JP5339506B2 - 小麦種子休眠性に関与するmft遺伝子及びその利用 - Google Patents

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Description

本発明は、種子休眠性向上遺伝子、種子休眠性向上マーカー遺伝子、種子休眠性が向上したコムギ品種の育種方法及び種子休眠性が向上した形質転換植物体に関する。
コムギなどの穀物の生産において、しばしば大きな被害をもたらす穂発芽の発生を予防することは大きな課題となっている。穂発芽とは、降雨などの影響により、収穫前の穂に実った種子が発芽してしまう現象を指し、種子の品質を著しく低下させるものである。穂発芽の発生を予防するためには、種子休眠性が高い品種の開発が必要とされており、種子休眠性に関わる遺伝子の同定やQTL(Quantitative trait loci、量的形質遺伝子座)マーカーの開発が求められている。ここで、種子休眠性とは、種子の発芽しにくい性質を表し、種子休眠性が高いほど発芽しにくい。
特許文献1には、コムギの種子休眠性に関係する遺伝子として、VP1遺伝子が報告されている。
コムギの種子休眠QTLに関しては多数の報告があり、これまでに少なくとも30以上の種子休眠QTLが知られている(例えば非特許文献1を参照)。
非特許文献2には、シロイヌナズナの開花時期を制御する遺伝子として知られるFT(Flowering Locus T)及びTFL1(Terminal Flower 1)が、MFT(Mother of FT and TFL1)遺伝子及び他の3つの遺伝子とともにPEBP(phosphatidylethanolamine−binding protein)遺伝子ファミリーを形成していることが記載されている。
WO99/15667 Euphytica,126,39−45,2002 J.Mol.Evol.,61,579−590,2005
上記のように、種子休眠性に関わる遺伝子の同定やQTLマーカーの開発が求められている。そこで本発明は、コムギの種子休眠性がいかなる遺伝子の作用に起因するかを明らかにし、種子休眠性向上遺伝子及び種子休眠性向上マーカー遺伝子を提供することを目的とする。また、本発明の別の目的として、この遺伝子を用いて種子休眠性が向上したコムギ品種を育種する方法及び種子休眠性が向上した形質転換植物体を提供することを目的とする。
コムギは登熟期の気温が低いほど種子休眠性が向上することが知られている。登熟とは、開花後の種子が発育し、肥大し、成熟していく過程をいう。しかしながら、登熟温度と種子における遺伝子の発現量との関係はこれまでに報告されていなかった。
そこで、本発明者らは、登熟時の気温が種子の胚における遺伝子発現変動に及ぼす影響を解析することにより、種子休眠性と対応して発現変動するMFT遺伝子を見出した。また、MFT遺伝子は、登熟温度によって種子休眠性と連動して発現量が変化し、その完熟した種子の胚における発現量は、コムギ品種の種子休眠性とも強い相関を持つことを明らかにした。さらに、MFT遺伝子は、種子休眠性が非常に高いコムギ品種として知られるゼンコウジコムギの主要な種子休眠QTLのピークと一致する位置に座乗する遺伝子であることを明らかにした。
すなわち本発明は、(a)配列番号1に記載の塩基配列、(b)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする塩基配列及び(c)配列番号2に記載のアミノ酸配列と90%以上の配列相同性を有し、且つ配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質と同じ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、からなる群より選択される塩基配列からなる、種子休眠性向上遺伝子を提供する。
配列番号1(アクセッション番号AB456688、2010年10月15日に公開予定)に記載の塩基配列は従来機能が未知であったMFT遺伝子のcDNAであり、配列番号2(アクセッション番号AB456688、2010年10月15日に公開予定)に記載のアミノ酸配列は、配列番号1のcDNAをアミノ酸に翻訳したものである。本発明者らは、MFT遺伝子がコードするタンパク質が種子休眠性に関わる機能を持つことを初めて明らかにした。
本発明はまた、配列番号3又は4に記載の塩基配列からなる、種子休眠性向上マーカー遺伝子を提供する。
配列番号3及び4に記載の塩基配列は、MFT遺伝子のゲノムDNA配列であり、種子休眠性が高いゼンコウジコムギの3A染色体短腕に存在するMFT遺伝子の塩基配列である。後述するように、ゼンコウジコムギの3A染色体短腕に存在するMFT遺伝子は最も作用力の強い種子休眠QTLのピークと一致するものであり、種子休眠性向上マーカー遺伝子として利用することができる。
別の態様において、本発明は、ゼンコウジコムギとそれ以外の品種のコムギを交配して子孫を得る交配ステップと、その子孫のゲノムDNAにおいて、配列番号3又は4に記載の塩基配列からなる種子休眠性向上マーカー遺伝子の存在の有無を検出する検出ステップと、検出ステップにおいて配列番号3又は4に記載の塩基配列からなる種子休眠性向上マーカー遺伝子の存在が検出された場合に、その子孫を種子休眠性が向上したコムギ品種であると判断して選抜する選抜ステップとを含む、種子休眠性が向上したコムギ品種の育種方法を提供する。
