JP2004175585A - コンクリート - Google Patents
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Abstract
【解決手段】長さの直径に対する比率を30〜700に設定し、長さを40mm以下に設定した繊維を、コンクリート体積比で0.02〜0.15%に設定してコンクリートに混入する。繊維としてナイロン繊維を用いる場合には、長さの直径に対する比率を100〜650に設定し、長さを20mm以下に設定し、混入量をコンクリート体積比で0.02〜0.06%に設定するすることが好ましく、長さの直径に対する比率を550〜650に設定することがさらに好ましい。また、繊維としてポリプロピレン繊維を用いる場合には、混入量をコンクリート体積比で0.05〜0.15%に設定することが好ましく、長さの直径に対する比率を30〜60に設定し、長さを20mm以下に設定することがさらに好ましい。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば構造物の構築等、様々な用途に用いられるコンクリートに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、高架橋等のコンクリート躯体からのコンクリート片の剥落が報告され、大きな社会問題になっている。この原因は、コンクリートが中性化すること等により鉄筋が腐食膨張することである。従来、剥落を生じないコンクリートを施工するには、単位水量を小さくしたり、水セメント比を小さくしたり、あるいは、鉄筋のかぶりを厚くしたりする等の手段がとられていた。しかしながら、コンクリートの施工時に、全ての施工箇所において前記した項目を検査することは現実的に難しく、検査に漏れることで剥落しやすいコンクリートが施工される可能性があった。
【0003】
この点に鑑みてなされた発明の一つに特許文献1に記載のコンクリートがある。特許文献1に記載のコンクリートは、ビニロン繊維をコンクリート体積比で0.1〜1.0%混入するとともに、単位セメント量を350kg/m3以上、水セメント比率を45%以下に設定し、その他、高性能AE減衰材の最低量等を設定したものである。これにより、鉄筋の腐食膨張等を起因として生じるコンクリートの剥落に対する抵抗性能を向上させることができる、という効果が記載されている。
【0004】
【特許文献1】
特開2002−29816号公報、段落[0011]〜段落[0051]
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1に記載のコンクリートは、混入される繊維量が0.1〜1.0%と多く、したがって、所定のコンクリートを得るための材料費が高価となる。また、特許文献1に記載のコンクリートは、単位セメント量が350kg/m3以上、水セメント比率が45%以下と設定され、さらにワーカビリティを得るための高性能AE減衰材の最低量等も細かく設定された諸条件の下でのものであり、所定のコンクリートを得るための手間や施工管理が極めて煩雑である。
【0006】
本発明の課題は、剥落が防止され、施工性も良好となるコンクリートを容易かつ安価に提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、例えば図2に示すように、
繊維が混入されたコンクリートであって、
前記繊維の長さの直径に対する比率を、30〜700に設定し、
前記繊維の長さを、40mm以下に設定し、
前記繊維の混入量を、コンクリート体積比で0.02〜0.15%に設定したことを特徴としている。
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、長さの直径に対する比率が30〜700に設定され、長さが40mm以下に設定された繊維を、コンクリート体積比で0.02〜0.15%に混入量を設定してコンクリートに混入することで、剥落が防止されたコンクリートを製造することができる。この際、繊維の混入量をコンクリート体積比で0.02〜0.06%と極めて少なくすることができるので、以下のような効果がある。
【0009】
すなわち、繊維の混入量を従来に比して大幅に低減できるので、より安価にコンクリートを製造することができる。また、繊維の混入量が少ないことにより、生コン車に繊維を投入して高速回転を行うのみで、繊維がコンクリート中に均一に分散するとともに、コンクリートのフレッシュ性状に対する影響も小さい。したがって、コンクリートの製造方法、打設方法は従来と同様とすることができる。
以上により、剥落が防止され、施工性も良好となるコンクリートを安価に提供することができる。
【0010】
