JP2004100006A - ノズル用めっき装置及びノズル - Google Patents
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Abstract
【課題】ノズル孔(2) に複合めっきをした場合に、ノズル(1) における目詰まりを確実に防止する。
【解決手段】Ni−Pマトリックス(5a)中にポリテトラフルオロエチレン粒子(5b)が分散した複合めっきをノズル孔(2) の表面に形成するとともに、このめっき被膜(5) を形成する際に、溶液の撹拌しながら溶液中でノズル(1) を振動させるとともに、ノズル孔(2) の内部においても溶液を撹拌する。
【選択図】 図3
【解決手段】Ni−Pマトリックス(5a)中にポリテトラフルオロエチレン粒子(5b)が分散した複合めっきをノズル孔(2) の表面に形成するとともに、このめっき被膜(5) を形成する際に、溶液の撹拌しながら溶液中でノズル(1) を振動させるとともに、ノズル孔(2) の内部においても溶液を撹拌する。
【選択図】 図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ノズルのノズル孔に複合めっきをするためのノズル用めっき装置と、ノズル孔に複合めっきを施したノズルとに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、例えば射出成形装置やエンジンの燃料噴射装置などの各種の装置や機器では、溶融樹脂や燃料などを噴射するためのノズルが用いられている。上記ノズルは、溶融樹脂や燃料などを噴射するノズル孔を有しており、このノズル孔が目詰まりすると所期の噴射性能が得られなくなってしまう。
【0003】
そこで、上記ノズルにおけるノズル孔の内面に例えばプリント基板スルーホールに多く利用されている平滑作用の大きい電気めっきを施すことにより、表面あらさを抑え、目詰まりしにくくすることが考えられる。一方、ノズル孔のような微細孔にはめっきの被膜を均一に形成しにくいが、これをできるだけ均一にする技術として、めっき槽内の溶液を撹拌しながらノズルなどの被めっき物を振動させてめっきを行う方法(例えば、特許文献1参照)を採用することが考えられる。
【0004】
【特許文献1】
特開平11−189880号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記の方法のように単にめっき溶液を撹拌しながらノズルを振動させるだけでは、均一なめっき被膜を形成できないおそれがある。これは、ノズル孔が微細な孔であるため、溶液中でノズルを振動させたとしても、表面張力などによってノズル孔の内部へめっき溶液が浸入しにくく、新鮮なめっき溶液がノズル孔の表面に接触しにくいからである。そして、このことが原因でめっき被膜が不均質になると、ノズルの目詰まりが生じやすくなってしまう。
【0006】
また、上記の方法でノズル孔にめっきを施した場合、めっき自体の非粘着性が高くないためにノズルが異物で目詰まりするおそれもある。そこで、ノズルの目詰まりを抑えるためには、異物に対する非粘着性の高い物質を混入した複合めっき被膜を形成することが考えられる。しかし、複合めっきを採用した場合でも、上記のめっき方法では、めっき被膜が不均質になってしまうおそれがある。これは、めっきの処理中に新鮮なめっき溶液がノズル孔の中に浸入しにくいことに加えて、仮にノズル孔の内部にめっき溶液が浸入したとしても、ノズル孔内に既に入っているめっき溶液がノズルの振動時にノズルと一緒に動いてしまいやすいために、ノズルと溶液とが相対的にはほぼ静止している関係になって、やはり新鮮なめっき溶液がノズル孔の表面に接触しにくいからである。そして、このような場合、溶液の組成分布が不均質となり、非粘着性物質が溶液中で均一に分散せずに偏ってしまい、めっき被膜も不均質になってしまう。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みて創案されたものであり、その目的とするところは、ノズルのノズル孔に複合めっきを施す場合に複合めっきを均質化することにより、めっき後のノズルにおける目詰まりを確実に防止できるようにすることである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、異物の非粘着性が高い物質としてフッ素化合物粒子(5b)を混入した複合めっき被膜(5) をノズル孔(2) に形成するとともに、このめっき被膜(5) を形成する際に、溶液(S) の撹拌とノズル(1) の振動とを同時に行い、しかもノズル孔(2) の内部の溶液(S) も撹拌できるようにしたものである。
【0009】
具体的に、請求項1に記載の発明は、ノズル(1) のノズル孔(2) に、金属マトリックス(5a)中にフッ素化合物粒子(5b)が分散した複合めっき被膜(5) を形成するノズル用めっき装置に関するものである。この場合、複合めっき被膜(5) の金属マトリックス(5a)は、例えばNi−Pマトリックス(5a)とすることができ、フッ素化合物粒子(5b)は、例えばポリテトラフルオロエチレン粒子(5b)とすることができる。
【0010】
この請求項1に記載のめっき装置は、槽(50)内でめっき溶液(S) を撹拌する撹拌機構(20)と、めっき溶液(S) 中に浸漬したノズル(1) を振動させる振動機構(30)とを備え、振動機構(30)がノズル(1) のノズル孔(2) よりも小径の棒状ないし線状に形成された撹拌部材(35)を備えるとともに、該撹拌部材(35)が、上記ノズル孔(2) に挿入して該撹拌部材(35)の周囲に筒状の隙間が形成される状態でノズル(1) と一体化可能に構成され、さらに、振動機構(30)が、上記ノズル(1) と撹拌部材(35)を一体的に振動させるように構成されていることを特徴としている。
【0011】
この請求項1の発明では、まず、めっき被膜として、Ni−Pマトリックス(5a)などの金属マトリックス(5a)中にポリテトラフルオロエチレン粒子(5b)などのフッ素化合物粒子(5b)が分散した(ここで言う「分散した」は、「均一に分散した」という意味である)複合めっき被膜(5) を形成するようにしているので、該めっき被膜(5) には、ノズル孔(2) を通って噴射される溶融樹脂や燃料中の異物に対する非粘着性、さらには撥水・撥油性、潤滑性、耐食性などが与えられる。特に、複合めっき被膜(5) の表面に露出したフッ素化合物粒子(5b)を大気中または窒素もしくは不活性ガス中で焼成させて薄いフッ素化合物の膜を形成すると、上記非粘着性などが高くなる。したがって、このノズル(1) を用いると、ノズル孔(2) の表面に単にNiめっきなどを施した場合よりも、燃料中の異物などによる目詰まりが生じにくくなる。
【0012】
そして、この発明では、ノズル(1) のノズル孔(2) に撹拌部材(35)を挿入してノズル(1) と撹拌部材(35)とを一体にした状態でめっき処理が行われる。このとき、槽(50)内のめっき溶液(S) は撹拌機構(20)により撹拌され、ノズル(1) は振動機構(30)によって撹拌部材(35)とともに振動する。
【0013】
したがって、撹拌部材(35)の振動によりノズル孔(2) の近傍の溶液の流れが乱れるので、ノズル孔(2) の中に入っている溶液(S) が確実に撹拌される。また、ノズル孔(2) の中の溶液(S) が撹拌されることでノズル孔(2) の中への新鮮な溶液(S) の導入も促進され、溶液(S) の循環性が高められる。この結果、ノズル孔(2) の内部において溶液(S) 中のフッ素化合物粒子(5b)が均一に分散するので、生成されるめっき被膜(5) についてもこれらの粒子(5b)が均一に分散したものとなる。
【0014】
また、請求項2に記載のめっき装置は、請求項1の発明において、振動機構(30)が、ノズル(1) と撹拌部材(35)を所定の周回軌道上で一体的に周回させることにより、該ノズル(1) と撹拌部材(35)を振動させるように構成されていることを特徴としている。
【0015】
この請求項2の発明では、めっき処理を行うとき、槽(50)内のめっき溶液(S) は撹拌機構(20)により撹拌され、ノズル(1) は振動機構(30)によって撹拌部材(35)とともに所定の周回軌道上で周回する。ノズル(1) と撹拌部材(35)が例えば縦長あるいは横長の小さな楕円軌道上を一緒に周回する動作を行うときには、両者は、周回動作の上端位置から右端位置まで下降しながら右方向へ横移動する動作、右端位置から下端位置まで下降しながら左方向へ横移動する動作、下端位置から左端位置まで上昇しながら左方向へ横移動する動作、左端位置から上端位置まで上昇しながら右方向へ横移動する動作を繰り返し行う。つまり、ノズル(1) と撹拌部材(35)とは、上下方向の往復動作と横方向の往復動作を繰り返す。
