JP2004174631A - スローアウェイチップおよび切削工具 - Google Patents
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Abstract
【課題】ろう付けした多結晶ダイヤモンドの剥離が防止された、特に高切込み切削加工に好適なスローアウェイチップおよびこのスローアウェイチップを有して成る切削工具を提供すること。
【解決手段】基材の粗面化されたすくい面または座グリ加工部に、多結晶ダイヤモンドをろう材によって接合して成ることを特徴とするスローアウェイチップおよびこのスローアウェイチップと支持体とを有して成ることを特徴とする切削工具。
【選択図】 図1
【解決手段】基材の粗面化されたすくい面または座グリ加工部に、多結晶ダイヤモンドをろう材によって接合して成ることを特徴とするスローアウェイチップおよびこのスローアウェイチップと支持体とを有して成ることを特徴とする切削工具。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、スローアウェイチップおよび切削工具に関し、さらに詳しくは、特に高切込み切削加工に好適なスローアウェイチップおよびこのスローアウェイチップを有して成る切削工具に関する。
【0002】
【従来の技術】
耐熱性、耐磨耗性および耐衝撃性を有する基材に多結晶ダイヤモンドをろう付けしたスローアウェイチップを有する工具は、切削工具として広く使用されている。このような工具として、これまでに、多結晶ダイヤモンドを、融点700〜1300℃の合金ろう材により金属または合金から成る基材にろう付けした工具が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
特許第2607592号公報(請求項1)
【0004】
しかしながら、この工具は、被削材を切込み量が基材の有効切れ刃に限りなく近づくまで切削加工(以下、「高切込み切削加工」という。)した場合、その高切込み切削加工に伴い切削抵抗が増大し、そのまま切削加工を強行すると切削温度が上昇して、ろう付けした多結晶ダイヤモンドが基材から剥離し易くなるという問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、このような従来の問題点を解消し、ろう付けした多結晶ダイヤモンドの剥離が防止された、特に高切込み切削加工に好適なスローアウェイチップおよびこのスローアウェイチップを有して成る切削工具を提供することをその課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するために、基材のすくい面または座グリ加工部の表面状態について研究を重ねた結果、前記すくい面および/または座グリ加工部を粗面化することによって、前記課題が解決できるということを見出し、この知見に基づいてこの発明を完成するに到った。
【0007】
すなわち、この発明の前記課題を解決するための第1の手段は、
(1) 基材の粗面化されたすくい面および/または座グリ加工部に、多結晶ダイヤモンドをろう材によって接合して成ることを特徴とするスローアウェイチップである。
【0008】
この第1の手段における好ましい態様としては、下記▲1▼〜▲7▼のスローアウェイチップを挙げることができる。
▲1▼ 前記基材が、超硬合金であるスローアウェイチップ。
▲2▼ 前記粗面化されたすくい面および/または座グリ加工部が、化学処理または熱処理を施して成るスローアウェイチップ。
▲3▼ 前記粗面化されたすくい面および/または座グリ加工部の面粗度が、十点平均粗さ(RZJIS)で2〜15μmであるスローアウェイチップ。
▲4▼ 前記多結晶ダイヤモンドの厚さが、0.1〜1.0mmであるスローアウェイチップ。
▲5▼ 前記多結晶ダイヤモンドの厚さが、0.3〜0.5mmであるスローアウェイチップ。
