JP2004089177A - 製紙スラッジから乳酸を生産する方法 - Google Patents

製紙スラッジから乳酸を生産する方法 Download PDF

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Abstract

【課題】乳酸を経済的に大量生産すること。
【解決手段】乳酸を生産する方法は、製紙スラッジを加水分解する酵素反応工程と、酵素反応工程で生成されたグルコースを基質に使用して乳酸に変換させる発酵工程とを同時に行なうことに関するものである。この本発明の乳酸生産方法によれば、低価の製紙スラッジを使用することで生産費用を節減できるだけではなく、2工程を同時に行うことにより生産時間を短縮して、乳酸を大量生産できる。
【選択図】図28

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、製紙スラッジを利用して乳酸を生産する方法に関するものである。より詳細には、製紙スラッジを加水分解する酵素反応工程と酵素反応工程で生成されたグルコースを基質に使用して乳酸に変換させる発酵工程とを行ない、乳酸を生産する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
環境保存とエネルギー資源の需要を減少しようという世界的な努力の一環として、有機廃棄物の再使用が国内外的に活発になされている。有機廃棄物には、製紙類の再使用工程で廃棄される製紙スラッジ、穀物を収穫後に廃棄される澱粉及び繊維素がある。この中で韓国国内で廃棄される有機物中、廃紙は年間830 万トンが発生し、この中で再活用される廃紙は、500 万トンと60% の再活用率を示している( 環境統計年鑑 2001 、14号、環境部) 。そして、有機廃棄物の一つである飲食廃棄物は、年間420 万トンが発生し、有機性スラッジ類は、550 万トンが発生している( 環境統計年鑑 2001 、14号、環境部) 。また、山林資源から得られる木質系及びその廃棄物を使用できる。上記有機廃資源は、生物工学的方法によって加水分解され、乳酸生産微生物の炭素源等、有用な生物資源に使用できる。一方、製紙類の再使用工程では、重さにして5 〜40% の紙類が使用されないスラッジとして廃棄されている。このスラッジの30〜40% は、短い繊維素が主流を成している。韓国の製紙産業から発生したスラッジの総量は、1992年基準で年間約 902千トンにのぼる。このような莫大な量のスラッジは、主に焼却によって処理されているが、スラッジに相当量の水(60%以上) が含まれているため、燃料を加えて焼却処理しなければならない。2001年基準で廃棄物処理業者の委託製紙スラッジ処理費用は、平均的に1トン当たり約40,000ウォンであり、スラッジ処理費用に約400 億ウォン以上の費用がかかっている。
【0003】
産業的に有用な有機酸として代表的な乳酸(Lactic Acid) は、3 炭素からなる有機酸(2−Hydroxypropanoic acid、COOH−HCOH−CH)で、ブドウ糖の嫌気性発酵によって生産される。乳酸の産業的用途は、工業用55% 、食品用40% 、医薬用5%で、食品用は主に酸味剤に使用され、工業用は、皮革産業と化粧品用湿潤剤に使用されている。医薬分野で最近注目されている用途開発は、生分解性高分子のポリ乳酸である。現在は、ポリ乳酸の価格が高く汎用使用されずにいるが、大量生産によって価格が下がれば、その膨大な需要が予測される。韓国の場合、生分解性高分子市場が近い将来に約500 億ウォンに達する展望であり、ポリ乳酸はこの市場の相当な部分を占めることができると予測されている。
【0004】
しかし、今まで乳酸を手頃な価格で生産する方法が開発されておらず、現在はポリ乳酸の生産のための乳酸を全量輸入に依存している実情である。家畜飼料の機能性添加剤としての乳酸の産業的需要も増加している現実であり、これに対する手頃で大量的な乳酸生産方法の開発が急がれている。
【0005】
そこで、本発明者達は、製紙スラッジ内のセルロースを加水分解してグルコースを生産し、該グルコースを基質に使用して経済的に乳酸を生産する方法を開発することによって、本発明を完成した。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、経済的でありながらも、大量生産が可能に乳酸を生産するための方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、製紙スラッジから乳酸の基質であるグルコースを生産する酵素反応と、該グルコースを乳酸に変換させる発酵工程とを含む乳酸生産方法を提供する。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、製紙スラッジを加水分解する酵素反応工程と、該酵素反応工程で生成されたグルコースを乳酸に変換させる発酵工程とを含む乳酸生産方法を提供する。
【0009】
本発明では、乳酸を生産するための基質を大量生産するために、手頃に大量に得られる製紙スラッジを使用して乳酸の基質であるグルコースを生産する。製紙スラッジを再活用することによって、乳酸生産の費用を大幅に減らして、廃棄物の処理にかかる費用を節減できる。
【0010】
本発明の乳酸生産方法は、製紙スラッジ内のセルロースからグルコースを生産する工程と、該グルコースを基質に使用して乳酸に変換させる発酵工程とに分けられる。
【0011】
本発明の製紙スラッジ内のセルロースからグルコースを生産する方法は、セルロースを分解する酵素を添加して反応させることによって行なうことができる。上記セルロースを分解してグルコースを生産する酵素としては、エンド− グルカナーゼ(endo−glucanase)、エキソ− グルカナーゼ(exo−glucanase) 及びβ−グルコシダーゼ( β−glucosidase)で構成される群から選択した一つ以上の酵素を使用できるが、これに限定されるものではなく、セルラーゼ(cellulase) 及びβ−グルコシダーゼ( β−glucosidase)を使用することが好ましい。セルラーゼは、エンド− グルカナーゼ(endo−glucanase)とエキソ− グルカナーゼ(exo−glucanase) から構成される。セルラーゼは、これらのグルカナーゼの複合的機能によりスラッジ内のセルロースを分解してセロビオース(cellobiose)という二糖類を生成する。また、β−グルコシダーゼ( β−glucosidase)は、前段階で生成されたセロビオースを分解してグルコースをつくるのに関与する。
【0012】