なお、前記繊維の材質は限定されるものではないが、例えば、ナイロン繊維、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維等が挙げられる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、例えば図2に示すように、請求項1に記載のコンクリートにおいて、
前記繊維をナイロン繊維とし、
前記ナイロン繊維の長さの直径に対する比率を、100〜650に設定し、
前記ナイロン繊維の長さを、20mm以下に設定し、
前記ナイロン繊維の混入量を、コンクリート体積比で0.02〜0.06%に設定したことを特徴としている。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、前記繊維としてナイロン繊維を用いることができる。この場合、ナイロン繊維の長さの直径に対する比率を100〜650に設定し、ナイロン繊維の長さを20mm以下に設定し、ナイロン繊維の混入量をコンクリート体積比で0.02〜0.06%に設定したたことで、コンクリートの剥落に対する抵抗性能を確実に得ることができる。
【0013】
前記ナイロン繊維としては、ナイロン6.6が代表的なものとして挙げられるが、ナイロン繊維の細かな種類は特に限定されるものではない。
【0014】
請求項3に記載の発明は、例えば図2に示すように、請求項2に記載のコンクリートにおいて、
前記ナイロン繊維の長さの直径に対する比率を、550〜650に設定したことを特徴としている。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、ナイロン繊維の長さの直径に対する比率を550〜650に設定したことことで、ナイロン繊維のコンクリートの剥落に対する抵抗性能をさらに向上させることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、例えば図2に示すように、請求項1に記載のコンクリートにおいて、
前記繊維をポリプロピレン繊維とし、
前記ポリプロピレン繊維の混入量を、コンクリート体積比で0.05〜0.15%に設定したことを特徴としている。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、前記繊維としてポリプロピレン繊維を用いることができる。この場合、ポリプロピレン繊維の混入量をコンクリート体積比で0.05〜0.15%に設定したことで、コンクリートの剥落に対する抵抗性能を確実に得ることができる。
【0018】
前記ポリプロピレン繊維の細かな種類は特に限定されるものではない。
【0019】
請求項5に記載の発明は、例えば図2に示すように、請求項4に記載のコンクリートにおいて、
前記ポリプロピレン繊維の長さの直径に対する比率を、30〜60に設定し、
前記ポリプロピレン繊維の長さを、20mm以下に設定したことを特徴としている。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、ポリプロピレン繊維の長さの直径に対する比率を30〜60に設定し、ポリプロピレン繊維の長さを20mm以下に設定したことで、ポリプロピレン繊維のコンクリートの剥落に対する抵抗性能をさらに向上させることができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、図1〜図11を通して、本発明であるコンクリートの実施の形態例について詳細に説明する。なお、本発明は、出願人が行った実験結果にもとづくものであり、実験結果も合わせて示す。
【0022】
本発明は、剥落が防止され、施工性も良好となるコンクリートを安価に提供し、例えば図1に示すような高架橋1等の施工に役立てようとするものである。
本発明で提供するコンクリート配合は、特に限定されるものではないが、例えば、普通ポルトランドセメント等を用いた、水セメント比を55%以下、単位セメント量を270kg/m3以上、すなわち、通常一般に施工されるコンクリートと同様のものとすることができる。
【0023】
[用いる繊維の種類を限定しない場合]
本発明に係るコンクリートには、以下の条件を満足した状態に繊維を混入する。すなわち、長さの直径に対する比率を30〜700に設定し、長さを40mm以下に設定した繊維を、コンクリート体積比で0.02〜0.15%混入する。
【0024】
なお、図2は、具体的な繊維の種類、繊維の長さの直径に対する比率(アスペクト比)、繊維の長さの上限値、コンクリート体積比での混入量(添加量)、混入量(添加量)の下限値の臨界的定義、上限値の臨界的定義等を示したものである。[用いる繊維の種類を限定しない場合]における繊維に設定する条件は、各具体的繊維の条件をすべて包含する条件とした。すなわち、この場合、繊維の種類は限定されるものではなく、例えば、ナイロン繊維、ポリプロピレン繊維、ビニロン繊維等のほか、わら等を用いることもできる。
