JP2004085305A - 癌の診断方法 - Google Patents
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Abstract
【構成】患者由来の試料中のIL−1raおよびIL−6濃度を測定し、それらの比に基づいて、癌の診断、癌の悪性度の判定および患者の予後を客観的に判定する方法を提供する。
【効果】IL−1ra/IL−6濃度比は、癌の進行度および悪性度、および患者の予後を反映してものである。IL−1ra/IL−6濃度比の相対的減少は癌疾患の存在、あるいは癌の悪性度がより高いこと、あるいは患者の予後がより乏しいことを示唆する。
【選択図】 なし
【効果】IL−1ra/IL−6濃度比は、癌の進行度および悪性度、および患者の予後を反映してものである。IL−1ra/IL−6濃度比の相対的減少は癌疾患の存在、あるいは癌の悪性度がより高いこと、あるいは患者の予後がより乏しいことを示唆する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、癌の診断方法、および癌の悪性度あるいは癌患者の予後を判定するための方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
インターロイキン1(IL−1)−インターロイキン6(IL−6)ネットワークは最も強力な炎症性サイトカインカスケードである。IL−1βはオートクリン的にIL−6産生を誘導するので、IL−1βの生物学的効果は、細胞増殖のようなIL−6により誘導されるいくつかの実験的効果とほぼ同じである(Cancer Res., 58, 3132−41, 1998、Cancer 80, 421−34, 1997、Br. J. Cancer 80,1506−11, 1999、Hematol. Oncol. Clin. North. Am 13, 1117−25, 1999、Cancer Res. 58, 3142−9, 1998、Nature 332, 83−5, 1988、FEBS Lett. 250, 607−10,
1989)。
【0003】
IL−1−IL−6ネットワークはサイトカイン阻害物質であるインターロイキン1受容体アンタゴニスト(以下、IL−1raと略記する。)および抗炎症性サイトカインであるインターロイキン10(IL−10)によりダウンレギュレーションを受ける。天然に存在する抗炎症性タンパクであるIL−1raは、IL−1αおよびIL−1βがタイプIおよびタイプII受容体へ結合するのを、アゴニスト活性や生物学的作用を発揮することなく、拮抗的に阻害する(J. Acquir Immune Defic. Synd. Hum. Retrovirol. 16, 340−2, 1997、J. Clin. Invest. 99, 2930−40, 1997)。対照的に、IL−10はTリンパ球とマクロファージ両者の機能を抑制することによってIL−6産生を間接的に阻害し、免疫反応および炎症反応に対する一般的な調節弁として働く(Brain Res. 77, 138−47, 2000、Am. J. Obstet. Gynecol 175, 1057−65, 1996)。
【0004】
IL−1−IL−6ネットワークは腫瘍増殖因子として働くことが知られており、腫瘍細胞表面の特異的膜受容体に作用して腫瘍細胞の増殖や生存期間延長をもたらす(Br. J. Cancer 80, 1506−11, 1999、Hematol. Oncol. Clin. North. Am 13, 1117−25, 1999、Cancer Res. 58, 3142−9, 1998、Nature 332, 83−5, 1988、FEBS Lett. 250, 607−10, 1989)。
【0005】
本発明者らも、大腸癌細胞の細胞質に強い免疫反応性IL−6が存在する一方、免疫反応性IL−6受容体が大腸癌細胞の細胞膜に認められ、IL−6オートクリンメカニズムの存在が示唆されることを以前報告している(Cancer 85, 2526−31, 1999)。対照的にIL−1raは、ある種の消化器系癌細胞株において、IL−6タンパクだけでなくIL−1αおよびIL−1βの分泌を阻害することが報告された(Cancer Res. 58, 3142−9, 1998)。
【0006】
また、IL−1raを誘導すると、ミエローマ、メラノーマおよび白血病細胞に対し、抗炎症および抗増殖作用をもたらすことも報告されている(Stem Cells2, 28−34, 1995、Leukemia 6, 898−901, 1992、Cancer Res. 54, 2667−72, 1994)。IL−1raの産生はIL−1よりはむしろIL−6により制御されていることが知られている(Cancer Res. 55, 921−7, 1995、J. Immunol. 152, 5041−9, 1994、Clin. Exp. Rheumatol. 13, 779−84, 1995、Blood 83, 113−8, 1994)。
【0007】
頭部および頸部扁平上皮細胞癌の患者では、癌組織中のIL−1ra/IL−1比が減少していることが報告されている(Cancer Res., 58, 3132−41, 1998)。また、白血病細胞においては、IL−1およびその天然の受容体アンタゴニスト合成のアンバランスが無制限の細胞増殖と関連していることが報告されている(Blood 78, 3248−53, 1991)。
【0008】
分子遺伝学の進歩により、発癌遺伝子の活性化や腫瘍抑制遺伝子の不活性化を含む遺伝子変異の蓄積が腫瘍の発生や増殖に必要なことが解ってきた(J. Hepatol. 27, 669−76, 1997、Southeast Asian J. Trop Med. Public Health 26 Suppl 1, 190−6, 1995)。最近の研究では、炎症性サイトカインが転写活性化因子としてp53活性を抑制する可能性が示されている(J. Exp. Med. 190, 1367−70,1999)。MarguliesとSehgalは、p53がサイトカイン合成の制御のみならず腫瘍細胞のサイトカインに対する反応性の変化に関与しているという証拠を示している(J. Biol. Chem. 268, 15096−100, 1993)。多くの悪性腫瘍細胞株において、IL−6遺伝子の発現が恒常的にアップレギュレーションされていることが明らかにされ、腫瘍抑制遺伝子の変異がIL−6遺伝子プロモーターのアップレギュレーションに関与していると想定されてきた(Cancer Res. 58, 3142−9, 1998、J. Hepatol. 27, 669−76, 1997、Cell Biol. Int. 24, 195−209, 2000)。
【0009】
染色体17pの一方の染色体の相同性の欠失がp53遺伝子変化をもたらし、結果的に細胞増殖性に変化を与えると考えられている(Int. J. Oncol. 13, 319−23, 1998)。染色体18q21の一方の染色体の相同性の欠失もまた、しばしば大腸癌において認められる。18q21に存在するSMAD−2およびSMAD−4遺伝子は大腸癌で働く腫瘍抑制遺伝子の候補として同定されてきたものである(Int. J. Cancer 82, 197−202, 1999、Br. J. Cancer 80, 194−205, 1999、Oncogene 18, 3098−103, 1999、Br. J. Cancer 78, 1152−5, 1998)。これら遺伝子が不活性化されると、ヒト大腸癌が遠位転移するような段階に進行する(Oncogene 18, 3098−103, 1999)。これらタンパクはTransforming growth factor(TGF)−βファミリーの細胞内シグナリングの主要因子として、また、TGF−βに対する転写および抗増殖反応の重要因子として同定されてきたものである(Oncogene 18, 3098−103, 1999)。DCC遺伝子は、細胞接着分子と似たアミノ酸配列を持つタンパクをコードする別の腫瘍抑制遺伝子候補である(Surg. Today 25, 1001−7, 1995、 Genomics 19, 525−31, 1994)。DCC遺伝子は染色体18qに位置し、癌や進行した腺腫においてしばしば欠失している(NatureMed. 1, 902−9, 1995、 N. Engl. J. Med. 319, 525−32, 1988)。それゆえに、IL−1−IL−6制御システムは腫瘍抑制遺伝子や発癌遺伝子のようないくつかの因子と相互作用すると考えられている。
