JP2004069071A - 路面摩擦係数測定用スリップセンサ付きハブ軸受 - Google Patents

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Abstract

【課題】 車輪のスリップ率を精度良く求めることができ、それにより車両の安定した走行をより適切に制御できるようにする路面摩擦係数測定用スリップセンサ付きハブ軸受を提供する。
【解決手段】 車輪支持部材であるナックルに取付けられたハブ軸受ユニットを含む車軸ユニット210は、加速度センサと回転センサとが一体化されたスリップセンサ211を有している。外輪1はホイール31より内側で、且つ玉10よりも内側にスリップセンサ211を取付けるための非円形状の取付け孔214を有し、スリップセンサ211は、取付け孔214の形状に対応した取付け部215を有して取付け孔214に取付けられている。
【選択図】   図1

Description

 本発明は自動車のスタビリティコントロール(安定走行制御)に用いる路面摩擦係数測定用スリップセンサ付きハブ軸受に関する。
 近年、車両にスタビリティコントロールシステムが採用されている。それには、各車輪毎のスリップ率、スリップ状態、路面摩擦係数を高い精度で測定できる路面摩擦係数測定用スリップセンサ付きハブ軸受が望まれていた(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)。(スリップ率とは、タイヤの周速とタイヤの進行速度(対地速度)の差を表したものである。一般にタイヤが地面をグリップしている時でも部分スリップによってスリップ率が、0.001、0.01、0.1などになると言われている。)
特開2003−118554号公報 特許第2738662号明細書
 ところで、スタビリティコントロールでは、各車輪の回転角速度と、各車輪の進行方向の加速度とを高精度に測定して各車輪のスリップ率や路面摩擦係数を求め、自動車の走行状態や旋回状態を把握する必要がある。
 しかしながら、特許文献2に開示されている加速度・角加速度測定装置においては、本明細書中の図4(特許文献2の図3)に示すように、回転センサと加速度センサとが一体になったスリップセンサが、ホイールより外側に軸受を介して取付けられており、スリップセンサの加速度センサの方向が不安定となり、高精度な加速度が求まらず、各車輪毎のスリップ率、スリップ状態を精度よく求められないという問題があった。さらに、スリップセンサに接続される配線がホイールの外側に出るという問題もあった。
 本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、車輪のスリップ率を精度良く求めることができ、それにより車両の安定した走行をより適切に制御できるようにする路面摩擦係数測定用スリップセンサ付きハブ軸受を提供することにある。
 前述した目的を達成するために、本発明に係る路面摩擦係数測定用スリップセンサ付きハブ軸受は、下記の点を特徴としている。
 路面摩擦係数測定用スリップセンサ付きハブ軸受は、
 (a)内輪部材と、
 (b)転動体と、
 (c)ホイールに取付けられる外輪と、
 (d)スリップセンサとを含み、
 外輪は、ホイールより内側で、且つ転動体より内側に非円形孔を有し、
 スリップセンサは、車輪の進行方向の加速度を測定する加速度センサと、車輪の回転速度を測定する回転センサとを有し、且つ外輪の非円形孔に取付けるための取付け部を有する。
 本発明に係る路面摩擦係数測定用スリップセンサ付きハブ軸受によれば、スリップセンサが、ホイールより内側で且つ転動体より内側において外輪に取付けられているので、各車輪毎の加速度及び角速度を安定して高精度に検出することができ、且つ配線がホイールより内側となるので邪魔にならない。よって配線の影響を受けず、車輪のスリップ率、スリップ状態を精度良く求めることができ、それにより車両の安定した走行をより適切に制御できる。
 以下、本発明に係る実施の形態例を図面に基づいて詳細に説明する。
 図1〜図3を参照して、本発明の一実施形態に係る路面摩擦係数測定用スリップセンサ付きハブ軸受について説明する。
 図1に示すように、車軸ユニット(または車輪ユニット)210は、本発明に係るハブ軸受ユニット(ホイール軸受ユニットとも言う。)と、加速度センサ及び回転センサが一体化されたスリップセンサ211を有している。
 ハブ軸受ユニットの外輪1は、その外周面に結合フランジ13を有しており、結合フランジ13が車輪支持部材であるナックルと締結されることによって、外輪1は車両の基台に固定されている。
 外輪1の内周面の車軸先端部側には第1の外輪軌道が、車軸基端部側には第2の外輪軌道が、軸方向に間隔をおいて互いに平行に形成されている。
 ハブ軸受ユニットの内輪部材を構成するハブ2は、車軸先端部側の端部外周面に取付けフランジ12を有しており、複数のボルト22とナット101とにより取付けフランジ12がホイール31に締結されることによって、ハブ2は車輪に連結されている。尚、取付けフランジ12には、制動ユニットを構成するディスクロータ35も取付けられている。
 ハブ2の中央部外周面には、前記第1の外輪軌道に対向する第1の内輪軌道が設けられており、またハブ2の車軸基端部側の端部には、回転部材212が外嵌固定されており、回転部材212の外周面には、前記第2の外輪軌道に対向する第2の内輪軌道が形成されている。
 前記第1及び第2の外輪軌道と内輪軌道との間には、それぞれ転動体である複数の玉10が周方向に転動自在に保持されており、ハブ2は外輪1に対して回転自在とされている。
 さらに図2及び図3を参照して、前記第2の外輪軌道よりさらに車軸基端部側の外輪1の端部には、スリップセンサ211を取付けるための非円形状(図示の例においては、六角形状、又は略馬蹄形状)の取付け孔214が形成されており、また、スリップセンサ211は取付け孔214の形状に対応した取付け部215を有しており、スリップセンサ211の取付け部215が外輪1の取付け孔214に嵌合して、スリップセンサ211は外輪1に取付けられている。従って、車両に組み付けられた状態において、スリップセンサ211はホイール31の内側(即ち、車両中央部側)に配置されている。
 スリップセンサ211は、先端部に回転センサ222を配しており、この回転センサ222が回転部材212に取付けられたエンコーダ213に対向して配されている。尚、図中では径方向に対向しているが、軸方向に対向してもよい。
 スリップセンサ211の加速度センサ221は、x方向(車輪進行方向)とy方向(車輪横方向)に各々2個、z方向(車輪縦方向)に1個取付けられている。尚、3軸の加速度センサと、2軸(x,y軸)の角加速度センサを一体化したセンサを用いてもよい。例えば、株式会社ワコーから、以下の製品及び特許文献が開示されている。
 US6282956 Multi-axial Angular velocity sensor
 US6269697 Angular velocity sensor using piezoelectric element
 US6098461 Acceleration sensor using piezoelectric element
 US5850040 Multi-axial acceleration sensor using
 尚、y方向の加速度センサ221は、旋回時に必要となる。また、z方向の加速度センサ221は、路面の凹凸による振動成分の影響を補正するために用いるものであるがなくてもよい。
 前記車輪の進行方向の加速度及び回転角速度に応じてスリップセンサ211から出力される加速度信号及び回転角速度信号は、車両内部に配索されたワイヤハーネスにより伝送されて、スタビリティコントロールを行う制御器(図示せず。)に入力される。
 上述した路面摩擦係数測定用スリップセンサ付きハブ軸受によれば、ホイール31より内側で且つ第2の外輪軌道と内輪軌道との間に配される玉10よりも内側の外輪1の端部にスリップセンサ211を取付けるための非円形状の取付け孔214が設けられており、またスリップセンサ211に取付け孔214の形状に対応した取付け部215が設けられており、取付け孔214と取付け部215とを嵌合させて、スリップセンサ211を外輪1に取付けるようにしたので、車輪の回転に伴う振動等によりスリップセンサ211が取付け孔214の中でズレることを防止することができる。従って、安定して高精度に車輪の加速度及び回転角速度を検出することができる。さらに、スリップセンサ211と前記制御器とを電気的に接続する配線が車両内部に配索されるので、外部の障害物等により配線を誤って断線させてしまうことがない。
 次に本発明に係るスリップセンサを用いて各車輪毎のスリップ率を求め、スタビリティコントロールを行う計算例及び応用例を示す。
(計算例・応用例)
