JP2004150453A - 液体動圧軸受の製造方法 - Google Patents
液体動圧軸受の製造方法 Download PDFInfo
- Publication number
- JP2004150453A JP2004150453A JP2002312974A JP2002312974A JP2004150453A JP 2004150453 A JP2004150453 A JP 2004150453A JP 2002312974 A JP2002312974 A JP 2002312974A JP 2002312974 A JP2002312974 A JP 2002312974A JP 2004150453 A JP2004150453 A JP 2004150453A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- oil
- repellent film
- film
- repellent
- light
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Withdrawn
Links
Images
Landscapes
- Manufacture Of Motors, Generators (AREA)
- Sliding-Contact Bearings (AREA)
Abstract
【課題】撥油膜が形成された液体動圧軸受の製造において、撥油膜の特性を損なうことなく、製造工程途中で撥油膜を視認出来るようにして、容易かつ確実に撥油膜の形成を確認出来るようにし、流体動圧軸受の生産性と信頼性を高める。
【解決手段】撥油膜を形成する際に、厚みを、検査時の照明光の波長λ、撥油膜の屈折率nに対して、λ/(4n)以上500nm未満となるように制御して、撥油膜を形成する。膜厚に加え、照明光の波長λを選択することで、視認性を高めることが出来る。画像処理装置と組み合わせることで、撥油膜の確認工程の省力化も実現できる。
【選択図】 図1
【解決手段】撥油膜を形成する際に、厚みを、検査時の照明光の波長λ、撥油膜の屈折率nに対して、λ/(4n)以上500nm未満となるように制御して、撥油膜を形成する。膜厚に加え、照明光の波長λを選択することで、視認性を高めることが出来る。画像処理装置と組み合わせることで、撥油膜の確認工程の省力化も実現できる。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ディスク記録装置などに用いられるスピンドルモータの、流体動圧軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】
ハードディスクドライブに代表されるディスク記録装置は、コンピュータの能力向上に伴って急ピッチで記録容量を増しており、ディスク記録面の単位面積あたりの記録密度も急激に高まっている。このため、ダストなどの汚染物に対して、ディスク記録装置は脆弱になっており、装置を構成する部品すべてに対して、汚染源とならないことが求められている。
【0003】
それら部品の中でも、ディスクを回転駆動させるスピンドルモータは、内部に潤滑油を含み、しかも高速で回転しつづけるため、特に潤滑油がモーター外に漏れ出さないよう、細心の配慮が必要になっている。
【0004】
潤滑油流出防止の手段としては、ラビリンス構造を設けたり、微細な潤滑油の粒子をトラップするためのフィルターを設ける等の方法と並んで、撥油膜をオイル保持領域の周囲に形成し、部材表面を伝ってオイルが拡散し、汚染を防止する技術が有効である。この技術は、近年利用が急激に拡大している液体動圧軸受では、必須の手法となっている。
【0005】
この撥油膜は、フッ素系樹脂からなる撥油剤を溶剤に溶かすなどして必要部位に塗布して形成させるが、従来は肉眼で存在を確認することは出来なかった。撥油膜は非常に薄く、しかも、樹脂自体は無色透明だからである。
【0006】
この肉眼で存在を確認できないという性質は、量産にあたって大きな障害となる。製造の途中おいて、正しく撥油膜が形成されていることを確認するための工程が必要だが、目視、或いは、可視光の照明下では、撥油膜の存在を確認できないため、生産性を大きく阻害するのである。或いは、正しく確認できていない場合には、撥油膜が形成されない製品が混入し、製品に対する信頼を損なうことになる。
【0007】
そこで、撥油膜を確認できるようにするため、撥油剤を着色する方法が検討されている。特許文献1においては、撥油剤に発色剤を添加する方法を提案している。特許文献2においては、撥油剤に着色材や蛍光剤を混合し、撥油膜を視認出来るようにする方法を提案している。更に、特許文献3においては、撥油剤を着色すると共に、撥油膜を多層構成として、撥油膜を視認出来るようにする方法を提案している。
【0008】
【特許文献1】
特開2001−266052号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】
特開2001−27242号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】
特開2001−304263号公報(特許請求の範囲)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
これらの方法を利用すれば、確かに撥油膜は確認できるようになるが、何れも撥油剤に異物を混入する方法であるため、撥油膜の性能を劣化させ、汚染防止の効果を損なう。また、特許文献3の方法では、これに加えて多層構成とするため、工程が増し、生産性も損なう。
【0010】
そこで本発明の目的は、撥油剤に異物を混入することなく、撥油膜を肉眼で確認可能にしたスピンドルモータを提供し、ディスク記録装置の信頼性を向上させ、且つ、高い生産性を実現することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
前記の課題を解決するため、請求項1の発明では、構成部材の平滑な表面の一部に撥油膜が形成されている液体動圧軸受の製造方法であって、その製造方法は、少なくとも、撥油膜を形成する工程Aと、撥油膜の有無を確認する工程Bとを有し、工程Aにおいて、撥油剤の屈折率n、及び、工程Bにおける照明光の平均波長λに対して、撥油膜の少なくとも一部はλ/(4n)より厚く、かつ、平均厚さについては500nmを越えないように、撥油膜が形成される点を特徴とする、液体動圧軸受の製造方法を提案する。
【0012】
請求項2の発明では、前記工程Aにおいて、撥油膜は連続する平面或いは曲面の一部を覆って形成され、前記工程Bにおいて、撥油膜が形成された領域と撥油膜が形成されていない領域の境界における色合いの変化を検出することで、撥油膜の存在を確認する、点を特徴とする、請求項1に記載の液体動圧軸受の製造方法を提案する。
【0013】
請求項3の発明では、前記撥油膜の膜厚は一定ではなく、膜厚がλ/(4n)よりも薄い部分がある一方で、膜厚がλ/(4n)よりも厚い部分がある、点を特徴とする、請求項1及び2に記載の液体動圧軸受の製造方法を提案する。
【0014】
請求項4の発明では、前記構成部材の表面が、ステンレス鋼、Niメッキ層、窒化処理したステンレス、酸洗したステンレス、の何れかである点を特徴とする、請求項1乃至3に記載の液体動厚軸受の製造方法を提案する。