上記酵素反応工程は、上記で使用した酵素が活性を示す温度及びpHの範囲内で行なうことができ、32℃ないし50℃で行なうことが好ましく、42℃ないし46℃で行なうことがさらに好ましい。pHは、pH4.8 ないしpH6.0 で行なうことが好ましく、pH5.0 で行なうことがさらに好ましい。酵素反応工程は、50℃で行なうことが好ましいが、微生物が成長する温度は、37℃が好ましいので二条件の中間点の42℃ないし46℃で反応を行なうことが、乳酸生産に最も好ましい温度である。また、酵素反応pHは、pH5 で行なうことが好ましく、微生物の成長するpHは、pH6 が好ましいため、二条件の最適条件は、pH5 である。
【0013】
本発明の方法では、上記酵素反応工程を通じて生成されたグルコースを基質に使用して、乳酸に変換させる発酵工程を行なう。本発明の発酵工程では、グルコースを基質に使用して乳酸を生産できる微生物を添加して培養することによって乳酸を生産できる。発酵工程に添加される微生物は、特別に限定されるものではないが、ラクトバシラス属またはリゾプス属微生物であることが好ましく、ラクトバシラスラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus) 、リゾプスオリザエ(Rhizopus oryzae) 及びラクトバシラスデルブリュッキィ(Lactobacillus dellbreukill)で構成された群から選んだ一つまたは二つ以上を添加して培養することがさらに好ましく、ラクトバシラスラムノーサスを使用することが最も好ましい。ラクトバシラスラムノーサスによって乳酸を生産する工程は、37℃で行なうことが好ましい。また、pHは、pH6.0 で行なうことが好ましい。また、培養速度は、スラッジの濃度によって100rpmないし500rpmで行なうことが好ましい。
【0014】
具体的に、L.ラムノーサスを利用してグルコースから乳酸を生産する発酵工程を行なった後、発酵工程を通じて生成された培養液(broth) の成分を分析した。その結果、HPLCカラムを通過した有機酸は、クエン酸(citric acid) 、コハク酸(succinic acid) 、乳酸、蟻酸(formic acid) 、酢酸(acetic acid) 、プロピオン酸(propionic acid)の順に各々10、14、15、16、21.5min で検出された。色々な有用有機酸が生産されたが、97% 以上の主要生産物は乳酸だった( 図18参照) 。
【0015】
本発明では、酵素反応工程と発酵工程を別々に分離して行なったが、酵素反応工程と発酵工程を同時に行なうこともできる。上記のように酵素反応工程及び発酵工程を行なうための方法として、酵素反応工程及び発酵工程を別々に分離して行なう順次発酵(sequential fermentation; 以下「SF」と略称する) または二工程を同時に行なう同時糖化発酵(simultaneous saccharification and fermentation;以下「SSF 」と略称する) 方法が利用できる。本発明の乳酸生産方法は、SSF 方法で行なうことが好ましく、流加培養(fed−batch) または連続式発酵(continuous fermentation) で行なうことがさらに好ましい。流加培養というのは、初期に入れた基質が消費され、微生物がそれ以上成長できなくなった時に、基質を発酵器に入れて微生物がさらに成長できるようにする方法である。本実験では、製紙スラッジを入れて製紙スラッジが酵素によってブドウ糖に転換されると、基質として利用できるようにした。
【0016】
SFは、酵素反応と発酵を分離して実施する方法である。SF法では、酵素反応工程で生成された反応液だけを別に分離して発酵工程に適用して、スラッジ内に最も多く含まれているアッシュ(ash) 部分を除去できる。また、酵素反応工程と発酵工程を分離して実施すると最適条件で各工程が行なわれるため、各工程での生産性が増加する。しかし、酵素反応工程で過剰量のスラッジを加水分解しても撹拌の困難さによってスラッジの15% 以上を加水分解できず、条件を満たすために装置にかかる経済的負担と生産時間遅延等の問題点がある。
【0017】
それに比べて、スラッジを利用したSSF 法は、スラッジ内のセルロースを加水分解してグルコースを生成し、同時に発酵を通して乳酸を生産する。SSF 方法は、装置の単純化と工程時間節約の長所があり、酵素を利用した加水分解から生じる基質阻害反応を減らすことによって、乳酸生産効率を向上せられる長所を持っている。したがって、SSF 方法は、SF方法に比べて工程時間の短縮と酵素反応での産物阻害(product inhibition)を抑制できる。また、高濃度培養が容易で、工程を単純化でき、流加培養( fed−batch) 時のスラッジ添加による物質移動(masstransfer) の問題も大きくない。始めから高い濃度のスラッジを添加すれば、発酵液の粘度が上昇するため撹拌が困難となる。この問題を解決するために、初期に低い濃度スラッジを添加するようにすると、酵素がすぐに繊維素を分解するため、撹拌に大きな問題が起きず、物質移動に効果的である。また、スラッジ内の不溶性部分であるアッシュ部分は、乳酸生産後に微生物と一緒に除去することが有利である。
【0018】
本発明で、酵素反応工程及び発酵工程を同時に行なうSSF の工程条件は、42℃ないし46℃で行なうことが最も好ましい。また、反応pHは、pH4.8 ないしpH6.0 で行なうことが好ましく、pH5.0 ないしpH5.5 で行なうことがさらに好ましく、pH5.0 で行なうことが最も好ましい。これは、微生物生長と酵素反応条件の組み合わせが適切であるためである。また、培養速度は、スラッジの濃度によって変えられ、100rpmないし500rpmで行なうことが好ましい。また、SSF 工程に使用される製紙スラッジの濃度は、10% 以下であることが好ましく、5%ないし10% であることがさらに好ましく、5%ないし8%であることが最も好ましい。製紙スラッジの濃度が高くなると、反応器での撹拌がたやすくなく、上記のような製紙スラッジ濃度で反応を行なうことが好ましい。
【0019】
基質であるスラッジ量が多いほどグルコースの初期生成速度は、増加する( 表1 参照) 。しかし、一定量以上の基質が添加された場合には、スラッジと酵素間の円滑なコンプレックス(complex) 形成が難しい。SSF 工程でスラッジの濃度は、物質移動のために適正濃度でなければならず、高濃度ではインペラーと電力(power) 等の問題点によって撹拌がうまく行かないため、撹拌と物質移動が容易な濃度範囲内で加水分解を行なわなければならない。インペラーは、発酵器内の物質を撹拌する装置である。
【0020】
酵素反応工程で酵素量が増加するにつれて、グルコース濃度が増加するが、その増加量に比べて乳酸生産量の差はほとんど無い。これは、少ない量の酵素でもセルロースを充分に加水分解できることを示している。また、微生物生長が酵素反応に比べて遅くに始まるため、発酵工程を先行させることによってより高い乳酸生産収率が得られる。
