JP2004168701A - 無機イオン性分子結晶 - Google Patents

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Abstract

【課題】紫外線吸収剤、ビタミンC補給剤およびESR放射線線量計の検出素子材料として使用可能な無機イオン性分子結晶を提供する。
【解決手段】アスコルビン酸含有の0.1モル炭酸ナトリウム水溶液400mlに、1モル塩化カルシウム水溶液40mlを加えることにより、炭酸カルシウム結晶を析出させる。このようにして得られた炭酸カルシウムは、その結晶内部にアスコルビン酸を含有する。このアスコルビン酸の作用により、この炭酸カルシウムは、図1に示すように、UVB領域に紫外線吸収を示し、また、ESR放射線線量計およびビタミンC補給剤としても使用できる。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、紫外線吸収剤、ビタミンC補給剤および電子スピン共鳴(ESR)放射線線量計の検出素子材料等として使用可能である新規の無機イオン性分子結晶に関する。
【0002】
【従来の技術】
アスコルビン酸は、別名、ビタミンCとして知られており、生体の必須栄養素である。アスコルビン酸が欠乏すると、皮膚を構成するコラーゲンにおいて、プロリンがハイドロキシプロリンに変換できず、この結果、壊血病になってしまう。この他、アスコルビン酸は、抗酸化機能を有しており、生体内で発生したフリーラジカルを消去したりしている。このため、アスコルビン酸は、栄養補助剤として一般に市販されている。また、抗酸化機能に着目されて、アスコルビン酸は、食品や医薬品等の酸化防止剤として汎用されている。このように、アスコルビン酸は、その機能について様々な研究がなされており、いろいろな分野で使用されている。しかしながら、アスコルビン酸に関するこれまでの研究は、全て水溶液中のものであり、固体中での働きについての研究は少なく、例えば、無機イオン性分子結晶中での働きについては、研究されていなかった。
【0003】
一方、紫外線吸収剤、ビタミンC補給剤およびESR放射線線量計について、従来から、つぎのような問題が指摘されている。
【0004】
まず、従来の紫外線吸収剤としては、パラジメチルアミノ安息香酸オクチル等のパラアミノ安息香酸系、オキシベンゾン等のベンゾフェノン誘導体、メトキシ桂皮酸誘導体、サリチル酸誘導体等がある。しかしながら、これら従来の紫外線吸収剤を人の皮膚に使用する場合は、表皮全体に結合するおそれがあり、このため、接触性皮膚炎若しくは光接触性皮膚炎を起すおそれがあるといわれている。このような問題を考慮して、上記の紫外線吸収剤に代えて紫外線散乱剤が使用されるようになってきた。紫外線散乱剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛等がある。しかしながら、これらの紫外線散乱剤は、粉体表面での光触媒活性が高いため、配合成分の安定性に問題があり、このため各種表面処理等を施して活性および反応性を弱めているが、問題が完全に解決されているわけではない。
【0005】
つぎに、ビタミンC補給剤は、アスコルビン酸若しくはその塩を、そのまま使用したものや、賦型剤で錠剤化したもの等がある。しかしながら、ビタミンCは水に容易に溶けて酸素と反応して分解されるという問題がある。また、ビタミンCは、酸味を有するため、これを食品や清涼飲料にそのまま添加すると、味が変質するという問題がある。
【0006】
つぎに、従来の放射線計測器としては、写真フィルムの黒化を利用したフィルムバッジや、放射線により生じる電子とホールの再結合発光を利用するシンチレーション計測器、電離電流パルスを半導体PN接合で測定する半導体検出器、熱ルミネッセンス線量計、光刺激ルミネッセンス線量計など種々のものがある。この他に、近年、電子スピン共鳴(ESR)の原理を用いて被爆体のマイクロ波吸収を観測して線量を得るESR線量計の開発が進んでいる。電子スピン共鳴とは、スピン量子数Sを持つ不対電子が静磁場におかれると、エネルギー準位が2S+1個にゼーマン分裂するが、この隣り合った準位間に等しいマイクロ波を加えると共鳴的に吸収が起きる現象をいう。特許文献1に記載のESR放射線線量計は、無機結晶材料に放射線を照射した際に、化学結合が切断されて生じる不対電子の個数を、電子スピン共鳴を用いて測定し、被爆線量を得るというものである。