【0015】
請求項5の発明では、前記照明光として、白色光を用い、前記λとしては、白色光を構成する光の成分の内実質的に最も波長が短い可視光の波長とする点を特徴とする、請求項1乃至4に記載の液体動圧軸受の製造方法を提案する。
【0016】
請求項6の発明では、前記照明光として、波長が600nm以上の成分を実質的に含まない可視光を利用する点を特徴とする、請求項1乃至4に記載の液体動圧軸受の製造方法、を提案する。
【0017】
請求項7の発明では、前記工程Bにおいて、撮像装置を用いて撥油膜が形成される面を撮影し、その画像を元に、撥油膜が形成された領域と形成されていない領域の境界の有無を画像処理装置によって判定し、撥油膜の有無を判断する、点を特徴とする請求項1乃至6に記載の、液体動圧軸受の製造方法を提案する。
【0018】
請求項8の発明では、請求項7の記載の発明において、前記照明光を紫外光とし、紫外光で撮像可能な撮像装置を用いて、撥油膜が形成される面を撮影する、点を特徴とする、液体動圧軸受の製造方法を提案する。
【0019】
以下、これらの手段によって課題が解決される理由を説明する。
【0020】
通常、撥油膜を金属材料等の表面に形成しても、撥油膜を構成する撥油剤は無色透明であるため、明暗に変化は生じず、撥油膜が存在するか否かを目視又はCCDカメラ等で確認することは困難である。
【0021】
しかし、本発明者らは様々の試行錯誤を重ねた末に、撥油膜の厚みを、撥油剤の屈折率n、照明光の波長λについてλ/(4n)以上の厚みとすることで、暗い色調を持たせるか、或いは光沢の変化を生じさせられることを見出した。本願発明の請求項1は、この事実に基づくものである。
【0022】
一方で、撥油膜はできるだけ薄くしたほうが、撥油剤の消費量が抑制できる。また、撥油膜は通常溶媒に溶解させた状態で部材表面に塗布されるが、溶液の濃度は薄い方が作業能率が高い。更に厚い撥油膜は、膜に亀裂が生じて剥がれ落ち易くなる傾向を持つため、薄い方が好ましい。これらの理由により、厚みには上限を設けるべきであり、各々の撥油膜内の平均で500nm未満とすべきである。
【0023】
膜厚のコントロールは、例えば、溶液の濃度をコントロールすることで実現できる。膜の視認性は、部分的にでもλ/(4n)を越えれば確保できる。一方で、部分的に膜厚が500nmを越えていたとしても、それだけでは直ちに悪影響を引き起こさない。撥油膜の剥離や、撥油剤の消費量増大といった悪影響は、むしろ膜厚の平均値で管理できるため、本願発明における上限も個々の撥油膜の平均値で規定すればよい。
【0024】
本来無色透明の撥油剤からなる撥油膜が、通常よりは厚いとはいえ500nm未満の膜厚でも暗い色調を呈する現象については、何らかの光の干渉現象が影響しているものと推察される。誘電率εは、空気中よりも撥油剤中で大きく、更に撥油膜の下地は通常は金属であるため、下地においてはεもっと大きな値をとる。このような条件下では、撥油膜表面で反射される反射光と、下地表面で反射される反射光は、共に入射光に対して位相がπずれているため、反射光同士が干渉して弱めあう条件は、膜厚がλ/(4n)+Nλ/(2n)(Nは整数)(式1)である。実験的に求められた本発明における膜厚下限と、上記の式1においてN=0として得られる最小膜厚は、一致する。なお、ここでnは撥油剤の屈折率であり、撥油剤中での光速と真空中の光速の比である。
【0025】
この事実は、干渉現象との関連を示唆している。ただし、この効果が全てであれば、波長によって弱めあう膜厚は異なるため、白色光で照明した場合撥油膜は干渉色を呈さねばならない。実際には、暗い色調を呈するのみであるので、このモデルでは実験事実を完全には説明できない。恐らく、膜のミクロな不均一が影響しているものと見られるが、詳細は不明である。実用的には、必要な膜厚の下限をλ/(4n)によって定めることで十分であり、発明の実施に支障はない。
【0026】
請求項2に記載の発明では、撥油膜の存在を、撥油膜の境界を検出することで確認する。膜の明暗の絶対値は、下地の影響も受けるため、直接には判定しにくいが、膜の境界における相対的な明暗の変化は、容易に捕らえられるからである。この方法は、人間が目視によって撥油膜の有無を確認する場合にも、CCDカメラ等を利用した画像処理システムを利用して確認する場合にも、有効である。
【0027】
請求項3に記載の発明では、撥油膜の膜厚に、厚い部分と薄い部分を設けることで、厚い部分が撥油膜の視認性獲得に寄与する。一方で、膜厚の薄い部分もあるため、平均膜厚を増やさずに視認性を高めることが可能になる。撥油剤付着量を増やさずに、視認性を高めることが出来る。
【0028】
請求項4に記載の発明では、撥油膜を形成する部材の材質若しくは表面処理の状態を限定する。本願発明の方法によって、撥油膜は視認性を付与されるのであるが、付与されるコントラストは、部材の材質によって差異がある。ステンレスの表面に撥油膜を形成した場合は、撥油膜を形成した部分は相対的に暗く見える。これに対して、研磨したアルミニウム表面に本願発明の方法を適用した場合、撥油膜の明度は殆ど変わらず、差異は、光沢の差となって現れる。材質がステンレスであってもアルミニウムであっても、撥油膜が視認出来るようになる点は同様だが、実用上は明暗のコントラストを得られる方が、より有用である。
【0029】
よって、本願発明の方法を適用して明暗のコントラストを、裸表面と撥油膜形成部分の間に生じさせられる材質は、本願発明に適用して特に有効である。このような材質、或いは表面処理によって得られる表面としては、ステンレス、無電解Niメッキ表面、ステンレスを窒化処理した表面、更に、ステンレスを酸洗して得られる表面がある。
【0030】
請求項5に記載の発明では、工程Bにおける照明光として白色光を用いる。単色光を照明に用いる場合は、λの値はその単色光の波長であるが、白色光の場合は多数の波長の光が混ざっているため、λの値としては、白色光を構成する成分の内、可視光の範囲内で最も波長が短いものとする。太陽光では380nm、一般の白色蛍光灯でも400nm付近の波長の光を含んでいるため、どちらの光源でも100nm程度の膜厚まで確認することが出来る。ただし、100nm付近では、照明される光の内、一部しか撥油膜のコントラストに寄与していないことになるため、例えば400nmの単色光で照明した場合に比して、得られるコントラストは弱くなる。ただし、そのような場合でも、実用上は十分であることが多い。
【0031】
請求項6に記載の発明では、波長が600nmよりも長い光の成分を実質的に含まない可視光を照明として、工程Bを実施する。波長の短い可視光で照明し、長波長の光を含まないため、より薄い撥油膜についても明瞭なコントラストをつけることが可能である。また、下地表面の仕上げがやや粗い場合でも、撥油膜にはより明瞭なコントラストがつく。青色LED等の適当な光源があれば、上記波長の上限は500nmとすることも可能で、その場合は更に明瞭なコントラストを得ることが出来る。
【0032】
請求項7に記載の発明では、撥油膜有無の判定に画像処理装置を用いる。検査工程から人手を省くことが可能で、生産性向上とコスト低減に大きな効果が得られる。
【0033】
