JP2004087042A - 潤滑剤塗布方法、潤滑剤層、磁気記録媒体及び磁気ディスク装置 - Google Patents
潤滑剤塗布方法、潤滑剤層、磁気記録媒体及び磁気ディスク装置 Download PDFInfo
- Publication number
- JP2004087042A JP2004087042A JP2002249184A JP2002249184A JP2004087042A JP 2004087042 A JP2004087042 A JP 2004087042A JP 2002249184 A JP2002249184 A JP 2002249184A JP 2002249184 A JP2002249184 A JP 2002249184A JP 2004087042 A JP2004087042 A JP 2004087042A
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- lubricant
- main chain
- medium
- component
- layer
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Withdrawn
Links
Images
Landscapes
- Lubricants (AREA)
- Magnetic Record Carriers (AREA)
- Manufacturing Of Magnetic Record Carriers (AREA)
Abstract
【課題】磁気記録媒体のためのものであって、潤滑剤分子の配向のために加熱処理を必要としない潤滑剤層の形成方法を提供すること。
【解決手段】主鎖成分と、該主鎖成分の少なくとも1端に結合したものであって、前記主鎖成分と化学的性質を異にする末端成分とを1つの分子内に有する潤滑剤を含む潤滑剤溶液に媒体を浸漬し、潤滑剤を前記末端成分を介して媒体の表面に会合によって結合させ、かつ前記主鎖成分を媒体の表面を向いて配向させるように、構成する。
【選択図】 図6
【解決手段】主鎖成分と、該主鎖成分の少なくとも1端に結合したものであって、前記主鎖成分と化学的性質を異にする末端成分とを1つの分子内に有する潤滑剤を含む潤滑剤溶液に媒体を浸漬し、潤滑剤を前記末端成分を介して媒体の表面に会合によって結合させ、かつ前記主鎖成分を媒体の表面を向いて配向させるように、構成する。
【選択図】 図6
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、潤滑剤の塗布方法に関し、さらに詳しく述べると、媒体、例えば磁気ディスクのような磁気記録媒体の表面に潤滑剤を塗布する方法に関する。本発明はまた、特に媒体用の、加熱処理をしなくても配向力が高く、かつ薄く濡れ広がった潤滑剤層に関する。さらに、本発明は、かかる潤滑剤層を備えた、低工数及び低コストで製造が可能な高信頼性の磁気記録媒体、そして低コスト及び高信頼性の磁気ディスク装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
コンピュータなどの情報処理装置において、磁気ディスク装置が外部記録装置として広く用いられている。磁気ディスク装置を使用すると、磁気記録媒体(磁気ディスク)上で磁気ヘッドを走査して、磁気記録媒体において情報の記録や読出を行うことができる。したがって、記録密度の向上のためには、動作時の磁気ヘッド(厳密にはヘッドの電磁変換素子)と磁気記録媒体(磁気記録媒体の磁性層)との隙間(浮上高さ)の低下が必須となる。この浮上高さは、記録密度の向上のために持続的に減少する傾向にあり、現在では十数nmにまで達している。
【0003】
従来の一般的な磁気記録媒体は、周知の通り、非磁性の基板と、その上に順次積層された、下地層、磁気記録層(磁性層ともいう)、保護膜、そして潤滑剤層とから構成されている。このような磁気記録媒体において、基板は、例えばアルミニウム基板からなり、その表面にNiP膜を有している。下地層は、通常、非磁性の金属であるCr系合金からなる。Cr系合金は、例えば、CrMo合金である。磁気記録層は、通常、強磁性の金属であるCoCr系合金からなる。CoCr系合金は、例えば、CoCrTa、CoCrPt、CoCrPtTaNbなどである。このような磁気記録層の上には、磁気記録層を磁気ヘッドの衝撃による破損などから保護するため、保護膜が設けられている。保護膜は、各種のカーボン材料、例えばアモルファスカーボンなどから形成されており、したがって、通常、カーボン保護膜と呼ばれている。カーボン保護膜は、半導体装置の製造において慣用の成膜技術である、スパッタ法、化学的気相成長法(以下、「CVD法」と呼ぶ)などを使用して形成されている。また、このようにして形成されたカーボン保護膜に対して高められた耐久性を付与するため、そのカーボン保護膜に水素や窒素を添加することも行われている。さらに、カーボン保護膜の上には、磁気記録媒体におけるヘッドの円滑な浮上を図り、あわせて浮上高さを低下させる目的で、固体もしくは液体の潤滑剤、例えばフルオロカーボン系の液体潤滑剤が塗布されている。潤滑剤層の存在によって、磁気記録媒体とヘッドの接触時に摩擦や磨耗を低減し、ヘッドクラッシュ等の障害発生を防止できるからである。液体潤滑剤の塗布には、浸漬法、スピンコート法、スプレー法などが一般的に使用されている。
【0004】
例えば、特開平7−296372号公報には、非磁性基板上に磁性層、炭素質保護膜、潤滑層を順次積層してなる磁気記録媒体において、炭素質保護膜表面がアンモニアガス含有雰囲気でプラズマ処理を施されたのちに、一方の末端にカルボキシル基を有する潤滑剤分子を含有する潤滑剤(例えば、ステアリン酸、ベヘン酸など)を用いて形成された潤滑層を備えたことを特徴とする磁気記録媒体が開示されている。この磁気記録媒体において、炭素質保護膜は、カーボン保護膜、水素化カーボン保護膜などであり、例えば、スパッタ法、プラズマCVD法、イオンプレーティング法などによって形成される。また、かかる炭素質保護膜の膜厚は、通常、50〜500Åである。潤滑層は、潤滑剤をアルコール、ケトン等の有機溶媒に溶解し、浸漬法、スピンコート法、スプレー法などで炭素質保護膜に塗布することによって形成される。図1は、アンモニアガス含有雰囲気下でプラズマ処理を施された炭素質保護膜64の表面に、潤滑剤として使用したステアリン酸の分子65が静電作用によって固着した状態を模式的に示したものである。ステアリン酸分子65の疎水性部分が保護膜(基板)64に対して上を向いて配向しているので、潤滑層全体の配向性が向上することとなる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
磁気ヘッドの浮上高さの低下は、磁気記録媒体との接触の機会を増やすので、ヘッドクラッシュが発生しやすくなる。ヘッドクラッシュの発生を防止するためには、上記したようにカーボン保護膜の上に潤滑剤層を塗布するのが有効であるけれども、潤滑剤層がただ存在しているだけでは不十分で、潤滑剤が保護膜表面に理想的な状態で存在する必要がある。すなわち、潤滑剤は、保護膜表面で凝集状態にならず、薄く濡れ広がっている必要がある。換言すると、先に図1を参照して説明したように、潤滑剤分子の末端基が基板側に向き、主鎖部分が基板に対して上を向いて配向している必要がある。
【0006】
潤滑剤分子の上記のような配向状態を得るためには、通常、保護膜上に潤滑剤の溶液を塗布した後、磁気記録媒体を例えば熱風炉に入れて、約100〜120℃の温度で加熱処理することが必要である。加熱処理によって潤滑剤分子に熱エネルギーを付与し、潤滑剤の分子運動の結果として配向を促すことができるからである。また、熱風炉による加熱に代えて、高周波コイルによる電磁加熱なども行われている。しかし、いずれの加熱処理も煩雑であり、配向の完了までに長時間を必要とし、量産性に欠け、製造コストも増加する。
【0007】
本発明の目的は、上記した従来の技術の問題点を解消して、潤滑剤分子の配向のために加熱処理を必要としない潤滑剤層の形成方法、換言すると、潤滑剤の塗布方法を提供することにある。
【0008】
また、本発明の目的は、配向力が高く、かつ薄く濡れ広がった潤滑剤層の形成方法を提供することにある。
【0009】
さらに、本発明の目的は、配向力が高く、かつ薄く濡れ広がった、媒体用の潤滑剤層を提供することにある。
【0010】
さらにまた、本発明の目的は、かかる潤滑剤層を備えた、低工数及び低コストで製造が可能な高信頼性の磁気記録媒体を提供することにある。
【0011】
さらにまた、本発明の目的は、低コスト及び高信頼性の磁気ディスク装置を提供することにある。
【0012】
本発明の上記した目的及びその他の目的は、以下の詳細な説明から容易に理解することができるであろう。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、潤滑剤層を形成する場合に、それに使用される潤滑剤分子の主鎖と末端の化学的性質が異なることを利用した場合、まったく予想できなかったことではあるが、潤滑剤を浸漬塗布するだけで、すなわち、分子配向のための加熱処理を浸漬塗布に続けて実施しなくても、潤滑剤分子を基板に対して配向させ得るということを見い出した。
【0014】
本発明は、その1つの面において、媒体の表面に潤滑剤を塗布する方法であって、
主鎖成分と、該主鎖成分の少なくとも1端に結合したものであって、前記主鎖成分と化学的性質を異にする末端成分とを1つの分子内に有する潤滑剤を含む潤滑剤溶液に前記媒体を浸漬し、前記潤滑剤溶液から引き上げた後の前記媒体において、前記潤滑剤を前記末端成分を介して前記媒体の表面に会合によって結合させ、かつ前記主鎖成分を前記媒体の表面を向いて配向させることを特徴とする潤滑剤の塗布方法にある。
【0015】
また、本発明は、そのもう1つの面において、媒体の表面に形成された潤滑剤層であって、
主鎖成分と、該主鎖成分の少なくとも1端に結合したものであって、前記主鎖成分と化学的性質を異にする末端成分とを1つの分子内に有する潤滑剤が前記末端成分を介して前記媒体の表面に会合によって結合しており、前記主鎖成分が前記媒体の表面を向いて配向していることを特徴とする潤滑剤層にある。
【0016】
さらに、本発明は、そのもう1つの面において、潤滑剤層を表面に有する磁気記録媒体であって、
主鎖成分と、該主鎖成分の少なくとも1端に結合したものであって、前記主鎖成分と化学的性質を異にする末端成分とを1つの分子内に有する潤滑剤が前記末端成分を介して前記磁気記録媒体の表面に会合によって結合しており、前記主鎖成分が前記磁気記録媒体の表面を向いて配向していることを特徴とする磁気記録媒体にある。
【0017】
さらにまた、本発明は、そのもう1つの面において、磁気記録媒体において情報の記録を行うための記録ヘッド及び情報の再生を行うための再生ヘッドを備えた磁気ディスク装置であって、
前記磁気記録媒体が、潤滑剤層を表面に有する磁気ディスクであって、主鎖成分と、該主鎖成分の少なくとも1端に結合したものであって、前記主鎖成分と化学的性質を異にする末端成分とを1つの分子内に有する潤滑剤が前記末端成分を介して前記磁気ディスクの表面に会合によって結合しており、前記主鎖成分が前記磁気ディスクの表面を向いて配向していることを特徴とする磁気ディスク装置にある。
【0018】
本発明による潤滑剤層の形成では、媒体を浸漬させるべき潤滑剤溶液中における潤滑剤分子の挙動が重要である。潤滑剤は、通常、その溶液中にランダムに配向した状態で存在している。この状態で潤滑剤の浸漬塗布を行った場合、基板上でも潤滑剤はランダムに配向可能である。しかし、末端成分(末端基)が主鎖成分と異なる化学的構造あるいは化学的性質を有する特定の潤滑剤を浸漬塗布に使用した場合には、もしもその潤滑剤溶液に、末端成分と親和性があり、かつ主鎖成分と親和性のない溶媒(貧溶媒)との界面が存在すれば、末端成分は貧溶媒の方向に配向可能である。よって、潤滑剤溶液と貧溶媒(本発明では、特に前処理溶液という)の界面付近に秩序構造を持たせ、被塗布体である媒体がその秩序構造を通過するように構成すると、媒体上でその方向に末端成分を配向させるとともに、その秩序構造を保持することができる。なぜなら、潤滑剤の末端成分と媒体表面の親和性が、潤滑剤の主鎖成分に比べて強いからである。
【0019】
潤滑剤の末端成分と媒体表面の親和性が強いとはいえ、ランダムな配向で塗布された後は、潤滑剤の自己組織化が進まず、秩序構造(配向)が実現されない。そのため、通常は、先に説明したように加熱処理によって潤滑剤分子に熱エネルギーを付与している。しかし、加熱処理は上述のように回避すべきものであるので、本発明では、上記の説明及び以下の詳細な説明から理解できるように、秩序状態の形成に溶媒に対する親和力を利用してこの問題点を解消するに至った。本発明に従うと、秩序構造を媒体表面で具現するとともに、安定に保持することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明による潤滑剤塗布方法、潤滑剤層、磁気記録媒体及び磁気ディスク装置は、それぞれ、本発明の範囲内でいろいろな形態で有利に実施できる。例えば、磁気記録媒体は、以下の説明では特に磁気ディスクを参照して説明するが、それ以外の磁気記録媒体、例えば磁気テープ、光磁気ディスクなどであってもよい。同様に、潤滑剤塗布方法や潤滑剤層は、磁気ディスクに対してばかりでなく、その他の磁気記録媒体や、磁気記録媒体とは異なる種類の媒体などにも、有利に適用することができる。
【0021】
本発明の磁気記録媒体は、好ましくはディスクの形態で提供される。磁気ディスクは、基本的に、潤滑剤層の構成及び形成における相違を除いて、常用の磁気ディスクと同様な構成を有することができる。よって、以下、図2の基本構成を参照して本発明の磁気ディスクを説明する。磁気ディスク10は、非磁性の基板1、下地層2、磁気記録層3、カーボン保護膜4、そして本発明による潤滑剤層5を少なくとも有している。しかし、磁気ディスク10では、本発明の範囲内において種々の変更や改良、例えば、磁気記録層3の多層化、中間層の追加などを行うことができる。実際、現用の磁気ディスクの層構成は、非常に複雑になっている。
【0022】
本発明の磁気ディスクにおいて、非磁性の基板は、この技術分野において常用のいろいろな材料から形成することができる。適当な非磁性の基板としては、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、例えば、NiPメッキ付きのアルミニウム(アルミニウム合金を含む)基板、ガラス又は強化ガラス基板、表面酸化膜(例えばシリコン酸化膜)を有するシリコン基板、SiC基板、カーボン基板、プラスチック基板、セラミック基板などを挙げることができる。特に、NiPメッキ付きのアルミニウム(アルミニウム合金を含む)基板を有利に使用することができる。
【0023】
