JP2004100652A - 制御装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】制御装置1のECU2は、出力偏差の予測値PREVO2を算出し(step22)、ΔΣ変調アルゴリズムまたはスライディングモード制御アルゴリズムに基づき、予測値PREVO2に応じて、目標空燃比KCMDを算出し(step38〜40)、内燃機関3の運転状態に応じて、一方のアルゴリズムに基づいて算出された目標空燃比KCMDを選択し(step71,73)、目標空燃比KCMDの選択がΔΣ変調アルゴリズムからスライディングモード制御アルゴリズムに変化した場合、|PREVO2|≦VDSMENDのときに目標空燃比KCMDの算出の切り換えを実行する(step76,192)。
【選択図】 図28
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、制御対象の出力と目標値との偏差に応じて算出した制御入力を制御対象に入力することにより、制御対象の出力を目標値に収束させるように制御する制御装置に関し、特に、制御入力を、Δ変調アルゴリズム、ΔΣ変調アルゴリズムおよびΣΔ変調アルゴリズムのいずれか1つの変調アルゴリズムに基づく算出処理と、応答指定型制御アルゴリズムに基づく算出処理とに切り換えて算出するものに関する。
【0002】
【従来の技術】
本出願人は、この種の制御装置として、例えば特願2001−400988号において、内燃機関の混合気の空燃比を制御するものをすでに提案している。この制御装置は、内燃機関の排気通路の触媒装置よりも下流側に設けられた酸素濃度センサと、ΔΣ変調アルゴリズムに基づく制御アルゴリズムにより、混合気の空燃比を制御するADSMコントローラと、スライディングモード制御アルゴリズムに基づく制御アルゴリズムにより、混合気の空燃比を制御するPRISMコントローラと、を備えている。
【0003】
この制御装置では、空燃比制御が、内燃機関の運転状態に応じて、ADSMコントローラおよびPRISMコントローラの一方に切り換えられて実行される。より具体的には、ADSMコントローラでは、ΔΣ変調アルゴリズムに基づく制御アルゴリズムにより、酸素濃度センサの出力と所定の目標値との偏差に応じて、酸素濃度センサの出力を目標値に収束させるための目標空燃比が算出され、この目標空燃比に応じて混合気の空燃比が制御される。また、PRISMコントローラでは、スライディングモード制御アルゴリズムに基づく制御アルゴリズムにより、酸素濃度センサの出力と所定の目標値との偏差に応じて、酸素濃度センサの出力を目標値に収束させるための目標空燃比が算出され、この目標空燃比に応じて混合気の空燃比が制御される。
【0004】
以上のADSMコントローラまたはPRISMコントローラによる空燃比制御により、酸素濃度センサの出力が目標値に収束するように制御され、その結果、触媒装置の排気ガス浄化率が良好な状態に維持される。その際、ADSMコントローラによる空燃比制御では、酸素濃度センサの出力が目標値よりもリッチ側にある場合(すなわち触媒装置に供給される排気ガスがリッチ側にある場合)には、酸素濃度センサの出力の目標値への収束速度がリーン側にある場合よりも緩やかになるように、混合気の空燃比が制御される。これは、酸素濃度センサの出力が目標値よりもリッチ側にある場合、これを目標値に急速に収束させるように、混合気の空燃比を制御すると、目標空燃比がリーン側の値に設定されることで、触媒装置に供給される排気ガスの空燃比が急速にリーン化され、その結果、触媒装置内の上流側部分の触媒が過度にリーン化されることに起因してNOx浄化率が低下するので、これを防止するためである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来の空燃比制御装置によれば、ADSMコントローラによる空燃比制御からPRISMコントローラによる空燃比制御に切り換えられた場合、この切り換え前の時点で、酸素濃度センサの出力が目標値よりもリッチ側にかなり離れていたときには、空燃比制御の切り換え後、PRISMコントローラにより、制御入力としての目標空燃比が、酸素濃度センサの出力がADSMコントローラよりも速い速度で目標値に収束するように、ADSMコントローラの算出値よりもリーン側の値に設定されることで、混合気の空燃比がリーン側に大幅に急変し、切り換えの前後間で段差を生じてしまうことがある。その結果、上述したように、触媒装置内の触媒の上流側部分が過度にリーン化されることに起因して、NOx浄化率が低下してしまうおそれがある。これは、PRISMコントローラでは、応答指定型制御アルゴリズムの一種であるスライディングモード制御アルゴリズムを用いることにより、酸素濃度センサの出力の目標値への収束速度をADSMコントローラよりも高めることによって、空燃比制御の制御精度を高めるようにしているためである。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、Δ変調アルゴリズム、ΔΣ変調アルゴリズムおよびΣΔ変調アルゴリズムのいずれか1つに基づく制御処理と、応答指定型制御アルゴリズムに基づく制御処理とに切り換えて、制御対象の出力を目標値に収束させるように制御する場合において、2つの制御処理の切り換えの前後間における制御入力の段差(急激な変化)を解消でき、それにより、切り換えの際の制御対象の出力の急激な変化を回避できる制御装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために、請求項1に係る制御装置1は、制御対象の出力(例えば実施形態における(以下、この項において同じ)酸素濃度センサ15の出力Vout)と所定の目標値Vopとの偏差(出力偏差VO2の予測値PREVO2)を算出する偏差算出手段(ECU2、状態予測器22、ステップ34)と、Δ変調アルゴリズム、ΔΣ変調アルゴリズムおよびΣΔ変調アルゴリズムのうちのいずれか1つの変調アルゴリズムに基づき、算出された偏差に応じて、制御対象の出力を目標値に収束させるための、制御対象への制御入力(目標空燃比KCMD)を算出する第1の制御入力算出手段(ECU2、DSMコントローラ24、SDMコントローラ29、DMコントローラ30、ステップ39,40)と、応答指定型制御アルゴリズムに基づき、算出された偏差に応じて、制御対象の出力を目標値に収束させるための、制御対象への制御入力(目標空燃比KCMD)を算出する第2の制御入力算出手段(ECU2、スライディングモードコントローラ25、ステップ38,40)と、制御対象の状態(吸気管内絶対圧PBA、エンジン回転数NE)を検出する検出手段(ECU2、吸気管内絶対圧センサ11、クランク角センサ13)と、検出された制御対象の状態に応じて、第1および第2の制御入力算出手段の一方を、制御入力算出手段として選択する選択手段(ECU2、ステップ71,73)と、選択手段により選択された制御入力算出手段が第1および第2の制御入力算出手段の一方から他方に変化した場合(ステップ74の判別結果がNOからYESになった場合)において、算出された偏差が所定の範囲内にあるとき(|PREVO2|≦VDSMENDのとき)に、制御入力算出手段の一方から他方への切り換えを実行する切換手段(ECU2、ステップ76,192)と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この制御装置によれば、制御対象の出力を目標値に収束させるための制御入力が、第1の制御入力算出手段により、Δ変調アルゴリズム、ΔΣ変調アルゴリズムおよびΣΔ変調アルゴリズムのうちのいずれか1つの変調アルゴリズムに基づき、制御対象の出力と所定の目標値との偏差に応じて算出され、第2の制御入力算出手段により、応答指定型制御アルゴリズムに基づき、制御対象の出力と所定の目標値との偏差に応じて算出される。また、選択手段により、第1および第2の制御入力算出手段の一方が、検出された制御対象の状態に応じて制御入力算出手段として選択され、この選択手段によって選択された制御入力算出手段が第1および第2の制御入力算出手段の一方から他方に変化した場合において、算出された偏差が所定の範囲内にあるときに、制御入力算出手段の一方から他方への切り換えが、切換手段により実行される。一般に、Δ変調アルゴリズム、ΔΣ変調アルゴリズムおよびΣΔ変調アルゴリズムでは、その算出値としての制御入力は、所定の上限値と下限値との間で反転を繰り返す値として算出される。また、応答指定型制御アルゴリズムでは、その算出値としての制御入力は、目標値に対する制御対象の出力の応答性、例えば目標値への収束速度を指定するような値として算出される。そのため、第1および第2の制御入力算出手段により制御入力がそれぞれ算出された場合、偏差の値が同じであっても、制御入力は互いに異なる値として算出され、特に、第2の制御入力算出手段による算出値の絶対値が、第1の制御入力算出手段による算出値の絶対値を大きく上回る場合がある。これに対して、この制御装置によれば、上述したように、偏差が所定の範囲内にあるときに、制御入力算出手段が切り換えられるので、例えば、この所定の範囲を値0付近の範囲に設定することにより、制御入力算出手段の切り換えの前後間における制御入力の段差(すなわち急激な変化)を解消することができる。それにより、制御入力算出手段の切り換えの際、制御対象の出力の急激な変化を回避することができる。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の制御装置において、第2の制御入力算出手段は、第1の制御入力算出手段から第2の制御入力算出手段への切り換えの初期において、制御入力を所定の制限範囲内の値に設定する(スライディングモード操作量DKCMDSLDを非アイドル運転用の下限値USLALF以上の値に設定する)制限手段(ECU2、ステップ115,124,127,193)を備えることを特徴とする。
【0010】
この制御装置によれば、制限手段により、第1の制御入力算出手段から第2の制御入力算出手段への切り換えの初期において、制御入力が所定の制限範囲内の値に設定されるので、この制限範囲を適切に設定することにより、第2の制御入力算出手段への切り換えの際、切り換え後の制御入力の絶対値が切り換え前の制御入力の絶対値を大幅に上回るような状態が、2つの制御入力算出手段の前述した特性に起因して発生するのを回避でき、切り換えの前後間での制御入力の段差をより確実に解消することができる。
【0011】
請求項3に係る制御装置1は、内燃機関3の排気通路(排気管7)を流れる排気ガスの空燃比を表す検出信号を出力する空燃比センサ(酸素濃度センサ15)と、空燃比センサの出力Voutと所定の目標値Vopとの偏差(出力偏差VO2の予測値PREVO2)を算出する偏差算出手段(ECU2、状態予測器22、ステップ34)と、Δ変調アルゴリズム、ΔΣ変調アルゴリズムおよびΣΔ変調アルゴリズムのうちのいずれか1つの変調アルゴリズムに基づき、算出された偏差に応じて、空燃比センサの出力を目標値に収束させるための、内燃機関に供給すべき混合気の目標空燃比KCMDを算出する第1の空燃比算出手段(ECU2、DSMコントローラ24、SDMコントローラ29、DMコントローラ30、ステップ39,40)と、応答指定型制御アルゴリズムに基づき、算出された偏差に応じて、空燃比センサの出力を目標値に収束させるための、内燃機関に供給すべき混合気の目標空燃比KCMDを算出する第2の空燃比算出手段(ECU2、スライディングモードコントローラ25、ステップ38,40)と、内燃機関3の運転状態を表す運転状態パラメータ(吸気管内絶対圧PBA、エンジン回転数NE)を検出する運転状態パラメータ検出手段(ECU2、吸気管内絶対圧センサ11、クランク角センサ13)と、検出された運転状態パラメータに応じて、第1および第2の空燃比算出手段の一方を、空燃比算出手段として選択する選択手段(ECU2、ステップ71,73)と、選択手段により選択された空燃比算出手段が第1および第2の空燃比算出手段の一方から他方に変化した場合(ステップ74の判別結果がNOからYESになった場合)において、算出された偏差が所定の範囲内にあるとき(|PREVO2|≦VDSMENDのとき)に、空燃比算出手段の一方から他方への切り換えを実行する切換手段(ECU2、ステップ76,192)と、切り換えられた空燃比算出手段により算出された目標空燃比に応じて、内燃機関に供給される混合気の空燃比を制御する空燃比制御手段(ECU2、ステップ6,8〜13)と、を備えることを特徴とする。
【0012】
この制御装置によれば、偏差算出手段により、空燃比センサの出力と所定の目標値との偏差が算出され、空燃比センサの出力を目標値に収束させるための、内燃機関に供給される混合気の空燃比が、第1の空燃比算出手段により、Δ変調アルゴリズム、ΔΣ変調アルゴリズムおよびΣΔ変調アルゴリズムのうちのいずれか1つの変調アルゴリズムに基づき、算出された偏差に応じて算出され、また、第2の空燃比算出手段により、応答指定型制御アルゴリズムに基づき、偏差に応じて算出される。さらに、選択手段により、検出された運転状態パラメータに応じて、第1および第2の空燃比算出手段の一方が空燃比算出手段として選択され、切換手段により、選択手段により選択された空燃比算出手段が第1および第2の空燃比算出手段の一方から他方に変化した場合において、算出された偏差が所定の範囲内にあるときに、空燃比算出手段の一方から他方への切り換えが実行されるとともに、空燃比制御手段により、内燃機関に供給される混合気の空燃比が、切り換えられた空燃比算出手段により算出された目標空燃比に応じて制御される。前述したように、Δ変調アルゴリズム、ΔΣ変調アルゴリズムおよびΣΔ変調アルゴリズムでは、その算出値としての目標空燃比は、所定の上限値と下限値との間で反転を繰り返す値として算出され、一方、応答指定型制御アルゴリズムでは、その算出値としての目標空燃比は、目標値に対する空燃比センサの出力の応答性、例えば目標値への収束速度を指定するような値として算出される。そのため、第1および第2の空燃比算出手段により目標空燃比をそれぞれ算出した場合、偏差の値が同じであっても、目標空燃比は互いに異なる値として算出され、特に、第2の空燃比算出手段による算出値の絶対値が、第1の算出手段による算出値の絶対値を大きく上回る場合がある。これに対して、この制御装置によれば、上述したように、偏差が所定の範囲内にあるときに、空燃比算出手段が切り換えられるので、例えば、この所定の範囲を値0付近の範囲に設定することにより、空燃比算出手段の切り換えの前後間における目標空燃比の段差を解消することができ、それにより、空燃比算出手段を切り換える際、排気通路内の排気ガス状態が急激に変動するのを回避できる。その結果、例えば、触媒装置が排気通路に設けられている場合には、排気ガス状態の急激な変動に起因して、触媒装置の排気ガス浄化率が悪化するのを回避することができる。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の制御装置1において、第2の空燃比算出手段は、第1の空燃比算出手段から第2の空燃比算出手段への切り換えの初期において、目標空燃比(目標空燃比KCMDのうちのスライディングモード操作量DKCMDSLD)を所定の制限範囲内の値(非アイドル運転用の下限値USLALF以上の値)に設定する制限手段(ECU2、ステップ115,124,127,193)を備えることを特徴とする。