この育種方法によって選抜されたコムギは、ゼンコウジコムギの3A染色体短腕に存在するMFT遺伝子を、その発現制御配列とともに保持しており、種子休眠性が高いことが期待できる。種子休眠性が高いコムギ品種は、穂発芽の発生を起こしにくいため、付加価値が高いコムギを安定に生産することができる。
本発明はまた、コムギを交配して子孫を得る交配ステップと、その子孫の種子、種子親の種子及び花粉親の種子における、種子休眠性向上遺伝子の発現量を測定する測定ステップと、測定ステップにおいて、子孫の種子における種子休眠性向上遺伝子の発現量が、種子親又は花粉親のうち、いずれか種子における種子休眠性向上遺伝子の発現量が低い親よりも高い場合に、その子孫を種子休眠性が向上したコムギ品種であると判断して選抜する選抜ステップとを含む、種子休眠性が向上したコムギ品種の育種方法を提供する。
この育種方法によって選抜されたコムギは、その種子におけるMFT遺伝子の発現量が高いため、種子休眠性が高いことが期待できる。
別の態様において、本発明は、請求項1に記載の種子休眠性向上遺伝子を発現可能に保持する形質転換植物体を提供する。この植物体はコムギであってもよいし、イネであってもよい。
このような植物体は、種子休眠性が高いため穂発芽の発生を起こしにくく、安定に生産することができる。
本発明において、種子休眠性向上遺伝子とは、従来その機能が未知であったMFT遺伝子であり、種子休眠性を向上させる機能を持つ遺伝子である。非特許文献1によれば、MFT遺伝子はシロイヌナズナの開花時期を制御する遺伝子であるFTやTFL1と関連がある。そこで、MFT遺伝子は植物の開花時期の制御に関わると予想されていた。発明者らは、この予想に反して、MFT遺伝子は種子で発現し、開花時期の制御ではなく、種子休眠性に影響することを明らかにした。
種子休眠性とは、種子の発芽しにくい性質を表し、種子休眠性が高いほど発芽しにくい。種子休眠性が高ければ穂発芽の発生を予防することができ、コムギをはじめとする穀物の生産に有用である。種子休眠性は、発芽試験などによって測定することができる。発芽試験は、例えば、収穫直後の穂全体を約15℃の水に約24時間浸して吸水させ、続いて、吸水後の穂を密閉容器中に立て、約15℃に設定したチャンバー内でインキュベートし、10日後、発芽した種子の数の、穂の全種子に対する割合として測定することができる。穂発芽の発生を予防するためには、上記の方法で測定した発芽率が、10〜0%であることが好ましく、5〜0%であることがより好ましく、0%であることが最も好ましい。
一つの態様において、本発明は、ゼンコウジコムギとそれ以外の品種のコムギを交配して子孫を得る交配ステップと、その子孫のゲノムDNAにおいて、配列番号3又は4に記載の塩基配列からなる種子休眠性向上マーカー遺伝子の存在の有無を検出する検出ステップと、検出ステップにおいて配列番号3又は4に記載の塩基配列からなる種子休眠性向上マーカー遺伝子の存在が検出された場合に、その子孫を種子休眠性が向上したコムギ品種であると判断する選抜ステップとを含む、種子休眠性が向上したコムギ品種の育種方法を提供する。
ゼンコウジコムギは種子休眠性が高い品種である。コムギの全ゲノム配列は未だ決定されていないため、コムギゲノムの解析は非常に困難であるが、発明者らは、ゼンコウジコムギのゲノム上に複数のMFT遺伝子が存在し、その中でも3A染色体短腕に座乗するMFT遺伝子が種子の胚における発現量が高く、種子休眠性に大きく寄与していることを見出した。これは、3A染色体短腕に座乗するMFT遺伝子の発現制御配列が種子の胚における発現に特に適しているためだと考えられる。発明者らは、ゼンコウジコムギの3A染色体短腕に座乗するMFT遺伝子のゲノム配列を明らかにした。この塩基配列を配列番号3及び4に示す。発明者らは、下記に示す検討の結果、ゼンコウジコムギの3A染色体短腕上には、配列番号3及び4に示す2つのMFT遺伝子が存在することを明らかにした。
上記の育種方法において、ゼンコウジコムギの3A染色体短腕に座乗するMFT遺伝子を受け継いだ子孫は種子休眠性が高いと判断できる。そこで、子孫のゲノムDNA上に配列番号3又は4に記載の塩基配列からなる種子休眠性向上マーカー遺伝子が存在するか否かを検出することによって、ゼンコウジコムギの3A染色体短腕に座乗するMFT遺伝子を受け継いでいるか否かを判断する。このためには、例えば次のような方法を用いることができる。
まず、子孫のコムギからゲノムDNAを抽出する。ゲノムDNAの抽出方法は特に制限されないが、例えば0.1g程度の若い葉を採取し、液体窒素を加えてすり鉢上で磨砕し、DNeasy Plant Mini Kit(キアゲン社)を用いて取扱説明書にしたがって抽出することができる。この操作により、数10ng/μLの濃度のDNA溶液約200μLを得ることができる。
続いて、得られたゲノムDNA上に配列番号3又は4に記載の塩基配列からなる種子休眠性向上マーカー遺伝子が存在するか否かを検出する。この検出方法は特に制限されないが、例えば配列番号3又は4に記載の塩基配列に特異的なプライマーを用いたPCRを行い、目的とするサイズの増幅断片が増幅されるか否かによって検出することができる。