ESR線量計は、非破壊測定器であるので、吸収線量を読み取ってもこの吸収線量が消えないという点で法的証拠能力があり、熱ルミネッセンス線量計、光刺激ルミネッセンス線量計にない利点を有する。ESR放射線線量計の検出素子材料としては、アミノ酸や砂糖等の有機物質が使用される場合があり、アラニンを検出素子材料として用いたESR放射線線量計は、中高線領域の標準的な線量計として普及している。この検出素子は、例えば、アラニン粉末をペレット状に圧縮成形したものを、パラフィンに埋め込んで固形化して作製される。この検出素子に放射線や光を曝して、ESR線量計でそのラジカルの量を測定するのである。この測定方法は、以下のように実施される。すなわち、まず、被爆後の検出素子材料を内径4mm程度の石英試料管にいれて、マイクロ波空洞共振器中に設置する。マイクロ波出力は一定にしておいて、磁場変調を掛ける。磁場変調により、変調された信号を増幅器によって増幅し、マイクロ波吸収信号 P(H)の一次微分形dP/dHとして信号を取り出し、これを放射線量に換算する。
【0007】
しかしながら、従来のESR放射線線量計は、感度が著しく低いという問題を有する。例えば、0.1Gyから20Gyを必要とする輸血用血液の放射線殺菌等において、従来のESR放射線線量計は、使用できなかった。感度が低くなる理由は、二つある。第1の理由は、アラニンを検出素子材料として使用したESR放射線線量計では、ESR吸収曲線の線幅( ̄0.6mT)が広いので、その信号強度が小さくなり、ラジカルの濃度の測定範囲が低くなるからである。これは、ラジカル濃度がESR吸収曲線の面積に比例するからである。第2の理由は、アラニン結晶を粉砕し粉末にするときにできる信号が重なっているためである。これらの他に、従来のESR放射線線量計の問題としては、電子スピン共鳴の測定条件として、マイクロ波の出力強度1mW、変調磁場強度0.1mT以上を必要とし、そのため高性能な電子スピン共鳴装置を必要とするという問題があげられる。
【0008】
【特許文献1】
特公昭61―56959号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、紫外線吸収剤、ビタミンC補給剤およびESR放射線線量計の検出素子材料等に使用可能であって、これらの従来の問題点を解決可能な新規の無機イオン性分子結晶の提供を、その目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本発明の無機イオン性分子結晶は、無機酸および金属を含む無機イオン性分子結晶であって、この結晶内に、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、アスコルビン酸誘導体およびアスコルビン酸イオンの少なくとも一つ(以下「アスコルビン酸等」ともいう)を含有する。
【0011】
この無機イオン性分子結晶は、その内部にアスコルビン酸等を含有しているため、これにより、例えば、紫外線吸収剤、ビタミンC補給剤およびESR放射線線量計の検出素子材料として使用でき、しかも、これらの従来の問題を解決できる。なお、従来、無機イオン性分子結晶とアスコルビン酸等との混合物があったかもしれないが、本発明は、このような混合物ではなく、無機イオン性分子結晶内に、アスコルビン酸等が存在する点が、特徴である。
【0012】
例えば、本発明の無機イオン性分子結晶は、その内部にアスコルビン酸等を含有するため、アスコルビン酸単体に比べてバンド幅の広い紫外線吸収作用を有する。したがって、これを含む紫外線吸収剤は、皮膚への結合および光触媒反応による不都合が生じることがなく、しかも良好な紫外線吸収作用を示す。
【0013】
また、本発明の無機イオン性分子結晶は、その内部にアスコルビン酸等を含有するため、酸性以外の水にアスコルビン酸等が溶け出すことがなく、外部から遮断されているため、酸素による酸化分解も防止され、かつ食品や清涼飲料水等の味にも影響を与えない。
【0014】
そして、本発明の無機イオン性分子結晶をESR放射線線量計の検出素子材料として使用すれば、ESR吸収曲線の線幅が、例えば、従来の60分の1程度、マイクロ波出力強度を、例えば、従来の100分の1程度、変調磁場を、例えば、従来の10分の1程度に抑制しつつも、高感度を実現することができる。この結果、例えば、医療用放射線量計(例えば、輸血用血液放射線殺菌用や放射線治療用)としても使用できるESR放射線線量計も可能となる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0016】
