみを太くした場合に比較して冷却用オイルがより流れ易くなって、放熱効果がより向上する。
【0039】
○ 経糸14a〜14c及び緯糸15a〜15cとは異なる種類の繊維を結合糸13に使用して、三次元織物11の厚さ方向の弾力性を向上させてもよい。この場合、結合糸13の材質の自由度が増え、摩擦材17の厚さ方向の弾力性を要求に対応した値に変更するのが容易となる。
【0040】
○ 摩擦材17としたときに接触面側となる織り組織(例えば、上層の織り組織12a)の繊維に比較して、弾力性のある繊維を使用して中層あるいは下層の織り組織12b,12cを形成する。例えば、織り組織12aの繊維を炭素繊維とし織り組織12b,12cの繊維をポリアラミド繊維とする。この場合も三次元織物11を摩擦材17として使用した際、摩擦材17が相手部材を押圧する弾力性を高め、前記弾力性の低下を抑制できる。
【0041】
○ 三次元織物11中の結合糸13の割合を変更して三次元織物の厚さ方向の弾力性を変更した三次元織物11を形成してもよい。結合糸13の割合(体積百分率)は5〜50vol%の範囲、好ましくは10〜40vol%である。この場合、結合糸13の割合を変更することで、三次元織物11の厚さ方向の弾力性を要求に対応した値に変更することができる。結合糸13の割合が多い方が弾力性が大きくなる。
【0042】
○ 三次元織物11の厚さ方向の弾力性を高める構成として中層又は下層の織り組織12b,12cの緯糸15b,15cを太くする代わりに経糸14b,14cを太くしてもよい。
【0043】
○ 経糸14a〜14c及び緯糸15a〜15cの太さを変える場合、繊維束を構成するフィラメントの本数を変える代わりに、本数は変えずにフィラメント自身の太さを変えてもよい。
【0044】
○ 繊維束を構成する繊維は炭素繊維に限らず、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(PBO繊維)、カイノール繊維、ガラス繊維等を使用してもよい。繊維は一種類(単体)で使用しても混合して使用してもよい。この場合、摩擦材17としたときの接触面となる側の、摩擦係数、耐熱性、摩耗性等の物性を要求性能に合わせて調整するのが容易になる。
【0045】
○ 三次元織物11の弾力性を変更する場合、結合糸13の繊維の材質を変えたり、結合糸13の割合を変えたり、中層又は下層の織り組織12b,12cの経糸14b,14c及び緯糸15b,15cの少なくとも一方を太くしたり、繊維の弾力性を変えたりする構成を単独ではなく組み合わせて使用してもよい。この場合、単独で使用する場合に比較して弾力性をより向上できる。
【0046】
○ 三次元織物11に含浸させる熱硬化性樹脂として、フェノール樹脂に限らず、変性フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂等の他の熱硬化性樹脂を使用してもよい。
【0047】
○ 三次元織物11として一方の面が他方の面に比較して織り密度が低い構成のものから製造した摩擦材を、相手部材との摩擦抵抗を低くする摺動材として使用してもよい。摺動材として使用する場合は、織り密度が低い側を接触面として使用することにより、織り組織内に潤滑オイルを溜め込むことができるとともに、接触面積が減ることにより摩擦抵抗が少なくなる。例えば、三次元織物11の一方の面を構成する織り組織が平織りで他方の面が綾織りや朱子織りにしたり、一方の面を構成する織り組織の経糸又は緯糸を他方の面を構成する織り組織の経糸又は緯糸より太くする。
【0048】
○ 緯糸及び経糸の双方の織り密度を3本/mm以上とする構成に限らず、緯糸の織り密度だけを高くしたり、経糸の織り密度だけを高くしてもよい。即ち、緯糸及び経糸の少なくとも一方の織り密度が3本/mm以上であればよい。
【0049】
前記実施の形態から把握される発明(技術的思想)について以下に記載する。
(1) 請求項6又は請求項7に記載の発明において、前記三次元織物は3層構成である。
【0050】
(2) 請求項7に記載の発明において、前記三次元織物は2層構成である。
(3) マルチフィラメント繊維束で形成するとともに、各層の緯糸及び経糸の少なくとも一方の織り密度が3本/mm以上となるように、経糸及び緯糸で織成された複数層の織り組織を結合糸で結合した三次元織物に熱硬化成樹脂が含浸硬化された摩擦材であって、前記三次元織物を摺動材としたときに接触面側となる織り組織が最も低い織り密度となるように織成されている摺動材。