【0014】
この制御装置によれば、制限手段により、目標空燃比が、第1の空燃比算出手段から第2の空燃比算出手段への切り換えの初期において、所定の制限範囲内の値に設定されるので、この制限範囲を適切に設定することにより、空燃比算出手段の切り換えの前後間において、切り換え後の目標空燃比の絶対値が切り換え前の目標空燃比の絶対値を大幅に上回るような状態が、2つの空燃比算出手段の前述した特性に起因して発生するのを回避でき、空燃比算出手段の切り換えの前後間での目標空燃比の段差を確実に解消することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る制御装置について説明する。第1実施形態は、制御装置を内燃機関の空燃比を制御するものとして構成した例であり、図1は、この制御装置1およびこれを適用した内燃機関3の概略構成を示している。同図に示すように、この制御装置1は、ECU2を備えており、このECU2は、後述するように、内燃機関(以下「エンジン」という)3の運転状態に応じて、これに供給する混合気の空燃比を制御する。
【0016】
このエンジン3は、図示しない車両に搭載された直列4気筒型ガソリンエンジンであり、第1〜第4の4つの気筒#1〜#4を備えている。このエンジン3の吸気管4のスロットル弁5の近傍には、例えばポテンショメータなどで構成されたスロットル弁開度センサ10が設けられている。このスロットル弁開度センサ10は、スロットル弁5の開度(以下「スロットル弁開度」という)θTHを検出して、その検出信号をECU2に送る。
【0017】
さらに、吸気管4のスロットル弁5よりも下流側には、吸気管内絶対圧センサ11が設けられている。この吸気管内絶対圧センサ11(検出手段、運転状態パラメータ検出手段)は、例えば半導体圧力センサなどで構成され、吸気管4内の吸気管内絶対圧PBAを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
【0018】
また、吸気管4は、インテークマニホールド4aの4つの分岐部4bを介して4つの気筒#1〜#4にそれぞれ接続されている。各分岐部4bには、各気筒の図示しない吸気ポートの上流側に、インジェクタ6が取り付けられている。各インジェクタ6は、エンジン3の運転時に、ECU2からの駆動信号によって、その開弁時間である最終燃料噴射量TOUTおよび噴射タイミングが制御される。
【0019】
一方、エンジン3の本体には、例えばサーミスタなどで構成された水温センサ12が取り付けられている。水温センサ12は、エンジン3のシリンダブロック内を循環する冷却水の温度であるエンジン水温TWを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
【0020】
また、エンジン3のクランクシャフト(図示せず)には、クランク角センサ13が設けられている。このクランク角センサ13(検出手段、運転状態パラメータ検出手段)は、クランクシャフトの回転に伴い、いずれもパルス信号であるCRK信号およびTDC信号をECU2に出力する。
【0021】
CRK信号は、所定のクランク角(例えば30゜)ごとに1パルスが出力される。ECU2は、このCRK信号に応じ、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを算出する。また、TDC信号は、各気筒のピストン(図示せず)が吸気行程のTDC位置よりも若干、手前の所定のクランク角位置にあることを表す信号であり、所定クランク角ごとに1パルスが出力される。
【0022】
一方、排気管7(排気通路)のエキゾーストマニホールド7aよりも下流側には、上流側から順に第1触媒装置8aおよび第2触媒装置8bが間隔を存して設けられている。両触媒装置8a,8bはいずれも、NOx触媒と3元触媒を組み合わせたものであり、NOx触媒による酸化還元作用により、リーンバーン運転時の排気ガス中のNOxを浄化するとともに、3元触媒の酸化還元作用により、リーンバーン運転以外の運転時の排気ガス中のCO、HCおよびNOxを浄化する。
【0023】
これらの第1および第2触媒装置8a,8bの間には、空燃比センサとしての酸素濃度センサ(以下「O2センサ」という)15が取り付けられている。このO2センサ15(検出手段、空燃比センサ)は、ジルコニアおよび白金電極などで構成され、第1触媒装置8aの下流側の排気ガス中の酸素濃度に基づく出力VoutをECU2に送る。このO2センサ15の出力Vout(制御対象の出力)は、理論空燃比よりもリッチな混合気が燃焼したときには、ハイレベルの電圧値(例えば0.8V)となり、混合気がリーンのときには、ローレベルの電圧値(例えば0.2V)となるとともに、混合気が理論空燃比付近のときには、ハイレベルとローレベルの間の所定の目標値Vop(例えば0.6V)となる(図2参照)。
【0024】
また、第1触媒装置8aよりも上流側のエキゾーストマニホールド7aの集合部付近には、LAFセンサ14が取り付けられている。このLAFセンサ14は、O2センサ15と同様のセンサとリニアライザなどの検出回路とを組み合わせることによって構成されており、リッチ領域からリーン領域までの広範囲な空燃比の領域において排気ガス中の酸素濃度をリニアに検出し、その酸素濃度に比例する出力KACTをECU2に送る。この出力KACTは、空燃比の逆数に比例する当量比として表される。
【0025】
次に、図2を参照しながら、第1触媒装置8aの排気ガスの浄化率とO2センサ15の出力Vout(電圧値)との関係について説明する。同図は、第1触媒装置8aが、長時間の使用により浄化能力が低下した劣化状態と、浄化能力の高い未劣化状態の場合において、LAFセンサ14の出力KACTすなわちエンジン3に供給される混合気の空燃比が理論空燃比の付近で変化したときの、2つの第1触媒装置8aのHCおよびNOxの浄化率と、O2センサ15の出力Voutをそれぞれ測定した結果の一例を示している。同図において、破線で示すデータはいずれも、第1触媒装置8aが未劣化状態の場合の測定結果であり、実線で示すデータはいずれも、第1触媒装置8aが劣化状態の場合の測定結果である。また、LAFセンサ14の出力KACTが大きいほど、混合気の空燃比がよりリッチ側であることを示している。
【0026】
同図に示すように、第1触媒装置8aが劣化している場合には、未劣化状態の場合と比べて、排気ガスの浄化能力が低下していることにより、LAFセンサ14の出力KACTがよりリーン側の値KACT1のときに、O2センサ15の出力Voutが目標値Vopを横切っている。一方、第1触媒装置8aは、その劣化・未劣化状態にかかわらず、O2センサ15の出力Voutが目標値Vopにあるときに、HCおよびNOxを最も効率よく浄化する特性を有している。したがって、O2センサ15の出力Voutが目標値Vopになるように、混合気の空燃比を制御することにより、第1触媒装置8aによって排気ガスを最も効率よく浄化できることが分かる。このため、後述する空燃比制御では、O2センサ15の出力Voutが目標値Vopに収束するように、目標空燃比KCMDが算出される。
【0027】
さらに、ECU2には、アクセル開度センサ16、大気圧センサ17、吸気温センサ18および車速センサ19などが接続されている。このアクセル開度センサ16は、車両の図示しないアクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセル開度」という)APを検出し、その検出信号をECU2に出力する。また、大気圧センサ17、吸気温センサ18および車速センサ19はそれぞれ、大気圧PA、吸気温TAおよび車速VPを検出し、その検出信号をECU2に出力する。
【0028】
このECU2は、I/Oインターフェース、CPU、RAMおよびROMなどからなるマイクロコンピュータから構成されており、前述した各種のセンサ10〜19の出力に応じて、エンジン3の運転状態を判別するとともに、ROMに予め記憶された制御プログラムやRAMに記憶されたデータなどに従って、後述する適応空燃比制御処理またはマップ検索処理を実行することにより、目標空燃比KCMD(制御入力)を算出する。さらに、後述するように、この目標空燃比KCMDに基づいて、インジェクタ6の最終燃料噴射量TOUTを気筒ごとに算出し、この算出した最終燃料噴射量TOUTに基づいた駆動信号で、インジェクタ6を駆動することにより、混合気の空燃比を制御する。なお、本実施形態では、ECU2により、偏差算出手段、第1の制御入力算出手段、第2の制御入力算出手段、選択手段、切換手段、制限手段、第1の空燃比算出手段、第2の空燃比算出手段、運転状態パラメータ検出手段および空燃比制御手段が構成されている。
【0029】
図3に示すように、制御装置1は、目標空燃比KCMDを算出するADSMコントローラ20およびPRISMコントローラ21を備えており、両コントローラ20,21はいずれも、具体的には、ECU2により構成されている。
【0030】
以下、ADSMコントローラ20について説明する。このADSMコントローラ20は、適応予測型ΔΣ変調制御(Adaptive prediction Delta Sigma Modulation Control:以下「ADSM」という)処理の制御アルゴリズムにより、O2センサ15の出力Voutを目標値Vopに収束させるための目標空燃比KCMDを算出するものであり、状態予測器22、オンボード同定器23およびDSMコントローラ24により構成されている。
【0031】
まず、状態予測器22(偏差算出手段)について説明する。この状態予測器22は、以下に述べる予測アルゴリズムにより、出力偏差VO2の予測値PREVO2(偏差)を算出するものである。本実施形態では、制御対象への制御入力を混合気の目標空燃比KCMDとし、制御対象の出力をO2センサ15の出力Voutとし、インジェクタ6を含むエンジン3の吸気系から、第1触媒装置8aを含む排気系の第1触媒装置8aの下流側のO2センサ15までの系を、制御対象と見なすとともに、この制御対象を、下式(1)に示すように、離散時間系モデルであるARXモデル(auto−regressive model with exogeneous input:外部入力を持つ自己回帰モデル)としてモデル化する。
【0032】
VO2(k)=a1・VO2(k−1)+a2・VO2(k−2)+b1・DKCMD(k−dt) ……(1)
ここで、VO2は、O2センサ15の出力Voutと前述した目標値Vopとの偏差(Vout−Vop)である出力偏差を表し、DKCMDは、目標空燃比KCMD(=φop)と基準値FLAFBASEとの偏差(KCMD−FLAFBASE)である空燃比偏差を表し、記号kは、各離散データのサンプリングサイクルの順番を表している。この基準値FLAFBASEは、所定の一定値に設定される。また、a1,a2,b1はモデルパラメータを表しており、オンボード同定器23により、後述するように逐次同定される。
【0033】
さらに、上記式(1)のdtは、目標空燃比KCMDの混合気がインジェクタ6により吸気系に供給されてから、O2センサ15の出力Voutに反映されるまでの予測時間を表しており、下式(2)のように定義される。
dt=d+d’+dd ……(2)
ここで、dは、LAFセンサ14からO2センサ15までの排気系のむだ時間を、d’は、インジェクタ6からLAFセンサ14までの空燃比操作系のむだ時間を、ddは、排気系と空燃比操作系との間の位相遅れ時間をそれぞれ表している(なお、後述する適応空燃比制御処理の制御プログラムでは、ADSM処理とPRISM処理とに切り換えて目標空燃比KCMDを算出する処理を行うため、位相遅れ時間dd=0に設定されている)。
【0034】
また、予測値PREVO2は、目標空燃比KCMDの混合気が吸気系に供給されてから予測時間dtが経過した後の出力偏差VO2(k+dt)を予測した値であり、上記式(1)に基づき、予測値PREVO2の算出式を導出すると、下式(3)が得られる。
【0035】
この式(3)では、出力偏差VO2(k)の未来値に相当するVO2(k+dt−1),VO2(k+dt−2)の算出が必要となり、実際にプログラム化するのは困難である。そのため、マトリクスA、Bを、モデルパラメータa1,a2,b1を用いて図4に示す式(4)、(5)のように定義するとともに、上式(3)の漸化式を繰り返し用いることにより、上式(3)を変形すると、図4に示す式(6)が得られる。さらに、LAF出力偏差DKACTを、LAFセンサ14の出力KACT(=φin)と基準値FLAFBASEとの偏差(KACT−FLAFBASE)として定義すると、DKACT(k)=DKCMD(k−d’)の関係が成立するので、この関係を図4の式(6)に適用すると、図4に示す式(7)が得られる。この式(7)を用いた場合、予測値PREVO2が、出力偏差VO2、LAF出力偏差DKACTおよび空燃比偏差DKCMDにより算出されるので、第1触媒装置8aに実際に供給される排気ガスの空燃比の状態が反映された値として、予測値PREVO2を算出でき、その算出精度すなわち予測精度を上記式(6)を用いた場合よりも向上させることができる。この理由により、本実施形態では、予測アルゴリズムとして上記式(7)を採用する。
【0036】
次に、オンボード同定器23について説明する。このオンボード同定器23は、以下に述べる逐次型同定アルゴリズムにより、前述した式(1)のモデルパラメータa1,a2,b1を算出(同定)するものである。具体的には、図5に示す(8),(9)により、モデルパラメータのベクトルθ(k)を算出する。同図の式(8)において、KP(k)は、ゲイン係数のベクトルであり、ide_f(k)は同定誤差フィルタ値である。また、式(9)におけるθ(k)Tは、θ(k)の転置行列を表し、a1’(k)、a2’(k)およびb1’(k)は、後述するリミット処理を施す前のモデルパラメータを表している。なお、以下の説明では、「ベクトル」という表記を適宜、省略する。
【0037】
上記式(8)の同定誤差フィルタ値ide_f(k)は、図5に示す式(11)〜(13)により算出される同定誤差ide(k)に、図5の式(10)に示す移動平均フィルタリング処理を施した値である。図5の式(10)のnは、移動平均フィルタリング処理のフィルタ次数(1以上の整数)を表しており、式(12)のVO2HAT(k)は、出力偏差VO2の同定値を表している。このフィルタ次数nは、後述するように、排気ガスボリュームAB_SVに応じて設定される。
【0038】
さらに、前述した図5の式(8)のゲイン係数のベクトルKP(k)は、図5の式(14)により算出される。この式(14)のP(k)は、図5の式(15)で定義される3次の正方行列である。本実施形態では、同定アルゴリズムとして、重み付き最小2乗法アルゴリズムを用いるため、式(15)の重みパラメータλ1、λ2は、λ1=λ,λ2=1(λは、0<λ<1に設定される所定値)に設定されている。
【0039】
