JP2004113007A - コムギの選抜方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】コムギの個体の休眠性を、安定、効率的、かつ、簡便に、選抜するために、コムギの休眠性に関与する遺伝子に対する遺伝子マーカー、特に、増幅遺伝子マーカーを見出し、この遺伝子マーカーを用いる、高い休眠性を有する種子を伴うコムギの選抜方法を提供すること。
【解決手段】コムギの休眠性遺伝子に連鎖する領域における遺伝子マーカー、具体的には、コムギ4A染色体に存在し、かつ、指標となる遺伝子マーカーが存在する領域が、休眠性遺伝子を含む44cM(センチモルガン)以内の領域に存在する、増幅遺伝子マーカーを見いだし、これを利用したコムギ遺伝子の選抜方法を提供することにより、上記の課題を解決し得ることを見いだした。
【選択図】 なし
【解決手段】コムギの休眠性遺伝子に連鎖する領域における遺伝子マーカー、具体的には、コムギ4A染色体に存在し、かつ、指標となる遺伝子マーカーが存在する領域が、休眠性遺伝子を含む44cM(センチモルガン)以内の領域に存在する、増幅遺伝子マーカーを見いだし、これを利用したコムギ遺伝子の選抜方法を提供することにより、上記の課題を解決し得ることを見いだした。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特定の形質を有する植物の選抜方法に関する発明である。
【0002】
【従来の技術】
穀物植物が、収穫前に連続的な降雨にさらされると、穀物種子の収穫前に穂発芽が生じることがある。穂発芽が生ずると、穀物種子のデンプン等が消費されてしまい、穀物種子の品質を著しく低下させる。特に、本来、比較的小雨の地域を好適な栽培地域とする主要穀物植物であるコムギを、日本等の湿潤地域で栽培する場合には、コムギ種子の収穫前の穂発芽が生じることによる品質の低下が、しばしば問題となっている。
【0003】
この穂発芽の発生要因の1つには、降雨等に際しての吸水刺激による、コムギ種子の休眠状態の解除が挙げられる。そして、コムギの中には、このような吸水刺激を受けても、種子の休眠状態が解除され難い、「高い休眠性」を有する種子を伴うものがあることが知られている。
【0004】
従来から、この種子の休眠性を、1つの指標として、穂発芽耐性を有する種子を伴うコムギを作出するための品種改良が行われている。この際、コムギ種子の休眠性の程度は、種子を収穫して乾燥させた後、一定の温度条件で吸水させ、一定期間、発芽の有無を観察することにより、判定されている。
【0005】
このように、現在行われている、コムギ種子の休眠性の判定には、コムギを、長期間栽培すること、種子を適切な時期に収穫して、一定期間吸水させた後の、発芽の有無を確認する必要があり、コムギ種子の休眠性に関する検定と選抜には、多大な労力と時間を要することとなる。また、コムギ種子の休眠性は、登熟環境に大きく影響を受けるため、年次間の誤差を生じやすく、正確な評価が困難な場合が認められやすい傾向がある。
【0006】
近年、多くの穀物植物において、遺伝子マーカーを用いた遺伝子解析により、ゲノムの特定領域の構造を調査することが、困難を伴いながらも、可能となっている。すなわち、育種における、種々の形質の選抜を、目的形質遺伝子の近傍に位置する遺伝子マーカーを用いることにより、行うことができることが報告されている[特開2000−279170号公報(特許文献1)、特開平11−89583号公報(特許文献2)、特開平10−127290号公報(特許文献3)、特開平10−84965号公報(特許文献4)等]。
【特許文献1】
特開2000−279170号公報
【特許文献2】
特開平11−89583号公報
【特許文献2】
特開平10−127290号公報
【特許文献3】
特開平10−84965号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、コムギの個体の休眠性を、安定、効率的、かつ、簡便に、選抜するために、コムギの休眠性に関与する遺伝子に対する遺伝子マーカー、特に、増幅遺伝子マーカーを見出し、この遺伝子マーカーを用いる、高い休眠性を有する種子を伴うコムギの選抜方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の課題を解決するために、高い休眠性を有する種子を伴うコムギの選抜を可能とする、遺伝子マーカーについての検討を行った。その結果、コムギ種子の休眠性に関する遺伝子に連鎖する領域における、遺伝子マーカーを指標とすることにより、高い休眠性を有する種子を伴うコムギを選抜することが可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、コムギの種子に高い休眠性を付与する遺伝子(以下、休眠性遺伝子ともいう)に連鎖する領域における遺伝子マーカーを指標として、高い休眠性を有する種子を伴うコムギを選抜する、コムギの選抜方法(以下、本選抜方法ともいう)を提供する発明である。
【0010】
本発明における、「高い休眠性」とは、コムギの種子を、一定期間吸水させた場合、その発芽が、標準的なコムギ種子に比べて、抑制されていることを意味するものとする。例えば、発芽が認められる吸水温度が、標準よりも低いことや、同一の吸水温度において発芽する種子の割合が、標準よりも少ない場合が、「高い休眠性」を有する場合に該当する。
【0011】
コムギとしては、例えば、パンコムギ、タルホコムギ、マカロニコムギ等を挙げることができるが、コムギに分類されるものであれば、これらに限定されるものではない。
【0012】
本発明において用いる、cM(センチモルガン)とは、乗換え率の単位(交差単位)であり、同一染色体上の遺伝子間の遺伝的距離を表す単位である。1cMは、2つの遺伝子間に1%の頻度で交差が起こる場合の両遺伝子間の距離を示し、1マップ単位(map unit)と等しい。よって、この数値が小さいほど、遺伝子の乗換えが起こる頻度が小さく、一般的には、2つの遺伝子の染色体上の距離が近いこと、すなわち、2つの遺伝子の連鎖が強いことを意味している。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明は、未だ、本体が明らかとなっていない、コムギの休眠性遺伝子に連鎖する遺伝子マーカー、すなわち、休眠性遺伝子に対応して何らかの変化を示すコムギの遺伝子のマーカーを見出して、この遺伝子マーカーを指標として、高い休眠性を有するコムギを選抜する、植物の選抜方法である。