請求項8に記載の発明では、照明光を可視光よりも波長が短い紫外光として、より薄い撥油膜でも検知できるようにする。紫外光は肉眼では検知できないため、紫外域に感度を有するCCDカメラ等を利用して画像処理によって撥油膜の有無を判断する。撥油膜を薄く出来るため、密着性等が向上して撥油膜の特性が改善する。
【0034】
【発明の実施の形態】
(第1の実施形態)図1は、本発明が対象とする液体動圧軸受を搭載したスピンドルモータの一例10を示している。また、図2は、テーパーシール部分14の拡大図である。図中、潤滑油の界面22の外側に、撥油膜23を形成している。潤滑油の界面は、マクロ的には表面張力によって保持されているが、ミクロ的には、シャフト11やスリーブ12の表面を伝って拡散し、軸受外に染み出してゆく傾向をもつ。これを防ぐために、潤滑油界面の外側に撥油膜を形成している。撥油膜は、その表面に潤滑油の分子を寄せ付けない性質を持っているため、潤滑油の染み出しはここでブロックされる。
【0035】
撥油剤は溶媒に溶かされて数%或いはそれ以下の濃度の溶液とされ、目標部位に塗布した。塗布方法は、ディップコート、スピンコート、刷毛塗り、等の方法で実行可能で、作業時の利便性を考慮して適宜選択できる。溶液濃度は、条件決定のための実験を行って、撥油膜が狙った厚みとなる様に、塗布部位と塗布方法に応じて適切な値を決める。
【0036】
撥油剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、等の一般的なフッ素樹脂を用いて効果を得ることが出来る。その一部が官能基で置換されていてもよい。特に、パーフルオロ樹脂系は表面エネルギーが低く、撥油性能が高い。なお、本発明に適用して効果の得られる撥油剤はこれらに限定されるものではなく、無色透明で撥油膜とした際に視認困難となる撥油剤は、基本的に全て適用可能である。
【0037】
膜厚の測定は、本実施形態及び以下の実施形態共に、触針式表面形状測定器にて測定した。その測定結果の一例を図3に示す。図3は、撥油膜を横切って厚み分布を測定した結果であり、横軸は測定位置、縦軸は凹凸をあらわす。単位は、それぞれ、μm、及びnmである。
【0038】
図3中で、RからMまでの範囲が撥油膜が塗布されている範囲で、この間での膜厚の平均値は150nmであり、平均膜厚500nm以下とする本発明条件は満足している。一方で、膜厚は均一ではなく、局所的に300nm或いは600nm近い膜厚となっている部位もある。局部的に500nmを越える厚みを持っていても、撥油膜の剥離は生じないため、問題は生じない。
【0039】
逆に、図3中のM付近では、50nm以下まで薄くなっている。この例で塗布された撥油剤の屈折率は1.35であるため、照明光の波長λを470nmとしたばあい、87nm未満の膜厚である部分は視認出来ない。しかし、他の部分は87nmを越えて視認出来る領域が十分にあるため、撥油膜の有無を確認する作業に支障は生じない。
【0040】
このような撥油膜を形成した、各2000個、計4000個のスリーブとシャフトに対して、昼光色型蛍光灯による照明下で拡大鏡観察下で目視によって膜の有無を確認した。図2に示すように、撥油膜の境界がテーパーシールを形成する面の途中に位置しているため、境界を視認することは容易である。4000個全てについて撥油膜の形成を確認することが出来た。
【0041】
なお、この際の部材の材質は、スリーブは、DHS(登録商標)1快削性ステンレス鋼、シャフトは、SUS420J2鋼から作られている。撥油膜を形成する部位の表面は機械加工と鏡面研磨によって仕上げられている。
【0042】
(第2の実施形態)
表1は、直径15mm厚さ3mmの円盤に撥油膜を形成し、その視認性を調査した結果を示している。撥油膜を形成した部材は、SUS420J2鋼から作られており、表面を機械加工にて平滑に仕上げた後、撥油膜を形成した。
【0043】
撥油剤は、撥油剤を溶かした溶液をディップコートによって塗布し乾燥させることで形成させた。撥油剤溶液の濃度を変化させることで、平均の膜厚を25nmから750nmまで変化させた。撥油剤を塗布する面には、撥油剤を塗布しない領域を残し、撥油膜がある領域と無い領域の境界が、部材の表面上に出来るようにした。
【0044】
膜厚の確認は、昼光色蛍光灯の照明下で実施し、拡大鏡観察下での目視観察によった。視認性の評価基準は、平均膜厚100nmのサンプルの視認性を○とし、それよりもコントラストが明瞭な条件では◎、○よりも劣って一部視認が難しければ、△、殆ど視認出来なければ×とした。
【0045】
【表1】
密着性、耐油性、(塗布の)作業性は、同様に◎、○、△、×の4段階で表示し、○が実用上十分、◎が更に良好、△が実用上一部支障あり、×が不可であることを意味する。例えば、作業性が△の条件では、撥油差剤を溶かした溶液の粘性が高く、塗布作業の能率が低下した。
【0046】
表1より、視認性は、膜厚が75nmまでは確保される一方で、50nm以下では視認出来なくなる。しかし、500nmを越えると塗布作業の能率が損なわれる。耐油性は全膜厚について良好である。膜の密着性も試験した全ての条件で良好ではあるが、100nm以下の薄さにすると一層良好になる。膜厚を薄くすると、作業性も同時に改善する。
【0047】
照明光のスペクトルには、470nm付近に短波長側のピークがあり、これをλとみなせる。その場合、λ/(4n)の値は、87nmとなる。ただし、撥油剤の屈折率nは1.35である。膜厚が均一でないため、平均膜厚75nmの条件でも、87nm以上の膜厚の領域はおよそ3割程度の領域に亘って広がっており、視認性を確保できる。
【0048】
表1の上から2段目の欄はλ/(4n)以上の厚みを持つ領域の広がりを、図3に示したようなものと同様の膜厚のプロファイルから読み取ったものである。◎ではそのような領域の面積はおよそ90%以上、○では20〜90%、△では20%未満、×では殆どそのような領域は広がっていないことをあらわす。表に示すように、これらの分類と、視認性とは良い一致を見せる。
【0049】
ただし、平均膜厚と、厚みがλ/(4n)以上である領域の広がり、との間の関係は、撥油膜の塗布方法に大きく影響される。このため、本発明の実施にあたっては、塗布方法が変われば、平均膜厚と視認出来る限界の厚みの関係も変化する点に注意が必要である。
【0050】
(第3の実施形態)
表2は、表1と同じ試料について、照明光源を青色LEDとして視認性を調査した結果である。照明光のスペクトルにおいて、強度がピークとなる波長は470nmで、単色性が高く、500nm以上の波長の光は殆ど含んでいない。短波長に強度ピークがある点に加えて、薄い膜に対して感度を持たない長波長の光を含んでいないため、より明瞭なコントラストがつく。
【0051】
【表2】
このような理由によって、第1の実施形態よりも一段薄い、平均厚さ100nmの膜においても、明瞭に撥油膜を視認することが可能になっている。また、75nmについても、表2では表1と同じく○を当てはめているが、実際には第2の実施形態におけるよりも視認性は改善している。
【0052】
この実施形態により、膜の密着性や塗布作業の作業効率が高い、平均厚さ75〜100nmの撥油膜でも、軸受に適用して量産することが容易になった。
【0053】
(第4の実施形態)
図4は、本発明の第4の実施形態を説明する説明図である。
