JP2004100037A - 増厚加工を施して用いる建築用鋼材 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】C:0.02〜0.25%、Si:0.02〜0.55%、Mn:0.4 〜2.0 %、P:0.030 %以下、S:0.015 %以下、B:0.0003〜0.0050%、sol.Al:0.06%以下、N:0.008 %以下、O (酸素) :0.0035%以下で、かつTi/ N=1.0 〜3.3 を満足するTiを含み、残部は実質的にFeおよび不可避不純物からなり、かつ(1) 式で示されるCeq.W の値が0.32〜0.44%、かつ(2) 式で示されるPcmの値が0.15〜0.29%である化学組成とする。
Ceq.W =C+Mn/ 6+Si/24 +Ni/40 +Cr/ 5+Mo/ 4+V/14 ・・・(1)
Pcm=C+Si/30 +Mn/20 +Cu/20 +Ni/60 +Cr/20 +Mo/15 +V/10 +5B・・・(2)
さらに、Cu:0.03〜1.5 %、Ni:0.03〜2%、Cr:0.03〜1.0 %、Mo:0.03〜1.0 %、Nb:0.003 〜0.080 %、およびV:0.003 〜0.20%から成る群から選ばれた1種または2種以上を含有してもよい。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、局所的な加熱により増厚加工を行って厚肉部を形成して、建築構造物の柱や梁などに用いられる、鋼管、形鋼、あるいは鋼板などの建築用鋼材に関する。特に490MPa以上の引張強度を有する形鋼に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、鉄骨構造物などの建築物の柱や梁に鋼管や形鋼が用いられるが、柱に梁を取り付けるような場合、取り付け部の補強のため、補強部材を柱に溶接するとか、鋼管柱では柱を切断しその切断部分にダイアフラムを挟み込んで柱に溶接し、このダイアフラムに梁を溶接するといったような方法が採用されてきた。このような補強方法は切断や溶接などの工数を大幅に増大させる。
【0003】
そこで、これに対する改善策として、長さ方向に一定の断面積を有する形鋼や鋼管を部分的に増肉し厚くして補強する方法が、たとえば特開昭64−5624号公報などに提案されている。この方法は、たとえば鋼管において、小領域を周方向均一に1000℃以上に赤熱して軟化させ、このとき長さ方向に応力を加えて軟化した部分を圧縮し、変形が終われば直ちに水冷するという加熱→圧縮→冷却という操作を順次長さ方向に進行させて行い、必要な長さの部分を増厚化する。
【0004】
すなわち、かかる技術は、材料の局所的加熱と圧縮により、比較的簡単な用具で、同一断面形状の長尺材の一部を任意の位置で任意の範囲だけ厚くすることができるという特徴がある。
【0005】
図1は、このような増厚加工法の1例を概略説明する模式図であり、図中、鋼管のような鋼材10は、固定側で一端12が支持され、他端は適宜駆動機構( 例: 油圧ラム)14 に支持されている。増厚すべき領域には加熱コイル16が設けられ、鋼材が所定温度に加熱されたときに、駆動機構14によってこの加熱部18には押圧が加えられる。これにより加熱部18は、内外に材料が押し出されるが、内部に中子のような適宜抑制材( 図示せず) を挿入しておけば、肉厚の増加は外側にだけ見られることになる。所定厚さにまで肉厚が増加したときに冷却スプレー19で冷却する。かかる操作を順次鋼管の長手方向に繰り返すことで、所定長さ範囲の領域だけ増厚させることが可能となる。符号20は保持台を、符号22は後熱処理装置をそれぞれ示す。
【0006】
しかしながら、増厚された部分は高温から急冷されるため、増厚加工をしていない部分と比べその機械的特性が異なってしまう。このため処理速度や冷却速度を遅くしたり、再加熱して焼きならしを行うなど、種々の対策が採られてきた。このような対策を必要とすることは、余分の工程が付加されることになり、増厚処理方法の利点を十分に生かせない結果となっていた。