【0051】
【発明の効果】
以上詳述したように、請求項1〜請求項7に記載の発明によれば、層間剥離を確実に防止することができ、しかも摩擦材として使用した際の弾力性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は三次元織物の構造を示す模式図、(b)はシート状中間品から摩擦材を打ち抜いた状態の模式斜視図。
【図2】摩擦材の繊維の配列を示す模式図。
【図3】(a),(b)はそれぞれ別の実施の形態の三次元織物の構造を示す模式図。
【図4】(a),(b),(c)はそれぞれ別の実施の形態の三次元織物の構造を示す模式図。
【符号の説明】
11…三次元織物、12a,12b,12c…織り組織、13…結合糸、14a,14b,14c…経糸、15a,15b,15c…緯糸、17…摩擦材。
【発明の属する技術分野】
本発明は、摩擦材に係り、詳しくは車両用のクラッチやブレーキに使用される摩擦材に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、湿式クラッチ又は湿式ブレーキなどに使用される湿式摩擦材としては、紙漉のようにして繊維を漉いてシートを形成し、それにフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸・硬化させた後、所定の形状に打ち抜き加工して製造している。しかし、このように繊維を漉いて形成したシートを素材に使用した摩擦材では、車両のエンジンの出力アップ等による湿式摩擦材への負荷の増大により、層間剥離を生じ易く、負荷の増大に対応するのが難しくなっている。
【0003】
この問題を解消するため、不織布と織布とを組み合わせることにより、負荷の増大に対応できるようにした湿式摩擦材が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の湿式摩擦材は、乾式不織布間に織布を介在させた三層構造で、表面に摩擦調整剤が充填され、かつ、三層全体に熱硬化性樹脂が含浸された摩擦材基材を圧縮成形して形成されている。乾式不織布と織布とはニードルパンチングマシンを用いて三次元絡合されている。また、織布を複数枚積層した摩擦材も提案されている(例えば特許文献2)。
【0004】
また、特許文献1及び特許文献2に記載の摩擦材はともに、繊維の間にけいそう土、カーボン、シリカ粉末などの無機質粉末状物質あるいはカシューダスト等の有機質粉末状物質が充填されている。
【0005】
また、平板状三次元織物フィルタが特許文献3に開示されている。
【0006】
【特許文献1】
特開平7−280008号公報(明細書の段落[0006]〜[0008]、図1)
【特許文献2】
特開平5−138790号公報(明細書の段落[0007]〜[0016])
【特許文献3】
特開平4−341313号公報(明細書の段落[0008]、図1)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
特許文献1及び特許文献2に記載の摩擦材は、繊維を漉いて形成したシートを素材とした摩擦材に比較して層間剥離が起こり難いが、不十分である。特に、特許文献2に記載の摩擦材は、織布間を結合する繊維がないため、大きな圧縮剪断力が加わると層間剥離が生じ易い。また、特許文献2に記載の摩擦材は摩擦材の厚さ方向に配列される繊維がなく、特許文献1に記載の摩擦材は摩擦材の厚さ方向に配列された繊維が多少あるが、ニードルパンチによる絡合によるものであるため、その配向性が低い。そのため、摩擦材として使用した際、摩擦材が相手部材を押圧する弾力性の低下が起こり易い。
【0008】
本発明は前記の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は層間剥離を確実に防止することができ、しかも摩擦材として使用した際の弾力性の低下を抑制することができる摩擦材を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、50デニール以下のマルチフィラメント繊維束で形成するとともに、各層の緯糸及び経糸の少なくとも一方の織り密度が3本/mm以上となるように、経糸及び緯糸で織成された複数層の織り組織を結合糸で結合した三次元織物に熱硬化成樹脂が含浸硬化されている。
