JP2004156175A - リグニンの分離法 - Google Patents
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Abstract
【課題】植物体のセルロースとリグニンを分離するという目的を達成するために、省エネルギーで環境に対して、より温和な手段が望まれているにもかかわらず、pH14程度の25〜30%アルカリで数時間も煮沸させ、加熱し続けて、エネルギーを大量に消費し、環境にとっても危険で過酷な手段しか見いだされていなかった。
【解決手段】粉砕器やすりばちなどの粒径を小さくする手段により、細かくされた後に、ふるい等の選別手段により、0.5mm以下の粒径にそろえられた植物体粉末を、あらかじめ調節した温度とpH値をもつアルカリ水溶液と混合するか、または、アルカリ水溶液と混合してから温度とpH値を調節する。その後、固体成分と液体成分とを分離する。液体成分の温度とpH値をあらかじめ定めた値まで調節することにより、リグニンが沈澱する。漉紙やキッチンタオル等により、沈澱物を液体成分と分離して、沈澱物としてのリグニンを得る。
【選択図】なし
【解決手段】粉砕器やすりばちなどの粒径を小さくする手段により、細かくされた後に、ふるい等の選別手段により、0.5mm以下の粒径にそろえられた植物体粉末を、あらかじめ調節した温度とpH値をもつアルカリ水溶液と混合するか、または、アルカリ水溶液と混合してから温度とpH値を調節する。その後、固体成分と液体成分とを分離する。液体成分の温度とpH値をあらかじめ定めた値まで調節することにより、リグニンが沈澱する。漉紙やキッチンタオル等により、沈澱物を液体成分と分離して、沈澱物としてのリグニンを得る。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、粉砕と微細な植物体とアルカリ水溶液の温度とpH値と粒径と化学反応の速度とリグニンの分子量とセルロースの分離に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、木材などの植物体からセルロースとリグニンを分離する方法は、どれも高温で強アルカリや強酸を使うものであることが知られている(例えば、非特許文献1参照。)。リグニンを低分子化する試みが、古くからなされており、低分子リグニンは溶けやすく、高分子リグニンは溶けにくいことが知られている(例えば、非特許文献2参照。)。
【非特許文献1】「ウッドケミカルスの最新技術、株式会社シーエムシー、2000年10月31日第1刷発行」、第2章、p.6
【非特許文献2】「ウッドケミカルスの最新技術、株式会社シーエムシー、2000年10月31日第1刷発行」、第2章、p.138又はp.152
【0003】
本発明人は、のこくずをすりばちで細かく砕くことにより、室温においても、1日〜7日で、アルカリ水溶液にリグニンが溶けて、セルロースと分離できることを見いだした。しかしながら、その後の調査で、この現象はすでに、特許として公知となっていることがわかった(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平06ー87756号公報
しかし、その特許の中では、植物体の粉砕を、加工工程の最後に行っており、化学反応にとって粉砕することがきわめて重要であるにもかかわらず、これが認識されていないことに気づいた。本発明にとっては、粉砕こそが最も重要な意味を持つのであり、加工工程の中で最初にすべきことが粉砕であることを提案し、以下に、その効果について考察する。
【0004】
化学反応の量は、化学反応によって消費される反応物の量又は、生成される生成物の量で表される。化学反応の量を表す単位としては、質量、モル濃度、体積や圧力の単位が用いられる。
【0005】
化学反応の速さは、単位時間当りに消費される反応物の量や単位時間あたりに生じる生成物の量によって表される(例えば、非特許文献3参照。)。
【非特許文献3】高等学校 化学II、(株)第一学習社、平成8年発行、p17
一般に、反応の速さは、時間とともに変化するので、一定時間当りの平均の速さで表される。反応物の濃度がΔt(s)間にΔc(mol/l)減少したとすると、Δt(s)間における反応の平均の速さV(mol/l s)は、次式で表される。
V=−Δc/Δt (1)
【0006】
化学反応は、分子やイオンが衝突することによっておこる。従って、単位時間あたりの分子又はイオン相互の衝突回数が多くなると、反応の速さは大きくなる。物質Aと物質Bが反応する場合、Aの濃度が2倍になると、衝突回数も2倍になり、A、Bの濃度がそれぞれ2倍になると、衝突回数は2x2=4倍になる。反応の速さが衝突回数に比例すると考えると、この反応の速さVは、A、Bの濃度[A]、[B]を用いて、次式のように表わされる。
V=k[A][B] (2)
ここで、比例定数kは反応速度定数である。
【0007】
このように、一定温度で反応物の濃度や分圧が大きくなると、単位体積中の分子やイオンの数が多くなり、分子やイオンの衝突回数が増加するため、反応が速くなると考えられる。
【0008】
植物体とアルカリ水溶液の化学反応において、化学反応は植物体の表面で主として生じていると考えられる。このとき、植物体の表面にアルカリ水溶液の分子又はイオンが衝突する回数は、植物体の表面が大きいほど大きいと考えられる。すなわち、分子又はイオンが衝突する回数は、植物体の表面積に比例することが導かれる。同時に、反応速度は、植物体の表面と分子やイオンの衝突回数に比例するから、反応速度は植物体の表面積に比例することが導かれる。従って、植物体の表面積が大きいほど反応速度は大きくなる。
【0009】
粉砕器などによって植物体の粒径が細かくされる場合には、植物体の体積がそのまま保持される場合が多い。このように植物体の体積が一定値に保存される条件の下では、表面積は粒径に反比例する。これは、次のようにして証明される。
【0010】
粒径Dの球を考える。同時に、球の半径をr=D/2とおくと、球の体積は(4/3)πr3、球の表面積は4πr2である。表面積と体積の比は、(4πr2)÷((4/3)πr3)=3/rとなる。ここで、体積は常に一定であると仮定すると、表面積は半径rに反比例することが導かれる。さらに、粒径Dは半径rの2倍に等しいことから、表面積は粒径Dに反比例することが導かれる。
【0011】
植物体とアルカリ水溶液の反応において、反応速度は、植物体の表面積に比例する。同時に植物体の表面積は粒径Dに反比例するので、粒径Dが2分の1になると反応速度Vが2倍になる。従って、表式は、
V=BVo Do/D (3)
で与えられる。ここで、Bは比例定数、Voは反応速度の初期値、Doは粒径の初期値をそれぞれ表わす。
【0012】
以上では、表面積が広くなると化学反応の速さが大きくなることについて述べたが、一般に、温度が上がると化学反応の速さは大きくなる。従って、反応速度を大きくするには、粒径を小さくしてもよいし、温度をあげてもよいことがわかる。このことから、お互いに等しい反応速度を与えるような粒径と温度の値の組を与えることが可能であると考えられる。
【0013】
化学反応の反応速度は温度が10℃上昇するごとに2倍〜4倍になることが知られている。何倍になるかは、化学反応の種類で異なっており、反応温度が10K上昇するごとに、反応速度定数は3〜4倍になっていることや(例えば、非特許文献4参照。)、温度を10℃上げるごとに、反応速度が2〜3倍になるような反応が多いことが知られている(例えば、非特許文献5参照。)。