【0007】
特開平8−318341号公報には、増厚率が0.5 以上の加工に対し、増厚部の機械的性質の変化を小さくするため、増厚加工の速度を1.5mm/s 以下に制限し、さらに適用される鋼の組成を、質量%でC:0.05〜0.25%、Mn:0.3 〜1.5 %、Si:0.05〜0.55%とし、炭素当量{C+(Mn/ 6)}を0.44%以下とする発明が開示されている。このような組成の限定は、増厚加工部がその後の急冷によって焼入れされ、硬化して伸びの低下が著しいので、その特性劣化を回避するためとしている。
【0008】
しかしながら、上記の鋼の組成範囲は、JIS−G−3136に規制される建築構造用圧延鋼材の組成範囲にほぼ対応しており、建築構造物に一般的に用いられる鋼と何ら変わりはない。そのため、特に条件を限定せずに増厚加工をおこなうと、高温から急冷されることにより材料が硬化し脆化してしまうことが多く、再加熱による焼戻しや焼ならしなどの熱処理を行わなければ靱性が十分に回復しない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、増厚のための加熱加工後の急冷のままの状態においても、その衝撃特性が良好である、増厚加工を施して用いる建築用鋼材を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、建築用鋼材の施工作業改善を目的とした増厚加工法に関し、鋼管、形鋼あるいは鋼板などを用いて種々検討をおこなった。
【0011】
まず、JIS−G−3136に規定される建築構造用圧延鋼材の化学組成範囲の鋼を用い、このような加工および加工後の冷却に対応する熱処理をおこなってみると、増厚加工した部分の機械的性質は必ずしも安定していないことがわかった。厚さを増す加工の狙いは、増厚部が母材ないしは増厚加工されていない部分と同等の性質のまま、厚肉化されることにあるが、実際には硬さが増し、伸びが低下し、とくに靱性が著しく低下する場合が多い。
【0012】
そこで、このように特性の劣化した原因を知るために、増厚部分を調べてみると、加工前の母材部分はいわゆるフェライトとパーライトからなる組織であるのに対し、高温からの急冷変態組織、すなわちマルテンサイトやベイナイト、あるいはこれらとフェライトとの混合組織になっていることがわかった。
【0013】
急冷された状態の鋼は、一般に硬さが高く、伸びは劣り、靱性が極めて悪いが、焼きならしや焼戻し処理をおこなうと靱性がかなり回復する。しかしながら、これらの処理には、さらなる設備や時間を必要とするので、構造物構築に際して工期の増大やコスト増加を来たし、増厚加工の利点を十分に発揮できなくなる。
【0014】
そこで、増厚加工後の急冷条件にて、母材にできるだけ近い靱性が得られる鋼の検討をおこなった。鋼の組成中、このような処理条件下にて靱性に最も大きな影響をもたらすのはCの含有量である。Cの含有量のわずかな変化は、マルテンサイトやベイナイトなどの組織の発生状況を変えるばかりでなく、これらの組織そのものの硬さも大きく変化させる。
【0015】
C量を低減していくと、マルテンサイトやベイナイトなどの組織が現れなくなり、急冷されても粒状初析フェライト組織が増して、これが靱性を維持するのに役立っていると推定される。しかし、炭素の低減は一方において鋼の強度低下を招いてしまう。これに対する強度維持には、Mnを十分含有させておくことやSiの含有量増加が必要である。
【0016】
さらにCu、Ni、Cr、Mo、NbまたはVなどの含有が有効であった。これらの元素は、鋼の焼入れ性を向上させマルテンサイトやベイナイトの発生を促進するので、多くは添加できないが、上記のように炭素量を低く抑えている場合は、少量の含有は強度向上に効果がある。
