JP2004081034A - プリオンタンパク質遺伝子発現の検出方法、検出用キット、検出試薬、プリオンタンパク質遺伝子発現の抑制剤ならびにプリオン病の予防および/または治療薬 - Google Patents
プリオンタンパク質遺伝子発現の検出方法、検出用キット、検出試薬、プリオンタンパク質遺伝子発現の抑制剤ならびにプリオン病の予防および/または治療薬 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】ヒトまたは動物由来組織中のグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)の酸性アイソフォーム(acidic isoform)および塩基性アイソフォーム(basic isoform)を検出する工程を含むことを特徴とするプリオンタンパク質遺伝子発現の検出方法。GAPDHの塩基性アイソフォームを増加させ、および/または酸性アイソフォームを減少させることを特徴とするプリオンタンパク質発現の抑制剤。当該抑制剤を含む予防および/または治療薬。
【選択図】 なし
Description
【産業上の利用分野】
本発明は、プリオンタンパク質遺伝子発現の検出方法、検出用キット、検出試薬、検出用装置、プリオンタンパク質遺伝子発現の抑制剤、プリオン病予防および/または治療薬、治療方法、ならびに、抑制方法に関する。
【0002】
【発明の技術的背景】
プリオン病は、異常型プリオンタンパク質(PrPSc)が脳に蓄積することにより生じる神経変性疾患である。プリオン病は、ヒトの疾病としては、たとえばクロイツフェルト・ヤコブ病、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病、致死性家族性不眠症などが知られており、また、牛では、牛海綿状脳症(狂牛病)などが知られている。
【0003】
現在、プリオン病は、異常型プリオンタンパク質が体内に入り、もともと脳に発現している正常型プリオンタンパク質(PrPc)を異常型に変え、異常型プリオンタンパク質が脳に蓄積することで、脳の神経組織などを破壊するために引き起こされると考えられている。しかしながら、プリオン病の詳しい感染のメカニズムについては、未だ不明である。
【0004】
プリオン病は、治療が非常に困難であり、いまだ決定的な治療法が見つかっていない。したがって、プリオン病の治療法および発病の未然防止法の開発が、現在、緊急の課題となっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような課題を解決しようとするものであり、的確にプリオンタンパク質遺伝子の発現を検出し得るプリオンタンパク質遺伝子発現の検出方法、検出用キット、検出試薬、検出用装置、プリオン病の治療に有用なプリオンタンパク質発現の抑制剤、プリオン病予防および/または治療薬、治療方法、ならびに、抑制方法を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
一般に、変異型のヤコブ病および狂牛病では、異常型プリオンタンパク質の摂取によって感染すると考えられている。しかし、異常型プリオンタンパク質を摂取しても、必ずしも発症するわけではない。この理由としては、免疫力、遺伝的多型、異常型プリオンタンパク質の発現量の違いなどが考えられている。
【0007】
本発明者らは、このような点に着目し、プリオン病の発病のメカニズムを解明すべく、正常型プリオンタンパク質の遺伝子の発現がどのように制御され、どのような状況で変化するかという観点から研究を行ってきた。その結果、正常型のプリオンを作る遺伝子が大半の細胞にあるGAPDHという酵素の発現と関係が深いことを突き止めた。また、一般にプリオンタンパク質は、脳に多く存在していることが知られているが、脳以外にも、人間の肝臓がん由来細胞およびマウス胎児肝などに高発現していることを見出している。
【0008】
このような状況下、本発明者らは、プリオン病の感染メカニズムを解明すべく研究を重ねたところ、人間の肝臓がん細胞や胎児の腎臓の細胞でこの酵素を増やす物質を加えると、プリオン遺伝子の発現量が増え、逆に、プリオン遺伝子が多く存在する脳腫瘍細胞にこの酵素の量を減らす物質を加えると、同遺伝子の発現量が減少することを見出した。また、さらに、GAPDHの塩基性アイソフォームと酸性アイソフォームの存在量によって、正常型プリオンタンパク質を作る遺伝子の発現量が相違することを新たに見出した。本発明は、このような知見に基づいて、完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明に係るプリオンタンパク質遺伝子発現の検出方法は、ヒトまたは動物由来組織中のグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)の酸性アイソフォーム(acidic isoform)および塩基性アイソフォーム(basic isoform)を検出する工程を含むことを特徴としている。