【非特許文献4】高等学校 化学II、(株)第一学習社、平成8年発行、p21
【非特許文献5】新化学、数研出版(株)、平成3年4月1日発行、p127
【0014】
ここでは、簡単のため2倍の場合と4倍の場合とを考察する。
(1)温度が10℃上昇すると、反応速度Vが2倍になる場合には、表式は、
ln(V/Vo)=(ΔT/10)ln2+ ln(A1) (4)
で与えられる。ここでlnは自然対数、Voは反応速度の初期値、ΔTは温度差、A1は比例定数をそれぞれ表わす。粒径が2分の一になると反応速度は2倍になるから、反応速度にとって、粒径を2分の1にすることと温度が10℃上昇することとは等しい意味をもつことがわかる。
【0015】
これより、反応速度の等しい系列を作ることができる。たとえば、出発する温度と粒径を20℃と0.5mmに定めれば、これと同じ反応速度を与える温度と粒径の組は、30℃で1mm、40℃で2mm、50℃で4mm、60℃で8mm、70℃で16mm、80℃で32mm、90℃で64mm、100℃で128mmなどとなる。以下では、これを2倍の系列と呼ぶことにしよう。
【0016】
(2)温度が10℃上昇すると反応速度が4倍になる場合には、温度Tが5℃上昇するごとに反応速度Vが2倍になるので、表式は、
ln(V/Vo)=(ΔT/5)ln2+ ln(A2) (5)
で与えられる。ここでlnは自然対数、Voは反応速度の初期値、ΔTは温度差、A2は比例定数をそれぞれ表わす。粒径が2分の1になると反応速度は2倍になるから、反応速度にとって粒径を2分の一にすることと温度が5℃上昇することとは等しい意味をもつことがわかる。
【0017】
これより、反応速度の等しい系列を作ることができる。たとえば、出発する温度と粒径を20℃と0.5mmと定めれば、これと同じ反応速度を与える温度と粒径の組は、25℃で1mm、30℃で2mm、35℃で4mm、40℃で8mm、45℃で16mm、50℃で32mm、55℃で64mm、60℃で128mm、65℃で256mm、70℃で512mm、75℃で1024mm、80℃で2048mm、85℃で4096mm、90℃で8192mm、95℃で16384mm、100℃で32768mmとなる。以下では、これを4倍の系列と呼ぶことにしよう。
【0018】
たとえば、100℃で100mmX100mmX2000mmの角材を3時間煮ることを出発点として選ぶと、角材の表面積は100X100X2+100X2000X4=820000mm2である。これと等しい表面積を持つ球の半径をrとおけば、表面積S=4πr2より、r=255.5〜256mmが得られる。粒径D=2rの関係より、D=512mmを得る。従って、100℃での角材の反応速度は、100℃での粒径512mmの球の反応速度に等しいことが導かれる。次に、温度と粒径の関係として2倍の系列と4倍の系列の2つの場合を考える。
【0019】
(1)2倍の系列の場合。温度100℃で粒径512mmから出発すると、90℃で256mm、80℃で128mm、70℃で64mm、60℃で32mm、50℃で16mm、40℃で8mm、30℃で4mm、20℃で2mmとなる。従って、100℃で512mmと20℃で2mmは等しい反応速度を与える。よって、温度100℃と粒径512mmで反応時間が3時間かかる反応は、20℃と2mmでも3時間かかる。反応速度が速いほど反応時間は短くなるので、ここで、温度を20℃一定にすると粒径2mmで反応時間3時間は、1mmで1.5時間、0.5mmで45分となる。このことは、100℃と512mmで3時間かかる反応が、20℃と0.5mmで45分で済むことを意味する。この値は、室温で1日〜7日おくという実際の値とかなりずれがあることがわかる。
【0020】
(2)4倍の系列の場合。温度100℃で粒径512mmから出発すると、95℃で256mm、90℃で128mm、85℃で64mm、80℃で32mm、75℃で16mm、70℃で8mm、65℃で4mm、60℃で2mm、55℃で1mm、50℃で0.5mmとなる。従って、100℃で512mmと50℃で0.5mmは等しい反応速度を与える。よって、温度100℃と粒径512mmで反応時間が3時間かかる反応は、50℃と0.5mmでも3時間かかることがわかる。ここで、粒径を0.5mmで一定にすると温度と反応時間の組が得られる。反応速度が速いほど反応時間は短くなるから、温度が10℃低下すると、反応時間が4倍になることより、50℃で3時間は、40℃で12時間、30℃で48時間=2日、20℃で8日となる。従って、温度100℃と粒径512mmで3時間かかる反応は、20℃と0.5mmで8日かかることがわかる。これは、室温で1日〜7日おくという実際に得られている値に近いことが解る。
【0021】
これより、植物体とアルカリ水溶液での反応速度と温度の関係は、2倍の系列よりも4倍の系列の方に近いと考えられる。
【0022】
粉砕することが有利であるか、加熱することが有利であるかは、植物体1リットル当り換算で、2つの場合のエネルギー消費量を比較することにより明らかにすることができる。
【0023】
(1)粉砕器の場合。定格電圧Vr(V)、定格電流I(A)の粉砕器が、単位時間当りにする仕事を電力P(W)とよび、
P=VrI (6)
で与えられる。粉砕器の運転時間をt(sec)とすると、粉砕器の消費した電気エネルギーWe(J)は
We=Pt (7)
で与えられる。
【0024】
(2)加熱による場合。一般に、物質1gの温度を1℃または1K上昇させるのに必要な熱量を比熱といい、単位はcal/g Kである。比熱は物質によって異なり、比熱の大きい物質ほど温度を変化させにくい。比熱c(cal/g K)の物質m(g)の温度をt(K)上昇させるのに必要な熱量をQ(cal)とすると、
Q=mct (8)
である。加えた仕事または熱エネルギーをWq(J)、発生した熱量をQ(cal)とすると次の関係がある。
Wq=JQ (9)
ここで、比例定数Jは、熱の仕事当量とよばれ、
J=4.19 J/cal (10)
である。
【0025】
【発明が解決しようとする課題】
植物体のセルロースとリグニンを分離するという目的を達成するために、省エネルギーで環境に対して、より温和な手段が望まれているにもかかわらず、pH14程度の25〜30%アルカリで数時間も煮沸させ、加熱し続けて、エネルギーを大量に消費し、環境にとっても危険で過酷な手段しか見いだされていなかった。
【0026】
【課題を解決するための手段】
粉砕器やすりばちなどの粒径を小さくする手段により、細かくされた後に、ふるい等の選別手段により、0.5mm以下の粒径にそろえられた植物体粉末を、あらかじめ調節した温度とpH値をもつアルカリ水溶液と混合するか、または、アルカリ水溶液と混合してから温度とpH値を調節する。その後、固体成分と液体成分とを分離する。液体成分の温度とpH値をあらかじめ定めた値まで調節することにより、リグニンが沈澱する。漉紙やキッチンタオル等により、沈澱物を液体成分と分離して、沈澱物としてのリグニンを得る。
【0027】
【作用】
植物体とアルカリ水溶液との反応において、反応速度は、植物体の表面積に比例し、植物体の表面積は、植物体の粒径に反比例する。同時に10℃の温度の上昇で反応速度は約2〜4倍になる。従って、反応速度にとって、粒径を半分にすることは、5〜10℃の温度上昇と同じ意味を持つことが導かれる。すなわち、植物体を細かく砕くことは、反応速度にとって、加熱することと同等な効果があり、室温でありながらも反応速度が著しく増大し、高温度における場合と同様にセルロースとリグニンの分離が容易になる。リグニンには高分子リグニンと低分子リグニンがあり、高分子リグニンは溶けにくく、低分子リグニンは溶けやすい。アルカリ水溶液の温度とpH値を変化させることにより、溶け出すリグニンを選別することができる。溶け出したリグニンを含んでいるアルカリ水溶液の温度とpH値を調節することにより、沈澱するリグニンを選別することができる。