【0010】
この発明では、複数層の織り組織が結合糸で結合されているため、層間剥離が確実に防止されるとともに、結合糸が三次元織物を摩擦材として使用した際、摩擦材が相手部材を押圧する弾力性を高めるのに寄与するため、前記弾力性の低下を抑制することができる。また、複数層の織り組織を構成する経糸及び緯糸の繊維束が50デニール以下と細く、各層の緯糸及び経糸の少なくとも一方の織り密度が3本/mm以上と高いため、摩擦材での使用の際に、太い繊維束で織成したものに比較して接触面積が増加して摩擦係数が大きくなる。さらに、摩擦材として円環状に打ち抜いて使用された際にも、各部分の物性のばらつきが小さくなる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、マルチフィラメント繊維束で形成するとともに、各層の緯糸及び経糸の少なくとも一方の織り密度が3本/mm以上となるように、経糸及び緯糸で織成された複数層の織り組織を結合糸で結合した三次元織物に熱硬化成樹脂が含浸硬化された摩擦材である。そして、三次元織物を摩擦材としたときに接触面側となる織り組織が最も細い繊維束で織成されている。
【0012】
この発明では、結合糸は請求項1の発明と同様な作用効果を奏する。また、各層の緯糸及び経糸の少なくとも一方の織り密度が3本/mm以上と高く、三次元織物を摩擦材としたときに接触面側となる織り組織が最も細い繊維束で織成されているため、摩擦材での使用の際に、接触面積が増加して摩擦係数が大きくなる。さらに、摩擦材として円環状に打ち抜いて使用された際にも、各部分の物性がばらつき難い。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記三次元織物中の前記結合糸の割合は5〜50vol%である。この発明では、結合糸の割合(例えば体積百分率)を変更することで、三次元織物の厚さ方向の弾力性を要求に対応した値に変更することができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記結合糸は経糸及び緯糸と異なる材質の繊維で形成されている。この発明では、結合糸の材質の自由度が増え厚さ方向の弾力性を要求に対応した値に変更するのが容易となる。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記接触面側となる織り組織を構成する繊維に、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維及び炭素繊維の単体又は混合したものが使用されている。この発明では、摩擦材としたときの接触面となる側の、摩擦係数、耐熱性、摩耗性等の物性を要求性能に合わせて調整するのが容易になる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の発明において、前記三次元織物は2層又は3層構成であり、前記接触面側となる織り組織に隣接する織り組織を構成する繊維に、接触面側となる織り組織を構成する繊維に比較して弾力性のある繊維が使用されている。この発明では、接触面の物性を変えずに三次元織物の厚さ方向の弾力性を容易に向上させることができる。
【0017】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の発明において、前記三次元織物は2層又は3層構成であり、前記接触面側となる織り組織に隣接する織り組織を構成する繊維束に、接触面側となる織り組織を構成する繊維束に比較して太い繊維束が使用されている。この発明では、接触面の物性及び繊維の材質を変えずに三次元織物の厚さ方向の弾力性を容易に向上させることができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体化した一実施の形態を図1及び図2に従って説明する。図1(a)は三次元織物の構造を示す模式図、図1(b)はシート状中間品から摩擦材を打ち抜いた状態の模式斜視図、図2は摩擦材の繊維の配列を示す模式図である。
【0019】
