JP2004181601A - 脚式移動ロボット - Google Patents
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Abstract
【解決手段】遊脚が持ち上げられその足底が受ける床反力がゼロとなった段階において、該遊脚側の膝関節ピッチ軸並びに足首ロール軸及びピッチ軸の各アクチュエータの特性に対して、低域ゲインを小さく、位相進み量を大きく、関節の粘性抵抗を小さくする設定を行なうことで、機械的受動性と速い応答性を持たせ、着床の瞬間の衝撃力を緩和しつつ高い帯域の追従制御を行なうことができるようにする。
【選択図】 図15
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ロボットや汎用組立機器、ロボット・ハンド機器、その他の多軸制御装置などのような多軸駆動系の機械装置に係り、特に、直列補償の比例ゲイン、位相補償要素から成り立つ位置制御系を構成するアクチュエータのサーボ制御器によって各関節部位が構成されるロボットに関する。
【0002】
さらに詳しくは、本発明は、高ゲインPD制御で各軸リンクが制御される2足歩行の脚式移動ロボットに係り、特に、機体の旋回を始めとしてさまざまな動作の実行時においてアクチュエータそのものの特性とアクチュエータの制御器の特性の2つを動的又は静的に制御することにより安定且つ高効率な動作を実現する脚式移動ロボットに関する。
【0003】
【従来の技術】
電気的若しくは磁気的な作用を用いて人間の動作に似せた運動を行う機械装置のことを「ロボット」という。ロボットの語源は、スラブ語の”ROBOTA(奴隷機械)”に由来すると言われている。わが国では、ロボットが普及し始めたのは1960年代末からであるが、その多くは、工場における生産作業の自動化・無人化などを目的としたマニピュレータや搬送ロボットなどの産業用ロボット(industrial robot)であった。
【0004】
アーム式ロボットのように、ある特定の場所に植設して用いるような据置きタイプのロボットは、部品の組立・選別作業など固定的・局所的な作業空間でのみ活動する。これに対し、移動式のロボットは、作業空間は非限定的であり、所定の経路上または無経路上を自在に移動して、所定の若しくは任意の人的作業を代行したり、ヒトやイヌあるいはその他の生命体に置き換わる種々の幅広いサービスを提供したりすることができる。なかでも脚式の移動ロボットは、クローラ式やタイヤ式のロボットに比し不安定で姿勢制御や歩行制御が難しくなるが、階段や梯子の昇降や障害物の乗り越えや、整地・不整地の区別を問わない柔軟な歩行・走行動作を実現できるという点で優れている。
【0005】
最近では、イヌやネコのように4足歩行の動物の身体メカニズムやその動作を模したペット型ロボット、あるいは、ヒトのような2足直立歩行を行う動物の身体メカニズムや動作をモデルにしてデザインされた「人間形」若しくは「人間型」と呼ばれるロボット(humanoid robot)など、脚式移動ロボットに関する研究開発が進展し、実用化への期待も高まってきている。
【0006】
この種の脚式移動ロボットは、一般に、多数の関節自由度を備え、関節の動きをアクチュエータ・モータで実現するようになっている。また、各モータの回転位置、回転量などを取り出して、サーボ制御を行なうことにより、所望の動作パターンを再現するとともに、姿勢制御を行なうようになっている。
【0007】
多軸駆動系の機械装置においては、各軸の回転位置を高精度に安定に検出して、位置指令により正確に動作させる必要がある。特に、人間型ロボットのような2足直立型の脚式移動ロボットにおいては、機体に電源を投入した直後からロボットは自分の姿勢位置を自律的に確認して、安定な姿勢位置に各軸を移動させる必要がある。したがって、各関節の回転自由度を与えるサーボ・アクチュエータにおいては、より高精度で高速の位置決め制御、並びに高トルク出力を低消費電力で行なわなければならない。
【0008】
脚式移動ロボットは、基本的には、回転関節で構成される「肢」を複数備えているが、安定した2足歩行や安定した双腕作業など、外界や作業対象に対して、閉リンク状態と開リンク状態の切替え動作を高速に行なうことが求められている。
【0009】
例えば、左右の可動脚による単脚支持期及び両脚支持期を交互に繰り返すことによって、歩行や階段の昇降、その他のさまざまな脚式作業を実行することができる。ここで、単脚支持から両脚支持に移行する場合のように、脚式移動ロボットが床面や壁面などとの間で開リンク機構から閉リンク機構に遷移する際には、例えば着床する足先において、制御上の予測値と実測値とのギャップが発生することがしばしばある。
【0010】
このような予測と実測とのギャップにより、足先が着床すると予測された時点では未だ床面に到達していない「剥離」や、逆に足先が着床すると予測された時点よりも早く床面に到達してしまう「衝突」といった現象を招来する。これら、剥離や衝突は、機体が転倒するなど、脚式移動ロボットの姿勢安定制御に大きな影響を及ぼす。
【0011】
従来は、肢の先に配設した力センサ情報や、関節を駆動するアクチュエータからのトルク情報などを用いて、ソフトウェアによるフィードバック制御によって、開リンク状態から閉リンク状態への切替え動作を高速に行なうことが試みられてきた。しかしながら、この方法による安定動作の実現は、非現実的と言えるほど、高速なフィードバック周期、高い関節駆動分解能、高い関節駆動速度並びに加速度が要求され、技術的に極めて困難である。
【0012】
また、2足歩行(人間型)を始めとする多軸型のロボットにおいて、運動制御理論から見た関節各部位は高ゲインPD制御で各軸リンクが制御され、それらが一定の特性のまま動作するのが一般的である。
【0013】
しかしながら、人間の動作研究の結果からも分かるように、安定且つ高効率な動作を実現するには局所的に力を増減させることや関節各部位のコンプライアンス(機械的受動性)を増減させることが重要である。
【0014】
位置制御系として関節各軸の動作を捉えたときは高ゲイン且つ高帯域なサーボ制御器を使って、制御偏差が少なくなるように制御した方がよいが、力学モデルとして捉えたときはポテンシャル・エネルギーや運動エネルギの作用を考慮してゲインを低くしたり位相補償している周波数帯を上下させたりすることも同時に行なうとよい。
