JP2004143622A - 繊維構造物及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】色の濃さや鮮明性が向上され、しかも移行昇華が抑制された繊維構造物を提供する。
【解決手段】本発明の繊維構造物は、構成繊維の表面がフッ素化されていることを特徴とする。フッ素化処理としては、フッ素ガスを用いた処理が好適である。また、本発明の繊維構造物において、フッ素含有量が、フッ素化処理前の繊維構造物に対して0.05質量%以上であることが好ましい。
【選択図】 なし
【解決手段】本発明の繊維構造物は、構成繊維の表面がフッ素化されていることを特徴とする。フッ素化処理としては、フッ素ガスを用いた処理が好適である。また、本発明の繊維構造物において、フッ素含有量が、フッ素化処理前の繊維構造物に対して0.05質量%以上であることが好ましい。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は繊維構造物及びその製造方法に係り、特に、色の濃さや鮮明性が向上され、しかも移行昇華が抑制された繊維構造物及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステル繊維、トリアセテート繊維、毛、絹等からなり、黒色に染色され濃色化された濃色繊維構造物は、フォーマルウェアや中近東の黒色の民族衣装などに利用されている。
繊維構造物の濃色化技術は、染色前にあらかじめ特定の処理を施すものと、染色後に特定の処理を施すものに大別される。
【0003】
染色前にあらかじめ特定の処理を施す濃色化技術としては、繊維表面に多数の微細凹凸を形成してから染色する技術が知られており、この技術では、多数の微細凹凸による光吸収を利用して、濃色化を図っている。例えば、ポリエステル繊維の紡糸時にシリカ微粒子などの無機微粒子を添加したものを用いて製織し、得られた繊維構造物に対してカセイソーダを用いた減量加工を施すことにより繊維表面にミクロクレーター状の多数の微細凹凸を形成し、その後黒色に染色することにより、濃い黒色の繊維構造物を得る技術が知られている。
【0004】
染色後に特定の処理を施す濃色化技術としては、繊維表面に低屈折率ポリマーを付着させる技術が知られており、この技術では、低屈折率ポリマーによる光吸収を利用して、濃色化を図っている。以下、濃色化を目的として、繊維構造物に付着させる薬剤を「濃色化剤」と称す。
例えば、繊維表面に屈折率1.45以下のポリマーを付着せる技術(特許文献1)や、繊維表面に、カチオン性のウレタン樹脂の存在下にアクリル樹脂を重合させて得られるエマルジョンを付着させる技術(特許文献2)が知られている。
また、繊維表面に、アニオン性ポリマーを付着させて、水中でのマイナス荷電を増加させ、カチオン性物質の吸着性を高める処理を行った後、さらにカチオン性ポリマーを付着させる技術(特許文献1)や、繊維表面にシリカ微粒子などの無機微粒子を付着させた後、さらにフッ素系撥水剤等のフッ素樹脂やシリコーン樹脂を付着させる技術(特許文献3)など、2段階の付着処理を行う技術も知られている。
また、特許文献4には、三次元架橋されたカチオン性アクリル樹脂エマルジョンと酸性リン酸エステル塩とを含有してなる繊維の色の濃さ(深み)及び鮮明性を改善するための樹脂加工用組成物が開示されている。
さらに、繊維表面に濃色化剤を付着させた後、プラズマ処理により表面をエッチングして多数の微細凹凸を形成する技術も知られている。
【0005】
【特許文献1】
特公昭63−3076号公報
【特許文献2】
特開昭57−139585号公報
【特許文献3】
特公昭61−3943号公報
【特許文献4】
特開平9−302582号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の濃色化技術では、得られる色の濃さや鮮明性に限界があった。
ここで、繊維構造物の色の評価基準として、CIE1976Lab表色系が知られている。この表色系では、L値により色の濃さ(明度)が表され、a,bにより色の種類とその鮮明性が表される。L値は0〜100の範囲で、数値が小さい程色が濃いことを示す。a,bの座標による方向は色相を示す。また、a,bの0点からの距離は彩度を示し、その数値は0であれば無彩色であり、数値が大きい程彩度が大きいことを示す。
以下、本明細書において、L値、a、bは、CIE1976Lab表色系に基づく色データを意味しているものとし、a、bは0点からの距離(彩度)を意味しているものとする。
例えば、ポリエステルの黒染め織物のL値は、織組織や糸の種類(ミクロクレーター繊維等)、糸の太さ等により異なるが、通常11〜20程度の範囲内にあり、上記従来の濃色化技術では、L値8程度の濃色化が限界であった。例外として、繊維が立毛になっているベルベット組織では1桁、例えば5以下の小さいL値が得られることが知られているが、通常の織(編)組織では、このような濃色化は報告されていない。
【0007】
また、ポリエステル繊維、ジアセテート繊維、トリアセテート繊維等からなる繊維構造物では、一般に染料として分散染料が使用されているが、分散染料で染色されたこれらの繊維構造物では、熱、圧力や経時変化などの要因で、分散染料が繊維の外部に移行(ブリードアウト)するいわゆる「移行昇華」(貯蔵中昇華と称されることもある。)が起こりやすく、繊維構造物と接触していた他の白色の繊維構造物やフィルム等に移行汚染を起こすことがあった。この問題は特に、濃色に染色されたものについて顕著であった。
さらに、分散染料で染色された繊維構造物では、他の染料を用いた場合と比べ鮮明性が劣るという問題もあった。
【0008】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、色の濃さや鮮明性が向上され、しかも移行昇華が抑制された繊維構造物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、以下の繊維構造物及びその製造方法を発明した。
本発明の繊維構造物は、構成繊維の表面がフッ素化されていることを特徴とする。ここで、フッ素化処理としては、フッ素ガスを用いた処理が好適である。また、本発明の繊維構造物において、フッ素含有量が、フッ素化処理前の繊維構造物に対して0.05質量%以上であることが好ましい。
