JP2004132008A - スラブ設計手法及びスラブ - Google Patents
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Abstract
【課題】プレキャストコンクリート板を作成する際に、スラブ厚を薄くすることを考慮に入れてプレキャストコンクリート板の設計をする設計手法を提供する。
【解決手段】プレキャストコンクリート内部にプレストレスを導入して形成したハーフプレキャストコンクリート板を、所定の階に複数個敷き詰めてスラブを形成するためのスラブ設計手法において、ハーフプレキャストコンクリート板を設計する際に、このハーフプレキャストコンクリート板を敷き詰めて生成されたスラブ下端のプレキャストコンクリート部分にひび割れを生じさせないためのプレストレスを導入して長期たわみ倍率を低減し、複数個の前記ハーフプレキャストコンクリート板を敷き詰めて形成されるスラブのスラブ厚を設定するようにしたことである。
【選択図】 図7
【解決手段】プレキャストコンクリート内部にプレストレスを導入して形成したハーフプレキャストコンクリート板を、所定の階に複数個敷き詰めてスラブを形成するためのスラブ設計手法において、ハーフプレキャストコンクリート板を設計する際に、このハーフプレキャストコンクリート板を敷き詰めて生成されたスラブ下端のプレキャストコンクリート部分にひび割れを生じさせないためのプレストレスを導入して長期たわみ倍率を低減し、複数個の前記ハーフプレキャストコンクリート板を敷き詰めて形成されるスラブのスラブ厚を設定するようにしたことである。
【選択図】 図7
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、スラブに関し、詳しくはスラブ厚の厚さを抑制する手法として、ハーフプレキャストコンクリート板を用いた中空床板を含む合成床板のハーフプレキャストコンクリート板部分にプレストレスを導入して、耐久性の向上に加えて、スラブ厚の低減や段差スラブや開口等への対応を考慮して設計自由度を向上させたスラブ設計手法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来技術におけるスラブを形成するための大スパン対応型スラブのハーフプレキャストコンクリート板10は、図9に示すように、主方向下端筋11と直交方向下端筋12とを格子状に組み、その主方向下端筋11に並列状態にプレストレスの複数のPC鋼線13を配設する。そして、直交方向下端筋12の上部に略三角形状の組み立て鉄筋14を整列状態で配設し、組み立て鉄筋14の間の一部にボイドである中空部形成用型枠15を設けるようにして、主方向下端筋11、直交方向下端筋12、PC鋼線13が埋もれる厚さのコンクリートを打設してなる薄肉プレキャストコンクリート板16とから構成されている。
【0003】
このようにして構成されたスラブを形成するハーフプレキャストコンクリート板10は、プレキャストコンクリート部材(薄肉プレキャストコンクリート板16)にプレストレス(PC鋼線13)を導入して、プレキャスト部材のひび割れ抑制による耐久性の向上を図る構造になっている。
【0004】
このハーフプレキャストコンクリート板10は、図10(A)に示すように、長手方向の一方向にプレストレスを導入した状態で、階毎の柱と柱の間の梁又は壁に跨いた状態で順次に配設してスラブ21を形成する。
このように形成されたスラブ21は、図10(B)に示すように、一方向スラブで設計すると、柱寄り又は中央位置での荷重22は平均化するように設計されている。
【0005】
ここで、大スパン対応型のスラブ工法のうち二方向スラブは、▲1▼プレストレス無しでも「あきを考慮した重ね継手」で二方向スラブが成立する。
▲2▼ポストテンション方式のプレストレス(アンボンドを含む)は、現場打ちコンクリートが所要の強度に達した後にストレスを導入する方法がある。
図11に示すものは、現場打ちのポストテンション方式で、壱拾分コンクリートが固まってから緊張させる手法を示したもので、一方向にプレストレスを導入したハーフプレキャストコンクリート板10を柱と柱の間に跨いだ状態で配列した後に、その上部であって、打設するコンクリートの位置にハーフプレキャストコンクリート板10のプレストレス導入方向と直交する方向にプレストレスのPC鋼線22を配設する。
そして、ハーフプレキャストコンクリート板10上部にコンクリートを打設し、このコンクリートが所要の強度に達してからPC鋼線22を緊張させてストレスを導入する。
【0006】
図12に示すものは、段差を有する大スパン対応型スラブのハーフプレキャストコンクリート板10Aを示したものであり、薄肉プレキャストコンクリート板16上部に現場打ちコンクリート25で作成する段差部24の部分に到達しない背が低い組み立て鉄筋25を配設し、段差部24を迂回するように通常高さの組み立て鉄筋14を配設した構造になっている。
そして、薄肉プレキャストコンクリート板16内部にプレストレス用のPC鋼線13を備え、このPC鋼線13は、薄肉プレキャストコンクリート板16内部に配置した構造にしたことにより、段差部24の有無に直接影響しない構造となっている。
【0007】
このような構造の段差部24に対応したプレキャストコンクリート板10Aを利用してスラブを形成するには、図13に示すように、段差部24のある箇所に、この段差部24に対応したプレキャストコンクリート板10Aを敷き詰め(図において2枚のプレキャストコンクリート板)、段差部24がない箇所には、図9に示すプレキャストコンクリート板10を敷き詰めて作成する。
この敷き詰めたプレキャストコンクリート板10A、10のプレストレスは、段差部24に対応したプレキャストコンクリート板10Aにおけるプレストレス力が“α”であるとすると、段差部24の無い箇所に敷き詰めたプレキャストコンクリート板10のプレストレス力は“2分の1・α”以上のプレストレス力にする。
【0008】
このように構成されたスラブに対して、プレキャストコンクリート板10、10Aのプレストレス導入方向と直交する方向に、あきを考慮した重ね継手を適用したり、プレストレス力を加えて、所謂、二方向スラブを形成してもよい。
【0009】
このようにして、プレストレスを導入するためのPC鋼線は、図14(A)に示すように、PC鋼線13の間隔が“a”、実施例において、a≦600mm(600mmはPC鋼線間隔の設計値)である。このような構成からなるプレストレスのPC鋼線が、例えば、図14(B)に示すように、開口部26等に干渉する場合には、PC鋼線13a、13bの間隔の設計値以内でPC鋼線を開口部26等から迂回させるようにして配置する。実施例においては、PC鋼線13bをPC鋼線13aから離れる方向に配置して開口部26に干渉しないようにしている。
【0010】
PC間隔の設計値範囲内において、開口部26を迂回できない場合には、図14(C)に示すように、PC鋼線13c、13d、13e、13fを1本追加して、PC鋼線の間隔を設計値以内にして配置する。
【0011】
次に、二方向スラブを形成する際に、プレキャストコンクリート板のプレストレスに直交する方向のプレストレスの導入は、図14に示すように、敷き詰めたプレキャストコンクリート板10の上部のコンクリートを打設する位置にアンボンドPC鋼線22を配置し、コンクリートを打設した後に、アンボンドPC鋼線22を緊張させ、両端部に抜け止めを介在させて打設したコンクリートにプレストレスを加えるようにする。
このようにして二方向スラブを形成すると、アンボンドPC鋼線22によりスラブに吊り上げ力が発生し、スラブ端部P1、P2におけるひび割れを抑制することができるのである。
【0012】
【特許文献1】
特開2001−164689号公報 (第3頁、図1)
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、中空の有無、プレキャストコンクリートの有無に関わらず鉄筋コンクリート床スラブは、スパンの長大化、バリアフリー対応等に伴い、中空スラブも含んだ鉄筋コンクリート造床スラブの厚さが増大する傾向にある。
このスラブ厚の増大は、建物重量、階高の増大に大きな影響を及ぼし、建設コストの増大の要因になるという不都合が生じている。
【0014】
従って、鉄筋コンクリートのスラブに対して、そのスラブ厚の厚さを抑制する手法、具体的にはハーフプレキャストコンクリート板を設計する段階において、長期たわみ倍率を考慮して、種々の条件を加味させ、スラブ厚の厚さを設計の段階で抑制するスラブ設計手法に解決しなければならない課題を有する。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明に係るスラブ設計手法及びスラブは次に示す構成にすることである。
【0016】
(1)プレキャストコンクリート内部にプレストレスを導入して形成したハーフプレキャストコンクリート板を、所定の階に複数個敷き詰めてスラブを形成するためのスラブ設計手法において、前記ハーフプレキャストコンクリート板を設計する際に、該ハーフプレキャストコンクリート板を敷き詰めて生成されたスラブ下端のプレキャストコンクリート部分にひび割れを生じさせないためのプレストレスを導入して長期たわみ倍率を低減し、複数個の前記ハーフプレキャストコンクリート板を敷き詰めて形成されるスラブのスラブ厚を設定するようにしたことを特徴とするスラブ設計手法。
(2)上記ハーフプレキャストコンクリート板は、プレキャストコンクリート内部に一方向のプレストレスを導入し、スラブを形成するときに該プレキャストコンクリート板のプレストレスと直交する方向にあきを考慮した重ね継手を適用した二方向スラブ構造を含むことを特徴とする(1)に記載のスラブ設計手法。
(3)上記ハーフプレキャストコンクリート板は、プレキャストコンクリート板のプレストレスと直交する方向にポストテンション方式によるプレストレスを導入したニ方向スラブ構造を含むことを特徴とする(1)に記載のスラブ設計手法。
(4)上記プレキャストコンクリート板の設計は、ボイドを設けたボイドスラブを形成するものを含むようにしたことを特徴とする(1)に記載のスラブ設計手法。
(5)上記プレキャストコンクリート板の設計は、段差部に対応したプレキャストコンクリート板を含むようにしたことを特徴とする(1)に記載のスラブ設計手法。
(6)上記段差部に対応したプレキャストコンクリート板は、段差部におけるプレストレスの導入量に対して、段差部以外の部分のプレストレスの導入量を少なくしたことを特徴とする(5)に記載のスラブ設計手法。
