JP2004125639A - 多重ガンマ線検出法と放射化分析を組み合わせた新微量分析法において検出器の不感時間を補正する方法 - Google Patents

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Atsushi Kimura
木村 敦
Nobusuke Fuji
藤 暢輔
Masumi Oshima
大島 真澄
Yuichi Hatsukawa
初川 雄一
Mitsuo Koizumi
小泉 光生
Akihiko Cho
長 明彦
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Abstract

【課題】従来、多重ガンマ線分析法においては、その特性上、測定装置が実際に作動していた時間を正確に知ることは非常に困難であり、これが原因で測定精度に誤差が生じていた。
【解決手段】本発明は、多重ガンマ線を出す線源を試料と同時に測定することによりこれらの検出器の不感時間を補正し、検出精度を向上させるものである。多重ガンマ線分析法において強度がわかっておりかつ多重ガンマ線を出す線源を一緒に測定する。線源からの多重ガンマ線は、試料からの多重ガンマ線と同じく検出器の不感時間の間は測定されない。つまり、線源からの多重ガンマ線のカウント数は検出器が動作していた時間に比例しており、これを用いて不感時間の補正を行う。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、最近開発された、多重ガンマ線検出法と放射化分析を組み合わせた新微量分析法(多重ガンマ線分析法)の分析精度を向上させる手法である。
【0002】
多重ガンマ線分析法は、一部の原子核が複数のガンマ線を同時に出していることに着目し、原子核科学の分野で利用される多重ガンマ線解析技術と微量分析の分野で用いられる放射化分析技術を組み合わせてガンマ線の同時計数を行うことにより、従来の放射化分析では考えられない高分解能の分析が可能になる測定法である。
【0003】
しかし、この多重ガンマ線分析法においては、複数の検出器からの同時計数を取る必要がある点や、ガンマ線を一本しか出さない反応が多数あるなどの理由により、検出器が動作している本当の時間を求めることは非常に困難である。
【0004】
本発明は、多重ガンマ線を出す線源を同時に測定することによりこれらの検出器の不感時間を補正し、検出精度を向上させる手法である。
【0005】
【従来の技術】
多重ガンマ線分析法は、一部の原子核が複数のガンマ線を同時に出していることに着目して、多数のガンマ線検出器を用い多重ガンマ線の同時測定を行うことにより、微量元素の分析感度を飛躍的に向上させる新しい測定法である。
【0006】
例えば、2本のガンマ線の同時計測をする場合、図1にあるように、試料中の原子核から放出された2本の即発ガンマ線を2台以上の検出器で同時測定し、得られた2個のガンマ線のエネルギーを縦軸、横軸とするマトリックス上に記述する。このとき、即発ガンマ線のエネルギーの位置にある同時計数のカウント数(強度)が求める元素の量に比例することになる。こうすることにより、従来の1次元スペクトルが2次元方向に引き伸ばされることになる。偶然に同時計数となってしまったものは、すべてのエネルギーに一様に出るため、ノイズの値が数カウント以下にまで低減され、微弱な信号まで検出することができる。
【0007】
しかし、多数のガンマ線検出器を用いて同時計数を取ることは、同時計数の判定にある程度の時間が必要であることや、多数のガンマ線を一本しか出さない反応を除外する必要があるなどの理由により、測定を行っていない時間(不感時間)が存在する。この時間は、対象となるガンマ線のエネルギーやそのほかの核種からのガンマ線の強度、ガンマ線全体に対する多重ガンマ線の割合に複雑に依存する。このため、測定装置が実際に作動していた時間を正確に知ることは非常に困難であり、これが原因で測定精度に誤差が生じ、その大きさは条件により数10%に達する。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記に示したように、多重ガンマ線分析法においては、その特性上、測定装置が実際に作動していた時間を正確に知ることは非常に困難であり、これが原因で測定精度に誤差が生じていた。そこで、本発明は、多重ガンマ線を出す線源を試料と同時に測定することによりこれらの検出器の不感時間を補正し、検出精度を向上させるものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、多重ガンマ線分析法において、多重ガンマ線を出す線源を同時に測定することにより、これらの検出器の不感時間を補正して検出精度を向上させる手法である。