【0021】
SSF 工程で効率的な乳酸生産は、流加培養(fed−batch) 及び連続式発酵(continuous fermentation) によって行なえる。乳酸生産において、スラッジ濃度が高い濃度であるのに比べ、生産される乳酸は、低い濃度であり、これを解決するために、発酵途中にスラッジを添加する流加培養方法を利用できる。バッチ方法は、回分式培養方法とも言うが、これは、初期に基質と微生物、酵素を一度に入れて、乳酸を生産する方法である。また、流加培養は、初期に基質、微生物酵素を入れて、発酵途中に基質が枯渇するにしたがって基質及び酵素を入れることである。連続式発酵は連続培養とも言い、基質及び酵素を連続的に入れる方法である。流加培養では、基質が一定の濃度を維持するように基質を連続的に入れることが重要であり、微生物生長速度に基づいて基質を添加する。本発明では、酵素反応速度によって製紙スラッジ内の繊維素が70〜80% 分解された時点で基質を添加した。
【0022】
流加方法は、初期の物質移動を考慮できる。つまり、スラッジによって培養液の混合が困難となる現象を、初期に添加するスラッジを少量にすることによって克服できる。初期の低濃度のスラッジにより、酵素によってセルロースが加水分解されつつ、培養液が円滑に撹拌できる。そして、途中で添加する量も、低濃度のスラッジを添加する場合、その量を撹拌に支障をきたさない範囲にして、SSF 方法を実施できる。また、微生物が静止期に到達した時、スラッジを添加することによって乳酸生産を極大化する。
【0023】
本発明の好ましい実施例では、流加培養方式でSSF を行なった。スラッジの初期濃度を8%にし、培養途中に酵素を添加して製紙スラッジ内のセルロース加水分解をより速くした。その結果、初期には酵素反応が速いためグルコース生成が大きく増加したが、反応12時間以後にはグルコース生成速度は減少し、それに反してグルコースが消費される速度が増加した( 図26A 参照) 。これは、微生物が指数期から静止期に変化しながら多くの量のグルコースが乳酸に変化されたことを示している。この時期には、グルコースが不足するため、かえって乳酸生産速度が落ちた( 図26B 参照) 。反応50時間以後には、微生物が静止期を維持したあと死滅期(death phase) に近づく時期であり、この時期は、乳酸生産は一貫している。またグルコースは全部枯渇しないで5g/L前後で残っていた。その理由は、この時期には、微生物の活性が高くなくグルコースを乳酸に転換できないか、すでに発酵培養液の乳酸濃度が高いための乳酸による阻害影響のためである。上記結果から、微生物の指数期と静止期に充分な量の基質を添加した場合に、速い速度で乳酸を生産できることが分かった。SSF 方法では、乳酸生産時に製紙スラッジを添加する時間を先行させることによって、静止期に到達した微生物がグルコースを得て乳酸へ容易に転換できる。
【0024】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明する。
但し、下記実施例は、本発明を例示するだけのものであって、本発明の内容が下記実施例に限定されるものではない。
【0025】
【実施例】
< 実施例 1> ラクトバシラスラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus) からの乳酸(lactic acid) 生産
本発明者達は、乳酸生産のための菌株にラクトバシラスラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus) を使用し、上記ラクトバシラスラムノーサスが乳酸を生産するための最適条件を調べた。L.ラムノーサスは、L−(+)−乳酸を生産する菌株で光学純度(optical purity)が約95% 、およびグルコース対比約95% の生産収率を持っている。L.ラムノーサスを培養するためにMRS 培地(D−(+)−glucose(Sigma Co.) 、yeast extract(Difco Lab.) 、(NHSO(Sigma Chemical Co.) 、KHPO(Shinyo Pure Chemicals Co.) 、MgSO4 ・7HO(Shinyo Pure Chemicals Co.) 、KHPO(Shinyo Pure Chemicals Co.) 、FeSO4 ・7HO(Duksan Pharmaceutical Co.))を使用した。種菌培養は、フラスコを利用してシェーキング培養器(shaking incubator) で培養した。乳酸生産収率を高めるための本培養は、発酵器(fermentor) を利用して培養した。培養条件は、種菌培養の場合37℃、100rpmで培養し、本培養でも同じ条件で培養した。pHの調節は、NaOHを利用して、p H4.8 〜6.0 の範囲とした。
【0026】
分析方法は、試料を採取して細胞濃度、グルコース濃度、乳酸濃度を分析した。細胞濃度は、分光測定器(spectrophotometer; GENESYS 5 、Spectronic Instruments、Inc.) で、600nm で測定した。グルコースと乳酸濃度はグルコース分析器(glucose analyzer; YSI 2700 SELECT、Yellow Springs Instrument Co.)で測定した。
【0027】
乳酸生産のためのL.ラムノーサスの種菌培養は、250ml フラスコに100ml のMRS 培地を入れ、そこに1%のL.ラムノーサスを接種して、シェーキング培養器で24時間培養した( 種菌培養は、本培養の10%)。その後、本培養は、2.5L発酵器に1LのMRS 培地を入れ、そこに種菌培養したL.ラムノーサス培養液を接種した。
【0028】
図1 は、L.ラムノーサスを細胞生長のOD値を測定して分析したものである。図2 は、発酵中グルコース消耗量と乳酸生成量を示したものである。L.ラムノーサスは、接種後約13時間後に静止期(stationary phase)に到達した。グルコースは、培養を始めてから20時間後、全部消耗され、乳酸が生じた。乳酸生産収率は、約73% だった。 L. ラムノーサスによる乳酸生産の最適条件は、37℃、100rpmだった。
【0029】
< 実施例 2> ラクトバシラスラムノーサスの乳酸生産に温度がおよぼす影響
L. ラムノーサスによる乳酸生産において色々な温度による細胞生長、グルコース消耗量、乳酸生産量を測定することによって、その後の乳酸生産の為の発酵条件を最適化する実験を実施して、複合生物工程技術開発における基礎資料に利用しようとした。