 初めに各車輪の対地速度Vを求める計算方法を示す。尚、車体の対地速度を求める場合、加速度センサは車体に設けてもよい。その場合は、各車輪の対地速度を車体の対地速度と以下読み替える。その場合、直進時では各車輪の加速度や対地速度は車体の加速度や対地速度と置き換えるとよい。
 特許文献2の[0050]には、加速度計の出力を時間積分して車軸系の対地速度が求められると記載されているが、ここでは、微分によって各車輪の対地速度を正確に求める計算例を示す。
 図5に示すように、実走行時には、各車輪において、特に駆動輪では駆動時に車輪の半径Rで、部分スリップが生じて一定の速度が出ている。これを仮に、部分スリップが0で同じ速度が出ていると仮定すると、各車輪の半径が小さく変化していると考えることができ、この各車輪の半径を仮想半径rとする。仮想半径は、駆動時には、実際の半径より小さくなり、逆に制動時には大きくなる。
 各転がり軸受ユニット(又は車輪支持部材、又は、車軸ユニット、又は車輪ユニット)210に取付けた回転センサ222により検出される車輪回転角速度ωと、各車輪支持部材に取付けた加速度センサ221から検出される各車輪のx方向についての加速度αxを用いると、各車輪の対地速度Vは、次式で表される。
Figure 2004069071
 ここで、仮想半径rが一定(以下、r=constと表す)と仮定して、上式を時間微分(式中´で表す)して、式の変形を行うと、仮想半径rは次式のように表される。
Figure 2004069071
Figure 2004069071
Figure 2004069071
 次に、各車輪支持部材(車軸ユニットあるいは車輪ユニット)210に取付けた加速度センサ221で検出した加速度αxと、回転センサ222で検出した回転角速度ωを用いて、(101)式と(104)式から次式のように、各車輪の対地速度Vを求めることができる。
Figure 2004069071
 尚、厳密には仮想半径rが一定の時に、(105)式は成り立つが、各車輪においてαx/ω´が、ほぼ一定の時、各車輪の対地速度Vを(105)式から求める。ここで、αx/ω´がほぼ一定とは、例えば1秒間で、10mm又は1mm以内の変化、又はサンプリング間隔内で10mm又は1mm以内の変化とする。また、上記条件が成り立たたなくなった時、すなわち、αx/ω´が、ほぼ一定とならなくなった時の時間をt1、その時の対地速度をVt1とすると、その後の各車輪の対地速度Vは、次式で求まる。
Figure 2004069071
 そして、再び、αx/ω´がほぼ一定となった時に、各車輪の対地速度Vは、(αx/ω´)・ωの値に入れ換える事により、常時、高精度に各車輪の対地速度Vを求めることができる。
  (関連特許文献):特許第2977037号明細書(日産自動車株式会社)
          :特許第3353633号明細書(株式会社デンソー)
          :特開昭57−11149号公報(三菱電機株式会社)
          :特開平5−16789号公報(株式会社日立製作所)
          :特開平6−321082号公報(株式会社曙ブレーキ中央技術研究所)
 尚、αx/ω´≒constかどうかは、例えば1秒間で、10mm又は1mm以内の変化、又はサンプリング間隔内で10mm又は1mm以内の変化とするかどうかを測定することで、判断できる。
 次に、路面勾配角度βの影響を除去する。図6に示すように、斜面走行時は、加速度センサ221がピエゾ素子式、圧電素子式、歪ゲージ式等、加速度により発生する力を利用する加速度センサの場合は、路面勾配角度βの影響が出るので、それを除去する必要がある。加速度センサの出力はx方向、すなわち車両の進行方向に加速したときの出力を正とする。真の加速度αxrは、加速度センサ221の出力αxaから、重力成分gsinβを除去し、次式で求まる。
Figure 2004069071
 上り坂では、βは正となり、下り坂では、βは負の値となる。ω≒constの時、おおよそ、αxr≒0となるので、路面勾配角度βは、次式のように求めることができる。ここで、ω≒constとは、測定時のω1と、一定時間Δt後のω2の比を測定し、判断する。例えば、ω2/ω1が±1%又は0.1%以内であれば、ω≒constと判断する。
Figure 2004069071
 上記条件とならない時は、同じ方向の加速度を検出する2つの加速度センサ221を図7(a)のように上にS1、下にS2を配置し、その出力αxa1,αxa2、両センサ間の距離d、上記条件がくずれた時間をt1、上記条件がくずれる直前の路面勾配角度βt1として、次式から、その後の路面勾配角度βを求める(図7(b)参照)。尚、特許文献2には、[0050]で、角運動量から路面勾配が求まると記載されている。
Figure 2004069071
 (109)式中の(αxa2−αxa1)/dは、路面勾配角度による角加速度の差であるので、2回積分することで、路面勾配角度の変動分が求まる。また、再び、ω≒constとなったら、(108)式で求めた値に入れ換える。これによって、路面勾配角度は、常時高精度に求められる。尚、以後、加速度αxとは、真の加速度αxrのことを表すものとする。
 次にタイヤのスリップ率Sについて説明する。タイヤのスリップ率Sは、以下に示す式で定義される。ここで、Vθは、タイヤの周速度である。
Figure 2004069071
 タイヤ周速度Vθは、タイヤ実半径Rと、回転センサ222より検出される回転角速度ωの積として求まる。すなわち、Vθ=Rωである。
 また、各車輪の対地速度Vは、式(105)及び式(106)によって常時求まっているので各タイヤのスリップ率は、(110)式より次式から求められる。
Figure 2004069071
 ここで、各車輪(タイヤ)の実半径Rは、対地速度Vが(105)式、(106)式で常時求まっているので、R=V/ωで求まる。ただし、R=V/ωが成り立つのは、従動輪の場合では、ブレーキをかけない時は常時成り立ち、駆動輪の場合では、タイヤのスリップ率が、ほぼ0、例えば、S=0.01以内、あるいは0.001以内である場合に成り立つ。
 次に駆動輪のタイヤのスリップ率がほぼ0になる条件、つまり、ニュートラル状態となる条件を示す。ニュートラル状態では、タイヤの走行抵抗と空気抵抗等の影響を受けなければ、図8に示すように、路面勾配角度βを考慮して、次式のようになる。
Figure 2004069071
 このニュートラル条件で実際にRを求めるためには、さらにブレーキをかけない状態で、ほぼ直進時(直進時の定義については後述する)にRを求めればよい。
 実際には、駆動輪においては、タイヤの走行抵抗と空気抵抗等により、ニュートラル条件(αx≒−gsinβ)であってもニュートラルではなくスリップ率がある。よって、自然風のない時の平地での実験等により、対地速度Vにおけるニュートラル状態に対応する加速度αxN(負の値)を加え、例えば、V=10,20,30,40,50(km/h)に対応する各αxNの値を記憶させ、それを加え、次式が成り立つ時、ニュートラル状態とする。
Figure 2004069071
 Rは(113)式の条件の時、何回か測って平均してもよい。
 尚、αxNを記憶させない場合は、タイヤの走行抵抗および空気抵抗等の影響が小さい時、つまり、低速走行時において(112)式が成り立つ時を、ニュートラル状態とすればよい。
 また、本計算では自然風(以下、風とする)など外力の影響がないものとしているが、風などの外力を考慮する場合は、前記の(113)式の状態でも、スリップが生じる。そのため、自動車の速度やエンジン回転数に対して駆動力も出ないし、エンジンブレーキもかからない条件(例えば、エンジンスロットルの開度など)を記憶させ、その条件の時以外は、Rの測定を行わないようにする。尚、クラッチが切れていてブレーキが効いていない時は、従動輪と同様にニュートラル状態と見なしてもよい。
 また、各車輪のスリップ率が小さい条件、すなわち、低加速度で路面勾配角度が小さい時、つまりαxも−gsinβも小さい時で、さらに空気抵抗が小さい時(つまり、低速度:10km/h以下)の時のrを平均して、Rとしてもよい。
 尚、自動車の電気系統(電源)が切れる場合は、Rの値を記憶し、次に乗った時にRが求まるまで、その値を使用する。
 以上のようにして、車輪の実半径Rが求まるので(111)式により各車輪の正確なスリップ率を常時求めることができる。
 尚、このように各タイヤの実半径が求まると、タイヤの異常検出にも役立つ。例えば、各タイヤがパンクした場合の異常検出は、以下に示すことを行うとよい。
 まず、仮想半径r又は実半径Rが急激に小さくなった場合、アクセルスロットルを閉じる。その後、仮想半径r又はRが大きくなり、戻る場合には、単にスリップであり、戻らない場合は、パンクの可能性があるため、停止を促す。
 また、t1時からt2時への1つの車輪のタイヤ半径減少率(Rt1−Rt2)/Rt2が、他の車輪のタイヤ半径減少より大きい(例えば、2〜5秒で10%以上、5〜20秒で5%以上)時に、同様の制御を行うとよい。
 次に、直線時の路面摩擦係数の求め方について説明する。