本発明の無機イオン性分子結晶において、前記金属は、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、ストロンチウム、カルシウム、マグネシウムおよびバリウムがある。これらの金属は、単独で使用してもよく、2種類以上で併用してもよい。このなかでも、好ましいのは、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムであり、より好ましいのはカルシウムである。
【0017】
本発明の無機イオン性分子結晶において、前記無機酸は、例えば、炭酸、硫酸、リン酸がある。このなかでも、炭酸が好ましい。
【0018】
本発明の無機イオン性分子結晶の具体例としては、炭酸カルシウム結晶、炭酸マグネシウム結晶、炭酸バリウム結晶、硫酸カルシウム結晶、硫酸マグネシウム結晶、硫酸バリウム結晶、リン酸カルシウム結晶、炭酸マグネシウムカルシウム[CaMg(CO]結晶等がある。このなかで、好ましいのは炭酸カルシウム結晶である。
【0019】
本発明の無機イオン性分子結晶には、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、アスコルビン酸誘導体およびアスコルビン酸イオンの少なくとも一つが含まれている。アスコルビン酸塩としては、例えば、アスコルビン酸ナトリウム塩、アスコルビン酸カリウム塩およびアスコルビン酸カルシウム塩等があり、これらは単独で使用してもよく、2種類以上で併用してもよい。アスコルビン酸イオンは、1価と2価があり、pHによって変化する。アスコルビン酸からアスコルビン酸イオン(1価)に変化する場合のpKは、4.1であり、アスコルビン酸イオン(1価)からアスコルビン酸イオン(2価)に変化する場合のpKは11.57である。紫外線吸収剤に使用する場合は、UVB領域に吸収を持つ2価のアスコルビン酸イオンが多く含まれることが好ましく、ESR放射線線量計の検出素子材料に使用する場合は、1価のアスコルビン酸イオンのラジカルが有用であるから、1価のアスコルビン酸イオンが多く含まれることが好ましい。アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、アスコルビン酸誘導体およびアスコルビン酸イオンの合計若しくは単独の含有量は、特に制限されないが、これを含む無機イオン性分子結晶全体に対し、例えば、0.001〜10質量%の範囲であり、紫外線吸収剤の用途の場合、好ましくは1〜5質量%であり、ESR放射線線量計の用途の場合、好ましくは0.001〜0.1質量%の範囲である。
【0020】
つぎに、本発明の無機イオン性分子結晶の製造方法は、特に制限されないが、例えば、つぎの第1の製造方法と、第2の製造方法とがある。
【0021】
前記第1の製造方法は、無機酸イオン水溶液および金属イオン水溶液の少なくとも一方に、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩およびアスコルビン酸誘導体の少なくとも一つを含有させ、前記両水溶液を混合して無機イオン性分子結晶を析出させる際に、前記結晶中に、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、アスコルビン酸誘導体およびアスコルビン酸イオンの少なくとも一つを含有させる製造方法である。前記両水溶液の混合方法は、特に制限されず、例えば、一方の溶液に他方の溶液を加えても良い。この他、ある容器に、前記両水溶液を混ぜながら注入することで混合してもよい。後者の方法の場合、例えば、スプレーを用いて混合することができる。
【0022】
前記無機酸水溶液としては、例えば、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸アンモニア水溶液、硫酸ナトリウム水溶液、硫酸カリウム水溶液、リン酸アンモニア水溶液等がある。また、金属イオン水溶液としては、例えば、塩化カルシウム水溶液、酢酸カルシウム水溶液、塩化マグネシウム水溶液、塩化ストロンチウム水溶液、塩化バリウム水溶液等がある。また、無機酸イオンと金属イオンのモル比は、1:1が好ましい。例えば、0.1M炭酸ナトリウム水溶液に、これの1/10体積量の1M塩化カルシウム水溶液を加えて炭酸カルシウム結晶を析出させてもよい。この他に、0.1M炭酸ナトリウム水溶液に、0.1M塩化カルシウム水溶液を混ぜながら容器に注ぎ込んで、炭酸カルシウムを析出させてもよい。