JP2004147531A - 細胞処理方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】造血幹細胞の骨髄生着を促すための細胞処理方法及びこのような骨髄生着の高い造血幹細胞の提供。
【解決手段】造血幹細胞または前駆細胞を、生理活性因子を含む培養液に12時間以上48時間以下暴露させる。該細胞上に骨髄生着関連分子CD49f等が発現し、造血細胞(前駆細胞)の骨髄生着を促進する。生理活性物質としては幹細胞因子(SCF)が挙げられる。
【選択図】 なし
【解決手段】造血幹細胞または前駆細胞を、生理活性因子を含む培養液に12時間以上48時間以下暴露させる。該細胞上に骨髄生着関連分子CD49f等が発現し、造血細胞(前駆細胞)の骨髄生着を促進する。生理活性物質としては幹細胞因子(SCF)が挙げられる。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、骨髄生着関連分子の発現を高め、骨髄生着を促進するための造血幹細胞または前駆細胞の処理方法およびこのようにして処理された細胞に関する。
【0002】
【従来の技術】
造血幹細胞移植は、遺伝性の先天的な血液疾患、白血病などの後天的な血液疾患等の根治療方法であり、近年その施行数が増加してきている。移植される造血幹細胞は施行される本人から採取される場合は自家骨髄由来もしくは自家末梢血を用いるが、本人以外の他家移植の場合には、骨髄、末梢血に加え、近年臍帯血を用いた施行例が増加してきている。
臍帯血は元来出産後に胎盤と共に廃棄しているものを用いるため、提供者の負担を強いない画期的な手法である。近年、この臍帯血を低温保存しておき、必要に応じて解凍して提供する臍帯血バンクが設立され、わが国においても臍帯血バンク保存の細胞を用いた臍帯血由来造血幹細胞移植が多く施行されてくるようになった。臍帯血バンクからの提供は、家族以外の提供者からの骨髄、末梢血と異なり、ドナーへの提供依頼、承諾を必要としないため、必要な時にすぐさま供給できるなど多くのメリットがある。
【0003】
しかしながら、500 例を超える小児患者への臍帯血由来造血幹細胞移植の結果、移植後の正常造血能への回復期間は移植細胞数と負の相関を持ち、体重と正の相関を持つ(非特許文献1)。この点から臍帯血由来造血幹細胞移植の場合、十分な単核球細胞数が得られないとき、たとえば成人に対する移植などは、回復期間が長くなり、感染症などのリスクの増大と長期間の入院を余儀なくされる。
【0004】
造血幹細胞移植に用いられる細胞ソースとしては、現在、1)末梢血、2)骨髄、及び3)臍帯血が用いられている。今までの移植成績などから、末梢血由来造血幹細胞を用いた移植は、他の2つの由来よりも血球成分の回復が早くこの点での有効性が指摘されている。すなわち、造血幹細胞の骨髄生着ならびに血球成分の回復に関しては末梢血由来造血幹細胞が最も優れ、ついで骨髄由来造血幹細胞で、臍帯血由来造血幹細胞が最も劣っていると考えられている。
【0005】
Asosingh K. ら(非特許文献2)は、臍帯血、骨髄、G−CSF (Granulocyte−Colony Stimulating Factor)投与末梢血由来のCD34陽性造血幹細胞画分の接着分子の発現を調べたところ、特に臍帯血由来造血幹細胞には発現の低い接着分子として、CD49e(VLA−5)を挙げている。また、同様にG−CSF投与末梢血に対して骨髄で低い接着分子として、CD54(ICAM−1)を挙げている。このような報告から接着分子は、その造血幹細胞の由来によって発現量などが異なることが報告されている。
【0006】
現在、どのような分子が、静脈より輸注された造血幹細胞の骨髄移行を引き起こしているかはいまだに不明な点が多い。しかし、いくつかの研究報告がある。その一つは細胞への走化性を促す分子ケモカインである。Lapidot, T(非特許文献3,4) は、ケモカインリセプターであるCXCR4の発現がこの造血幹細胞の移植成立にとって非常に重要であることを指摘している。その後の研究から、Rosu−Myles, Mら(非特許文献5,6)は、必ずしもそうではないとの否定的な研究報告を行っている。これらのことから、ケモカインならびにそのリセプター以外の分子、例えば、上記に示したように細胞接着分子が重要であるとの見解もあり、造血幹細胞の骨髄生着に関与する分子に関して多く議論されている。
【0007】
このように造血幹細胞の骨髄への生着の成功および早期回復は造血幹細胞移植の成功を左右する重要な点であることが認識されている。しかしながら、前述した報告が多くあるように、それらを促す有効な方法は現在研究されてはいるものの、具体的には見出されていない。
【0008】
【非特許文献1】
Rubinstein, P. et al., New England J. Med.,339,1565−77,1998
【非特許文献2】
Asosingh K. et al.;Eur. J. Haematol., 60, 153−160, 1998
【非特許文献3】
Lapidot, T.;Science 283, 845−8, 1999;
【非特許文献4】
Lapidot, T.;Ann. N. Y. Acad. Sci., 938, 83−95, 2001
【非特許文献5】
Rosu−Myles, M et al.;Stem Cells, 18, 374−81, 2000
【非特許文献6】
Rosu−Myles, M et al.;Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 97, 14626−31, 2000
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、造血幹細胞の骨髄生着においてキーとなる分子の発現率を高める細胞処理方法を調べることにより、造血幹細胞の骨髄への生着率を向上させる方法を創出することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、これまでに、造血幹細胞の由来で接着分子の発現の違いに着目し、末梢血由来造血幹細胞に発現が強く、臍帯血由来造血幹細胞に発現が弱い分子があれば,その分子こそが骨髄への生着成功率の違いに関連しているとの仮説を立てて検討した。その結果、造血幹細胞の骨髄生着に関連する分子の一つとして、ラミニンリセプタ―であるCD49f分子を発見し、造血幹細胞移植の成功を早期に検査できる方法としてCD49fの発現率を調べる方法を見出している(特願2001−343604、造血幹細胞生着検査方法)。