【0054】
検査時の光源は、ピーク波長370nmの紫外線ランプ42を使用する。画像は紫外線に対応したCCDカメラ43で撮影する。CCDカメラ43のレンズ部分には、紫外線のみを透過するフィルタ44が取り付けられている。撮影された画像は、画像処理装置45にて撥油膜の有無を判定する。検査対象とするサンプル41は、シャフト11にスラストプレート16が取り付けられた部品であって、トレイ40の上に並べられた状態で検査を受ける。シャフトの材質はSUS420J2であり、鏡面研磨した面に対して、撥油剤が塗布されている。
【0055】
撥油膜の平均厚さは25nmから750nmまで、8段階に変化させ、各条件について10個ずつサンプルを用意し、それらを繰り返し20回検査し、各200回の検査を各々実施した。また、別に、撥油剤を塗っていない塗り忘れに相当するサンプルを10個用意し、同様に繰り返し20回検査した。
【0056】
表3は、このシステムによる撥油膜の検出結果である。総検査回数を分母に、その内正しく検出できた回数を分子にして、表示している。200個とも正しく検出できた条件を◎、一部検出できなかった条件を△、殆ど検出できなかった条件を×とした。
【0057】
【表3】
この方法によると、、平均膜厚が25nmでは全く検出できていない。また、50nmでは一部検出しているが、検出率が低いので採用できない。平均膜厚が75nm以上では、撥油膜の存在を正しく検出しており、膜厚75nmまでの薄さならば、自動的に、撥油膜の有無を確認することが出来る。
【0058】
この際、λ/(4n)以上の厚みを持つ領域の広がりは、照明光の波長が短くなっているために全般に改善している。この改善が、平均膜厚75nmの撥油膜の検出を可能にした。
【0059】
なお、この実施形態において、紫外線ランプを通常の蛍光灯に替え、CCDカメラも可視光線で撮影する通常のタイプに替えて、可視光で検査しても良い。その場合は、平均膜厚を100nm程度まで厚くする等の膜厚の変更が必要になるが、紫外線用のCCDカメラや、紫外線に対する安全確保のための設備が不要になるため、安価に実施することが出来る。
【0060】
【発明の効果】
以上に説明した如く、本願発明によれば、次の効果が得られる。
【0061】
請求項1の方法によれば、撥油膜を染料や顔料で着色しなくとも、撥油膜の存在を視認出来るため、撥油膜の特性を染料や顔料で劣化させること無く、しかも、生産工程において撥油膜の未形成品を効率よく排除できる。このため、個々の液体動厚軸受の信頼性を高めつつ、製品を量産する際の不良品の混入を効果的に抑制することが出来る。
【0062】
請求項2の方法によれば、撥油膜の存否を、撥油膜の縁における相対的な明暗の変化で確認できるため、撥油膜の存在確認がより容易かつ確実になり、量産時の製品に対する信頼性が高まる。
【0063】
請求項3の方法によれば、膜の密着性を損なわずに、視認性を高めることが可能になる。
【0064】
請求項4の方法によれば、より容易に撥油膜の存在を確認できるようになる。
【0065】
請求項5の方法によれば、撥油膜の形成確認を安価な白色光照明の下で行えるため、コストを低減できる。
【0066】
請求項6の方法によれば、より厚みの薄く、密着性等の特性に優れたい撥油膜の形成を、可視光観察下で確認できるため、より信頼性の高い軸受を量産することが可能になる。
【0067】
請求項7の方法によれば、撥油膜の確認を自動化できるため、生産性の向上とコストの低減が可能になる。
【0068】
請求項8の方法によれば、請求項7の方法よりも一層薄く、更に密着性に優れた撥油膜の形成を確認できるようになるため、一層信頼性の高い軸受を量産できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】液体動圧軸受を搭載したスピンドルモータ
【図2】テーパ−シール部拡大図
【図3】撥油膜の膜厚プロファイル
【図4】撥油膜自動検査装置概略図
【符号の説明】
10 スピンドルモータ
11 シャフト
12 スリーブ
13 ハブ
14 テーパ−シール
15 スラストブッシュ
16 スラストプレート
17 ブラケット
18 ラジアル動圧軸受
19 スラスト動圧軸受
20 ステータ
21 ロータマグネット
22 潤滑油界面
23 撥油膜
40 トレイ
41 サンプル
42 紫外線ランプ
43 紫外線CCDカメラ
44 紫外線透過フィルタ
45 画像処理装置
【発明の属する技術分野】
本発明は、ディスク記録装置などに用いられるスピンドルモータの、流体動圧軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】
ハードディスクドライブに代表されるディスク記録装置は、コンピュータの能力向上に伴って急ピッチで記録容量を増しており、ディスク記録面の単位面積あたりの記録密度も急激に高まっている。このため、ダストなどの汚染物に対して、ディスク記録装置は脆弱になっており、装置を構成する部品すべてに対して、汚染源とならないことが求められている。
【0003】
それら部品の中でも、ディスクを回転駆動させるスピンドルモータは、内部に潤滑油を含み、しかも高速で回転しつづけるため、特に潤滑油がモーター外に漏れ出さないよう、細心の配慮が必要になっている。
【0004】
潤滑油流出防止の手段としては、ラビリンス構造を設けたり、微細な潤滑油の粒子をトラップするためのフィルターを設ける等の方法と並んで、撥油膜をオイル保持領域の周囲に形成し、部材表面を伝ってオイルが拡散し、汚染を防止する技術が有効である。この技術は、近年利用が急激に拡大している液体動圧軸受では、必須の手法となっている。
【0005】
この撥油膜は、フッ素系樹脂からなる撥油剤を溶剤に溶かすなどして必要部位に塗布して形成させるが、従来は肉眼で存在を確認することは出来なかった。撥油膜は非常に薄く、しかも、樹脂自体は無色透明だからである。
【0006】
この肉眼で存在を確認できないという性質は、量産にあたって大きな障害となる。製造の途中おいて、正しく撥油膜が形成されていることを確認するための工程が必要だが、目視、或いは、可視光の照明下では、撥油膜の存在を確認できないため、生産性を大きく阻害するのである。或いは、正しく確認できていない場合には、撥油膜が形成されない製品が混入し、製品に対する信頼を損なうことになる。
【0007】
そこで、撥油膜を確認できるようにするため、撥油剤を着色する方法が検討されている。特許文献1においては、撥油剤に発色剤を添加する方法を提案している。特許文献2においては、撥油剤に着色材や蛍光剤を混合し、撥油膜を視認出来るようにする方法を提案している。更に、特許文献3においては、撥油剤を着色すると共に、撥油膜を多層構成として、撥油膜を視認出来るようにする方法を提案している。
【0008】
【特許文献1】
特開2001−266052号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】
特開2001−27242号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】
特開2001−304263号公報(特許請求の範囲)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