【0015】
ところが、ロボットの機体上でそのような制御を実現するにはアクチュエータそのものの特性と、アクチュエータの制御器の特性の2つを動的・静的に制御する機能が必要になる。
【0016】
例えば、既知ないし未知の歩行路面でも安定して歩行することができる脚式移動ロボットの歩行制御装置に関する提案がなされている。すなわち、2足歩行の脚式移動ロボットで上体に腕を備えた人体類似の構造を有するものにおいて、歩行路面で摩擦力が低下して安定性が低下したとき、状態を駆動して安定性を確保ないし回復する(例えば、特許文献1を参照のこと)。しかしながら、これはフィード・フォワード・ゲインを制御することによって実現するものであり、関節の粘性や周波数特性に対する言及はなく、また、コンプライアンスの有無といった概念もない。
【0017】
また、各関節の時系列的な動作からなる基本動作ユニット並びに基本動作の組み合わせからなる復号動作ユニットを用いて所定の行動シーケンスを発現する脚式移動ロボットについて提案されている。この場合、ロボットの歩行を含む動作様式を動作単位としての動作ユニットに分類し、1以上の動作ユニットを組み合わせて複雑且つ多彩な機体動作を実現することができる(例えば、特許文献2を参照のこと)。しかしながら、機体の旋回動作時における関節アクチュエータやそのサーボ制御器が発揮すべき特性に関しては特に言及がない。
【0018】
【特許文献1】
特開平7−205069号公報
【特許文献2】
特開2002−210680号公報
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、機体の旋回を始めとしてさまざまな動作の実行時においてアクチュエータそのものの特性とアクチュエータの制御器の特性の2つを動的又は静的に制御することにより安定且つ高効率な動作を実現することができる、優れた脚式移動ロボットを提供することにある。
【0020】
【課題を解決するための手段及び作用】
本発明は、上記課題を参酌してなされたものであり、複数の可動脚を含む複数の関節部位で構成される脚式移動ロボットであって、
各関節部位におけるアクチュエータのサーボ制御器のゲイン及び位相補償制御とアクチュエータ・モータの粘性抵抗の制御とを組み合わせて行なうアクチュエータ特性制御手段を備え、
前記アクチュエータ特性制御手段は、機体の旋回動作の各段階毎に、各関節部位のアクチュエータを、低域ゲインを大きく、位相進み量を小さく、関節の粘性抵抗を大きくする第1のアクチュエータ特性と、低域ゲインを小さく、位相進み量を大きく、関節の粘性抵抗を小さくする第2のアクチュエータ特性との間で切り替える、
ことを特徴とする脚式移動ロボットである。
【0021】
本発明によれば、脚式移動ロボットの各関節部位を構成するアクチュエータのサーボ制御器において、比例ゲインと位相補償要素を調整することにより、ロボットの関節各部位において必要な位置決め精度、機械的受動性(コンプライアンス)、動作速度を任意に設定することができる。
【0022】
また、アクチュエータ・モータのコイルへの非通電時においてコイルを間歇的に短絡状態又はオープン状態に切り替えることによって、モータの粘性抵抗を調整し振動などの外乱に対するロバスト性を変更することができる。
【0023】
さらに、これらアクチュエータのサーボ制御器におけるゲイン及び位相補償制御とアクチュエータ・モータの粘性抵抗の制御とを組み合わせることによって、位置決め精度が重要な部分に適用することができるアクチュエータの周波数特性、あるいは速応性とコンプライアンスが重要となる部分に適用することができるアクチュエータの周波数特性を得ることができる。
【0024】
ここで、前記アクチュエータ特性制御手段は、アクチュエータの特性を「低域ゲインを大きく」、「高い周波数領域で位相進み量を小さく」、「関節の粘性抵抗を大きく」する設定を行なうことで、高精度な位置決め制御が可能となり、姿勢の安定性が増す。
【0025】
また、前記アクチュエータ特性制御手段は、アクチュエータの特性を「低域ゲインを小さく」、「位相進み量を大きく」、「関節の粘性抵抗を小さく」する設定を行なうことで、機械的受動性と速い応答性を持たせることができるので、着床の瞬間の衝撃力を緩和しつつ高い帯域の追従制御を行なうことができる。
【0026】
例えば、前記アクチュエータ特性制御手段は、機体の旋回動作を開始する段階において、機体を構成するすべての関節部位のアクチュエータの特性に対して低域ゲインを大きく、高い周波数領域で位相進み量を小さく、関節の粘性抵抗を大きくする設定を行ない、これらの各関節部位を高精度な位置決め制御が可能とし、姿勢の安定性を増すようにする。
【0027】
また、前記アクチュエータ特性制御手段は、遊脚が持ち上げられその足底が受ける床反力がゼロとなった段階において、該遊脚側の膝関節ピッチ軸並びに足首ロール軸及びピッチ軸の各アクチュエータの特性に対して、低域ゲインを小さく、位相進み量を大きく、関節の粘性抵抗を小さくする設定を行なうことで、機械的受動性と速い応答性を持たせ、着床の瞬間の衝撃力を緩和しつつ高い帯域の追従制御を行なうことができるようにする。
【0028】
また、前記アクチュエータ特性制御手段は、遊脚の歩行動作が進行して該遊脚が着床しその足底が受ける床反力が両脚支持期のそれとほぼ同じになった段階において、該遊脚側の膝関節ピッチ軸並びに足首ロール軸及びピッチ軸の各アクチュエータの特性に対して、低域ゲインを大きく、高い周波数領域で位相進み量を小さく、関節の粘性抵抗を大きく設定を行なうことで、着床時の遊脚の高精度な位置決め制御を可能にする。
【0029】
また、遊脚にこのようなアクチュエータ特性を適用することで、脚に機械的受動性を与えることができるので、歩行動作中に脚を振り上げたときの位置エネルギを次の振り下ろす動作時に動作補助のエネルギとして使い易くなる。これによって、エネルギ消費が少なくなり、機体駆動用のバッテリの消耗を抑えることができる。
【0030】
本発明のさらに他の目的、特徴や利点は、後述する本発明の実施形態や添付する図面に基づくより詳細な説明によって明らかになるであろう。
【0031】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳解する。
【0032】
A.アクチュエータの動作速度、機械的受動性
