JP2004069355A - マイクロアレイ用基板およびその作製方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】板状の基材と、この基材表面に一部が食い込んだアンカー部を介して形成された金属酸化物層と、この金属酸化物層の表面にはカルボキシル基が共有結合もしくは配位結合により固定されていると共に、自由末端にもカルボキシル基を有するように前記金属酸化物表面が修飾されているマイクロアレイ用基板。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、医療、農業分野や生化学、分子生物学、遺伝子工学等において使用されるDNAマイクロアレイ(DNAチップ)等のマイクロアレイの作製に必要なマイクロアレイ用基板とその作製方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
DNAマイクロアレイは、表面処理したスライドガラスやシリコンなどの基板にDNA分子を高密度に配列固定化させたデバイスであり、遺伝子発現や遺伝子多型などを効率的に解析可能である。DNAマイクロアレイの基板に用いられるスライドガラス等の表面はDNA等の生体高分子を固定化するのに適切な官能基を有さないため、表面処理を行う必要がある。スライドガラスの表面処理としては、従来、ポリリシンを用いて処理する方法[M.Schena et al.,Science,270,467−470(1995)]が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
DNAマイクロアレイの基板として、ポリリシンで表面処理したスライドガラスを用いた場合、基板とDNAの固定が静電気的な結合であるため、DNAの固定化が不安定で、スポッティング工程、ハイブリダイゼーション工程、後処理工程、洗浄工程において、DNAが剥離しやすく、また、DNAが非特異的な吸着を起こすといった問題がある。
【0004】
これを解決するために、特開2000−63154号公報に開示されるように、カルボキシル基を官能基として有するポリマーで表面をコーティングしたガラスプレートがある。この方法は、表面に効率的にDNA等の核酸を安定に固定化することができるガラスプレートである。しかし、この基板材料は、コーティング剤溶液中にガラスプレートを浸して乾燥させたものであり、DNAマイクロアレイ基板を繰り返し使用した場合にはコーティング層がガラスプレートから剥離することにより結局DNAも剥離するといった恐れがあり、また、微細加工のしやすさに問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、DNAを化学的結合で強固にかつ高密度で固定化でき、しかも、DNAを担持した層が基材と強固に固定されており、また、容易に微細なパターニングが可能であるマイクロアレイ用基板とその作製方法を提案するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を達成すべく、本発明は、板状の基材と、この基材表面に製膜された金属酸化物層と、前記金属酸化物層の表面にカルボキシル基が共有結合により固定されていると共に、自由末端にもカルボキシル基を有する化合物と、から構成されているマイクロアレイ用基板を提供する。
【0007】
ここで、金属酸化物層はPVD等の手段によって基材に対して強固に固定されているものである。そして、この金属酸化物層は基材表面よりも起伏に富む等により、単位領域当たりのOH基数はガラス基材表面に比べて多く、また、化合物のカルボキシル基と共有結合(通常ではエステル結合であるが、特定の化合物については配位結合である)していることにより、自由末端にカルボキシル基を有する多くの化合物を金属酸化物層に対して強固に固定することができる。
【0008】
また、別の形態に係る本発明においては、板状の基材と、この基材表面に一部が食い込んだアンカー部を介して形成された金属酸化物層と、この金属酸化物層の表面にはカルボキシル基が共有結合により固定されていると共に、自由末端にもカルボキシル基を有する化合物と、から構成されているマイクロアレイ用基板を提供する。
【0009】
本発明においては、自由末端にカルボキシル基を有する化合物が、後述するエアロゾルディポジション法によって形成された基材表面に一部が食い込むアンカー部を有する金属酸化物層を介して基材と固定されている。このように、基材と金属酸化物層とはアンカー部によって強固に固定されており剥離する可能性が低く、また、金属酸化物層のOH基が化合物のカルボキシル基と共有結合(通常ではエステル結合であるが、特定の化合物については配位結合である)していることにより、自由末端にカルボキシル基を有する化合物が金属酸化物層に対して強固に固定される。その結果として、基材から自由末端にカルボキシル基を有する化合物が剥離する可能性も低くなる。
