JP2004063311A - マイクロ波加熱装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】開口部5が導波管の管軸10から見て片側のE面にのみ構成されているので、開口部5から加熱室3内に放射されるマイクロ波の指向性に関しては、開口部5のある側への指向性を強くすることができる。特に、加熱室中央に直状の発熱体13を配置した場合、導波管2を発熱体13と略平行となるように同一壁面に配置し、管軸10から見て開口部5を発熱体13側にのみ構成したので、発熱体側に指向性の強いマイクロ波放射ができる。よって発熱体による加熱とマイクロ波による加熱を、それぞれ均一にすることができる。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、食品などの被加熱物をマイクロ波により加熱するマイクロ波加熱装置に関するものであり、特に導波管から放射されるマイクロ波の向きを開口部により最適化して加熱分布の改良をねらうものである。
【0002】
【従来の技術】
従来のこの種のマイクロ波加熱装置としては例えば、特開2000−164341号公報に記載されているようなものがあった。まず図12は従来のマイクロ波加熱装置の断面構成図、図13は同斜視図、図14、図15は図12のP−P’断面図である。
【0003】
代表的な放射手段であるマグネトロン1から放射されたマイクロ波は、導波管2により加熱室3内に導かれ、加熱室3内に載置された被加熱物4を加熱するものである。このとき導波管2と加熱室3の結合部には、加熱室3壁面をくりぬいた開口部5を有しており、開口部5は言わばマイクロ波の放射口としての役割をになうものである。導波管2は、幅広のH面6と幅の狭いE面7により断面がa×bなる箱型に構成され、マグネトロン1の出力アンテナ8から矢印9の方向にマイクロ波を伝送するものである。よって矢印9の方向をマイクロ波の伝送方向と呼ぶことにする。また導波管2の断面(斜線部10)は、導波管2の対称軸であり、管軸と呼ぶことにする。
【0004】
導波管2の形状として、一般的には、マイクロ波の波長をλとした場合、H面の距離a(導波管2の幅)をλ/2<a<λの範囲に、E面の距離b(導波管2の厚み)をb<λ/2に選ぶことで、TE10モードを励振することになる。より具体的には、例えばマイクロ波加熱装置を電子レンジとした場合、λ≒122mm、a=80〜90mm、b=15〜40mmに選ぶことがほとんどである。
【0005】
図14の場合、開口部5はH面にあって導波管幅aに等しい幅寸法を有し、管軸10に対して対称に配置されているから、出力アンテナ8から見ても対称となる。よって、開口部から加熱室へと伝送されるマイクロ波の、図14の左右方向への指向性も対称となる。また図15の場合、開口部5、11a、11bを有しているが、やはり管軸10に対して対称に配置されているから、図14と同様に図15の左右方向への指向性も対称となる。
【0006】
また特開平8−124670号公報には、図16のような構成が記載されているが、開口部12a、12bは管軸10に対して対称に配置されているから、同様に図16の左右方向への指向性も対称となる。
【0007】
これらの従来のマイクロ波加熱装置は、加熱むらを起こさないようにするために開口部からのマイクロ波をいかに均一に放射させるかを考えた構成であり、管軸に対して対称形状とするのはごく自然な考え方であった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら前記従来の構成は、管軸が加熱室壁面の中心線と一致する場合に加熱室内を均一に加熱できるということにほかならない。たとえば加熱室が直方体である場合、壁面は長方形となるので対称軸を為す二本の中心線が存在する。このいずれかに導波管の管軸を一致させることができる場合は、管軸に対して対称形状の開口部により加熱室に対しても対称にマイクロ波を放射することができ、均一な分布を期待することができる。
【0009】
ところがそのような構成にできない場合がある。最近の電子レンジではオーブン機能を有するものが主流であるが、そのためにたとえば図17のように、天面の中央を管ヒータ13が横断しているような場合も想定される。この図は電子レンジを上から見た図であり、この時、管ヒータ13を避けて横に導波管2を平行に配置しようとすると、管軸10は加熱室3天面の中心線14、15のいずれとも一致させることができない。この構成において図14から図16に示したような開口部を採用すると、管軸10に対して対称にマイクロ波が放射されるので、加熱室の後方(図17の上方)の電界強度が強く、前方(図17の下方)の電界強度が弱くなり、結果的に被加熱物の後が熱く前が冷たいような加熱むらが起こりやすい。