本出願人に既に譲渡されている特願2001−233691号明細書には、外界や作業対象に対して、閉リンク状態と開リンク状態の繰り替え動作を高速に行なう脚式移動ロボットについて開示されている。すなわち、1以上の回転型関節(1関節当り2自由度以上備えていてもよい)で構成される肢を持つロボットにおいて、各肢に動的閉合誤差を除去するに最低限必要な受動自由度(減速機のバックラッシュなど)を配し、さらに各肢の可動範囲を適切に管理する。たとえ、関節部を駆動するアクチュエータがトルク情報を取得する手段を持たない場合であっても、閉リンク状態と開リンク状態の高速切替え動作を安定に実現する。
【0033】
これは、2足歩行ロボットにおいて、腰部基準座標に近い部位にバックラッシュ量が少ないギアードモータを配置、手先・足先に近い部位にバックラッシュ量が多いギアードモータを配置し最適な特性を得るというものである。そして、ロボットを最適化する第2の方法として、各関節軸アクチュエータにおける位置サーボ補償器の開ループ・ゲインを任意に調整することで、位置エラー偏差量を制御する。すなわち、バックラッシュ量が均一の場合にはサーボゲインの大小によるサーボ偏差をバックラッシュ量に見立て、それを制御する。
【0034】
本発明は、このような脚式移動ロボットの最適化方法をさらに拡張したものであり、要言すれば、サーボ制御器の比例ゲインだけでなく位相補償要素も関節各部位で調整するものである。
【0035】
図1には、本発明の一実施形態に係るアクチュエータのサーボ制御器の構成を示している。同図に示すように、サーボ制御器は、直列補償の比例ゲインKと位相補償要素C(s)という2つの制御要素を持ち、比例ゲインだけでなく位相補償要素も関節各部位で調整する。
【0036】
ここで、位相補償要素は以下の式で表される。但し、n、mは任意の自然数であり、また、ai、biは任意の実数であり、状態変数を表現した場合はフィードバック・ゲインに相当する。また、sはラプラス演算子である。
【0037】
【数1】
【0038】
また、モータと減速器の伝達関数表現モデルG(s)は以下の式で表される。但し、Kはモータ・ゲインであり、Jはモータの慣性モーメントであり、Dはモータの粘性抵抗係数である。
【0039】
【数2】
【0040】
また、図2には、図1に示したモータと減速機の伝達関数表現モデルG(s)のゲイン及び位相の周波数特性を示している。
【0041】
まず、図1に示したサーボ制御器において、位相補償型制御の設計例として位相補償帯域を任意に選択する例(位相補償量が一定で周波数帯域を任意に選ぶ)について、図3を参照しながら説明する。同図において、
【0042】
▲1▼C(s)−1:1.0〜100Hzの帯域で約+5.6dBのゲイン増幅、約+18degの位相進みを与えている。
▲2▼C(s)−2:0.1〜10Hzの帯域で約+5.6dBのゲイン増幅、約+18degの位相進みを与えている。
▲3▼C(s)−3:10〜1kHzの帯域で約+5.6dBのゲイン増幅、約+18degの位相進みを与えている。
【0043】
このように、位相補償を施す周波数帯域を任意に選択することで、アクチュエータの周波数特性を自在に設定することができる。したがって、このようなアクチュエータで構成されるロボットの関節軸は、機体の姿勢や動作の局面に応じて、周波数特性を動的に調整することができる。
【0044】
なお、図3に示す例では、位相進み補償の例を示したが、位相遅れ補償場合も同様に任意の周波数帯域で任意の位相遅れ量を設定することができる。
【0045】
次いで、図1に示したサーボ制御器において、位相補償型制御の設計例として位相補償を施す量を任意に選択する例(周波数帯域が一定で位相補償量を任意に選ぶ)について、図4を参照しながら説明する。同図において、
【0046】
▲4▼C(s)−4:4.0〜70Hzの帯域で約+3.5dBのゲイン増幅、約+12degの位相進みを与えている。
▲5▼C(s)−5:2.0〜70Hzの帯域で約+5.6dBのゲイン増幅、約+18degの位相進みを与えている。
▲6▼C(s)−6:1.0〜70Hzの帯域で約+6.5dBのゲイン増幅、約+21degの位相進みを与えている。
【0047】
このように、位相補償を施す量を任意に選択することで、アクチュエータの周波数特性を自在に設定することができる。したがって、このようなアクチュエータで構成されるロボットの関節軸は、機体の姿勢や動作の局面に応じて、周波数特性を動的に調整することができる。
【0048】
なお、図4に示す例では、位相進み補償の例を示したが、位相遅れ補償の場合も同様に任意の周波数帯域で任意の位相遅れ量を設定することができる。
【0049】
次いで、図1に示したサーボ制御器において、Kで示した直列補償ゲインの大小を変更する制御器の設計例について、図5を参照しながら説明する。同図は、図3において、Kを±3dBだけ上下させたことに相当する。図示の通り、直列補償ゲインの大小も任意に設定することができる。
【0050】
図3〜図5に示した内容をロボットの関節軸駆動用のアクチュエータに適用するためには、これらの制御器を構成するパラメータを動的又は静的に変更するための通信プロトコルを実装する。これによって、ロボットの各関節軸にさまざまな特性を与えることができる。
【0051】
次いで、これらの特性を備えたアクチュエータのサーボ制御器を実装したときのアクチュエータの特性について説明する。
【0052】
図6には、図3に示したように位相補償量が一定で周波数帯域を任意に選ぶようにアクチュエータのサーボ制御器を実装したときの開ループ特性を示している。
【0053】
▲1▼C(s)−1:1.0〜100Hzの帯域で約+5.6dBのゲイン増幅、約+18degの位相進みを与える
→ 全体的にゲインが高めとなるので、位置決め精度と追従性がよくなるが、エネルギーロスとなり易い。また、負荷が大きくなると不安定になる可能性がある。
▲2▼C(s)−2:0.1〜10Hzの帯域で約+5.6dBのゲイン増幅、約+18degの位相進みを与える
→ C(s)−1とC(s)−2の中間的な特性を持つ。
▲3▼C(s)−3:10〜1kHzの帯域で約+5.6dBのゲイン増幅、約+18degの位相進みを与える
→ 高域でのみ位相進み補償をしていることになるので、ゆっくりした動作時にはあまり効果が見られないが、走る、飛ぶ、踊るといった速い動作には効果がある。
【0054】