(7)上記プレキャストコンクリート板の設計は、プレキャストコンクリート板に開口部分が存在する場合には、その開口部分を迂回するように、プレストレスを形成するPC鋼線の間隔を、所定の上限値を限度として適宜変更するようにしたことを特徴とする(1)に記載のスラブ設計手法。
【0017】
(8)プレキャストコンクリート内部にプレストレスを導入して形成したハーフプレキャストコンクリート板を、所定の階に複数個敷き詰めて形成したスラブであって、前記ハーフプレキャストコンクリート板を設計する際に、該ハーフプレキャストコ
ンクリート板を敷き詰めて生成されたスラブ下端のプレキャストコンクリート部分にひび割れを生じさせないためのプレストレスを導入して長期たわみ倍率を低減し、複数個の前記ハーフプレキャストコンクリート板を敷き詰めてなるスラブのスラブ厚を設定して作成することを特徴とするスラブ。
(9)上記ハーフプレキャストコンクリート板は、プレキャストコンクリート内部に一方向のプレストレスを導入し、スラブを形成するときに該プレキャストコンクリート板のプレストレスと直交する方向にあきを考慮した重ね継手を適用した二方向スラブ構造を含むことを特徴とする(9)に記載のスラブ。
(10)上記ハーフプレキャストコンクリート板は、プレキャストコンクリート板のプレストレスと直交する方向にポストテンション方式によるプレストレスを導入したニ方向スラブ構造を含むことを特徴とする(8)に記載のスラブ。
(11)上記プレキャストコンクリート板を設計する際に、ボイドを設けたボイドスラブを形成するものを含むようにしたことを特徴とする(8)に記載のスラブ。
(12)上記プレキャストコンクリート板を設計する際に、段差部に対応したプレキャストコンクリート板を含むようにしたことを特徴とする(8)に記載のスラブ。
(13)上記段差部に対応したプレキャストコンクリート板は、段差部におけるプレストレスの導入量に対して、段差部以外の部分のプレストレスの導入量を少なくしたことを特徴とする(12)に記載のスラブ。
(14)上記プレキャストコンクリート板を設計する際に、プレキャストコンクリート板に開口部分が存在する場合には、その開口部分を迂回するように、プレストレスを形成するPC鋼線の間隔を、所定の上限値を限度として適宜変更するようにしたことを特徴とする(8)に記載のスラブ。
【0018】
このように、スラブ下端のプレキャストコンクリート部分にひび割れを生じさせないためのプレストレスを導入して長期たわみ倍率を低減し、複数個の前記ハーフプレキャストコンクリート板を敷き詰めてなるスラブのスラブ厚を設定して作成するようにしたことにより、設計自由度を広げることが可能になる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るスラブ設計手法及びスラブに関する実施形態について、図面を参照して説明する。尚、大スパン対応型のスラブ工法、ハーフプレキャストコンクリート板、プレストレス、二方向スラブ、アンボンドPC鋼線等の構成及び構造は、従来技術の項で説明したものと同じであるため、その説明は省略する。
【0020】
本発明に係るスラブは、プレストレスを導入したハーフプレキャストコンクリート板により形成されるものであることを前提として、そのハーフプレキャストコンクリート板を敷設して形成されたスラブ下端部分のプレキャストコンクリート部材のひび割れ抑制による耐久性の向上を図るために、ハーフプレキャストコンクリート板を形成するときの設計手法に種々の改良を加えて作成され、この改良を加えたハーフプレキャストコンクリート板により形成されたスラブを提供するものである。
【0021】
このスラブを形成する本発明に係る大スパン対応型スラブ工法は、次に示す各種の特徴を有し、最終的には設計の段階でスラブ厚の厚さを低減させることができるようになっている。
【0022】
▲1▼スラブ下端のプレキャストコンクリート部分にひび割れを生じさせないことを規定することにより、プレストレスの効果を長期たわみ倍率の低減に反映した、大スパン対応型スラブの構造設計手法、
▲2▼二方向スラブ設計が可能な大スパン対応型スラブ工法及びその構造設計手法、
▲3▼段差有無に影響を受けない大スパン対応型スラブ工法の長期たわみ倍率及びプレストレスの導入方法、
▲4▼段差部のプレストレス導入量に対しそれ以外の部分のプレストレス導入量を低減可能(段差部の2分の1以上)である大スパン対応型スラブ工法、
▲5▼スラブ開口等への対応を容易とした大スパン対応型スラブ工法、
▲6▼ポストテンション方式を用いたプレストレススラブ工法と大スパン対応型スラブ工法の併用。
である。
【0023】
これらの各手法を用いることにより、スラブ厚の厚さの増大を抑制する手段としてハーフプレキャストコンクリート板を用いた合成床板(中空床板を含む)のハーフプレキャストコンクリート板部分にプレストレスを導入する工法である。
このプレキャストコンクリート部材にプレストレスを導入する工法は、一般的な手法であるプレキャスト部材のひび割れ抑制による耐久性の向上がプレキャスト導入の主たる目的であるのに対し、本工法は、耐久性向上の他に、スラブ厚の厚さの低減や段差スラブや開口等への対応を考慮した設計自由度の向上を目的としたものである。以下、[1]長期たわみ試験概要、[2]スラブ設計手法、[3]トータル的なスラブ設計手法、[4]スラブ、の順に説明する。
【0024】
[1]長期たわみ試験概要
始めに、当試験は、プレストレスを導入したハーフプレキャストコンクリート板を用いたボイドスラブの長期たわみ性状を把握するために、ボイドスラブの主方向について長期たわみ実験を行ったもので、特に長期たわみの弾性たわみに対する増大率(以下、長期たわみ倍率という)について試験により、明らかにしたものである。
【0025】
試験体は、表1に示すように、プレストレスの導入量をハーフプレキャストコンクリート板の断面(90mm×1100mm)に対する応力度で4.03N/mm2(4−φ12.7)、2.02N/mm2(2−φ12.7)とした切り欠き部のないボイドスラブを2体(PSL−1、PSL−2)、切り欠き部の周辺補強梁が主方向に直交する場合を一体(PSL−3)とした。
【0026】
【表1】
【0027】
荷重は仕上げと積載荷重の合計を住宅用相当の2.50kN/m2とし、鉄筋量は以下の2つの条件を満たすように決定する。
【0028】
(1)固定端部、中央部の曲げモーメントは、日本建築学会「鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説」に基づく。但し、PSL−3の曲げモーメントは、梁近似計算法による値とし、中央部の曲げモーメントは4分の3倍とする。
(2)固定端部の平均曲げひび割れ幅が、0.2mmの設計限界近傍となる。
積載荷重2.50kN/m2は、固定端部の応力度レベルでは4.4及び5.6N/m2に相当する。
【0029】
各試験体の大きさは、図1に示すように、図内法長さ8500mm、幅1100mmでスラブ厚さは一般部で280mm、段差部では170mmとした。
スラブは、梁幅600mm、梁成1300mmの天端に厚さ90mmのハーフプレキャストコンクリート板をかかり代を零として設置した上に所要の配筋を行い、現場打ちコンクリートを打設し固定端を確保した。尚、梁には厚さ500mmの基礎梁を設け一体とした。
【0030】
この試験体の緒元は、図2に示すように、試験体PSL−1、PSL−2は、13本の鉄筋D13を使用し、スラブ厚170の固定端とし、図に示す計算式により所定のデータを算出する。
【0031】
このように様々な条件下のもとにおける材料試験結果は、表2に示すように、コンクリートの強度を支保工撤去時及び載荷後280日の値で持って示すようになっている。
【0032】
【表2】
【0033】
実際の実験は、積載荷重は鉄筋を束ねて、所要の重量を試験体(PSL−1、PSL−2、PSL−3)上面に載荷して行う。
【0034】
測定はスラブの変位、鉄筋の歪み度及び曲げひび割れ幅について行う。変位の測定のうち自重によるたわみは、ハーフプレキャストコンクリート板を仮設用の支保工上に設置後に測定開始し、現場打ちコンクリートが所要の強度発現後支保工を撤去した時の変位とする。
その後、鉄筋を載荷し長期たわみの測定を開始する。測定期間は、載荷後500日である。
【0035】
このようにして行われた実験結果及びその検討については、表3に示すように、載荷後330日経過した実験結果、及び弾性たわみ計算値及び長期たわみ倍率を算出する。
【0036】
【表3】
【0037】
この表3に示す、長期たわみ倍率の算定に用いる弾性たわみの計算値は、ボイド部及び切り欠き部の各断面を持つ両端固定の一方向梁として求める。弾性たわみ計算値に用いるコンクリートのヤング係数は現場打ちコンクリートの材齢28日の材料試験結果を用いる(表2参照)。
長期たわみ倍率は、載荷直後に“1”より大きくなっている。これは、載荷直後に固定端部に曲げひび割れが発生しているのに対して、計算による弾性たわみは、ひび割れを考慮しない初期剛性による載荷荷重時のたわみとしているためである。
【0038】
このようにして長期たわみ倍率を計算により求め、その各試験体の中央たわみ量は、図3に示すように、切り欠き部があるPSL−3が最も多い。その他の2体は、PSL−1の中央たわみ量がPSL−2より15%程小さい。これは、PSL−1とPSL−2とのプレストレスの導入量の差による。
【0039】
各試験体の鉄筋載荷後330日を経過したまでの長期たわみ倍率の測定結果(表3参照)を、下記に示す式1の近似曲線に当て嵌めて、係数A、B、Cを求め、今後の長期たわみ倍率を推定する。
【0040】
Y=X/(A+BX)+C………式1
【0041】
表4は、この式1の計算値と実験による長期たわみ倍率を、各試験体毎に比較して表したものである。
【0042】
【表4】
【0043】
このようにして得られた長期たわみ倍率の実験値と計算値とを比較すると、試験体PSL−1の場合は、図4に示すように、略200日前後からたわみ倍率が6弱に維持され、長期たわみ倍率の50年以降では6.178となる。
【0044】
試験体PSL−2の場合は、図5に示すように、略200日前後からたわみ倍率が6.5強に維持され、長期たわみ倍率の50年以降では7.150となる。
【0045】
試験体PSL−3の場合は、図6に示すように、略200日前後からたわみ倍率が5.5強に維持され、長期たわみ倍率の50年以降では6.231となる。
【0046】
これらの試験体PSL−1、PSL−2、PSL−3を総合的に比較すると、PSL−1とPSL−2とではプレストレスの導入量の違いにより16%程度の差異がある。PSL−3はプレストレスの導入量がPSL−1と同じで、スラブ構成が小さいにもかかわらずPSL−1とほぼ同じ値となる。