▲6▼ 前記多結晶ダイヤモンドの接合面の面粗度が、十点平均粗さ(RZJIS)で低くとも15μmであり、前記前記多結晶ダイヤモンドの接合面に対し反対側にある面の面粗度が、十点平均粗さ(RZJIS)で高くとも2μmであるスローアウェイチップ。
▲7▼ 前記多結晶ダイヤモンドが、気相合成法によって製造され、前記ろう材が、Ti、Ag、CuおよびInから選ばれた少なくとも1種の金属を含有する合金であるスローアウェイチップ。
【0009】
この発明における前記課題を解決するための第2の手段は、
(2) 前記のスローアウェイチップと支持体とを有して成ることを特徴とする切削工具である。
【0010】
【発明の実施の形態】
この発明のスローアウェイチップは、基材の粗面化されたすくい面および/または座グリ加工部に、多結晶ダイヤモンドをろう材によって接合して成ることを特徴とする。
【0011】
スローアウェイチップとは、刃先が破損または摩耗して使用することができなくなった場合、再研削することなく、支持体から取りはずして使い捨てとすることのできる切削工具用の刃である。この刃としては、方形状、三角状、菱状などの刃を挙げることができ、その形状に特に制限はない。
【0012】
この発明のスローアウェイチップを形成する基材には、通常、スローアウェイチップに用いられる材料であれば特に制限はないが、超硬合金が好ましく用いられる。超硬合金としては、炭化タングステン(WC)系超硬合金を挙げることができ、具体的には、例えば、K01:WC−Co(W91質量%、Co5質量%、C4質量%)、K10:WC−Co(W87質量%、Co7質量%、C6質量%)、K20:WC−Co(W87質量%、Co8質量%、C5質量%)、P10:WC−TiC−TaC−Co(W50質量%、Ti16質量%、Ta17質量%、Co9質量%、C8質量%)などを挙げることができる。なお、K01、K10、K20およびP10は、JIS B 4053に基づく使用分類記号である。
【0013】
また、この発明のスローアウェイチップを形成する基材には、サーメット、セラミックスまたは立方晶窒化ホウ素を用いることもできる。
【0014】
この発明においては、前記基材のすくい面および/または座グリ加工部が粗面化されていることを特徴とする。図1にスローアウェイチップの一例を示す。1はスローアウェイチップ、2はすくい面、3は座グリ加工部、4は逃げ面である。この例においては、座グリ加工部3は、すくい面2に対してほぼ垂直に形成されると共に多結晶ダイヤモンドから成る切削刃を当接する当接面3−1と前記当接面3−1に接すると共に前記すくい面2にほぼ並行に形成されて、前記切削刃を配設可能とする配設面3−2とから形成されている。この発明では、前記すくい面2もしくは座グリ加工部3またはすくい面2と座グリ加工部3との双方が粗面化されている。
【0015】
前記基材のすくい面および/または座グリ加工部を粗面化する手段に特に制限はないが、化学処理を施す手段または熱処理を施す手段が好ましく採用される。化学処理を施す手段としては、例えば、基材を硝酸または塩酸などの酸に浸漬し、基材の表面に存在するCo、Niなどの金属成分を溶脱させることによって、基材の表面に凹凸形状を形成させる方法を挙げることができる。この化学処理を施すときの浸漬条件に制限はないが、通常は常温で0.5〜1.0時間、浸漬処理される。
【0016】
また、熱処理を施す手段としては、例えば、基材を真空中に、1300〜1500℃で3〜5時間放置し、基材中に含まれる炭化タングステンなどの金属化合物を粒成長させることによって、基材の表面に凹凸形状を形成させる方法を挙げることができる。
【0017】
前記の化学処理または熱処理は、基材の表面を粗面化する処理の一態様であって、基材の表面に凹凸形状を形成させるなどして粗面化することができる処理手段であれば、必ずしも化学処理または熱処理手段に拘束されることはなない。例えば、基材の表面を荒研磨することにより凹凸形状を形成させることもできる。
【0018】
