JP2004167595A - インペラおよびその機械加工方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】薄肉のベーンを有するインペラを、高歩留まりで鋳造する。
【解決手段】マルテンサイトとオーステナイトとフェライトとの混合組成からなる3相の析出硬化型の高珪素ステンレス鋼、またはオーステナイトとフェライトとの混合組成からなる2相の高珪素ステンレス鋼のうちの何れか一方の高珪素ステンレス鋼の1600〜1640℃の溶湯を鋳型のキャビティーに注湯してインペラを鋳造する。これら高珪素ステンレスは何れも高珪素であって溶湯の流動性が優れているから、SUS304で鋳造する場合と同様、薄肉のベーンを有するインペラを鋳造することができ、しかもSUS304に比較して溶湯の温度は低温で、鋳造欠陥の発生率が低下するから鋳造製品の歩留まりが向上する。
【選択図】 図3
【解決手段】マルテンサイトとオーステナイトとフェライトとの混合組成からなる3相の析出硬化型の高珪素ステンレス鋼、またはオーステナイトとフェライトとの混合組成からなる2相の高珪素ステンレス鋼のうちの何れか一方の高珪素ステンレス鋼の1600〜1640℃の溶湯を鋳型のキャビティーに注湯してインペラを鋳造する。これら高珪素ステンレスは何れも高珪素であって溶湯の流動性が優れているから、SUS304で鋳造する場合と同様、薄肉のベーンを有するインペラを鋳造することができ、しかもSUS304に比較して溶湯の温度は低温で、鋳造欠陥の発生率が低下するから鋳造製品の歩留まりが向上する。
【選択図】 図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、インペラおよびその機械加工方法に関し、より詳しくは、鋳造により製造したインペラおよびインペラのベーンの端面の余肉を、旋盤を用いて切削加工することを可能ならしめるようにした、インペラおよびその機械加工方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ターボ圧縮機用のインペラ、例えば、ターボチャージャー用のインペラの場合には、ベーンの肉厚が極めて薄いために、従来、機械加工により削り出すと共に、ベーンの端面の余肉を、例えば、ミーリングによって機械加工していた。
しかしながら、インペラが高コストにならざるを得ず、コスト低減に対する強い要望があった。このようなインペラのコスト低減に対する顧客の要望に応えるために、近年では、鋳造によるインペラの製造が試みられるようになってきている。ターボチャージャー用のインペラを鋳造により製造するようにしたものとしては、例えば下記のようなものが知られている。
【0003】
このようなターボチャージャー用のインペラは、鋳造時の溶湯の温度勾配を均一に保持することにより、インペラの鋳造欠陥を解消し、またインペラに回転軸を接合する際の芯出しを容易化するようにしたものである。即ち、多数のベーンを放射状に形成した本体(ハブ)と、この本体の先端側基部の中心に突設した菊座部と、この本体の後端側基部の中心に形成され、別体をなす回転軸の一方の端部との接合が許容される接合部とを備えたインペラの全てをニッケルベースの超耐熱合金材料から一体鋳造している(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
乗用車等のエンジンの小型のターボチャージャーのインペラの場合には、例えば、インペラのベーンの肉厚を1mm以下にする必要があり、より高温に耐えるようにする必要がある。そのために、乗用車等のターボチャージャーのインペラの場合には、ステンレス鋼、例えば、SUS304の1640〜1700℃の溶湯を鋳型に注湯することにより鋳造されるようになってきている。
【0005】
また、ベーンの端面の余肉は機械加工により除去しなければならないが、肉厚が極めて薄いベーンの端面の余肉を旋盤等でそのまま機械加工することができない。つまり、機械加工中において、定期的に切削工具の刃先がベーンの端面に接触し、ベーンが微振動するために所望の加工精度を得ることができないのに加えて、ベーン自体が変形したりすることもある。従って、製品となり得なくなってしまうために、ベーンの端面の余肉をミーリング加工により切削している。
【0006】
【特許文献1】
特開平6−229203号公報(第3頁、第1図)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、1mm程度の薄い肉厚のベーンを備えたインペラを鋳造する場合には、たとえ、溶湯の流動性が優れているといわれているステンレス鋼を採用したとしても、鋳造温度(溶湯の温度)が1640〜1700℃と高温であって、高温の溶湯を鋳型に注湯すると多量のガスが発生する。そのために、ガス抜きに工夫を凝らした鋳型で鋳造したとしても、インペラのうちの幾つかに鋳造欠陥が発生する。鋳造欠陥の程度によっては、溶接補修により修復し得るものもあるが、溶接補修により修復し得たインペラを含めても、歩留まりは90%程度であって低いために、歩留まりの向上に対する強い要望があった。
【0008】
また、インペラのベーンの余肉の切削加工については、例えば、旋盤等により機械加工することができれば、ターボチャージャーのさらなるコスト低減が可能になる。しかしながら、上記のとおり、ベーンの肉厚が極めて薄いが故にベーンの端面の余肉をミーリング加工により切削しなければならず、加工コストが高いという問題があった。因みに、直径200mmφ、肉厚が1.0mmのベーンの端面の余肉のミーリング加工所用時間は1個当たり約1時間であり、また直径100mmφ、肉厚が1.0mmのベーンの端面の余肉のミーリング加工所用時間は1個当たり約30分である。
【0009】