このように、位相補償を施す周波数帯域を任意に選択することで、アクチュエータの周波数特性を自在に設定することができる。したがって、このようなアクチュエータで構成されるロボットの関節軸は、機体の姿勢や動作の局面に応じて、周波数特性を動的に調整することができる。
【0055】
また、図7には、図6に示したうち高域でのみ位相進み補償を施した例C(s)−3においてさらに直列補償ゲインの制御を採り入れた様子を示している。この場合、図5に示した例と同様に、同位相においてゲインが上下する。
【0056】
図6に示した例では、位相補償例C(s)−3ではゆっくりした動作時にはあまり効果が見られないが、図7に示すように、低周波数帯域においてゲインを増やすことにより、低周波数帯域での制御偏差を少なくすることができる。この結果、ゆっくりした動作時でも指令値に対して少ない遅れで応答することが可能となる。
【0057】
以上、アクチュエータのサーボ制御器においてサーボ制御器の比例ゲインだけでなく位相補償要素も関節各部位で調整するメカニズムについて説明してきた。これによって、安定且つ高効率な動作を実現するには局所的に力を増減させることや関節各部位のコンプライアンス(機械的受動性)を増減させることが可能となる。
【0058】
例えば、位置制御系として関節各軸の動作を捉えたときは高ゲイン且つ高帯域なサーボ制御器を使って、制御偏差が少なくなるように制御した方がよいが、力学モデルとして捉えたときはポテンシャル・エネルギーや運動エネルギの作用を考慮してゲインを低くしたり位相補償している周波数帯を上下させたりすることも同時に行なうとよい。
【0059】
B.アクチュエータ・モータの粘性抵抗
このようなアクチュエータの動作速度や動作時の機械的受動性という特性に加え、アクチュエータ自体の粘性抵抗を可変に制御するという方式を採り入れることができる。
【0060】
例えば、コイルへの供給電流を制御して所定の磁束分布を形成することにより回転トルクを発生させるタイプのモータは、一般に、コイル端子を電源電圧に接続する第1のトランジスタ・スイッチ群と、コイル端子を接地する第2のトランジスタ・スイッチ群からなるスイッチング動作回路をPWM制御により駆動することによって、コイル電流を制御し、所望のトルク又は回転位置、回転速度などを得るようになっている。
【0061】
ここで、モータ・コイルが非通電の期間においてオープン状態となるタイミングにおいて、モータ・コイルに通電された電流(厳密には電荷)が抜けてしまうため、トルクのロスになる。またコギングによるトルクむらの影響を受け易くなる。
【0062】
このような場合、モータ・コイルが非通電の期間においても、コイルがオープン状態とならない短絡(ショート)状態を形成することにより、モータ・コイルに通電された電流(厳密には電荷)が抜けないようにすることができる。このとき、モータのコイルには、永久磁石側からの磁束密度により逆起電力が発生する。この逆起電力により、モータの回転方向の逆方向に力が作用するので、外力による回転に対する粘性抵抗を作り出すことができ、ブレーキに類似した効果を得ることができる。このようなモータへの粘性抵抗により、トルク・ロスがなくコギングによるトルクむらの影響が軽減される。
【0063】
一方、モータの非通電時において、このようなコイルの短絡状態を形成した場合、上述したように、モータに一種の粘性抵抗を与えることができるが、このようなモータをロボットに使用した場合、コイル・ショートによるブレーキの影響のため、コンプライアンス(機械的受動性)がなくなってしまうという問題を招来する。
【0064】
そこで、モータ・コイルの非通電時におけるコイルのオープン状態と短絡状態の期間の比率を、所望の機械的特性に応じて調整することにより、モータ・コイルがオープン状態となるタイミングにおけるモータ・コイルに通電された電流(厳密には電荷)が抜けてしまうことによるトルクのロスやコギングによるトルクむらの問題と、モータ・コイルの非通電時におけるコイル・ショートによるブレーキの影響のためコンプライアンス(機械的受動性)がなくなるという問題を、ともに解決することができる。
【0065】
ここで、モータ・コイルの通電及び非通電状態の比率はPWM制御により実現することができるが、モータ・コイルの非通電状態におけるコイルのオープン状態と短絡状態の期間の比率もPWM制御を用いて実現することができる。
【0066】
図8には、コイル電流の制御メカニズムを適用したDCモータのコイル電流供給用の電流制御回路の等価回路の構成例を示している。
【0067】
同図に示す電流制御回路は、フルブリッジ構成であり、pnp型のトランジスタA’とnpn型のトランジスタAを順方向接続した回路と、同じくpnp型のトランジスタB’とnpn型のトランジスタBを順方向接続した回路を電源電圧VccとグランドGNDの間に並列接続し、さらにトランジスタA’及びAの中間点とトランジスタB’及びBの中間点を固定子の単相コイルで接続している。
【0068】
トランジスタA’及びBをオンにするとともに、トランジスタA及びB’をオフにすることによって、モータ・コイルには、図示の矢印方向の電流Imが流れる。また、トランジスタA’及びBをオフにすることによって、コイルはオープン状態となって、電流Imは流れなくなる。また、トランジスタA’及びBをオフにするとともに、トランジスタA及びB’をオンにすることによって、モータ・コイルは短絡(ショート)状態となる。
【0069】
PWM制御論理回路は、図示しない中央制御部からの電流軸電流指令(又はトルク指令)に基づいてコイルへの電流指令を生成し、これら電流指令に基づいて各トランジスタをPWM方式にてスイッチング制御する。すなわち、トランジスタA’及びBをオンにするとともにトランジスタA及びB’をオフにしてコイル電流Imを流す通電期間と、トランジスタA’及びBをオフにしてコイルを非通電にする非通電期間を交互に生成する。
【0070】
本実施形態では、さらにPWM制御論理回路が出力する各トランジスタA及びA’、並びB及びB’をオン/オフ動作を制御する制御信号を付加論理により切り替える付加論理回路が配設されている。
【0071】
この付加論理回路は、PWM制御論理回路から出力されるBRAKE_PWM制御信号に基づいて動作し、モータ・コイルの非通電状態におけるコイルのオープン状態と短絡状態の切替動作を行なう。
【0072】