【0010】
大腸癌(colorectal carcinoma)は老人によくみられる悪性の疾患である。従来は欧米において発症率が特に高かったが、日本においても食生活の欧米化により年々発症率が増加している。この癌は、しばしば、リンパ管および血管を介して他の臓器に転移する。大腸癌に罹患した多くの患者は、最終的にはこの疾患によって死亡する。実際、日本だけでも年間約10万例の大腸癌が発生している。
【0011】
しかし、早期に診断されれば、大腸癌は、癌性組織の外科手術による除去によって効果的に治療しうる。大腸癌は、大腸の上皮に由来し、多くの場合、発症の初期段階では高度に血管化せず、侵襲性ではない。高度に血管化され、侵襲性となり、最終的に転移性の癌に移行するには、一般に、10年またはそれ以上を要する。癌が侵襲性になる前に検出された場合は、癌性組織の外科手術による除去が有効な治療である。
【0012】
従って、初期の疾患段階で、治療の開始前に個々の患者の癌の進行度を同定できる診断法が必要とされている。癌の悪性度の同定は、一般的には、病理学者が組織切片の特徴を検査することにより行われている。この場合、標本を観察する観察者の技術レベルが一定でないことおよび観察者の主観が入るという欠点がある。組織切片の病理組織学的検査よりも、個々の患者の癌の悪性度を正確にかつ簡便におこなえる検査法が必要とされている。また、自覚症状が出る前に癌を検出できれば、疾患の初期段階で治療を開始できるであろうし、大きな治療効果が見込めるであろう。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
IL−1−IL−6ネットワークを解明することによって癌の診断、癌の悪性度の判定、患者の予後の判定方法および腫瘍増殖を制御する新しい治療的アプローチが得られると思われるけれども、大腸癌におけるIL−1−IL−6ネットワークについて、炎症性サイトカインとその阻害物質のバランスに焦点を当てた研究は未だ十分なされていなかった。
従って、本発明の課題は、患者由来の試料中のIL−1raおよびIL−6濃度を測定し、それらの比を算出することによって癌の診断、癌の悪性度の判定および患者の予後を判定する新しい方法を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、免疫反応性IL−1raが癌細胞の細胞質に存在すること、癌組織中のIL−1ra濃度が正常粘膜および腺腫よりも有意に高いことを見出した。このことは腫瘍細胞が腫瘍増殖性サイトカインだけでなく、腫瘍増殖にとって好ましくない局所環境を作り出す抗増殖性サイトカインを産生しうることを示唆している。本発明者らはまた、腫瘍組織中のIL−1ra/IL−6比が発癌および癌の進行過程で減少することを見出した。さらに、IL−1ra−IL−6ネットワークシステムの悪化が、腫瘍抑制遺伝子の遺伝子変化を反映する染色体18q座での相同性の消失と相関していることを見出し本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明は、患者由来の試料(組織、細胞または体液(血液または尿試料等))中のIL−1raおよびIL−6濃度を測定し、それらの濃度比に基づいて癌の診断、癌の悪性度の判定および患者の予後を判定する方法に関する。本発明の診断方法および判定方法の対象となる好適な癌は大腸癌、胃癌および乳癌である。
【0016】
より詳しく言えば、本発明は下記の1〜7の癌の診断方法および8〜14の癌の悪性度の判定方法に関する。
1.試料中のIL−1受容体アンタゴニスト(IL−1ra)およびIL−6濃度を測定し、その濃度比を指標にして判断することを特徴とする癌の診断方法。
2.試料が、組織、細胞または体液である前記1記載の癌の診断方法。
3.IL−1raおよびIL−6タンパク質を測定してIL−1raおよびIL−6濃度を測定する前記1記載の癌の診断方法。
4.IL−1raおよびIL−6タンパクの各々の抗体を用いてIL−1raおよびIL−6タンパク質を測定する前記3記載の癌の診断方法。
5.癌が大腸癌である前記4記載の癌の診断方法。
6.癌が胃癌である前記4記載の癌の診断方法。
7.癌が乳癌である前記4記載の癌の診断方法。
8.試料中のIL−1受容体アンタゴニストおよびIL−6濃度を測定し、その濃度比を指標として判断することを特徴とする癌の悪性度の判定方法。
9.試料が、組織、細胞または体液である前記8記載の癌の悪性度の判定方法。
10.IL−1raおよびIL−6タンパク質を測定してIL−1raおよびIL−6濃度を測定する前記8記載の癌の悪性度の判定方法。
11.IL−1raおよびIL−6タンパクの各々の抗体を用いてIL−1raおよびIL−6タンパク質を測定する前記10記載の癌の悪性度の判定方法。
12.癌が大腸癌である前記11記載の癌の悪性度の判定方法。
13.癌が胃癌である前記11記載の癌の悪性度の判定方法。
14.癌が乳癌である前記11記載の癌の悪性度の判定方法。
【0017】
本明細書において、「予後」とは本来の医学的な意味、すなわち、疾患からの回復の見込みを意味する。また、「対立遺伝子」とは対立形質を支配する2つ以上の遺伝子、あるいは染色体上の同じ座位を占める遺伝子の中で突然変異などのために生じた異なる塩基配列をもつ遺伝子を意味する。
【0018】
組織試料は、当業者に周知である慣用的な生検技術または外科手術によって癌患者から取り出される。次に、その試料はIL−1ra、IL−6、IL−1βまたはIL−10発現レベルの測定、およびPCR(polymerase chain reaction) 用に調製される。
【0019】
組織試料中のIL−1ra、IL−6、IL−1βまたはIL−10発現の相対レベルの測定は、組織試料中のIL−1ra、IL−6、IL−1βまたはIL−10のRNA転写物、特に、mRNA転写物の相対数を測定すること、または組織試料中のIL−1ra、IL−6、IL−1βまたはIL−10のタンパク質の相対レベルを測定することを含む。好ましくは、組織試料中のIL−1ra、IL−6、IL−1βまたはIL−10タンパク質の相対レベルは、これらタンパク質を結合する抗体を組織試料と接触させる免疫学的方法により測定される。免疫学的方法には、免疫学的定量方法(ELISA法、RIA法、蛍光抗体法等)、ウェスタンブロッティング法および免疫組織染色法が含まれる。
【0020】
免疫学的定量方法としては、例えばIL−1raを結合する固相化されたモノクローナル抗体および/またはその可変領域からなる抗体結合部位を含む抗体フラグメントと、これらモノクローナル抗体および/またはその可変領域からなる抗体結合部位を含む抗体フラグメントとは認識部位を異にする、標識化された第2のモノクローナル抗体および/またはその可変領域からなる抗体結合部位を含む抗体フラグメントとを用いる方法を挙げることができる(サンドイッチELISA法と呼ばれる)。
【0021】
ウェスタンブロッティング法は、SDSポリアクリルアミドゲルを用いてゲル上のタンパク質試料を拡散させ、そのゲルを硝酸セルロースフィルターにブロッティングし、標識抗体をフィルターに接触させることによって行うことができる。
免疫組織染色法は組織試料を脱水、定着の後、タンパク質に特異的な標識抗体を反応させることによって行うことができる。標識方法としては、酵素標識、蛍光標識、蛍光発光標識等を例示することができ、通常、目視により検出される。
【0022】
サンドイッチELISA法
以下に、IL−1raを例として、サンドイッチELISA法について説明する。抗ヒトIL−1raモノクローナル抗体を担体に固相化し(固相化一次抗体)、これに組織試料(組織抽出液、血液(血清)や尿等)を加え、抗原抗体反応により試料中のヒトIL−1raを固相化一次抗体に結合させる。次に、酵素標識した異なる種類の抗ヒトIL−1raモノクローナル抗体(酵素標識二次抗体)を反応させ、抗原抗体反応により酵素標識二次抗体を上記固相化一次抗体に結合している抗原に結合させる。その後、抗原に結合しなかった酵素標識二次抗体を除去し、基質を加えて酵素反応を行うことにより、既知量のヒトIL−1raと二次抗体に標識した酵素活性との関係を示す検量線から、試料中のヒトIL−1ra量を求めることができる。
【0023】