【0014】
遺伝子マーカーは、休眠性遺伝子に対応する何らかの変化を、多型として検出することができる遺伝子マーカーであることが好適である。例えば、特定の制限酵素に対応する制限パターンの差異を指標として、多型を検出可能な方法として、RFLP法により検出するRFLPマーカー[Botstein,D,et al.,(1980)AM.J.Hum.Genet.32:314−331] 、AFLP法により検出するAFLPマーカー[Zabeau,M.and P.Vos(1993)European Patent Apprication,EP0534858] 、RLGS法により検出するRLGSマーカー[Hatada,I. et al.,(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA
88:9523−9527]等が例示可能である。
【0015】
また、多型の存在する遺伝子領域を、PCR法等の遺伝子領域を増幅させて、得られた遺伝子増幅産物の塩基長の差異で、多型による遺伝子型の異同を検出可能な方法も用いることができる(このような方法において用いる増幅対象遺伝子領域を、増幅遺伝子マーカーともいう)。特に、遺伝子増幅産物による検出を行う場合には、多型頻度が高い、SSR(Simple sequence repeats) 領域[Powell,W.et al.,(1996) Trends Plant Sci 1:215−222、McCouch,SR.et al.,(1997) Plant Mol Biol 35:89−99]を、本発明で用いる遺伝子マーカーを選択する場合の指標とすることが好適である。
【0016】
本選抜方法における、休眠性遺伝子と連鎖する遺伝子マーカーは、可能な限り、休眠性遺伝子との遺伝的距離が近いことが、休眠性遺伝子との連鎖の信頼性が高く好適である。
【0017】
具体的には、休眠性遺伝子を含む44cM以内の領域に存在する遺伝子マーカーであることが好適である。
かかる遺伝子領域内で、コムギの表現型として、高い休眠性が認められるか否かを指標として、多型の有無を検討することにより、目的とする遺伝子マーカーを見出すことができる。
【0018】
コムギにおける、上記の44cM以内の遺伝子領域に存在する、休眠性遺伝子に連鎖する増幅遺伝子マーカーとしては、コムギ4A染色体上に存在する、Xgwm397,Xgwm610,Xgwm637として知られている、3種類のSSRマーカーを挙げることができる(詳しくは、後述する)。
【0019】
これらのSSRマーカーのうち、Xgwm610とXgwm397の遺伝的距離は、8cMであり、Xgwm397とXgwm637の遺伝的距離は、35.9cMであり、休眠性遺伝子は、これら3種のSSRマーカーのうち、Xgwm397に最も近接している。
【0020】
例えば、上記の遺伝子領域内の増幅遺伝子マーカーを1種または2種以上、本選抜方法で用いる場合、その中の少なくとも1種を、配列番号1で表される塩基配列のSSR配列を含む遺伝子領域(Xgwm397)、配列番号4で表される塩基配列のSSR配列を含む遺伝子領域(Xgwm610)、配列番号7で表される塩基配列のSSR配列を含む遺伝子領域(Xgwm637)を増幅遺伝子マーカーとすることが好適である[これらのSSRマーカーの基準配列は、Chinese Spring(品種名)の配列である]。これらのSSR配列を含む遺伝子領域は、コムギにおける高い休眠性の形質の有無に応じて、塩基長が変化することが認められており、休眠性遺伝子に近接して連鎖しており(実施例参照)、非常に好適な増幅遺伝子マーカーである。
【0021】
特定の遺伝子領域を、PCR法等の遺伝子増幅法で増幅させて、増幅遺伝子マーカーとする場合、増幅を行う鋳型遺伝子の5’末端と3’末端に対して、実質的に相補的な、遺伝子増幅反応を行うための遺伝子増幅用プライマーが必要である。かかる遺伝子増幅用プライマーの選択は、目的とする遺伝子領域を、遺伝子増幅反応で増幅可能なものである限り、特に限定されず、PCR法等の遺伝子増幅反応を、一般的に行う際における、プライマー選択基準に基づき選択することができる。
【0022】
配列番号1で表される塩基配列のSSR配列を含む遺伝子領域を増幅遺伝子マーカーとする場合には、センスプライマーとして、1種または2種以上の配列番号2で表されるヌクレオチド鎖の塩基配列から選ばれる、連続した10〜21塩基のヌクレオチド鎖を5’末端側に含み、かつ、全体の塩基長が、10〜40塩基のヌクレオチド鎖とすることが好適な態様として挙げることができる。また、アンチセンスプライマーとしては、1種または2種以上の配列番号3で表されるヌクレオチド鎖の塩基配列から選ばれる、連続した10〜21塩基のヌクレオチド鎖を3’末端側に含み、かつ、全体の塩基長が、10〜40塩基のヌクレオチド鎖、からなる群から選ばれる、1種または2種以上のヌクレオチド鎖とすることを好適な態様として挙げることができる。
【0023】
配列番号2と配列番号3で表されるヌクレオチド鎖は、共に、報告されているコムギの遺伝子の塩基配列に対して相補的な配列のヌクレオチド鎖であり、後述する実施例に示すように、これらのヌクレオチド鎖を、遺伝子増幅反応のセンスプライマーとアンチセンスプライマーとして用いることが好適である。しかしながら、例えば、これら連続する21塩基全体を用いなくても、これらの配列のうち、少なくとも、連続する10塩基が、鋳型遺伝子における遺伝子増幅反応の開始点において相補的であれば、プライマーの全ての部分が鋳型遺伝子と、完全に相補的である必要はない(センスプライマーであれば、5’末端側10塩基以上が配列番号2の配列と一致し、アンチセンスプライマーであれば3’末端側10塩基以上が配列番号3の配列と一致することが好適である)。また、このような条件を満たす、遺伝子増幅用プライマーの全塩基長は、40塩基以下程度であることが、一般的である。
【0024】