【0017】
これらの元素添加の影響を調べていくと、急冷されたフェライト相の結晶粒径を小さくする効果もあり、靱性向上にも有効であることがわかってきた。これは、急冷過程においてフェライトへの変態温度を下げ、初析フェライトの結晶粒径を小さくしているためと考えられた。しかし、多量に添加すると焼入れ性を上げる作用があるため、C量を低くしてもマルテンサイトやベイナイトが現れ靱性を劣化させる。
【0018】
ところで、鋼材の強度維持に必要な元素量は、目的とする強度グレードや、製品の製造方法によって異なる。そこで、建築構造用圧延鋼材として多用されている引張強度が490 〜610MPaの鋼材に対する成分の影響を調査した。製造方法は、圧延まま、すなわち圧延後の水冷や熱処理を行わない場合について検討した。この製造方法は、水冷むらによる形状不良や残留応力の増大、熱処理による製造コストの増大を避けることができる。
【0019】
検討の結果、母材の引張強度490MPa以上を確保しつつ、母材の靱性、及び増厚加工部の靱性を良好にするためには、下記(1) 式で示されるCeq.W の値と下記(2) 式で示されるPcm の値を制限すると良いことが分かった。
【0020】
Ceq.W =C+Mn/ 6+Si/24 +Ni/40 +Cr/ 5+Mo/ 4+V/14 ・・・(1)
Pcm=C+Si/30 +Mn/20 +Cu/20 +Ni/60 +Cr/20 +Mo/15 +V/10 +5B・・・(2)
しかしながら、母材の強度を確保するために、Ceq.W 、Pcmを一定値以上にしなければならないため、焼入れ性が上昇してしまい、増厚加工部における良好な靱性、例えば、0℃で70J以上のシャルピー衝撃値の確保が困難になる場合が考えられる。
【0021】
そこで、増厚加工部の靱性に対するTi、Nb、V、B等の析出物を含有させることによる効果を検討した。その結果、TiとBの析出物、例えば窒化物の含有が特に有効であることが判明した。本発明にあってはC量を低減していることから、これらの析出物としては、代表的には窒化物であり、それらの総称として析出物というが、以下においては析出物として窒化物を例にとり説明する。
【0022】
ここに、Tiの析出物の効果は次の理由によると考えられる。すなわち、他の元素の炭・窒化物などの析出物と比べてTiの窒化物は高温でも格段に安定であり、増厚加工時に鋼材が到達する高温においても、大きくは溶解せず、析出物として存在する。そのため、高温時のオーステナイト粒の成長を抑制する。そして高温時、すなわち、焼入れ前のオーステナイト粒径が細かければ、焼入れ性は低下する。その上、細粒のオーステナイトからの変態であれば、変態後の結晶組織も微細になる。従って、増厚加工後の結晶粒組織は細かく、硬度上昇も比較的少なく、靱性に優れたものとなるのである。
【0023】
次に、Bの析出物の効果は次のように考えられる。すなわち、Bの窒化物は増厚加工時の高温加熱によって溶解してしまうが、鋼中のB、Nの拡散速度がNb、Ti、V等に比較して大きいという特徴があるため、冷却中に窒化物として再析出する。そしてBの窒化物はフェライト変態の核生成を促進する効果を有する。従って、増厚加工後の結晶粒組織は細かく、硬度上昇も比較的少なく、靱性に優れたものとなるのである。
【0024】
このようなTi、Bの窒化物の効果を同時に得るためには、窒素が両元素に配分されなければならない。TiはBよりも高温まで安定であるので、もしTiの量が多すぎるとTiが鋼中のほとんどの窒素を析出物として固定してしまい、Bの窒化物が形成されにくくなる。そこで、Nの含有量に応じて、Tiの含有量も制限する必要がある。
【0025】
そして上記のようなTi、Bの効果を得るためには、増厚加工前の鋼材中にTiとBが窒化物として一定量以上、含有されていることが望ましい。
本発明は、以上のような検討結果に基づき、各元素量などの範囲を明らかにして完成したものであり、その要旨は次の通りである。