【0010】
以上の2つの発明の形態において、基材材料は金、銀、銅、鉄、シリコン等の金属、ガラス、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム等のセラミックス、ポリカーボネイト、フッ素樹脂等のプラスティック等が挙げられる。
また、金属酸化物層は、その主成分として酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム等が挙げられる。また、これら金属酸化物を主成分とする金属との複合体、これら金属酸化物を主成分とする樹脂との複合体が挙げられる。
また、前記金属酸化物層と共有結合もしくは配位結合により固定されるカルボキシル基を有し、かつ、自由末端にカルボキシル基を有する化合物は、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、テレフタル酸等のジカルボン酸、クエン酸、1,2,3−プロパントリカルボン酸、エチレンジアミン四酢酸、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸等の多価カルボン酸、およびそれらの酸無水物等が有用である。
なお、前記ジカルボン酸よりも前記多価カルボン酸の方が、基板とDNA等の生体高分子の固定化が強固になると考えられる。
そして、前記自由末端のカルボキシル基とDNA、たんぱく質等の生体高分子のアミノ基とを反応させて固定化すれば、DNAマイクロアレイ等として利用することができるが、このとき、金属酸化物層が基材から剥離することが殆ど無く、DNAマイクロアレイは耐久性に優れたものとなる。
【0011】
また、本発明において、前記金属酸化物層は、その表面がJIS B 0601に規定された算術平均粗さ0.05μm以上に粗面化されていることが望ましい。前記金属酸化物層の表面が粗面化され表面積が大きくなると、多量のDNA等の生体高分子を高密度に固定化することができ、精度、再現性、定量性が向上すると考えられる。
【0012】
また、本発明において、前記金属酸化物層は、複数の点状にパターニングされていることが望ましい。あらかじめ基板側が複数の点状にパターニングされていると、基板にDNA等の生体高分子をスポッティングする工程やハイブリダイゼーション工程、後処理工程、洗浄工程において、DNAの非特異的な吸着が起こりにくいと考えられる。
【0013】
なお、基板材料は凹型にパターニングされており、かつ、その凹部の表面に金属酸化物層が形成されていることが望ましい。これは、スポッティング工程、ハイブリダイゼーション工程、後処理工程、洗浄工程において、DNA等の生体高分子の剥離や、非特異的な吸着が起こりにくいと考えられる。
【0014】
本発明に係るマイクロアレイ用基板の作製方法は、板状の基材表面へ金属酸化物の微粒子を高速で衝突させて、前記基材に前記金属酸化物の微粒子が食い込むアンカー部を形成させるとともに前記金属酸化物層を形成させる工程と、形成された前記金属酸化物層の表面に共有結合によりカルボキシル基を固定し、かつ、自由末端にもカルボキシル基を有するよう前記金属酸化物表面を修飾する工程と、からなることを特徴とする。
【0015】
この金属酸化物層を形成させる工程は、エアロゾルデポジション法(特許第3265481号、国際出願特許WO 01/27348 A1)で作製される構造物の特徴である。エアロゾルデポジション法は、前述する金属酸化物層等のセラミックスの膜を各種基材上に形成させる方法であり、昇温させる工程を要さず、焼結体と同等の強度を保有するセラミックス膜を形成できる。このセラミックス膜と基材の界面には上述のようなアンカー部が形成される特徴を有する。
【0016】
アンカー部を保有することは、DNA等の生体高分子の固定化に最適なカルボキシル基を導入できる前記金属酸化物と、前記基材との密着性を良好にできるため好適である。
また、エアロゾルデポジション法は、前記基材に所望とする微細形状のマスクを配置することにより、所望とする金属酸化物層の微細なパターニングが容易に形成できるため好適な手法である。
なお、金属酸化物表面を修飾する工程は、前記基材上に前記金属酸化物を形成したものを、前記ジカルボン酸や前記多価カルボン酸の溶液に浸漬することにより、自由末端にカルボキシル基を有するマイクロアレイ用基板が簡便に作製できる。