非磁性の基板の上の下地層は、磁気ディスクにおいて一般的な非磁性の金属材料から形成することができる。下地層に好適な金属材料は、例えば、クロムを主成分とするものである。下地層は、単層であっても2層もしくはそれ以上の多層構造であってもよい。多層構造の下地層の場合、それぞれの層の組成は任意に変更することができる。かかる下地層は、特に、クロムのみを主成分とする金属材料あるいはクロム及びモリブデンを主成分とする金属材料から有利に構成することができる。例えば、磁気ディスクの磁気記録層に白金が含まれるような場合には、クロム及びモリブデンを主成分とする金属材料から下地層を構成するのが好ましい。すなわち、モリブデンの添加によって、格子面間隔を広げることができ、また、磁気記録層の組成、特に白金量によって広がる磁気記録層の格子面間隔に対して下地層の格子面間隔を近くしてやることにより、磁気記録層(CoCr系合金)のC軸の面内への優先配向を促すことができるからである。適当な下地層の材料の例として、Cr、CrW、CrV、CrTi、CrMoなどを挙げることができる。このような下地層は、例えばマグネトロンスパッタ法などのスパッタ法により、常用の成膜条件により形成することができる。特に、保磁力を高めるため、DC負バイアスの印加下にスパッタ法を実施するのが好ましい。適当な成膜条件として、例えば、約100〜300℃の成膜温度、約1〜10mTorrのArガス圧力、そして約100〜300VのDC負バイアスを挙げることができる。また、必要に応じて、スパッタ法に代えて、他の成膜法、例えば蒸着法、イオンビームスパッタ法等を使用してもよい。かかる下地層の膜厚は、種々のファクタに応じて広い範囲で変更することができる。下地層の膜厚は、この範囲に限定されるものではないけれども、S/N比を高めるため、一般的には5〜60nmの範囲である。下地層の膜厚が5nmを下回ると、磁気特性が十分に発現しないおそれがあり、また、反対に60nmを上回ると、ノイズが増大するおそれがある。
【0024】
本発明の磁気ディスクは、必要に応じて、その非磁性の基板とその上方の前記下地層との中間に、チタンを主成分とする金属材料からなる追加の下地層、好ましくはTi薄膜を有していてもよい。このような中間層は、両者の結合関係をより向上させる働きを有している。
【0025】
本発明の磁気ディスクにおいて、非磁性の下地層の上に形成されるべき磁気記録層は、下地層と同様に、磁気ディスクにおいて一般的な磁気記録層から形成することができる。磁気記録層は、単層であってもよく、2層もしくはそれ以上の多層構造であってもよい。多層構造の磁気記録層の場合、それぞれの磁気記録層の組成は同一もしくは異なっていてもよく、また、必要に応じて、磁気記録層の間に中間層を介在させて、磁気記録特性の向上などを図ってもよい。
【0026】
磁気記録層は、通常、コバルトを主成分として含有し、これにクロム及び白金を併用する。さらには、これらの成分に追加して、タングステンやカーボンを組み合わせて含有することができる。例えば、この磁気記録層の五元系合金は、好ましくは、次式により表される組成範囲:
Cobal.−Cr14−23 −Pt1−20−Wx −Cy
(上式中、bal.はバランス量を意味し、そしてx+yは1〜7at%である)にある。このCoCrPtWC五元系合金において、W及びCの添加量の比は、5:1〜2:1の範囲であることが好ましい。また、かかる五元系合金において、W及びCの添加量の比が4:1でありかつ合計量が1〜7at%であることが特に好ましい。
【0027】
本発明による磁気ディスクでは、磁気記録層をCoCrPt合金から構成し、これにW及びCの両方を添加し、さらに層構成や成膜プロセスを最適化することにより、ノイズの大幅な低減を図ることができ、したがって、高いS/N比が得られ、よって、高密度記録媒体を具現することができる。
【0028】
また、磁気記録層は、コバルトを主成分として含有し、これにクロム及び白金を併用する。さらには、これらの成分に追加して、タンタルやニオブをを組み合わせて含有することができる。例えば、この磁気記録層の五元系合金は、好ましくは、次式により表される組成範囲:
Cobal.−Cr13−21 −Pt1−20−Tax −Nby
(上式中、bal.はバランス量を意味し、そしてx+yは1〜7at%である)にある。このCoCrPtTaNb五元系合金において、Ta及びNbの添加量の比は、同等もしくはほぼ同等でありかつ合計量が1〜7at%であることが好ましい。一例を示すと、例えばCo74Cr17Pt5 Ta2 Nb2 が好適である。
【0029】
本発明の磁気ディスクにおいて、その磁気記録層は、単層構造及び2層構造にかかわりなく、30〜180Gμm のtBr(磁気記録層の膜厚tと残留磁化密度Brの積)を有していることが好ましい。特に、単層構造の磁気記録層は、50〜180Gμm のtBrを有していることが好ましく、また、2層構造の磁気記録層は、30〜160Gμm のtBrを有していることが好ましい。本発明の磁気記録層は、従来の磁気記録層に比較して低Brに構成したことにより、特にMRヘッドをはじめとした磁気抵抗効果型ヘッド用として最適である。
【0030】
非磁性基板上に下地層を介して設けられる磁気記録層は、上記したように、CoCrPtWCの五元系合金やCoCrPtTaNbの五元系合金などから形成される。かかる磁気記録層は、好ましくは、スパッタ法により、特定の成膜条件下で有利に形成することができる。特に、保磁力を高めるため、DC負バイアスの印加下にスパッタ法を実施するのが好ましい。スパッタ法としては、上記した下地層の成膜と同様、例えばマグネトロンスパッタ法などを使用することができる。適当な成膜条件として、例えば、約100〜350℃の成膜温度、約1〜10mTorrのArガス圧力、そして約80〜400VのDC負バイアスを挙げることができる。ここで、約350℃を上回る成膜温度は、本来非磁性であるべき基板において磁性を発現する可能性があるので、その使用を避けることが望ましい。また、必要に応じて、スパッタ法に代えて、他の成膜法、例えば蒸着法、イオンビームスパッタ法等を使用してもよい。磁気記録層の形成の好ましい1例を示すと、非磁性基板がNiPメッキ付きのアルミニウム基板である場合、前記磁気記録層を、スパッタ法で、DC負バイアスの印加下に、約220〜320℃の成膜温度で、上記の合金から有利に形成することができる。
【0031】
本発明の磁気ディスクは、その磁気記録層の上にそれを保護するカーボン保護膜を備える。カーボン保護膜としては、磁気ディスクの分野において一般的に使用されているカーボン保護膜を使用することができる。適当なカーボン保護膜として、例えば、カーボンの単独もしくはその化合物からなる層、例えばC層、WC層、SiC層、B4 C層、水素含有C層、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)層などを挙げることができる。このようなカーボン保護膜は、常法に従って、例えばスパッタ法、CVD法、蒸着法などによって形成することができる。カーボン保護膜の膜厚は、広い範囲にわたって変更することができるというものの、通常、約5〜15nmの範囲である。
【0032】
さらに、カーボン保護膜は、最近開発された技術であるFiltered Cathodic Arc 法(以下、「FCA法」と呼ぶ)を用いて、高硬度のカーボン保護膜として形成するのが好適である。また、この高硬度のカーボン保護膜中に窒素を含有させた場合、カーボン保護膜の液体潤滑剤に対する吸着性が著しく向上せしめられ、優れた耐久性を得、かつ維持できるので、さらに好適である。
【0033】
FCA法は、従来のスパッタ法、CVD法などと比較した場合、よりダイヤモンド成分の多い高硬度のカーボン膜を形成することができ、したがって、得られるカーボン膜は、5nmもしくはそれ以下の膜厚の時でも高い耐久性を示すことができる。
【0034】
本発明の磁気ディスクは、そのカーボン保護膜の上にさらに、本発明に従って形成された潤滑剤層を備える。潤滑剤層は、図3に模式的に示す分子モデルから理解されるように、主鎖成分5Aと、主鎖成分5Aの少なくとも1端(図示の例では、両端)に結合したものであって、主鎖成分5Aと化学的性質を異にする末端成分5Bとを1つの分子内に有する潤滑剤5からなる。
【0035】
潤滑剤層の形成に用いられる潤滑剤は、その主鎖成分と末端成分とで化学的性質あるいは化学的構造を異にする。好ましくは、1つの潤滑剤分子において、その主鎖成分が撥水性であり、かつ主鎖成分の1端もしくは両端の末端成分が親水性である。
【0036】
上述のような要件を満たすとともに本発明の実施に好適な潤滑剤は、フッ素化炭化水素化合物である。特に、フッ素化炭化水素化合物において、その主鎖成分が、次式により表されるパーフルオロポリエーテル基:
(CF2О)m(C2F4О)n
(式中、m及びnは、それぞれ、任意の整数である)からなり、かつその末端成分が水酸基もしくは次式により表される水酸基含有部分:
CH2ОH、
CH2ОCH2CHОHCH2ОH
などからなることが好ましい。なお、このようなフッ素化炭化水素化合物は、例えば、アウジモント社から「フォンブリン(FОMBLIN)」なる商品名で商業的に入手可能である。
【0037】
本発明の潤滑剤層を観察すると、図4及び図5に示すように、媒体、ここでは磁気ディスク10(最上層のカーボン保護膜4)上において潤滑剤5が安定に配向している。分子の一端のみに末端成分5Bを有する潤滑剤5を示す図4の場合には、潤滑剤5は、その末端成分5Bを介して媒体10の表面に会合によって結合しており、主鎖成分5Aが媒体10の表面を向いて配向している。一方、分子の両端に末端成分5Bを有する潤滑剤5を示す図5の場合には、潤滑剤5は、その末端成分5Bが媒体10の表面に会合によって結合しているとともに、主鎖成分5Aが、あたかも末端成分5Bどうしを橋架けたようにして、媒体10の表面を向いて配向している。いずれの配向状態も高レベルかつ安定である。
【0038】
潤滑剤分子の上述のような配向状態は、媒体に潤滑剤を塗布する際に本発明に従い特別な浸漬塗布を行うことによって実現することができる。すなわち、上述のような潤滑剤を含む潤滑剤溶液に媒体を浸漬し、引き続いてその潤滑剤溶液から媒体を引き上げる。驚くべきことに、本発明に従って潤滑剤の浸漬塗布を行った場合、加熱処理を施さなくても、潤滑剤をその末端成分を介して媒体の表面に会合によって結合させ、かつ上記したように、潤滑剤の主鎖成分を媒体の表面を向いて配向させることができる。また、引き上げた後の媒体からは溶媒が自然に揮発してしまうので、乾燥工程を設ける必要もない。なお、潤滑剤溶液に媒体を浸漬し、引き続いて引き上げる工程は、1つの浸漬処理槽において浸漬位置と引き上げ位置を変更したほうが作業性が向上し、処理スピードの増加も図ることができる。
【0039】
また、潤滑剤の浸漬塗布は、潤滑剤の末端成分と親和性がある貧溶媒を含む前処理溶液における媒体の浸漬と、潤滑剤の主鎖成分と親和性がある良溶媒に潤滑剤を溶解して得た潤滑剤溶液における媒体の浸漬とを組み合わせて実施することが好ましい。特に、潤滑剤の末端成分と親和性がある貧溶媒を含む前処理溶液と、潤滑剤の主鎖成分と親和性がある良溶媒に潤滑剤を溶解して得た潤滑剤溶液とを用意し、これらの2つの溶液に順次媒体を浸漬することによって、潤滑剤の浸漬塗布を実施することが好ましい。
【0040】
さらに、潤滑剤の浸漬塗布に当たっては、前処理溶液の調製に使用する貧溶媒と、潤滑剤溶液の調製に使用する良溶媒の選択が重要である。すなわち、これらの2種類の選択如何で、潤滑剤分子の高配向を達成できることもあれば、潤滑剤分子を配向させ得ないこともあるからである。
【0041】
まず、貧溶媒の比重は、良溶媒の比重よりも小さいことが必要である。これは、1つの浸漬処理槽で潤滑剤の浸漬塗布を行う場合に、良溶媒を使用した潤滑剤溶液での浸漬処理に先がけて、貧溶媒を使用した前処理溶液での浸漬処理を行うことが好ましいからである。貧溶媒の比重が小さいと、浸漬処理槽内で相分離状態ができ、媒体は、上層の前処理溶液を通過した後に、その下の潤滑剤溶液を通過可能となり、両溶液による連続した浸漬処理を実現できる。
【0042】
また、上記した層分離状態をさらに確実なものとするため、貧溶媒と良溶媒は実質的に相溶性を有していないことが必要である。すなわち、貧溶媒と良溶媒は、たとえ混じり合ったとしても、完全には混じり合わない程度の相溶性しか有していないことが好ましい。
【0043】
さらに、貧溶媒は、潤滑剤の末端成分と親和性があり、一方、良溶媒は、潤滑剤の主鎖成分と親和性があることが必要であり、この要件がみたされないと、潤滑剤分子の満足できる配向を達成できない。ここで、「親和性」とは、供試溶媒の次式で定義される数値が、15cal/cm3以下であるか否かでもって規定することができる。すなわち、もしもその数値が15cal/cm3以下であるならば、その供試溶媒は高い親和性を有していると定義することができる。
【0044】
【数1】
【0045】
上式において、δは、溶解パラメータを意味し、文献:The Hoy Tables of Solubility Parameters, UNION CARBIDEに記載の手順に従って求めることができる。また、式中のH、P及びNPは、それぞれ、水素結合成分、極性成分、そして非極性成分を意味する。
【0046】
以上の要件を満足できる貧溶媒は、好ましくは、水もしくはアルコール系溶媒である。適当なアルコール系溶媒としては、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、メタノール、エタノールなどを挙げることができる。
【0047】
また、良溶媒は、好ましくは、潤滑剤を0.1重量%以上の量で溶解可能な溶媒である。さらに好ましくは、良溶媒はフッ素系溶媒である。適当なフッ素系溶媒としては、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、「フロリナート」(商品名、住友スリーエム社製)、フルオロアルカン類(一般式:CnHmFx)、フルオロポリエーテル類〔一般式:(CF2О)m(C2F4О)n〕などを挙げることができる。これらの良溶媒に、潤滑剤はいろいろな量で溶解して使用することができる。潤滑剤の濃度は、潤滑剤溶液の全量を基準にして、通常、約0.01〜0.20重量%の範囲であり、好ましくは、約0.02〜0.10重量%の範囲である。
【0048】
上記した前処理溶液と潤滑剤溶液を使用した潤滑剤の浸漬塗布において、媒体を前処理溶液に浸漬した後に続けて直ちに、すなわち、媒体を前処理溶液から引き上げたり別の処理に供しないで、前処理後の媒体を潤滑剤溶液に浸漬することが好ましい。この連続した浸漬処理は、特に、前処理溶液とその下の潤滑剤溶液とからなる2相構成の浸漬処理槽を用意し、媒体を前処理溶液及び潤滑剤溶液に順次浸漬することによって有利に実施することができる。さらに、本発明の実施では、媒体を潤滑剤溶液に浸漬して潤滑剤の浸漬塗布が完了した後、潤滑剤塗布後の媒体を処理溶液やその貧溶媒に再び接触させないことが好ましい。さらに、本発明の実施では、好ましいことに、熱エネルギーの付与、例えば加熱処理による配向処理を行うことは不必要である。
【0049】