発明者らは、後述するように、ゼンコウジコムギの3A染色体短腕に座乗するMFT遺伝子(配列番号3及び4)を区別可能な配列を同定し、この領域を特異的に増幅することができるプライマーCSZENMTFSSR−F1(配列番号26)及びCSZENMTFSSR−R1(配列番号27)を作成した。これらのプライマーを用いてPCR増幅を行えば、その増幅断片の長さの違いからゼンコウジコムギの3A染色体短腕に座乗するMFT遺伝子であるか否かを区別することができる。そこで、例えば、これらのプライマーを用いたPCR解析によって、上記の子孫のコムギから抽出したゲノムDNA上にゼンコウジコムギの3A染色体短腕に座乗するMFT遺伝子が存在するか否かを判断することができる。
別の態様において、本発明は、コムギを交配して子孫を得る交配ステップと、その子孫の種子、種子親の種子及び花粉親の種子における、種子休眠性向上遺伝子の発現量を測定する測定ステップと、測定ステップにおいて、子孫の種子における種子休眠性向上遺伝子の発現量が、種子親又は花粉親のうち、いずれか種子における種子休眠性向上遺伝子の発現量が低い親よりも高い場合に、その子孫を種子休眠性が向上したコムギ品種であると判断して選抜する選抜ステップとを含む、種子休眠性が向上したコムギ品種の育種方法を提供する。
発明者らは、後述するように、種子におけるMFT遺伝子の発現量が高いほど種子休眠性が高い傾向があることを明らかにした。したがって、コムギを交配した子孫の中から、その種子親及び花粉親いずれかの親のうち、その種子におけるMFT遺伝子の発現量が低い親と比較した場合に、種子におけるMFT遺伝子の発現量が高まった子孫を選別することにより、種子休眠性が向上したコムギを得ることができる。この場合、一般的に、種子親及び花粉親いずれかの親のうち、その種子におけるMFT遺伝子の発現量が低い親は、種子休眠性以外の優良な形質を持つ。ここで、優良な形質とは、例えば、高収量性、良品質、耐病性などの形質である。
上記の育種方法の比較ステップにおいて、子孫、種子親及び花粉親の種子におけるMFT遺伝子の発現量を測定する。この方法は特に制限されないが、例えば次のような定量PCRによって行うことができる。
まず、子孫、種子親及び花粉親の種子から全RNAを抽出する。全RNAは種子の胚から抽出することが好ましい。RNA抽出には、例えばTrizol試薬(インビトロジェン社)などを用いることができる。続いてこの全RNAをもとにファーストストランドcDNAを合成する。cDNAの合成には、例えばSuperScript First−Strand Synthesis System for RT−PCR(インビトロジェン社)を用いることができる。続いて、これらのcDNAを鋳型として定量PCRを行う。ここで、例えばグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH)遺伝子などのハウスキーピング遺伝子を内部標準として使用し、MFT遺伝子の発現を定量するとよい。この場合のMFT遺伝子は、3A染色体短腕に存在するものに限定する必要はなく、他の染色体から発現するMFT遺伝子も合わせて検出することが好ましい。例えば後述するQRT−MTF−F2(配列番号13)及びTaMTF−R3(配列番号14)のプライマーを用いることにより、どの染色体に由来するかに関わらず全てのMFT遺伝子をPCR増幅することが可能である。
得られた定量PCRの結果をもとに、種子休眠性が向上した子孫を選別する。種子親及び花粉親いずれかの親のうち、その種子におけるMFT遺伝子の発現量が低い親と比較した場合に、種子におけるMFT遺伝子の発現量が高まった子孫は、種子休眠性が向上したコムギであると判断することができる。
別の態様において、本発明はMFT遺伝子を発現可能に保持する形質転換植物体を提供する。対象とする植物体は種子休眠性の向上が望まれる植物であれば特に制限されないが、実施例において後述するように、コムギやイネであってよい。この育種方法は、遺伝子導入によって、植物体におけるMFT遺伝子の発現量を増加させることにより、種子休眠性を向上させるものである。
まず、MFTの発現ベクターを構築する。発現ベクターは、植物体内で発現可能なプロモーター、MFT遺伝子配列、翻訳終結配列を含む。発現ベクターはまた、必要に応じて、大腸菌における複製起点、大腸菌における選択マーカー(アンピシリン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子など)、植物体における選択マーカー(カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ビアラホス(bar)耐性遺伝子など)、ポリアデニル化配列、エンハンサー配列などを更に含んでもよい。
植物体内で発現可能なプロモーターとしては、種子特異的な発現を誘導するものであってもよく、組織に関係なく構成的に発現するものであってもよい。例えばユビキチンプロモーター、アクチンプロモーター、Emプロモーター、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターなどが例示できるが、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターが好ましい。