【0016】
したがって、ノズル(1) が上下方向と左右方向に振動する際に、ノズル孔の近傍の溶液の流れが上記撹拌部材(35)によって乱れることで、ノズル孔(2) の中に入っている溶液(S) が確実に撹拌されるとともに、ノズル孔(2) の中への新鮮な溶液(S) の導入も促進され、溶液(S) の循環性が高められる。この結果、ノズル孔(2) の内部において溶液(S) 中のフッ素化合物粒子(5b)が均一に分散するので、生成されるめっき被膜(5) についてもこれらの粒子(5b)が均一に分散する。
【0017】
また、請求項3に記載のめっき装置は、請求項1または2の発明において、撹拌機構(20)と振動機構(30)の駆動源が一つの振動モータ(45)によって構成されていることを特徴としている。
【0018】
この請求項3の発明では、めっき溶液(S) の撹拌と、ノズル(1) 及び撹拌部材(35)の振動とを一つの振動モータ(45)で行うことができる。
【0019】
また、請求項4に記載のめっき装置は、請求項1,2または3の発明において、撹拌機構(20)によるめっき溶液(S) の撹拌動作と、振動機構(30)によるノズル(1) の振動動作とが、ノズル孔(2) 内のめっき溶液(S) に対して所定の位相差で作用するように、撹拌機構(20)及び振動機構(30)が構成されていることを特徴としている。
【0020】
この請求項4の発明では、撹拌機構(20)によってめっき溶液(S) が全体的に撹拌されることによるノズル孔(2) 内での溶液(S) の振動の位相と、ノズル(1) 及び撹拌部材(35)が旋回することによりノズル孔(2) 内で生じる溶液(S) の振動の位相とが異なるため、ノズル孔(2) 内の溶液(S) に対してより強力な撹拌作用を得ることができる。したがって、めっき被膜(5) 中でフッ素化合物粒子(5b)がさらに均一に分散する。
【0021】
また、請求項5に記載のめっき装置は、請求項1,2,3または4に記載の発明において、撹拌部材(35)が導電性の材料により形成されていることを特徴としている。
【0022】
この請求項5の発明では、めっき溶液(S) 中で撹拌部材(35)を陽極に、ノズル(1) を陰極にすると、電気メッキを行うことができる。このため、上記複合めっき被膜(5) を電気めっきにより形成することも可能であるし、あるいは複合めっき被膜(5) の下地めっきを電気めっきにより形成することも可能となる。複合めっき自体を電気めっきにすると、成膜速度を高めたり、フッ素化合物粒子(5b)の共析量を多くしたりすることなどが可能となり、下地めっきを電気めっきにより形成すると、上記複合めっきの密着性を高めることができる。
【0023】
また、請求項6に記載の発明は、ノズル孔(2) を備えたノズル(1) において、該ノズル孔(2) に、金属マトリックス(5a)中にフッ素化合物粒子(5b)が均一に分散した複合めっき被膜(5) を形成するようにしたことを特徴としている。金属マトリックス(5a)は、例えばNi−Pマトリックス(5a)とすることができ、フッ素化合物粒子(5b)は、例えばポリテトラフルオロエチレン粒子(5b)とすることができる。
【0024】
この請求項6の発明では、めっき被膜として、Ni−Pマトリックス(5a)などの金属マトリックス(5a)中にポリテトラフルオロエチレン粒子(5b)などのフッ素化合物粒子(5b)が分散した複合めっき被膜(5) を形成するようにしているので、燃料中の異物などによる目詰まりが生じにくくなり、特に請求項1から4の発明の装置でめっき処理を行ってフッ素化合物粒子(5b)をめっき被膜内で均一に分散させることにより、目詰まりをさらに発生しにくくすることができる。
【0025】
また、請求項7に記載の発明は、請求項6の発明において、複合めっき被膜(5) が、大気中または窒素もしくは不活性ガス中で焼成処理をすることにより非粘着性を向上させたものであることを特徴としている。
【0026】
このように、大気中または窒素もしくは不活性ガス中において焼成処理を施すことにより、複合めっき被膜(5) の表面に薄いフッ素化合物の膜を形成でき、非粘着性を高めて目詰まりをさらに確実に防止できる。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0028】
図1は、本実施形態に係るノズル(1) の断面図である。このノズル(1) は、例えばエンジンの燃料噴射装置においてガソリンを噴射するのに用いられるノズル(1) であり、全体が円筒状で、その先端部には、直径が例えば0.3mmから2.0mm程度の微細径のノズル孔(2) が形成されている。また、上記ノズル(1) には、図においてノズル孔(2) の下方側に、テーパ孔(3) を介してノズル孔(2) と連通する内孔(4) が形成されている。
【0029】
上記ノズル孔(2) には、図2に示すように、Ni−P(ニッケル−リン)などの金属マトリックス(5a)中に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素化合物の共析粒子(5b)が分散した複合めっき被膜(5) が形成されている。上記複合めっき被膜(5) は、必要に応じて、ノズル(1) の先端面にも形成するとよい。この複合めっき被膜(5) は、以下に説明する複数の工程を経て形成することができる。
【0030】
まず、図1の形状に形成されたノズル(1) に対して、第1に溶剤による脱脂工程を行う。第2に、アルカリ剤による脱脂工程を行い、水洗いを行う。第3に、溶液中での電解処理による脱脂工程を行い、さらに水洗いを行う。電解処理では、ノズル孔(2) の中に挿入した微細な電極とノズル孔(2) の表面とに通電し、その間で生成される酸素や水素の微細な気泡の作用で脱脂を行う。このように3度の脱脂工程を繰り返すことで、ノズル孔(2) に付着した油分を確実に除去する。
【0031】
次に第4の工程として、塩酸などの溶液中でノズル孔(2) の表面の酸洗浄を行い、ノズル孔(2) に付着している可能性のある酸化膜を除去する。これは、ノズル孔(2) の表面に酸化膜が生成されていると、該表面に対する複合めっき被膜(5) の密着性が低下してしまうためである。また、この酸洗浄後は、ノズル(1) の水洗いを行う。
【0032】
酸洗浄後、第5の工程として、下地めっき被膜(6) を電気めっきの方法により形成し、その後に水洗いを行う。この実施形態では、下地めっき被膜(6) として、例えばニッケルめっきが形成される。ニッケルめっきは、ノズル(1) の母材になっている金属素材に対して密着性が優れていることから下地めっき被膜(6) として採用されている。
【0033】
その後、第6の工程として、上記複合めっき被膜(5) を形成する処理を行う。ニッケルの下地めっき被膜(6) は、複合めっき被膜(5) に対する密着性が優れており、該複合めっき被膜(5) をノズル(1) に安定した品質で形成できる。また、複合めっき被膜(5) を形成した後は、ノズル(1) を水洗いと湯洗いにより洗浄し、さらに乾燥して表面処理が完了する。
【0034】
図2(a)は、以上の工程を経て形成されたノズル孔(2) のめっき部の断面構造を示している。このように、ノズル孔(2) の表面には、下地めっき被膜(6) を介して複合めっき被膜(5) が形成され、複合めっき被膜(5) には、Ni−Pマトリックス(5a)中にPTFEの共析粒子(5b)が均一に分散するとともに、一部の共析粒子(5b)は露出している。そして、複合めっき被膜(5) に大気中または窒素もしくは不活性ガス中で熱を与えると、図2(b)に示すように、その表面に露出したPTFE粒子(5b)が溶融後に凝固して、PTFEの薄い膜(5c)が形成される。
【0035】
次に、上記ノズル(1) のノズル孔(2) に複合めっき被膜(5) を形成するためのめっき装置(10)について説明する。
【0036】
図3はめっき装置(10)の正面図、図4は図3のめっき装置(10)の右側面図である。このめっき装置(10)は、めっき溶液(S) を撹拌する撹拌機構(20)と、上記ノズル(1) を保持して溶液(S) 中で振動させる振動機構(30)と、撹拌機構(20)及び振動機構(30)を駆動するための駆動機構(40)とを備え、これらの3つの機構(20,30,40)が一体的に構成されている。図3及び図4は、このめっき装置(10)を、ノズル(1) に複合めっきをするための複合めっき溶液槽(50)に設置した状態を示している。
【0037】