これらの方法を利用すれば、確かに撥油膜は確認できるようになるが、何れも撥油剤に異物を混入する方法であるため、撥油膜の性能を劣化させ、汚染防止の効果を損なう。また、特許文献3の方法では、これに加えて多層構成とするため、工程が増し、生産性も損なう。
【0010】
そこで本発明の目的は、撥油剤に異物を混入することなく、撥油膜を肉眼で確認可能にしたスピンドルモータを提供し、ディスク記録装置の信頼性を向上させ、且つ、高い生産性を実現することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
前記の課題を解決するため、請求項1の発明では、構成部材の平滑な表面の一部に撥油膜が形成されている液体動圧軸受の製造方法であって、その製造方法は、少なくとも、撥油膜を形成する工程Aと、撥油膜の有無を確認する工程Bとを有し、工程Aにおいて、撥油剤の屈折率n、及び、工程Bにおける照明光の平均波長λに対して、撥油膜の少なくとも一部はλ/(4n)より厚く、かつ、平均厚さについては500nmを越えないように、撥油膜が形成される点を特徴とする、液体動圧軸受の製造方法を提案する。
【0012】
請求項2の発明では、前記工程Aにおいて、撥油膜は連続する平面或いは曲面の一部を覆って形成され、前記工程Bにおいて、撥油膜が形成された領域と撥油膜が形成されていない領域の境界における色合いの変化を検出することで、撥油膜の存在を確認する、点を特徴とする、請求項1に記載の液体動圧軸受の製造方法を提案する。
【0013】
請求項3の発明では、前記撥油膜の膜厚は一定ではなく、膜厚がλ/(4n)よりも薄い部分がある一方で、膜厚がλ/(4n)よりも厚い部分がある、点を特徴とする、請求項1及び2に記載の液体動圧軸受の製造方法を提案する。
【0014】
請求項4の発明では、前記構成部材の表面が、ステンレス鋼、Niメッキ層、窒化処理したステンレス、酸洗したステンレス、の何れかである点を特徴とする、請求項1乃至3に記載の液体動厚軸受の製造方法を提案する。
【0015】
請求項5の発明では、前記照明光として、白色光を用い、前記λとしては、白色光を構成する光の成分の内実質的に最も波長が短い可視光の波長とする点を特徴とする、請求項1乃至4に記載の液体動圧軸受の製造方法を提案する。
【0016】
請求項6の発明では、前記照明光として、波長が600nm以上の成分を実質的に含まない可視光を利用する点を特徴とする、請求項1乃至4に記載の液体動圧軸受の製造方法、を提案する。
【0017】
請求項7の発明では、前記工程Bにおいて、撮像装置を用いて撥油膜が形成される面を撮影し、その画像を元に、撥油膜が形成された領域と形成されていない領域の境界の有無を画像処理装置によって判定し、撥油膜の有無を判断する、点を特徴とする請求項1乃至6に記載の、液体動圧軸受の製造方法を提案する。
【0018】
請求項8の発明では、請求項7の記載の発明において、前記照明光を紫外光とし、紫外光で撮像可能な撮像装置を用いて、撥油膜が形成される面を撮影する、点を特徴とする、液体動圧軸受の製造方法を提案する。
【0019】
以下、これらの手段によって課題が解決される理由を説明する。
【0020】
通常、撥油膜を金属材料等の表面に形成しても、撥油膜を構成する撥油剤は無色透明であるため、明暗に変化は生じず、撥油膜が存在するか否かを目視又はCCDカメラ等で確認することは困難である。
【0021】
しかし、本発明者らは様々の試行錯誤を重ねた末に、撥油膜の厚みを、撥油剤の屈折率n、照明光の波長λについてλ/(4n)以上の厚みとすることで、暗い色調を持たせるか、或いは光沢の変化を生じさせられることを見出した。本願発明の請求項1は、この事実に基づくものである。
【0022】
一方で、撥油膜はできるだけ薄くしたほうが、撥油剤の消費量が抑制できる。また、撥油膜は通常溶媒に溶解させた状態で部材表面に塗布されるが、溶液の濃度は薄い方が作業能率が高い。更に厚い撥油膜は、膜に亀裂が生じて剥がれ落ち易くなる傾向を持つため、薄い方が好ましい。これらの理由により、厚みには上限を設けるべきであり、各々の撥油膜内の平均で500nm未満とすべきである。
【0023】
膜厚のコントロールは、例えば、溶液の濃度をコントロールすることで実現できる。膜の視認性は、部分的にでもλ/(4n)を越えれば確保できる。一方で、部分的に膜厚が500nmを越えていたとしても、それだけでは直ちに悪影響を引き起こさない。撥油膜の剥離や、撥油剤の消費量増大といった悪影響は、むしろ膜厚の平均値で管理できるため、本願発明における上限も個々の撥油膜の平均値で規定すればよい。
【0024】
本来無色透明の撥油剤からなる撥油膜が、通常よりは厚いとはいえ500nm未満の膜厚でも暗い色調を呈する現象については、何らかの光の干渉現象が影響しているものと推察される。誘電率εは、空気中よりも撥油剤中で大きく、更に撥油膜の下地は通常は金属であるため、下地においてはεもっと大きな値をとる。このような条件下では、撥油膜表面で反射される反射光と、下地表面で反射される反射光は、共に入射光に対して位相がπずれているため、反射光同士が干渉して弱めあう条件は、膜厚がλ/(4n)+Nλ/(2n)(Nは整数)(式1)である。実験的に求められた本発明における膜厚下限と、上記の式1においてN=0として得られる最小膜厚は、一致する。なお、ここでnは撥油剤の屈折率であり、撥油剤中での光速と真空中の光速の比である。
【0025】
この事実は、干渉現象との関連を示唆している。ただし、この効果が全てであれば、波長によって弱めあう膜厚は異なるため、白色光で照明した場合撥油膜は干渉色を呈さねばならない。実際には、暗い色調を呈するのみであるので、このモデルでは実験事実を完全には説明できない。恐らく、膜のミクロな不均一が影響しているものと見られるが、詳細は不明である。実用的には、必要な膜厚の下限をλ/(4n)によって定めることで十分であり、発明の実施に支障はない。
【0026】
請求項2に記載の発明では、撥油膜の存在を、撥油膜の境界を検出することで確認する。膜の明暗の絶対値は、下地の影響も受けるため、直接には判定しにくいが、膜の境界における相対的な明暗の変化は、容易に捕らえられるからである。この方法は、人間が目視によって撥油膜の有無を確認する場合にも、CCDカメラ等を利用した画像処理システムを利用して確認する場合にも、有効である。
【0027】
請求項3に記載の発明では、撥油膜の膜厚に、厚い部分と薄い部分を設けることで、厚い部分が撥油膜の視認性獲得に寄与する。一方で、膜厚の薄い部分もあるため、平均膜厚を増やさずに視認性を高めることが可能になる。撥油剤付着量を増やさずに、視認性を高めることが出来る。
【0028】
請求項4に記載の発明では、撥油膜を形成する部材の材質若しくは表面処理の状態を限定する。本願発明の方法によって、撥油膜は視認性を付与されるのであるが、付与されるコントラストは、部材の材質によって差異がある。ステンレスの表面に撥油膜を形成した場合は、撥油膜を形成した部分は相対的に暗く見える。これに対して、研磨したアルミニウム表面に本願発明の方法を適用した場合、撥油膜の明度は殆ど変わらず、差異は、光沢の差となって現れる。材質がステンレスであってもアルミニウムであっても、撥油膜が視認出来るようになる点は同様だが、実用上は明暗のコントラストを得られる方が、より有用である。