【0011】
本発明者らは、この知見を基にして上記課題を解決するにあたり、CD49f分子の発現を高めるような要因、例えば発現を高める活性因子を見つけ出すことが重要と考えた。そして造血幹細胞に対して、効果的に生理活性因子による刺激を加えることで、目的とする骨髄生着関連分子の発現率を上昇させる処理方法がより簡便であり、臨床応用への移行も容易であると考えた。
【0012】
これまで、細胞に何らかの刺激を生体外で与えることにより、特定の分子の発現率を高めることに関しては多くの報告がある。例えば、単球系の細胞株であるU937をインターロイキン(IL)−6で刺激すると形質転換成長因子(TGF)−αの発現が高まり、マクロファージへ分化することが、Hallbeck ALらにより報告されている(Biosci Rep,3,325−339,2001)。また末梢血単球由来の未成熟樹状細胞を腫瘍壊死因子(TNF)−αで処理することにより成熟樹状細胞へ分化するが、この時接着因子の一つであるCD49dの発現率も高まることが報告されている(Journal Immunol. 165, 4338−4345, 2000)。一方、造血幹細胞については、Young JCらが、顆粒球―コロニー刺激因子(G−CSF)で末梢血動員したCD34陽性細胞を、トロンボポエチン(TPO)、Flt3−リガンド(FL)と幹細胞因子(SCF)存在下で3日間培養したところ、接着因子CD49d, CD62L分子の発現率が上昇することを報告している(Cytotherapy,3, 307−320, 2001)。しかしこの報告では、上記造血因子で刺激した細胞は、NOD/scidマウスを用いた骨髄生着能の評価においては、未刺激細胞に比べて骨髄への生着率が悪かったこと、さらに刺激細胞にアポトーシスを誘導するFas分子の発現率が急激に高くなっていることも報告されている。このような報告から、細胞に対して何らかの刺激を加える方法が、細胞の増殖、分化や形質および機能的な変化を伴う可能性が高く、効率の良い処理方法を見出す事は容易ではないと考えられる。
【0013】
本発明者らは、本発明の課題を解決するには、造血幹細胞の骨髄生着に必要な分子群の発現のみを高める処理方法を探索することが重要であるが、その方法が、造血幹細胞が本来持つ未分化な状態、さらに分化能などの機能、活性等には影響しない処理方法でなければならないと考えた。そして、鋭利努力して検討した結果、以下のような手法により造血幹細胞の処理方法を見出した。すなわち、臍帯血由来CD34陽性細胞をSCFで48時間処理することで、もともと臍帯血造血幹細胞に低発現だったCD49f, CD49e, CXCR−4分子の発現率を上昇させることを発見した。
【0014】
さらに、SCF処理細胞は、非処理群に比べて、臍帯静脈内皮細胞を用いた細胞透過遊走能も高くなること、並びにNOD/scidマウスへの骨髄生着能も高まることを見出した。SCFを用いて48時間という短時間で造血幹細胞を刺激することで、接着因子やケモカインリセプタ―の発現を高めるという現象は、これまでに報告が無く新たな知見である。ここで、上述したSCFによる造血幹細胞への機能、活性等への影響の有無が疑念されるが、最近の報告で、Coulombel Lらの研究グループ(Blood, 97, 435−441, 2001)は、ヒト造血幹/前駆細胞(CD34+CD38low/neg cells)にSCF、巨核球成長分化因子(MGDF)、IL−6、顆粒球、マクロファージ―コロニー刺激因子(GM−CSF)、Flt−3リガンドとIL−3という造血因子で4日間の処理を行った後、細胞分裂の回数毎に細胞を回収して夫々のLTC−IC活性を測定した結果、4日間培養の間に2回分裂した細胞は、3回以上分裂した細胞に比べて、高いLTC−IC活性を保持していることを示している。このことから短期間培養においても分裂回数を抑えることができれば充分に造血幹細胞としての活性を維持可能であることが分った。
【0015】
本発明においては、SCFによる12時間から48時間以内での処理時間においては、処理後の細胞は増殖していない。つまり本発明による処理では、細胞分裂は起こらないため、前述の報告にあるような細胞分裂による影響を考慮する必要はない。このような知見と併せて、本発明者らによる造血因子による短期間の処理であれば、造血幹細胞における機能等には影響は無いものと考えられる。
【0016】
以上のように、これらのデータを基に、CD49f のCD34陽性細胞における発現率をSCFによって高めることで造血幹細胞の骨髄生着を高めることができるという、新規な細胞処理方法を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は以下の内容から構成される。
1.造血幹細胞または前駆細胞を生理活性因子を含む培養液に12時間以上48時間以下、暴露させる処理工程を行うことによって、該細胞上に発現する骨髄生着関連分子の発現率を高めることを特徴とする細胞処理方法。
2.造血幹細胞または前駆細胞がヒト造血幹細胞または前駆細胞であることを特徴とする前記1に記載の細胞処理方法。
3.生理活性因子が幹細胞因子(SCF)を含む因子群であることを特徴とする前記1または2に記載の細胞処理方法。
4.生理活性因子がSCFであることを特徴とする前記1または2に記載の細胞処理方法。
5.骨髄生着関連分子がCD49e, CD49f, CXCR−4からなる分子群のうち少なくとも1種の 分子であることを特徴とする前記1乃至3のいずれかに記載の細胞処理方法。
6.ヒト造血幹細胞または前駆細胞が、ヒト臍帯血、骨髄、末梢血由来のCD34分子陽性細胞を含む細胞群である前記2乃至5のいずれかに記載の細胞処理方法。
7.前記1乃至6のいずれかに記載の細胞処理方法により得られる、骨髄生着関連分子の発現率を高めた細胞。