上記サンドイッチELISA法において、モノクローナル抗体に代えて、ヒトIL−1raを特異的に結合できる抗体フラグメント、例えば、モノクローナル抗体をペプシンで消化して得られるF(ab′)2、モノクローナル抗体をパパインで消化して得られるFab等の抗体可変領域からなる抗体結合部位を含むヒトIL−1raに結合する抗体フラグメントを使用することもできる。また、これらモノクローナル抗体、抗体フラグメントに標識する酵素としては、βーガラクトシダーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ等を例示することができ、これら酵素は、慣用的な方法(酵素標識法(生物化学実験法27)第1版、学会出版センター、1991年、等)により標識することができる。また、これら酵素に代えて、例えば、125I、32P、35S、3H等のラジオアイソトープやFITC(フルオレセインイソシアネート)、テトラメチルローダミンイソシアネート等の蛍光物質や、GFP(グリーン蛍光タンパク質)等の蛍光発色タンパク質などを融合させた融合タンパク質を用いることもできる。また、固相としては、マイクロプレート、試験管、シリコン、ナイロン、プラスチック、ガラスからなるビーズ、フィルター、メンブラン等を用いることができる。
【0024】
免疫組織染色法
組織試料を患者から得、慣用的な組織固定法にしたがってそれら試料を包埋した後、例えば3〜5μmの厚さに切断し、定着、固定し、乾燥させる。定着剤としては、好ましくはホルマリンを含有することができる。標本を固定するための包埋剤として、例えば、パラフィンを含有させ、標本を保存することができる。脱パラフィン化および再水和後、ヒトIL−1ra、IL−6、IL−1βまたはIL−10に特異的な標識抗体を含む試薬と標本を接触させる。組織試料中のIL−1ra、IL−6、IL−1βまたはIL−10発現のレベルは、染色強度を比較することによって、または染色された細胞数を比較することによって、判定することができる。
【0025】
上記免疫組織染色法において、抗体としてポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を用いることができる。抗体には、自然のままの抗体、またはヒトIL−1ra、IL−6、IL−1βまたはIL−10を特異的に結合できる抗体フラグメントが含まれる。このような抗体フラグメントとしては、モノクローナル抗体をペプシンで消化して得られるF(ab′)2、F(ab′)2を還元して得られるFab′、モノクローナル抗体をパパインで消化して得られるFabなどを例示することができる。また、これらポリクローナル抗体、モノクローナル抗体または抗体フラグメントの標識は、一次抗体(抗ヒトIL−1ra、IL−6、IL−1βまたはIL−10抗体)に対して直接的に結合することができるし、または一次抗体を結合する二次抗体に対して間接的に結合することができる。好ましくは、過剰のビオチン結合能力を有するアビジンービオチンペルオキシダーゼ複合体(ABC)を含む。ABC法は、パラフィン包埋切片、凍結切片および塗抹標本に用いることができる。
【0026】
ポリクローナル抗体は、慣用のプロトコールを用いて、動物(好ましくはヒト以外)にヒト由来のIL−1ra、IL−6、IL−1βまたはIL−10タンパク質、若しくはそれらのエピトープを含む断片を投与することにより産生させ、慣用的な方法に従って抗血清を集め、精製することができる。モノクローナル抗体は、Nature 254, 493−7, 1980の技術を用いることによって作製することができる。また、IL−1ra、IL−6、IL−1βまたはIL−10に対するポリクローナル抗体やモノクローナル抗体は、試薬として販売されている。さらに、測定キットとしても販売されており、簡便に使用できる。
【0027】
D18S51およびTP53マイクロサテライトマーカー遺伝子の変異の検出は、組織試料または血液からDNAを抽出した後、対立遺伝子中の突然変異または多型について検討することにより行われる。組織試料または血液からDNAを抽出する操作は、公知の方法に従って行うことができる(Molecular Cloning、Cold Spring Harbor Laboratory Pressより1989年に発刊、Ausubel FM.ら編、Current Protocol in Molecular Biology、John Wiley & Sons, Inc.より発刊)。
【0028】
次に、DNAを含む試料は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用し、プライマー対、緩衝液および鎖伸長を促進することができる酵素を用いて増幅させる。PCRを行う方法は公知である(Diag. Mol. Path. 1, 58−72, 1992)。PCRにより作製した増幅生成物を用いて、一本鎖コンフォメーション多型(SSCP)またはプライマー・イン・サイチュ(in situ)DNA合成(PRINS)と呼ばれる手法を用いて、突然変異または多型を検出できる。突然変異または多型は、DNAを含む試料から遺伝子を単離し、塩基配列を決定し、対応する野生型D18S51およびTP53マイクロサテライトマーカー遺伝子のそれと配列を比較することによっても行うことができる。好ましいのは、簡単、迅速で効率がよいSSCP法である。
【0029】
SSCP法は、ゲルマトリックス内でのDNA断片の電気泳動移動度のシフトにより、単一塩基置換(ポイントミューテーション)を含む、塩基配列の変化を検出することができる。一つのヌクレオチドの違いにより、構造が変化し、対応する野生型DNA断片の電気泳動移動度と比較した場合、変異DNA断片では移動度のシフトがおこり、検出することが可能である(Genomic 5, 874−9, 1989)。D18S51およびTP53マイクロサテライトマーカー遺伝子の変異検出キットは、試薬として販売されており、簡便に使用できる。
【0030】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を制限するものではない。
【0031】
実施例1:炎症性および抗炎症性サイトカインの免疫組織染色
(1)患者からの組織標本の採取
インフォームドコンセントを実施した74人の原発性大腸癌患者から外科手術により癌組織の新鮮標本を、同74人の切除術患者の切除標本の遠位断端から正常結腸粘膜を、また、同30人の外来患者から内視鏡により新鮮結腸腺腫を無菌条件下で採取した。外科手術中に得られた20の腫瘍標本は10%フォルムアルデヒドで固定し、パラフィンに包埋した。
【0032】
(2)免疫組織染色
パラフィン包埋標本を5μmの切片に切り、65℃で溶かしたワックスを用いてスライドグラスに付着させた。切片からワックスを除去、水和し、3%過酸化水素で30分間保温した。切片を冷水道水で洗浄し、マイクロウェーブ中で処理し、pH7.4燐酸緩衝食塩水(PBS)で5分間ずつ3回洗浄した。
【0033】
非特異的結合を防ぐために、切片に3%正常ウサギ血清を加えて20分間保温した。PBSで洗浄後、切片にIL−1β,IL−6,IL−1raおよびIL−10に対する山羊ポリクローナル抗体(R&Dシステムズ社製,ミネアポリス,ミネソタ州)を加え、加湿器中で4℃に保温した。切片を洗浄し、ビオチン化した抗山羊免疫グロブリンGをPBSで希釈したものを加え、室温で60分間保温した。次に、切片にアビジンビオチン複合試薬を加え、37℃で60分間保温した。ヴェクターDAB基質キット(ヴェクターラボラトリーズ社製,バーリンガム,カリフォルニア州)で2分間かけて発色させた後、メイヤーヘマトキシリンで対比染色した。
【0034】
免疫反応の特異性は既知の陽性および陰性対照組織切片を染色すること、および一次抗体を正常ウサギ血清にして陰性染色することによって確認した。各々の腫瘍切片について、強拡大で1,000個の細胞を計測することにより、陽性に染まった腫瘍細胞のパーセントを評価した。30%以上の細胞が染色されたとき免疫反応性サイトカインの発現が陽性であると判定した。臨床情報、標本の性質および使用した抗体を知らされていない3人の別々の観察者がブラインドで3回スライドの評価をおこなった。
【0035】
癌組織におけるIL−1β、IL−6、IL−1raおよびIL−10の発現を免疫組織染色によって調べた結果を図7に示す。免疫反応性IL−1βは、5人の患者(25%)においては大腸癌細胞の細胞質と腫瘍間質細胞の両方に、11人の患者(55%)においては大腸癌細胞の細胞質においてのみ認められた。強い免疫反応性IL−6が大腸癌細胞の細胞質に認められ、大腸癌20例中12例(60%)で検出可能であった。強い免疫反応性IL−1raが大腸癌細胞の細胞質に認められたが、15例(75%)においては腫瘍間質細胞にも弱い免疫反応性IL−1raが認められた。また、4人の患者(20%)では、大腸癌細胞の細胞質と腫瘍間質細胞の両方に弱い免疫反応性IL−10が検出された。