【0029】
よって、本願発明の方法を適用して明暗のコントラストを、裸表面と撥油膜形成部分の間に生じさせられる材質は、本願発明に適用して特に有効である。このような材質、或いは表面処理によって得られる表面としては、ステンレス、無電解Niメッキ表面、ステンレスを窒化処理した表面、更に、ステンレスを酸洗して得られる表面がある。
【0030】
請求項5に記載の発明では、工程Bにおける照明光として白色光を用いる。単色光を照明に用いる場合は、λの値はその単色光の波長であるが、白色光の場合は多数の波長の光が混ざっているため、λの値としては、白色光を構成する成分の内、可視光の範囲内で最も波長が短いものとする。太陽光では380nm、一般の白色蛍光灯でも400nm付近の波長の光を含んでいるため、どちらの光源でも100nm程度の膜厚まで確認することが出来る。ただし、100nm付近では、照明される光の内、一部しか撥油膜のコントラストに寄与していないことになるため、例えば400nmの単色光で照明した場合に比して、得られるコントラストは弱くなる。ただし、そのような場合でも、実用上は十分であることが多い。
【0031】
請求項6に記載の発明では、波長が600nmよりも長い光の成分を実質的に含まない可視光を照明として、工程Bを実施する。波長の短い可視光で照明し、長波長の光を含まないため、より薄い撥油膜についても明瞭なコントラストをつけることが可能である。また、下地表面の仕上げがやや粗い場合でも、撥油膜にはより明瞭なコントラストがつく。青色LED等の適当な光源があれば、上記波長の上限は500nmとすることも可能で、その場合は更に明瞭なコントラストを得ることが出来る。
【0032】
請求項7に記載の発明では、撥油膜有無の判定に画像処理装置を用いる。検査工程から人手を省くことが可能で、生産性向上とコスト低減に大きな効果が得られる。
【0033】
請求項8に記載の発明では、照明光を可視光よりも波長が短い紫外光として、より薄い撥油膜でも検知できるようにする。紫外光は肉眼では検知できないため、紫外域に感度を有するCCDカメラ等を利用して画像処理によって撥油膜の有無を判断する。撥油膜を薄く出来るため、密着性等が向上して撥油膜の特性が改善する。
【0034】
【発明の実施の形態】
(第1の実施形態)図1は、本発明が対象とする液体動圧軸受を搭載したスピンドルモータの一例10を示している。また、図2は、テーパーシール部分14の拡大図である。図中、潤滑油の界面22の外側に、撥油膜23を形成している。潤滑油の界面は、マクロ的には表面張力によって保持されているが、ミクロ的には、シャフト11やスリーブ12の表面を伝って拡散し、軸受外に染み出してゆく傾向をもつ。これを防ぐために、潤滑油界面の外側に撥油膜を形成している。撥油膜は、その表面に潤滑油の分子を寄せ付けない性質を持っているため、潤滑油の染み出しはここでブロックされる。
【0035】
撥油剤は溶媒に溶かされて数%或いはそれ以下の濃度の溶液とされ、目標部位に塗布した。塗布方法は、ディップコート、スピンコート、刷毛塗り、等の方法で実行可能で、作業時の利便性を考慮して適宜選択できる。溶液濃度は、条件決定のための実験を行って、撥油膜が狙った厚みとなる様に、塗布部位と塗布方法に応じて適切な値を決める。
【0036】
撥油剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、等の一般的なフッ素樹脂を用いて効果を得ることが出来る。その一部が官能基で置換されていてもよい。特に、パーフルオロ樹脂系は表面エネルギーが低く、撥油性能が高い。なお、本発明に適用して効果の得られる撥油剤はこれらに限定されるものではなく、無色透明で撥油膜とした際に視認困難となる撥油剤は、基本的に全て適用可能である。
【0037】
膜厚の測定は、本実施形態及び以下の実施形態共に、触針式表面形状測定器にて測定した。その測定結果の一例を図3に示す。図3は、撥油膜を横切って厚み分布を測定した結果であり、横軸は測定位置、縦軸は凹凸をあらわす。単位は、それぞれ、μm、及びnmである。
【0038】
図3中で、RからMまでの範囲が撥油膜が塗布されている範囲で、この間での膜厚の平均値は150nmであり、平均膜厚500nm以下とする本発明条件は満足している。一方で、膜厚は均一ではなく、局所的に300nm或いは600nm近い膜厚となっている部位もある。局部的に500nmを越える厚みを持っていても、撥油膜の剥離は生じないため、問題は生じない。
【0039】
逆に、図3中のM付近では、50nm以下まで薄くなっている。この例で塗布された撥油剤の屈折率は1.35であるため、照明光の波長λを470nmとしたばあい、87nm未満の膜厚である部分は視認出来ない。しかし、他の部分は87nmを越えて視認出来る領域が十分にあるため、撥油膜の有無を確認する作業に支障は生じない。
【0040】
このような撥油膜を形成した、各2000個、計4000個のスリーブとシャフトに対して、昼光色型蛍光灯による照明下で拡大鏡観察下で目視によって膜の有無を確認した。図2に示すように、撥油膜の境界がテーパーシールを形成する面の途中に位置しているため、境界を視認することは容易である。4000個全てについて撥油膜の形成を確認することが出来た。
【0041】
なお、この際の部材の材質は、スリーブは、DHS(登録商標)1快削性ステンレス鋼、シャフトは、SUS420J2鋼から作られている。撥油膜を形成する部位の表面は機械加工と鏡面研磨によって仕上げられている。
【0042】
(第2の実施形態)
表1は、直径15mm厚さ3mmの円盤に撥油膜を形成し、その視認性を調査した結果を示している。撥油膜を形成した部材は、SUS420J2鋼から作られており、表面を機械加工にて平滑に仕上げた後、撥油膜を形成した。
【0043】
撥油剤は、撥油剤を溶かした溶液をディップコートによって塗布し乾燥させることで形成させた。撥油剤溶液の濃度を変化させることで、平均の膜厚を25nmから750nmまで変化させた。撥油剤を塗布する面には、撥油剤を塗布しない領域を残し、撥油膜がある領域と無い領域の境界が、部材の表面上に出来るようにした。
【0044】
膜厚の確認は、昼光色蛍光灯の照明下で実施し、拡大鏡観察下での目視観察によった。視認性の評価基準は、平均膜厚100nmのサンプルの視認性を○とし、それよりもコントラストが明瞭な条件では◎、○よりも劣って一部視認が難しければ、△、殆ど視認出来なければ×とした。
【0045】
【表1】
密着性、耐油性、(塗布の)作業性は、同様に◎、○、△、×の4段階で表示し、○が実用上十分、◎が更に良好、△が実用上一部支障あり、×が不可であることを意味する。例えば、作業性が△の条件では、撥油差剤を溶かした溶液の粘性が高く、塗布作業の能率が低下した。
【0046】
表1より、視認性は、膜厚が75nmまでは確保される一方で、50nm以下では視認出来なくなる。しかし、500nmを越えると塗布作業の能率が損なわれる。耐油性は全膜厚について良好である。膜の密着性も試験した全ての条件で良好ではあるが、100nm以下の薄さにすると一層良好になる。膜厚を薄くすると、作業性も同時に改善する。
【0047】