【0010】
具体的には、多重ガンマ線分析法において強度がわかっており、かつ多重ガンマ線を出す線源を一緒に測定する。線源からの多重ガンマ線は、試料からの多重ガンマ線と同じく検出器の不感時間の間は測定されない。例えば、不感時間が10%であったとするならば、試料の測定結果と線源からのカウント数の両方とも同じ影響を受けるため、おのおの10%程度その値を減らすことになる。つまり、線源からの多重ガンマ線のカウント数は、検出器が作動していた時間に比例しており、測定に際して測定時間の代りに線源からのカウント数を利用することにより、不感時間の影響を低減することができることになる。
【0011】
一般の放射化分析でも不感時間の問題が発生するが、1次元のスペクトルを形成するだけなので、線源を同時に測定することによりノイズが増加し分析精度が悪化してしまい本手法をとることは非常に困難である。しかし、多重ガンマ線分析においては、1次元スペクトルが2次元方向に引き伸ばされることになり、線源を追加したことによるノイズ成分の増加を大幅に抑えることができる。
【0012】
即ち、本発明においては、多重ガンマ線分析法において、
放射化された測定又は標準試料を多数のガンマ線検出器で取囲むように配置し、その試料とともに、強度が分かっており且つ多重ガンマ線を出す線源を同時に測定することにより、
前記線源からの多重ガンマ線が試料からの多重ガンマ線とともに検出器に測定されること、及び前記線源からの多重ガンマ線のカウント数が検出器の作動していた時間に比例していることに基づいて、
検出器が作動していた時間を検知し、ガンマ線を一本しか出さない核種からの影響を排除して検出精度を向上させる方法である。
【0013】
なお、その際には、測定したい元素を含み、その量がわかっている標準試料を測定対象の試料と同時に放射化し、その標準試料の元素からのガンマ線と測定対象の試料の元素からのガンマ線との強度の比較を行う際に、放射化された両試料を、各々別個に、131Baのような多重ガンマ線を出す元素を線源とともに多重ガンマ線測定が行われる。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明は、測定したい元素を含み、その量がわかっている標準試料を測定対象の試料と同時に放射化し、標準試料の元素からのガンマ線と測定対象の試料の元素からのガンマ線の強度の比較を行う比較法で用いる。最初に、分析したい試料と対象となる元素を含む標準試料とを原子炉などを用いて同一の条件で放射化する。その後、放射化した試料と標準試料の両方について、おのおの、131Baのような多重ガンマ線を出す線源とともに多重ガンマ線測定を行う。その際、標準試料と測定試料と同時に測定する線源は同じものが使用される。
【0015】
このとき、測定対象の試料中で生成された放射性核種Yは以下の式で表される。
【0016】
【数1】
Figure 2004125639
【0017】
:試料中に含まれる対象原子核の重さ(g)
M:対象原子核の質量数
f:放射化に使用する中性子束密度(cm−2・s−1
σ:測定対象原子核の中性子吸収断面積(cm
λ:測定対象原子核の壊変定数(s−1
T:照射時間(s)
同様に、標準試料中で生成された放射性核種Yは、同一条件で照射していることから、標準試料に含まれる測定対象原子核の重量Nを用いて以下の式で表される。
【0018】
【数2】
Figure 2004125639
【0019】
(1)、(2)より以下の式が得られる。
【0020】
【数3】
Figure 2004125639
【0021】
ここで、多重ガンマ線測定装置で検出される測定対象の試料からの測定対象元素のカウント数Xは以下の式で表される。
【0022】
【数4】
Figure 2004125639
【0023】
(t):試料と線源を同時に測定する場合の検出効率
(不感時間の影響を含む)
:照射終了時から測定を行うまでの時間(s)
:測定時間
また、同時に測定する線源からの多重ガンマ線のカウント数Bは、検出効率が同じになることを考慮すると以下の式で表される。
【0024】
【数5】
Figure 2004125639
【0025】
:照射終了時の線源の強さ(Bq)
λ:線源に利用している核種の壊変定数(s−1
(4),(5)より、
【0026】
【数6】
Figure 2004125639
【0027】
となる。ここで、測定中に試料全体のガンマ線の強度がほとんど変化せずk(t)が測定時間を通して一定である場合や、対象核種や線源の壊変定数λ,λの逆数が測定時間lよりも十分に長い場合は積分内のどちらかの項が定数とみなせ、(6)は以下のように簡略化される。