従って、本発明の目的は、溶湯の流動性に優れた鋼種をより低温で鋳造することにより、鋳造品の歩留まりを向上させることができるインペラおよび旋盤によりベーンの端面の余肉を機械加工することを可能ならしめるインペラの機械加工方法を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、従って上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係るインペラが採用した手段の特徴とするところは、マルテンサイトとオーステナイトとフェライトとの混合組成からなる3相の析出硬化型の高珪素ステンレス鋼、またはオーステナイトとフェライトとの混合組成からなる2相の高珪素ステンレス鋼のうちの何れか一方の高珪素ステンレス鋼の1600℃〜1640℃の溶湯を鋳型に注湯して鋳造したところにある。
【0011】
本発明の請求項2に係るインペラが採用した手段の特徴とするところは、請求項1に記載のインペラにおいて、前記3相の析出硬化型の高珪素ステンレス鋼は、C:0.05wt%以下、Si:3〜5wt%、Mn:2wt%以下、Cr:8〜13wt%、Ni:5〜10wt%、Mo:2wt%以下、Cu:4wt%以下、Nb:2wt%以下、残不可避的不純物およびFeからなる組成の高珪素ステンレス鋼、またはC:0.05wt%以下、Si:3〜5wt%、Mn:2wt%以下、Cr:8〜13wt%、Ni:5〜10wt%、Mo:3wt%以下、Cu:4wt%以下、Nb:2wt%以下、Ti:2wt%以下、Ta:2wt%以下、Co:8wt%以下、残不可避的不純物およびFeからなる組成の高珪素ステンレス鋼であるところにある。
【0012】
本発明の請求項3に係るインペラが採用した手段の特徴とするところは、請求項1に記載のインペラにおいて、前記2相の高珪素ステンレス鋼は、C:0.05wt%以下、Si:3〜5.5wt%、Mn:2wt%以下、Cr:15〜20wt%、Ni:10〜24wt%、Mo:2wt%以下、W:2wt%以下、Co:3wt%以下、V:2wt%以下、残不可避的不純物およびFeからなる組成の高珪素ステンレス鋼であるところにある。
【0013】
本発明の請求項4に係るインペラの機械加工方法が採用した手段の特徴とするところは、インペラの複数のベーンの端面の余肉を切削するインペラの機械加工方法において、前記ベーン同士の間に充填材を充填する充填材充填工程と、充填材を充填したインペラを旋盤のチャックに掴持させるセット工程と、切削工具により前記ベーンの端面を前記充填材と共に切削する切削工程と、ベーンを切削したインペラをチャックから取外す取外し工程と、チャックから取外したインペラのベーン間の充填材を除去する充填材除去工程とからなるところにある。
【0014】
本発明の請求項5に係るインペラの機械加工方法が採用した手段の特徴とするところは、請求項4に記載のインペラの機械加工方法において、前記充填材は、模型用低膨張石膏であるところにある。
【0015】
本発明の請求項6に係るインペラの機械加工方法が採用した手段の特徴とするところは、請求項4に記載のインペラの機械加工方法において、前記模型用低膨張石膏は、100〜200N/cm2の濡れ引張強度を有し、かつ1500〜2900N/cm2の乾燥耐圧強度を有してなるところにある。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態に係るインペラを、インペラがターボチャージャー用である場合を例として添付図面を参照しながら説明する。図1(a)は本発明の実施の形態に係るターボチャージャーのインペラの正面図、図1(b)は図1(a)のA−A線断面図、図2は溶湯の流動性試験結果の1例を示し、図2(a)は後述するステンレス鋼Aの溶湯の流動性説明図、図2(b)はSUS304の溶湯の流動性説明図、図3はベーンの端面を機械加工する前の充填材を含むインペラの概観を示す斜視図である。
【0017】
鋳造欠陥のない品質に優れたインペラを鋳造する鋳型を製造する場合には、鋳型の湯口の位置、湯道の形状、押し湯の高さ、ガス抜き等について十分配慮する必要がある。しかしながら、本発明の場合、ターボチャージャーのインペラを鋳造するための鋳型については、通常の鋳造方案によって製造したものである。
この鋳型は、ベーンの肉厚が1.0mmで、直径が100mmφのインペラを鋳造するためのものである。このような鋳型のキャビティーに、マルテンサイトとオーステナイトとフェライトとの混合組成からなる3相の後述する析出硬化型高珪素ステンレス鋼、およびオーステナイトとフェライトとの混合組成からなる2相の後述する高珪素ステンレス鋼の1600℃〜1640℃の溶湯をそれぞれ注湯して、図1に示すような形状のインペラ1を鋳造した。
【0018】
鋳造したインペラ1は、円錐台の斜面を湾曲させてなる形状、つまりシンダーコーン(Cinder cone)状のハブ2を備えている。このハブ2の背面側の中央位置には、ボス2aが突出すると共に、このボス2aの径方向の中心には、ハブ2の前側の中央まで貫通する、回転軸を嵌着するための軸穴2bが形成されている。さらに、このハブ2の前側の凹曲面2cには3次元形状の複数枚のベーン3が設けられている。これらベーン3は、ハブ2の径方向の中心を中心として放射状に、かつ回転方向に等間隔に配設されている。
【0019】
このインペラ1の鋳造に用いたマルテンサイトとオーステナイトとフェライトとの混合組成からなる前記3相の析出硬化型高珪素ステンレス鋼は、下記の2鋼種である。先ず、第1の鋼種の組成は、C:0.05wt%以下、Si:3〜5wt%、Mn:2wt%以下、Cr:8〜13wt%、Ni:5〜10wt%、Mo:2wt%以下、Cu:4wt%以下、Nb:2wt%以下、残不可避的不純物およびFeからなる高珪素ステンレス鋼(以下、ステンレス鋼Aという)である。
【0020】