この発明においては、前記基材の少なくともすくい面および/または座グリ加工部が粗面化されていれば足り、すくい面および座グリ加工部以外の部分は粗面化されていてもよく、粗面化されていなくてもよい。前記基材のすくい面および/または座グリ加工部は、平滑状態になく、粗面化されていれば、その粗面化の程度に特に制限はないが、その面粗度が、十点平均粗さ(RZJIS)で2〜15μmであることが好ましい。
【0019】
ここに十点平均粗さ(RZJIS)とは、断面曲線から基準長さだけ抜き取った部分において、平均線に平行であって、かつ断面曲線を横切らない直線から縦倍率の方向に測定した最高から5番目までの山頂の標高の平均値と最深から5番目までの谷底の標高の平均値との差をいう。
【0020】
前記面粗度において、十点平均粗さ(RZJIS)が2μm以上の場合、切削部材である多結晶ダイヤモンドが基材から剥離し難くなり、15μm以下である場合、熱処理による粗面化を行うときに、熱処理時間が長くなることがなく、基材が反り易くなるという事態を回避または抑制することができるからである。
【0021】
この発明のスローアウェイチップは、前記のとおり、基材の粗面化されたすくい面および/または座グリ加工部に、多結晶ダイヤモンドをろう材によって接合して成る。
【0022】
多結晶ダイヤモンドは、単結晶ダイヤンド粒子の集合体である。この発明において用いるダイヤモンドは多結晶ダイヤモンドであれば、天然ダイヤモンドであってもよく、人工ダイヤモンドであってもよいが、気相合成法によって製造された人工多結晶ダイヤモンドは、安価であり、方向性に偏りがないことから好ましく用いられる。
【0023】
多結晶ダイヤモンドの気相合成法には、これまでに種々の方法が開発されており、この発明においては、いずれの合成法を採用した多結晶ダイヤモンドであっても用いることができる。この気相合成法による多結晶ダイヤモンドは、例えば、所定割合に混合された一酸化炭素と水素とを含有する混合ガスを、プラズマCVD法、スパッタ法、イオン蒸着法、イオンビーム蒸着法、熱フィラメント法などによって励起し、シリコン、アルミニウム、タングステンなどの金属、これらの酸化物、窒化物または炭化物、サーメット、セラミックスなどの基板に接触させることによって、基板上にダイヤモンドを析出、堆積させて製造される。
【0024】
接合される多結晶ダイヤモンドの厚さに特別の制限はないが、通常は0.1〜1.0mm、好ましくは0.3〜0.5mmである。多結晶ダイヤモンドの厚さが0.1mm以上の場合、逃げ面方向への摩耗の進行に伴うスローアウェイチップの寿命を伸ばすことができ、1.0mm以下の場合、ろう付け後の外周研磨時にその研削性が良好となって生産性を向上させることができるからである。
【0025】
また、接合される多結晶ダイヤモンドの接合面の面粗度が、十点平均粗さ(RZJIS)で低くとも15μmであることが好ましく、この場合、前記基材のすくい面または座グリ加工部の面粗度と相まって、多結晶ダイヤモンドの接合はより強固なものとなる。さらに、前記接合面に対し反対側にある面の面粗度が、十点平均粗さ(RZJIS)で高くとも2μmであることが好ましく、この場合、切りくずがスローアウェイチップ上面に溶着することによる被削材精度の悪化を防止することができる。
【0026】
この発明においては、前記多結晶ダイヤモンドはろう材によって接合される。ろう材は、用いる基材とは異質の融点の低い合金であって、例えば、Ag−Cu−Zn−CdにNiを添加した多元素系の銀ろう(JIS Z 3261:1985)を用いることが一般的である。しかし、環境問題を考慮して、近年はCdを含まないろう材が主流となっている。この発明で用いるろう材は、Ti、Ag、CuおよびInから選ばれた少なくとも1種の金属を含有する合金であることが好ましい。
【0027】