【0017】
また、本発明の特徴の1つは、前記基材上に前記金属酸化物層の形成を常温環境下で行うことである。ここで常温とは、室温以上200℃以下を指し、即ち、セラミックスの焼成温度より十分に低い値である。従って、プラスティック基材や金属基材に金属酸化物を形成させることが容易である。
【0018】
ここで、本発明を理解する上で重要となる語句の解釈を以下に行う。
(アンカー部)
本件の場合には、スライドガラス等の基材と金属酸化物層の界面に形成された凹凸を指し、特に、予めスライドガラス等の基材に凹凸を形成させるのではなく、金属酸化物層の形成時に、元のスライドガラス等の基材の表面精度を変化させて形成される凹凸のことを指す。
(界面)
本件の場合には、結晶子同士の境界を構成する領域を指す。
【0019】
【発明の実施の態様】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に、基材であるスライドガラス101上に金属酸化物層102と、この金属酸化物層102の表面に化合物としてのジカルボン酸103が修飾されたマイクロアレイ用基板10の構成模式図を示す。
この図1に示すように、ジカルボン酸103のカルボキシル基が共有結合又は配位結合により金属酸化物層102に固定され、かつ、自由末端にもカルボキシル基を有する。
このように、金属酸化物層103とジカルボン酸103とが化学的結合により固定されており、その結合は強固である。
【0020】
なお、スライドガラス101上に金属酸化物層102を形成するには、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングといったPVD法によって形成することも可能であるが、エアロゾルディポジション法によって、アンカー層を介して形成した方が強固に固定できる為好ましい。
【0021】
また、図2には、基材であるスライドガラス101に表面が粗面化された金属酸化物層102が形成され、この金属酸化物層102をジカルボン酸103で修飾したマイクロアレイ用基板11の構成模式図を示す。
この図2では金属酸化物層102の表面が粗面化されていることを強調すべく、金属酸化物層102の断面が△状が連なる形状として表現しているが、実際には触針式表面形状測定器(Veeco Instruments製 Dektak3030)により測定したJIS B 0601に規定された算術平均粗さが0.05μm以上となるようにエアロゾルデポジション法により製膜されているものを用いれば良く、この図2に示すように断面が△状が連なる形状となっているものに限定されるものではない。
【0022】
また、図3には、基板であるスライドガラス101の表面が凹型にパターニングされており、かつ、その凹部の表面に粗面化された金属酸化物層102が形成され、この金属酸化物層102をジカルボン酸103で修飾したマイクロアレイ用基板12の構成模式図を示す。
【0023】
図4はアンカー部を説明するものであり、エアロゾルデポジション法を用いて、基材に該当する単結晶シリコン基材上に金属酸化物層に該当する酸化アルミニウム層を形成した構造物について、断面方向から透過型電子顕微鏡(日立製作所製 H−9000UHR)により観察したイメージを示す。シリコン基材と酸化アルミニウム層との界面には約100nm程度の凹凸からなるアンカー層が形成されていることが確認できる。
【0024】
図5に、エアロゾルデポジション法を利用した、スライドガラス上に複数の点状にパターニングされた金属酸化物層の形成に使用する構造物作製装置30の模式図を示す。
作製装置30は、窒素等のガスボンベ301がガス搬送管302を介して、金属酸化物の微粒子を内蔵するエアロゾル発生器303に接続し、エアロゾル搬送管304を介して形成室305内に設置された、縦0.4mm横10mmの開口を持つノズル306に接続されている。ノズル306の先にはXYステージ307に設置されたスライドガラス308が配置され、スライドガラス308には複数の点状にパターニングされたマスク309が配置されている。形成室305は真空ポンプ310に接続されている。
【0025】
以上の構成の作製装置30による、マイクロアレイ用基板における複数の点状にパターニングされた金属酸化物層の作製手順を次に述べる。窒素ガスボンベ301を開栓し、窒素ガスを搬送管302を通じてエアロゾル発生器303に導入させ、金属酸化物の微粒子を含むエアロゾルを発生させる。エアロゾルは搬送管304を通じてノズル306へと送られ、ノズル306の開口より高速で噴出される。このとき真空ポンプ310の作動により、形成室305内は数kPaの減圧環境下に置かれている。