【0010】
前記検出工程としては、たとえば、ヒトまたは動物由来組織から得られる被検細胞より核タンパク質を分画し、当該核タンパク質を二次元電気泳動にかけた後、ウェスタンブロット法により検出を行う工程が挙げられる。
【0011】
本発明の検出用キットは、上記の検出方法に用いられるキットであって、少なくとも抗GAPDH抗体を含むことを特徴としている。
【0012】
本発明の検出試薬は、プリオンタンパク質遺伝子発現の検出のための試薬であり、また、GAPDHの酸性アイソフォームおよび塩基性アイソフォームを検出するための試薬であって、抗GAPDH抗体を含むことを特徴としている。
【0013】
本発明の検出用装置は、上記の検出方法に用いられる装置であって、GAPDHの酸性アイソフォームおよび塩基性アイソフォームを検出するための二次元電気泳動装置および/またはブロッティング装置を含むことを特徴としている。
【0014】
本発明に係るプリオンタンパク質発現の抑制剤は、GAPDHの酸性アイソフォームを減少させ、および/または塩基性アイソフォームを増加させることを特徴としている。
【0015】
本発明の抑制剤によれば、GAPDHの酸性アイソフォームを減少させ、および/または塩基性アイソフォームを増加させることで、正常型プリオンタンパク質の発現を抑制することができ、正常型プリオンタンパク質の発現量が減るので、異常型プリオンタンパク質が正常型プリオンタンパク質に感染することによる異常型プリオンタンパク質の増加も抑制することができる。
【0016】
上記抑制剤は、たとえばGAPDHのアンチセンス薬剤またはデプレニルを有効成分とすることが好ましい。
【0017】
本発明に係るプリオン病の予防および/または治療薬は、上記抑制剤を含むことを特徴としている。本発明のプリオン病の予防および/または治療薬は、プリオン病発症遅延薬であってもよい。
【0018】
本発明に係る治療方法は、プリオン病の予防および/または治療薬を用いることを特徴としている。
【0019】
本発明に係るプリオンタンパク質発現の抑制方法は、GAPDHの塩基性アイソフォームおよび/または酸性アイソフォームの量を調節することを特徴としている。具体的には、本発明の抑制方法は、GAPDHの酸性アイソフォームを減少させ、および/または塩基性アイソフォームを増加させることで、正常型プリオンタンパク質の発現を抑制することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明のプリオンタンパク質遺伝子発現の検出方法は、ヒトまたは動物由来組織中のグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)のアイソフォームを検出する工程を含んでいる。
【0021】
ここで、プリオンタンパク質遺伝子発現の検出とは、プリオンタンパク質の発現および/またはプリオンタンパク質のmRNAの発現の検出をいう。
【0022】
上記GAPDHのアイソフォームには、酸性アイソフォーム(acidic isoform)と塩基性アイソフォーム(basic isoform)があることが知られている(Ann Hum. Genet., 40, 67−77 1976参照)。
【0023】
本発明の検出方法は、GAPDHの酸性アイソフォームおよび/または塩基性アイソフォームを検出することにより行われるが、GAPDHの酸性アイソフォームおよび塩基性アイソフォームの両方を検出することが好ましい。
【0024】
GAPDHのアイソフォームの検出工程は、たとえば、ヒトまたは動物由来組織から得られる被検細胞より核タンパク質を分画し、当該核タンパク質を二次元電気泳動にかけた後、ウェスタンブロット法により酸性アイソフォームおよび塩基性アイソフォームを検出することにより行われる。
【0025】
GAPDHは、一般に、核外の細胞質に多く見られる(Molecular pharmacology, 57:2−12(2000)参照)。しかしながら、本発明者らの研究により、細胞質中のGAPDHとプリオンタンパク質遺伝子の発現との間には、相関関係があまり見られず、核内のGAPDHとプリオンタンパク質遺伝子発現との間に特に深い相関関係が見られることを新たに見出している。したがって、本発明の検出方法では、核内のGAPDHのアイソフォームを検出することが望ましい。
【0026】
核タンパク質の分画、二次元電気泳動、ウェスタンブロット法による検出は、従来公知の方法であり、たとえばJ. Biol. Chem., 250, 4007−4021 1975 などに記載の方法にしたがって、それぞれ行うことができる。