本発明の繊維構造物の製造方法は、構成繊維に対して、フッ素ガスを接触させる工程を有することを特徴とする。
なお、本明細書において、フッ素含有量の評価方法については「実施例」の項において説明する。
【0010】
本発明者は、構成繊維に対してフッ素化処理を施すことにより、従来の濃色化技術ではなし得なかった高い濃色化効果が得られることを見出している。そして、従来技術では容易に実現できなかった8未満のL値を有する色の濃い濃色繊維構造物についても簡易に得られることを見出している。また、色の鮮明性についても向上できることを見出している。
本発明は繊維表面にフッ素を導入することにより、光吸収量の増加すなわち濃色化を図ったものである。
なお、「従来の技術」の項において、フッ素系撥水剤等のフッ素樹脂を濃色化剤として用いる技術があることを述べたが(特許文献3参照)、かかる従来技術では本発明の効果は得られない。
すなわち、フッ素樹脂を用いた処理では、他の従来の濃色化技術と同様、L値8程度の濃色化が限界であった。これは、繊維表面にフッ素樹脂を均一に付着させることが困難であること、また、導入できるフッ素量が少なく、屈折率の低下効果が少ないことによるものと推察される。また、高い濃色化効果を得るために、フッ素樹脂(特にフッ素系撥水剤)を通常の使用範囲を超えて大量に付着させると、風合いが硬くなり実用的ではない。これに対して、本発明では、ガスを用いて処理を行うので、繊維表面に均一にフッ素を導入することができると共に、風合いを損なうことなく、導入するフッ素量も大きく確保できる。それ故、簡易な操作で、風合いを損なうことなく、高い濃色化効果、鮮明性向上効果が得られる。
【0011】
さらに、本発明者は、フッ素化処理を施すことにより、移行昇華が著しく抑制され、堅牢度の低下や変色が著しく抑制されることを見出している。
なお、移行昇華の問題は、分散染料で染色した繊維構造物、特に、ポリエステル繊維、ジアセテート繊維、トリアセテート繊維等からなる繊維構造物を分散染料で染色した繊維構造物において顕著であったため、本発明は、このような繊維構造物に対して特に有効である。
フッ素化処理を施すことにより、移行昇華が著しく抑制される理由は必ずしも定かではないが、以下のような理由が想定される。
染料(特に分散染料)は、染色を施す繊維構造物と似た極性を有する。例えば、ポリエステル繊維のSP値(solubility parameter)は10.7であり、分散染料の多くはこれに近い極性を持つ。繊維構造物に対してフッ素化処理を施すと、その極性を大きく変化させることができ、SP値を小さい方向に大きく変化させることができる。その結果、繊維構造物に導入された染料は、極性の異なるバリアー層を拡散しにくくなり、移行昇華が抑制されるものと考えられる。
【0012】
このように、本発明によれば、従来技術では得られなかった色の濃さや鮮明さを有し、しかも移行昇華が抑制された繊維構造物、及びその製造方法を提供することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳述する。
本発明の繊維構造物は、構成繊維の表面がフッ素化されていることを特徴とするものである。
【0014】
構成繊維としては特に限定されないが、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、芳香族ポリアミド繊維、アクリル繊維等の合成繊維、トリアセテート繊維、ジアセテート繊維の半合成繊維、レーヨン等の再生繊維、ウール、絹等の天然繊維などが挙げられる。本発明の繊維構造物は、これらの繊維が混紡、混繊、混織されたものであっても良い。
本発明の繊維構造物の形態も特に限定されないが、織物、編物、不織布、糸、綿状物などが挙げられる。本発明は中でも、織物、編物に対して好適である。
【0015】
本発明の繊維構造物は、あらかじめ染色された繊維構造物(染色繊維構造物)に対して、フッ素化処理を施すことによって製造される。また、必要に応じて、染色繊維構造物に対して、濃色化剤を用いた処理(樹脂加工)等の公知の濃色化処理を施してから、フッ素化処理を施しても良い。
【0016】
繊維構造物を染める色は用途等に応じて、黒、赤、紺、橙、紫、黄、緑、青などから適宜選択される。
染色に際して用いる染料も特に限定されないが、分散染料、酸性染料、含金染料、塩基性染料、スレン染料、反応染料、直接染料、媒染染料などが挙げられる。付着させる染料の濃度は、色や用いる染料等に応じて適宜設計され特に限定されないが、未処理の繊維構造物に対して、例えば、一般に市販されている分散染料の黒色染料では6質量%以上、酸性染料では1質量%以上、赤、橙、黄、緑、青などの染料では0.1質量%以上とされる。
【0017】
染色繊維構造物に対して必要に応じて施される公知の濃色化処理については、「従来の技術」の項で述べたものを採用することができる。
【0018】
染色繊維構造物のフッ素化処理は、フッ素ガスあるいはフッ素ガスを不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、炭酸ガス等)で希釈した混合ガスを被処理物に接触させることにより施すことができる。
用いるガス中のフッ素ガス濃度は特に限定されないが、0.01〜100容量%が好ましい。フッ素ガス濃度が0.01容量%未満では、本発明の目的を達成するに十分な量のフッ素を効率良く導入することが困難となる恐れがある。
フッ素ガスの接触温度も特に限定されないが、−50〜300℃が好ましく、0〜100℃がより好ましい。フッ素ガスの接触時間も特に限定されないが、1秒〜10日が好ましく、1秒〜5時間がより好ましい。
染色繊維構造物にフッ素ガスあるいはフッ素ガスを含む混合ガスを接触させる方法としては特に限定されないが、これらを接触させる反応容器を用いた方法が挙げられる。反応容器としては、気体が漏れないシール機構が付帯しているモネル製、ステンレス製等の容器や、ステンレスにテフロン(登録商標)ライニングが施された容器などが用いられる。また、反応容器内に、未処理の繊維構造物を巻出す機構と処理後の繊維構造物を巻取る機構を有するバッチ式を採用しても良いし、反応容器外に、未処理の繊維構造物を巻出す機構と処理後の繊維構造物を巻取る機構を有する連続式を採用しても良い。