図ではシステムの全体は示していないが、めっき処理を行うライン上には、上記第1から第3の脱脂工程を行うための3つの脱脂溶液槽、酸洗浄工程を行う酸洗浄溶液槽、下地めっきを行うための下地めっき溶液槽、さらには複合めっきを行う上記複合めっき溶液槽(50)などが工程順に配置されている。上記ライン上には、めっき装置(10)を各槽へ順に搬送するトランスファマシン(図示せず)が設けられており、このトランスファマシンにより、各槽の溶液に撹拌機構(20)と振動機構(30)が溶液中に浸漬した状態で、めっき装置(10)が所定時間保持される。
【0038】
上記駆動機構(40)は、上記各槽上でトランスファマシンによって位置決めされるベース(41)と、このベース(41)に対してねじ軸(42)とコイルバネ(43)とによって弾性的に支持された支持板(44)と、この支持板(44)に固定された一つの振動モータ(45)とを備えている。振動モータ(45)には、出力部(45a) に、撹拌機構(20)の2本の連結軸(21)と振動機構(30)の一枚の連結板(31)とが連結されている。振動モータ(45)の出力部(45a) は、上記支持板(44)に対して、例えば図4に矢印Aで示すような小さな楕円軌道に沿った周回動作を行うように構成されている。これにより、撹拌機構(20)と振動機構(30)も、姿勢を変えずに同じ楕円軌道Aの上を周回する動作を行う。
【0039】
上記撹拌機構(20)は、連結軸(21)に固定された4枚の羽根(22)を備えている。各羽根(22)は、それぞれが保持板(23)で上下から挟まれるとともに、それぞれの間にスペーサ(24)を介在させた状態で、上部ナット(25a) と下部ナット(25b) とにより連結軸(21)に固定されている。撹拌機構(20)の2本の連結軸(21)はそれぞれ鉛直上下方向に沿うように、互いに平行に配置されている。上記羽根(22)は、水平姿勢となるように2本の連結軸(21)に保持されている。
【0040】
振動機構(30)は、上記振動モータ(45)の出力部(45a) に上記撹拌機構(20)の連結軸(21)と直交する面上で固定された連結板(31)と、この連結板(31)の先端に支持軸(32)を介して保持されたバスケット状容器(33)とを備えている。バスケット状容器(33)は、上記ノズル(1) を保持するための容器であり、支持軸(32)の下端に固定されている。
【0041】
バスケット状容器(33)は、例えばメッシュ状の金属材料を用いて、立方体または直方体の中空形状に形成されている。この容器(33)の内部には、ノズル(1) を仮想線で示す状態で保持するように、ノズル(1) の内孔(4) と嵌合する支持部材(34)が設けられている。この支持部材(34)は、バスケット状容器(33)内で縦横に配列されており、複数のノズル(1) を縦横に並べて保持するようになっている。
【0042】
各支持部材(34)の上端には、ノズル孔(2) 内のめっき溶液を撹拌するための撹拌部材(35)が立設されている。この撹拌部材(35)は、例えば、上記ノズル孔(2) の直径が0.5mmであるのに対して、外径が約0.1mmから0.2mmでノズル孔(2) の直径よりも小径の線電極により構成されている。そして、支持部材(34)にノズル(1) を装着したときに、撹拌部材(35)とノズル孔(2) の内面との間に筒状の隙間ができるようになっており、バスケット状容器(33)内には、ノズル(1) をこの状態で位置決めして撹拌部材(35)と一体的に保持するための押さえ部材(図示せず)が設けられている。また、この押さえ部材は上記隙間を閉塞せず、ノズル孔(2) が槽(50)内の溶液に対して開放された状態となるように構成されている。
【0043】
なお、上記ノズル(1) は、ノズル孔(2) の内面と先端面だけにしかめっき処理を行わないように、その他の面をマスキングするための治具(図示せず)を介して支持部材(34)に装着されている。
【0044】
上記撹拌機構(20)及び振動機構(30)は、撹拌機構(20)によるめっき溶液(S) の全体的な撹拌動作と、振動機構(30)によるノズル(1) の振動動作とが、ノズル孔(2) 内のめっき溶液(S) に対して所定の位相差を持って作用するように構成されている。具体的には、振動モータ(45)に連結軸(21)で連結された撹拌機構(20)の羽根(22)と、振動モータ(45)に連結板(31)及び支持軸(32)によって連結されたバスケット状容器(33)内のノズル(1) とは、振動モータ(45)からの連結部分の長さが互いに異なるため、同一位相では振動せずに位相が異なる状態で振動する。このように位相差を付けるには、羽根(22)の強度を調整するような設計手法をとってもよい。
【0045】
なお、上記装置(10)において、ノズル孔(2) の中でめっき溶液(S) の流動性を高めるための振動条件は、ノズル(1) の形状や寸法、槽(50)の形状や寸法、さらには溶液の組成などによっても異なるが、例えば周波数を約10〜100Hz、加速度を約20〜100m/s2、振幅を約0.2〜3mm程度に設定しておくと、比較的広範囲で対応できる。
【0046】
−運転動作−
次に、本実施形態のめっき装置(10)による各工程の処理の詳細について説明する。
【0047】
このめっき装置(10)は、前処理であるノズル(1) の脱脂工程や酸洗浄工程においても、バスケット状容器(33)内にノズル(1) を保持したまま各工程の処理を行う。このとき、撹拌機構(20)の羽根(22)と振動機構(30)のバスケット状容器(33)を各工程の溶液内に浸漬した状態で振動モータ(45)を起動することにより、撹拌された溶液の中でノズル(1) が振動し、脱脂や酸洗浄など、それぞれの処理が行われる。具体的には、各ノズル(1) が小さな楕円軌道上で周回する動作を行う際に、撹拌部材(35)も一緒の動作を行うので、該撹拌部材(35)がノズル孔(2) 内の溶液を撹拌する。これにより、ノズル孔(2) の中に新鮮な溶液を導入しながら処理が行われる。前処理の各工程が終わると、上述したように水洗いを行い、その後に下地めっきと複合めっきの処理工程が実行される。
【0048】
下地めっきとしてニッケルの電気めっきを行うときも、溶液の撹拌とノズル(1) の振動の動作は前処理と同様に行う。このことにより、ノズル孔(2) の内部に新鮮な下地めっき溶液を導入し、かつ該溶液を循環させながら下地めっき被膜(6) が形成される。したがって、均質で清浄な下地めっき被膜(6) を形成することができる。
【0049】
複合めっきを行うときは、特に溶液中で共析粒子(5b)を均一に分散させることができるため、めっき被膜(5) の均質化に効果的である。これは、ノズル(1) のノズル孔(2) に撹拌部材(35)としての線電極を挿入した状態でノズル(1) と撹拌部材とを一体化したことで、ノズル(1) 及び撹拌部材(35)を楕円軌道上で周回(振動)させると、ノズル孔(2) の内部の溶液(S) も撹拌されるためである。
【0050】
具体的には、めっき溶液(S) を撹拌機構(20)により撹拌する際に、ノズル(1) と撹拌部材(35)とを一体化して振動機構(30)によって所定の周回軌道上で周回させることで、ノズル(1) 及び撹拌部材(35)は、いずれもめっき処理の間に上下方向の往復動作と横方向の往復動作(振動)を繰り返すことになる。
【0051】
そして、ノズル(1) と撹拌部材(35)とが一緒に振動することにより、ノズル孔(2) の近傍の溶液の流れが乱れ、ノズル孔(2) の中への溶液(S) の導入が促進されるとともに、ノズル孔(2) の中に入っている溶液が確実に撹拌される。このことにより、ノズル孔(2) の内部での新鮮な溶液の循環性が高められる。以上の結果、ノズル孔(2) の内部において溶液中の共析粒子(5b)が均一に分散することになり、ひいては、生成されるめっき被膜(5) についても共析粒子(5b)が均一に分散することになる。したがって、この実施形態のめっき装置(10)で処理したノズル(1) を使用するときには、めっき被膜(5) に燃料中の異物が付着しにくくなる。
【0052】
以上のように、本実施形態によれば、Ni−Pマトリックス(5a)中にポリテトラフルオロエチレン粒子(5b)が均一に分散しためっき被膜(5) をノズル孔(2) に形成するようにしているので、ノズル(1) を使用するときに燃料中の異物がめっき被膜(5) に付着しにくくなり、上記異物によるノズル(1) の目詰まりが生じにくくなる。また、複合めっき被膜(5) に熱を与えて表面にPTFEの薄い膜(5c)を形成しているので、目詰まりをより確実に防止できる。したがって、上記ノズル(1) を用いる燃料噴射装置の装置性能が低下するのを防止できる。
【0053】