【0027】
本発明の方法によれば、たとえば、GAPDHの酸性アイソフォームと塩基性アイソフォームを検出し、その発現量を比較することにより、正常型プリオンタンパク質遺伝子が高発現しているか、または、低発現しているかを検出することができる。
【0028】
正常型プリオンタンパク質遺伝子を直接検出することも可能であるが、一般に遺伝子の量には、個体差があるので、正常型プリオンタンパク質遺伝子を直接検出することにより、高発現をしているか低発現をしているかを判断するのは的確性に欠ける場合がある。しかし、本発明の方法によれば、GAPDHの酸性および塩基性アイソフォームの発現量を検出することにより正常型プリオンタンパク質遺伝子の発現量が検出できるので、個体差に左右されずに、的確に正常型プリオンタンパク遺伝子が高発現しているか、低発現しているかの検出が可能となる。
【0029】
より具体的には、GAPDHの酸性アイソフォームと塩基性アイソフォームを検出することにより、酸性アイソフォームの発現量が、塩基性アイソフォームの発現量よりも多い場合には、正常型プリオンタンパク質遺伝子が高発現していると判別し得る。また、塩基性アイソフォームの発現量が、酸性アイソフォームの発現量よりも多い場合には、正常型プリオンタンパク質遺伝子が低発現していると判別し得る。発現量の比較は、二次元電気泳動後にウェスタンブロット法で検出したゲル写真により、目視により判断がなされてもよく、または、画像解析装置などにより、酸性アイソフォームと塩基性アイソフォームの各発現量を定量的に測定することにより、比較してもよい。
【0030】
以下に、図1および図2を例にとり、さらに具体的に説明する。
【0031】
IMR−32細胞(neuroblastoma)では、図1にみられるように、酸性アイソフォームより塩基性アイソフォームの発現量が多く、PrPmRNAの発現量は低い(図2参照)。また、A172細胞(glioblastoma)では、酸性アイソフォームが非常に多く現れており(図1参照)、塩基性アイソフォームはほとんど検出されず、PrPmRNAの発現量が多い(図2参照)。本発明では、このように、GAPDHの酸性アイソフォームと塩基性アイソフォームとの相対量と、PrPmRNAの発現量の相関関係を利用して、酸性アイソフォームと塩基性アイソフォームの量を比較することにより、正常型プリオンタンパク質遺伝子の発現を検出することができ、また、正常型プリオンタンパク質遺伝子の発現量を予測することができる。
【0032】
ところで、本発明者らの研究により、一般に、正常な細胞であるなら、プリオンタンパク質を検出し得ない場所でも、癌化した場合には、プリオンタンパク質の発現が見られる場合もあることが見出されている。このことから、本発明のプリオンタンパク質の検出方法は、癌細胞の検出等に応用できる可能性がある。
【0033】
本発明の検出用キットは、本発明の検出方法に用いられるキットであって、少なくとも抗GAPDH抗体を含んでいる。また、たとえば、精製ヒトGAPDH等のウェスタンブロットによる検出の際に用いられる標準物質が含まれていることが好ましい。
【0034】
本発明に用いられる検出試薬としては、GAPDHの酸性アイソフォームおよび塩基性アイソフォームを検出するための試薬であればよく、具体的には、抗GAPDH抗体を含む試薬が用いられる。
【0035】
本発明の検出用装置は、本発明の検出方法に用いられる装置であって、GAPDHの酸性アイソフォームおよび塩基性アイソフォームを検出するための二次元電気泳動装置および/またはブロッティング装置を含んでいる。
【0036】
本発明のプリオンタンパク質発現の抑制剤は、GAPDHの塩基性アイソフォームを増加させる作用がある物質、酸性アイソフォームを減少させる作用がある物質、あるいは、塩基性アイソフォームを増加させ、かつ酸性アイソフォームを減少させる作用がある物質であればいずれであってもよい。
【0037】
このような作用を有する抑制剤は、たとえば、GAPDHのアンチセンス薬またはデプレニルなどを有効成分としている。
【0038】
ここで、一般に、アンチセンス薬とは、アンチセンス治療に使用される薬剤であって、細胞内にあるターゲットのポリヌクレオチドに結合する外来性オリゴヌクレオチドのことをいう。本発明に用いられるアンチセンス薬としては、具体的には、GAPDH antisense oligonucleotide (GAPDH AS)を用いることができる。GAPDH ASは、GAPDHをコードする遺伝子(DNA)(以下、GAPDH遺伝子という。GAPDH遺伝子の配列は、たとえば、Cancer Res.,47(21), 5616−5619(1987)に記載されている。)に相補的なDNAをいう。ただし、必ずしもGAPDH遺伝子の全長に相当する相補的配列を有する必要はない。すなわち、本発明で用いられるGAPDH ASは、GAPDH遺伝子に相補的な配列であれば、本発明の効果を達成し得るかぎり、いずれの鎖長であってもよい。