図1(a)に示すように、三次元織物11は、複数層の織り組織12a,12b,12cを結合糸13で結合して構成されている。この実施の形態では3層の織り組織12a〜12cが設けられている。各織り組織12a〜12cはそれぞれ経糸14a,14b,14c及び緯糸15a,15b,15cで織成されている。この実施の形態では各織り組織12a〜12cはそれぞれ平織りで構成されている。図1(a)において上側を三次元織物11の上側とすると、結合糸13は、各織り組織12a〜12cを上側から貫くとともに三次元織物11の下側で折り返して、各織り組織12a〜12cを下側から貫くように配列されるものと、その逆に配列されるものとが交互に配列されている。三次元織物11は、例えば、2層織りのリボン織機を3層織りに改造するとともに、織り幅を拡げた織機で織成できる。
【0020】
各織り組織12a〜12cは、50デニール以下のマルチフィラメント繊維束で形成され、緯糸15a〜15c及び経糸14a〜14cの織り密度(打ち込み本数)が3本/mm以上に織成されている。繊維束の太さは細い方が好ましく、30デニール以下が好ましいが、あまり細いと細くするのに手間(コスト)が掛かるのと、織機で織るのが難しくなるため15デニール程度までの太さが実用的である。繊維束を構成する繊維(フィラメント)の本数は繊維の材質などによっても異なるが、例えば50デニールで30〜35本程度である。
【0021】
この実施の形態では経糸14a〜14c、緯糸15a〜15c及び結合糸13を構成する繊維として炭素繊維が使用されている。各織り組織12a〜12cは繊維束の太さや織り密度が同じに形成されている。また、三次元織物11中の結合糸13の割合(体積百分率)が例えば20vol%となるように形成されている。
【0022】
前記のように構成された三次元織物11は、熱硬化成樹脂であるフェノール樹脂を含浸させるとともに樹脂を硬化させた状態で、例えば、車両用オートマチックトランスミッションにおけるクラッチの摩擦材として使用される。
【0023】
図1(b)に示すように、摩擦材を形成する際は、三次元織物11にフェノール樹脂を含浸・硬化させて形成した中間製品であるシート16から、プレスにより円環状の摩擦材17が打ち抜き形成される。
【0024】
前記のように構成された摩擦材17は、一方の面(例えば、織り組織12aの面)が相手部材を押圧する状態に保持されて、その面と相手部材との摩擦により相手部材との相対移動を抑制するように作用する。織り組織12aが細い繊維束でしかも織り密度が高く形成されているため、太い繊維束を使用した場合に比較して接触面積が増えて摩擦係数が大きくなり前記抑制機能が高くなる。
【0025】
摩擦材17は円環状に形成されるため、図2に示すように、三次元織物11を構成する繊維の配列状態は、摩擦材17の部分によって異なる状態となる。例えば、図2において、摩擦材17の中心を通り上下方向に延びる中心線と対応する部分及び摩擦材17の中心を通り左右方向に延びる中心線と対応する部分のほぼ正方形状の領域Aでは、経糸14a及び緯糸15aがそれぞれ正方形の各辺と平行に延びる。しかし、中心を通り前記中心線に対して45度の角度で延びる線と対応する部分のほぼ正方形状の領域Bでは、経糸14a及び緯糸15aがそれぞれ正方形の各辺に対して45度の角度を成すように延びる。そのため、織り密度が粗い場合は、各部分の物性のバラツキが大きくなるが、緯糸及び経糸の織り密度が3本/mm以上の場合は各部分の物性のバラツキが小さくなり、支障がなくなる。
【0026】
結合糸13は各織り組織12a〜12cを結合して層間剥離を防止する機能だけでなく、摩擦材17が相手部材を押圧する弾力性を高めるのに寄与する。なぜならば、結合糸13は折り返し部分を除いて摩擦材17に作用する押圧力の方向とほぼ平行に延びるため、結合糸13に対して軸方向に加えられた力により撓みが生じ、その撓みを回復させる方向への力が発生する。その結果、摩擦材17が相手部材を押圧する弾力性を高めるのに寄与する。経糸14a〜14c及び緯糸15a〜15cは摩擦材17に作用する押圧力の方向とほぼ平行に延びるとともに、全体にほぼ均等に力が作用するため、その撓みが少ない。
【0027】
この実施の形態では以下の効果を有する。
(1) 経糸14a〜14c及び緯糸15a〜15cで織成された複数層の織り組織12a〜12cが50デニール以下のマルチフィラメント繊維束で、各層の緯糸15a〜15c及び経糸14a〜14cの織り密度が3本/mm以上となるように形成されている。従って、摩擦材での使用の際に、太い繊維束で織成したものに比較して接触面積が増加して摩擦係数が大きくなる。さらに、摩擦材17として円環状に打ち抜いて使用された際にも、各部分の物性のばらつきが小さくなる。