このように、配列番号2にかかわるセンスプライマーと、配列番号3にかかわるアンチセンスプライマーを用いて、遺伝子増幅を行うことにより、被験コムギの休眠性遺伝子に応じて、異なる塩基長を与える増幅遺伝子マーカーが得られる。
【0025】
また、例えば、配列番号4で表される塩基配列のSSR配列を含む遺伝子領域(Xgwm610)を増幅遺伝子マーカーとする場合には、センスプライマーとして、1種または2種以上の配列番号5で表されるヌクレオチド鎖の塩基配列から選ばれる、連続した10〜20塩基のヌクレオチド鎖を5’末端側に含み、かつ、全体の塩基長が、10〜40塩基のヌクレオチド鎖とすることが好適な態様として挙げることができる。また、アンチセンスプライマーとしては、1種または2種以上の配列番号6で表されるヌクレオチド鎖の塩基配列から選ばれる、連続した10〜21塩基のヌクレオチド鎖を3’末端側に含み、かつ、全体の塩基長が、10〜40塩基のヌクレオチド鎖、からなる群から選ばれる、1種または2種以上のヌクレオチド鎖とすることを好適な態様として挙げることができる。
【0026】
配列番号5と配列番号6で表されるヌクレオチド鎖は、共に、報告されているコムギの遺伝子の塩基配列に対して相補的な配列のヌクレオチド鎖であり、後述する実施例に示すように、これらのヌクレオチド鎖を、遺伝子増幅反応のセンスプライマーとアンチセンスプライマーとして用いることが好適である。しかしながら、例えば、これら連続する20塩基または21塩基全体を用いなくても、これらの配列のうち、少なくとも、連続する10塩基が、鋳型遺伝子における遺伝子増幅反応の開始点において相補的であれば、プライマーの全ての部分が鋳型遺伝子と、完全に相補的である必要はない(センスプライマーであれば、5’末端側10塩基以上が配列番号5の配列と一致し、アンチセンスプライマーであれば3’末端側10塩基以上が配列番号6の配列と一致することが好適である)。また、このような条件を満たす、遺伝子増幅用プライマーの全塩基長は、40塩基以下程度であることが、一般的である。
【0027】
このように、配列番号5にかかわるセンスプライマーと、配列番号6にかかわるアンチセンスプライマーを用いて、遺伝子増幅を行うことにより、被験コムギの休眠性遺伝子に応じて、異なる塩基長を与える増幅遺伝子マーカーが得られる。
【0028】
また、例えば、配列番号7で表される塩基配列のSSR配列を含む遺伝子領域を増幅遺伝子マーカーとする場合には、センスプライマーとして、1種または2種以上の配列番号8で表されるヌクレオチド鎖の塩基配列から選ばれる、連続した10〜20塩基のヌクレオチド鎖を5’末端側に含み、かつ、全体の塩基長が、10〜40塩基のヌクレオチド鎖とすることが好適な態様として挙げることができる。また、アンチセンスプライマーとしては、1種または2種以上の配列番号9で表されるヌクレオチド鎖の塩基配列から選ばれる、連続した10〜21塩基のヌクレオチド鎖を3’末端側に含み、かつ、全体の塩基長が、10〜40塩基のヌクレオチド鎖、からなる群から選ばれる、1種または2種以上のヌクレオチド鎖とすることを好適な態様として挙げることができる。
【0029】
配列番号8と配列番号9で表されるヌクレオチド鎖は、共に、報告されているコムギの遺伝子の塩基配列に対して相補的な配列のヌクレオチド鎖であり、後述する実施例に示すように、これらのヌクレオチド鎖を、遺伝子増幅反応のセンスプライマーとアンチセンスプライマーとして用いることが好適である。しかしながら、例えば、これら連続する20塩基または21塩基全体を用いなくても、これらの配列のうち、少なくとも、連続する10塩基が、鋳型遺伝子における遺伝子増幅反応の開始点において相補的であれば、プライマーの全ての部分が鋳型遺伝子と、完全に相補的である必要はない(センスプライマーであれば、5’末端側10塩基以上が配列番号8の配列と一致し、アンチセンスプライマーであれば3’末端側10塩基以上が配列番号9の配列と一致することが好適である)。また、このような条件を満たす、遺伝子増幅用プライマーの全塩基長は、40塩基以下程度であることが、一般的である。
【0030】
このように、配列番号8にかかわるセンスプライマーと、配列番号9にかかわるアンチセンスプライマーを用いて、遺伝子増幅を行うことにより、被験コムギの休眠性遺伝子に応じて、異なる塩基長を与える増幅遺伝子マーカーが得られる。
【0031】
【実施例】以下、本発明の実施例を説明する。ただし、この実施例の記載により、本発明の技術的範囲が限定されるものではない。
【0032】
〔実施例1〕 SSRマーカーによる分析
北海道秋まきコムギの休眠強品種「きたもえ」と、休眠弱品種「Munstertalter」(uは、本来、ウムラウト付きuであるが、本明細書においては、このウムラウトは省略して記載する)の緑葉から、キアゲン社製のDNeasy Plant Mint Kitを用いて、DNAを抽出した。公開されているSSRプライマー[Roder(oは、本来、ウムラウト付きoであるが、本明細書においては、このウムラウトは省略して記載する) et al.,(1998)Genetics 149.2007−2023およびPestsova et al.,(2000)Genome 43:689−697]295種を合成して、上記のコムギのDNAを鋳型としたPCR法によるDNA増幅のプライマーとして用いた。PCR反応は、反応混液(鋳型DNA50ng、dNTP2.0mM、PCR用緩衝液、プライマー各300mM、滅菌水)を調製して、iサイクラー(バイオラッド社製)を用いて、94℃/3分→[94℃/1分→60℃/1分(Xgwm397は、55℃/1分)→72℃/2分]×35回→72℃/7分、の条件で行った。
【0033】
このPCR反応により得られたPCR産物は、カセット電気泳動装置(第1化学社製)を用い、200Vで、約120分間通電し、電気泳動終了後、SYBR Green I(BNA社製)で染色し、透過型紫外線照明装置上で、増幅バンドを検出した。なお、泳動用緩衝液としては、トリス−グリシン緩衝液を用い、ゲルは、ポリアクリルアミドゲル(PAGミニ「第一」10〜20%グラディエント)を用いた。
【0034】