【0039】
このような中でも、特に、下記の配列を有するものが好ましい。
【0040】
なお、GAPDH ASは、公知物質であり、たとえば、シグマジェノシスジャパン(株)より入手可能である。
【0041】
また、デプレニルは、たとえば、J. Biol. Chem., 273(10), 5821−8 1998, J.Neurochem., 72(3), 925−932 1999, Mol. Pharmacol., 57(1), 2−12 2000 に記載の方法により入手可能である。
【0042】
本発明のプリオン病の予防および/または治療薬は、上記抑制剤を含むものである。
【0043】
また、上記プリオン病の予防および/または治療薬は、プリオン病発症遅延薬であってもよい。なお、現在、プリオン病治療の一つのアプローチとして、PrPcの発現量がプリオン病の潜伏期を規定するなどの理由から、遺伝子治療による正常型プリオンタンパク質の発現制御も有効な試みと考えられており、かかる点からも本発明の予防および/または治療薬は有望である。
【0044】
本発明の予防および/または治療薬の投与は、経口、または、非経口(例:皮下、静脈内、筋肉内、または、経皮)ルートにより行うことができる。また、投与量(有効成分量)は、受体の年齢、健康状態および体重、合併症、投与時間、投与方法、他の治療が行われている場合には同時治療の種類、動物に投与する場合は投与する動物の種類等によって定められる。
【0045】
本発明のプリオン病予防および/または治療薬は、本発明の効果を損なわない限り、いかなる剤型をとっていてもよい。具体的には、経口投与としては、固体又は液体の剤型、たとえば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、細粒剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤、注射剤等が挙げられる。また、非経口投与としては、たとえば、注射用製剤、点滴剤などが挙げられる。
【0046】
錠剤等の製剤の場合は、製剤分野において常用される賦型剤(例えば、乳糖、白糖、デンプン、マンニトール等)を用いて製造でき、注射等の製剤の場合は、大豆レシチン等の天然界面活性剤、又はポリソルベート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の合成界面活性剤等を用いて乳化又は可溶化して製造することができる。
【0047】
本発明のプリオン病予防および/または治療薬中には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、さらに通常医薬品に含まれる成分が含まれていてもよい。具体的には、酸化防止剤、結合剤(例えば、α化デンプン、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニールピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース等)、崩壊剤(例えば、炭酸カルシウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム等)、滑沢剤(例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール6000等)、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を含有していてもよい。
【0048】
ところで、プリオンタンパク質は、銅結合蛋白であり、銅含量が豊富な脳に多く存在している。また、本発明者らの研究により、プリオンタンパク質は正常脳以外のがん細胞などの腫瘍細胞にも多く発現していることが認められている。すなわち、プリオンタンパク質は、神経活動や細胞増殖におけるエネルギー代謝に関連した蛋白である可能性が高いと考えられる。したがって、このようなエネルギー代謝に関連した、プリオンタンパク質が高発現している場所に局所的に本発明の予防および/または治療薬を投与すれば、さらなる薬効が期待できる可能性がある。
【0049】
具体的には、ヒト正常脳、正常ヒトアストロサイト(HAC)、ヒト脳腫瘍由来T98G細胞、A172細胞、HepG2細胞、胎児マウスの肝細胞、成熟マウスの肝細胞の組織にプリオンタンパク質が存在することが確認されており、このような場所に移行する薬剤であることが好ましい。また、このような場所に、局所的に投与してもよい。
【0050】