【0010】
本発明は前記従来の課題を解決するもので、導波管の管軸と加熱室壁面の中心線が一致しない場合に、開口部構成の工夫によって管軸に対して非対称な指向性を有するマイクロ波放射を引き起こし、結果的に加熱室内における加熱分布を均一化することを目的とするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
前記従来の課題を解決するために、本発明のマイクロ波加熱装置は、マイクロ波を放射する放射手段と、E面の開口部を介して前記放射手段を加熱室に結合する導波管とを有するものである。
【0012】
これによって、管軸に対して開口部のある側への指向性の強いマイクロ波放射を起こすことができ、導波管の管軸と加熱室壁面の中心線が一致しない場合に加熱分布を均一化することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
請求項1に記載の発明のマイクロ波加熱装置は、マイクロ波を放射する放射手段と、前記放射手段を加熱室に結合する導波管とを備え、前記導波管のE面に開口部を有するものである。
【0014】
導波管のE面の開口部を介して放射手段を加熱室に結合するので、開口部から加熱室内に放射されるマイクロ波の指向性に関しては、開口部のある側への指向性を強くすることができる。
【0015】
また請求項2に記載の発明のマイクロ波加熱装置は、加熱室壁面とは角度の異なる導波管E面を結合するために結合空間を有する構成としたものである。
【0016】
結合空間を有する構成としたので、結合空間を介して導波管と加熱室とを結合することが容易となり、開口部からのマイクロ波をスムーズに加熱室内に導くことができる。
【0017】
また請求項3に記載の発明のマイクロ波加熱装置は、加熱室壁面と導波管E面の角度が略90度異なる構成としたものである。
【0018】
加熱室壁面と導波管のE面の角度が90度異なる構成としたので、開口部からのマイクロ波の向きが加熱室壁面に平行な向きとなるので、最も指向性の高いマイクロ波放射を起こすことができる。
【0019】
また請求項4に記載の発明のマイクロ波加熱装置は、結合空間を加熱室壁面と一体に構成したものである。
【0020】
また請求項5に記載の発明のマイクロ波加熱装置は、結合空間を導波管と一体に構成したものである。
【0021】
結合空間を加熱室壁面や導波管と一体に構成すれば、結合空間の構成が簡単であり、極めて容易に実現可能である。
【0022】
また請求項6に記載の発明のマイクロ波加熱装置は、導波管のH面を加熱室壁面に平行に結合する構成としたものである。
【0023】
導波管のH面を加熱室壁面に平行に結合するので結合面の導波管壁面を加熱室壁面で共用することが可能となり、コンパクトに配置できる。
【0024】
また請求項7に記載の発明のマイクロ波加熱装置は、マイクロ波を放射する放射手段と、前記放射手段を加熱室に結合する導波管と、導波管を構成する面のうち前記加熱室と結合した面とは異なる面の開口部からマイクロ波を伝送する構成としたものである。
【0025】
加熱室と結合した面とは異なる面の開口部からマイクロ波を伝送することで、異なる面の側に強い指向性を有するマイクロ波の放射が容易に実現可能である。
【0026】
また請求項8に記載の発明のマイクロ波加熱装置は、開口部は、導波管の管軸から見て加熱室壁面の中心側のE面に位置する構成としたものである。
【0027】
開口部が管軸から見て加熱室天面の中心側のE面に位置するので、加熱室の中心側へのマイクロ波の指向性が強くなる。よって、加熱室の中心が強くて中心から離れるにつれて弱くなるような、加熱室の中心を基準とした対称的なマイクロ波の分布を実現できるので、結果的に被加熱物の加熱分布を均一化することができる。
【0028】
また請求項9に記載の発明のマイクロ波加熱装置は、開口部、加熱室壁面ともに略長方形状とし、それぞれ二本の中心線を考えた時、一方の中心線は並行でかつ他方の中心線は直交する構成としたものである。
【0029】
この場合、開口部を有する面と加熱室壁面とが直交し、開口部の二本の中心線の交点から加熱室壁面の二本の中心線の交点に向けて、マイクロ波の指向性を強くすることができるとともに、直交する中心線を含む面の両側へはマイクロ波の指向性を対称的にすることができる。よって、加熱室の中心が強くて中心から離れるにつれて弱くなるような、加熱室の中心を基準とした対称的なマイクロ波の分布を容易に実現できるので、結果的に被加熱物の加熱分布を均一化することができる。