【0047】
以上のことを考察するに、プレストレスを導入したハーフプレキャストコンクリート板を用いたがボイドスラブの長期たわみ倍率の推定値は、プレストレスの導入量やスラブ剛性の違いによる差異が多少見られるが、50年以降の平均では6.48であり、プレストレスのないボイドスラブの実験による推定値(8.3)の4分の3程度であることが理解できる。
【0048】
[2]スラブ設計手法
以上説明した試験により得られた長期たわみ倍率を用いてスラブ厚の厚さを薄くするように設計する手法、即ち、上記▲1▼〜▲6▼の手法について以下説明する。
【0049】
▲1▼スラブ下端のプレキャストコンクリート部分にひび割れを生じさせないことを規定することにより、プレストレスの効果を長期たわみ倍率の低減に反映した、大スパン対応型スラブの構造設計手法である。
この手法の特徴は、導入プレストレス力の効果を、単に耐久性の向上のためだけでなく合成床板の構造設計に用いる長期たわみ倍率に反映した点に特徴がある。このようにしたことにより、従来のスラブ工法に対し、必要なスラブ厚さを低減することができる。
【0050】
この設計手法は、先ず、導入プレストレス力の効果を確認するため、ハーフプレキャストコンクリート板にプレストレスを導入した合成床板の長期たわみ計測実験(約500日)のデータを用いて、弾性たわみに対する長期たわみの増大量(以下、長期たわみ倍率という)を把握する。
実験で中央下端にひび割れが生じていないことに着目し、構造設計において、スラブ下端に生じる曲げモーメントに対してハーフプレキャストコンクリート板部分にひび割れを許容しない規定を加えることで、従来の長期たわみ倍率を3分の2〜2分の1に低減することが可能である。長期たわみ倍率は、スラブ厚決定に最も影響する値であるため、スラブ厚の厚さ低減に大きな効果を発揮するものである。
【0051】
▲2▼二方向スラブ設計が可能な大スパン対応型スラブ工法及びその構造設計手法である。
この手法の特徴は、プレストレスを導入したプレキャストコンクリート板を用いた合成床板の設計手法が一方向スラブ設計であったのに対し、スラブ工法は一方向・二方向の何れのスラブも設計可能な点にある。
このように、二方向スラブ設計が可能となることで、バリアフリーに対応した段差スラブに適した設計が可能となる等、設計の自由度が向上する他、必要スラブ厚さを低減する効果がある。
【0052】
この手法は、従来のプレストレスを導入した合成床板は、プレストレス導入方向のみのスラブ性能を考慮した一方向スラブであり、スラブに段差がある場合やスラブの支持状態によってはプレストレスの導入効果が低減してしまう不都合があった。本工法では、次に述べる点を考慮して二方向スラブ設計を可能とすることで不都合を解消している。
【0053】
前述の長期たわみ計測実験では、応力状態(スラブ端部、中央共に)が二方向スラブよりも厳しい一方向試験体で実施しているため、この実験を基に定められた長期たわみ倍率は、一方向スラブに対し比較的応力状態が小さくなる二方向スラブに用いても設計上問題がない。
【0054】
又、二方向スラブを可能とする工夫として、「プレキャストコンクリート板のプレストレスを直交する方向にあきを考慮した重ね継手」や「ポストテンション方式」を適用して「二方向スラブ」を可能とする。
二方向スラブ設計が可能となったことで、経済的なスラブ厚さで長大スパンに対応できるほか、段差スラブやスラブ周辺の境界条件の変化に対応可能となり、設計の自由度が向上する効果を発揮する。
【0055】
▲3▼段差有無に影響を受けない大スパン対応型スラブ工法の長期たわみ倍率及びプレストレスの導入方法である。
この手法の特徴は、大スパン対応型スラブ工法の長期たわみ倍率が、段差の有無によらず一定の値を用いることができる点、スラブ厚さの5分の1〜2分の1程度の厚さのハーフプレキャストコンクリート板内にプレストレスを導入するため、PC鋼線の配置は段差の有無・位置・範囲等に影響されない点にある。
このようにすることで、段差の有無によらず、一定値の長期たわみ倍率を使用できるため設計の自由度を向上させるという効果を発揮する。
【0056】
この工法は、大スパン対応型スラブ工法の長期たわみ倍率は、前述した段差の有無・導入プレストレス量を変動要因とした試験体を用いた実験結果から設定している。実験の結果、段差を有する試験体の長期たわみ倍率に対し、段差を有する試験体の2分の1のプレストレスを導入した段差の無い試験体の長期たわみ倍率は、15%程度大きくなったが、設計ではこれらの倍率よりも大きな値を設定している。即ち、設計で用いる長期たわみ倍率に余裕があるため、実験結果の15%程度の差異は設計上問題とならない。
【0057】
更に、実験に用いた導入プレストレス量を下限値して設定することで、設計値は実験値を満足し、長期たわみ倍率は段差の有無によらず、一定の値を使用することができる。又、大スパン対応型スラブ工法はスラブ全厚さに対し、2分の1以下の厚さのハーフプレキャストコンクリート板を用いる工法であり、又、このハーフプレキャストコンクリート板部分にプレストレスを導入する工法であることから、現場打ちコンクリート部分で形成される段差の有無・位置・範囲に影響しない。
【0058】
長期たわみ倍率が段差の有無・位置・範囲に左右されないことで、設計業務が簡素化し、構造設計部分のプログラム化が容易となる、ハーフプレキャストコンクリート板部分にプレストレスを導入することで、段差の有無・位置・範囲に制限を設ける必要がなくなり、設計の自由度が向上する効果を発揮する。
【0059】
▲4▼段差部のプレストレス導入量に対しそれ以外の部分のプレストレス導入量を低減可能(段差部の2分の1以上)である大スパン対応型スラブ工法である
この手法の特徴は、段差以外の部分の導入プレストレス量を段差部の2分の1としても、設定した長期たわみ倍率を適用できる点にある。
【0060】
このように、段差以外の部分の導入プレストレスを低減することで、コスト削減に効果を発揮する。
即ち、前述の理由により、段差部以外の部分の導入プレストレス量は、段差部の2分の1まで低減可能となり、コスト削減の効果を発揮することができる。
【0061】
▲5▼スラブ開口等への対応を容易とした大スパン対応型スラブ工法である。
この工法の特徴は、プレストレスの導入方法について、PC鋼線の位置を規定するのではなく、PC鋼線の間隔を規定する点にある。開口等の位置の制限、特別な検討が不要となり、設計の簡略化、自由度の向上に効果を発揮する。
【0062】
従来のプレストレスを導入したスラブは、PC鋼線の平面的な配置位置が決められており、PC鋼線位置とスラブ開口等(スリーブ、電気ボックス、荷揚げ用開口等)が干渉する場合、特別な検討が必要であり開口設置位置も制限される。本工法では、PC鋼線の平面的な配置位置の規定を設けず、必要導入プレストレス量から算出したPC鋼線間隔及び最大間隔のみを規定しているため、PC鋼線とスラブ開口が干渉する場合、規定間隔以内となるようにPC鋼線を移動又は追加することで、PC鋼線とスラブ開口の干渉の回避が可能となり特別な検討が不要となる他、開口位置の制限も不要となる。
【0063】
スラブ工法は、開口等とPC鋼線が干渉しない工法であることから、開口に対する特別な検討は不要で、開口等の位置・数量の制限がないため、設計の簡素化、設計の自由度の向上に効果を発揮する。
【0064】
▲6▼ポストテンション方式を用いたスラブ工法と大スパン対応型スラブ工法の併用である。
この工法の特徴は、大スパン対応型スラブ工法がポストテンション方式を用いたスラブ工法と併用できる点にある。双方のスラブ工法の特徴により、必要スラブ厚・必要鉄筋量の低減、高耐久性化に効果を発揮する。
【0065】
大スパン対応型スラブ工法は、スラブ全厚の5分の1〜2分の1の厚さのハーフプレキャストコンクリート板を用いるため、現場打ちコンクリート部分のみ(ハーフプレキャストコンクリート板のPC鋼線の上面に部分的な切り込みを設ける場合有り)でポストテンション方式を用いたスラブ工法のPC鋼線のケーブルの必要ライズ寸法を確保することが可能となる。これにより、ハーフプレキャストコンクリート部分と現場打ちコンクリート部分に異なる方式のプレストレスが導入できる。
【0066】
ハーフプレキャストコンクリート板を用いたポストテンション方式を用いたスラブ工法は一般的な工法であるが、ハーフプレキャストコンクリート板にプレストレスを導入したことに新規性がある。又、ポストテンション方式のストレスの方向はハーフプレキャストコンクリート板のプレストレスの方向と同方向、直交方向の何れも可能である。
【0067】
ポストテンション方式を用いたスラブ工法と大スパン対応型スラブ工法を併用することで次に示す効果がある。
【0068】
PC鋼線による吊り上げ力でスラブが負担する荷重が減少し、弾性たわみ計算値が減少する。これに、大スパン対応型スラブ工法の長期たわみ倍率を適用することで、必要スラブ厚さを大きく低減することが可能となる。
【0069】
又、大スパン対応型スラブ工法のみの場合、スラブ厚さを低減することで必要鉄筋量が増加する傾向にあるが、ポストテンション方式を用いたスラブ工法を併用することで、スラブが負担する荷重が減少し、必要鉄筋量を低減することが可能となる。
【0070】
更に、双方のスラブ工法を併用することで、スラブ下端のひび割れは大スパン対応型スラブ工法を抑制し、スラブ上端のひび割れはポストテンション方式を用いたスラブ工法が抑制する。これにより、長期的にスラブの各部のひび割れを抑制することが可能になり、スラブの振動障害の回避や耐久性の向上が可能になる。
【0071】
[3]トータル的なスラブ設計手法
このように様々な特徴を有する大スパン対応型スラブのスラブ設計手法をトータル的に採用してスラブ設計をすることにつき、図7に示すフローチャートに基づいて、以下説明する。
【0072】
フローチャートで説明するのに先立ち、本発明のスラブ設計手法は、上記▲1▼〜▲6▼を採用して、設計段階において、応力・変形解析を行って、長期たわみの検討、せん断力の検討、曲げモーメントの検討、面内せん断力の検討、プレキャストコンクリート板のひび割れの検討、現場打ちコンクリート部のヒビ割れの検討、施工時の検討を行う。
【0073】
先ず、スラブの形状を入力するために、スラブ厚、断面形状、コンクリート設計規準強度、鉄筋強度、ボイド型枠を設定する(ステップST11)。
【0074】
次に、荷重条件、スラブ支持条件の設定をする(ステップST12)。
【0075】