【0036】
実施例2:炎症性および抗炎症性サイトカインの組織内濃度
外科的および内視鏡的に取り出した標本を、すぐに−80℃の液体窒素中に保存した。IL−1β、IL−6、IL−1raおよびIL−10の組織内濃度を分析するために、178標本(大腸癌:74、正常結腸粘膜:74)、IL−6およびIL−1raの組織内濃度を分析するために、大腸腺腫30標本を調製した。
これらのサンプルを融解し、すばやく重量を測定した後に、5mLのPBSに入れ、電動式テフロン(登録商標)製乳棒で5分間ホモゲナイズした。ホモゲネートを次に4℃で12,000rpmで遠心分離し、上清を200μLバイアルに入れ−80℃に保存した。その上清を癌組織、結腸腺腫および正常粘膜中のサイトカインおよびタンパク質量の測定に供した。IL−1β、IL−6、IL−1raおよびIL−10濃度はELISA(enzyme linked immunosorbent assay)キット(IL−1βおよびIL−6:エンドジェン社製,ウバーン,マサチューセッツ州、IL−1ra:アマーシャムインターナショナル社製,アマーシャム,英国、IL−10:バイオソースインターナショナル社製,カマリロ,カリフォルニア州)を用いて測定した。癌組織、結腸腺腫および正常粘膜中のサイトカイン濃度はpg/mgタンパク質量で、また、数値は平均±標準誤差で表した。
癌および正常粘膜におけるIL−1β、IL−6、IL−1raおよびIL−10の組織内濃度を測定した結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
癌組織中のIL−1β、IL−6およびIL−1raの平均濃度は正常粘膜中の平均濃度に比し有意に高かった。しかし、IL−10に関しては有意な差は認められなかった(統計処理はWilcoxon signed rank test によりおこなった)。サイトカインの組織内濃度と臨床病理学的要因の関連を調べた結果を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
肝転移した癌組織におけるIL−6の組織内濃度は転移していない肝臓に比し有意に高かった。癌組織中のIL−1ra濃度はリンパ節転移、リンパ管浸潤および奨膜浸潤を含む臨床病理学的要因と関連していた。しかし、IL−1βとIL−10の組織内濃度はいかなる臨床病理学的要因とも関連がなかった(統計処理はANOVAによりおこなった)。
癌組織中のIL−1ra濃度とIL−6濃度の比(IL−1ra/IL−6比)と臨床病理学的パラメーターの関係を表3に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
癌組織中のIL−1ra/IL−6比はリンパ節転移、脈管浸潤、リンパ管浸潤および奨膜浸潤を含むすべての臨床病理学的要因と有意に関連していた。また、癌組織中のIL−1ra/IL−6比は肝転移とも関連する傾向が認められた(統計処理はANOVAによりおこなった)。さらに、癌組織中のIL−1ra/IL−6比は腫瘍の大きさとも有意に相関していた。
患者を組織内IL−1ra/IL−6比に基づいて分類分けした時の患者の累積生存率を図1に示す。組織内IL−1ra/IL−6比が低いと(中央値69.146以下)、患者の予後は乏しかった(統計処理はlog rank testによりおこなった。p値が0.05未満の時、有意と考えられた。)。
腺腫標本中のIL−6およびIL−1ra濃度はそれぞれ60.7±16.3pg/mgタンパク質および3927±831pg/mgタンパク質であった。腺腫における組織内IL−6およびIL−1ra濃度は正常粘膜に比し有意に高かったが、癌との有意差は認められなかった。
【0043】
癌組織、結腸腺腫および正常粘膜中のIL−1ra/IL−6比を図2に示す。癌組織中のIL−1ra/IL−6比は結腸腺腫および正常粘膜中のIL−1ra/IL−6比より有意に低かった。しかし、結腸腺腫と正常粘膜の間で組織内IL−1ra/IL−6比に有意差はなかった。
癌を大きさによって、大きい方のグループ(4.4cm以上,38例)と小さい方のグループ(4.4cm未満,36例)に分けた。より大きい癌、より小さい癌、結腸腺腫および正常粘膜における組織内IL−1raおよびIL−6濃度の相関を図3〜6に示す。腺腫およびより小さい癌においては組織内IL−1ra濃度はIL−6濃度と有意に正に相関していた(図4および図5)。しかし、正常粘膜とより大きい癌においては組織内IL−1ra濃度とIL−6濃度に有意の相関は無かった(図3および図6)。
【0044】
実施例3:DNA抽出とPCR(polymerase chain reaction)
外科的に摘出した標本から高分子量DNAを通常の方法、すなわちプロテイネースKによる消化およびフェノール/クロロフォルム/イソアミルアルコール抽出により抽出した。17pおよび18q染色体上の相同性の消失を観察するために、DNA抽出の後、D18S51およびTP53マイクロサテライトマーカーを用いてPCR増幅をおこなった(ABI PRISM Linkage Mapping Set、アプライドバイオシステムズ社製、パーキンエルマー、フォスター市、カルフォルニア州)。ロボサイクラー(Robo−Cycler)40PCR機(ストラタジーン社製,ラホヤ,カリフォルニア州)を用いて、94℃3分間、55℃2分間および72℃3分間を1サイクル、次に94℃45秒、55℃1分間および72℃1.5分間を34サイクル、そして72℃5分間および20℃99.9分間の最終伸張ステップをおこなった。増幅した反応生成物にフォルムアミド停止液(100%脱イオン化フォルムアミドおよび0.05%デキストランブルー)を加え、5%ポリアクリルアミド変性ゲルを用いて分析した。泳動中に収集した蛍光ゲルデータをABI PRISM 377自動蛍光DNAシーケンサー(アプライドバイオシステムズ社製,パーキンエルマー,フォスター市,カリフォルニア州)により自動的に分析した。各々の蛍光ピークについて塩基対のサイズ、ピークの高さおよびピーク面積の見地から定量した。
74例の腫瘍中34例(46%)においてp53座での相同性の消失が認められた。また、74例の腫瘍中29例(39%)において18q21座での相同性の消失が認められた。
表4に、遺伝子変異と臨床病理学的知見ならびに組織内サイトカイン濃度の関係を示した。
【0045】
【表4】
【0046】
肝転移とリンパ節転移が18q座での相同性の消失と有意に関連していることが見出された。しかし、17p座での相同性の消失は病気の進行を示唆するような如何なる臨床病理学的知見とも関連しなかった。17p座での相同性の消失の有無によって組織内サイトカイン濃度に有意差は認められなかったが、18q座での相同性の消失は結腸癌における組織内IL−1ra/IL−6比と有意に相関していた(統計処理はANOVAおよびYates修正chi−square analysisによりおこなった)。
【0047】
【発明の効果】
IL−1ra/IL−6濃度比は、癌の存在の有無、癌の悪性度および患者の予後を反映したものであり、患者由来試料のIL−1ra/IL−6濃度比を測定することにより目的対象とする患者の癌の診断、癌の悪性度および患者の予後を客観的に判定することができる。本発明の方法により、患者に最適な治療を施すことができ、また、予後も的確に推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】癌組織内IL−1ra/IL−6比に基づいて分類分けした患者の累積生存率を示すグラフである。
【図2】結腸癌、結腸腺腫および正常粘膜組織内IL−1ra/IL−6濃度比を示す。
【図3】正常粘膜における組織内IL−1ra濃度とIL−6濃度の相関を示すグラフである。
【図4】腺腫における組織内IL−1ra濃度とIL−6濃度の相関を示すグラフである。
【図5】より小さい癌における組織内IL−1ra濃度とIL−6濃度の相関を示すグラフである。
【図6】より大きい癌における組織内IL−1ra濃度とIL−6濃度の相関を示すグラフである。
【図7】A、B、CおよびDは、それぞれ、癌組織の組織染色法によるIL−1β、IL−6、IL−1raおよびIL−10の発現状態を示す図面代用写真である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、癌の診断方法、および癌の悪性度あるいは癌患者の予後を判定するための方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