また、前記3相の析出硬化型高珪素ステンレス鋼の第2の鋼種の組成は、C:0.05wt%以下、Si:3〜5wt%、Mn:2wt%以下、Cr:8〜13wt%、Ni:5〜10wt%、Mo:3wt%以下、Cu:4wt%以下、Nb:2wt%以下、Ti:2wt%以下、Ta:2wt%以下、Co:8wt%以下、残不可避的不純物およびFeからなる高珪素ステンレス鋼(以下、ステンレス鋼Xという)である。
【0021】
そして、オーステナイトとフェライトとの混合組成からなる前記2相の高珪素ステンレス鋼の組成は、C:0.05wt%以下、Si:3〜5.5wt%、Mn:2wt%以下、Cr:15〜20wt%、Ni:10〜24wt%、Mo:2wt%以下、W:2wt%以下、Co:3wt%以下、V:2wt%以下、残不可避的不純物およびFeからなる高珪素ステンレス鋼(以下、ステンレス鋼Dという)である。
【0022】
これらステンレス鋼A,X,Dは、何れもハイシリコン(3〜5.5wt%)であるから、これらステンレス鋼A,X,Dの溶湯は何れも流動性に優れており、形状が複雑、かつ薄肉の鋳造品の鋳造を可能ならしめる機能を備えている。
また、これらステンレス鋼A,X,Dは、何れも低カーボン(0.05wt%以下)であるから溶接性に優れており、たとえ鋳造品に鋳造欠陥が生じたとしても、鋳造欠陥を容易に溶接補修し得る機能を備えている。
【0023】
因みに、溶湯(温度1640℃)の流動性試験結果の1例を、図2(a)、および図2(b)に示す。図2(a)はステンレス鋼Aの場合を、図2(b)はSUS304の場合をそれぞれ示している。これら図2(a)、および図2(b)によれば、SUS304の渦巻き部分10の長さが100mmであるのに対して、ステンレス鋼Aの渦巻き部分10の長さは200mmであり、ステンレス鋼Aの溶湯の流動性が極めて優れていることが分かる。そこで、ステンレス鋼Aの溶湯については、1600〜1640℃で同様の流動性試験を行ったところ、図2(b)に示すSUS304の場合に勝るとも劣らない結果を得ることができた。なお、図2(a)、および図2(b)に示す渦巻き部分10の断面形状は何れも円形であって、その直径は4mmφである。
【0024】
溶湯の上記のような流動性試験結果から、1600〜1640℃のステンレス鋼A,X,Dの溶湯により、1640〜1700℃のSUS304の溶湯で鋳造した場合と同等の薄肉のベーンを有するインペラを鋳造し得ることが分かる。
また、ステンレス鋼A,X,Dの溶湯の温度は、SUS304の溶湯の温度よりも40〜60℃低温であるから、鋳造時におけるガスの発生量が極めて少なくなることも分かる。
【0025】
一般に、鋳造業界においては、鋳型に溶湯を注湯する場合には、鋳造温度(溶湯温度)が10℃高くなると、ガスの発生量が2倍程度になるといわれている。従って、これらステンレス鋼A,X,Dの溶湯の注湯によるガスの発生量は、単純計算でSUS304の溶湯の注湯によるガスの発生量の少なくとも1/16になる。なお、ステンレス鋼X,Dの溶湯については、ステンレス鋼Aの溶湯のような流動性試験を行っていない。しかしながら、Siの含有率から、ステンレス鋼X,Dの溶湯の流動性は、ステンレス鋼Aの溶湯の流動性と同等であるということができる。
【0026】
溶湯からのガスの発生量がこのように少ないということは、ガス抜き性能が同等の鋳型であったとしても、インペラの鋳造にステンレス鋼A,X,Dを採用すれば、インペラの鋳造欠陥を大幅に削減し得ることを示唆するものである。
そこで、これらステンレス鋼A,X,D、およびSUS304のそれぞれにより、直径100mmφ、ベーンの肉厚が1.0mmのインペラをそれぞれ10個ずつ鋳造したところ、これらステンレス鋼A,X,Dそれぞれの溶湯から鋳造した全てのインペラに鋳造欠陥が認められなかった。それに対して、SUS304の溶湯から鋳造したインペラでは5個のインペラに鋳造欠陥が認められ、そのうちの1個については溶接補修により救うことができた。
【0027】
しかも、これらステンレス鋼A,X,Dは引張強度、硬度、衝撃値等の機械的性質や耐熱性に関してSUS304より遥かに優れているから、品質や高温耐久性に優れたインペラを鋳造することができる。これらステンレス鋼A,X,DおよびSUS304の引張強度(N/mm2)、硬度(HRc)、シャルピー衝撃値(J)、および伸び(%)は下記表1に示すとおりである。なお、下記表1において、各鋼種の引張強度についてはJISZ2201の8号試験片を用い、またシャルピー衝撃値についてはJISZ2202の5号試験片を用いて求めたものである。
【表1】
上記表1によれば、これらステンレス鋼A,X,Dの機械的性質が極めて優れていることがよく分かる。なお、これらステンレス鋼A,X,Dの800℃の硬度はそれぞれHRc10,10,12であり、高温強度も十分である。
【0028】
次に、インペラのベーンの端面の余肉を、旋盤により機械加工する方法について、図3を参照しながら説明する。即ち、インペラ1の複数のベーン3同士の間のそれぞれに、模型用低膨張石膏(以下、石膏という)からなる充填材4が充填されている。この石膏は、200N/cm2の濡れ引張強度を有し、かつ2900N/cm2の乾燥耐圧強度を有する#50のものである。
【0029】
ベーン3同士の間に充填した石膏が凝固すると、下記のとおりの工程を経てベーン3の端面の余肉の切削加工が終了する。
▲1▼ インペラを旋盤のチャックに掴持させるセット工程
▲2▼ 切削工具によりベーンの端面を石膏と共に切削する切削工程
▲3▼ ベーンを切削したインペラをチャックから取外す取外し工程
▲4▼ チャックから取外したインペラのベーン間に残された石膏を除去する充填材除去工 程
【0030】
旋盤によるインペラのベーンの端面の余肉の切削工程においては、ベーン同士の間に石膏が充填されているためにベーンが全く微振動するようなことがなく、約3分間で3S加工をすることができた。ミーリング加工によってベーンの端面の余肉を切削する場合の加工所要時間は30分(段落番号〔0008〕参照)であるから、加工所要時間が大幅に短縮されたことになる。なお、このときの旋盤の回転数は300rpmであり、切込量は0.3mmであり、そして送り速度は0.1mm/sである。