【0030】
具体的に、乳酸生産のためのL.ラムノーサスの培養方法及び培地組成は、実施例1と同一にし、温度だけを変えて2.5L発酵器で培養した。温度は32、37、42、46または50℃にした。これは、L.ラムノーサスの培養最適温度が37℃で、酵素反応の最適温度は50℃だからである。SSF 工程の最適化の為に適する温度を求めるために37〜50℃間の温度条件で実験を行なった。本実験で各々の温度による細胞生長、グルコースの濃度、乳酸の濃度を測定してその数値を比較した。
【0031】
その結果、細胞生長においては、37℃で最も早く静止期に到達し、残りの32、42、46℃も培養を開始後約20時間後に静止期に到達した。しかし、50℃の場合細胞生長が他の温度に比べて非常に低かった( 図 3) 。グルコース濃度もやはり37℃で培養後20時間経過後すべて消耗され、32、42℃の場合は類似の速度で約40時間以後に全部消耗された( 図 4) 。細胞生長中46、50℃の場合は、グルコースの消耗速度が遅いだけではなく、培養が完全に終了した50時間以後にも20〜23g/L のグルコースが消費されなかった。培養中に乳酸は、最も早い細胞の生長及びグルコース消耗量を見せた37℃で最も多く生産され、32℃と42℃では37℃より遅いけれど類似の量の乳酸生産が見られた。しかし、46℃と50℃ではグルコース消耗量が少ないためさらに少ない乳酸生産が見られた( 図 3〜 5) 。
【0032】
L.ラムノーサスの温度による生長及び乳酸生産を見てみると、細胞生長の場合37℃で最大を示したが、乳酸生産の場合は42℃で37℃より若干高い生産量が見られたが、乳酸生産速度は37℃の方が速いため、乳酸生産のためのL.ラムノーサスの最適温度は37℃だった( 図 5) 。
【0033】
< 実施例 3> pHによる発酵の影響
L. ラムノーサスによる乳酸生産で温度とともに重要な影響を及ぼす因子は、pHである。一般的にL.ラムノーサスの最適pHは6.0 で、酵素加水分解の最適pHは4.8 である。したがって、本実験では、pH4.8 とpH6.0 間で最も最適な条件を探し出そうとした。本実験は、このような研究の基礎資料として色々なpH条件での実験を行なった。
【0034】
具体的に、L.ラムノーサスの培養条件及び培養培地の組成は、実施例1と同一にし、温度は37℃に固定した。各々の培養でpHを変えて調節して実験した。pHの調節の為に10N NaOHを使用した。pHは4.8 、5.0 、5.5 、6.0 で実施し、試料採取後、細胞の濃度、グルコース消耗量及び乳酸生産量を測定して比較した。
【0035】
その結果、実際、乳酸生産でのpHの影響が多くの実験を通して分かった。各pHに対する対する細胞生長は、pH6.0 の場合に最も高く、pH4.8 と5.5 の場合に類似の結果を得た。pH5.0 の時に多少低い細胞生長を示した。グルコース消耗量もまたpH6.0 の場合は全部消耗されたが、pH5.5 の時には約8g/L程度が消費されなかった。pH4.8 と5.0 の時は、30〜40g/L 程度のグルコースが消費されなかった。乳酸生産はpH6.0 の場合に約82g/L 生産された。pH5.5 の場合に72g/L 程度生産された。pH4.8 と5.0 の場合は50〜60g/L 程度の類似の生産を示した( 図 6、図 7及び図 8) 。
【0036】
< 実施例 4> 発酵による酵素分解
SSF法では、発酵時に酵素を一緒に添加するため、本実験では、発酵条件による酵素不活性化(enzyme deactivation) がどの程度であるか調べた。
【0037】
具体的に、温度を変えた二つの恒温槽(37 ℃、42℃) に二種類の培地(MRS、MRS 培地に比べて窒素源の濃度を5g/Lに低めた培地) を利用して、酵素が分解される程度と細胞濃度を測定した。細胞濃度はOD値(600nm) を測定して分析した。酵素活性は、DNS(dinitrosalicylic acid)方法を使用した。
一般的に、糖は非還元糖と還元糖に別れ、DNS 方法は還元糖の分析方法であり、還元糖であるぶどう糖がDNS で発色反応を起こすことを吸光度測定機で分析した。(Ghose, T.K. Pure Appl. Chem. 1987 年、第59巻、P.57−268、Wood, T.M. and K.M. Bhat. 、Academic Press Inc., 1988 年、Mandels, M. and R.E. Andreotti., Process Biochem、1978年、第12巻、P.6−13)。
【0038】
MRS 培地は、酵母抽出物とペプトンが添加され窒素源の比率が高い。産業的に乳酸を生産するためには窒素源の量を減らす必要がある。そこで窒素源の濃度を5g/Lに下げた産業培地とMRS 培地を使用して、乳酸生産比較実験を実施した。また、少ない量の窒素源を添加することによって、微生物が酵素を窒素源に転換して使用するかどうかついて調査した。
【0039】
その結果、全般的にMRS 培地に比べて窒素源が低い培地がMRS 培地よりも、各々の温度で高い細胞濃度を示した。上記二種類の培地は両方が42℃でよりも37℃で高い細胞濃度を示した。
【0040】
酵素分解程度は、FPase 活性測定に基づいて評価する。FPase 活性測定は、フィルターペーパーが加水分解される程度を示して酵素の活性を測定するフィルターペーパー(filter paper)活性測定方法で行なう。FPase 活性は温度42℃で減少するように見えるが(図11)、酵素分解はL.ラムノーサスの生長によっては大きく影響を受けないことを示している。また、微生物が酵素を窒素源に使用する比率が少ないことを間接的に確認した。むしろ、セルロース及びアッシュ(ash) によるセルロースの不活性化が大きいことを示している( 図 10 及び図 11)。
【0041】
< 実施例 5> 酵素( β−グルコシダーゼ、セルラーゼ) を利用したスラッジの糖化
本発明者達は、以前の実験を通じて明らかにした酵素の最適条件(pH4.8、温度50℃) をパターンとして使用し、SSF(simultaneous saccharification and fermentation) によってL.ラムノーサスの生存まで考慮した酵素の最適条件を調べ、またこのような酵素による初期加水分解速度(initial hydrolysis rate) と酵素の活性がどの程度まで維持されるのか調べるための半減期(half−life) を測定した。
【0042】