コムギへの遺伝子導入は、一般的なパーティクルボンバードメント法を用いて行うことができる。例えば、金粒子にまぶしたMFTの発現ベクターDNAを、パーティクルボンバードメント法を用いて、小麦未熟種子から取り出した未熟胚に打ち込むことにより遺伝子導入する。続いて、遺伝子導入した未熟胚を、植物ホルモンであるオーキシンなどを含む培地で培養後、オーキシンの濃度を下げることにより、個体を再分化させて形質転換植物体を得ることができる。例えば、ビアホラス耐性遺伝子を含むMFTの発現ベクターをコムギに導入した場合、導入遺伝子を取り込んだ形質転換植物体は、ビアホラス耐性となるので、ビアホラスを添加した培地を用いることにより選抜することができる。
イネへの遺伝子導入は、一般的なアグロバクテリウム法を用いて行うことができる。例えば、イネの種子を脱穀して次亜塩素酸で滅菌後、オーキシンを含む培地に置床し、種子由来のカルスを誘導する。続いて、このカルスを、MFTの発現ベクターを導入したアグロバクテリウムの溶液に浸してアグロバクテリウムに感染させることにより、発現ベクターのライトボーダーとレフトボーダーの間に導入されているDNAを植物体の核に組み込ませる。例えば、ハイグロマイシン耐性遺伝子を含むMFTの発現ベクターをイネに導入した場合、遺伝子を取り込んだ形質転換体は、ハイグロマイシン及びアグロバクテリウムを除菌するためのカルベニシリンなどの除菌剤を添加した培地で選抜することができる。その後、オーキシンを除いた再分化培地で培養して再分化させ、続いて、発根培地へと移し変えることにより、MFT遺伝子を発現可能に保持する形質転換植物体を得ることができる。
これらのMFT遺伝子を発現可能に保持する植物体は、種子におけるMFT遺伝子の発現量が増加しており、種子休眠性が向上しているため、穂発芽の発生を予防することができる。
以下、本発明の実施例を示して、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。
〔実施例1〕
コムギ種子の登熟温度と休眠性の検討
(コムギの栽培)
コムギ品種農林61号を温室で栽培した。開花後、コムギを複数の群に分け、温室の温度をそれぞれ13、15、17、20、23及び25℃に設定した。開花後所定の日数後に穂を収穫した。
(発芽試験)
収穫した穂を使用して発芽試験を行い、種子休眠性を検討した。発芽試験は次のようにして行った。まず、収穫直後の穂全体を15℃の水に約24時間浸して吸水させた。続いて、吸水後の穂を密閉容器中に立て、15℃に設定したチャンバー内でインキュベートした。10日後、発芽した種子の数を数え、穂の全種子を基準として種子の発芽率を測定した。試験は各組5本の穂を3組ずつ用いて行った。
結果を図1のグラフに示す。グラフの縦軸は発芽率を表し、横軸は種子を収穫した開花後の日数を表す。登熟温度が低くなるほど種子の発芽率が低下し、休眠性が高まることが示された。
〔実施例2〕
農林61号とシロガネコムギの種子の発芽率と含水率の検討
(コムギの栽培)
コムギ品種農林61号及びシロガネコムギを温室で栽培した。開花後、それぞれのコムギを2つの群に分け、温室の温度を13℃及び25℃に設定した。開花後所定の日数後に穂を収穫し、実施例1と同様にして発芽率の推移を検討した。
(種子の含水率の測定)
発芽率と同時に種子の含水率も測定した。含水率は種子の登熟の進行具合の目安となる。種子が完熟すると含水率が約15%以下になり、この値は品種によってあまり変化しないことが知られている。収穫した種子を80℃で48時間乾燥させ、乾燥の前後の種子の質量を測定し、その質量の差から次式(1)により含水率を計算した。
含水率(質量%)=乾燥の前後の種子の質量の差/乾燥前の種子の質量×100…(1)
結果を図2のグラフに示す。グラフの縦軸は発芽率又は含水率を表し、横軸は種子を収穫した開花後の日数を表す。25℃で登熟させたコムギに比較して13℃で登熟させたコムギは発芽率が低下し、休眠性が高まることが示された。また、農林61号はシロガネコムギよりも13℃で登熟させた場合の発芽率が低く、休眠性がより高いことが示された。
〔実施例3〕
登熟温度が異なる完熟種子胚における遺伝子発現変動の解析
(RNAサンプルの調製)
コムギ品種農林61号を栽培し、13℃で登熟させて開花76日後に収穫した種子の胚と、25℃で登熟させて開花34日後に収穫した種子の胚から全RNAを抽出した。また、コムギ品種シロガネコムギを栽培し、13℃で登熟させて開花80日後に収穫した種子の胚と、25℃で登熟させて開花38日後に収穫した種子の胚から全RNAを抽出した。RNA抽出にはTrizol試薬(インビトロジェン社)を用いた。抽出した全RNAの量及び純度を吸光的に測定し、RNAが分解を受けていないかアジレント2100バイオアナライザー(アジレント・テクノロジー社)を用いて確認した。
(マイクロアレイ解析)
抽出した全RNA各300ngをLow RNA Input Linear Amplification/Labeling Kit (アジレント・テクノロジー社)を用いて取扱説明書にしたがってCy3及びCy5で標識した。標識されたサンプルのcRNA各850ngを、コムギEST(Expressed Sequence Tag)に由来する37826個のプローブを有するアジレントコムギオリゴマイクロアレイ(44K;木原生物学研究所の注文によりアジレント・テクノロジー社が製造した)とのハイブリダイゼーションに使用した。ハイブリダイゼーション後、マイクロアレイスライドをスキャンした。スキャナーにはG2505B(アジレント・テクノロジー社)を用い、ソフトウエアにはG2565BA(アジレント・テクノロジー社)を用いた。