これらの諸条件が設定された後において、解析方法を選択する(ステップST13)。ここで、解析方法が一方向解析である場合には、主方向を線材置換する(ステップST14)。
【0076】
ステップST13において、二方向解析を選択した場合には、ボイドスラブの有無を判定し、ボイドスラブ有りの場合には格子梁置換を行う(ステップST15、ST16)。
【0077】
ステップST14及びST16で、主方向を線材置換したもの及び格子梁置換したものは、応力・変形解析がなされる(ステップST18)。
【0078】
この応力・変形解析では、先ず、長期たわみの検討がなされる(ステップST19)。この長期たわみについては、上述した実験結果の資料に基づいて検討がなされる。
【0079】
ステップST15において、ボイドスラブ無しの場合には、スラブ厚さを算定し、長期たわみの検討が行われる(ステップST17)。
【0080】
ステップST19において、長期たわみの検討をした結果、NGの場合は、ステップST11に戻り、再度、スラブ厚、断面形状、コンクリート設計規準強度、鉄筋強度、ボイド型枠の設定を行う。
【0081】
ステップST19において、長期たわみの検討をした結果、OKの場合は、次に、せん断力の検討が行われる(ステップST20)。
【0082】
ステップST19において、せん断力の検討をした結果、NGの場合は、ステップST11に戻り、再度、スラブ厚、断面形状、コンクリート設計規準強度、鉄筋強度、ボイド型枠の設定を行う。
【0083】
ステップST20において、せん断力の検討をした結果、OKの場合は、次に、曲げモーメントの検討を行う(ステップST21)。
【0084】
ステップST21において、曲げモーメントの検討をした結果、NGの場合は、ステップST11に戻り、再度、スラブ厚、断面形状、コンクリート設計規準強度、鉄筋強度、ボイド型枠の設定を行う。
【0085】
ステップST21において、曲げモーメントの検討結果、OKの場合は、次に、面内せん断力の検討を行う(ステップST22)。
【0086】
ステップST22において、面内せん断力を検討した結果、NGの場合は、ステップST11に戻り、再度、スラブ厚、断面形状、コンクリート設計規準強度、鉄筋強度、ボイド型枠の設定を行う。
【0087】
ステップST22において、面内せん断力を検討した結果、OKの場合は、次に、プレキャストコンクリート(PCa)板のひび割れの検討を行う(ステップST23)。
【0088】
ステップST23において、プレキャストコンクリート板のひび割れの検討をした結果、NGの場合は、ステップST11に戻り、再度、スラブ厚、断面形状、コンクリート設計規準強度、鉄筋強度、ボイド型枠の設定を行う。
【0089】
ステップST23において、プレキャストコンクリート板のひび割れの検討をした結果、OKの場合は、次に、施工時の検討に入る(ステップST27)。
【0090】
ステップST23において、プレキャストコンクリート板のひび割れの検討の結果、NGの場合は、ステップST11に戻り、再度、スラブ厚、断面形状、コンクリート設計規準強度、鉄筋強度、ボイド型枠の設定を行う。
【0091】
ステップST23において、プレキャストコンクリート板のひび割れの検討の結果、OKの場合は、次に、現場打ちコンクリート部のひび割れの検討を行う(ステップST24)。
【0092】
現場打ちコンクリート部のひび割れの検討の結果、NGの場合は、次に、ひび割れ幅の検討を行う(ステップST25)。ステップST25において、現場打ちコンクリート部のひび割れの検討の結果、OKの場合は、次に、施工時の検討を行う(ステップST27)。
【0093】
ステップST25において、ひび割れ幅の検討の結果、NGの場合は、次に、配筋の検討を行う(ステップST26)。
【0094】
ステップST26において、配筋の検討の結果、NGの場合は、ステップST11に戻り、再度、スラブ厚、断面形状、コンクリート設計規準強度、鉄筋強度、ボイド型枠の設定を行う。
【0095】
ステップST27において、施工時の検討をした結果、NGの場合は、ステップST11に戻り、再度、スラブ厚、断面形状、コンクリート設計規準強度、鉄筋強度、ボイド型枠の設定を行う。
【0096】
ステップST27において、施工時の検討をした結果、OKの場合は、一連の設計のフローは終了する。
【0097】
[4]スラブ
次に、上記説明した長期たわみ倍率を低減した、スラブについて、図面を参照して説明する。
【0098】
このスラブは、プレキャストコンクリート内部にプレストレスを導入して形成したハーフプレキャストコンクリート板を、所定の階に複数個敷き詰めて形成したものであり、ハーフプレキャストコンクリート板を設計する際に、このハーフプレキャストコンクリート板を敷き詰めて生成されたスラブ下端のプレキャストコンクリート部分にひび割れを生じさせないためのプレストレスを導入して長期たわみ倍率を低減し、複数個のハーフプレキャストコンクリート板を敷き詰めてなるスラブのスラブ厚を設定して作成したものである。
【0099】
このハーフプレキャストコンクリート板は、プレキャストコンクリート内部に一方向のプレストレスを導入し、スラブを形成するときにこのプレキャストコンクリート板のプレストレスと直交する方向にあきを考慮した重ね継手を適用した二方向スラブ構造となっている。
【0100】
重ね継手を適用したニ方向スラブは、図8に示すように、中空スラブ51を形成するものであり、梁間に隣接して敷き並べたプレキャストコンクリート板52同士をボイド型枠53の間に配置した連結筋54で接合し、この連結筋54とプレキャストコンクリート板52の下端筋55とが重ね継手になっている。
この連結筋54は所定の重ね継手長さLにあき寸法L2を加えた長さ、即ち、あき寸法L2以上の長さであるため、伝達可能鉄筋56への引張力の伝達が可能になる。この伝達可能鉄筋56にはボイド型枠53の両側における連結筋54から引張力が伝達されるため、分離した異なる鉄筋同士の間隔が0.2L(L;重ね継手の長さ)且つ150mm以下と規定されている建築基準法の配筋間隔の重ね継手と同じ効果を得ることができる。従って、ボイド型枠53間に上記の長さの連結筋54を配筋すると、隣接したプレキャストコンクリート板52同士が一体となった引張力を円滑に伝達できる中空スラブ51を構築することができる。
【0101】
このハーフプレキャストコンクリート板52は、プレキャストコンクリート板52のプレストレスと直交する方向にポストテンション方式によるプレストレスを導入したニ方向スラブ構造を含む構造になっている。
【0102】
そして、このプレキャストコンクリート板52を設計する際に、ボイドを設けたボイドスラブを形成するものを含むようにし、更に段差部に対応したプレキャストコンクリート板を含む構造になっている。
【0103】
この段差部に対応したプレキャストコンクリート板は、段差部におけるプレストレスの導入量に対して、段差部以外の部分のプレストレスの導入量を少なくする。
【0104】
そして、プレキャストコンクリート板を設計する際に、プレキャストコンクリート板に開口部分が存在する場合には、その開口部分を迂回するように、プレストレスを形成するPC鋼線の間隔を、所定の上限値を限度として適宜変更する。
【0105】
【発明の効果】
上記説明したように、本発明に係るスラブ設計手法及びスラブは、プレストレスを導入したプレキャストコンクリート板を作成するに際し、予め試験により得られている長期たわみ倍率を参酌することにより、プレストレス力のみにかかわらず、スラブ厚の厚さを設計段階で薄く設計することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るプレキャストコンクリート板の試験体の形状及び配筋の組み立て図である。
【図2】同試験体の緒元を一覧表示したものである。
【図3】同試験体の中央たわみ量をグラフに示したものである。
【図4】同試験体のたわみ倍率を示したグラフである。
【図5】同試験体のたわみ倍率を示したグラフである。
【図6】同試験体のたわみ倍率を示したグラフである。
【図7】トータル的なスラブ設計手法を表したフローチャートである。
【図8】本願発明に係る長期たわみ倍率を低減し、あきを考慮した重ね継手を適用したスラブを示す説明図である。
【図9】大スパン対応型スラブのハーフプレキャストコンクリート板の構造を示した説明図である。
【図10】従来のプレストレスを導入したスラブ工法を示した説明図である。
【図11】従来のプレストレスを導入したスラブ工法を示した説明図である。
【図12】段差がある場合の大スパン対応型スラブのハーフプレキャストコンクリート板の構造を示した説明図である。
【図13】段差スラブの導入プレストレス力を示した説明図である。
【図14】プレストレスのPC鋼線の配置関係を示した説明図である。
【図15】アンボンドPC鋼線による大スパン対応型スラブ工法を示した説明図である。
【符号の説明】
10;ハーフプレキャストコンクリート板、11;主方向下端筋、12;直交方向下端筋、13;PC鋼線、14;組み立て鉄筋、15;ボイドスラブ(中空部形成型枠)、16;薄肉プレキャストコンクリート板、21;スラブ、22;PC鋼線、23;抜け板、24;段差部、25;組み立て鉄筋、26;開口部、51;中空スラブ、52;プレキャストコンクリート板、53;ボイド型枠、54;連結筋、55;伝達可能鉄筋、56;伝達可能鉄筋。
【発明の属する技術分野】
本発明は、スラブに関し、詳しくはスラブ厚の厚さを抑制する手法として、ハーフプレキャストコンクリート板を用いた中空床板を含む合成床板のハーフプレキャストコンクリート板部分にプレストレスを導入して、耐久性の向上に加えて、スラブ厚の低減や段差スラブや開口等への対応を考慮して設計自由度を向上させたスラブ設計手法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来技術におけるスラブを形成するための大スパン対応型スラブのハーフプレキャストコンクリート板10は、図9に示すように、主方向下端筋11と直交方向下端筋12とを格子状に組み、その主方向下端筋11に並列状態にプレストレスの複数のPC鋼線13を配設する。そして、直交方向下端筋12の上部に略三角形状の組み立て鉄筋14を整列状態で配設し、組み立て鉄筋14の間の一部にボイドである中空部形成用型枠15を設けるようにして、主方向下端筋11、直交方向下端筋12、PC鋼線13が埋もれる厚さのコンクリートを打設してなる薄肉プレキャストコンクリート板16とから構成されている。
【0003】