具体的に、ナトリウムアセテート緩衝液(Sodium acetate buffer)17ml(pH 4.8) に3.28g (64%ウェットスラッジ)のスラッジを入れ、最終5 %(w/v)含量になるようにして37、42、45、50℃の恒温槽に10ユニットのセルラーゼ(0.061g)と5 ユニット(0.21ml)のβ−グルコシダーゼを入れ、反応させた後、生成されたグルコースの濃度を分析した。スラッジがアルカリ性を帯びているため、緩衝液のpHは4.8 であるが、混合後の実験時にはpH5.6 まで上昇した。これを再びpH4.8 に調整後、既存実験と比較した。スラッジ1 、3 、5 、7%に若干の酢酸を添加してpH4.8 に調整した後、10ユニットのセルラーゼ(0.061g)と5 ユニット(0.21ml)のβ−グルコシダーゼを入れ、基質の量による初期加水分解速度を測定した。
【0043】
スラッジを添加して培養し生成されたグルコース量を測定後、下記の数式1によりスラッジ内セルロース当たりのブドウ糖転換率を計算した。
本発明で使用したスラッジ(64%ウェットスラッジ)に含まれているセルロースの量は、乾燥スラッジの重量の35%である。
スラッジ内セルロース当たりブドウ糖転換率(%)=
(グルコース生産量/添加したスラッジ内セルロース量)×100 …(1)
5 ℃の温度差で酵素反応を行なって培養終了後最終時間のスラッジ内セルロース当たりブドウ糖転換率を計算した結果、37℃では44% のセルロース当たりブドウ糖転換率を示し、42℃では45% のセルロース当たりブドウ糖転換率を示した。初期にはある程度の速度差が見られたが、反応時間を長くすればこの差は微微たるものとなった( 図 12)。
【0044】
また、培養終了後最終時間のpH5.6 でのセルロース当たりブドウ糖転換率は、45% である反面、pH4.8 ではセルロース当たりブドウ糖転換率が67% 程度と高かった。45℃と50℃でのセルロース当たりブドウ糖転換率差は、大きくなく、42℃で行なった実験とも大差が見られなかった。温度の影響よりもむしろpHの影響をさらに多く受けるようである。従って、同時糖化は、40〜42℃で行なうことがもう少し有利な方法であるように思われる( 図 13 、図 14 及び図 15)。
【0045】
以下の表1 のように、基質であるスラッジ量が多いほど初期生成速度は増加する。しかし、一定量以上の基質が添加された場合には、スラッジと酵素間の円滑なコンプレックス(complex) 形成が難しい。そのため反応初期にグルコース生成が起きず初期加水分解速度測定に無理が伴う。一連の実験を通じて表2 の結果を得ることができた( 図16及び図17) 。SSF を行なうための適切な条件は、pH5 〜5.2 、温度40〜42℃である。上記実験は、二段階に分けて得た結果であるので実際SSF 実験結果とは若干の誤差が見られる。
【0046】
【表1】
Figure 2004089177
【0047】
【表2】
Figure 2004089177
【0048】
< 実施例 6> ラクトバシラスラムノーサスを利用した発酵培養液の成分分析
本発明者達は、L.ラムノーサスを利用した発酵工程で生産される有用有機酸の正確な成分分析をした。
【0049】
具体的に、有機酸生産のための菌株は、L.ラムノーサスを利用した。培養期間は、50時間とした。培養条件は、温度37℃、100rpmで、10N NaOHを使用してpH調節しpH6 とした。有機酸分析は、HPLCを利用した。使用したカラムは、HPX−87H(Biorad Co.) 、移動相(mobile phase)は、0.08N HSO4 、流速(flow rate) は、0.5ml/min である。UV検出器(detector)はウォーターズ(Waters)486 モデルを使用し、波長は、210nm である。
【0050】
発酵工程を通じて生成された培養液(broth) の成分分析をした結果、HPLCカラムを通過した有機酸は、クエン酸(citric acid) 、コハク酸(succinic acid) 、乳酸、蟻酸(formic acid) 、酢酸(acetic acid) 、プロピオン酸(propionic acid)の順に各々10、14、15、16、21.5min で検出された。このような結果は、フラスコを使った実験でも類似だった。色々な有用有機酸が生産されたが主要生産物は、乳酸だった( 図 18)。二実験ともグルコース対比97% 以上の乳酸が生産された。
【0051】
< 実施例 7> 製紙スラッジからの乳酸生産
<7−1> SSF 及びSFによる乳酸生産
乳酸生産のためには乳酸の基質であるグルコースが必要である。それで本発明者達は、製紙スラッジ内のセルロースを加水分解して手頃な価格でグルコースを大量生産した。セルロースを加水分解してグルコースを生産するために、セルラーゼ及びβ−グルコシダーゼを利用した製紙スラッジの加水分解程度が、製紙スラッジ濃度によって決定される。加水分解可能な製紙スラッジの濃度が15% の場合、グルコースは37g/L まで生産された。故に、回分式(batch) 培養時、製紙スラッジ内セルロースを加水分解して得られるグルコースの濃度はスラッジ内に35% のセルロースがあることをふまえて、グルコースが乳酸に90% 転換されると、乳酸33g/L が生産される。SF工程を流加培養(fed−batch) で実施した場合、酵素反応液内グルコース含量が少ないために酵素反応液を再び蒸留する工程が必要であり、これは、装置を追加しなければならない経済的負担を招来する。回分式(batch) 培養は、一度に生産を実施するため、スラッジ濃度が高ければ乳酸生産が高い。しかし、製紙スラッジ濃度が高いために撹拌が難しく、低い濃度の乳酸しか生産できない。流加培養には、発酵途中に継続して基質を添加するので、一つの発酵器で最適の生産性と生産濃度を得られるという利点がある。連続式培養では、製紙スラッジの濃度を高くすることができないため乳酸生産濃度が低く、製紙スラッジが固体であるため運転上の難しさが多い。
【0052】
結論として、SSF  工程は、SF工程に比べて工程時間を短縮し、酵素反応での産物阻害(product inhibition)を抑制する。また、高濃度培養が容易で、工程を単純化でき、流加培養時のスラッジ添加による物質移動の問題も大きくない。また、製紙スラッジ内不溶性部分であるアッシュ部分を、乳酸生産後に微生物とともに除去することが有利である。
【0053】
乳酸生産のためにL.ラムノーサスを培養するための培地組成を下記に示す。廃紙スラッジ、酵母抽出物(Difco Lab.)、(NHSO(Sigma Chemical Co.) 、KHPO(Shinyo Pure Chemicals Co.) 、MgSO4 ・7HO(Shinyo Pure Chemicals Co.) 、KHPO(Shinyo Pure Chemicals Co.) 。種菌培養は、シェーキング培養器で20時間培養した。SSF のための実験は、100ml フラスコで運転体積(operation volume)20〜30mlで実施した。培養条件は、種菌培養の場合37℃、150rpmで培養した。本培養では酵素作用を考慮して42℃、150rpmで培養した。分析方法は、試料を採取してグルコース濃度、乳酸濃度を分析した。グルコース濃度と乳酸濃度は、グルコース分析機(YSI 2700 SELECT、Yellow Springs Instrument Co.)で測定した。