【0028】
【発明の実施の形態】
のこ屑などの植物体をすりばちで、よくすった後に、ふるい等にかけて、植物体の粒径が0.5mm以下になったものを容器に入れて重曹と水を加えて温度とpH値を調節することにより、溶け出すリグニンを選別し、溶液を撹拌し、そのまま室温で保持し、1日から1週間の抽出時間を経た後に、液体成分と固体成分を分離する。液体成分の温度とpH値を調節することにより、沈澱するリグニンを選別する。漉紙やキッチンタオルなどで漉過することにより、リグニンを得る。特に、アルカリ水溶液の温度とpH値を調節することにより、溶け出すリグニンと沈澱するリグニンとの、分子量で異なる溶解度の差を利用して、特定の分子量を持つリグニンだけを選別して取り出す。
【0029】
【実施例】
のこ屑をすりばちでよくすった後に、粒径を測定した。ふるいは、NONAKA RIKAKI CO.,LTD.のTESTING SIEVE JIS Z8801を用いた。始めにふるいの重さを測定した。天秤はケニスのEK−6000Hであり、測定誤差は0.1gであった。4.0−1.4mmは409.7g、2.0−0.9mmは388.0g、600−400μmは315.3g、500−315μmは313.5g、300−200μmは284.5g、150−100μmは274.1g、底の皿は249.4gであった。ふるいを重ねて振動試験装置(ニットー電動フルイ、日陶科学(株)、ANF30)に固定した。ビーカーの重さを測定したら、97.5gであった。ビーカーに20.0gののこ屑をいれた。ビーカーを傾けて、のこ屑を最上段のふるいに注いだ。ビーカーの重さを測定すると、19.9gののこ屑を注いだことがわかった。最上段のふるいに蓋をして、振動試験機を15分間動作させた。その後、ふるいの重さを測り、ふるいそのものの重さとの差を求めた。4.0−1.4mmは0.0g、2.0−0.9mmは0.1g、600−400μmは0.1g、500−315μmは0.0g(0%)、300−200μmは2.2g(11%)、150−100μmは8.4g(42%)、底の皿は8.8g(44%)であった。測定誤差は0.1gであるので、こののこ屑は0.5mm以下の粒径にそろっていることが確認された。およそ150μmが平均粒径であると考えられる。150μm以下の粒度分布は測定器がなくて測定できなかった。
【0030】
以上のように選別されたのこ屑を用いて実験を行った。500ccのペットボトルの中に、0.5mm以下の粒径となるまで細かく砕かれたのこ屑を250cc入れて、こさじ1/3(約1g)の重曹と400ccの水を入れて、蓋を閉めて混合し、そのまま、1日から1週間置いておくと、液体成分は茶褐色から黒褐色に変色した。別のペットボトルに液体成分を注ぐと固体成分だけが残るので、液体成分と固体成分とを分離することができた。液体成分を酸性にして、リグニンが沈澱した。キッチンタオルで漉過して、リグニンを得た。
【0031】
このようにして取り出したリグニンのTG−DTA曲線を得た。発熱のピークを見ると、334℃で大きくてゆるやかなピークがあり、462℃で小さくてゆるやかなピークがあった。比較のために求めたリグニンの標準サンプルのTG−DTA曲線においては、431℃で大きなするどいピークがあり、346℃では小さなピークがあった。ピークの鋭さからみて、標準サンプルの方が純度が高いことがわかった。又、ピーク位置での大小関係が反対であることから、標準サンプルと今回取り出したリグニンとは成分の組成比が異なることがわかった。
【0032】
同じく、0.5mm以下の粒径となるまで細かく砕かれたのこ屑にpH値を変えた水溶液を加えて液体成分の色の変化を観察した。
(1)0.057gののこ屑をシャーレにとり、pH1.6の水溶液を10cc加えた。1日後、液体成分の色は透明であった。5日後、液体成分の色は透明であった。
(2)0.100gののこ屑をシャーレにとり、pH2.7の水溶液を10cc加えた。1日後、液体成分の色は透明であった。液体表面に粉があり、膜が張ったように見えた。4日後、液体成分の色は透明であった。
(3)0.111gののこ屑をシャーレにとり、pH3.1の水溶液を10cc加えた。1日後、液体成分の色は透明であった。液体表面に粉があり、膜が張ったように見えた。4日後、液体成分の色は透明であった。
(4)0.085gののこ屑をシャーレにとり、pH4.2の水溶液を10cc加えた。1日後、液体成分の色は透明であった。液体表面に膜が張ったように見えた。5日後、液体成分の色は透明であった。
(5)0.18gののこ屑をシャーレにとり、pH7.7の水を10cc加えた。1日後、液体成分の色は透明であった。5日後、液体成分の色は少し黒く変化した。
(6)0.063gののこ屑をシャーレにとり、pH9.0の水溶液を10cc加えた。1日後、液体成分の色は透明であった。4日後、液体成分の色は少し黒く変化した。液体の表面に粉が見られた。
(7)0.065gののこ屑をシャーレにとり、pH9.6の水溶液を10cc加えた。1日後、液体成分の色は少し黒く変化した。
(8)0.054gののこ屑をシャーレにとり、pH10.1の水溶液を10cc加えた。1時間後、液体成分の色は少し黒く変化した。1日後、液体成分の色は少し黒く変化した。
(9)0.058gののこ屑をシャーレにとり、pH11.1の水溶液を10cc加えた。1時間後、液体成分の色は少し黒く変化した。1日後、液体成分の色は少し黒く変化した。粉が黒くなっていた。
(10)0.077gののこ屑をシャーレにとり、pH12.1の水溶液を10cc加えた。1日後、液体成分の色は少し黒く変化した。液体表面に粉があり、膜が張ったように見えた。
【0033】
同じく、0.5mm以下の粒径となるまで細かく砕かれたのこ屑に有機溶媒を加えて液体成分の色の変化を観察した。
(1)0.1gののこ屑をガラス容器に入れて、100ccのアセトンを加えた後、蓋を閉めた。1日後、液体成分の色はわずかに茶褐色になった。
(2)0.1gののこ屑をガラス容器に入れて、100ccのエタノールを加えた後、蓋を閉めた。1日後、液体成分の色はわずかに茶褐色になった。
これらより有機溶剤にリグニンがとけて、セルロースを分離することができることがわかった。
【0034】
すりばちでのこ屑を砕いて粒径0.5mm以下に細かくした。15.353gののこ屑を500ccのペットボトルにいれた。のこ屑は薄いおうど色であった。
(1)0.296gの水酸化ナトリウム、NaOH=40(和光純薬工業、184−02135)と200ccの水(水道水、水温20℃)を混ぜるとpH11.9であった。pH測定には、pH測定器(HANNA Instruments、Water Test、誤差0.2pH)を用いた。水と混合する直前に、小さなボタンのような形をした白い水酸化ナトリウム結晶は、潮解して空気中の水分を吸って表面が溶けているように見えた。この水酸化ナトリウム水溶液を先の500ccのペットボトルにいれてのこ屑と混ぜて、撹拌した。のこ屑と水溶液は、暗い紫色に変わり、泡が生じた。20分経過した後、漉紙で漉し取ろうとしたが、目づまりがおきて漉過する速さが遅くなったので、キッチンタオルに変えて漉過した。ろ液のpHはpH11.6であった。沈澱物には、のこ屑も多数含まれていた。沈澱物の色は、暗い紫色であったが、乾燥すると焦げ茶色であった。