【0031】
ベーン同士の間に残された石膏は、ハンマーおよび先端を鑿状に形成した金具を使用することによって容易に除去することができる。因みに、100mmφの直径で、12枚のベーンを有するインペラからの石膏の除去所要時間は10分であり、またベーン同士の間に充填した石膏の凝固所要時間は30分であった。
従って、1個のインペラの加工総所要時間は43分(切削加工時間は3分)であるから、ミーリング加工所用時間の30分より長時間である。
【0032】
しかしながら、この場合の加工総所要時間は、インペラ1個に対してのデータである。従って、流れ作業、例えば10個のインペラのベーン同士の間に同時に石膏を充填して凝固させれば、単純計算ではインペラ1個当たりの凝固所要時間は3分ということになるから、加工総所要時間が大幅に短縮されることとなる。つまり、1ロットあたりのインペラの加工数量が多くなればなるほど、インペラ1個当たりの加工総所要時間が短縮されることになる。
【0033】
ところで、充填材として使用する石膏は消耗品であるから、インペラのベーンの端面の余肉の機械加工においては石膏の購入コストを加味する必要がある。
しかしながら、石膏(#50)は20kg当たり3500円程度で購入することができるのに加えて、このインペラ1個当たりの石膏の使用量は高々300g程度であるから、加工総所要時間の比較において石膏の購入コストはとるに足りないものである。
【0034】
以上のインペラの機械加工方法においては、ベーン同士の間に充填した石膏を完全に凝固させた場合を例として説明した。しかしながら、例えば17分程度で石膏の半分程度が完全に凝固し、その表面硬度は全体が完全に凝固した石膏の表面硬度とほぼ同程度になる。このことは、30分待つまでもなく、17〜20分間凝固させた後にベーンの端面の余肉の切削が可能になるということを示唆するものである。これによれば、石膏の凝固時間と石膏(完全に凝固しておらず、内部が低硬度である)の除去所用時間とが短縮されるから、インペラの加工総所要時間のさらなる短縮が可能になる。
【0035】
また、以上のインペラの機械加工方法においては、200N/cm2の濡れ引張強度を有し、かつ2900N/cm2の乾燥耐圧強度を有する#50の石膏を用いた例を説明した。しかしながら、100N/cm2の濡れ引張強度を有し、かつ1500N/cm2の乾燥耐圧強度を有する石膏でも十分使用に供することができることを確認した。このような低強度の石膏を用いることによって、インペラからの石膏の除去所要時間を短縮することができる。なお、石膏の強度は不純物の混入量によって低下するから、例えば生石灰等の混入量の程度を変更することにより適宜調整することができる。また、ベーン同士の相賀に充填する石膏中に、使用済の石膏を粉砕した粒状の石膏を混入することもできる。
【0036】
さらに、以上では、ターボチャージャー用のインペラである場合を例として説明した。しかしながら、一般的なインペラに対しても本発明の技術的思想を適用することができるので、特にターボチャージャー用のインペラに限定されるものではない。また、種々の形態のインペラに対して適用することができるので、図1に示すようなハブと複数のベーンとからなる形態のインペラに限定されるものではない。
【0037】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明の請求項1乃至3に係るインペラは3相の析出硬化型の高珪素ステンレス鋼、または2相の高珪素ステンレス鋼のうちの何れかによって鋳造されている。これら各高珪素ステンレス鋼は、何れもハイシリコン(3〜5.5wt%)であるから、これらの溶湯は何れも流動性に優れており、そして形状が複雑、かつ薄肉の鋳造品の鋳造を可能ならしめる機能を備えている。
また、各高珪素ステンレス鋼は、何れも低カーボン(0.05wt%以下)であるから溶接性に優れており、たとえ鋳造品に鋳造欠陥が生じたとしても、鋳造欠陥を容易に溶接補修し得る機能を備えている。従って、本発明の請求項1乃至3に係るインペラは、低温でも流動性が優れた溶湯で、かつ低温の溶湯で鋳造されたものであるから、ベーンの肉厚が薄くても鋳造欠陥がなく高歩留まりであり、しかも品質が優れている。
【0038】
また、本発明の請求項4乃至6に係るインペラの機械加工方法によれば、ベーン同士の間に充填された充填材により、ベーンの微振動を防止することができるから、ミーリング加工によるまでもなく、旋盤によりベーンの端面の余肉を切削することができる。従って、機械加工時間の大幅の短縮により機械加工コストの大幅な低減が可能になるから、インペラのコスト低減に対して大いに寄与することができるという優れた経済効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係り、図1(a)はターボチャージャーのインペラの正面図、図1(b)は図1(a)のA−A線断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係り、図2(a)はステンレス鋼Aの溶湯の流動性説明図、図2(b)はSUS304の溶湯の流動性説明図である。
【図3】本発明の実施の形態に係り、ベーンの端面を機械加工する前の充填材を含むインペラの概観を示す斜視図である。
【符号の説明】
1…インペラ
2…ハブ、2a…ボス、2b…軸穴、2c…凹曲面
3…ベーン
4…充填材
【発明の属する技術分野】
本発明は、インペラおよびその機械加工方法に関し、より詳しくは、鋳造により製造したインペラおよびインペラのベーンの端面の余肉を、旋盤を用いて切削加工することを可能ならしめるようにした、インペラおよびその機械加工方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ターボ圧縮機用のインペラ、例えば、ターボチャージャー用のインペラの場合には、ベーンの肉厚が極めて薄いために、従来、機械加工により削り出すと共に、ベーンの端面の余肉を、例えば、ミーリングによって機械加工していた。