特に、上記ノズル(1) と撹拌部材(35)とをノズル孔(2) 内に隙間のある状態で一体化して、これらを楕円軌道上で一緒に周回させて振動させるようにしているので、ノズル孔(2) の中に入っているめっき溶液(S) を確実に撹拌することができるとともに、ノズル孔(2) の内部での溶液の循環性を高めることができる。したがって、PTFEの共析粒子(5b)をめっき溶液(S) 中でより均一に分散させることが可能となり、めっき被膜(5) をより均質にすることができる。
【0054】
また、上記実施形態では、めっき溶液(S) の撹拌と、ノズル(1) 及び撹拌部材の振動とを一つの振動モータ(45)で行うようにしているので、例えばめっき溶液(S) の撹拌とノズル(1) 及び撹拌部材(35)の振動に別々の振動モータ(45)を用いる場合と比べて構成を簡単にしてコストダウンを図ることができる。
【0055】
さらに、上記実施形態においては、撹拌機構(20)によってめっき溶液(S) が全体的に撹拌されることによる溶液の振動の位相と、ノズル(1) 及び撹拌部材が旋回することによりノズル孔(2) 内で生じる溶液の振動の位相とがノズル孔(2) 内で異なるようにしたことにより、ノズル孔(2) 内の溶液に対するより強力な撹拌作用を得ることができる。したがって、このことからもめっき被膜(5) 中でフッ素化合物粒子(5b)がさらに均一に分散する効果を得ることができる。
【0056】
また、上記実施形態では、撹拌部材(35)に線電極を用いたことにより電気めっきを行えるようにして、電気めっきでノズル孔(2) の表面に対する密着性の優れた下地めっき被膜(6) を形成するようにしている。そして、複合めっき被膜(5) はこの下地めっき被膜(6) に対して密着性が優れているので、めっきの品質を安定させることができる。さらに、電気めっきを行うときには微細な気泡が発生するが、ノズル孔(2) の表面と溶液とが相対的に静止しているとガスの離散性が悪くなり、めっき品質が低下するおそれがあるのに対して、上記実施形態では電極を振動させるようにしているので電気めっきの処理の際にガスの離散性が高くなり、めっき品質を向上させることも可能となる。
【0057】
【発明のその他の実施の形態】
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0058】
例えば、上記実施形態では、ノズル(1) には、ノズル孔(2) とともに先端面にも複合めっき処理を行うものとして説明したが、複合めっき被膜(5) は少なくともノズル孔(2) に形成するようにしていればよく、その他の部位には形成しなくてもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、撹拌部材(35)として線電極を用いて電気めっきを行えるようにしているが、撹拌部材(35)は必ずしも電極に利用しなくてもよい。つまり、本発明のめっき装置(10)では、ノズル孔(2) の内部に小径の棒状ないし線状の撹拌部材(35)を挿入した状態でこれらを一体的に所定の周回軌道上で旋回させるようにしておけば、上記撹拌部材(35)が電極であるかどうかに拘わらず、ノズル孔(2) の内部での溶液(S) の撹拌効果を得ることができるので、複合めっき被膜(5) を均質にすることは可能である。
【0060】
また、上記めっき装置(10)に関して、一つの振動モータ(45)で撹拌機構(20)と振動機構(30)に所定の位相差を設けるようにしているが、各機構(20,30) について別々の振動モータ(45)を用いると、連結軸(21)や連結板(31)の長さなどに拘わらず任意の位相差を設定することが可能となり、設計の自由度を高めることができる。また、上記位相差を設定する必要のない場合などは、上記連結軸(21)や連結板(31)を任意の形状・寸法に設計するとよく、例えば上記撹拌と振動が同期するようになっていてもよい。
【0061】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1に記載の発明によれば、ノズル(1) と、ノズル孔(2) 内に挿入された小径の棒状ないし線状の撹拌部材(35)とを一体化した状態で、ノズル(1) と撹拌部材(35)を一緒に振動させるようにしたことにより、ノズル孔(2) の中に入っているめっき溶液(S) を確実に撹拌することができるとともに、ノズル孔(2) の内部での溶液(S) の循環性を高めることができる。したがって、フッ素化合物などの共析粒子(5b)をめっき溶液(S) 中で均一に分散させることで、ノズル(1) の複合めっき被膜(5) 中でも共析粒子(5b)を均一に分散した状態とすることができる。この結果、ノズル(1) を使用するときの目詰まりを確実に防止できるので、上記ノズル(1) を用いる装置の性能低下を確実に防止できる。
【0062】
また、請求項2に記載の発明によれば、ノズル(1) と撹拌部材(35)を所定の周回軌道上で旋回させることにより、該ノズル(1) と撹拌部材(35)を一緒に振動させるようにしているので、ノズル孔(2) の内部での溶液(S) の撹拌効果を確実に得ることができる。したがって、めっき被膜(5) がより均質化し、目詰まりをさらに確実に防止できる。
【0063】
また、請求項3に記載の発明によれば、めっき溶液(S) の撹拌と、ノズル(1) 及び撹拌部材(35)の振動とを一つの振動モータ(45)で行うことができるので、例えばめっき溶液(S) の撹拌とノズル(1) 及び撹拌部材(35)の振動に別々の振動モータ(45)を用いる場合と比べて構成を簡単にすることができ、コストダウンを図ることができる。
【0064】
また、請求項4に記載の発明によれば、撹拌機構(20)によってめっき溶液(S) が全体的に撹拌されることによるノズル孔(2) 内の振動の位相と、ノズル(1) 及び撹拌部材(35)が一緒に振動する位相とが異なるようにしたことにより、ノズル孔(2) 内の溶液に対してより強力な撹拌作用を得ることができるので、めっき被膜(5) 中でフッ素化合物粒子(5b)がさらに均一に分散し、ノズル(1) の目詰まりをさらに確実に防止できる。
【0065】
また、請求項5に記載の発明によれば、撹拌部材(35)を導電性の材料により形成して電気めっきを行えるようにしているので、複合めっき被膜(6) の成膜速度を高めたり、粒子(5b)の共析量を多くしたりすることが可能であるし、電気めっきで下地めっき被膜(6) を形成すると複合めっき被膜(5) の密着性も高められる。
【0066】
また、請求項6に記載の発明によれば、ノズル(1) のノズル孔(2) に、Ni−Pマトリックス(5a)などの金属マトリックス(5a)中にポリテトラフルオロエチレン粒子(5b)などのフッ素化合物粒子(5b)が均一に分散しためっき被膜(5) を形成するようにしているので、燃料やインク中の異物に対するめっき被膜(5) の非粘着性が向上し、ノズル孔(2) の表面に単にNiめっきなどを施した場合よりも燃料中の異物などによる目詰まりが生じにくくなる。したがって、上記ノズル(1) を用いる射出成形装置や燃料噴射装置などの装置性能が低下するのを防止できる。また、上記複合めっき被膜(5) は、耐摩耗性や耐食性、さらに膜厚の均一性が優れており、かつ異物の非粘着性も優れているので、長期にわたってノズル(1) の性能が安定する。
【0067】
また、請求項7に記載の発明によれば、大気中または窒素もしくは不活性ガス中において焼成処理を施すことにより、複合めっき被膜(5) の非粘着性を高めてノズル(1) の目詰まりをさらに確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係るノズル(1) の断面図である。
【図2】ノズル(1) におけるノズル孔(2) のめっき部の断面構造を示す図である。
【図3】ノズル(1) に複合めっきをするためのめっき装置(10)の正面図である。
【図4】図3のめっき装置(10)の右側面図である。
【符号の説明】
(1) ノズル
(2) ノズル孔
(5) 複合めっき被膜
(5a) 金属マトリックス
(5b) フッ素化合物粒子
(6) 下地めっき被膜
(20) 撹拌機構
(30) 振動機構
(35) 撹拌部材
(40) 駆動機構
(45) 振動モータ
(50) めっき槽
(S) めっき溶液
【発明の属する技術分野】
本発明は、ノズルのノズル孔に複合めっきをするためのノズル用めっき装置と、ノズル孔に複合めっきを施したノズルとに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、例えば射出成形装置やエンジンの燃料噴射装置などの各種の装置や機器では、溶融樹脂や燃料などを噴射するためのノズルが用いられている。上記ノズルは、溶融樹脂や燃料などを噴射するノズル孔を有しており、このノズル孔が目詰まりすると所期の噴射性能が得られなくなってしまう。