上記の295種類のSSRマーカーのうち、185種類において、上記の2品種間における多型が認められた。これら185種類のSSRマーカーのうち、118種類を用いて、休眠性遺伝子との遺伝的連鎖関係を、以下のようにして検討した。
【0035】
まず、北海道秋まきコムギの休眠強品種「きたもえ」と、休眠弱品種「Munstertalter」との交雑F1に、トウモロコシ花粉を交配する方法により、倍加半数体(DH)393系統を作出し、休眠性評価を124系統において行い、96系統において、SSR解析を行った。これらのDH系統の種子休眠性評価は、温室環境において、収穫したコムギ種子を乾燥し、20℃で10日間、吸水させて(水を浸した濾紙上に、コムギ種子を載置することにより吸水環境を形成した)、コムギ種子の発芽率を検討することにより行った。
【0036】
また、96種の各DH系統の緑葉から、上述した方法でDNAを抽出して、これらについてのSSRマーカーの分析を行った。
SSRマーカーとしては、上述した118種類のマーカーを用いた。SSRマーカーの遺伝子型と発芽率との連鎖関係を解析したところ、3種類のSSRマーカー(Xgwm397,Xgwm610,Xgwm637)が、休眠性遺伝子と連鎖していることが明らかになった。
【0037】
ここで、Xgwm397は、コムギ4A染色体上に存在する、Chinese Spring(品種名)において(以下、同様である)、CTが21回くり返すSSRマーカーであり(配列番号1)、これに対するセンスプライマー配列は、配列番号2で示される配列(TGTCATGGATTATTTGGTCGG)であり、アンチセンスプライマー配列は、配列番号3で示される配列(CTGCACTCTCGGTATACCAGC)である。
【0038】
Xgwm610は、コムギ4A染色体上に存在する、GAが不完全に17回くり返すSSRマーカーであり(配列番号4)、これに対するセンスプライマー配列は、配列番号5で示される配列(CTGCCTTCTCCATGGTTTGT)であり、アンチセンスプライマー配列は、配列番号6で示される配列(AATGGCCAAAGGTTATGAAGG)である。
【0039】
Xgwm637は、コムギ4A染色体上に存在する、CAが18回くり返すSSRマーカーであり(配列番号7)、これに対するセンスプライマー配列は、配列番号8で示される配列(AAAGAGGTCTGCCGCTAACA)であり、アンチセンスプライマー配列は、配列番号9で示される配列(TATACGGTTTTGTGAGGGGG)である。
【0040】
コンピューターソフトウエア(MAP MAKER/EXP Ver.3.0、MAP MAKER/QTL Ver.1.1b)を利用した、QTL(Quantitative Trait Loci)解析により、これらの3種類のSSRマーカーのうち、Xgwm397が、休眠性遺伝子と一番強い連鎖を示すこと、すなわち、強い休眠性のコムギ種子を提供し得るコムギを選択するためのSSRマーカーとして好適である上記の3種のマーカーのうちでも、このXgwm397が、特に適していることが判明した。
【0041】
第1図に、Xgwm397をSSRマーカーとするために、配列番号2と3のプライマーを用いて、コムギのDNAを増幅させたPCR増幅産物のポリアクリルアミド電気泳動像を示す。この図より、きたもえ、および、Munstertaler間で、増幅断片長に差異があることが、わかる。
【0042】
また、第2図に、Xgwm397をSSRマーカーとして用いた場合の遺伝子型と、種子の休眠性(収穫乾燥後の発芽率%)の関係について示した。第2図において、黒棒は、SSRマーカーが、「きたもえ」型の系統数を示し、白棒は、「Munstertalter」型の系統数を示している。
【0043】
第2図により、SSRマーカーの遺伝子型が「きたもえ」型の場合には、強い種子休眠性(低い発芽率:平均発芽率66.6%)が認められ、「Munstertalter」型の場合には、種子休眠性が弱い(高い発芽率:平均発芽率91.0%)ことが認められた。また、50%以下の発芽率の10系統中、9系統(90%)は、きたもえ型であった。
【0044】
このように、配列番号2,3で表される塩基配列の遺伝子増幅用プライマーによって、遺伝子増幅産物として得られる増幅遺伝子マーカーは、高い休眠性を有する種子を提供し得るコムギの系統を選抜するマーカーとなり得ることが明らかとなった。
【0045】
【発明の効果】
本発明により、コムギの個体の休眠性を、安定、効率的、かつ、簡便に、選抜するために、コムギの休眠性に関与する遺伝子に対する遺伝子マーカー、特に、増幅遺伝子マーカーが見出され、この遺伝子マーカーを用いる、高い休眠性を有する種子を伴うコムギの選抜方法が提供される。
【0046】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】Xgwm397をSSRマーカーとして、コムギのDNAを増幅させたPCR増幅産物のポリアクリルアミド電気泳動像を示す図面である。
【図2】Xgwm397をSSRマーカーとして用いた場合の遺伝子型と、種子の休眠性の関係について示した図面である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、特定の形質を有する植物の選抜方法に関する発明である。
【0002】
【従来の技術】
穀物植物が、収穫前に連続的な降雨にさらされると、穀物種子の収穫前に穂発芽が生じることがある。穂発芽が生ずると、穀物種子のデンプン等が消費されてしまい、穀物種子の品質を著しく低下させる。特に、本来、比較的小雨の地域を好適な栽培地域とする主要穀物植物であるコムギを、日本等の湿潤地域で栽培する場合には、コムギ種子の収穫前の穂発芽が生じることによる品質の低下が、しばしば問題となっている。
【0003】
この穂発芽の発生要因の1つには、降雨等に際しての吸水刺激による、コムギ種子の休眠状態の解除が挙げられる。そして、コムギの中には、このような吸水刺激を受けても、種子の休眠状態が解除され難い、「高い休眠性」を有する種子を伴うものがあることが知られている。
【0004】
従来から、この種子の休眠性を、1つの指標として、穂発芽耐性を有する種子を伴うコムギを作出するための品種改良が行われている。この際、コムギ種子の休眠性の程度は、種子を収穫して乾燥させた後、一定の温度条件で吸水させ、一定期間、発芽の有無を観察することにより、判定されている。