図9には、付加論理回路の具体的な回路構成を示している。
【0073】
PWM制御論理回路からのトランジスタA’制御用信号とトランジスタB’制御用信号の論理積と、トランジスタA制御用信号とトランジスタB制御用信号の排他的論理和が取られ、さらにこれらの論理演算値の論理積を反転したものがBRAKE_PWM制御信号と論理和される。この論理和の結果を元の各トランジスタ制御用信号との間で論理積を取ったものが、最終的なそれぞれのトランジスタ制御用信号となる。
【0074】
付加論理回路は、BRAKE_PWM制御信号がハイ・レベルが入力されると、コイル非通電時にコイルを短絡させるようにトランジスタ制御用信号を切り替える。通常のコイル非通電時において、PWM制御論理回路からは、A’及びAをロー、B’をハイ、Bをローにするトランジスタ制御用信号が出力される。これに対し、付加論理回路は、ハイ・レベルのBRAKE_PWM制御信号が入力されると、ロー状態のA’をハイに、ハイ状態のB’をローにそれぞれ転じて、コイルの短絡状態を形成する。
【0075】
一方、付加論理回路は、BRAKE_PWM制御信号がロー状態のときには、コイル非通電時において、PWM制御論理回路からのトランジスタ制御用信号をそのまま出力するので、非通電時におけるコイルはオープン状態となる。
【0076】
図10には、ハイ・レベルのBRAKE_PWM制御信号が入力されたときの付加論理回路の各トランジスタ制御用信号の出力特性を、コイル電流波形特性及びトルク出力特性とともに示している。
【0077】
コイル非通電時にコイルを短絡状態にすると、過渡応答により、コイル電流がゼロに戻るまでの時間が長くなる(前述)。したがって、同図に示すように、コイル通電とコイル短絡というスイッチング動作を繰り返した場合、コイル非通電時にコイル電流がゼロに戻る前に次の通電が開始されることから、コイルの最大電流は、コイル通電及び非通電の動作の度に逐次上昇していく。同様に、コイル電流の実効値は図示の通り徐々に増加していくことになる。
【0078】
また、モータの出力トルクTは、コイル電流にモータのトルク定数Ktを乗じた値となるので(T=Kt・I)、同図からも判るように、コイル通電及び短絡状態を繰り返したとき、コイル電流の増大に伴って、モータ・トルクの実効値は増大していく。したがって、モータ・コイルが非通電時に短絡状態となることにより、モータ・コイルに通電された電流(厳密には電荷)が抜けてしまうことがなくなり、トルクのロスがなくなる。また、コギングによるトルクむらの影響を受けにくくなる。
【0079】
モータの非通電時において、このようなコイルの短絡状態を形成した場合、上述したように、モータに一種の粘性抵抗を与えることができる。一方、このようなモータをロボットに使用した場合、コイル・ショートによるブレーキの影響のため、コンプライアンス(機械的受動性)がなくなってしまうという問題を招来する。
【0080】
そこで、PWM制御論理回路は、付加論理回路に入力するBRAKE_PWM制御信号をPWM制御することにより、モータ・コイルの非通電状態におけるコイルのオープン状態と短絡状態の期間の比率を制御する。
【0081】
モータ・コイルの非通電状態におけるコイルのオープン状態と短絡状態の期間をPWM制御した場合、そのコイル電流の特性は、コイル非通電時にコイルをオープン状態にしたときのコイル電流の過渡応答特性とコイルを短絡状態にしたときのコイル電流の過渡応答特性の特性がデューティ比に応じて混合されたものとなる。
【0082】
図11には、PWM制御により所定のデューティ比を持つBRAKE_PWM制御信号が入力されたときの付加論理回路の各トランジスタ制御用信号の出力特性を、コイル電流波形特性及びトルク出力特性とともに示している。
【0083】
コイル非通電時にコイルを短絡状態にすると、過渡応答により、コイル電流がゼロに戻るまでの時間が長くなるが、コイルをオープン状態にするとその時間は短くなる。コイル非通電時の過渡応答特性は、BRAKE_PWM制御信号のデューティ比に従って、これらの特性が混合されたものとなる。
【0084】
したがって、同図に示すように、コイル通電とコイル短絡というスイッチング動作を繰り返した場合、コイル非通電時にコイル電流がゼロに戻る前に次の通電が開始される。このときのコイルの最大電流は、コイル通電及び非通電の動作の度に逐次上昇していくが、その上昇傾向はデューティ比すなわちBRAKE_PWM制御信号がハイ・レベルとなる比率にほぼ比例する。同様に、コイル電流の実効値は図示の通り徐々に増加していくことになるが、その上昇傾向はデューティ比すなわちBRAKE_PWM制御信号がハイ・レベルとなる比率にほぼ比例する。
【0085】
また、モータの出力トルクTは、コイル電流にモータのトルク定数Ktを乗じた値となるので(T=Kt・I)、同図からも判るように、コイル通電及び非通電を繰り返したとき、コイル電流の増大に伴って、モータ・トルクの実効値は増大していく。このときの上昇傾向はBRAKE_PWM制御信号のデューティ比すなわち同制御信号がハイ・レベルとなる比率にほぼ比例する。モータ・トルクの出力が上昇していく特性が、モータの粘性係数に相当する。言い換えれば、BRAKE_PWM制御信号のデューティ比によってモータの粘性抵抗を動的に制御することが可能である。
【0086】
このようにPWM制御論理回路が付加論理回路へ供給するBRAKE_PWM制御信号のデューティ比をPWM制御することにより、モータ・コイルの非通電時におけるコイルのオープン状態と短絡状態の期間の比率を、所望の機械的特性に応じて調整することができる。
【0087】
したがって、モータ・コイルがオープン状態となるタイミングにおけるモータ・コイルに通電された電流(厳密には電荷)が抜けてしまうことによるトルクのロスやコギングによるトルクむらの問題と、モータ・コイルの非通電時におけるコイル・ショートによるブレーキの影響のためコンプライアンス(機械的受動性)がなくなるという問題を、ともに解決することができる。
【0088】
なお、上記の説明ではDCモータを例にとって説明したが、3相モータやその他のコイルへの供給電流を制御して所定の磁束分布を形成することにより回転トルクを発生させるタイプのモータにおいても同様に、非通電時のモータ・コイルを間歇的にオープン状態及び短絡状態に切り替えることによって、モータの所望の粘性抵抗を得ることができる。