【0030】
また請求項10に記載の発明のマイクロ波加熱装置は、開口部は、導波管の高さ方向よりもマイクロ波伝送方向に長い形状としたものである。
【0031】
導波管は一般に扁平で高さが低い形状であるが、開口部が、導波管の高さ方向の寸法よりもマイクロ波伝送方向の寸法を長くしたので、開口部の形状を大きくすることができ、効率的にマイクロ波を伝送することができる。
【0032】
また請求項11に記載の発明のマイクロ波加熱装置は、開口部の長さは、マイクロ波の導波管内の波長をλgとしたときに、λg/8以上かつ2λg以下としたものである。
【0033】
また請求項12に記載の発明のマイクロ波加熱装置は、開口部の長さは、λg/4以上かつλg以下としたものである。
【0034】
開口部の長さLをλg/8以上かつ2λg以下とし、中でも特にλg/4以上かつλg以下としたので、容易に開口部をマイクロ波伝送方向に長い形状とすることができる。特に、長さが短くなりすぎると加熱室にマイクロ波が入りにくくなり、長さが長くなり過ぎると導波管が長くなって部材の量やコストが増えたり、加熱室の強度が弱くなったりする可能性も有る。本発明によれば、適当な長さを選択することができるのでこれらの問題を回避することができる。
【0035】
また請求項13に記載の発明のマイクロ波加熱装置は、開口部を略長方形状とした時の幅は、少なくとも10mm以上としたものである。
【0036】
開口部の幅Wは導波管の片側つまりa/2以下で選べるが、10mm以上としておけば安全性にも問題が無い。電子レンジなどのように1000kW前後の出力の場合は、異常使用時でもスパークなどが起こりにくい構成にすべきであり、10mm以上を確保することで、極めて安全に利用できる。
【0037】
また請求項14に記載の発明のマイクロ波加熱装置は、開口部の幅は導波管の厚みより小さく、かつ前記導波管の厚み方向の中央に位置する構成としたものである。
【0038】
また、開口部の幅方向の位置は導波管の厚み方向の中央に位置する構成としたので、開口部の幅方向の両側に均等に導体部を形成することができ、一方の導体部から他方の導体部に向けて容易に電界が立つので、開口部から結合空間に効率的にマイクロ波が伝送され、加熱室内にもマイクロ波を効率的に伝送できる。
【0039】
また請求項15に記載の発明のマイクロ波加熱装置は、直状の発熱体を有し、前記発熱体と導波管とを、前記発熱体の長手方向とマイクロ波伝送方向が略並行となるように同一壁面に配置し、開口部は前記導波管の管軸から見て前記発熱体側のE面にのみ構成されたものである。
【0040】
管軸から見て開口部を発熱体側のE面にのみ構成したので、発熱体側に指向性の強いマイクロ波放射ができる。発熱体が一本の場合、発熱体による輻射加熱分布を均一するためには、できるだけ加熱室中央に配置したいということが想定される。本発明の構成により、発熱体を加熱室中央付近に配置しつつ、マイクロ波放射も発熱体側、即ち加熱室中央に向けることができ、発熱体による加熱とマイクロ波による加熱を、それぞれ均一にすることができる。
【0041】
また請求項16に記載の発明のマイクロ波加熱装置は、壁面上に直状のしぼり部を形成し、前記しぼり部と導波管とを、前記しぼり部の長手方向とマイクロ波伝送方向が略並行となるように同一壁面に配置し、開口部は前記導波管の管軸から見て前記しぼり部側のE面にのみ構成されたものである。
【0042】
開口部を管軸から見てしぼり部側のE面にのみ構成することで、しぼり部側に指向性の強いマイクロ波放射ができる。よって、しぼり部があるために導波管の配置が制限される場合でも、しぼり部側に向けて強いマイクロ波放射が可能となり、しぼり部の有無の影響を受けずに被加熱物を均一に加熱することができる。
【0043】
また請求項17に記載の発明のマイクロ波加熱装置は、壁面の中央に導波管配置を妨げる部品を有する時、前記部品側に前記導波管のE面を対向させて配置し、開口部は前記導波管の管軸から見て前記部品側のE面に位置する構成としたものである。
【0044】
開口部を管軸から見て部品側のE面にのみ構成することで、部品側に指向性の強いマイクロ波放射ができる。よって、部品があるために導波管の配置が制限される場合でも、部品側に向けて強いマイクロ波放射が可能となり、部品の有無の影響を受けずに被加熱物を均一に加熱することができる。
【0045】
また請求項18に記載の発明のマイクロ波加熱装置は、加熱室内に被加熱物を載置する載置網を有し、前記載置網の網目と開口部の長手方向を一致させる構成としたものである。
【0046】