照明光のスペクトルには、470nm付近に短波長側のピークがあり、これをλとみなせる。その場合、λ/(4n)の値は、87nmとなる。ただし、撥油剤の屈折率nは1.35である。膜厚が均一でないため、平均膜厚75nmの条件でも、87nm以上の膜厚の領域はおよそ3割程度の領域に亘って広がっており、視認性を確保できる。
【0048】
表1の上から2段目の欄はλ/(4n)以上の厚みを持つ領域の広がりを、図3に示したようなものと同様の膜厚のプロファイルから読み取ったものである。◎ではそのような領域の面積はおよそ90%以上、○では20〜90%、△では20%未満、×では殆どそのような領域は広がっていないことをあらわす。表に示すように、これらの分類と、視認性とは良い一致を見せる。
【0049】
ただし、平均膜厚と、厚みがλ/(4n)以上である領域の広がり、との間の関係は、撥油膜の塗布方法に大きく影響される。このため、本発明の実施にあたっては、塗布方法が変われば、平均膜厚と視認出来る限界の厚みの関係も変化する点に注意が必要である。
【0050】
(第3の実施形態)
表2は、表1と同じ試料について、照明光源を青色LEDとして視認性を調査した結果である。照明光のスペクトルにおいて、強度がピークとなる波長は470nmで、単色性が高く、500nm以上の波長の光は殆ど含んでいない。短波長に強度ピークがある点に加えて、薄い膜に対して感度を持たない長波長の光を含んでいないため、より明瞭なコントラストがつく。
【0051】
【表2】
このような理由によって、第1の実施形態よりも一段薄い、平均厚さ100nmの膜においても、明瞭に撥油膜を視認することが可能になっている。また、75nmについても、表2では表1と同じく○を当てはめているが、実際には第2の実施形態におけるよりも視認性は改善している。
【0052】
この実施形態により、膜の密着性や塗布作業の作業効率が高い、平均厚さ75〜100nmの撥油膜でも、軸受に適用して量産することが容易になった。
【0053】
(第4の実施形態)
図4は、本発明の第4の実施形態を説明する説明図である。
【0054】
検査時の光源は、ピーク波長370nmの紫外線ランプ42を使用する。画像は紫外線に対応したCCDカメラ43で撮影する。CCDカメラ43のレンズ部分には、紫外線のみを透過するフィルタ44が取り付けられている。撮影された画像は、画像処理装置45にて撥油膜の有無を判定する。検査対象とするサンプル41は、シャフト11にスラストプレート16が取り付けられた部品であって、トレイ40の上に並べられた状態で検査を受ける。シャフトの材質はSUS420J2であり、鏡面研磨した面に対して、撥油剤が塗布されている。
【0055】
撥油膜の平均厚さは25nmから750nmまで、8段階に変化させ、各条件について10個ずつサンプルを用意し、それらを繰り返し20回検査し、各200回の検査を各々実施した。また、別に、撥油剤を塗っていない塗り忘れに相当するサンプルを10個用意し、同様に繰り返し20回検査した。
【0056】
表3は、このシステムによる撥油膜の検出結果である。総検査回数を分母に、その内正しく検出できた回数を分子にして、表示している。200個とも正しく検出できた条件を◎、一部検出できなかった条件を△、殆ど検出できなかった条件を×とした。
【0057】
【表3】
この方法によると、、平均膜厚が25nmでは全く検出できていない。また、50nmでは一部検出しているが、検出率が低いので採用できない。平均膜厚が75nm以上では、撥油膜の存在を正しく検出しており、膜厚75nmまでの薄さならば、自動的に、撥油膜の有無を確認することが出来る。
【0058】
この際、λ/(4n)以上の厚みを持つ領域の広がりは、照明光の波長が短くなっているために全般に改善している。この改善が、平均膜厚75nmの撥油膜の検出を可能にした。
【0059】
なお、この実施形態において、紫外線ランプを通常の蛍光灯に替え、CCDカメラも可視光線で撮影する通常のタイプに替えて、可視光で検査しても良い。その場合は、平均膜厚を100nm程度まで厚くする等の膜厚の変更が必要になるが、紫外線用のCCDカメラや、紫外線に対する安全確保のための設備が不要になるため、安価に実施することが出来る。
【0060】
【発明の効果】
以上に説明した如く、本願発明によれば、次の効果が得られる。
【0061】
請求項1の方法によれば、撥油膜を染料や顔料で着色しなくとも、撥油膜の存在を視認出来るため、撥油膜の特性を染料や顔料で劣化させること無く、しかも、生産工程において撥油膜の未形成品を効率よく排除できる。このため、個々の液体動厚軸受の信頼性を高めつつ、製品を量産する際の不良品の混入を効果的に抑制することが出来る。
【0062】
請求項2の方法によれば、撥油膜の存否を、撥油膜の縁における相対的な明暗の変化で確認できるため、撥油膜の存在確認がより容易かつ確実になり、量産時の製品に対する信頼性が高まる。
【0063】
請求項3の方法によれば、膜の密着性を損なわずに、視認性を高めることが可能になる。
【0064】
請求項4の方法によれば、より容易に撥油膜の存在を確認できるようになる。
【0065】
請求項5の方法によれば、撥油膜の形成確認を安価な白色光照明の下で行えるため、コストを低減できる。
【0066】
請求項6の方法によれば、より厚みの薄く、密着性等の特性に優れたい撥油膜の形成を、可視光観察下で確認できるため、より信頼性の高い軸受を量産することが可能になる。
【0067】
請求項7の方法によれば、撥油膜の確認を自動化できるため、生産性の向上とコストの低減が可能になる。
【0068】
請求項8の方法によれば、請求項7の方法よりも一層薄く、更に密着性に優れた撥油膜の形成を確認できるようになるため、一層信頼性の高い軸受を量産できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】液体動圧軸受を搭載したスピンドルモータ
【図2】テーパ−シール部拡大図
【図3】撥油膜の膜厚プロファイル
【図4】撥油膜自動検査装置概略図
【符号の説明】
10 スピンドルモータ
11 シャフト
12 スリーブ
13 ハブ
14 テーパ−シール
15 スラストブッシュ
16 スラストプレート
17 ブラケット
18 ラジアル動圧軸受
19 スラスト動圧軸受
20 ステータ
21 ロータマグネット
22 潤滑油界面
23 撥油膜
40 トレイ
41 サンプル
42 紫外線ランプ
43 紫外線CCDカメラ
44 紫外線透過フィルタ
45 画像処理装置
Claims (8)
- 構成部材の平滑な表面の一部に撥油膜が形成されている液体動圧軸受の製造方法であって、
その製造方法は、少なくとも、
撥油膜を形成する工程Aと、
撥油膜の有無を確認する工程Bとを有し、
工程Aにおいて、撥油剤の屈折率n、及び、工程Bにおける照明光の平均波長λに対して、撥油膜はλ/(4n)より厚く、かつ、平均厚さについては500nmを越えないように、撥油膜が形成される点を特徴とする、液体動圧軸受の製造方法。 - 前記工程Aにおいて、撥油膜は連続する平面或いは曲面の一部を覆って形成され、
前記工程Bにおいて、撥油膜が形成された領域と撥油膜が形成されていない領域の境界における明暗又は光沢の変化を検出することで、撥油膜の存在を確認する、点を特徴とする、請求項1に記載の液体動圧軸受の製造方法。 - 前記撥油膜の膜厚は一定ではなく、膜厚がλ/(4n)よりも薄い部分がある一方で、膜厚がλ/(4n)よりも厚い部分がある、点を特徴とする、請求項1及び2に記載の液体動圧軸受の製造方法。