なお、たとえば、デプレニルは、脳に移行する薬剤である。しかし、プリオン病の初期では、脳だけでなく、末梢においても、異常プリオンの増殖の可能性が考えられる。したがって、本発明の予防薬および/または治療薬は、プリオン病の予防あるいは治療効果を達成し得る限り、必ずしも、脳だけに移行する薬剤あるいは剤型に限定されないことはいうまでもない。
【0051】
本発明の治療方法は、上記プリオン病の予防および/または治療薬が用いられる。
【0052】
本発明に係るプリオンタンパク質発現の抑制方法は、GAPDHの塩基性アイソフォームおよび/または酸性アイソフォームの量を調節することにより行われる。具体的には、GAPDHの酸性アイソフォームを減少させ、および/または塩基性アイソフォームを増加させることで、正常型プリオンタンパク質の発現を抑制することができる。
【0053】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これらの実施例に何ら制限されるものではない。
[実験で用いた材料]
GAPDH antisense(GAPDH AS):シグマジェノシスジャパン(株)
IMR−32:財団法人ヒューマンサイエンス研究資源バンクより入手、神経芽細胞腫A−172:財団法人ヒューマンサイエンス研究資源バンクより入手、神経膠芽腫
T98G:財団法人ヒューマンサイエンス研究資源バンクより入手、神経膠芽腫
HepG2細胞:東北大学加齢医学研究所医用細胞資源センターより入手、
ヒト肝癌由来細胞
[実験で用いた装置]
二次元電気泳動装置:アトー(株)社製、装置名 ラピダス・ミニスラブ電気泳動槽
ブロッティング装置:Owl Separation Systems Inc.製 装置名 Pantherセミドライエレクトロブロッター
[実施例1]
核タンパク質の分画方法
コンフレントの状態のIMR−32細胞を、氷冷したPBS、次いでA buffer(注1)で洗浄した後、B buffer(注2)を加え、セルスクレイパーで細胞をかき集めた後、2000 rpm、20秒間遠心した。沈殿にsucrose buffer(注3)を加え、2000 rpm、20秒間遠心した。得られた沈殿にD buffer(注4)を加え、30分間ボルテックスミキサーで懸濁し、1400 rpm、15分間遠心した。得られた上清を核タンパク質抽出液とした。
(注1) A buffer
10 mM N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N_−2−エタンスルホン酸(HEPES:和光純薬工業(株))(pH7.6)、15 mM KCl、2 mM MgCl2、0.1 mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、1 mM(±)−ジチオトレイトール(DTT:和光純薬工業(株))、0.5 mM フェニルメチルスルホニルフルオライド(PMSF:和光純薬工業(株))、10 μg/mL ロイペプチン(和光純薬工業(株))を含む。なお、 DTT、PMSF、ロイペプチンは使用直前に添加した。
(注2) B buffer
A bufferに終濃度が0.2%になるようにNonidet P−40(第一化学薬品工業(株))を溶解した。
(注3) sucrose buffer
0.25 M スクロース、10 mM HEPES(pH7.6)、15 mM KCl、2 mM MgCl2、0.1 mM EDTA、1 mM DTT、0.5 mM PMSF、10 μg/mL ロイペプチンを含む。なお、 DTT、PMSF、ロイペプチンは使用直前に添加した。
(注4) D buffer
50 mM HEPES(pH7.9)、400 mM KCl、0.1 mM EDTA、10%グリセリン、1 mM DTT、0.5 mM PMSF、10 μg/mL ロイペプチンを含む。なお、 DTT、PMSF、ロイペプチンは使用直前に添加した。
二次元電気泳動およびウェスタンブロット法による検出
▲1▼ 核タンパク質抽出液の調製
核タンパク質抽出液を2 mg/mLとなるように調製し、KClを含まないD bufferに対し一晩透析を行った。
▲2▼ 等電点電気泳動法
ゲル化溶液(注1)を作製し、調製した核タンパク質抽出液(10 μg)をのせ、その上から試料保護液(注2)と陰極用電極液(注3)を順に重層し、電気泳動(泳動開始:50V 30〜60分間、100V 30〜60分間、150V 120〜180分間、泳動終了:250V 30〜60分間、running buffer:陽極用電極液(注4)、陰極用電極液)を行った。電気泳動終了後、平衡化buffer(注5)により平衡化を30分間行った。
(注1) ゲル化溶液
保存用アクリルアミド溶液(注6) 2.5 mL、グリセリン 0.75 mL、AmpholinepH3−10(日本バイオ・ラッド ラボラトリーズ(株))0.25 mL、滅菌ミリQ水 0.7 mL、10% APS 35 μL、TEMED 5 μLを混合して作製した。