このようにして構成されたスラブを形成するハーフプレキャストコンクリート板10は、プレキャストコンクリート部材(薄肉プレキャストコンクリート板16)にプレストレス(PC鋼線13)を導入して、プレキャスト部材のひび割れ抑制による耐久性の向上を図る構造になっている。
【0004】
このハーフプレキャストコンクリート板10は、図10(A)に示すように、長手方向の一方向にプレストレスを導入した状態で、階毎の柱と柱の間の梁又は壁に跨いた状態で順次に配設してスラブ21を形成する。
このように形成されたスラブ21は、図10(B)に示すように、一方向スラブで設計すると、柱寄り又は中央位置での荷重22は平均化するように設計されている。
【0005】
ここで、大スパン対応型のスラブ工法のうち二方向スラブは、▲1▼プレストレス無しでも「あきを考慮した重ね継手」で二方向スラブが成立する。
▲2▼ポストテンション方式のプレストレス(アンボンドを含む)は、現場打ちコンクリートが所要の強度に達した後にストレスを導入する方法がある。
図11に示すものは、現場打ちのポストテンション方式で、壱拾分コンクリートが固まってから緊張させる手法を示したもので、一方向にプレストレスを導入したハーフプレキャストコンクリート板10を柱と柱の間に跨いだ状態で配列した後に、その上部であって、打設するコンクリートの位置にハーフプレキャストコンクリート板10のプレストレス導入方向と直交する方向にプレストレスのPC鋼線22を配設する。
そして、ハーフプレキャストコンクリート板10上部にコンクリートを打設し、このコンクリートが所要の強度に達してからPC鋼線22を緊張させてストレスを導入する。
【0006】
図12に示すものは、段差を有する大スパン対応型スラブのハーフプレキャストコンクリート板10Aを示したものであり、薄肉プレキャストコンクリート板16上部に現場打ちコンクリート25で作成する段差部24の部分に到達しない背が低い組み立て鉄筋25を配設し、段差部24を迂回するように通常高さの組み立て鉄筋14を配設した構造になっている。
そして、薄肉プレキャストコンクリート板16内部にプレストレス用のPC鋼線13を備え、このPC鋼線13は、薄肉プレキャストコンクリート板16内部に配置した構造にしたことにより、段差部24の有無に直接影響しない構造となっている。
【0007】
このような構造の段差部24に対応したプレキャストコンクリート板10Aを利用してスラブを形成するには、図13に示すように、段差部24のある箇所に、この段差部24に対応したプレキャストコンクリート板10Aを敷き詰め(図において2枚のプレキャストコンクリート板)、段差部24がない箇所には、図9に示すプレキャストコンクリート板10を敷き詰めて作成する。
この敷き詰めたプレキャストコンクリート板10A、10のプレストレスは、段差部24に対応したプレキャストコンクリート板10Aにおけるプレストレス力が“α”であるとすると、段差部24の無い箇所に敷き詰めたプレキャストコンクリート板10のプレストレス力は“2分の1・α”以上のプレストレス力にする。
【0008】
このように構成されたスラブに対して、プレキャストコンクリート板10、10Aのプレストレス導入方向と直交する方向に、あきを考慮した重ね継手を適用したり、プレストレス力を加えて、所謂、二方向スラブを形成してもよい。
【0009】
このようにして、プレストレスを導入するためのPC鋼線は、図14(A)に示すように、PC鋼線13の間隔が“a”、実施例において、a≦600mm(600mmはPC鋼線間隔の設計値)である。このような構成からなるプレストレスのPC鋼線が、例えば、図14(B)に示すように、開口部26等に干渉する場合には、PC鋼線13a、13bの間隔の設計値以内でPC鋼線を開口部26等から迂回させるようにして配置する。実施例においては、PC鋼線13bをPC鋼線13aから離れる方向に配置して開口部26に干渉しないようにしている。
【0010】
PC間隔の設計値範囲内において、開口部26を迂回できない場合には、図14(C)に示すように、PC鋼線13c、13d、13e、13fを1本追加して、PC鋼線の間隔を設計値以内にして配置する。
【0011】
次に、二方向スラブを形成する際に、プレキャストコンクリート板のプレストレスに直交する方向のプレストレスの導入は、図14に示すように、敷き詰めたプレキャストコンクリート板10の上部のコンクリートを打設する位置にアンボンドPC鋼線22を配置し、コンクリートを打設した後に、アンボンドPC鋼線22を緊張させ、両端部に抜け止めを介在させて打設したコンクリートにプレストレスを加えるようにする。
このようにして二方向スラブを形成すると、アンボンドPC鋼線22によりスラブに吊り上げ力が発生し、スラブ端部P1、P2におけるひび割れを抑制することができるのである。
【0012】
【特許文献1】
特開2001−164689号公報 (第3頁、図1)
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、中空の有無、プレキャストコンクリートの有無に関わらず鉄筋コンクリート床スラブは、スパンの長大化、バリアフリー対応等に伴い、中空スラブも含んだ鉄筋コンクリート造床スラブの厚さが増大する傾向にある。
このスラブ厚の増大は、建物重量、階高の増大に大きな影響を及ぼし、建設コストの増大の要因になるという不都合が生じている。
【0014】
従って、鉄筋コンクリートのスラブに対して、そのスラブ厚の厚さを抑制する手法、具体的にはハーフプレキャストコンクリート板を設計する段階において、長期たわみ倍率を考慮して、種々の条件を加味させ、スラブ厚の厚さを設計の段階で抑制するスラブ設計手法に解決しなければならない課題を有する。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明に係るスラブ設計手法及びスラブは次に示す構成にすることである。
【0016】
(1)プレキャストコンクリート内部にプレストレスを導入して形成したハーフプレキャストコンクリート板を、所定の階に複数個敷き詰めてスラブを形成するためのスラブ設計手法において、前記ハーフプレキャストコンクリート板を設計する際に、該ハーフプレキャストコンクリート板を敷き詰めて生成されたスラブ下端のプレキャストコンクリート部分にひび割れを生じさせないためのプレストレスを導入して長期たわみ倍率を低減し、複数個の前記ハーフプレキャストコンクリート板を敷き詰めて形成されるスラブのスラブ厚を設定するようにしたことを特徴とするスラブ設計手法。
(2)上記ハーフプレキャストコンクリート板は、プレキャストコンクリート内部に一方向のプレストレスを導入し、スラブを形成するときに該プレキャストコンクリート板のプレストレスと直交する方向にあきを考慮した重ね継手を適用した二方向スラブ構造を含むことを特徴とする(1)に記載のスラブ設計手法。
(3)上記ハーフプレキャストコンクリート板は、プレキャストコンクリート板のプレストレスと直交する方向にポストテンション方式によるプレストレスを導入したニ方向スラブ構造を含むことを特徴とする(1)に記載のスラブ設計手法。
(4)上記プレキャストコンクリート板の設計は、ボイドを設けたボイドスラブを形成するものを含むようにしたことを特徴とする(1)に記載のスラブ設計手法。
(5)上記プレキャストコンクリート板の設計は、段差部に対応したプレキャストコンクリート板を含むようにしたことを特徴とする(1)に記載のスラブ設計手法。
(6)上記段差部に対応したプレキャストコンクリート板は、段差部におけるプレストレスの導入量に対して、段差部以外の部分のプレストレスの導入量を少なくしたことを特徴とする(5)に記載のスラブ設計手法。
(7)上記プレキャストコンクリート板の設計は、プレキャストコンクリート板に開口部分が存在する場合には、その開口部分を迂回するように、プレストレスを形成するPC鋼線の間隔を、所定の上限値を限度として適宜変更するようにしたことを特徴とする(1)に記載のスラブ設計手法。
【0017】
(8)プレキャストコンクリート内部にプレストレスを導入して形成したハーフプレキャストコンクリート板を、所定の階に複数個敷き詰めて形成したスラブであって、前記ハーフプレキャストコンクリート板を設計する際に、該ハーフプレキャストコ
ンクリート板を敷き詰めて生成されたスラブ下端のプレキャストコンクリート部分にひび割れを生じさせないためのプレストレスを導入して長期たわみ倍率を低減し、複数個の前記ハーフプレキャストコンクリート板を敷き詰めてなるスラブのスラブ厚を設定して作成することを特徴とするスラブ。
(9)上記ハーフプレキャストコンクリート板は、プレキャストコンクリート内部に一方向のプレストレスを導入し、スラブを形成するときに該プレキャストコンクリート板のプレストレスと直交する方向にあきを考慮した重ね継手を適用した二方向スラブ構造を含むことを特徴とする(9)に記載のスラブ。
(10)上記ハーフプレキャストコンクリート板は、プレキャストコンクリート板のプレストレスと直交する方向にポストテンション方式によるプレストレスを導入したニ方向スラブ構造を含むことを特徴とする(8)に記載のスラブ。
(11)上記プレキャストコンクリート板を設計する際に、ボイドを設けたボイドスラブを形成するものを含むようにしたことを特徴とする(8)に記載のスラブ。
(12)上記プレキャストコンクリート板を設計する際に、段差部に対応したプレキャストコンクリート板を含むようにしたことを特徴とする(8)に記載のスラブ。
(13)上記段差部に対応したプレキャストコンクリート板は、段差部におけるプレストレスの導入量に対して、段差部以外の部分のプレストレスの導入量を少なくしたことを特徴とする(12)に記載のスラブ。
(14)上記プレキャストコンクリート板を設計する際に、プレキャストコンクリート板に開口部分が存在する場合には、その開口部分を迂回するように、プレストレスを形成するPC鋼線の間隔を、所定の上限値を限度として適宜変更するようにしたことを特徴とする(8)に記載のスラブ。
【0018】
このように、スラブ下端のプレキャストコンクリート部分にひび割れを生じさせないためのプレストレスを導入して長期たわみ倍率を低減し、複数個の前記ハーフプレキャストコンクリート板を敷き詰めてなるスラブのスラブ厚を設定して作成するようにしたことにより、設計自由度を広げることが可能になる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るスラブ設計手法及びスラブに関する実施形態について、図面を参照して説明する。尚、大スパン対応型のスラブ工法、ハーフプレキャストコンクリート板、プレストレス、二方向スラブ、アンボンドPC鋼線等の構成及び構造は、従来技術の項で説明したものと同じであるため、その説明は省略する。