次に、DSMコントローラ24(第1の制御入力算出手段、第1の空燃比算出手段)について説明する。このDSMコントローラ24は、ΔΣ変調アルゴリズムを応用した制御アルゴリズムにより、状態予測器22で算出された予測値PREVO2に基づき、制御入力φopとしての目標空燃比KCMDを算出するとともに、これを制御対象に入力することにより、制御対象の出力としてのO2センサ15の出力Voutを目標値Vopに収束させるように制御するものである。
【0040】
まず、一般的なΔΣ変調アルゴリズムについて説明する。図6は、ΔΣ変調アルゴリズムを適用したコントローラ26により、制御対象27を制御する制御系の構成を示している。同図に示すように、このコントローラ26では、差分器26aにより、参照入力r(k)と遅延素子26bで遅延されたDSM信号u(k−1)との偏差として偏差信号δ(k)が生成される。次に、積分器26cにより、偏差積分値σd(k)が、偏差信号δ(k)と遅延素子26dで遅延された偏差積分値σd(k−1)との和の信号として生成される。次いで、量子化器26e(符号関数)により、変調出力としてのDSM信号u(k)が、この偏差積分値σd(k)を符号化した信号として生成される。そして、以上のように生成されたDSM信号u(k)が制御対象27に入力されることにより、出力信号y(k)が制御対象27から出力される。
【0041】
以上のΔΣ変調アルゴリズムは、以下の式(16)〜(18)で表される。
δ(k)=r(k)−u(k−1) ……(16)
σd(k)=σd(k−1)+δ(k) ……(17)
u(k)=sgn(σd(k)) ……(18)
ただし、符号関数sgn(σd(k))の値は、σd(k)≧0のときにはsgn(σd(k))=1となり、σd(k)<0のときにはsgn(σd(k))=−1となる(なお、σd(k)=0のときに、sgn(σd(k))=0と設定してもよい)。
【0042】
図7は、以上の制御系の制御シミュレーション結果を示している。同図に示すように、正弦波状の参照入力r(k)を制御系に入力した場合、DSM信号u(k)が矩形波状の信号として生成され、これを制御対象27に入力することにより、参照入力r(k)と異なる振幅で同じ周波数の、ノイズを有するものの全体として同様の波形の出力信号y(k)が、制御対象27から出力される。このように、ΔΣ変調アルゴリズムの特性は、参照入力r(k)から生成されたDSM信号u(k)を制御対象27に入力したときに、制御対象27の出力y(k)が、参照入力r(k)に対して、異なる振幅で同じ周波数の、全体として同様の波形の信号となるような値として、DSM信号u(k)を生成できるという点にある。言い換えれば、DSM信号u(k)を、参照入力r(k)が制御対象27の実際の出力y(k)に再現されるような値として、生成(算出)できるという点にある。
【0043】
DSMコントローラ24は、このようなΔΣ変調アルゴリズムの特性を利用し、O2センサ15の出力Voutを目標値Vopに収束させるための制御入力φop(k)、すなわち目標空燃比KCMD(k)を算出するものである。その原理について説明すると、例えば図8に1点鎖線で示すように、出力偏差VO2が値0に対して揺らいでいる場合(すなわち、O2センサ15の出力Voutが目標値Vopに対して揺らいでいる場合)、出力偏差VO2を値0に収束させる(すなわち出力Voutを目標値Vopに収束させる)には、図8に破線で示す、出力偏差VO2を打ち消すような逆位相波形の出力偏差VO2*が生じるように、目標空燃比KCMD(k)を生成すればよい。
【0044】
しかし、前述したように、本実施形態の制御対象では、目標空燃比KCMD(k)が制御対象に入力されてからO2センサ15の出力Voutに反映されるまでに、予測時間dt分の時間遅れが発生するため、現在の出力偏差VO2に基づいて、目標空燃比KCMD(k)を算出した場合の出力偏差VO2#は、図8に実線で示すように、出力偏差VO2*に対して遅れを生じ、それにより、制御タイミングのずれが生じてしまう。したがって、これを補償するために、本実施形態のADSMコントローラ20におけるDSMコントローラ24では、出力偏差VO2の予測値PREVO2を用いることにより、目標空燃比KCMD(k)が、制御タイミングのずれを生じることなく、現在の出力偏差VO2を打ち消すような出力偏差(逆位相波形の出力偏差VO2*と同様の出力偏差)を生じさせる信号として生成される。
【0045】
具体的には、このDSMコントローラ24では、図9に示すように、反転増幅器24aにより、参照信号r(k)が、値−1、参照信号用の非線形ゲインGdおよび予測値PREVO2(k)を互いに乗算した信号として生成される。次に、差分器24bにより、この参照信号r(k)と遅延素子24cで遅延されたDSM信号u(k−1)との偏差として偏差信号δ(k)が生成される。
【0046】
次いで、積分器24dにより、偏差積分値σd(k)が、偏差信号δ(k)と遅延素子24eで遅延された偏差積分値σd(k−1)との和の信号として生成され、次に、量子化器24f(符号関数)により、DSM信号u(k)が、この偏差積分値σd(k)を符号化した値として生成される。そして、増幅器24gにより、増幅DSM信号u’’(k)がDSM信号u(k)を所定のゲインFdで増幅した値として生成され、次に、加算器24hにより、この増幅DSM信号u’’(k)に所定の基準値FLAFBASEおよび後述する適応補正項FLAFADPを加算した値として、目標空燃比KCMD(k)が生成される。
【0047】
以上のDSMコントローラ24の制御アルゴリズムは、以下の式(19)〜(24)で表される。
r(k)=−1・Gd・PREVO2(k) ……(19)
δ(k)=r(k)−u(k−1) ……(20)
σd(k)=σd(k−1)+δ(k) ……(21)
u(k)=sgn(σd(k)) ……(22)
u’’(k)=Fd・u(k) ……(23)
KCMD(k)=FLAFBASE+FLAFADP+u’’(k) ……(24)
ここで、非線形ゲインGdの値は、PREVO2(k)≧0のときには正の所定値Gd1(例えば値0.2)に、PREVO2(k)<0のときには所定値Gd1よりも大きい所定値Gd2(例えば値2)にそれぞれ設定される。このような非線形ゲインGdを用いる理由については後述する。また、符号関数sgn(σd(k))の値は、σd(k)≧0のときにはsgn(σd(k))=1となり、σd(k)<0のときにはsgn(σd(k))=−1となる(なお、σd(k)=0のときに、sgn(σd(k))=0と設定してもよい)。
【0048】
このDSMコントローラ24では、以上の式(19)〜(24)に示す制御アルゴリズムにより、前述したように、制御入力としての目標空燃比KCMD(k)が、制御タイミングのずれを生じることなく、出力偏差VO2を打ち消すような出力偏差VO2*を生じさせる値として算出される。
【0049】
次に、前記PRISMコントローラ21について説明する。このPRISMコントローラ21は、以下に述べるオンボード同定型スライディングモード制御処理(以下「PRISM処理」という)の制御アルゴリズムにより、O2センサ15の出力Voutを目標値Vopに収束させるための目標空燃比KCMDを算出するものであり、状態予測器22、オンボード同定器23およびスライディングモードコントローラ(以下「SLDコントローラ」という)25により構成されている。なお、このPRISM処理の具体的なプログラムについては後述する。
【0050】
このPRISMコントローラ21のうちの状態予測器22およびオンボード同定器23については、既に説明したので、ここではSLDコントローラ25(第2の制御入力算出手段、第2の空燃比算出手段)についてのみ説明する。このSLDコントローラ25は、スライディングモード制御アルゴリズムに基づいてスライディングモード制御を行うものであり、以下、一般的なスライディングモード制御アルゴリズムについて説明する。このスライディングモード制御アルゴリズムでは、前述した式(1)の離散時間系モデルを制御対象モデルとして用いるため、切換関数σは、下式(25)に示すように、出力偏差VO2の時系列データの線形関数として設定される。
σ(k)=S1・VO2(k)+S2・VO2(k−1) ……(25)
ここで、S1,S2は、−1<(S2/S1)<1の関係が成立するように設定される所定の係数である。
【0051】
一般にスライディングモード制御アルゴリズムでは、切換関数σが2つの状態変数(本実施形態では出力偏差VO2の時系列データ)で構成されている場合、2つの状態変数で構成される位相空間は、これらをそれぞれ縦軸および横軸とする2次元の位相平面となるため、この位相平面上において、σ=0を満たす2つの状態変数の値の組み合わせは、切換直線と呼ばれる直線上に載ることになる。したがって、制御対象への制御入力を、2つの状態変数の組み合わせが切換直線上に収束する(載る)ように適切に決定することにより、2つの状態変数をいずれも、値0になる平衡点に収束(スライディング)させることができる。さらに、スライディングモード制御アルゴリズムでは、切換関数σの設定により、状態変数の動特性、より具体的には収束挙動や収束速度を指定することができる。例えば、本実施形態のように、切換関数σが2つの状態変数で構成されている場合には、切換直線の傾きを値1に近づけると、状態変数の収束速度が遅くなる一方、値0に近づけると、収束速度が速くなる。
【0052】
本実施形態では、前記式(25)に示すように、切換関数σが出力偏差VO2の2つの時系列データ、すなわち出力偏差VO2の今回値VO2(k)および前回値VO2(k−1)により構成されているので、これらの今回値VO2(k)および前回値VO2(k−1)の組み合わせを切換直線上に収束させるように、制御対象への制御入力すなわち目標空燃比KCMDを設定すればよい。具体的には、操作量Usl(k)を、基準値FLAFBASEおよび適応補正項FLAFADPとの和が目標空燃比KCMDとなる値として定義すると、今回値VO2(k)および前回値VO2(k−1)の組み合わせを切換直線上に収束させるための操作量Usl(k)は、適応スライディングモード制御アルゴリズムにより、図10に示す式(26)のように、等価制御入力Ueq(k)、到達則入力Urch(k)および適応則入力Uadp(k)の総和として設定される。
【0053】
この等価制御入力Ueq(k)は、出力偏差VO2の今回値VO2(k)および前回値VO2(k−1)の組み合わせを切換直線上に拘束しておくためのものであり、具体的には、図10に示す式(27)のように定義される。また、到達則入力Urch(k)は、外乱やモデル化誤差などにより、出力偏差VO2の今回値VO2(k)および前回値VO2(k−1)の組み合わせが切換直線上から外れた際に、これらを切換直線上に収束させるためのものであり、具体的には、図10に示す式(28)のように定義される。この式(28)において、Fはゲインを表す。
【0054】
さらに、適応則入力Uadp(k)は、制御対象の定常偏差、モデル化誤差および外乱の影響を抑制しながら、出力偏差VO2の今回値VO2(k)および前回値VO2(k−1)の組み合わせを、切換超平面上に確実に収束させるためのものであり、具体的には、図10に示す式(29)のように定義される。この式(29)において、Gはゲインを、ΔTは制御周期をそれぞれ表す。
【0055】
本実施形態のPRISMコントローラ21のSLDコントローラ25では、前述したように、出力偏差VO2に代えて予測値PREVO2を用いるので、PREVO2(k)≒VO2(k+dt)の関係を適用することにより、以上の式(25)〜(29)のアルゴリズムを、図11に示す式(30)〜(34)に書き換えて用いる。この式(30)におけるσPREは、予測値PREVO2を用いたときの切換関数(以下「予測切換関数」という)の値である。すなわち、このSLDコントローラ25では、以上のアルゴリズムで算出される操作量Usl(k)を基準値FLAFBASEおよび適応補正項FLAFADPに加算することによって、目標空燃比KCMDが算出される。
【0056】
以下、ECU2により実行される燃料噴射量の算出処理について、図12を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、今回値であることを示す記号(k)を適宜、省略する。図12は、この制御処理のメインルーチンを示しており、本処理は、TDC信号の入力に同期して割り込み実行される。この処理では、後述する適応空燃比制御処理、またはマップ検索処理により算出された目標空燃比KCMDを用いることによって、燃料噴射量TOUTが気筒ごとに算出される。
【0057】
まず、ステップ1(図では「S1」と略す。以下同じ)において、前述した各種のセンサ10〜19の出力を読み込むとともに、読み込んだデータをRAM内に記憶する。
【0058】
次に、ステップ2に進み、基本燃料噴射量Timを算出する。この処理では、エンジン回転数NEおよび吸気管内絶対圧PBAに応じて、図示しないマップを検索することにより、基本燃料噴射量Timを算出する。
【0059】
次いで、ステップ3に進み、総補正係数KTOTALを算出する。この総補正係数KTOTALは、各種の運転パラメータ(例えば吸気温TAや、大気圧PA、エンジン水温TW、アクセル開度APなど)に応じて、各種のテーブルやマップを検索することで各種の補正係数を算出するとともに、これらの各種の補正係数を互いに乗算することにより、算出される。
【0060】
次に、ステップ4に進み、適応制御フラグF_PRISMONの設定処理を実行する。この処理の内容は図示しないが、具体的には、以下の(f1)〜(f6)の条件がいずれも成立しているときには、適応空燃比制御処理で算出された目標空燃比KCMDを使用する条件が成立しているとして、それを表すために、適応制御フラグF_PRISMONが「1」にセットされる。一方、(f1)〜(f6)の条件のうちの少なくとも1つが成立していないときには、適応制御フラグF_PRISMONが「0」にセットされる。
(f1)LAFセンサ14およびO2センサ15がいずれも活性化していること。
(f2)エンジン3がリーンバーン運転中でないこと。
(f3)スロットル弁5が全開状態でないこと。
(f4)点火時期の遅角制御中でないこと。
(f5)フューエルカット運転中でないこと。
(f6)エンジン回転数NEおよび吸気管内絶対圧PBAがいずれも、所定の範囲囲内の値であること。
【0061】
次に、ステップ5に進み、ステップ4で設定された適応制御フラグF_PRISMONが「1」であるか否かを判別する。この判別結果がYESのときには、ステップ6に進み、目標空燃比KCMDを、後述する適応空燃比制御処理で算出された適応目標空燃比KCMDSLDに設定する。
【0062】
一方、ステップ5の判別結果がNOのときには、ステップ7に進み、目標空燃比KCMDをマップ値KCMDMAPに設定する。このマップ値KCMDMAPは、エンジン回転数NEおよび吸気管内絶対圧PBAに応じて、図示しないマップを検索することにより、算出される。
【0063】