【0003】
そこで、上記ノズルにおけるノズル孔の内面に例えばプリント基板スルーホールに多く利用されている平滑作用の大きい電気めっきを施すことにより、表面あらさを抑え、目詰まりしにくくすることが考えられる。一方、ノズル孔のような微細孔にはめっきの被膜を均一に形成しにくいが、これをできるだけ均一にする技術として、めっき槽内の溶液を撹拌しながらノズルなどの被めっき物を振動させてめっきを行う方法(例えば、特許文献1参照)を採用することが考えられる。
【0004】
【特許文献1】
特開平11−189880号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記の方法のように単にめっき溶液を撹拌しながらノズルを振動させるだけでは、均一なめっき被膜を形成できないおそれがある。これは、ノズル孔が微細な孔であるため、溶液中でノズルを振動させたとしても、表面張力などによってノズル孔の内部へめっき溶液が浸入しにくく、新鮮なめっき溶液がノズル孔の表面に接触しにくいからである。そして、このことが原因でめっき被膜が不均質になると、ノズルの目詰まりが生じやすくなってしまう。
【0006】
また、上記の方法でノズル孔にめっきを施した場合、めっき自体の非粘着性が高くないためにノズルが異物で目詰まりするおそれもある。そこで、ノズルの目詰まりを抑えるためには、異物に対する非粘着性の高い物質を混入した複合めっき被膜を形成することが考えられる。しかし、複合めっきを採用した場合でも、上記のめっき方法では、めっき被膜が不均質になってしまうおそれがある。これは、めっきの処理中に新鮮なめっき溶液がノズル孔の中に浸入しにくいことに加えて、仮にノズル孔の内部にめっき溶液が浸入したとしても、ノズル孔内に既に入っているめっき溶液がノズルの振動時にノズルと一緒に動いてしまいやすいために、ノズルと溶液とが相対的にはほぼ静止している関係になって、やはり新鮮なめっき溶液がノズル孔の表面に接触しにくいからである。そして、このような場合、溶液の組成分布が不均質となり、非粘着性物質が溶液中で均一に分散せずに偏ってしまい、めっき被膜も不均質になってしまう。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みて創案されたものであり、その目的とするところは、ノズルのノズル孔に複合めっきを施す場合に複合めっきを均質化することにより、めっき後のノズルにおける目詰まりを確実に防止できるようにすることである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、異物の非粘着性が高い物質としてフッ素化合物粒子(5b)を混入した複合めっき被膜(5) をノズル孔(2) に形成するとともに、このめっき被膜(5) を形成する際に、溶液(S) の撹拌とノズル(1) の振動とを同時に行い、しかもノズル孔(2) の内部の溶液(S) も撹拌できるようにしたものである。
【0009】
具体的に、請求項1に記載の発明は、ノズル(1) のノズル孔(2) に、金属マトリックス(5a)中にフッ素化合物粒子(5b)が分散した複合めっき被膜(5) を形成するノズル用めっき装置に関するものである。この場合、複合めっき被膜(5) の金属マトリックス(5a)は、例えばNi−Pマトリックス(5a)とすることができ、フッ素化合物粒子(5b)は、例えばポリテトラフルオロエチレン粒子(5b)とすることができる。
【0010】
この請求項1に記載のめっき装置は、槽(50)内でめっき溶液(S) を撹拌する撹拌機構(20)と、めっき溶液(S) 中に浸漬したノズル(1) を振動させる振動機構(30)とを備え、振動機構(30)がノズル(1) のノズル孔(2) よりも小径の棒状ないし線状に形成された撹拌部材(35)を備えるとともに、該撹拌部材(35)が、上記ノズル孔(2) に挿入して該撹拌部材(35)の周囲に筒状の隙間が形成される状態でノズル(1) と一体化可能に構成され、さらに、振動機構(30)が、上記ノズル(1) と撹拌部材(35)を一体的に振動させるように構成されていることを特徴としている。
【0011】
この請求項1の発明では、まず、めっき被膜として、Ni−Pマトリックス(5a)などの金属マトリックス(5a)中にポリテトラフルオロエチレン粒子(5b)などのフッ素化合物粒子(5b)が分散した(ここで言う「分散した」は、「均一に分散した」という意味である)複合めっき被膜(5) を形成するようにしているので、該めっき被膜(5) には、ノズル孔(2) を通って噴射される溶融樹脂や燃料中の異物に対する非粘着性、さらには撥水・撥油性、潤滑性、耐食性などが与えられる。特に、複合めっき被膜(5) の表面に露出したフッ素化合物粒子(5b)を大気中または窒素もしくは不活性ガス中で焼成させて薄いフッ素化合物の膜を形成すると、上記非粘着性などが高くなる。したがって、このノズル(1) を用いると、ノズル孔(2) の表面に単にNiめっきなどを施した場合よりも、燃料中の異物などによる目詰まりが生じにくくなる。
【0012】
そして、この発明では、ノズル(1) のノズル孔(2) に撹拌部材(35)を挿入してノズル(1) と撹拌部材(35)とを一体にした状態でめっき処理が行われる。このとき、槽(50)内のめっき溶液(S) は撹拌機構(20)により撹拌され、ノズル(1) は振動機構(30)によって撹拌部材(35)とともに振動する。
【0013】
したがって、撹拌部材(35)の振動によりノズル孔(2) の近傍の溶液の流れが乱れるので、ノズル孔(2) の中に入っている溶液(S) が確実に撹拌される。また、ノズル孔(2) の中の溶液(S) が撹拌されることでノズル孔(2) の中への新鮮な溶液(S) の導入も促進され、溶液(S) の循環性が高められる。この結果、ノズル孔(2) の内部において溶液(S) 中のフッ素化合物粒子(5b)が均一に分散するので、生成されるめっき被膜(5) についてもこれらの粒子(5b)が均一に分散したものとなる。
【0014】
また、請求項2に記載のめっき装置は、請求項1の発明において、振動機構(30)が、ノズル(1) と撹拌部材(35)を所定の周回軌道上で一体的に周回させることにより、該ノズル(1) と撹拌部材(35)を振動させるように構成されていることを特徴としている。
【0015】
この請求項2の発明では、めっき処理を行うとき、槽(50)内のめっき溶液(S) は撹拌機構(20)により撹拌され、ノズル(1) は振動機構(30)によって撹拌部材(35)とともに所定の周回軌道上で周回する。ノズル(1) と撹拌部材(35)が例えば縦長あるいは横長の小さな楕円軌道上を一緒に周回する動作を行うときには、両者は、周回動作の上端位置から右端位置まで下降しながら右方向へ横移動する動作、右端位置から下端位置まで下降しながら左方向へ横移動する動作、下端位置から左端位置まで上昇しながら左方向へ横移動する動作、左端位置から上端位置まで上昇しながら右方向へ横移動する動作を繰り返し行う。つまり、ノズル(1) と撹拌部材(35)とは、上下方向の往復動作と横方向の往復動作を繰り返す。
【0016】
したがって、ノズル(1) が上下方向と左右方向に振動する際に、ノズル孔の近傍の溶液の流れが上記撹拌部材(35)によって乱れることで、ノズル孔(2) の中に入っている溶液(S) が確実に撹拌されるとともに、ノズル孔(2) の中への新鮮な溶液(S) の導入も促進され、溶液(S) の循環性が高められる。この結果、ノズル孔(2) の内部において溶液(S) 中のフッ素化合物粒子(5b)が均一に分散するので、生成されるめっき被膜(5) についてもこれらの粒子(5b)が均一に分散する。
【0017】
また、請求項3に記載のめっき装置は、請求項1または2の発明において、撹拌機構(20)と振動機構(30)の駆動源が一つの振動モータ(45)によって構成されていることを特徴としている。
【0018】
この請求項3の発明では、めっき溶液(S) の撹拌と、ノズル(1) 及び撹拌部材(35)の振動とを一つの振動モータ(45)で行うことができる。
【0019】
また、請求項4に記載のめっき装置は、請求項1,2または3の発明において、撹拌機構(20)によるめっき溶液(S) の撹拌動作と、振動機構(30)によるノズル(1) の振動動作とが、ノズル孔(2) 内のめっき溶液(S) に対して所定の位相差で作用するように、撹拌機構(20)及び振動機構(30)が構成されていることを特徴としている。
【0020】