8.前記7に記載の細胞を投与する細胞療法。
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において造血幹細胞とは、一個の細胞から赤血球・白血球・巨核球・血小板・T、Bリンパ球などの成熟血液細胞を作り出す能力、すなわち多分化能を有すると同時に、自己再生能を持つ細胞であって、個体に移植された場合、移植細胞由来で上記成熟血球細胞が長期にわたって個体内に維持される細胞を定義される。造血幹細胞は、主として骨髄、臍帯血などに存在し、さらに末梢血中にも存在することが明らかにされている(Blood, 87, 3082−3088, 1996)。造血幹細胞より一段分化して分化の方向が決定した細胞を造血前駆細胞と呼ぶ。この細胞には自己再生能はなく、生体外でコロニーを形成する。
【0019】
造血幹細胞あるいは造血前駆細胞は、CD34抗原が陽性である細胞集団に含まれることが明らかになっている。このためCD34抗原を利用して上記該細胞を分離・濃縮するこができ、しばしば体外増幅のための出発材料として利用されている(Blood 1996;87: 3082−3088)。また、Berensonらは血球細胞死滅処理したがん患者へCD34陽性細胞の移植を試みたところ造血系の再生が認められ、造血再生能を有する多能性造血幹細胞はCD34陽性細胞の集団に含まれることが臨床的にも認められるようになった(Blood,77, 1717, 1991)。 近年、ヒト造血幹細胞の骨髄再生能を実験的に検証する手段として、糖尿病マウスと免疫不全マウスを掛け合わせて作られたNOD/scidマウスにヒトの造血幹細胞が定着して、長期にわたってヒト細胞が産生されることが明らかとなり、この手法により骨髄再構築能を有する造血幹細胞の存在を調べる方法が見出されようになった(Nat. Med.,2, 1329−1337, 1996)。この方法により測定される細胞は、scid−repopulating cells (SRC)と呼ばれ、現時点で測定可能なヒト造血幹細胞に最も近い細胞と考えられており、最近の造血幹細胞の研究の重要な実験技法となっている。
【0020】
本発明における骨髄生着とは、実際に患者への造血幹細胞移植を行った後に、移植細胞が患者骨髄に生着し、造血再生が認められることを意味する。本発明の実施例では骨髄生着の証明として、造血幹細胞を上記のNOD/scidマウスに移植した場合、移植細胞由来の成熟血球細胞が8週間という長期にわたって個体内に維持されることを示している。また、ラミニンリセプターとは細胞外マトリックス分子であるラミニンに結合する細胞膜上の分子の総称で、その代表的なものがCD49f分子である。
【0021】
本発明における細胞処理とは、造血幹細胞または造血前駆細胞を12時間以上48時間以内という短時間の間、血清を含まないイスコフ培地(IMDM)にSCFを10ng/mlから100ng/ml添加し、37℃、5%炭酸ガス雰囲気下で12時間以上48時間以内暴露する工程と定義するものであり、従来研究されてきた、造血幹細胞の生体外での増幅、または分化促進を目的とするものではない。培地には、IMDMの他に、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI−1640培地など適当な市販された培地を使用しうる。臨床的にはX−VIVO15培地等がより好ましい。細胞処理は無血清で行うことが好ましいが、必要に応じてヒトアルブミンなどを添加しうる。必要に応じ適当な抗生物質、グルタミン(0.5−5mM)を含んでいてもよい。
【0022】
本発明で用いるCD番号で分類された細胞表面抗原の詳細については、別冊「医学の歩み」「CD抗原ハンドブック」右田俊介、高橋信弘著 医歯薬出版株式会社に詳細に解説されている。
【0023】
本発明のラミニンリセプターであるCD49f の発現はリンパ球などの血液細胞一派における発現を調べた例はあるが、造血幹細胞に関して詳細に調べた前例はない。ラミニンリセプターであるCD49f は別名インテグリンα6、VLA−6、α−Chainとも言われる。前述の「CD抗原ハンドブック」によればこの分子の機能に関しては不明な点が多いが、網膜神経細胞の伸長に関連していると考えられ、細胞のフォーミングにおいて機能していると推察される。
【0024】
実施例1において、フローサイトメーターと抗体を用いた検出を行っているが、他の方法で検出することも可能である。たとえば、抗体を用いる方法としては、ウエスタンブロット法、酵素免疫測定法の抗体を用いたあらゆる検出が可能である。これら抗体を用いた検出方法に関しては、HarlowとLaneの著作Using Antibodies−a laboratory manual, CSHL pressに一般的に記述されている。したがって、造血幹細胞におけるCD49f分子を検出するあらゆる方法が利用可能である。
【0025】
本発明は、造血幹細胞の骨髄生着を促すための細胞処理方法、及びその処理法で得られた細胞に関するものである。さらに本発明は、造血幹細胞の移植医療においては、移植後の患者の回復を早めるだけではなく、それに伴い感染症の危険性に曝される期間も短くなるなどの臨床効果が期待できる細胞処理方法として利用することができる。
【0026】
【発明の実施の形態】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、これらの実施例は説明のためのものであり、本発明の技術的範囲を制限するものではない。
【実施例1】
臍帯血由来造血幹細胞の接着因子の発現率に及ぼすSCF処理の効果
1.臍帯血単核球由来CD34陽性細胞の回収およびSCF処理方法
正常分娩後に摘出した健常者の胎盤より採取された臍帯血より、フィコールにて単核細胞を回収した。臍帯血単核細胞をCD34 separetion kitを用いて、AutoMACS (Miltenyi Biotec, Bergisch Gladbach, Germany)によりCD34陽性細胞 (UCBCD34+cells) を分画した。UCBCD34+cellsを1×106個/mlを、SCF(10ng/ml)を含む無血清イスコフ培地(IMDM)中で、37℃、5%炭酸ガス雰囲気下で12、24、36、および48時間培養した後、夫々の処理細胞の内皮細胞透過遊走能および細胞表面抗原の解析を行った。