インターロイキン1(IL−1)−インターロイキン6(IL−6)ネットワークは最も強力な炎症性サイトカインカスケードである。IL−1βはオートクリン的にIL−6産生を誘導するので、IL−1βの生物学的効果は、細胞増殖のようなIL−6により誘導されるいくつかの実験的効果とほぼ同じである(Cancer Res., 58, 3132−41, 1998、Cancer 80, 421−34, 1997、Br. J. Cancer 80,1506−11, 1999、Hematol. Oncol. Clin. North. Am 13, 1117−25, 1999、Cancer Res. 58, 3142−9, 1998、Nature 332, 83−5, 1988、FEBS Lett. 250, 607−10,
1989)。
【0003】
IL−1−IL−6ネットワークはサイトカイン阻害物質であるインターロイキン1受容体アンタゴニスト(以下、IL−1raと略記する。)および抗炎症性サイトカインであるインターロイキン10(IL−10)によりダウンレギュレーションを受ける。天然に存在する抗炎症性タンパクであるIL−1raは、IL−1αおよびIL−1βがタイプIおよびタイプII受容体へ結合するのを、アゴニスト活性や生物学的作用を発揮することなく、拮抗的に阻害する(J. Acquir Immune Defic. Synd. Hum. Retrovirol. 16, 340−2, 1997、J. Clin. Invest. 99, 2930−40, 1997)。対照的に、IL−10はTリンパ球とマクロファージ両者の機能を抑制することによってIL−6産生を間接的に阻害し、免疫反応および炎症反応に対する一般的な調節弁として働く(Brain Res. 77, 138−47, 2000、Am. J. Obstet. Gynecol 175, 1057−65, 1996)。
【0004】
IL−1−IL−6ネットワークは腫瘍増殖因子として働くことが知られており、腫瘍細胞表面の特異的膜受容体に作用して腫瘍細胞の増殖や生存期間延長をもたらす(Br. J. Cancer 80, 1506−11, 1999、Hematol. Oncol. Clin. North. Am 13, 1117−25, 1999、Cancer Res. 58, 3142−9, 1998、Nature 332, 83−5, 1988、FEBS Lett. 250, 607−10, 1989)。
【0005】
本発明者らも、大腸癌細胞の細胞質に強い免疫反応性IL−6が存在する一方、免疫反応性IL−6受容体が大腸癌細胞の細胞膜に認められ、IL−6オートクリンメカニズムの存在が示唆されることを以前報告している(Cancer 85, 2526−31, 1999)。対照的にIL−1raは、ある種の消化器系癌細胞株において、IL−6タンパクだけでなくIL−1αおよびIL−1βの分泌を阻害することが報告された(Cancer Res. 58, 3142−9, 1998)。
【0006】
また、IL−1raを誘導すると、ミエローマ、メラノーマおよび白血病細胞に対し、抗炎症および抗増殖作用をもたらすことも報告されている(Stem Cells2, 28−34, 1995、Leukemia 6, 898−901, 1992、Cancer Res. 54, 2667−72, 1994)。IL−1raの産生はIL−1よりはむしろIL−6により制御されていることが知られている(Cancer Res. 55, 921−7, 1995、J. Immunol. 152, 5041−9, 1994、Clin. Exp. Rheumatol. 13, 779−84, 1995、Blood 83, 113−8, 1994)。
【0007】
頭部および頸部扁平上皮細胞癌の患者では、癌組織中のIL−1ra/IL−1比が減少していることが報告されている(Cancer Res., 58, 3132−41, 1998)。また、白血病細胞においては、IL−1およびその天然の受容体アンタゴニスト合成のアンバランスが無制限の細胞増殖と関連していることが報告されている(Blood 78, 3248−53, 1991)。
【0008】
分子遺伝学の進歩により、発癌遺伝子の活性化や腫瘍抑制遺伝子の不活性化を含む遺伝子変異の蓄積が腫瘍の発生や増殖に必要なことが解ってきた(J. Hepatol. 27, 669−76, 1997、Southeast Asian J. Trop Med. Public Health 26 Suppl 1, 190−6, 1995)。最近の研究では、炎症性サイトカインが転写活性化因子としてp53活性を抑制する可能性が示されている(J. Exp. Med. 190, 1367−70,1999)。MarguliesとSehgalは、p53がサイトカイン合成の制御のみならず腫瘍細胞のサイトカインに対する反応性の変化に関与しているという証拠を示している(J. Biol. Chem. 268, 15096−100, 1993)。多くの悪性腫瘍細胞株において、IL−6遺伝子の発現が恒常的にアップレギュレーションされていることが明らかにされ、腫瘍抑制遺伝子の変異がIL−6遺伝子プロモーターのアップレギュレーションに関与していると想定されてきた(Cancer Res. 58, 3142−9, 1998、J. Hepatol. 27, 669−76, 1997、Cell Biol. Int. 24, 195−209, 2000)。
【0009】
染色体17pの一方の染色体の相同性の欠失がp53遺伝子変化をもたらし、結果的に細胞増殖性に変化を与えると考えられている(Int. J. Oncol. 13, 319−23, 1998)。染色体18q21の一方の染色体の相同性の欠失もまた、しばしば大腸癌において認められる。18q21に存在するSMAD−2およびSMAD−4遺伝子は大腸癌で働く腫瘍抑制遺伝子の候補として同定されてきたものである(Int. J. Cancer 82, 197−202, 1999、Br. J. Cancer 80, 194−205, 1999、Oncogene 18, 3098−103, 1999、Br. J. Cancer 78, 1152−5, 1998)。これら遺伝子が不活性化されると、ヒト大腸癌が遠位転移するような段階に進行する(Oncogene 18, 3098−103, 1999)。これらタンパクはTransforming growth factor(TGF)−βファミリーの細胞内シグナリングの主要因子として、また、TGF−βに対する転写および抗増殖反応の重要因子として同定されてきたものである(Oncogene 18, 3098−103, 1999)。DCC遺伝子は、細胞接着分子と似たアミノ酸配列を持つタンパクをコードする別の腫瘍抑制遺伝子候補である(Surg. Today 25, 1001−7, 1995、 Genomics 19, 525−31, 1994)。DCC遺伝子は染色体18qに位置し、癌や進行した腺腫においてしばしば欠失している(NatureMed. 1, 902−9, 1995、 N. Engl. J. Med. 319, 525−32, 1988)。それゆえに、IL−1−IL−6制御システムは腫瘍抑制遺伝子や発癌遺伝子のようないくつかの因子と相互作用すると考えられている。
【0010】
大腸癌(colorectal carcinoma)は老人によくみられる悪性の疾患である。従来は欧米において発症率が特に高かったが、日本においても食生活の欧米化により年々発症率が増加している。この癌は、しばしば、リンパ管および血管を介して他の臓器に転移する。大腸癌に罹患した多くの患者は、最終的にはこの疾患によって死亡する。実際、日本だけでも年間約10万例の大腸癌が発生している。
【0011】
しかし、早期に診断されれば、大腸癌は、癌性組織の外科手術による除去によって効果的に治療しうる。大腸癌は、大腸の上皮に由来し、多くの場合、発症の初期段階では高度に血管化せず、侵襲性ではない。高度に血管化され、侵襲性となり、最終的に転移性の癌に移行するには、一般に、10年またはそれ以上を要する。癌が侵襲性になる前に検出された場合は、癌性組織の外科手術による除去が有効な治療である。
【0012】