(2)0.053gのクエン酸結晶(和光純薬、038−06925)をろ液に加えた。キッチンタオルで漉過すると、ろ液のpHはpH10.9であった。沈澱物の色は、薄い茶褐色であった。
(3)0.067gのクエン酸結晶をろ液に加えた。キッチンタオルで漉過すると、ろ液のpHはpH8.1であった。沈澱物の色は、薄い茶色であった。
(4)0.034gのクエン酸結晶をろ液に加えた。キッチンタオルで漉過すると、ろ液のpHはpH6.5であった。沈澱物の色は、薄いこげ茶色であった。
(5)0.023gのクエン酸結晶をろ液に加えた。キッチンタオルで漉過すると、ろ液のpHはpH5.9であった。沈澱物の色は薄いおうど色であった。
(6)0.062gのクエン酸結晶をろ液に加えた。キッチンタオルで漉過すると、ろ液のpHはpH5.2であった。沈澱物の色は、薄い紫色をおびたおうど色であった。
【0035】
キッチンタオルの色が沈澱物そのものの色であることを確認するために、次の比較実験を行った。
(1)0.223gの水酸化ナトリウムと200ccの水とを混ぜるとpH12.1であった。水酸化ナトリウム水溶液をキッチンタイオルで漉過すると、ろ液は透明で、ろ液のpHはpH12.1であった。キッチンタオルは白色そのままであった。
(2)0.029gのクエン酸結晶を加え、よく撹拌し、キッチンタイオルで漉過すると、ろ液は透明で、pH11.9であった。キッチンタオルは白色そのままであった。
(3)0.036gのクエン酸結晶を加え、よく撹拌し、キッチンタイオルで漉過すると、ろ液は透明で、pH11.9であった。キッチンタオルは白色そのままであった。
(4)0.026gのクエン酸結晶を加え、よく撹拌し、キッチンタイオルで漉過すると、ろ液は透明で、pH11.8であった。キッチンタオルは白色そのままであった。
(5)以下同様に0.02〜0.03gのクエン酸結晶を加えるごとに、よく撹拌し、キッチンタオルで漉過することを繰り返した。ろ液のpHが6.3になるまで続けた。それぞれの場合に、ろ液は透明であり、キッチンタオルは白色そのままであった。
従って、先の実験で得られたキッチンタオルの色は、pHごとに選別された沈澱物そのものの色であることが確認された。
【0036】
参考のために、pH制御を助ける薬剤の性質をかかげておく。
(1)0.013gの水酸化カルシウム、Ca(OH)2=74.09(和光純薬工業、038−16295)と100ccの水を混合するとpH10.4となった。0.106gの水酸化カルシウムを加えるとpH12.1となった。0.882gの水酸化カルシウムを加えるとpH12.1となった。
これより、水100ccに対して0.1gを越える水酸化カルシウムはpHを12.1の一定値に保持する機能をもつことがわかる。水酸化カルシウムを多めにいれておけば常にpH12.1になる溶液をつくることができる。
(2)重曹耳掻き1杯0.014gで100ccの水と混ぜるとpH7.8であった。0.106gの重曹を加えるとpH8.1であった。1.014gの重曹を加えるとpH8.1であった。これより、水100ccに対して0.1gを越える重曹はpHをpH8.1の一定値に保持する機能をもつことがわかる。重曹を多めにいれておけば常にpH8.1になる溶液をつくることができる。
(3)100ccのチョークの粉を100ccの水を混合し、漉過すると、ろ液はpH7.1になった。チョークの粉はpHを7.1の一定値に保持する機能をもつことがわかる。チョークの粉を多めにいれておけば常にpH7.1になる溶液をつくることができる。チョークの粉は酸性をアルカリ性にするが、すでにアルカリ性である溶液に対してはpHの重ね合わせとみられる現象を生じた。すなわち、すでにpH7.3のアルカリ溶液にチョークの粉をまぜるとpH7.4になった。
【0037】
これらから、その機構は明かではないが、一種のpH保存則が存在していると考えられる。また単に多めに加えさえすれば、一定のpHが得られて、pH制御が簡単にできるので、これらの薬剤を用いることが望ましい。さらにこれら以外の薬剤の中で、室温で一定のpHを与えるような薬剤についての知識をデータベースとして蓄積することは、簡単な操作で、精度のよいpH制御を行うために、望ましいことである。溶解度は一般に温度の関数であることから、温度変化によってもpHは変化するであろう。従って、リグニンを分離する際には、温度とpHの2つの操作量を調節することで細かく分離できるであろう。
分子量の異なるリグニンは、融点もまた異なると予想される。従って、アルカリ水溶液の温度とpHを制御することにより得られたリグニンを、さらにその融点で分離すれば、純粋な単一組成のリグニンを得ることができるであろう。
一般に、半導体の純度を高めるために用いられているゾーンメルティング法や気相成長法をリグニンに適用し、その純度を高めることが望ましい。こうして純度を高めてリグニンの単結晶を得て、X線回折により構造解析し、リグニンの結晶構造を同定することが望ましい。その後、リグニンの単結晶ごとの薬効や性質について調べることが望ましい。
【0038】
今後の実験の方向を定め、原理を見いだすために、これらの実験事実を説明できる一つの仮説を提起しておこう。
【0039】
アルカリ水溶液において、水素イオン指数pHは7以上であり、水素イオン濃度[H+]よりも水酸化物イオン濃度[OH−]が大きい。例えば、pH8では[OH−]/[H+]=100であり、pH9では、[OH−]/[H+]=10000である。さらに水素イオンは陽子1個であり、水酸化物イオンの分子量は17であることから、アルカリ水溶液中でのリグニンとの反応は、水酸化物イオン[OH−]が主として決定すると考えられる。
【0040】
高分子リグニンは分子量が(〜10000)大きく、すなわち質量が大きいので動きにくく、また木屑との結合力も大きいと考えられるので、水酸化物イオンOH−の衝突によっても、影響を受けにくいであろう。他方、低分子リグニンは分子量が(〜100)小さくて、すなわち質量が小さいので動きやすく、また木屑との結合力も小さいと考えられる。従って、水酸化物イオンOH−の衝突によって、容易にアルカリ水溶液中に溶出するであろう。
【0041】
したがってここで、1個の水酸化物イオンOH−が1個の低分子リグニンに衝突すると1個の低分子リグニンがのこ屑の表面から離脱して、アルカリ水溶液中に溶出すると仮定する。
【0042】
水酸化物イオンOH−の数が少ない場合には、低分子リグニンの溶出する数は、水酸化物イオンOH−の数に比例するであろう。他方、水酸化物イオンOH−の数が多い場合には、1個の低分子リグニンに対してN個の水酸化物イオンOH−が存在し、1個の水酸化物イオンが1個の低分子リグニンに衝突する確率は1/Nに比例するであろう。従って、低分子リグニンの溶出する数は、水酸化物イオンOH−の数に反比例するか、または飽和するであろう。以上より、水酸化物イオンOH−の数が、少ない場合と多い場合の中間として、ある最適な数が存在すると考えられる。すなわち、低分子リグニンの溶出する数を最大にするような一定のpH値が存在することが導かれる。
【0043】
水酸化物イオンOH−が低分子リグニンに衝突するときのエネルギーの平均値は、水酸化物イオンの絶対温度、すなわちアルカリ水溶液の絶対温度に比例することから、低分子リグニンの溶出する数は、温度とpHとに依存することが導かれる。
【0044】
【発明の効果】
危険な化学物質を使用せず、長時間の加熱も不要となり、コストが安く、手軽に、しかも安全にリグニンが得られるようになった。
【発明の属する技術分野】