さらに詳しく述べると、潤滑剤の浸漬塗布は、図6に模式的に示す浸漬処理槽を使用して有利に実施できる。なお、図示の例では、潤滑剤塗布のメカニズムをわかりやすく説明するため、媒体10が段階(I)から段階(V)まで順次移動している状態が示されている。
【0050】
浸漬処理槽20は、中央の仕切り23で2区画に区分されているが、仕切り23の下方が開放されているので、媒体10が図示のように移動可能である。浸漬処理槽20には、潤滑剤5の末端成分と親和性がある貧溶媒を含む前処理溶液21と、潤滑剤5の主鎖成分と親和性がある良溶媒に潤滑剤5を溶解して得た潤滑剤溶液22が収容されている。貧溶媒は良溶媒に比較して比重が小さいので、一方の区画で、潤滑剤溶液22の上に前処理溶液が分離した状態が確立されている。また、潤滑剤5は、潤滑剤溶液22に溶解された状態にあり、前処理溶液21中には入り込んでいない。
【0051】
このような浸漬処理槽20を使用して、まず、その前処理溶液21に媒体10(I)を浸漬する。この媒体は、カーボン保護膜を堆積した後のもので、好ましくは、表面改質のためにプラズマ処理されている。次いで、媒体10(II)が前処理溶液21から潤滑剤溶液22に移動すると、両溶液の界面で、図示のように媒体10に対する潤滑剤5の会合結合が発現する。すなわち、潤滑剤溶液22に前処理溶液、すなわち、潤滑剤5の末端成分と親和性があり、かつ主鎖成分と親和性のない溶媒(貧溶媒)との界面が存在するので、潤滑剤5の末端成分は貧溶媒の方向に配向可能である。ここで、潤滑剤溶液22と前処理溶液21の界面付近には秩序構造が持たせてあるので、媒体10(II)上でその方向に末端成分を配向させるとともに、その秩序構造を保持することができる。これは、前記したように、潤滑剤の末端成分と媒体表面の親和性が、潤滑剤の主鎖成分に比べて強いからである。
【0052】
引き続いて、媒体10は、段階(III)から(IV)のように潤滑剤溶液22内を移動し、この移動の間に媒体10に対する潤滑剤5の結合がさらに進行する。そして、潤滑剤層を表面に形成した媒体10(V)は、潤滑剤溶液22から引き上げられる。
【0053】
上記のようにして媒体上に形成される潤滑剤層は、その膜厚を広い範囲で変更することができる。潤滑剤層の膜厚は、通常、約0.1〜3.0nmの範囲であり、好ましくは、約0.5〜1.5nmの範囲である。
【0054】
本発明は、さらに、本発明の磁気記録媒体(磁気ディスク)を磁気ヘッドと組み合わせて備えた磁気ディスク装置にある。本発明の磁気ディスク装置において、その構造は特に限定されないというものの、基本的に、磁気ディスクにおいて情報の記録を行うための記録ヘッド部及び情報の再生を行うための再生ヘッド部を備えている装置を包含する。特に、再生ヘッド部は、近年における情報処理技術の発達に伴い、コンピュータの外部記憶装置に用いられる磁気ディスク装置に対して高密度化の要求が高まっていることを考慮して、従来の巻線型のインダクティブ薄膜磁気ヘッドに代えて、磁界の強さに応じて電気抵抗が変化する磁気抵抗素子を使用した磁気抵抗効果型ヘッド、すなわち、MRヘッドを使用することが推奨される。MRヘッドは、磁性体の電気抵抗が外部磁界により変化する磁気抵抗効果を記録媒体上の信号の再生に応用したもので、従来のインダクティブ薄膜磁気ヘッドに較べて数倍も大きな再生出力幅が得られること、イングクタンスが小さいこと、大きなS/N比が期待できること、などを特徴としている。また、このMRヘッドとともに、異方性磁気抵抗効果を利用したAMRヘッド、巨大磁気抵抗効果を利用したGMRヘッド、そしてその実用タイプであるスピンバルブGMRヘッドの使用も推奨される。
【0055】
本発明による磁気ディスク装置において、その記録ヘッド部及び再生ヘッド部は、図7及び図8に示すような積層構造とすることができる。図7は、本発明の磁気ディスク装置の原理図であり、図8は、図7の線分B−Bに沿った断面図である。
【0056】
図7及び図8において、参照番号11は、磁気ディスクへの情報の記録を行う誘導型の記録ヘッド部、そして参照番号12は、情報の読み出しを行う磁気抵抗効果型の再生ヘッド部である。記録ヘッド部11は、NiFe等からなる下部磁極(上部シールド層)13と、一定間隔をもって下部磁極13と対向したNiFe等からなる上部磁極14と、これらの磁極13及び14を励磁し、記録ギャップ部分にて、磁気ディスクに情報の記録を行わせるコイル15等から構成される。
【0057】
再生ヘッド部12は、好ましくはAMRヘッドやGMRヘッド等でもって構成されるものであり、その磁気抵抗効果素子部12A上には、磁気抵抗効果素子部12Aにセンス電流を供給するための一対の導体層16が記録トラック幅に相応する間隔をもって設けられている。ここで、導体層16の膜厚は、磁気抵抗効果素子部12Aの近傍部分16Aが薄く形成され、他の部分16Bは厚く形成されている。
【0058】
図7及び図8の構成では、導体層16の膜厚が、磁気抵抗効果素子部12Aの近傍部分16Aで薄くなっているため、下部磁極(上部シールド層)13等の湾曲が小さくなっている。このため、磁気ディスクに対向する記録ギャップの形状もあまり湾曲せず、情報の記録時における磁気ヘッドのトラック上の位置と読み出し時における磁気ヘッドのトラック上の位置に多少ずれがあっても、磁気ディスク装置は正確に情報を読み出すことができ、オフトラック量が小さいにもかかわらず読み出しの誤差が生じるという事態を避けることができる。
【0059】
一方、導体層16の膜厚が、磁気抵抗効果素子部12Aの近傍以外の部分16Bでは厚く形成されているため、導体層16の抵抗を全体として小さくすることもでき、その結果、磁気抵抗素子部12Aの抵抗変化を高感度で検出することが可能になり、S/N比が向上し、また、導体層16での発熱も避けることができ、発熱に起因したノイズの発生も防げる。
【0060】
本発明による磁気ディスク装置の好ましい一例は、図9及び図10に示す通りである。なお、図9は、磁気ヘッド付きのスライダを備えた磁気ディスク装置の平面図(ここでは、カバーを除いた状態を示す)であり、図10は、図9の線分A−Aに沿った断面図である。
【0061】
これらの図において、参照番号50は、ベースプレート51上に設けられたスピンドルモータ52によって回転駆動される磁気記録媒体としての複数枚(図示の態様では3枚)の磁気ディスクを示している。また、参照番号53は、ベースプレート51上に回転可能に設けられたアクチュエータである。このアクチュエータ53の一方の回転端部には、磁気ディスク50の記録面方向に延出する複数のヘッドアーム54が形成されている。このヘッドアーム54の回転端部には、スプリングアーム55が取り付けられ、更に、このスプリングアーム55のフレクシャー部に前述のスライダ40が図示しない絶縁膜を介して傾動可能に取り付けられている。一方、アクチュエータ53の他方の回転端部には、コイル57が設けられている。
【0062】
ベースプレート51上には、マグネット及びヨークで構成された磁気回路58が設けられ、この磁気回路58の磁気ギャップ内に、上記コイル57が配置されている。そして、磁気回路58とコイル57とでムービングコイル型のリニアモータ(VCM:ボイスコイルモータ)が構成されている。そして、これらベースプレート51の上部はカバー59で覆われている。
【0063】
次に、上記構成の磁気ディスク装置の作動を説明する。
【0064】
磁気ディスク50が停止している時には、スライダ40は磁気ディスク50の退避ゾーンに接触し停止している。
【0065】
次に、磁気ディスク50がスピンドルモータ52によって、高速で回転駆動されると、この磁気ディスク50の回転による発生する空気流によって、スライダ40は微小間隔をもってディスク面から浮上する。この状態でコイル57に電流を流すと、コイル57には推力が発生し、アクチュエータ53が回転する。これにより、ヘッド(スライダ40)を磁気ディスク50の所望のトラック上に移動させ、データのリード/ライトを行なうことができる。
【0066】
この磁気ディスク装置では、磁気ヘッドの導体層として、磁気抵抗効果素子部の近傍部分を薄く形成し他の部分を厚く形成したものを用いているため、記録ヘッド部の磁極の湾曲を小さくすると共に導体層の抵抗を下げ、オフトラックが小さい範囲であれば正確にかつ高感度に情報を読み出すことができる。
【0067】
【実施例】
引き続いて、本発明をその実施例を参照して説明する。
参考例
本例では、従来の方法により潤滑剤層を形成する場合に、潤滑剤塗布後の加熱処理が潤滑剤の配向にいかに有効であるかを確認した。
【0068】
下記の層構成を有する磁気ディスクを作製した。なお、現在商業的に入手可能な磁気ディスクは、さらに多層の構成を採用しているのが一般的であるが、ここでは、便宜的に単純な層構成の磁気ディスクを作製した。
【0069】
───────────────────
潤滑剤層(加熱処理なし、あり)
───────────────────
窒素ドープのカーボン保護膜
───────────────────
磁気記録層(CoCrPtTaNb)
───────────────────
下地層(CrMo10)
───────────────────
NiPメッキ付きアルミニウム基板
───────────────────
アルミニウム(Al)基板の上にNiPをメッキしてNiPメッキ層を形成した後、その表面を良く洗浄し、さらにテクスチャ処理を施して十分に平滑にした。得られたNiP/Al基板の表面にCrMo10(at%)下地層をDCマグネトロンスパッタ装置により成膜した。
【0070】
本例の場合、下地層の成膜前にスパッタ室内を3×10−7Torr以下に排気し、基板温度を280℃に高め、Arガスを導入してスパッタ室内を5mTorrに保持し、−200Vのバイアスを印加しながら、下地層としてのCrMoを30nm厚に成膜した。さらに、下地層の成膜に続けて、CoCrPtTaNb膜をそのBrtが100Gμm(27nm厚)となるように成膜した。成膜に使用したターゲットは、CoCrターゲットにPt、Ta、Nbチップを配置した複合ターゲットであった。
【0071】
次いで、FCA成膜装置を使用して、窒素ドープのカーボン保護膜を次のような条件で成膜した。
【0072】
アーク電流 80A
カソードコイル電流 10A
フィルタコイル電流 10A,6A
ラスタコイル電流 X:0A,Y:10A
基板は、膜厚分布改善のため、グラウンドに落として使用した。膜厚5nmの窒素ドープのカーボン保護膜が得られた。
【0073】
カーボン保護膜の形成後、その表面に潤滑剤層を形成した。潤滑剤(商品名「FОMBLIN Z TETRAОL」、アウジモント社製)を溶媒(商品名「フロリナートFC77」、住友スリーエム社製)に溶解して調製した潤滑剤溶液を入れた浸漬処理槽にNiP/Al基板を浸漬し、図11に示すように異なる膜厚を有する潤滑剤層を形成し、潤滑剤層を自然乾燥した。磁気ディスクA(潤滑剤層の加熱処理なし)が得られた。
【0074】
引き続いて、上述の手法を繰り返して図12に示すように異なる膜厚を有する潤滑剤層を形成した。次いで、それぞれのNiP/Al基板を熱風炉に入れ、120℃で1時間にわたって加熱処理した。磁気ディスクB(潤滑剤層の加熱処理あり)が得られた。
表面自由エネルギーの評価:
潤滑剤層の配向状態は、潤滑剤層の表面における表面自由エネルギーを求め、水素結合成分を見積もることで判断することができる。よって、次のような手順でそれぞれの磁気ディスク(潤滑剤層;以下、固体試料という)の表面自由エネルギーを求めた。
【0075】
液体試料として、下記のような表面自由エネルギーを有する溶媒を使用した。
【0076】
【表1】
【0077】
それぞれの液体試料に対する固体試料の接触角をJIS K6800に記載の指針に準じて測定した。
【0078】
固体試料の表面自由エネルギーをγS、液体試料の表面自由エネルギーをγL、固体試料/液体試料の接触角をθSL、固体試料/液体試料の界面自由エネルギーをγSLとすれば、次のようなYoungの式(1)が成立する。
【0079】
【数2】
【0080】
液体が固体表面に付着することにより安定化するエネルギーである接着仕事WSLは、次のようなDupreの式(2)に従う。
【0081】
【数3】
【0082】
以上の2式から、次のようなYoung−Dupreの式(3)が導出され、接着仕事は、液体の表面自由エネルギーと接触角から求められることとなる。
【0083】
【数4】
【0084】
ОwensとWendtは、この接着仕事に対して、表面自由エネルギーの各成分に幾何平均則を適用した。すなわち、次式(4)が成り立つとした。
【0085】
【数5】
【0086】
ここで、d及びhは、それぞれ、分散成分及び水素結合成分を意味する。
【0087】
2種類の液体(i,j;ここでは、水及びジヨードメタン)を用いれば、接着仕事について次の関係式(5)が成り立つ。
【0088】
【数6】
【0089】
従って、2種類の液体の接触角を実測し、接着仕事を求めれば、次の関係式(6)から固体の表面エネルギーを各成分ごとに求めることができる。
【0090】
【数7】
【0091】
図11は、磁気ディスクA(潤滑剤層の加熱処理なし)について、潤滑剤層の膜厚と表面自由エネルギーの関係をプロットしたグラフである。また、図12は、磁気ディスクB(潤滑剤層の加熱処理あり)について、潤滑剤層の膜厚と表面自由エネルギーの関係をプロットしたグラフである。
【0092】
図11のグラフから理解されるように、潤滑剤層に加熱処理を施さない場合には、潤滑剤層の膜厚が増加するとともに表面自由エネルギーが低下していくが、膜厚15Åを境にして増加に転じる。また、表面自由エネルギーの変化は、膜厚に対して滑らかでなく、バラツキが大きい。従って、加熱処理を伴わないと、安定した表面が形成されず、膜厚15Å以上では表面自由エネルギーが増加してしまう。また、このような望ましくない結果は、潤滑剤を塗布したままの潤滑剤層では潤滑剤の配向がランダムであることに原因があると考察される。
【0093】
一方、潤滑剤層に加熱処理を施した例を示す図12を参照すると、潤滑剤層の膜厚が増加するとともに表面自由エネルギーが単調に減少し、また、数値自体も、加熱処理を施さない場合と比較して小さくなっている。このことは、潤滑剤の配向が加熱処理によって促進されたことを立証している。
実施例
前記参考例と同様な層構成を有する磁気ディスクを作製した。但し、本例の場合、潤滑剤層の形成のため、先に図6を参照して説明したような2区画式の浸漬処理槽を用意し、次のような前処理溶液及び潤滑剤溶液を収容した。
【0094】
前処理溶液…貧溶媒(エタノール)
潤滑剤溶液…潤滑剤(商品名「FОMBLIN ZDОL」、アウジモント社製)を良溶媒(商品名「フロリナートFC77」、住友スリーエム社製)に溶解して調製。
【0095】
カーボン保護膜の形成後、NiP/Al基板を上述の浸漬処理槽に浸漬し、前処理溶液及び潤滑剤溶液の順で浸漬処理を行った。基板を潤滑剤溶液から引き上げて自然乾燥した。異なる膜厚を有する潤滑剤層を備えた磁気ディスクC(本発明例)が得られた。