【0005】
このように、現在行われている、コムギ種子の休眠性の判定には、コムギを、長期間栽培すること、種子を適切な時期に収穫して、一定期間吸水させた後の、発芽の有無を確認する必要があり、コムギ種子の休眠性に関する検定と選抜には、多大な労力と時間を要することとなる。また、コムギ種子の休眠性は、登熟環境に大きく影響を受けるため、年次間の誤差を生じやすく、正確な評価が困難な場合が認められやすい傾向がある。
【0006】
近年、多くの穀物植物において、遺伝子マーカーを用いた遺伝子解析により、ゲノムの特定領域の構造を調査することが、困難を伴いながらも、可能となっている。すなわち、育種における、種々の形質の選抜を、目的形質遺伝子の近傍に位置する遺伝子マーカーを用いることにより、行うことができることが報告されている[特開2000−279170号公報(特許文献1)、特開平11−89583号公報(特許文献2)、特開平10−127290号公報(特許文献3)、特開平10−84965号公報(特許文献4)等]。
【特許文献1】
特開2000−279170号公報
【特許文献2】
特開平11−89583号公報
【特許文献2】
特開平10−127290号公報
【特許文献3】
特開平10−84965号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、コムギの個体の休眠性を、安定、効率的、かつ、簡便に、選抜するために、コムギの休眠性に関与する遺伝子に対する遺伝子マーカー、特に、増幅遺伝子マーカーを見出し、この遺伝子マーカーを用いる、高い休眠性を有する種子を伴うコムギの選抜方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の課題を解決するために、高い休眠性を有する種子を伴うコムギの選抜を可能とする、遺伝子マーカーについての検討を行った。その結果、コムギ種子の休眠性に関する遺伝子に連鎖する領域における、遺伝子マーカーを指標とすることにより、高い休眠性を有する種子を伴うコムギを選抜することが可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、コムギの種子に高い休眠性を付与する遺伝子(以下、休眠性遺伝子ともいう)に連鎖する領域における遺伝子マーカーを指標として、高い休眠性を有する種子を伴うコムギを選抜する、コムギの選抜方法(以下、本選抜方法ともいう)を提供する発明である。
【0010】
本発明における、「高い休眠性」とは、コムギの種子を、一定期間吸水させた場合、その発芽が、標準的なコムギ種子に比べて、抑制されていることを意味するものとする。例えば、発芽が認められる吸水温度が、標準よりも低いことや、同一の吸水温度において発芽する種子の割合が、標準よりも少ない場合が、「高い休眠性」を有する場合に該当する。
【0011】
コムギとしては、例えば、パンコムギ、タルホコムギ、マカロニコムギ等を挙げることができるが、コムギに分類されるものであれば、これらに限定されるものではない。
【0012】
本発明において用いる、cM(センチモルガン)とは、乗換え率の単位(交差単位)であり、同一染色体上の遺伝子間の遺伝的距離を表す単位である。1cMは、2つの遺伝子間に1%の頻度で交差が起こる場合の両遺伝子間の距離を示し、1マップ単位(map unit)と等しい。よって、この数値が小さいほど、遺伝子の乗換えが起こる頻度が小さく、一般的には、2つの遺伝子の染色体上の距離が近いこと、すなわち、2つの遺伝子の連鎖が強いことを意味している。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明は、未だ、本体が明らかとなっていない、コムギの休眠性遺伝子に連鎖する遺伝子マーカー、すなわち、休眠性遺伝子に対応して何らかの変化を示すコムギの遺伝子のマーカーを見出して、この遺伝子マーカーを指標として、高い休眠性を有するコムギを選抜する、植物の選抜方法である。
【0014】
遺伝子マーカーは、休眠性遺伝子に対応する何らかの変化を、多型として検出することができる遺伝子マーカーであることが好適である。例えば、特定の制限酵素に対応する制限パターンの差異を指標として、多型を検出可能な方法として、RFLP法により検出するRFLPマーカー[Botstein,D,et al.,(1980)AM.J.Hum.Genet.32:314−331] 、AFLP法により検出するAFLPマーカー[Zabeau,M.and P.Vos(1993)European Patent Apprication,EP0534858] 、RLGS法により検出するRLGSマーカー[Hatada,I. et al.,(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA
88:9523−9527]等が例示可能である。
【0015】
また、多型の存在する遺伝子領域を、PCR法等の遺伝子領域を増幅させて、得られた遺伝子増幅産物の塩基長の差異で、多型による遺伝子型の異同を検出可能な方法も用いることができる(このような方法において用いる増幅対象遺伝子領域を、増幅遺伝子マーカーともいう)。特に、遺伝子増幅産物による検出を行う場合には、多型頻度が高い、SSR(Simple sequence repeats) 領域[Powell,W.et al.,(1996) Trends Plant Sci 1:215−222、McCouch,SR.et al.,(1997) Plant Mol Biol 35:89−99]を、本発明で用いる遺伝子マーカーを選択する場合の指標とすることが好適である。
【0016】
本選抜方法における、休眠性遺伝子と連鎖する遺伝子マーカーは、可能な限り、休眠性遺伝子との遺伝的距離が近いことが、休眠性遺伝子との連鎖の信頼性が高く好適である。
【0017】
具体的には、休眠性遺伝子を含む44cM以内の領域に存在する遺伝子マーカーであることが好適である。
かかる遺伝子領域内で、コムギの表現型として、高い休眠性が認められるか否かを指標として、多型の有無を検討することにより、目的とする遺伝子マーカーを見出すことができる。