- 前記構成部材の表面が、ステンレス鋼、Niメッキ層、窒化処理したステンレス、酸洗したステンレス、の何れかである点を特徴とする、請求項1乃至3に記載の液体動厚軸受の製造方法。
- 前記照明光として、白色光を用い、前記λとしては、白色光を構成する光の成分の内実質的に最も波長が短い可視光の波長とする点を特徴とする、請求項1乃至4に記載の液体動圧軸受の製造方法。
- 前記照明光として、波長が600nm以上の成分を実質的に含まない可視光を利用する点を特徴とする、請求項1乃至4に記載の液体動圧軸受の製造方法。
- 前記工程Bにおいて、撮像装置を用いて撥油膜が形成される面を撮影し、その画像を元に、撥油膜が形成された領域と形成されていない領域の境界の有無を画像処理装置によって判定し、撥油膜の有無を判断する、点を特徴とする請求項1乃至6に記載の、液体動圧軸受の製造方法。
- 請求項7の記載の発明において、前記照明光を紫外光とし、紫外光で撮像可能な撮像装置を用いて、撥油膜が形成される面を撮影する、点を特徴とする、液体動圧軸受の製造方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002312974A JP2004150453A (ja) | 2002-10-28 | 2002-10-28 | 液体動圧軸受の製造方法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002312974A JP2004150453A (ja) | 2002-10-28 | 2002-10-28 | 液体動圧軸受の製造方法 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2004150453A true JP2004150453A (ja) | 2004-05-27 |
Family
ID=32457717
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2002312974A Withdrawn JP2004150453A (ja) | 2002-10-28 | 2002-10-28 | 液体動圧軸受の製造方法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2004150453A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2009542770A (ja) * | 2006-07-13 | 2009-12-03 | ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア | イソシアネートの製造方法 |
-
2002
- 2002-10-28 JP JP2002312974A patent/JP2004150453A/ja not_active Withdrawn
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2009542770A (ja) * | 2006-07-13 | 2009-12-03 | ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア | イソシアネートの製造方法 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
TWI512865B (zh) | 晶圓邊緣檢查技術 | |
KR101466414B1 (ko) | 오염성 평가 방법, 오염성 평가 장치, 광학 부재의 제조 방법, 광학 적층체 및 디스플레이 제품 | |
CN100587473C (zh) | 自动检查系统和方法 | |
DE102005028427B3 (de) | Verfahren zur optischen Aufnahme und Inspektion eines Wafers im Rahmen der Randentlackung | |
EP2912436B1 (fr) | Procédé d'observation d'espèces biologiques | |
US20110123091A1 (en) | Detecting Semiconductor Substrate Anomalies | |
JP6505776B2 (ja) | 欠陥検出装置、欠陥検出方法、ウェハ、半導体チップ、ダイボンダ、半導体製造方法、および半導体装置製造方法 | |
JP5027946B1 (ja) | 検査システム | |
DE112008002816B4 (de) | Prüfverfahren anhand von erfassten Bildern und Prüfvorrichtung | |
CA2937391C (fr) | Dispositif de lecture d'un code d'identification sur une feuille de verre en defilement | |
JP2007285983A (ja) | ワークの傷等検出方法及びその装置 | |
JP2004150453A (ja) | 液体動圧軸受の製造方法 | |
JP5255341B2 (ja) | 光透過性フィルムの欠陥検出装置 | |
JP4436532B2 (ja) | 磁気ディスク装置用の流体軸受装置 | |
WO1995012810A1 (fr) | Methode de controle de l'etat de surface d'une face d'un solide et dispositif associe | |
JPH07239304A (ja) | 表面層欠陥検出装置 | |
JPH11328756A (ja) | 貼り合せ型ディスクの接着部の検査方法および検査装置 | |
JP2000311925A (ja) | 外観検査装置 | |
JP2010271045A (ja) | セラミックス球の外観検査装置 | |
JP2006040961A (ja) | 半導体ウェーハの検査方法、製造方法、及び管理方法 | |
JP2000258351A (ja) | 外観検査装置および外観検査方法 | |
JP5471236B2 (ja) | 金属パターン形成樹脂基板の表面検査方法及び製造方法 | |
TW200823448A (en) | Automated optical inspection system and the method thereof | |
JP5458345B2 (ja) | 欠陥検査方法 | |
Fitti et al. | In-line burr inspection through backlight vision |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A300 | Withdrawal of application because of no request for examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A300 Effective date: 20060110 |