載置網の網目と開口部の長手方向の向きとを一致させると、開口部の幅方向にかかる向きの電界がそのまま網目の幅方向にもかかりやすく、電界が順次網目間を伝わって載置網上を伝搬することになるので、載置網に沿って均一な電界分布が得やすい。
【0047】
さらに請求項19に記載の発明のマイクロ波加熱装置は、開口部の近傍でマイクロ波を攪拌する攪拌手段を有する構成としたものである。
【0048】
攪拌手段でマイクロ波を攪拌することにより、マイクロ波が加熱室内で共振することによる定在波の発生を防ぎ、定在波による加熱むらを抑えてより均一化することができる。
【0049】
以上によって、管軸に対して開口部のある側への指向性の強いマイクロ波放射を起こすことができ、導波管の管軸と加熱室壁面の中心線が一致しない場合に加熱分布を均一化することができる。
【0050】
【実施例】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【0051】
(実施例1)
図1から図3は、本発明の実施例1におけるマイクロ波加熱装置の構成図である。図1は上から見た図であり図2のR−R’断面図でもある。図2は図1の加熱室の第2の中心線15でのQ−Q’断面図、図3は図1のS−S’断面図である。
【0052】
代表的な放射手段としてのマグネトロン1から放射されたマイクロ波は、導波管2により加熱室3内に導かれ、加熱室3内に載置された被加熱物4を加熱するものである。このとき導波管2と加熱室3の結合部には開口部5を有しており、開口部5は言わばマイクロ波の放射口としての役割をになうものである。導波管2は、幅広のH面6と幅の狭いE面7により断面がa×bなる箱型に構成されているが、H面6の下側は加熱室3天面のしぼり16の水平な部分に結合され(即ちH面と加熱室壁面が平行)、E面7の開口部5側はしぼり16の上部にさらにしぼりで形成された結合空間17に結合されている。結合空間17により、一般に水平に構成される加熱室天面と、導波管E面とがある角度(本実施例では90度)を有する場合にも結合することができる。
【0053】
マイクロ波の伝送方向は、マグネトロン1の出力アンテナ8から図1、図3の左方向に伝送していき、開口部5を介して、結合空間17、しぼり16を通って加熱室3内に導かれることになる。このときマイクロ波の自由空間内での波長λ=122mm、a=80mm、b=15〜40mmを選んだ場合、導波管内の伝送方向の波長(管内波長)をλgとすると、λg=λ/(1−(λ/(2a))^2)^0.5≒189mmとなる。加熱室3の天面にはミラクロンヒータなどの管ヒータに代表される直状の発熱体13を有し、被加熱物4に焦げ目をつけるなどオーブン調理やトースター調理に使用されるものである。このとき発熱体13を避けるため導波管2は加熱室の後方(図1、図3の上側、図2の右側)に配置せざるを得ず、開口部も同様の配置となる。
【0054】
またこのとき図3から明らかなように、開口部5は長さLで幅Wの細長い長方形状(導波管2の高さ方向に狭く伝送方向に長い)であり、開口部5の対称軸を為す二本の中心線18、19が、略長方形と考えた時の加熱室天面の対称軸を為す二本の中心線14、15と以下のような関係にある。即ち一方の中心線同志(14と18)は平行、他方の中心線同志(15、19)は直交する関係である。
【0055】
またこの構成では、中心線14、15の交点20を加熱室3天面の中心と考えると、開口部5は管軸10から見て加熱室の中心20側に位置する構成である。また本実施例では、開口部5の形状は、L=80mm、W=15mmを選んでいる。図3によれば導波管2の厚みはマグネトロン1側と開口部5側で異なるが、開口部5近傍での厚みをbとすると中心線18がbの中央に一致する構成であり、即ち開口部5は導波管2の厚み方向の中央に位置している。
【0056】
また開口部の寸法W<bとなるように、b=20mm、W=15mm、s1=2.5mm、s2=2.5mmとしている。また、ドア21は加熱室3正面に開閉自在に取りつけられたドア、載置網22は被加熱物4を載置するものである。載置網22については、図4に上から見た図を示したが、載置網の網目は多数の細長い形状のスリット23により形成されており、スリット23と開口部5とは平行な向きに構成されている。
【0057】
また図2、図3にはしぼり16の内部に攪拌手段としてのアンテナ24を配置し、モータ25によりアンテナ軸26を回転させることで時間とともにアンテナ24の向きを変え、マイクロ波を攪拌することで均一化を果たしている。
【0058】