【0054】
乳酸生産のためにSSF またはSF方法で行ない、グルコース消費及び乳酸生産を比較した。SSF は40℃、pH6 で実施をし、pH調節はしなかった。またSF工程は、酵素反応は50℃で実施し、酵素反応終了5 時間後に発酵工程を実施した。対照群は、グルコースを基質に利用した。
【0055】
その結果、グルコース消費と乳酸生産が同じように現れた。SF工程の利点は、酵素反応と発酵を分離して実施することによって、各工程をそれぞれの最適条件で実施できることにある。しかし、実験の結果、SSF 工程と比較して乳酸生産と生産収率が大きな差が無いことが分かった( 図19) 。それで、装置的利点を持っているSSF 工程を選択して最適化実験を行なった。
【0056】
<7−2> 製紙スラッジ濃度による乳酸生産
SSF工程のためには、製紙スラッジを加水分解した後、生成されたグルコースをすぐに乳酸に転換しなければならない。SSF 工程での製紙スラッジの濃度は、物質移動のために適正濃度で実施しなければならない。インペラーと電力(power) 問題等の問題点による撹拌の困難さを回避するため、撹拌と物質移動が容易な範囲内で加水分解を実施しなければならない。したがって、スラッジ濃度の適正値を探す実験が必要である。そのためにスラッジ5 〜10% でSSF 工程を実施してその適正値を求める実験をフラスコ内で実施した。
【0057】
その結果を図20及び図21に示した。酵素添加量は、図2 0では天然セルラーゼ10U/mlとβ−グルコシダーゼ2U/ml にした。図21では天然セルラーゼ5U/ml 、β−グルコシダーゼ2U/ml にした。酵素濃度による乳酸生産は、大きな差がなかった。スラッジ5 〜10% により加水分解され生成されるグルコースの濃度及びL.ラムノーサスによってグルコースが消耗されることを示している。製紙スラッジの濃度が10% の場合に加水分解速度が減少した。これは、製紙スラッジ濃度が増加するにしたがって粘度が増加して物質移動に影響を与え、加水分解が容易ではなかったことを示している。乳酸生産は、濃度が増加するにしたがって一定に増加した。つまり、セルロースの加水分解のためには製紙スラッジが低い濃度でなければならないが、発酵条件では製紙スラッジ10% 濃度でもSSF 方法で乳酸を生産することが可能である。しかし、これは、フラスコで実験を実施したものであり、発酵器を利用したSSF 工程時には製紙スラッジ濃度を効率的に調節する必要がある。
【0058】
<7−3> 製紙スラッジの加水分解
製紙スラッジの加水分解のためには、酵素が必要である。そして、製紙スラッジの加水分解において適正酵素の添加が必要であり、また最適pH、最適温度がある。SSF を、適正pHのpH 5.5と適正温度の42℃、スラッジ濃度は5%で実施した。SSF では、酵素反応よりは微生物生長がさらに重要な因子に見える。その理由は、つまり、工程初期にはグルコースが生成される速度より(酵素反応)、グルコースが消費され乳酸に転換される速度(微生物生長)が遅いためである。反応初期には酵素反応が速いためにグルコースが増加して、10時間以後には微生物が指数期(exponential phase) から静止期(stationary phase)に移る段階にあるためにグルコース消耗速度が増加してグルコースが生産される速度より速くなる。一定スラッジ濃度でセルラーゼとβ−グルコシダーゼを多様な量で添加してSSF を実施した。
【0059】
β−グルコシダーゼに変化を与え実験した結果は、図22に示した。セルラーゼを変化した結果は、図23に示した。酵素反応は、酵素量が増加するにしたがってグルコース濃度が増加するが、その増加量に比べて乳酸生産は、差がほとんど無い。これは、少ない量の酵素でもセルロースを充分に加水分解でき、乳酸に転換できることを示している。したがって以後の実験は、天然セルラーゼ5U/ml とβ−グルコシダーゼ2U/ml でSSF 工程を行なった。また、微生物生長が酵素反応に比べて遅く始まるため、これによりSSF に影響与える因子は、発酵工程であると見ることができ、発酵工程を先行させることによってより高い収率を得ることができる。
【0060】
また、酵素反応工程と発酵工程を組み合わせて工程を実施する場合に、温度とpHに対する考慮が必要である。それで反応温度42℃ないし46℃でグルコース及び乳酸生産量を比較してみると、グルコース生産量及び乳酸生産量がほぼ同じで、これは、製紙スラッジを利用した乳酸生産工程での最適温度は、42℃ないし46℃であることが分かる( 図24) 。
【0061】
<7−4> 流加培養方法による乳酸生産 1
効率的な乳酸生産のためには流加培養(fed−batch) または連続式発酵(continuous fermentation) が必要である。乳酸生産において多くの量の製紙スラッジ濃度に比べ、生産される乳酸は低い濃度であり、これを解決するために発酵途中にスラッジを添加する流加培養方法を利用できる。
【0062】
流加培養方法は、初期の物質移動を考慮できる。すなわち、スラッジによって培養液の混合が困難となる現象を、初期に添加するスラッジを少量にすることによって克服できる。初期の低濃度のスラッジにより、酵素によってセルロースが加水分解されつつ、培養液が円滑に撹拌できる。そして、低い濃度のスラッジを途中で添加する場合にも、その量を撹拌に支障を及ぼさない範囲にして、SSF を実施できる。微生物が静止期に到達した時、基質である製紙スラッジを添加することによって乳酸生産を極大化した。
【0063】
その結果を図25に示した。対照群は、培地にグルコース添加して測定した。対照群の場合はグルコース消耗と乳酸生産が低かった。これは、フラスコでの実験のためpH調節が難しく、pH調節がされず、発酵培養液がpH3.5 まで下がり細胞生長に阻害を与えたためである。製紙スラッジを添加した場合には、製紙スラッジ内に含まれているアッシュ中にバッファリング(buffering) 効果を示す色々なイオン物質が存在するためにpHを維持させることができ、最終pHは4.5 であった。つまり、製紙スラッジのバッファリング効果により、発酵器を利用した発酵時のpH調節が容易である。
【0064】
<7−5> 流加培養方法による乳酸生産 2
本発明者達は、流加培養においてスラッジを添加する濃度を運転体積を基準に7%スラッジで乳酸生産を行なった。スラッジの初期濃度を8%で作動して、培養途中に酵素を添加して製紙スラッジ内のセルロース加水分解をより速くできるようにした。