【0025】
前記した条件を満足した状態に繊維が混入されたコンクリートは剥落が防止されたものとなるが、この際、繊維の混入量をコンクリート体積比で0.02〜0.15%と極めて少なくすることができるので、以下のような効果がある。
【0026】
すなわち、繊維の混入量を従来に比して大幅に低減できるので、より安価にコンクリートを製造することができる。また、繊維の混入量が少ないことにより、生コン車に繊維を投入して高速回転を行うのみで、繊維がコンクリート中に均一に分散するとともに、コンクリートのフレッシュ性状に対する影響も小さい。したがって、コンクリートの製造方法、打設方法は従来と同様とすることができる。
以上により、剥落が防止され、施工性も良好となるコンクリートを安価に提供することができる。
【0027】
[繊維としてナイロン繊維を用いる場合]
具体的な繊維の種類としては、図2に示すように、例えばナイロン繊維を用いることができる。なお、ナイロン繊維としては、例えば、ニュークリート19(原産国イスラエル)が挙げられる。この場合、ナイロン繊維の長さの直径に対する比率を100〜650に設定し、ナイロン繊維の長さを20mm以下に設定し、ナイロン繊維の混入量をコンクリート体積比で0.02〜0.06%に設定することで、コンクリートの剥落に対する抵抗性能を確実に得ることができる。この場合さらに、ナイロン繊維の長さの直径に対する比率を550〜650に設定することで、ナイロン繊維のコンクリートの剥落に対する抵抗性能をさらに向上させることができる。
【0028】
[繊維としてポリプロピレン繊維を用いる場合]
その他具体的な繊維の種類としては、図2に示すように、例えばポリプロピレン繊維を用いることができる。なお、ポリプロピレン繊維としては、例えば、クラックバスター(ファイン12mm、原産国アメリカ)が挙げられる。この場合、ポリプロピレン繊維の混入量を、コンクリート体積比で0.05〜0.15%に設定することで、コンクリートの剥落に対する抵抗性能を確実に得ることができる。この場合さらに、ポリプロピレン繊維の長さの直径に対する比率を、30〜60に設定し、ポリプロピレン繊維の長さを20mm以下に設定することで、ポリプロピレン繊維のコンクリートの剥落に対する抵抗性能をさらに向上させることができる。なお、前記したクラックバスターは、複数本の繊維が束となった状態のものであるが、繊維の長さの直径に対する比率を計算は、一本の繊維について行ったものである。
【0029】
なお、前記したように、本発明は出願人が行った実験結果にもとづくものである。以下、本発明の裏付けとなる実験結果を示す。
【0030】
1 実験概要
1.1 実験の方法
本実験は、コンクリートに混入された繊維が、コンクリートの剥落に対する抵抗性能に対してどの程度影響を与えるかを調べるためのものである。ここでは、コンクリートの剥落が鉄筋の腐食膨張を起因として生じることに鑑みて、鉄筋の腐食膨張を膨張材を用いることで模擬する。
【0031】
図3(a)に本実験で用いた供試体の諸元を示す。静的砕波材よりも膨張量の小さい、通常の膨張材(デンカ CSA#20、電気化学工業(株)製)を膨張材充填穴に充填し、鉄筋の腐食を模擬した。膨張材は水を加えてよく練り混ぜてペースト状にし、すぐに充填した。ペーストの水粉体比は重量比で30%である。膨張材充填穴の直径を20mm、かぶりを20mmとした。予備実験により、穴の中心間隔を大きくとると、穴と穴とを結ぶひび割れにならず、鉄筋に沿ったひび割れが発生し、膨張量が大きい場合でもそのひび割れが大きく開くだけで剥落に至らない場合が多いことがわかった。そこで、穴の中心間隔は60mmとした。また、膨張量が大きい場合、供試体が崩壊する可能性があるので、図3(a)に示すように中心よりやや上部に中心よりやや上部にD10の鉄筋を3本配置して崩壊を防止することにした。供試体は作成後に膨張材重点穴が開いている状態とし、所定の材齢が経過してから穴に膨張材を練り混ぜたペーストを充填した。
【0032】
この実験方法によると、膨張材を充填して数日後には図3(b)に示すようなひび割れ(場合によっては鉄筋に沿ったひび割れも1〜2本)がほぼ安定して発生することが分かった。このようなひび割れを発生させるためには供試体の長さもある程度必要である。両端の穴から供試体端部までが短い場合、両端の穴からのひび割れが供試体下面へ抜けず、斜め上方向に抜けるため剥落しにくいひび割れとなった。そこで、本実験では供試体長さを600mmとした。
【0033】