引き続き開口部5の作用についてシミュレーション結果を用いて補足する。図5、図6は開口部形状による電界強度のシミュレーション結果を示し、図5はH面に設けた従来の開口部27の場合、図5は本実施例の開口部5の場合である。また図5、図6とも(a)は開口の下方20mmの電界強度、(b)は開口の下方80mmの電界強度を示しており、図中の線は等電界強度線である。図5、図6とも(a)より(b)の方が等電界強度線の目が粗いので、電界強度が弱くなっていることになり、即ち開口部から遠ざかると電界強度が弱くなることがわかる。
【0059】
まず図5の従来の開口部27の場合、管軸10に沿って右側から伝送されてきたマイクロ波に対して、開口は管軸10に対して対称形状なので図5の上側と下側に対称な電界強度分布となる。また一般に導波管内では対向するH面間に電界が立っているので、辺cからも電界が立とうとしており、H面上に開口部27を設けた場合は、開口部27を挟み込むようにcからe(あるいはeからc)向きの電界が容易に発生する。通常、導波管内ではTE10モードが起こっており、導波管の中央(管軸10)での電界が最も強く、導波管の端部での電界は0になることが知られている。よって辺dや辺fは電界が0になろうとする位置であるために、cあるいはeからの電界を受け入れられず、c−e間にのみ電界が発生する。そしてこの電界の向きにより、図の左右方向に電界が伝搬しやすくなり、等電界強度線が左右に伸びたような形状となっている。
【0060】
一方図6の本実施例の場合、まず管軸10に沿って右側から伝送されてきたマイクロ波に対して、開口部5はE面にあるため管軸10に対して非対称形状なので図6の上側と下側に非対称な電界強度分布となる。特に開口部5から加熱室にマイクロ波が伝送されるのだから、開口部5での電界強度が強くなる。また等電界強度線の中でも電界強度が最も強い内側の線に注目すると、(a)より(b)の方が図6の下側にあり、これは開口部5から離れるに従って下に移動するという下向きに指向性の強い状態になっていることがわかる。
【0061】
ここで開口部5の大きさに関しては、大きさが小さくなると伝送しにくくなる(効率が悪くなる)がE面はH面より狭いのであまり厚み方向の大きさがとれない。よって本発明の開口部5の場合には、導波管の幅方向よりもマイクロ波伝送方向に細長い開口形状が望ましい。具体的には管内波長λgを用いて、開口部の長さ(図3のL)はλg/8以上かつ2λg以下、できればλg/4以上かつλg以下が望ましい。ちなみに長さが長くなり過ぎると、導波管が長くなって部材の量やコストが増えたり、加熱室の強度が弱くなったりする可能性も有る。そして特に本実施例ではλg=189mmでL=80mmとしている。
【0062】
一方、開口部の幅(図3のW)は導波管の厚みb以下とならざるを得ないが、電子レンジなどのように1000kW前後の出力の場合は、異常使用時でもスパークなどを回避するという安全性を考慮して10mm以上にすることが望ましい。特に本実施例ではb=20mmでW=15mmとしている。
【0063】
また、開口部5をマイクロ波伝送方向に細長い形状にすれば、開口部5にかかる電界の向きは距離の近い所(図3の上下間)にかかるので、この向きの電界に合うように加熱室3内の電界も前後方向(図6の上下方向)を向き、結果的に図6のような上下方向に伸びたような等電界強度線となると考えられる。
【0064】
図7は特性図であり、被加熱物として4つのビーカーに500ccずつ水を入れて図のように配置して加熱した場合の温度分布を示している。配置がわかるように導波管2、加熱室3、開口部5についても記している。図中の数字は、2分50秒間加熱して、加熱終了後の温度と加熱前の温度との差をとった温度上昇度で示している。(a)は従来の開口部27での特性、(b)は本実施例の開口部5による特性であり、本実施例の方が加熱むらが小さくなっている。具体的には、(a)の最大値と最小値の比は10.0/1.6≒6であり、(b)の最大値と最小値の比は12.0/6.1=2であるから、両者の加熱むらは6:2で約3倍程度異なるという結果である。もちろん図7(b)の本実施例の結果では、十分に均一とは言えないので開口部5形状の最適化など今後の改善が必要である。
【0065】
最後に、本実施例のマイクロ波加熱装置による効果について記載する。
【0066】
まず、導波管2のE面7の開口部5を介してマグネトロン1を加熱室3に結合するので開口部5から加熱室3内に放射されるマイクロ波の指向性に関しては、開口部5のある側への指向性を強くすることができる。
【0067】
また、加熱室3壁面とは角度の異なる導波管2のE面7を結合するために結合空間17を有する構成としたので、導波管2と加熱室3との結合が容易であり開口部5からのマイクロ波をスムーズに加熱室3内に導くことができる。
【0068】