【0065】
その結果を図26に示した。初期には酵素反応が速いためにグルコースが生成されるのを見ることができた。反応12時間以後には、グルコース生成速度は落ち、その反対にグルコースが消費される速度が速くなる。すなわち、微生物が指数期から静止期に変化しながら多くの量のグルコースが乳酸に変化されたことが分かった。この時期にはむしろ、グルコースが不足するために乳酸生産速度が落ちるのが分かる( 図26のA)。反応50時間以後には、微生物が静止期を維持した後、死滅期(death phase) に近づく時期であることが分かった。この時期には乳酸生産は、変らずに継続し、また、グルコースが全部枯渇しないで5g/L前後で残っていた。その理由は、この時期には微生物の活性が高くないためグルコースを乳酸に転換できないか、すでに発酵培養液に乳酸濃度が高いための乳酸による阻害影響のためであると推測できる。上記結果から、微生物の指数期と静止期に充分な量の基質を添加した場合には、速い速度で乳酸が生産された。
【0066】
<7−6> 発酵器を使用した乳酸生産
上記の<7−1> 〜<7−5> の実験では小規模(フラスコ)でSSF 工程を実行して発酵条件及び反応条件を求めた。微生物の生長時間を考慮してスラッジを添加した。L.ラムノーサス培養において20g/L グルコースの場合、8 時間後に静止期に到達する。ゆえに、本実験ではスラッジのフィーディング(feeding) を8 時間後から始めた。初期作動体積は、1Lから実施し、流加培養後の最終体積は、1.9Lだった。pHは、5N NHOHを利用して5.0 を維持した。
上記培養後に生産された乳酸の量を測定して、下記の数式2によりセルロース当たり乳酸の生産率を計算した。
Figure 2004089177
【0067】
流加培養の結果を、図27に示した。乳酸生産は、62g/L とフラスコに比べて低かった。これは、スラッジの添加による体積増加によりそれ以上作動できなかったためである。しかし、総スラッジの添加量は、総体積の22% で、本実験で測定したスラッジ内に含まれたセルロースは35% で、この場合77g/L セルロースが添加されたことが分かる。この結果は、最終培養終了後のセルロース当たり乳酸生産率が80% であることを示す。スラッジ内でセルロースをグルコースに90% 転換した場合に、加水分解されたグルコースが乳酸に約90% 転換したことを示している。また、生産性は、培養32時間を基準にして1.64g/L ・h で、フラスコで培養した結果の0.98g/L ・h より高い結果を示した。これは、スラッジ添加時間を先行させることによって、静止期に到達した微生物によるグルコースから乳酸への転換を容易になったものと思われる。また、初期運転体積を下げて実験を行なえば、より高い乳酸生産性が得られるだろう。
【0068】
先の実験では酵素反応と発酵の最適条件を各々求めた。SSF 方法遂行時には、大量生産に符合するpH及び温度最適化が必要である。そこで、SSF での乳酸生産のためにpHによる乳酸生産結果を測定した。既存実験では、スラッジの添加量を運転体積に対しスラッジを7%添加して実験した。この結果、運転初期には不溶性部分が多くなく物質移動に大きな影響を及ぼさなかったが、運転末期には不溶性部分が多くなり物質移動に影響を及ぼしスラッジを添加した直後に酵素がスラッジ内セルロースを加水分解するのが容易ではなかった。この解決のために運転体積に対してスラッジを5%に減らして添加した。
【0069】
<7−7> pH調節による乳酸生産
既存実験でスラッジは、pHバッファーリング効果があったために今回の実験は、pHを調節しない条件と最適な発酵条件pH6 に近いpH5.8 で発酵を比較した。初期運転体積は0.65L で、最終運転体積は1.5Lとした。
【0070】
その結果、pHを調節しない場合(図28のA)には、培養約67時間後の乳酸生産が81.2g/L であった。pHを5.8 に調節した場合(図28のB)には、培養約87時間後に68.8g/L まで生産した( 図28) 。pHを調節しない場合、培養24時間から40時間までは、pHの下がりがみられ、この時期には発酵条件に悪影響を及ぼし、乳酸生産が減らされ、またグルコース消費が減らされたことが分かる。これは、pH5 以上の条件で発酵を実施してこそ乳酸生産及びグルコース加水分解が容易であることがわかる。pHを5.8 に調節した場合、発酵条件には特に異常はなく、セルロース加水分解がpHを調節しない場合ほど効果的には起こらず、結果的に乳酸生産が少なかったことが分かる。ゆえに、pH5.0 〜5.5 間でSSF 工程を実施しなければならないことが分かる。pHを調節しない場合、スラッジ内セルロース比率が35% であることを考慮すると、総105g/Lセルロースが添加されたことが分かる。これによるセルロース当り乳酸転換率は、77.5% であり、セルロースがグルコースに転換される比率が90% の場合、グルコース当り乳酸転換率は、約86% であることが分かる。培養50時間を基準とした乳酸生産性は、1.48g/L ・h だった。最終的に添加された酵素量は、天然セルロース17.1U/ml、β−グルコシダーゼは3.8U/ml だった。
【0071】
SSF 流加培養時に添加するスラッジは65% の水を含み、残りが固形分で存在するために連続的に添加することが難しく、機械的装置を利用して連続的にスラッジを添加する場合には、より効率的に工程を遂行できる。
【0072】
また、SSF 工程で流加培養でpHを調節して工程を実施した結果、最適pHはpH 5.0だった( 図29) 。上記のような結果は乳酸生産には多少不利であるが、酵素反応工程に有利でSSF 工程には有利な条件であることが分かる。
【0073】
【発明の効果】
上記で詳しく見たように、本発明によれば、手頃な製紙スラッジを利用して乳酸の基質であるグルコースを生産することによって経済的に乳酸を生産でき、かつ大量生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ラクトバシラスラムノーサスを37℃で培養した時、時間に対する細胞生長を示したグラフである。
【図2】ラクトバシラスラムノーサスをグルコースを含んだ培地で培養した時、時間に対するグルコース消耗及び乳酸生産を示したグラフである。
【図3】ラクトバシラスラムノーサスをグルコースを含んだ培地で色々な温度(32 、37、42、46または50) ℃で培養した時、時間に対する細胞の生長を示したグラフである。
【図4】ラクトバシラスラムノーサスをグルコースを含んだ培地で色々な温度(32 、37、42、46または50) ℃で培養した時、時間に対するグルコース消耗を示したグラフである。