【0020】
本発明に係るスラブは、プレストレスを導入したハーフプレキャストコンクリート板により形成されるものであることを前提として、そのハーフプレキャストコンクリート板を敷設して形成されたスラブ下端部分のプレキャストコンクリート部材のひび割れ抑制による耐久性の向上を図るために、ハーフプレキャストコンクリート板を形成するときの設計手法に種々の改良を加えて作成され、この改良を加えたハーフプレキャストコンクリート板により形成されたスラブを提供するものである。
【0021】
このスラブを形成する本発明に係る大スパン対応型スラブ工法は、次に示す各種の特徴を有し、最終的には設計の段階でスラブ厚の厚さを低減させることができるようになっている。
【0022】
▲1▼スラブ下端のプレキャストコンクリート部分にひび割れを生じさせないことを規定することにより、プレストレスの効果を長期たわみ倍率の低減に反映した、大スパン対応型スラブの構造設計手法、
▲2▼二方向スラブ設計が可能な大スパン対応型スラブ工法及びその構造設計手法、
▲3▼段差有無に影響を受けない大スパン対応型スラブ工法の長期たわみ倍率及びプレストレスの導入方法、
▲4▼段差部のプレストレス導入量に対しそれ以外の部分のプレストレス導入量を低減可能(段差部の2分の1以上)である大スパン対応型スラブ工法、
▲5▼スラブ開口等への対応を容易とした大スパン対応型スラブ工法、
▲6▼ポストテンション方式を用いたプレストレススラブ工法と大スパン対応型スラブ工法の併用。
である。
【0023】
これらの各手法を用いることにより、スラブ厚の厚さの増大を抑制する手段としてハーフプレキャストコンクリート板を用いた合成床板(中空床板を含む)のハーフプレキャストコンクリート板部分にプレストレスを導入する工法である。
このプレキャストコンクリート部材にプレストレスを導入する工法は、一般的な手法であるプレキャスト部材のひび割れ抑制による耐久性の向上がプレキャスト導入の主たる目的であるのに対し、本工法は、耐久性向上の他に、スラブ厚の厚さの低減や段差スラブや開口等への対応を考慮した設計自由度の向上を目的としたものである。以下、[1]長期たわみ試験概要、[2]スラブ設計手法、[3]トータル的なスラブ設計手法、[4]スラブ、の順に説明する。
【0024】
[1]長期たわみ試験概要
始めに、当試験は、プレストレスを導入したハーフプレキャストコンクリート板を用いたボイドスラブの長期たわみ性状を把握するために、ボイドスラブの主方向について長期たわみ実験を行ったもので、特に長期たわみの弾性たわみに対する増大率(以下、長期たわみ倍率という)について試験により、明らかにしたものである。
【0025】
試験体は、表1に示すように、プレストレスの導入量をハーフプレキャストコンクリート板の断面(90mm×1100mm)に対する応力度で4.03N/mm2(4−φ12.7)、2.02N/mm2(2−φ12.7)とした切り欠き部のないボイドスラブを2体(PSL−1、PSL−2)、切り欠き部の周辺補強梁が主方向に直交する場合を一体(PSL−3)とした。
【0026】
【表1】
【0027】
荷重は仕上げと積載荷重の合計を住宅用相当の2.50kN/m2とし、鉄筋量は以下の2つの条件を満たすように決定する。
【0028】
(1)固定端部、中央部の曲げモーメントは、日本建築学会「鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説」に基づく。但し、PSL−3の曲げモーメントは、梁近似計算法による値とし、中央部の曲げモーメントは4分の3倍とする。
(2)固定端部の平均曲げひび割れ幅が、0.2mmの設計限界近傍となる。
積載荷重2.50kN/m2は、固定端部の応力度レベルでは4.4及び5.6N/m2に相当する。
【0029】
各試験体の大きさは、図1に示すように、図内法長さ8500mm、幅1100mmでスラブ厚さは一般部で280mm、段差部では170mmとした。
スラブは、梁幅600mm、梁成1300mmの天端に厚さ90mmのハーフプレキャストコンクリート板をかかり代を零として設置した上に所要の配筋を行い、現場打ちコンクリートを打設し固定端を確保した。尚、梁には厚さ500mmの基礎梁を設け一体とした。
【0030】
この試験体の緒元は、図2に示すように、試験体PSL−1、PSL−2は、13本の鉄筋D13を使用し、スラブ厚170の固定端とし、図に示す計算式により所定のデータを算出する。
【0031】
このように様々な条件下のもとにおける材料試験結果は、表2に示すように、コンクリートの強度を支保工撤去時及び載荷後280日の値で持って示すようになっている。
【0032】
【表2】
【0033】
実際の実験は、積載荷重は鉄筋を束ねて、所要の重量を試験体(PSL−1、PSL−2、PSL−3)上面に載荷して行う。
【0034】
測定はスラブの変位、鉄筋の歪み度及び曲げひび割れ幅について行う。変位の測定のうち自重によるたわみは、ハーフプレキャストコンクリート板を仮設用の支保工上に設置後に測定開始し、現場打ちコンクリートが所要の強度発現後支保工を撤去した時の変位とする。
その後、鉄筋を載荷し長期たわみの測定を開始する。測定期間は、載荷後500日である。
【0035】
このようにして行われた実験結果及びその検討については、表3に示すように、載荷後330日経過した実験結果、及び弾性たわみ計算値及び長期たわみ倍率を算出する。
【0036】
【表3】
【0037】
この表3に示す、長期たわみ倍率の算定に用いる弾性たわみの計算値は、ボイド部及び切り欠き部の各断面を持つ両端固定の一方向梁として求める。弾性たわみ計算値に用いるコンクリートのヤング係数は現場打ちコンクリートの材齢28日の材料試験結果を用いる(表2参照)。
長期たわみ倍率は、載荷直後に“1”より大きくなっている。これは、載荷直後に固定端部に曲げひび割れが発生しているのに対して、計算による弾性たわみは、ひび割れを考慮しない初期剛性による載荷荷重時のたわみとしているためである。
【0038】
このようにして長期たわみ倍率を計算により求め、その各試験体の中央たわみ量は、図3に示すように、切り欠き部があるPSL−3が最も多い。その他の2体は、PSL−1の中央たわみ量がPSL−2より15%程小さい。これは、PSL−1とPSL−2とのプレストレスの導入量の差による。
【0039】
各試験体の鉄筋載荷後330日を経過したまでの長期たわみ倍率の測定結果(表3参照)を、下記に示す式1の近似曲線に当て嵌めて、係数A、B、Cを求め、今後の長期たわみ倍率を推定する。
【0040】
Y=X/(A+BX)+C………式1
【0041】
表4は、この式1の計算値と実験による長期たわみ倍率を、各試験体毎に比較して表したものである。
【0042】
【表4】
【0043】
このようにして得られた長期たわみ倍率の実験値と計算値とを比較すると、試験体PSL−1の場合は、図4に示すように、略200日前後からたわみ倍率が6弱に維持され、長期たわみ倍率の50年以降では6.178となる。
【0044】
試験体PSL−2の場合は、図5に示すように、略200日前後からたわみ倍率が6.5強に維持され、長期たわみ倍率の50年以降では7.150となる。
【0045】
試験体PSL−3の場合は、図6に示すように、略200日前後からたわみ倍率が5.5強に維持され、長期たわみ倍率の50年以降では6.231となる。
【0046】
これらの試験体PSL−1、PSL−2、PSL−3を総合的に比較すると、PSL−1とPSL−2とではプレストレスの導入量の違いにより16%程度の差異がある。PSL−3はプレストレスの導入量がPSL−1と同じで、スラブ構成が小さいにもかかわらずPSL−1とほぼ同じ値となる。
【0047】
以上のことを考察するに、プレストレスを導入したハーフプレキャストコンクリート板を用いたがボイドスラブの長期たわみ倍率の推定値は、プレストレスの導入量やスラブ剛性の違いによる差異が多少見られるが、50年以降の平均では6.48であり、プレストレスのないボイドスラブの実験による推定値(8.3)の4分の3程度であることが理解できる。
【0048】
[2]スラブ設計手法
以上説明した試験により得られた長期たわみ倍率を用いてスラブ厚の厚さを薄くするように設計する手法、即ち、上記▲1▼〜▲6▼の手法について以下説明する。
【0049】
▲1▼スラブ下端のプレキャストコンクリート部分にひび割れを生じさせないことを規定することにより、プレストレスの効果を長期たわみ倍率の低減に反映した、大スパン対応型スラブの構造設計手法である。
この手法の特徴は、導入プレストレス力の効果を、単に耐久性の向上のためだけでなく合成床板の構造設計に用いる長期たわみ倍率に反映した点に特徴がある。このようにしたことにより、従来のスラブ工法に対し、必要なスラブ厚さを低減することができる。
【0050】
この設計手法は、先ず、導入プレストレス力の効果を確認するため、ハーフプレキャストコンクリート板にプレストレスを導入した合成床板の長期たわみ計測実験(約500日)のデータを用いて、弾性たわみに対する長期たわみの増大量(以下、長期たわみ倍率という)を把握する。
実験で中央下端にひび割れが生じていないことに着目し、構造設計において、スラブ下端に生じる曲げモーメントに対してハーフプレキャストコンクリート板部分にひび割れを許容しない規定を加えることで、従来の長期たわみ倍率を3分の2〜2分の1に低減することが可能である。長期たわみ倍率は、スラブ厚決定に最も影響する値であるため、スラブ厚の厚さ低減に大きな効果を発揮するものである。
【0051】
▲2▼二方向スラブ設計が可能な大スパン対応型スラブ工法及びその構造設計手法である。
この手法の特徴は、プレストレスを導入したプレキャストコンクリート板を用いた合成床板の設計手法が一方向スラブ設計であったのに対し、スラブ工法は一方向・二方向の何れのスラブも設計可能な点にある。
このように、二方向スラブ設計が可能となることで、バリアフリーに対応した段差スラブに適した設計が可能となる等、設計の自由度が向上する他、必要スラブ厚さを低減する効果がある。
【0052】
この手法は、従来のプレストレスを導入した合成床板は、プレストレス導入方向のみのスラブ性能を考慮した一方向スラブであり、スラブに段差がある場合やスラブの支持状態によってはプレストレスの導入効果が低減してしまう不都合があった。本工法では、次に述べる点を考慮して二方向スラブ設計を可能とすることで不都合を解消している。
【0053】