【0096】
得られた磁気ディスクCについて、前記参考例と同様な手順に従って表面自由エネルギーを求めた。その結果、磁気ディスクCの表面自由エネルギーは、図12の磁気ディスクBとほぼ同じカーブを描き、潤滑剤層の膜厚が増加するとともに単調にかつなめらかに減少していくことが確認された。
【0097】
図13は、潤滑剤層の膜厚が10Åの時の、磁気ディスクA(A−10)、磁気ディスクB(B−10)及び磁気ディスクC(C−10)の表面自由エネルギーならびに潤滑剤層の膜厚が15Åの時の、磁気ディスクA(A−15)、磁気ディスクB(B−15)及び磁気ディスクC(C−15)の表面自由エネルギーをプロットしたグラフである。このグラフから理解できるように、本発明に従って潤滑剤層を形成した場合と、従来の方法に従って加熱処理を伴って潤滑剤層を形成した場合には、比較可能な程度に低い表面自由エネルギーを実現することができる。このことは、本発明に従って潤滑剤層を形成した場合には、潤滑剤について満足できる配向促進効果を達成できるということを立証している。
【0098】
以上、本発明を特にその好ましい実施の形態及び実施例を参照して説明した。引き続いて、本発明のさらなる理解のために、本発明の好ましい態様を「付記」としてまとめて記載する。
【0099】
(付記1)媒体の表面に潤滑剤を塗布する方法であって、
主鎖成分と、該主鎖成分の少なくとも1端に結合したものであって、前記主鎖成分と化学的性質を異にする末端成分とを1つの分子内に有する潤滑剤を含む潤滑剤溶液に前記媒体を浸漬し、前記潤滑剤溶液から引き上げた後の前記媒体において、前記潤滑剤を前記末端成分を介して前記媒体の表面に会合によって結合させ、かつ前記主鎖成分を前記媒体の表面を向いて配向させることを特徴とする潤滑剤の塗布方法。
【0100】
(付記2)前記主鎖成分の両端に前記末端成分が結合した分子構造をもった潤滑剤を使用し、前記末端成分を前記媒体の表面に会合によって結合させるとともに、前記末端成分どうしを橋架けた前記主鎖成分を前記媒体の表面を向いて配向させることを特徴とする付記1に記載の潤滑剤の塗布方法。
【0101】
(付記3)前記潤滑剤の分子において、前記主鎖成分が撥水性を示し、かつ前記末端成分が親水性を示すことを特徴とする付記1又は2に記載の潤滑剤の塗布方法。
【0102】
(付記4)前記潤滑剤が、フッ素化炭化水素化合物であることを特徴とする付記1〜3のいずれか1項に記載の潤滑剤の塗布方法。
【0103】
(付記5)前記フッ素化炭化水素化合物において、その主鎖成分がパーフルオロポリエーテルからなり、かつその末端成分が水酸基からなることを特徴とする付記4に記載の潤滑剤の塗布方法。
【0104】
(付記6)前記潤滑剤の末端成分と親和性がある貧溶媒を含む前処理溶液と、前記潤滑剤の主鎖成分と親和性がある良溶媒に潤滑剤を溶解して得た潤滑剤溶液を組み合わせて使用することを特徴とする付記1〜5のいずれか1項に記載の潤滑剤の塗布方法。
【0105】
(付記7)前記貧溶媒の比重が前記良溶媒の比重よりも小さく、かつ前記貧溶媒と前記良溶媒は実質的に相溶性を有していないことを特徴とする付記6に記載の潤滑剤の塗布方法。
【0106】
(付記8)前記貧溶媒が水もしくはアルコール系溶媒であり、かつ前記良溶媒がフッ素系溶媒であることを特徴とする付記6又は7に記載の潤滑剤の塗布方法。
【0107】
(付記9)前記媒体を前記前処理溶液に浸漬した後に続けて、前記前処理媒体を前記潤滑剤溶液に浸漬することを特徴とする付記6〜8のいずれか1項に記載の潤滑剤の塗布方法。
【0108】
(付記10)前記前処理溶液とその下の前記潤滑剤溶液とからなる2相構成の浸漬処理槽を用意し、前記媒体を前記前処理溶液及び前記潤滑剤溶液に順次通過させることを特徴とする付記6〜9のいずれか1項に記載の潤滑剤の塗布方法。
【0109】
(付記11)前記潤滑剤溶液を通過させた後、潤滑剤塗布後の前記媒体を前記前処理溶液あるいはその貧溶媒と接触させないことを特徴とする付記10に記載の潤滑剤の塗布方法。
【0110】
(付記12)熱エネルギーの付与による配向処理を伴わないことを特徴とする付記1〜11のいずれか1項に記載の潤滑剤の塗布方法。
【0111】
(付記13)前記潤滑剤を0.1〜3.0nmの膜厚で塗布することを特徴とする付記1〜12のいずれか1項に記載の潤滑剤の塗布方法。
【0112】
(付記14)前記媒体が、その表面にカーボン保護膜を有する磁気記録媒体であることを特徴とする付記1〜13のいずれか1項に記載の潤滑剤の塗布方法。
【0113】
(付記15)媒体の表面に形成された潤滑剤層であって、
主鎖成分と、該主鎖成分の少なくとも1端に結合したものであって、前記主鎖成分と化学的性質を異にする末端成分とを1つの分子内に有する潤滑剤が前記末端成分を介して前記媒体の表面に会合によって結合しており、前記主鎖成分が前記媒体の表面を向いて配向していることを特徴とする潤滑剤層。
【0114】
(付記16)前記潤滑剤が、前記主鎖成分の両端に前記末端成分が結合した分子構造を有しており、前記末端成分が前記媒体の表面に会合によって結合しているとともに、前記末端成分どうしを橋架けた前記主鎖成分が前記媒体の表面を向いて配向していることを特徴とする付記15に記載の潤滑剤層。
【0115】
(付記17)前記潤滑剤の分子において、前記主鎖成分が撥水性を示し、かつ前記末端成分が親水性を示すことを特徴とする付記15又は16に記載の潤滑剤層。
【0116】
(付記18)前記潤滑剤が、フッ素化炭化水素化合物であることを特徴とする付記15〜17にいずれか1項に記載の潤滑剤層。
【0117】
(付記19)前記フッ素化炭化水素化合物において、その主鎖成分がパーフルオロポリエーテルからなり、かつその末端成分が水酸基からなることを特徴とする付記18に記載の潤滑剤層。
【0118】
(付記20)前記潤滑剤の分子が、前記潤滑剤の末端成分と親和性がある貧溶媒を含む前処理溶液と、前記潤滑剤の主鎖成分と親和性がある良溶媒に潤滑剤を溶解して得た潤滑剤溶液に前記媒体を順次浸漬することによって配向されていることを特徴とする付記15〜19のいずれか1項に記載の潤滑剤層。
【0119】
(付記21)前記潤滑剤の分子が、熱エネルギーの付与によって配向されていないことを特徴とする付記15〜20のいずれか1項に記載の潤滑剤層。
【0120】
(付記22)前記潤滑剤の膜厚が、0.1〜3.0nmの範囲であることを特徴とする付記15〜21のいずれか1項に記載の潤滑剤層。
【0121】
(付記23)前記媒体が、その表面にカーボン保護膜を有する磁気記録媒体であり、前記カーボン保護膜の上に前記潤滑剤層が塗被されていることを特徴とする付記15〜22のいずれか1項に記載の潤滑剤層。
【0122】
(付記24)潤滑剤層を表面に有する磁気記録媒体であって、
主鎖成分と、該主鎖成分の少なくとも1端に結合したものであって、前記主鎖成分と化学的性質を異にする末端成分とを1つの分子内に有する潤滑剤が前記末端成分を介して前記磁気記録媒体の表面に会合によって結合しており、前記主鎖成分が前記磁気記録媒体の表面を向いて配向していることを特徴とする磁気記録媒体。
【0123】
(付記25)前記潤滑剤層が、付記16〜22のいずれか1項に記載の潤滑剤層であることを特徴とする付記24に記載の磁気記録媒体。
【0124】
(付記26)前記磁気記録媒体が、非磁性の基板と、該基板の上に順に形成された磁気記録層及びカーボン保護膜を含むことを特徴とする付記24又は25に記載の磁気記録媒体。
【0125】
(付記27)磁気記録媒体において情報の記録を行うための記録ヘッド及び情報の再生を行うための再生ヘッドを備えた磁気ディスク装置であって、
前記磁気記録媒体が、潤滑剤層を表面に有する磁気ディスクであって、主鎖成分と、該主鎖成分の少なくとも1端に結合したものであって、前記主鎖成分と化学的性質を異にする末端成分とを1つの分子内に有する潤滑剤が前記末端成分を介して前記磁気ディスクの表面に会合によって結合しており、前記主鎖成分が前記磁気ディスクの表面を向いて配向していることを特徴とする磁気ディスク装置。
【0126】
(付記28)前記潤滑剤層が、付記16〜22のいずれか1項に記載の潤滑剤層であることを特徴とする付記27に記載の磁気ディスク装置。
【0127】
(付記29)前記磁気ディスクが、非磁性の基板と、該基板の上に順に形成された磁気記録層及びカーボン保護膜を含むことを特徴とする付記27又は28に記載の磁気ディスク装置。
【0128】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明によれば、潤滑剤分子の配向のために従来必須であった加熱処理を省略し、潤滑剤層を自然乾燥することができるので、潤滑剤層の形成時、工数及び処理時間の短縮、製造コストの低減などを図ることができる。
【0129】
また、潤滑剤の浸漬塗布に際して複合浸漬処理槽を使用できるので、連続処理によって処理時間の短縮及び大量生産が可能となる。
【0130】
また、本発明によれば、配向力が高く、かつ薄く濡れ広がった潤滑剤層を形成することができる。
【0131】
さらに、本発明によれば、配向力が高く、かつ薄く濡れ広がった潤滑剤層を備えた、低工数及び低コストで製造が可能な高信頼性の磁気記録媒体を提供することができる。
【0132】
さらにまた、本発明によれば、低コスト及び高信頼性の磁気ディスク装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の磁気記録媒体における炭素質保護膜に対する潤滑層の固着状態を模式的に示した断面図である。
【図2】本発明による磁気記録媒体の好ましい1実施形態を示した断面図である。
【図3】本発明で潤滑剤層の形成に用いられる潤滑剤分子を模式的に示した分子モデル図である。
【図4】本発明の磁気記録媒体におけるカーボン保護膜に対する潤滑剤層の固着状態を模式的に示した断面図である。
【図5】本発明の磁気記録媒体におけるカーボン保護膜に対する潤滑剤層の固着状態を模式的に示した断面図である。
【図6】本発明の磁気記録媒体における潤滑剤層の形成手順を模式的に示した断面図である。
【図7】本発明の磁気ディスク装置の原理を示す断面図である。
【図8】図7の磁気ディスク装置の線分B−Bに沿った断面図である。
【図9】本発明の磁気ディスク装置の好ましい1例を示す平面図である。
【図10】図9の磁気ディスク装置の線分A−Aに沿った断面図である。
【図11】参考の磁気ディスクについて、加熱処理を施さなかった潤滑剤層の膜厚と表面自由エネルギーの関係をプロットしたグラフである。
【図12】参考の磁気ディスクについて、加熱処理を施した潤滑剤層の膜厚と表面自由エネルギーの関係をプロットしたグラフである。
【図13】異なる磁気ディスクについて、潤滑剤層の膜厚と表面自由エネルギーの関係をプロットしたグラフである。
【符号の説明】
1…基板
2…下地層
3…磁気記録層
4…カーボン保護膜
5…潤滑剤層(潤滑剤分子)
10…磁気記録媒体(磁気ディスク)
20…浸漬処理槽
21…前処理溶液
22…潤滑剤溶液
23…仕切り
【発明の属する技術分野】
本発明は、潤滑剤の塗布方法に関し、さらに詳しく述べると、媒体、例えば磁気ディスクのような磁気記録媒体の表面に潤滑剤を塗布する方法に関する。本発明はまた、特に媒体用の、加熱処理をしなくても配向力が高く、かつ薄く濡れ広がった潤滑剤層に関する。さらに、本発明は、かかる潤滑剤層を備えた、低工数及び低コストで製造が可能な高信頼性の磁気記録媒体、そして低コスト及び高信頼性の磁気ディスク装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
コンピュータなどの情報処理装置において、磁気ディスク装置が外部記録装置として広く用いられている。磁気ディスク装置を使用すると、磁気記録媒体(磁気ディスク)上で磁気ヘッドを走査して、磁気記録媒体において情報の記録や読出を行うことができる。したがって、記録密度の向上のためには、動作時の磁気ヘッド(厳密にはヘッドの電磁変換素子)と磁気記録媒体(磁気記録媒体の磁性層)との隙間(浮上高さ)の低下が必須となる。この浮上高さは、記録密度の向上のために持続的に減少する傾向にあり、現在では十数nmにまで達している。
【0003】
従来の一般的な磁気記録媒体は、周知の通り、非磁性の基板と、その上に順次積層された、下地層、磁気記録層(磁性層ともいう)、保護膜、そして潤滑剤層とから構成されている。このような磁気記録媒体において、基板は、例えばアルミニウム基板からなり、その表面にNiP膜を有している。下地層は、通常、非磁性の金属であるCr系合金からなる。Cr系合金は、例えば、CrMo合金である。磁気記録層は、通常、強磁性の金属であるCoCr系合金からなる。CoCr系合金は、例えば、CoCrTa、CoCrPt、CoCrPtTaNbなどである。このような磁気記録層の上には、磁気記録層を磁気ヘッドの衝撃による破損などから保護するため、保護膜が設けられている。保護膜は、各種のカーボン材料、例えばアモルファスカーボンなどから形成されており、したがって、通常、カーボン保護膜と呼ばれている。カーボン保護膜は、半導体装置の製造において慣用の成膜技術である、スパッタ法、化学的気相成長法(以下、「CVD法」と呼ぶ)などを使用して形成されている。また、このようにして形成されたカーボン保護膜に対して高められた耐久性を付与するため、そのカーボン保護膜に水素や窒素を添加することも行われている。さらに、カーボン保護膜の上には、磁気記録媒体におけるヘッドの円滑な浮上を図り、あわせて浮上高さを低下させる目的で、固体もしくは液体の潤滑剤、例えばフルオロカーボン系の液体潤滑剤が塗布されている。潤滑剤層の存在によって、磁気記録媒体とヘッドの接触時に摩擦や磨耗を低減し、ヘッドクラッシュ等の障害発生を防止できるからである。液体潤滑剤の塗布には、浸漬法、スピンコート法、スプレー法などが一般的に使用されている。
【0004】
例えば、特開平7−296372号公報には、非磁性基板上に磁性層、炭素質保護膜、潤滑層を順次積層してなる磁気記録媒体において、炭素質保護膜表面がアンモニアガス含有雰囲気でプラズマ処理を施されたのちに、一方の末端にカルボキシル基を有する潤滑剤分子を含有する潤滑剤(例えば、ステアリン酸、ベヘン酸など)を用いて形成された潤滑層を備えたことを特徴とする磁気記録媒体が開示されている。この磁気記録媒体において、炭素質保護膜は、カーボン保護膜、水素化カーボン保護膜などであり、例えば、スパッタ法、プラズマCVD法、イオンプレーティング法などによって形成される。また、かかる炭素質保護膜の膜厚は、通常、50〜500Åである。潤滑層は、潤滑剤をアルコール、ケトン等の有機溶媒に溶解し、浸漬法、スピンコート法、スプレー法などで炭素質保護膜に塗布することによって形成される。図1は、アンモニアガス含有雰囲気下でプラズマ処理を施された炭素質保護膜64の表面に、潤滑剤として使用したステアリン酸の分子65が静電作用によって固着した状態を模式的に示したものである。ステアリン酸分子65の疎水性部分が保護膜(基板)64に対して上を向いて配向しているので、潤滑層全体の配向性が向上することとなる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