 直進時で、部分スリップしている状態の、各車輪の路面摩擦係数をスリップ率Sを用いて求める。尚、直進時とは、各車輪の進行方向のx方向加速度αxn(n=1,2,3,4)が、ほぼ等しい、あるいは、各車輪の横方向のy方向加速度αyn(n=1,2,3,4)が、ほぼ0である時のことである。
 ここで、車輪1、2、3、4およびx,y方向は、図9に示すように定められる。各車輪のスリップ率Sと縦荷重Fzと車重Mによる慣性力(inertial force)を用いて、路面摩擦係数μを求める。部分スリップしている状態では、図10のように各車輪に作用するx方向の駆動力Fxnと、スリップ率Sn、路面摩擦係数μn、各車輪の縦荷重Fznには、一般的に次式が成り立つものとする。スリップ率Sが小さい領域では、FxはSに対して、ほぼ直線的に変化するものとする。
  (参考文献1):山崎大生 摩擦ブレーキトルク推定とフィードバック制御への適用 第150回鉄道総研月例発表会講演会要旨
 実際には、FxnはSnに対して曲線的に変化するとも考えられるが、ここでは直線的とする。尚、曲線的変化で簡単に計算する方法は後で述べる。
 また、東京大学の堀教授他は、x方向の駆動力Fxを縦荷重Fzで割り、規格化した値とスリップ率Sの特性を、Magic Formura等を採用し解析する試みを行っている。
  (参考文献2):堀洋一 電気自動車制御技術の現況と革新に向けて 電子情報通信学会東京支部シンポジウム 1998
  (参考文献3):坂井真一郎 電気自動車の新しい車両運動制御に関する研究 東京大学大学院学位論文 1999
  (参考文献4):手塚繁樹 モデルを用いたトラクションコントロールの基礎研究
 尚、kbは、タイヤのゴム材質、トレッドパターン等の構造などにより決まる定数である。
Figure 2004069071
 車体の駆動力Fxcは、ニュートンの運動方程式から求められる。即ち、重心での加速度をαxc、車重(質量)をMとして、重心での運動方程式を考えると、車体質量Mと加速度αの積Mαは、車体質量による慣性力(inertial force)となる。尚、直進時の重心加速度αxcは、各車輪のx方向加速度αxn(n=1〜4)の平均値として求める。尚、運動方程式中では重力による加速度成分を加え、次式のようになる。
Figure 2004069071
 実際には、車両には空気抵抗やタイヤの走行抵抗や自然風の影響が働くので、これらをRwとし、運動方程式に考慮する必要がある。
 ここで、Rwは、微小時間では定数とみなすことにすると、Fxcは、次式で表される。
Figure 2004069071
 上式を時間微分すると、Rwが消える。
 また、路面勾配角度βは、微小時間では変化しないと考えると、重力成分も消えて、次式のようになる。(βが一定時間変化しない時に計算してもよい。)
Figure 2004069071
 次に(114)式を時間微分すると、次式のようになる。ここで、微小時間では、μn、Fzn、βは変化しないものとする。
Figure 2004069071
 (117)式,(118)式を連立させると、次式のようになる。
Figure 2004069071
 (119)式の連立方程式を解いて、各車輪の路面摩擦係数の求め方を示す。つまり、直進時は、各車輪のスリップ率Snと各車輪が受ける縦荷重Fzn、車体質量Mによる慣性力(inertial force)Mαとを用いて、各車輪の路面摩擦係数μnおよび各車輪の駆動力Fxnが求まる。尚、各車輪ごとの縦荷重を直接測定した値を使ってさらに簡単に正確に計算する方法と縦荷重測定方法は後述するが、まず、計算によって縦荷重を求めて、それによって路面摩擦係数を求める方法を示す。
 変数が多すぎるので、一旦各車輪の路面摩擦係数を4輪とも等しいと仮定し、μnとする。
Figure 2004069071
 次に、荷重分担比fn(n=1、2、3、4)を用いる。この荷重分担比は、微小時間では定数と考える。荷重分担比は、車重Mの各車輪にかかる分担比率であるので、各車輪の縦荷重はFzn=fnMg・cosβで求まる(図11参照)。荷重分担比を用いると、(119)式は、次式のようになる。
Figure 2004069071
 次に各車輪へのトルク配分比kdn(n=1、2、3、4)を用いる。このトルク配分比kdnとは、駆動装置のトルクTcを各車輪に配分する比率で、自動車の駆動装置が配分し、求まる値であり、各車輪のトルクはTn=kdncとなる。
 そして、kd1+kd2+kd3+kd4=1の関係が成り立つ。
 駆動方式には2輪駆動方式と4輪駆動方式とがあるが、2輪駆動方式は後で述べるとして、ここでは4輪駆動方式について述べる。トルク配分については、各車輪のスリップが大きいときにトルク配分を変える自動車もある。その場合でも本発明が対象とするのは実スリップの起きない部分スリップの範囲なので、各車輪について4輪駆動なら25%−25%−25%−25%、2輪駆動なら50%−50%−0%−0%のトルク配分として考えるとよい。そして、特別な可変機構を用いている場合は回転差などに対する可変機構の特性を与えるとよい。尚、各車輪のトルクは、各車輪の駆動力Fxnと各車輪のタイヤ実半径Rnの積であるので、次式が成り立つ。
Figure 2004069071
 上式を変形すると、次式となる。
Figure 2004069071
 また、直進時の車体の駆動力は、各車輪の駆動力の和であるから、次式が成り立つ。
Figure 2004069071
 (123),(124)式を時間微分すると次式を得る。
 ここで、kdn,Rnは、微小時間では変化しないものとする。
Figure 2004069071
 (125−1)式を(121−1〜6)式に代入し、更に(125−2)式を加えると、次のようになる。
Figure 2004069071
 (126−7)式に(126−5)式を代入し、次式となる。
Figure 2004069071
 (127)式を(126−1)〜(126−4)式に代入すると、連立方程式は次式のようになる。
Figure 2004069071
 (128−1)式を変形して、f1を、μnを用いて表す形にすると次式のようになる。
Figure 2004069071
 同様に、(128−2)〜(128−4)式を変形することにより、f2〜f4も、μnを用いて、表すことができる。それら(f1〜f4)を(128−5)式に代入すると、未知数はμnだけとなり、μnが求まる。
 このようにして求まったμnを(128−1)〜(128−4)式に代入することで、各車輪の荷重分担比f1〜f4が求まる。ここで求まったfnは、各車輪の路面摩擦係数を等しいと仮定して求めたものであるので、次式のように、数回測定して平均化し、fnを定数として与える。
Figure 2004069071
 このようにしてfnが求まる。
 次にこのfnを用いて(128−1)〜(128−4)式のμnを、μ1、μ2、μ3、μ4に置き換えた式から、μ1、μ2、μ3、μ4を求める。
Figure 2004069071
 上式から、各車輪の路面摩擦係数μ1、μ2、μ3、μ4を求めることができる。すなわち、各式にf1、f2、f3、f4を代入すれば求まる。
 以上に示したように、直進走行時には、各車輪のスリップ率Snと、各車輪が受ける縦荷重Fznと、車体質量Mによる慣性力(inertial force)Mαとを用いて、各車輪の「路面摩擦係数μn」と「各車輪の駆動力Fxn」を求めることができる。
 次に、図12を参照して、カーブ走行時には、車両の各車軸ユニットに取付けられた各車輪の横方向の加速度センサの出力αynと各車輪のスリップ率Snと、各車輪が受ける縦荷重Fznと、車体質量による慣性力(inertial force)Mαとを用いて、各車輪の「路面摩擦係数μn」と「駆動力FxnとサイドフォースFynとの合力Fwn」を求めることができる。
 カーブ走行時の各車輪ごとの路面摩擦係数の求め方について説明する。カーブ走行時も、直進時と同様に、各車輪のスリップ率と駆動力の関係式と、車両重心における運動方程式とを連立させて解く。そのために、重心での加速度を求め、更に、重心の加速度を考慮するために、各車輪および重心の旋回半径Rrn(n=1、2、3、4、c)を求めて使う。旋回半径Rrn等を求めるためには、アッカーマンの旋回理論と円運動の公式を用いる。アッカーマンの旋回理論は、各車輪および重心と、中心0とを結んだ各直線が、各車輪および重心の進行方向に対してそれぞれ垂直であるという理論である。
 各車輪および重心のy方向加速度αyn(n=1,2,3,4,c)と旋回半径Rrn(n=1,2,3,4,c)、x方向対地速度Vxn(n=1,2,3,4,c)には、円運動の公式から次に示す関係式が成り立つ。
Figure 2004069071
 上記関係式より、各車輪の旋回半径Rrn(n=1,2,3,4,c)は次のように求まる。
Figure 2004069071