また、加熱室3壁面と導波管2のE面7の角度が90度異なる構成としたので、開口部5からのマイクロ波の向きが加熱室3壁面に平行な向きとなるので、最も指向性の高いマイクロ波放射を起こすことができる。
【0069】
また結合空間17を、しぼりにより加熱室3壁面と一体に構成したので、構成が容易である。
【0070】
また、導波管2のH面6を加熱室3壁面に平行に結合するので結合面の導波管2壁面を加熱室3壁面で共用できるとともに、コンパクトに配置できる。
【0071】
また、開口部5が管軸10から見て加熱室3天面の中心20側に位置するので、加熱室3の中心20側へのマイクロ波の指向性が強くなり、結果的に加熱室内における加熱分布を均一化することができる。
【0072】
また、開口部5、加熱室3天面ともに略長方形状であり、それぞれの二本の中心線のうち、一方の中心線14、18が平行でかつ他方の中心線15、19は直交する。この時のマイクロ波の指向性は、図1の開口部5の上下方向には下向きに強くなり、かつ開口部5の左右方向へは対称的にすることができる。つまり加熱室に対して均一に放射することができる。
【0073】
また、開口部5は、導波管2の高さ方向の寸法Wよりもマイクロ波伝送方向の寸法Lが長いので、開口部5の形状を大きくすることができ、効率的にマイクロ波を伝送することができる。
【0074】
また、開口部の長さLをλg/8以上かつ2λg以下とし、中でもλg/4以上かつλg以下としたので、容易に開口部5をマイクロ波伝送方向に長い形状とすることができる。本実施例では、L=80mmとして示したが、これに限定されるものではない。長さが短くなる(例えば40mm未満)と加熱室3にマイクロ波が入りにくくなる場合があり、長さが長くなり過ぎる(たとえば200mm超)と導波管が長くなって部材の量やコストが増えたり、加熱室の強度が弱くなったりする可能性も有る。そして特に本実施例ではλg=189mmでL=80mmとしている。
【0075】
また、開口部5の幅Wは導波管の厚みb以下で選べば良いが、電子レンジなどのように1000kW前後の出力の場合は、異常使用時でもスパークなどを回避するという安全性を考慮して10mm以上にすることが望ましい。特に本実施例ではb=20mmでW=15mmとしている。
【0076】
また、開口部5の幅W方向の位置は導波管2の厚み方向の中央に位置する構成としたので、s1を形成する導体部分と、s2を形成する導体部分との間で、一方の導体部から他方の導体部に向けて容易に電界が立つので、開口部から結合空間に効率的にマイクロ波が伝送され、加熱室内にもマイクロ波を効率的に伝送できる。
【0077】
また、直状の発熱体13と導波管2とを略平行となるように同一壁面に配置し、管軸10から見て開口部5を発熱体13側のE面にのみ構成したので、発熱体側に指向性の強いマイクロ波放射ができる。特に本実施例のような一本の発熱体の場合、発熱体による輻射加熱分布を均一にするためには、できるだけ加熱室中央に発熱体13を配置したいということが想定される。本実施例では、発熱体13を加熱室中央付近に配置しつつ、マイクロ波放射も加熱室中央に向けることができ、発熱体による加熱とマイクロ波による加熱を、それぞれ均一にすることができる。
【0078】
また、載置網22のスリット23を開口部5の長手方向と一致させたので、開口部5の幅方向にかかる向きの電界がそのままスリット21の幅方向にもかかりやすく、電界が載置網23上を伝搬しやすいので、より均一化の効果が見込める。
【0079】
さらに、開口部5の近傍でマイクロ波を攪拌するアンテナ24を有するので、マイクロ波の加熱室3内の共振による定在波の発生を防ぎ、定在波による加熱むらを抑えてより均一化することができる。
【0080】
(実施例2)
図8は、本発明の実施例2のマイクロ波加熱装置の構成図である。
【0081】
図8(a)は代表的なマイクロ波加熱装置である電子レンジを正面から見た断面構成図であり、図8(b)は図8(a)のT−T’断面、図8(a)は図8(b)のU−U’断面という関係である。本実施例は結合空間と導波管を一体に構成したもので、導波管2内に仕切り板28を挿入することで結合空間29を形成しており、仕切り板28上に開口部30を有する構成である。マイクロ波を透過させる材質(マイカやポリプロピレン)からなるカバー31、直状のしぼり部で構成されたレール32、被加熱物を載置して回転させるターンテーブル33などを有している。特にレール32を壁面のしぼり部で構成する方法は、オーブン機能を有する製品の場合に角皿を乗せるために良く用いられる構成である。
【0082】
