JP2004094331A - 構造物の設計支援システムおよび方法,ならびに同システムのためのプログラム - Google Patents

構造物の設計支援システムおよび方法,ならびに同システムのためのプログラム Download PDF

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Abstract

【目的】現実的に実現可能な時間内で実用的かつ大規模な振動の解析が行なえるような方法を提供することを目的とする。
【構成】従来の方法によれば,実際の問題に応用可能な大規模な構造・音場連成系問題を解くためには極めて長時間にわたる計算時間と多くのコンピュータ資源(メモリやハードディスク)が必要となる。本発明では構造と音場連成系を分解し,構造と音場それぞれの固有ペア(固有値と固有モード)の計算結果を入力として,求める精度に応じた最小限の固有ペアの数で連成系の近似固有値を求めることが可能となり,従来より短時間で計算を行なうことが可能となる。
【選択図】  図3

Description

【0001】
【技術分野】
この発明は振動のふるまいを考慮した,構造物の設計を支援するシステムおよび方法,または音場と構造の連成系振動解析システムおよび方法,ならびにそのシステムを制御するプログラムに関する。
【0002】
【技術的背景】
さまざまな構造物の設計において振動を考慮することはきわめて重要である。たとえば自動車の設計においては,乗車時の快適性を向上させるため振動を極力抑えることが要求される。またスピーカの設計においてはスピーカに対する要求仕様に従い,必要な周波数帯域において最大の電気/音響変換効率が得られるような特性が求められる。
【0003】
ここで自動車の設計を例にとると,設計仕様として要求される項目としては自動車の運動性能の向上,製造コストの削減等があげられるが,これに加えて快適性確保のため,車室内における振動(騒音)を低減するための対策は欠かすことのできない重要な要求項目のひとつである。自動車の車室内でシートに座った人間が感じる振動(騒音)は,いくつかの条件によって決まる。音場の条件すなわち車室内空間に関する条件,構造の条件すなわち車体やシートに関する条件,等である。音場の条件としては,具体的には車室内の広さ(容積),空間の形状等があげられる。構造の条件としては,車体を構成する部材の材質や剛性,部材の取付け方法等がある。車室内の空間は車体によって規定されるなど,これらの条件は相互に関連している。車室内の振動(騒音)はこのような音場の条件と構造の条件に依存する。このように相互に関連する複数の条件に依存して生じる振動を連成振動現象という。このような騒音ないしは振動現象を解析するための方法は,自動車等の設計にとって極めて重要な手法であり,その設計のための支援と位置付けられる。
【0004】
数値計算において連成振動現象を表現する行列は非対称形である。非対称形の行列をコンピュータを用いて解くのには膨大な時間がかかる。計算を容易にする方法として非対称形行列を対称形行列に誘導する方法があるが,対称形行列を誘導できたとしても対称形行列にはバンド性がないためにその固有値解析に要する計算時間は長く,結局,行列を解くには時間がかかる。ここでバンド性とは,行列において0(ゼロ)でない項が行列の対角線に集中する性質をいう。
【0005】
振動には固有値と固有モード(固有ベクトルともいう)がある。固有値と固有モードを合わせて固有ペアと呼ぶ。振動の解析時間短縮のために,非連成の固有ペアを用いて連成系の固有ペアを表現する試みがなされているが,途中で発散して解けないか,解けたとして時間がかかり実用的ではなかった。
【0006】
【発明の開示】
この発明は,現実的に実行が可能な時間内で振動(騒音)解析を行うことができる構造物の設計支援システムないしは振動の解析システムおよび方法,ならびに同システムのためのプログラムを提供することを目的とする。
【0007】