(注2) 試料保護液
グリセリン 0.1 mL、Ampholine pH3−10 を5 μL含む液を調製した。
(注3) 陰極用電極液
0.1%水酸化ナトリウム溶液を用いた。
(注4) 陽極用電極液
0.06%リン酸溶液を用いた。
(注5) 平衡化buffer
62.5 mM Tris−HCl(pH6.8)、2.3% SDS、10%グリセリン、5% β−MEを含む。
(注6) 保存用アクリルアミド溶液
アクリルアミド(和光純薬工業(株))9.7 g、N,N_−メチレンビスアクリルアミド(和光純薬工業(株))0.3 gを含む保存用アクリルアミド溶液を調製し、遮光して保存した。
▲3▼ 10% SDS−polyacrylamide electrophorsis(PAGE)
10% SDS−PAGEを作製し、そこに平衡化したゲルをのせ、電気泳動(濃縮ゲル(注1):20mA、分離ゲル(注2):40mA、running buffer:Tris−glycine buffer(注3))を行った。電気泳動終了後、濃縮ゲルを切り離し、transfer buffer(注4)により平衡化を5分間、2回行った。
(注1) 濃縮ゲル
アクリルアミドストック溶液 0.79 mL、0.5 M Tris−HCl(pH6.8) 1.25 mL、滅菌ミリQ水 2.89 mL、10% SDS 50 μL、10%過硫酸アンモニウム(APS:和光純薬工業(株))34 μL、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED:和光純薬工業(株))10 μLを混合して作製した。
(注2) 分離ゲル
アクリルアミドストック溶液 5.3 mL、1.5 M Tris−HCl(pH8.8) 4 mL、滅菌ミリQ水 6.45 mL、10% SDS 160 μL、10% APS 106 μL 、TEMED 16μLを混合して作製した。
(注3) Tris−glycine buffer
25 mM Tris、192 mM グリシン、0.1% SDSを含む。
(注4) transfer buffer
25 mM Tris、192 mM グリシン、10%メタノールを含む。
▲4▼ ウェスタンブロット法によるGAPDHの検出
平衡化したゲルをセミドライ法によりtransfer buffer中でポリビニリデンジフルオライド膜(PVDF:日本エイドー(株))に転写した(100mA、3時間)。転写終了後、膜を5%スキムミルクを含むPBST(注1)を用いて1時間ブロッキングした。ブロッキング終了後、抗GAPDH抗体(Biogenesis, Inc.)を1時間結合させ、PBSTを用いて5分間、2回洗浄した。次いでアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG(H+L)(プロメガ(株))を1時間結合させ、PBSTを用いて5分間、3回洗浄した。0.1 M Tris(pH9.5)を用いて5分間リンスした後、CDP−Star(登録商標)Western Blot Chemiluminescence Reagent(NEN Life Science Products, Inc.)で5分間室温でインキュベートした。インキュベート後、フィルム(アマシャム バイオサイエンス(株))に露光させた。
【0054】
結果を図1に示す。図1に示したように、IMR−32細胞(neuroblastoma)では、酸性アイソフォームより塩基性アイソフォームの発現量が多かった。
(注1) PBST
50 mM NaH2PO4・2H2O(pH7.4)、154 mM NaCl、0.05% Tween 20(ICN Biomedicals Inc.)を含むPBSTを調製した。
プリオンタンパク質の発現量( mRNA 量)の測定
▲1▼ total RNA の抽出およびDNase処理
IMR−32細胞からのtotal RNAの抽出はTRIZOL(登録商標)試薬(インビトロジェン(株))を用いて行った。混入したDNAを分解するため、40 μgのtotal RNA、1×DNase buffer、20 units RNase inhibitor(ニッポンジーン(株))、および2 units DNase(RT grade:ニッポンジーン(株))を含む反応液(100 μL)を、37℃、15分間反応させた。反応後、フェノール・クロロホルム処理をし、total RNAをエタノール沈殿した。
▲2▼ RT−PCR法を用いたPrP mRNAの検出