【0026】
(1) 質量%にて、C:0.02〜0.25%、Si:0.02〜0.55%、Mn:0.4 〜2.0 %、P:0.030 %以下、S:0.015 %以下、B:0.0003〜0.0050%、sol.Al:0.06%以下、N:0.008 %以下、O (酸素) :0.0035%以下で、かつTi/ N=1.0 〜3.3 を満足するTiを含み、残部は実質的にFeおよび不可避不純物からなり、かつ(1) 式で示されるCeq.W の値が0.32〜0.44%、かつ(2) 式で示されるPcmの値が0.15〜0.29%であることを特徴とする増厚加工を施して用いる建築用鋼材。
【0027】
Ceq.W =C+Mn/ 6+Si/24 +Ni/40 +Cr/ 5+Mo/ 4+V/14 ・・・(1)
Pcm=C+Si/30 +Mn/20 +Cu/20 +Ni/60 +Cr/20 +Mo/15 +V/10 +5B・・・(2)
(2) 質量%にて、C:0.02〜0.25%、Si:0.02〜0.55%、Mn:0.4 〜2.0 %、P:0.030 %以下、S:0.015 %以下、B:0.0003〜0.0050%、sol.Al:0.06%以下、N:0.008 %以下、O (酸素) :0.0035%以下で、かつCu:0.03〜1.5 %、Ni:0.03〜2%、Cr:0.03〜1.0 %、Mo:0.03〜1.0 %、Nb:0.003 〜0.080 %、V:0.003 〜0.20%のうちの1種以上を含有し、かつTi/ N=1.0 〜3.3 を満足するTiを含み、残部は実質的にFeおよび不可避不純物からなり、かつ上記(1) 式で示されるCeq.W の値が0.32〜0.44%、かつ上記(2) 式で示されるPcmの値が0.15〜0.29%であることを特徴とする増厚加工を施して用いる建築用鋼材。
【0028】
(3) さらに、鋼組織中に、質量%にて、Tiの析出物:0.003 %以上、かつBの析出物:0.0003%以上を含むことを特徴とする、上記(1) または(2) に記載の増厚加工を施して用いる建築用鋼材。
【0029】
(4) フェライト粒径が35μm 以下であり、かつフェライト率が全体の60〜98%であることを特徴とする、上記(1) 、(2) 、または(3) のいずれかに記載の加工を施して用いる建築用鋼材。
【0030】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態についてさらに具体的に説明する。
本発明の対象となる「鋼材」は、特定の形態の鋼材料に制限されることはなく、管材、棒材、板材、さらには各種断面形状の形材、また中空柱材として加工した鋼材など、建築用鋼材として増厚加工を施して用いる鋼材であれば、いずれをも包含する。好ましくは、各種断面の形材および中空柱材がある。
【0031】
本発明において鋼の組成を前述のように限定する理由は以下の通りである。なお、本明細書において、鋼材の化学組成を示す比率は全て質量%である。
C、つまり炭素含有量は、本発明において、0.02〜0.25%とする。0.02%を下回ると降伏点の確保が困難になる。また、0.25%を超えると増厚加工後の急冷により焼きが入り、靱性が低下してしまう。
【0032】
Siは、強度確保を目的に0.02〜0.55%含有させる。鋼の脱酸の結果として約0.02%以上含まれてくるが、多くなると焼入れ性を大きくする。このため、上限を0.55%とし、望ましくは0.3 %以下とするのが良い。
【0033】
Mnは、熱間脆化の抑止、強度の向上、等の目的で含有させる。0.4 %を下回るとこれらの効果が不充分となる。また、2.0 %を超えると増厚加工後の急冷により焼きが入り、靱性が低下してしまうおそれがあり、望ましくは、1.6 %以下とするのが良い。
【0034】
Pは、不純物で靱性を低下させる有害な元素である。特にその含有量が0.030 %を超えると靱性の低下が著しい。したがって、Pの含有量は0.030 %以下とした。さらにより優れた靱性を得るためには、0.020 %以下とすることが望ましい。