【0089】
C.脚式移動ロボットへの適用
次いで、本実施形態に係るアクチュエータのサーボ制御器の特性制御並びにアクチュエータ自体の特性制御のメカニズムを各関節部位に適用した2足歩行の脚式移動ロボットについて説明する。
【0090】
C−1.ロボットの関節特性の例
上述したように、アクチュエータのサーボ制御器において、比例ゲインと位相補償要素を調整することにより、ロボットの関節各部位において必要な位置決め精度、機械的受動性(コンプライアンス)、動作速度を任意に設定することができる。また、アクチュエータ・モータのコイルへの非通電時においてコイルを間歇的に短絡状態又はオープン状態に切り替えることによって、モータの粘性抵抗を調整し振動などの外乱に対するロバスト性を変更することができる。
【0091】
さらに、これらアクチュエータのサーボ制御器におけるゲイン及び位相補償制御とアクチュエータ・モータの粘性抵抗の制御とを組み合わせることによって、位置決め精度が重要な部分に適用することができるアクチュエータの周波数特性、あるいは速応性とコンプライアンスが重要となる部分に適用することができるアクチュエータの周波数特性を得ることができる。
【0092】
図12には、位置決め精度が重要な部分に適用することができるアクチュエータの周波数特性を示している。
【0093】
この場合、サーボ制御器の比例ゲインを大きくとって、系全体のゲインを大きくし、低周波数帯域までゲインを取れるようにする。また、周波数特性(位相補償特性)を同図に示すように高域で位相進み量が小さくなるようにし、速応性にはあまり寄与しないが安定性を保証できるようにする。また、モータの粘性抵抗を大きくし、振動などの外乱にもロバストになるようにする。要言すれば、図示の特性は、位置決め精度を優先して振動などの外乱にもロバストな特性である。
【0094】
また、図13には、速応性とコンプライアンスが重要となる部分に適用することができるアクチュエータの周波数特性を示している。
【0095】
この場合、比例ゲインを小さくして、系全体のゲインを小さくすることで、低周波数帯域のゲインを小さくし、機械的受動性(コンプライアンス)を得易くする。また、周波数特性(位相補償特性)を同図に示すように中高域で位相進み量が大きくなるようにし、速応性を得るようにする。また、モータの粘性抵抗を小さくし、機械的受動性(コンプライアンス)を得易いようにする。要言すれば、図示の特性は、機械的受動性(コンプライアンス)と速応性を優先した特性である。
【0096】
C−2.ロボットの各関節部位におけるアクチュエータ特性の配置例
図14には、脚式移動ロボットの自由度構成例を模式的に示している。
【0097】
同図に示すロボットは、2脚2腕を有する人間型ロボットである。本ロボットは、機体に四肢が取り付けられ、首ロール軸、第1及び第2の首ピッチ軸、首ヨー軸という4自由度からなる頭部と、肩関節ピッチ軸、肩関節ロール軸、肩関節ヨー軸、肘関節ピッチ軸という少なくとも4自由度からなる左右の腕部と、体幹ロール軸及び体幹ピッチ軸という2自由度からなる体幹部と、股関節ヨー軸、股関節ロール軸、股関節ピッチ軸、膝ピッチ軸、足首ピッチ軸、足首ロール軸という少なくとも6自由度からなる左右の脚部で構成されている。
【0098】
これらの各関節自由度は、上述したサーボ制御器を備えたアクチュエータによって実現される。各関節部位において使用されるアクチュエータのゲイン・位相補償特性の制御例について、以下に詳解する。
【0099】
(1)首部分に適用されるアクチュエータの特性
首部分では、位置決め精度を優先させるため、比例ゲインを高く設定する。また、動作速度を保持しつつ、比例ゲインを上げた分の安定性を損なわないように、位相進み量を少なく設定する。また、胴体より下の部分の動作時に発生する振動外乱に対してロバスト性を得るため、関節の粘性抵抗を大きく設定する。
【0100】
(2)肩・肘部分に適用されるアクチュエータの特性
歩行やダンスなどの連続動作を行なうときは、位置決め特性よりも機械的受動性が高くなるような特性をアクチュエータに与える。動作に受動性を持たせるため、関節の粘性抵抗を小さくする。また、動作に受動性を持たせるとともに、エネルギ消費量を減らすため、比例ゲインを低く設定する。また、動作速度を大きくするため、位相進み補償を行なう周波数帯域を高く、位相進み量を大きく設定する。動作によっては振り子のように往復運動を行なうだけのときもある。そのときは、関節の粘性抵抗と比例ゲインを最小にして機械的受動性(コンプライアンス)を得るようにし、力学的なエネルギを動作のために用い易くする。
【0101】
一方、物を押したり引っ張ったりするなどの力を使う動作を行なうときには、負荷トルク値により、位置決め精度優先の特性と、機械的受動性の特性を動的に入れ替えるように制御する。負荷トルク値に対してさらに力を発生させたいときは比例ゲインを高く、関節の粘性抵抗を大きくする。また、負荷トルク値に対して定負荷となるように倣わせる動作をする場合には、上位からの位置指令値による調整に加え、アクチュエータ内部トルク・センサで検知した負荷トルクに応じて比例ゲインを低く、関節の粘性抵抗を小さくして、機械的受動性(コンプライアンス)を得るようにする。
【0102】
(3)体幹部分に適用されるアクチュエータの特性
自分自身の動作による振動外乱にロバスト性を得るため、関節の粘性抵抗を大きくする。あるいは、位置決め精度を優先させるため、比例ゲインを高く設定する。あるいは、動作速度を保持しつつ比例ゲインを上げた分の安定性を損なわないように、位相進み量を少なく設定する。
【0103】
(4)股関節部分に適用されるアクチュエータの特性
自分自身の動作による振動外乱にロバスト性を得るため、関節の粘性抵抗を大きくする。あるいは、位置決め精度を優先させるため、比例ゲインを高く設定する。あるいは、動作速度を保持しつつ比例ゲインを上げた分の安定性を損なわないように、位相進み量を少なく設定する。
【0104】
(5)膝部分に適用されるアクチュエータの特性
遊脚時及び着床瞬間時においては、位置決め精度よりも機械的受動性が高くなるような特性に制御する。動作に受動性を持たせるため、関節の粘性抵抗を小さくする。また、動作に受動性を持たせるとともにエネルギ消費量を減らすため、比例ゲインを低く設定する。また、動作速度を大きくするため、位相進み補償を行なう周波数領域を高く、位相進み量を大きく設定する。