フッ素化処理終了後、繊維構造物に反応残留物やこれに起因する臭気がある場合などには必要に応じて洗浄を行う。洗浄は水やアルカリ溶液等の洗浄液を用いて行うことができ、異なる洗浄液を用いて複数回洗浄を行っても良い。
フッ素化処理によるフッ素導入量(フッ素化処理後の繊維構造物のフッ素含有量)は、フッ素化処理前の繊維構造物に対して0.05質量%以上であることが好ましく、0.3%質量以上であることが特に好ましい。フッ素導入量が0.05質量%未満では、本発明による効果が十分に発現しない恐れがある。
【0019】
以下、ポリエステル織物を取り上げ、本発明の繊維構造物の製造方法の一例について説明する。
はじめに、分散染料等を用い、ポリエステル織物を黒色、赤、ネビー、エンジ等の濃色に染色する。続いて、還元洗浄により表面に残留する染料を除去し、乾燥する。
次に、濃色化剤を用いた濃色化処理を施す。例えば花王製のシュワットを用いた処理が好適である。これは、ポリカルボン酸を含むポリマー溶液とエポキシ架橋剤を含有する処理液を織物に含浸させて乾燥し、さらにシリコーン樹脂を含むカチオン性のウレタン/アクリル系ポリマー溶液を含浸させ、乾燥する2段処理法である。かかる処理により濃色化された繊維構造物のL値は、濃色化処理前に比較して1〜3程度低下し、見た目にも色が濃くなる。
最後に、フッ素ガスやフッ素ガスを含む混合ガスを接触させるフッ素化処理を行い、必要に応じて洗浄を行うことにより、本発明の繊維構造物が製造される。
【0020】
「課題を解決するための手段」の項において詳述したように、本発明によれば、染色繊維構造物あるいは染色繊維構造物に従来の濃色化処理を施したものに対して、フッ素化処理を施す構成を採用しているので、従来技術では得られなかった色の濃さや鮮明さを有し、しかも移行昇華が抑制された繊維構造物及びその製造方法を提供することができる。
なお、移行昇華の問題は、分散染料で染色した繊維構造物、特に、ポリエステル繊維、ジアセテート繊維、トリアセテート繊維等からなる繊維構造物を分散染料で染色した繊維構造物において顕著であったため、移行昇華性の改良という点に着目すれば、本発明は、このような繊維構造物に対して特に有効であると言える。
【0021】
本発明の繊維構造物のL値は特に限定されないが、濃色化、鮮明化の観点から、40以下であることが好ましく、30以下であることが特に好ましい。かかるL値を有する本発明の繊維構造物は、フォーマルウエアや中近東の女性が着用する黒色の民族衣装等として好適に利用できる。また、本発明の繊維構造物を一般のウェア等に利用すれば、色が濃く鮮やかな高い付加価値を持つものが得られる。
【0022】
【実施例】
次に、本発明に係る実施例について説明する。
(評価項目及び評価方法)
各例における評価項目及び評価方法は以下の通りである。
1.色(L値、a、b)の評価:クラボー社製のカラー7Xを用いて測定した。
2.フッ素含有量:分析化学Vol.26,721−723(1977)に記載の方法に基づいて分析した。
3.移行昇華性の評価:
添付布として、ポリエステル白生地上に、厚み50μmの多孔質ウレタン樹脂膜を水凝固法にて形成したものを用いた。
5cm×5cmの大きさの試験布と添付布を用意し、添付布のウレタン樹脂膜面と試験布を重ね合わせた後、これらを一対のガラス板で挟持した。この状態で荷重4.5kgをかけ、130℃の熱風オーブン内に載置し、90分放置した。その後、試験布からウレタン樹脂膜面に移行した染料の程度を汚染用グレースケールで判定した。
【0023】
(実施例1)
<繊維表面処理>
クラレ製ミクロクレーター繊維SN2000からなるジョーゼット織物に対して、液流染色機にて、カセイソーダ溶液を用い100℃で処理することにより、20%減量加工し、繊維表面に多数の微細凹凸を形成した。
<染色処理>
次に、分散染料であるダイアニックスブラックFBFS(ダイスター製)を用い130℃で40分間処理することにより、染料を染色前の織物の質量に対して15%omf付与し、黒色に染色した。その後、常法により還元洗浄を行い、乾燥後、170℃で30秒間セットした。
<濃色化剤による処理>
次に、花王製の濃色化剤を用い2段階の処理を行った。すなわち、1段目処理液を織物に含浸させ、マングルロールでピックアップ70%に絞り、140℃で3分間乾燥した後、170℃で30秒間セットした。さらに、2段目処理液を含浸させ、マングルロールでピックアップ70%に絞り、140℃で3分間乾燥した後、170℃で30秒間セットした。用いた処理液の組成は以下の通りである。
1段目処理液
・シュワットA10(花王製、主成分:ポリカルボン酸) 6質量%
・シュワットN20(花王製、架橋剤) 0.3質量%
2段目処理液
・シュワットTR420(花王製、主成分:ウレタン/アクリル系樹脂) 6質量%
・帯電防止剤TA267(花王製) 1.5質量%
<フッ素化処理>
次に、フッ素化処理を行った。
織物の周囲を金属枠で固定し、これをステンレス製反応容器中に、空中に浮くように固定した。次いで、真空ポンプを用いて反応容器内を脱気し、乾燥窒素ガスを導入した。再度脱気した後、フッ素5容量%、窒素95容量%を含む混合ガスを導入し、織物に20℃で30分間接触させた。最後に、真空ポンプを用いて脱気した後、空気を導入し、反応を終了した。得られた織物のフッ素含有量は1.8質量%であった。
<評価結果>
染色後、濃色化剤による処理後、フッ素化処理後のL値及び移行昇華性を表1に示す。
表1に示すように、濃色化剤による処理を施すことにより、L値は1.5低下し濃色化されるが、さらにフッ素化処理を施すことにより、L値が著しく低下し、黒さが著しく向上した。そして、従来技術では容易に実現できなかった8未満のL値(6.9)を有する色の濃い黒色織物が得られた。
また、フッ素化処理を施すことにより、分散染料の移行昇華が抑制された織物が得られた。
【表1】
【0024】
(実施例2)
<染色処理>