以上のステップ6または7に続くステップ8では、オブザーバフィードバック補正係数#nKLAFを気筒ごとに算出する。このオブザーバフィードバック補正係数#nKLAFは、気筒ごとの実際の空燃比のばらつきを補正するためのものであり、具体的には、オブザーバによりLAFセンサ14の出力KACTから気筒ごとの実際の空燃比を推定し、これらの推定した空燃比に応じて、PID制御により算出される。なお、このオブザーバフィードバック補正係数#nKLAFの記号#nは、気筒の番号#1〜#4を表すものであり、これは、後述する要求燃料噴射量#nTCYLおよび最終燃料噴射量#nTOUTにおいても同様である。
【0064】
次いで、ステップ9に進み、フィードバック補正係数KFBを算出する。このフィードバック補正係数KFBは、具体的には、以下のように算出される。すなわち、LAFセンサ14の出力KACTと目標空燃比KCMDとの偏差に応じて、PID制御によりフィードバック係数KLAFを算出する。また、図示しないSelf Tuning Regulator 型の適応制御器によりフィードバック補正係数KSTRを算出し、これを目標空燃比KCMDで除算することにより、フィードバック補正係数kstrを算出する。そして、エンジン3の運転状態に応じて、これらの2つのフィードバック係数KLAFおよびフィードバック補正係数kstrの一方を、フィードバック補正係数KFBとして設定する。
【0065】
次いで、ステップ10に進み、補正目標空燃比KCMDMを算出する。この補正目標空燃比KCMDMは、空燃比A/Fの変化による充填効率の変化を補償するためのものであり、前述したステップ6または7で算出された目標空燃比KCMDに応じて、図示しないテーブルを検索することにより算出される。
【0066】
次に、ステップ11に進み、以上のように算出した基本燃料噴射量Tim、総補正係数KTOTAL、オブザーバフィードバック補正係数#nKLAF、フィードバック補正係数KFB、および補正目標空燃比KCMDMを用い、下式(35)により、気筒ごとの要求燃料噴射量#nTCYLを算出する。
#nTCYL=Tim・KTOTAL・KCMDM・KFB・#nKLAF……(35)
【0067】
次に、ステップ12に進み、要求燃料噴射量#nTCYLを付着補正することにより、最終燃料噴射量#nTOUTを算出する。この最終燃料噴射量#nTOUTは、具体的には、今回の燃焼サイクルでインジェクタ6から噴射された燃料が燃焼室の内壁面に付着する割合などを、運転状態に応じて算出し、そのように算出した割合に基づいて、要求燃料噴射量#nTCYLを補正することにより、算出される。
【0068】
次いで、ステップ13に進み、以上のように算出した最終燃料噴射量#nTOUTに基づく駆動信号を、対応する気筒のインジェクタ6に出力した後、本処理を終了する。
【0069】
次に、図13および図14を参照しながら、ADSM処理およびPRISM処理を含む適応空燃比制御処理について説明する。この処理は、所定の周期(例えば10msec)で実行される。また、この処理では、エンジン3の運転状態に応じて、ADSM処理、PRISM処理、触媒還元モード処理またはスライディングモード操作量DKCMDSLDを所定値SLDHOLDに設定する処理により、目標空燃比KCMDが算出される。
【0070】
この処理では、まず、ステップ20において、F/C後判定処理を実行する。この処理の内容は図示しないが、この処理では、フューエルカット運転中は、それを表すためにF/C後判定フラグF_AFCが「1」にセットされ、フューエルカット運転の終了後、所定時間TM_AFCが経過したときには、それを表すためにF/C後判定フラグF_AFCが「0」にセットされる。
【0071】
次に、ステップ21に進み、車速VPに基づいて、エンジン3を搭載した車両が発進したか否かを判定する発進判定処理を実行する。この処理の具体的な内容は、後述する。
【0072】
ステップ21に続くステップ22では、状態変数の設定処理を実行する。図示しないが、この処理では、RAM内に記憶されている、目標空燃比KCMD、LAFセンサ14の出力KACTおよび出力偏差VO2の時系列データをいずれも、1サンプリングサイクル分ずつ過去側にシフトさせる。その後、KCMD、KACTおよびVO2の時系列データの最新の値と、基準値FLAFBASEと、後述する適応補正項FLAFADPとに基づき、KCMD、KACTおよびVO2の今回値を算出する。
【0073】
次に、ステップ23に進み、PRISM/ADSM処理の実行判定処理を行う。この処理は、PRISM処理、ADSM処理および後述する触媒還元モード処理の実行条件が成立しているか否かに応じて、PRISM/ADSM実行フラグF_PRISMCALの値をセットするものである。
【0074】
具体的には、以下の(f7)〜(f10)の条件がいずれも成立しているときには、PRISM処理、ADSM処理または触媒還元モード処理を実行すべき運転状態にあるとして、それを表すために、PRISM/ADSM実行フラグF_PRISMCALを「1」にセットする。一方、(f7)〜(f10)の条件の少なくとも1つが成立していないときには、PRISM処理、ADSM処理または触媒還元モード処理を実行すべき運転状態にないとして、それを表すために、PRISM/ADSM実行フラグF_PRISMCALを「0」にセットする。
(f7)O2センサ15が活性化していること。
(f8)LAFセンサ14が活性化していること。
(f9)エンジン3がリーンバーン運転中でないこと。
(f10)点火時期の遅角制御中でないこと。
【0075】
ステップ23に続くステップ24では、同定器演算の実行判定処理を行う。この処理は、オンボード同定器23によるパラメータ同定の実行条件が成立しているか否かに応じて、同定実行フラグF_IDCALの値をセットするものである。具体的には、スロットル弁開度θTHが全開状態でなく、かつフューエルカット運転中でないときには、パラメータ同定を実行すべき運転状態であるとして、それを表すために、同定実行フラグF_IDCALを「1」にセットする。一方、スロットル弁開度θTHが全開状態にあるとき、またはフューエルカット運転中であるときには、パラメータ同定を実行すべき運転状態にないとして、同定実行フラグF_IDCALを「0」にセットする。
【0076】
次いで、ステップ25に進み、各種パラメータ(排気ガスボリュームAB_SVなど)を算出する。この処理の具体的な内容は、後述する。
【0077】
次に、ステップ26に進み、ADSMモードフラグF_DSMMODEの設定処理を実行する。この処理の具体的な内容は、後述する。
【0078】
次いで、ステップ27に進み、前記ステップ23で設定されたPRISM/ADSM実行フラグF_PRISMCALが「1」であるか否かを判別する。この判別結果がYESで、PRISM処理またはADSM処理の実行条件が成立しているときには、ステップ28に進み、前記ステップ24で設定された同定実行フラグF_IDCALが「1」であるか否かを判別する。
【0079】
この判別結果がYESで、オンボード同定器23によるパラメータ同定を実行すべき運転状態のときには、ステップ29に進み、パラメータ初期化フラグF_IDRSETが「1」であるか否かを判別する。この判別結果がNOで、RAMに記憶されているモデルパラメータa1,a2,b1の初期化が不要であるときには、後述するステップ32に進む。
【0080】
一方、この判別結果がYESで、モデルパラメータa1,a2,b1の初期化が必要であるときには、ステップ30に進み、モデルパラメータa1,a2,b1を、それぞれの初期値に設定した後、それを表すためにステップ31に進み、パラメータ初期化フラグF_IDRSETを「0」にセットする。
【0081】
このステップ31または29に続くステップ32では、オンボード同定器23の演算を実行し、モデルパラメータa1,a2,b1を同定した後、後述する図14のステップ33に進む。このオンボード同定器23の演算の具体的な内容については、後述する。
【0082】
一方、ステップ28の判別結果がNOで、パラメータ同定を実行すべき運転状態でないときには、以上のステップ29〜32をスキップして、図14のステップ33に進む。ステップ28または32に続くステップ33では、モデルパラメータa1,a2,b1として、同定値または所定値を選択する。この処理の内容は図示しないが、具体的には、前記ステップ24で設定された同定実行フラグF_IDCALが「1」のときには、モデルパラメータa1,a2,b1をステップ32で同定された同定値に設定する。一方、同定実行フラグF_IDCALが「0」のときには、モデルパラメータa1,a2,b1を所定値に設定する。
【0083】
次に、ステップ34に進み、状態予測器22の演算を実行し、予測値PREVO2を算出する。具体的には、前述した式(7)の行列要素α1,α2,βi,βjを算出し、これらの行列要素α1,α2,βi,βjを式(7)に適用することにより、出力偏差VO2の予測値PREVO2を算出する。
【0084】
次いで、ステップ35に進み、後述するように、操作量USL(=Usl)を算出する。
【0085】
次に、ステップ36に進み、SLDコントローラ25の安定判別を実行する。具体的には、予測切換関数σPREの値に基づき、SLDコントローラ25によるスライディングモード制御が安定状態にあるか否かを判別する。そして、スライディングモード制御が安定状態にあると判別されたときには、それを表すために、低不安定フラグF_SLDST1および高不安定フラグF_SLDST2をいずれも「0」にセットする。また、低レベルの不安定状態(以下「低不安定レベル」という)にあると判別されたときには、それを表すために、低不安定フラグF_SLDST1を「1」に、高不安定フラグF_SLDST2を「0」にそれぞれセットする。さらに、高レベルの不安定状態(以下「高不安定レベル」という)にあると判別されたときには、それを表すために、低不安定フラグF_SLDST1を「1」に、高不安定フラグF_SLDST2を「1」にそれぞれセットする。
【0086】
次いで、ステップ37に進み、触媒還元モード操作量DKCMDCRDを算出する。この触媒還元モード操作量DKCMDCRDは、触媒還元モード中の目標空燃比KCMDを算出するためのものであり、具体的には、排気ガスボリュームAB_SVに応じて、図示しないテーブルを検索することにより算出される。このテーブルでは、触媒還元モード操作量DKCMDCRDは、排気ガスボリュームAB_SVが大きいほど、リッチ化の度合いが小さくなるような値に設定されている。なお、触媒還元モード操作量DKCMDCRDを、空燃比A/F=12に相当する所定値に設定してもよい。また、触媒還元モードは、フューエルカット運転後に触媒装置8a,8bを還元させるために実行される運転モードである。
【0087】
次に、ステップ38および39において、後述するように、SLDコントローラ25およびDSMコントローラ24により、スライディングモード操作量DKCMDSLDおよびΔΣ変調操作量DKCMDDSMをそれぞれ算出する。
【0088】
次いで、ステップ40に進み、後述するように、SLDコントローラ25により算出されたスライディングモード操作量DKCMDSLD、またはDSMコントローラ24により算出されたΔΣ変調操作量DKCMDDSMを用いて、適応目標空燃比KCMDSLDを算出する。この後、ステップ41に進み、後述するように、適応補正項FLAFADPを算出した後、本処理を終了する。
【0089】
一方、図13に戻り、前記ステップ27の判別結果がNOで、PRISM処理およびADSM処理の実行条件がいずれも成立していないときには、ステップ42に進み、パラメータ初期化フラグF_IDRSETを「1」にセットする。次に、図14の上記ステップ40,41を実行した後、本処理を終了する。
【0090】
次に、図15を参照しながら、前述したステップ21の発進判定処理について説明する。この処理では、まず、ステップ49において、アイドル運転フラグF_IDLEPが「1」であるか否かを判別する。このアイドル運転フラグF_IDLEPは、アイドル運転中であるときに「1」に、それ以外のときに「0」にセットされる。なお、このアイドル運転フラグF_IDLEPを設定する処理では、アイドル運転中であるか否かの判定は、エンジン回転数NE、吸気管内絶対圧PBAおよびスロットル弁開度θTHなどに基づいて実行される。
【0091】
この判別結果がYESで、アイドル運転中であるときには、ステップ50に進み、車速VPが所定車速VSTART(例えば1km/h)より小さいか否かを判別する。この判別結果がYESで、停車中であるときには、ステップ51に進み、ダウンカウント式の第1発進判定タイマのタイマ値TMVOTVSTを第1所定時間TVOTVST(例えば3msec)に設定する。
【0092】
次いで、ステップ52に進み、ダウンカウント式の第2発進判定タイマのタイマ値TMVSTを、上記第1所定時間TVOTVSTよりも長い第2所定時間TVST(例えば500msec)に設定する。次いで、ステップ53,54において、第1および第2発進フラグF_VOTVST,F_VSTをいずれも「0」にセットした後、本処理を終了する。
【0093】
一方、ステップ49または50の判別結果がNOのとき、すなわちアイドル運転中でないか、または車両が発進したときには、ステップ55に進み、第1発進判定タイマのタイマ値TMVOTVSTが値0より大きいか否かを判別する。この判別結果がYESで、アイドル運転の終了後または車両の発進後、第1所定時間TVOTVSTが経過していないときには、第1発進モード中であるとして、ステップ56に進み、それを表すために第1発進フラグF_VOTVSTを「1」にセットする。
【0094】
一方、ステップ55の判別結果がNOで、アイドル運転の終了後または車両の発進後、第1所定時間TVOTVSTが経過したときには、第1発進モードが終了したとして、ステップ57に進み、第1発進フラグF_VOTVSTを「0」にセットする。
【0095】
ステップ56または57に続くステップ58では、第2発進判定タイマのタイマ値TMVSTが値0より大きいか否かを判別する。この判別結果がYESで、アイドル運転の終了後または車両の発進後、第2所定時間TVSTが経過していないときには、第2発進モード中であるとして、ステップ59に進み、それを表すために第2発進フラグF_VSTを「1」にセットした後、本処理を終了する。
【0096】
一方、ステップ58の判別結果がNOで、アイドル運転の終了後または車両の発進後、第2所定時間TVSTが経過したときには、第2発進モードが終了したとして、前記ステップ54を実行した後、本処理を終了する。
【0097】
次に、図16を参照しながら、前述したステップ25の各種パラメータを算出する処理について説明する。この処理では、まず、ステップ60において、下式(36)により、排気ガスボリュームAB_SV(空間速度の推定値)を算出する。
AB_SV=(NE/1500)・PBA・SVPRA ……(36)
ここで、SVPRAは、エンジン排気量に基づいて決定される所定の係数である。
【0098】
次に、ステップ61に進み、前述した空燃比操作系のむだ時間KACT_D(=d’)、排気系のむだ時間CAT_DELAY(=d)および予測時間dtを算出する。具体的には、ステップ60で算出された排気ガスボリュームAB_SVに応じて、図示しないテーブルを検索することにより、むだ時間KACT_D,CAT_DELAYをそれぞれ算出するとともに、これらの和(KACT_D+CAT_DELAY)を予測時間dtとして設定する。すなわち、この制御プログラムでは、位相遅れ時間ddが値0に設定される。