本発明は、粉砕と微細な植物体とアルカリ水溶液の温度とpH値と粒径と化学反応の速度とリグニンの分子量とセルロースの分離に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、木材などの植物体からセルロースとリグニンを分離する方法は、どれも高温で強アルカリや強酸を使うものであることが知られている(例えば、非特許文献1参照。)。リグニンを低分子化する試みが、古くからなされており、低分子リグニンは溶けやすく、高分子リグニンは溶けにくいことが知られている(例えば、非特許文献2参照。)。
【非特許文献1】「ウッドケミカルスの最新技術、株式会社シーエムシー、2000年10月31日第1刷発行」、第2章、p.6
【非特許文献2】「ウッドケミカルスの最新技術、株式会社シーエムシー、2000年10月31日第1刷発行」、第2章、p.138又はp.152
【0003】
本発明人は、のこくずをすりばちで細かく砕くことにより、室温においても、1日〜7日で、アルカリ水溶液にリグニンが溶けて、セルロースと分離できることを見いだした。しかしながら、その後の調査で、この現象はすでに、特許として公知となっていることがわかった(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平06ー87756号公報
しかし、その特許の中では、植物体の粉砕を、加工工程の最後に行っており、化学反応にとって粉砕することがきわめて重要であるにもかかわらず、これが認識されていないことに気づいた。本発明にとっては、粉砕こそが最も重要な意味を持つのであり、加工工程の中で最初にすべきことが粉砕であることを提案し、以下に、その効果について考察する。
【0004】
化学反応の量は、化学反応によって消費される反応物の量又は、生成される生成物の量で表される。化学反応の量を表す単位としては、質量、モル濃度、体積や圧力の単位が用いられる。
【0005】
化学反応の速さは、単位時間当りに消費される反応物の量や単位時間あたりに生じる生成物の量によって表される(例えば、非特許文献3参照。)。
【非特許文献3】高等学校 化学II、(株)第一学習社、平成8年発行、p17
一般に、反応の速さは、時間とともに変化するので、一定時間当りの平均の速さで表される。反応物の濃度がΔt(s)間にΔc(mol/l)減少したとすると、Δt(s)間における反応の平均の速さV(mol/l s)は、次式で表される。
V=−Δc/Δt (1)
【0006】
化学反応は、分子やイオンが衝突することによっておこる。従って、単位時間あたりの分子又はイオン相互の衝突回数が多くなると、反応の速さは大きくなる。物質Aと物質Bが反応する場合、Aの濃度が2倍になると、衝突回数も2倍になり、A、Bの濃度がそれぞれ2倍になると、衝突回数は2x2=4倍になる。反応の速さが衝突回数に比例すると考えると、この反応の速さVは、A、Bの濃度[A]、[B]を用いて、次式のように表わされる。
V=k[A][B] (2)
ここで、比例定数kは反応速度定数である。
【0007】
このように、一定温度で反応物の濃度や分圧が大きくなると、単位体積中の分子やイオンの数が多くなり、分子やイオンの衝突回数が増加するため、反応が速くなると考えられる。
【0008】
植物体とアルカリ水溶液の化学反応において、化学反応は植物体の表面で主として生じていると考えられる。このとき、植物体の表面にアルカリ水溶液の分子又はイオンが衝突する回数は、植物体の表面が大きいほど大きいと考えられる。すなわち、分子又はイオンが衝突する回数は、植物体の表面積に比例することが導かれる。同時に、反応速度は、植物体の表面と分子やイオンの衝突回数に比例するから、反応速度は植物体の表面積に比例することが導かれる。従って、植物体の表面積が大きいほど反応速度は大きくなる。
【0009】
粉砕器などによって植物体の粒径が細かくされる場合には、植物体の体積がそのまま保持される場合が多い。このように植物体の体積が一定値に保存される条件の下では、表面積は粒径に反比例する。これは、次のようにして証明される。
【0010】
粒径Dの球を考える。同時に、球の半径をr=D/2とおくと、球の体積は(4/3)πr3、球の表面積は4πr2である。表面積と体積の比は、(4πr2)÷((4/3)πr3)=3/rとなる。ここで、体積は常に一定であると仮定すると、表面積は半径rに反比例することが導かれる。さらに、粒径Dは半径rの2倍に等しいことから、表面積は粒径Dに反比例することが導かれる。
【0011】
植物体とアルカリ水溶液の反応において、反応速度は、植物体の表面積に比例する。同時に植物体の表面積は粒径Dに反比例するので、粒径Dが2分の1になると反応速度Vが2倍になる。従って、表式は、
V=BVo Do/D (3)
で与えられる。ここで、Bは比例定数、Voは反応速度の初期値、Doは粒径の初期値をそれぞれ表わす。
【0012】
以上では、表面積が広くなると化学反応の速さが大きくなることについて述べたが、一般に、温度が上がると化学反応の速さは大きくなる。従って、反応速度を大きくするには、粒径を小さくしてもよいし、温度をあげてもよいことがわかる。このことから、お互いに等しい反応速度を与えるような粒径と温度の値の組を与えることが可能であると考えられる。
【0013】
化学反応の反応速度は温度が10℃上昇するごとに2倍〜4倍になることが知られている。何倍になるかは、化学反応の種類で異なっており、反応温度が10K上昇するごとに、反応速度定数は3〜4倍になっていることや(例えば、非特許文献4参照。)、温度を10℃上げるごとに、反応速度が2〜3倍になるような反応が多いことが知られている(例えば、非特許文献5参照。)。
【非特許文献4】高等学校 化学II、(株)第一学習社、平成8年発行、p21
【非特許文献5】新化学、数研出版(株)、平成3年4月1日発行、p127
【0014】
ここでは、簡単のため2倍の場合と4倍の場合とを考察する。
(1)温度が10℃上昇すると、反応速度Vが2倍になる場合には、表式は、
ln(V/Vo)=(ΔT/10)ln2+ ln(A1) (4)
で与えられる。ここでlnは自然対数、Voは反応速度の初期値、ΔTは温度差、A1は比例定数をそれぞれ表わす。粒径が2分の一になると反応速度は2倍になるから、反応速度にとって、粒径を2分の1にすることと温度が10℃上昇することとは等しい意味をもつことがわかる。
【0015】
これより、反応速度の等しい系列を作ることができる。たとえば、出発する温度と粒径を20℃と0.5mmに定めれば、これと同じ反応速度を与える温度と粒径の組は、30℃で1mm、40℃で2mm、50℃で4mm、60℃で8mm、70℃で16mm、80℃で32mm、90℃で64mm、100℃で128mmなどとなる。以下では、これを2倍の系列と呼ぶことにしよう。
【0016】
(2)温度が10℃上昇すると反応速度が4倍になる場合には、温度Tが5℃上昇するごとに反応速度Vが2倍になるので、表式は、
ln(V/Vo)=(ΔT/5)ln2+ ln(A2) (5)
で与えられる。ここでlnは自然対数、Voは反応速度の初期値、ΔTは温度差、A2は比例定数をそれぞれ表わす。粒径が2分の1になると反応速度は2倍になるから、反応速度にとって粒径を2分の一にすることと温度が5℃上昇することとは等しい意味をもつことがわかる。
【0017】