ポリエステル繊維100%からなるツイル織物(目付200g/m2)に対して、分散染料であるカヤロンポリエステルブラックFMFS(日本化薬(株)製)を用い130℃で40分間処理することにより、染料を染色前の織物の質量に対して15%omf付与し、黒色に染色した。その後、常法により還元洗浄を行い、乾燥後、170℃で30秒間セットした。
<濃色化剤による処理>
次に、実施例1と同様にして濃色化剤による処理を行った。
<フッ素化処理>
次に、実施例1と同様にしてフッ素化処理を行った。
得られた織物のフッ素含有量は1.2質量%であった。
<評価結果>
染色後、濃色化剤による処理後、フッ素化処理後のL値及び移行昇華性を表2に示す。
表2に示すように、濃色化剤による処理を施すことにより、L値は1.6低下し濃色化されるが、さらにフッ素化処理を施すことにより、L値が著しく低下し、黒さが著しく向上した。そして、従来技術では容易に実現できなかった8未満のL値(7.1)を有する色の濃い黒色織物が得られた。
また、フッ素化処理を施すことにより、分散染料の移行昇華が抑制された織物が得られた。
【表2】
【0025】
(実施例3)
<染色処理>
トリアセテート繊維100%からなる平織物(目付120g/m2)に対して、分散染料であるダイアニックス・ブラックTAN200%(ダイスター製)を用い110℃で30分間処理することにより、染料を染色前の織物の質量に対して10%omf付与し、黒色に染色した。その後、常法により還元洗浄した。
<濃色化剤による処理>
次に、明成化学製フッ素系濃染剤を用い濃色化処理を行った。すなわち、以下の組成の処理液を織物に含浸させ、マングルロールでピックアップ70%に絞り、140℃で3分間乾燥した後、150℃で30秒間セットした。
処理液
・バソテックスFS(明成化学製、フッ素系濃染剤) 6質量%
・帯電防止剤WF−18(大日本インキ製) 1.5質量%
<フッ素化処理>
次に、実施例1と同様にしてフッ素化処理を行った。但し、フッ素ガスを含む混合ガスの織物への接触時間は40分間とした。得られた織物のフッ素含有量は2.1質量%であった。
<評価結果>
染色後、濃色化剤による処理後、フッ素化処理後のL値及び移行昇華性を表3に示す。
表3に示すように、濃色化剤による処理を施すことにより、L値は0.6低下し僅かに濃色化されるが、さらにフッ素化処理を施すことにより、L値が著しく低下し(黒さが著しく向上し)、色の濃い黒色織物が得られた。
また、フッ素化処理を施すことにより、分散染料の移行昇華が抑制された織物が得られた。
【表3】
【0026】
(実施例4)
<染色処理>
ポリエステル繊維100%からなる短繊維の平織物(目付200g/m2)に対して、分散染料であるダイアニックス レッド KB−SE(ダイスター製)を用い、染料を染色前の織物の質量に対して5%omf付与し、赤色に染色した。
<濃色化剤による処理>
次に、以下の組成の処理液を織物に含浸させ、マングルロールでピックアップ65%に絞り、140℃で3分間乾燥した後、170℃で30秒間セットし、濃色化処理を行った。
処理液
・架橋カチオン性アクリルエマルジョン(大日本インキ製、固形分20質量%、
平均粒子径200nm) 3.5質量%
・東レシリコーンSM8709(東レダウシリコーン製、柔軟剤) 0.5質量%
・酸性リン酸ブチルエステルナトリウム塩20質量%水溶液 1.5質量%
<フッ素化処理>
次に、実施例1と同様にしてフッ素化処理を行った。但し、フッ素ガスを含む混合ガスの織物への接触時間は5分間とした。得られた織物のフッ素含有量は2.1質量%であった。
<評価結果>
染色後、濃色化剤による処理後、フッ素化処理後のL値、a、b及び移行昇華性を表4に示す。
表4に示すように、濃色化剤による処理を施すことにより、L値は低下し、a、bは増加するが、さらにフッ素化処理を施すことにより、L値が大きく低下し、a、bは増加し、色の濃さや彩度が著しく向上した。そして、色が濃く鮮やかな赤色織物が得られた。
また、フッ素化処理を施すことにより、分散染料の移行昇華が抑制された織物が得られた。
【表4】
【0027】
(実施例5)
<染色処理>
ポリアミドの生糸を縦糸、仮撚り糸を横糸に織り込んだスパンライク織物に対して、酸性染料であるイルガラン ネビーB−01(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製)を用い、染料を染色前の織物の質量に対して5%omf付与し、ネビー色に染色した。
<フッ素化処理>
次に、実施例1と同様にしてフッ素化処理を行った。得られた織物のフッ素含有量は1.5質量%であった。
<評価結果>
染色後、フッ素化処理後のL値、a、bを表5に示す。
表5に示すように、フッ素化処理を施すことにより、L値が著しく低下し、色の濃いネビー色織物が得られた。
【表5】
【0028】
(実施例6)
<染色処理>
ウール100%からなる織物に対して、反応染料であるレマゾール ブラック−1(ダイスター製)を用い、染料を染色前の織物の質量に対して15%omf付与し、黒色に染色した。
<フッ素化処理>
次に、実施例1と同様にしてフッ素化処理を行った。得られた織物のフッ素含有量は2.2質量%であった。
<評価結果>
染色後、フッ素化処理後のL値を表6に示す。
表6に示すように、フッ素化処理を施すことにより、L値が著しく低下し、色の濃い黒色織物が得られた。
【表6】
【0029】
(実施例7)
<染色処理>
ノーメックス(デュポン製芳香族ポリアミド繊維)100%からなるツイル織物に対して、塩基性染料であるアイゼンカチオン ブラック SH200%(保土谷化学工業(株)製)を用い、染料を染色前の織物の質量に対して10%omf付与し、黒色に染色した。
<フッ素化処理>
次に、実施例1と同様にしてフッ素化処理を行った。得られた織物のフッ素含有量は1.6質量%であった。
<評価結果>
染色後、フッ素化処理後のL値を表7に示す。
表7に示すように、フッ素化処理を施すことにより、L値が著しく低下し、色の濃い黒色織物が得られた。
【表7】
【0030】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、色の濃さや鮮明性が向上され、しかも移行昇華が抑制された繊維構造物及びその製造方法を提供することができる。
【発明の属する技術分野】