【0027】
2.細胞遊走能の評価方法および結果
トランスメンブレンを用いた内皮細胞遊走能の評価は、造血幹細胞の骨髄内への生着を生体外で模倣できるアッセイとして知られいる。すなわち、上部チャンバーの5μmのポアサイズのメンブレン上に臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を張り付かせて細胞層を作り、メンブレンの外側にゼラチンをコーティングしておく。次に、SCF処理および非処理UCBCD34+cellsを2〜10×104個/100μl上部チャンバーに入れ、一方下部チャンバーにはケモカインであるSDF−1α200ng/mlを添加した培地600μlを入れ、4時間37℃でインキュベーション後、HUVEC層と膜を通過する細胞をFACSでカウントすることにより細胞遊走能を評価した。遊走率は臍帯血6検体を用い、夫々のSCF処理時間(0、12、24、36、48時間)において、総処理細胞に対する遊走細胞数の割合を百分率で示した。図1は、上からSDF−αに対するSDF1―αに対する臍帯血CD34陽性細胞の細胞遊走能に及ぼすSCF処理の効果、骨髄生着関連分子であるCD49e、CD49f、 CD54、CXCR−4、MMP−2、MMP−9の夫々の臍帯血CD34陽性細胞上の発現率に対するSCF処理の効果を示す。縦軸は遊走率または発現率、横軸はSCF処理時間(0〜48時間)を示す。Aは新鮮血由来CD34陽性細胞での結果、Bは凍結保存血由来CD34陽性細胞での結果を示す。各結果は平均値±標準偏差値で表す。その結果、UCBCD34+cellsの細胞遊走能は、SCFによる処理時間に依存的して大きくなり、48時間処理が最も強い活性を示すことが分った。また、これらの結果は凍結保存された臍帯血単核球由来のCD34陽性細胞においても同様の結果が得られた。
【0028】
3.細胞表面抗原の解析方法および結果
細胞表面抗原の解析は、フローサイトメーターを用いて行った。すなわち測定する細胞を、マウス正常血清 (DAKO社)を含むリン酸生理食塩水に下記の抗体を各々別々に添加し、4℃で30分染色した。すべてのサンプルにおいて APC(Allophycocyanin) 標識のCD34(HPCA−1)抗体で染色し、PE (Phycoerythrin)標識、もしくは FITC (Fluorescein isothiocyanate)標識の抗CD49e 、CD49f 、CD54、CXCR−4, MMP−2, MMP−9の各種抗体で染色し、CD34強陽性部分のゲート内のこれら抗原の陽性率を測定した。ネガティブコントロール抗体として、アイソタイプを合わせた抗体を利用した。染色した細胞を洗浄後 FACScalibur(Beckton−Dickson社)で測定した。測定は臍帯血は6例のサンプルを測定し、これらの陽性率(%)のデータのまとめを図1に示した。この結果、臍帯血で発現率の低い分子であるCD49e 、CD49f 、CXCR−4、MMP−2、MMP−9がいずれもSCFによる処理時間に依存的して発現率が上昇し、いずれの分子においても48時間処理が最も発現率が高いことを見出した。また、これらの結果は凍結保存された臍帯血単核球由来のCD34陽性細胞においても同様の結果が得られた。
【0029】
【実施例2】
NOD/scidマウスを用いたSCF処理した臍帯血由来造血幹細胞の骨髄生着能の評価
UCBCD34+cells 5×107個/mlを、SCF(100ng/ml)を含む無血清のイスコフ培地(IMDM)中で、37℃、5%炭酸ガス雰囲気下で48時間培養した後、予め放射線照射した8週齢のNOD/scidマウスの尾静脈投与した。細胞を投与したマウスはまた、抗アシアロGM1抗体を腹腔内投与してNK活性を消失させた。マウスへの造血幹細胞の骨髄内生着の評価は、細胞投与後1〜8週間かけてマウス骨髄中のヒト由来CD45陽性細胞の存在比率をフローサイトメーターにて測定した。処理細胞投与後は1週間毎に8週までマウス末梢血中のヒトCD45陽性細胞をモニタリングし、その陽性率を示す。SCF処理細胞投与群を(黒四角)、SCF非処理細胞投与群を(白四角)で示す。測定は臍帯血は3例のサンプルを評価し、これらのヒトCD45陽性率(%)のデータをそれぞれ臍帯血3検体(A、B、C)毎のまとめを図2に示した。処理細胞投与後は1週間毎に8週までマウス末梢血中のヒトCD45陽性細胞をモニタリングし、その陽性率を示す。SCF処理細胞投与群を(黒四角)、SCF非処理細胞投与群を(白四角)で示す。臍帯血検体別の成績をA,B,Cに示す。その結果、細胞移植後2〜3週後および6〜7週後において、いずれもSCF処理細胞移植群が非処理細胞移植群に比べて、高い骨髄生着率を示した。
【0030】
【発明の効果】
本発明の細胞処理方法によると、造血幹細胞または造血前駆細胞上に発現する骨髄生着関連分子であるCD49e、CD49f、CXCR−4などの発現率を高めることにより、造血幹細胞または造血前駆細胞を移植した後の該細胞の骨髄への生着を促し、移植後の回復を早めることができる。
また、本発明によると、造血幹細胞移植後に骨髄生着が早い処理造血幹細胞または処理造血前駆細胞を提供できる。
【0031】
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の臍帯血由来CD34陽性細胞の細胞遊走能および骨髄生着関連分子の発現に及ぼすSCF処理の効果を示す。
【符号の説明】
A:新鮮血由来CD34陽性細胞
B:凍結保存血由来CD34陽性細胞
【図2】NOD/scidマウスを用いた臍帯血由来CD34陽性細胞の造血再生能に及ぼすSCF処理の効果
【符号の説明】
(黒四角):SCF処理細胞投与群
(白四角):SCF非処理細胞投与群
【発明の属する技術分野】
本発明は、骨髄生着関連分子の発現を高め、骨髄生着を促進するための造血幹細胞または前駆細胞の処理方法およびこのようにして処理された細胞に関する。
【0002】
【従来の技術】