これより、反応速度の等しい系列を作ることができる。たとえば、出発する温度と粒径を20℃と0.5mmと定めれば、これと同じ反応速度を与える温度と粒径の組は、25℃で1mm、30℃で2mm、35℃で4mm、40℃で8mm、45℃で16mm、50℃で32mm、55℃で64mm、60℃で128mm、65℃で256mm、70℃で512mm、75℃で1024mm、80℃で2048mm、85℃で4096mm、90℃で8192mm、95℃で16384mm、100℃で32768mmとなる。以下では、これを4倍の系列と呼ぶことにしよう。
【0018】
たとえば、100℃で100mmX100mmX2000mmの角材を3時間煮ることを出発点として選ぶと、角材の表面積は100X100X2+100X2000X4=820000mm2である。これと等しい表面積を持つ球の半径をrとおけば、表面積S=4πr2より、r=255.5〜256mmが得られる。粒径D=2rの関係より、D=512mmを得る。従って、100℃での角材の反応速度は、100℃での粒径512mmの球の反応速度に等しいことが導かれる。次に、温度と粒径の関係として2倍の系列と4倍の系列の2つの場合を考える。
【0019】
(1)2倍の系列の場合。温度100℃で粒径512mmから出発すると、90℃で256mm、80℃で128mm、70℃で64mm、60℃で32mm、50℃で16mm、40℃で8mm、30℃で4mm、20℃で2mmとなる。従って、100℃で512mmと20℃で2mmは等しい反応速度を与える。よって、温度100℃と粒径512mmで反応時間が3時間かかる反応は、20℃と2mmでも3時間かかる。反応速度が速いほど反応時間は短くなるので、ここで、温度を20℃一定にすると粒径2mmで反応時間3時間は、1mmで1.5時間、0.5mmで45分となる。このことは、100℃と512mmで3時間かかる反応が、20℃と0.5mmで45分で済むことを意味する。この値は、室温で1日〜7日おくという実際の値とかなりずれがあることがわかる。
【0020】
(2)4倍の系列の場合。温度100℃で粒径512mmから出発すると、95℃で256mm、90℃で128mm、85℃で64mm、80℃で32mm、75℃で16mm、70℃で8mm、65℃で4mm、60℃で2mm、55℃で1mm、50℃で0.5mmとなる。従って、100℃で512mmと50℃で0.5mmは等しい反応速度を与える。よって、温度100℃と粒径512mmで反応時間が3時間かかる反応は、50℃と0.5mmでも3時間かかることがわかる。ここで、粒径を0.5mmで一定にすると温度と反応時間の組が得られる。反応速度が速いほど反応時間は短くなるから、温度が10℃低下すると、反応時間が4倍になることより、50℃で3時間は、40℃で12時間、30℃で48時間=2日、20℃で8日となる。従って、温度100℃と粒径512mmで3時間かかる反応は、20℃と0.5mmで8日かかることがわかる。これは、室温で1日〜7日おくという実際に得られている値に近いことが解る。
【0021】
これより、植物体とアルカリ水溶液での反応速度と温度の関係は、2倍の系列よりも4倍の系列の方に近いと考えられる。
【0022】
粉砕することが有利であるか、加熱することが有利であるかは、植物体1リットル当り換算で、2つの場合のエネルギー消費量を比較することにより明らかにすることができる。
【0023】
(1)粉砕器の場合。定格電圧Vr(V)、定格電流I(A)の粉砕器が、単位時間当りにする仕事を電力P(W)とよび、
P=VrI (6)
で与えられる。粉砕器の運転時間をt(sec)とすると、粉砕器の消費した電気エネルギーWe(J)は
We=Pt (7)
で与えられる。
【0024】
(2)加熱による場合。一般に、物質1gの温度を1℃または1K上昇させるのに必要な熱量を比熱といい、単位はcal/g Kである。比熱は物質によって異なり、比熱の大きい物質ほど温度を変化させにくい。比熱c(cal/g K)の物質m(g)の温度をt(K)上昇させるのに必要な熱量をQ(cal)とすると、
Q=mct (8)
である。加えた仕事または熱エネルギーをWq(J)、発生した熱量をQ(cal)とすると次の関係がある。
Wq=JQ (9)
ここで、比例定数Jは、熱の仕事当量とよばれ、
J=4.19 J/cal (10)
である。
【0025】
【発明が解決しようとする課題】
植物体のセルロースとリグニンを分離するという目的を達成するために、省エネルギーで環境に対して、より温和な手段が望まれているにもかかわらず、pH14程度の25〜30%アルカリで数時間も煮沸させ、加熱し続けて、エネルギーを大量に消費し、環境にとっても危険で過酷な手段しか見いだされていなかった。
【0026】
【課題を解決するための手段】
粉砕器やすりばちなどの粒径を小さくする手段により、細かくされた後に、ふるい等の選別手段により、0.5mm以下の粒径にそろえられた植物体粉末を、あらかじめ調節した温度とpH値をもつアルカリ水溶液と混合するか、または、アルカリ水溶液と混合してから温度とpH値を調節する。その後、固体成分と液体成分とを分離する。液体成分の温度とpH値をあらかじめ定めた値まで調節することにより、リグニンが沈澱する。漉紙やキッチンタオル等により、沈澱物を液体成分と分離して、沈澱物としてのリグニンを得る。
【0027】
【作用】
植物体とアルカリ水溶液との反応において、反応速度は、植物体の表面積に比例し、植物体の表面積は、植物体の粒径に反比例する。同時に10℃の温度の上昇で反応速度は約2〜4倍になる。従って、反応速度にとって、粒径を半分にすることは、5〜10℃の温度上昇と同じ意味を持つことが導かれる。すなわち、植物体を細かく砕くことは、反応速度にとって、加熱することと同等な効果があり、室温でありながらも反応速度が著しく増大し、高温度における場合と同様にセルロースとリグニンの分離が容易になる。リグニンには高分子リグニンと低分子リグニンがあり、高分子リグニンは溶けにくく、低分子リグニンは溶けやすい。アルカリ水溶液の温度とpH値を変化させることにより、溶け出すリグニンを選別することができる。溶け出したリグニンを含んでいるアルカリ水溶液の温度とpH値を調節することにより、沈澱するリグニンを選別することができる。
【0028】
【発明の実施の形態】
のこ屑などの植物体をすりばちで、よくすった後に、ふるい等にかけて、植物体の粒径が0.5mm以下になったものを容器に入れて重曹と水を加えて温度とpH値を調節することにより、溶け出すリグニンを選別し、溶液を撹拌し、そのまま室温で保持し、1日から1週間の抽出時間を経た後に、液体成分と固体成分を分離する。液体成分の温度とpH値を調節することにより、沈澱するリグニンを選別する。漉紙やキッチンタオルなどで漉過することにより、リグニンを得る。特に、アルカリ水溶液の温度とpH値を調節することにより、溶け出すリグニンと沈澱するリグニンとの、分子量で異なる溶解度の差を利用して、特定の分子量を持つリグニンだけを選別して取り出す。
【0029】
【実施例】
のこ屑をすりばちでよくすった後に、粒径を測定した。ふるいは、NONAKA RIKAKI CO.,LTD.のTESTING SIEVE JIS Z8801を用いた。始めにふるいの重さを測定した。天秤はケニスのEK−6000Hであり、測定誤差は0.1gであった。4.0−1.4mmは409.7g、2.0−0.9mmは388.0g、600−400μmは315.3g、500−315μmは313.5g、300−200μmは284.5g、150−100μmは274.1g、底の皿は249.4gであった。ふるいを重ねて振動試験装置(ニットー電動フルイ、日陶科学(株)、ANF30)に固定した。ビーカーの重さを測定したら、97.5gであった。ビーカーに20.0gののこ屑をいれた。ビーカーを傾けて、のこ屑を最上段のふるいに注いだ。ビーカーの重さを測定すると、19.9gののこ屑を注いだことがわかった。最上段のふるいに蓋をして、振動試験機を15分間動作させた。その後、ふるいの重さを測り、ふるいそのものの重さとの差を求めた。4.0−1.4mmは0.0g、2.0−0.9mmは0.1g、600−400μmは0.1g、500−315μmは0.0g(0%)、300−200μmは2.2g(11%)、150−100μmは8.4g(42%)、底の皿は8.8g(44%)であった。測定誤差は0.1gであるので、こののこ屑は0.5mm以下の粒径にそろっていることが確認された。およそ150μmが平均粒径であると考えられる。150μm以下の粒度分布は測定器がなくて測定できなかった。