磁気ヘッドの浮上高さの低下は、磁気記録媒体との接触の機会を増やすので、ヘッドクラッシュが発生しやすくなる。ヘッドクラッシュの発生を防止するためには、上記したようにカーボン保護膜の上に潤滑剤層を塗布するのが有効であるけれども、潤滑剤層がただ存在しているだけでは不十分で、潤滑剤が保護膜表面に理想的な状態で存在する必要がある。すなわち、潤滑剤は、保護膜表面で凝集状態にならず、薄く濡れ広がっている必要がある。換言すると、先に図1を参照して説明したように、潤滑剤分子の末端基が基板側に向き、主鎖部分が基板に対して上を向いて配向している必要がある。
【0006】
潤滑剤分子の上記のような配向状態を得るためには、通常、保護膜上に潤滑剤の溶液を塗布した後、磁気記録媒体を例えば熱風炉に入れて、約100〜120℃の温度で加熱処理することが必要である。加熱処理によって潤滑剤分子に熱エネルギーを付与し、潤滑剤の分子運動の結果として配向を促すことができるからである。また、熱風炉による加熱に代えて、高周波コイルによる電磁加熱なども行われている。しかし、いずれの加熱処理も煩雑であり、配向の完了までに長時間を必要とし、量産性に欠け、製造コストも増加する。
【0007】
本発明の目的は、上記した従来の技術の問題点を解消して、潤滑剤分子の配向のために加熱処理を必要としない潤滑剤層の形成方法、換言すると、潤滑剤の塗布方法を提供することにある。
【0008】
また、本発明の目的は、配向力が高く、かつ薄く濡れ広がった潤滑剤層の形成方法を提供することにある。
【0009】
さらに、本発明の目的は、配向力が高く、かつ薄く濡れ広がった、媒体用の潤滑剤層を提供することにある。
【0010】
さらにまた、本発明の目的は、かかる潤滑剤層を備えた、低工数及び低コストで製造が可能な高信頼性の磁気記録媒体を提供することにある。
【0011】
さらにまた、本発明の目的は、低コスト及び高信頼性の磁気ディスク装置を提供することにある。
【0012】
本発明の上記した目的及びその他の目的は、以下の詳細な説明から容易に理解することができるであろう。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、潤滑剤層を形成する場合に、それに使用される潤滑剤分子の主鎖と末端の化学的性質が異なることを利用した場合、まったく予想できなかったことではあるが、潤滑剤を浸漬塗布するだけで、すなわち、分子配向のための加熱処理を浸漬塗布に続けて実施しなくても、潤滑剤分子を基板に対して配向させ得るということを見い出した。
【0014】
本発明は、その1つの面において、媒体の表面に潤滑剤を塗布する方法であって、
主鎖成分と、該主鎖成分の少なくとも1端に結合したものであって、前記主鎖成分と化学的性質を異にする末端成分とを1つの分子内に有する潤滑剤を含む潤滑剤溶液に前記媒体を浸漬し、前記潤滑剤溶液から引き上げた後の前記媒体において、前記潤滑剤を前記末端成分を介して前記媒体の表面に会合によって結合させ、かつ前記主鎖成分を前記媒体の表面を向いて配向させることを特徴とする潤滑剤の塗布方法にある。
【0015】
また、本発明は、そのもう1つの面において、媒体の表面に形成された潤滑剤層であって、
主鎖成分と、該主鎖成分の少なくとも1端に結合したものであって、前記主鎖成分と化学的性質を異にする末端成分とを1つの分子内に有する潤滑剤が前記末端成分を介して前記媒体の表面に会合によって結合しており、前記主鎖成分が前記媒体の表面を向いて配向していることを特徴とする潤滑剤層にある。
【0016】
さらに、本発明は、そのもう1つの面において、潤滑剤層を表面に有する磁気記録媒体であって、
主鎖成分と、該主鎖成分の少なくとも1端に結合したものであって、前記主鎖成分と化学的性質を異にする末端成分とを1つの分子内に有する潤滑剤が前記末端成分を介して前記磁気記録媒体の表面に会合によって結合しており、前記主鎖成分が前記磁気記録媒体の表面を向いて配向していることを特徴とする磁気記録媒体にある。
【0017】
さらにまた、本発明は、そのもう1つの面において、磁気記録媒体において情報の記録を行うための記録ヘッド及び情報の再生を行うための再生ヘッドを備えた磁気ディスク装置であって、
前記磁気記録媒体が、潤滑剤層を表面に有する磁気ディスクであって、主鎖成分と、該主鎖成分の少なくとも1端に結合したものであって、前記主鎖成分と化学的性質を異にする末端成分とを1つの分子内に有する潤滑剤が前記末端成分を介して前記磁気ディスクの表面に会合によって結合しており、前記主鎖成分が前記磁気ディスクの表面を向いて配向していることを特徴とする磁気ディスク装置にある。
【0018】
本発明による潤滑剤層の形成では、媒体を浸漬させるべき潤滑剤溶液中における潤滑剤分子の挙動が重要である。潤滑剤は、通常、その溶液中にランダムに配向した状態で存在している。この状態で潤滑剤の浸漬塗布を行った場合、基板上でも潤滑剤はランダムに配向可能である。しかし、末端成分(末端基)が主鎖成分と異なる化学的構造あるいは化学的性質を有する特定の潤滑剤を浸漬塗布に使用した場合には、もしもその潤滑剤溶液に、末端成分と親和性があり、かつ主鎖成分と親和性のない溶媒(貧溶媒)との界面が存在すれば、末端成分は貧溶媒の方向に配向可能である。よって、潤滑剤溶液と貧溶媒(本発明では、特に前処理溶液という)の界面付近に秩序構造を持たせ、被塗布体である媒体がその秩序構造を通過するように構成すると、媒体上でその方向に末端成分を配向させるとともに、その秩序構造を保持することができる。なぜなら、潤滑剤の末端成分と媒体表面の親和性が、潤滑剤の主鎖成分に比べて強いからである。
【0019】
潤滑剤の末端成分と媒体表面の親和性が強いとはいえ、ランダムな配向で塗布された後は、潤滑剤の自己組織化が進まず、秩序構造(配向)が実現されない。そのため、通常は、先に説明したように加熱処理によって潤滑剤分子に熱エネルギーを付与している。しかし、加熱処理は上述のように回避すべきものであるので、本発明では、上記の説明及び以下の詳細な説明から理解できるように、秩序状態の形成に溶媒に対する親和力を利用してこの問題点を解消するに至った。本発明に従うと、秩序構造を媒体表面で具現するとともに、安定に保持することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明による潤滑剤塗布方法、潤滑剤層、磁気記録媒体及び磁気ディスク装置は、それぞれ、本発明の範囲内でいろいろな形態で有利に実施できる。例えば、磁気記録媒体は、以下の説明では特に磁気ディスクを参照して説明するが、それ以外の磁気記録媒体、例えば磁気テープ、光磁気ディスクなどであってもよい。同様に、潤滑剤塗布方法や潤滑剤層は、磁気ディスクに対してばかりでなく、その他の磁気記録媒体や、磁気記録媒体とは異なる種類の媒体などにも、有利に適用することができる。
【0021】
本発明の磁気記録媒体は、好ましくはディスクの形態で提供される。磁気ディスクは、基本的に、潤滑剤層の構成及び形成における相違を除いて、常用の磁気ディスクと同様な構成を有することができる。よって、以下、図2の基本構成を参照して本発明の磁気ディスクを説明する。磁気ディスク10は、非磁性の基板1、下地層2、磁気記録層3、カーボン保護膜4、そして本発明による潤滑剤層5を少なくとも有している。しかし、磁気ディスク10では、本発明の範囲内において種々の変更や改良、例えば、磁気記録層3の多層化、中間層の追加などを行うことができる。実際、現用の磁気ディスクの層構成は、非常に複雑になっている。
【0022】
本発明の磁気ディスクにおいて、非磁性の基板は、この技術分野において常用のいろいろな材料から形成することができる。適当な非磁性の基板としては、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、例えば、NiPメッキ付きのアルミニウム(アルミニウム合金を含む)基板、ガラス又は強化ガラス基板、表面酸化膜(例えばシリコン酸化膜)を有するシリコン基板、SiC基板、カーボン基板、プラスチック基板、セラミック基板などを挙げることができる。特に、NiPメッキ付きのアルミニウム(アルミニウム合金を含む)基板を有利に使用することができる。
【0023】
非磁性の基板の上の下地層は、磁気ディスクにおいて一般的な非磁性の金属材料から形成することができる。下地層に好適な金属材料は、例えば、クロムを主成分とするものである。下地層は、単層であっても2層もしくはそれ以上の多層構造であってもよい。多層構造の下地層の場合、それぞれの層の組成は任意に変更することができる。かかる下地層は、特に、クロムのみを主成分とする金属材料あるいはクロム及びモリブデンを主成分とする金属材料から有利に構成することができる。例えば、磁気ディスクの磁気記録層に白金が含まれるような場合には、クロム及びモリブデンを主成分とする金属材料から下地層を構成するのが好ましい。すなわち、モリブデンの添加によって、格子面間隔を広げることができ、また、磁気記録層の組成、特に白金量によって広がる磁気記録層の格子面間隔に対して下地層の格子面間隔を近くしてやることにより、磁気記録層(CoCr系合金)のC軸の面内への優先配向を促すことができるからである。適当な下地層の材料の例として、Cr、CrW、CrV、CrTi、CrMoなどを挙げることができる。このような下地層は、例えばマグネトロンスパッタ法などのスパッタ法により、常用の成膜条件により形成することができる。特に、保磁力を高めるため、DC負バイアスの印加下にスパッタ法を実施するのが好ましい。適当な成膜条件として、例えば、約100〜300℃の成膜温度、約1〜10mTorrのArガス圧力、そして約100〜300VのDC負バイアスを挙げることができる。また、必要に応じて、スパッタ法に代えて、他の成膜法、例えば蒸着法、イオンビームスパッタ法等を使用してもよい。かかる下地層の膜厚は、種々のファクタに応じて広い範囲で変更することができる。下地層の膜厚は、この範囲に限定されるものではないけれども、S/N比を高めるため、一般的には5〜60nmの範囲である。下地層の膜厚が5nmを下回ると、磁気特性が十分に発現しないおそれがあり、また、反対に60nmを上回ると、ノイズが増大するおそれがある。
【0024】
本発明の磁気ディスクは、必要に応じて、その非磁性の基板とその上方の前記下地層との中間に、チタンを主成分とする金属材料からなる追加の下地層、好ましくはTi薄膜を有していてもよい。このような中間層は、両者の結合関係をより向上させる働きを有している。
【0025】
本発明の磁気ディスクにおいて、非磁性の下地層の上に形成されるべき磁気記録層は、下地層と同様に、磁気ディスクにおいて一般的な磁気記録層から形成することができる。磁気記録層は、単層であってもよく、2層もしくはそれ以上の多層構造であってもよい。多層構造の磁気記録層の場合、それぞれの磁気記録層の組成は同一もしくは異なっていてもよく、また、必要に応じて、磁気記録層の間に中間層を介在させて、磁気記録特性の向上などを図ってもよい。
【0026】
磁気記録層は、通常、コバルトを主成分として含有し、これにクロム及び白金を併用する。さらには、これらの成分に追加して、タングステンやカーボンを組み合わせて含有することができる。例えば、この磁気記録層の五元系合金は、好ましくは、次式により表される組成範囲:
Cobal.−Cr14−23 −Pt1−20−Wx −Cy
(上式中、bal.はバランス量を意味し、そしてx+yは1〜7at%である)にある。このCoCrPtWC五元系合金において、W及びCの添加量の比は、5:1〜2:1の範囲であることが好ましい。また、かかる五元系合金において、W及びCの添加量の比が4:1でありかつ合計量が1〜7at%であることが特に好ましい。
【0027】
本発明による磁気ディスクでは、磁気記録層をCoCrPt合金から構成し、これにW及びCの両方を添加し、さらに層構成や成膜プロセスを最適化することにより、ノイズの大幅な低減を図ることができ、したがって、高いS/N比が得られ、よって、高密度記録媒体を具現することができる。
【0028】
また、磁気記録層は、コバルトを主成分として含有し、これにクロム及び白金を併用する。さらには、これらの成分に追加して、タンタルやニオブをを組み合わせて含有することができる。例えば、この磁気記録層の五元系合金は、好ましくは、次式により表される組成範囲:
Cobal.−Cr13−21 −Pt1−20−Tax −Nby
(上式中、bal.はバランス量を意味し、そしてx+yは1〜7at%である)にある。このCoCrPtTaNb五元系合金において、Ta及びNbの添加量の比は、同等もしくはほぼ同等でありかつ合計量が1〜7at%であることが好ましい。一例を示すと、例えばCo74Cr17Pt5 Ta2 Nb2 が好適である。
【0029】
本発明の磁気ディスクにおいて、その磁気記録層は、単層構造及び2層構造にかかわりなく、30〜180Gμm のtBr(磁気記録層の膜厚tと残留磁化密度Brの積)を有していることが好ましい。特に、単層構造の磁気記録層は、50〜180Gμm のtBrを有していることが好ましく、また、2層構造の磁気記録層は、30〜160Gμm のtBrを有していることが好ましい。本発明の磁気記録層は、従来の磁気記録層に比較して低Brに構成したことにより、特にMRヘッドをはじめとした磁気抵抗効果型ヘッド用として最適である。
【0030】
非磁性基板上に下地層を介して設けられる磁気記録層は、上記したように、CoCrPtWCの五元系合金やCoCrPtTaNbの五元系合金などから形成される。かかる磁気記録層は、好ましくは、スパッタ法により、特定の成膜条件下で有利に形成することができる。特に、保磁力を高めるため、DC負バイアスの印加下にスパッタ法を実施するのが好ましい。スパッタ法としては、上記した下地層の成膜と同様、例えばマグネトロンスパッタ法などを使用することができる。適当な成膜条件として、例えば、約100〜350℃の成膜温度、約1〜10mTorrのArガス圧力、そして約80〜400VのDC負バイアスを挙げることができる。ここで、約350℃を上回る成膜温度は、本来非磁性であるべき基板において磁性を発現する可能性があるので、その使用を避けることが望ましい。また、必要に応じて、スパッタ法に代えて、他の成膜法、例えば蒸着法、イオンビームスパッタ法等を使用してもよい。磁気記録層の形成の好ましい1例を示すと、非磁性基板がNiPメッキ付きのアルミニウム基板である場合、前記磁気記録層を、スパッタ法で、DC負バイアスの印加下に、約220〜320℃の成膜温度で、上記の合金から有利に形成することができる。
【0031】