しかしながら、インペラが高コストにならざるを得ず、コスト低減に対する強い要望があった。このようなインペラのコスト低減に対する顧客の要望に応えるために、近年では、鋳造によるインペラの製造が試みられるようになってきている。ターボチャージャー用のインペラを鋳造により製造するようにしたものとしては、例えば下記のようなものが知られている。
【0003】
このようなターボチャージャー用のインペラは、鋳造時の溶湯の温度勾配を均一に保持することにより、インペラの鋳造欠陥を解消し、またインペラに回転軸を接合する際の芯出しを容易化するようにしたものである。即ち、多数のベーンを放射状に形成した本体(ハブ)と、この本体の先端側基部の中心に突設した菊座部と、この本体の後端側基部の中心に形成され、別体をなす回転軸の一方の端部との接合が許容される接合部とを備えたインペラの全てをニッケルベースの超耐熱合金材料から一体鋳造している(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
乗用車等のエンジンの小型のターボチャージャーのインペラの場合には、例えば、インペラのベーンの肉厚を1mm以下にする必要があり、より高温に耐えるようにする必要がある。そのために、乗用車等のターボチャージャーのインペラの場合には、ステンレス鋼、例えば、SUS304の1640〜1700℃の溶湯を鋳型に注湯することにより鋳造されるようになってきている。
【0005】
また、ベーンの端面の余肉は機械加工により除去しなければならないが、肉厚が極めて薄いベーンの端面の余肉を旋盤等でそのまま機械加工することができない。つまり、機械加工中において、定期的に切削工具の刃先がベーンの端面に接触し、ベーンが微振動するために所望の加工精度を得ることができないのに加えて、ベーン自体が変形したりすることもある。従って、製品となり得なくなってしまうために、ベーンの端面の余肉をミーリング加工により切削している。
【0006】
【特許文献1】
特開平6−229203号公報(第3頁、第1図)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、1mm程度の薄い肉厚のベーンを備えたインペラを鋳造する場合には、たとえ、溶湯の流動性が優れているといわれているステンレス鋼を採用したとしても、鋳造温度(溶湯の温度)が1640〜1700℃と高温であって、高温の溶湯を鋳型に注湯すると多量のガスが発生する。そのために、ガス抜きに工夫を凝らした鋳型で鋳造したとしても、インペラのうちの幾つかに鋳造欠陥が発生する。鋳造欠陥の程度によっては、溶接補修により修復し得るものもあるが、溶接補修により修復し得たインペラを含めても、歩留まりは90%程度であって低いために、歩留まりの向上に対する強い要望があった。
【0008】
また、インペラのベーンの余肉の切削加工については、例えば、旋盤等により機械加工することができれば、ターボチャージャーのさらなるコスト低減が可能になる。しかしながら、上記のとおり、ベーンの肉厚が極めて薄いが故にベーンの端面の余肉をミーリング加工により切削しなければならず、加工コストが高いという問題があった。因みに、直径200mmφ、肉厚が1.0mmのベーンの端面の余肉のミーリング加工所用時間は1個当たり約1時間であり、また直径100mmφ、肉厚が1.0mmのベーンの端面の余肉のミーリング加工所用時間は1個当たり約30分である。
【0009】
従って、本発明の目的は、溶湯の流動性に優れた鋼種をより低温で鋳造することにより、鋳造品の歩留まりを向上させることができるインペラおよび旋盤によりベーンの端面の余肉を機械加工することを可能ならしめるインペラの機械加工方法を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、従って上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係るインペラが採用した手段の特徴とするところは、マルテンサイトとオーステナイトとフェライトとの混合組成からなる3相の析出硬化型の高珪素ステンレス鋼、またはオーステナイトとフェライトとの混合組成からなる2相の高珪素ステンレス鋼のうちの何れか一方の高珪素ステンレス鋼の1600℃〜1640℃の溶湯を鋳型に注湯して鋳造したところにある。
【0011】
本発明の請求項2に係るインペラが採用した手段の特徴とするところは、請求項1に記載のインペラにおいて、前記3相の析出硬化型の高珪素ステンレス鋼は、C:0.05wt%以下、Si:3〜5wt%、Mn:2wt%以下、Cr:8〜13wt%、Ni:5〜10wt%、Mo:2wt%以下、Cu:4wt%以下、Nb:2wt%以下、残不可避的不純物およびFeからなる組成の高珪素ステンレス鋼、またはC:0.05wt%以下、Si:3〜5wt%、Mn:2wt%以下、Cr:8〜13wt%、Ni:5〜10wt%、Mo:3wt%以下、Cu:4wt%以下、Nb:2wt%以下、Ti:2wt%以下、Ta:2wt%以下、Co:8wt%以下、残不可避的不純物およびFeからなる組成の高珪素ステンレス鋼であるところにある。
【0012】
本発明の請求項3に係るインペラが採用した手段の特徴とするところは、請求項1に記載のインペラにおいて、前記2相の高珪素ステンレス鋼は、C:0.05wt%以下、Si:3〜5.5wt%、Mn:2wt%以下、Cr:15〜20wt%、Ni:10〜24wt%、Mo:2wt%以下、W:2wt%以下、Co:3wt%以下、V:2wt%以下、残不可避的不純物およびFeからなる組成の高珪素ステンレス鋼であるところにある。
【0013】