【0030】
以上のように選別されたのこ屑を用いて実験を行った。500ccのペットボトルの中に、0.5mm以下の粒径となるまで細かく砕かれたのこ屑を250cc入れて、こさじ1/3(約1g)の重曹と400ccの水を入れて、蓋を閉めて混合し、そのまま、1日から1週間置いておくと、液体成分は茶褐色から黒褐色に変色した。別のペットボトルに液体成分を注ぐと固体成分だけが残るので、液体成分と固体成分とを分離することができた。液体成分を酸性にして、リグニンが沈澱した。キッチンタオルで漉過して、リグニンを得た。
【0031】
このようにして取り出したリグニンのTG−DTA曲線を得た。発熱のピークを見ると、334℃で大きくてゆるやかなピークがあり、462℃で小さくてゆるやかなピークがあった。比較のために求めたリグニンの標準サンプルのTG−DTA曲線においては、431℃で大きなするどいピークがあり、346℃では小さなピークがあった。ピークの鋭さからみて、標準サンプルの方が純度が高いことがわかった。又、ピーク位置での大小関係が反対であることから、標準サンプルと今回取り出したリグニンとは成分の組成比が異なることがわかった。
【0032】
同じく、0.5mm以下の粒径となるまで細かく砕かれたのこ屑にpH値を変えた水溶液を加えて液体成分の色の変化を観察した。
(1)0.057gののこ屑をシャーレにとり、pH1.6の水溶液を10cc加えた。1日後、液体成分の色は透明であった。5日後、液体成分の色は透明であった。
(2)0.100gののこ屑をシャーレにとり、pH2.7の水溶液を10cc加えた。1日後、液体成分の色は透明であった。液体表面に粉があり、膜が張ったように見えた。4日後、液体成分の色は透明であった。
(3)0.111gののこ屑をシャーレにとり、pH3.1の水溶液を10cc加えた。1日後、液体成分の色は透明であった。液体表面に粉があり、膜が張ったように見えた。4日後、液体成分の色は透明であった。
(4)0.085gののこ屑をシャーレにとり、pH4.2の水溶液を10cc加えた。1日後、液体成分の色は透明であった。液体表面に膜が張ったように見えた。5日後、液体成分の色は透明であった。
(5)0.18gののこ屑をシャーレにとり、pH7.7の水を10cc加えた。1日後、液体成分の色は透明であった。5日後、液体成分の色は少し黒く変化した。
(6)0.063gののこ屑をシャーレにとり、pH9.0の水溶液を10cc加えた。1日後、液体成分の色は透明であった。4日後、液体成分の色は少し黒く変化した。液体の表面に粉が見られた。
(7)0.065gののこ屑をシャーレにとり、pH9.6の水溶液を10cc加えた。1日後、液体成分の色は少し黒く変化した。
(8)0.054gののこ屑をシャーレにとり、pH10.1の水溶液を10cc加えた。1時間後、液体成分の色は少し黒く変化した。1日後、液体成分の色は少し黒く変化した。
(9)0.058gののこ屑をシャーレにとり、pH11.1の水溶液を10cc加えた。1時間後、液体成分の色は少し黒く変化した。1日後、液体成分の色は少し黒く変化した。粉が黒くなっていた。
(10)0.077gののこ屑をシャーレにとり、pH12.1の水溶液を10cc加えた。1日後、液体成分の色は少し黒く変化した。液体表面に粉があり、膜が張ったように見えた。
【0033】
同じく、0.5mm以下の粒径となるまで細かく砕かれたのこ屑に有機溶媒を加えて液体成分の色の変化を観察した。
(1)0.1gののこ屑をガラス容器に入れて、100ccのアセトンを加えた後、蓋を閉めた。1日後、液体成分の色はわずかに茶褐色になった。
(2)0.1gののこ屑をガラス容器に入れて、100ccのエタノールを加えた後、蓋を閉めた。1日後、液体成分の色はわずかに茶褐色になった。
これらより有機溶剤にリグニンがとけて、セルロースを分離することができることがわかった。
【0034】
すりばちでのこ屑を砕いて粒径0.5mm以下に細かくした。15.353gののこ屑を500ccのペットボトルにいれた。のこ屑は薄いおうど色であった。
(1)0.296gの水酸化ナトリウム、NaOH=40(和光純薬工業、184−02135)と200ccの水(水道水、水温20℃)を混ぜるとpH11.9であった。pH測定には、pH測定器(HANNA Instruments、Water Test、誤差0.2pH)を用いた。水と混合する直前に、小さなボタンのような形をした白い水酸化ナトリウム結晶は、潮解して空気中の水分を吸って表面が溶けているように見えた。この水酸化ナトリウム水溶液を先の500ccのペットボトルにいれてのこ屑と混ぜて、撹拌した。のこ屑と水溶液は、暗い紫色に変わり、泡が生じた。20分経過した後、漉紙で漉し取ろうとしたが、目づまりがおきて漉過する速さが遅くなったので、キッチンタオルに変えて漉過した。ろ液のpHはpH11.6であった。沈澱物には、のこ屑も多数含まれていた。沈澱物の色は、暗い紫色であったが、乾燥すると焦げ茶色であった。
(2)0.053gのクエン酸結晶(和光純薬、038−06925)をろ液に加えた。キッチンタオルで漉過すると、ろ液のpHはpH10.9であった。沈澱物の色は、薄い茶褐色であった。
(3)0.067gのクエン酸結晶をろ液に加えた。キッチンタオルで漉過すると、ろ液のpHはpH8.1であった。沈澱物の色は、薄い茶色であった。
(4)0.034gのクエン酸結晶をろ液に加えた。キッチンタオルで漉過すると、ろ液のpHはpH6.5であった。沈澱物の色は、薄いこげ茶色であった。
(5)0.023gのクエン酸結晶をろ液に加えた。キッチンタオルで漉過すると、ろ液のpHはpH5.9であった。沈澱物の色は薄いおうど色であった。
(6)0.062gのクエン酸結晶をろ液に加えた。キッチンタオルで漉過すると、ろ液のpHはpH5.2であった。沈澱物の色は、薄い紫色をおびたおうど色であった。
【0035】
キッチンタオルの色が沈澱物そのものの色であることを確認するために、次の比較実験を行った。
(1)0.223gの水酸化ナトリウムと200ccの水とを混ぜるとpH12.1であった。水酸化ナトリウム水溶液をキッチンタイオルで漉過すると、ろ液は透明で、ろ液のpHはpH12.1であった。キッチンタオルは白色そのままであった。
(2)0.029gのクエン酸結晶を加え、よく撹拌し、キッチンタイオルで漉過すると、ろ液は透明で、pH11.9であった。キッチンタオルは白色そのままであった。
(3)0.036gのクエン酸結晶を加え、よく撹拌し、キッチンタイオルで漉過すると、ろ液は透明で、pH11.9であった。キッチンタオルは白色そのままであった。
(4)0.026gのクエン酸結晶を加え、よく撹拌し、キッチンタイオルで漉過すると、ろ液は透明で、pH11.8であった。キッチンタオルは白色そのままであった。