【0099】
次に、ステップ62に進み、同定アルゴリズムの重みパラメータλ1,λ2の値を算出する。具体的には、重みパラメータλ2を値1に設定すると同時に、重みパラメータλ1を、排気ガスボリュームAB_SVに応じて、図示しないテーブルを検索することにより算出する。
【0100】
次に、ステップ63に進み、モデルパラメータa1,a2の値を制限するための下限値IDA2Lと、モデルパラメータb1の値を制限するための下限値IDB1Lおよび上限値IDB1Hとを、排気ガスボリュームAB_SVに応じて、図示しないテーブルを検索することにより算出する。
【0101】
次いで、ステップ64に進み、移動平均フィルタリング処理のフィルタ次数nを算出した後、本処理を終了する。この処理では、フィルタ次数nを、排気ガスボリュームAB_SVに応じて、図示しないテーブルを検索することにより、算出する。
【0102】
次に、図17を参照しながら、前記ステップ26のADSMモードフラグF_DSMMODEの設定処理について説明する。同図に示すように、この処理では、まず、ステップ71において、前記アイドル運転フラグF_IDLEPおよびアイドル時ADSMフラグF_SWDSMIがいずれも「1」であるか否かを判別する。このアイドル時ADSMフラグF_SWDSMIは、エンジン3がアイドル運転中でかつADSM処理を実行すべき運転状態にあるときに「1」に、それ以外のときに「0」にそれぞれセットされる。
【0103】
ステップ71の判別結果がYESで、エンジン3がアイドル運転中でかつADSM処理を実行可能な運転状態にあるときには、ステップ77に進み、エンジン3がADSM処理を実行すべき運転状態にあることを表すために、ADSMモードフラグF_DSMMODEを「1」にセットした後、本処理を終了する。
【0104】
一方、ステップ71の判別結果がNOのときには、ステップ72に進み、前記第2発進フラグF_VSTおよび発進時ADSMフラグF_SWDSMVSがいずれも「1」であるか否かを判別する。この発進時ADSMフラグF_SWDSMVSは、車両の発進中にエンジン3がADSM処理を実行すべき運転状態にあるときに「1」に、それ以外のときに「0」にそれぞれセットされる。
【0105】
ステップ72の判別結果がYESで、第2発進モード中でかつ車両の発進中にエンジン3がADSM処理を実行すべき運転状態にあるときには、前記ステップ77を実行した後、本処理を終了する。
【0106】
一方、ステップ72の判別結果がNOのときには、ステップ73に進み、排気ガスボリュームAB_SVが所定の下限値DSMSVL以上でかつ所定の上限値DSMSVH以下の範囲内にあるか否かを判別する。この判別結果がYESのときには、エンジン3の負荷がADSM処理を実行すべき状態にあるとして、前記ステップ77を実行した後、本処理を終了する。
【0107】
一方、ステップ73の判別結果がNOのときには、ステップ74に進み、RAMに記憶されている、前回のループでのADSMモードフラグF_DSMMODEの設定値が「1」であるか否かを判別する。
【0108】
この判別結果がYESのときには、ステップ75に進み、RAMに記憶されている、出力偏差の予測値PREVO2の前回ループでの算出値の絶対値が所定値VDSMEND(所定の範囲を規定する値)以下であるか否かを判別する。この判別結果がYESのときには、エンジン3が、目標空燃比KCMDの算出をADSM処理からPRISM処理に切り換えるべき運転状態にあるとして、ステップ76に進み、それを表すためにADSMモードフラグF_DSMMODEを「0」にセットした後、本処理を終了する。
【0109】
一方、ステップ75の判別結果がNOのときには、前記ステップ77を実行した後、本処理を終了する。
【0110】
一方、ステップ74の判別結果がNOのときには、ステップ75をスキップして、上記ステップ76を実行した後、本処理を終了する。
【0111】
以上のように、このADSMモードフラグF_DSMMODEの設定処理では、ADSMモードフラグF_DSMMODEは、ステップ71〜73のADSM処理の実行条件が成立しておらず、かつ前回のループでADSM処理の実行条件が成立していた場合において、出力偏差の予測値PREVO2の前回値の絶対値が所定値VDSMEND以下であるとき、言い換えれば、O2センサ15の出力Voutが目標値Vopに近づいた状態にあるときに「0」に、それ以外のときに「1」に設定される。この理由については、後述する。
【0112】
次に、図18を参照しながら、前記ステップ32のオンボード同定器23の演算処理について説明する。同図に示すように、この処理では、まず、ステップ80において、前述した式(14)より、ゲイン係数KP(k)を算出する。次に、ステップ81に進み、前述した式(12)より、出力偏差VO2の同定値VO2HAT(k)を算出する。
【0113】
次いで、ステップ82に進み、前述した式(10)(11)より、同定誤差フィルタ値ide_f(k)を算出下後、ステップ83に進み、前述した式(8)より、モデルパラメータのベクトルθ(k)を算出する。
【0114】
次に、ステップ84に進み、モデルパラメータのベクトルθ(k)の安定化処理を実行する。この処理の内容は図示しないが、具体的には、ステップ83で算出されたモデルパラメータの同定値a1’,a2’を、前記ステップ63で算出された下限値IDA2Lに基づく制限範囲内の値になるように制限することにより、モデルパラメータa1,a2を算出する。これに加えて、モデルパラメータb1の同定値b1’を、前記ステップ63で算出された上下限値IDB1L,IDB1Hに基づく制限範囲内の値になるように制限することにより、モデルパラメータb1を算出する。以上により、モデルパラメータa1,a2,b1は、制御系の安定性を確保できる値に設定される。
【0115】
次いで、ステップ85に進み、前述した式(15)より、正方行列P(k)の次回値P(k+1)を算出する。この次回値P(k+1)は、次回のループでの算出において、正方行列P(k)の値として用いられる。
【0116】
次に、図19を参照しながら、前述したステップ35の操作量USLを算出する処理について説明する。この処理では、まず、ステップ90において、前述した図11の式(30)により、予測切換関数σPREを算出する。
【0117】
次に、ステップ91に進み、予測切換関数σPREの積算値SUMSIGMAを算出する。この処理では、図20に示すように、まず、ステップ100において、下記の3つの条件(f11)〜(f13)のうちの少なくとも1つが成立しているか否かを判別する。
(f11)適応制御フラグF_PRISMONが「1」であること。
(f12)後述する積算値保持フラグF_SSHOLDが「0」であること。
(f13)ADSMモードフラグF_DSMMODEが「0」であること。
【0118】
このステップ100の判別結果がYESのとき、すなわち積算値SUMSIGMAの算出条件が成立しているときには、ステップ101に進み、積算値SUMSIGMAの今回値SUMSIGMA(k)を、前回値SUMSIGMA(k−1)に、制御周期ΔTと予測切換関数σPREとの積を加算した値[SUMSIGMA(k−1)+ΔT・σPRE]に設定する。
【0119】
次いで、ステップ102に進み、ステップ101で算出した今回値SUMSIGMA(k)が所定の下限値SUMSLより大きいか否かを判別する。この判別結果がYESのときには、ステップ103に進み、今回値SUMSIGMA(k)が所定の上限値SUMSHより小さいか否かを判別する。この判別結果がYESで、SUMSL<SUMSIGMA(k)<SUMSHのときには、そのまま本処理を終了する。
【0120】
一方、ステップ103の判別結果がNOで、SUMSIGMA(k)≧SUMSHのときには、ステップ104に進み、今回値SUMSIGMA(k)を上限値SUMSHに設定した後、本処理を終了する。一方、ステップ102の判別結果がNOで、SUMSIGMA(k)≦SUMSLのときには、ステップ105に進み、今回値SUMSIGMA(k)を下限値SUMSLに設定した後、本処理を終了する。
【0121】
一方、ステップ100の判別結果がNOのとき、すなわち3つの条件(f11)〜(f13)がいずれも不成立で、積算値SUMSIGMAの算出条件が不成立であるときには、ステップ106に進み、今回値SUMSIGMA(k)を前回値SUMSIGMA(k−1)に設定する。すなわち、積算値SUMSIGMAをホールドする。この後、本処理を終了する。
【0122】
図19に戻り、ステップ91に続くステップ92〜94において、前述した図11の式(32)〜(34)により、等価制御入力UEQ(=Ueq)、到達則入力URCH(=Urch)および適応則入力UADP(=Uadp)をそれぞれ算出する。
【0123】
次に、ステップ95に進み、これらの等価制御入力UEQ、到達則入力URCHおよび適応則入力UADPの和を、操作量USLとして設定した後、本処理を終了する。
【0124】
次に、図21および図22を参照しながら、前述した図14のステップ38のスライディングモード操作量DKCMDSLDの算出処理について説明する。この処理は、上記ステップ95で算出された操作量USLを、後述する各種の上下限値により規定される制限範囲内の値に制限することによって、スライディングモード操作量DKCMDSLDを算出するものである。
【0125】
この処理では、まず、ステップ111において、触媒還元モードフラグF_CTRDMODが「0」であるか否かを判別する。この触媒還元モードフラグF_CTRDMODは、エンジン3が触媒還元モード中であるときに「1」に、それ以外のときに「0」にそれぞれセットされる。
【0126】
ステップ111の判別結果がYESで、エンジン3が触媒還元モード中でないときには、ステップ112に進み、ADSMモードフラグF_DSMMODEが「0」であるか否かを判別する。
【0127】
この判別結果がYESで、エンジン3がPRISM処理を実行すべき運転状態にあるときには、ステップ113に進み、リミット値算出処理を実行する。このリミット値算出処理では、後述するように、適応上下限値USLAH,USLAL、そのリミット処理値USLALH,USLALL、非アイドル運転用の上下限値USLAHF,USLALF、およびアイドル運転用の上下限値USLAHFI,USLALFIがそれぞれ算出される。
【0128】
次いで、ステップ114に進み、アイドル運転フラグF_IDLEPが「0」であるか否かを判別する。この判別結果がYESで、アイドル運転中でないときには、ステップ115に進み、前記ステップ95で算出された操作量USLが、非アイドル運転用の下限値USLALF(制限範囲の下限を規定する値)以下であるか否かを判別する。
【0129】
この判別結果がNOで、USL>USLALFのときには、ステップ116に進み、操作量USLが非アイドル運転用の上限値USLAHF以上であるか否かを判別する。この判別結果がNOで、USLALF<USL<USLAHFのときには、ステップ117に進み、スライディングモード操作量DKCMDSLDを操作量USLに設定すると同時に、積算値保持フラグF_SSHOLDを「0」にセットする。
【0130】
次いで、ステップ118に進み、適応下限値USLALを、そのリミット処理値USLALLに所定の縮小側値ALDECを加算した値[USLALL+ALDEC]に設定すると同時に、適応上限値USLAHを、そのリミット処理値USLALHから所定の縮小側値ALDECを減算した値[USLALH−ALDEC]に設定した後、本処理を終了する。
【0131】
一方、ステップ116の判別結果がYESで、USL≧USLAHFのときには、ステップ119に進み、スライディングモード操作量DKCMDSLDを非アイドル運転用の適応上限値USLAHFに設定すると同時に、積算値保持フラグF_SSHOLDを「1」にセットする。
【0132】
次いで、ステップ120に進み、始動後タイマのタイマ値TMACRが所定時間TMAWASTより小さいこと、またはF/C後判定フラグF_AFCが「1」であることが成立しているか否かを判別する。この始動後タイマは、エンジン3の始動後の経過時間を計時するアップカウント式のタイマである。
【0133】
この判別結果がYESのとき、すなわち、エンジン始動後、所定時間TMAWASTが経過していないか、またはフューエルカット運転の終了後、所定時間TM_AFCが経過していないときには、そのまま本処理を終了する。
【0134】
一方、ステップ120の判別結果がNOのとき、すなわち、エンジン始動後、所定時間TMAWASTが経過し、かつフューエルカット運転の終了後、所定時間TM_AFCが経過したときには、ステップ121に進み、適応下限値USLALを、そのリミット処理値USLALLに縮小側値ALDECを加算した値[USLALL+ALDEC]に設定すると同時に、適応上限値USLAHを、そのリミット処理値USLALHに所定の拡大側値ALINCを加算した値[USLALH+ALINC]に設定した後、本処理を終了する。
【0135】
一方、ステップ115の判別結果がYESで、USL≦USLALFのときには、図22のステップ124に進み、スライディングモード操作量DKCMDSLDを非アイドル運転用の適応下限値USLALFに設定すると同時に、積算値保持フラグF_SSHOLDを「1」にセットする。
【0136】
次いで、ステップ125に進み、第2発進フラグF_VSTが「1」であるか否かを判別する。この判別結果がYESで、車両の発進後、第2所定時間TVSTが経過しておらず、第2発進モード中であるときには、そのまま本処理を終了する。
【0137】
一方、ステップ125の判別結果がNOで、車両の発進後、第2所定時間TVSTが経過し、第2発進モードが終了したときには、ステップ126に進み、適応下限値USLALを、そのリミット処理値USLALLから拡大側値ALINCを減算した値[USLALL−ALINC]に設定すると同時に、適応上限値USLAHを、そのリミット処理値USLALHから縮小側値ALDECを減算した値[USLALH−ALDEC]に設定する。その後、本処理を終了する。
【0138】
一方、ステップ114の判別結果がNOで、アイドル運転中であるときには、図22のステップ127に進み、操作量USLが、アイドル運転用の下限値USLALFI以下であるか否かを判別する。この判別結果がNOで、USL>USLALFIのときには、ステップ128に進み、操作量USLがアイドル運転用の上限値USLAHFI以上であるか否かを判別する。
【0139】
この判別結果がNOで、USLALFI<USL<USLAHFIのときには、ステップ129に進み、スライディングモード操作量DKCMDSLDを操作量USLに設定すると同時に、積算値保持フラグF_SSHOLDを「0」にセットした後、本処理を終了する。
【0140】
一方、ステップ128の判別結果がYESで、USL≧USLAHFIのときには、ステップ130に進み、スライディングモード操作量DKCMDSLDをアイドル運転用の上限値USLAHFIに設定すると同時に、積算値保持フラグF_SSHOLDを「1」にセットした後、本処理を終了する。