本発明の請求項4に係るインペラの機械加工方法が採用した手段の特徴とするところは、インペラの複数のベーンの端面の余肉を切削するインペラの機械加工方法において、前記ベーン同士の間に充填材を充填する充填材充填工程と、充填材を充填したインペラを旋盤のチャックに掴持させるセット工程と、切削工具により前記ベーンの端面を前記充填材と共に切削する切削工程と、ベーンを切削したインペラをチャックから取外す取外し工程と、チャックから取外したインペラのベーン間の充填材を除去する充填材除去工程とからなるところにある。
【0014】
本発明の請求項5に係るインペラの機械加工方法が採用した手段の特徴とするところは、請求項4に記載のインペラの機械加工方法において、前記充填材は、模型用低膨張石膏であるところにある。
【0015】
本発明の請求項6に係るインペラの機械加工方法が採用した手段の特徴とするところは、請求項4に記載のインペラの機械加工方法において、前記模型用低膨張石膏は、100〜200N/cm2の濡れ引張強度を有し、かつ1500〜2900N/cm2の乾燥耐圧強度を有してなるところにある。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態に係るインペラを、インペラがターボチャージャー用である場合を例として添付図面を参照しながら説明する。図1(a)は本発明の実施の形態に係るターボチャージャーのインペラの正面図、図1(b)は図1(a)のA−A線断面図、図2は溶湯の流動性試験結果の1例を示し、図2(a)は後述するステンレス鋼Aの溶湯の流動性説明図、図2(b)はSUS304の溶湯の流動性説明図、図3はベーンの端面を機械加工する前の充填材を含むインペラの概観を示す斜視図である。
【0017】
鋳造欠陥のない品質に優れたインペラを鋳造する鋳型を製造する場合には、鋳型の湯口の位置、湯道の形状、押し湯の高さ、ガス抜き等について十分配慮する必要がある。しかしながら、本発明の場合、ターボチャージャーのインペラを鋳造するための鋳型については、通常の鋳造方案によって製造したものである。
この鋳型は、ベーンの肉厚が1.0mmで、直径が100mmφのインペラを鋳造するためのものである。このような鋳型のキャビティーに、マルテンサイトとオーステナイトとフェライトとの混合組成からなる3相の後述する析出硬化型高珪素ステンレス鋼、およびオーステナイトとフェライトとの混合組成からなる2相の後述する高珪素ステンレス鋼の1600℃〜1640℃の溶湯をそれぞれ注湯して、図1に示すような形状のインペラ1を鋳造した。
【0018】
鋳造したインペラ1は、円錐台の斜面を湾曲させてなる形状、つまりシンダーコーン(Cinder cone)状のハブ2を備えている。このハブ2の背面側の中央位置には、ボス2aが突出すると共に、このボス2aの径方向の中心には、ハブ2の前側の中央まで貫通する、回転軸を嵌着するための軸穴2bが形成されている。さらに、このハブ2の前側の凹曲面2cには3次元形状の複数枚のベーン3が設けられている。これらベーン3は、ハブ2の径方向の中心を中心として放射状に、かつ回転方向に等間隔に配設されている。
【0019】
このインペラ1の鋳造に用いたマルテンサイトとオーステナイトとフェライトとの混合組成からなる前記3相の析出硬化型高珪素ステンレス鋼は、下記の2鋼種である。先ず、第1の鋼種の組成は、C:0.05wt%以下、Si:3〜5wt%、Mn:2wt%以下、Cr:8〜13wt%、Ni:5〜10wt%、Mo:2wt%以下、Cu:4wt%以下、Nb:2wt%以下、残不可避的不純物およびFeからなる高珪素ステンレス鋼(以下、ステンレス鋼Aという)である。
【0020】
また、前記3相の析出硬化型高珪素ステンレス鋼の第2の鋼種の組成は、C:0.05wt%以下、Si:3〜5wt%、Mn:2wt%以下、Cr:8〜13wt%、Ni:5〜10wt%、Mo:3wt%以下、Cu:4wt%以下、Nb:2wt%以下、Ti:2wt%以下、Ta:2wt%以下、Co:8wt%以下、残不可避的不純物およびFeからなる高珪素ステンレス鋼(以下、ステンレス鋼Xという)である。
【0021】
そして、オーステナイトとフェライトとの混合組成からなる前記2相の高珪素ステンレス鋼の組成は、C:0.05wt%以下、Si:3〜5.5wt%、Mn:2wt%以下、Cr:15〜20wt%、Ni:10〜24wt%、Mo:2wt%以下、W:2wt%以下、Co:3wt%以下、V:2wt%以下、残不可避的不純物およびFeからなる高珪素ステンレス鋼(以下、ステンレス鋼Dという)である。
【0022】
これらステンレス鋼A,X,Dは、何れもハイシリコン(3〜5.5wt%)であるから、これらステンレス鋼A,X,Dの溶湯は何れも流動性に優れており、形状が複雑、かつ薄肉の鋳造品の鋳造を可能ならしめる機能を備えている。
また、これらステンレス鋼A,X,Dは、何れも低カーボン(0.05wt%以下)であるから溶接性に優れており、たとえ鋳造品に鋳造欠陥が生じたとしても、鋳造欠陥を容易に溶接補修し得る機能を備えている。
【0023】
因みに、溶湯(温度1640℃)の流動性試験結果の1例を、図2(a)、および図2(b)に示す。図2(a)はステンレス鋼Aの場合を、図2(b)はSUS304の場合をそれぞれ示している。これら図2(a)、および図2(b)によれば、SUS304の渦巻き部分10の長さが100mmであるのに対して、ステンレス鋼Aの渦巻き部分10の長さは200mmであり、ステンレス鋼Aの溶湯の流動性が極めて優れていることが分かる。そこで、ステンレス鋼Aの溶湯については、1600〜1640℃で同様の流動性試験を行ったところ、図2(b)に示すSUS304の場合に勝るとも劣らない結果を得ることができた。なお、図2(a)、および図2(b)に示す渦巻き部分10の断面形状は何れも円形であって、その直径は4mmφである。
【0024】