この発明による構造物の設計支援方法(または連成系振動解析方法)は,振動を解析すべき領域の音場と構造のそれぞれの非連成振動方程式から正規化条件としてK直交条件を用いて算出された固有値と固有モードをコンピュータに入力してメモリに記憶し,メモリに記憶した固有値と固有モードの固有ペアについて,固有ペアにおける固有値と所与の基準固有値との差の絶対値が小さい順番にメモリ上で並び替えを行い,振動を解析すべき上記領域の音場と構造の連成系における固有値と固有モードを連成系の結合パラメータεの級数で表現した摂動法による展開式の係数をコンピュータにより算出するにあたって,上記係数を,離散化された連成系振動方程式に基づいて,連成系振動方程式内の固有値を周波数の逆数で置きかえた上で,連成系振動方程式を対称化することなく,非対称のまま,上記の並び替えされた固有ペアを用いて算出して,最終的に上記連成系の固有ペアを導出するものである。
【0008】
この発明による構造物の設計支援システム(または連成系振動解析システム)は,振動を解析すべき領域の音場と構造のそれぞれの非連成振動方程式から正規化条件としてK直交条件を用いて算出された固有値と固有モードの入力を受入れてメモリに記憶する入力手段,上記メモリに記憶される固有値と固有モードの固有ペアについて,固有ペアにおける固有値と所与の基準固有値との差の絶対値が小さい順番にメモリ上で並び替えを行う並び替え手段,振動を解析すべき上記領域の音場と構造の連成系における固有値と固有モードを連成系の結合パラメータεの級数で表現した摂動法による展開式の係数をコンピュータにより算出するにあたって,上記係数を,離散化された連成系振動方程式に基づいて,連成系振動方程式内の固有値を周波数の逆数で置きかえた上で,連成系振動方程式を対称化することなく,非対称のまま,上記の並び替えされた固有ペアを用いて算出して,最終的に上記連成系の固有ペアを導出する処理手段,ならびに導出された上記固有ペアを出力する出力手段を備えているものである。
【0009】
この発明による構造物の設計支援プログラム(または連成系振動解析プログラム)は,振動を解析すべき領域の音場と構造のそれぞれの非連成振動方程式から正規化条件としてK直交条件を用いて算出された固有値と固有モードをコンピュータに入力してメモリに記憶し,メモリに記憶した固有値と固有モードの固有ペアについて,固有ペアにおける固有値と所与の基準固有値との差の絶対値が小さい順番にメモリ上で並び替えを行い,振動を解析すべき上記領域の音場と構造の連成系における固有値と固有モードを連成系の結合パラメータεの級数で表現した摂動法による展開式の係数をコンピュータにより算出するにあたって,上記係数を,離散化された連成系振動方程式に基づいて,連成系振動方程式内の固有値を周波数の逆数で置きかえた上で,連成系振動方程式を対称化することなく,非対称のまま,上記の並び替えされた固有ペアを用いて算出して,最終的に上記連成系の固有ペアを導出するものである。
【0010】
この発明においては,振動を解析すべき領域の音場と構造のそれぞれの非連成系の固有ペアを用いて,連成系の固有ペアを表現することを前提としている。音場と構造のそれぞれの非連成系の固有ペアを得るために,この発明では非連成振動方程式を正規化条件としてK直交条件を用いて算出している。このことは,摂動法による展開式の係数の算出における収束を保証するものとなる。
【0011】
加えてこの発明では,上記の通り算出された固有ペアを所与の基準固有値(着目する固有値)との差の絶対値が小さい順番に並び替えを行っており,この並び替えの順序で固有ペアを上記係数の近似計算に用いている。上述のように展開式は収束することが保証されているので,固有ペアが多数存在したとしても上記近似計算を途中で打切ることができ,しかも上記の順序で固有ペアを用いているから,計算を途中で打切ったとしても得られる値は真の値に非常に近いものとなっている。
【0012】
このようにして,この発明によると,現実的に実行が可能な時間内で振動解析の結果,すなわち連成系の固有ペアを得ることができる。
【0013】
振動方程式内の固有値を周波数の逆数で置きかえているので,有限要素法により離散化された連成系振動方程式を非対称のまま取扱うことが可能である。
【0014】
上記近似計算の途中打切りのために,許容誤差eと打切り回数mとをコンピュータに入力するようにするとよい。上記コンピュータによる上記係数の近似計算において,前回の計算結果と今回の計算結果との差が上記許容誤差eよりも小さくなったときに近似計算が停止される,または上記差が上記許容誤差eよりも大きくても,繰返し計算回数が上記打切り回数mに達した場合には,近似計算が停止される。
【0015】
上記基準固有値は,上記コンピュータのメモリに記憶された固有ペア内の固有値において指定される。
【0016】
【実施例】