【0028】
(2) 複数層の織り組織12a〜12cが結合糸13で結合されているため、層間剥離が確実に防止される。また、三次元織物11を摩擦材17として使用した際、摩擦材17が相手部材を押圧する弾力性を高めるのに結合糸13が寄与するため、前記弾力性の低下を抑制できる。
【0029】
(3) 三次元織物11を構成する繊維が炭素繊維であるため、摩擦材17としたときの、耐熱性、耐摩耗性、耐薬品性が向上する。
(4) 各織り組織12a〜12cが同じに形成されているため、摩擦材17として使用する際、表裏を確認せずに摩擦材17を所定の部品に組み込んで使用しても、所望の性能が得られる。
【0030】
(5) 三次元織物11に樹脂を含浸硬化させたシート16を加工して摩擦材17を形成するため、三次元織物11から摩擦材17の形状に対応したものを切り取って樹脂を含浸硬化させる方法に比較して、摩擦材17を構成する繊維の配列の乱れが少なくなり、摩擦材17の物性が向上する。
【0031】
(6) 従来の摩擦材と異なり、無機質微粉末あるいは有機質微粉末を充填することが必須ではないため、その分、製造が容易になるとともに弾力性を高くするのが容易になる。
【0032】
なお、実施の形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 3層の三次元織物11を構成する各織り組織12a〜12cの経糸14a〜14c及び緯糸15a〜15cに同じ太さの繊維束を使用する代わりに、図3(a)に示すように、中層の緯糸15bの径を太くしてもよい。即ち、摩擦材17として使用される際に接触面側となる織り組織12a(12c)に隣接する織り組織12bを構成する繊維束に、接触面側となる織り組織12a(12c)を構成する繊維束に比較して太い繊維束が使用されている。中層の緯糸15bの径を他の緯糸15a,15cの径より太くしただけで、結合糸13の配列状態が同じままだと緯糸15bの配列に無理が生じる場合がある。従って、緯糸15bの太さに対応して結合糸13の配列状態を変更する。例えば、緯糸15bが他の緯糸15a,15cの2倍の太さの場合、図3(a)に示すように、結合糸13は折り返し位置のピッチが2倍となるように配列する。この場合、三次元織物11を摩擦材17として使用した際、摩擦材17が相手部材を押圧する弾力性を高めるのに寄与し、前記弾力性の低下を抑制できる。また、中層の密度が低くなり、摩擦材17を湿式クラッチに使用した際、冷却用オイルが流れ易くなって、放熱効果が向上する。
【0033】
○ 3層の三次元織物11を構成する各織り組織12a〜12cを全て平織りとする代わりに、中層の織り組織12bを綾織りや朱子織り等の他の織り組織に変更する。例えば、図3(b)に示すように、中層の織り組織12bを綾織りとする。この場合、中層の密度が低くなり、摩擦材17を湿式クラッチに使用した際、冷却用オイルが流れ易くなって、放熱効果が向上する。
【0034】
○ 三次元織物11を構成する織り組織の層数は3層に限らず、2層あるいは4層以上であってもよい。しかし、層数が増えると三次元織物11を織成する織機の構造が複雑になる一方、三次元織物11を摩擦材17に使用した際の物性は3層の場合とあまり変わらないので、3層以下で十分である。
【0035】
○ 図4(a)に示すように、三次元織物11を、上層と下層の2層の織り組織12a,12cを同じ太さの経糸14a,14c及び緯糸15a,15cで平織りとし、結合糸13で結合した構成とする。この場合、その三次元織物11を使用して形成される摩擦材17は、3層構成の三次元織物11を使用して形成される摩擦材17とほぼ同様な効果が得られる。また、2層構成の三次元織物11は、3層構成の三次元織物11より製造が簡単で、製造コストを低減できる。
【0036】
○ 図4(b)に示すように、三次元織物11を、上層と下層の2層にするとともに、その織り組織12a,12cを平織りとし、下層の織り組織12cの緯糸15cの太さを経糸14a,14c及び他の緯糸15aより太く(例えば、2倍)する。この三次元織物11で摩擦材17を形成した場合、細い緯糸15aが使用された織り組織12a側が接触面側となる状態で使用される。下層の織り組織12cの密度が低いため、摩擦材17を湿式クラッチに使用した際、冷却用オイルが流れ易くなって、放熱効果が向上する。また、三次元織物11を摩擦材17として使用した際、摩擦材17が相手部材を押圧する弾力性を高めるのに下層の織り組織12cの太い緯糸15cが寄与し、前記弾力性の低下を抑制できる。