【図5】ラクトバシラスラムノーサスをグルコースを含んだ培地で色々な温度(32 、37、42、46または50) ℃で培養した時、時間に対する乳酸生産を示したグラフである。
【図6】ラクトバシラスラムノーサスをグルコースを含んだ培地で色々なpH(4.8、5.0 、5.5 または6.0)で培養した時、時間に対する細胞の生長を示したグラフである。
【図7】ラクトバシラスラムノーサスをグルコースを含んだ培地で色々なpH(4.8、5.0 、5.5 または6.0)で培養した時、時間に対するグルコース消耗を示したグラフである。
【図8】ラクトバシラスラムノーサスをグルコースを含んだ培地で色々なpH(4.8、5.0 、5.5 または6.0)で培養した時、時間に対する乳酸生産を示したグラフである。
【図9】ラクトバシラスラムノーサスをMRS 培地またはMRS 培地に比べ窒素源が低い培地で37℃または42℃で培養した時、時間に対する細胞の生長を示したグラフである。
【図10】ラクトバシラスラムノーサスをMRS 培地またはMRS 培地に比べ窒素源が低い培地で37℃または42℃で培養した時、時間に対するβ−グルコシダーゼの活性を測定したグラフである。
【図11】ラクトバシラスラムノーサスをMRS 培地またはMRS 培地に比べ窒素源が低い培地で37℃または42℃で培養した時、時間に対するFPase 活性を測定したグラフである。
【図12】製紙スラッジにセルラーゼ及びβ−グルコシダーゼを添加して37℃または42℃で酵素反応を行った時のグルコースの濃度を測定したグラフである。
【図13】製紙スラッジにセルラーゼ及びβ−グルコシダーゼを添加してpH4.8 またはpH5.6 で酵素反応を行った時のグルコースの濃度を測定したグラフである。
【図14】製紙スラッジにセルラーゼ及びβ−グルコシダーゼを添加して45℃でpH4.8 またはpH5.6 の条件で酵素反応を行った時のグルコースの濃度を測定したグラフである。
【図15】製紙スラッジにセルラーゼ及びβ−グルコシダーゼを添加して50℃でpH4.9 、pH5.4 またはpH5.9 の条件で酵素反応を行った時のグルコースの濃度を測定したグラフである。
【図16】スラッジ含量によるグルコース生産速度を示したグラフである( 〇、●: 2 回実験) 。
【図17】色々なスラッジ含量(1、3 、5 または7)% によるグルコース生産速度を示したグラフである。
【図18】ラクトバシラスラムノーサス発酵培養物の有機酸成分を分析したグラフである。
【図19】廃紙スラッジを利用して40℃、pH6 で遂行した同時糖化発酵( 「SSF 」) 及び50℃で酵素反応遂行、5 時間後に発酵工程を遂行した順次発酵( 「SF」) をグルコースを基質に使用した対照群と比較して時間に対するグルコース濃度(A) 及び乳酸濃度(B) を比較したグラフである。
【図20】セルラーゼ10U/ml及びβ−グルコシダーゼ2U/ml を添加して色々なスラッジ含量(5、6.7 、8.3 または10)%でSSF を行った時、時間に対するグルコース濃度(A) 及び乳酸濃度(B) を測定したグラフである。
【図21】セルラーゼ5U/ml 及びβ−グルコシダーゼ2U/ml を添加して色々なスラッジ含量(5、6.7 、8.3 または10)%でSSF を行った時、時間に対するグルコース濃度(A) 及び乳酸濃度(B) を測定したグラフである。
【図22】セルラーゼ及びβ−グルコシダーゼを各々異なる濃度( セルラーゼ及びβ−グルコシダーゼを各々5U/ml 及び2U/ml 、5U/ml 及び4U/ml 、5U/ml 及び6U/ml 、5U/ml 及び8U/ml)で添加してSSF を行った時、時間に対するグルコース濃度(A) 及び乳酸濃度(B) を測定したグラフである。
【図23】セルラーゼ及びβ−グルコシダーゼを各々異なる濃度( セルラーゼ及びβ−グルコシダーゼを各々15U/ml及び2U/ml 、10U/ml及び2U/ml 、5U/ml 及び2U/ml 、2.5U/ml 及び2U/ml)で添加してSSF を行った時、時間に対するグルコース濃度(A) 及び乳酸濃度(B) を測定したグラフである。
【図24】40℃、42℃、44℃または46℃でSSF を行った時、時間に対するグルコース濃度(A) 及び乳酸濃度(B) を測定したグラフである。
【図25】SSF 遂行途中にスラッジを添加した時( ↓) の、時間に対するグルコース濃度(A) 及び乳酸濃度(B) を測定したグラフである。
【図26】SSF 遂行途中にスラッジを添加したり( ↓) 、セルラーゼ及びβ−グルコシダーゼを添加( ↑) した時の、時間に対するグルコース濃度(A) 及び乳酸濃度(B) を測定したグラフである。
【図27】SSF 遂行途中に発酵器にスラッジを添加したり( ↓) 、セルラーゼ(5U/ml) 及びβ−グルコシダーゼ(1U/ml) を添加( ↑) した時の、時間に対するグルコース濃度及び乳酸濃度を測定したグラフである。
【図28】SSF 遂行途中に発酵器にスラッジを添加したり( ↓) 、セルラーゼ(5U/ml) 及びβ−グルコシダーゼ(1U/ml) を添加( ↑) して、pHを調節しない時(A) と、pHを5.8 に調節した時(B) の、時間に対するグルコース濃度及び乳酸濃度を測定したグラフである。
【図29】pH5.8(A)、pH5.4(B)またはpH5.0(C)でSSF 工程を遂行し、上記SSF 遂行途中に発酵器にスラッジを添加したり( ↓) 、セルラーゼ(5U/ml) 及びβ−グルコシダーゼ(1U/ml) を添加( ↑) した時の、時間に対するグルコース濃度及び乳酸濃度を測定したグラフである。

Claims (7)

  1. 製紙スラッジを加水分解する酵素反応工程と、前記酵素反応工程で生成されたグルコースを乳酸に変換させる発酵工程とを含む乳酸生産方法。
  2. 前記酵素反応工程は、セルラーゼ(cellulase) 及びβ−グルコシダーゼ(glucosidase) を添加して製紙スラッジのセルロースを加水分解することを特徴とする請求項1に記載の乳酸生産方法。
  3. 前記発酵工程は、ラクトバシラス属またはリゾプス属微生物添加して培養することを特徴とする請求項1に記載の乳酸生産方法。
  4. 前記酵素反応工程及び発酵工程を同時に行なうことを特徴とする請求項1に記載の乳酸生産方法。
  5. 前記方法は、流加培養(fed−batch) で行なうことを特徴とする請求項4に記載の乳酸生産方法。
  6. 前記流加培養は42℃ないし46℃で行なうことを特徴とする請求項5に記載の方法。
  7. 前記流加培養はpH5.0 ないしpH5.5 で行なうことを特徴とする請求項5に記載の方法。
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