本発明は繊維構造物及びその製造方法に係り、特に、色の濃さや鮮明性が向上され、しかも移行昇華が抑制された繊維構造物及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリエステル繊維、トリアセテート繊維、毛、絹等からなり、黒色に染色され濃色化された濃色繊維構造物は、フォーマルウェアや中近東の黒色の民族衣装などに利用されている。
繊維構造物の濃色化技術は、染色前にあらかじめ特定の処理を施すものと、染色後に特定の処理を施すものに大別される。
【0003】
染色前にあらかじめ特定の処理を施す濃色化技術としては、繊維表面に多数の微細凹凸を形成してから染色する技術が知られており、この技術では、多数の微細凹凸による光吸収を利用して、濃色化を図っている。例えば、ポリエステル繊維の紡糸時にシリカ微粒子などの無機微粒子を添加したものを用いて製織し、得られた繊維構造物に対してカセイソーダを用いた減量加工を施すことにより繊維表面にミクロクレーター状の多数の微細凹凸を形成し、その後黒色に染色することにより、濃い黒色の繊維構造物を得る技術が知られている。
【0004】
染色後に特定の処理を施す濃色化技術としては、繊維表面に低屈折率ポリマーを付着させる技術が知られており、この技術では、低屈折率ポリマーによる光吸収を利用して、濃色化を図っている。以下、濃色化を目的として、繊維構造物に付着させる薬剤を「濃色化剤」と称す。
例えば、繊維表面に屈折率1.45以下のポリマーを付着せる技術(特許文献1)や、繊維表面に、カチオン性のウレタン樹脂の存在下にアクリル樹脂を重合させて得られるエマルジョンを付着させる技術(特許文献2)が知られている。
また、繊維表面に、アニオン性ポリマーを付着させて、水中でのマイナス荷電を増加させ、カチオン性物質の吸着性を高める処理を行った後、さらにカチオン性ポリマーを付着させる技術(特許文献1)や、繊維表面にシリカ微粒子などの無機微粒子を付着させた後、さらにフッ素系撥水剤等のフッ素樹脂やシリコーン樹脂を付着させる技術(特許文献3)など、2段階の付着処理を行う技術も知られている。
また、特許文献4には、三次元架橋されたカチオン性アクリル樹脂エマルジョンと酸性リン酸エステル塩とを含有してなる繊維の色の濃さ(深み)及び鮮明性を改善するための樹脂加工用組成物が開示されている。
さらに、繊維表面に濃色化剤を付着させた後、プラズマ処理により表面をエッチングして多数の微細凹凸を形成する技術も知られている。
【0005】
【特許文献1】
特公昭63−3076号公報
【特許文献2】
特開昭57−139585号公報
【特許文献3】
特公昭61−3943号公報
【特許文献4】
特開平9−302582号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の濃色化技術では、得られる色の濃さや鮮明性に限界があった。
ここで、繊維構造物の色の評価基準として、CIE1976Lab表色系が知られている。この表色系では、L値により色の濃さ(明度)が表され、a,bにより色の種類とその鮮明性が表される。L値は0〜100の範囲で、数値が小さい程色が濃いことを示す。a,bの座標による方向は色相を示す。また、a,bの0点からの距離は彩度を示し、その数値は0であれば無彩色であり、数値が大きい程彩度が大きいことを示す。
以下、本明細書において、L値、a、bは、CIE1976Lab表色系に基づく色データを意味しているものとし、a、bは0点からの距離(彩度)を意味しているものとする。
例えば、ポリエステルの黒染め織物のL値は、織組織や糸の種類(ミクロクレーター繊維等)、糸の太さ等により異なるが、通常11〜20程度の範囲内にあり、上記従来の濃色化技術では、L値8程度の濃色化が限界であった。例外として、繊維が立毛になっているベルベット組織では1桁、例えば5以下の小さいL値が得られることが知られているが、通常の織(編)組織では、このような濃色化は報告されていない。
【0007】
また、ポリエステル繊維、ジアセテート繊維、トリアセテート繊維等からなる繊維構造物では、一般に染料として分散染料が使用されているが、分散染料で染色されたこれらの繊維構造物では、熱、圧力や経時変化などの要因で、分散染料が繊維の外部に移行(ブリードアウト)するいわゆる「移行昇華」(貯蔵中昇華と称されることもある。)が起こりやすく、繊維構造物と接触していた他の白色の繊維構造物やフィルム等に移行汚染を起こすことがあった。この問題は特に、濃色に染色されたものについて顕著であった。
さらに、分散染料で染色された繊維構造物では、他の染料を用いた場合と比べ鮮明性が劣るという問題もあった。
【0008】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、色の濃さや鮮明性が向上され、しかも移行昇華が抑制された繊維構造物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、以下の繊維構造物及びその製造方法を発明した。
本発明の繊維構造物は、構成繊維の表面がフッ素化されていることを特徴とする。ここで、フッ素化処理としては、フッ素ガスを用いた処理が好適である。また、本発明の繊維構造物において、フッ素含有量が、フッ素化処理前の繊維構造物に対して0.05質量%以上であることが好ましい。
本発明の繊維構造物の製造方法は、構成繊維に対して、フッ素ガスを接触させる工程を有することを特徴とする。
なお、本明細書において、フッ素含有量の評価方法については「実施例」の項において説明する。
【0010】
本発明者は、構成繊維に対してフッ素化処理を施すことにより、従来の濃色化技術ではなし得なかった高い濃色化効果が得られることを見出している。そして、従来技術では容易に実現できなかった8未満のL値を有する色の濃い濃色繊維構造物についても簡易に得られることを見出している。また、色の鮮明性についても向上できることを見出している。
本発明は繊維表面にフッ素を導入することにより、光吸収量の増加すなわち濃色化を図ったものである。
なお、「従来の技術」の項において、フッ素系撥水剤等のフッ素樹脂を濃色化剤として用いる技術があることを述べたが(特許文献3参照)、かかる従来技術では本発明の効果は得られない。