本発明の磁気ディスクは、その磁気記録層の上にそれを保護するカーボン保護膜を備える。カーボン保護膜としては、磁気ディスクの分野において一般的に使用されているカーボン保護膜を使用することができる。適当なカーボン保護膜として、例えば、カーボンの単独もしくはその化合物からなる層、例えばC層、WC層、SiC層、B4 C層、水素含有C層、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)層などを挙げることができる。このようなカーボン保護膜は、常法に従って、例えばスパッタ法、CVD法、蒸着法などによって形成することができる。カーボン保護膜の膜厚は、広い範囲にわたって変更することができるというものの、通常、約5〜15nmの範囲である。
【0032】
さらに、カーボン保護膜は、最近開発された技術であるFiltered Cathodic Arc 法(以下、「FCA法」と呼ぶ)を用いて、高硬度のカーボン保護膜として形成するのが好適である。また、この高硬度のカーボン保護膜中に窒素を含有させた場合、カーボン保護膜の液体潤滑剤に対する吸着性が著しく向上せしめられ、優れた耐久性を得、かつ維持できるので、さらに好適である。
【0033】
FCA法は、従来のスパッタ法、CVD法などと比較した場合、よりダイヤモンド成分の多い高硬度のカーボン膜を形成することができ、したがって、得られるカーボン膜は、5nmもしくはそれ以下の膜厚の時でも高い耐久性を示すことができる。
【0034】
本発明の磁気ディスクは、そのカーボン保護膜の上にさらに、本発明に従って形成された潤滑剤層を備える。潤滑剤層は、図3に模式的に示す分子モデルから理解されるように、主鎖成分5Aと、主鎖成分5Aの少なくとも1端(図示の例では、両端)に結合したものであって、主鎖成分5Aと化学的性質を異にする末端成分5Bとを1つの分子内に有する潤滑剤5からなる。
【0035】
潤滑剤層の形成に用いられる潤滑剤は、その主鎖成分と末端成分とで化学的性質あるいは化学的構造を異にする。好ましくは、1つの潤滑剤分子において、その主鎖成分が撥水性であり、かつ主鎖成分の1端もしくは両端の末端成分が親水性である。
【0036】
上述のような要件を満たすとともに本発明の実施に好適な潤滑剤は、フッ素化炭化水素化合物である。特に、フッ素化炭化水素化合物において、その主鎖成分が、次式により表されるパーフルオロポリエーテル基:
(CF2О)m(C2F4О)n
(式中、m及びnは、それぞれ、任意の整数である)からなり、かつその末端成分が水酸基もしくは次式により表される水酸基含有部分:
CH2ОH、
CH2ОCH2CHОHCH2ОH
などからなることが好ましい。なお、このようなフッ素化炭化水素化合物は、例えば、アウジモント社から「フォンブリン(FОMBLIN)」なる商品名で商業的に入手可能である。
【0037】
本発明の潤滑剤層を観察すると、図4及び図5に示すように、媒体、ここでは磁気ディスク10(最上層のカーボン保護膜4)上において潤滑剤5が安定に配向している。分子の一端のみに末端成分5Bを有する潤滑剤5を示す図4の場合には、潤滑剤5は、その末端成分5Bを介して媒体10の表面に会合によって結合しており、主鎖成分5Aが媒体10の表面を向いて配向している。一方、分子の両端に末端成分5Bを有する潤滑剤5を示す図5の場合には、潤滑剤5は、その末端成分5Bが媒体10の表面に会合によって結合しているとともに、主鎖成分5Aが、あたかも末端成分5Bどうしを橋架けたようにして、媒体10の表面を向いて配向している。いずれの配向状態も高レベルかつ安定である。
【0038】
潤滑剤分子の上述のような配向状態は、媒体に潤滑剤を塗布する際に本発明に従い特別な浸漬塗布を行うことによって実現することができる。すなわち、上述のような潤滑剤を含む潤滑剤溶液に媒体を浸漬し、引き続いてその潤滑剤溶液から媒体を引き上げる。驚くべきことに、本発明に従って潤滑剤の浸漬塗布を行った場合、加熱処理を施さなくても、潤滑剤をその末端成分を介して媒体の表面に会合によって結合させ、かつ上記したように、潤滑剤の主鎖成分を媒体の表面を向いて配向させることができる。また、引き上げた後の媒体からは溶媒が自然に揮発してしまうので、乾燥工程を設ける必要もない。なお、潤滑剤溶液に媒体を浸漬し、引き続いて引き上げる工程は、1つの浸漬処理槽において浸漬位置と引き上げ位置を変更したほうが作業性が向上し、処理スピードの増加も図ることができる。
【0039】
また、潤滑剤の浸漬塗布は、潤滑剤の末端成分と親和性がある貧溶媒を含む前処理溶液における媒体の浸漬と、潤滑剤の主鎖成分と親和性がある良溶媒に潤滑剤を溶解して得た潤滑剤溶液における媒体の浸漬とを組み合わせて実施することが好ましい。特に、潤滑剤の末端成分と親和性がある貧溶媒を含む前処理溶液と、潤滑剤の主鎖成分と親和性がある良溶媒に潤滑剤を溶解して得た潤滑剤溶液とを用意し、これらの2つの溶液に順次媒体を浸漬することによって、潤滑剤の浸漬塗布を実施することが好ましい。
【0040】
さらに、潤滑剤の浸漬塗布に当たっては、前処理溶液の調製に使用する貧溶媒と、潤滑剤溶液の調製に使用する良溶媒の選択が重要である。すなわち、これらの2種類の選択如何で、潤滑剤分子の高配向を達成できることもあれば、潤滑剤分子を配向させ得ないこともあるからである。
【0041】
まず、貧溶媒の比重は、良溶媒の比重よりも小さいことが必要である。これは、1つの浸漬処理槽で潤滑剤の浸漬塗布を行う場合に、良溶媒を使用した潤滑剤溶液での浸漬処理に先がけて、貧溶媒を使用した前処理溶液での浸漬処理を行うことが好ましいからである。貧溶媒の比重が小さいと、浸漬処理槽内で相分離状態ができ、媒体は、上層の前処理溶液を通過した後に、その下の潤滑剤溶液を通過可能となり、両溶液による連続した浸漬処理を実現できる。
【0042】
また、上記した層分離状態をさらに確実なものとするため、貧溶媒と良溶媒は実質的に相溶性を有していないことが必要である。すなわち、貧溶媒と良溶媒は、たとえ混じり合ったとしても、完全には混じり合わない程度の相溶性しか有していないことが好ましい。
【0043】
さらに、貧溶媒は、潤滑剤の末端成分と親和性があり、一方、良溶媒は、潤滑剤の主鎖成分と親和性があることが必要であり、この要件がみたされないと、潤滑剤分子の満足できる配向を達成できない。ここで、「親和性」とは、供試溶媒の次式で定義される数値が、15cal/cm3以下であるか否かでもって規定することができる。すなわち、もしもその数値が15cal/cm3以下であるならば、その供試溶媒は高い親和性を有していると定義することができる。
【0044】
【数1】
【0045】
上式において、δは、溶解パラメータを意味し、文献:The Hoy Tables of Solubility Parameters, UNION CARBIDEに記載の手順に従って求めることができる。また、式中のH、P及びNPは、それぞれ、水素結合成分、極性成分、そして非極性成分を意味する。
【0046】
以上の要件を満足できる貧溶媒は、好ましくは、水もしくはアルコール系溶媒である。適当なアルコール系溶媒としては、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、メタノール、エタノールなどを挙げることができる。
【0047】
また、良溶媒は、好ましくは、潤滑剤を0.1重量%以上の量で溶解可能な溶媒である。さらに好ましくは、良溶媒はフッ素系溶媒である。適当なフッ素系溶媒としては、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、「フロリナート」(商品名、住友スリーエム社製)、フルオロアルカン類(一般式:CnHmFx)、フルオロポリエーテル類〔一般式:(CF2О)m(C2F4О)n〕などを挙げることができる。これらの良溶媒に、潤滑剤はいろいろな量で溶解して使用することができる。潤滑剤の濃度は、潤滑剤溶液の全量を基準にして、通常、約0.01〜0.20重量%の範囲であり、好ましくは、約0.02〜0.10重量%の範囲である。
【0048】
上記した前処理溶液と潤滑剤溶液を使用した潤滑剤の浸漬塗布において、媒体を前処理溶液に浸漬した後に続けて直ちに、すなわち、媒体を前処理溶液から引き上げたり別の処理に供しないで、前処理後の媒体を潤滑剤溶液に浸漬することが好ましい。この連続した浸漬処理は、特に、前処理溶液とその下の潤滑剤溶液とからなる2相構成の浸漬処理槽を用意し、媒体を前処理溶液及び潤滑剤溶液に順次浸漬することによって有利に実施することができる。さらに、本発明の実施では、媒体を潤滑剤溶液に浸漬して潤滑剤の浸漬塗布が完了した後、潤滑剤塗布後の媒体を処理溶液やその貧溶媒に再び接触させないことが好ましい。さらに、本発明の実施では、好ましいことに、熱エネルギーの付与、例えば加熱処理による配向処理を行うことは不必要である。
【0049】
さらに詳しく述べると、潤滑剤の浸漬塗布は、図6に模式的に示す浸漬処理槽を使用して有利に実施できる。なお、図示の例では、潤滑剤塗布のメカニズムをわかりやすく説明するため、媒体10が段階(I)から段階(V)まで順次移動している状態が示されている。
【0050】
浸漬処理槽20は、中央の仕切り23で2区画に区分されているが、仕切り23の下方が開放されているので、媒体10が図示のように移動可能である。浸漬処理槽20には、潤滑剤5の末端成分と親和性がある貧溶媒を含む前処理溶液21と、潤滑剤5の主鎖成分と親和性がある良溶媒に潤滑剤5を溶解して得た潤滑剤溶液22が収容されている。貧溶媒は良溶媒に比較して比重が小さいので、一方の区画で、潤滑剤溶液22の上に前処理溶液が分離した状態が確立されている。また、潤滑剤5は、潤滑剤溶液22に溶解された状態にあり、前処理溶液21中には入り込んでいない。
【0051】
このような浸漬処理槽20を使用して、まず、その前処理溶液21に媒体10(I)を浸漬する。この媒体は、カーボン保護膜を堆積した後のもので、好ましくは、表面改質のためにプラズマ処理されている。次いで、媒体10(II)が前処理溶液21から潤滑剤溶液22に移動すると、両溶液の界面で、図示のように媒体10に対する潤滑剤5の会合結合が発現する。すなわち、潤滑剤溶液22に前処理溶液、すなわち、潤滑剤5の末端成分と親和性があり、かつ主鎖成分と親和性のない溶媒(貧溶媒)との界面が存在するので、潤滑剤5の末端成分は貧溶媒の方向に配向可能である。ここで、潤滑剤溶液22と前処理溶液21の界面付近には秩序構造が持たせてあるので、媒体10(II)上でその方向に末端成分を配向させるとともに、その秩序構造を保持することができる。これは、前記したように、潤滑剤の末端成分と媒体表面の親和性が、潤滑剤の主鎖成分に比べて強いからである。
【0052】
引き続いて、媒体10は、段階(III)から(IV)のように潤滑剤溶液22内を移動し、この移動の間に媒体10に対する潤滑剤5の結合がさらに進行する。そして、潤滑剤層を表面に形成した媒体10(V)は、潤滑剤溶液22から引き上げられる。
【0053】
上記のようにして媒体上に形成される潤滑剤層は、その膜厚を広い範囲で変更することができる。潤滑剤層の膜厚は、通常、約0.1〜3.0nmの範囲であり、好ましくは、約0.5〜1.5nmの範囲である。
【0054】
本発明は、さらに、本発明の磁気記録媒体(磁気ディスク)を磁気ヘッドと組み合わせて備えた磁気ディスク装置にある。本発明の磁気ディスク装置において、その構造は特に限定されないというものの、基本的に、磁気ディスクにおいて情報の記録を行うための記録ヘッド部及び情報の再生を行うための再生ヘッド部を備えている装置を包含する。特に、再生ヘッド部は、近年における情報処理技術の発達に伴い、コンピュータの外部記憶装置に用いられる磁気ディスク装置に対して高密度化の要求が高まっていることを考慮して、従来の巻線型のインダクティブ薄膜磁気ヘッドに代えて、磁界の強さに応じて電気抵抗が変化する磁気抵抗素子を使用した磁気抵抗効果型ヘッド、すなわち、MRヘッドを使用することが推奨される。MRヘッドは、磁性体の電気抵抗が外部磁界により変化する磁気抵抗効果を記録媒体上の信号の再生に応用したもので、従来のインダクティブ薄膜磁気ヘッドに較べて数倍も大きな再生出力幅が得られること、イングクタンスが小さいこと、大きなS/N比が期待できること、などを特徴としている。また、このMRヘッドとともに、異方性磁気抵抗効果を利用したAMRヘッド、巨大磁気抵抗効果を利用したGMRヘッド、そしてその実用タイプであるスピンバルブGMRヘッドの使用も推奨される。
【0055】
本発明による磁気ディスク装置において、その記録ヘッド部及び再生ヘッド部は、図7及び図8に示すような積層構造とすることができる。図7は、本発明の磁気ディスク装置の原理図であり、図8は、図7の線分B−Bに沿った断面図である。
【0056】
図7及び図8において、参照番号11は、磁気ディスクへの情報の記録を行う誘導型の記録ヘッド部、そして参照番号12は、情報の読み出しを行う磁気抵抗効果型の再生ヘッド部である。記録ヘッド部11は、NiFe等からなる下部磁極(上部シールド層)13と、一定間隔をもって下部磁極13と対向したNiFe等からなる上部磁極14と、これらの磁極13及び14を励磁し、記録ギャップ部分にて、磁気ディスクに情報の記録を行わせるコイル15等から構成される。
【0057】
再生ヘッド部12は、好ましくはAMRヘッドやGMRヘッド等でもって構成されるものであり、その磁気抵抗効果素子部12A上には、磁気抵抗効果素子部12Aにセンス電流を供給するための一対の導体層16が記録トラック幅に相応する間隔をもって設けられている。ここで、導体層16の膜厚は、磁気抵抗効果素子部12Aの近傍部分16Aが薄く形成され、他の部分16Bは厚く形成されている。
【0058】
図7及び図8の構成では、導体層16の膜厚が、磁気抵抗効果素子部12Aの近傍部分16Aで薄くなっているため、下部磁極(上部シールド層)13等の湾曲が小さくなっている。このため、磁気ディスクに対向する記録ギャップの形状もあまり湾曲せず、情報の記録時における磁気ヘッドのトラック上の位置と読み出し時における磁気ヘッドのトラック上の位置に多少ずれがあっても、磁気ディスク装置は正確に情報を読み出すことができ、オフトラック量が小さいにもかかわらず読み出しの誤差が生じるという事態を避けることができる。
【0059】
一方、導体層16の膜厚が、磁気抵抗効果素子部12Aの近傍以外の部分16Bでは厚く形成されているため、導体層16の抵抗を全体として小さくすることもでき、その結果、磁気抵抗素子部12Aの抵抗変化を高感度で検出することが可能になり、S/N比が向上し、また、導体層16での発熱も避けることができ、発熱に起因したノイズの発生も防げる。
【0060】
本発明による磁気ディスク装置の好ましい一例は、図9及び図10に示す通りである。なお、図9は、磁気ヘッド付きのスライダを備えた磁気ディスク装置の平面図(ここでは、カバーを除いた状態を示す)であり、図10は、図9の線分A−Aに沿った断面図である。
【0061】
これらの図において、参照番号50は、ベースプレート51上に設けられたスピンドルモータ52によって回転駆動される磁気記録媒体としての複数枚(図示の態様では3枚)の磁気ディスクを示している。また、参照番号53は、ベースプレート51上に回転可能に設けられたアクチュエータである。このアクチュエータ53の一方の回転端部には、磁気ディスク50の記録面方向に延出する複数のヘッドアーム54が形成されている。このヘッドアーム54の回転端部には、スプリングアーム55が取り付けられ、更に、このスプリングアーム55のフレクシャー部に前述のスライダ40が図示しない絶縁膜を介して傾動可能に取り付けられている。一方、アクチュエータ53の他方の回転端部には、コイル57が設けられている。