なお、本発明の水溶液に使用する水は、特に制限されないが、イオン交換水、蒸留水、超純水等が好ましい。また、アスコルビン酸イオンの価数を調整する方法として、例えば、無機酸水溶液のpHを調整して、これにアスコルビン酸若しくはアスコルビン酸塩を添加すればよい。例えば、pH11.41の炭酸ナトリウム水溶液にアスコルビン酸若しくはその塩を加えれば、2価のイオンが多く存在し、炭酸カルシウムと炭酸ナトリウムの混合水溶液(pH11.05)にアスコルビン酸若しくはその塩を加えれば、1価のイオンが多く存在する。pHの調整方法は、特に制限されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ性物質や、塩酸、硫酸等の酸性物質を添加することにより、行ってもよい。
【0023】
前記第2の製造方法は、無機酸イオン水溶液に、アスコルビン酸金属塩を添加して無機イオン性分子結晶を析出させる際に、前記結晶中にアスコルビン酸、アスコルビン酸塩およびアスコルビン酸イオンの少なくとも一つを含有させる製造方法である。
【0024】
つぎに、本発明の紫外線吸収剤は、前記本発明の無機イオン性分子結晶を含むものである。本発明の無機イオン性分子結晶の吸収波長は、例えば、250〜320nmの範囲であり、UVB領域(280〜315nm)に吸収波長を持つのが特徴である。なお、アスコルビン酸自身は、UVB領域に顕著な吸収波長を持たない。前記紫外線吸収剤全体に対する前記無機イオン性分子結晶の含有割合は、特に制限されず、例えば、0.001〜100質量%の範囲である。本発明の紫外線吸収剤における無機イオン分子結晶中のアスコルビン酸等の割合は、特に制限されないが、前記無機イオン性分子結晶全体に対し、例えば、0.1〜5質量%の範囲、好ましくは、0.5〜2質量%の範囲、より好ましくは1〜2質量%の範囲である。前記紫外線吸収剤は、その他の成分として、紫外線散乱剤、グリセリン、その他の紫外線吸収剤等を含んでいてもよい。前記紫外線散乱剤との併用により、本発明の紫外線吸収剤は、紫外線遮断波長帯幅が広がる。前記紫外線散乱剤としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛等がある。紫外線散乱剤の含有割合は、特に制限されず、紫外線吸収剤全体に対し、例えば、0.01〜10質量%の範囲である。また、紫外線散乱剤の粒径は、特に制限されないが、例えば、0.001〜0.1μmの範囲である。一方、グリセリンを含むことによって、無機イオン性分子結晶の形態を粉体から、流動性のものに変えることができ、これによって用途が広がる。また、グリセリンを配合して流動性を持たせることにより、粉体の場合に比べて、紫外線吸収剤における表面の無機イオン性分子結晶の割合を増加させることができ、この結果、紫外線吸収効果を維持しつつ無機イオン性分子結晶の配合量を減少させることが可能となる。グリセリンの配合割合は、特に制限されず、紫外線吸収剤全体に対し、例えば、10〜70質量%の範囲である。本発明の紫外線吸収剤は、化粧品、医薬品、衣料品、樹脂添加剤、紙、ゴム、プラスチック等、様々な用途に使用できる。
【0025】
つぎに、本発明のビタミンC補給剤は、前記本発明の無機イオン性分子結晶を含む。前述のように、この無機イオン性分子結晶は、その内部にアスコルビン酸等を含むため、アスコルビン酸等は外部と遮断された状態にある。本発明のアスコルビン酸補強剤において、前記無機イオン性分子結晶の割合は、特に制限されず、前記補強剤全体に対し、例えば、0.001〜100質量%である。本発明のビタミンC補給剤における無機イオン分子結晶中のアスコルビン酸等の割合は、特に制限されないが、前記無機イオン性分子結晶全体に対し、例えば、0.001〜10質量%の範囲、好ましくは、0.1〜5質量%の範囲、より好ましくは1〜5質量%の範囲である。また、本発明のビタミンC補給剤は、例えば、他のビタミン類(A,B群、D、E等)、アミノ酸類、ミネラル類(亜鉛、カルシウム等)等のその他の成分を含んでいてもよい。また、本発明のビタミンC補給剤の形態は、特に制限されず、例えば、粉末、錠剤等であってもよい。また、本発明のビタミンC補強剤は、通常のビタミン剤(サプリメント)の他に、例えば、歯磨き粉(出血防止等)、カルシウムサプリメント(カルシウムの吸収を助ける等)、ヨーグルト等の乳製品に使用してもよい。
【0026】