造血幹細胞移植は、遺伝性の先天的な血液疾患、白血病などの後天的な血液疾患等の根治療方法であり、近年その施行数が増加してきている。移植される造血幹細胞は施行される本人から採取される場合は自家骨髄由来もしくは自家末梢血を用いるが、本人以外の他家移植の場合には、骨髄、末梢血に加え、近年臍帯血を用いた施行例が増加してきている。
臍帯血は元来出産後に胎盤と共に廃棄しているものを用いるため、提供者の負担を強いない画期的な手法である。近年、この臍帯血を低温保存しておき、必要に応じて解凍して提供する臍帯血バンクが設立され、わが国においても臍帯血バンク保存の細胞を用いた臍帯血由来造血幹細胞移植が多く施行されてくるようになった。臍帯血バンクからの提供は、家族以外の提供者からの骨髄、末梢血と異なり、ドナーへの提供依頼、承諾を必要としないため、必要な時にすぐさま供給できるなど多くのメリットがある。
【0003】
しかしながら、500 例を超える小児患者への臍帯血由来造血幹細胞移植の結果、移植後の正常造血能への回復期間は移植細胞数と負の相関を持ち、体重と正の相関を持つ(非特許文献1)。この点から臍帯血由来造血幹細胞移植の場合、十分な単核球細胞数が得られないとき、たとえば成人に対する移植などは、回復期間が長くなり、感染症などのリスクの増大と長期間の入院を余儀なくされる。
【0004】
造血幹細胞移植に用いられる細胞ソースとしては、現在、1)末梢血、2)骨髄、及び3)臍帯血が用いられている。今までの移植成績などから、末梢血由来造血幹細胞を用いた移植は、他の2つの由来よりも血球成分の回復が早くこの点での有効性が指摘されている。すなわち、造血幹細胞の骨髄生着ならびに血球成分の回復に関しては末梢血由来造血幹細胞が最も優れ、ついで骨髄由来造血幹細胞で、臍帯血由来造血幹細胞が最も劣っていると考えられている。
【0005】
Asosingh K. ら(非特許文献2)は、臍帯血、骨髄、G−CSF (Granulocyte−Colony Stimulating Factor)投与末梢血由来のCD34陽性造血幹細胞画分の接着分子の発現を調べたところ、特に臍帯血由来造血幹細胞には発現の低い接着分子として、CD49e(VLA−5)を挙げている。また、同様にG−CSF投与末梢血に対して骨髄で低い接着分子として、CD54(ICAM−1)を挙げている。このような報告から接着分子は、その造血幹細胞の由来によって発現量などが異なることが報告されている。
【0006】
現在、どのような分子が、静脈より輸注された造血幹細胞の骨髄移行を引き起こしているかはいまだに不明な点が多い。しかし、いくつかの研究報告がある。その一つは細胞への走化性を促す分子ケモカインである。Lapidot, T(非特許文献3,4) は、ケモカインリセプターであるCXCR4の発現がこの造血幹細胞の移植成立にとって非常に重要であることを指摘している。その後の研究から、Rosu−Myles, Mら(非特許文献5,6)は、必ずしもそうではないとの否定的な研究報告を行っている。これらのことから、ケモカインならびにそのリセプター以外の分子、例えば、上記に示したように細胞接着分子が重要であるとの見解もあり、造血幹細胞の骨髄生着に関与する分子に関して多く議論されている。
【0007】
このように造血幹細胞の骨髄への生着の成功および早期回復は造血幹細胞移植の成功を左右する重要な点であることが認識されている。しかしながら、前述した報告が多くあるように、それらを促す有効な方法は現在研究されてはいるものの、具体的には見出されていない。
【0008】
【非特許文献1】
Rubinstein, P. et al., New England J. Med.,339,1565−77,1998
【非特許文献2】
Asosingh K. et al.;Eur. J. Haematol., 60, 153−160, 1998
【非特許文献3】
Lapidot, T.;Science 283, 845−8, 1999;
【非特許文献4】
Lapidot, T.;Ann. N. Y. Acad. Sci., 938, 83−95, 2001
【非特許文献5】
Rosu−Myles, M et al.;Stem Cells, 18, 374−81, 2000
【非特許文献6】
Rosu−Myles, M et al.;Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 97, 14626−31, 2000
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、造血幹細胞の骨髄生着においてキーとなる分子の発現率を高める細胞処理方法を調べることにより、造血幹細胞の骨髄への生着率を向上させる方法を創出することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、これまでに、造血幹細胞の由来で接着分子の発現の違いに着目し、末梢血由来造血幹細胞に発現が強く、臍帯血由来造血幹細胞に発現が弱い分子があれば,その分子こそが骨髄への生着成功率の違いに関連しているとの仮説を立てて検討した。その結果、造血幹細胞の骨髄生着に関連する分子の一つとして、ラミニンリセプタ―であるCD49f分子を発見し、造血幹細胞移植の成功を早期に検査できる方法としてCD49fの発現率を調べる方法を見出している(特願2001−343604、造血幹細胞生着検査方法)。
【0011】
本発明者らは、この知見を基にして上記課題を解決するにあたり、CD49f分子の発現を高めるような要因、例えば発現を高める活性因子を見つけ出すことが重要と考えた。そして造血幹細胞に対して、効果的に生理活性因子による刺激を加えることで、目的とする骨髄生着関連分子の発現率を上昇させる処理方法がより簡便であり、臨床応用への移行も容易であると考えた。
【0012】