【0141】
一方、ステップ127の判別結果がYESで、USL≦USLALFIのときには、ステップ131に進み、スライディングモード操作量DKCMDSLDをアイドル運転用の下限値USLALFIに設定すると同時に、積算値保持フラグF_SSHOLDを「1」にセットした後、本処理を終了する。
【0142】
一方、図21に戻り、前述したステップ111,112のいずれかの判別結果がNOのとき、すなわちエンジン3が触媒還元モード中にあるとき、またはエンジン3がADSM処理を実行すべき運転状態にあるときには、ステップ122に進み、スライディングモード操作量DKCMDSLDを所定値SLDHOLDに設定する。この所定値SLDHOLDは、後述するように、目標空燃比KCMDの算出がADSM処理からPRISM処理に切り換えられたときに、切り換え直後にステップ193で算出される目標空燃比KCMDが過度にリーン側の値にならないような値として設定される。
【0143】
次いで、ステップ123に進み、適応下限値USLALを所定の初期値USLLCRDに設定した後、本処理を終了する。この初期値USLLCRDは、後述するように、目標空燃比KCMDの算出がADSM処理からPRISM処理に切り換えられた際、切り換え後の初期において目標空燃比KCMDが過度にリーン側の値にならないように、以上の図21,22の処理でスライディングモード操作量DKCMDSLDの制限範囲を設定するための値である。
【0144】
以上のように、このスライディングモード操作量DKCMDSLDの算出処理では、ECU2およびエンジン3が適応目標空燃比KCMDSLDをPRISM処理により算出すべき状態にあるときには、スライディングモード操作量DKCMDSLDは、アイドル運転用の上下限値USLAHFI,USLALFIまたは非アイドル運転用のUSLAHF,USLALFにより規定される制限範囲内の値に設定される。すなわち、リミット処理を施された値に設定される。
【0145】
一方、ECU2またはエンジン3が適応目標空燃比KCMDSLDをPRISM処理により算出すべき状態にないときには、スライディングモード操作量DKCMDSLDが所定値SLDHOLDに設定されると同時に、適応下限値USLALが所定の初期値USLLCRDに設定される。これは、後述するように、目標空燃比KCMDの算出がADSM処理からPRISM処理に切り換えられた際、切り換え後の初期において、目標空燃比KCMDをリーン側に過度に変化しないように制御するためである。
【0146】
次に、図23および図24を参照しながら、前記ステップ113のリミット値算出処理について説明する。この処理では、まず、ステップ140において、適応上下限値のリミット処理値USLALH,USLALLを算出する。
【0147】
この処理では、図24に示すように、ステップ160において、リミット処理オフフラグF_SWAWOFFが「1」であるか否かを判別する。このリミット処理オフフラグF_SWAWOFFは、ECU2がリミット処理を実行可能な演算処理状態にないときに「1」に、それ以外のときに「0」にセットされる。この判別結果がNOで、ECU2がリミット処理を実行可能な演算処理状態にあるときには、ステップ161に進み、F/C後判定フラグF_AFCが「1」であるか否かを判別する。
【0148】
この判別結果がNOで、フューエルカット運転の終了後、所定時間TM_AFCが経過したときには、ステップ162に進み、アイドル運転フラグF_IDLEPが「1」であるか否かを判別する。
【0149】
この判別結果がNOで、エンジン3がアイドル運転中でないときには、ステップ163に進み、高不安定フラグF_SLDST2が「1」であるか否かを判別する。この判別結果がNOで、スライディングモード制御が高不安定レベルにないときには、ステップ164に進み、低不安定フラグF_SLDST1が「1」であるか否かを判別する。
【0150】
この判別結果がNOで、スライディングモード制御が安定レベルにあるときには、ステップ165に進み、安定レベル用の適応上下限値のリミット処理値USLALH,USLALLを以下に述べるように算出した後、本処理を終了する。
【0151】
このステップ165では、図示しないが、適応上限値のリミット処理値USLALHを、RAMに記憶されている適応上限値USLAHと、所定の安定レベル用のリッチ側上下限値USLHH,USLLMTHとの比較結果に基づいて、算出する。具体的には、適応上限値のリミット処理値USLALHを、USLLMTH≦USLAH≦USLHHのときには、適応上限値USLAHに設定し、USLHH<USLAHのときには、安定レベル用のリッチ側上限値USLHHに設定し、USLAH<USLLMTHのときには、安定レベル用のリッチ側下限値USLLMTHにそれぞれ設定する。
【0152】
また、適応下限値のリミット処理値USLALLを、RAMに記憶されている適応下限値USLALと、所定の安定レベル用のリーン側上下限値USLLL,USLLMTLとの比較結果に基づいて、算出する。具体的には、適応下限値のリミット処理値USLALLを、USLLL≦USLAL≦USLLMTLのときには、適応下限値USLALに設定し、USLLMTL<USLALのときには、安定レベル用のリーン側上限値USLLMTLに設定し、USLAL<USLLLのときには、安定レベル用のリーン側下限値USLLにそれぞれ設定する。
【0153】
一方、ステップ164の判別結果がYESで、スライディングモード制御が低不安定レベルにあるときには、ステップ166に進み、低不安定レベル用の適応上下限値のリミット処理値USLALH,USLALLを以下に述べるように算出した後、本処理を終了する。
【0154】
このステップ166では、図示しないが、適応上限値のリミット処理値USLALHを、適応上限値USLAHと、所定の低不安定レベル用のリッチ側上限値USLHおよび前記安定レベル用のリッチ側下限値USLLMTHとの比較結果に基づいて、算出する。具体的には、適応上限値のリミット処理値USLALHを、USLLMTH≦USLAH≦USLHのときには、適応上限値USLAHに設定し、USLH<USLAHのときには、低不安定レベル用のリッチ側上限値USLHに設定し、USLAH<USLLMTHのときには、安定レベル用のリッチ側下限値USLLMTHにそれぞれ設定する。
【0155】
また、適応下限値のリミット処理値USLALLを、適応下限値USLALと、前記安定レベル用のリーン側上限値USLLMTLおよび所定の低不安定レベル用のリーン側下限値USLLとの比較結果に基づいて、算出する。具体的には、適応下限値のリミット処理値USLALLを、USLL≦USLAL≦USLLMTLのときには、適応下限値USLALに設定し、USLLMTL<USLALのときには、安定レベル用のリーン側上限値USLLMTLに設定し、USLAL<USLLのときには、低不安定レベル用のリーン側下限値USLLにそれぞれ設定する。
【0156】
一方、ステップ163の判別結果がYESで、スライディングモード制御が高不安定レベルにあるときには、ステップ167に進み、高不安定レベル用の適応上下限値のリミット処理値USLALH,USLALLを以下に述べるように算出した後、本処理を終了する。
【0157】
このステップ167では、図示しないが、適応上限値のリミット処理値USLALHを、適応上限値USLAHと、所定の高不安定レベル用のリッチ側上限値USLSTBHおよび前記安定レベル用のリッチ側下限値USLLMTHとの比較結果に基づいて、算出する。具体的には、適応上限値のリミット処理値USLALHを、USLLMTH≦USLAH≦USLSTBHのときには、適応上限値USLAHに設定し、USLSTBH<USLAHのときには、高不安定レベル用のリッチ側上限値USLSTBHに設定し、USLAH<USLLMTHのときには、安定レベル用のリッチ側下限値USLLMTHにそれぞれ設定する。
【0158】
また、適応下限値のリミット処理値USLALLを、適応下限値USLALと、前記安定レベル用のリーン側上限値USLLMTLおよび所定の高不安定レベル用のリーン側下限値USLSTBLとの比較結果に基づいて、算出する。具体的には、適応下限値のリミット処理値USLALLを、USLSTBL≦USLAL≦USLLMTLのときには、適応下限値USLALに設定し、USLLMTL<USLALのときには、安定レベル用のリーン側上限値USLLMTLに設定し、USLAL<USLSTBLのときには、高不安定レベル用のリーン側下限値USLSTBLにそれぞれ設定する。
【0159】
なお、適応上限値のリミット処理値USLALHの算出で用いられる以上の各種の上下限値は、USLLMTH≦USLSTBH≦USLH≦USLHHの関係が成立するように設定されており、適応下限値のリミット処理値USLALLの算出で用いられる以上の各種の上下限値は、USLLL≦USLL≦USLSTBL≦USLLMTLの関係が成立するように設定されている。
【0160】
一方、ステップ161または162の判別結果がYESのとき、すなわちフューエルカット運転の終了後、所定時間TM_AFCが経過していないとき、またはエンジン3がアイドル運転中であるときには、そのまま本処理を終了する。
【0161】
一方、ステップ160の判別結果がYESで、ECU2がリミット処理を実行可能な演算処理状態にないときには、ステップ168に進み、適応上下限値のリミット処理値USLALH,USLALLを、前記低不安定レベル用のリッチ側上限値USLHおよび前記低不安定レベル用のリーン側下限値USLLにそれぞれセットした後、本処理を終了する。
【0162】
図23に戻り、前記ステップ140に続くステップ141において、前記リミット処理オフフラグF_SWAWOFFが「1」であるか否かを判別する。この判別結果がNOで、ECU2がリミット処理を実行可能な演算処理状態にあるときには、ステップ142に進み、前記F/C後判定フラグF_AFCが「1」であるか否かを判別する。
【0163】
この判別結果がNOで、フューエルカット運転の終了後、所定時間TM_AFCが経過したときには、ステップ143に進み、前記アイドル運転フラグF_IDLEPが「1」であるか否かを判別する。この判別結果がNOで、エンジン3がアイドル運転中でないときには、ステップ144に進み、第2発進フラグF_VSTが「1」であるか否かを判別する。
【0164】
この判別結果がNOで、第2発進モードが終了したとき、すなわち車両の発進後、第2所定時間TVSTが経過したときには、ステップ145に進み、非アイドル運転用の上下限値USLAHF,USLALFをそれぞれ、ステップ140で算出された適応上下限値のリミット処理値USLALH,USLALLに設定した後、本処理を終了する。
【0165】
一方、ステップ144の判別結果がYESで、第2発進モード中であるときには、ステップ146に進み、非アイドル運転用の上限値USLAHFをステップ140で算出された適応上限値のリミット処理値USLALHに、非アイドル運転用の下限値USLALFを所定の第2発進モード用の下限値USLVSTにそれぞれ設定した後、本処理を終了する。
【0166】
一方、ステップ143の判別結果がYESで、アイドル運転中であるときには、ステップ147に進み、前記高不安定フラグF_SLDST2が「1」であるか否かを判別する。この判別結果がNOで、スライディングモード制御が高不安定レベルにないときには、ステップ148に進み、アイドル運転用の上下限値USLAHFI,USLALFIをそれぞれ、所定のアイドル運転時の安定レベル用の上下限値USLHI,USLLIに設定した後、本処理を終了する。
【0167】
一方、ステップ147の判別結果がYESで、スライディングモード制御が高不安定レベルにあるときには、ステップ149に進み、アイドル運転用の上下限値USLAHFI,USLALFIをそれぞれ、所定のアイドル運転時の高不安定レベル用の上下限値USLSTBHI,USLSTBLIに設定した後、本処理を終了する。
【0168】
一方、ステップ142の判別結果がYESで、フューエルカット運転の終了後、所定時間TM_AFCが経過していないときには、ステップ150に進み、非アイドル運転用の上限値USLAHFを所定のアイドル後用の上限値USLAFCに、非アイドル運転用の下限値USLALFをステップ140で算出された適応下限値のリミット処理値USLALLに、アイドル運転用の上限値USLAHFIを上記アイドル後用の上限値USLAFCに、アイドル運転用の下限値USLALFIを前記アイドル運転時の安定レベル用の下限値USLLIにそれぞれ設定した後、本処理を終了する。
【0169】
一方、ステップ141の判別結果がYESで、ECU2がリミット処理を実行可能な演算処理状態にないときには、ステップ151に進み、非アイドル運転用の上下限値USLAHF,USLALFを、前記低不安定レベル用のリッチ側上限値USLHおよび前記低不安定レベル用のリーン側下限値USLLにそれぞれ設定すると同時に、アイドル運転用の上下限値USLAHFI,USLALFIをそれぞれ、前記アイドル運転時の安定レベル用の上下限値USLHI,USLLIに設定した後、本処理を終了する。
【0170】
次に、図25を参照しながら、前述した図14のステップ39のΔΣ変調操作量DKCMDDSMを算出する処理について説明する。同図に示すように、この処理では、まず、ステップ170において、ADSMモードフラグF_DSMMODEが「1」であるか否かを判別する。この判別結果がYESで、エンジン3がADSM処理を実行すべき運転状態にあるときには、ステップ171に進み、RAMに記憶されている、前回のループで算出されたDSM信号値の今回値DSMSGNS(k)[=u(k)]を、前回値DSMSGNS(k−1)[=u(k−1)]として設定する。
【0171】
次に、ステップ172に進み、RAMに記憶されている、前回のループで算出された偏差積分値の今回値DSMSIGMA(k)[=σd(k)]を、前回値DSMSIGMA(k−1)[=σd(k−1)]として設定する。
【0172】
次いで、ステップ173に進み、出力偏差の予測値PREVO2(k)が値0以上であるか否かを判別する。この判別結果がYESのときには、エンジン3が混合気の空燃比をリーン側に変更すべき運転モードにあるとして、ステップ174に進み、参照信号値用の非線形ゲインKRDSM(=Gd)を、リーン化用の値KRDSML(=Gd1)に設定した後、後述するステップ176に進む。
【0173】
一方、ステップ173の判別結果がNOのときには、エンジン3が混合気の空燃比をリッチ側に変更すべき運転モードにあるとして、ステップ175に進み、参照信号値用の非線形ゲインKRDSMを、リーン化用の値KRDSMLよりも大きいリッチ化用の値KRDSMR(=Gd2>Gd1)に設定した後、ステップ176に進む。
【0174】