(データ解析)
得られたデータを初期設定のFeature Extraction software(バージョン 9.1;アジレント・テクノロジー社)を用いて解析した。全てのマイクロアレイ操作手順及びデータ解析は取扱説明書(アジレント・テクノロジー社)にしたがって行った。データはGeneSpring GX 7.3 ソフトウエア(アジレント・テクノロジー社)を用いて解析した。
図3に農林61号のRNAサンプルを用いて解析したデータを示す。13℃及び25℃で登熟させた種子の胚において、シグナル強度が500以上の遺伝子を比較した結果、約1800個の遺伝子が2倍以上の発現差を示した。これらの遺伝子のうち、発現変動の差が2番目に大きい遺伝子として、MFT遺伝子が見出された。農林61号のサンプルにおいて、13℃で登熟させた種子におけるMFTの発現量は25℃で登熟させた種子におけるMFTの発現量の15倍であった。また、シロガネコムギのサンプルにおいて、13℃で登熟させた種子におけるMFTの発現量は25℃で登熟させた種子におけるMFTの発現量の9倍であった。
〔実施例4〕
定量PCRによる発現変動の確認
(cDNAの合成)
実施例3で抽出したコムギ品種農林61号及びシロガネコムギの全RNAをもとに、SuperScript First−Strand Synthesis System for RT−PCR(インビトロジェン社)を用いてファーストストランドcDNAを合成した。
(定量PCR)
合成したcDNAを鋳型として定量PCRを行い、MFT遺伝子の発現量を定量した。定量PCR用のプライマーは、Primer Analysis Software version 6(MBI社)を用いて設計した。使用したプライマー配列を表1に示す。定量PCRは7500リアルタイムPCRシステム(アプライド バイオシステムズ社)及びSYBRプレミックスExTaqキット(タカラバイオ)を用いて行った。コムギのグリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素(GAPDH)遺伝子を内部標準として使用した。PCR条件は94℃2分を1サイクル、95℃15秒及び60℃1分を40サイクルであった。得られたデータは、Absolute Quantification study software(アプライド バイオシステムズ社)の標準曲線法により解析した。
定量PCRの結果を図4に示す。マイクロアレイ解析の結果と同様に、定量PCRの結果からも、13℃及び25℃で登熟させた種子の胚の間で、MFT遺伝子の発現量に差があることが確認された。農林61号のサンプルにおいて、13℃で登熟させた種子におけるMFTの発現量は25℃で登熟させた種子におけるMFTの発現量の9倍であった。また、シロガネコムギのサンプルにおいて、13℃で登熟させた種子におけるMFTの発現量は25℃で登熟させた種子におけるMFTの発現量の11倍であった。
〔実施例5〕
MFT遺伝子のcDNA及びゲノムDNAの単離
成熟した胚から抽出した全RNAをもとに合成したファーストストランドcDNAのPCRにより、MFT遺伝子のcDNAを単離した。全RNAはTrizol試薬(インビトロジェン社)を用いて抽出した。ファーストストランドcDNA合成はSuperScript First−Strand Synthesis System(インビトロジェン社)を用いて行った。また、MFT遺伝子の全長又は一部のゲノムDNAをPCRによって単離した。cDNA及びゲノムDNAの単離に用いたPCRプライマーを表2にまとめた。単離した遺伝子の塩基配列はBigDye バージョン3.0 ターミネーター試薬(アプライド バイオシステムズ社)を用いて3100 Avant Genetic Analyzerにより決定した。決定された配列はDNASIS Pro sequence analysis ソフトウエア バージョン2.0(日立ソフトウエア)及びSequencher version4.1(Gene Codes社)を用いて解析した。アミノ酸配列のアラインメントはClustalW バージョン1.83(Thomopson ら、1994)を用いて日本DNAデータバンクのウェブサイト(http://www.ddbj.nig.ac.jp/)で行った。アラインメントの結果はBOXSHADE(http://www.ch.embnet.org/)を用いて表示した。
図5にコムギ品種Triticum monococcum(Tm)(配列番号5、アクセッション番号AB456687、2010年10月15日に公開予定)、Triticum boeoticum(Tb)(配列番号6、アクセッション番号AB456686、2010年10月15日に公開予定)、チャイニーズスプリング(CS)(配列番号7)、ゼンコウジコムギ3A染色体(Zen(3A))(配列番号2)、ゼンコウジコムギ3D染色体(Zen(3D))(配列番号8、アクセッション番号AB456689、2010年10月15日に公開予定)、イネ(Rice)(配列番号9)及びシロイヌナズナ(Arabidopsis)(配列番号10)のMFT遺伝子のアミノ酸配列をアラインメントした結果を示す。
〔実施例6〕
2倍体コムギを用いたMFT遺伝子のマッピング
(マッピング集団)