つぎに、本発明のESR放射線線量計の検出素子材料は、前記本発明の無機イオン性分子結晶を含む。この検出素子は、例えば、検出素子材料が粉末の場合、この粉末をカプセルに入れたもの、またはこの粉末を融剤によって、ポリスチレンやパラフィンなどと固定化したものであってもよい。また、検出素子の形状は、特に制限されず、ロッド状、板状、テープ状等、種々の形状が可能である。また、本発明の検出素子材料における無機イオン分子結晶中のアスコルビン酸等の割合は、特に制限されないが、前記無機イオン性分子結晶全体に対し、例えば、0.01〜0.3質量%の範囲、好ましくは、0.05〜0.2質量%の範囲である。
【0027】
前記無機イオン性分子結晶において、二種類以上の金属イオンを用いる場合は、それらの金属イオンの含有率を調整することで、また、添加するアスコルビン酸等の量を調整することで、前記検出素子材料の放射線に対する感度を調整することが可能である。また、前記検出素子材料を加熱して、添加したアスコルビン酸等を熱的に分解することにより、検出素子材料の放射線に対する感度を調整することも可能である。
【0028】
本発明のESR放射線線量計の検出素子材料において、前記無機イオン性分子結晶は、不対電子若しくはラジカルの強度校正用としての常磁性金属イオンを含むことが好ましい。常時性金属イオンとしては、例えば、マンガンイオン、クロムイオン、銅イオン等がある。これらは、単独で使用してもよく、2種類以上で併用してもよい。このなかでも、好ましいのは、マンガンイオン、クロムイオンであり、より好ましいのは、マンガンイオンである。また、常磁性金属イオンの割合は、無機イオン性分子結晶全体に対し、例えば、1〜500ppmであり、好ましくは10〜50ppmである。常磁性金属イオンは、前記無機酸イオン水溶液若しくは前記金属イオン水溶液または双方に添加することにより、無機イオン性分子結晶の析出の際に、前記結晶中に含ませることができる。
【0029】
つぎに、本発明のESR放射線線量計は、放射線によって不対電子を生じる検出材料を定型化した検出素子と、前記検出材料中のESRを測定する装置とを有し、前記検出材料の不対電子の濃度若しくは前記不対電子を含むラジカルの濃度を測定し、この測定値から放射線量を決定するESR放射線線量計であって、前記検出材料が、前記本発明の検出素子材料を含む。本発明のESR放射線線量計を用いた放射線の測定は、例えば、以下のようにして行う。
【0030】
すなわち、まず、本発明の無機イオン性分子結晶をペレット状に圧縮成形したものを、パラフィンに埋め込んで固形化して検出素子を作製する。この検出素子を放射線や光を曝す。そして、被曝後の検出素子を内径4mm程度の石英試料管にいれて、マイクロ波空洞共振器中に設置する。マイクロ波出力は一定にしておいて、磁場変調を掛ける。磁場変調により、変調された信号を増幅器によって増幅し、マイクロ波吸収信号 P(H)の一次微分形dP/dHとして信号を取り出し、これを放射線量に換算する。
【0031】
【実施例】
つぎに、本発明の実施例について説明する。
【0032】
(実施例1)
0.1M炭酸ナトリウム水溶液400mlおよび1M塩化カルシウム水溶液40mlを準備した。そして、前記炭酸ナトリウム水溶液に、アスコルビン酸を3.1g若しくは0.31g添加した。アスコルビン酸の添加量は、これを含む炭酸カルシウム結晶全体の1質量%若しくは0.1質量%となるように調整した量である。そして、前記炭酸ナトリウム水溶液に前記塩化カルシウム水溶液を加えることにより、結晶内部にアスコルビン酸を含む炭酸カルシウム結晶を析出させた。得られた結晶は、アスコルビン酸濃度が、0.1質量%と1質量%の2種類である。
【0033】
前記2種類のアスコルビン酸含有炭酸カルシウム結晶について、各波長における吸光度を測定した。この測定は、積分球を用いた拡散反射測定により行い、標準試料として硫酸バリウムを用い、測定機は、島津製作所のSimazu UV−3101PCを用いた。また、コントロールとして、アスコルビン酸(ビタミンC)および炭酸カルシウムについても吸光度を測定した。この結果を、図1に示す。同図において、曲線Aは、アスコルビン酸1質量%含有の炭酸カルシウムの吸光度を示し、曲線Bは、アスコルビン酸0.1質量%含有の炭酸カルシウムの吸光度を示し、曲線Cは炭酸カルシウム単体の吸光度を示し、曲線Dは、アスコルビン酸(ビタミンC)単体の吸光度を示す。図示のように、アスコルビン酸含有炭酸カルシウムは、紫外線領域で吸光を示し、特にUVB領域で高い吸光を示した。また、アスコルビン酸の含有量を増やせば、吸光度も向上した。
【0034】
(実施例2)