このように、非線形ゲインKRDSMが、予測値PREVO2(k)に応じて、互いに異なるリーン化用の値KRDSMLおよびリッチ化用の値KRDSMR(>KRDSML)に設定される理由は、以下による。すなわち、混合気の空燃比をリーン側に変更する際には、リーン化用の値KRDSMLをリッチ化用の値KRDSMRよりも小さい値に設定することで、O2センサ15の出力Voutの目標値Vopへの収束速度がリッチ側への変更時よりも遅くなるように、空燃比を制御し、それにより、第1触媒装置8a内の触媒の上流側端部が過度にリーン化されるのを回避することで、第1および第2触媒装置8a,8bのNOx浄化率を向上させるためである。一方、混合気の空燃比をリッチ側に変更する際には、リッチ化用の値KRDSMRをリーン化用の値KRDSMLよりも大きい値に設定することで、O2センサ15の出力Voutの目標値Vopへの収束速度がリーン側への変更時よりも速くなるように、空燃比を制御し、それにより、第1および第2触媒装置8a,8bのリーン雰囲気を迅速に解消し、リッチ雰囲気に移行させることで、第1および第2触媒装置8a,8bのNOx浄化率を迅速に回復させるためである。以上により、混合気の空燃比をリッチ側およびリーン側に変更する際、触媒装置8a,8bにおいて、良好なNOx浄化率を確保することができる。
【0175】
ステップ174または175に続くステップ176では、値−1、参照信号値用の非線形ゲインKRDSMおよび予測値の今回値PREVO2(k)を互いに乗算した値から、上記ステップ171で算出したDSM信号値の前回値DSMSGNS(k−1)を減算した値[−1・KRDSM・PREVO2(k)−DSMSGNS(k−1)]を、偏差信号値DSMDELTA[=δ(k)]として設定する。この処理は、前述した式(19),(20)に相当する。
【0176】
次いで、ステップ177に進み、偏差積分値の今回値DSMSIGMA(k)を、ステップ172で算出した前回値DSMSIGMA(k−1)と、ステップ176で算出した偏差信号値DSMDELTAとの和[DSMSIGMA(k−1)+DSMDELTA]に設定する。この処理は、前述した式(21)に相当する。
【0177】
次に、ステップ178〜180において、ステップ177で算出した偏差積分値の今回値DSMSIGMA(k)が値0以上のときには、DSM信号値の今回値DSMSGNS(k)を値1に設定し、偏差積分値の今回値DSMSIGMA(k)が値0よりも小さいときには、DSM信号値の今回値DSMSGNS(k)を値−1に設定する。以上のステップ178〜180の処理は、前述した式(22)に相当する。
【0178】
次いで、ステップ181において、排気ガスボリュームAB_SVに応じて、図示しないテーブルを検索することにより、DSM信号値用のゲインKDSM(=Fd)を算出する。このテーブルでは、ゲインKDSMは、排気ガスボリュームAB_SVが小さいほど、より大きな値に設定されている。これは、排気ガスボリュームAB_SVが小さいほど、すなわちエンジン3の運転負荷が小さい状態であるほど、O2センサ15の出力Voutの応答性が低下するので、それを補償するためである。
【0179】
なお、このゲインKDSMの算出に用いるテーブルは、ゲインKDSMが排気ガスボリュームAB_SVに応じて設定されている上記テーブルに限らず、エンジン3の運転負荷を表すパラメータ(例えば基本燃料噴射量Tim)に応じてゲインKDSMが予め設定されているものであればよい。また、触媒装置8aの劣化判別器が設けられている場合には、この劣化判別器で判別された触媒装置8aの劣化度合が大きいほど、ゲインDSMをより小さい値に補正するようにしてもよい。さらに、ゲインKDSMを、オンボード同定器23によって同定されたモデルパラメータに応じて決定してもよい。例えば、モデルパラメータb1の逆数(1/b1)の値が大きいほど、言い換えればモデルパラメータb1の値が小さいほど、ゲインKDSMをより大きい値に設定してもよい。
【0180】
次に、ステップ182に進み、ΔΣ変調操作量DKCMDDSMを、DSM信号値用のゲインKDSMと、DSM信号値の今回値DSMSGNS(k)とを互いに乗算した値[KDSM・DSMSGNS(k)]に設定した後、本処理を終了する。この処理が、前述した式(23)に相当する。
【0181】
一方、ステップ170の判別結果がNOで、エンジン3がADSM処理を実行すべき運転状態にないときには、ステップ183に進み、DSM信号値の前回値DSMSGNS(k−1)および今回値DSMSGNS(k)をいずれも値1に設定する。
【0182】
次いで、ステップ184に進み、偏差積分値の前回値DSMSIGMA(k−1)および今回値DSMSIGMA(k)をいずれも値0に設定する。次に、ステップ185に進み、ΔΣ変調操作量DKCMDDSMを値0に設定した後、本処理を終了する。
【0183】
次に、図26を参照しながら、前述した図14のステップ40の適応目標空燃比KCMDSLDを算出する処理について説明する。同図に示すように、この処理では、まず、ステップ190において、前記ステップ23で設定されたPRISM/ADSM実行フラグF_PRISMCALが「1」であるか否かを判別する。
【0184】
この判別結果がYESのときには、ステップ191に進み、触媒還元モードフラグF_CTRMODが「0」であるか否かを判別する。この触媒還元モードフラグF_CTRMODは、エンジン3が触媒還元モードを実行すべき運転状態のときに「1」に、それ以外のときに「0」にそれぞれセットされる。
【0185】
ステップ191の判別結果がYESで、エンジン3が触媒還元モードを実行すべき運転状態にないときには、ステップ192に進み、ADSMモードフラグF_DSMMODEが「0」であるか否かを判別する。
【0186】
この判別結果がYESで、適応目標空燃比KCMDSLDをPRISM処理で算出すべき運転状態のときには、ステップ193に進み、基準値FLAFBASE、適応補正項FLAFADPおよびスライディングモード操作量DKCMDSLDの和[FLAFBASE+FLAFADP+DKCMDSLD]を、適応目標空燃比KCMDSLDとして設定した後、本処理を終了する。
【0187】
一方、ステップ192の判別結果がNOで、適応目標空燃比KCMDSLDをADSM処理で算出すべき運転状態のときには、ステップ194に進み、基準値FLAFBASE、適応補正項FLAFADPおよびΔΣ変調制御量DKCMDDSMの和[FLAFBASE+FLAFADP+DKCMDDSM]を、適応目標空燃比KCMDSLDとして設定した後、本処理を終了する。この処理が、前述した式(24)に相当する。
【0188】
一方、ステップ191の判別結果がNOで、エンジン3が触媒還元モードを実行すべき運転状態にあるときには、ステップ195に進み、基準値FLAFBASE、適応補正項FLAFADPおよび触媒還元モード操作量DKCMDCRDの和[FLAFBASE+FLAFADP+DKCMDCRD]を、適応目標空燃比KCMDSLDとして設定した後、本処理を終了する。
【0189】
一方、ステップ190の判別結果がNOで、エンジン3がPRISM処理、ADSM処理または触媒還元モード処理を実行すべき運転状態にないときには、ステップ196に進み、基準値FLAFBASE、適応補正項FLAFADPおよび所定値SLDHOLDの和[FLAFBASE+FLAFADP+SLDHOLD]を適応目標空燃比KCMDSLDとして設定した後、本処理を終了する。
【0190】
次に、図27を参照しながら、図14のステップ41の適応補正項FLAFADPの算出処理について説明する。この処理は、適応補正項の次回値FLAFADP(k+1)を算出するものであり、この次回値FLAFADP(k+1)は、次回のループにおいて今回値FLAFADP(k)として用いられる。
【0191】
この処理では、まず、ステップ200において、出力偏差VO2が所定の範囲(ADL<VO2<ADH)内の値であるか否かを判別する。この判別結果がYESのとき、すなわち出力偏差VO2が小さく、O2センサ15の出力Voutが目標値Vopの近傍にあるときには、ステップ201に進み、適応則入力UADPが所定の下限値NRLより小さいか否かを判別する。
【0192】
この判別結果がNOで、UADP≧NRLのときには、ステップ202に進み、適応則入力UADPが所定の上限値NRHより大きいか否かを判別する。この判別結果がNOで、NRL≦UADP≦NRHのときには、ステップ203に進み、適応補正項の次回値FLAFADP(k+1)を今回値FLAFADP(k)に設定する。すなわち、適応補正項FLAFADPの値をホールドする。この後、本処理を終了する。
【0193】
一方、ステップ202の判別結果がYESで、UADP>NRHのときには、ステップ204に進み、適応補正項の次回値FLAFADP(k+1)を、今回値FLAFADP(k)に所定の更新値FLAFDLTを加算した値[FLAFADP(k)+FLAFDLT]に設定した後、本処理を終了する。
【0194】
一方、ステップ201の判別結果がYESで、UADP<NRLのときには、ステップ205に進み、適応補正項の次回値FLAFADP(k+1)を、今回値FLAFADP(k)から所定の更新値FLAFDLTを減算した値[FLAFADP(k)−FLAFDLT]に設定した後、本処理を終了する。
【0195】
次に、図28および図29を参照しながら、以上の各制御処理により空燃比を制御した場合において、O2センサ15の出力Voutが目標値Vopよりも大きい状態すなわちリッチ側にある状態で、目標空燃比KCMDの算出処理がADSM処理からPRISM処理に切り換わった際の動作について説明する。図28は、本実施形態の制御装置1により空燃比を制御した場合の動作の一例を示しており、図29は、比較のために、PRISM処理において、前記ステップ74,75および前記ステップ122,123を省略した場合の動作の比較例を示している。なお、両図に示すデータは、理解の容易化のために、(FLAFBASE+FLAFADP)の値を、値1.0(理論空燃比に相当する当量比の値)に設定した場合のものである。また、両図に示すNOxのデータは、第2触媒装置8bの下流側における測定データである。
【0196】
まず、図29に示すように、比較例では、ADSM処理からPRISM処理に切り換わった際(時刻t2)、その直後に目標空燃比KCMDがADSM処理中の値よりもリーン側の値に急激に変動すると同時に、排気ガス中のNOx排出量が一時的に急増し、触媒装置8a,8bによるNOx浄化率が一時的に低下していることが分かる。これに対して、図28に示す本実施形態の動作例では、ADSM処理からPRISM処理に切り換わった際(時刻t1)、目標空燃比KCMDがADSM処理中の最もリーン側の値よりもリーン側に変動することがないとともに、排気ガス中のNOx排出量が増大することなく、触媒装置8a,8bによるNOx浄化率が良好な状態に保持されていることが分かる。これは、以下の理由による。
【0197】
すなわち、前述したように、本実施形態の空燃比制御では、ADSM処理により目標空燃比KCMDを算出している場合、O2センサ15の出力Voutが目標値Vopよりも大きいとき、すなわち予測値PREVO2≧0のときには、非線形ゲインKRDSMを、PREVO2<0のときよりも小さい値KRDSMLに設定することで、混合気の空燃比をリーン側に制御する際、O2センサ15の出力Voutが目標値Vopに緩やかに収束するように制御し、それにより、第1触媒装置8a内の触媒の上流側端部が過度にリーン化されるのを回避している。これに対して、PRISM処理では、O2センサ15の出力Voutが目標値Vopに迅速に収束するように、目標空燃比KCMDが算出される。
【0198】
したがって、比較例のように、O2センサ15の出力Voutが目標値Vopよりもリッチ側に離れた状態にあるときに、ADSM処理からPRISM処理に切り換わると、目標空燃比KCMDが、PRISM処理により、O2センサ15の出力Voutが目標値Vopに迅速に収束するような値、すなわち過度にリーン側の値として算出されることで、第1触媒装置8a内の触媒の上流側端部が過度にリーン化されてしまい、その結果、NOx浄化率が低下してしまう。
【0199】
これに対して、本実施形態の制御装置1では、前記ステップ74,75および図26のステップ192により、予測値PREVO2の前回値(前回ループでの算出値)の絶対値が所定値VDSMEND以下であるとき、すなわちO2センサ15の出力Voutが目標値Vopに近づいた状態にあるときに、ADSM処理からPRISM処理への切り換えが実行されるので、切り換えの前後間における目標空燃比KCMDの段差(急激な変化)が抑制される。
【0200】
これに加えて、前記ステップ122において、スライディングモード操作量DKCMDSLDが所定値SLDHOLDに設定されることで、ADSM処理からPRISM処理への切り換え直後の目標空燃比KCMDが、過度にリーン側の値にならないように設定される。さらに、ステップ123において、適応下限値USLALが、所定の初期値USLLCRDに設定されるので、ADSM処理からPRISM処理への切り換え直後は、ステップ113のリミット値算出処理において、スライディングモード操作量DKCMDSLDの制限範囲の下限(すなわちリーン側の限界)を規定する非アイドル運転用の下限値USLALFが、この初期値USLLCRDに設定され、それ以降はこの値に基づいて算出される。それにより、ADSM処理からPRISM処理への切り換えの初期において、目標空燃比KCMDが過度にリーン側に変化しないように制限される。したがって、本実施形態の制御装置1では、比較例と異なり、第1触媒装置8a内の触媒の上流側端部が過度にリーン化されるのが回避され、図28に示すように、触媒装置8a,8bによるNOx浄化率が良好な状態に保持される。
【0201】
以上のように、本実施形態の制御装置1によれば、予測値PREVO2の前回値の絶対値が所定値VDSMEND以下であるときに、ADSM処理からPRISM処理への切り換えが実行されるので、切り換えの前後間における目標空燃比KCMDの段差を抑制することができる。これに加えて、PRISM処理中でないときに、スライディングモード操作量DKCMDSLDが常に所定値SLDHOLDに設定され、適応下限値USLALが所定の初期値USLLCRDに常に設定されることで、ADSM処理からPRISM処理への切り換え直後、および切り換えの初期において、目標空燃比KCMDを、過度にリーン側の値にならないように制御できる。その結果、第1触媒装置8a内の触媒の上流側端部が過度にリーン化されるのを回避でき、触媒装置8a,8bによるNOx浄化率を良好な状態に保持できる。
【0202】
次に、図30を参照しながら、第2実施形態の制御装置について説明する。この第2実施形態の制御装置1は、第1実施形態の制御装置1のDSMコントローラ24に代えて、SDMコントローラ29を用いる点のみが異なっている。このSDMコントローラ29(第1の制御入力算出手段、第1の空燃比算出手段)は、ΣΔ変調アルゴリズムを適用した制御アルゴリズムにより、予測値PREVO2(k)に基づいて、制御入力φop(k)としての目標空燃比KCMD(k)を算出するものである。
【0203】