 ここで、αynは、各車輪のy方向(横方向)の加速度センサ221から求まり、Vxnは、各車輪のx方向(進行方向)の加速度センサ221と回転センサ222から前述の計算で求まっているので、(133−1)〜(133−4)式でRrnが求まることになる。
 次に,重心の旋回半径Rrcを求める。重心の旋回半径Rrcは、重心位置を仮定して与えれば、幾何学的に次の(134)式から求まる。尚、重心位置は、後述する各車輪の縦荷重を直接求める方法では計算により求まるので、仮定する必要はない。ここで、Rr4は旋回中心と後輪4との距離、TrRは重心と後輪との横方向の距離、Lrは重心と後輪との縦方向の距離である。
Figure 2004069071
 また、円運動の公式より、各車輪および重心のy方向加速度,旋回半径Rrn、旋回回転角速度ω0は、次の関係式が成り立つ。
Figure 2004069071
 図に示した旋回回転角速度ω0は、各車輪および重心において、共通の値であるので、(135−1)〜(135−4)式は次のようになる。
Figure 2004069071
 上式を(135−5)式に代入すると、重心のy方向加速度αycは、次式で求まる。
Figure 2004069071
 (137−1)式のどの項を使ってもよいし、(137−2)式のように、各項の平均を使ってもよい。
 次に、重心のx方向の加速度αxcを求める。各車輪および重心のx方向対地速度Vxnと、旋回回転角速度ω0、旋回回転半径Rrnは、次式の関係が成り立つ。
Figure 2004069071
 上式を微分すると、次のようになる。ここで、Rrnは、微小時間では変化しないと考える。
Figure 2004069071
 ここで、旋回回転角速度ω0及び角加速度ω0´は、各車輪および重心において等しいので、(139−1)〜(139−4)式は次のようになる。
Figure 2004069071
 このω0´を(139−5)に代入すれば、重心のx方向加速度は、次のように求まる。
Figure 2004069071
 このとき、(141−1)式のどの項を使ってもよいし、(141−2)式のように、各項の平均を使ってもよい。
 以上のようにして、重心のx方向およびy方向の加速度αxc,αycは求まる。カーブ時には、各車輪のスリップ率Snと駆動力Fxnの関係数と、重心における車両の運動方程式と、さらに、旋回中心まわりのモーメントのつり合いの式を加えた連立方程式を解くことで、各車輪の路面摩擦係数は求まる。以下にその方法を示す。
 各車輪のx方向に作用する駆動力Fxnと、スリップ率Sn、路面摩擦係数μn、各車輪の縦荷重Fxn、路面勾配角度βとには、カーブ時においても、一般的に次式が成り立つ。
Figure 2004069071
 また、車両重心における運動方程式は、車重Mによる慣性力(inertial force)を考えて、次式で表される。
Figure 2004069071
 空気抵抗等の走行抵抗をRwとし、運動方程中に加えると、次式のようになる。
Figure 2004069071
 上式を微分すると、定数項Rwが消える。路面勾配角度βは、微小時間では変化しないと考えると、重力成分も消えて、次式のようになる。
Figure 2004069071
 (142)式を時間微分すると、次式となる。ここで、微小時間では、μn、Fzn、βは変化しないものとする。
Figure 2004069071
 カーブ走行時は、旋回中心回りのモーメントのつり合いを考え、連立方程式に加える。つまり、各車輪の駆動力Fxnと旋回半径Rrnの積の総和は、車両の駆動力Fxcと重心の旋回半径Rrcとの積と等しいので、次式が成り立つ。
Figure 2004069071
 (147)式を変形する。
Figure 2004069071
 (148)式の、Rr1/Rrc=h1,Rr2/Rrc=h2,Rr3/Rrc=h3,Rr4/Rrc=h4 とし、動力ベクトル比とすると、次式のようになる。
Figure 2004069071
 (149)式を時間微分する。ここで、動力ベクトル比は微小時間では変化しないものとする。
Figure 2004069071
 カーブ走行時は、以下に示すように、各車輪の駆動力Fxnとスリップ率Snの関係式((146)式)と、重心における運動方程式((145)式)に加え、旋回中心のモーメントの式((150)式)との連立方程式を解けば、各車輪の路面摩擦係数μnが求まる。
Figure 2004069071
 以下に、(151)式を解いて、各車輪の路面摩擦係数μnの求め方を示す。
 まず、一旦、各車輪の路面摩擦係数を4輪とも等しいと仮定し、μmとすると、(151)式は、次式のようになる。
Figure 2004069071
 次に各車輪の荷重分担比fnを用いると、微少時間では定数と考えて、Fzn=fnMg・cosβとなるので次式のようになる。
Figure 2004069071
 駆動装置のトルクTcを、各車輪に配分する比率であるトルク配分比kdnを用いると、次に示す関係が成り立つ。
Figure 2004069071
 また、各車輪のトルクTnは、各車輪の駆動力Fxnとタイヤ実半径Rnとの積であるので、次式が成り立つ。
Figure 2004069071
 よって、各車輪の駆動力Fxnは、駆動装置のトルクTnを用いて、次式のように表せる。
Figure 2004069071
 次に、(156)式を微分する。ここで、kdn、Rnは微小時間では、変化しないものとする。
Figure 2004069071
 これらを(153)式の連立方程式に代入すると、次式のようになる。
Figure 2004069071
 (158−5)、(158−6)式から、Tc´は次のように表せる。
Figure 2004069071
 そして、(159)式を(158−1)〜(158−4)式に代入すると、両辺の車重Mが消え、連立方程式は、次のように表される。
Figure 2004069071
 (160−1)〜(160−4)式を変形すると、fnは次のように表される。
Figure 2004069071
 それらを(160−5)式に代入し、μmを求める。その後、(161)式に、求まったμmの値を代入し、各車輪の荷重分担比fnを求める。求まった荷重分担比fnを連立方程式に代入する。
 以下に示す各式中で、未知数はμn(n=1〜4)だけであるので、カーブ走行時にも各車輪の路面摩擦係数は求まる。
Figure 2004069071
 次に、各車輪の駆動力Fxnとスリップ率Snの関係式について説明する。本方法では、各車輪の路面摩擦係数を求めるために、各車輪の駆動力Fxnは、スリップ率Snに比例するとしたが、実際には、図13に示すように、駆動力(制動力)Fxn,スリップ率Snの変動に対し、曲線的に変動すると考えられている。スリップ率Snが0.1〜0.2の時、駆動力は最大値を示し、それ以上となると、駆動力は減少し、各車輪は実際に滑り始める。各車輪の駆動力Fxnは、実際に滑る少し手前まではスリップ率Snが増加するにつれて、ほぼ直線的に増加している。本方法では、その傾きを1/kbとし、タイヤのゴム材質、トレッドパターン、構造等で決まる定数とした。Sが大きくなると、傾きは多少変化するが、本方法では、Fxn、Snともに微分して考えているので、瞬間的には直線となり、誤差は小さいと考えられる。
 より正確にFxnとSnの関係を求めるためには、別法として、駆動力Fxnとスリップ率Snの関係Fxn/Fzn・μn=f(Sn)をデータとしてメモリーに記憶させる方法もある。この場合、駆動力Fxnとスリップ率Snは、次式の関係式で表される。
Figure 2004069071
 この場合も、直線近似した場合と同様に、微分して以下の連立方程式を解けば、各車輪の路面摩擦係数が求まることになる。
Figure 2004069071
 この時、f(Sn)の微分f´(Sn)の求め方は、例えば、次式で表すように、微小時間間隔Δtでのf(Sn)の差Δf(Sn)を求め、Δtで割ることで求まる。
Figure 2004069071
 また、より多くのスリップ率Snのデータに対して駆動力Fxnを記憶させればよりよいが、そうでない場合は、図14に示すように、その間を直線的あるいは曲線的に補完しても良い。具体的には、車輪が滑り出すといわれるスリップ率が0.1〜0.2程度なので、その間のスリップ率Sを200〜500分割し、それぞれに対応するFx/Fzμを記憶させる。この時、1点記憶するのに2バイト必要とすれば、0.4K〜1Kバイトのメモリに全データを記憶させることが可能で、非常に少ないメモリで高速に正確な関係が求まる。
 次に、各車輪の縦荷重Fznの変動について説明する。
 各車輪の縦荷重および重心位置は一定として路面摩擦係数を求めたが、実際には、以下に示す原因等により、縦荷重は変動する。
1.ピッチングによる車体の前後の縦荷重移動
2.ローリングによる車体の左右の縦荷重移動
3.駆動力の反力モーメントによる縦荷重移動
4.路面凹凸等によりサスペンションが作用した場合の縦荷重変動
 各車輪の縦荷重Fxnの変動にともない、車両重心位置も移動し、補正する必要がある。ただし、Fxnを直接測定して使う方法(後述)では、これらの補正は必要なくなる。