図1は自動車の断面図であり,ボディ1の内側にエンジン2とシート3が設置されている状態を表わしている。
【0017】
自動車の車室内の振動(音を含む)には,エンジンを音源とする音,自動車が停止しているときのこもり音等の人間が不快と感じる騒音(60〜 300Hz程度)がある。振動現象の解析の目的はこれらの騒音の固有周波数,固有周波数における音圧および変位を求めることである。これらを求めることにより,固有周波数が不快に感じる帯域内にあれば,固有周波数をシフトさせる,音圧レベル,変位レベルを下げる等の対策が可能となる。
【0018】
上記連成振動現象を解くために,音場と構造を考える。音場は,解析対象の領域としてユーザーが定める空間である。また,構造は,弾性体,固体,構造体であって,この実施例ではシートなどが該当する。
【0019】
一例として,運転者のいる空間Aについて解析する。図2(a) は図1の自動車を3次元でモデル化したものである。車体のシート3より前方の部分を実線で,後方部分を破線でそれぞれ示している。車体の一部は1辺がπである立方体で表わされており,これが構造である(シートに対応するSを含む)。Ωは立方体の内部を示しており,図1でいうと車室内の空間Aを表わす音場の領域である。
【0020】
説明を容易にし,且つ検証を可能にするために,図2(b) に示すような2次元のモデルを考える。
【0021】
図2(b) ではΓおよびSで囲まれたπ×πの正方形を音場の境界とし,正方形の内部Ωを音場の領域とし,音場の境界(ΓとS)を構造とする。Γがボディで,Sがシートに対応する。
【0022】
シートSは支持点P1および支持点P2で固定され,シートS自体は微小にたわむことは許されるものとする。P1,P2の両支持点ではx,y方向の変位は許されないが,支持点はシートSのたわみによって支持点を中心に回転することは許される。(この条件を単純支持という)
【0023】
図2(c) は,シートSが音場Ω内の音源から発せられる音圧Pによって微小変化した状態(たわみが生じた状態)を示すものである。uは,音圧Pにより実線で表わすシートSが一点鎖線で表わすS’の状態になり,シートS上の点Px1 がS’上の点Px2に変位したときに生ずるx方向の変位量を表わすものである。
【0024】
【数1】
Figure 2004094331
【0025】
式(1) は図2の(b) に示す音場と構造についての関係を表わしたものである。式(1) に関連して,Ωは図2の(b) でいうところの音場の領域,Γは音場の境界であり,構造である(具体的にはボディ)。Sは構造であり,音場の境界でもある(具体的にはシート)。PはΩ内の音圧,uは構造の変位,cは音速,ρは気体の質量密度,D は構造の剛性率,ρは構造の質量密度,mはZ方向のフーリエ(Fourier)モード数,ω は固有振動数(固有値は1/ω で表わされる)である。音場の境界条件は,Γ上で音圧が0,構造の境界条件は単純支持とする。
【0026】
式(1−1) は空気中における固有振動数ωと音圧Pの関係を表わす音場振動方程式である。
【0027】
式(1−2) は音場の境界条件であり,境界Γ上で音圧が0(検証を容易にするために0としたが,実際の計算では,式(1−2) に代えて剛壁条件式 (1−2)’を用いてもよい)であることを表わす。
【0028】
式(1−3) も音場の境界条件である。音圧Pによる境界Sの法線方向の変化率が,空気質量密度ρと,構造の変位uと,固有振動数の2乗ωとの積に等しいことを表わす。構造の変位uは,振動によって生ずる構造Sのx方向への変位を表わすものである。
【0029】
式(1−4) は図2(b) に示すような境界Sが,音圧Pを受けた時の構造の固有振動方程式である。
【0030】
式(1−5) は構造境界条件で,境界Sの両端にある支持点は単純支持であるということを表わしている。式(1−1) から式(1−5) をまとめて式(1) とする。
【0031】
式(1−3) は構造が音場に与える影響を表わす式(音場系の式)であり,式(1−4) は音場が構造に与える影響を表わす式(構造系の式)である。これら2つの式によって音場と構造が結びつけられている。
【0032】
音場と構造の結びつきの強さを表わすパラメータをεとし,式(1−3) と式(1−4) の右辺にパラメータεを乗じたものをそれぞれ式(2−3) ,(2−4) とする。式(1−1) ,(1−2) ,(1−5) にそれぞれ対応する式(2−1) ,(2−2) ,(2−5) と上記の式(2−3) ,(2−4) の全体を式(2) とする。