溶湯の上記のような流動性試験結果から、1600〜1640℃のステンレス鋼A,X,Dの溶湯により、1640〜1700℃のSUS304の溶湯で鋳造した場合と同等の薄肉のベーンを有するインペラを鋳造し得ることが分かる。
また、ステンレス鋼A,X,Dの溶湯の温度は、SUS304の溶湯の温度よりも40〜60℃低温であるから、鋳造時におけるガスの発生量が極めて少なくなることも分かる。
【0025】
一般に、鋳造業界においては、鋳型に溶湯を注湯する場合には、鋳造温度(溶湯温度)が10℃高くなると、ガスの発生量が2倍程度になるといわれている。従って、これらステンレス鋼A,X,Dの溶湯の注湯によるガスの発生量は、単純計算でSUS304の溶湯の注湯によるガスの発生量の少なくとも1/16になる。なお、ステンレス鋼X,Dの溶湯については、ステンレス鋼Aの溶湯のような流動性試験を行っていない。しかしながら、Siの含有率から、ステンレス鋼X,Dの溶湯の流動性は、ステンレス鋼Aの溶湯の流動性と同等であるということができる。
【0026】
溶湯からのガスの発生量がこのように少ないということは、ガス抜き性能が同等の鋳型であったとしても、インペラの鋳造にステンレス鋼A,X,Dを採用すれば、インペラの鋳造欠陥を大幅に削減し得ることを示唆するものである。
そこで、これらステンレス鋼A,X,D、およびSUS304のそれぞれにより、直径100mmφ、ベーンの肉厚が1.0mmのインペラをそれぞれ10個ずつ鋳造したところ、これらステンレス鋼A,X,Dそれぞれの溶湯から鋳造した全てのインペラに鋳造欠陥が認められなかった。それに対して、SUS304の溶湯から鋳造したインペラでは5個のインペラに鋳造欠陥が認められ、そのうちの1個については溶接補修により救うことができた。
【0027】
しかも、これらステンレス鋼A,X,Dは引張強度、硬度、衝撃値等の機械的性質や耐熱性に関してSUS304より遥かに優れているから、品質や高温耐久性に優れたインペラを鋳造することができる。これらステンレス鋼A,X,DおよびSUS304の引張強度(N/mm2)、硬度(HRc)、シャルピー衝撃値(J)、および伸び(%)は下記表1に示すとおりである。なお、下記表1において、各鋼種の引張強度についてはJISZ2201の8号試験片を用い、またシャルピー衝撃値についてはJISZ2202の5号試験片を用いて求めたものである。
【表1】
上記表1によれば、これらステンレス鋼A,X,Dの機械的性質が極めて優れていることがよく分かる。なお、これらステンレス鋼A,X,Dの800℃の硬度はそれぞれHRc10,10,12であり、高温強度も十分である。
【0028】
次に、インペラのベーンの端面の余肉を、旋盤により機械加工する方法について、図3を参照しながら説明する。即ち、インペラ1の複数のベーン3同士の間のそれぞれに、模型用低膨張石膏(以下、石膏という)からなる充填材4が充填されている。この石膏は、200N/cm2の濡れ引張強度を有し、かつ2900N/cm2の乾燥耐圧強度を有する#50のものである。
【0029】
ベーン3同士の間に充填した石膏が凝固すると、下記のとおりの工程を経てベーン3の端面の余肉の切削加工が終了する。
▲1▼ インペラを旋盤のチャックに掴持させるセット工程
▲2▼ 切削工具によりベーンの端面を石膏と共に切削する切削工程
▲3▼ ベーンを切削したインペラをチャックから取外す取外し工程
▲4▼ チャックから取外したインペラのベーン間に残された石膏を除去する充填材除去工 程
【0030】
旋盤によるインペラのベーンの端面の余肉の切削工程においては、ベーン同士の間に石膏が充填されているためにベーンが全く微振動するようなことがなく、約3分間で3S加工をすることができた。ミーリング加工によってベーンの端面の余肉を切削する場合の加工所要時間は30分(段落番号〔0008〕参照)であるから、加工所要時間が大幅に短縮されたことになる。なお、このときの旋盤の回転数は300rpmであり、切込量は0.3mmであり、そして送り速度は0.1mm/sである。
【0031】
ベーン同士の間に残された石膏は、ハンマーおよび先端を鑿状に形成した金具を使用することによって容易に除去することができる。因みに、100mmφの直径で、12枚のベーンを有するインペラからの石膏の除去所要時間は10分であり、またベーン同士の間に充填した石膏の凝固所要時間は30分であった。
従って、1個のインペラの加工総所要時間は43分(切削加工時間は3分)であるから、ミーリング加工所用時間の30分より長時間である。
【0032】
しかしながら、この場合の加工総所要時間は、インペラ1個に対してのデータである。従って、流れ作業、例えば10個のインペラのベーン同士の間に同時に石膏を充填して凝固させれば、単純計算ではインペラ1個当たりの凝固所要時間は3分ということになるから、加工総所要時間が大幅に短縮されることとなる。つまり、1ロットあたりのインペラの加工数量が多くなればなるほど、インペラ1個当たりの加工総所要時間が短縮されることになる。
【0033】
ところで、充填材として使用する石膏は消耗品であるから、インペラのベーンの端面の余肉の機械加工においては石膏の購入コストを加味する必要がある。
しかしながら、石膏(#50)は20kg当たり3500円程度で購入することができるのに加えて、このインペラ1個当たりの石膏の使用量は高々300g程度であるから、加工総所要時間の比較において石膏の購入コストはとるに足りないものである。
【0034】
以上のインペラの機械加工方法においては、ベーン同士の間に充填した石膏を完全に凝固させた場合を例として説明した。しかしながら、例えば17分程度で石膏の半分程度が完全に凝固し、その表面硬度は全体が完全に凝固した石膏の表面硬度とほぼ同程度になる。このことは、30分待つまでもなく、17〜20分間凝固させた後にベーンの端面の余肉の切削が可能になるということを示唆するものである。これによれば、石膏の凝固時間と石膏(完全に凝固しておらず、内部が低硬度である)の除去所用時間とが短縮されるから、インペラの加工総所要時間のさらなる短縮が可能になる。