 以下に、縦荷重および重心位置の補正方法を示す。
 上記による各車輪の縦荷重の変動を考慮して荷重分担比を補正し、再度、以下に示す。
 連立方程式を解き、路面摩擦係数を求める。
Figure 2004069071
Figure 2004069071
 尚、複数回(例えば、3回程度)繰り返し計算して収束させることで、μnの精度を高くできる。
 次に、前述したそれぞれの場合について、具体的に縦荷重の補正方法について示す。
 1.ピッチングによる前後の縦荷重移動
 図15に示すように、重心高さをHc、ホイールベースをWb、ピッチングに寄与する加速度をαpcとすると、モーメントのつり合いから、ピッチングによる前後の縦荷重移動ΔFzpは、次式から求まる。ここで、Hc、Wbは既知の値であり、αpcの求め方は後述する。
Figure 2004069071
 上(168)式を変形する。
Figure 2004069071
 ピッチングによる、前後の荷重分担比の変化Δfpは、(169)式で求めたΔFzpを車重Mで割れば求まるので、次式のようになる。
Figure 2004069071
 加速時(αpcが正の値)には、前輪からΔfpの絶対値を減算し、後輪にΔfpの絶対値を加算し、補正する。逆に、減速時(αpcが負の値)には、前輪にΔfpの絶対値を加算し、後輪からΔfpの絶対値を減算し、補正する。Δfpの符号を考えると、加速・減速時ともに、次式により補正を行えばよい。(fn´は補正前の値)
Figure 2004069071
 2.ローリングによる左右の縦荷重移動
 図16に示すように、重心高さをHc、ホイールレッドをTr、ローリングに寄与する加速度をαrcとすると、モーメントのつり合いから、ローリングによる左右の縦荷重移動ΔFzrは、次式から求まる。尚、Hc、Trは既知の値であり、αrcの求め方は後述する。
Figure 2004069071
 上(172)式を変形すると、ΔFzrは次式から求まる。
Figure 2004069071
 ローリングによる左右輪の荷重分担比の変化Δfzrは、ΔFzrを車重Mで割り、次式のように求まる。
Figure 2004069071
 図17に示すように、x,y方向の正負を決めた場合、車両が右方向にカーブする時は、αrcは正の値となり、左側車輪1および3に、Δfzrの絶対値を加算し、右側車輪2および4から、Δfzrの絶対値を減算し、補正する。
 逆に車両が左方向にカーブする時は、αrcは負の値となり、左側車輪が1および3から、Δfzrの絶対値を減算し、右側車輪を2および4に、Δfzrの絶対値を加算し、補正する。Δfzrの符号を考えれば、左右カーブ時ともに、以下に示す式により、ローリングによる荷重分担比の変化の補正を行えばよい。尚、fn´は補正前の各車輪の荷重分担比である。
Figure 2004069071
 3.駆動力の反力モーメントによる前後の縦荷重移動
 図18に示すように、各車輪に働く駆動力による反力モーメントによっても各車輪の縦荷重は変化する。例えば、車輪1は、駆動力Fx1による反力モーメントによって、縦荷重Fz1は減少し(ΔF1,1とする)、車輪3に働く駆動力Fx3による反力モーメントによって縦荷重Fz1は増加する(ΔF1,3とする)。ΔF1,1およびΔF1,3、車輪の実半径R1、ホイールベースWbとの間では、モーメントのつり合いを考えると、次式が成り立つ。
Figure 2004069071
 上(176)式を変形し、Fxn=Mαxnの関係を用いると、
Figure 2004069071
 (177)式で求めた値を車重Mで割り、補正前の荷重分担比f1´に加算、減算することで、車輪1の駆動力反力による前後の荷重分担比の補正は、次式のように行う。     
Figure 2004069071
 同様にして、各車輪の駆動力反力による前後の荷重分担比の補正は、次式のように行う。
Figure 2004069071
4.路面凹凸等による縦荷重の変化
 図19に示すように、車両が路面凹凸等を通過した時には、サスペンションが作用するため、各車輪の縦荷重は変動する。この場合は、各車輪にz方向(縦方向)加速度センサ221を取付け、路面凹凸等により生じるz(縦)方向加速度αznを検出し、次式に示すように、微小時間で2回積分し、各車輪のz(縦)方向変位ezを求める。
Figure 2004069071
 上(180)式で求めたezに、サスペンションのばね定数kをかけ、各車輪の縦荷重変化分ΔFzeを次式のように求める。
Figure 2004069071
 このようにして求めたΔFzeを各車輪の補正前の縦荷重に加算あるいは減算し、補正を行う。
 次に、ピッチング,ローリングに寄与する加速度αpc、αrcの求め方について説明する。
 ピッチングおよびローリングによる各車輪の縦荷重を求めるためには、図20に示すように、重心の進行方向加速度αxcと横方向加速度αycを、ピッチングおよびローリング方向に変換する必要がある。ここで、重心の加速度は(137)式,(141)式により求まっている。尚、直進時は、旋回時角度θc=0とすれば、カーブ時と同様に考えることができる。ここで、旋回時角度θcとは、重心進行方向と車体向きの角度差のことで、次式から求まる。
Figure 2004069071
 この時、ピッチング加速度αpc,ローリング加速度αrcは、重心の加速度αxc,αycと、θcから次式で求まる。
Figure 2004069071
 このようにして求めたαpc,αrcを前記(170)、(174)式に代入し、ピッチング,ローリングによる荷重分担比の変化に対する補正を行う。
 次に、重心位置の補正について説明する。
 前述したように、各車輪の補正を行った荷重分担比が求まるので、車両の重心位置が求まる。以下にその方法を示す。ここでは重心配分比Lnを用いる。重心配分比は、荷重分担比と以下に示す関係にあり、図21中に示す。
Figure 2004069071
 重心配分比Lnから、図21中のA,B,C,D点が求まる。そして、AとCおよびBとDを結んだ2直線の交点が重心として求まる。このようにして、重心位置の補正も行える。
 次に、縦荷重の測定方法について説明する。
 今までは、各車輪の縦荷重は荷重分担比を用いて、計算から求めていたが、以下に示すように、サスペンションの受皿部等で荷重を測定すれば、より高精度に各車輪の縦荷重が求まるので、高精度に各車輪の路面摩擦係数が求まる。
(1)サスペンションのバネの受皿部(円盤やリングでもよい)の荷重を測定する方法。1.ロードセルで計る方法。
2.缶に油を詰めて缶の蓋の上にバネの受け板を置いて、缶に圧力センサを取付けて油の圧力を測定する方法。
3.円周を支持した金属円盤の上の中央に、バネの受け皿を置いて、金属円盤の中央下に圧力センサの突起を当てて突起に変位を与えて圧力として測定する方法。
4.断面が横U字状のドーナッツ状の金属の間に感圧導電性ゴムを挟んで、その上にバネの受け皿を置いて、金属の変形率をゴムの導電率で測定する方法。
(2)サスペンションのバネの変位を計る方法。
1.摺動抵抗式変位計をショックアブソーバーと並列に置いて抵抗の変化を計る方法。
2.ショックアブソーバーの内側又は外側にコイルを巻いてコイルの中に出入りするピストンロッドとの間の誘導抵抗(インダクタンス)の変化を計る方法。
3.ショックアブソーバーのピストンロッドに磁石式直線エンコーダを内蔵してホール素子で移動量を測定する方法。
 尚、サスペンションのバネの変位を測定する方法では、測定した変位ezに、バネの係数kzをかけた値が荷重である。
 前述した各車輪の縦荷重の測定方法の中で、特に、(1)2.の圧力センサを用いた縦荷重の測定方法は、広く使われている圧力センサを使って簡単にできるので、て以下に示す。
 具体的には、図22、図23に示すように、上がダイヤフラムで蓋をされているドーナッツ状の缶250内にオイルを満たし、側面に圧力センサ252を取付けて、その缶の上に荷重受プレート251を置く。そして、ドーナッツ状の缶250をサスペンション253の受け皿254部等に設置し、圧力センサ252の出力から、荷重が測定できる。尚、ドーナッツ状の缶250には、圧力センサ用のねじ255を切り、そこからオイルを注入・充満させた後、圧力センサ252を取付ける。この荷重の測定方法では、荷重受プレート251が全周にわたり存在しているため、偏荷重があった場合でも、縦荷重の合計値が測定できる。また、ドーナッツ状の缶250に段部を設ければ荷重受プレート251が嵌り、安定する。荷重受プレート251の面積をS、圧力センサ252の測定値をPとすると、縦荷重Fzsnは、次式で求まる。
Figure 2004069071
 尚、この方法で用いる圧力センサ252としては、以下に示す圧力センサが挙げられる。
1.長野計器株式会社製の車載用圧力センサ