【0105】
一方、支持脚時においては、機械的受動性よりも位置決め精度が高くなるような特性に制御する。自分自身の動作による振動外乱にロバスト性を得るため、関節の粘性抵抗を大きくする。あるいは、位置決め精度を優先させるため、比例ゲインを高く設定する。あるいは、動作速度を保持しつつ比例ゲインを上げた分の安定性を損なわないように、位相進み量を少なく設定する。
【0106】
(6)足首部分に適用されるアクチュエータの特性
遊脚時及び着床瞬間時においては、位置決め精度よりも機械的受動性が高くなるような特性に制御する。足首部分着床による衝撃を緩和するため、関節粘性を小さく設定し、機械的受動性(コンプライアンス)を得るようにする。また、足首部分着床による衝撃を緩和するため、比例ゲインを低く設定し、機械的受動性(コンプライアンス)を得るようにする。また、動作速度を大きくとるため、位相補償を行なう周波数領域を高く、位相進み量を大きく設定する。
【0107】
一方、支持脚時において、足首部分の発生トルクを大きくとり、且つ自分自身の動作による振動外乱にロバスト性を得るため、関節の粘性抵抗を大きくとる。また、足首部分の位置決め精度を向上させるため、比例ゲインを高く設定する。また、動作速度を保持しつつ、比例ゲインを上げた分の安定性を損なわないように位相進み量を少なく設定する。
【0108】
C−3.機体旋回時におけるロボットの関節各部位のアクチュエータ特性の配置例
上述したように各関節アクチュエータのサーボ制御器の特性並びにアクチュエータ自体の特性を制御することによって、以下に述べるような結果を得ることができる。
【0109】
すなわち、図12に示したアクチュエータ特性のように、「低域ゲインを大きく」、「高い周波数領域で位相進み量を小さく」、「関節の粘性抵抗を大きく」する設定を行なうことで、高精度な位置決め制御が可能となり、姿勢の安定性が増す。
【0110】
また、図13に示したアクチュエータ特性のように、「低域ゲインを小さく」、「位相進み量を大きく」、「関節の粘性抵抗を小さく」する設定を行なうことで、機械的受動性と速い応答性を持たせることができるので、着床の瞬間の衝撃力を緩和しつつ高い帯域の追従制御を行なうことができる。
【0111】
例えば、遊脚に図13に示すアクチュエータ特性を適用することで、脚に機械的受動性を与えることができるので、歩行動作中に脚を振り上げたときの位置エネルギを次の振り下ろす動作時に動作補助のエネルギとして使い易くなる。これによって、エネルギ消費が少なくなり、機体駆動用のバッテリの消耗を抑えることができる。
【0112】
ここで、機体が旋回するときのロボットの各関節部位におけるアクチュエータの制御器及びアクチュエータ自体の特性の配置について、図15を参照しながら説明する。
【0113】
機体が旋回するとき、首ピッチ軸、肩ピッチ軸、肘ピッチ軸、体幹ロール軸、体幹ピッチ軸、体幹ヨー軸、股関節ロール及びピッチ軸、並びに、支持脚側となる膝ピッチ軸や足首ロール及びピッチ軸の各関節部位において、高い位置決め精度が要求される。
【0114】
したがって、これらの関節部位のアクチュエータにおいて、サーボ制御器の比例ゲインを大きくとって、系全体のゲインを大きくし、低周波数帯域までゲインを取れるようにする。また、周波数特性を図12に示すように高域で位相進み量が小さくなるようにし、速応性にはあまり寄与しないが安定性を保証できるようにする。また、モータの粘性抵抗を大きくし、振動などの外乱にもロバストになるようにする。
【0115】
一方、機体の旋回時において、遊脚側となる膝ピッチ軸や足首ロール及びピッチ軸の各関節部位において、速応性とコンプライアンスが重要となる。
【0116】
そこで、これらの関節部位のアクチュエータにおいて、比例ゲインを小さくして、系全体のゲインを小さくすることで、低周波数帯域のゲインを小さくし、機械的受動性(コンプライアンス)を得易くする。また、周波数特性(位相補償特性)を図13に示すように中高域で位相進み量が大きくなるようにし、速応性を得るようにする。また、モータの粘性抵抗を小さくし、機械的受動性(コンプライアンス)を得易いようにする。
【0117】
遊脚に図13に示すようなアクチュエータの制御器の特性及びアクチュエータ自体の特性を適用することで、腕や脚に機械的受動性(コンプライアンス)を得ることができる。これによって、旋回動作中に脚を振り上げたときの位置エネルギを次の振り下ろす動作時に動作補助のエネルギとして使い易くなる。その結果、エネルギ消費が少なくなり、機体駆動用電源としてのバッテリの消費量も少なくなる。
【0118】
図16には、機体が旋回するときのロボットの各関節部位のアクチュエータ特性を切り替えるための処理手順をフローチャートの形式で示している。
【0119】
まず、機体を構成するすべての関節部位のアクチュエータに対して、図12に示すような、低域ゲインを大きく、高い周波数領域で位相進み量を小さく、関節の粘性抵抗を大きくする設定を行なう。(ステップS1)。
【0120】
次いで、片脚を持ち上げる動作を実行する(ステップS2)。
【0121】
ここで、持ち上げる方の脚の足底で受ける床反力が0になったときには(ステップS3)、支持脚は遊脚を支持して機体の旋回動作を行なう(ステップS4)。
【0122】
また、遊脚側では、遊脚側の膝関節ピッチ軸並びに足首ロール軸及びピッチ軸の各アクチュエータに対して、図13に示すような、低域ゲインを小さく、位相進み量を大きく、関節の粘性抵抗を小さくする設定を行なう(ステップS5)。
【0123】
次いで、遊脚としての旋回動作を実行し(ステップS6)、さらにその着床動作を実行する(ステップS7)。
【0124】
ここで、足底で検知する床反力の値が両脚支持期の値の近傍になったとき(ステップS8)、遊脚の着床動作を完了する(ステップS9)。
【0125】
そして、遊脚側の膝関節ピッチ軸並びに足首ロール軸及びピッチ軸の各アクチュエータに対して、図12に示すような、低域ゲインを大きく、高い周波数領域で位相進み量を小さく、関節の粘性抵抗を大きくする設定を行なう(ステップS10)。
【0126】
旋回動作をこのまま継続する場合には(ステップS11)、遊脚を支持脚に、支持脚を遊脚に切り替え(ステップS12)、ステップS2に戻り、上記と同様の処理を繰り返し実行する。
【0127】