従って、初期の疾患段階で、治療の開始前に個々の患者の癌の進行度を同定できる診断法が必要とされている。癌の悪性度の同定は、一般的には、病理学者が組織切片の特徴を検査することにより行われている。この場合、標本を観察する観察者の技術レベルが一定でないことおよび観察者の主観が入るという欠点がある。組織切片の病理組織学的検査よりも、個々の患者の癌の悪性度を正確にかつ簡便におこなえる検査法が必要とされている。また、自覚症状が出る前に癌を検出できれば、疾患の初期段階で治療を開始できるであろうし、大きな治療効果が見込めるであろう。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
IL−1−IL−6ネットワークを解明することによって癌の診断、癌の悪性度の判定、患者の予後の判定方法および腫瘍増殖を制御する新しい治療的アプローチが得られると思われるけれども、大腸癌におけるIL−1−IL−6ネットワークについて、炎症性サイトカインとその阻害物質のバランスに焦点を当てた研究は未だ十分なされていなかった。
従って、本発明の課題は、患者由来の試料中のIL−1raおよびIL−6濃度を測定し、それらの比を算出することによって癌の診断、癌の悪性度の判定および患者の予後を判定する新しい方法を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、免疫反応性IL−1raが癌細胞の細胞質に存在すること、癌組織中のIL−1ra濃度が正常粘膜および腺腫よりも有意に高いことを見出した。このことは腫瘍細胞が腫瘍増殖性サイトカインだけでなく、腫瘍増殖にとって好ましくない局所環境を作り出す抗増殖性サイトカインを産生しうることを示唆している。本発明者らはまた、腫瘍組織中のIL−1ra/IL−6比が発癌および癌の進行過程で減少することを見出した。さらに、IL−1ra−IL−6ネットワークシステムの悪化が、腫瘍抑制遺伝子の遺伝子変化を反映する染色体18q座での相同性の消失と相関していることを見出し本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明は、患者由来の試料(組織、細胞または体液(血液または尿試料等))中のIL−1raおよびIL−6濃度を測定し、それらの濃度比に基づいて癌の診断、癌の悪性度の判定および患者の予後を判定する方法に関する。本発明の診断方法および判定方法の対象となる好適な癌は大腸癌、胃癌および乳癌である。
【0016】
より詳しく言えば、本発明は下記の1〜7の癌の診断方法および8〜14の癌の悪性度の判定方法に関する。
1.試料中のIL−1受容体アンタゴニスト(IL−1ra)およびIL−6濃度を測定し、その濃度比を指標にして判断することを特徴とする癌の診断方法。
2.試料が、組織、細胞または体液である前記1記載の癌の診断方法。
3.IL−1raおよびIL−6タンパク質を測定してIL−1raおよびIL−6濃度を測定する前記1記載の癌の診断方法。
4.IL−1raおよびIL−6タンパクの各々の抗体を用いてIL−1raおよびIL−6タンパク質を測定する前記3記載の癌の診断方法。
5.癌が大腸癌である前記4記載の癌の診断方法。
6.癌が胃癌である前記4記載の癌の診断方法。
7.癌が乳癌である前記4記載の癌の診断方法。
8.試料中のIL−1受容体アンタゴニストおよびIL−6濃度を測定し、その濃度比を指標として判断することを特徴とする癌の悪性度の判定方法。
9.試料が、組織、細胞または体液である前記8記載の癌の悪性度の判定方法。
10.IL−1raおよびIL−6タンパク質を測定してIL−1raおよびIL−6濃度を測定する前記8記載の癌の悪性度の判定方法。
11.IL−1raおよびIL−6タンパクの各々の抗体を用いてIL−1raおよびIL−6タンパク質を測定する前記10記載の癌の悪性度の判定方法。
12.癌が大腸癌である前記11記載の癌の悪性度の判定方法。
13.癌が胃癌である前記11記載の癌の悪性度の判定方法。
14.癌が乳癌である前記11記載の癌の悪性度の判定方法。
【0017】
本明細書において、「予後」とは本来の医学的な意味、すなわち、疾患からの回復の見込みを意味する。また、「対立遺伝子」とは対立形質を支配する2つ以上の遺伝子、あるいは染色体上の同じ座位を占める遺伝子の中で突然変異などのために生じた異なる塩基配列をもつ遺伝子を意味する。
【0018】
組織試料は、当業者に周知である慣用的な生検技術または外科手術によって癌患者から取り出される。次に、その試料はIL−1ra、IL−6、IL−1βまたはIL−10発現レベルの測定、およびPCR(polymerase chain reaction) 用に調製される。
【0019】
組織試料中のIL−1ra、IL−6、IL−1βまたはIL−10発現の相対レベルの測定は、組織試料中のIL−1ra、IL−6、IL−1βまたはIL−10のRNA転写物、特に、mRNA転写物の相対数を測定すること、または組織試料中のIL−1ra、IL−6、IL−1βまたはIL−10のタンパク質の相対レベルを測定することを含む。好ましくは、組織試料中のIL−1ra、IL−6、IL−1βまたはIL−10タンパク質の相対レベルは、これらタンパク質を結合する抗体を組織試料と接触させる免疫学的方法により測定される。免疫学的方法には、免疫学的定量方法(ELISA法、RIA法、蛍光抗体法等)、ウェスタンブロッティング法および免疫組織染色法が含まれる。
【0020】
免疫学的定量方法としては、例えばIL−1raを結合する固相化されたモノクローナル抗体および/またはその可変領域からなる抗体結合部位を含む抗体フラグメントと、これらモノクローナル抗体および/またはその可変領域からなる抗体結合部位を含む抗体フラグメントとは認識部位を異にする、標識化された第2のモノクローナル抗体および/またはその可変領域からなる抗体結合部位を含む抗体フラグメントとを用いる方法を挙げることができる(サンドイッチELISA法と呼ばれる)。
【0021】
ウェスタンブロッティング法は、SDSポリアクリルアミドゲルを用いてゲル上のタンパク質試料を拡散させ、そのゲルを硝酸セルロースフィルターにブロッティングし、標識抗体をフィルターに接触させることによって行うことができる。
免疫組織染色法は組織試料を脱水、定着の後、タンパク質に特異的な標識抗体を反応させることによって行うことができる。標識方法としては、酵素標識、蛍光標識、蛍光発光標識等を例示することができ、通常、目視により検出される。
【0022】
サンドイッチELISA法
以下に、IL−1raを例として、サンドイッチELISA法について説明する。抗ヒトIL−1raモノクローナル抗体を担体に固相化し(固相化一次抗体)、これに組織試料(組織抽出液、血液(血清)や尿等)を加え、抗原抗体反応により試料中のヒトIL−1raを固相化一次抗体に結合させる。次に、酵素標識した異なる種類の抗ヒトIL−1raモノクローナル抗体(酵素標識二次抗体)を反応させ、抗原抗体反応により酵素標識二次抗体を上記固相化一次抗体に結合している抗原に結合させる。その後、抗原に結合しなかった酵素標識二次抗体を除去し、基質を加えて酵素反応を行うことにより、既知量のヒトIL−1raと二次抗体に標識した酵素活性との関係を示す検量線から、試料中のヒトIL−1ra量を求めることができる。
【0023】
上記サンドイッチELISA法において、モノクローナル抗体に代えて、ヒトIL−1raを特異的に結合できる抗体フラグメント、例えば、モノクローナル抗体をペプシンで消化して得られるF(ab′)2、モノクローナル抗体をパパインで消化して得られるFab等の抗体可変領域からなる抗体結合部位を含むヒトIL−1raに結合する抗体フラグメントを使用することもできる。また、これらモノクローナル抗体、抗体フラグメントに標識する酵素としては、βーガラクトシダーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ等を例示することができ、これら酵素は、慣用的な方法(酵素標識法(生物化学実験法27)第1版、学会出版センター、1991年、等)により標識することができる。また、これら酵素に代えて、例えば、125I、32P、35S、3H等のラジオアイソトープやFITC(フルオレセインイソシアネート)、テトラメチルローダミンイソシアネート等の蛍光物質や、GFP(グリーン蛍光タンパク質)等の蛍光発色タンパク質などを融合させた融合タンパク質を用いることもできる。また、固相としては、マイクロプレート、試験管、シリコン、ナイロン、プラスチック、ガラスからなるビーズ、フィルター、メンブラン等を用いることができる。
【0024】
免疫組織染色法