これまで、細胞に何らかの刺激を生体外で与えることにより、特定の分子の発現率を高めることに関しては多くの報告がある。例えば、単球系の細胞株であるU937をインターロイキン(IL)−6で刺激すると形質転換成長因子(TGF)−αの発現が高まり、マクロファージへ分化することが、Hallbeck ALらにより報告されている(Biosci Rep,3,325−339,2001)。また末梢血単球由来の未成熟樹状細胞を腫瘍壊死因子(TNF)−αで処理することにより成熟樹状細胞へ分化するが、この時接着因子の一つであるCD49dの発現率も高まることが報告されている(Journal Immunol. 165, 4338−4345, 2000)。一方、造血幹細胞については、Young JCらが、顆粒球―コロニー刺激因子(G−CSF)で末梢血動員したCD34陽性細胞を、トロンボポエチン(TPO)、Flt3−リガンド(FL)と幹細胞因子(SCF)存在下で3日間培養したところ、接着因子CD49d, CD62L分子の発現率が上昇することを報告している(Cytotherapy,3, 307−320, 2001)。しかしこの報告では、上記造血因子で刺激した細胞は、NOD/scidマウスを用いた骨髄生着能の評価においては、未刺激細胞に比べて骨髄への生着率が悪かったこと、さらに刺激細胞にアポトーシスを誘導するFas分子の発現率が急激に高くなっていることも報告されている。このような報告から、細胞に対して何らかの刺激を加える方法が、細胞の増殖、分化や形質および機能的な変化を伴う可能性が高く、効率の良い処理方法を見出す事は容易ではないと考えられる。
【0013】
本発明者らは、本発明の課題を解決するには、造血幹細胞の骨髄生着に必要な分子群の発現のみを高める処理方法を探索することが重要であるが、その方法が、造血幹細胞が本来持つ未分化な状態、さらに分化能などの機能、活性等には影響しない処理方法でなければならないと考えた。そして、鋭利努力して検討した結果、以下のような手法により造血幹細胞の処理方法を見出した。すなわち、臍帯血由来CD34陽性細胞をSCFで48時間処理することで、もともと臍帯血造血幹細胞に低発現だったCD49f, CD49e, CXCR−4分子の発現率を上昇させることを発見した。
【0014】
さらに、SCF処理細胞は、非処理群に比べて、臍帯静脈内皮細胞を用いた細胞透過遊走能も高くなること、並びにNOD/scidマウスへの骨髄生着能も高まることを見出した。SCFを用いて48時間という短時間で造血幹細胞を刺激することで、接着因子やケモカインリセプタ―の発現を高めるという現象は、これまでに報告が無く新たな知見である。ここで、上述したSCFによる造血幹細胞への機能、活性等への影響の有無が疑念されるが、最近の報告で、Coulombel Lらの研究グループ(Blood, 97, 435−441, 2001)は、ヒト造血幹/前駆細胞(CD34+CD38low/neg cells)にSCF、巨核球成長分化因子(MGDF)、IL−6、顆粒球、マクロファージ―コロニー刺激因子(GM−CSF)、Flt−3リガンドとIL−3という造血因子で4日間の処理を行った後、細胞分裂の回数毎に細胞を回収して夫々のLTC−IC活性を測定した結果、4日間培養の間に2回分裂した細胞は、3回以上分裂した細胞に比べて、高いLTC−IC活性を保持していることを示している。このことから短期間培養においても分裂回数を抑えることができれば充分に造血幹細胞としての活性を維持可能であることが分った。
【0015】
本発明においては、SCFによる12時間から48時間以内での処理時間においては、処理後の細胞は増殖していない。つまり本発明による処理では、細胞分裂は起こらないため、前述の報告にあるような細胞分裂による影響を考慮する必要はない。このような知見と併せて、本発明者らによる造血因子による短期間の処理であれば、造血幹細胞における機能等には影響は無いものと考えられる。
【0016】
以上のように、これらのデータを基に、CD49f のCD34陽性細胞における発現率をSCFによって高めることで造血幹細胞の骨髄生着を高めることができるという、新規な細胞処理方法を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明は以下の内容から構成される。
1.造血幹細胞または前駆細胞を生理活性因子を含む培養液に12時間以上48時間以下、暴露させる処理工程を行うことによって、該細胞上に発現する骨髄生着関連分子の発現率を高めることを特徴とする細胞処理方法。
2.造血幹細胞または前駆細胞がヒト造血幹細胞または前駆細胞であることを特徴とする前記1に記載の細胞処理方法。
3.生理活性因子が幹細胞因子(SCF)を含む因子群であることを特徴とする前記1または2に記載の細胞処理方法。
4.生理活性因子がSCFであることを特徴とする前記1または2に記載の細胞処理方法。
5.骨髄生着関連分子がCD49e, CD49f, CXCR−4からなる分子群のうち少なくとも1種の 分子であることを特徴とする前記1乃至3のいずれかに記載の細胞処理方法。
6.ヒト造血幹細胞または前駆細胞が、ヒト臍帯血、骨髄、末梢血由来のCD34分子陽性細胞を含む細胞群である前記2乃至5のいずれかに記載の細胞処理方法。
7.前記1乃至6のいずれかに記載の細胞処理方法により得られる、骨髄生着関連分子の発現率を高めた細胞。
8.前記7に記載の細胞を投与する細胞療法。
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において造血幹細胞とは、一個の細胞から赤血球・白血球・巨核球・血小板・T、Bリンパ球などの成熟血液細胞を作り出す能力、すなわち多分化能を有すると同時に、自己再生能を持つ細胞であって、個体に移植された場合、移植細胞由来で上記成熟血球細胞が長期にわたって個体内に維持される細胞を定義される。造血幹細胞は、主として骨髄、臍帯血などに存在し、さらに末梢血中にも存在することが明らかにされている(Blood, 87, 3082−3088, 1996)。造血幹細胞より一段分化して分化の方向が決定した細胞を造血前駆細胞と呼ぶ。この細胞には自己再生能はなく、生体外でコロニーを形成する。
【0019】