ろう材による接合方法にも特別の制限はなく、通常の接合方法を採用することができる。例えば、トーチろう付け、高周波ろう付け、炉中ろう付けなどの接合方法を挙げることができ、熱源としては、電気、ガス、プラズマなどを用いることができる。実際のろう付けに当たっては、直接ろう材を介して接合する他に、熱膨張係数の相違から発生する応力を吸収するために、銅板を間に挟んだサンドイッチろうも使用される。この発明における好適な接合方法としては、高周波ろう付けを挙げることができる。
【0028】
この発明はまた、前記のスローアウェイチップと支持体とを有して成ることを特徴とする切削工具を提供する。図2にこの発明の切削工具を示す。5は切削工具、6は支持体(ホルダー)である。前記スローアウェイチップ1が支持体6に取り付けられて切削工具5を形成している。支持体6に用いられる材料に特に制限はないが、通常は、金属が用いられる。この発明の切削工具は、スローアウェイチップ1と支持体6とを有していれば、図2に示される形状に拘束されることはない。
【0029】
【実施例】
以下に、実施例を挙げてこの発明をさらに詳細に説明するが、これら実施例によってこの発明はなんら限定されるものではない。
【0030】
実施例
基材としてK20種相当の超硬材料を用い、図3に示すすくい面および座グリ加工部を有するスローアウェイチップを形成した。図3において、7は基材、8は座グリ加工部を表す。このすくい面に、1400℃で3時間、熱処理を施し、すくい面の粗面化を行った。すくい面の面粗度を表す十点平均粗さ(RZJIS)は、4〜6μmであった。
【0031】
次いで、このすくい面に、メタンと水素との混合ガスを用いた気相合成法(プラズマCVD法)によって製造された厚さ0.4mmの多結晶ダイヤモンドを、ろう材としてAg−Cu−Ti−In合金を用い、高周波ろう付けによって接合した。接合の際の多結晶ダイヤモンドの接合面の面粗度を表す最大高さ(RZ)は18μmとし、多結晶ダイヤモンドの接合面に対し反対側にある面の十点平均粗さ(RZJIS)は0.4μmとした。
【0032】
このようにして得られたスローアウェイチップを支持体(ホルダー)に取り付けて、図2に示す切削工具とし、この切削工具を用いて、下記の条件で切削試験を実施した。
被削材:アルミニウム合金
切削加工:フライス加工
切削速度:V=1500m/min
送り量:f=1.0mm/刃
有効切れ刃:6.5mm
結果:多結晶ダイヤモンドの剥離は、送り量1.0mm/刃においても、全く認められなかった。
【0033】
比較例
すくい面に対する熱処理を行わなかったこと、すくい面の面粗度を表す最大高さ(RZ)が1.0μmであったこと、多結晶ダイヤモンドの接合面の面粗度を表す最大高さ(RZ)が18μmであり、多結晶ダイヤモンドの接合面に対し反対側にある面の最大高さ(RZ)が0.4μmであったこと以外は、実施例と同様にした。その結果、切削試験を開始し、送り量0.6mm/刃において、多結晶ダイヤモンドが剥離した。
【0034】
【発明の効果】
この発明によれば、ろう付けした多結晶ダイヤモンドの剥離が防止された、特に高切込み切削加工に好適なスローアウェイチップおよびこのスローアウェイチップを有して成る切削工具が提供され、工具の製造分野に寄与するところはきわめて多大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】スローアウェイチップの一例を示す図である。
【図2】切削工具の一例を示す図である。
【図3】切削工具の一例を拡大した図である。
【符号の説明】
1 スローアウェイチップ
2 すくい面
3 座グリ加工部
3−1 当接面
3−2 配設面
4 逃げ面
5 切削工具
6 支持体(ホルダー)
7 基材
8 座グリ加工部
【発明の属する技術分野】
この発明は、スローアウェイチップおよび切削工具に関し、さらに詳しくは、特に高切込み切削加工に好適なスローアウェイチップおよびこのスローアウェイチップを有して成る切削工具に関する。
【0002】
【従来の技術】