DNase処理した2 μgのtotal RNAを65℃、5分間熱変性させ、直ちに氷中で冷却した。逆転写には、2 μgのtotal RNA、1×reaction buffer、0.5 mM dNTP(ニッポンジーン(株))、2.5 μM primer p(dT)15(ロシュ・ダイアグノスティックス(株))、あるいはrandam primer(ロシュ・ダイアグノスティックス(株))、20 units RNase inhibitor、200 units M−MLV reverse transcriptase(ReverScriptI:ニッポンジーン(株))を含む反応液(20 μL)を37℃、1時間反応させた。逆転写反応後、95℃、15分間加熱してReverScriptIを失活させ、cDNAを作製し、80 μLの滅菌ミリQ水を加え、cDNA溶液とした。PCRには、5 μLのcDNA溶液、1×reaction buffer(プロメガ(株))、0.2 mM dNTP、1.5 mM MgCl2(プロメガ(株))、1 μM プライマー(アマシャム バイオサイエンス(株))および0.5 units Taq DNA polymerase(プロメガ(株))を含む反応液(20 μL)を調製した。サーマルサイクラー(i cycler:日本バイオ・ラッド ラボラトリーズ(株))を用い、94℃、2分間の加熱を1回、続いて94℃・30秒間、60℃・30秒間、72℃・1分間の条件でPrPは22 cycles、GAPDHは17 cycles行い、72℃で10分間加温し、DNA断片を増幅した。PCR産物(20 μL)から10 μL 分取し、そこに6×DNA dye(注1)を2 μL 混合したサンプル溶液を調製した。このサンプル溶液とサイズマーカーとして100 bpのDNA Ladder(New England Biolabs Inc.)を2%アガロースゲル(1×TAE(注2))にアプライし、電気泳動(100V、running buffer:1×TAE)を行った。電気泳動終了後、エチジウムブロマイドで染色し、バンドを確認した。
【0055】
なお、使用したプライマーの配列は、下記のとおりである。
結果を図2に示す。
【0056】
図2に示されるように、酸性アイソフォームより塩基性アイソフォームの発現量が少ない場合、プリオンタンパク質遺伝子の発現量が低いことが示された。
(注1) 6×DNA dye
30%グリセリン、0.25%ブロモフェノールブルー、0.25%キシレンシアノールを含む。
(注2) 1×TAE
トリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris:インビトロジェン(株)) 2.47 g、氷酢酸 0.571 mL、0.5 M EDTA 1 mLを混合し、1×TAE 500 mLを調製した。(注3) プリオンタンパク質遺伝子の配列については、たとえば、DNA, 5(4),
315−324(1986)に記載されている。
[実施例2]
IMR−32細胞(neuroblastoma)の代わりにA172細胞(glioblastoma)を用いた以外は、実施例1と同様にGAPDHの検出を行い、プリオンタンパク質の発現量(mRNA量)を測定した。
【0057】
結果を図1および図2に示す。図1に示されるように、酸性アイソフォームの発現量の方が塩基性アイソフォームより非常に多かった。また、図2に示すように、酸性アイソフォームの発現量が塩基性アイソフォームの発現量より非常に多い場合、プリオンタンパク質遺伝子の発現量が高いことが示された。
【0058】
上記実施例1および2より、GAPDHの酸性アイソフォームを多く発現している場合、プリオンタンパク質遺伝子の発現量が多く、GAPDHの塩基性アイソフォームを多く発現している場合、プリオンタンパク質遺伝子の発現量が少ないことが示された。この関係を利用すれば、GAPDHの酸性アイソフォームおよび塩基性アイソフォームの発現量を測定することにより、プリオンタンパク質遺伝子の発現量を予測し、検出することができる。
[実施例3]
▲1▼ GAPDH mRNAのantisense oligonucleotideの細胞への導入
6穴プレートにT98G細胞を撒き、コンフレントの50〜80%程度になるように培養した後、GAPDH mRNAのantisense oligonucleotide phosphorothioate (GAPDH AS:アマシャム バイオサイエンス(株)) 2 μgをトランスフェクション試薬であるFuGENE6(ロシュ・ダイアグノスティックス(株))6 μLと混和し、培養中の細胞に加えて細胞へ導入した。また、比較物質としてsense配列のoligonucleotide phosphorothioate (GAPDH S)を同様に導入したものを準備した。なお、用いた配列は以下の通りである。
▲2▼プリオンタンパク質の発現量(mRNA量)の測定
GAPDH AS導入48時間後の細胞を用いた以外は、実施例1のプリオンタンパク質遺伝子(mRNA量)の発現量の測定と同様に行った。