造血幹細胞あるいは造血前駆細胞は、CD34抗原が陽性である細胞集団に含まれることが明らかになっている。このためCD34抗原を利用して上記該細胞を分離・濃縮するこができ、しばしば体外増幅のための出発材料として利用されている(Blood 1996;87: 3082−3088)。また、Berensonらは血球細胞死滅処理したがん患者へCD34陽性細胞の移植を試みたところ造血系の再生が認められ、造血再生能を有する多能性造血幹細胞はCD34陽性細胞の集団に含まれることが臨床的にも認められるようになった(Blood,77, 1717, 1991)。 近年、ヒト造血幹細胞の骨髄再生能を実験的に検証する手段として、糖尿病マウスと免疫不全マウスを掛け合わせて作られたNOD/scidマウスにヒトの造血幹細胞が定着して、長期にわたってヒト細胞が産生されることが明らかとなり、この手法により骨髄再構築能を有する造血幹細胞の存在を調べる方法が見出されようになった(Nat. Med.,2, 1329−1337, 1996)。この方法により測定される細胞は、scid−repopulating cells (SRC)と呼ばれ、現時点で測定可能なヒト造血幹細胞に最も近い細胞と考えられており、最近の造血幹細胞の研究の重要な実験技法となっている。
【0020】
本発明における骨髄生着とは、実際に患者への造血幹細胞移植を行った後に、移植細胞が患者骨髄に生着し、造血再生が認められることを意味する。本発明の実施例では骨髄生着の証明として、造血幹細胞を上記のNOD/scidマウスに移植した場合、移植細胞由来の成熟血球細胞が8週間という長期にわたって個体内に維持されることを示している。また、ラミニンリセプターとは細胞外マトリックス分子であるラミニンに結合する細胞膜上の分子の総称で、その代表的なものがCD49f分子である。
【0021】
本発明における細胞処理とは、造血幹細胞または造血前駆細胞を12時間以上48時間以内という短時間の間、血清を含まないイスコフ培地(IMDM)にSCFを10ng/mlから100ng/ml添加し、37℃、5%炭酸ガス雰囲気下で12時間以上48時間以内暴露する工程と定義するものであり、従来研究されてきた、造血幹細胞の生体外での増幅、または分化促進を目的とするものではない。培地には、IMDMの他に、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI−1640培地など適当な市販された培地を使用しうる。臨床的にはX−VIVO15培地等がより好ましい。細胞処理は無血清で行うことが好ましいが、必要に応じてヒトアルブミンなどを添加しうる。必要に応じ適当な抗生物質、グルタミン(0.5−5mM)を含んでいてもよい。
【0022】
本発明で用いるCD番号で分類された細胞表面抗原の詳細については、別冊「医学の歩み」「CD抗原ハンドブック」右田俊介、高橋信弘著 医歯薬出版株式会社に詳細に解説されている。
【0023】
本発明のラミニンリセプターであるCD49f の発現はリンパ球などの血液細胞一派における発現を調べた例はあるが、造血幹細胞に関して詳細に調べた前例はない。ラミニンリセプターであるCD49f は別名インテグリンα6、VLA−6、α−Chainとも言われる。前述の「CD抗原ハンドブック」によればこの分子の機能に関しては不明な点が多いが、網膜神経細胞の伸長に関連していると考えられ、細胞のフォーミングにおいて機能していると推察される。
【0024】
実施例1において、フローサイトメーターと抗体を用いた検出を行っているが、他の方法で検出することも可能である。たとえば、抗体を用いる方法としては、ウエスタンブロット法、酵素免疫測定法の抗体を用いたあらゆる検出が可能である。これら抗体を用いた検出方法に関しては、HarlowとLaneの著作Using Antibodies−a laboratory manual, CSHL pressに一般的に記述されている。したがって、造血幹細胞におけるCD49f分子を検出するあらゆる方法が利用可能である。
【0025】
本発明は、造血幹細胞の骨髄生着を促すための細胞処理方法、及びその処理法で得られた細胞に関するものである。さらに本発明は、造血幹細胞の移植医療においては、移植後の患者の回復を早めるだけではなく、それに伴い感染症の危険性に曝される期間も短くなるなどの臨床効果が期待できる細胞処理方法として利用することができる。
【0026】
【発明の実施の形態】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、これらの実施例は説明のためのものであり、本発明の技術的範囲を制限するものではない。
【実施例1】
臍帯血由来造血幹細胞の接着因子の発現率に及ぼすSCF処理の効果
1.臍帯血単核球由来CD34陽性細胞の回収およびSCF処理方法
正常分娩後に摘出した健常者の胎盤より採取された臍帯血より、フィコールにて単核細胞を回収した。臍帯血単核細胞をCD34 separetion kitを用いて、AutoMACS (Miltenyi Biotec, Bergisch Gladbach, Germany)によりCD34陽性細胞 (UCBCD34+cells) を分画した。UCBCD34+cellsを1×106個/mlを、SCF(10ng/ml)を含む無血清イスコフ培地(IMDM)中で、37℃、5%炭酸ガス雰囲気下で12、24、36、および48時間培養した後、夫々の処理細胞の内皮細胞透過遊走能および細胞表面抗原の解析を行った。
【0027】
2.細胞遊走能の評価方法および結果
トランスメンブレンを用いた内皮細胞遊走能の評価は、造血幹細胞の骨髄内への生着を生体外で模倣できるアッセイとして知られいる。すなわち、上部チャンバーの5μmのポアサイズのメンブレン上に臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を張り付かせて細胞層を作り、メンブレンの外側にゼラチンをコーティングしておく。次に、SCF処理および非処理UCBCD34+cellsを2〜10×104個/100μl上部チャンバーに入れ、一方下部チャンバーにはケモカインであるSDF−1α200ng/mlを添加した培地600μlを入れ、4時間37℃でインキュベーション後、HUVEC層と膜を通過する細胞をFACSでカウントすることにより細胞遊走能を評価した。遊走率は臍帯血6検体を用い、夫々のSCF処理時間(0、12、24、36、48時間)において、総処理細胞に対する遊走細胞数の割合を百分率で示した。図1は、上からSDF−αに対するSDF1―αに対する臍帯血CD34陽性細胞の細胞遊走能に及ぼすSCF処理の効果、骨髄生着関連分子であるCD49e、CD49f、 CD54、CXCR−4、MMP−2、MMP−9の夫々の臍帯血CD34陽性細胞上の発現率に対するSCF処理の効果を示す。縦軸は遊走率または発現率、横軸はSCF処理時間(0〜48時間)を示す。Aは新鮮血由来CD34陽性細胞での結果、Bは凍結保存血由来CD34陽性細胞での結果を示す。各結果は平均値±標準偏差値で表す。その結果、UCBCD34+cellsの細胞遊走能は、SCFによる処理時間に依存的して大きくなり、48時間処理が最も強い活性を示すことが分った。また、これらの結果は凍結保存された臍帯血単核球由来のCD34陽性細胞においても同様の結果が得られた。