耐熱性、耐磨耗性および耐衝撃性を有する基材に多結晶ダイヤモンドをろう付けしたスローアウェイチップを有する工具は、切削工具として広く使用されている。このような工具として、これまでに、多結晶ダイヤモンドを、融点700〜1300℃の合金ろう材により金属または合金から成る基材にろう付けした工具が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
特許第2607592号公報(請求項1)
【0004】
しかしながら、この工具は、被削材を切込み量が基材の有効切れ刃に限りなく近づくまで切削加工(以下、「高切込み切削加工」という。)した場合、その高切込み切削加工に伴い切削抵抗が増大し、そのまま切削加工を強行すると切削温度が上昇して、ろう付けした多結晶ダイヤモンドが基材から剥離し易くなるという問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、このような従来の問題点を解消し、ろう付けした多結晶ダイヤモンドの剥離が防止された、特に高切込み切削加工に好適なスローアウェイチップおよびこのスローアウェイチップを有して成る切削工具を提供することをその課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するために、基材のすくい面または座グリ加工部の表面状態について研究を重ねた結果、前記すくい面および/または座グリ加工部を粗面化することによって、前記課題が解決できるということを見出し、この知見に基づいてこの発明を完成するに到った。
【0007】
すなわち、この発明の前記課題を解決するための第1の手段は、
(1) 基材の粗面化されたすくい面および/または座グリ加工部に、多結晶ダイヤモンドをろう材によって接合して成ることを特徴とするスローアウェイチップである。
【0008】
この第1の手段における好ましい態様としては、下記▲1▼〜▲7▼のスローアウェイチップを挙げることができる。
▲1▼ 前記基材が、超硬合金であるスローアウェイチップ。
▲2▼ 前記粗面化されたすくい面および/または座グリ加工部が、化学処理または熱処理を施して成るスローアウェイチップ。
▲3▼ 前記粗面化されたすくい面および/または座グリ加工部の面粗度が、十点平均粗さ(RZJIS)で2〜15μmであるスローアウェイチップ。
▲4▼ 前記多結晶ダイヤモンドの厚さが、0.1〜1.0mmであるスローアウェイチップ。
▲5▼ 前記多結晶ダイヤモンドの厚さが、0.3〜0.5mmであるスローアウェイチップ。
▲6▼ 前記多結晶ダイヤモンドの接合面の面粗度が、十点平均粗さ(RZJIS)で低くとも15μmであり、前記前記多結晶ダイヤモンドの接合面に対し反対側にある面の面粗度が、十点平均粗さ(RZJIS)で高くとも2μmであるスローアウェイチップ。
▲7▼ 前記多結晶ダイヤモンドが、気相合成法によって製造され、前記ろう材が、Ti、Ag、CuおよびInから選ばれた少なくとも1種の金属を含有する合金であるスローアウェイチップ。
【0009】
この発明における前記課題を解決するための第2の手段は、
(2) 前記のスローアウェイチップと支持体とを有して成ることを特徴とする切削工具である。
【0010】
【発明の実施の形態】
この発明のスローアウェイチップは、基材の粗面化されたすくい面および/または座グリ加工部に、多結晶ダイヤモンドをろう材によって接合して成ることを特徴とする。
【0011】
スローアウェイチップとは、刃先が破損または摩耗して使用することができなくなった場合、再研削することなく、支持体から取りはずして使い捨てとすることのできる切削工具用の刃である。この刃としては、方形状、三角状、菱状などの刃を挙げることができ、その形状に特に制限はない。
【0012】