【0026】
ノズル306の開口の先に配置されたスライドガラス308に金属酸化物の微粒子が高速(50m/sec〜450m/sec程度)で衝突し、粒子はその運動エネルギーにより変形、破砕を起こして、一部はスライドガラス308に食い込みアンカー部を形成し、一部はアンカー部の上に破砕して形成された微細断片粒子同士がその新生面を介して接合し、これを繰り返してスライドガラス308上に金属酸化物層を形成していく。この金属酸化物の形成過程により、金属酸化物の表面は粗面化される。
【0027】
スライドガラス308は複数の穴が点状にパターニングされたマスク309によりマスキングされているため、アンカー部および金属酸化物層はマスキングされていない箇所のみに形成される。スライドガラス308はXYステージ307により揺動されており、所望の面積に金属酸化物層は形成され、また、これらのプロセスはすべて室温下で行われた。
【0028】
こうして金属酸化物層の形成されたスライドガラス308を取り出し、ジカルボン酸の溶解した溶液に浸漬することによりジカルボン酸を固定し、カルボジイミドによりこのジカルボン酸の自由末端にあるカルボキシル基を活性化し、DNAのアミノ基をアミド結合させて、DNAマイクロアレイを形成することができる。
【0029】
【発明の効果】
以上に説明したように本発明によれば、DNA等の生体高分子を化学的結合で強固にかつ高密度で固定化でき、また、容易に微細なパターニングが可能であるマイクロアレイ用基板を提供することができる。このため、精度、再現性、定量性に優れた遺伝子解析を行うことができ、医療、農業分野や生化学、分子生物学、遺伝子工学等の分野に有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るマイクロアレイ用基板の構成模式図。
【図2】本発明に係るマイクロアレイ用基板の構成模式図。
【図3】本発明に係るマイクロアレイ用基板の構成模式図。
【図4】本発明に係るマイクロアレイ用基板における基材と金属酸化物層との界面付近の様子を断面方向から透過型電子顕微鏡にて観察したイメージ。
【図5】本発明に係るマイクロアレイ用基板における金属酸化物層の作製装置の模式図。
【符号の説明】
10,11,12…マイクロアレイ用基板、101…スライドガラス、102…金属酸化物層、103…ジカルボン酸、30…金属酸化物層の作製装置、301…ガスボンベ、302…ガス搬送管、303…エアロゾル発生器、304…エアロゾル搬送管、305…形成室、306…ノズル、307…XYステージ、308…スライドガラス、309…マスク、310…真空ポンプ
Claims (7)
- 板状の基材と、この基材表面に製膜された金属酸化物層と、前記金属酸化物層の表面にカルボキシル基が共有結合により固定されていると共に、自由末端にもカルボキシル基を有する化合物と、から構成されているマイクロアレイ用基板。
- 板状の基材と、この基材表面に一部が食い込んだアンカー部を有して形成された金属酸化物層と、この金属酸化物層の表面にカルボキシル基が共有結合により固定されていると共に、自由末端にもカルボキシル基を有する化合物と、から構成されているマイクロアレイ用基板。
- 請求項2に記載のマイクロアレイ用基板において、前記金属酸化物層の表面は、粗面化されていることを特徴とするマイクロアレイ用基板。
- 請求項1または請求項2に記載のマイクロアレイ用基板において、前記金属酸化物層は、前記基材上に複数の点状にパターニングされていることを特徴とするマイクロアレイ用基板。
- 板状の基材表面へ金属酸化物の微粒子を高速で衝突させて、前記基材に前記金属酸化物の微粒子が食い込むアンカー部を形成させるとともに前記金属酸化物層を形成させる工程と、形成された前記金属酸化物層の表面に共有結合によりカルボキシル基を固定し、かつ、自由末端にもカルボキシル基を有するよう前記金属酸化物表面を修飾する工程と、からなるマイクロアレイ用基板の作製方法。
- 請求項5に記載のマイクロアレイ用基板の作製方法において、前記金属酸化物層を形成させる工程が常温環境下で行われることを特徴とするマイクロアレイ用基板の作製方法。
- 請求項5に記載のマイクロアレイ用基板の作製方法において、前記金属酸化物の微粒子を高速で衝突させる手段は、前記金属酸化物の微粒子をガス中に分散させたエアロゾルを、高速で前記基材に向けて噴射することとしたマイクロアレイ用基板の作製方法。
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