【0035】
Sは、Pと同様不純物であり靱性を低下させる有害な元素である。特に、その含有量が0.015 %を超えると靱性の劣化が著しくなる。したがって、Sの含有量は0.015 %以下とした。望ましくは0.008 %以下で、さらに望ましくは0.004 %以下である。
【0036】
Bは窒化物を形成し、増厚加工部の靱性を高める作用を有する。Bの含有量が0.0003%未満では靱性の改善効果に乏しい。一方、Bの含有量が0.0050%を超えると靱性がかえって劣化する。靱性改善効果をより確実に得るためには、Bの含有量は0.0005〜0.0025%とすることが望ましく、さらに望ましくは0.0005〜0.0015%である。
【0037】
Alは、脱酸に有効な元素であり、特に連続鋳造法などを適用して製造する場合、欠陥の無い鋼片を得るための必須添加元素であって、スラブにはsol.Alとして約0.003 %を超える量が残ってくる。一方、AlはTi、Bと同様に窒化物を生成し、AlがBNの生成を阻害し、靱性に悪影響を及ぼす場合があるため、sol.Alを0.06%以下に制限する。なお、靱性をさらに確実に良好にするためには、0.025 %以下が望ましく、さらに望ましくは0.015 %以下である。
【0038】
Nは、不純物として通常約0.002 %以上含まれ、Ti量との関係が適正であればTi窒化物を形成し、高温加熱時のγ粒粗大化を抑制して靱性を高めることに寄与する。しかし、その含有量が0.008 %を超えると、かえって靱性の低下を招く。したがって、Nの含有量は0.008 %以下とした。靱性改善効果をさらに良くするためには、Nの含有量を0.003 〜0.007 %とすることが望ましく、さらに望ましくは0.004 〜0.006 %である。
【0039】
O(酸素)は不可避的不純物であり、SiやAlなどの脱酸剤の添加により、ほとんどは酸化物の形で鋼中に存在する。これら酸化物は粗大な介在物を形成し、靱性を劣化させるので、少ないほど良い。Nb、TiおよびVなどが含有される場合、このような酸化物の影響は軽減されるが、靱性の劣化を避けるために0.0035%以下に制限する。
【0040】
Tiは窒化物を形成し、高温加熱時のγ粒粗大化を抑制して靱性を高める作用を有する。Bの窒化物の生成を確保し、かつ固溶Nによる靱性への悪影響を抑えるために、TiとNの質量%の比(Ti/ N)を1.0 〜3.3 とするが、1.5 〜2.7 とするのが望ましい。
【0041】
Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、およびVは、必要に応じて添加すればよく、添加しなくてもよいが、炭素量を低くした場合の強度向上や靱性改善の目的で、質量%にて、Cu:0.03〜1.5 %、Ni:0.03〜2%、Cr:0.03〜1.0 %、Mo:0.03〜1.0 %、Nb:0.003 〜0.080 %、V:0.003 〜0.20%のうちの1種以上を含有するのが望ましい。各元素の下限値は、この値を下回ると強度上昇や靭性改善の効果は現れず、上限値は、その値を超えると増厚後の冷却時に大きな硬化や靱性劣化が生じるおそれがある。なお、Cuは約0.3 %を超えて含有させると熱間加工時に表面荒れを起こすことがあり、これを防ぐためにCuの半量ないしはそれ以上のNiを含有させることが望ましい。つまり、NiおよびCuを含む場合は、Cu×1/2 ≦Niとするのである。
【0042】
Ceq.W 、Pcmは、それぞれ下記(1) 式、(2) 式で表される。いずれも値が小さすぎると鋼材の引張強度を確保することが困難になり、また、大きすぎると焼入れ性が増大し、増厚後の冷却時における靱性の劣化を招く。したがって、Ceq.W の値を0.32〜0.44%、Pcmの値を0.15〜0.29%に制限する。
【0043】