一方、旋回動作をこれで終了する場合には(ステップS11)、本処理ルーチン全体を終了する。
【0128】
[追補]
以上、特定の実施例を参照しながら、本発明について詳解してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が該実施例の修正や代用を成し得ることは自明である。
【0129】
本発明の要旨は、必ずしも「ロボット」と称される製品には限定されない。すなわち、電気的若しくは磁気的な作用を用いて人間の動作に似せた運動を行う機械装置であるならば、例えば玩具等のような他の産業分野に属する製品であっても、同様に本発明を適用することができる。
【0130】
また、本明細書中では、モータ・コイルへのコイル電流のスイッチング制御にバイポーラ・トランジスタからなるスイッチング素子を用いて構成される回路例について説明したが、MOS−FETやその他の半導体素子を用いてこの種の制御回路を実装することができることは、当業者には自明である。
【0131】
要するに、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには、冒頭に記載した特許請求の範囲の欄を参酌すべきである。
【0132】
【発明の効果】
以上詳記したように、本発明によれば、機体の旋回を始めとしてさまざまな動作の実行時においてアクチュエータそのものの特性とアクチュエータの制御器の特性の2つを動的又は静的に制御することにより安定且つ高効率な動作を実現することができる、優れた脚式移動ロボットを提供することができる。
【0133】
また、本発明によれば、機体の旋回動作の各段階において、各関節部位のアクチュエータを、低域ゲインを大きく、位相進み量を小さく、関節の粘性抵抗を大きくする第1のアクチュエータ特性と、低域ゲインを小さく、位相進み量を大きく、関節の粘性抵抗を小さくする第2のアクチュエータ特性との間で動的に切り替えることによって、旋回動作中に脚を振り上げたときの位置エネルギを次の振り下ろす動作時に動作補助のエネルギとして使い易くなる。その結果、エネルギ消費が少なくなり、機体駆動用電源としてのバッテリの消費量も少なくなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係るアクチュエータのサーボ制御器の構成を示した図である。
【図2】図1に示したモータと減速機の伝達関数表現モデルG(s)のゲイン及び位相の周波数特性を示したチャートである。
【図3】位相補償帯域を任意に選択する位相補償制御型のサーボ制御器の設計例を説明するための図である。
【図4】位相補償量を任意に選択する位相補償制御型のサーボ制御器の設計例を説明するための図である。
【図5】図1に示したサーボ制御器において、Kで示した直列補償ゲインの代償を変更する制御器の設計例を説明するための図である。
【図6】図3に示したように位相補償量が一定で周波数帯域を任意に選ぶようにアクチュエータのサーボ制御器を実装したときの開ループ特性を示した図である。
【図7】図6に示したうち高域でのみ位相進み補償を施した例C(s)−3においてさらに直列補償ゲインの制御を採り入れた様子を示した図である。
【図8】DCモータのコイル電流供給用の電流制御回路の等価回路の構成例を示した図である。
【図9】付加論理回路の具体的な回路構成を示した図である。
【図10】ハイ・レベルのBRAKE_PWM制御信号が入力されたときの付加論理回路の各トランジスタ制御用信号の出力特性を、コイル電流波形特性及びトルク出力特性とともに示した図である。
【図11】PWM制御により所定のデューティ比を持つBRAKE_PWN制御信号が入力されたときの付加論理回路の各トランジスタ制御用信号の出力特性を、コイル電流波形特性及びトルク出力特性とともに示した図である。
【図12】位置決め精度が重要な部分に適用することができるアクチュエータの周波数特性を示した図である。
【図13】速応性とコンプライアンスが重要となる部分に適用することができるアクチュエータの周波数特性を示した図である。
【図14】脚式移動ロボットの自由度構成例を模式的に示した図である。
【図15】機体が旋回するときのロボットの各関節部位におけるアクチュエータの制御器及びアクチュエータ自体の特性の配置を説明するための図である。
【図16】機体が旋回するときのロボットの各関節部位のアクチュエータ特性を切り替えるための処理手順を示したフローチャートである。
Claims (4)
- 複数の可動脚を含む複数の関節部位で構成される脚式移動ロボットであって、
各関節部位におけるアクチュエータのサーボ制御器のゲイン及び位相補償制御とアクチュエータ・モータの粘性抵抗の制御とを組み合わせて行なうアクチュエータ特性制御手段を備え、
前記アクチュエータ特性制御手段は、機体の旋回動作の各段階毎に、各関節部位のアクチュエータを、低域ゲインを大きく、位相進み量を小さく、関節の粘性抵抗を大きくする第1のアクチュエータ特性と、低域ゲインを小さく、位相進み量を大きく、関節の粘性抵抗を小さくする第2のアクチュエータ特性との間で切り替える、
ことを特徴とする脚式移動ロボット。 - 前記アクチュエータ特性制御手段は、機体の旋回動作を開始する段階において、機体を構成するすべての関節部位のアクチュエータの特性に対して、低域ゲインを大きく、高い周波数領域で位相進み量を小さく、関節の粘性抵抗を大きくする設定を行なう、
ことを特徴とする請求項1に記載の脚式移動ロボット。 - 前記アクチュエータ特性制御手段は、遊脚が持ち上げられその足底が受ける床反力がゼロとなった段階において、該遊脚側の膝関節ピッチ軸並びに足首ロール軸及びピッチ軸の各アクチュエータの特性に対して、低域ゲインを小さく、位相進み量を大きく、関節の粘性抵抗を小さくする設定を行なう、
ことを特徴とする請求項1に記載の脚式移動ロボット。 - 前記アクチュエータ特性制御手段は、機体の旋回動作が進行して遊脚が着床しその足底が受ける床反力が両脚支持期のそれとほぼ同じになった段階において、該遊脚側の膝関節ピッチ軸並びに足首ロール軸及びピッチ軸の各アクチュエータの特性に対して、低域ゲインを大きく、高い周波数領域で位相進み量を小さく、関節の粘性抵抗を大きく、
ことを特徴とする請求項1に記載の脚式移動ロボット。
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