【0037】
○ 2層の三次元織物11を構成する各織り組織12a,12cを平織りとする代わりに、下層の織り組織12cを綾織りや朱子織り等の他の織り組織に変更する。例えば、図4(c)に示すように、下層の織り組織12cを綾織りとする。この場合、下層の密度が低くなり、摩擦材17を湿式クラッチに使用した際、冷却用オイルが流れ易くなって、放熱効果が向上する。
【0038】
○ 3層構成の三次元織物11において、各織り組織12a〜12cを構成する緯糸15a〜15cとして下層側ほど太い繊維束を使用したり、中層と下層の緯糸15b,15cを太くしてもよい。この場合、摩擦材17としたときに接触面側を間違えないように組み付ける必要があるが、下層の密度も低くなり、摩擦材17を湿式クラッチに使用した際、中層の緯糸15bのみを太くした場合に比較して冷却用オイルがより流れ易くなって、放熱効果がより向上する。
【0039】
○ 経糸14a〜14c及び緯糸15a〜15cとは異なる種類の繊維を結合糸13に使用して、三次元織物11の厚さ方向の弾力性を向上させてもよい。この場合、結合糸13の材質の自由度が増え、摩擦材17の厚さ方向の弾力性を要求に対応した値に変更するのが容易となる。
【0040】
○ 摩擦材17としたときに接触面側となる織り組織(例えば、上層の織り組織12a)の繊維に比較して、弾力性のある繊維を使用して中層あるいは下層の織り組織12b,12cを形成する。例えば、織り組織12aの繊維を炭素繊維とし織り組織12b,12cの繊維をポリアラミド繊維とする。この場合も三次元織物11を摩擦材17として使用した際、摩擦材17が相手部材を押圧する弾力性を高め、前記弾力性の低下を抑制できる。
【0041】
○ 三次元織物11中の結合糸13の割合を変更して三次元織物の厚さ方向の弾力性を変更した三次元織物11を形成してもよい。結合糸13の割合(体積百分率)は5〜50vol%の範囲、好ましくは10〜40vol%である。この場合、結合糸13の割合を変更することで、三次元織物11の厚さ方向の弾力性を要求に対応した値に変更することができる。結合糸13の割合が多い方が弾力性が大きくなる。
【0042】
○ 三次元織物11の厚さ方向の弾力性を高める構成として中層又は下層の織り組織12b,12cの緯糸15b,15cを太くする代わりに経糸14b,14cを太くしてもよい。
【0043】
○ 経糸14a〜14c及び緯糸15a〜15cの太さを変える場合、繊維束を構成するフィラメントの本数を変える代わりに、本数は変えずにフィラメント自身の太さを変えてもよい。
【0044】
○ 繊維束を構成する繊維は炭素繊維に限らず、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(PBO繊維)、カイノール繊維、ガラス繊維等を使用してもよい。繊維は一種類(単体)で使用しても混合して使用してもよい。この場合、摩擦材17としたときの接触面となる側の、摩擦係数、耐熱性、摩耗性等の物性を要求性能に合わせて調整するのが容易になる。
【0045】
○ 三次元織物11の弾力性を変更する場合、結合糸13の繊維の材質を変えたり、結合糸13の割合を変えたり、中層又は下層の織り組織12b,12cの経糸14b,14c及び緯糸15b,15cの少なくとも一方を太くしたり、繊維の弾力性を変えたりする構成を単独ではなく組み合わせて使用してもよい。この場合、単独で使用する場合に比較して弾力性をより向上できる。
【0046】
○ 三次元織物11に含浸させる熱硬化性樹脂として、フェノール樹脂に限らず、変性フェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂等の他の熱硬化性樹脂を使用してもよい。
【0047】