 この長野計器株式会社製の圧力センサは、絶縁膜を介した金属ダイアフラム上にプラズマCVDにより、歪ゲージを形成した感圧部に用いており、耐久性、安定性に優れている。また、金属ダイアフラムは、本体に溶接され、一体化しているために、車載用に適しており、更に、可動部がないので、耐振動・耐衝撃性に優れている。また、最小5mmと小型化も可能で、安価でもあるので、自動車のエンジンや各車輪のブレーキ液圧測定用センサとして使用されている。(参考特許文献:特開2002−168711号公報)
2.株式会社デンソー製の圧力センサ
 株式会社デンソー製の圧力センサは、シリコンを加工した薄いダイアフラム部に拡散抵抗を形成したセンサ素子を使用している。そして、使用温度が−30〜120℃と広く、それに伴う温度補償回路を内蔵し、電磁波対策を施したリニア出力の圧力センサである。また、測定圧力範囲は7Mpaであり、圧力センサを取付けるサスペンション受皿部が受けると考えられる最大圧力5Mpaより大きい。自動車への適用例としては、エアコンシステムの冷媒圧測定、サスペンションシステムの圧力測定等に使用されている。
 次に、各サスペンションの受け皿部で、直接荷重を測定した値から各車輪の縦荷重を求める方向を示す。前輪の左右輪を例にとり、図24を参考にして、その方法を示す。
 図24に示すように、Tr,f,Lf,θsfをとり、車輪1のサスペンション受皿部での荷重測定値をFzs1、車輪2のサスペンション受皿部での荷重測定値をFzs2とする。尚、左右は対称として考えた。この時、荷重Fzs1は、車輪1および2の受けるバネ上荷重Fzb1およびFzb2に、その作用点からの距離の逆数に比例した荷重が配分される。
 つまり、図24中のAB:BDの逆数に比例して、荷重が配分される。同様に、荷重Fzs2は、車輪1および2に、AC:CDの逆数に比例した荷重が配分されるので、図24中のFzb1,Fzb2は、θsfを考慮して、次式により求まる。
Figure 2004069071
 同様にして、後輪についても、Fzb3,Fzb4は、次式から求まる。
Figure 2004069071
 さらに、ばね下荷重Wslnを加え、各車輪の縦荷重Fznは次式で求まる。
Figure 2004069071
 また、別法として、4輪間の相関関係を考えれば、サスペンション受皿部での測定荷重Fzsnと、各車輪のバネ上荷重Fzbnとは、補正係数Cm,n(m,n=1,2,3,4)を用いて次式で表される。
Figure 2004069071
 この時、補正係数Cm,nを求める方法を、図25を参照して、以下に示す。
 まず、各車輪が車重による荷重以外、受けていない状態で、各サスペンション部に、順次、一定荷重ΔFzsnを加え、各車輪の荷重変動を測定する。例えば、前輪左側サスペンション1に、ΔFzs1を加えた時には、サスペンション1の荷重をΔFzs1と考えれば、相対的に、サスペンション2,3,4は荷重を0(ゼロ)と考えられる。よって(189)式において、Fzs1=ΔFzs1,Fzs2=Fzs3=Fzs4=0となり、補正係数C1,1,C1,2,C1,3,C1,4が求まる。
 同様に、サスペンション2,3,4に荷重ΔFzsnを加えれば、補正係数Cm,nがそれぞれ求まる。
 また、より高精度に補正係数を求める場合には、適当に、サスペンションに荷重ΔFzsnを16通り加えれば、16個の式から成り立つ連立方程式ができるので、16個の補正係数Cm,nは求まる。
 よって、Cm,nの値を記憶しておけば、サスペンション受皿部での測定荷重ΔFzsnから、各車輪のバネ上荷重Fzbnが求まり、更に次式のように、バネ下荷重Wslnを加え、各車輪の縦荷重Fznが求まる。
Figure 2004069071
 サスペンション部での測定荷重から、各車輪の縦荷重Fznを求めた場合にも、直進時には、求めた各車輪の縦荷重Fznと、各車輪のスリップ率sn、車体質量Mによる慣性力Mαとを用いて、各車輪の路面摩擦係数μnを求めることができる。カーブ時には、更に各車輪の横方向の加速度センサで検出されるy(横)方向加速度αynを用いれば、各車輪の路面摩擦係数を求めることができる。具体的には、以下に示す連立方程式を解くことでも、各車輪の路面摩擦係数が求まる。
Figure 2004069071
 尚、直進走行時は、(191−6)式中のhnの和
Figure 2004069071
は1となる。
 また、各車輪の駆動力FxnとトルクTnは実半径Rnを用いて、以下に示す関係となる。
Figure 2004069071
 上(187)式を微分すると、次式となる。
Figure 2004069071
 またトルク配分比kdnを用いると、各車輪のトルクTnは、駆動装置のトルクTcを用いて、次のように表される。
Figure 2004069071
 上(189)式を微分すると、次式となる。
Figure 2004069071
 (188)、(190)式から、Fxn´は次式で表せる。
Figure 2004069071
 これを(186−6)式に代入すると、次式となる。
Figure 2004069071
 よって、
Figure 2004069071
 そして、(191)式に代入し(186−5)式を用いると、各車輪のFxn´は次式で表される。
Figure 2004069071
 また、(194)式のMは次式により求まる。
Figure 2004069071
 以上から、(186−1)〜(186−4)式において、未知数はμnだけであるので、各車輪の路面摩擦係数は次式で求まる。
Figure 2004069071
 サスペンション部での測定荷重から、各車輪の縦荷重Fznを求めた場合、以下に示すように、各車輪の加速度αxn、αynを用いて、各車輪のFxn、Fynがより高精度に求まる。
Figure 2004069071
 また、サスペンション部での荷重を測定した場合、計算により求めていたローリング、ピッチング、駆動力の反力モーメントによる縦荷重の変動は、測定値に含まれているので、より高精度に路面摩擦係数を求めることが可能となる。更に、この場合、重心位置は、(184)式のfnをFznとおきかえた次式を解くことで、常時、高精度に求めることが可能となる。
Figure 2004069071
 次に、制御方法について説明する。
 まず、直進走行時の制御方法について、以下に示す。直進時は、限界スリップ率を求めて(予測して)、ABS等のブレーキ制御やTCS等の駆動力制御を行うことが可能である。
 ここで、限界スリップ率とは各車輪が滑り出すスリップ率のことである。
 図26に示すように、Fx−S特性図中で、Sが小さい場合は、Sの増加とともにFxは、ほぼ直線的に増加し、その後、Fxの増加は緩やかとなり、最大値を示し、減少する。
 Fxが最大値を示した時のSが限界スリップ率であり、それ以上のSだとスリップしている状態となる。
 よって、Fx−S曲線の傾きを測定し、限界スリップ率を超えないように制御を行う、
 具体的には、Fx−S曲線の傾き、つまり、dFx/dS=(dFx/dt)/(dS/dt)を測定する。スリップ率Sが小さい場合、その値はほぼ一定となるが、スリップ率Sが大きくなり、限界スリップ率に近づくと、dFx/dSは小さくなる。よって、dFx/dSの値が、前回計算値に比較して、例えば、1/2,1/3,1/5,1/10,1/20などと値を設定しておき、それ以下の値となった時、ブレーキあるいはエンジンスロットルの開閉等を行い、制御する。
 また、限界スリップ率が明らかな場合には、スリップ率Sが限界スリップ率を超えないように、上述した制御を行えばよい。
 次に、カーブ走行時のスタビリティコントロール(安定制御)の方法について、以下に示す。
 カーブ走行時は、車輪の横(g)方向にもサイドフォースFgnが働くため、各車輪を直接制御できないので、予測を行い、各車輪が滑るのを未然に防止する。
 その方法としては、たとえば、各車輪に働く力Fwの時間増加率dFw/dtを測定し、数秒後に働く力を予測し、その力が、各車輪が滑り出す力より大きい場合、ブレーキやエンジンスロットルの開閉等による制御を行う。
 以下に、具体的にその方法を示す。
 まず、摩擦円の法則について示す。
  (参考文献5):坂井真一郎 4輪独立駆動電気自動車における車両運動制御 輪講資料 1998
 摩擦円の法則は、各車輪で成り立ち、図27に示すように、各車輪の駆動力FxnとサイドフォースFynとの合力Fwnと、滑り出す限界の力Flnとの関係を示したものである。つまり、Fwnが半径Flnの摩擦円より大きくなった時、車輪は滑り始める。ここで、各車輪が滑り始める力Flnは、次式で求まる。
Figure 2004069071
 一方、各車輪に働く力は、次のように表される。x方向に働く駆動力Fxnは次式で求まる。
Figure 2004069071
 各車輪のy方向に働くサイドフォースFynは次式から求まる。
Figure 2004069071
 よって、各車輪に働く合力Fwnは次式から求まる。
Figure 2004069071