【0033】
ε=1の場合は完全連成を表わす。ε=0の場合,音場と構造を関係づける因子はなくなり,完全非連成となり,この場合には,式(2) の音場系の振動方程式,式(2−1) 〜式(2−3) は,次の式(3) で表わされ,構造系の振動方程式,式(2−4) 〜式(2−5) は,次の式(4) で表わされる。
【0034】
【数2】
Figure 2004094331
【0035】
【数3】
Figure 2004094331
【0036】
式(2) を摂動法の原理を用いて解く。まず,一般的な摂動法を説明する。
【0037】
摂動法とは,ある複雑な系(系とは解析しようとする対象を指す。例えば,自動車の車室の騒音を解析するときの構造であり,音楽ホールの共鳴を解析するときのホールの構造である。)の状態を求める場合に,厳密に求めるのではなく,この系を構成する既知で簡単な系の状態から近似的に求める方法である。このとき,複雑な系は既知の系に小さな変化を与えることによって実現される状態であることを前提としている。摂動法によって求められるある系に微小変動を加えたときの固有値は,既知の系の固有値の級数で表わされる。
【0038】
式(2)は理論解を求めるものである。実際の解析に応用するために,一般的には,連続系の式は離散化され,有限要素法を用いて解かれる。式(2)を離散化すると,式(5)が得られる。
【0039】
【数4】
Figure 2004094331
【0040】
ここで,式(5)について,次の式(6)を用いた置き換えを行うと,
【数5】
Figure 2004094331
式(7)のように書くことができる。式(7)は非対称のままである。上述したように,非対称のマトリックスを解くのは対称マトリックスを解くのに比べ,所要時間もコンピュータ上の一次記憶域も余分に必要となる。
【0041】
【数6】
Figure 2004094331
【0042】
最終的な目的は連成系における固有値と固有モードを求めることにあり,連成系における固有値と固有モードは非連成系の(音場と構造の)固有値と固有モードで表現することができる。この表現において摂動法を用い,式(8−1),(8−2)に示すように,固有値λ と固有モードφ をそれぞれ結合パラメータεの級数で表わす(摂動法による展開式)。
【0043】
そこで,式(5)に示す非対称のマトリックスについて,以下に,摂動法を用いて近似解を求める。式(7)のλ(ε)とφ(ε)について摂動法を用いて近似解を求める式は,上記の通り式(8−1),(8−2)のようになる。これらの式における高次項の係数は,下記式(9)(式(9−1)〜式(9−4))で求められる。
【0044】
【数7】
Figure 2004094331
【0045】
【数8】
Figure 2004094331
【0046】
式(8)(式(8−1)〜式(8−2)) において左辺は連成系における固有値λiと固有モードφである。右辺のεの級数の各係数は非連成系における(音場と構造の)固有値と固有モードを用いて算出される。
【0047】
非連成系における固有モードを求めるための正規化条件としてK直交条件を用いることにより(従来はM直交条件を用いていた),式(8) が収束すること (項数が増大すればするほど,各項の係数の値が小さくなること)が保証されることが分った。
【0048】
式(8)が収束することを説明する。下記式(a)は,式(7)のεを「0」とした場合,即ち連成前の状態を示すものである。
λKφ = Mφ …(a)
式(a)の左からφ を乗ずると下記式(b)のようになる。
λφ Kφ = φ Mφ …(b)
【0049】
ここでK直交とは次の式(10)を満たすことである。ただしKは剛性マトリクスである。
【0050】
【数9】
Figure 2004094331
【0051】
K直交条件を満たすということは,式(b)の「φ Kφ 」が「1」に等しいことを意味する。また,高次の固有値「λ」は「0」に近づくことが分っている。したがって式(b)は「0」に収束することとなり,構造解析のための計算が収束に向かうことが分かる。
【0052】
連成系の固有値,固有モードは,下記のとおり既知の非連成系の固有値λ(0),固有モードφ(0)を第1項とする級数で表わされる(ε=1の場合)。
【数10】
Figure 2004094331