なお、充填穴に静的砕波材(プライスター B−100 太平洋マテリアル(株)製)のペーストを充填した場合には、1.2に示すナイロン繊維を0.06%添加してもコンクリートの剥落を防止することはできなかった。このように、膨張量があまりにも大きい場合は、剥落を防止するために必要な繊維の量がかなり大きくなる。このような膨張量は実構造物の鉄筋の腐食膨張よりも過大であると考えられる。
【0034】
本実験では、静的砕波材よりは膨張量のかなり小さい通常の膨張材(デンカ CSA#20)を使用することにした。この場合は、繊維を添加しない場合でも膨張材の膨張力だけではコンクリート片が剥落しなかった。
【0035】
膨張圧だけでコンクリートが剥落しない場合、浮いたかぶりコンクリートに何らかの損傷を与えないと剥落が生じない。この実験においては、供試体を90度回転させて支持し、重さ770kg程度のハンマーで打撃を加えることにした。打撃箇所は、図3(b)に示すように、浮いたかぶりコンクリートと本体とにせん断ずれが生じるような箇所である。表面のコンクリートの圧壊などが生じない限り、図3(b)に示す4ヶ所を左側から順番に叩き、それを繰り返した。使用した繊維、各繊維に関する実験の条件は1.2以降に示すが、打撃試験は、実験者の一人が共通して行った。ハンマーによる打撃は、ひじをほとんど固定した状態で、ハンマーの自重以外に特別大きな力を加えることはせずに行った。
【0036】
以上が剥落に対する繊維の効果を確認する実験の概要である。なるべく実構造物での剥落に近い状況となるように配慮したが、安定してコンクリートの剥落が生じるために、模擬鉄筋の間隔を狭くした。実構造物での剥落とは、第3者に影響を与えるために特に剥落が問題となる張出しスラブ、スラブなどにおける剥落を想定している。コンクリートの打設方法は、スラブなどを想定して、模擬鉄筋が供試体底面になるように型枠を設置し、上面から打設を行った。
【0037】
繊維は3種類のものを用いた。各繊維について、供試体作成に使用したコンクリートが違い、試験を実施した場所も異なる。各繊維の物性を1.2に、それぞれの実験の諸条件を1.3にまとめる。ただし、前述のように、剥落させるための打撃試験は一人の人間が行った。
【0038】
1.2 各繊維の物性
今回の実験では、3種類の繊維を使用した。ナイロン繊維としてニュークリート19(原産国イスラエル)、ポリプロピレン繊維としてクラックバスター(ファイン12mm、原産国アメリカ)、ポリビニルアルコール(PVA、通称ビニロン)繊維として、RECS100L(クラレ製)を使用することにした。各繊維の諸物性を図4の表に示す。
【0039】
これら繊維は、それぞれ材質も違うものであるが、共通するのは繊維長さに対して繊維の直径が小さく、いわゆるアスペクト比が大きいものと言える。また、繊維の形状は直線で、特にコンクリートとの付着をとるための物理的な加工はされていない。
【0040】
1.3 各繊維に関する実験の条件
実験は各繊維ごとに行ったため、使用したコンクリートの配合、材料、製造方法、また、打撃試験時の在齢等も異なる。ここでは、各実験の条件についてまとめる。図5の表に実験条件を整理した。設計基準強度のみ統一した。膨張材の充填材齢は基本的に7日としたが、クラックバスターについては21日で充填した。クラックバスターの実験での材齢7日での強度は、27.7Mpaであり、材齢が異なることの影響はほとんどないものと考えている。
【0041】
2 実験結果
2.1 供試体のひび割れ状況
膨張材を充填後に供試体にはひび割れが発生する。ひび割れ幅の大小はあるが、基本的には、穴と穴を結ぶひび割れが発生し、両端の穴からは八の字に広がるひび割れが供試体下端へ向かって発生した。膨張量が大きくひび割れ幅が大きい場合は、模擬鉄筋に沿ったひび割れが発生した。一方で膨張量が小さい場合は、特に両端の穴からの八の字のひび割れがほとんど見えないものであったが、次節で述べるように、打撃試験によって八の字のひび割れが顕在化し、最終的な剥落状況は同様なものとなった。
【0042】
繊維を添加した場合、いわゆる繊維の架橋効果によってひび割れが抑制される可能性も考えられるが、図6(a)及び図6(b)に示すように、繊維の添加量とひび割れ幅の経時変化には明らかな関係は認められなかった。RECS100Lについてはひび割れ幅の経時変化を測定していないが、目視では繊維を添加することによるひび割れ幅の抑制は顕著には認められなかった。合成短繊維を本実験における添加量の程度使用する場合、ひび割れ幅を抑制する効果を期待することはできないと言える。
【0043】
2.2 打撃試験結果
打撃試験の結果を図7の表にまとめた。すべての繊維について、繊維を添加することで剥落に対する抵抗性が向上する結果となった。3種類の繊維の実験で、繊維を添加しない場合に剥落に要した打撃回数が異なっているが、これは主としてコンクリートの強度が異なるによると考えられる。図5の表及び図7の表に示したように、圧縮強度の低い方が剥落に要する打撃回数が少なくなっており、膨張材の膨張圧によりコンクリートがより大きな損傷を受けたものと考えられる。