【0018】
コムギにおける、上記の44cM以内の遺伝子領域に存在する、休眠性遺伝子に連鎖する増幅遺伝子マーカーとしては、コムギ4A染色体上に存在する、Xgwm397,Xgwm610,Xgwm637として知られている、3種類のSSRマーカーを挙げることができる(詳しくは、後述する)。
【0019】
これらのSSRマーカーのうち、Xgwm610とXgwm397の遺伝的距離は、8cMであり、Xgwm397とXgwm637の遺伝的距離は、35.9cMであり、休眠性遺伝子は、これら3種のSSRマーカーのうち、Xgwm397に最も近接している。
【0020】
例えば、上記の遺伝子領域内の増幅遺伝子マーカーを1種または2種以上、本選抜方法で用いる場合、その中の少なくとも1種を、配列番号1で表される塩基配列のSSR配列を含む遺伝子領域(Xgwm397)、配列番号4で表される塩基配列のSSR配列を含む遺伝子領域(Xgwm610)、配列番号7で表される塩基配列のSSR配列を含む遺伝子領域(Xgwm637)を増幅遺伝子マーカーとすることが好適である[これらのSSRマーカーの基準配列は、Chinese Spring(品種名)の配列である]。これらのSSR配列を含む遺伝子領域は、コムギにおける高い休眠性の形質の有無に応じて、塩基長が変化することが認められており、休眠性遺伝子に近接して連鎖しており(実施例参照)、非常に好適な増幅遺伝子マーカーである。
【0021】
特定の遺伝子領域を、PCR法等の遺伝子増幅法で増幅させて、増幅遺伝子マーカーとする場合、増幅を行う鋳型遺伝子の5’末端と3’末端に対して、実質的に相補的な、遺伝子増幅反応を行うための遺伝子増幅用プライマーが必要である。かかる遺伝子増幅用プライマーの選択は、目的とする遺伝子領域を、遺伝子増幅反応で増幅可能なものである限り、特に限定されず、PCR法等の遺伝子増幅反応を、一般的に行う際における、プライマー選択基準に基づき選択することができる。
【0022】
配列番号1で表される塩基配列のSSR配列を含む遺伝子領域を増幅遺伝子マーカーとする場合には、センスプライマーとして、1種または2種以上の配列番号2で表されるヌクレオチド鎖の塩基配列から選ばれる、連続した10〜21塩基のヌクレオチド鎖を5’末端側に含み、かつ、全体の塩基長が、10〜40塩基のヌクレオチド鎖とすることが好適な態様として挙げることができる。また、アンチセンスプライマーとしては、1種または2種以上の配列番号3で表されるヌクレオチド鎖の塩基配列から選ばれる、連続した10〜21塩基のヌクレオチド鎖を3’末端側に含み、かつ、全体の塩基長が、10〜40塩基のヌクレオチド鎖、からなる群から選ばれる、1種または2種以上のヌクレオチド鎖とすることを好適な態様として挙げることができる。
【0023】
配列番号2と配列番号3で表されるヌクレオチド鎖は、共に、報告されているコムギの遺伝子の塩基配列に対して相補的な配列のヌクレオチド鎖であり、後述する実施例に示すように、これらのヌクレオチド鎖を、遺伝子増幅反応のセンスプライマーとアンチセンスプライマーとして用いることが好適である。しかしながら、例えば、これら連続する21塩基全体を用いなくても、これらの配列のうち、少なくとも、連続する10塩基が、鋳型遺伝子における遺伝子増幅反応の開始点において相補的であれば、プライマーの全ての部分が鋳型遺伝子と、完全に相補的である必要はない(センスプライマーであれば、5’末端側10塩基以上が配列番号2の配列と一致し、アンチセンスプライマーであれば3’末端側10塩基以上が配列番号3の配列と一致することが好適である)。また、このような条件を満たす、遺伝子増幅用プライマーの全塩基長は、40塩基以下程度であることが、一般的である。
【0024】
このように、配列番号2にかかわるセンスプライマーと、配列番号3にかかわるアンチセンスプライマーを用いて、遺伝子増幅を行うことにより、被験コムギの休眠性遺伝子に応じて、異なる塩基長を与える増幅遺伝子マーカーが得られる。
【0025】
また、例えば、配列番号4で表される塩基配列のSSR配列を含む遺伝子領域(Xgwm610)を増幅遺伝子マーカーとする場合には、センスプライマーとして、1種または2種以上の配列番号5で表されるヌクレオチド鎖の塩基配列から選ばれる、連続した10〜20塩基のヌクレオチド鎖を5’末端側に含み、かつ、全体の塩基長が、10〜40塩基のヌクレオチド鎖とすることが好適な態様として挙げることができる。また、アンチセンスプライマーとしては、1種または2種以上の配列番号6で表されるヌクレオチド鎖の塩基配列から選ばれる、連続した10〜21塩基のヌクレオチド鎖を3’末端側に含み、かつ、全体の塩基長が、10〜40塩基のヌクレオチド鎖、からなる群から選ばれる、1種または2種以上のヌクレオチド鎖とすることを好適な態様として挙げることができる。
【0026】
配列番号5と配列番号6で表されるヌクレオチド鎖は、共に、報告されているコムギの遺伝子の塩基配列に対して相補的な配列のヌクレオチド鎖であり、後述する実施例に示すように、これらのヌクレオチド鎖を、遺伝子増幅反応のセンスプライマーとアンチセンスプライマーとして用いることが好適である。しかしながら、例えば、これら連続する20塩基または21塩基全体を用いなくても、これらの配列のうち、少なくとも、連続する10塩基が、鋳型遺伝子における遺伝子増幅反応の開始点において相補的であれば、プライマーの全ての部分が鋳型遺伝子と、完全に相補的である必要はない(センスプライマーであれば、5’末端側10塩基以上が配列番号5の配列と一致し、アンチセンスプライマーであれば3’末端側10塩基以上が配列番号6の配列と一致することが好適である)。また、このような条件を満たす、遺伝子増幅用プライマーの全塩基長は、40塩基以下程度であることが、一般的である。
【0027】
このように、配列番号5にかかわるセンスプライマーと、配列番号6にかかわるアンチセンスプライマーを用いて、遺伝子増幅を行うことにより、被験コムギの休眠性遺伝子に応じて、異なる塩基長を与える増幅遺伝子マーカーが得られる。
【0028】