この発明のスローアウェイチップを形成する基材には、通常、スローアウェイチップに用いられる材料であれば特に制限はないが、超硬合金が好ましく用いられる。超硬合金としては、炭化タングステン(WC)系超硬合金を挙げることができ、具体的には、例えば、K01:WC−Co(W91質量%、Co5質量%、C4質量%)、K10:WC−Co(W87質量%、Co7質量%、C6質量%)、K20:WC−Co(W87質量%、Co8質量%、C5質量%)、P10:WC−TiC−TaC−Co(W50質量%、Ti16質量%、Ta17質量%、Co9質量%、C8質量%)などを挙げることができる。なお、K01、K10、K20およびP10は、JIS B 4053に基づく使用分類記号である。
【0013】
また、この発明のスローアウェイチップを形成する基材には、サーメット、セラミックスまたは立方晶窒化ホウ素を用いることもできる。
【0014】
この発明においては、前記基材のすくい面および/または座グリ加工部が粗面化されていることを特徴とする。図1にスローアウェイチップの一例を示す。1はスローアウェイチップ、2はすくい面、3は座グリ加工部、4は逃げ面である。この例においては、座グリ加工部3は、すくい面2に対してほぼ垂直に形成されると共に多結晶ダイヤモンドから成る切削刃を当接する当接面3−1と前記当接面3−1に接すると共に前記すくい面2にほぼ並行に形成されて、前記切削刃を配設可能とする配設面3−2とから形成されている。この発明では、前記すくい面2もしくは座グリ加工部3またはすくい面2と座グリ加工部3との双方が粗面化されている。
【0015】
前記基材のすくい面および/または座グリ加工部を粗面化する手段に特に制限はないが、化学処理を施す手段または熱処理を施す手段が好ましく採用される。化学処理を施す手段としては、例えば、基材を硝酸または塩酸などの酸に浸漬し、基材の表面に存在するCo、Niなどの金属成分を溶脱させることによって、基材の表面に凹凸形状を形成させる方法を挙げることができる。この化学処理を施すときの浸漬条件に制限はないが、通常は常温で0.5〜1.0時間、浸漬処理される。
【0016】
また、熱処理を施す手段としては、例えば、基材を真空中に、1300〜1500℃で3〜5時間放置し、基材中に含まれる炭化タングステンなどの金属化合物を粒成長させることによって、基材の表面に凹凸形状を形成させる方法を挙げることができる。
【0017】
前記の化学処理または熱処理は、基材の表面を粗面化する処理の一態様であって、基材の表面に凹凸形状を形成させるなどして粗面化することができる処理手段であれば、必ずしも化学処理または熱処理手段に拘束されることはなない。例えば、基材の表面を荒研磨することにより凹凸形状を形成させることもできる。
【0018】
この発明においては、前記基材の少なくともすくい面および/または座グリ加工部が粗面化されていれば足り、すくい面および座グリ加工部以外の部分は粗面化されていてもよく、粗面化されていなくてもよい。前記基材のすくい面および/または座グリ加工部は、平滑状態になく、粗面化されていれば、その粗面化の程度に特に制限はないが、その面粗度が、十点平均粗さ(RZJIS)で2〜15μmであることが好ましい。
【0019】
ここに十点平均粗さ(RZJIS)とは、断面曲線から基準長さだけ抜き取った部分において、平均線に平行であって、かつ断面曲線を横切らない直線から縦倍率の方向に測定した最高から5番目までの山頂の標高の平均値と最深から5番目までの谷底の標高の平均値との差をいう。
【0020】
前記面粗度において、十点平均粗さ(RZJIS)が2μm以上の場合、切削部材である多結晶ダイヤモンドが基材から剥離し難くなり、15μm以下である場合、熱処理による粗面化を行うときに、熱処理時間が長くなることがなく、基材が反り易くなるという事態を回避または抑制することができるからである。
【0021】
この発明のスローアウェイチップは、前記のとおり、基材の粗面化されたすくい面および/または座グリ加工部に、多結晶ダイヤモンドをろう材によって接合して成る。
【0022】