すなわち、フッ素樹脂を用いた処理では、他の従来の濃色化技術と同様、L値8程度の濃色化が限界であった。これは、繊維表面にフッ素樹脂を均一に付着させることが困難であること、また、導入できるフッ素量が少なく、屈折率の低下効果が少ないことによるものと推察される。また、高い濃色化効果を得るために、フッ素樹脂(特にフッ素系撥水剤)を通常の使用範囲を超えて大量に付着させると、風合いが硬くなり実用的ではない。これに対して、本発明では、ガスを用いて処理を行うので、繊維表面に均一にフッ素を導入することができると共に、風合いを損なうことなく、導入するフッ素量も大きく確保できる。それ故、簡易な操作で、風合いを損なうことなく、高い濃色化効果、鮮明性向上効果が得られる。
【0011】
さらに、本発明者は、フッ素化処理を施すことにより、移行昇華が著しく抑制され、堅牢度の低下や変色が著しく抑制されることを見出している。
なお、移行昇華の問題は、分散染料で染色した繊維構造物、特に、ポリエステル繊維、ジアセテート繊維、トリアセテート繊維等からなる繊維構造物を分散染料で染色した繊維構造物において顕著であったため、本発明は、このような繊維構造物に対して特に有効である。
フッ素化処理を施すことにより、移行昇華が著しく抑制される理由は必ずしも定かではないが、以下のような理由が想定される。
染料(特に分散染料)は、染色を施す繊維構造物と似た極性を有する。例えば、ポリエステル繊維のSP値(solubility parameter)は10.7であり、分散染料の多くはこれに近い極性を持つ。繊維構造物に対してフッ素化処理を施すと、その極性を大きく変化させることができ、SP値を小さい方向に大きく変化させることができる。その結果、繊維構造物に導入された染料は、極性の異なるバリアー層を拡散しにくくなり、移行昇華が抑制されるものと考えられる。
【0012】
このように、本発明によれば、従来技術では得られなかった色の濃さや鮮明さを有し、しかも移行昇華が抑制された繊維構造物、及びその製造方法を提供することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳述する。
本発明の繊維構造物は、構成繊維の表面がフッ素化されていることを特徴とするものである。
【0014】
構成繊維としては特に限定されないが、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、芳香族ポリアミド繊維、アクリル繊維等の合成繊維、トリアセテート繊維、ジアセテート繊維の半合成繊維、レーヨン等の再生繊維、ウール、絹等の天然繊維などが挙げられる。本発明の繊維構造物は、これらの繊維が混紡、混繊、混織されたものであっても良い。
本発明の繊維構造物の形態も特に限定されないが、織物、編物、不織布、糸、綿状物などが挙げられる。本発明は中でも、織物、編物に対して好適である。
【0015】
本発明の繊維構造物は、あらかじめ染色された繊維構造物(染色繊維構造物)に対して、フッ素化処理を施すことによって製造される。また、必要に応じて、染色繊維構造物に対して、濃色化剤を用いた処理(樹脂加工)等の公知の濃色化処理を施してから、フッ素化処理を施しても良い。
【0016】
繊維構造物を染める色は用途等に応じて、黒、赤、紺、橙、紫、黄、緑、青などから適宜選択される。
染色に際して用いる染料も特に限定されないが、分散染料、酸性染料、含金染料、塩基性染料、スレン染料、反応染料、直接染料、媒染染料などが挙げられる。付着させる染料の濃度は、色や用いる染料等に応じて適宜設計され特に限定されないが、未処理の繊維構造物に対して、例えば、一般に市販されている分散染料の黒色染料では6質量%以上、酸性染料では1質量%以上、赤、橙、黄、緑、青などの染料では0.1質量%以上とされる。
【0017】
染色繊維構造物に対して必要に応じて施される公知の濃色化処理については、「従来の技術」の項で述べたものを採用することができる。
【0018】
染色繊維構造物のフッ素化処理は、フッ素ガスあるいはフッ素ガスを不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、炭酸ガス等)で希釈した混合ガスを被処理物に接触させることにより施すことができる。
用いるガス中のフッ素ガス濃度は特に限定されないが、0.01〜100容量%が好ましい。フッ素ガス濃度が0.01容量%未満では、本発明の目的を達成するに十分な量のフッ素を効率良く導入することが困難となる恐れがある。
フッ素ガスの接触温度も特に限定されないが、−50〜300℃が好ましく、0〜100℃がより好ましい。フッ素ガスの接触時間も特に限定されないが、1秒〜10日が好ましく、1秒〜5時間がより好ましい。
染色繊維構造物にフッ素ガスあるいはフッ素ガスを含む混合ガスを接触させる方法としては特に限定されないが、これらを接触させる反応容器を用いた方法が挙げられる。反応容器としては、気体が漏れないシール機構が付帯しているモネル製、ステンレス製等の容器や、ステンレスにテフロン(登録商標)ライニングが施された容器などが用いられる。また、反応容器内に、未処理の繊維構造物を巻出す機構と処理後の繊維構造物を巻取る機構を有するバッチ式を採用しても良いし、反応容器外に、未処理の繊維構造物を巻出す機構と処理後の繊維構造物を巻取る機構を有する連続式を採用しても良い。
フッ素化処理終了後、繊維構造物に反応残留物やこれに起因する臭気がある場合などには必要に応じて洗浄を行う。洗浄は水やアルカリ溶液等の洗浄液を用いて行うことができ、異なる洗浄液を用いて複数回洗浄を行っても良い。
フッ素化処理によるフッ素導入量(フッ素化処理後の繊維構造物のフッ素含有量)は、フッ素化処理前の繊維構造物に対して0.05質量%以上であることが好ましく、0.3%質量以上であることが特に好ましい。フッ素導入量が0.05質量%未満では、本発明による効果が十分に発現しない恐れがある。
【0019】
以下、ポリエステル織物を取り上げ、本発明の繊維構造物の製造方法の一例について説明する。
はじめに、分散染料等を用い、ポリエステル織物を黒色、赤、ネビー、エンジ等の濃色に染色する。続いて、還元洗浄により表面に残留する染料を除去し、乾燥する。