(λ(0) は連成前の構造または音場の固有値であり,奇数項は全て0になることが分かっている。φ(0)は連成前の構造または音場の固有モードである。)
【0053】
上記式(c) の第2項以降(補正後)はλ (2n) (但しn=1,2,3…)と表わすことができ,図3に示す処理フローの第nステップの近似計算により順次求られめる。
【0054】
固有値と同様に,連成系の固有モードも既知の非連成系の固有モードを第1項とする級数で表わされる。φ(n) も同様に近似計算によって求められるものである。
【0055】
固有値の近似計算をする際には,式(c)と式(d)の初項を決定しておく必要がある。初項とは,λ(0) やφ(0) である。自動車の車室内の騒音について解析するような場合は,人間の耳に不快に感じる周波数帯に着目する。したがって,連成系の固有値をコンピュータにより求める(計算する)に先立ち,音場の固有値と構造の固有値をコンピュータに読み込むが,音場の固有値と構造の固有値を比較して,より不快と感ずる周波数帯をもつ方を上記式の初項とする(これを基準固有値という)。
【0056】
式(c) はλ(0) を除く右辺の項を無限個求めれば等号が成り立つものである。しかし,現実には有限回で計算を打ち切る必要があるので,図3において計算される第nステップ終了後の固有値は式(9−2) のように表わすことができる。計算によって求められる固有値は式(9−2) のnが大きいほど(式(c) の項をより多く求めるほど)真の値に近づく。固有モードについても同様である(式(9−4))。
【0057】
図5(a) は,図2(b) に示す音場の領域Ωを1辺がπ/4である32個の正方形に分割し,各正方形の頂点の座標を示すものである。(横軸をx,縦軸をyとし,座標は(x,y)で表わされる。また,π/4を1とする。)
【0058】
一般的には,図5に小さな黒丸で示す25個の点における音圧の集合が音場の固有モード(固有ベクトル)を表わすものとする。一方,構造については計算結果の精度を確保するために,音場よりも細かい分割をして固有モードを計算することが多い。境界S上において音場のデータを取得する点は○で囲まれた5点であるのに対して,構造のデータを求める点については構造S上で三角で表示される9点が設けられている。
【0059】
図5(b) は,連成系のデータとして採用するデータD3と,境界S上における構造系のデータD1および音場系のデータD2の関係を図示したものである。構造系のデータはu(1) からu(9) まで9個のデータがあるが,連成系のデータとして採用するのはu(1) ,u(3) ,u(5) ,u(7) ,u(9) の5個であり,音場系のデータは図5(a) で黒丸で示す25個の点のうち,連成系のデータとして採用するのはp(1,5) ,p(2,5) ,p(3,5) ,p(4,5) ,p(5,5) の5個である。
【0060】
上述の説明でわかるように,連成振動現象を解く場合に必要なデータは,音場と構造の接する部分(構造表面)だけでよく,さらに,構造のデータは音場のデータと重なる点のデータだけでよい。
【0061】
図6(a) は,上記の記述に基づいて,図3のフローチャートの処理10で読み込むデータの並びを示したものである(このデータはコンピュータのメモリに記憶される)。音場の固有値をλs_n で表し,データD3のように選択された固有モードを音圧p(i,j)_n で表す。構造の固有値はλp_n で表し,固有モードを変位u(i)_n で表す。nは入力するn個の固有値の順番を表わす。図6(b) は具体的数値例を示す。
【0062】
音場の固有値λs_n と音場の固有モードp(i,j)_n は式(3) によってあらかじめ求められ,構造の固有値λp_n と構造の固有モードu(i)_n は式(4) によってあらかじめ求められる。このとき,上述したように正規化条件としてK直交条件が用いられる。
【0063】
図6(a)により具体的に説明すると,音場の固有値はきわめて多数存在するが,簡単のために5つ(λs_1,λs_2,λs_3,λs_4,λs_5)が示されている。固有値λs_1とペアをなす固有モードがp(1,5)_1,p(2,5)_1, ・・・・・,p(5,5)_1であり,これらは図5(b) の縦に配列された5つの点の音圧によって表わされる固有モードである。
【0064】
図6(b)は図6(a)のそれぞれについて具体的数値例を示すものである。
【0065】