 このように、各車輪のスリップ率Snと、縦荷重Fzn、y(横)方向加速度αynを用いて、各車輪の合力Fwn(駆動力FxnとサイドフォースFynのベクトル和)が求まる。また、直進時は、y(横)方向に力を受けないので、合力Fwnと駆動力Fxnが等しくなり、y(横)方向加速度αynを用いなくてもよい。尚、αyn≒0とすれば、(106)式を用いて、各車輪の合力Fwnを求めてもよい。
 摩擦円の法則から明らかなように、各車輪において合力FwnがFln以下であれば、車輪は滑らない。よって、次式が成り立つ時、各車輪は滑らない。
Figure 2004069071
 上(202)式の両辺にfn,Mがあるので消え、次式が成り立つとき、滑らないことになる。
Figure 2004069071
 上(203)式が成り立つように、カーブ走行時は、制御を行う。具体的な方法を以下に示す。
 図28に示すように、時刻T1において、(dFwn/dt)(T1)の測定を行い、t秒後(例えば0.5秒,1秒,2秒)の時刻T2における各車輪に作用する力Fwn(T2)を、次式のように予測する。
Figure 2004069071
 そして、Fwn(T2)≧Flnとなる時には、時刻T1において、ブレーキやエンジンスロットル等の制御を行い、各車輪の滑りを未然防止する。
 図28を用いて説明すると、a点,b点について、a点の場合、傾き(dFwn/dt)(T1)が小さいので、時刻T2において、Fwn(T2)<Flnとなるので、制御しないが、b点の場合、傾き(dFwn/dt)(T1)が大きく、時刻T2´において、Fwn(T2)≧Flnと予測されるので、上述の制御を行う。
 次に、キングピン角、キャスタ角、キャンバ角、ヨー角の影響の除去について説明する。
 自動車がもつキングピン角、キャスタ角、キャンバ角、ヨー角等によって、加速度センサ221の測定値に影響が出る場合は、実験値を記憶させておき、その影響を除去すればよい。
 図29に示すように、路面凹凸部を通過する時、サスペンションが伸縮し、測定値に誤差が生じ、対地速度およびスリップ率等に誤差が生じる。その場合、各車輪支持部材(車輪ユニット、車軸ユニットともいう。)にz方向加速度センサ221を取付け、路面凹凸等による振動を検出し、補正を行い、高精度に対地速度およびスリップ率を求めることが可能である。
 また、車体側にも、z方向加速度センサ221を取付ければ、その差を測定することで、より高精度に路面凹凸等による振動成分を除去することが可能である。
 次に、加速度センサ221について説明する。
 一般的に、自動車の受ける加速度は急発進、急ブレーキ時に最大となり、±0.5G程度と考えられる。よって、加速度計の測定レンジは、それよりも大きい必要がある。また、低速度の時は、微小な加速度変化に対応するため、高分解能が必要となり、高速走行時には、高応答性が必要となる。
 以下に加速度センサ221について詳細に説明する。
 1.アナログ・デバイセズ株式会社製、「ADXL202E」
 2軸加速度センサで、測定レンジは、±2Gである。5vで作動しデジタル信号または増幅アナログ信号出力である。データ転送速度は0.01Hzから5kHzまで接続コンデンサにより可変であり、応答性と分解能は次のような関係となる。60Hz−2mg、20Hz−1mg、5Hz−0.5mg、耐衝撃は1000gであり、耐熱温度は−65〜150℃ある。高速応答が可能である。サイズは5mm×5mm×2mmと小型で、1個500円程度と低価格であり、様々な分野で使われている。これを2個使えばx,y方向の加速度とx,y軸回りの角加速度が求められる。
 2.日立金属株式会社製ピエゾ抵抗型3軸加速度センサ
 加速度の作用により生じる力によって、ピエゾ抵抗に応力が発生し、加速度の検出を行う。1軸の加速度センサを3個、2軸の加速度センサを2個組み立てて、3軸方向の加速度を同時に検出可能で、傾きの検出も可能である。測定レンジは、±3Gで、パッケージサイズが4.8×4.8×1.25mmと超小型である。
 3.北陸電気工業製ピエゾ抵抗型3軸加速度センサ
 日立金属製と同様に3軸の加速度の同時検出が可能である。測定レンジは、±2Gであり、サイズは5.2×5.6×1.35mmである。
 (関連特許文献)特開2003−240795号公報、
         特開2002−243759号公報
 上述した加速度センサも含めて、加速度センサ221には、測定原理により、ピエゾ抵抗型、静電容量型、圧電型等があり、本方法で用いる加速センサはいずれでもよい。
 次に、センサの取付け位置について説明する。
 加速度センサ221は、各車輪の挙動を測定するので、タイヤ幅の中心部に取付けるのが理想的である。直進走行時には、車軸ユニットに取付けられていればよいが、カーブ走行時には、タイヤ幅中心からずれると、測定される加速度に誤差が生じるため、各車輪の対地速度Vnおよびスリップ率Snにも誤差が生じる。よって、加速度センサ221は、タイヤホイールのリム幅内に取付けるのが望ましい。
 加速度センサ221を、タイヤホイールのリム幅内から、150mm以内に取付けられない場合は、以下に示すように、タイヤの旋回角から、オフセット量を補正し、対地速度Vn、スリップ率Snを求める方法もある。
 図30に示すように、車輪n(n=1,2,3,4)に、タイヤ中心からyoff(mm)の位置に、加速度センサ221が取付けられている場合について説明する。
 車輪nがXn´方向に進行していて、Xn方向に旋回する時、各車輪のスリップ角θnはハンドルの切れ角から求まる。この時、センサ取付け位置では、タイヤ中心に比べ、次式で示す加速度Δαが作用するので、減算し、補正する。
Figure 2004069071
Figure 2004069071
 つまり、センサ取付位置では、タイヤ中心位置を中心とした半径yoffの円運動によって、加速度が生じる。Xn方向には、周加速度が作用し、Yn方向には遠心力の加速度が生じるので、上式で求まる加速度を、測定値より減算し、補正を行う。
 次に、加速度センサ221および回転センサ222の精度について説明する。
 自動車が受ける加速度は、急発進時、急ブレーキ時で、±0.5g程度であり、各車輪が受ける加速度もほぼ同様と考えられる。よって、制御する加速度は1gの範囲内であり、その1/200〜1/500の精度が必要であるとすると、5mg〜2mgの分解能が必要となる。また、自動車は、急ブレーキ時等は加速度が急激に変化し、その絶対値が大きい場合には、高応答性を要求し、低速時等は高精度の制御が要求される。アナログ・デバイセズ社製の加速度センサはコンデンサを変えることで、0.01Hzから5kHzまで応答性が可変であり、それによって分解能も変えることができる。よって、加速度センサは、検出した加速度の絶対値が大きい場合、高応答性が要求されるので、応答性を60Hzとすればよく、その時の分解能は2mgとなる。更に、応答性を上げてもよい。また、高精度が必要な時は、5Hzとすれば、分解能は0.5mgとなる。
 また、用いる高分解能回転センサについては、磁気エンコーダをホール素子で検出するアクティブ・センサが車輪用に適している。この磁気エンコーダは、望ましくはピッチ誤差の小さい物(1.0%以下、0.5%以下、より望ましくは0.1%以下)を使うと良い。
 高精度が得られにくい場合(フェライトゴム磁石エンコーダなど)は、あらかじめ、一回転分のピッチ誤差を、メモリに覚えこませておき、誤差補正しながら使うことで、高精度を確保することができる。尚、走行初期時に補正する場合は、何回転かデータを取って平均するかパターン認識から補正する。その際は、一箇所だけ、ピッチを例えば10%又は50%ずらしておき、そこを基準に補正すると処理しやすくなる。
 また、別の方法としてセンサの検出部を2ヶ所(ダブルヘッド)にしてエンコーダの1つのピッチが片方の検出部を通過してから他方の検出部を通過するまでの時間差を測れば、各ピッチの誤差に関係なく正しい回転角速度が測れる。
  (参考文献6): 特開平6−307922号公報((株)小野測器)
  (参考文献7): 特開昭62‐291519号公報(三菱重工業(株))
 次に、z方向加速度計(角速度センサ)について説明する。
 z方向の加速度を測定することで、
(1)路面勾配の測定
(2)路面凹凸等による振動の測定
 が可能となる。実際には、路面勾配の測定を行いたい時は、出力されたz方向加速度のデータを数回記憶しておき、平均化することで、細かい加速度のデータが消え、大きな加速度変化が出力され、路面勾配がわかる。逆に、路面凹凸等による振動を測定する時には、平均化処理を行わないか、平均化するとしても、その個数を小さくすればよい。尚、平均化するz方向加速度の個数が異なる加速度計を複数個設置してもよい。また、3軸角度センサ、6軸モーションセンサ等を設置すれば、より高精度に制御できる。
 つぎに、2軸駆動(FF、FR)の荷重分担比fnの算出方法について説明する。
 FF、FRといった二輪駆動車の場合には、以下に示す方法で、荷重分担比fnが求まる。ブレーキ時で、尚かつ、ニュートラル時、つまり、自動車の駆動装置から各車輪へ駆動力の伝達がない時には、図10に示すように、各車輪のブレーキの液圧から、各車輪の制動力Fxnが求まる。各車輪の制動力Fxnとスリップ率Snとには、次式が成り立つ。