Ceq.W =C+Mn/ 6+Si/24 +Ni/40 +Cr/ 5+Mo/ 4+V/14 ・・・(1)
Pcm=C+Si/30 +Mn/20 +Cu/20 +Ni/60 +Cr/20 +Mo/15 +V/10 +5B・・・(2)
ここで、元素記号は各元素の含有量(質量%)を示す。含有しない場合は0(ゼロ) として計算する。
【0044】
本発明にかかる鋼材は、フェライトが主組織であり、フェライト粒径が大きくなると靱性が低下してしまう。良好な靱性を得るためには、増厚加工前のフェライト粒径(ASTMの公称粒径)を35μm 以下とすることが望ましい。さらに良好な靱性を得るために、フェライト粒径を25μm 以下とすることが望ましい。
【0045】
なお、パーライト、ベイナイト、マルテンサイトの合計比率が増加し、それに伴ってフェライト率が減少すれば、引張強度は増加するが、靱性が劣化してしまう。そのため、所望の490MPa以上の引張強度と特に良好な靱性を確保するためには、増厚加工前のフェライト率が全体の60〜98%であることが望ましい。良好な強度と靱性確保をさらに確実にするために、フェライト率が全体の75〜95%とすることがさらに望ましい。
【0046】
また、上述したTi、Bによる増厚加工部の靱性改善効果をより確実に得るためには、増厚加工前の鋼材中に、析出物としてのTiが質量%で0.003 %以上、かつ析出物としてのBが0.0003%以上含まれていることが望ましい。ここに、TiまたはBの析出物とは、それぞれの窒化物を主体とするものであるが、その他、炭化物、酸化物を含むものであってもよい。
【0047】
この析出物量はTi、B、Nの量をコントロールすることによって確保できる。また析出物量は、電解抽出法などの手段によって確認できる。
他にCa、Mg、ZrまたはREM 等を微量添加すると、これらの元素は硫化物など非金属介在物の形態を変化させ、母材、増厚加工部、溶接熱影響部の靱性を改善する効果がある。
【0048】
【実施例】
表1に示す14種の化学組成を有するスラブを連続鋳造により製造し、連続鋳造終了後に室温まで空冷した。このスラブを1250℃〜1300℃の温度域に再加熱した後、ブレークダウン圧延、粗ユニバーサル圧延、仕上ユニバーサル圧延を施し、下記寸法のH形鋼を製造した。本発明で規定するフェライト粒径、フェライト率を得るために、製造条件は次の通りとした。
【0049】
厚さ240mm のスラブを加熱炉に入れ、1270〜1280℃で抽出した。ブレークダウン圧延後、17パスの粗ユニバーサル圧延、1パスの仕上ユニバーサル圧延を行ったが、このユニバーサル圧延において、フランジ厚が100mm から最終フランジ厚までの粗ユニバーサル圧延は、フランジ部の幅の端部から1/4 の位置の表面温度が1050℃以下となるように行った。特にフランジ厚が35mmから最終フランジ厚までの粗ユニバーサル圧延は、上記温度が950 ℃以下となるように行った。フランジ部の幅の端部から1/4 の位置の表面で測定した粗ユニバーサル圧延終了温度は780 〜800 ℃であった。圧延終了後は室温まで空冷した。
【0050】
ウェブ高さ:700mm 、フランジ幅:300mm 、ウェブ肉厚:14mm、フランジ肉厚:25mm
母材特性を評価するため、圧延ままのH形鋼からJIS Z 2201に規定の1A 号引張試験片およびJIS Z 2202に規定のVノッチの4号シャルピー衝撃試験片を採取した。試験片の採取位置はフランジ部の巾の1/4 、試験片の長手方向を圧延方向とした。なお、衝撃試験片はフランジの肉厚の1/4 の位置で採取した。これらの試験片で引張特性(YS、TS)、及び0℃での衝撃吸収エネルギー(vE 0℃)を測定した。また、衝撃試験片と同様の位置、方向からミクロ組織観察用の試験片を採取し、フランジ肉厚方向と圧延方向を含む面を研磨し、ナイタール腐食後、光学顕微鏡観察により、フェライト粒径、フェライト率を測定した。