【0035】
また、以上のインペラの機械加工方法においては、200N/cm2の濡れ引張強度を有し、かつ2900N/cm2の乾燥耐圧強度を有する#50の石膏を用いた例を説明した。しかしながら、100N/cm2の濡れ引張強度を有し、かつ1500N/cm2の乾燥耐圧強度を有する石膏でも十分使用に供することができることを確認した。このような低強度の石膏を用いることによって、インペラからの石膏の除去所要時間を短縮することができる。なお、石膏の強度は不純物の混入量によって低下するから、例えば生石灰等の混入量の程度を変更することにより適宜調整することができる。また、ベーン同士の相賀に充填する石膏中に、使用済の石膏を粉砕した粒状の石膏を混入することもできる。
【0036】
さらに、以上では、ターボチャージャー用のインペラである場合を例として説明した。しかしながら、一般的なインペラに対しても本発明の技術的思想を適用することができるので、特にターボチャージャー用のインペラに限定されるものではない。また、種々の形態のインペラに対して適用することができるので、図1に示すようなハブと複数のベーンとからなる形態のインペラに限定されるものではない。
【0037】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明の請求項1乃至3に係るインペラは3相の析出硬化型の高珪素ステンレス鋼、または2相の高珪素ステンレス鋼のうちの何れかによって鋳造されている。これら各高珪素ステンレス鋼は、何れもハイシリコン(3〜5.5wt%)であるから、これらの溶湯は何れも流動性に優れており、そして形状が複雑、かつ薄肉の鋳造品の鋳造を可能ならしめる機能を備えている。
また、各高珪素ステンレス鋼は、何れも低カーボン(0.05wt%以下)であるから溶接性に優れており、たとえ鋳造品に鋳造欠陥が生じたとしても、鋳造欠陥を容易に溶接補修し得る機能を備えている。従って、本発明の請求項1乃至3に係るインペラは、低温でも流動性が優れた溶湯で、かつ低温の溶湯で鋳造されたものであるから、ベーンの肉厚が薄くても鋳造欠陥がなく高歩留まりであり、しかも品質が優れている。
【0038】
また、本発明の請求項4乃至6に係るインペラの機械加工方法によれば、ベーン同士の間に充填された充填材により、ベーンの微振動を防止することができるから、ミーリング加工によるまでもなく、旋盤によりベーンの端面の余肉を切削することができる。従って、機械加工時間の大幅の短縮により機械加工コストの大幅な低減が可能になるから、インペラのコスト低減に対して大いに寄与することができるという優れた経済効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係り、図1(a)はターボチャージャーのインペラの正面図、図1(b)は図1(a)のA−A線断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係り、図2(a)はステンレス鋼Aの溶湯の流動性説明図、図2(b)はSUS304の溶湯の流動性説明図である。
【図3】本発明の実施の形態に係り、ベーンの端面を機械加工する前の充填材を含むインペラの概観を示す斜視図である。
【符号の説明】
1…インペラ
2…ハブ、2a…ボス、2b…軸穴、2c…凹曲面
3…ベーン
4…充填材
Claims (6)
- マルテンサイトとオーステナイトとフェライトとの混合組成からなる3相の析出硬化型の高珪素ステンレス鋼、またはオーステナイトとフェライトとの混合組成からなる2相の高珪素ステンレス鋼のうちの何れか一方の高珪素ステンレス鋼の1600℃〜1640℃の溶湯を鋳型に注湯して鋳造したことを特徴とするインペラ。
- 前記3相の析出硬化型の高珪素ステンレス鋼は、C:0.05wt%以下、Si:3〜5wt%、Mn:2wt%以下、Cr:8〜13wt%、Ni:5〜10wt%、Mo:2wt%以下、Cu:4wt%以下、Nb:2wt%以下、残不可避的不純物およびFeからなる組成の高珪素ステンレス鋼、またはC:0.05wt%以下、Si:3〜5wt%、Mn:2wt%以下、Cr:8〜13wt%、Ni:5〜10wt%、Mo:3wt%以下、Cu:4wt%以下、Nb:2wt%以下、Ti:2wt%以下、Ta:2wt%以下、Co:8wt%以下、残不可避的不純物およびFeからなる組成の高珪素ステンレス鋼であることを特徴とする請求項1に記載のインペラ。
- 前記2相の高珪素ステンレス鋼は、C:0.05wt%以下、Si:3〜5.5wt%、Mn:2wt%以下、Cr:15〜20wt%、Ni:10〜24wt%、Mo:2wt%以下、W:2wt%以下、Co:3wt%以下、V:2wt%以下、残不可避的不純物およびFeからなる組成の高珪素ステンレス鋼であることを特徴とする請求項1に記載のインペラ。
- インペラの複数のベーンの端面の余肉を切削するインペラの機械加工方法において、前記ベーン同士の間に充填材を充填する充填材充填工程と、充填材を充填したインペラを旋盤のチャックに掴持させるセット工程と、切削工具により前記ベーンの端面を前記充填材と共に切削する切削工程と、ベーンを切削したインペラをチャックから取外す取外し工程と、チャックから取外したインペラのベーン間の充填材を除去する充填材除去工程とからなることを特徴とするインペラの機械加工方法。
- 前記充填材は、模型用低膨張石膏であることを特徴とする請求項4に記載のインペラの機械加工方法。
- 前記模型用低膨張石膏は、100〜200N/cm2の濡れ引張強度を有し、かつ1500〜2900N/cm2の乾燥耐圧強度を有してなることを特徴とする請求項5に記載のインペラの機械加工方法。
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