Figure 2004069071
 上式を変形すると、次式となる。
Figure 2004069071
 ここで、一時的に各車輪の摩擦係数が等しいと考え、次式のようにμmとする。
Figure 2004069071
 上式を連立方程式(213)式に代入すると、
Figure 2004069071
 上式から、各車輪の荷重分担比の比率は次のように求まる。
Figure 2004069071
 全体の制動力をFb=Fx1+Fx2+Fx3+Fx4とし、それに対する各車輪の制動力の比率をbnとする。
Figure 2004069071
 この比率を用いると、荷重分担比は次のようになる。
Figure 2004069071
 係数kを掛ければ、fn=k(bn/Sn)と考えられる。f1+f2+f3+f4=1に代入する。
Figure 2004069071
 上(219)式を整理すると、次式のようにkが求まる。
Figure 2004069071
Figure 2004069071
 kが求まったので、各車輪の荷重分担比が次のように求まる。
Figure 2004069071
 各車輪の路面摩擦係数は次式で求まる。
Figure 2004069071
 尚、各車輪のブレーキ時の液圧がわからない場合は、各車輪に働く制動力を等しいFx1=Fx2=Fx3=Fx4=1/4Fxbとして、荷重分担比を求め、路面摩擦係数を求めればよい。尚、荷重分担比も、エンジンを切る等により、自動車の電気系統(電源)が切れた場合は、その値を記憶しておき、次回の計算時に使用する。
 次に、スリップ率を求める別法について説明する。
 各車輪の速度およびスリップ率を求める別法として、以下に示す方法もある。
(1)積分法
 微小時間Δt内で、加速度センサ221の出力から重力影響を除いて求めた真の加速度αxから速度変化分ΔVαを求め、一方、回転センサ222の出力ωから回転角速度の変化分Δωを求め、その比率から、各車輪の仮想半径rを求める。まず、時間t1からt2までの微小時間Δtでの速度変化分ΔVαはαxから、次式で求まる。
Figure 2004069071
 次に、同じt1からt2までの微小時間Δtでの回転速度の変化分Δωは、回転センサ222の出力ωt1、ωt2から、次式で求まる。
Figure 2004069071
 上2式の比率から、各車輪の仮想半径rは次式より求まる。
Figure 2004069071
 上式のrの比が、時間に依らず一定でかつ0(ゼロ)でない時には、各車輪対地速度Vは次式で求まる。
Figure 2004069071
 rの比が変化しはじめた場合、その時の時刻をt1とし、その時点の対地速度をVt1とすれば、時間t後の対地速度は、次式で求まる。
Figure 2004069071
 また、前述したような、車両のニュートラル状態で、各車輪のタイヤ実半径Rが、次式により求まる。
Figure 2004069071
 尚、(112)式で前述したようにニュートラル状態は、次式が成り立つ時である。
Figure 2004069071
 以上から求まったV,Rを用いて、各車輪のスリップ率Sが求まり、各車輪のスリップ状態がわかる。
Figure 2004069071
Figure 2004069071
 また、αxと回転センサ222の出力の比を表す。仮想半径rは、次式で表すように、t1からt2の微小時間Δtで加速度の2回積分から移動距離ΔLを求め、回転センサ222の1回積分から回転角度Δθを求めてもよい。Δθは回転角度の差として求めてもよい。
Figure 2004069071
 (2)合成法
 車両が従動輪を有する場合、駆動時に従動輪のスリップ率が0(ゼロ)であるので、以下に示す方法で、各車輪のスリップ状態がわかる。
 まず、平地、低速、低下速度の直進時に各車輪の対地速度は4つとも同じで、実半径Rを用いて、次式より求まる。
Figure 2004069071
 ここで、車輪1、2を従動輪とし、さらに車輪1の実半径Rを基準半径とする。上式から、各車輪の実半径Rは、R1と回転角速度ωから次式で表される。ここで、添字のNはニュートラル状態を示すものとする。
Figure 2004069071
 上式から、各車輪の実半径RnがR1の比として求まる。
 次に前記条件でない直進時は、各車輪の仮想半径rを用いると、次式が成り立つ。
Figure 2004069071
 よって、直進走行時の各車輪の仮想半径rは車輪1のr1を用いて、次式で表される。
Figure 2004069071
 この時、従動輪1および2の仮想半径はスリップ率が0であるので、次式が成り立つ。
Figure 2004069071
 また、駆動輪3および4の仮想半径は、R1を用いて次式で求まる。
Figure 2004069071
 よって、直進時の対地速度Vnは、R1を決めておけば、次式で求まる。
Figure 2004069071
 各車輪のスリップ率Snは、次式で求まる。
Figure 2004069071
 次に、カーブ時について説明する。
 カーブ時は、Vx1=Vx2=Vx3=Vx4が成り立たないので、次の方法で仮想半径を求める。従動輪はスリップ率が0であるので、次式が成り立つ。
Figure 2004069071
 駆動輪3、4は、加速度を積分し、積分前の値Vx3に加算し、対地速度Vを求めると
Figure 2004069071
 ただし、VxnはR1を基準としているので、実際の速度ではないので、微分法または積分法、又は他の方法で、実半径R1を求めれば、より高精度に求まる。
 各車輪の対地速度Vnを、回転角速度ωnで割り、仮想半径rを求める。
Figure 2004069071
 以上のようにして、各車輪の実半径Rn、仮想半径rnを使って、各車輪のスリップ状態がわかる。以下に、各車輪のスリップ率を求める式を示す。
Figure 2004069071
本発明に係る路面摩擦係数測定用スリップセンサ付きハブ軸受の一実施形態を示す断面図である。 スリップセンサの好適な取付け位置を示す要部拡大図である。 第1実施形態に用いられるスリップセンサの概略図である。 従来技術による車軸ユニットを示す断面図である。 第1実施形態のスリップ率の算出に用いる力学的説明図である。 第1実施形態のスリップ率の算出に用いる力学的説明図である。 第1実施形態のスリップ率の算出に用いる力学的説明図である。 第1実施形態のスリップ率の算出に用いる力学的説明図である。 第1実施形態のスリップ率の算出に用いる力学的説明図である。 第1実施形態のスリップ率の算出に用いる力学的説明図である。 第1実施形態のスリップ率の算出に用いる力学的説明図である。 第1実施形態のスリップ率の算出に用いる力学的説明図である。 第1実施形態のスリップ率の算出に用いる力学的説明図である。 第1実施形態のスリップ率の算出に用いる力学的説明図である。 第1実施形態のスリップ率の算出に用いる力学的説明図である。 第1実施形態のスリップ率の算出に用いる力学的説明図である。 第1実施形態のスリップ率の算出に用いる力学的説明図である。 第1実施形態のスリップ率の算出に用いる力学的説明図である。 第1実施形態のスリップ率の算出に用いる力学的説明図である。 第1実施形態のスリップ率の算出に用いる力学的説明図である。 第1実施形態のスリップ率の算出に用いる力学的説明図である。 第1実施形態に用いられる圧力センサの取付外観図である。 図22におけるセンサ部分の断面図である。 第1実施形態のスリップ率の算出に用いる力学的説明図である。 第1実施形態のスリップ率の算出に用いる力学的説明図である。 第1実施形態のスリップ率の算出に用いる力学的説明図である。 第1実施形態のスリップ率の算出に用いる力学的説明図である。 第1実施形態のスリップ率の算出に用いる力学的説明図である。 第1実施形態のスリップ率の算出に用いる力学的説明図である。 第1実施形態のスリップ率の算出に用いる力学的説明図である。
符号の説明
 1 外輪
 2 ハブ
 10 玉(転動体)
 12 取付けフランジ
 13 結合フランジ
 31 ホイール
 35 ディスクロータ
 211 スリップセンサ
 212 回転部材
 213 エンコーダ
 214 取付け孔
 215 取付け部

Claims (1)

  1.  路面摩擦係数測定用スリップセンサ付きハブ軸受は、
     (a)内輪部材と、
     (b)転動体と、
     (c)ホイールに取付けられる外輪と、
     (d)スリップセンサとを含み、
     外輪は、ホイールより内側で、且つ転動体より内側に非円形孔を有し、
     スリップセンサは、車輪の進行方向の加速度を測定する加速度センサと、車輪の回転速度を測定する回転センサとを有し、且つ外輪の非円形孔に取付けるための取付け部を有する。
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