本実施例では、レール32は角皿を載せても水平に維持できるように、図8(a)の紙面に垂直に長い形状であり、導波管2の長手方向をレール32に略平行に配置し、開口部30を管軸10から見てレール32側のE面にのみ構成することで、レール32側に指向性の強いマイクロ波放射ができる。よって図8のようにレール32があるために導波管2が壁面の上方にしか配置できない場合でも、下向きのマイクロ波放射が実現できるので、被加熱物を均一に加熱することができる。特に図8の構成において、被加熱物の形状が平らなものの場合、ターンテーブル33に置くと随分低い位置に被加熱物があることになるので、より顕著な効果が期待できる。
【0083】
また本実施例では導波管2内に仕切り板28を入れるだけで結合空間29を構成するという簡単な構成であり、極めて容易に実現可能である。
【0084】
(実施例3)
図9は、本発明の実施例3のマイクロ波加熱装置の構成図である。
【0085】
本実施例では、導波管2を加熱室3の内側から取りつけており、開口部34は取りつけた面(H面6)とは異なる面(E面7)に構成されている。部品35は湿度センサユニットであり、加熱室壁面の蒸気穴36、湿度検知部37などから成るものである。また導波管2内に攪拌手段としてのアンテナ38を有しているが、これはモータ39によりアンテナ軸40を回転させることで、開口部34から加熱室3内に放射されるマイクロ波の向きを変更可能としている。
【0086】
本実施例では、壁面の中央に導波管配置を妨げる部品35があるが、部品35側に導波管2のE面7を対向させて配置し、開口部34は前記導波管から見て前記部品35側のE面7に位置するので、部品35側に向かって(図9の右から左への)指向性のあるマイクロ波を伝送することができて、加熱室内にマイクロ波を均一に放射することが可能となり、被加熱物を均一に加熱することができる。
【0087】
部品としては、たとえば赤外線センサなどの他のセンサであるとか、通気用のパンチング孔であるとか庫内灯であるとか、スタラー用のモータであるとか、いろいろな部品が考えられる。もちろんここに記載したものでなくても、導波管配置を妨げるようなものがある場合、本発明の考え方に基づき、開口部の形状と導波管配置を変えることで、加熱室内にマイクロ波を均一に放射することが可能となり、被加熱物を均一に加熱することができる。
【0088】
また、加熱室と結合したH面とは異なるE面の開口部からマイクロ波を伝送するという極めて簡単な構成により、指向性を有するマイクロ波の放射が容易に実現可能である。
【0089】
(実施例4)
図10は、本発明の実施例4のマイクロ波加熱装置の導波管近傍の構成図である。
【0090】
本実施例では、加熱室3壁面の形状を傾斜させ、導波管2の角度を斜めに構成している。たとえば加熱室天面の大部分が水平であっても図10のように一部にしぼり部を設けるだけで、導波管E面の角度を変えられることを示した例である。必要なマイクロ波の指向性に応じて、角度で調節することが可能である。
【0091】
そしてこのしぼり部を、実施例2で述べたようなレールとして利用することも可能である。
【0092】
(実施例5)
図11は、本発明の実施例5のマイクロ波加熱装置の導波管近傍の構成図である。
【0093】
本実施例では加熱室3壁面のしぼり部43で導波管の壁面のうちの3面を形成する構成である。この場合最後の1面となるH面を板44により構成できる。また開口部45を導波管の2面にまたがる構成としている。
【0094】
【発明の効果】
以上のように、本発明のマイクロ波加熱装置は、マイクロ波を放射する放射手段と、E面の開口部を介して前記放射手段を加熱室に結合する導波管とを有するものである。
【0095】
これによって、管軸に対して開口部のある側への指向性の強いマイクロ波放射を起こすことができ、導波管の管軸と加熱室壁面の中心線が一致しない場合に加熱分布を均一化することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1におけるマイクロ波加熱装置の構成図
【図2】本発明の実施例1におけるマイクロ波加熱装置の断面構成図
【図3】本発明の実施例1におけるマイクロ波加熱装置の断面構成図
【図4】本発明の実施例1における載置網の構成図
【図5】(a)本発明の実施例1における開口下20mmの電界強度分布図
(b)本発明の実施例1における開口下80mmの電界強度分布図
【図6】(a)本発明の実施例1に関してシミュレーションで求めた開口下20mmの電界強度分布図
(b)本発明の実施例1に関してシミュレーションで求めた開口下80mmの電界強度分布図
【図7】(a)従来の構成におけるビーカー内の水の温度分布図
(b)本発明の実施例1におけるビーカー内の水の温度分布図