【0044】
3種類の実験で、繊維を添加しない場合の剥落までの打撃回数に大きな違いが出たため、各添加量における打撃回数を単純に比較するだけでは繊維の性能を評価することができない。ここでは、各添加量における剥落に要した打撃回数を、繊維を添加しない場合の打撃回数で除した値を算出し、合わせて図7の表に示した。打撃回数比により、各繊維において添加量を変化させたときの効果を相対的に把握することができる。図8には、各繊維の剥落に要する打撃回数比と繊維添加率の関係を示した。
【0045】
ニュークリート19では、繊維の添加量とともに打撃回数比が増大する結果となった。0.02%の添加量では2体の供試体の結果が大きく異なり、繊維が剥落に対して効果的である場合もあったが、あまり効果を発揮していないように見られる場合もあり、繊維の量が少ないために効果にもばらつきが大きいと考えられる。0.03%の場合は2体ともに繊維が効果を発揮している様子が認められ、0.04%、0.06%と添加量が増えるごとに、打撃回数比も大きくなった。添加量が0.04%の場合は、打撃回数が40回くらい以降から明らかに打撃の際の反発力が小さくなり、繊維が効いている様子が伺えた。さらに20回打撃を追加して打撃回数が60回に至ると、打撃により損傷が進展し、ひび割れ幅も大きくなったが依然として剥落には至らなかった。この後、68回打撃した時点でコンクリート塊が剥落した。このように、従来の繊維補強コンクリートの添加量よりは、随分と少ない添加量(体積比)ではあるが、ニュークリート19を適量添加することで、コンクリートの剥落に対する抵抗性が大きく向上することが分かった。
【0046】
クラックバスターでは、繊維を添加することで打撃回数比は増加したが、0.10%を境に大きく変化した。0.03%〜0.075%ではプレーンコンクリートに比べると繊維の効果で打撃回数は増加したが、その性状は0.10%以上と比べると明らかに異なっていた。0.10%以上の場合、打撃を加えてもひび割れがなかなか進展せず、打撃面が圧壊を始めた。120回くらい以降からは打撃の反発力が小さくなり、繊維により剥落が食い止められている様子であった。さらに60回打撃を加えた180回においても、コンクリート塊が繊維によって繋ぎ止められている状態であった。しかし、ナイロン繊維とは異なり、0.10%以上添加しても打撃回数比に大きな増加はなく、本実験の範囲内では、0.10%の繊維を添加しておけば剥落に対して十分効果があると考えられる。
【0047】
RECS100Lの場合は、プレーンコンクリートの剥落打撃回数が108回と非常に多くなった。コンクリートの強度が高まったためと思われる。しかし、剥落は脆性的に発生した。これに対して、繊維を添加した場合は明らかに性状が異なった。0.05〜0.10%の添加量において、打撃による損傷の進展が繊維により抑制されているのが明らかで、コンクリート塊の剥落にいたる前に、打撃面が圧壊を始めた。0.05%の場合は、208回の打撃で、コンクリート塊全体ではなく一部が剥落した。これに対して、0.075%の場合は、200回の打撃を加えても剥落に至るひび割れが大きく進展せず、打撃面の圧壊が大きく進行した。打撃の衝撃が大きくほとんど打撃面の破壊に寄与するためにこのようになったものと思われる。200回以降は、圧壊のしていない一箇所を集中的に強く叩くことでその部分を剥落させることができたが、0.075%の添加量で十分に剥落に対する抵抗性があることが伺えた。0.10%に添加量が増えた場合はその傾向がさらに強くなり、300回の打撃でも剥落に至るひび割れはほとんど進展せず、また打撃面の圧壊も抑制される結果となった。
【0048】
このようにRECS100Lは他の繊維に比べると打撃による損傷を抑制する効果が大きいように観察されたが、これは繊維とセメント水和物の付着強度が強いことによるものと思われる。既往の研究により、PVA(通称ビニロン)繊維はナイロンやポリプロピレンに比べて非常に大きい摩擦付着強度が得られることが明らかになっている。この原因として、ナイロンやポリプロピレンなどの繊維は、その化学構造から表面の疎水性が非常に強く、一般にセメント水和物との付着強度が一般に低いといわれている。反対に化学構造に水酸基を有するPVA繊維の場合は親水性となり、化学付着及び摩擦付着が良好となることが知られている。この付着力によって、RECS100Lの場合も打撃による損傷が抑制されたものと考えられる。
【0049】