組織試料を患者から得、慣用的な組織固定法にしたがってそれら試料を包埋した後、例えば3〜5μmの厚さに切断し、定着、固定し、乾燥させる。定着剤としては、好ましくはホルマリンを含有することができる。標本を固定するための包埋剤として、例えば、パラフィンを含有させ、標本を保存することができる。脱パラフィン化および再水和後、ヒトIL−1ra、IL−6、IL−1βまたはIL−10に特異的な標識抗体を含む試薬と標本を接触させる。組織試料中のIL−1ra、IL−6、IL−1βまたはIL−10発現のレベルは、染色強度を比較することによって、または染色された細胞数を比較することによって、判定することができる。
【0025】
上記免疫組織染色法において、抗体としてポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を用いることができる。抗体には、自然のままの抗体、またはヒトIL−1ra、IL−6、IL−1βまたはIL−10を特異的に結合できる抗体フラグメントが含まれる。このような抗体フラグメントとしては、モノクローナル抗体をペプシンで消化して得られるF(ab′)2、F(ab′)2を還元して得られるFab′、モノクローナル抗体をパパインで消化して得られるFabなどを例示することができる。また、これらポリクローナル抗体、モノクローナル抗体または抗体フラグメントの標識は、一次抗体(抗ヒトIL−1ra、IL−6、IL−1βまたはIL−10抗体)に対して直接的に結合することができるし、または一次抗体を結合する二次抗体に対して間接的に結合することができる。好ましくは、過剰のビオチン結合能力を有するアビジンービオチンペルオキシダーゼ複合体(ABC)を含む。ABC法は、パラフィン包埋切片、凍結切片および塗抹標本に用いることができる。
【0026】
ポリクローナル抗体は、慣用のプロトコールを用いて、動物(好ましくはヒト以外)にヒト由来のIL−1ra、IL−6、IL−1βまたはIL−10タンパク質、若しくはそれらのエピトープを含む断片を投与することにより産生させ、慣用的な方法に従って抗血清を集め、精製することができる。モノクローナル抗体は、Nature 254, 493−7, 1980の技術を用いることによって作製することができる。また、IL−1ra、IL−6、IL−1βまたはIL−10に対するポリクローナル抗体やモノクローナル抗体は、試薬として販売されている。さらに、測定キットとしても販売されており、簡便に使用できる。
【0027】
D18S51およびTP53マイクロサテライトマーカー遺伝子の変異の検出は、組織試料または血液からDNAを抽出した後、対立遺伝子中の突然変異または多型について検討することにより行われる。組織試料または血液からDNAを抽出する操作は、公知の方法に従って行うことができる(Molecular Cloning、Cold Spring Harbor Laboratory Pressより1989年に発刊、Ausubel FM.ら編、Current Protocol in Molecular Biology、John Wiley & Sons, Inc.より発刊)。
【0028】
次に、DNAを含む試料は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用し、プライマー対、緩衝液および鎖伸長を促進することができる酵素を用いて増幅させる。PCRを行う方法は公知である(Diag. Mol. Path. 1, 58−72, 1992)。PCRにより作製した増幅生成物を用いて、一本鎖コンフォメーション多型(SSCP)またはプライマー・イン・サイチュ(in situ)DNA合成(PRINS)と呼ばれる手法を用いて、突然変異または多型を検出できる。突然変異または多型は、DNAを含む試料から遺伝子を単離し、塩基配列を決定し、対応する野生型D18S51およびTP53マイクロサテライトマーカー遺伝子のそれと配列を比較することによっても行うことができる。好ましいのは、簡単、迅速で効率がよいSSCP法である。
【0029】
SSCP法は、ゲルマトリックス内でのDNA断片の電気泳動移動度のシフトにより、単一塩基置換(ポイントミューテーション)を含む、塩基配列の変化を検出することができる。一つのヌクレオチドの違いにより、構造が変化し、対応する野生型DNA断片の電気泳動移動度と比較した場合、変異DNA断片では移動度のシフトがおこり、検出することが可能である(Genomic 5, 874−9, 1989)。D18S51およびTP53マイクロサテライトマーカー遺伝子の変異検出キットは、試薬として販売されており、簡便に使用できる。
【0030】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を制限するものではない。
【0031】
実施例1:炎症性および抗炎症性サイトカインの免疫組織染色
(1)患者からの組織標本の採取
インフォームドコンセントを実施した74人の原発性大腸癌患者から外科手術により癌組織の新鮮標本を、同74人の切除術患者の切除標本の遠位断端から正常結腸粘膜を、また、同30人の外来患者から内視鏡により新鮮結腸腺腫を無菌条件下で採取した。外科手術中に得られた20の腫瘍標本は10%フォルムアルデヒドで固定し、パラフィンに包埋した。
【0032】
(2)免疫組織染色
パラフィン包埋標本を5μmの切片に切り、65℃で溶かしたワックスを用いてスライドグラスに付着させた。切片からワックスを除去、水和し、3%過酸化水素で30分間保温した。切片を冷水道水で洗浄し、マイクロウェーブ中で処理し、pH7.4燐酸緩衝食塩水(PBS)で5分間ずつ3回洗浄した。
【0033】
非特異的結合を防ぐために、切片に3%正常ウサギ血清を加えて20分間保温した。PBSで洗浄後、切片にIL−1β,IL−6,IL−1raおよびIL−10に対する山羊ポリクローナル抗体(R&Dシステムズ社製,ミネアポリス,ミネソタ州)を加え、加湿器中で4℃に保温した。切片を洗浄し、ビオチン化した抗山羊免疫グロブリンGをPBSで希釈したものを加え、室温で60分間保温した。次に、切片にアビジンビオチン複合試薬を加え、37℃で60分間保温した。ヴェクターDAB基質キット(ヴェクターラボラトリーズ社製,バーリンガム,カリフォルニア州)で2分間かけて発色させた後、メイヤーヘマトキシリンで対比染色した。
【0034】
免疫反応の特異性は既知の陽性および陰性対照組織切片を染色すること、および一次抗体を正常ウサギ血清にして陰性染色することによって確認した。各々の腫瘍切片について、強拡大で1,000個の細胞を計測することにより、陽性に染まった腫瘍細胞のパーセントを評価した。30%以上の細胞が染色されたとき免疫反応性サイトカインの発現が陽性であると判定した。臨床情報、標本の性質および使用した抗体を知らされていない3人の別々の観察者がブラインドで3回スライドの評価をおこなった。
【0035】
癌組織におけるIL−1β、IL−6、IL−1raおよびIL−10の発現を免疫組織染色によって調べた結果を図7に示す。免疫反応性IL−1βは、5人の患者(25%)においては大腸癌細胞の細胞質と腫瘍間質細胞の両方に、11人の患者(55%)においては大腸癌細胞の細胞質においてのみ認められた。強い免疫反応性IL−6が大腸癌細胞の細胞質に認められ、大腸癌20例中12例(60%)で検出可能であった。強い免疫反応性IL−1raが大腸癌細胞の細胞質に認められたが、15例(75%)においては腫瘍間質細胞にも弱い免疫反応性IL−1raが認められた。また、4人の患者(20%)では、大腸癌細胞の細胞質と腫瘍間質細胞の両方に弱い免疫反応性IL−10が検出された。
【0036】
実施例2:炎症性および抗炎症性サイトカインの組織内濃度
外科的および内視鏡的に取り出した標本を、すぐに−80℃の液体窒素中に保存した。IL−1β、IL−6、IL−1raおよびIL−10の組織内濃度を分析するために、178標本(大腸癌:74、正常結腸粘膜:74)、IL−6およびIL−1raの組織内濃度を分析するために、大腸腺腫30標本を調製した。
これらのサンプルを融解し、すばやく重量を測定した後に、5mLのPBSに入れ、電動式テフロン(登録商標)製乳棒で5分間ホモゲナイズした。ホモゲネートを次に4℃で12,000rpmで遠心分離し、上清を200μLバイアルに入れ−80℃に保存した。その上清を癌組織、結腸腺腫および正常粘膜中のサイトカインおよびタンパク質量の測定に供した。IL−1β、IL−6、IL−1raおよびIL−10濃度はELISA(enzyme linked immunosorbent assay)キット(IL−1βおよびIL−6:エンドジェン社製,ウバーン,マサチューセッツ州、IL−1ra:アマーシャムインターナショナル社製,アマーシャム,英国、IL−10:バイオソースインターナショナル社製,カマリロ,カリフォルニア州)を用いて測定した。癌組織、結腸腺腫および正常粘膜中のサイトカイン濃度はpg/mgタンパク質量で、また、数値は平均±標準誤差で表した。