実施例1と同じ方法により、アスコルビン酸を1質量%含有する炭酸カルシウムを調製した。これと、グリセリンとを、体積比1:1で混合し、これの吸光度を測定した。この測定も、実施例1と同じ方法で行った。また、参考例として、アスコルビン酸を1質量%含有する炭酸カルシウムの吸光度も併せて測定した。この結果を、図2に示す。同図において、上の曲線がグリセリンと混合した場合の吸光度を示し、下の曲線が、グリセリンと混合しない場合の吸光度を示す。図示のように、グリセリンと混合することによって、吸光度が向上した。
【0035】
(実施例3)
実施例1の方法において、炭酸ナトリウム水溶液に、酸化亜鉛(粒径0.02μm)を100mg添加し、アスコルビン酸6.2g若しくは0.62g添加した。また、酸化亜鉛は、超音波により粒子を前記水溶液に均一に分散させた。これら以外は、実施例1と同じ方法により、アスコルビン酸と酸化亜鉛を含有する炭酸カルシウムを調製し、この吸光度を測定した。この測定も、実施例1と同じ方法で行った。また、参考例として、アスコルビン酸を1質量%含有する炭酸カルシウムの吸光度も併せて測定した。この結果を、図3に示す。同図において、実線が、酸化亜鉛を含有する場合の吸光度を示し、点線が、酸化亜鉛を含有しない場合の吸光度を示す。図示のように、酸化亜鉛を配合することにより、UVB領域(280〜315nm)に加え、UVA領域(315〜380nm)においても、吸光が確認できた。
【0036】
(実施例4)
実施例1の方法において、炭酸ナトリウム水溶液に、アスコルビン酸を、種々濃度で添加した。これ以外は、実施例1と同じ方法により、種々濃度でアスコルビン酸を含有する炭酸カルシウムを調製し、この吸光度(293nm)を測定した。この測定も、実施例1と同じ方法で行った。その結果を、図4に示す。図示のように、アスコルビン酸の含有量が増加するにつれて、吸光度も上昇した。
【0037】
(実施例5、比較例1)
炭酸カリウムと炭酸ナトリウムからなる0.1M炭酸水溶液200mlおよび、0.1M塩化カルシウム水溶液を準備した。前記炭酸水溶液にアスコルビン酸ナトリウムを0.079g添加した。そして、前記炭酸水溶液と前記塩化カルシウム水溶液を一定の速度(1.3ml/sec)で同時にまぜ、混合液をビーカーに溜めることにより結晶内部にアスコルビン酸イオンを含む炭酸カルシウム結晶(白色粉末)を析出させた。得られた結晶は、アスコルビン酸濃度が0.08質量%である。この白色粉末をESR放射線線量計の検出素子とした。他方、粉末DL−アラニンを同様にESR放射線線量計の検出素子とし、これを比較例1とした。これらの検出素子に対し、γ線をそれぞれ照射した。これらの検出素子を、それぞれ内径4mm程度の石英試料管に約200mg納め、この石英試料管を空洞共振器の中に挿入した。そして、マイクロ波出力は一定にしておいて、磁場変調を掛けた。この磁場変調により、変調された信号を増幅器によって増幅し、マイクロ波吸収信号 P(H)の一次微分形dP/dHとして信号を取り出すことにより、ESR吸収信号を測定した。この測定の条件は、吸収線量が70グレイ(Gy)、変調磁場の幅が0.02mT、磁場走引幅が2mT、マイクロ波出力強度0.01mWである。この測定結果を、図5に示す。同図において、上の曲線が、DL−アラニンのESR吸収信号であり。下の曲線が、アスコルビン酸含有炭酸カルシウムのESR吸収信号である。図示のように、アスコルビン酸含有炭酸カルシウムの信号幅は、DL−アラニンの真中の信号にくらべ、約60分の1程度小さいことがわかる。
【0038】
つぎに、前記検出素子について、ESR測定時の設定条件のである磁場変調およびマイクロ波出力の最適条件を調べた。磁場変調の結果を、図6に示し、マイクロ波出力の結果を図7に示す。図6に示すようにマイクロ波出力0.02mWの条件では、アスコルビン酸含有炭酸カルシウムは、DL−アラニンに比べ、それぞれの変調磁場の最適条件(信号強度が飽和する直前の変調磁場)において、ESR信号強度が約3倍よい。また、図7に示すように変調磁場0.02mTでは、アスコルビン酸含有炭酸カルシウムは、DL−アラニンに比べ、それぞれのマイクロ波出力の最適条件(信号強度が飽和する直前の変調磁場)において、ESR信号強度が約10倍よい。これらの結果を総合すると、アスコルビン酸含有炭酸カルシウムの信号強度は、アラニンに対し、ほぼ半減するといえる。
【0039】