この請求項4の発明では、撹拌機構(20)によってめっき溶液(S) が全体的に撹拌されることによるノズル孔(2) 内での溶液(S) の振動の位相と、ノズル(1) 及び撹拌部材(35)が旋回することによりノズル孔(2) 内で生じる溶液(S) の振動の位相とが異なるため、ノズル孔(2) 内の溶液(S) に対してより強力な撹拌作用を得ることができる。したがって、めっき被膜(5) 中でフッ素化合物粒子(5b)がさらに均一に分散する。
【0021】
また、請求項5に記載のめっき装置は、請求項1,2,3または4に記載の発明において、撹拌部材(35)が導電性の材料により形成されていることを特徴としている。
【0022】
この請求項5の発明では、めっき溶液(S) 中で撹拌部材(35)を陽極に、ノズル(1) を陰極にすると、電気メッキを行うことができる。このため、上記複合めっき被膜(5) を電気めっきにより形成することも可能であるし、あるいは複合めっき被膜(5) の下地めっきを電気めっきにより形成することも可能となる。複合めっき自体を電気めっきにすると、成膜速度を高めたり、フッ素化合物粒子(5b)の共析量を多くしたりすることなどが可能となり、下地めっきを電気めっきにより形成すると、上記複合めっきの密着性を高めることができる。
【0023】
また、請求項6に記載の発明は、ノズル孔(2) を備えたノズル(1) において、該ノズル孔(2) に、金属マトリックス(5a)中にフッ素化合物粒子(5b)が均一に分散した複合めっき被膜(5) を形成するようにしたことを特徴としている。金属マトリックス(5a)は、例えばNi−Pマトリックス(5a)とすることができ、フッ素化合物粒子(5b)は、例えばポリテトラフルオロエチレン粒子(5b)とすることができる。
【0024】
この請求項6の発明では、めっき被膜として、Ni−Pマトリックス(5a)などの金属マトリックス(5a)中にポリテトラフルオロエチレン粒子(5b)などのフッ素化合物粒子(5b)が分散した複合めっき被膜(5) を形成するようにしているので、燃料中の異物などによる目詰まりが生じにくくなり、特に請求項1から4の発明の装置でめっき処理を行ってフッ素化合物粒子(5b)をめっき被膜内で均一に分散させることにより、目詰まりをさらに発生しにくくすることができる。
【0025】
また、請求項7に記載の発明は、請求項6の発明において、複合めっき被膜(5) が、大気中または窒素もしくは不活性ガス中で焼成処理をすることにより非粘着性を向上させたものであることを特徴としている。
【0026】
このように、大気中または窒素もしくは不活性ガス中において焼成処理を施すことにより、複合めっき被膜(5) の表面に薄いフッ素化合物の膜を形成でき、非粘着性を高めて目詰まりをさらに確実に防止できる。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0028】
図1は、本実施形態に係るノズル(1) の断面図である。このノズル(1) は、例えばエンジンの燃料噴射装置においてガソリンを噴射するのに用いられるノズル(1) であり、全体が円筒状で、その先端部には、直径が例えば0.3mmから2.0mm程度の微細径のノズル孔(2) が形成されている。また、上記ノズル(1) には、図においてノズル孔(2) の下方側に、テーパ孔(3) を介してノズル孔(2) と連通する内孔(4) が形成されている。
【0029】
上記ノズル孔(2) には、図2に示すように、Ni−P(ニッケル−リン)などの金属マトリックス(5a)中に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素化合物の共析粒子(5b)が分散した複合めっき被膜(5) が形成されている。上記複合めっき被膜(5) は、必要に応じて、ノズル(1) の先端面にも形成するとよい。この複合めっき被膜(5) は、以下に説明する複数の工程を経て形成することができる。
【0030】
まず、図1の形状に形成されたノズル(1) に対して、第1に溶剤による脱脂工程を行う。第2に、アルカリ剤による脱脂工程を行い、水洗いを行う。第3に、溶液中での電解処理による脱脂工程を行い、さらに水洗いを行う。電解処理では、ノズル孔(2) の中に挿入した微細な電極とノズル孔(2) の表面とに通電し、その間で生成される酸素や水素の微細な気泡の作用で脱脂を行う。このように3度の脱脂工程を繰り返すことで、ノズル孔(2) に付着した油分を確実に除去する。
【0031】
次に第4の工程として、塩酸などの溶液中でノズル孔(2) の表面の酸洗浄を行い、ノズル孔(2) に付着している可能性のある酸化膜を除去する。これは、ノズル孔(2) の表面に酸化膜が生成されていると、該表面に対する複合めっき被膜(5) の密着性が低下してしまうためである。また、この酸洗浄後は、ノズル(1) の水洗いを行う。
【0032】
酸洗浄後、第5の工程として、下地めっき被膜(6) を電気めっきの方法により形成し、その後に水洗いを行う。この実施形態では、下地めっき被膜(6) として、例えばニッケルめっきが形成される。ニッケルめっきは、ノズル(1) の母材になっている金属素材に対して密着性が優れていることから下地めっき被膜(6) として採用されている。
【0033】
その後、第6の工程として、上記複合めっき被膜(5) を形成する処理を行う。ニッケルの下地めっき被膜(6) は、複合めっき被膜(5) に対する密着性が優れており、該複合めっき被膜(5) をノズル(1) に安定した品質で形成できる。また、複合めっき被膜(5) を形成した後は、ノズル(1) を水洗いと湯洗いにより洗浄し、さらに乾燥して表面処理が完了する。
【0034】
図2(a)は、以上の工程を経て形成されたノズル孔(2) のめっき部の断面構造を示している。このように、ノズル孔(2) の表面には、下地めっき被膜(6) を介して複合めっき被膜(5) が形成され、複合めっき被膜(5) には、Ni−Pマトリックス(5a)中にPTFEの共析粒子(5b)が均一に分散するとともに、一部の共析粒子(5b)は露出している。そして、複合めっき被膜(5) に大気中または窒素もしくは不活性ガス中で熱を与えると、図2(b)に示すように、その表面に露出したPTFE粒子(5b)が溶融後に凝固して、PTFEの薄い膜(5c)が形成される。
【0035】
次に、上記ノズル(1) のノズル孔(2) に複合めっき被膜(5) を形成するためのめっき装置(10)について説明する。
【0036】
図3はめっき装置(10)の正面図、図4は図3のめっき装置(10)の右側面図である。このめっき装置(10)は、めっき溶液(S) を撹拌する撹拌機構(20)と、上記ノズル(1) を保持して溶液(S) 中で振動させる振動機構(30)と、撹拌機構(20)及び振動機構(30)を駆動するための駆動機構(40)とを備え、これらの3つの機構(20,30,40)が一体的に構成されている。図3及び図4は、このめっき装置(10)を、ノズル(1) に複合めっきをするための複合めっき溶液槽(50)に設置した状態を示している。
【0037】
図ではシステムの全体は示していないが、めっき処理を行うライン上には、上記第1から第3の脱脂工程を行うための3つの脱脂溶液槽、酸洗浄工程を行う酸洗浄溶液槽、下地めっきを行うための下地めっき溶液槽、さらには複合めっきを行う上記複合めっき溶液槽(50)などが工程順に配置されている。上記ライン上には、めっき装置(10)を各槽へ順に搬送するトランスファマシン(図示せず)が設けられており、このトランスファマシンにより、各槽の溶液に撹拌機構(20)と振動機構(30)が溶液中に浸漬した状態で、めっき装置(10)が所定時間保持される。
【0038】
上記駆動機構(40)は、上記各槽上でトランスファマシンによって位置決めされるベース(41)と、このベース(41)に対してねじ軸(42)とコイルバネ(43)とによって弾性的に支持された支持板(44)と、この支持板(44)に固定された一つの振動モータ(45)とを備えている。振動モータ(45)には、出力部(45a) に、撹拌機構(20)の2本の連結軸(21)と振動機構(30)の一枚の連結板(31)とが連結されている。振動モータ(45)の出力部(45a) は、上記支持板(44)に対して、例えば図4に矢印Aで示すような小さな楕円軌道に沿った周回動作を行うように構成されている。これにより、撹拌機構(20)と振動機構(30)も、姿勢を変えずに同じ楕円軌道Aの上を周回する動作を行う。
【0039】
上記撹拌機構(20)は、連結軸(21)に固定された4枚の羽根(22)を備えている。各羽根(22)は、それぞれが保持板(23)で上下から挟まれるとともに、それぞれの間にスペーサ(24)を介在させた状態で、上部ナット(25a) と下部ナット(25b) とにより連結軸(21)に固定されている。撹拌機構(20)の2本の連結軸(21)はそれぞれ鉛直上下方向に沿うように、互いに平行に配置されている。上記羽根(22)は、水平姿勢となるように2本の連結軸(21)に保持されている。