【0028】
3.細胞表面抗原の解析方法および結果
細胞表面抗原の解析は、フローサイトメーターを用いて行った。すなわち測定する細胞を、マウス正常血清 (DAKO社)を含むリン酸生理食塩水に下記の抗体を各々別々に添加し、4℃で30分染色した。すべてのサンプルにおいて APC(Allophycocyanin) 標識のCD34(HPCA−1)抗体で染色し、PE (Phycoerythrin)標識、もしくは FITC (Fluorescein isothiocyanate)標識の抗CD49e 、CD49f 、CD54、CXCR−4, MMP−2, MMP−9の各種抗体で染色し、CD34強陽性部分のゲート内のこれら抗原の陽性率を測定した。ネガティブコントロール抗体として、アイソタイプを合わせた抗体を利用した。染色した細胞を洗浄後 FACScalibur(Beckton−Dickson社)で測定した。測定は臍帯血は6例のサンプルを測定し、これらの陽性率(%)のデータのまとめを図1に示した。この結果、臍帯血で発現率の低い分子であるCD49e 、CD49f 、CXCR−4、MMP−2、MMP−9がいずれもSCFによる処理時間に依存的して発現率が上昇し、いずれの分子においても48時間処理が最も発現率が高いことを見出した。また、これらの結果は凍結保存された臍帯血単核球由来のCD34陽性細胞においても同様の結果が得られた。
【0029】
【実施例2】
NOD/scidマウスを用いたSCF処理した臍帯血由来造血幹細胞の骨髄生着能の評価
UCBCD34+cells 5×107個/mlを、SCF(100ng/ml)を含む無血清のイスコフ培地(IMDM)中で、37℃、5%炭酸ガス雰囲気下で48時間培養した後、予め放射線照射した8週齢のNOD/scidマウスの尾静脈投与した。細胞を投与したマウスはまた、抗アシアロGM1抗体を腹腔内投与してNK活性を消失させた。マウスへの造血幹細胞の骨髄内生着の評価は、細胞投与後1〜8週間かけてマウス骨髄中のヒト由来CD45陽性細胞の存在比率をフローサイトメーターにて測定した。処理細胞投与後は1週間毎に8週までマウス末梢血中のヒトCD45陽性細胞をモニタリングし、その陽性率を示す。SCF処理細胞投与群を(黒四角)、SCF非処理細胞投与群を(白四角)で示す。測定は臍帯血は3例のサンプルを評価し、これらのヒトCD45陽性率(%)のデータをそれぞれ臍帯血3検体(A、B、C)毎のまとめを図2に示した。処理細胞投与後は1週間毎に8週までマウス末梢血中のヒトCD45陽性細胞をモニタリングし、その陽性率を示す。SCF処理細胞投与群を(黒四角)、SCF非処理細胞投与群を(白四角)で示す。臍帯血検体別の成績をA,B,Cに示す。その結果、細胞移植後2〜3週後および6〜7週後において、いずれもSCF処理細胞移植群が非処理細胞移植群に比べて、高い骨髄生着率を示した。
【0030】
【発明の効果】
本発明の細胞処理方法によると、造血幹細胞または造血前駆細胞上に発現する骨髄生着関連分子であるCD49e、CD49f、CXCR−4などの発現率を高めることにより、造血幹細胞または造血前駆細胞を移植した後の該細胞の骨髄への生着を促し、移植後の回復を早めることができる。
また、本発明によると、造血幹細胞移植後に骨髄生着が早い処理造血幹細胞または処理造血前駆細胞を提供できる。
【0031】
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の臍帯血由来CD34陽性細胞の細胞遊走能および骨髄生着関連分子の発現に及ぼすSCF処理の効果を示す。
【符号の説明】
A:新鮮血由来CD34陽性細胞
B:凍結保存血由来CD34陽性細胞
【図2】NOD/scidマウスを用いた臍帯血由来CD34陽性細胞の造血再生能に及ぼすSCF処理の効果
【符号の説明】
(黒四角):SCF処理細胞投与群
(白四角):SCF非処理細胞投与群
Claims (8)
- 造血幹細胞または前駆細胞を、生理活性因子を含む培養液に12時間以上48時間以下、暴露させる処理工程を行って、該細胞上に発現する骨髄生着関連分子の発現率を高めることを特徴とする細胞処理方法。
- 造血幹細胞または前駆細胞がヒト造血幹細胞または前駆細胞であることを特徴とする請求項1に記載の細胞処理方法。
- 生理活性因子が幹細胞因子(SCF)を含む因子群であることを特徴とする請求項1または2に記載の細胞処理方法。
- 生理活性因子がSCFであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の細胞処理方法。
- 骨髄生着関連分子がCD49e, CD49f, CXCR−4からなる分子群のうち少なくとも1種の 分子であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の細胞処理方法。
- ヒト造血幹細胞または前駆細胞が、ヒト臍帯血、骨髄または末梢血由来のCD34分子陽性細胞を含む細胞群である請求項2乃至5のいずれかに記載の細胞処理方法。
- 請求項1乃至6のいずれかに記載の細胞処理方法により得られる、骨髄生着関連分子の発現率を高めた細胞。
- 請求項7に記載の細胞を投与する細胞療法。
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