【0062】
ベースプレート51上には、マグネット及びヨークで構成された磁気回路58が設けられ、この磁気回路58の磁気ギャップ内に、上記コイル57が配置されている。そして、磁気回路58とコイル57とでムービングコイル型のリニアモータ(VCM:ボイスコイルモータ)が構成されている。そして、これらベースプレート51の上部はカバー59で覆われている。
【0063】
次に、上記構成の磁気ディスク装置の作動を説明する。
【0064】
磁気ディスク50が停止している時には、スライダ40は磁気ディスク50の退避ゾーンに接触し停止している。
【0065】
次に、磁気ディスク50がスピンドルモータ52によって、高速で回転駆動されると、この磁気ディスク50の回転による発生する空気流によって、スライダ40は微小間隔をもってディスク面から浮上する。この状態でコイル57に電流を流すと、コイル57には推力が発生し、アクチュエータ53が回転する。これにより、ヘッド(スライダ40)を磁気ディスク50の所望のトラック上に移動させ、データのリード/ライトを行なうことができる。
【0066】
この磁気ディスク装置では、磁気ヘッドの導体層として、磁気抵抗効果素子部の近傍部分を薄く形成し他の部分を厚く形成したものを用いているため、記録ヘッド部の磁極の湾曲を小さくすると共に導体層の抵抗を下げ、オフトラックが小さい範囲であれば正確にかつ高感度に情報を読み出すことができる。
【0067】
【実施例】
引き続いて、本発明をその実施例を参照して説明する。
参考例
本例では、従来の方法により潤滑剤層を形成する場合に、潤滑剤塗布後の加熱処理が潤滑剤の配向にいかに有効であるかを確認した。
【0068】
下記の層構成を有する磁気ディスクを作製した。なお、現在商業的に入手可能な磁気ディスクは、さらに多層の構成を採用しているのが一般的であるが、ここでは、便宜的に単純な層構成の磁気ディスクを作製した。
【0069】
───────────────────
潤滑剤層(加熱処理なし、あり)
───────────────────
窒素ドープのカーボン保護膜
───────────────────
磁気記録層(CoCrPtTaNb)
───────────────────
下地層(CrMo10)
───────────────────
NiPメッキ付きアルミニウム基板
───────────────────
アルミニウム(Al)基板の上にNiPをメッキしてNiPメッキ層を形成した後、その表面を良く洗浄し、さらにテクスチャ処理を施して十分に平滑にした。得られたNiP/Al基板の表面にCrMo10(at%)下地層をDCマグネトロンスパッタ装置により成膜した。
【0070】
本例の場合、下地層の成膜前にスパッタ室内を3×10−7Torr以下に排気し、基板温度を280℃に高め、Arガスを導入してスパッタ室内を5mTorrに保持し、−200Vのバイアスを印加しながら、下地層としてのCrMoを30nm厚に成膜した。さらに、下地層の成膜に続けて、CoCrPtTaNb膜をそのBrtが100Gμm(27nm厚)となるように成膜した。成膜に使用したターゲットは、CoCrターゲットにPt、Ta、Nbチップを配置した複合ターゲットであった。
【0071】
次いで、FCA成膜装置を使用して、窒素ドープのカーボン保護膜を次のような条件で成膜した。
【0072】
アーク電流 80A
カソードコイル電流 10A
フィルタコイル電流 10A,6A
ラスタコイル電流 X:0A,Y:10A
基板は、膜厚分布改善のため、グラウンドに落として使用した。膜厚5nmの窒素ドープのカーボン保護膜が得られた。
【0073】
カーボン保護膜の形成後、その表面に潤滑剤層を形成した。潤滑剤(商品名「FОMBLIN Z TETRAОL」、アウジモント社製)を溶媒(商品名「フロリナートFC77」、住友スリーエム社製)に溶解して調製した潤滑剤溶液を入れた浸漬処理槽にNiP/Al基板を浸漬し、図11に示すように異なる膜厚を有する潤滑剤層を形成し、潤滑剤層を自然乾燥した。磁気ディスクA(潤滑剤層の加熱処理なし)が得られた。
【0074】
引き続いて、上述の手法を繰り返して図12に示すように異なる膜厚を有する潤滑剤層を形成した。次いで、それぞれのNiP/Al基板を熱風炉に入れ、120℃で1時間にわたって加熱処理した。磁気ディスクB(潤滑剤層の加熱処理あり)が得られた。
表面自由エネルギーの評価:
潤滑剤層の配向状態は、潤滑剤層の表面における表面自由エネルギーを求め、水素結合成分を見積もることで判断することができる。よって、次のような手順でそれぞれの磁気ディスク(潤滑剤層;以下、固体試料という)の表面自由エネルギーを求めた。
【0075】
液体試料として、下記のような表面自由エネルギーを有する溶媒を使用した。
【0076】
【表1】
【0077】
それぞれの液体試料に対する固体試料の接触角をJIS K6800に記載の指針に準じて測定した。
【0078】
固体試料の表面自由エネルギーをγS、液体試料の表面自由エネルギーをγL、固体試料/液体試料の接触角をθSL、固体試料/液体試料の界面自由エネルギーをγSLとすれば、次のようなYoungの式(1)が成立する。
【0079】
【数2】
【0080】
液体が固体表面に付着することにより安定化するエネルギーである接着仕事WSLは、次のようなDupreの式(2)に従う。
【0081】
【数3】
【0082】
以上の2式から、次のようなYoung−Dupreの式(3)が導出され、接着仕事は、液体の表面自由エネルギーと接触角から求められることとなる。
【0083】
【数4】
【0084】
ОwensとWendtは、この接着仕事に対して、表面自由エネルギーの各成分に幾何平均則を適用した。すなわち、次式(4)が成り立つとした。
【0085】
【数5】
【0086】
ここで、d及びhは、それぞれ、分散成分及び水素結合成分を意味する。
【0087】
2種類の液体(i,j;ここでは、水及びジヨードメタン)を用いれば、接着仕事について次の関係式(5)が成り立つ。
【0088】
【数6】
【0089】
従って、2種類の液体の接触角を実測し、接着仕事を求めれば、次の関係式(6)から固体の表面エネルギーを各成分ごとに求めることができる。
【0090】
【数7】
【0091】
図11は、磁気ディスクA(潤滑剤層の加熱処理なし)について、潤滑剤層の膜厚と表面自由エネルギーの関係をプロットしたグラフである。また、図12は、磁気ディスクB(潤滑剤層の加熱処理あり)について、潤滑剤層の膜厚と表面自由エネルギーの関係をプロットしたグラフである。
【0092】
図11のグラフから理解されるように、潤滑剤層に加熱処理を施さない場合には、潤滑剤層の膜厚が増加するとともに表面自由エネルギーが低下していくが、膜厚15Åを境にして増加に転じる。また、表面自由エネルギーの変化は、膜厚に対して滑らかでなく、バラツキが大きい。従って、加熱処理を伴わないと、安定した表面が形成されず、膜厚15Å以上では表面自由エネルギーが増加してしまう。また、このような望ましくない結果は、潤滑剤を塗布したままの潤滑剤層では潤滑剤の配向がランダムであることに原因があると考察される。
【0093】
一方、潤滑剤層に加熱処理を施した例を示す図12を参照すると、潤滑剤層の膜厚が増加するとともに表面自由エネルギーが単調に減少し、また、数値自体も、加熱処理を施さない場合と比較して小さくなっている。このことは、潤滑剤の配向が加熱処理によって促進されたことを立証している。
実施例
前記参考例と同様な層構成を有する磁気ディスクを作製した。但し、本例の場合、潤滑剤層の形成のため、先に図6を参照して説明したような2区画式の浸漬処理槽を用意し、次のような前処理溶液及び潤滑剤溶液を収容した。
【0094】
前処理溶液…貧溶媒(エタノール)
潤滑剤溶液…潤滑剤(商品名「FОMBLIN ZDОL」、アウジモント社製)を良溶媒(商品名「フロリナートFC77」、住友スリーエム社製)に溶解して調製。
【0095】
カーボン保護膜の形成後、NiP/Al基板を上述の浸漬処理槽に浸漬し、前処理溶液及び潤滑剤溶液の順で浸漬処理を行った。基板を潤滑剤溶液から引き上げて自然乾燥した。異なる膜厚を有する潤滑剤層を備えた磁気ディスクC(本発明例)が得られた。
【0096】
得られた磁気ディスクCについて、前記参考例と同様な手順に従って表面自由エネルギーを求めた。その結果、磁気ディスクCの表面自由エネルギーは、図12の磁気ディスクBとほぼ同じカーブを描き、潤滑剤層の膜厚が増加するとともに単調にかつなめらかに減少していくことが確認された。
【0097】
図13は、潤滑剤層の膜厚が10Åの時の、磁気ディスクA(A−10)、磁気ディスクB(B−10)及び磁気ディスクC(C−10)の表面自由エネルギーならびに潤滑剤層の膜厚が15Åの時の、磁気ディスクA(A−15)、磁気ディスクB(B−15)及び磁気ディスクC(C−15)の表面自由エネルギーをプロットしたグラフである。このグラフから理解できるように、本発明に従って潤滑剤層を形成した場合と、従来の方法に従って加熱処理を伴って潤滑剤層を形成した場合には、比較可能な程度に低い表面自由エネルギーを実現することができる。このことは、本発明に従って潤滑剤層を形成した場合には、潤滑剤について満足できる配向促進効果を達成できるということを立証している。
【0098】
以上、本発明を特にその好ましい実施の形態及び実施例を参照して説明した。引き続いて、本発明のさらなる理解のために、本発明の好ましい態様を「付記」としてまとめて記載する。
【0099】
(付記1)媒体の表面に潤滑剤を塗布する方法であって、
主鎖成分と、該主鎖成分の少なくとも1端に結合したものであって、前記主鎖成分と化学的性質を異にする末端成分とを1つの分子内に有する潤滑剤を含む潤滑剤溶液に前記媒体を浸漬し、前記潤滑剤溶液から引き上げた後の前記媒体において、前記潤滑剤を前記末端成分を介して前記媒体の表面に会合によって結合させ、かつ前記主鎖成分を前記媒体の表面を向いて配向させることを特徴とする潤滑剤の塗布方法。
【0100】
(付記2)前記主鎖成分の両端に前記末端成分が結合した分子構造をもった潤滑剤を使用し、前記末端成分を前記媒体の表面に会合によって結合させるとともに、前記末端成分どうしを橋架けた前記主鎖成分を前記媒体の表面を向いて配向させることを特徴とする付記1に記載の潤滑剤の塗布方法。
【0101】
(付記3)前記潤滑剤の分子において、前記主鎖成分が撥水性を示し、かつ前記末端成分が親水性を示すことを特徴とする付記1又は2に記載の潤滑剤の塗布方法。
【0102】
(付記4)前記潤滑剤が、フッ素化炭化水素化合物であることを特徴とする付記1〜3のいずれか1項に記載の潤滑剤の塗布方法。
【0103】
(付記5)前記フッ素化炭化水素化合物において、その主鎖成分がパーフルオロポリエーテルからなり、かつその末端成分が水酸基からなることを特徴とする付記4に記載の潤滑剤の塗布方法。
【0104】
(付記6)前記潤滑剤の末端成分と親和性がある貧溶媒を含む前処理溶液と、前記潤滑剤の主鎖成分と親和性がある良溶媒に潤滑剤を溶解して得た潤滑剤溶液を組み合わせて使用することを特徴とする付記1〜5のいずれか1項に記載の潤滑剤の塗布方法。
【0105】
(付記7)前記貧溶媒の比重が前記良溶媒の比重よりも小さく、かつ前記貧溶媒と前記良溶媒は実質的に相溶性を有していないことを特徴とする付記6に記載の潤滑剤の塗布方法。
【0106】
(付記8)前記貧溶媒が水もしくはアルコール系溶媒であり、かつ前記良溶媒がフッ素系溶媒であることを特徴とする付記6又は7に記載の潤滑剤の塗布方法。
【0107】
(付記9)前記媒体を前記前処理溶液に浸漬した後に続けて、前記前処理媒体を前記潤滑剤溶液に浸漬することを特徴とする付記6〜8のいずれか1項に記載の潤滑剤の塗布方法。
【0108】
(付記10)前記前処理溶液とその下の前記潤滑剤溶液とからなる2相構成の浸漬処理槽を用意し、前記媒体を前記前処理溶液及び前記潤滑剤溶液に順次通過させることを特徴とする付記6〜9のいずれか1項に記載の潤滑剤の塗布方法。
【0109】
(付記11)前記潤滑剤溶液を通過させた後、潤滑剤塗布後の前記媒体を前記前処理溶液あるいはその貧溶媒と接触させないことを特徴とする付記10に記載の潤滑剤の塗布方法。
【0110】
(付記12)熱エネルギーの付与による配向処理を伴わないことを特徴とする付記1〜11のいずれか1項に記載の潤滑剤の塗布方法。
【0111】
(付記13)前記潤滑剤を0.1〜3.0nmの膜厚で塗布することを特徴とする付記1〜12のいずれか1項に記載の潤滑剤の塗布方法。
【0112】
(付記14)前記媒体が、その表面にカーボン保護膜を有する磁気記録媒体であることを特徴とする付記1〜13のいずれか1項に記載の潤滑剤の塗布方法。
【0113】
(付記15)媒体の表面に形成された潤滑剤層であって、
主鎖成分と、該主鎖成分の少なくとも1端に結合したものであって、前記主鎖成分と化学的性質を異にする末端成分とを1つの分子内に有する潤滑剤が前記末端成分を介して前記媒体の表面に会合によって結合しており、前記主鎖成分が前記媒体の表面を向いて配向していることを特徴とする潤滑剤層。
【0114】
(付記16)前記潤滑剤が、前記主鎖成分の両端に前記末端成分が結合した分子構造を有しており、前記末端成分が前記媒体の表面に会合によって結合しているとともに、前記末端成分どうしを橋架けた前記主鎖成分が前記媒体の表面を向いて配向していることを特徴とする付記15に記載の潤滑剤層。
【0115】
(付記17)前記潤滑剤の分子において、前記主鎖成分が撥水性を示し、かつ前記末端成分が親水性を示すことを特徴とする付記15又は16に記載の潤滑剤層。
【0116】
(付記18)前記潤滑剤が、フッ素化炭化水素化合物であることを特徴とする付記15〜17にいずれか1項に記載の潤滑剤層。
【0117】
(付記19)前記フッ素化炭化水素化合物において、その主鎖成分がパーフルオロポリエーテルからなり、かつその末端成分が水酸基からなることを特徴とする付記18に記載の潤滑剤層。
【0118】
(付記20)前記潤滑剤の分子が、前記潤滑剤の末端成分と親和性がある貧溶媒を含む前処理溶液と、前記潤滑剤の主鎖成分と親和性がある良溶媒に潤滑剤を溶解して得た潤滑剤溶液に前記媒体を順次浸漬することによって配向されていることを特徴とする付記15〜19のいずれか1項に記載の潤滑剤層。
【0119】
(付記21)前記潤滑剤の分子が、熱エネルギーの付与によって配向されていないことを特徴とする付記15〜20のいずれか1項に記載の潤滑剤層。
【0120】
(付記22)前記潤滑剤の膜厚が、0.1〜3.0nmの範囲であることを特徴とする付記15〜21のいずれか1項に記載の潤滑剤層。
【0121】
(付記23)前記媒体が、その表面にカーボン保護膜を有する磁気記録媒体であり、前記カーボン保護膜の上に前記潤滑剤層が塗被されていることを特徴とする付記15〜22のいずれか1項に記載の潤滑剤層。