また、例えば、配列番号7で表される塩基配列のSSR配列を含む遺伝子領域を増幅遺伝子マーカーとする場合には、センスプライマーとして、1種または2種以上の配列番号8で表されるヌクレオチド鎖の塩基配列から選ばれる、連続した10〜20塩基のヌクレオチド鎖を5’末端側に含み、かつ、全体の塩基長が、10〜40塩基のヌクレオチド鎖とすることが好適な態様として挙げることができる。また、アンチセンスプライマーとしては、1種または2種以上の配列番号9で表されるヌクレオチド鎖の塩基配列から選ばれる、連続した10〜21塩基のヌクレオチド鎖を3’末端側に含み、かつ、全体の塩基長が、10〜40塩基のヌクレオチド鎖、からなる群から選ばれる、1種または2種以上のヌクレオチド鎖とすることを好適な態様として挙げることができる。
【0029】
配列番号8と配列番号9で表されるヌクレオチド鎖は、共に、報告されているコムギの遺伝子の塩基配列に対して相補的な配列のヌクレオチド鎖であり、後述する実施例に示すように、これらのヌクレオチド鎖を、遺伝子増幅反応のセンスプライマーとアンチセンスプライマーとして用いることが好適である。しかしながら、例えば、これら連続する20塩基または21塩基全体を用いなくても、これらの配列のうち、少なくとも、連続する10塩基が、鋳型遺伝子における遺伝子増幅反応の開始点において相補的であれば、プライマーの全ての部分が鋳型遺伝子と、完全に相補的である必要はない(センスプライマーであれば、5’末端側10塩基以上が配列番号8の配列と一致し、アンチセンスプライマーであれば3’末端側10塩基以上が配列番号9の配列と一致することが好適である)。また、このような条件を満たす、遺伝子増幅用プライマーの全塩基長は、40塩基以下程度であることが、一般的である。
【0030】
このように、配列番号8にかかわるセンスプライマーと、配列番号9にかかわるアンチセンスプライマーを用いて、遺伝子増幅を行うことにより、被験コムギの休眠性遺伝子に応じて、異なる塩基長を与える増幅遺伝子マーカーが得られる。
【0031】
【実施例】以下、本発明の実施例を説明する。ただし、この実施例の記載により、本発明の技術的範囲が限定されるものではない。
【0032】
〔実施例1〕 SSRマーカーによる分析
北海道秋まきコムギの休眠強品種「きたもえ」と、休眠弱品種「Munstertalter」(uは、本来、ウムラウト付きuであるが、本明細書においては、このウムラウトは省略して記載する)の緑葉から、キアゲン社製のDNeasy Plant Mint Kitを用いて、DNAを抽出した。公開されているSSRプライマー[Roder(oは、本来、ウムラウト付きoであるが、本明細書においては、このウムラウトは省略して記載する) et al.,(1998)Genetics 149.2007−2023およびPestsova et al.,(2000)Genome 43:689−697]295種を合成して、上記のコムギのDNAを鋳型としたPCR法によるDNA増幅のプライマーとして用いた。PCR反応は、反応混液(鋳型DNA50ng、dNTP2.0mM、PCR用緩衝液、プライマー各300mM、滅菌水)を調製して、iサイクラー(バイオラッド社製)を用いて、94℃/3分→[94℃/1分→60℃/1分(Xgwm397は、55℃/1分)→72℃/2分]×35回→72℃/7分、の条件で行った。
【0033】
このPCR反応により得られたPCR産物は、カセット電気泳動装置(第1化学社製)を用い、200Vで、約120分間通電し、電気泳動終了後、SYBR Green I(BNA社製)で染色し、透過型紫外線照明装置上で、増幅バンドを検出した。なお、泳動用緩衝液としては、トリス−グリシン緩衝液を用い、ゲルは、ポリアクリルアミドゲル(PAGミニ「第一」10〜20%グラディエント)を用いた。
【0034】
上記の295種類のSSRマーカーのうち、185種類において、上記の2品種間における多型が認められた。これら185種類のSSRマーカーのうち、118種類を用いて、休眠性遺伝子との遺伝的連鎖関係を、以下のようにして検討した。
【0035】
まず、北海道秋まきコムギの休眠強品種「きたもえ」と、休眠弱品種「Munstertalter」との交雑F1に、トウモロコシ花粉を交配する方法により、倍加半数体(DH)393系統を作出し、休眠性評価を124系統において行い、96系統において、SSR解析を行った。これらのDH系統の種子休眠性評価は、温室環境において、収穫したコムギ種子を乾燥し、20℃で10日間、吸水させて(水を浸した濾紙上に、コムギ種子を載置することにより吸水環境を形成した)、コムギ種子の発芽率を検討することにより行った。
【0036】
また、96種の各DH系統の緑葉から、上述した方法でDNAを抽出して、これらについてのSSRマーカーの分析を行った。
SSRマーカーとしては、上述した118種類のマーカーを用いた。SSRマーカーの遺伝子型と発芽率との連鎖関係を解析したところ、3種類のSSRマーカー(Xgwm397,Xgwm610,Xgwm637)が、休眠性遺伝子と連鎖していることが明らかになった。
【0037】
ここで、Xgwm397は、コムギ4A染色体上に存在する、Chinese Spring(品種名)において(以下、同様である)、CTが21回くり返すSSRマーカーであり(配列番号1)、これに対するセンスプライマー配列は、配列番号2で示される配列(TGTCATGGATTATTTGGTCGG)であり、アンチセンスプライマー配列は、配列番号3で示される配列(CTGCACTCTCGGTATACCAGC)である。
【0038】
Xgwm610は、コムギ4A染色体上に存在する、GAが不完全に17回くり返すSSRマーカーであり(配列番号4)、これに対するセンスプライマー配列は、配列番号5で示される配列(CTGCCTTCTCCATGGTTTGT)であり、アンチセンスプライマー配列は、配列番号6で示される配列(AATGGCCAAAGGTTATGAAGG)である。
【0039】
Xgwm637は、コムギ4A染色体上に存在する、CAが18回くり返すSSRマーカーであり(配列番号7)、これに対するセンスプライマー配列は、配列番号8で示される配列(AAAGAGGTCTGCCGCTAACA)であり、アンチセンスプライマー配列は、配列番号9で示される配列(TATACGGTTTTGTGAGGGGG)である。
【0040】