前述の長期たわみ計測実験では、応力状態(スラブ端部、中央共に)が二方向スラブよりも厳しい一方向試験体で実施しているため、この実験を基に定められた長期たわみ倍率は、一方向スラブに対し比較的応力状態が小さくなる二方向スラブに用いても設計上問題がない。
【0054】
又、二方向スラブを可能とする工夫として、「プレキャストコンクリート板のプレストレスを直交する方向にあきを考慮した重ね継手」や「ポストテンション方式」を適用して「二方向スラブ」を可能とする。
二方向スラブ設計が可能となったことで、経済的なスラブ厚さで長大スパンに対応できるほか、段差スラブやスラブ周辺の境界条件の変化に対応可能となり、設計の自由度が向上する効果を発揮する。
【0055】
▲3▼段差有無に影響を受けない大スパン対応型スラブ工法の長期たわみ倍率及びプレストレスの導入方法である。
この手法の特徴は、大スパン対応型スラブ工法の長期たわみ倍率が、段差の有無によらず一定の値を用いることができる点、スラブ厚さの5分の1〜2分の1程度の厚さのハーフプレキャストコンクリート板内にプレストレスを導入するため、PC鋼線の配置は段差の有無・位置・範囲等に影響されない点にある。
このようにすることで、段差の有無によらず、一定値の長期たわみ倍率を使用できるため設計の自由度を向上させるという効果を発揮する。
【0056】
この工法は、大スパン対応型スラブ工法の長期たわみ倍率は、前述した段差の有無・導入プレストレス量を変動要因とした試験体を用いた実験結果から設定している。実験の結果、段差を有する試験体の長期たわみ倍率に対し、段差を有する試験体の2分の1のプレストレスを導入した段差の無い試験体の長期たわみ倍率は、15%程度大きくなったが、設計ではこれらの倍率よりも大きな値を設定している。即ち、設計で用いる長期たわみ倍率に余裕があるため、実験結果の15%程度の差異は設計上問題とならない。
【0057】
更に、実験に用いた導入プレストレス量を下限値して設定することで、設計値は実験値を満足し、長期たわみ倍率は段差の有無によらず、一定の値を使用することができる。又、大スパン対応型スラブ工法はスラブ全厚さに対し、2分の1以下の厚さのハーフプレキャストコンクリート板を用いる工法であり、又、このハーフプレキャストコンクリート板部分にプレストレスを導入する工法であることから、現場打ちコンクリート部分で形成される段差の有無・位置・範囲に影響しない。
【0058】
長期たわみ倍率が段差の有無・位置・範囲に左右されないことで、設計業務が簡素化し、構造設計部分のプログラム化が容易となる、ハーフプレキャストコンクリート板部分にプレストレスを導入することで、段差の有無・位置・範囲に制限を設ける必要がなくなり、設計の自由度が向上する効果を発揮する。
【0059】
▲4▼段差部のプレストレス導入量に対しそれ以外の部分のプレストレス導入量を低減可能(段差部の2分の1以上)である大スパン対応型スラブ工法である
この手法の特徴は、段差以外の部分の導入プレストレス量を段差部の2分の1としても、設定した長期たわみ倍率を適用できる点にある。
【0060】
このように、段差以外の部分の導入プレストレスを低減することで、コスト削減に効果を発揮する。
即ち、前述の理由により、段差部以外の部分の導入プレストレス量は、段差部の2分の1まで低減可能となり、コスト削減の効果を発揮することができる。
【0061】
▲5▼スラブ開口等への対応を容易とした大スパン対応型スラブ工法である。
この工法の特徴は、プレストレスの導入方法について、PC鋼線の位置を規定するのではなく、PC鋼線の間隔を規定する点にある。開口等の位置の制限、特別な検討が不要となり、設計の簡略化、自由度の向上に効果を発揮する。
【0062】
従来のプレストレスを導入したスラブは、PC鋼線の平面的な配置位置が決められており、PC鋼線位置とスラブ開口等(スリーブ、電気ボックス、荷揚げ用開口等)が干渉する場合、特別な検討が必要であり開口設置位置も制限される。本工法では、PC鋼線の平面的な配置位置の規定を設けず、必要導入プレストレス量から算出したPC鋼線間隔及び最大間隔のみを規定しているため、PC鋼線とスラブ開口が干渉する場合、規定間隔以内となるようにPC鋼線を移動又は追加することで、PC鋼線とスラブ開口の干渉の回避が可能となり特別な検討が不要となる他、開口位置の制限も不要となる。
【0063】
スラブ工法は、開口等とPC鋼線が干渉しない工法であることから、開口に対する特別な検討は不要で、開口等の位置・数量の制限がないため、設計の簡素化、設計の自由度の向上に効果を発揮する。
【0064】
▲6▼ポストテンション方式を用いたスラブ工法と大スパン対応型スラブ工法の併用である。
この工法の特徴は、大スパン対応型スラブ工法がポストテンション方式を用いたスラブ工法と併用できる点にある。双方のスラブ工法の特徴により、必要スラブ厚・必要鉄筋量の低減、高耐久性化に効果を発揮する。
【0065】
大スパン対応型スラブ工法は、スラブ全厚の5分の1〜2分の1の厚さのハーフプレキャストコンクリート板を用いるため、現場打ちコンクリート部分のみ(ハーフプレキャストコンクリート板のPC鋼線の上面に部分的な切り込みを設ける場合有り)でポストテンション方式を用いたスラブ工法のPC鋼線のケーブルの必要ライズ寸法を確保することが可能となる。これにより、ハーフプレキャストコンクリート部分と現場打ちコンクリート部分に異なる方式のプレストレスが導入できる。
【0066】
ハーフプレキャストコンクリート板を用いたポストテンション方式を用いたスラブ工法は一般的な工法であるが、ハーフプレキャストコンクリート板にプレストレスを導入したことに新規性がある。又、ポストテンション方式のストレスの方向はハーフプレキャストコンクリート板のプレストレスの方向と同方向、直交方向の何れも可能である。
【0067】
ポストテンション方式を用いたスラブ工法と大スパン対応型スラブ工法を併用することで次に示す効果がある。
【0068】
PC鋼線による吊り上げ力でスラブが負担する荷重が減少し、弾性たわみ計算値が減少する。これに、大スパン対応型スラブ工法の長期たわみ倍率を適用することで、必要スラブ厚さを大きく低減することが可能となる。
【0069】
又、大スパン対応型スラブ工法のみの場合、スラブ厚さを低減することで必要鉄筋量が増加する傾向にあるが、ポストテンション方式を用いたスラブ工法を併用することで、スラブが負担する荷重が減少し、必要鉄筋量を低減することが可能となる。
【0070】
更に、双方のスラブ工法を併用することで、スラブ下端のひび割れは大スパン対応型スラブ工法を抑制し、スラブ上端のひび割れはポストテンション方式を用いたスラブ工法が抑制する。これにより、長期的にスラブの各部のひび割れを抑制することが可能になり、スラブの振動障害の回避や耐久性の向上が可能になる。
【0071】
[3]トータル的なスラブ設計手法
このように様々な特徴を有する大スパン対応型スラブのスラブ設計手法をトータル的に採用してスラブ設計をすることにつき、図7に示すフローチャートに基づいて、以下説明する。
【0072】
フローチャートで説明するのに先立ち、本発明のスラブ設計手法は、上記▲1▼〜▲6▼を採用して、設計段階において、応力・変形解析を行って、長期たわみの検討、せん断力の検討、曲げモーメントの検討、面内せん断力の検討、プレキャストコンクリート板のひび割れの検討、現場打ちコンクリート部のヒビ割れの検討、施工時の検討を行う。
【0073】
先ず、スラブの形状を入力するために、スラブ厚、断面形状、コンクリート設計規準強度、鉄筋強度、ボイド型枠を設定する(ステップST11)。
【0074】
次に、荷重条件、スラブ支持条件の設定をする(ステップST12)。
【0075】
これらの諸条件が設定された後において、解析方法を選択する(ステップST13)。ここで、解析方法が一方向解析である場合には、主方向を線材置換する(ステップST14)。
【0076】
ステップST13において、二方向解析を選択した場合には、ボイドスラブの有無を判定し、ボイドスラブ有りの場合には格子梁置換を行う(ステップST15、ST16)。
【0077】
ステップST14及びST16で、主方向を線材置換したもの及び格子梁置換したものは、応力・変形解析がなされる(ステップST18)。
【0078】
この応力・変形解析では、先ず、長期たわみの検討がなされる(ステップST19)。この長期たわみについては、上述した実験結果の資料に基づいて検討がなされる。
【0079】
ステップST15において、ボイドスラブ無しの場合には、スラブ厚さを算定し、長期たわみの検討が行われる(ステップST17)。
【0080】
ステップST19において、長期たわみの検討をした結果、NGの場合は、ステップST11に戻り、再度、スラブ厚、断面形状、コンクリート設計規準強度、鉄筋強度、ボイド型枠の設定を行う。
【0081】
ステップST19において、長期たわみの検討をした結果、OKの場合は、次に、せん断力の検討が行われる(ステップST20)。
【0082】
ステップST19において、せん断力の検討をした結果、NGの場合は、ステップST11に戻り、再度、スラブ厚、断面形状、コンクリート設計規準強度、鉄筋強度、ボイド型枠の設定を行う。
【0083】
ステップST20において、せん断力の検討をした結果、OKの場合は、次に、曲げモーメントの検討を行う(ステップST21)。
【0084】
ステップST21において、曲げモーメントの検討をした結果、NGの場合は、ステップST11に戻り、再度、スラブ厚、断面形状、コンクリート設計規準強度、鉄筋強度、ボイド型枠の設定を行う。
【0085】
ステップST21において、曲げモーメントの検討結果、OKの場合は、次に、面内せん断力の検討を行う(ステップST22)。
【0086】
ステップST22において、面内せん断力を検討した結果、NGの場合は、ステップST11に戻り、再度、スラブ厚、断面形状、コンクリート設計規準強度、鉄筋強度、ボイド型枠の設定を行う。
【0087】
ステップST22において、面内せん断力を検討した結果、OKの場合は、次に、プレキャストコンクリート(PCa)板のひび割れの検討を行う(ステップST23)。
【0088】
ステップST23において、プレキャストコンクリート板のひび割れの検討をした結果、NGの場合は、ステップST11に戻り、再度、スラブ厚、断面形状、コンクリート設計規準強度、鉄筋強度、ボイド型枠の設定を行う。
【0089】
ステップST23において、プレキャストコンクリート板のひび割れの検討をした結果、OKの場合は、次に、施工時の検討に入る(ステップST27)。
【0090】
ステップST23において、プレキャストコンクリート板のひび割れの検討の結果、NGの場合は、ステップST11に戻り、再度、スラブ厚、断面形状、コンクリート設計規準強度、鉄筋強度、ボイド型枠の設定を行う。