【図8】(a)本発明の実施例2におけるマイクロ波加熱装置の正面図
(b)本発明の実施例2におけるマイクロ波加熱装置の導波管近傍の構成図
【図9】本発明の実施例3におけるマイクロ波加熱装置の構成図
【図10】本発明の実施例4におけるマイクロ波加熱装置の導波管近傍の構成図
【図11】本発明の実施例5におけるマイクロ波加熱装置の導波管近傍の構成図
【図12】従来のマイクロ波加熱装置の構成図
【図13】従来のマイクロ波加熱装置のマグネトロンと導波管の斜視構成図
【図14】従来のマイクロ波加熱装置の開口部の構成図
【図15】従来のマイクロ波加熱装置の開口部の構成図
【図16】従来のマイクロ波加熱装置の開口部の構成図
【図17】発熱体を有するマイクロ波加熱装置の構成図
【符号の説明】
1 マグネトロン(放射手段)
2、43 導波管
3 加熱室
4 被加熱物
5、30、34、41、45 開口部
6 H面
7 E面
10 管軸
13 発熱体
14 加熱室の第1の中心線
15 加熱室の第2の中心線
17、29 結合空間
18 開口部の第1の中心線
19 開口部の第2の中心線
20 加熱室の中心
22 載置網
23 スリット(網目)
24、38 アンテナ(攪拌手段)
32 レール(しぼり部)
35 部品(湿度センサユニット)
42 しぼり部(レール)
Claims (19)
- マイクロ波を放射する放射手段と、前記放射手段を加熱室に結合する導波管とを備え、前記導波管のE面に開口部を有するマイクロ波加熱装置。
- 加熱室壁面とは角度の異なる導波管E面を結合するための結合空間を有する構成とした請求項1記載のマイクロ波加熱装置。
- 加熱室壁面と導波管E面の角度が略90度異なる構成とした請求項2記載のマイクロ波加熱装置。
- 結合空間を加熱室壁面と一体に構成した請求項2記載のマイクロ波加熱装置。
- 結合空間を導波管と一体に構成した請求項2記載のマイクロ波加熱装置。
- 導波管のH面を加熱室壁面に平行に結合する構成とした請求項1記載のマイクロ波加熱装置。
- マイクロ波を放射する放射手段と、前記放射手段を加熱室に結合する導波管と、導波管を構成する面のうち前記加熱室と結合した面とは異なる面の開口部からマイクロ波を伝送するマイクロ波加熱装置。
- 開口部は、導波管の管軸から見て加熱室壁面の中心側のE面に位置する構成とした請求項1、2、6、7のいずれか1項に記載のマイクロ波加熱装置。
- 開口部、加熱室壁面ともに略長方形状とし、それぞれ二本の中心線を考えた時、一方の中心線は並行でかつ他方の中心線は直交する構成とした請求項1、2、6、7のいずれか1項に記載のマイクロ波加熱装置。
- 開口部は、導波管の高さ方向よりもマイクロ波伝送方向に長い形状とした請求項1、2、6、7のいずれか1項に記載のマイクロ波加熱装置。
- 開口部の長さは、マイクロ波の導波管内の波長をλgとしたときに、λg/8以上かつ2λg以下とした請求項10記載のマイクロ波加熱装置。
- 開口部の長さは、λg/4以上かつλg以下とした請求項11記載のマイクロ波加熱装置。
- 開口部を略長方形状とした時の幅は、少なくとも10mm以上とした請求項10記載のマイクロ波加熱装置。
- 開口部の幅は導波管の厚みより小さく、かつ前記導波管の厚み方向の中央に位置する構成とした請求項1、2、6、7のいずれか1項に記載のマイクロ波加熱装置。
- 直状の発熱体を有し、前記発熱体と導波管とを、前記発熱体の長手方向とマイクロ波伝送方向が略並行となるように同一壁面に配置し、開口部は前記導波管の管軸から見て前記発熱体側のE面にのみ構成された請求項1、2、6、7のいずれか1項に記載のマイクロ波加熱装置。
- 壁面上に直状のしぼり部を形成し、前記しぼり部と導波管とを、前記しぼり部の長手方向とマイクロ波伝送方向が略並行となるように同一壁面に配置し、開口部は前記導波管の管軸から見て前記しぼり部側のE面にのみ構成された請求項1、2、6、7のいずれか1項に記載のマイクロ波加熱装置。
- 壁面の中央に導波管配置を妨げる部品を有する時、前記部品側に前記導波管のE面を対向させて配置し、開口部は前記導波管の管軸から見て前記部品側のE面に位置する構成とした請求項1、2、6、7のいずれか1項に記載のマイクロ波加熱装置。
- 加熱室内に被加熱物を載置する載置網を有し、前記載置網の網目と開口部の長手方向を一致させる構成とした請求項1、2、6、7のいずれか1項に記載のマイクロ波加熱装置。
- 開口部の近傍でマイクロ波を攪拌する攪拌手段を有する構成とした請求項1、2、6、7のいずれか1項に記載のマイクロ波加熱装置。
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