次に、濃色化剤を用いた濃色化処理を施す。例えば花王製のシュワットを用いた処理が好適である。これは、ポリカルボン酸を含むポリマー溶液とエポキシ架橋剤を含有する処理液を織物に含浸させて乾燥し、さらにシリコーン樹脂を含むカチオン性のウレタン/アクリル系ポリマー溶液を含浸させ、乾燥する2段処理法である。かかる処理により濃色化された繊維構造物のL値は、濃色化処理前に比較して1〜3程度低下し、見た目にも色が濃くなる。
最後に、フッ素ガスやフッ素ガスを含む混合ガスを接触させるフッ素化処理を行い、必要に応じて洗浄を行うことにより、本発明の繊維構造物が製造される。
【0020】
「課題を解決するための手段」の項において詳述したように、本発明によれば、染色繊維構造物あるいは染色繊維構造物に従来の濃色化処理を施したものに対して、フッ素化処理を施す構成を採用しているので、従来技術では得られなかった色の濃さや鮮明さを有し、しかも移行昇華が抑制された繊維構造物及びその製造方法を提供することができる。
なお、移行昇華の問題は、分散染料で染色した繊維構造物、特に、ポリエステル繊維、ジアセテート繊維、トリアセテート繊維等からなる繊維構造物を分散染料で染色した繊維構造物において顕著であったため、移行昇華性の改良という点に着目すれば、本発明は、このような繊維構造物に対して特に有効であると言える。
【0021】
本発明の繊維構造物のL値は特に限定されないが、濃色化、鮮明化の観点から、40以下であることが好ましく、30以下であることが特に好ましい。かかるL値を有する本発明の繊維構造物は、フォーマルウエアや中近東の女性が着用する黒色の民族衣装等として好適に利用できる。また、本発明の繊維構造物を一般のウェア等に利用すれば、色が濃く鮮やかな高い付加価値を持つものが得られる。
【0022】
【実施例】
次に、本発明に係る実施例について説明する。
(評価項目及び評価方法)
各例における評価項目及び評価方法は以下の通りである。
1.色(L値、a、b)の評価:クラボー社製のカラー7Xを用いて測定した。
2.フッ素含有量:分析化学Vol.26,721−723(1977)に記載の方法に基づいて分析した。
3.移行昇華性の評価:
添付布として、ポリエステル白生地上に、厚み50μmの多孔質ウレタン樹脂膜を水凝固法にて形成したものを用いた。
5cm×5cmの大きさの試験布と添付布を用意し、添付布のウレタン樹脂膜面と試験布を重ね合わせた後、これらを一対のガラス板で挟持した。この状態で荷重4.5kgをかけ、130℃の熱風オーブン内に載置し、90分放置した。その後、試験布からウレタン樹脂膜面に移行した染料の程度を汚染用グレースケールで判定した。
【0023】
(実施例1)
<繊維表面処理>
クラレ製ミクロクレーター繊維SN2000からなるジョーゼット織物に対して、液流染色機にて、カセイソーダ溶液を用い100℃で処理することにより、20%減量加工し、繊維表面に多数の微細凹凸を形成した。
<染色処理>
次に、分散染料であるダイアニックスブラックFBFS(ダイスター製)を用い130℃で40分間処理することにより、染料を染色前の織物の質量に対して15%omf付与し、黒色に染色した。その後、常法により還元洗浄を行い、乾燥後、170℃で30秒間セットした。
<濃色化剤による処理>
次に、花王製の濃色化剤を用い2段階の処理を行った。すなわち、1段目処理液を織物に含浸させ、マングルロールでピックアップ70%に絞り、140℃で3分間乾燥した後、170℃で30秒間セットした。さらに、2段目処理液を含浸させ、マングルロールでピックアップ70%に絞り、140℃で3分間乾燥した後、170℃で30秒間セットした。用いた処理液の組成は以下の通りである。
1段目処理液
・シュワットA10(花王製、主成分:ポリカルボン酸) 6質量%
・シュワットN20(花王製、架橋剤) 0.3質量%
2段目処理液
・シュワットTR420(花王製、主成分:ウレタン/アクリル系樹脂) 6質量%
・帯電防止剤TA267(花王製) 1.5質量%
<フッ素化処理>
次に、フッ素化処理を行った。
織物の周囲を金属枠で固定し、これをステンレス製反応容器中に、空中に浮くように固定した。次いで、真空ポンプを用いて反応容器内を脱気し、乾燥窒素ガスを導入した。再度脱気した後、フッ素5容量%、窒素95容量%を含む混合ガスを導入し、織物に20℃で30分間接触させた。最後に、真空ポンプを用いて脱気した後、空気を導入し、反応を終了した。得られた織物のフッ素含有量は1.8質量%であった。
<評価結果>
染色後、濃色化剤による処理後、フッ素化処理後のL値及び移行昇華性を表1に示す。
表1に示すように、濃色化剤による処理を施すことにより、L値は1.5低下し濃色化されるが、さらにフッ素化処理を施すことにより、L値が著しく低下し、黒さが著しく向上した。そして、従来技術では容易に実現できなかった8未満のL値(6.9)を有する色の濃い黒色織物が得られた。
また、フッ素化処理を施すことにより、分散染料の移行昇華が抑制された織物が得られた。
【表1】
【0024】
(実施例2)
<染色処理>
ポリエステル繊維100%からなるツイル織物(目付200g/m2)に対して、分散染料であるカヤロンポリエステルブラックFMFS(日本化薬(株)製)を用い130℃で40分間処理することにより、染料を染色前の織物の質量に対して15%omf付与し、黒色に染色した。その後、常法により還元洗浄を行い、乾燥後、170℃で30秒間セットした。
<濃色化剤による処理>
次に、実施例1と同様にして濃色化剤による処理を行った。
<フッ素化処理>
次に、実施例1と同様にしてフッ素化処理を行った。
得られた織物のフッ素含有量は1.2質量%であった。
<評価結果>
染色後、濃色化剤による処理後、フッ素化処理後のL値及び移行昇華性を表2に示す。
表2に示すように、濃色化剤による処理を施すことにより、L値は1.6低下し濃色化されるが、さらにフッ素化処理を施すことにより、L値が著しく低下し、黒さが著しく向上した。そして、従来技術では容易に実現できなかった8未満のL値(7.1)を有する色の濃い黒色織物が得られた。
また、フッ素化処理を施すことにより、分散染料の移行昇華が抑制された織物が得られた。
【表2】
【0025】
(実施例3)