【0091】
ステップST23において、プレキャストコンクリート板のひび割れの検討の結果、OKの場合は、次に、現場打ちコンクリート部のひび割れの検討を行う(ステップST24)。
【0092】
現場打ちコンクリート部のひび割れの検討の結果、NGの場合は、次に、ひび割れ幅の検討を行う(ステップST25)。ステップST25において、現場打ちコンクリート部のひび割れの検討の結果、OKの場合は、次に、施工時の検討を行う(ステップST27)。
【0093】
ステップST25において、ひび割れ幅の検討の結果、NGの場合は、次に、配筋の検討を行う(ステップST26)。
【0094】
ステップST26において、配筋の検討の結果、NGの場合は、ステップST11に戻り、再度、スラブ厚、断面形状、コンクリート設計規準強度、鉄筋強度、ボイド型枠の設定を行う。
【0095】
ステップST27において、施工時の検討をした結果、NGの場合は、ステップST11に戻り、再度、スラブ厚、断面形状、コンクリート設計規準強度、鉄筋強度、ボイド型枠の設定を行う。
【0096】
ステップST27において、施工時の検討をした結果、OKの場合は、一連の設計のフローは終了する。
【0097】
[4]スラブ
次に、上記説明した長期たわみ倍率を低減した、スラブについて、図面を参照して説明する。
【0098】
このスラブは、プレキャストコンクリート内部にプレストレスを導入して形成したハーフプレキャストコンクリート板を、所定の階に複数個敷き詰めて形成したものであり、ハーフプレキャストコンクリート板を設計する際に、このハーフプレキャストコンクリート板を敷き詰めて生成されたスラブ下端のプレキャストコンクリート部分にひび割れを生じさせないためのプレストレスを導入して長期たわみ倍率を低減し、複数個のハーフプレキャストコンクリート板を敷き詰めてなるスラブのスラブ厚を設定して作成したものである。
【0099】
このハーフプレキャストコンクリート板は、プレキャストコンクリート内部に一方向のプレストレスを導入し、スラブを形成するときにこのプレキャストコンクリート板のプレストレスと直交する方向にあきを考慮した重ね継手を適用した二方向スラブ構造となっている。
【0100】
重ね継手を適用したニ方向スラブは、図8に示すように、中空スラブ51を形成するものであり、梁間に隣接して敷き並べたプレキャストコンクリート板52同士をボイド型枠53の間に配置した連結筋54で接合し、この連結筋54とプレキャストコンクリート板52の下端筋55とが重ね継手になっている。
この連結筋54は所定の重ね継手長さLにあき寸法L2を加えた長さ、即ち、あき寸法L2以上の長さであるため、伝達可能鉄筋56への引張力の伝達が可能になる。この伝達可能鉄筋56にはボイド型枠53の両側における連結筋54から引張力が伝達されるため、分離した異なる鉄筋同士の間隔が0.2L(L;重ね継手の長さ)且つ150mm以下と規定されている建築基準法の配筋間隔の重ね継手と同じ効果を得ることができる。従って、ボイド型枠53間に上記の長さの連結筋54を配筋すると、隣接したプレキャストコンクリート板52同士が一体となった引張力を円滑に伝達できる中空スラブ51を構築することができる。
【0101】
このハーフプレキャストコンクリート板52は、プレキャストコンクリート板52のプレストレスと直交する方向にポストテンション方式によるプレストレスを導入したニ方向スラブ構造を含む構造になっている。
【0102】
そして、このプレキャストコンクリート板52を設計する際に、ボイドを設けたボイドスラブを形成するものを含むようにし、更に段差部に対応したプレキャストコンクリート板を含む構造になっている。
【0103】
この段差部に対応したプレキャストコンクリート板は、段差部におけるプレストレスの導入量に対して、段差部以外の部分のプレストレスの導入量を少なくする。
【0104】
そして、プレキャストコンクリート板を設計する際に、プレキャストコンクリート板に開口部分が存在する場合には、その開口部分を迂回するように、プレストレスを形成するPC鋼線の間隔を、所定の上限値を限度として適宜変更する。
【0105】
【発明の効果】
上記説明したように、本発明に係るスラブ設計手法及びスラブは、プレストレスを導入したプレキャストコンクリート板を作成するに際し、予め試験により得られている長期たわみ倍率を参酌することにより、プレストレス力のみにかかわらず、スラブ厚の厚さを設計段階で薄く設計することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るプレキャストコンクリート板の試験体の形状及び配筋の組み立て図である。
【図2】同試験体の緒元を一覧表示したものである。
【図3】同試験体の中央たわみ量をグラフに示したものである。
【図4】同試験体のたわみ倍率を示したグラフである。
【図5】同試験体のたわみ倍率を示したグラフである。
【図6】同試験体のたわみ倍率を示したグラフである。
【図7】トータル的なスラブ設計手法を表したフローチャートである。
【図8】本願発明に係る長期たわみ倍率を低減し、あきを考慮した重ね継手を適用したスラブを示す説明図である。
【図9】大スパン対応型スラブのハーフプレキャストコンクリート板の構造を示した説明図である。
【図10】従来のプレストレスを導入したスラブ工法を示した説明図である。
【図11】従来のプレストレスを導入したスラブ工法を示した説明図である。
【図12】段差がある場合の大スパン対応型スラブのハーフプレキャストコンクリート板の構造を示した説明図である。
【図13】段差スラブの導入プレストレス力を示した説明図である。
【図14】プレストレスのPC鋼線の配置関係を示した説明図である。
【図15】アンボンドPC鋼線による大スパン対応型スラブ工法を示した説明図である。
【符号の説明】
10;ハーフプレキャストコンクリート板、11;主方向下端筋、12;直交方向下端筋、13;PC鋼線、14;組み立て鉄筋、15;ボイドスラブ(中空部形成型枠)、16;薄肉プレキャストコンクリート板、21;スラブ、22;PC鋼線、23;抜け板、24;段差部、25;組み立て鉄筋、26;開口部、51;中空スラブ、52;プレキャストコンクリート板、53;ボイド型枠、54;連結筋、55;伝達可能鉄筋、56;伝達可能鉄筋。
Claims (14)
- プレキャストコンクリート内部にプレストレスを導入して形成したハーフプレキャストコンクリート板を、所定の階に複数個敷き詰めてスラブを形成するためのスラブ設計手法において、
前記ハーフプレキャストコンクリート板を設計する際に、該ハーフプレキャストコンクリート板を敷き詰めて生成されたスラブ下端のプレキャストコンクリート部分にひび割れを生じさせないためのプレストレスを導入して長期たわみ倍率を低減し、複数個の前記ハーフプレキャストコンクリート板を敷き詰めて形成されるスラブのスラブ厚を設定するようにしたことを特徴とするスラブ設計手法。 - 上記ハーフプレキャストコンクリート板は、プレキャストコンクリート内部に一方向のプレストレスを導入し、スラブを形成するときに該プレキャストコンクリート板のプレストレスと直交する方向にあきを考慮した重ね継手を適用した二方向スラブ構造を含むことを特徴とする請求項1に記載のスラブ設計手法。
- 上記ハーフプレキャストコンクリート板は、プレキャストコンクリート板のプレストレスと直交する方向にポストテンション方式によるプレストレスを導入したニ方向スラブ構造を含むことを特徴とする請求項1に記載のスラブ設計手法。
- 上記プレキャストコンクリート板の設計は、ボイドを設けたボイドスラブを形成するものを含むようにしたことを特徴とする請求項1に記載のスラブ設計手法。
- 上記プレキャストコンクリート板の設計は、段差部に対応したプレキャストコンクリート板を含むようにしたことを特徴とする請求項1に記載のスラブ設計手法。
- 上記段差部に対応したプレキャストコンクリート板は、段差部におけるプレストレスの導入量に対して、段差部以外の部分のプレストレスの導入量を少なくしたことを特徴とする請求項5に記載のスラブ設計手法。
- 上記プレキャストコンクリート板の設計は、プレキャストコンクリート板に開口部分が存在する場合には、その開口部分を迂回するように、プレストレスを形成するPC鋼線の間隔を、所定の上限値を限度として適宜変更するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のスラブ設計手法。
- プレキャストコンクリート内部にプレストレスを導入して形成したハーフプレキャストコンクリート板を、所定の階に複数個敷き詰めて形成したスラブであって、
前記ハーフプレキャストコンクリート板を設計する際に、該ハーフプレキャストコンクリート板を敷き詰めて生成されたスラブ下端のプレキャストコンクリート部分にひび割れを生じさせないためのプレストレスを導入して長期たわみ倍率を低減し、複数個の前記ハーフプレキャストコンクリート板を敷き詰めてなるスラブのスラブ厚を設定して作成することを特徴とするスラブ。 - 上記ハーフプレキャストコンクリート板は、プレキャストコンクリート内部に一方向のプレストレスを導入し、スラブを形成するときに該プレキャストコンクリート板のプレストレスと直交する方向にあきを考慮した重ね継手を適用した二方向スラブ構造を含むことを特徴とする請求項8に記載のスラブ。
- 上記ハーフプレキャストコンクリート板は、プレキャストコンクリート板のプレストレスと直交する方向にポストテンション方式によるプレストレスを導入したニ方向スラブ構造を含むことを特徴とする請求項8に記載のスラブ。
- 上記プレキャストコンクリート板を設計する際に、ボイドを設けたボイドスラブを形成するものを含むようにしたことを特徴とする請求項8に記載のスラブ。
- 上記プレキャストコンクリート板を設計する際に、段差部に対応したプレキャストコンクリート板を含むようにしたことを特徴とする請求項8に記載のスラブ。
- 上記段差部に対応したプレキャストコンクリート板は、段差部におけるプレストレスの導入量に対して、段差部以外の部分のプレストレスの導入量を少なくしたことを特徴とする請求項12に記載のスラブ。
- 上記プレキャストコンクリート板を設計する際に、プレキャストコンクリート板に開口部分が存在する場合には、その開口部分を迂回するように、プレストレスを形成するPC鋼線の間隔を、所定の上限値を限度として適宜変更するようにしたことを特徴とする請求項8に記載のスラブ。
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