【0040】
振動機構(30)は、上記振動モータ(45)の出力部(45a) に上記撹拌機構(20)の連結軸(21)と直交する面上で固定された連結板(31)と、この連結板(31)の先端に支持軸(32)を介して保持されたバスケット状容器(33)とを備えている。バスケット状容器(33)は、上記ノズル(1) を保持するための容器であり、支持軸(32)の下端に固定されている。
【0041】
バスケット状容器(33)は、例えばメッシュ状の金属材料を用いて、立方体または直方体の中空形状に形成されている。この容器(33)の内部には、ノズル(1) を仮想線で示す状態で保持するように、ノズル(1) の内孔(4) と嵌合する支持部材(34)が設けられている。この支持部材(34)は、バスケット状容器(33)内で縦横に配列されており、複数のノズル(1) を縦横に並べて保持するようになっている。
【0042】
各支持部材(34)の上端には、ノズル孔(2) 内のめっき溶液を撹拌するための撹拌部材(35)が立設されている。この撹拌部材(35)は、例えば、上記ノズル孔(2) の直径が0.5mmであるのに対して、外径が約0.1mmから0.2mmでノズル孔(2) の直径よりも小径の線電極により構成されている。そして、支持部材(34)にノズル(1) を装着したときに、撹拌部材(35)とノズル孔(2) の内面との間に筒状の隙間ができるようになっており、バスケット状容器(33)内には、ノズル(1) をこの状態で位置決めして撹拌部材(35)と一体的に保持するための押さえ部材(図示せず)が設けられている。また、この押さえ部材は上記隙間を閉塞せず、ノズル孔(2) が槽(50)内の溶液に対して開放された状態となるように構成されている。
【0043】
なお、上記ノズル(1) は、ノズル孔(2) の内面と先端面だけにしかめっき処理を行わないように、その他の面をマスキングするための治具(図示せず)を介して支持部材(34)に装着されている。
【0044】
上記撹拌機構(20)及び振動機構(30)は、撹拌機構(20)によるめっき溶液(S) の全体的な撹拌動作と、振動機構(30)によるノズル(1) の振動動作とが、ノズル孔(2) 内のめっき溶液(S) に対して所定の位相差を持って作用するように構成されている。具体的には、振動モータ(45)に連結軸(21)で連結された撹拌機構(20)の羽根(22)と、振動モータ(45)に連結板(31)及び支持軸(32)によって連結されたバスケット状容器(33)内のノズル(1) とは、振動モータ(45)からの連結部分の長さが互いに異なるため、同一位相では振動せずに位相が異なる状態で振動する。このように位相差を付けるには、羽根(22)の強度を調整するような設計手法をとってもよい。
【0045】
なお、上記装置(10)において、ノズル孔(2) の中でめっき溶液(S) の流動性を高めるための振動条件は、ノズル(1) の形状や寸法、槽(50)の形状や寸法、さらには溶液の組成などによっても異なるが、例えば周波数を約10〜100Hz、加速度を約20〜100m/s2、振幅を約0.2〜3mm程度に設定しておくと、比較的広範囲で対応できる。
【0046】
−運転動作−
次に、本実施形態のめっき装置(10)による各工程の処理の詳細について説明する。
【0047】
このめっき装置(10)は、前処理であるノズル(1) の脱脂工程や酸洗浄工程においても、バスケット状容器(33)内にノズル(1) を保持したまま各工程の処理を行う。このとき、撹拌機構(20)の羽根(22)と振動機構(30)のバスケット状容器(33)を各工程の溶液内に浸漬した状態で振動モータ(45)を起動することにより、撹拌された溶液の中でノズル(1) が振動し、脱脂や酸洗浄など、それぞれの処理が行われる。具体的には、各ノズル(1) が小さな楕円軌道上で周回する動作を行う際に、撹拌部材(35)も一緒の動作を行うので、該撹拌部材(35)がノズル孔(2) 内の溶液を撹拌する。これにより、ノズル孔(2) の中に新鮮な溶液を導入しながら処理が行われる。前処理の各工程が終わると、上述したように水洗いを行い、その後に下地めっきと複合めっきの処理工程が実行される。
【0048】
下地めっきとしてニッケルの電気めっきを行うときも、溶液の撹拌とノズル(1) の振動の動作は前処理と同様に行う。このことにより、ノズル孔(2) の内部に新鮮な下地めっき溶液を導入し、かつ該溶液を循環させながら下地めっき被膜(6) が形成される。したがって、均質で清浄な下地めっき被膜(6) を形成することができる。
【0049】
複合めっきを行うときは、特に溶液中で共析粒子(5b)を均一に分散させることができるため、めっき被膜(5) の均質化に効果的である。これは、ノズル(1) のノズル孔(2) に撹拌部材(35)としての線電極を挿入した状態でノズル(1) と撹拌部材とを一体化したことで、ノズル(1) 及び撹拌部材(35)を楕円軌道上で周回(振動)させると、ノズル孔(2) の内部の溶液(S) も撹拌されるためである。
【0050】
具体的には、めっき溶液(S) を撹拌機構(20)により撹拌する際に、ノズル(1) と撹拌部材(35)とを一体化して振動機構(30)によって所定の周回軌道上で周回させることで、ノズル(1) 及び撹拌部材(35)は、いずれもめっき処理の間に上下方向の往復動作と横方向の往復動作(振動)を繰り返すことになる。
【0051】
そして、ノズル(1) と撹拌部材(35)とが一緒に振動することにより、ノズル孔(2) の近傍の溶液の流れが乱れ、ノズル孔(2) の中への溶液(S) の導入が促進されるとともに、ノズル孔(2) の中に入っている溶液が確実に撹拌される。このことにより、ノズル孔(2) の内部での新鮮な溶液の循環性が高められる。以上の結果、ノズル孔(2) の内部において溶液中の共析粒子(5b)が均一に分散することになり、ひいては、生成されるめっき被膜(5) についても共析粒子(5b)が均一に分散することになる。したがって、この実施形態のめっき装置(10)で処理したノズル(1) を使用するときには、めっき被膜(5) に燃料中の異物が付着しにくくなる。
【0052】
以上のように、本実施形態によれば、Ni−Pマトリックス(5a)中にポリテトラフルオロエチレン粒子(5b)が均一に分散しためっき被膜(5) をノズル孔(2) に形成するようにしているので、ノズル(1) を使用するときに燃料中の異物がめっき被膜(5) に付着しにくくなり、上記異物によるノズル(1) の目詰まりが生じにくくなる。また、複合めっき被膜(5) に熱を与えて表面にPTFEの薄い膜(5c)を形成しているので、目詰まりをより確実に防止できる。したがって、上記ノズル(1) を用いる燃料噴射装置の装置性能が低下するのを防止できる。
【0053】
特に、上記ノズル(1) と撹拌部材(35)とをノズル孔(2) 内に隙間のある状態で一体化して、これらを楕円軌道上で一緒に周回させて振動させるようにしているので、ノズル孔(2) の中に入っているめっき溶液(S) を確実に撹拌することができるとともに、ノズル孔(2) の内部での溶液の循環性を高めることができる。したがって、PTFEの共析粒子(5b)をめっき溶液(S) 中でより均一に分散させることが可能となり、めっき被膜(5) をより均質にすることができる。
【0054】
また、上記実施形態では、めっき溶液(S) の撹拌と、ノズル(1) 及び撹拌部材の振動とを一つの振動モータ(45)で行うようにしているので、例えばめっき溶液(S) の撹拌とノズル(1) 及び撹拌部材(35)の振動に別々の振動モータ(45)を用いる場合と比べて構成を簡単にしてコストダウンを図ることができる。
【0055】
さらに、上記実施形態においては、撹拌機構(20)によってめっき溶液(S) が全体的に撹拌されることによる溶液の振動の位相と、ノズル(1) 及び撹拌部材が旋回することによりノズル孔(2) 内で生じる溶液の振動の位相とがノズル孔(2) 内で異なるようにしたことにより、ノズル孔(2) 内の溶液に対するより強力な撹拌作用を得ることができる。したがって、このことからもめっき被膜(5) 中でフッ素化合物粒子(5b)がさらに均一に分散する効果を得ることができる。
【0056】
また、上記実施形態では、撹拌部材(35)に線電極を用いたことにより電気めっきを行えるようにして、電気めっきでノズル孔(2) の表面に対する密着性の優れた下地めっき被膜(6) を形成するようにしている。そして、複合めっき被膜(5) はこの下地めっき被膜(6) に対して密着性が優れているので、めっきの品質を安定させることができる。さらに、電気めっきを行うときには微細な気泡が発生するが、ノズル孔(2) の表面と溶液とが相対的に静止しているとガスの離散性が悪くなり、めっき品質が低下するおそれがあるのに対して、上記実施形態では電極を振動させるようにしているので電気めっきの処理の際にガスの離散性が高くなり、めっき品質を向上させることも可能となる。