多結晶ダイヤモンドは、単結晶ダイヤンド粒子の集合体である。この発明において用いるダイヤモンドは多結晶ダイヤモンドであれば、天然ダイヤモンドであってもよく、人工ダイヤモンドであってもよいが、気相合成法によって製造された人工多結晶ダイヤモンドは、安価であり、方向性に偏りがないことから好ましく用いられる。
【0023】
多結晶ダイヤモンドの気相合成法には、これまでに種々の方法が開発されており、この発明においては、いずれの合成法を採用した多結晶ダイヤモンドであっても用いることができる。この気相合成法による多結晶ダイヤモンドは、例えば、所定割合に混合された一酸化炭素と水素とを含有する混合ガスを、プラズマCVD法、スパッタ法、イオン蒸着法、イオンビーム蒸着法、熱フィラメント法などによって励起し、シリコン、アルミニウム、タングステンなどの金属、これらの酸化物、窒化物または炭化物、サーメット、セラミックスなどの基板に接触させることによって、基板上にダイヤモンドを析出、堆積させて製造される。
【0024】
接合される多結晶ダイヤモンドの厚さに特別の制限はないが、通常は0.1〜1.0mm、好ましくは0.3〜0.5mmである。多結晶ダイヤモンドの厚さが0.1mm以上の場合、逃げ面方向への摩耗の進行に伴うスローアウェイチップの寿命を伸ばすことができ、1.0mm以下の場合、ろう付け後の外周研磨時にその研削性が良好となって生産性を向上させることができるからである。
【0025】
また、接合される多結晶ダイヤモンドの接合面の面粗度が、十点平均粗さ(RZJIS)で低くとも15μmであることが好ましく、この場合、前記基材のすくい面または座グリ加工部の面粗度と相まって、多結晶ダイヤモンドの接合はより強固なものとなる。さらに、前記接合面に対し反対側にある面の面粗度が、十点平均粗さ(RZJIS)で高くとも2μmであることが好ましく、この場合、切りくずがスローアウェイチップ上面に溶着することによる被削材精度の悪化を防止することができる。
【0026】
この発明においては、前記多結晶ダイヤモンドはろう材によって接合される。ろう材は、用いる基材とは異質の融点の低い合金であって、例えば、Ag−Cu−Zn−CdにNiを添加した多元素系の銀ろう(JIS Z 3261:1985)を用いることが一般的である。しかし、環境問題を考慮して、近年はCdを含まないろう材が主流となっている。この発明で用いるろう材は、Ti、Ag、CuおよびInから選ばれた少なくとも1種の金属を含有する合金であることが好ましい。
【0027】
ろう材による接合方法にも特別の制限はなく、通常の接合方法を採用することができる。例えば、トーチろう付け、高周波ろう付け、炉中ろう付けなどの接合方法を挙げることができ、熱源としては、電気、ガス、プラズマなどを用いることができる。実際のろう付けに当たっては、直接ろう材を介して接合する他に、熱膨張係数の相違から発生する応力を吸収するために、銅板を間に挟んだサンドイッチろうも使用される。この発明における好適な接合方法としては、高周波ろう付けを挙げることができる。
【0028】
この発明はまた、前記のスローアウェイチップと支持体とを有して成ることを特徴とする切削工具を提供する。図2にこの発明の切削工具を示す。5は切削工具、6は支持体(ホルダー)である。前記スローアウェイチップ1が支持体6に取り付けられて切削工具5を形成している。支持体6に用いられる材料に特に制限はないが、通常は、金属が用いられる。この発明の切削工具は、スローアウェイチップ1と支持体6とを有していれば、図2に示される形状に拘束されることはない。
【0029】
【実施例】
以下に、実施例を挙げてこの発明をさらに詳細に説明するが、これら実施例によってこの発明はなんら限定されるものではない。
【0030】
実施例
基材としてK20種相当の超硬材料を用い、図3に示すすくい面および座グリ加工部を有するスローアウェイチップを形成した。図3において、7は基材、8は座グリ加工部を表す。このすくい面に、1400℃で3時間、熱処理を施し、すくい面の粗面化を行った。すくい面の面粗度を表す十点平均粗さ(RZJIS)は、4〜6μmであった。
【0031】