癌および正常粘膜におけるIL−1β、IL−6、IL−1raおよびIL−10の組織内濃度を測定した結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
癌組織中のIL−1β、IL−6およびIL−1raの平均濃度は正常粘膜中の平均濃度に比し有意に高かった。しかし、IL−10に関しては有意な差は認められなかった(統計処理はWilcoxon signed rank test によりおこなった)。サイトカインの組織内濃度と臨床病理学的要因の関連を調べた結果を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
肝転移した癌組織におけるIL−6の組織内濃度は転移していない肝臓に比し有意に高かった。癌組織中のIL−1ra濃度はリンパ節転移、リンパ管浸潤および奨膜浸潤を含む臨床病理学的要因と関連していた。しかし、IL−1βとIL−10の組織内濃度はいかなる臨床病理学的要因とも関連がなかった(統計処理はANOVAによりおこなった)。
癌組織中のIL−1ra濃度とIL−6濃度の比(IL−1ra/IL−6比)と臨床病理学的パラメーターの関係を表3に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
癌組織中のIL−1ra/IL−6比はリンパ節転移、脈管浸潤、リンパ管浸潤および奨膜浸潤を含むすべての臨床病理学的要因と有意に関連していた。また、癌組織中のIL−1ra/IL−6比は肝転移とも関連する傾向が認められた(統計処理はANOVAによりおこなった)。さらに、癌組織中のIL−1ra/IL−6比は腫瘍の大きさとも有意に相関していた。
患者を組織内IL−1ra/IL−6比に基づいて分類分けした時の患者の累積生存率を図1に示す。組織内IL−1ra/IL−6比が低いと(中央値69.146以下)、患者の予後は乏しかった(統計処理はlog rank testによりおこなった。p値が0.05未満の時、有意と考えられた。)。
腺腫標本中のIL−6およびIL−1ra濃度はそれぞれ60.7±16.3pg/mgタンパク質および3927±831pg/mgタンパク質であった。腺腫における組織内IL−6およびIL−1ra濃度は正常粘膜に比し有意に高かったが、癌との有意差は認められなかった。
【0043】
癌組織、結腸腺腫および正常粘膜中のIL−1ra/IL−6比を図2に示す。癌組織中のIL−1ra/IL−6比は結腸腺腫および正常粘膜中のIL−1ra/IL−6比より有意に低かった。しかし、結腸腺腫と正常粘膜の間で組織内IL−1ra/IL−6比に有意差はなかった。
癌を大きさによって、大きい方のグループ(4.4cm以上,38例)と小さい方のグループ(4.4cm未満,36例)に分けた。より大きい癌、より小さい癌、結腸腺腫および正常粘膜における組織内IL−1raおよびIL−6濃度の相関を図3〜6に示す。腺腫およびより小さい癌においては組織内IL−1ra濃度はIL−6濃度と有意に正に相関していた(図4および図5)。しかし、正常粘膜とより大きい癌においては組織内IL−1ra濃度とIL−6濃度に有意の相関は無かった(図3および図6)。
【0044】
実施例3:DNA抽出とPCR(polymerase chain reaction)
外科的に摘出した標本から高分子量DNAを通常の方法、すなわちプロテイネースKによる消化およびフェノール/クロロフォルム/イソアミルアルコール抽出により抽出した。17pおよび18q染色体上の相同性の消失を観察するために、DNA抽出の後、D18S51およびTP53マイクロサテライトマーカーを用いてPCR増幅をおこなった(ABI PRISM Linkage Mapping Set、アプライドバイオシステムズ社製、パーキンエルマー、フォスター市、カルフォルニア州)。ロボサイクラー(Robo−Cycler)40PCR機(ストラタジーン社製,ラホヤ,カリフォルニア州)を用いて、94℃3分間、55℃2分間および72℃3分間を1サイクル、次に94℃45秒、55℃1分間および72℃1.5分間を34サイクル、そして72℃5分間および20℃99.9分間の最終伸張ステップをおこなった。増幅した反応生成物にフォルムアミド停止液(100%脱イオン化フォルムアミドおよび0.05%デキストランブルー)を加え、5%ポリアクリルアミド変性ゲルを用いて分析した。泳動中に収集した蛍光ゲルデータをABI PRISM 377自動蛍光DNAシーケンサー(アプライドバイオシステムズ社製,パーキンエルマー,フォスター市,カリフォルニア州)により自動的に分析した。各々の蛍光ピークについて塩基対のサイズ、ピークの高さおよびピーク面積の見地から定量した。
74例の腫瘍中34例(46%)においてp53座での相同性の消失が認められた。また、74例の腫瘍中29例(39%)において18q21座での相同性の消失が認められた。
表4に、遺伝子変異と臨床病理学的知見ならびに組織内サイトカイン濃度の関係を示した。
【0045】
【表4】
【0046】
肝転移とリンパ節転移が18q座での相同性の消失と有意に関連していることが見出された。しかし、17p座での相同性の消失は病気の進行を示唆するような如何なる臨床病理学的知見とも関連しなかった。17p座での相同性の消失の有無によって組織内サイトカイン濃度に有意差は認められなかったが、18q座での相同性の消失は結腸癌における組織内IL−1ra/IL−6比と有意に相関していた(統計処理はANOVAおよびYates修正chi−square analysisによりおこなった)。
【0047】
【発明の効果】
IL−1ra/IL−6濃度比は、癌の存在の有無、癌の悪性度および患者の予後を反映したものであり、患者由来試料のIL−1ra/IL−6濃度比を測定することにより目的対象とする患者の癌の診断、癌の悪性度および患者の予後を客観的に判定することができる。本発明の方法により、患者に最適な治療を施すことができ、また、予後も的確に推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】癌組織内IL−1ra/IL−6比に基づいて分類分けした患者の累積生存率を示すグラフである。
【図2】結腸癌、結腸腺腫および正常粘膜組織内IL−1ra/IL−6濃度比を示す。
【図3】正常粘膜における組織内IL−1ra濃度とIL−6濃度の相関を示すグラフである。
【図4】腺腫における組織内IL−1ra濃度とIL−6濃度の相関を示すグラフである。
【図5】より小さい癌における組織内IL−1ra濃度とIL−6濃度の相関を示すグラフである。
【図6】より大きい癌における組織内IL−1ra濃度とIL−6濃度の相関を示すグラフである。
【図7】A、B、CおよびDは、それぞれ、癌組織の組織染色法によるIL−1β、IL−6、IL−1raおよびIL−10の発現状態を示す図面代用写真である。
Claims (14)
- 試料中のIL−1受容体アンタゴニスト(IL−1ra)およびIL−6濃度を測定し、その濃度比を指標にして判断することを特徴とする癌の診断方法。
- 試料が、組織、細胞または体液である請求項1記載の癌の診断方法。
- IL−1raおよびIL−6タンパク質を測定してIL−1raおよびIL−6濃度を測定する請求項1記載の癌の診断方法。
- IL−1raおよびIL−6タンパクの各々の抗体を用いてIL−1raおよびIL−6タンパク質を測定する請求項3記載の癌の診断方法。
- 癌が大腸癌である請求項4記載の癌の診断方法。
- 癌が胃癌である請求項4記載の癌の診断方法。
- 癌が乳癌である請求項4記載の癌の診断方法。
- 試料中のIL−1受容体アンタゴニストおよびIL−6濃度を測定し、その濃度比を指標として判断することを特徴とする癌の悪性度の判定方法。
- 試料が、組織、細胞または体液である請求項8記載の癌の悪性度の判定方法。
- IL−1raおよびIL−6タンパク質を測定してIL−1raおよびIL−6濃度を測定する請求項8記載の癌の悪性度の判定方法。
- IL−1raおよびIL−6タンパクの各々の抗体を用いてIL−1raおよびIL−6タンパク質を測定する請求項10記載の癌の悪性度の判定方法。
- 癌が大腸癌である請求項11記載の癌の悪性度の判定方法。
- 癌が胃癌である請求項11記載の癌の悪性度の判定方法。
- 癌が乳癌である請求項11記載の癌の悪性度の判定方法。
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