図3は実施例の処理フロー図である。この処理はコンピュータによって実行される。処理10では予め計算しておいた構造系と音場系それぞれの固有値と図5のD3で示すように選択された固有モードをコンピュータに,またはメモリのワークエリアにより読み込む(図6(a),(b)参照)。図6(a),(b)において,上段が音場系の固有ペアであり,下段が構造系の固有ペアである。固有ペアの値がFD等に記憶されている場合には,FDからワークエリアに読込めばよいし,ハードディスクに記憶されている場合には,それをメモリのワークエリアに読込めばよい。固有ペアの値を他のコンピュータから伝送してもよい。
【0066】
処理20では計算の基準とした(構造か音場のいずれか)固有値λ(基準固有値)と,許容誤差eおよび繰返し計算打ち切り回数mとをコンピュータに入力する。この入力は一般には手操作により行われるが,FDから入力,またはオンラインで入力してもよい。固有値λは周波数ωとの間にλ=1/ω の関係がある。許容誤差とは近似計算の結果,n−1回目の計算結果の固有値とn回目の計算結果の固有値との差が指定した許容誤差eよりも小さければ計算を打ち切らせるための値である。繰返し計算打ち切り回数mは,収束計算が期待する許容誤差範囲に無い場合であっても(すなわち,上記のように,n−1回目の値とn回目の値との差が許容誤差eより小さくなくても)計算を中止させるためのものである。なお,処理における変数nは,上記のn個の固有値の順番を表わすnとは意味が異なるものである。
【0067】
処理30では処理10で入力した複数の固有ペアを固有値をキーにしてメモリ(ワークエリア)上で並べ替えを行う。並べ替えは各固有ペアの固有値と処理20で読み込んだ基準固有値λとの差の絶対値が小さい順番に行う。並べ替えは構造系と音場系それぞれについて行う。その後,音場と構造の共通節点(図5で□を付けた部分)の固有モードを選び出し,メモリに保存する。(これにより,保存量を減らすことができる。図5の場合では,音場の全体節点数25が5になり,構造の全体節点数9が5になる。)
【0068】
一般に自動車の車室内の騒音について解析するような場合は,人間にとって不快な騒音と感ずる周波数の音を中心に分析を行う。図6の例で,構造固有値λs_4 が不快な音になる周波数の固有値(基準固有値)であるとした場合,処理30ではまず第1番目にλs_4 (これが基準固有値である)を置き,残りの固有値についてλs_4 に近い順番(各固有値とλs_4 との差の絶対値が小さい順)メモリ上でに並べ替える。
【0069】
処理40ではカウンタを=0とする。処理50ではカウンタを1プラス(インクレメント)する。処理60では式(9)での近似計算λ (2n) を上記において並べ替えした順序で固有ペアを用いて,行う。式(9) は式(8) における各係数を求めるための計算式である。式(9)において,λ (2n)を計算するためには(式(9−2)),λとφを用いる。φは式(9−3)または式(9−4)を用いて計算する。このときλとλ(i≠j)を用いる。λのjは,iを固定したときにカウンタによりカウントアップされていく(下記のnに相当)。このカウンタにより指定される固有値の順番が上記の並べ替えの順番である。
【0070】
処理70では処理60で求めたλ (2n)の絶対値を許容誤差eと比較する(λ (2n)はn回目の計算結果の固有値とn−1回目の計算結果の固有値との差である。λ (2n) が許容誤差eより大きければ(処理70でNO),処理72に進み,n(カウンタの値)がmに達したかどうかをチェックする。nがmに達していなければ(処理72でNO),処理50に戻り,カウンタの値をインクレメントして再び近似計算を行う(処理60)。
λ (2n) が許容誤差eより小さければ処理80に進む。λ (2n) が許容誤差eより小さくならなくても,mがnに一致した場合(n=mになったとき)には(処理72でYES),処理74 に進み,回数制限で計算打切られたことを示すメッセージを出力し,処理80に進む。近似計算は途中で打切られるので計算時間は短くてすむが,下に説明するように収束が確保される。
【0071】
処理80では連成系の近似固有値λ=λ+λ (2)+λ (4)+…λ (2n)を計算して出力する。近似固有モードも同様に求められるのはいうまでもない。
【0072】