図8を見ると、クラックバスターで効果が大きく出るのは0.10%以上の添加量であり、打撃回数比で同程度の効果を得るためには、ニュークリート19では、0.04%の添加量が必要であることが分かる。そこで、これら添加量を剥落防止対策における適正量と設定することにした。結果的には、クラックバスターの0.10%と、ニュークリート19の0.04%が設計単価がともに約1000円程度(コンクリート1m3分)で同程度であった。一方でRECS100Lは、1000円程度の設計単価では0.075%の添加量となる。打撃回数比では他の繊維よりも小さくなったが、剥落に対する効果は十分に認められ、0.075%を適正量と設定した。以上により、中性化に起因する鉄筋の腐食防止によるコンクリート片の剥落対策として、コンクリート体積比でニュークリート19を0.04%、クラックバスター(ファイン12mm)を0.10%、RECS100Lを0.075%のいずれかを添加することとした。
【0050】
2.3 コンクリートのフレッシュ性状に及ぼす繊維の影響
本報告の実験結果に基づき、3種類の繊維において剥落に対する適正添加量を設定した。ただし、これらの添加量は従来の繊維補強コンクリートに比べて添加量も非常に少なく、また汎用的な使用方法を考えているため、生コン車への後添加を想定している。このような状況で、繊維の分散性がよく、コンクリートのフレッシュ性状や強度特性に悪影響がないことが使用の前提条件である。本節では、コンクリートのフレッシュ性状を中心に現在まで明らかになっていることについてまとめる。ここでの試験方法は、圧縮強度試験はJIS A 1108−1999、スランプ試験はJIS A 1101−1998、空気量試験はJIS A 1128−1999、ブリーディング試験はJIS A 1123−1997によっている。
【0051】
2.3.1 ニュークリート19の影響
図9(a)の表にニュークリート19のコンクリート施工性試験に用いた配合を示した。スランプを4種類に変化させている。図9(b)の表に施工性試験結果を示した。ここに見られるように、どの配合においても、繊維の添加量が0.04%の場合はスランプ値に与える影響も1〜1.5cmの範囲内に収まっており、空気量に及ぼす影響もさほど大きくないことがわかる。また、繊維を添加することにより圧縮強度にもほとんど影響はしない結果となった。また、図9(c)に示すように、もともとブリーディングが小さい配合ではあるが、繊維を添加することでブリーディング量の経時変化にもほとんど影響していない。
【0052】
なお、ニュークリート19については、ひび割れを抑制するために膨張材と組み合わせて使用した実績があり、生コン車に投入してミキサーの高速回転を数分行うことで、コンクリート中に十分分散することを視覚的に確認している。これらの実構造物への適用事例において、実験室での試験練りの段階では数cmのスランプ低下が認められる場合もあったが、現場でのスランプ試験では、繊維添加前後でほとんど差が認められなかった。以上のことから、ニュークリート19を0.04%添加しても、コンクリートの施工性にはほとんど影響はないものと思われる。
【0053】
2.3.2 クラックバスターの影響
図10(a)の表にクラックバスターのコンクリート施工性試験に用いた配合を示した。スランプを2種類に変化させている。ベースコンクリートを練り混ぜた後、スランプ試験等を行い、ミキサーに戻して繊維を投入後に90秒間練り混ぜたものについて試験を行った。図10(b)の表に施工性試験結果を示した。繊維を0.10%添加することで、スランプが2.5〜4.0cm低下している。ただし、これは試験に用いたコンクリートと試験方法の影響も含まれている可能性がある。このコンクリートは砂の微粒分が多く、スランプ試験引抜時にコンクリートコーンの形状が崩れやすい傾向にあった。繊維を添加することでコンクリートの性状がプラスチックとなり、崩れにくくなった。また、繊維を添加するコンクリートはベースコンクリートを練り混ぜてから繊維添加、試験終了までに10分程度かかっている。繊維を添加しないコンクリートについて、練り混ぜ直後に比べて練り混ぜ後10分間静置したコンクリートはスランプが3cm低下した。このような試験条件の影響も含まれている可能性がある。
【0054】
繊維を添加することで空気量が増加している。これについて調べるために、目標スランプ12cmのコンクリートにバイブレータを入念にかけた後に空気量を再度測定した。繊維を添加しないものは4.4%から1.5%になり、繊維を添加したものは6.1%から2.0%に減少し、バイブレータをかけた後の空気量はほとんど同程度となった。この繊維は網目状繊維であるため、実験室レベルでのミキサーでの練り混ぜ時に空気を抱き込むことによるものと思われる。
【0055】