【0057】
【発明のその他の実施の形態】
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0058】
例えば、上記実施形態では、ノズル(1) には、ノズル孔(2) とともに先端面にも複合めっき処理を行うものとして説明したが、複合めっき被膜(5) は少なくともノズル孔(2) に形成するようにしていればよく、その他の部位には形成しなくてもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、撹拌部材(35)として線電極を用いて電気めっきを行えるようにしているが、撹拌部材(35)は必ずしも電極に利用しなくてもよい。つまり、本発明のめっき装置(10)では、ノズル孔(2) の内部に小径の棒状ないし線状の撹拌部材(35)を挿入した状態でこれらを一体的に所定の周回軌道上で旋回させるようにしておけば、上記撹拌部材(35)が電極であるかどうかに拘わらず、ノズル孔(2) の内部での溶液(S) の撹拌効果を得ることができるので、複合めっき被膜(5) を均質にすることは可能である。
【0060】
また、上記めっき装置(10)に関して、一つの振動モータ(45)で撹拌機構(20)と振動機構(30)に所定の位相差を設けるようにしているが、各機構(20,30) について別々の振動モータ(45)を用いると、連結軸(21)や連結板(31)の長さなどに拘わらず任意の位相差を設定することが可能となり、設計の自由度を高めることができる。また、上記位相差を設定する必要のない場合などは、上記連結軸(21)や連結板(31)を任意の形状・寸法に設計するとよく、例えば上記撹拌と振動が同期するようになっていてもよい。
【0061】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1に記載の発明によれば、ノズル(1) と、ノズル孔(2) 内に挿入された小径の棒状ないし線状の撹拌部材(35)とを一体化した状態で、ノズル(1) と撹拌部材(35)を一緒に振動させるようにしたことにより、ノズル孔(2) の中に入っているめっき溶液(S) を確実に撹拌することができるとともに、ノズル孔(2) の内部での溶液(S) の循環性を高めることができる。したがって、フッ素化合物などの共析粒子(5b)をめっき溶液(S) 中で均一に分散させることで、ノズル(1) の複合めっき被膜(5) 中でも共析粒子(5b)を均一に分散した状態とすることができる。この結果、ノズル(1) を使用するときの目詰まりを確実に防止できるので、上記ノズル(1) を用いる装置の性能低下を確実に防止できる。
【0062】
また、請求項2に記載の発明によれば、ノズル(1) と撹拌部材(35)を所定の周回軌道上で旋回させることにより、該ノズル(1) と撹拌部材(35)を一緒に振動させるようにしているので、ノズル孔(2) の内部での溶液(S) の撹拌効果を確実に得ることができる。したがって、めっき被膜(5) がより均質化し、目詰まりをさらに確実に防止できる。
【0063】
また、請求項3に記載の発明によれば、めっき溶液(S) の撹拌と、ノズル(1) 及び撹拌部材(35)の振動とを一つの振動モータ(45)で行うことができるので、例えばめっき溶液(S) の撹拌とノズル(1) 及び撹拌部材(35)の振動に別々の振動モータ(45)を用いる場合と比べて構成を簡単にすることができ、コストダウンを図ることができる。
【0064】
また、請求項4に記載の発明によれば、撹拌機構(20)によってめっき溶液(S) が全体的に撹拌されることによるノズル孔(2) 内の振動の位相と、ノズル(1) 及び撹拌部材(35)が一緒に振動する位相とが異なるようにしたことにより、ノズル孔(2) 内の溶液に対してより強力な撹拌作用を得ることができるので、めっき被膜(5) 中でフッ素化合物粒子(5b)がさらに均一に分散し、ノズル(1) の目詰まりをさらに確実に防止できる。
【0065】
また、請求項5に記載の発明によれば、撹拌部材(35)を導電性の材料により形成して電気めっきを行えるようにしているので、複合めっき被膜(6) の成膜速度を高めたり、粒子(5b)の共析量を多くしたりすることが可能であるし、電気めっきで下地めっき被膜(6) を形成すると複合めっき被膜(5) の密着性も高められる。
【0066】
また、請求項6に記載の発明によれば、ノズル(1) のノズル孔(2) に、Ni−Pマトリックス(5a)などの金属マトリックス(5a)中にポリテトラフルオロエチレン粒子(5b)などのフッ素化合物粒子(5b)が均一に分散しためっき被膜(5) を形成するようにしているので、燃料やインク中の異物に対するめっき被膜(5) の非粘着性が向上し、ノズル孔(2) の表面に単にNiめっきなどを施した場合よりも燃料中の異物などによる目詰まりが生じにくくなる。したがって、上記ノズル(1) を用いる射出成形装置や燃料噴射装置などの装置性能が低下するのを防止できる。また、上記複合めっき被膜(5) は、耐摩耗性や耐食性、さらに膜厚の均一性が優れており、かつ異物の非粘着性も優れているので、長期にわたってノズル(1) の性能が安定する。
【0067】
また、請求項7に記載の発明によれば、大気中または窒素もしくは不活性ガス中において焼成処理を施すことにより、複合めっき被膜(5) の非粘着性を高めてノズル(1) の目詰まりをさらに確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係るノズル(1) の断面図である。
【図2】ノズル(1) におけるノズル孔(2) のめっき部の断面構造を示す図である。
【図3】ノズル(1) に複合めっきをするためのめっき装置(10)の正面図である。
【図4】図3のめっき装置(10)の右側面図である。
【符号の説明】
(1) ノズル
(2) ノズル孔
(5) 複合めっき被膜
(5a) 金属マトリックス
(5b) フッ素化合物粒子
(6) 下地めっき被膜
(20) 撹拌機構
(30) 振動機構
(35) 撹拌部材
(40) 駆動機構
(45) 振動モータ
(50) めっき槽
(S) めっき溶液
Claims (7)
- ノズル(1) のノズル孔(2) に、金属マトリックス(5a)中にフッ素化合物粒子(5b)が分散した複合めっき被膜(5) を形成するノズル用めっき装置であって、
槽(50)内でめっき溶液(S) を撹拌する撹拌機構(20)と、めっき溶液(S) 中に浸漬したノズル(1) を振動させる振動機構(30)とを備え、
振動機構(30)は、ノズル(1) のノズル孔(2) よりも小径の棒状ないし線状に形成された撹拌部材(35)を備えるとともに、該撹拌部材(35)は、上記ノズル孔(2) に挿入して該撹拌部材(35)の周囲に筒状の隙間が形成される状態でノズル(1) と一体化可能に構成され、
振動機構(30)は、上記ノズル(1) と撹拌部材(35)を一体的に振動させるように構成されていることを特徴とするノズル用めっき装置。 - 振動機構(30)は、ノズル(1) と撹拌部材(35)を所定の周回軌道上で一体的に周回させることにより、該ノズル(1) と撹拌部材(35)を振動させるように構成されていることを特徴とする請求項1記載のノズル用めっき装置。
- 撹拌機構(20)と振動機構(30)の駆動源が一つの振動モータ(45)によって構成されていることを特徴とする請求項1または2記載のノズル用めっき装置。
- 撹拌機構(20)によるめっき溶液(S) の撹拌動作と、振動機構(30)によるノズル(1) の振動動作とが、ノズル孔(2) 内のめっき溶液(S) に対して所定の位相差で作用するように、撹拌機構(20)及び振動機構(30)が構成されていることを特徴とする請求項1,2または3記載のノズル用めっき装置。
- 撹拌部材(35)は、導電性の材料により形成されていることを特徴とする請求項1,2,3または4記載のノズル用めっき装置。
- ノズル孔(2) を備え、該ノズル孔(2) に、金属マトリックス(5a)中にフッ素化合物粒子(5b)が分散した複合めっき被膜(5) が形成されていることを特徴とするノズル(1) 。
- 複合めっき被膜(5) は、大気中または窒素もしくは不活性ガス中で焼成処理をすることにより非粘着性を向上させたものであることを特徴とする請求項6記載のノズル。
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