MFT遺伝子のマッピングには、Triticum monococcum KT3−5株(Tm)とTriticum boeoticum KT1―1株(Tb)の交配により得られた組換え自殖系統の2倍体マッピング集団115個体を用いた。この集団は横浜市立大学木原生物学研究所において単粒系統法により作出された。2倍体コムギ集団の遺伝子型データはウェブサイト(http://www.shigen.nig.ac.jp/wheat/komugi/top/top.jsp)で入手可能である。
(TmおよびTbのMFT遺伝子の塩基配列の決定)
Tm及びTbのMFT遺伝子のイントロン領域を含むゲノム配列を、プライマーTaMTF−F3(配列番号16)及びTaMTF−R2(配列番号17)を用いたPCR法により単離した。鋳型には2倍体コムギの胚から抽出したゲノムDNAを用い、PCR増幅にはPrimeSTAR(登録商標) DNA Polymerase with GC Buffer(タカラバイオ社)を用いた。PCR法により増幅された断片をQIAquick Gel Extraction kit(QIAGEN社)で精製し、断片を直接シークエンスするダイレクトシークエンス法により2倍体コムギTmおよびTbのMFT遺伝子の塩基配列を決定した。
(多型解析)
2倍体マッピング集団115個体全てについて、MFT遺伝子の多型を解析した。多型解析には、CAPS法(The cleaved−length amplified polymorphic sequence method)を用いた。2倍体マッピング集団それぞれのゲノムDNAを鋳型として、TaMTF−F3(配列番号16)及びTaMTF−R3(配列番号14)プライマーを用いてPCR増幅後、増幅断片を制限酵素HinfIで切断し、3%Metaphorゲル(タカラバイオ社)及び0.5×TBEバッファーを用いて電気泳動し、増幅断片のサイズの違いから多型を判別した。PCRの条件は、94℃1分を1サイクル、94℃20秒、60℃30秒及び72℃1分を40サイクルであった。
(遺伝子地図の作成)
多型解析の結果をもとに遺伝子地図を作成した。遺伝子地図は、Kosambi関数(Kosambi、1944)を用いて、JoinMap、バージョン3.0(Biometris、Wageningen、オランダ、http://www.joinmap.nl)により作成した。また、イネホモログの染色体位置はウェブサイト(http://rgp.dna.affrc.go.jp/IRGSP/index.html)のデータを用いて決定した。Tmの3A染色体(3A)の遺伝子地図を図6(B)に示す。MFT遺伝子は、第3染色体短腕に位置することが明らかになった。この領域には、図6(A)に示すように、ゼンコウジコムギの最も作用力の強い種子休眠QTL(Quantitative trait loci、量的形質遺伝子座)が座乗する。
〔実施例7〕
6倍体コムギを用いたMFT遺伝子のマッピング
(チャイニーズスプリング及びゼンコウジコムギのMFT遺伝子の部分ゲノム配列の決定)
6倍体コムギであるゼンコウジコムギとチャイニーズスプリングのMFT遺伝子の3つのイントロン領域を含むゲノム領域の配列を決定した。これらのコムギのゲノムDNAをTaMTF−F3(配列番号16)及びTaMTF−R2(配列番号17)プライマーを用いてPCR増幅後、TOPOクローニングキット(インビトロジェン社)を用いて、pCR4Blunt−TOPO ベクター(インビトロジェン社)にクローニングし、ケミカル法にてTOP10コンピテントセル(インビトロジェン社)を形質転換した。続いて、得られた大腸菌を培養し、プラスミドDNAを抽出して塩基配列を決定した。後述する検討の結果、ゼンコウジコムギのゲノムDNAに特異的な配列であることが明らかとなったMFT遺伝子のゲノム配列を配列番号3及び4に示す。
(ゲノム配列の座乗染色体の決定)
チャイニーズスプリングには、4種類のMFT遺伝子配列が存在することが明らかとなった。これらのMFT遺伝子のゲノム配列を、以下、それぞれCS3(配列番号22)、CS4(配列番号23)、CS6(配列番号24)、CS8(配列番号25)と呼ぶ。これらのMFT遺伝子が、それぞれ3A、3B及び3D染色体のうちのどの染色体に由来するものかを同定するため、チャイニーズスプリングの6個のダイテロソミック系統を使用して検討した。Primer3ソフトウエアを使用して、各MFT遺伝子に対応する少なくとも1つのSSR(Simple Sequence Repeats)プライマーセットを設計した。PCRに基づいた解析の結果、CS6遺伝子及びCS3遺伝子に特異的な増幅断片が、それぞれダイテロ3AL(3A染色体短腕を欠失した系統)及びダイテロ3DL(3D染色体短腕を欠失した系統)中で認められなかった。この結果から、3A染色体の短腕がCS6遺伝子を保持しており、3D染色体の短腕がCS3遺伝子を保持していることが示唆された。
(CS6遺伝子に対する多型マーカーの作出)