図10(c)には、ブリーディング量の経時変化を示した。これは同じコンクリートを二つに分け、一つに繊維を添加し、もう一方は無添加でブリーディング試験を行っている。明らかに繊維を添加することによりブリーディングの発生が緩やかになり、総量も抑えられている。この繊維は、硬化収縮を抑制すると言われているが、ブリーディングを抑制することがその一因になっている可能性も考えられる。
【0056】
2.3.3 RECS100Lの影響
RECS100Lについては、図11(a)に示す1種類の配合で試験を行った。ベースコンクリートを練り混ぜた後、スランプ試験等を行い、ミキサーに戻して繊維を投入後に60秒間練り混ぜたものについて試験を行った。試験結果を図11(b)の表に示した。0.075%繊維を添加することでスランプが4.2cm低下した。他の繊維の項でも述べたが、試験室のミキサーではスランプロスが多少発生する場合でも、この程度の繊維添加量では、現場のミキサー車に投入する場合は、スランプに影響をほとんど与えない場合が多く、実施工ではコンクリートの施工性に大きな影響はないものと思われる。また、圧縮強度は同程度の値となった。
【0057】
3 まとめ
高架橋等における中性化に起因する鉄筋の腐食膨張によるコンクリート片の剥落を防止するために、合成短繊維を少量コンクリートに後添加することが有効であると考えられる。当社においては、コンクリート片の剥落防止に対して、設計時の配慮、施工時の受入検査等、総合的な対策が既に実施されているため、繊維には過度の性能を期待せず、できるだけ少ない量で適切な効果を発揮することが望ましい。鉄筋腐食を膨張材により模擬し、実構造物における剥落事故の分析結果に基づいて供試体の諸元を決定して実験を行った。繊維の適正添加量と、各繊維がコンクリートの性状に及ぼす影響について得られた知見を以下にまとめる。
【0058】
1)鉄筋を模擬した穴に膨張材を練り混ぜたペーストを充填し、穴の径、かぶり、穴の間隔等を適切に設定することで、供試体にはコンクリート塊の剥落に至るひび割れが発生する。さらに、ハンマーによる打撃を与えることで、コンクリート塊の剥落が生じた。
【0059】
2)剥落に要するハンマーの打撃回数を、繊維の有無で比較することなどにより、剥落防止に効果的な繊維の添加量を決定した。それぞれコンクリートに対する体積比でナイロン繊維のニュークリート19が0.04%、ポリプロピレン繊維のクラックバスター(ファイン12mm)が0.10%、PVA繊維のRECS100Lが0.075%であった。
【0060】
3)上記の添加量で使用すると、スランプが数cm低下するものもあったが、総じてコンクリートの施工性には大きな影響を与えない結果が得られた。
【0061】
【発明の効果】
請求項1記載の発明によれば、繊維の混入量を従来に比して大幅に低減できるので、より安価にコンクリートを製造することができる。また、繊維の混入量が少ないことにより、生コン車に繊維を投入して高速回転を行うのみで、繊維がコンクリート中に均一に分散するとともに、コンクリートのフレッシュ性状に対する影響も小さい。したがって、コンクリートの製造方法、打設方法は従来と同様とすることができる。以上により、剥落が防止され、施工性も良好となるコンクリートを安価に提供することができる。
【0062】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明と同様の効果を得ることができることは勿論のこと、前記繊維としてナイロン繊維を用いることができる。この場合、ナイロン繊維の長さの直径に対する比率を100〜650に設定し、ナイロン繊維の長さを20mm以下に設定し、ナイロン繊維の混入量をコンクリート体積比で0.02〜0.06%に設定したたことで、コンクリートの剥落に対する抵抗性能を確実に得ることができる。
【0063】
請求項3記載の発明によれば、請求項2に記載の発明と同様の効果を得ることができることは勿論のこと、ナイロン繊維の長さの直径に対する比率を550〜650に設定したことことで、ナイロン繊維のコンクリートの剥落に対する抵抗性能をさらに向上させることができる。
【0064】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明と同様の効果を得ることができることは勿論のこと、前記繊維としてポリプロピレン繊維を用いることができる。この場合、ポリプロピレン繊維の混入量をコンクリート体積比で0.05〜0.15%に設定したことで、コンクリートの剥落に対する抵抗性能を確実に得ることができる。
【0065】
請求項5に記載の発明によれば、請求項4に記載の発明と同様の効果を得ることができることは勿論のこと、ポリプロピレン繊維の長さの直径に対する比率を30〜60に設定し、ポリプロピレン繊維の長さを20mm以下に設定したことで、ポリプロピレン繊維のコンクリートの剥落に対する抵抗性能をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明係る高架橋を示す斜視図である。