次いで、このすくい面に、メタンと水素との混合ガスを用いた気相合成法(プラズマCVD法)によって製造された厚さ0.4mmの多結晶ダイヤモンドを、ろう材としてAg−Cu−Ti−In合金を用い、高周波ろう付けによって接合した。接合の際の多結晶ダイヤモンドの接合面の面粗度を表す最大高さ(RZ)は18μmとし、多結晶ダイヤモンドの接合面に対し反対側にある面の十点平均粗さ(RZJIS)は0.4μmとした。
【0032】
このようにして得られたスローアウェイチップを支持体(ホルダー)に取り付けて、図2に示す切削工具とし、この切削工具を用いて、下記の条件で切削試験を実施した。
被削材:アルミニウム合金
切削加工:フライス加工
切削速度:V=1500m/min
送り量:f=1.0mm/刃
有効切れ刃:6.5mm
結果:多結晶ダイヤモンドの剥離は、送り量1.0mm/刃においても、全く認められなかった。
【0033】
比較例
すくい面に対する熱処理を行わなかったこと、すくい面の面粗度を表す最大高さ(RZ)が1.0μmであったこと、多結晶ダイヤモンドの接合面の面粗度を表す最大高さ(RZ)が18μmであり、多結晶ダイヤモンドの接合面に対し反対側にある面の最大高さ(RZ)が0.4μmであったこと以外は、実施例と同様にした。その結果、切削試験を開始し、送り量0.6mm/刃において、多結晶ダイヤモンドが剥離した。
【0034】
【発明の効果】
この発明によれば、ろう付けした多結晶ダイヤモンドの剥離が防止された、特に高切込み切削加工に好適なスローアウェイチップおよびこのスローアウェイチップを有して成る切削工具が提供され、工具の製造分野に寄与するところはきわめて多大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】スローアウェイチップの一例を示す図である。
【図2】切削工具の一例を示す図である。
【図3】切削工具の一例を拡大した図である。
【符号の説明】
1 スローアウェイチップ
2 すくい面
3 座グリ加工部
3−1 当接面
3−2 配設面
4 逃げ面
5 切削工具
6 支持体(ホルダー)
7 基材
8 座グリ加工部
Claims (9)
- 基材の粗面化されたすくい面および/または座グリ加工部に、多結晶ダイヤモンドをろう材によって接合して成ることを特徴とするスローアウェイチップ。
- 前記基材が、超硬合金である請求項1に記載のスローアウェイチップ。
- 前記粗面化されたすくい面および/または座グリ加工部が、化学処理または熱処理を施して成る請求項1または2に記載のスローアウェイチップ。
- 前記粗面化されたすくい面および/または座グリ加工部の面粗度が、十点平均粗さ(RZJIS)で2〜15μmである請求項1〜3のいずれか一項に記載のスローアウェイチップ。
- 前記多結晶ダイヤモンドの厚さが、0.1〜1.0mmである請求項1〜4のいずれか一項に記載のスローアウェイチップ。
- 前記多結晶ダイヤモンドの厚さが、0.3〜0.5mmである請求項1〜4のいずれか一項に記載のスローアウェイチップ。
- 前記多結晶ダイヤモンドの接合面の面粗度が、十点平均粗さ(RZJIS)で低くとも15μmであり、前記多結晶ダイヤモンドの接合面に対し反対側にある面の面粗度が、十点平均粗さ(RZJIS)で高くとも2μmである請求項1〜6のいずれか一項に記載のスローアウェイチップ。
- 前記多結晶ダイヤモンドが、気相合成法によって製造され、前記ろう材が、Ti、Ag、CuおよびInから選ばれた少なくとも1種の金属を含有する合金である請求項1〜7のいずれか一項に記載のスローアウェイチップ。
- 請求項1〜8のいずれか一項に記載のスローアウェイチップと支持体とを有して成ることを特徴とする切削工具。
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-
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