<染色処理>
トリアセテート繊維100%からなる平織物(目付120g/m2)に対して、分散染料であるダイアニックス・ブラックTAN200%(ダイスター製)を用い110℃で30分間処理することにより、染料を染色前の織物の質量に対して10%omf付与し、黒色に染色した。その後、常法により還元洗浄した。
<濃色化剤による処理>
次に、明成化学製フッ素系濃染剤を用い濃色化処理を行った。すなわち、以下の組成の処理液を織物に含浸させ、マングルロールでピックアップ70%に絞り、140℃で3分間乾燥した後、150℃で30秒間セットした。
処理液
・バソテックスFS(明成化学製、フッ素系濃染剤) 6質量%
・帯電防止剤WF−18(大日本インキ製) 1.5質量%
<フッ素化処理>
次に、実施例1と同様にしてフッ素化処理を行った。但し、フッ素ガスを含む混合ガスの織物への接触時間は40分間とした。得られた織物のフッ素含有量は2.1質量%であった。
<評価結果>
染色後、濃色化剤による処理後、フッ素化処理後のL値及び移行昇華性を表3に示す。
表3に示すように、濃色化剤による処理を施すことにより、L値は0.6低下し僅かに濃色化されるが、さらにフッ素化処理を施すことにより、L値が著しく低下し(黒さが著しく向上し)、色の濃い黒色織物が得られた。
また、フッ素化処理を施すことにより、分散染料の移行昇華が抑制された織物が得られた。
【表3】
【0026】
(実施例4)
<染色処理>
ポリエステル繊維100%からなる短繊維の平織物(目付200g/m2)に対して、分散染料であるダイアニックス レッド KB−SE(ダイスター製)を用い、染料を染色前の織物の質量に対して5%omf付与し、赤色に染色した。
<濃色化剤による処理>
次に、以下の組成の処理液を織物に含浸させ、マングルロールでピックアップ65%に絞り、140℃で3分間乾燥した後、170℃で30秒間セットし、濃色化処理を行った。
処理液
・架橋カチオン性アクリルエマルジョン(大日本インキ製、固形分20質量%、
平均粒子径200nm) 3.5質量%
・東レシリコーンSM8709(東レダウシリコーン製、柔軟剤) 0.5質量%
・酸性リン酸ブチルエステルナトリウム塩20質量%水溶液 1.5質量%
<フッ素化処理>
次に、実施例1と同様にしてフッ素化処理を行った。但し、フッ素ガスを含む混合ガスの織物への接触時間は5分間とした。得られた織物のフッ素含有量は2.1質量%であった。
<評価結果>
染色後、濃色化剤による処理後、フッ素化処理後のL値、a、b及び移行昇華性を表4に示す。
表4に示すように、濃色化剤による処理を施すことにより、L値は低下し、a、bは増加するが、さらにフッ素化処理を施すことにより、L値が大きく低下し、a、bは増加し、色の濃さや彩度が著しく向上した。そして、色が濃く鮮やかな赤色織物が得られた。
また、フッ素化処理を施すことにより、分散染料の移行昇華が抑制された織物が得られた。
【表4】
【0027】
(実施例5)
<染色処理>
ポリアミドの生糸を縦糸、仮撚り糸を横糸に織り込んだスパンライク織物に対して、酸性染料であるイルガラン ネビーB−01(チバスペシャリティーケミカルズ(株)製)を用い、染料を染色前の織物の質量に対して5%omf付与し、ネビー色に染色した。
<フッ素化処理>
次に、実施例1と同様にしてフッ素化処理を行った。得られた織物のフッ素含有量は1.5質量%であった。
<評価結果>
染色後、フッ素化処理後のL値、a、bを表5に示す。
表5に示すように、フッ素化処理を施すことにより、L値が著しく低下し、色の濃いネビー色織物が得られた。
【表5】
【0028】
(実施例6)
<染色処理>
ウール100%からなる織物に対して、反応染料であるレマゾール ブラック−1(ダイスター製)を用い、染料を染色前の織物の質量に対して15%omf付与し、黒色に染色した。
<フッ素化処理>
次に、実施例1と同様にしてフッ素化処理を行った。得られた織物のフッ素含有量は2.2質量%であった。
<評価結果>
染色後、フッ素化処理後のL値を表6に示す。
表6に示すように、フッ素化処理を施すことにより、L値が著しく低下し、色の濃い黒色織物が得られた。
【表6】
【0029】
(実施例7)
<染色処理>
ノーメックス(デュポン製芳香族ポリアミド繊維)100%からなるツイル織物に対して、塩基性染料であるアイゼンカチオン ブラック SH200%(保土谷化学工業(株)製)を用い、染料を染色前の織物の質量に対して10%omf付与し、黒色に染色した。
<フッ素化処理>
次に、実施例1と同様にしてフッ素化処理を行った。得られた織物のフッ素含有量は1.6質量%であった。
<評価結果>
染色後、フッ素化処理後のL値を表7に示す。
表7に示すように、フッ素化処理を施すことにより、L値が著しく低下し、色の濃い黒色織物が得られた。
【表7】
【0030】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、色の濃さや鮮明性が向上され、しかも移行昇華が抑制された繊維構造物及びその製造方法を提供することができる。
Claims (6)
- 構成繊維の表面がフッ素化されていることを特徴とする繊維構造物。
- 構成繊維の表面がフッ素ガスを用いてフッ素化されたものであることを特徴とする請求項1に記載の繊維構造物。
- フッ素含有量が、フッ素化処理前の繊維構造物に対して0.05質量%以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の繊維構造物。
- 分散染料を用いて染色された染色繊維構造物がフッ素化されたものであることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の繊維構造物。
- 構成繊維として、ポリエステル繊維、ジアセテート繊維、トリアセテート繊維のうち少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項4に記載の繊維構造物。
- 構成繊維に対して、フッ素ガスを接触させる工程を有することを特徴とする繊維構造物の製造方法。
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