【0028】
【数7】
Figure 2004125639
【0029】
標準試料のほうも同様にして、測定対象元素のカウント数X、線源からのカウント数Bは以下の式で表される。
【0030】
【数8】
Figure 2004125639
【0031】
【数9】
Figure 2004125639
【0032】
(t):標準試料と線源を同時に測定する場合の検出効率
(不感時間の影響を含む)
:照射終了時から測定を行うまでの時間(s)
:測定時間(s)
ここでも、k(t)が測定時間を通して一定である場合や、壊変定数λ,λの逆数が測定時間らよりも十分に長い場合は積分内のどちらかの項が定数とみなせ、(8),(9)は以下のように簡略化される。
【0033】
【数10】
Figure 2004125639
【0034】
(3),(7),(10)より、測定対象の試料中に含まれる対象原子核の重さ(g)Nを求めると以下の式が得られる。
【0035】
【数11】
Figure 2004125639
【0036】
(11)式の右辺は既知の値もしくは測定値である。このことから、試料全体のガンマ線の強度がほとんど変化しない場合や、対象核種や線源の壊変定数が測定時間よりも十分に長い場合は、本手法により、検出器の不感時間を補正し、検出精度を向上させることができる。
【0037】
また、対象核種の半減期が短い場合は、短い測定時間で繰り返すことによりその影響を小さくすることができ、たとえば不感時間が実時間の90%を超えるような場合でも測定時間を半減期の1/10にすれば不感時間による測定誤差は最大でも4.4%となり、1/33にしたときは最大で1%となる。
【0038】
【実施例】
実施例として標準生体試料の分析例を挙げる。試料はNBSから出されている標準生体試料二種類を利用し、本手法の評価を行った。試料には小麦の花(NBS Wheat Flour 1567)44.7mgおよびトマトの葉(NBS Tomato leaves 1573)71.9mgを使用し、JRR−3のHR−2照射孔(熱中性子束9.8×1017−2−1、速中性子束1.4×1016−2−1)で10分間照射した。
【0039】
その後、113Ba線源と同時に多重ガンマ線分析装置(“GEMINI”)を用いておのおの約2時間測定を行いった。解析は、小麦の花を基準にしてトマトの葉に含まれるK,Ca,Co,Sc,La,Euについて行った。従来の分析法と本手法の解析結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
Figure 2004125639
【0041】
従来の測定法では、検出器の不感時間の補正ができないため測定結果はNBSの推奨値よりも低い値が出る傾向があった。しかし、本手法を適用することにより多くの元素は、%〜ppbという広い範囲にわたって誤差の範囲内にNBSの推奨値を含むようになり、本手法の有効性を確認することができた。
【0042】
【発明の効果】
多重ガンマ線分析法は化学的な前処理を必要としない、49元素もの多元素を同時に測定できるなどの長所を持ち、これからの分析法として多くの注目を集めている。本発明を利用することにより、多重ガンマ線分析法において高精度に微量元素を定量できるようになり、多重ガンマ線分析法の応用分野の発展に大きく貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】多重ガンマ線分析法の概念図を示す図である。

Claims (3)

  1. 多重ガンマ線検出法と放射化分析を組み合わせた新微量分析方法において、同時計数イベントの測定や同時計数しなかったガンマ線の測定等の際に発生する検出器の不感時間を多重ガンマ線を出す線源を試料と同時に測定することにより検出器の不感時間を補正する方法。
  2. 測定したい元素を含み、その量がわかっている標準試料を測定対象の試料と同時に放射化し、その標準試料の元素からのガンマ線と測定対象の試料の元素からのガンマ線との強度の比較を行うことからなる請求項1記載の方法。
  3. 測定したい元素を含み、その量がわかっている標準試料を測定対象の試料と同時に放射化し、その標準試料の元素からのガンマ線と測定対象の試料の元素からのガンマ線との強度の比較を行う際に、放射化された両試料を、各々別個に、131Baのような多重ガンマ線を出す元素を線源とともに多重ガンマ線測定を行うことからなる請求項1又は請求項2記載の方法。
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