【0059】
また、GAPDH ASの代わりに比較物質としてGAPDH Sを導入した細胞、及び、コントロールとして、GAPDH ASを加えなかった細胞についても同様に、プリオンタンパク質遺伝子の発現量を測定した。
【0060】
結果を図3に示す。
【0061】
図3bに示されるように、GAPDH ASを加えた場合には、コントロール(GAPDH AS不添加)に比較して、酸性アイソフォームの量が減少した。また、図3aに示されるように、比較物質としてGAPDH Sを加えた場合には、プリオンタンパク質遺伝子(PrP mRNA)の発現量は、何も加えなかった場合(コントロール)と同等の量であったのに対し、GAPDH ASを加えた場合には、プリオンタンパク質遺伝子(PrP mRNA)の発現量が抑制された。なお、図3a中、GAPDH mRNA及びβ−actin mRNAは、コントロールである。
[実施例4]
HepG2細胞にデプレニルを図4に記載の濃度で導入し、培養した。当該細胞について、プリオンタンパク質の発現量(mRNA量)を、実施例1のプリオンタンパク質の発現量(mRNA量)の測定に記述した方法と同様の方法により測定した。結果を図4に示す。
【0062】
図4に示されるように、デプレニルを加えた場合には、プリオンタンパク質遺伝子の発現量が抑制された。なお、図4中、GAPDH mRNAは、コントロールである。
【0063】
【発明の効果】
本発明の検出方法によれば、的確に、正常プリオンタンパク質遺伝子の発現を検出することができる。
【0064】
本発明のプリオンタンパク質発現の抑制剤によれば、正常プリオンタンパク質の発現を抑制することができ、プリオン病の予防および/または治療に有用である。また、たとえば、マラリア薬を使ったプリオン病の治療法といった他の治療法と併用することにより、さらなる治療効果が期待できると予想される。
【0065】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】IMR−32細胞とA172細胞を用いたときの核内GAPDHの発現を示したゲル電気泳動写真。
【図2】IMR−32細胞とA172細胞を用いたときのPrP遺伝子の発現を示したゲル電気泳動写真。
【図3】GAPDH antisense oligonucleotide (GAPDH AS)導入によるPrP遺伝子の発現とGAPDHの発現に対する影響を示したゲル電気泳動写真。
【図4】HepG2細胞におけるPrP遺伝子の発現に及ぼすGAPDH核移行阻害剤(deprenyl)の影響を示したゲル電気泳動写真。
Claims (12)
- ヒトまたは動物由来組織中のグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)の酸性アイソフォームおよび塩基性アイソフォームの検出工程を含むことを特徴とするプリオンタンパク質遺伝子発現の検出方法。
- 前記検出工程が、ヒトまたは動物由来組織から得られる被検細胞より核タンパク質を分画し、当該核タンパク質を二次元電気泳動にかけた後、ウェスタンブロット法により検出を行う工程であることを特徴とする請求項1に記載の検出方法。
- 請求項1又は2に記載の検出方法に用いられるキットであって、少なくとも抗GAPDH抗体を含むことを特徴とする検出用キット。
- GAPDHの酸性アイソフォームおよび塩基性アイソフォームを検出するための試薬であって、抗GAPDH抗体を含むことを特徴とするプリオンタンパク質遺伝子発現の検出のための検出試薬。
- 請求項1又は2に記載の検出方法に用いられる装置であって、GAPDHの酸性アイソフォームおよび塩基性アイソフォームを検出するための二次元電気泳動装置および/またはブロッティング装置を含むことを特徴とする検出用装置。
- ヒトまたは動物由来組織中のGAPDHの酸性アイソフォームを減少させ、および/または塩基性アイソフォームを増加させることを特徴とするプリオンタンパク質遺伝子発現の抑制剤。
- GAPDHのアンチセンス薬剤を有効成分とすることを特徴とする請求項6に記載の抑制剤。
- デプレニルを有効成分とすることを特徴とする請求項6に記載の抑制剤。
- 請求項6〜8のいずれか1項に記載の抑制剤を含むことを特徴とするプリオン病の予防および/または治療薬。
- プリオン病発症遅延薬であることを特徴とする請求項9に記載のプリオン病の予防および/または治療薬。
- 請求項9または10に記載のプリオン病の予防および/または治療薬を用いた治療方法。
- GAPDHの酸性アイソフォームおよび/または塩基性アイソフォームの量を調節することを特徴とするプリオンタンパク質発現の抑制方法。
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