(5)以下同様に0.02〜0.03gのクエン酸結晶を加えるごとに、よく撹拌し、キッチンタオルで漉過することを繰り返した。ろ液のpHが6.3になるまで続けた。それぞれの場合に、ろ液は透明であり、キッチンタオルは白色そのままであった。
従って、先の実験で得られたキッチンタオルの色は、pHごとに選別された沈澱物そのものの色であることが確認された。
【0036】
参考のために、pH制御を助ける薬剤の性質をかかげておく。
(1)0.013gの水酸化カルシウム、Ca(OH)2=74.09(和光純薬工業、038−16295)と100ccの水を混合するとpH10.4となった。0.106gの水酸化カルシウムを加えるとpH12.1となった。0.882gの水酸化カルシウムを加えるとpH12.1となった。
これより、水100ccに対して0.1gを越える水酸化カルシウムはpHを12.1の一定値に保持する機能をもつことがわかる。水酸化カルシウムを多めにいれておけば常にpH12.1になる溶液をつくることができる。
(2)重曹耳掻き1杯0.014gで100ccの水と混ぜるとpH7.8であった。0.106gの重曹を加えるとpH8.1であった。1.014gの重曹を加えるとpH8.1であった。これより、水100ccに対して0.1gを越える重曹はpHをpH8.1の一定値に保持する機能をもつことがわかる。重曹を多めにいれておけば常にpH8.1になる溶液をつくることができる。
(3)100ccのチョークの粉を100ccの水を混合し、漉過すると、ろ液はpH7.1になった。チョークの粉はpHを7.1の一定値に保持する機能をもつことがわかる。チョークの粉を多めにいれておけば常にpH7.1になる溶液をつくることができる。チョークの粉は酸性をアルカリ性にするが、すでにアルカリ性である溶液に対してはpHの重ね合わせとみられる現象を生じた。すなわち、すでにpH7.3のアルカリ溶液にチョークの粉をまぜるとpH7.4になった。
【0037】
これらから、その機構は明かではないが、一種のpH保存則が存在していると考えられる。また単に多めに加えさえすれば、一定のpHが得られて、pH制御が簡単にできるので、これらの薬剤を用いることが望ましい。さらにこれら以外の薬剤の中で、室温で一定のpHを与えるような薬剤についての知識をデータベースとして蓄積することは、簡単な操作で、精度のよいpH制御を行うために、望ましいことである。溶解度は一般に温度の関数であることから、温度変化によってもpHは変化するであろう。従って、リグニンを分離する際には、温度とpHの2つの操作量を調節することで細かく分離できるであろう。
分子量の異なるリグニンは、融点もまた異なると予想される。従って、アルカリ水溶液の温度とpHを制御することにより得られたリグニンを、さらにその融点で分離すれば、純粋な単一組成のリグニンを得ることができるであろう。
一般に、半導体の純度を高めるために用いられているゾーンメルティング法や気相成長法をリグニンに適用し、その純度を高めることが望ましい。こうして純度を高めてリグニンの単結晶を得て、X線回折により構造解析し、リグニンの結晶構造を同定することが望ましい。その後、リグニンの単結晶ごとの薬効や性質について調べることが望ましい。
【0038】
今後の実験の方向を定め、原理を見いだすために、これらの実験事実を説明できる一つの仮説を提起しておこう。
【0039】
アルカリ水溶液において、水素イオン指数pHは7以上であり、水素イオン濃度[H+]よりも水酸化物イオン濃度[OH−]が大きい。例えば、pH8では[OH−]/[H+]=100であり、pH9では、[OH−]/[H+]=10000である。さらに水素イオンは陽子1個であり、水酸化物イオンの分子量は17であることから、アルカリ水溶液中でのリグニンとの反応は、水酸化物イオン[OH−]が主として決定すると考えられる。
【0040】
高分子リグニンは分子量が(〜10000)大きく、すなわち質量が大きいので動きにくく、また木屑との結合力も大きいと考えられるので、水酸化物イオンOH−の衝突によっても、影響を受けにくいであろう。他方、低分子リグニンは分子量が(〜100)小さくて、すなわち質量が小さいので動きやすく、また木屑との結合力も小さいと考えられる。従って、水酸化物イオンOH−の衝突によって、容易にアルカリ水溶液中に溶出するであろう。
【0041】
したがってここで、1個の水酸化物イオンOH−が1個の低分子リグニンに衝突すると1個の低分子リグニンがのこ屑の表面から離脱して、アルカリ水溶液中に溶出すると仮定する。
【0042】
水酸化物イオンOH−の数が少ない場合には、低分子リグニンの溶出する数は、水酸化物イオンOH−の数に比例するであろう。他方、水酸化物イオンOH−の数が多い場合には、1個の低分子リグニンに対してN個の水酸化物イオンOH−が存在し、1個の水酸化物イオンが1個の低分子リグニンに衝突する確率は1/Nに比例するであろう。従って、低分子リグニンの溶出する数は、水酸化物イオンOH−の数に反比例するか、または飽和するであろう。以上より、水酸化物イオンOH−の数が、少ない場合と多い場合の中間として、ある最適な数が存在すると考えられる。すなわち、低分子リグニンの溶出する数を最大にするような一定のpH値が存在することが導かれる。
【0043】
水酸化物イオンOH−が低分子リグニンに衝突するときのエネルギーの平均値は、水酸化物イオンの絶対温度、すなわちアルカリ水溶液の絶対温度に比例することから、低分子リグニンの溶出する数は、温度とpHとに依存することが導かれる。
【0044】
【発明の効果】
危険な化学物質を使用せず、長時間の加熱も不要となり、コストが安く、手軽に、しかも安全にリグニンが得られるようになった。
Claims (1)
- 粉砕器やすりばちなどの粒径を小さくする手段により、細かくされた後に、ふるい等の選別手段により、0.5mm以下の粒径にそろえられた植物体粉末を、あらかじめ調節した温度とpH値をもつアルカリ水溶液と混合するか、または、アルカリ水溶液と混合してから温度とpH値を調節する。その後、固体成分と液体成分とを分離する。液体成分の温度とpH値をあらかじめ定めた値まで調節することにより、リグニンが沈澱する。漉紙等により、沈澱物を液体成分と分離して、沈澱物としてのリグニンを得ることを特徴とするリグニンの分離法。
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JP2002323804A JP2004156175A (ja) | 2002-11-07 | 2002-11-07 | リグニンの分離法 |
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
WO2013142352A1 (en) * | 2012-03-20 | 2013-09-26 | The Research Foundation Of State University Of New York | Flocculation of lignocellulosic hydrolyzates |
JP2014156476A (ja) * | 2014-05-07 | 2014-08-28 | Kayoko Kotoda | リグニン抽出物の製造方法及びリグニン抽出物 |
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2002
- 2002-11-07 JP JP2002323804A patent/JP2004156175A/ja active Pending
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