すなわち、同図に示すように、このSDMコントローラ29では、反転増幅器29aにより、参照信号r(k)が、値−1、参照信号用のゲインGdおよび予測値PREVO2(k)を互いに乗算した信号として生成される。次に、積分器29bにより、参照信号積分値σdr(k)が、遅延素子29cで遅延された参照信号積分値σdr(k−1)と参照信号r(k)との和の信号として生成される。一方、積分器29dにより、SDM信号積分値σdus(k)が、遅延素子29eで遅延されたSDM信号積分値σdus(k−1)と、遅延素子29jで遅延されたSDM信号us(k−1)との和の信号として生成される。そして、差分器29fにより、参照信号積分値σdr(k)とSDM信号積分値σdus(k)との偏差信号δ(k)が生成される。
【0204】
次いで、量子化器29g(符号関数)により、SDM信号us(k)が、この偏差信号δ(k)を符号化した値として生成される。そして、増幅器29hにより、増幅SDM信号us’’(k)がSDM信号us(k)を所定のゲインFdで増幅した値として生成され、次に、加算器29iにより、この増幅SDM信号us’’(k)に基準値FLAFBASEおよび適応補正項FLAFADPを加算した値として、目標空燃比KCMD(k)が生成される。
【0205】
以上のSDMコントローラ29の制御アルゴリズムは、以下の式(37)〜(43)で表される。
r(k)=−1・Gd・PREVO2(k) ……(37)
σdr(k)=σdr(k−1)+r(k) ……(38)
σdus(k)=σdus(k−1)+us(k−1) ……(39)
δ(k)=σdr(k)−σdus(k) ……(40)
us(k)=sgn(δ(k)) ……(41)
us’’(k)=Fd・us(k) ……(42)
KCMD(k)=FLAFBASE+FLAFADP+us’’(k) ……(43)
ここで、Fdはゲインを表す。また、非線形ゲインGdの値は、PREVO2(k)≧0のときには正の所定値Gd1(例えば値0.2)に、PREVO2(k)<0のときには所定値Gd1よりも大きい所定値Gd2(例えば値2)にそれぞれ設定される。さらに、符号関数sgn(δ(k))の値は、δ(k)≧0のときにはsgn(δ(k))=1となり、δ(k)<0のときにはsgn(δ(k))=−1となる(なお、δ(k)=0のときに、sgn(δ(k))=0と設定してもよい)。
【0206】
以上のSDMコントローラ29の制御アルゴリズムにおけるΣΔ変調アルゴリズムの特性は、ΔΣ変調アルゴリズムと同様に、SDM信号us(k)を、これを制御対象に入力した際、参照信号r(k)が制御対象の出力に再現されるような値として、生成(算出)できるという点にある。すなわち、SDMコントローラ29は、前述したDSMコントローラ24と同様の制御入力としての目標空燃比KCMD(k)を生成できるという特性を備えている。したがって、このSDMコントローラ29を用いる本実施形態の制御装置1によれば、第1実施形態の制御装置1と同様の効果を得ることができる。なお、SDMコントローラ29の具体的なプログラムは図示しないが、DSMコントローラ24とほぼ同様に構成される。
【0207】
次に、図31を参照しながら、第3実施形態の制御装置について説明する。この第3実施形態の制御装置1は、第1実施形態の制御装置1のDSMコントローラ24に代えて、DMコントローラ30を用いる点のみが異なっている。このDMコントローラ30(第1の制御入力算出手段、第1の空燃比算出手段)は、Δ変調アルゴリズムを適用した制御アルゴリズムにより、予測値PREVO2(k)に基づいて、制御入力φop(k)としての目標空燃比KCMD(k)を算出するものである。
【0208】
すなわち、同図に示すように、このDMコントローラ30では、反転増幅器30aにより、参照信号r(k)が、値−1、参照信号用のゲインGdおよび予測値PREVO2(k)を互いに乗算した信号として生成される。一方、積分器30bにより、DM信号積分値σdud(k)が、遅延素子30cで遅延されたDM信号積分値σdud(k−1)と、遅延素子30hで遅延されたDM信号ud(k−1)との和の信号として生成される。そして、差分器30dにより、参照信号r(k)とDM信号積分値σdud(k)との偏差信号δ(k)が生成される。
【0209】
次いで、量子化器30e(符号関数)により、DM信号ud(k)が、この偏差信号δ(k)を符号化した値として生成される。そして、増幅器30fにより、増幅DM信号ud’’(k)がDM信号ud(k)を所定のゲインFdで増幅した値として生成され、次に、加算器30gにより、この増幅DM信号ud’’(k)を所定の基準値FLAFBASEに加算した値として、目標空燃比KCMD(k)が生成される。
【0210】
以上のDMコントローラ30の制御アルゴリズムは、以下の式(44)〜(49)で表される。
r(k)=−1・Gd・PREVO2(k) ……(44)
σdud(k)=σdud(k−1)+ud(k−1) ……(45)
δ(k)=r(k)−σdu(k) ……(46)
ud(k)=sgn(δ(k)) ……(47)
ud’’(k)=Fd・ud(k) ……(48)
KCMD(k)=FLAFBASE+FLAFADP+ud’’(k) ……(49)
ここで、Fdはゲインを表す。また、非線形ゲインGdの値は、PREVO2(k)≧0のときには正の所定値Gd1(例えば値0.2)に、PREVO2(k)<0のときには所定値Gd1よりも大きい所定値Gd2(例えば値2)にそれぞれ設定される。さらに、符号関数sgn(δ(k))の値は、δ(k)≧0のときにはsgn(δ(k))=1となり、δ(k)<0のときにはsgn(δ(k))=−1となる(なお、δ(k)=0のときに、sgn(δ(k))=0と設定してもよい)。
【0211】
以上のDMコントローラ30の制御アルゴリズムすなわちΔ変調アルゴリズムの特性は、ΔΣ変調アルゴリズムおよびΣΔ変調アルゴリズムと同様に、DM信号ud(k)を制御対象に入力した際、参照信号r(k)が制御対象の出力に再現されるような値として、DM信号ud(k)を生成(算出)できるという点にある。すなわち、DMコントローラ30は、前述したDSMコントローラ24およびSDMコントローラ29と同様の制御入力としての目標空燃比KCMD(k)を生成できるという特性を備えている。したがって、このDMコントローラ30を用いる本実施形態の制御装置1によれば、第1実施形態の制御装置1と同様の効果を得ることができる。なお、DMコントローラ30の具体的なプログラムは図示しないが、DSMコントローラ24とほぼ同様に構成される。
【0212】
なお、各実施形態は、本発明の制御装置を車両用の内燃機関3の空燃比を制御するものとして構成した例であるが、本発明はこれに限らず、他の任意の制御対象を制御する制御装置に広く適用可能であることは言うまでもない。例えば、船舶用の内燃機関の空燃比を制御するものとして構成してもよく、他の産業機器を制御するものとして構成してもよい。また、ADSMコントローラ20およびPRISMコントローラ21を、実施形態のプログラムに代えて、電気回路により構成してもよい。
【0213】
【発明の効果】
以上のように、本発明の制御装置によれば、Δ変調アルゴリズム、ΔΣ変調アルゴリズムおよびΣΔ変調アルゴリズムのいずれか1つに基づく制御処理と、応答指定型制御アルゴリズムに基づく制御処理とに切り換えて、制御対象の出力を目標値に収束させるように制御する場合において、2つの制御処理の切り換えの前後間における制御入力の段差を解消でき、それにより、切り換えの際の制御対象の出力の急激な変化を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態に係る制御装置およびこれを適用した内燃機関の概略構成を示す図である。
【図2】劣化状態および未劣化状態の第1触媒装置を用いた場合において、LAFセンサの出力KACTに対する、両第1触媒装置のHCおよびNOxの浄化率と、O2センサ15の出力Voutとをそれぞれ測定した結果の一例を示す図である。
【図3】制御装置のADSMコントローラおよびPRISMコントローラの構成を示すブロック図である。
【図4】状態予測器の予測アルゴリズムの数式の一例を示す図である。
【図5】オンボード同定器の同定アルゴリズムの数式の一例を示す図である。
【図6】ΔΣ変調を実行するコントローラおよびこれを備えた制御系の構成を示すブロック図である。
【図7】図6の制御系の制御結果の一例を示すタイミングチャートである。
【図8】ADSMコントローラによる適応予測型ΔΣ変調制御の原理を説明するためのタイミングチャートである。
【図9】ADSMコントローラのうちのDSMコントローラの構成を示すブロック図である。
【図10】スライディングモード制御アルゴリズムの数式を示す図である。
【図11】PRISMコントローラのスライディングモード制御アルゴリズムの数式を示す図である。
【図12】内燃機関の燃料噴射制御処理を示すフローチャートである。
【図13】適応空燃比制御処理を示すフローチャートである。
【図14】図13の続きを示すフローチャートである。
【図15】図13のステップ21における発進判定処理を示すフローチャートである。
【図16】図13のステップ25における各種パラメータの算出処理を示すフローチャートである。
【図17】図13のステップ26におけるADSMモードフラグF_DSMMODEの設定処理を示すフローチャートである。
【図18】図13のステップ32におけるオンボード同定器の演算処理を示すフローチャートである。
【図19】図14のステップ35の操作量USLの算出処理を示すフローチャートである。
【図20】図19のステップ91の予測切換関数σPREの積算値算出処理を示すフローチャートである。
【図21】図14のステップ38のスライディングモード操作量DKCMDSLDの算出処理を示すフローチャートである。
【図22】図21の続きを示すフローチャートである。
【図23】図21のステップ113のリミット値算出処理を示すフローチャートである。
【図24】図23のステップ140における適応上下限値のリミット処理値USLALH,USLALLの算出処理を示すフローチャートである。
【図25】図14のステップ39のΔΣ変調操作量DKCMDDSMの算出処理を示すフローチャートである。
【図26】図14のステップ40の適応目標空燃比KCMDSLDの算出処理を示すフローチャートである。
【図27】図14のステップ41の適応補正項FLAFADPの算出処理を示すフローチャートである。
【図28】本発明の制御装置により空燃比を制御した場合の動作例を示すタイミングチャートである。
【図29】空燃比制御の動作の比較例を示すタイミングチャートである。
【図30】第2実施形態に係る制御装置のSDMコントローラの構成を示すブロック図である。
【図31】第3実施形態に係る制御装置のDMコントローラの構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
1 制御装置
2 ECU(偏差算出手段、第1の制御入力算出手段、第2の制御入力算出手段、検出手段、選択手段、切換手段、制限手段、第1の空燃比算出手段、第2の空燃比算出手段、運転状態パラメータ検出手段、空燃比制御手段)
3 内燃機関
7 排気管(排気通路)
11 吸気管内絶対圧センサ(検出手段、運転状態パラメータ検出手段)
13 クランク角センサ(検出手段、運転状態パラメータ検出手段)
15 酸素濃度センサ(空燃比センサ)
22 状態予測器(偏差算出手段)
24 DSMコントローラ(第1の制御入力算出手段、第1の空燃比算出手段)
25 スライディングモードコントローラ(第2の制御入力算出手段、第2の空燃比算出手段)
29 SDMコントローラ(第1の制御入力算出手段、第1の空燃比算出手段)
30 DMコントローラ(第1の制御入力算出手段、第1の空燃比算出手段)
Vout 酸素濃度センサの出力(制御対象の出力)
Vop 目標値
PREVO2 出力偏差の予測値(偏差)
KCMD 目標空燃比(制御入力)
VDSMEND 所定値(所定の範囲を規定する値)
DKCMDSLD スライディングモード操作量(制御入力の一成分)
USLALF 非アイドル運転用の下限値(スライディングモード操作量DKCMDSLDの制限範囲の下限を規定する値)
Claims (4)
- 制御対象の出力と所定の目標値との偏差を算出する偏差算出手段と、
Δ変調アルゴリズム、ΔΣ変調アルゴリズムおよびΣΔ変調アルゴリズムのうちのいずれか1つの変調アルゴリズムに基づき、前記算出された偏差に応じて、前記制御対象の出力を前記目標値に収束させるための、前記制御対象への制御入力を算出する第1の制御入力算出手段と、
応答指定型制御アルゴリズムに基づき、前記算出された偏差に応じて、前記制御対象の出力を前記目標値に収束させるための、前記制御対象への制御入力を算出する第2の制御入力算出手段と、
前記制御対象の状態を検出する検出手段と、
当該検出された制御対象の状態に応じて、前記第1および第2の制御入力算出手段の一方を、制御入力算出手段として選択する選択手段と、
当該選択手段により選択された制御入力算出手段が前記第1および第2の制御入力算出手段の一方から他方に変化した場合において、前記算出された偏差が所定の範囲内にあるときに、前記制御入力算出手段の前記一方から前記他方への切り換えを実行する切換手段と、
を備えることを特徴とする制御装置。 - 前記第2の制御入力算出手段は、
前記第1の制御入力算出手段から前記第2の制御入力算出手段への切り換えの初期において、前記制御入力を所定の制限範囲内の値に設定する制限手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の制御装置。 - 内燃機関の排気通路を流れる排気ガスの空燃比を表す検出信号を出力する空燃比センサと、
当該空燃比センサの出力と所定の目標値との偏差を算出する偏差算出手段と、
Δ変調アルゴリズム、ΔΣ変調アルゴリズムおよびΣΔ変調アルゴリズムのうちのいずれか1つの変調アルゴリズムに基づき、前記算出された偏差に応じて、前記空燃比センサの出力を前記目標値に収束させるための、前記内燃機関に供給すべき混合気の目標空燃比を算出する第1の空燃比算出手段と、
応答指定型制御アルゴリズムに基づき、前記算出された偏差に応じて、前記空燃比センサの出力を前記目標値に収束させるための、前記内燃機関に供給すべき混合気の目標空燃比を算出する第2の空燃比算出手段と、
前記内燃機関の運転状態を表す運転状態パラメータを検出する運転状態パラメータ検出手段と、
前記検出された運転状態パラメータに応じて、前記第1および第2の空燃比算出手段の一方を、空燃比算出手段として選択する選択手段と、
当該選択手段により選択された空燃比算出手段が前記第1および第2の空燃比算出手段の一方から他方に変化した場合において、前記算出された偏差が所定の範囲内にあるときに、前記空燃比算出手段の前記一方から前記他方への切り換えを実行する切換手段と、
当該切り換えられた空燃比算出手段により算出された目標空燃比に応じて、前記内燃機関に供給される混合気の空燃比を制御する空燃比制御手段と、
を備えることを特徴とする制御装置。 - 前記第2の空燃比算出手段は、
前記第1の空燃比算出手段から前記第2の空燃比算出手段への切り換えの初期において、前記目標空燃比を所定の制限範囲内の値に設定する制限手段を備えることを特徴とする請求項3に記載の制御装置。
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