γ線を照射せずに、アスコルビン酸含有炭酸カルシウム検出素子およびDL−アラニン検出素子のESR信号を測定した。この測定において、アスコルビン酸含有炭酸カルシウムの条件は、マイクロ波出力0.02mW,調磁場0.02mTであり、DL−アラニンの条件は、マイクロ波出力5mW、変調磁場0.63mTであり、それぞれ最適の条件とした。この結果を、図8に示す。図示のように、未照射にもかかわらず、DL−アラニンには、すでにESR信号が存在し、最低検出線量は、この信号に依存する。これに対し、アスコルビン酸含有炭酸カルシウムは、ESR信号がなく、最低検出線量は、装置の性能に依存することになる。
【0040】
γ線を低量(680mGy)で照射して、アスコルビン酸含有炭酸カルシウム検出素子のESR信号を測定した。この時の条件は、マイクロ波出力0.02mW、変調磁場0.02mTであり、ESR測定装置として、JEOL RE−1X(日本電子社製)を使用した。この結果を、図9に示す。図示のように、γ線が低量であっても検出することができた。
【0041】
アスコルビン酸含有炭酸カルシウムラジカルおよびDL−アラニンラジカルの、ESR測定における熱安定性を、それぞれ調べた。また、参考例として、マンガンイオン含有炭酸カルシウムの熱安定性も調べた。加熱は、種々温度で15分間アニールすることにより、行った。すなわち、室温から徐々に温度を上げていくなかで、ある温度で15分間一定に保持した後、ESRを測定し、その後、昇温して次の温度で15分間一定に保持した後、またESRを測定し、というように、同じサンプルを種々温度で一定に15分間保持した後、その都度ESRを測定した。このような実験を等時焼鈍実験という。ESR測定の条件は、アスコルビン酸含有炭酸カルシウムの場合、マイクロ波出力0.02mW、変調磁場0.02mTであり、DL−アラニンの場合、マイクロ波出力1mW、変調磁場0.1mTであり、Mn2+の場合、マイクロ波出力1mW、変調磁場0.1mTである。これらの結果を図10に示す。図示のように、アスコルビン酸含有炭酸カルシウムは、DL−アラニンに比べ、約100℃ほど熱安定性に優れており、高温での熱安定性に優れていた。また、アスコルビン酸含有炭酸カルシウムは、室温での減衰率も十分に小さかった。
【0042】
アスコルビン酸含有炭酸カルシウムについて種々線量でγ線を照射し、そのESR信号強度を測定した。測定条件は、マイクロ波出力0.02mW、変調磁場0.02mTである。この結果を図11に示す。図示のように、γ線吸収量に比例して、ESR信号強度も上昇した。なお、最低検出感度(20mGy)は、S/N比で決めた。
【0043】
【発明の効果】
以上のように、本発明の無機イオン性分子結晶は、その結晶内部にアスコルビン酸等を有する。この無機イオン結晶は、例えば、紫外線吸収剤、ビタミンC補給剤およびESR検出素子材料に応用でき、しかも、これらの従来の問題点を解決できる。本発明の無機イオン性分子結晶は、その他の用途にも使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の無機イオン性分子結晶を紫外線吸収剤に応用した一実施例における吸光度の測定結果を示す図である。
【図2】図2は、本発明の無機イオン性分子結晶を紫外線吸収剤に応用したその他の実施例における吸光度の測定結果を示す図である。
【図3】図3は、本発明の無機イオン性分子結晶を紫外線吸収剤に応用したさらにその他の実施例における吸光度の測定結果を示す図である。
【図4】図4は、本発明の無機イオン性分子結晶を紫外線吸収剤に応用したさらにその他の実施例における吸光度の測定結果を示す図である。
【図5】図5は、本発明の無機イオン性分子結晶をESR放射線線量計の検出素子に応用した一実施例におけるESRスペクトルを示す図である。
【図6】図6は、本発明の無機イオン性分子結晶をESR放射線線量計の検出素子に応用したその他の実施例におけるESR信号強度と変調磁場との関係を示す図である。
【図7】図7は、本発明の無機イオン性分子結晶をESR放射線線量計の検出素子に応用したさらにその他の実施例におけるESR信号強度とマイクロ波出力との関係を示す図である。
【図8】図8は、本発明の無機イオン性分子結晶をESR放射線線量計の検出素子に応用したさらにその他の実施例におけるESRスペクトルを示す図である。
【図9】図9は、本発明の無機イオン性分子結晶をESR放射線線量計の検出素子に応用したさらにその他の実施例におけるESR信号を示す図である。
【図10】図10は、本発明の無機イオン性分子結晶をESR放射線線量計の検出素子に応用したさらにその他の実施例におけるアニーリング温度とESR信号強度との関係を示す図である。