上記の処理10〜80はパラメータεを適当な値に固定して実行される。もし,所望の,または適切な結果が得られない場合には,パラメータεを変更して再度上記の処理を繰返すことが望ましい。これは,たとえば構造の材質を変更するようなことに相当するので,最も適切な材質の選定にも役立つ。
【0073】
図4(a),(b)は式(8−1) の第2項以降の項のうちの1つの項について,縦軸にλ,横軸に計算回数を取ったときの収束状況を示す図である。固有値をλに近い順に並べ替えずに計算した場合は,図4(b)の曲線(b)で示すように誤差が大小に変動し,何回で収束したと見なすかの見極めができない。一方,並べ替えを行った場合は,図4(a) の曲線(a1)または(a2),(a3)のように確実に回を追うごとに収束に向かう形となる。
【0074】
以下に具体例を示す。
【0075】
第1の例 (構造からの連成系固有値)
許容誤差e=10−6とする。
i)現実的なパラメータを使うケース
D=19.230769,ρ=1.2930000,ρ=7850,c=340,m=1,i=1
理論解λ(1)=102.06188,λ(0)=102.05000
ここで,理論解λ(1)は下記式(11)のタイプ1で計算されたものである。
理論解λ(0)は式(3)で計算されたものである。
1回近似結果=λ(0)+λ (2)=102.06188,
|λ (2)|=|0.01188|>e
2回近似結果=λ(0)+λ (2)+λ (4)=102.06188,
|λ (4)|=|0.0000000|<e
3回近似結果=λ(0)+λ (2)+λ (4)+λ (6)=102.06188,
|λ (6)|=|0.0000000|<e
4回近似結果=λ(0)+λ (2)+λ (4)+λ (6)+λ (8)=102.06188,
|λ (8)|=|0.0000000|<e
【0076】
ii)非現実的なパラメータを使うケース
理論解λ(1)=6.6944765756,λ(0)=6.25
D=2,ρ=5,ρ=50,c=2.5,m=1,i=1
ここで,理論解λ(1)は式(11)のタイプ1で計算されたものである。
理論解λ(0)は式(3)で計算されたものである。
1回近似結果=λ(0)+λ (2)=6.694667334361377,
|λ (2)|=|0.44466733|>e
2回近似結果=λ(0)+λ (2)+λ (4)=6.694462764982187,
|λ (4)|=|−0.000204569|>e
3回近似結果=λ(0)+λ (2)+λ (4)+λ (6)=6.694477554000371,
|λ (6)|=|0.000014789|>e
4回近似結果
=λ(0)+λ (2)+λ (4)+λ (6)+λ (8)=6.694476478081498,
|λ (8)|=|0.0000010759|≒e
【0077】
第2の例 (音場からの連成系固有値)
許容誤差e=10−4とする。
理論解λ(1)=0.069251599,λi(0)=0.07111111
ここで,理論解λ(1)は式(11)のタイプ2で計算されたものである。
理論解λ(0)は式(2)で計算されたものである。
1回近似結果=λ(0)+λ (2)=6.9075922324487507×10−2
|λ (2)|=|−2.035188×10−3|>e,
2回近似結果=λ(0)+λ (2)+λ (4)=6.9265894614179742×10−2
|λ (4)|=|−4.93329×10−4|≒e
【0078】
【数11】
Figure 2004094331
【0079】
図7は構造物の設計支援システム(または連成系振動解析装置)の構成側を示すものであり,コンピュータシステムにより実現される。
【0080】
処理装置(並び替え手段,処理手段)1はコンピュータ本体であり,図3ステップ10〜ステップ80の処理を実行するプログラム1aを格納するとともに,図6に示すようなデータを格納するメモリ1bを備えている。
【0081】
入力装置(入力手段)2はキーボード,マウス,FDドライブ,通信装置等により実現され,ステップ10,20におけるデータ等の入力のために用いられる。
【0082】
出力装置(出力手段)3は表示装置,プリンタ,FDドライブ等により実現され,ステップ80の固有値出力に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】自動車の断面図であり,この発明に適する現実問題の一例を示すものである。