コンピューターソフトウエア(MAP MAKER/EXP Ver.3.0、MAP MAKER/QTL Ver.1.1b)を利用した、QTL(Quantitative Trait Loci)解析により、これらの3種類のSSRマーカーのうち、Xgwm397が、休眠性遺伝子と一番強い連鎖を示すこと、すなわち、強い休眠性のコムギ種子を提供し得るコムギを選択するためのSSRマーカーとして好適である上記の3種のマーカーのうちでも、このXgwm397が、特に適していることが判明した。
【0041】
第1図に、Xgwm397をSSRマーカーとするために、配列番号2と3のプライマーを用いて、コムギのDNAを増幅させたPCR増幅産物のポリアクリルアミド電気泳動像を示す。この図より、きたもえ、および、Munstertaler間で、増幅断片長に差異があることが、わかる。
【0042】
また、第2図に、Xgwm397をSSRマーカーとして用いた場合の遺伝子型と、種子の休眠性(収穫乾燥後の発芽率%)の関係について示した。第2図において、黒棒は、SSRマーカーが、「きたもえ」型の系統数を示し、白棒は、「Munstertalter」型の系統数を示している。
【0043】
第2図により、SSRマーカーの遺伝子型が「きたもえ」型の場合には、強い種子休眠性(低い発芽率:平均発芽率66.6%)が認められ、「Munstertalter」型の場合には、種子休眠性が弱い(高い発芽率:平均発芽率91.0%)ことが認められた。また、50%以下の発芽率の10系統中、9系統(90%)は、きたもえ型であった。
【0044】
このように、配列番号2,3で表される塩基配列の遺伝子増幅用プライマーによって、遺伝子増幅産物として得られる増幅遺伝子マーカーは、高い休眠性を有する種子を提供し得るコムギの系統を選抜するマーカーとなり得ることが明らかとなった。
【0045】
【発明の効果】
本発明により、コムギの個体の休眠性を、安定、効率的、かつ、簡便に、選抜するために、コムギの休眠性に関与する遺伝子に対する遺伝子マーカー、特に、増幅遺伝子マーカーが見出され、この遺伝子マーカーを用いる、高い休眠性を有する種子を伴うコムギの選抜方法が提供される。
【0046】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】Xgwm397をSSRマーカーとして、コムギのDNAを増幅させたPCR増幅産物のポリアクリルアミド電気泳動像を示す図面である。
【図2】Xgwm397をSSRマーカーとして用いた場合の遺伝子型と、種子の休眠性の関係について示した図面である。
Claims (11)
- コムギの種子に高い休眠性を付与する遺伝子に連鎖する領域における遺伝子マーカーを指標として、高い休眠性を有する種子を伴うコムギを選抜する、コムギの選抜方法。
- 増幅遺伝子マーカーが、コムギ4A染色体に存在する増幅遺伝子マーカーであり、かつ、指標となる遺伝子マーカーが存在する、コムギの種子に高い休眠性を付与する遺伝子に連鎖する領域が、この遺伝子を含む44cM(センチモルガン)以内の領域である、請求項1記載のコムギの選抜方法。
- 増幅遺伝子マーカーが、配列番号1で表されるSSR配列を含む増幅遺伝子マーカーである、請求項2記載のコムギの選抜方法。
- 配列番号1で表されるSSR配列を含む遺伝子領域の遺伝子増幅産物を得るためのセンスプライマーが、配列番号2で表されるヌクレオチド鎖の塩基配列から選ばれる、連続した10〜21塩基のヌクレオチド鎖を5’末端側に含み、かつ、全体の塩基長が、10〜40塩基のヌクレオチド鎖であり、同アンチセンスプライマーが、配列番号3で表されるヌクレオチド鎖の塩基配列から選ばれる、連続した10〜21塩基のヌクレオチド鎖を3’末端側に含み、かつ、全体の塩基長が、10〜40塩基のヌクレオチド鎖である、請求項3記載のコムギの選抜方法。
- 配列番号1で表されるSSR配列を含む遺伝子領域の遺伝子増幅産物を得るためのセンスプライマーが、配列番号2で表されるヌクレオチド鎖であり、同アンチセンスプライマーが、配列番号3で表されるヌクレオチド鎖である、請求項3記載のコムギの選抜方法。
- 増幅遺伝子マーカーが、配列番号4で表されるSSR配列を含む増幅遺伝子マーカーである、請求項2記載のコムギの選抜方法。
- 配列番号4で表されるSSR配列を含む遺伝子領域の遺伝子増幅産物を得るためのセンスプライマーが、配列番号5で表されるヌクレオチド鎖の塩基配列から選ばれる、連続した10〜20塩基のヌクレオチド鎖を5’末端側に含み、かつ、全体の塩基長が、10〜40塩基のヌクレオチド鎖であり、同アンチセンスプライマーが、配列番号6で表されるヌクレオチド鎖の塩基配列から選ばれる、連続した10〜21塩基のヌクレオチド鎖を3’末端側に含み、かつ、全体の塩基長が、10〜40塩基のヌクレオチド鎖である、請求項6記載のコムギの選抜方法。
- 配列番号4で表されるSSR配列を含む遺伝子領域の遺伝子増幅産物を得るためのセンスプライマーが、配列番号5で表されるヌクレオチド鎖であり、同アンチセンスプライマーが、配列番号6で表されるヌクレオチド鎖である、請求項6記載のコムギの選抜方法。
- 増幅遺伝子マーカーが、配列番号7で表されるSSR配列を含む増幅遺伝子マーカーである、請求項2記載のコムギの選抜方法。
- 配列番号7で表されるSSR配列を含む遺伝子領域の遺伝子増幅産物を得るためのセンスプライマーが、配列番号8で表されるヌクレオチド鎖の塩基配列から選ばれる、連続した10〜20塩基のヌクレオチド鎖を5’末端側に含み、かつ、全体の塩基長が、10〜40塩基のヌクレオチド鎖であり、同アンチセンスプライマーが、配列番号9で表されるヌクレオチド鎖の塩基配列から選ばれる、連続した10〜21塩基のヌクレオチド鎖を3’末端側に含み、かつ、全体の塩基長が、10〜40塩基のヌクレオチド鎖である、請求項9記載のコムギの選抜方法。
- 配列番号7で表されるSSR配列を含む遺伝子領域の遺伝子増幅産物を得るためのセンスプライマーが、配列番号8で表されるヌクレオチド鎖であり、同アンチセンスプライマーが、配列番号9で表されるヌクレオチド鎖である、請求項9記載のコムギの選抜方法。
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