ゼンコウジコムギの主要な種子休眠QTLは、3A染色体短腕上に座乗していることから、このCS6遺伝子に関して、ゼンコウジコムギの3A染色体短腕上のMFT遺伝子との間で多型を検出できるマーカーを作製した。ゼンコウジコムギ及びチャイニーズスプリングの得られたすべてのMFT遺伝子ゲノム配列を、ClustalWソフトを用いて並べて比較し、CS6遺伝子に特異的な配列を同定した。この結果に基づいてCS6遺伝子を区別することが可能なCSZENMTFSSR−F1(配列番号26)及びCSZENMTFSSR−R1(配列番号27)プライマーを作製した。表3にプライマー配列を示す。これらのプライマーを用いたPCRにより、ゼンコウジコムギ及びチャイニーズスプリングのゲノムDNAのMFT遺伝子(CS6)が増幅されるが、増幅断片の長さの違いにより、ゼンコウジコムギ及びチャイニーズスプリングのいずれに由来する塩基配列であるかを区別することができる。配列番号3に示すゼンコウジコムギのMFT遺伝子を増幅した場合の増幅断片の長さは205bpであり、配列番号4に示すゼンコウジコムギのMFT遺伝子を増幅した場合の増幅断片の長さは206bpである。また、チャイニーズスプリングのMFT遺伝子(CS6)を増幅した場合の増幅断片の長さは203bpである。コムギにはほとんど多型が存在しないことが知られており、およそ20〜200Kbpに1つのSNP(Single Nucleotide Polymorphism)しか存在しないと言われている。したがって、配列番号3又は4に示す塩基配列からなる種子休眠性向上マーカー遺伝子は非常に有用であり、ゼンコウジコムギの3A染色体短腕に座乗するMFT遺伝子を特異的に識別することが可能である。
(CS(Zen3A)の作製)
コムギ品種チャイニーズスプリング(CS)にゼンコウジコムギ(Zen)の3A染色体を置換した1染色体置換系統であるCS(Zen3A)を、Law及びWorlandらによって報告された通常の方法により、チャイニーズスプリングのモノテロソミック3A系統を反復親に用いて作製した。まず、チャイニーズスプリングのモノテロソミック3Aをゼンコウジコムギの花粉を用いて受粉させ、その子孫の中からモノソミックなF植物を根端の有糸分裂染色体標本の細胞学的な試験により同定した。ダイソミックCS(Zen3A)置換を得る前に合計8回の戻し交配を行った。
(MFT遺伝子のマッピング)
6倍体コムギであるチャイニーズスプリングと上記のCS(Zen3A)を交配して得られたF集団3851個体を使った精密マッピングを行った。
(多型の検出)
多型の検出は、CSZENMTFSSR−F1(配列番号26)及びCSZENMTFSSR−R1(配列番号27)プライマーを用いたPCRにより行った。PCRは、ゲノムDNA約10ng(1μL)をTakara LA Taq with GC buffer(タカラバイオ)及び各5pmolのプライマーを使って全容量20μLの系で行った。PCRのサイクル条件は、94℃4分を1サイクル、94℃30秒、55℃30秒及び72℃90秒を35サイクル、72℃4分を1サイクルであった。
得られたPCR増幅断片を使用し、ABI3730xl(アプライド バイオシステムズ社)のFragment解析のプロトコールに準じてサンプルの調製を行った。具体的には、PCR増幅断片2μLとサイズマーカーであるGeneScan 600LIZ 0.5μLを混ぜて、Hi−Di Formamideで全量を20μLにして、94℃5分、続いて氷上30分処理した。反応終了後、ABI3730xl(アプライド バイオシステムズ社)を用いて泳動を行った。得られた結果は、GeneMapper(登録商標)4.0(アプライド バイオシステムズ社)を用いて解析した。図7に、これらの増幅断片の長さの違いを検出した例を示す。図中の点線で示す波形はサイズマーカーを表す。実線で示す波形はPCR増幅断片の長さを表す。図7(A)は、チャイニーズスプリングのゲノムを検出した結果を示し、図7(B)は、上記のCS(Zen3A)のゲノムを検出した結果を示す。図7(C)はチャイニーズスプリングとCS(Zen3A)のヘテロ体のゲノムを検出した結果を示す。
解析の結果、MFT遺伝子は、遺伝子マーカーXwocs205とXbarc310の間に座乗していることが明らかとなった。結果を図8に示す。この座乗位置は、ゼンコウジコムギの最も作用力の強い種子休眠QTLのピークと一致した。
〔実施例9〕
MFT遺伝子の発現量の品種間差の検討
様々なコムギ品種の種子の胚から全RNAを抽出し、実施例4と同様の方法により定量PCRを行い、MFT遺伝子の発現量を比較した。図9に定量PCRの結果をグラフで示す。その結果、休眠性が比較的高い、ゼンコウジコムギ、ミナミノコムギ、東山22号、しゅんよう及び13℃で登熟させた農林61号においてMFT遺伝子の発現量が多いことが示された。また、休眠性が比較的低い、チャイニーズスプリング、チホクコムギ、タイセツコムギ、東山18号及び25℃で登熟させた農林61号においてMFT遺伝子の発現量が少ないことが明らかとなった。
〔実施例10〕
3D染色体短腕の種子休眠QTLと3D染色体短腕のMFT遺伝子の発現の検討
発明者らは、チャイニーズスプリングの3D染色体短腕のMFT遺伝子は発現していないが、ゼンコウジコムギの3D染色体短腕のMFT遺伝子は発現していることを見出した。3D染色体短腕上のMFT遺伝子が座乗する位置においても種子休眠のQTLが検出されている。そこで、コムギ品種チャイニーズスプリングとゼンコウジコムギを交配して得られたRIL集団を利用して以下の検討を行った。