○ 三次元織物11として一方の面が他方の面に比較して織り密度が低い構成のものから製造した摩擦材を、相手部材との摩擦抵抗を低くする摺動材として使用してもよい。摺動材として使用する場合は、織り密度が低い側を接触面として使用することにより、織り組織内に潤滑オイルを溜め込むことができるとともに、接触面積が減ることにより摩擦抵抗が少なくなる。例えば、三次元織物11の一方の面を構成する織り組織が平織りで他方の面が綾織りや朱子織りにしたり、一方の面を構成する織り組織の経糸又は緯糸を他方の面を構成する織り組織の経糸又は緯糸より太くする。
【0048】
○ 緯糸及び経糸の双方の織り密度を3本/mm以上とする構成に限らず、緯糸の織り密度だけを高くしたり、経糸の織り密度だけを高くしてもよい。即ち、緯糸及び経糸の少なくとも一方の織り密度が3本/mm以上であればよい。
【0049】
前記実施の形態から把握される発明(技術的思想)について以下に記載する。
(1) 請求項6又は請求項7に記載の発明において、前記三次元織物は3層構成である。
【0050】
(2) 請求項7に記載の発明において、前記三次元織物は2層構成である。
(3) マルチフィラメント繊維束で形成するとともに、各層の緯糸及び経糸の少なくとも一方の織り密度が3本/mm以上となるように、経糸及び緯糸で織成された複数層の織り組織を結合糸で結合した三次元織物に熱硬化成樹脂が含浸硬化された摩擦材であって、前記三次元織物を摺動材としたときに接触面側となる織り組織が最も低い織り密度となるように織成されている摺動材。
【0051】
【発明の効果】
以上詳述したように、請求項1〜請求項7に記載の発明によれば、層間剥離を確実に防止することができ、しかも摩擦材として使用した際の弾力性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は三次元織物の構造を示す模式図、(b)はシート状中間品から摩擦材を打ち抜いた状態の模式斜視図。
【図2】摩擦材の繊維の配列を示す模式図。
【図3】(a),(b)はそれぞれ別の実施の形態の三次元織物の構造を示す模式図。
【図4】(a),(b),(c)はそれぞれ別の実施の形態の三次元織物の構造を示す模式図。
【符号の説明】
11…三次元織物、12a,12b,12c…織り組織、13…結合糸、14a,14b,14c…経糸、15a,15b,15c…緯糸、17…摩擦材。
Claims (7)
- 50デニール以下のマルチフィラメント繊維束で形成するとともに、各層の緯糸及び経糸の少なくとも一方の織り密度が3本/mm以上となるように、経糸及び緯糸で織成された複数層の織り組織を結合糸で結合した三次元織物に熱硬化成樹脂が含浸硬化された摩擦材。
- マルチフィラメント繊維束で形成するとともに、各層の緯糸及び経糸の少なくとも一方の織り密度が3本/mm以上となるように、経糸及び緯糸で織成された複数層の織り組織を結合糸で結合した三次元織物に熱硬化成樹脂が含浸硬化された摩擦材であって、前記三次元織物を摩擦材としたときに接触面側となる織り組織が最も細い繊維束で織成されている摩擦材。
- 前記三次元織物中の前記結合糸の割合は5〜50vol%である請求項1又は請求項2に記載の摩擦材。
- 前記結合糸は経糸及び緯糸と異なる材質の繊維で形成されている請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の摩擦材。
- 前記接触面側となる織り組織を構成する繊維に、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維及び炭素繊維の単体又は混合したものが使用されている請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の摩擦材。
- 前記三次元織物は2層又は3層構成であり、前記接触面側となる織り組織に隣接する織り組織を構成する繊維に、接触面側となる織り組織を構成する繊維に比較して弾力性のある繊維が使用されている請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の摩擦材。
- 前記三次元織物は2層又は3層構成であり、前記接触面側となる織り組織に隣接する織り組織を構成する繊維束に、接触面側となる織り組織を構成する繊維束に比較して太い繊維束が使用されている請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の摩擦材。
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