【0122】
(付記24)潤滑剤層を表面に有する磁気記録媒体であって、
主鎖成分と、該主鎖成分の少なくとも1端に結合したものであって、前記主鎖成分と化学的性質を異にする末端成分とを1つの分子内に有する潤滑剤が前記末端成分を介して前記磁気記録媒体の表面に会合によって結合しており、前記主鎖成分が前記磁気記録媒体の表面を向いて配向していることを特徴とする磁気記録媒体。
【0123】
(付記25)前記潤滑剤層が、付記16〜22のいずれか1項に記載の潤滑剤層であることを特徴とする付記24に記載の磁気記録媒体。
【0124】
(付記26)前記磁気記録媒体が、非磁性の基板と、該基板の上に順に形成された磁気記録層及びカーボン保護膜を含むことを特徴とする付記24又は25に記載の磁気記録媒体。
【0125】
(付記27)磁気記録媒体において情報の記録を行うための記録ヘッド及び情報の再生を行うための再生ヘッドを備えた磁気ディスク装置であって、
前記磁気記録媒体が、潤滑剤層を表面に有する磁気ディスクであって、主鎖成分と、該主鎖成分の少なくとも1端に結合したものであって、前記主鎖成分と化学的性質を異にする末端成分とを1つの分子内に有する潤滑剤が前記末端成分を介して前記磁気ディスクの表面に会合によって結合しており、前記主鎖成分が前記磁気ディスクの表面を向いて配向していることを特徴とする磁気ディスク装置。
【0126】
(付記28)前記潤滑剤層が、付記16〜22のいずれか1項に記載の潤滑剤層であることを特徴とする付記27に記載の磁気ディスク装置。
【0127】
(付記29)前記磁気ディスクが、非磁性の基板と、該基板の上に順に形成された磁気記録層及びカーボン保護膜を含むことを特徴とする付記27又は28に記載の磁気ディスク装置。
【0128】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明によれば、潤滑剤分子の配向のために従来必須であった加熱処理を省略し、潤滑剤層を自然乾燥することができるので、潤滑剤層の形成時、工数及び処理時間の短縮、製造コストの低減などを図ることができる。
【0129】
また、潤滑剤の浸漬塗布に際して複合浸漬処理槽を使用できるので、連続処理によって処理時間の短縮及び大量生産が可能となる。
【0130】
また、本発明によれば、配向力が高く、かつ薄く濡れ広がった潤滑剤層を形成することができる。
【0131】
さらに、本発明によれば、配向力が高く、かつ薄く濡れ広がった潤滑剤層を備えた、低工数及び低コストで製造が可能な高信頼性の磁気記録媒体を提供することができる。
【0132】
さらにまた、本発明によれば、低コスト及び高信頼性の磁気ディスク装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の磁気記録媒体における炭素質保護膜に対する潤滑層の固着状態を模式的に示した断面図である。
【図2】本発明による磁気記録媒体の好ましい1実施形態を示した断面図である。
【図3】本発明で潤滑剤層の形成に用いられる潤滑剤分子を模式的に示した分子モデル図である。
【図4】本発明の磁気記録媒体におけるカーボン保護膜に対する潤滑剤層の固着状態を模式的に示した断面図である。
【図5】本発明の磁気記録媒体におけるカーボン保護膜に対する潤滑剤層の固着状態を模式的に示した断面図である。
【図6】本発明の磁気記録媒体における潤滑剤層の形成手順を模式的に示した断面図である。
【図7】本発明の磁気ディスク装置の原理を示す断面図である。
【図8】図7の磁気ディスク装置の線分B−Bに沿った断面図である。
【図9】本発明の磁気ディスク装置の好ましい1例を示す平面図である。
【図10】図9の磁気ディスク装置の線分A−Aに沿った断面図である。
【図11】参考の磁気ディスクについて、加熱処理を施さなかった潤滑剤層の膜厚と表面自由エネルギーの関係をプロットしたグラフである。
【図12】参考の磁気ディスクについて、加熱処理を施した潤滑剤層の膜厚と表面自由エネルギーの関係をプロットしたグラフである。
【図13】異なる磁気ディスクについて、潤滑剤層の膜厚と表面自由エネルギーの関係をプロットしたグラフである。
【符号の説明】
1…基板
2…下地層
3…磁気記録層
4…カーボン保護膜
5…潤滑剤層(潤滑剤分子)
10…磁気記録媒体(磁気ディスク)
20…浸漬処理槽
21…前処理溶液
22…潤滑剤溶液
23…仕切り
Claims (10)
- 媒体の表面に潤滑剤を塗布する方法であって、
主鎖成分と、該主鎖成分の少なくとも1端に結合したものであって、前記主鎖成分と化学的性質を異にする末端成分とを1つの分子内に有する潤滑剤を含む潤滑剤溶液に前記媒体を浸漬し、前記潤滑剤溶液から引き上げた後の前記媒体において、前記潤滑剤を前記末端成分を介して前記媒体の表面に会合によって結合させ、かつ前記主鎖成分を前記媒体の表面を向いて配向させることを特徴とする潤滑剤の塗布方法。 - 前記主鎖成分の両端に前記末端成分が結合した分子構造をもった潤滑剤を使用し、前記末端成分を前記媒体の表面に会合によって結合させるとともに、前記末端成分どうしを橋架けた前記主鎖成分を前記媒体の表面を向いて配向させることを特徴とする請求項1に記載の潤滑剤の塗布方法。
- 前記潤滑剤の分子において、前記主鎖成分が撥水性を示し、かつ前記末端成分が親水性を示すことを特徴とする請求項1又は2に記載の潤滑剤の塗布方法。
- 前記潤滑剤の末端成分と親和性がある貧溶媒を含む前処理溶液と、前記潤滑剤の主鎖成分と親和性がある良溶媒に潤滑剤を溶解して得た潤滑剤溶液を組み合わせて使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の潤滑剤の塗布方法。
- 前記貧溶媒の比重が前記良溶媒の比重よりも小さく、かつ前記貧溶媒と前記良溶媒は実質的に相溶性を有していないことを特徴とする請求項4に記載の潤滑剤の塗布方法。
- 前記媒体を前記前処理溶液に浸漬した後に続けて、前記前処理媒体を前記潤滑剤溶液に浸漬することを特徴とする請求項4又は5に記載の潤滑剤の塗布方法。
- 媒体の表面に形成された潤滑剤層であって、
主鎖成分と、該主鎖成分の少なくとも1端に結合したものであって、前記主鎖成分と化学的性質を異にする末端成分とを1つの分子内に有する潤滑剤が前記末端成分を介して前記媒体の表面に会合によって結合しており、前記主鎖成分が前記媒体の表面を向いて配向していることを特徴とする潤滑剤層。 - 潤滑剤層を表面に有する磁気記録媒体であって、
主鎖成分と、該主鎖成分の少なくとも1端に結合したものであって、前記主鎖成分と化学的性質を異にする末端成分とを1つの分子内に有する潤滑剤が前記末端成分を介して前記磁気記録媒体の表面に会合によって結合しており、前記主鎖成分が前記磁気記録媒体の表面を向いて配向していることを特徴とする磁気記録媒体。 - 前記磁気記録媒体が、非磁性の基板と、該基板の上に順に形成された磁気記録層及びカーボン保護膜を含むことを特徴とする請求項8に記載の磁気記録媒体。
- 磁気記録媒体において情報の記録を行うための記録ヘッド及び情報の再生を行うための再生ヘッドを備えた磁気ディスク装置であって、
前記磁気記録媒体が、潤滑剤層を表面に有する磁気ディスクであって、主鎖成分と、該主鎖成分の少なくとも1端に結合したものであって、前記主鎖成分と化学的性質を異にする末端成分とを1つの分子内に有する潤滑剤が前記末端成分を介して前記磁気ディスクの表面に会合によって結合しており、前記主鎖成分が前記磁気ディスクの表面を向いて配向していることを特徴とする磁気ディスク装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002249184A JP2004087042A (ja) | 2002-08-28 | 2002-08-28 | 潤滑剤塗布方法、潤滑剤層、磁気記録媒体及び磁気ディスク装置 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2002249184A JP2004087042A (ja) | 2002-08-28 | 2002-08-28 | 潤滑剤塗布方法、潤滑剤層、磁気記録媒体及び磁気ディスク装置 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2004087042A true JP2004087042A (ja) | 2004-03-18 |
Family
ID=32056373
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2002249184A Withdrawn JP2004087042A (ja) | 2002-08-28 | 2002-08-28 | 潤滑剤塗布方法、潤滑剤層、磁気記録媒体及び磁気ディスク装置 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2004087042A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2010282705A (ja) * | 2009-06-08 | 2010-12-16 | Fuji Electric Device Technology Co Ltd | 磁気記録媒体の表面エネルギーの極性成分を解析する方法 |
-
2002
- 2002-08-28 JP JP2002249184A patent/JP2004087042A/ja not_active Withdrawn
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2010282705A (ja) * | 2009-06-08 | 2010-12-16 | Fuji Electric Device Technology Co Ltd | 磁気記録媒体の表面エネルギーの極性成分を解析する方法 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
JP3803180B2 (ja) | 磁気記録媒体及びその製造方法ならびに磁気ディスク装置 | |
WO2002054390A1 (fr) | Support d'enregistrement magnetique et son procede de fabrication, dispositif de stockage magnetique | |
US8043734B2 (en) | Oxidized conformal capping layer | |
US20060029806A1 (en) | Carbonaceous protective layer, magnetic recording medium, production method thereof, and magnetic disk apparatus | |
US9123366B2 (en) | Disc drive with magnetic self-assembled monolayer | |
US8767350B2 (en) | Magnetic recording medium having recording regions and separating regions and methods of manufacturing the same | |
CN114446327A (zh) | 具有用于记录层的多层底层的热辅助磁记录(hamr)介质 | |
US6974642B2 (en) | Carbonaceous protective layer, magnetic recording medium, production method thereof, and magnetic disk apparatus | |
WO2000074042A1 (fr) | Support d'enregistrement magnetique, procede de fabrication dudit support et dispositif d'enregistrement magnetique | |
US6129981A (en) | Magnetic recording medium and magnetic recording disk device | |
JP4199913B2 (ja) | 磁気記録媒体の製造方法 | |
US6477011B1 (en) | Magnetic recording device having an improved slider | |
US5945190A (en) | Magnetic recording medium and magnetic disk device | |
KR20050012227A (ko) | 수직 자기 기록 매체와 그것을 갖춘 자기 기록 장치 및수직 자기 기록 매체의 제조방법 및 제조장치 | |
JP3657196B2 (ja) | 磁気記録媒体及び磁気ディスク装置 | |
JP2002032907A (ja) | カーボン保護膜、磁気記録媒体及びそれらの製造方法ならびに磁気ディスク装置 | |
JP2004087042A (ja) | 潤滑剤塗布方法、潤滑剤層、磁気記録媒体及び磁気ディスク装置 | |
JP2011192320A (ja) | 垂直磁気記録媒体 | |
US11398247B1 (en) | Magnetic recording media with oxidized pre-seed layer | |
US6699601B1 (en) | Magnetic recording medium, method of producing the medium, and magnetic disk apparatus | |
US11508405B1 (en) | Magnetic recording media with plasma-polished pre-seed layer or substrate | |
JP3864637B2 (ja) | 磁気記録媒体 | |
US20060019125A1 (en) | Magnetic recording medium and production method thereof as well as magnetic disc device | |
JP2003109339A (ja) | 磁気ヘッドスライダおよびその製造方法ならびにヘッドスライダ組立体 | |
JP2000113443A (ja) | 磁気記録媒体及び磁気ディスク装置 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A300 | Withdrawal of application because of no request for examination |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A300 Effective date: 20051101 |