【図2】本発明に係るコンクリートに混入される繊維の諸元を示す表である。
【図3】(a)は、本発明を裏付ける実験で用いたコンクリート供試体の諸元を示す図であり、(b)は膨張圧により発生するひび割れの状況を示す図である。
【図4】本発明を裏付ける実験における、本発明に係る繊維の諸物性値を示す表である。
【図5】本発明を裏付ける実験における、本発明に係る繊維の実験条件を示す表である。
【図6】(a)は、本発明を裏付ける実験における、本発明に係るニュークリート19が混入されたコンクリート供試体の平均ひび割れ幅を示す図であり、(b)は、本発明を裏付ける実験における、本発明に係るクラックバスター(ファイン12mm)が混入されたコンクリート供試体の平均ひび割れ幅を示す図である。
【図7】本発明を裏付ける実験における、本発明に係るニュークリート19、クラックバスター(ファイン12mm)、RECS100L等が混入されたコンクリートの打撃試験結果を示す表である。
【図8】本発明を裏付ける実験における、本発明に係るニュークリート19、クラックバスター(ファイン12mm)、RECS100L等が混入されたコンクリートの、剥落に対する打撃回数比お繊維添加率の関係を示す図である。
【図9】本発明を裏付ける実験における、(a)は、本発明に係るニュークリート19が混入されたコンクリートの施工性試験を行う際のコンクリート配合を示す表であり、(b)は施工性試験結果を示す図であり、(c)はブリーディング量の経時変変化を示す図である。
【図10】本発明を裏付ける実験における、(a)は、本発明に係るクラックバスター(ファイン12mm)が混入されたコンクリートの施工性試験を行う際のコンクリート配合を示す表であり、(b)は施工性試験結果を示す図であり、(c)はブリーディング量の経時変変化を示す図である。
【図11】本発明を裏付ける実験における、(a)は、本発明に係るRECS100Lが混入されたコンクリートの施工性試験を行う際のコンクリート配合を示す表であり、(b)は施工性試験結果を示す図である。
【符号の説明】
1 高架橋
Claims (5)
- 繊維が混入されたコンクリートであって、
前記繊維の長さの直径に対する比率を、30〜700に設定し、
前記繊維の長さを、40mm以下に設定し、
前記繊維の混入量を、コンクリート体積比で0.02〜0.15%に設定したことを特徴とするコンクリート。 - 請求項1に記載のコンクリートにおいて、
前記繊維をナイロン繊維とし、
前記ナイロン繊維の長さの直径に対する比率を、100〜650に設定し、
前記ナイロン繊維の長さを、20mm以下に設定し、
前記ナイロン繊維の混入量を、コンクリート体積比で0.02〜0.06%に設定したことを特徴とするコンクリート。 - 請求項2に記載のコンクリートにおいて、
前記ナイロン繊維の長さの直径に対する比率を、550〜650に設定したことを特徴とするコンクリート。 - 請求項1に記載のコンクリートにおいて、
前記繊維をポリプロピレン繊維とし、
前記ポリプロピレン繊維の混入量を、コンクリート体積比で0.05〜0.15%に設定したことを特徴とするコンクリート。 - 請求項4に記載のコンクリートにおいて、
前記ポリプロピレン繊維の長さの直径に対する比率を、30〜60に設定し、
前記ポリプロピレン繊維の長さを、20mm以下に設定したことを特徴とするコンクリート。
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Cited By (3)
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JP2004277210A (ja) * | 2003-03-14 | 2004-10-07 | Kajima Corp | 構造物からのコンクリート片の剥落防止法 |
JP2011237299A (ja) * | 2010-05-11 | 2011-11-24 | Maeda Corp | コンクリート試験装置 |
JP2012206882A (ja) * | 2011-03-29 | 2012-10-25 | Sumitomo Osaka Cement Co Ltd | スケーリング低減コンクリート製品及び当該コンクリート製品の製造方法 |
-
2002
- 2002-11-25 JP JP2002340618A patent/JP2004175585A/ja active Pending
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