各RIL集団(RIL−001〜RIL−054)の3D染色体短腕におけるMFT遺伝子座周辺のゲノムが、チャイニーズスプリングとゼンコウジコムギのいずれに由来する塩基配列であるかをそれぞれ解析した。解析結果を図9にまとめた。Xwocs206、Xwocs205、MFT、Xwocs210、cfd79.Dは、コムギゲノム上のマーカー遺伝子を表しており、コムギゲノム3D染色体短腕上において、遺伝子マーカーがこの順に並んでいることを表す。図において、「z」の表記は各RIL個体におけるその遺伝子座がゼンコウジコムギの塩基配列を受け継いでいることを示し、「c」の表記はチャイニーズスプリングの塩基配列を受け継いでいることを示す。「h」の表記はヘテロであることを意味しており、ゼンコウジコムギとチャイニーズスプリングの塩基配列をいずれも受け継いでいることを示す。「N」及び「−」の表記は判定できなかったことを示す。
発明者らは、これらのRIL個体それぞれの種子の胚における、3D染色体由来のMFT遺伝子の発現を解析し、図10に示した各RIL個体のゲノム構造と対比させた。その結果、3D染色体におけるゼンコウジコムギ型のMFT遺伝子は種子の胚において発現しており、3D染色体におけるチャイニーズスプリング型のMFT遺伝子は発現していないことが明らかとなった。
〔実施例11〕
コムギ品種ボブホワイトにおけるMFT遺伝子の強制発現
ゼンコウジコムギの3A染色体由来のMFT遺伝子のコーディング領域を、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターに連結した発現ベクターを構築し、パーティクルボンバードメント法により導入した。
〔実施例12〕
イネ品種日本晴におけるMFT遺伝子の強制発現
ゼンコウジコムギの3A染色体由来のMFT遺伝子のコーディング領域を、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターに連結した発現ベクターを構築し、アグロバクテリウム法により導入した。その結果、遺伝子導入された形質転換植物体が約30個体得られた。
実施例1の結果を表すグラフである。 実施例2の結果を表すグラフである。「農61」はコムギ品種農林61号を表し、「シロガネ」はコムギ品種シロガネコムギを表す。 実施例3の結果を表すグラフである。 実施例4の結果を表す図である。 各種の植物のMFT遺伝子のアミノ酸配列をアラインメントした図である。 (A)コムギ品種ゼンコウジコムギの種子休眠QTLを示す図である。(B)コムギ品種Triticum monococcum(Tm)の3A染色体(3A)の遺伝子地図である。 (A)チャイニーズスプリング(CS)の3A染色体短腕に座乗するMFT遺伝子の多型を検出した結果である。(B)チャイニーズスプリングにゼンコウジコムギの3A染色体を置換した1染色体置換系統(CS(Zen3A))における、3A染色体短腕に座乗するMFT遺伝子の多型を検出した結果である。(C)ヘテロ体における、3A染色体短腕に座乗するMFT遺伝子の多型を検出した結果である。 コムギ品種ゼンコウジコムギの3A染色体の遺伝子地図である。 実施例10の結果を表すグラフである。 コムギ品種チャイニーズスプリングとゼンコウジコムギを交配して得られたRIL集団の3D染色体のゲノム構造を表す図である。

Claims (7)

  1. 以下の(a)〜(c):
    (a)配列番号1に記載の塩基配列、
    (b)配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする塩基配列、
    (c)配列番号2に記載のアミノ酸配列と90%以上の配列相同性を有し、且つ配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質と同じ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列
    からなる群より選択される塩基配列からなる、種子休眠性向上遺伝子。
  2. 配列番号3又は4に記載の塩基配列からなる、種子休眠性向上マーカー遺伝子。
  3. ゼンコウジコムギとそれ以外の品種のコムギを交配して子孫を得る交配ステップと、
    当該子孫のゲノムDNAにおいて、請求項2に記載の種子休眠性向上マーカー遺伝子の存在の有無を検出する検出ステップと、
    検出ステップにおいて請求項2に記載の種子休眠性向上マーカー遺伝子の存在が検出された場合に、前記子孫を種子休眠性が向上したコムギ品種であると判断して選抜する選抜ステップと
    を含む、種子休眠性が向上したコムギ品種の育種方法。
  4. コムギを交配して子孫を得る交配ステップと、
    当該子孫の種子、種子親の種子及び花粉親の種子における、請求項1に記載の種子休眠性向上遺伝子の発現量を測定する測定ステップと、
    測定ステップにおいて、子孫の種子における種子休眠性向上遺伝子の発現量が、種子親又は花粉親のうち、いずれか種子における種子休眠性向上遺伝子の発現量が低い親よりも高い場合に、当該子孫を種子休眠性が向上したコムギ品種であると判断して選抜する選抜ステップと
    を含む、種子休眠性が向上したコムギ品種の育種方法。
  5. 請求項1に記載の種子休眠性向上遺伝子を発現可能に保持する形質転換植物体。
  6. コムギである、請求項5に記載の形質転換植物体。
  7. イネである、請求項5に記載の形質転換植物体。
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