【図11】図11は、本発明の無機イオン性分子結晶をESR放射線線量計の検出素子に応用したさらにその他の実施例におけるγ線照射線量とESR信号強度との関係を示す図である。

Claims (18)

  1. 無機酸および金属を含む無機イオン性分子結晶であって、この結晶内に、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、アスコルビン酸誘導体およびアスコルビン酸イオンからなる群から選択される少なくとも一つを含有する無機イオン性分子結晶。
  2. 金属が、ナトリウム、カリウム、リチウム、ストロンチウム、カルシウム、マグネシウムおよびバリウムからなる群から選択された少なくとも一つである請求項1記載の無機イオン性分子結晶。
  3. 無機酸が、炭酸、リン酸および硫酸の少なくとも一つである請求項1または2記載の無機イオン性分子結晶。
  4. 無機イオン性分子結晶が、炭酸カルシウム結晶、炭酸マグネシウム結晶、炭酸バリウム結晶、硫酸カルシウム結晶、硫酸マグネシウム結晶、硫酸バリウム結晶、リン酸カルシウム結晶、炭酸マグネシウムカルシウム結晶および炭酸ストロンチウム結晶からなる群から選択される少なくとも一つである請求項1記載の無機イオン性分子結晶。
  5. アスコルビン酸塩が、アスコルビン酸ナトリウム塩、アスコルビン酸カリウム塩およびアスコルビン酸カルシウム塩からなる群から選択される少なくとも一つである請求項1から4のいずれかに記載の無機イオン性分子結晶。
  6. アスコルビン酸イオンが、1価のイオンおよび2価のイオンの少なくとも一方である請求項1から4のいずれかに記載の無機イオン性分子結晶。
  7. アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、アスコルビン酸誘導体およびアスコルビン酸イオンの合計含有量が、これを含む無機イオン性分子結晶全体に対し、0.001〜10質量%の範囲である請求項1から5のいずれかに記載の無機イオン性分子結晶。
  8. 請求項1から7のいずれかに記載の無機イオン性分子結晶の製造方法であって、無機酸イオン水溶液および金属イオン水溶液の少なくとも一方に、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩およびアスコルビン酸誘導体の少なくとも一つを含有させ、前記両水溶液を混合して無機イオン性分子結晶を析出させる際に、前記結晶中に、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、アスコルビン酸およびアスコルビン酸イオンの少なくとも一つを含有させる製造方法。
  9. 請求項1から7のいずれかに記載の無機イオン性分子結晶の製造方法であって、無機酸イオン水溶液に、アスコルビン酸金属塩を添加して無機イオン性分子結晶を析出させる際に、前記結晶中にアスコルビン酸、アスコルビン酸塩およびアスコルビン酸イオンの少なくとも一つを含有させる製造方法。
  10. 請求項1から7のいずれかに記載の無機イオン性分子結晶を含む紫外線吸収剤。
  11. 無機イオン性分子結晶中に、紫外線散乱剤を含む請求項10記載の紫外線吸収剤。
  12. 紫外線散乱剤が、酸化チタンおよび酸化亜鉛の少なくとも一つである請求項11記載の紫外線吸収剤。
  13. グリセリンを含む請求項10から12のいずれかに記載の紫外線吸収剤。
  14. 請求項1から7のいずれかに記載の無機イオン性分子結晶を含むビタミンC補給剤。
  15. 電子スピン共鳴(ESR)放射線線量計の検出素子材料であって、請求項1から7のいずれかに記載の無機イオン性分子結晶を含む検出素子材料。
  16. 放射線によって不対電子を生じる検出材料を定型化した検出素子と、前記検出材料中の電子スピン共鳴(ESR)を測定する装置とを有し、前記検出材料の不対電子の濃度若しくは前記不対電子を含むラジカルの濃度を測定し、この測定値から放射線量を決定するESR放射線線量計であって、前記検出材料が、請求項15記載の検出素子材料を含むESR放射線線量計。
  17. 不対電子若しくはラジカルの強度校正用として、常磁性金属イオンを前記無機イオン性分子結晶中に含む請求項16記載のESR放射線線量計。
  18. 常磁性金属イオンが、マンガンイオン、クロムイオンおよび銅イオンの少なくとも一つである請求項17記載のESR放射線線量計。
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