【図2】図1をモデル化した図であり,(a)は3次元モデルを,(b)は2次元モデルをそれぞれ示す。
【図3】コンピュータにおける処理手順を示す処理フロー図である。
【図4】演算の収束状況を表わすグラフであり,(a)は収束する場合を,(b)は収束しない場合をそれぞれ示す。
【図5】(a),(b)は音場系と構造系の共通節点を表わすイメージ図である。
【図6】(a),(b)は音場系と構造系の固有ペアのメモリ上の保存状態を表わす図である。
【図7】構造物の設計支援システムまたは連成系振動解析システムの構成例を示すブロック図である。
【符号の説明】
1  処理装置
1a   プログラム
1b   メモリ
2  入力装置
3  出力装置

Claims (6)

  1. 振動を解析すべき領域の音場と構造のそれぞれの非連成振動方程式から正規化条件としてK直交条件を用いて算出された固有値と固有モードをコンピュータに入力してメモリに記憶し,
    メモリに記憶した固有値と固有モードの固有ペアについて,固有ペアにおける固有値と所与の基準固有値との差の絶対値が小さい順番にメモリ上で並び替えを行い,
    振動を解析すべき上記領域の音場と構造の連成系における固有値と固有モードを連成系の結合パラメータεの級数で表現した摂動法による展開式の係数をコンピュータにより算出するにあたって,上記係数を,離散化された連成系振動方程式に基づいて,連成系振動方程式内の固有値を周波数の逆数で置きかえた上で,連成系振動方程式を対称化することなく,非対称のまま,上記の並び替えされた固有ペアを用いて算出して,最終的に上記連成系の固有ペアを導出する,
    構造物の設計支援方法。
  2. 上記コンピュータのメモリに記憶された固有ペア内の固有値において,上記基準固有値を指定する,請求項1に記載の方法。
  3. 許容誤差eをコンピュータに入力し,上記コンピュータによる上記係数の近似計算において,前回の計算結果と今回の計算結果との差が上記許容誤差eよりも小さくなったときに近似計算を停止する,請求項1または2に記載の方法。
  4. 打切り回数mをコンピュータに入力し,上記コンピュータによる上記係数の近似計算において,前回の計算結果と今回の計算結果との差が上記許容誤差eよりも大きい場合であっても,繰返し計算回数が上記打切り回数mに達した場合に,近似計算を停止する,請求項3に記載の方法。
  5. 振動を解析すべき領域の音場と構造のそれぞれの非連成振動方程式から正規化条件としてK直交条件を用いて算出された固有値と固有モードの入力を受入れてメモリに記憶する入力手段,
    上記メモリに記憶される固有値と固有モードの固有ペアについて,固有ペアにおける固有値と所与の基準固有値との差の絶対値が小さい順番にメモリ上で並び替えを行う並び替え手段,
    振動を解析すべき上記領域の音場と構造の連成系における固有値と固有モードを連成系の結合パラメータεの級数で表現した摂動法による展開式の係数をコンピュータにより算出するにあたって,上記係数を,離散化された連成系振動方程式に基づいて,連成系振動方程式内の固有値を周波数の逆数で置きかえた上で,連成系振動方程式を対称化することなく,非対称のまま,上記の並び替えされた固有ペアを用いて算出して,最終的に上記連成系の固有ペアを導出する処理手段,ならびに
    導出された上記固有ペアを出力する出力手段,
    を備えた構造物の設計支援システム。
  6. 振動を解析すべき領域の音場と構造のそれぞれの非連成振動方程式から正規化条件としてK直交条件を用いて算出された固有値と固有モードの入力を受付けてメモリに記憶し,
    メモリに記憶した固有値と固有モードの固有ペアについて,固有ペアにおける固有値と所与の基準固有値との差の絶対値が小さい順番にメモリ上で並び替えを行い,
    振動を解析すべき上記領域の音場と構造の連成系における固有値と固有モードを連成系の結合パラメータεの級数で表現した摂動法による展開式の係数を算出するにあたって,上記係数を,離散化された連成系振動方程式に基づいて,連成系振動方程式内の固有値を周波数の逆数で置きかえた上で,連成系振動方程式を対称化することなく,非対称のまま,上記の並び替えされた固有ペアを用いて算出して,最終的に上記連成系の固有ペアを導出するようにコンピュータを制御する連成系振動解析のためのプログラム。
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