【0051】
また、衝撃試験片と同様の位置、方向から直径10mm、長さ40mmの円筒状試験片を採取し、10%アセチルアセトン系の電解液を用いて電解抽出残渣分析を行い、TiとBの析出量を測定した。
【0052】
また、増厚加工熱処理後の衝撃特性を評価するため、衝撃試験片と同様の位置、方向から断面が12mm角、長さ150mm の角柱を削りだし、次の条件で長さ方向に圧縮応力を加えた。
【0053】
加熱速度:5℃/秒、加熱温度:1350℃、保持時間:20秒、増厚率:1.3 (12mm 角→15.6mm角)、冷却速度:表1に記載。
その後、JIS 4号シャルピー衝撃試験片に加工し、vE 0℃を評価した。
【0054】
結果を表2に示す。これから明らかなように、母材のYS、TSは、いずれの供試鋼もJIS G 3136に規定される建築構造用圧延鋼材SN490 Bの下限値(YS:325MPa以上、TS:490MPa以上)を超えており、また衝撃特性も比較的良好である。
【0055】
一方、増厚加工熱処理を模擬した試験片のvE 0℃の値は、本発明の組成範囲内である試番1〜10の鋼は、増厚加工後の衝撃値が母材の衝撃値に対してやや劣る傾向にはあるが、建築構造用として十分高い値を示している。これに対し、本発明の組成範囲を逸脱している試番11〜14の鋼は、増厚部の衝撃値が低い。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【発明の効果】
本発明は、建築構造物の柱や梁などに用いられる鋼管や形鋼などにおいて、結合部の補強工作を合理化するため、局所の加熱によって増厚加工し厚肉部を形成させる場合に、加熱加工後の急冷のままの状態においても、その衝撃特性が良好である、増厚加工に適した建築用鋼材を提供する。この鋼材の利用により、増厚加工部の性能が向上し、加工法の合理化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】鋼材の増厚加工法の1例を概略説明する模式図である。
Claims (4)
- 質量%にて、C:0.02〜0.25%、Si:0.02〜0.55%、Mn:0.4 〜2.0 %、P:0.030 %以下、S:0.015 %以下、B:0.0003〜0.0050%、sol.Al:0.06%以下、N:0.008 %以下、O (酸素) :0.0035%以下で、かつTi/ N=1.0 〜3.3 を満足するTiを含み、残部は実質的にFeおよび不可避不純物からなり、かつ(1) 式で示されるCeq.W の値が0.32〜0.44%、かつ(2) 式で示されるPcmの値が0.15〜0.29%である化学組成を有することを特徴とする増厚加工を施して用いる建築用鋼材。
Ceq.W =C+Mn/ 6+Si/24 +Ni/40 +Cr/ 5+Mo/ 4+V/14 ・・・(1)
Pcm=C+Si/30 +Mn/20 +Cu/20 +Ni/60 +Cr/20 +Mo/15 +V/10 +5B・・・(2) - 前記化学組成が、質量%にて、さらに、Cu:0.03〜1.5 %、Ni:0.03〜2%、Cr:0.03〜1.0 %、Mo:0.03〜1.0 %、Nb:0.003 〜0.080 %、およびV:0.003 〜0.20%から成る群から選ばれた1種または2種以上を含有する請求項1記載の建築用鋼材。
- さらに、鋼組織中に、質量%にて、Tiの析出物:0.003 %以上、かつBの析出物:0.0003%以上を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の建築用鋼材。
- フェライト粒径が35μm 以下であり、かつフェライト率が全体の60〜98%であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の建築用鋼材。
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